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明細書 :マイクロ流体酵素センサ

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4769939号 (P4769939)
公開番号 特開2007-187531 (P2007-187531A)
登録日 平成23年7月1日(2011.7.1)
発行日 平成23年9月7日(2011.9.7)
公開日 平成19年7月26日(2007.7.26)
発明の名称または考案の名称 マイクロ流体酵素センサ
国際特許分類 G01N  27/327       (2006.01)
G01N  27/28        (2006.01)
G01N  27/416       (2006.01)
C12M   1/34        (2006.01)
FI G01N 27/30 353Z
G01N 27/28 301Z
G01N 27/46 336Z
C12M 1/34 E
C12M 1/34 A
請求項の数または発明の数 4
全頁数 11
出願番号 特願2006-005358 (P2006-005358)
出願日 平成18年1月12日(2006.1.12)
審査請求日 平成20年9月29日(2008.9.29)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504174135
【氏名又は名称】国立大学法人九州工業大学
発明者または考案者 【氏名】安田 隆
個別代理人の代理人 【識別番号】100094215、【弁理士】、【氏名又は名称】安倍 逸郎
審査官 【審査官】黒田 浩一
参考文献・文献 特開2001-108647(JP,A)
特表平09-504864(JP,A)
特表2008-506109(JP,A)
特表2005-523717(JP,A)
調査した分野 G01N 27/26-27/49
C12M 1/34
G01N 33/48-33/98
特許請求の範囲 【請求項1】
細胞を培養するチャンバと、
酵素溶液を貯液するためのマイクロリザーバと、
前記チャンバと前記マイクロリザーバとを区分するとともに、前記チャンバと前記マイクロリザーバとを連通する連通孔が形成された隔膜と、
前記マイクロリザーバに配置され、前記細胞から放出された生体分子の濃度を電気化学的に計測する電極とを備えたマイクロ流体酵素センサ。
【請求項2】
前記電極は、前記生体分子の酵素反応に伴う生成物と電子の授受を行う作用電極と、参照電極と、対向電極とを有し、
前記隔膜のうち、前記連通孔の形成部分に前記作用電極が形成され、
前記連通孔は、ナノ単位のポア径を有する多孔質のナノポーラス構造体によって塞がれた請求項1に記載のマイクロ流体酵素センサ。
【請求項3】
前記ナノポーラス構造体は、白金黒製である請求項2に記載のマイクロ流体酵素センサ。
【請求項4】
前記隔膜のうち、前記連通孔の形成部分のマイクロリザーバ側には白金薄膜が形成され、
該白金薄膜には、前記連通孔を埋めるように、前記白金黒製のナノポーラス構造体が積層された請求項3に記載のマイクロ流体酵素センサ。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
この発明はマイクロ流体酵素センサ、詳しくは単一の培養細胞の微小部位から放出された生体分子を、細胞の近傍で高感度かつ高速に計測可能なマイクロ流体酵素センサに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、細胞レベルでの診断・治療技術、および、細胞を利用した創薬技術において、従来から行われている多数の細胞集団のふるまい、平均値を扱う手法ではなく、単一細胞レベルの挙動を計測制御する技術の開発が必要となっている。特に、細胞から放出される生体分子の計測は、細胞機能の解明および細胞活動のモニタリングに必要不可欠である。その中でも酵素反応を利用したセンシング技術(電気化学的な分析法)は、アセチルコリン、グルタミン酸、グルコースなど、多くの生体分子を選択的に検出することができる点で優れている。
しかしながら、酵素センサを利用し、単一細胞の微小部位から放出される生体分子を、空間的にも時間的にも高分解能で計測するには、酵素電極の微小化に伴うノイズの増加の問題、固定化酵素量の減少による測定電流量の減少の問題、細胞とセンサとの精密な位置決めの問題など、多くの解決すべき課題が存在し、実用的なセンサは未だ開発されていないのが実情である。
