TOP > 国内特許検索 > 航空ヘルメット用レーザバイザー及び投影装置 > 明細書

明細書 :航空ヘルメット用レーザバイザー及び投影装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第3996111号 (P3996111)
公開番号 特開2005-113326 (P2005-113326A)
登録日 平成19年8月10日(2007.8.10)
発行日 平成19年10月24日(2007.10.24)
公開日 平成17年4月28日(2005.4.28)
発明の名称または考案の名称 航空ヘルメット用レーザバイザー及び投影装置
国際特許分類 A42B   3/18        (2006.01)
G02B  27/01        (2006.01)
FI A42B 3/18
G02B 27/02 A
請求項の数または発明の数 7
全頁数 14
出願番号 特願2003-349870 (P2003-349870)
出願日 平成15年10月8日(2003.10.8)
審査請求日 平成17年6月21日(2005.6.21)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】390014306
【氏名又は名称】防衛省技術研究本部長
【識別番号】595132751
【氏名又は名称】株式会社クリスタルシステム
発明者または考案者 【氏名】原 崎 亜紀子
【氏名】佐 藤 幸 治
個別代理人の代理人 【識別番号】100081994、【弁理士】、【氏名又は名称】鈴木 俊一郎
【識別番号】100103218、【弁理士】、【氏名又は名称】牧村 浩次
【識別番号】100107043、【弁理士】、【氏名又は名称】高畑 ちより
【識別番号】100110917、【弁理士】、【氏名又は名称】鈴木 亨
審査官 【審査官】関谷 一夫
参考文献・文献 特表平03-503188(JP,A)
特開2000-066149(JP,A)
特開2003-089171(JP,A)
特表2002-540895(JP,A)
特開平07-329235(JP,A)
調査した分野 A42B 3/18
G02B 27/01
特許請求の範囲 【請求項1】
航空ヘルメットの前面に装着されるバイザーであって、該バイザーは、光吸収色素を含有する着色ポリカーボネート板と、該着色ポリカーボネート板からなるバ イザーにおけ
る顔面とは対面しない面に形成された誘電体多層膜と、顔面に対面する面に形成された波長543nmの投影光に対する部分反射膜とを有し、該誘電体多層膜および波長543nmの投影光に対する部分反射膜の表面に、界面活性剤を含有する酸化物複合膜が形成されていることを特徴とする航空ヘルメット用バイザー。
【請求項2】
上記誘電体多層膜および波長543nmの投影光に対する部分反射膜の表面に、水溶液からの酸化物の析出により酸化物複合膜が形成されており、該酸化物複合膜に界面活性剤が含有されていることを特徴とする請求項第1項記載の航空ヘルメット用バイザー。
【請求項3】
上記光吸収色素が短波長側のレーザー光を部分的に吸収するものであり、誘電体多層膜が長波長側のレーザー光を部分的に反射するものであることを特徴とする請求項第1項ま
たは第2項記載の航空ヘルメット用バイザー。
【請求項4】
上記着色ポリカーボネ—ト板の可視光の透過率(視感透過率)が、3~60%の範囲内にあること特徴とする請求項第1項記載の航空ヘルメット用バイザー。
【請求項5】
上記酸化物複合膜が、チタン酸化物、ジルコニウム酸化物およびケイ素酸化物よりなる群から選ばれる少なくとも一種類の金属酸化物を含むことを特徴とする請求項第2項記載の航空ヘルメット用バイザー。
【請求項6】
上記酸化物複合膜の平均厚さが、5~100nmの範囲内にあることを特徴とする請求項第2項または第5項記載の航空ヘルメット用バイザー。
【請求項7】
上記酸化物複合膜が、対応する金属のフルオロ金属錯化合物が溶解されている水溶液中にフッ素捕捉剤を添加することにより、金属酸化物を誘電体多層膜および 543nmの投
影光に対する部分反射膜が形成された着色ポリカーボネート板表面に析出させることによ
り形成されたものであることを特徴とする請求項第2項または第5項記載の航空ヘルメット用バイザー。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は航空ヘルメット用バイザーに関する。さらに詳しくは本発明は、レーザー遮光性能と投影機能を有する航空ヘルメット用バイザーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、航空機の運行に関する情報をヘルメットに装着されるバイザーに投影して表示するバイザー投影型のHMD(Helmet Mounted Display)が知られている。このようなバイ
