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明細書 :両親媒性の高分子配位子によって安定化された高分子錯体および検査用組成物および医薬組成物

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5263805号 (P5263805)
公開番号 特開2008-308423 (P2008-308423A)
登録日 平成25年5月10日(2013.5.10)
発行日 平成25年8月14日(2013.8.14)
公開日 平成20年12月25日(2008.12.25)
発明の名称または考案の名称 両親媒性の高分子配位子によって安定化された高分子錯体および検査用組成物および医薬組成物
国際特許分類 C07K   7/06        (2006.01)
C07K   7/08        (2006.01)
A61K  38/16        (2006.01)
A61P  35/00        (2006.01)
A61K  51/00        (2006.01)
C07K  14/00        (2006.01)
FI C07K 7/06 ZNA
C07K 7/08
A61K 37/14
A61P 35/00
A61K 49/02 C
C07K 14/00
請求項の数または発明の数 6
全頁数 29
出願番号 特願2007-156743 (P2007-156743)
出願日 平成19年6月13日(2007.6.13)
審査請求日 平成22年6月14日(2010.6.14)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504145364
【氏名又は名称】国立大学法人群馬大学
発明者または考案者 【氏名】奥 浩之
【氏名】山田 圭一
【氏名】片貝 良一
【氏名】花岡 宏史
【氏名】飯田 靖彦
【氏名】織内 昇
【氏名】遠藤 啓吾
【氏名】早川 晃一
【氏名】小濱 一弘
個別代理人の代理人 【識別番号】100100549、【弁理士】、【氏名又は名称】川口 嘉之
【識別番号】100126505、【弁理士】、【氏名又は名称】佐貫 伸一
審査官 【審査官】清水 晋治
参考文献・文献 国際公開第2007/039437(WO,A1)
国際公開第2006/107617(WO,A2)
国際公開第2005/021494(WO,A2)
佐口昌嗣、外3名,β-(3-pyridyl)-L-alanineを含んだヘリックスペプチドの合成と性質,日本化学会講演予稿集,2006年 3月13日,Vol.86,No.2,p.1427(講演番号:1 PA-116)
Journal of organometallic chemistry. 2007, Vol.692, p.79-87
調査した分野 C07K 1/00-19/00
A61K 51/00 -51/12
PubMed
JSTPlus/JMEDPlus(JDreamII)
UniProt/GeneSeq
特許請求の範囲 【請求項1】
疎水性配位子とポリアルキレングリコールからなる両親媒性のブロック共重合体と111In
からなる高分子錯体であって、
前記疎水性配位子が、下記一般式(a)、(b)または(c)で表される、側鎖に金属原子に
配位可能な複素環を有するアミノ酸を含むヘリックス構造を有するデプシペプチドまたはペプチドである、高分子錯体。
Y1-Leu-Leu-Aib-Xaa-Leu-Leu-Aib-Phe-(a)(配列番号1)
Y1-Leu-Leu-Aib-Xaa-Leu-Leu-Aib-Yaa-Leu-Leu-Aib-Phe-(b)(配列番号2)
Y1-Leu-Leu-Aib-Xaa-Leu-Leu-Aib-Yaa-Leu-Leu-Aib-Zaa-Leu-Leu-Aib-Phe-(c)(配列番号3)
(式中、Xaa、YaaおよびZaaは下記一般式(IV)~(VI)の何れかの、側鎖に金属原子に配位可能な複素環を有するアミノ酸を表し、Aib は aminoisobutylic acid 残基を表し、Y1はアミノ酸、ペプチド、ヒドロキシカルボン酸、もしくはデプシペプチドまたはアミノ基の保護基を表す。)
【化1】
JP0005263805B2_000011t.gif
(X1とX2は水素、アルキル基、シリル基、アミド基、ウレタン基、エーテル基、もしくはエステル基を表す。)
【請求項2】
両親媒性のブロック共重合体が、下記一般式 (I)、(II)又は(II') で表される、請求項1に記載の高分子錯体。
ポリアルキレングリコール-block-疎水性配位子 (I)
疎水性配位子-block-ポリアルキレングリコール (II)
疎水性配位子-block-ポリアルキレングリコール-block-疎水性配位子 (II')
【請求項3】
金属原子が低分子金属錯体を形成した金属原子である、請求項1または2に記載の高分子錯体。
【請求項4】
低分子金属錯体が、ポルフィリン配位子、クロリン配位子、シッフ塩基配位子、チオラート配位子、チオエーテル配位子、イミダゾール配位子、フェノラート配位子からなる群より選ばれる1種または複数の配位子を有する低分子錯体である、請求項3に記載の高分子
錯体。
【請求項5】
請求項1~4の何れか1項に記載の高分子錯体を含む医薬組成物。
【請求項6】
がんの治療または診断のための、請求項5に記載の医薬組成物。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、両親媒性の配位子を用いた高分子錯体およびその組成物に関する。更に詳しくは、疎水性配位子と親水性ポリマーのブロック共重合体によって両親媒性となった高分子配位子とこれに配位する金属原子から構成される高分子錯体およびその組成物に関する。
本発明の高分子錯体は、水系環境下に於いても金属原子を穏和な条件で簡便かつ安定に配位させることができるため、生体材料や医薬組成物として、より具体的には放射性薬剤、常磁性薬剤、蛍光性薬剤として、種々の異常組織の診断および治療に、特にある種の癌の診断および治療に有用である。
【背景技術】
【0002】
(1)金属原子と高分子錯体からみた金属蛋白質:
生物体に由来する、金属原子を比較的強固に結合した蛋白質は、金属蛋白質と呼ばれ、金属イオンの運搬や貯蔵、金属原子による活性中心を持つ酵素や電子伝達体として細胞の内外で機能を発揮している(例えば、非特許文献1)。金属原子の結合部位には主として蛋白質を構成するアミノ酸側鎖や主鎖が用いられている。特に複素環のイミダゾール基を有するヒスチジンは窒素原子の配位子として優れており、金属酵素の化学進化(例えば、非特許文献2)の過程で多くの金属蛋白に用いられるようになったと考えられる。
【0003】
金属蛋白質のうち、ヒスチジン側鎖によって金属原子を結合している事例について概観する。
(a) Fe蛋白質
Fe原子の結合形式によって大きく3種類、Feイオンが低分子金属錯体であるヘム(Fe-ポルフィリン錯体)として結合しているヘム蛋白質、Feイオンがヘムを介さずに蛋白質へ結合している非ヘム蛋白質、Feイオンが硫黄原子とのクラスターとして蛋白質へ結合している鉄-硫黄蛋白質、に分類される。ヘム蛋白のシトクロムcでは、ヘム中のFeイオンにヒスチジンのイミダゾール基の窒素原子が配位している(例えば、非特許文献3)。非ヘム蛋白質ではメタンモノオキシゲナーゼ(例えば、非特許文献4)の2つのFeイオンに、鉄-硫黄蛋白質ではヒドロゲナーゼ(例えば、非特許文献5)の[4Fe4S]クラスターに、ヒスチジン側鎖の配位が見られる。
【0004】
(b) Cu蛋白質
結晶構造が解明される以前から、分光学的に分類されてきた、Type I、Type II、Type IIIと呼ばれるCu蛋白質は、何れもヒスチジン側鎖の配位が見られる。Type Iに分類されるプラストシアニン(例えば、非特許文献6)は2つのイミダゾール基の窒素原子が配位している。その他にType IIとしてガラクトースオキシダーゼ(例えば、非特許文献7)、Type IIIとして2つのCuイオンを有するヘモシアニン(例えば、非特許文献8)が例として挙げられる。その他にマルチCu蛋白質であるアスコルビン酸酸化酵素(例えば、非特許文献9)、亜硝酸還元酵素(例えば、非特許文献10)にもヒスチジン側鎖の配位が見られる。
【0005】
(c) Zn蛋白質
カルボキシペプチターゼA(例えば、非特許文献11)、炭酸脱水素酵素(例えば、非特許文献12)、アルコールデヒドロゲナーゼ(例えば、非特許文献13)では、酵素活性中心のZnイオンに1~3つのイミダゾール基が配位して反応性が調節されている。酵素とは異なり、DNAに結合して遺伝子の発現と制御を行う亜鉛フィンガーと呼ばれる蛋白質
(例えば、非特許文献14)にもヒスチジン側鎖の配位が見られる。
【0006】
(d) その他の金属蛋白質
複数のNiイオンを有するウレアーゼ(例えば、非特許文献15)、Fe-Mo-Sで構成されるクラスターを有するニトロゲナーゼ(例えば、非特許文献16)に於いて、金属原子とイミダゾール基の窒素原子の配位結合が知られている。
【0007】
上記の、金属原子へ窒素原子が配位した例に於いて、金属原子を強く保持するための共通する構造上の特徴が考えられる。すなわち、(a)金属原子とイミダゾール環(複素環構造)の強い配位結合。(b)高分子配位子として蛋白質のポリペプチド鎖によるキレート効果。(c)高分子配位子としての蛋白質の両親媒構造、(d)高度に分子設計(配位結合、キレート効果、両親媒構造)された高分子配位子、の4点が特徴として考えられる。
【0008】
(a)と(b)は配位化学の基本的な概念として、金属蛋白質だけでなく、低分子の金属錯体の安定化に多く用いられている。(a)のイミダゾール環による、金属原子への比較的強い配位結合は、窒素原子の孤立電子対を金属原子へσ供与するσ結合のみならず、金属原子のd軌道と複素環のp軌道にπ結合があることに原因している。π結合には二種類あり、充填d軌道から複素環の空のπ*軌道への電子のπ逆供与(π-back donation)、複素環のπ軌道から金属原子の空のd軌道へのπ供与(π-donation)がある。イミダゾール環のような複素環構造は、金属原子の酸化状態に応じて、これら二種類のπ結合に対応できるために、金属原子の種類を問わず、広く配位結合に適していることがわかる。結果として、イミダゾール環のような複素環構造が、化学進化の過程で多くの金属蛋白質の配位子に見られるようになったと考えられる。
【0009】
(b)のキレート効果は、主にエントロピー効果で説明をすることができる(非特許文献17)。すなわち、蛋白質内での金属原子の安定性は、ポリペプチド鎖によって配位子が連結されることによる、キレート構造に由来している。この他に、水分子とイミダゾール環の違いのように配位子の配位エネルギーの差に由来するエンタルピー効果もキレート効果の一部分として、蛋白質に於ける金属原子の保持に寄与している。
【0010】
(c)の蛋白質の両親媒構造は、蛋白質の外殻は水系環境に溶解するために親水性環境に、活性中心は金属原子と窒素原子の配位結合を強固にするために疎水性環境になっていることから理解できる(非特許文献18)。疎水性環境が化学進化の過程で生じた理由は、金属蛋白質への水分子の侵入を防いで、水溶液の大部分を占める(およそ50 mol/L)水分子が金属原子へ配位することによって、活性中心からの金属原子の乖離を防ぐためであると、考えることができる。
【0011】
以上のように金属蛋白質を高分子錯体として考察すると、ポリペプチド鎖が両親媒性の配位子として金属原子を安定化させていることが理解できる。しかしこれまでに、金属蛋白質による金属原子の保持機構を、生体材料や医薬組成物として利用した例はなかった。