【0003】
この点を踏まえて、以下、酵素センサの従来技術を説明する。
従来、例えばプローブ型の微小電極を細胞近傍に配置し、単一細胞からの生体分子を計測する方法が知られている。
また、特許文献1に示すように、アレイ状に配置された電極上に酵素を固定化し、その電極上でスライスされた脳の海馬などから放出されるグルタミン酸を計測する技術が開発されている。これは、大きい生体組織、複数細胞における生体分子の空間的分布を計測する際など、同時多点的な計測に適している。
【0004】

【特許文献1】特開2001-108647号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前述した従来のプローブ型の微小電極を有する酵素センサでは、細胞と電極との距離を精密に制御することが難しく、微小電極の微小化に伴い微小電極上に固定化される酵素量が極めて少なくなり、充分な応答電流を得ることができない。
また、特許文献1にあっては、アレイ状に配置された微小な電極上に酵素を固定化し、その電極上で、細胞から放出されたグルタミン酸を計測する。そのため、同じように電極の微小化に伴い酵素固定化量が減少するとともに、応答電流がノイズレベルまで減少する。よって、単一細胞の微小部位を計測する方法としては好適でない。
【0006】
そこで、発明者は鋭意研究の結果、酵素を電極上に固定化せず、連通孔付きの隔膜によって、細胞を培養するチャンバと区分されたマイクロリザーバ内で酵素を流体として貯留すれば、生体分子の効率的な酵素反応を実現させ、単一の培養細胞の微小部位から放出される神経伝達物質などの生体分子を細胞の直下付近で高感度かつ高速に計測することができることを知見し、この発明を完成させた。
【0007】
この発明は、単一の培養細胞の微小部位から放出された生体分子の濃度を、細胞の近傍で高感度かつ高速に計測することができるマイクロ流体酵素センサを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の発明は、細胞を培養するチャンバと、酵素溶液を貯液するためのマイクロリザーバと、前記チャンバと前記マイクロリザーバとを区分するとともに、前記チャンバと前記マイクロリザーバとを連通する連通孔が形成された隔膜と、前記マイクロリザーバに配置され、前記細胞から放出された生体分子の濃度を電気化学的に計測する電極とを備えたマイクロ流体酵素センサである。
【0009】
請求項1に記載の発明によれば、細胞の直下に連通孔を配置することが可能となり、この場合には、細胞から放出された生体分子が直ちに連通孔を通じてマイクロリザーバに拡散される。これにより、マイクロリザーバ中の酵素存在下で、効率的な酵素反応を起こすことができる。このとき、酵素反応に伴う生成物を、電気化学的な電極反応に伴う電流値として検出し、生体分子の濃度を知ることができる。例えば、生体分子がグルタミン酸、酵素がグルタミン酸酸化酵素の場合、その生成物は過酸化水素である。この過酸化水素が電極反応によって電子を電極に受け渡すため、その電流値からグルタミン酸の濃度を検出することができる。このときの反応式を次式に示す。
【0010】
L-glutamate+O+HO →
α-ketoglutarate+NH+H (1)
また、作用電極上で起こる反応は以下の通りである。
→ 2H+O+2e
このように、酵素を電極に固定化せず、流体として利用したので、電極の微小化に伴う酵素固定化量が減少するという問題が発生せず、効率的な酵素反応により、高感度でかつ高速な生体分子の濃度計測が可能となる。
【0011】
マイクロ流体酵素センサの本体となる基板(チャンバ、マイクロリザーバの各構成部材)は限定されない。例えば、シリコン単結晶基板、SOI基板、ガラス基板、シリコーン樹脂などを採用することができる。シリコン単結晶基板の場合には、例えば2枚の基板間に隔膜(薄膜/隔壁)を介在させたものでもよい。具体的には、一方のシリコン単結晶基板を切欠して隔膜を露出させることでチャンバを形成し、他方のシリコン単結晶基板を切欠して隔膜を露出させることによりマイクロリザーバを形成する。
【0012】