ザー投影型HMDでは手垢および水蒸気から誘電体多層膜を保護するために、ヘルメットバ
イザーの裏面(顔に対面する面)に誘電体多層膜を蒸着し、この誘電体多層膜により、レーザー遮光と、波長543nmの部分反射とを同時に行う方式が採用されている。
【0003】
このような従来のバイザー投影型のHMDにおいては、波長543nmの部分反射率と視感
透過率の比で定義されるコントラスト(C)が下記の式で示す関係を満たすことが必要に
なる。
【0004】
【数1】
JP0003996111B2_000002t.gif

【0005】
上記式から明らかなように、バイザー投影型のHMDにおいては、コントラスト(C)は1.2以上であることが必要になる。ところが、遮光レーザー光が、可視領域から近赤外線領域にわたる多波長のレーザー光である場合、従来のレーザーバイザーの顔に対面する面(裏面)に形成された誘電体多層膜における波長543nmの部分反射率が低下する。このためバイザー型HMDにおけるコントラスト(C)を1.2以上にするために、レーザーバイザーの可視光の透過率(視感透過率)を意図的に低下させざるを得なかった。このため、従来のバイザー投影型HMDは、視感透過率が低い、即ち、バイザーを透過する光量が少な
く、暗いという問題があり、バイザーにおいては、視感透過率を高くすることと、高いコントラストを得ることは、その構造上、同時に満足することはできなかった。
【0006】
このように従来のレーザーバイザーでは、バイザーの内側、即ちバイザーの顔面に対面する面に導電体多層膜を蒸着する必要があり、このように内側に誘電体多層膜を配置したバイザーでは、高い視感透過率と、バイザー投影型のHMDのコントラスト(C)とを同時に向上させることは困難であった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、航空ヘルメットに装着されてレーザー投影型のHMD(Helmet Mounted Display)となるバイザーであって、高いコントラストを有すると共に、バイザーの視感透過率の
高い航空ヘルメット用バイザーを提供することを目的としている。
【0008】
また、本発明は、耐擦傷性および防曇性に優れていると共に、高いコントラストを有し,視感透過率の高い航空ヘルメット用バイザーを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、航空ヘルメットの前面に装着されるバイザーであって、該バイザーは、光吸
収色素を含有する着色ポリカーボネート板と、該着色ポリカーボネート板からなるバイザーにおける顔面とは対面しない面に形成された誘電体多層膜と、顔面に対面する面に形成された波長543nmの投影光に対する部分反射膜とを有し、該誘電体多層膜および波長543nmの投影光に対する部分反射膜の表面に、界面活性剤を含有する酸化物複合膜が形成されていることを特徴としている。
【0010】
この航空ヘルメット用バイザーは、着色ポリカーボネート板の表面に、誘電体多層膜と波長543nmの投影光に対する部分反射膜とを有し、これらの膜の表面が、水溶液法により形成された酸化物複合膜で被覆され、さらにこの酸化物複合膜中には界面活性剤が含有されている。
【発明の効果】
【0011】
本発明の航空ヘルメット用バイザーは、着色ポリカーボネート板の顔面とは対面しない面(凸部)に誘電体多層膜を蒸着により形成し、この着色ポリカーカーボネート板の顔面に対面する面(凹部)に波長543nmの投影光に対する部分反射膜を形成し、さらに誘電体多層膜および波長543nmの投影光に対する部分反射膜の表面に、酸化物複合膜を形成し、この酸化物複合膜に陰イオン系界面活性剤を含有させることにより、本発明のバイザーに防曇性を付与すると共に、着色ポリカーボネ—ト板の顔面に対面しない面(凸部)に形成された誘電体多層膜、および、着色ポリカーボネート板の顔面に対面する面(凹部)に形成された波長543nmの投影光に対する部分反射膜を保護することができる。特に誘電体多層膜の外側に酸化物複合膜を形成して保護しているので、この誘電体多層膜を着色ポリカーボネート板の顔面に対面しない面(凸部)に形成することができる。
【0012】
このように誘電体多層膜をバイザーの顔面に対面しない面(凸面)に形成しても、この誘電体多層膜の外側に酸化物複合膜を形成することにより、誘電体多層膜が保護され、耐擦傷性が通常の使用に耐える程度に向上する。そして、このように誘電体多層膜をバイザーの顔面に対面しない側の表面(凸面)に形成し、波長543nmの投影光に対する部分反射膜をバイザーの顔面に対面する側の表面(凹部)に形成することができる。
【0013】