【0012】
(2)金属原子と高分子錯体からみた医薬品:
従来、医薬品として金属原子から発生する放射線を利用する場合(異常組織の破壊)、トレーサーとして他の医薬品に結合させる場合(異常組織の検出)に、錯体を形成する様々な配位子が用いられてきた。これらの配位子は厳密な意味でのキレート効果を利用しない場合も含めて「キレート剤」と一般に呼ばれており、放射性医薬品の重要な開発分野である。
【0013】
放射性医薬品は、放射線による生体内の異常組織の「検出」と「破壊」を目的とした薬物である。この医薬品の研究には、(a)放射性同位元素の製造、(b)組織の検出に用いる高
分子プローブ(例えば、モノクローナル抗体)の開発、(c)組織の検出に用いる高分子プローブと組み合わせて用いる「キレート剤」の開発、の3点が重要である。例えば、放射性同位元素に金属元素を用いる場合、モノクローナル抗体と金属原子が直接に錯形成するのではなく、モノクローナル抗体に結合されたキレート剤に対して金属原子を錯形成させて用いる。この方法は、放射線によって異常組織を破壊することや異常組織の画像を作り出す、放射線治療や放射線診断として広く用いられている(例えば、特許文献1~5)。その他に、放射性同位体ではなく常磁性金属イオンと「キレート剤」と抗体による高分子錯体を用いて同様に、異常組織の画像診断を行うことができる(MRI法)。これも広義の放射性医薬品として盛んに研究が行われている(例えば、特許文献6~9)。
【0014】
従来、放射性医薬品として臨床や研究に用いられてきた「キレート剤」は、EDTAタイプの配位子(例えば、DTPA (= diethylenetriaminepentaacetic acid). 論文の例として、非特許文献19)、大環状キレート配位子(例えば、DOTA (= 1,4,7,10-tetraazacyclododecane-1,4,7,10-tetraacetic acid))に代表される、金属イオンに配位してキレート化合物をつくる多座配位子である(例えば、特許文献10~12)。これらの「キレート剤」は、親水性の配位子であり、多座配位子によるキレート効果のみを用いて金属原子を安定化させている点で、両親媒性の高分子錯体である金属蛋白質と大きく異なっている。
【0015】
(3)医薬組成物としての「キレート剤」の欠点:
従来の「キレート剤」のうち、多く用いられているDTPAは、使用例が多いことに特徴がある。しかしカルボン酸と三級アミンのからなる親水性の低分子配位子であることから、(a) 金属蛋白質に見られるような、金属原子の種類や酸化状態に合わせた配位子ではないこと、(b) より安定な他の金属イオンとの交換反応、(c) DTPA無水物を用いた高分子プローブとの結合生成、の3点が問題点として挙げられる。(a)は(b)は金属イオンが「キレート剤」から解離して特定の組織に集積することが問題となりうる(DTPAではないが64Cuと大環状キレート配位子の研究例で、非特許文献20)。(c)はモノクローナル抗体-キレート剤の結合を生成する際に用いるDTPA無水物の反応性が低いこと、pHを8.5~9.0とアルカリ条件で長時間反応させなくてはならないことが欠点として挙げられる。
【0016】
また、比較的新しい「キレート剤」である、大環状キレート配位子(例えばDOTA)は錯体の高い安定性に特徴がある。しかし、(a)金属イオンを導入する際に4℃~常温では全く錯形成が起きないか、非常に時間がかかること、(b)短時間ではあるが50~80℃の熱をかける必要があること、の2点が問題点として挙げられる(例えば、非特許文献21)。これは異常組織の検出や破壊に用いる、モノクローナル抗体-キレート剤-複合体へ金属イオンを導入する際に、高温によって蛋白質構造が変性し、抗体価を低下させることが懸念されるためである。
【0017】
これらの「キレート剤」の問題点を解決するために、DOTAを改良した大環状キレート配位子が研究されている(例えば、非特許文献22)。しかし基本骨格や配位原子は同様であり、多座配位子によるキレート効果のみを用いて金属原子を安定化させている点では、従来の「キレート剤」を大きく改善することは期待できないと考えられる。
【0018】
(3)高分子錯体としての金属蛋白質の長所:
金属蛋白質は、金属原子を持たないポリペプチド鎖(アポ蛋白)に金属原子を導入する、再構成反応に於いて高温処理の必要がない。またこの再構成反応に於いては、常温でも極めて短時間のうちに、極めて安定に金属原子が導入される(ホロ蛋白の生成)場合が多い。このように高分子錯体の観点から見て、金属蛋白質は極めて魅力的な特徴を備えている。しかしこれらの性質を、生体高分子材料や医薬組成物として利用した例はなかった。
【0019】
(4)高分子錯体としての金属蛋白質の長所:
両親媒性の高分子化合物を水中に分散させると、複数の高分子鎖が会合して、疎水性の内核と親水性の外殻を持つ、ミセル構造を形成する。一般に高分子ミセルは石鹸に代表される低分子ミセルの1/1,000-1/10,000ときわめて低い臨界ミセル濃度を持つ。また高分子ミセルの粒径は10-100 nmの範囲内にあり、ガン組織や炎症組織の血管壁から漏出しやすい(EPR効果; 例えば、非特許文献23)。その結果ミセル内に内包させた有効な医薬をこれらの異常組織に蓄積し、異常組織へ長期にわたって薬物を暴露させることができることが知られている。
【0020】
高分子ミセルを形成する両親媒性高分子としては、例えば、ポリ乳酸-block-ポリエチレングリコールのブロック共重合体(例えば、非特許文献24)、ポリ(γベンジルグルタミン酸)-block-ポリエチレングリコール(例えば、特許文献13)、ポリ(βベンジルアスパラギン酸)-block-ポリエチレングリコール(例えば、特許文献14;非特許文献25)がよく知られている。さらに疎水性の内核に抗ガン剤を担持または内包させて(特許文献15,16)、ガン組織への組織選択性と抗ガン活性を示すことも知られている(例えば、非特許文献26;特許文献17,18)。これらの両親媒性高分子化合物の欠点は、疎水性配列を高分子重合反応(ポリ乳酸はラクチドの開環重合、ポリ(βベンジルアスパラギン酸)はNCA重合法)で行っているために、機能性の付与はランダムな化学修飾によって行われる点にある。そのために、金属原子の保持機構を任意の分子構造で精密に設計することは不可能であった。

【特許文献1】特公平6-47560号
【特許文献2】特公平6-51720号
【特許文献3】特公平6-76440号
【特許文献4】特公平7-62032号
【特許文献5】特開平8-325297号
【特許文献6】米国特許5750660号
【特許文献7】米国特許5739294号
【特許文献8】米国特許5316757号
【特許文献9】米国特許5362476号
【特許文献10】米国特許5342606号
【特許文献11】米国特許5428139号
【特許文献12】米国特許5316757号
【特許文献13】特開平5-955号
【特許文献14】特開平6-206832号
【特許文献15】特開平11-335267号
【特許文献16】特開平6-107565号
【特許文献17】特開平6-206815号
【特許文献18】特開平5-117385号
【非特許文献1】Harry B. Gray, Proceedings of National Academy of Science of the United States of America, 2003年, vol. 100, pp. 3563-3568.
【非特許文献2】Fujio Egami, Journal of Biochemistry, 1975年, vol. 77, pp. 1165-1169.
【非特許文献3】Ashida Tamaichi ら, Journal of Biochemistry, 1973年, vol. 73, pp. 463-465.
【非特許文献4】Amy C. Rosenzweigら, Nature, 1993年, vol. 366, pp. 537-543.
【非特許文献5】Anne Volbedaら, Nature, 1995年, vol. 373, pp. 580-587
【非特許文献6】Thomas P. Garrettら, Journal of Biological Chemistry, 1984年, vol. 259, pp. 2822-2825.
【非特許文献7】Nobutoshi Itoら, Nature, 1991年, vol. 350, pp. 87-90.
【非特許文献8】Wil P. Gaykemaら, Journal of Molecular Biology, 1986年, vol. 187, pp. 255-275.
【非特許文献9】Albrecht Messerschmidtら, Journal of Molecular Biology, 1989年, vol. 206, pp. 513-529.
【非特許文献10】Jean LeGallら, Science, 1991年, vol. 253, pp. 438-442.
【非特許文献11】D. C. Reesら, Journal of Molecular Biology, 1982年, vol. 160, pp. 475-498.
【非特許文献12】Proceedings of National Academy of Science of the United States of America, 1975年、vol. 72, pp. 51-55.
【非特許文献13】J. P. Samamaら、 European Jounal of J Biochemistry, 1977年, vol. 81, pp. 403-409.
【非特許文献14】N. P. Pavletichら, Science, vol. 252, pp. 809-817.
【非特許文献15】E. Jabriら, Science, 1995年, vol. 268, pp. 998-1004.
【非特許文献16】Georgiadisら, Science, 1992年, vol. 257, pp. 1653-1659.
【非特許文献17】Inorganic Chemistry: Principles of Structure and Reactivity, Fourth Edition; J. E. Huheey, E. A. Keiter, R. L. Keiter Eds.; Harper Collins College Publishers: New York, 1993年; pp. 522-531.
【非特許文献18】Hiroyuki Oku, Doctral Thesis, Osaka University, 1995, pp. 1-4.
【非特許文献19】Yasushi Aranoら, Journal of Medicinal Chemistry, 1996年, vol. 39, pp. 3451-3460.
【非特許文献20】Laura A. Bassら, Bioconjugate Chemistry, 2000年, vol. 11, pp 527-532.
【非特許文献21】J. B. Stimmelら, Bioconjugate Chemistry, 1995年, vol. 6, pp. 219-225.
【非特許文献22】David A. Keireら, Inorganic Chemistry, 2001年, vol. 40, pp. 4310-4318.
【非特許文献23】Maeda Hiroshiら, Journal of Controlled Release, 2000年, vol. 65, pp. 271-284.