基板がSOI基板の場合には、支持基板用ウェーハにチャンバを形成し、活性層にマイクロリザーバを形成し、さらにチャンバとマイクロリザーバの間の隔膜に連通孔を穿設したものでもよい。また、片面に隔膜を形成させたシリコン単結晶基板を加工することによりチャンバと連通孔とを形成し、別にガラス基板あるいはシリコーン樹脂でマイクロリザーバを形成し、それらを貼り合わせることで製作してもよい。
チャンバの大きさは、1個の細胞が固定可能であれば、特に限定されない。例えば、縦20μm~1cm、横20μm~1cm、深さ20μm~5mmでもよい。チャンバの隔膜の素材としては、隔膜に細胞を接着させる場合があることから、細胞に対して接着性の良い材料が好適である。例えば、シリコン酸化膜などを採用することができる。しかしながら、細胞に対して接着性が低い材料でも、例えば隔膜の表面にコラーゲンなどの細胞への接着性を高める生体材料をコーティングすれば使用に耐え得る。
【0013】
隔膜の厚さは限定されない。例えば0.5μm程度でもよい。なるべく薄い方がチャンバとマイクロリザーバとの距離が短くなり、測定の感度や応答速度は高まる。ただし、0.1μm以下になると薄すぎて隔膜が破損し易い。
連通孔の口径は、細胞の測定部位の寸法に応じて決定される。例えば、直径10μm程度の細胞うち、直径約0.5μmの部分を測定したい場合には、直径0.5μm程度の連通孔が必要となる。できるだけ小さい連通孔とした方が空間的な分解能は高まるものの、その分だけ、通過する生体分子の量が減少するので計測は難しくなる。
連通孔の形成数は限定されない。例えば1つでもよいし、2つ以上でもよい。
マイクロリザーバの寸法は限定されない。例えば、幅1μm~1mm、深さ1μm~1mm、長さ20μm~1cmでもよい。
【0014】
マイクロリザーバ中に貯液される酵素溶液の種類は、計測対象の生体分子により任意に変更される。例えば、神経伝達物質の1つであるグルタミン酸を測定する場合には、グルタミン酸酸化酵素を、培地あるいは生理食塩水に溶解して酵素溶液とする。その他、グルコースの酸化を触媒するグルコースオキシダーゼ、アセチルコリンの加水分解を触媒するアセチルコリンエステラーゼ、コリンの酸化を触媒するコリンオキシダーゼなどが挙げられる。
酵素溶液の濃度は限定されない。例えば、50ユニット程度でもよい。1ユニットとは、1分間に基質(例えばグルタミン酸など)1μmolの変化(酸化還元など)を触媒する量である。濃度が高い方が効率的な酵素反応を期待することができる。
【0015】
マイクロリザーバに配置される電極には、生体分子の酵素反応に伴う生成物と電子の授受を行う作用電極、参照電極、対向電極の3つが必要となる。作用電極の材料としては、白金が最適である。
作用電極の寸法は、連通孔の寸法(口径)および形成数などによって決定される。例えば、縦1μm~1mm、横1μm~1mmでもよい。寸法が大きい方が、電極反応に伴う応答電流量の増加は期待できるものの、空間的な分解能は低下する。
【0016】
参照電極の材料は、銀-塩化銀または酸化イリジウムなど、電極電位が安定する不分極性電極が望ましい。銀-塩化銀電極は寿命が短いため、より長寿命化が期待できる酸化イリジウムの方が望ましい。参照電極の寸法は限定されない。例えば、縦10μm~5mm、横10μm~5mmでもよい。
対向電極の材料は白金が望ましい。対向電極の寸法は、作用電極の寸法を大きく上回る必要がある。例えば、作用電極の表面積の100倍程度あれば充分である。
【0017】
請求項2に記載の発明は、前記電極は、前記生体分子の酵素反応に伴う生成物と電子の授受を行う作用電極と、参照電極と、対向電極とを有し、前記隔膜のうち、前記連通孔の形成部分に前記作用電極が形成され、前記連通孔は、ナノ単位のポア径を有する多孔質のナノポーラス構造体によって塞がれた請求項1に記載のマイクロ流体酵素センサである。
【0018】
請求項2に記載の発明によれば、連通孔を通過してチャンバからマイクロリザーバに達した生体分子の酵素反応によって発生した生成物を、連通孔の形成部分に形成された作用電極により即座に検出することができ、応答性が高まる。また、その生成物がマイクロリザーバ内で拡散して濃度が低下する前に生成物を検出できるので、検出感度の向上にも寄与する。