さらに本発明の航空ヘルメット用バイザーは、大変優れた耐擦傷および防曇性を有している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
次に本発明の航空ヘルメット用バイザーについて具体的に説明する。
【0015】
図1は、本発明の航空ヘルメット用バイザーおよびこの航空ヘルメット用バイザーによる虚像形成の方法を説明するための図であり、図2は、本発明の航空ヘルメット用バイザーの断面図である。
【0016】
図1において、付番10は航空ヘルメット用バイザーである。本発明の航空ヘルメット用バイザー10は、可視光領域から近赤外領域にいたるレーザー光に対する遮光性能を有している。さらに、この航空ヘルメットには、CRT(Cathode Ray Tubes)13,13が装着されており、このCRT上の画像情報を投影光学装置12,12から本発明の航空ヘルメット用バイザー10の顔面に対面する面に投影することにより航空ヘルメット用バイザー10の外側に虚像を形成し、この航空ヘルメットを装着した人は、この虚像により画像情報を視認することができる。
【0017】
このような航空ヘルメット用バイザー10の横断面図を図2に示す。この航空ヘルメット用バイザー10は、顔面側に湾曲した着色ポリカーボネート板14と、この着色ポリカーボネート板14を基板として、この着色ポリカーボネート板14の一方の表面に形成さ
れた誘電体多層膜15および他方の表面に形成された波長543nmの投影光に対する部分反射膜16を有する。
【0018】
この着色ポリカーボネ—ト板14には、短波長側の可視光を吸収する光吸収色素が混練されており、この光吸収色素は着色ポリカーボネ—ト板14中に均一に分散されている。ここで短波長側の可視光を吸収するための光吸収色素としては、たとえば、アゾ系油溶染料、フタロシアン金属錯体色素、金属錯体系吸収剤などを挙げることができる。これらは単独であるいは組み合わせて使用することができる。本発明の航空ヘルメット用バイザーにおいては、上記のような光吸収色素は、基材となるポリカーボネート板の厚みにも依存するが、ポリカーボネート100重量部に対して、通常は0.005~1重量部の範囲内の量で使用される。このような光吸収色素は、ポリカーボネートを溶融混練する際に添加されて、ポリカーボネート中に均一に分散される。このような光吸収色素を均一に分散することにより、ポリカーボネート板はわずかに着色し、特に可視光線である波長380~780nmの可視光線の視感透過率は、通常は3~60%程度になる。
【0019】
この着色ポリカーボネート板14の顔面側とは反対の側25の表面(凸面側)には、通常は、熱硬化性シリコーン樹脂膜30が形成されており、通常はこの熱硬化性シリコーン樹脂膜30を介し誘電体多層膜15が形成されている。この熱硬化性シリコーン樹脂膜30は、ケイ素に、酸素・炭素を結合させた構造を有する有機シラノールを塗布し加熱硬化させることにより形成することができる。この熱硬化性シリコーン樹脂膜30の表面に誘電体多層膜15を形成することにより、着色ポリカーボネート板14に対する密着性が良好になる。こうして形成される熱硬化性シリコーン樹脂膜30の厚さは、通常は100~200nmの範囲内にある。なお、この熱硬化性シリコーン樹脂膜30は極めて薄層であり、また、無色であることから、着色ポリカーボネート板14の光透過性はこの熱硬化性シリコーン樹脂膜30を形成することによっては実質的に変動しない。
【0020】
上記のようにして着色ポリカーボネート板14の顔面とは反対の側25の表面(凸面)に、通常は熱硬化性シリコーン樹脂膜30を介して誘電体多層膜15が形成されている。
【0021】
この誘電体多層膜15は屈折率の異なる複数の誘電体層から構成されている。図3に複数の誘電体層からなる誘電体多層膜15の例を示す。図3において、付番18は空気層であり、付番20は第1誘電体層であり、付番21は第2誘電体層であり、付番19は着色ポリカーボネート板である。空気層18の屈折率は、n0=1であり、第1誘電体層20の屈折率はn1であり、第2誘電体層21の屈折率は、n2であり、ポリカーボネート樹脂板
の屈折率はns=1.59である。
【0022】
また、第1誘電体層20および第2誘電体層21の厚さは、反射させようとする光の波長の1/4の光路長の厚さである。このときの直入射に対する反射率(R)は、次式(A)で表すことができる。
【0023】
【数2】
JP0003996111B2_000003t.gif

【0024】
上記式(A)において、pは、第1誘電体層20と第2誘電体層21の組み合わせの繰
り返し回数であり、図3に示す構成の誘電体多層膜15の場合には、p=1である。n1