【非特許文献24】Yukio Nagasakiら, Macromolecules, 1998年, vol. 31, pp. 1473-1479
【非特許文献25】Kwon G. S.ら, Pharmaceutical Research, 1995年, vol. 12, pp. 192-195.
【非特許文献26】Yokoyama M.ら, Journal of Drug Targeting, 1999年, vol. 7, pp. 171-186
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
本発明の課題は、金属原子を穏和な条件でも、迅速に簡便かつ安定に配位させることができる、新規な生体材料としての高分子錯体、およびこれを利用した医薬組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明者らは、上記目的を達成するために金属蛋白質の構造上の特徴に着目した。即ち従来は注目されてこなかった特徴、(c)高分子配位子としての蛋白質の両親媒構造、に着目した。これに加えて、低分子配位子でも用いられている、2つの特徴、(a)金属原子と複素環構造(ピリジン環やイミダゾール環)の比較的強い配位結合と(b)ポリペプチド鎖によるキレート配位子、を用いた。これら3つの性質を組み合わせた配位子を有する、新規な高分子錯体の化学合成を計画した。
【0023】
これまでに、本発明者らは、金属原子の結合部位としてβ-(3-pyridyl)-L-alanine (Pal)残基を持ち、Helix誘起のために-Leu-Leu-Aib-の配列を導入したペプチドBoc-Leu-Leu-Aib-Pal-Leu-Leu-Aib-Pal-Leu-Leu-Aib-OEt (3) (Boc-配列番号11-OEt)の研究を行ってきた。この化合物は有機溶媒に対し優れた溶解性と、CH3CN中でCoCl2と1:1キレート錯体を形成する(例えば、Ryo Nakaiら, Peptide Science 2002, The Japanese Peptide Society, 2003年, pp. 313-316.)。
そこでペプチド3のC末端にpolyethylene glycol4000 (PEG4000)を結合した、キレート型両親媒性高分子配位子Boc-Leu-Leu-Aib-Pal-Leu-Leu-Aib-Pal-Leu-Leu-Aib-Phe-PEG4000 (キレート型、2) (Boc-配列番号12-PEG4000を合成した。
【0024】
ペプチド2の合成は液相法により行った。PEG4000上に上記配列を結合したペプチド2はN末端から順に、各フラグメントBoc-Leu-Leu-Aib-OH又はBoc-Pal-OHのカルボキシ末端をN-hydroxysuccinimide (HOSu)で活性化しHOSuエステルとして単離してから反応を行った。Boc-Pal-OSuは単離せずにそのまま反応に用いた。その結果PEG (4.0 g, 1.0 mmol)を出発物質として、キレート型両親媒性高分子配位子2 (0.74 g, 0.13 mmol) を得た。各反応ステップに於ける生成物を質量分析(MALDI-TOF-MS)で追跡した。その結果、フラグメント又はアミノ酸の伸長に対応した分子量変化が検出され、目的物の生成が確認された(図1)。
【0025】
得られた、キレート型両親媒性高分子配位子2は、水溶液中でミセルを形成した(図2、図3、臨界ミセル濃度)。この配位子は様々な金属イオンをその疎水部にて安定に配位して、高分子錯体を生成することがわかった(図4~図6、CoCl2との錯形成定数、K = [CoCl2-2]/[CoCl2][2] = 1.2 x 105 M-1)。続いて、放射性金属イオンとして111InCl3を用いた高分子錯体による、マウス体内での動態を調べた(表1,2)。その結果、腎臓にやや多く集積するものの、その他の組織では24時間以内に多くの高分子錯体が排出されることがわかった。
【0026】
腫瘍組織への集積を確かめるため、γ線(111InCl3を用いた高分子錯体、111In-2)および蛍光(カルボキシフルオレッセインを用いた高分子配位子、CF-2)による、マウス体内での動態を調べた(図9、表3)。その結果、腫瘍組織をγ線と蛍光画像による方法で検出することに成功した。
このように種々の両親媒性高分子配位子および錯体について、合成から体内動態まで鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。
【0027】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
(1)疎水性配位子と親水性ポリマーからなる両親媒性のブロック共重合体と1種以上の
金属原子からなる高分子錯体。
(2)両親媒性のブロック共重合体が、下記一般式 (I)、(II)又は(II') で表される、(1)の高分子錯体。
親水性ポリマー-block-疎水性配位子 (I)
疎水性配位子-block-親水性ポリマー (II)
疎水性配位子-block-親水性ポリマー-block-疎水性配位子(II')
(3)疎水性配位子が、側鎖に金属原子に配位可能な複素環を有するアミノ酸を含むヘリックス構造のデプシペプチドまたはペプチドである、(1)または(2)の高分子錯体。(4)側鎖に金属原子に配位可能な複素環を有するアミノ酸を含むヘリックス構造を有するデプシペプチドまたはペプチドが、側鎖に金属原子に配位可能な複素環を有するアミノ酸と、ロイシン、フェニルアラニン、γ-保護グルタミン酸、ε-保護リジン、メチオニン、ヒドロキシカルボン酸および下記一般式(III)で表されるα-メチルアミノ酸から選択される1種類以上によって構成される、(3)の高分子錯体。
【化1】
JP0005263805B2_000002t.gif
(5)側鎖に金属原子に配位可能な複素環を有するアミノ酸を含むヘリックス構造を有するデプシペプチドまたはペプチドが下記一般式(A)、(B)または(C)で表される、請求項3または4に記載の高分子錯体。
R1-Xaa-R4 (A)
R1-Xaa-R2-Yaa-R4 (B)
R1-Xaa-R2-Yaa-R3-Zaa-R4 (C)
(式中、XaaおよびYaaおよびZaaは側鎖に金属原子に配位可能な複素環を有するアミノ酸を表し、R1はXaaに結合した、アミノ酸、ペプチド、ヒドロキシカルボン酸、もしくはデプシペプチド、または水素原子もしくはアミノ基の保護基を表し、R2およびR3はXaaおよびYaaに結合したアミノ酸、ペプチド、ヒドロキシカルボン酸もしくはデプシペプチドを表し、R4はXaaまたはYaaまたはZaaに結合した、アミノ酸、ペプチド、ヒドロキシカルボン酸もしくはデプシペプチド、またはXaaまたはYaaまたはZaaが直接親水性ポリマーに結合した単結合を表す。)
(6)側鎖に金属原子に配位可能な複素環を有するアミノ酸が、下記一般式(IV)~(VIII)の何れかのアミノ酸である、(3)~(5)の何れかの高分子錯体。
【化2】
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(Pal はβ-(3-pyridyl)-L-alanine残基を表し; His は L-histidine残基を表し; X1とX2はアルキル基、シリル基、アミド基、ウレタン基、エーテル基、もしくはエステル基を表す。)
(7)一般式(A)が下記一般式(a)であり、一般式(B)が下記一般式(b)であり、一般式(C)が下記一般式(c)である、(5)の高分子錯体。
Y1-Leu-Leu-Aib-Xaa-Leu-Leu-Aib-Phe-(a)(配列番号1)
Y1-Leu-Leu-Aib-Xaa-Leu-Leu-Aib-Yaa-Leu-Leu-Aib-Phe-(b)(配列番号2)
Y1-Leu-Leu-Aib-Xaa-Leu-Leu-Aib-Yaa-Leu-Leu-Aib-Zaa-Leu-Leu-Aib-Phe-(c)(配列番号3)
(Aib は aminoisobutylic acid 残基を表し、Y1はアミノ酸、ペプチド、ヒドロキシカルボン酸、もしくはデプシペプチドまたはアミノ基の保護基を表す。)
(8)親水性ポリマーがポリアルキレングリコールである、(1)~(7)の何れかの高分子錯体。
(9)金属原子がアルカリ土類金属、遷移金属、後遷移金属、ランタニド、アクチニドから選択される、(1)~(8)の何れかの高分子錯体。
(10)金属原子が放射性核種、または常磁性イオン、蛍光性イオン、もしくはこれらの金属クラスターを形成する金属原子である、(9)の高分子錯体。
(11)金属原子が、7Be、47Ca、46Sc、47Sc、48V、51Cr、52Mn、54Mn、52Fe、59Fe、55Co、56Co、57Co、58Co、63Ni、60Cu、61Cu、62Cu、64Cu、67Cu、62Zn、65Zn、66Ga、67Ga、68Ga、89Sr、86Y、87Y、88Y、90Y、88Zr、89Zr、95Zr、95mTc、96Tc、99mTc、99Mo、97Ru、103Ru、99Rh、101mRh、105Rh、186Rh、105Cd、107Cd、107mAg、111Ag、111In、114mIn、117mSn、131Ba、139Ce、141Ce、145Eu、147Eu、146Gd、149Gd、149Pm、153Tb、155Tb、166Ho、167Tm、169Yb、171Lu、172Lu、177Lu、177mLu、175Hf、178W、183Re、185Re、186Re、187Re、188Re、191Pt、190Ir、192Ir、188Pt、191Pt、193mPt、195mPt、192Ir、198Au、199Au、201Tl、203Hgからなる群より選ばれる1種または複数の放射性核種である、(1)~(9)の何れかの高分子錯体。
(12)金属原子が低分子金属錯体を形成した金属原子である、(1)~(9)の何れかの高分子錯体。
(13)低分子金属錯体が、ポルフィリン配位子、クロリン配位子、シッフ塩基配位子、チオラート配位子、チオエーテル配位子、イミダゾール配位子、フェノラート配位子からなる群より選ばれる1種または複数の配位子を有する低分子錯体である、(12)の高分
子錯体。
(14)(1)~(13)の何れかの高分子錯体を含む医薬組成物。
(15)がんの治療または診断のための、(14)の医薬組成物。
【発明の効果】
【0028】
本発明の高分子錯体は、水系環境下に於いても金属原子を穏和な条件で簡便かつ安定に配位させることができるため、生体材料や医薬組成物として、より具体的には放射性薬剤、常磁性薬剤、蛍光性薬剤として、種々の異常組織の診断および治療に、特にある種の癌の診断および治療に有用である。

【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
本発明は、疎水性配位子と親水性ポリマーからなる両親媒性のブロック共重合体と1種以上の金属原子からなる高分子錯体を提供する。
両親媒性のブロック共重合体としては、例えば、下記一般式 (I)または(II)または(II')で表されるものが挙げられる。
親水性ポリマー-block-疎水性配位子 (I)
疎水性配位子-block-親水性ポリマー (II)
疎水性配位子-block-親水性ポリマー-block-疎水性配位子 (II')
【0030】
疎水性配位子としては、側鎖に金属原子に配位可能な複素環を有するアミノ酸を含むヘリックス構造の疎水性デプシペプチドまたは疎水性ペプチドが好ましい。ここで、複素環を有するアミノ酸としては、窒素原子を含む複素環を有するアミノ酸や硫黄原子を含む複素環を有するアミノ酸などが挙げられる。硫黄原子を含む複素環を有するアミノ酸としては、システインやその誘導体が挙げられる。
【0031】
窒素原子を含む複素環を有するアミノ酸としては、例えば、下記一般式(IV)~(VIII)のアミノ酸が挙げられる。
【化3】