さらに、連通孔に構成されたナノポーラス構造体により、分子径の小さな生体分子はチャンバから連通孔を通過してマイクロリザーバへ到達し、分子径の大きな酵素分子は連通孔を通過しない。そのため、マイクロリザーバからチャンバへ達しない、いわゆるフィルタリング効果を実現することができる。その結果、酵素がマイクロリザーバから漏出せず、酵素溶液の濃度は低下しない。よって、酵素反応の反応性は一定の値で持続する。
【0019】
ナノポーラス構造体の素材は限定されない。例えば、白金黒、多孔質シリコン、多孔質ガラスまたはゼオライトなどが挙げられる。
ナノポーラス構造体のポア径は、計測対象の生体分子および使用する酵素の分子径により決定される。例えば、生体分子としてグルタミン酸、酵素としてグルタミン酸酸化酵素を想定する場合、グルタミン酸の分子径は約0.8nm、グルタミン酸酸化酵素の分子径は約8.2nmである。そのため、ナノポーラス構造体のポア径は、0.8~8.2nmとする必要がある。さらには、なるべくグルタミン酸分子の通過が容易であることが望ましいことから、ナノポーラス構造体のポア径は8nm程度以下で、かつ8nm程度に近い値とした方がよい。例えば5~7nm程度である。
【0020】
請求項3に記載の発明は、前記ナノポーラス構造体は、白金黒製である請求項2に記載のマイクロ流体酵素センサである。
【0021】
請求項3に記載の発明によれば、ナノ単位のポア径を有する多孔質の白金で、自身がフィルタリング効果を有する白金黒自体が電極材料となり、さらにそのナノポーラス構造により極めて大きな表面積を有する。そのため、連通孔を通過した生体分子が酵素反応により発生した生成物を、即座にかつ効率的に、大きな応答電流として検出することが可能となる。
【0022】
白金黒の形成方法としては、例えば電気メッキ法などを採用することができる。例えば、連通孔周辺上に白金黒のシード層としての白金薄膜を、スパッタリングまたは真空蒸着などにより形成し、その後、濃度1~3%の白金酸溶液30ml中に酢酸鉛10mgを混入した溶液中で、電流密度が30mA/cmとなるように、白金薄膜にマイナス側の電圧を印加することで形成される。電気メッキは、少なくとも白金黒が連通孔を埋めるまで継続する必要がある。
白金黒のフィルタリング効果は、溶液の濃度、電流密度、メッキ時間などのメッキ条件(形成条件)により制御することができる。例えば、上述したメッキ条件で、メッキ時間を90秒としたとき、グルタミン酸が通過し、グルタミン酸酸化酵素が通過しないだけのポア径が実現されることを、発明者は確認している。
【0023】
請求項4に記載の発明は、前記隔膜のうち、前記連通孔の形成部分のマイクロリザーバ側には白金薄膜が形成され、該白金薄膜には、前記連通孔を埋めるように、前記白金黒製のナノポーラス構造体が積層された請求項3に記載のマイクロ流体酵素センサである。
【0024】
請求項4に記載の発明によれば、白金黒製のナノポーラス構造体により連通孔を塞ぐ際、いったん隔膜の連通孔の形成部分のマイクロリザーバ側に白金薄膜を形成し、この白金薄膜をシード層(種層)としてナノポーラス構造体を形成するので、ナノポーラス構造体で確実に連通孔を埋めることが可能であり、ナノポーラス構造体全体の形状及び寸法を白金薄膜のパターニングにより規定できるという効果が得られる。
白金薄膜の厚さは、例えば0.1~0.5μmである。白金薄膜の形成方法としては、スパッタリング法や真空蒸着法などを採用することができる。白金薄膜の形成範囲は、少なくとも連通孔の形成部分のマイクロリザーバ側を含み、連通孔の寸法(口径)および形成数などによって決定される。例えば、縦1μm~1mm、横1μm~1mmでもよい。
【発明の効果】
【0025】
請求項1に記載の発明によれば、酵素を電極に固定化せず、流体として用いたので、効率の良い酵素反応と電極反応とを期待することができる。また、通常の酵素固定化電極ではその寿命および特性の経時変化が問題となるが、この発明ではマイクロリザーバの酵素を送液して連通孔の直下付近の酵素を入れ替えるので、長時間の計測が可能となる。
さらに、マイクロリザーバ中の酵素を計測対象分子に応じて入れ替えることにより、様々な生体分子の濃度測定に対応することができる。酵素は高価である。そのため、従来では電極上に固定化されていたが、この発明ではマイクロリザーバの微小化により酵素使用量は極微量となり、酵素を流体として用いたことによる欠点は、最小限に抑えることができる。以上により、細胞レベルでの診断・治療技術、および、細胞を利用した創薬技術などにおいて、単一細胞レベルの応答を高感度かつ高速に計測することが可能な汎用性の高い有益なマイクロ流体酵素センサを提供することができる。