>n2でかつその差が大きいほど、高い反射率(R)が得られる。また、組み合わせの繰り返し回数pが大きいほど高い反射率(R) が得られる。
【0025】
従って、本発明における誘電体多層膜15は、上記の条件によりレーザー反射率がより高くなるようにその形成素材、各層の厚さ、および、層構成を設定することができる。このような誘電体多層膜15は、例えば、酸化チタン、酸化ケイ素、酸化ジルコニウム、フッ化マグネシウム、フッ化セリウムおよび硫化亜鉛などで形成することができる。また、上記のような成分から形成される層の厚さは、通常は、反射しようとするレーザー波長の1/4波長の光路長となるように設定される。また、層構成は、図3に示したように2層構成とすることもできるし、さらに3層構成以上にすることもできる。
【0026】
具体的には、この誘電体多層膜15で波長694nmのルビーレーザー光および波長1064nmのNd-YAGレーザー光を反射させようとする場合、第1誘電体層20をSiO2で形成し、第2誘電体層21をTiO2で形成する。こうして形成された第1誘電体層20の屈折率n1は1.46となり、第2誘電体層21の屈折率n2は2.4となる。
【0027】
また、誘電体多層膜15は、(a)着色ポリカーボネート板14/第1誘電体層20(形
成成分;MgF2、屈折率=1.38)/第2誘電体層21(形成成分;ZrO2、屈折率=2.1)、(b)着色ポリカーボネート板14/第1誘電体層20(形成成分;CeF3、屈折率=1.63)/第2誘電体層21(形成成分;ZnS、屈折率=2.32)などの層構成にす
ることができる
上記のようなレーザー反射誘電体多層膜15は、上記のような誘電体を着色ポリカーボネート板14の表面に蒸着することにより形成することができる。こうして形成される誘電体多層膜15は、繰り返し回数pが数十となり、合計の厚さは、通常は2000~5000nmの範囲内にある。
【0028】
上記のような誘電体多層膜15が形成された着色ポリカーボネート板14の反対側、即ち顔面に対面する側35の表面(凹部側)には、波長543nmの投影光に対する部分反射膜16が形成されている。この波長543nmの投影光に対する部分反射膜16は、前述のように、ヘルメットに備えられたCRT(Cathode Ray Tubes)13,13上の画像情報を投影光学装置12,12を用いて投影して反射させ、バイザー10の外側に虚像を認識さ
せるものであり、投影光学装置12,12から投影された波長543nm近傍の波長の可視
光を部分的に反射させて虚像を形成させると共に、外部の状況を把握するために外部から
バイザーを透過して到達する可視光の反射はできるだけ低いことが望ましい。
【0029】
この波長543nmの投影光に対する部分反射膜16も、上記式(A)に示すような反射率、屈折率、層の繰り返し回数の関係を有している。
【0030】
従ってこの波長543nmの投影光に対する部分反射膜16は複数の誘電体層を積層した構成を有している。このような波長543nmの投影光に対する部分反射膜16を形成する誘電体層は、例えば、酸化チタン、酸化ケイ素、酸化ジルコニウム、フッ化マグネシウムなどにより形成することができる。ここで波長543nmの投影光に対する部分反射膜16を複数の誘電体層を積層することにより形成する場合、(a)着色ポリカーボネート板14
/第1誘電体層a(形成成分;SiO2、屈折率=1.46)/第2誘電体層a(形成成分;TiO2、屈折率=2.4)、(b)着色ポリカーボネート板14/第1誘電体層b(形成成分;MgF2、屈折率=1.38)/第2誘電体層b(形成成分;ZiO2、屈折率=2.1)などの層構成にすることができる。
【0031】
例えば、上記のような構成を有する波長543nmの投影光に対する部分反射膜16は、投影光学装置12,12から投影される画像情報を部分的に反射するものであり、このよ
うな波長543nmの投影光に対する部分反射膜16の反射率は、通常は、20~40%の範囲内にあり、投影光学装置12,12から投影される画像情報を部分的に反射させて、
バイザーの外側に虚像を形成することができる。
【0032】
なお、この波長543nmの投影光に対する部分反射膜16は、誘電体多層膜15同様に、着色ポリカーボネート板14の表面に熱硬化性シリコーン樹脂膜(図示なし)を介して形成してもよい。
【0033】
このような波長543nmの投影光に対する部分反射膜16は繰り返し回数pが数回であり、通常は、300~500nmの範囲内にある。
【0034】
このように誘電体からなる層を有する誘電体多層膜15および波長543nmの投影光に対する部分反射膜16を有するバイザーにおいては、多重干渉による入射角依存性が発生する。図4は、この入射角依存性の原理を説明するための説明図である。
【0035】