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ここで、Pal はβ-(3-pyridyl)-L-alanine残基を表し; His は L-histidine残基を表し、X1とX2はアルキル基、シリル基、アミド基、ウレタン基、エーテル基、もしくはエステル基を表す。
【0032】
上記ヘリックス構造の疎水性ペプチドとしては、上記側鎖に金属原子に配位可能な複素環を有するアミノ酸とその他の疎水性アミノ酸からなるペプチドが挙げられる。
その他の疎水性アミノ酸としては、ロイシン、フェニルアラニン、γ(カルボキシル基)-保護グルタミン酸、ε(アミノ基)-保護リジン、メチオニン、下記一般式(III)で表されるα-メチルアミノ酸からなる群より選ばれる1種類以上が好ましい。なお、その他の疎水性アミノ酸として非天然のアミノ酸を用いる場合には、へリックスを安定にするためにβ位の炭素原子に分岐の無いアミノ酸を用いることが好ましい。
【化4】
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Aはアミノ酸側鎖を表し、疎水性の置換基が好ましい。
【0033】
一般式(III)で表されるα-メチルアミノ酸としては、2-aminoisobutylic acid(Aib)、α-methylphenylalanine、α-methylvalineなどが例示できる。
実際に2-aminoisobutylic acidとα-methylvalineは、安定にヘリックスを生成するアミノ酸残基として、多くのペプチドが合成されている。また、α-methylphenylalanineはフッ素原子を導入することで放射線医薬品として臨床応用がなされており、へリックスを安定化することが容易に予想される。
【0034】
その他のアミノ酸として、側鎖に疎水性保護基が導入されたアミノ酸を使用することもできる。そのような保護基を有する例として、Arg(NG-nitro), Arg(NG-(4-methoxy-2,3,6-trimethylbenzenesulfonyl)), Arg(NG,NG-bis-benzyloxycarbonyl), Arg(NG-tosyl), Lys(N-ε-acetyl), Lys(N-ε-tert-butoxucarbonyl), Trp(N-in-tert-butoxycarbonyl), Trp(N-in-formyl), Ser(O-benzyl), Ser(O-tert-butyl), Ser(O-methyl), Ser(O-ethyl), Gln(γ-4.4'-dimethoxybenzhydryl), Gln(γ-trityl), Gln(γ-xanthyl), Glu(γ-trityl), Glu(γ-tert-butyl ester), Glu(γ-benzyl ester), Glu(γ-cyclohexyl ester), Cys(S-acetamidomethyl), Cys(S-p-methoxybenzyl), Cys(S-p-methylbenzyl), Cys(S-trityl), Tyr(O-methyl), Tyr(O-ethyl), Tyr(O-benzyl), Tyr(O-2,6-dichlorobenzyl), Tyr(O-tert-butyl), Tyr(O-2-bromobenzyl), Asp(β-cyclohexyl ester), Asp(β-benzyl ester), Thr(O-benzyl), Thr(O-tert-butyl), Thr(O-methyl), Thr(O-ethyl), Asn(γ-trityl), Asn(γ-xanthyl), Asn(β-tert-butyl ester), His(N-im-benzyloxymethyl)、His(N-im
-dinitrophenyl), His(N-im-tosyl), His(N-im-triyl), His(N-im-tert-butoxycarbonyl), His(N-im-methyl), His(N-im-ethyl) を使用することもできる。
【0035】
一方、上記ヘリックス構造の疎水性デプシペプチドとしては、上記側鎖に金属原子に配位可能な複素環を有するアミノ酸と、ヒドロキシカルボン酸、およびその他のアミノ酸からなるデプシペプチドが挙げられる。
ここで、ヒドロキシカルボン酸としては、乳酸、ロイシン酸、リンゴ酸などが使用できる。
【0036】
なお、へリックス配列は、T. E. Creighton, PROTEINS-Structures and Properties- Second Edition, W. H. Freeman and Company, 1993年, pp. 256の表を参考にして設計することができ、疎水性配列は、同じ本のpp. 154の表を参考にできる。
側鎖に金属原子に配位可能な複素環を有するアミノ酸を含むヘリックス構造の疎水性デプシペプチドまたは疎水性ペプチドの長さは好ましくは5~20である。
【0037】
側鎖に金属原子に配位可能な複素環を有するアミノ酸を含むヘリックス構造を有するデプシペプチドまたはペプチドとしては、下記一般式(A)、(B)または(C)で表される配列を有するものが挙げられる。
R1-Xaa-R4 (A)
R1-Xaa-R2-Yaa-R4 (B)
R1-Xaa-R2-Yaa-R3-Zaa-R4 (C)
これらの式中、XaaおよびYaaおよびZaaは、上述したような側鎖に金属原子に配位可能な複素環を有するアミノ酸を表す。
R1は、Xaaに結合した、アミノ酸、ペプチド、ヒドロキシカルボン酸、もしくはデプシペプチド、または水素原子もしくはアミノ基の保護基(アセチル基、アルコキシカルボニル基など)を表す。
R2とR3は、XaaとYaaとZaaに結合したアミノ酸もしくはペプチド、またはヒドロキシカルボン酸もしくはデプシペプチドを表す。R2とR3がペプチドまたはデプシペプチドの場合、3残基または2残基のアミノ酸(合計3残基または2残基のアミノ酸とヒドロキシカルボン酸)からなるペプチド(デプシペプチド)であることが好ましい。
R4は、XaaまたはYaaまたはZaaに結合した、アミノ酸、ペプチド、ヒドロキシカルボン酸もしくはデプシペプチドを表し、両親媒性ブロック共重合体においてはR4のカルボキシ末端を介して親水性ポリマーが結合する。一方、R4は単結合(親水性ポリマーに直接Xaa(式IV)またはYaa(式V)またはZaa(式VI)が結合する状態)であってもよい。
【0038】
一般式(A)、(B)、(C)の配列として具体的には、それぞれ、下記一般式(a)、(b)、(c)の配列が例示される。
Y1-Leu-Leu-Aib-Xaa-Leu-Leu-Aib-Phe-(a)(配列番号1)
Y1-Leu-Leu-Aib-Xaa-Leu-Leu-Aib-Yaa-Leu-Leu-Aib-Phe-(b)(配列番号2)
Y1-Leu-Leu-Aib-Xaa-Leu-Leu-Aib-Yaa-Leu-Leu-Aib-Zaa-Leu-Leu-Aib-Phe-(c)(配列番号3)
ここで、Aib は aminoisobutylic acid 残基を表し、Y1はLeuのアミノ基に結合したアミノ酸、ペプチド、ヒドロキシカルボン酸、もしくはデプシペプチドまたはアミノ基保護基を表す。
【0039】
下記のような配列も例示できる。
(d) Boc-Leu-Leu-Aib-His-Leu-Leu-Aib-Phe-(Boc-配列番号4)
(e) Boc-Leu-Leu-Aib-His-Leu-Leu-Aib-His-Leu-Leu-Aib-Phe-(Boc-配列番号5)
(f) Boc-Leu-Leu-Aib-His-Leu-Leu-Aib-His-Leu-Leu-Aib-His-Leu-Leu-Aib-Phe-(Boc-配列番号6)
(g) Boc-Leu-Leu-Ala-His-Phe-Leu-Phe-Lac-Leu-Phe-(Boc-配列番号7)
(Lac = lactic acid residue)
(h) Boc-Phe-Leu-Phe-Lac-His-Leu-Leu-Ala-His-Phe-Leu-Phe-Lac-Leu-Phe-(Boc-配列番号8)
(i) Boc-Leu-Leu-Aib-Cys-Leu-Leu-Aib-His-Leu-Leu-Aib-Phe-(Boc-配列番号9)
(j) Boc-Leu-Leu-Aib-His-Leu-Leu-Aib-Cys-Leu-Leu-Aib-Phe-(Boc-配列番号10)

なお、これらの配列において、HisはHis(N-im-benzyloxymethyl)、CysはCys(S-acetamidomethyl)やCys(S-methyl)などの保護基がある形でも良い。
【0040】
上記のようなペプチドまたはデプシペプチドを構成するアミノ酸はL-体でもD-体でもよいが、へリックスはいずれか一方の立体配座のアミノ酸のみから形成されることが好ましい。へリックスがL-体アミノ酸およびL-体アミノ酸に対応するα-メチルアミノ酸で構成される場合、右巻きへリックスが形成され、へリックスがD-体アミノ酸およびD-体アミノ酸に対応するα-メチルアミノ酸で構成される場合、左巻きへリックスが形成される。
上記のような配列は通常のペプチド合成法に従って合成することができる。
なお、疎水性配位子は蛍光物質で標識されていてもよい。蛍光物質としては、ローダミン、フルオレセインなどが挙げられ、疎水性配位子のアミノ末端のアミノ基などに導入することができる。
【0041】
上記のような疎水性配位子とブロック共重合体を形成させる、親水性ポリマーとしてはポリアルキレングリコールが好ましい。ポリアルキレングリコールとしては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコールなどが挙げられるが、ポリエチレングリコールが好ましい。
親水性ポリマーの分子量としては、100~20000が好ましく、500~10000がより好ましい。
【0042】
疎水性配位子と親水性ポリマーを結合させる方法は特に制限されないが、例えば、親水性ポリマーの末端をNHS(N-ヒドロキシスクシンイミド)、マレイミド、メトキシなどで修飾し、これを疎水性配位子のカルボキシ末端のカルボキシル基と反応させる方法が挙げられる。末端が修飾されたポリエチレングリコールとしては、モノメトキシPEGやマルチアームPEGなどが利用できる。
【0043】
疎水性配位子に配位させる金属原子としては、アルカリ土類金属、遷移金属、後遷移金属、ランタニド、アクチニドなどが挙げられる。これらの金属元素の分類はJames H. Huheey, Inorganic Chemistry 4th Ed.に記載されている。
【0044】
金属原子としては、放射性核種、または常磁性イオン、蛍光性イオン、もしくはこれらの金属クラスターを形成する金属原子であってもよい。常磁性イオンとしては不対電子を有する金属イオンが挙げられる。蛍光性イオンとして好ましくは希土類元素のイオンおよびその金属錯体が挙げられる。
【0045】
放射線核種としては、7Be、47Ca、46Sc、47Sc、48V、51Cr、52Mn、54Mn、52Fe、59Fe、55Co、56Co、57Co、58Co、63Ni、60Cu、61Cu、62Cu、64Cu、67Cu、62Zn、65Zn、66Ga、67Ga、68Ga、89Sr、86Y、87Y、88Y、90Y、88Zr、89Zr、95Zr、95mTc、96Tc、99mTc、99Mo、97Ru、103Ru、99Rh、101mRh、105Rh、186Rh、105Cd、107Cd、107mAg、111Ag、111In、114mIn、117mSn、131Ba、139Ce、141Ce、145Eu、147Eu、146Gd、149Gd、149Pm、153Tb、155Tb、166Ho、167Tm、169Yb、171Lu、172Lu、177Lu、177mLu、175Hf、178W、183Re、185Re、186Re、187Re、188Re、191Pt、190Ir、192Ir、188Pt、191Pt、193mPt、195mPt、192Ir、198Au、199Au、201Tl、203Hgなどが挙げられる。
【0046】