【0026】
特に、請求項2に記載の発明によれば、隔膜のうち、連通孔の形成部分に作用電極を形成したので、チャンバからマイクロリザーバに達した生体分子の酵素反応により発生した生成物を、作用電極により即座に検出することができ、応答性が高まる。また、生成物がマイクロリザーバ内で拡散して濃度低下する前に生成物を検出できるため、検出感度も高まる。
さらに、連通孔に構成されたナノポーラス構造体により、分子径の小さな生体分子はチャンバから連通孔を通過してマイクロリザーバへ到達し、分子径の大きな酵素分子は連通孔を通過しない。その結果、酵素がマイクロリザーバから漏出せず、酵素溶液の濃度は低下しない。よって、酵素反応の反応性は一定の値で持続する。
【0027】
また、請求項3に記載の発明によれば、フィルタリング効果を有し、かつ表面積が大きい白金黒を電極材料としたので、連通孔を通過した生体分子が酵素反応により発生した生成物を、即座にかつ効率的に、大きな応答電流として検出することが可能となる。
【0028】
また、請求項4に記載の発明によれば、白金黒製のナノポーラス構造体により連通孔を塞ぐ際、いったん隔膜の連通孔の形成部分のマイクロリザーバ側に白金薄膜を形成し、この白金薄膜をシード層としてナノポーラス構造体を形成したので、ナノポーラス構造体で確実に連通孔を埋めることが可能であり、ナノポーラス構造体全体の形状及び寸法を白金薄膜のパターニングにより規定できるという効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、この発明の実施例を具体的に説明する。
【実施例1】
【0030】
図1において、10はこの発明の実施例1に係るマイクロ流体酵素センサで、このマイクロ流体酵素センサ10は、シリコンウェーハ11、細胞21を培養するチャンバ12、酵素溶液を貯えるマイクロリザーバ15、チャンバ12とマイクロリザーバ15とを隔てるシリコン酸化膜(隔膜)13、そのシリコン酸化膜13に形成された1個または複数の連通孔14、マイクロリザーバ15に電気化学的な計測を行うために配置された3電極(作用電極16,17、参照電極18、対向電極19)、および、保持基板20により構成される。
【0031】
細胞21は、直径10μm程度の動物の神経細胞である。
チャンバ12は、平面視して四角形(縦5mm、横5mm)を有した厚さ350μmのシリコンウェーハ11の中央部を切欠して得られた平面視して四角形(縦約600μm、横約600μm)の凹部である。
マイクロリザーバ15は、長さ5mm、幅50μm、深さ10μmの平面視して矩形状の流路(空間)で、チャンバ12の一部分の直下に、シリコン酸化膜13を介して配置される。すなわち、チャンバ12とマイクロリザーバ15とは、シリコン酸化膜13を中間にして上下配置されている。
【0032】
シリコン酸化膜13の膜厚は0.5μmである。シリコン酸化膜13のチャンバ側の面は細胞21の培養面となるので、細胞21の接着性を高めるためにコラーゲンなどの接着分子をコーティングする。シリコン酸化膜13のマイクロリザーバ15との対向部分には、前記1個または複数の連通孔14が形成される。各連通孔14は、平面視して1辺0.5μm程度の正方形状を有している。
シリコン酸化膜13のマイクロリザーバ側には、生体分子の濃度の電気化学的計測を行う作用電極(白金薄膜)16が、連通孔14のマイクロリザーバ側の形成部分を覆うような配置で形成される。作用電極(白金薄膜)16の膜厚は約0.1μmで、平面視して1辺10μm程度の正方形状で、連通孔14と同じ口径の連通孔を有している。作用電極16上には、ナノポーラス構造を有する白金黒により別の作用電極(白金黒)17が、連通孔14を埋めるように形成されている。作用電極17の膜厚は約0.5μmで、平面視して1辺11μm程度の正方形状を有している。
【0033】
シリコン酸化膜13のマイクロリザーバ側で、かつ作用電極16の近傍(チャンバ12の形成領域内)には、前記電気化学的計測のための参照電極18が形成される。参照電極18の素材は銀-塩化銀(酸化イリジウムでもよい)で、平面視して1辺50μm程度の正方形状を有している。