即ち、図4に示すように、薄層22での入射角がθの光が空気層23に多重干渉により反射する条件は次式(B)で表すことができる。なお、付番14は着色ポリカーボネート
板である。
【0036】
2nt・cosθ=λ ・・・(B)
ここで、nは薄層22の屈折率、tは薄層22の厚さ、θは薄層内での光の入射角、λ
は反射しようとする光の波長である。nおよびtを定数として上記式(B)の両辺を微分すると、次式(B-1)を得ることができる。
【0037】
【数3】
JP0003996111B2_000004t.gif

【0038】
上記式(B-1)から、波長λが短い光の方が角度依存性が高いことがわかる。従って、
波長が異なる複数のレーザー光を遮光する場合、短波長側のレーザー光を着色ポリカーボ
ネート板中に含有される吸収色素で吸収し、長波長側のレーザー光を、誘電体多層膜によって反射・遮光することにより、本発明のバイザーの角度依存性を緩和することができる。
【0039】
たとえば、波長514nmのアルゴンイオンレーザー光、波長532nmのNb-YAG2倍レーザー光、波長694nmのルビーレーザー光および波長1064nmのNb-YAGレーザー光を同時に遮光する場合、アルゴンイオンレーザー光(514nm)およびNb-YAG2倍レーザー光(532nm)を吸収色素により吸収し、ルビーレーザー光(694nm)およびNb-YAGレーザー光(1064nm)を誘電体多層膜により反射することができる。
【0040】
上記のように着色ポリカーボネート板14と、この着色ポリカーボネート板14の凸面側25に形成された誘電体多層膜15と、この着色ポリカーボネート板14の凹面側35に形成された波長543nmの投影光に対する部分反射膜16とを有する本発明の航空ヘルメット用バイザー10の表面は、擦り傷、手垢および水蒸気に対する耐性が低い。
【0041】
バイザーの表面に耐擦傷性を付与し、さらに防曇性を付与するために、本発明の航空ヘルメット用バイザー10の表面は、酸化物複合膜17で被覆されており、さらにこの酸化物複合膜17に系界面活性剤を塗布して、この酸化物複合膜17に界面活性剤を保持させる。この酸化物複合膜17は、複数のフルオロ金属錯体を溶解する水溶液中に、ホウ素化合物を添加することにより、酸化物複合体をバイザー表面に析出させることにより形成することができる。
【0042】
ここで使用することができるフルオロ金属錯化合物(A群)の例としては、フッ化チタ
ニウムアンモニウム((NH4)2TiF6)、フッ化ケイ素アンモニウム((NH4)2SiF6)、および、フッ化ジルコニウムアンモニウム((NH4)2ZrF6)を挙げることができる。これらは単独であるいは組み合わせて使用することができる。さらに、本発明では、上記のフルオロ金属策化合物中の金属の一部は、Nb、Ta、Al、Sn、Gaなどの金属であってもよい。このような他の金属を含有するフルオロ金属錯化合物(B群)の例としては、フッ化スズアンモニウム((NH4)2SnF6)、フッ化インジウムアンモニウム((NH4)2InF6)、フッ化タンタルアンモニウム((NH4)2TaF7)、フッ化ニオビウムアンモニウム((NH4)2NbF7)、フッ化アルミニウムアンモ
ニウム((NH4)3AlF6)、および、フッ化ガリウムアンモニウム((NH4)2GaF6)を挙げることができる。
【0043】
一般にフルオロ金属錯化合物を純水中に溶解させると、次式で示されるように電離して溶解する。
(NH4)2MeF6 + H2O → 2NH4+ + MeF62+ + H2O (Me;金属原子)
フルオロ金属錯体化合物が上記のように電離して溶解している水溶液に、フッ素捕捉剤としてホウ素化合物を添加すると、次式に従い、金属Meに結合しているフッ素がホウ素化合物によって捕捉され、金属Meが酸化物を形成して析出する。
MeF62+ + 2H2O → MeO2↓ + 6F- + 4H+
BO32- + 4F- + 6H+ → BF4- + 3H2O
そして、上記のようにして金属酸化物が析出する水溶液中に、一方の面(凸面)に、好適には熱硬化性シリコーン樹脂膜30を介して誘電体多層膜15が形成され、他方の面(凹面)に543nmの透過光の部分反射膜が形成された着色ポリカーボネート板15を浸漬することにより、酸化物複合体を析出させて酸化物複合膜17を形成することができる。

【0044】
ここで使用するフッ素捕捉剤としては、酸化ホウ素、ホウ酸あるいはホウ酸塩を使用することができる。
【0045】
上記のようなフルオロ金属錯化合物は、温度を通常は25~60℃、好ましくは30~
50℃の範囲内に調整した1リットルの純水中に、A群のフルオロ金属錯化合物として、
フッ化ケイ素アンモニウム((NH4)2SiF6)を0~100モル%、好ましくは0.1~99.9モル%の範囲内の量、フッ化チタニウムアンモニウム((NH4)2TiF6) を0~100モル