また、金属原子はすでに低分子金属錯体を形成しているものでもよい。例えば、ポルフ
ィリン配位子、クロリン配位子、シッフ塩基配位子、チオラート配位子、チオエーテル配位子、イミダゾール配位子、フェノラート配位子などの配位子とともに金属錯体を形成している金属原子が挙げられる。
【0047】
両親媒性のブロック共重合体と金属原子との高分子錯体を形成させる方法としては、共重合体と金属原子を水溶液中で混合する方法や、アセトニトリルなどの有機溶媒中で混合する方法が挙げられる。
なお、有機溶媒を使用する場合は、高分子錯体を形成させた後に乾燥するなどして有機溶媒を除去することが好ましい。
【0048】
本発明は、上記の高分子錯体を含む組成物を提供する。組成物には、上記高分子錯体のほかに、緩衝剤、凍結乾燥補助剤、安定化補助剤、可溶化補助剤、抗菌剤など製剤過程で許容される成分が含まれてもよい。
緩衝剤としては、例えば、リン酸塩、クエン酸塩、スルホサリチル酸塩、および酢酸塩などが挙げられる。
凍結乾燥補助剤としては、マンニトール、ラクトース、ソルビトール、デキストラン、フィコール(Ficoll)、およびポリビニルピロリジン(PVP)などが挙げられる。
安定化補助剤としては、アスコルビン酸、システイン、モノチオグリセロール、亜硫酸水素ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、ゲンチシン酸、イノシトールなどが挙げられる。
可溶化補助剤としては、エタノール、グリセリン、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレアート、ソルビタンモノオレアート、ポリソルベート類、ポリ(オキシエチレン)ポリ(オキシプロピレン)ポリ(オキシエチレン)ブロックコポリマー(Pluronics)およびレシチンなどが挙げられる。
抗菌剤としては、ベンジルアルコール、塩化ベンザルコニウム、クロルブタノール、メチルパラベン、プロピルパラベン、ブチルパラベンなどが挙げられる。
【0049】
なお、高分子錯体を含む組成物においては、全ての両親媒性の配位子に金属原子が配位している必要はなく、金属原子が配位していない配位子が共存していてもよい。
【0050】
本発明の組成物は医薬組成物として使用することができる。
例えば、配位金属原子として上記のような放射性核種を用いる場合、がんの治療または診断に使用することができる。すなわち、ミセルを形成した本発明の高分子錯体が生体内のガン組織で漏出し、放射性核種から放射される放射線によって「検出」と「破壊」を行うことができる。腫瘍組織の検出はSPECTカメラ(γ線)やPETカメラ(陽電子)によって行うことができる。
【0051】
一方、薬理活性を有する化合物をミセルに内包させて医薬組成物とすることもできる。特に、本発明の高分子錯体はがん組織に集積しやすいため、ミセル内に抗癌剤を包含させることにより、薬物がガン組織に蓄積し、ガン組織へ長期にわたって薬物を暴露させることも可能である。抗癌剤としては、例えば、アドレアマイシン、ドキソルビシンなどが挙げられる。
また、高分子錯体を蛍光標識して使用することにより、腫瘍組織を明瞭に蛍光検出することもできる。
このような医薬組成物は、発明者らの関連研究および公知の方法を参考にすることにより開発することが可能である。(例えば、Tomohiro Sudaら, Peptide Science 2005, The
Japanese Peptide Society, 2006年, pp. 495-498; Aya Inoueら, Peptide Science 2006, The Japanese Peptide Society, 2006年, pp. 54-55; 片岡一則ら, 最新医学, 最新医学社, 2006年, vol 61, pp. 1092-1101; 前田浩, 最新医学, 最新医学社, 2006年, vol 6
1, pp. 1138-1148.)

【実施例】
【0052】
以下本発明の実施態様である、両親媒性配位子である、Boc-Leu-Leu-Aib-Pal-Leu-Leu-Aib-Phe-PEG4000 (1) (Boc-配列番号13-PEG4000とBoc-Leu-Leu-Aib-Pal-Leu-Leu-Aib-Pal-Leu-Leu-Aib-Phe-PEG4000 (2) (Boc-配列番号12-PEG4000の合成方法をそれぞれ実施例1、2に示す。これらの質量分析データを実施例3に示す。またこれらを配位子として用いた高分子錯体の合成方法について、詳細をそれぞれ実施例4、5に示す。また得られた高分子錯体を生理食塩水溶液として、マウスに投与した場合の体内動態を実施例6に、担癌マウスに投与した場合の体内動態を実施例7に示す。また化学合成に於いて共通した操作は合成手順1~4として示した。しかし以下の具体例は本発明を限定するものではなく、例えば保護基や縮合剤を他の慣用のものと置換することなど、適宜変更できることは勿論である。
【0053】
また例えば、その他のペプチド配列やデプシペプチド配列を用いる両親媒性配位子の合成に於いては、他のアミノ酸やヒドロキシカルボン酸を使用することで同様にまたは公知の方法で実施することが可能である(例えば、Hiroyuki Okuら, Journal of Organometallic Chemistry, 2007年, vol. 692, pp. 79-87.)。
【0054】
なお、以下の実施例では次のような略号を使用した。
【0055】
(アミノ酸誘導体)
Boc-Leu-OH = N-α-t-ブトキシカルボニル-L-ロイシン
Boc-Phe-OH = N-α-t-ブトキシカルボニル-L-フェニルアラニン
Boc-Pal-OH = N-α-t-ブトキシカルボニル-β-(3-ピリジル)-L-アラニン
HCl・H-Aib-OEt = 2-アミノイソ酪酸 エチルエステル 塩酸塩
【0056】
(アミノ酸の主鎖保護基)
Boc = tert-ブトキシカルボニル(t-Bu-O-CO-)
OEt = エチルエステル(-O-CH2-CH3
【0057】
(アミノ酸の主鎖保護基)
OSu = スクシンイミドエステル
【0058】
(親水性高分子)
PEG4000 = ポリエチレングリコール4000(分子量4000)
【0059】
(ペプチド合成用試薬、その関連化合物)
DCC = N,N'-ジクロロへキシルカルボジイミド
DCUrea = ジシクロへキシルウレア
HOSu = N-ヒドロキシスクシンイミド
HOBt = 1-ヒドロキシベンゾトリアゾール
TFA = トリフルオロ酢酸
(Boc)2O = ジ-t-ブチルカルボネート
NMM = N-メチルモルホリン
EDC.HCl = 1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)-カルボジイミド塩酸塩
DMAP = N,N'-ジメチルアミノピリジン
CFDA = カルボキシフルオレッセインジアセテート
CF = カルボキシフルオレッセイン
【0060】
(溶媒)
THF = テトラヒドロフラン
CHCl3 = クロロホルム
CDCl3 = 重水素化クロロホルム
AcOEt = 酢酸エチル
DMSO-d6 = 重水素化ジメチルスルホキシド
MeOH = メタノール
【0061】
[合成手順1:Boc-L-アミノ酸の合成]
L-アミノ酸または側鎖を保護したL-アミノ酸(1.0 mol)を4M NaOH (250 mL, 1.0 mol)に溶かし、氷-MeOHで徐々に冷却しながら最小量のジオキサンに溶かした(Boc)2O (240.0 g, 1.1 mol)を30分かけて徐々に加えた。氷浴で1時間、室温で1時間半攪拌した。析出したNaHCO3をろ別した後、pH3.0にしてAcOEtで抽出する。抽出溶液は10%クエン酸水溶液で洗浄の後、Na2SO4で乾燥させた。乾燥剤をろ別後、ろ液は減圧濃縮し、残渣にヘキサンを加えて結晶化させた。その後、AcOEt-ヘキサンで再結晶を行い、Boc-L-アミノ酸を得た。
【0062】
[合成手順2:アミノ基末端の脱保護反応、脱Boc化合物の合成]
アミノ基をN-α-t-ブトキシカルボニル保護したペプチド化合物を300 mLナスフラスコに入れドラフト内でTFA(または4M HClのジオキサン溶液)を加え溶解させた。直ちに塩化カルシウム管で蓋をし、水分の混入を防いだ。TLCにより反応の終了を確認後、濃縮しTFA臭(または塩酸臭)がなくなるまで繰り返し蒸留Et2Oを加えて濃縮すると最終的にTFA塩(または塩酸塩)の白色粉末を得る。収率は、ほぼ定量的である。
【0063】
[合成手順3:縮合剤を用いた縮合反応]
アミノ基をN-α-t-ブトキシカルボニルで保護し、カルボキシル末端を脱保護したペプチド化合物 (2.1 mmol) を300 mL 三角フラスコに入れ蒸留CHCl3に溶かし、HOBt (0.28 g, 2.1 mmol)と縮合剤のEDC・HCl (0.40 g, 2.1 mmol)(またはDCC (0.43 g, 2.1 mmol))を加え攪拌した。次に300 mlのナスフラスコにアミノ基を上記合成手順2で脱保護しTFA塩のペプチド化合物 (0.7 mmol) を入れNMMでTFA塩を中和する。ほぼ等モル(0.075 mL, 0.70 mmol)で中和を確認できるが、結晶性が悪い塩の場合やや多くなることがある。二つの溶液を混合攪拌しながら、直ちに氷冷し反応を開始する。そのままゆっくり室温に戻して一晩攪拌する。この混合物をエバポレーターにより濃縮しAcOEtに溶かしてから、(DCCを使用した場合はAcOEtに不溶のDCUreaを除く)10%クエン酸水溶液、蒸留水、飽和NaHCO3水溶液、蒸留水、飽和食塩水の順に洗浄を行いNa2SO4で乾燥し濃縮してオイル状または無色粉末の縮合生成物を得る。これを、シリカゲルクロマトグラフィー(蒸留CH3Cl-ヘキサンまたはAcOEt-ベンゼン)またはゲルろ過クロマトグラフィー(ファルマシア製LH20、DMFまたはMeOH)により精製する。無色粉末の場合はAcOEt-蒸留Et2Oや蒸留CH3Cl-ヘキサンの溶媒系を用いて再結晶により精製しても良い。収率はおおよそ70-90%の範囲で得ることができる。
【0064】
[合成手順4:活性エステルを用いた縮合反応]
アミノ基をN-α-t-ブトキシカルボニル(Boc-)で保護し、カルボキシル末端を活性エステル化(-OSu)したペプチド化合物 (3.0 mmol)を300 mL 三角フラスコに入れ、蒸留THF中で攪拌する。次に300 mlのナスフラスコに、アミノ基を上記合成手順2で脱保護したTFA塩(またはHCl塩)のペプチド化合物 (1.0 mmol) を入れNMMでTFA塩(またはHCl塩)を中和する。ほぼ等モル (0.1 mL, 1.0 mmol) のNMMで中和を確認できるが、結晶性が悪い塩の場合やや多くなることがある。二つの溶液を混合撹拌しながら、常温で反応を開始する。およそ2日~3日の間撹拌を続ける。この混合物を合成手順3と同様に処理して、生成物を得ることができる。収率はおおよそ70-90%の範囲で得ることができる。
【0065】
[実施例1]
(1)Boc-Leu-Leu-Aib-Pal-Leu-Leu-Aib-Phe-PEG4000 (1) (Boc-配列番号13-PEG4000の合成
(1a:Boc-Phe-OSuの合成)
Boc-Phe-OH (6.3 g, 25 mmol) とHOSu (3.5 g, 30 mmol) をDCC (6.2 g, 30 mmol) を用いて、合成手順3と同様に縮合反応を行った。ただしHOSuはアミノ基ではなく-OH基が脱水縮合するため、NMMによる中和反応を必要としない。反応後、無色のBoc-Phe-OSuを得た。収量8.7 g (収率 96%). 1H-NMR (CDCl3, 300 MHz): 7.63 (d, 1H, Boc-Phe NH); 7.24 (5H, Phe, C6H5-); 4.54 (1H, Phe αCH2); 3.14, 2.91 (2H, Phe βCH2); 2.81 (s, 4H, -OSu); 1.40 (s, 9H, Boc t-Bu).