シリコン酸化膜13のマイクロリザーバ側には、参照電極18の近傍(チャンバ12の形成領域外)に、電気化学的計測のための対向電極19が形成される。対向電極19の素材は白金で、平面視して50μm×100μm程度の矩形状を有している。
保持基板20はシリコーン樹脂製(ガラス製でもよい)で、厚さ5mm、平面視して四角形(縦20mm、横20mm)を有している。
【0034】
次に、実施例1における作用電極17のフィルタリング効果と測定原理を、培養神経細胞から放出されるグルタミン酸を計測する場合について、図2を用いて説明する。チャンバ12中には、細胞21を培養するための培地が貯えられており、細胞21から放出される神経伝達物質(グルタミン酸)22が培地中に溶存する。培地には、DME培地(シグマアルドリッチジャパン社製)が採用されている。ただし、RPMI1640培地(シグマアルドリッチジャパン社製)でもよい。
一方、マイクロリザーバ15中には、酵素(グルタミン酸酸化酵素)23を培地(生理食塩水でもよい)に溶かした溶液が満たされている。生理食塩水には、ダルベッコりん酸緩衝生理食塩水(Bio Whittaker社製)が採用され、その組成はCaCl・2HOが0.13g/L、KClが0.20g/L、KHPOが0.20g/L、MgCl・6HOが0.10g/L、NaClが8.0g/L、NaHPO・7HOが2.16g/Lである。また、酵素の濃度は50ユニットである。
【0035】
チャンバ12とマイクロリザーバ15とは、シリコン酸化膜13により隔てられており、シリコン酸化膜13を貫通する連通孔14は作用電極17で埋められている。作用電極17はナノポーラス構造を有し、電気メッキによる成膜の条件を予め調節することにより、そのポア径を約5nm程度に設定している。具体的には、濃度1~3%の白金酸溶液30ml中に酢酸鉛10mgを混入した溶液中で、電流密度30mA/cm 、メッキ時間90秒というメッキ条件で、作用電極17が形成される。
【0036】
分子量から算出される神経伝達物質22の分子径は約0.8nmである。そのため、神経伝達物質22は作用電極17を通過し、拡散によりチャンバ12からマイクロリザーバ15に到達する。一方、酵素23の分子径は約8.2nmである。そのため、酵素23は作用電極17を通過せず、マイクロリザーバ15に留まる。
以上の形態により、細胞21から放出された神経伝達物質22は、連通孔14内の作用電極17の一部を透過し、マイクロリザーバ15中で酵素23と出会い、効率よく酵素反応を起こし過酸化水素を発生する。この過酸化水素は、直ちに作用電極16,17と電子の授受を行い、電気化学的に電流値として計測される。
【0037】
このように、酵素23を作用電極17に固定化せず、流体として用いたので、効率的な酵素反応と電極反応とを期待することができる。また、通常の酵素固定化電極ではその寿命および特性の経時変化が問題となるが、ここではマイクロリザーバ15の酵素23を送液して連通孔14の直下付近の酵素23を入れ替えるようにしたので、長時間の計測が可能となる。
さらに、マイクロリザーバ15中の酵素23を計測対象分子に応じて入れ替えることにより、様々な生体分子の濃度測定に対応することもできる。また、酵素23は高価であるため、従来では電極上に固定化されていたものの、ここではマイクロリザーバ15の微小化により酵素使用量は極微量となり、酵素23を流体として用いたことでの欠点は最小限に抑えられる。このようにして、細胞レベルでの診断・治療技術、および、細胞21を利用した創薬技術などにおいて、単一細胞レベルの応答を高感度かつ高速に計測することが可能な汎用性の高い有益なマイクロ流体酵素センサ10が得られる。
【0038】
また、ここではシリコン酸化膜13のうち、連通孔14の形成部分に作用電極16を形成するようにしたので、チャンバ12からマイクロリザーバ15に達した生体分子の酵素反応により発生した生成物を、作用電極16により即座に検出することができ、応答性を高めることができる。また、生成物がマイクロリザーバ15内で拡散して濃度低下する前に生成物を検出できるため、検出感度も高まる。
さらに、連通孔14を塞ぐナノポーラス構造体の作用電極17により、分子径の小さな生体分子はチャンバ12から連通孔14を通過してマイクロリザーバ15へ到達し、分子径の大きな酵素分子は連通孔14を通過しない。その結果、酵素23がマイクロリザーバ15から漏出せず、酵素溶液の濃度は低下しない。よって、酵素反応の反応性は一定の値で持続する。