%、好ましくは0.1~50.0モル%の範囲内の量、さらにフッ化ジルコニウムアンモニウム((NH4)2ZrF6) 0~100モル%、好ましくは0.1~99.9モル%の範囲内の
量で加えて溶解させる。ただし、この水溶液中における上記A群のフルオロ金属化合物の
濃度は、合計で、通常は1×10-3モル/リットル~1モル/リットル、好ましくは0.5×10-2モル/リットル~0.5モル/リットルの範囲内に調整される。なお、フルオロ金属錯化合物としてB群の化合物を使用する場合には、上記A群の化合物の通常は0.1~99.9モル%の範囲内の量、好ましくは5~90モル%の範囲内の量で使用することができる。
【0046】
また、フッ素捕捉剤として使用されるホウ素化合物は、水溶液中に溶存しているフルオロ金属錯化合物1モルに対して、通常は5~50モル、好ましくは10~20モルの範囲内の量で使用される。具体的には、フルオロ金属錯化合物を上記のような濃度で溶解する水溶液1リットルに、ホウ素化合物(例えば酸化ホウ素(B2O3)、ホウ酸(H3BO3)など
)を通常は0.1~0.5モル、好ましくは0.1~0.3モルの範囲内の量で添加する。
【0047】
このようにしてホウ素化合物を添加することにより、複合酸化物の析出が開始されるので、この水溶液中にバイザーを一定時間浸漬し、この状態に一定時間維持することにより、バイザーの表面に複合酸化物の薄膜を形成することができる。
【0048】
この際、誘電体多層膜を形成したバイザーに、予めオゾンプラズマなどを照射して表面親水化処理をすることにより、酸化物複合膜の製膜性が向上する。
【0049】
このようなバイザーを水溶液中に通常は2~24時間、好ましくは5~20時間浸漬した後、水溶液から取り出し、乾燥させることにより、バイザーの表面に複合酸化物膜を形成することができる。
【0050】
こうして形成される酸化物複合膜17の厚さは、通常は1~500nm、好ましくは5~100nmの範囲内にある。乾燥後、バイザー表面に界面活性剤を塗布し、界面活性剤の分子が、形成された酸化物複合膜17に形成された極微細な凹部に浸入してこの酸化物複合膜17に保持される。
【0051】
ここで使用することができる界面活性剤としては、陽イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、両性界面活性剤および非イオン性界面活性剤のいずれでもよく、具体的には、アルキルエーテル硫酸エステルナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、脂肪酸アルカノールアミド、脂肪酸メチルグルカミド、α-オレフィンスルフォン酸ナトリ
ウム、スルホコハク酸、アルキルアミンオキシド、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸などが挙げられる。これらは単独であるいは組み合わせて使用することができる。このような界面活性剤は、グリセリン;ポリエチレングリコールのようなポリアルキレングリコール;エチルアルコールのようなアルコールなどの補助剤と共に用いることが好ましい。このように界面活性剤を補助剤と共に使用する場合、界面活性剤は、上記補助剤に対して、通常は20重量%以上の量比で、好ましくは30重量%以上の量比で、特に好ましくは50
重量%以上の量比ので混合される。このような混合物は、酸化物複合膜17中に、上記の
比率を維持したまま含有されていることが好ましい。このような量比の界面活性剤を塗布した後、水分を除去することによりこの界面活性剤は酸化物複合膜17に含有される。また、この界面活性剤は、形成された酸化物複合膜17をソフト研磨して表面平滑化をする際に研磨布に含有させる界面活性剤であってもよい。
【0052】
本発明のバイザーに形成された酸化物複合膜17には、微細な凹部が形成されており、上記のような界面活性剤は、大部分が酸化物複合膜17に形成された微細な凹部中に取り込まれる。特に界面活性剤を塗布しながら研磨布などで表面ソフト研磨を行うと、この界面活性剤は、酸化物複合膜17に形成された微細な凹部に浸入する。
【0053】
このようにして一旦微細な凹部に浸入した界面活性剤は、物理的に除去されにくくなると共に、酸化物複合膜17が親水性および新媒性を有するにも拘らず、水との接触によっても過度には流出しない。
【0054】
しかしながら、本発明のバイザーが水と接触すると、微量の界面活性剤が溶出し、バイザー表面で水が水滴として存在できない程度に水の表面張力を低下させる。このためにバイザー表面に接触した水は、水膜となってバイザー表面に広がるためにバイザーに曇りが生じにくくなる。また、バイザー全体に水膜が形成されることから、この水が蒸発しても水滴状の残痕が生じにくくなり、従って、本発明のバイザー付着した汚れは、水洗により容易に除去することができる。