【0066】
(1b:Boc-Phe-PEG4000の合成)
Boc-Phe-OSu (4.4 g, 12 mmol) とPEG4000 (16 g, 4.0 mmol) をTHF中、 DMAP (0.050 g, 0.40 mmol) の存在下、合成手順3の方法で縮合反応を行った。反応は2日間かけて行った。1H-NMRによりPEG4000へのBoc-Pheの導入量を確認した。PEG40001分子に対して2等量の導入が可能である。導入量が不足する場合は再び、Boc-Phe-OSuとDMAPを加えて反応を行った。収量, 15.3 g (収率 84%). 1H-NMR (DMSO-d6, 300 MHz): 7.23 (10H, Phe C6H5-); 4.12 (2H, Phe αCH); 3.4-3.6 (360H, PEG4000 -CH2-); 2.85, 2.98 (4H, Phe βCH2); 1.31 (s, 18H, Boc t-Bu).
【0067】
(1c:Boc-Leu-Aib-OEtの合成)
Boc-Leu-OH.H2O (44.9 g, 180 mmol)、HCl.H-Aib-OEt(25.1 g, 150 mmol)、NMM (16.5 mL, 150 mmol)、DCC (37.1 g, 180 mmol) を用いて、合成手順3の方法で縮合反応を行い、無色生成物を得た。収量, 27.2 g (収率 52%). 1H-NMR (CDCl3, 300 MHz): 6.74 (s, 1H, Aib NH); 4.92 (d, 1H, Leu NH); 4.18 (t, 2H, OEt -CH2-); 4.15 (1H, Leu αCH); 1.71 (1H, Leu γCH; 2H, Leu βCH2); 1.54 (s, 6H, Aib βCH3); 1.45 (9H, Boc t-Bu); 1.26 (q, 3H, OEt -CH3).0.93 (6H, Leu δCH3).
【0068】
(1d:Boc-Leu-Leu-Aib-OEtの合成)
Boc-Leu-OH.H2O (13.0 g, 52.2 mmol)、HCl.H-Leu-Aib-OEt (12.2 g, 43.5 mmol, 合成手順2の方法でBoc-Leu-Aib-OEtから合成)、NMM (4.8 mL, 44 mmol)、DCC (10.8 g, 52.2
mmol) を用いて、合成手順3の方法で縮合反応を行い、無色生成物を得た。収量, 14.9 g (収率 75%). 1H-NMR (CDCl3, 300 MHz): 6.78 (s, 1H, Aib3 NH); 6.51 (d, 1H, Leu2 NH); 4.92 (d, 1H, Leu1 NH); 4.92 (d, 1H, Leu NH); 4.38 (1H, Leu2 αCH); 4.16 (t,
2H, OEt -CH2-); 4.08 (1H, Leu1 αCH); 1.70 (2H, Leu1,2 γCH; 4H, Leu1,2 βCH2)); 1.55 (s, 6H, Aib3 βCH3); 1.44 (s, 9H, Boc t-Bu); 1.24 (q, 3H, OEt -CH3).0.91
(6H, Leu δCH3).
【0069】
(1e:Boc-Leu-Leu-Aib-OHの合成)
Boc-Leu-Leu-Aib-OEt (14.8 g, 32.3 mmol) を500 mLナスフラスコに入れ、メタノールを加えて溶解させた。1M NaOHaq. (32.3 mL, 32.3 mmol) を加えて撹拌した。4時間で撹拌を止めて、減圧濃縮を行った。蒸留水を加えて4M塩酸で系を酸性にした後にEtOAcで抽出を行った。EtOAc溶液を、蒸留水と飽和食塩水で続けて洗浄した。Na2SO4で乾燥後に減圧濃縮し、ヘキサンを加えて結晶化させた。AcOEt-ヘキサンで再結晶を行い、無色生成物を得た。収量, 10.0 g (収率 72%). 1H-NMR (CDCl3, 300 MHz): 7.33 (d, 1H, Leu2 NH);
7.24 (s, 1H, Aib3 NH); 5.24 (d, 1H, Leu1 NH); 4.59 (1H, Leu2 αCH); 4.17 (1H, Leu1 αCH); 1.60 (2H, Leu1,2 γCH; 4H, Leu1,2 βCH2); 1.56 (s, 6H, Aib3 βCH3);
1.48 (s, 9H, Boc t-Bu); 0.92 (12H, Leu δCH3).
【0070】
(1f:Boc-Leu-Leu-Aib-OSuの合成)
Boc-Leu-Leu-Aib-OEt (14.8 g, 32.3 mmol) を500 mLナスフラスコに入れ、メタノールを加えて溶解させた。1M NaOHaq. (32.3 mL, 32.3 mmol) を加えて撹拌した。4時間で撹拌を止めて、減圧濃縮を行った。蒸留水を加えて4M塩酸で系を酸性にした後にEtOAcで抽出を行った。EtOAc溶液を、蒸留水と飽和食塩水で続けて洗浄した。Na2SO4で乾燥後に減圧濃縮し、ヘキサンを加えて結晶化させた。AcOEt-ヘキサンで再結晶を行い、無色生成物を得た。収量, 10.0 g (収率 72%). 1H-NMR (CDCl3, 500 MHz): 6.96 (s, 1H, Aib3 NH);
6.52 (d, 1H, Leu2 NH); 4.86 (d, 1H, Leu1 NH); 4.41 (1H, Leu2 αCH); 4.07 (1H, Leu1 αCH); 1.66 (2H, Leu1,2 γCH; 4H, Leu1,2 βCH2); 1.25 (s, 6H, Aib3 βCH3);
1.39 (s, 9H, Boc t-Bu); 0.92 (12H, Leu δCH3).
【0071】
(1g:Boc-Leu-Leu-Aib-Phe-PEG4000(Boc-配列番号14-PEG4000の合成)
Boc-Leu-Leu-Aib-OSu (1.1 g, 2.0 mmol)、HCl.H-Phe-PEG4000 (4.2 g, 1.0 mmol; 合成手順2の方法でBoc-Phe-PEG4000より生成し、HCl.H-Phe- のモル比はPEG4000 に対し、およそ1等量であることを1H-NMRより確認した)、NMM (0.29 mL, 0.66 mmol)を用いて、合成手順4の方法で縮合反応を行った。2日間かけて反応を進行させた。無色生成物を得た。Boc-Leu-Leu-Aib- の導入量はPEG4000 に対し、およそ1等量であると1H-NMRより明らかになった。収量, 3.2 g (収率 70%). Mp = 41-43 ℃. 1H-NMR (DMSO-d6, 500 MHz): 7.16-7.91 (4H, amide NH; 4H, Phe C6H5-); 6.88 (d, 1H, Leu1 NH); 3.7-4.5 (4H, αCH); 3.4-3.6 (360H, PEG4000 -CH2-); 1.2-1.3 (9H, Boc t-Bu); 0.92 (12H, Leu δCH3).
【0072】
(1h:Boc-Pal-OSuの合成)
Boc-Pal-OH (1.0 g, 3.8 mmol) とHOSu (0.51 g, 4.5 mmol) をDCC (0.93 g, 4.5 mmol) を用いて、合成手順3やBoc-Phe-OSuの合成と同様に縮合反応を行った。反応後、無色の生成物をそのまま次の反応に用いた。収量はほぼ定量的.