さらにまた、フィルタリング効果を有し、かつ表面積が大きい白金黒を電極材料(作用電極17)としたので、連通孔14を通過した生体分子が酵素反応により発生した生成物を、即座にかつ効率的に、大きな応答電流として検出することが可能となる。
そして、作用電極17により連通孔14を塞ぐ際、シリコン酸化膜13の連通孔14の形成部分のマイクロリザーバ15側にいったん作用電極16を形成し、これをシード層として作用電極17を形成したので、作用電極17で確実に連通孔14を埋めることが可能であり、作用電極17全体の形状及び寸法を作用電極16のパターニングにより規定できるという効果が得られる。
【0039】
次に、実施例1のマイクロ流体酵素センサ10の製造方法を説明する。ここでは、マイクロ流体酵素センサ10を半導体加工技術により製造するものとする。
まず、直径50mm、厚さ350μmの単結晶のシリコンウェーハ11の一方の面に熱酸化によりシリコン酸化膜13を形成する。その形成条件は、酸素流量1L/min、アンモニア流量120cc/min、温度1100℃、熱酸化時間は5時間である。
【0040】
次に、シリコンウェーハ11を、その他方の面側からシリコン酸化膜13が露出するまで、24~27容量%、約80℃のTMAH(水酸化テトラメチルアンモニウム)溶液により異方性エッチングする。これにより、細胞21を培養するチャンバ12が形成される。
次にまた、シリコン酸化膜13に、1辺が数0.5μmの正方形状の連通孔14を集束イオンビーム・エッチングなどにより形成する。そのエッチング条件は、イオンビーム径が22nm、プローブ電流が3.6pAであり、連通孔1個当たりのエッチング時間は約30秒である。
そして、シリコン酸化膜13上の連通孔14の周辺に作用電極16を、シリコン酸化膜13上の他の箇所に参照電極18と対向電極19を、スパッタリングによりそれぞれ形成する。そのスパッタ条件は、RF出力が100W、チャンバ内圧力が0.67Paである。
【0041】
それから、図3(a)~図3(c)に示すように、上述したメッキ条件で、作用電極16のみに白金黒を電気メッキすることで、連通孔14を白金黒で埋め、作用電極(白金黒)17を形成する。
このように製作されたデバイスの下側に、幅50μm、高さ10μmのマイクロリザーバ15を介在して、シリコーン樹脂(またはガラス基板)により厚さ5mmの保持基板20を構成することで、マイクロ流体酵素センサ10が作製される。マイクロリザーバ15及び保持基板20の具体的な製造は以下のようにして行う。まず、直径50mm、厚さ350μmのシリコンウェーハ上に、厚膜レジストSU-8(化薬マイクロケム社製)でマイクロリザーバ15の鋳型を形成し、そのシリコンウェーハを直径50mmのシャーレなどの容器内に固定する。次に、その容器内に、液状のシリコーン樹脂であるPDMS(WPI社製SYLG184)と専用凝固剤を10:1に混合した溶剤を、5mm程度の厚さになるまで流し込む。そして、60℃の電気炉内で約1時間シリコーン樹脂を固化した後、シリコーン樹脂をシリコンウェーハより剥がすことで、マイクロリザーバ15と保持基板20が同時に完成される。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】この発明の実施例1に係るマイクロ流体酵素センサの使用状態を示す要部拡大断面図である。
【図2】この発明の実施例1に係るマイクロ流体酵素センサの連通孔周辺におけるフィルタリング効果と測定原理を説明する要部拡大断面図である。
【図3】(a)~(c)この発明の実施例1に係るマイクロ流体酵素センサの作用電極(白金黒)の形成方法を示すフローシートである。
【符号の説明】
【0043】
10 マイクロ流体酵素センサ、
11 シリコンウェーハ、
12 チャンバ、
13 シリコン酸化膜(隔膜)、
14 連通孔、
15 マイクロリザーバ、
16 作用電極(電極)、
17 作用電極(電極/ナノポーラス構造体)、
18 参照電極(電極)、
19 対向電極(電極)、
20 保持基板
21 細胞、
22 神経伝達物質(グルタミン酸)、
23 酵素(グルタミン酸酸化酵素)。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2