また、バイザーに付着した手垢などの汚れもふき取りにより、微量の界面活性剤と共に容易に拭い取ることができる。
【0055】
また、本発明のバイザーの表面に形成された酸化物複合膜17に形成された微細な凹部に浸入した界面活性剤は、物理的なふき取りなどによっては除去されにくく、バイザーが水と接触した場合に微量溶出するので、長期間にわたって、バイザー表面に残存する。そして、このような界面活性剤が残存している限り、本発明のバイザーは、良好な防曇性を維持することができる。また、この界面活性剤は、上述のような界面活性剤をたとえばスプレーなどによりバイザー表面に供給するか、および/または、界面活性剤を含浸させた拭き布でバイザー表面を拭くことにより、酸化物複合膜17に形成された微細な凹部に追加供給することができる。このようにしてバイザー表面に新たに供給された界面活性剤は、たとえば拭き布で拭きのばすことにより、酸化物複合膜17の表面にある微細な凹部に充填することができる。
【0056】
このように酸化物複合膜17を最外層として形成することにより、耐擦傷性が著しく向上すると共に、長期間にわたって大変優れた防曇性が付与される。そして、最外層としてこのような酸化物複合膜17を形成することによっても、レーザー光の反射性、波長543nmの投影光に対する反射率、光透過率など本発明の航空ヘルメット用バイザーの有する光学的特性が変動することはない。
【0057】
次の本発明の実施例を説明して本発明の航空ヘルメット用バイザーについて具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【実施例1】
【0058】
フッ化珪素アンモニウムを99.0g、フッ化チタンアンモニウムを4.17g、フッ化ジルコニウムアンモニウムを4.32g秤量し、これらを純水に溶解し処理液全体の量を3リットルとし、この処理液の温度を40℃に保持した。
【0059】
こうして調製された水溶液にホウ酸(H3BO3)を90g添加した。
【0060】
ホウ酸を添加後、ホウ酸が完全に溶解したことを確認してから、着色ポリカーボネート板の表面に、熱硬化性シリコーン樹脂膜30を介して、誘電体多層膜15および波長543nmの投影光に対する部分反射膜16が形成されたバイザーを水溶液中に浸漬した。
【0061】
このままの条件で浸漬を24時間続けた後、バイザーを取り出し、純水(40℃)によって洗浄後、乾燥した。
【0062】
次いで、スルホコハク酸とアルキルアミンオキシドとの混合溶液からなる界面活性剤を塗布し、表面にむらが発生しないように布で拭きあげた。
【0063】
加湿器上部に35cmの筒を設け、この筒の先端を蒸気噴出口(40~50℃)とし、こ
の蒸気噴出口に、界面活性剤を塗布した状態のバイザーを固定し、防曇持続性を評価した。
【0064】
60分以上蒸気を吹き付けたが、特にバイザーの視界を大きく妨げる曇りは発生しなかった。また、界面活性剤を塗布してそのまま放置する試験では、20~30日後、呼気をあてても曇りが生じない状態が維持された。
【0065】
また別途表面の耐擦傷性を調べた。即ち、#0000番のスチールウールを用いて、加重500g、ストローク20mm、20往復(1往復2.7秒)の条件で、バイザーの表面をこすり、表面の状態を5段階ランクで評価したところ、4以上の評価が得られ、良好な耐擦傷性を示した。
【0066】
なお、上記の酸化物複合膜の形成に使用したバイザーは、ポリカーボネートに光吸収色素としてアゾ系油溶染料、フタロシアン金属錯体色素を、ポリカーボネート100重量部に0.1~1重量部で配合して溶融混練して厚さ2~2.5mmの板状にした着色ポリカーボネート板14を基板とし、この着色ポリカーボネート板14の凸面に誘電体多層膜15として、SiO2と、TiO2とを、熱硬化性シリコーン樹脂膜(厚さ;100~200nm)を介して蒸着し、着色ポリカーボネート板の凹面に、波長543nmの投影光の部分反射膜形成成分として、SiO2と、TiO2とを蒸着させたものである。
【実施例2】
【0067】
実施例1において、酸化物複合膜を以下のようにして形成した以外は同様にして本発明のバイザーを製造した。
【0068】
フッ化珪素アンモニウムを47.8g、フッ化チタンアンモニウムを11.8g、フッ化ジルコニウムアンモニウムを64.8g秤量し、これらを純水に溶解し処理液全体の量を3リットルとし、この処理液の温度を40℃に保持した。
【0069】
こうして調製された水溶液にホウ酸(H3BO3)を90g添加した。
【0070】