【0073】
(1i:Boc-Pal-Leu-Leu-Aib-Phe-PEG4000(Boc-配列番号15-PEG4000の合成)
Boc-Pal-OSu (0.36 g, 1.0 mmol)、HCl.H-Leu-Leu-Aib-Phe-PEG4000 (3.0 g, 0.66 mmol; 合成手順2の方法でBoc-Leu-Leu-Aib-Phe-PEG4000より合成)、NMM (0.070 mL, 0.66 mmol)を用いて、合成手順4の方法で縮合反応を行った。3日間かけて反応を進行させた。無色生成物を得た。Boc-Pal- の導入量はPEG4000 に対し、1H-NMRよりおよそ0.7等量と観測された。これは溶液中での凝集に伴う見かけ上の分子量の増大によるT2ブロードニングと考えられる。これ以降の化合物は同様に1H-NMRシグナルが広幅化している。従って積分比の記載はPEG4000 に対し1.0等量の時の数値を記載した。収量, 2.4 g (収率 78%). Mp = 44-46 ℃. 1H-NMR (DMSO-d6, 500 MHz): 7.17-8.42 (7H, amide NH; 5H, Phe C6H5-); 7.03 (1H, Leu NH); 3.6-4.6 (7H, αCH); 3.4-3.6 (360H, PEG4000 -CH2-); 1.2-1.3 (9H, Boc t-Bu); 0.81, 0.88 (12H, Leu δCH3).
【0074】
(1j:Boc-Leu-Leu-Aib-Pal-Leu-Leu-Aib-Phe-PEG4000 (Boc-配列番号13-PEG4000(1) の合成)
Boc-Leu-Leu-Aib-OSu (0.51 g, 0.98 mmol)、2HCl.H-Pal-Leu-Leu-Aib-Phe-PEG4000 (2.3 g, 0.49 mmol; 合成手順2の方法でBoc-Pal-Leu-Leu-Aib-Phe-PEG4000 より合成)、NMM (0.050 mL, 0.98 mmol)を用いて、合成手順4の方法で縮合反応を行った。2日間かけて反応を進行させた。無色生成物を得た。収量, 2.0 g (収率 82%). Mp = 47-48 ℃. 1H-NMR (DMSO-d6, 500 MHz): 7.17-8.42 (7H, amide NH; 5H, Phe C6H5-); 7.03 (1H, Leu NH); 3.6-4.6 (8H, αCH); 3.4-3.6 (360H, PEG4000 -CH2-); 1.2-1.3 (9H, Boc t-Bu);
0.78, 0.81 (12H, Leu δCH3).
【0075】
[実施例2]
(2)Boc-Leu-Leu-Aib-Pal-Leu-Leu-Aib-Pal-Leu-Leu-Aib-Phe-PEG4000 (2) (Boc-配列番号12-PEG4000の合成
(2a:Boc-Pal-Leu-Leu-Aib-Pal-Leu-Leu-Aib-Phe-PEG4000(Boc-配列番号16-PEG4000の合成)
Boc-Pal-OSu (0.28 g, 0.76 mmol)、2HCl.H-Leu-Leu-Aib-Pal-Leu-Leu-Aib-Phe-PEG4000 (1.89 g, 0.38 mmol)、NMM (0.080 mL, 0.76 mmol)を用いて、合成手順4の方法で縮合反応を行った。2日間かけて反応を進行させ、無色生成物を得た。収量, 1.8 g (収率 92%). Mp = 45-47℃. 1H-NMR (DMSO-d6, 500 MHz): 7.12-8.41 (9H, amide NH; 5H, Phe C6H5-); 3.6-4.6 (7H, αCH); 3.4-3.6 (360H, PEG4000 -CH2-); 1.2-1.3 (9H, Boc t-Bu);
0.8-0.9 (24H, Leu δCH3).
【0076】
(2b:Boc-Leu-Leu-Aib-Pal-Leu-Leu-Aib-Pal-Leu-Leu-Aib-Phe-PEG4000 (2) (Boc-配列番号12-PEG4000の合成)
Boc-Leu-Leu-Aib-OSu (0.26 g, 0.25 mmol)、2HCl.H-Pal-Leu-Leu-Aib-Phe-PEG4000 (1.3 g, 0.25 mmol)、NMM (0.080 mL, 0.75 mmol)を用いて、合成手順4の方法で縮合反応を行った。2日間かけて反応を進行させた。無色生成物を得た。収量, 0.74 g (収率 54%). Mp = 46-49℃. 1H-NMR (DMSO-d6, 500 MHz): 7.12-8.43 (12H, amide NH; 5H, Phe C6H5-); 3.6-4.6 (7H, αCH); 3.4-3.6 (360H, PEG4000 -CH2-); 1.2-1.3 (9H, Boc t-Bu);
0.8-0.9 (36H, Leu δCH3).
【0077】
Boc-Leu-Leu-Aib-Pal-Leu-Leu-Aib-Pal-Leu-Leu-Aib-Phe-PEG4000 (2) (Boc-配列番号12-PEG4000の予想される構造を以下に示す。
【化5】
JP0005263805B2_000006t.gif
なお、Boc-Leu-Leu-Aib-Pal-Leu-Leu-Aib-Pal-Leu-Leu-Aib-Phe(Boc-配列番号12)とPEG4000の比を2:1とすることで以下のような共重合体を得ることもできる。
【化6】
JP0005263805B2_000007t.gif
また、モノメトキシ化したPEG4000を用いた場合は、Boc-Leu-Leu-Aib-Pal-Leu-Leu-Aib-Pal-Leu-Leu-Aib-Phe(Boc-配列番号12)とPEG4000の比を1:1である以下のような共重合体を得ることもできる。
【0078】
[実施例3]
(3)MALDI-TOF法による質量分析
実施例1および2で得られた高分子配位子についてMALDI-TOFスペクトルを測定した。スペクトル(図1)から、合成の各ステップで得られた中間体および最終生成物を分子量によって確認することができる。図1に示すようにスペクトルでは、2分子の会合体に相当する分子量として観測された。また、各スペクトル間の質量変化は、予想されるフラグメント又はアミノ酸の伸長に対応していた。従って、目的物の生成が質量分析法によって
も確認された。
【0079】
[実施例4]
(4)臨界ミセル濃度(cmc)の測定
実施例で得られた高分子配位子、Boc-Leu-Leu-Aib-Pal-Leu-Leu-Aib-Pal-Leu-Leu-Aib-Phe-PEG4000(Boc-配列番号12-PEG4000)(2)について、cmcを測定した(Y. Nagasaki他, Macromolecules, 1998年, vol. 31, pp. 1473-1479.)。蛍光スペクトルはJASCO FP6200蛍光分光光度計を用いた。
疎水性プローブとして、ピレンの蛍光スペクトル変化を用いた。10 mgの1を10 mLの飽和ピレン水溶液に溶解し(~0.14 mg/mL)20℃で1日静置した。スペクトル測定は、20℃で行い、励起光を300 nmから360 nmまで走査した際の390 nmの蛍光強度を記録した(図2)。スペクトルから得られる337 nmと334 nmでの強度比を1の濃度に対してプロット(図3)し、グラフの大きく変化する濃度をcmcとした。その結果、1の臨界ミセル濃度は0.060 mg/mLとわかった。
【0080】
[実施例5]
(5)CoCl2による高分子錯体の合成
実施例で得られた高分子配位子Boc-Leu-Leu-Aib-Pal-Leu-Leu-Aib-Pal-Leu-Leu-Aib-Phe-PEG4000(Boc-配列番号12-PEG4000(2)を、CoCl2の水溶液 (0.1 mM)に滴定した際の可視吸収スペクトル変化を測定した。図4より2の濃度 (2の平均分子量を5505として計算) が大きい範囲 (0.1~0.4 mM) では、2の濃度が増加するに従って、400-800 nmのベースラインの増加することがわかった。これは2の濃度が増加するに従って、2がより大きな凝集体を形成し、入射光を散乱することにより生じる、みかけの吸光度の増大であると解釈される。
【0081】
図5より2の濃度 (2の平均分子量を5505として計算) が小さい範囲 (0~0.1 mM) では、2の濃度が増加するに従って、400-800 nmのベースラインの増加がほとんど無視できるとわかった。また、Co(II)イオンのd-d吸収が、2の濃度 (2の平均分子量を5505として計算) が増加するに従い、547、575、606、654、675 nmに等吸収点を示しながら変化した。従って2とCoCl2から1種類の錯体が生成することがわかった。さらに、590 nmの吸収極大の変化を図6のようにプロットして、非線形最小自乗法により錯形成反応の結合定数を算出した。錯形成の平衡反応にK = [CoCl2-2]/[CoCl2][2]を仮定すると、Δabs∞ = 0.0086、K = 1.2 x 105 M-1 の結果を得た。
【0082】
なお、ここで得られた高分子錯体は、図10Cに示される架橋型[(CoCl2)2(Boc-Leu-Leu-Aib-Pal-Leu-Leu-Aib-Pal-Leu-Leu-Aib-Phe-(配列番号12)PEG4000)2]、または図10Dに示された単核型[CoCl2(Boc-Leu-Leu-Aib-Pal-Leu-Leu-Aib-Pal-Leu-Leu-Aib-Phe-(配列番号12)PEG4000)]の構造であることが考えられた。
また、Boc-Leu-Leu-Aib-Pal-Leu-Leu-Aib-Phe-PEG4000 (Boc-配列番号13-PEG4000(1)とCoCl2からなる高分子錯体の構造も架橋型(図10A)と単核型(図10B)の存在することが考えられた。
【0083】
[実施例6]
(6)111InCl3による高分子錯体 (111In-1) の合成
実施例1で得られた高分子配位子Boc-Leu-Leu-Aib-Pal-Leu-Leu-Aib-Phe-PEG4000(Boc-配列番号13-PEG4000(1)を用いて111InCl3と錯形成反応を行った。
【0084】
(6a:CH3CNを用いた錯体生成)
エッペンチューブ中で1 (410 μg)を 200 μLのCH3CNに溶解させた。これに111InCl3溶液(日本メジフィジックス社製、~20 MBq/mL)20 μLを加えて、15分間よく撹拌した。抗ガン剤などの医薬化合物を内包させる場合はここで同時に加えた。撹拌にはボルテックスミキサーと超音波洗浄機を用いた。また、超音波を当てる場合は溶液の温度上昇に注意した。この後、ロータリーエバポレーターと窒素ガスによって溶媒を留去した。90分