ホウ酸を添加後、ホウ酸が完全に溶解したことを確認してから、着色ポリカーボネート板に、熱硬化性シリコーン樹脂膜30を介して、誘電体多層膜15および波長543nmの投影光に対する部分反射膜16を形成したバイザーを水溶液中に浸漬した。
【0071】
このままの条件で浸漬を24時間続けた後、バイザーを取り出し、純水(40℃)によって洗浄後、乾燥した。
【0072】
次いで、スルホコハク酸とアルキルアミンオキシドとの混合溶液からなる界面活性剤を塗布し、表面にむらが発生しないように布で拭きあげた。
【0073】
加湿器上部に35cmの筒を設け、この筒の先端を蒸気噴出口(40~50℃)とし、こ
の蒸気噴出口に、界面活性剤を塗布した状態のバイザーを固定し、防曇持続性を評価した。
【0074】
60分以上蒸気を吹き付けたが、特にバイザーの視界を大きく妨げる曇りは発生しなかった。また、界面活性剤を塗布してそのまま放置する試験では、20~30日後、呼気をあてても曇りが生じない状態が維持された。
【0075】
また別途表面の耐擦傷性を調べた。即ち、#0000番のスチールウールを用いて、加重500g、ストローク20mm、20往復(1往復2.7秒)の条件で、バイザーの表面をこすり、表面の状態を5段階ランクで評価したところ、4以上の評価が得られ、良好な耐擦傷性を示した。
【実施例3】
【0076】
実施例1において、酸化物複合膜を以下のようにして形成した以外は同様にして本発明のバイザーを製造した。
【0077】
フッ化珪素アンモニウムを13.8g、フッ化チタンアンモニウムを27.1g、フッ化ジルコニウムアンモニウムを91.8g秤量し、これらを純水に溶解し処理液全体の量を3リットルとし、この処理液の温度を40℃に保持した。
【0078】
こうして調製された水溶液にホウ酸(H3BO3)を90g添加した。
【0079】
ホウ酸を添加後、ホウ酸が完全に溶解したことを確認してから、ポリカーボネート樹脂基板に熱硬化性シリコーン樹脂膜30を形成し誘電体多層膜15および波長543nmの投影光に対する部分反射膜16を形成したバイザーを水溶液中に浸漬した。
【0080】
このままの条件で浸漬を24時間続けた後、バイザーを取り出し、純水(40℃)によって洗浄後、乾燥した。
【0081】
乾燥後、スルホコハク酸とアルキルアミンオキシドとの混合溶液からなる界面活性剤を塗布し、表面にむらが発生しないように布で拭きあげた。
【0082】
加湿器上部に35cmの筒を設け、この筒の先端を蒸気噴出口(40~50℃)とし、こ
の蒸気噴出口に、界面活性剤を塗布した状態のバイザーを固定し、防曇持続性を評価した。
【0083】
60分以上蒸気を吹き付けたが、特にバイザーの視界を大きく妨げる曇りは発生しなかった。また、界面活性剤を塗布してそのまま放置する試験では、20~30日後、呼気をあてても曇りが生じない状態が維持された。

【0084】
また別途表面の耐擦傷性を調べた。即ち、#0000番のスチールウールを用いて、加重500g、ストローク20mm、20往復(1往復2.7秒)の条件で、バイザーの表面をこすり、表面の状態を5段階ランクで評価したところ、4以上の評価が得られ、良好な耐擦傷性を示した。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明の航空ヘルメット用バイザーが提供される。このバイザーは、光学的特性に優れていることは勿論、耐擦傷性および防曇性に優れる。また、レーザー装置からのレーザー光を誘電体多層膜15および着色ポリカーボネート板により遮光することができる。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】図1は、本発明の航空ヘルメット用バイザーおよびこのバイザーを用いた虚像形成の方法を説明するための図である。
【図2】図2は、本発明の航空ヘルメット用バイザーの断面図である。
【図3】図3は、レーザー反射誘電体多層膜、および、波長543nmの投影光に対する部分反射膜の断面を示す図である・
【図4】図4は、この入射角依存性について説明する説明図である。
【符号の説明】
【0087】
10・・・航空ヘルメット用バイザー
12・・・投影光学装置
13・・・CRT(Cathode Ray Tubes)
14、19・・・着色ポリカーボネート板
15・・・誘電体多層膜
16・・・波長543nmの投影光に対する部分反射膜
17・・・酸化物複合膜
18・・・空気層
20・・・第1誘電体層
21・・・第2誘電体層
22・・・薄層
23・・・空気層
25・・・顔面側とは反対の側(凸面側)
30・・・熱硬化性シリコーン樹脂膜
35・・・顔面に対面する側(凹部側)

図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3