後でも残渣は粘性の高いオイル状であったので、そのまま得られたオイルに生理食塩水を加えて再溶解させて、15分間よく撹拌した。再溶解時には、体内動態または薬理活性を調べるのに適当な濃度とした。得られた溶液は、滅菌フィルターを通した。薄層クロマトグラフィー(Gelmal Sciences製ITLC-SG、シリカゲルガラスファイバー板, 生理食塩水にて展開)により111Inの分布から放射化学的純度を検定した。錯体を形成している111Inは原点に、錯形成をしていない111Inは展開先端に放射活性が見られる。得られた111In-1の高分子錯体溶液の純度は99.5%であった。
【0085】
(6b:生理食塩水を用いた錯体生成)
ガラス試験管中で1 (320 μg) を1600 μLの生理食塩水に溶解させた。これに111InCl3溶液(日本メジフィジックス社製、~20 MBq/mL)15 μLを加え、超音波洗浄機を用いて、15分間よく撹拌した。抗ガン剤などの医薬化合物を内包させる場合は、同時に加えるがより長時間の撹拌を要する。撹拌時には溶液の温度上昇に注意が必要であった。15分の撹拌後に薄層クロマトグラフィー(Gelmal Sciences製ITLC-SG、シリカゲルガラスファイバー板, 生理食塩水にて展開)を行い、放射化学的純度は99.0%であった。
【0086】
[実施例7]
(7)111InCl3による高分子錯体 (111In-2) の合成
実施例2で得られた高分子配位子Boc-Leu-Leu-Aib-Pal-Leu-Leu-Aib-Pal-Leu-Leu-Aib-Phe-PEG4000(Boc-配列番号12-PEG4000(2)を用いて111InCl3と錯形成反応を行った。
【0087】
(7a:CH3CNを用いた錯体生成)
エッペンチューブ中で2 (410 μg)を 200 μLのCH3CNに溶解させた。これに111InCl3溶液(日本メジフィジックス社製、~20 MBq/mL)20 μLを加えて、10分間よく撹拌した。抗ガン剤などの医薬化合物を内包させる場合はここで同時に加えた。撹拌にはボルテックスミキサーや超音波洗浄機を用いるとよい。また、超音波を当てる場合は溶液の温度上昇に注意した。この後、ロータリーエバポレーターまたは窒素ガスによって溶媒を留去した。15~30分後に残渣は無色固体となった。得られた固体に生理食塩水を加えて再溶解させて、10分間よく撹拌した。再溶解時には、体内動態または薬理活性を調べるのに適当な濃度とした。得られた溶液は、滅菌フィルターを通した。薄層クロマトグラフィー(Gelmal Sciences製ITLC-SG、シリカゲルガラスファイバー板, 生理食塩水にて展開)により放射化学的純度を検定した。得られた111In-2の高分子錯体の放射化学的純度は何れの場合も98.5~99.8%であった。この、CH3CNを用いた方法は操作数がやや多いが、111Inが高分子配位子2 に迅速に高効率で取り込まれることがわかった。
【0088】
(7b:生理食塩水を用いた錯体生成)
ガラス試験管中で2 (420 μg) を2100 μLの生理食塩水に溶解させた。これに111InCl3溶液(日本メジフィジックス社製、~20 MBq/mL)20 μLを加え、超音波洗浄機を用いて、15分間よく撹拌した。抗ガン剤などの医薬化合物を内包させる場合は、同時に加えるがより長時間の撹拌を要する。撹拌時には溶液の温度上昇に注意が必要であった。15分の撹拌後に薄層クロマトグラフィー(Gelmal Sciences製ITLC-SG、シリカゲルガラスファイバー板, 生理食塩水にて展開)で放射化学的純度を検定すると、98.0%であった。生理食塩水が少なく(200 μL)高濃度の場合は、111Inの配位が遅いため(純度検定でおよそ50%)さらに、15分間の撹拌と30分間室温で静置することで99%になった。生理食塩水を用いた方法は簡便ではあるが、濃度によっては錯体形成にやや時間のかかること、純度検定で錯体形成を必ず確認する必要のあることがわかった。
【0089】
[実施例8]
(8)高分子錯体 (111In-1, 111In-2) のゲルパーミエーションクロマトグラフィー
高分子錯体 (111In-1, 111In-2) の相対分子量と錯体形成の様子はゲルパーミエーシ
ョンクロマトグラフィー(GPC)によって解析した。装置は島津製作所製LC-10イナート型HPLCシステム、GPCカラムはTOSOH SW-3000、溶離液はリン酸バッファー(pH7.0)を0.2 mL/minで流した。試料の検出にUV検出器(220 nm)とγ線検出器を用いた。試料濃度はミセル体の影響を除くために1μg/mLとした。10μg/mL以上では2.0~2.5 mLの溶出位置に凝集体に由来する大きなピークと2.5~5.0 mLに広い溶出曲線のみがあらわれて単量体の分子量に関する情報を与えなかった。
【0090】
試料の検出にUV検出器(220 nm)を用いると、111In-1は分子量が5000(単量体)、10100(2量体)、15100(3量体)に相当する3本のピークが見られた(図7a)。111In-2は分子量5500の位置に鋭いピークが見られた(図7b)。
【0091】
試料の検出にγ線検出器を用いると、実施例6aで作成した111In-1は1~3量体に由来する幅広い溶出ピークと大きなテーリングを示した。最大ピークを示す分画(no.24)を用いて再度GPC測定を行うと同様な幅広い溶出ピークを示したがテーリングは見られなかった(図8a)。111In-2は単量体に由来する鋭い溶出ピークを示し、テーリングは起こらなかった(図8b)。同様に、最大ピークを示す分画(no.23)のGPCクロマトグラムを測定しても単量体に由来する鋭い溶出ピークを示した。
【0092】
高分子錯体として考えると111In-1はシリカゲルクロマトグラフィーでは分離しないが、GPCでは111Inが分離する形で配位していることがわかった。1は111InがGPCカラム内でも外れやすい形で配位しているため(例えば、疎水性へリックス上の1つのPal側鎖とPEG鎖によるやや弱い配位結合)、GPCで精製することが適当であるとわかった。2は111InがGPCカラム内でも外れないような形で配位しているため(例えば、疎水性へリックス上の2つのPal側鎖によるキレート配位)、GPC精製は必ずしも必要でないとわかった。
【0093】
[実施例9]
(9)高分子配位子(2) による腫瘍組織の検出
合成手順2によって高分子配位子(2)のBoc基を脱保護してアミノ基を生成させた。このアミノ基に合成手順4によって、カルボキシフルオレッセインジアセテート活性エステル(CFDA-OSu)を結合させた。DMAPを触媒量(2に対して0.2等量)加えると反応が効率よく進行した。精製後に得られたCF-Leu-Leu-Aib-Pal-Leu-Leu-Aib-Pal-Leu-Leu-Aib-Phe(配列番号12)-PEG4000(3) を生理食塩水溶液(およそ1mg/1mL)として、後肢の付け根に繊維癌の細胞を移植したヌードマウスに投与(100μL/匹)した。2時間後、マウスを解剖し各組織を蛍光イメージャー(CRi社製Maestro)によって観察した。その結果、腫瘍組織のみならず、肝臓への転移癌を検出することができた(図9)。このように、高分子配位子(2)は腫瘍組織に集積する性質のあることがわかった。
【0094】
[実施例10]
(10)高分子錯体 (111In-1, 111In-2) の体内動態
実施例6,7で作成した高分子錯体 (111In-1, 111In-2)を用いて、体重28~30gのddy系雄性マウス(体重28~30g)での体内分布挙動を調べた。1匹あたり20μg/100μLを尾静脈から投与して1, 4, 24 時間後に屠殺解剖後、各臓器を秤量し、放射能をγ-カウンターで定量することで臓器別集積濃度(%dose/g)を算出した。表1と表2に111In-1, 111In-2それぞれの体内分布を示した。この条件では腎臓への集積が多く見られるが、より高濃度の高分子錯体を投与すると肝臓への集積が少しずつ増大する。111In-2の場合、腎臓への集積(~20 %dose/g)は4~24時間後にピークとなり、肝臓への集積は少量だが24, 48時間後も少しずつ増大する(2.6~4.0 %dose/g)。これに伴い血中濃度は急激に減少した(投与1時間後10.0 %dose/gが24時間後に1.0 %dose/gへ)。また骨への集積(6.7~9.3 %dose/g)は、高分子錯体の分解によって遊離した111Inイオンに由来すると考えられる。その他の組織に対しては特徴的な集積は見られなかった。111In-1も同様な傾向
を示した。
【0095】
【表1】
JP0005263805B2_000008t.gif

【0096】
【表2】
JP0005263805B2_000009t.gif

【0097】
[実施例11]
(11)高分子錯体 (111In-2) の腫瘍組織への集積
実施例6,7で作成した高分子錯体 (111In-2)を用いて、後肢の付け根に繊維癌の細胞を移植したSCIDマウスでの体内分布挙動を調べた。1匹あたり40μg/100μL(40g/匹)を尾静脈から投与して4時間後に屠殺解剖後、各臓器を秤量し、放射能をγ-カウンターで
定量することで臓器別集積濃度(%dose/g)を算出した。表3に体内分布を示した。この条件でも腎臓への集積(24 %dose/g)が多く見られるが、腫瘍組織への集積は5.8 %dose/gを示した。このように、高分子錯体 (111In-2)は腫瘍組織に集積する性質のあることがわかった。
【0098】
【表3】
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【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1】図1は、実施例1,2で作成した、Boc-Leu-Leu-Aib-Pal-Leu-Leu-Aib-Phe-PEG4000 (Boc-配列番号13-PEG4000(1)およびその合成中間体、Boc-Leu-Leu-Aib-Pal-Leu-Leu-Aib-Pal-Leu-Leu-Aib-Phe-PEG4000 (Boc-配列番号12-PEG4000(2)およびその合成中間体について、MALDI-TOF質量分析法により測定したスペクトルである。
【図2】図2は実施例2で作成した、Boc-Leu-Leu-Aib-Pal-Leu-Leu-Aib-Pal-Leu-Leu-Aib-Phe-PEG4000(Boc-配列番号12-PEG4000(2)の各濃度に於ける、飽和ピレン水溶液の励起蛍光スペクトルである。励起波長 = 300~360 nm; 検出波長 = 390 nm; スリット幅 = 5 nm; 測定温度 20 ℃。
【図3】図3は実施例2で作成した、Boc-Leu-Leu-Aib-Pal-Leu-Leu-Aib-Pal-Leu-Leu-Aib-Phe-PEG4000(Boc-配列番号12-PEG4000(2)の各濃度に於ける、飽和ピレン水溶液の励起蛍光スペクトル(図2)について、337 nmと334 nmでの強度比 (I337/I334) を2の濃度に対してプロットした図である。グラフの大きく変化する濃度を臨界ミセル濃度(cmc)とした。
【図4】図4は実施例2で作成した、Boc-Leu-Leu-Aib-Pal-Leu-Leu-Aib-Pal-Leu-Leu-Aib-Phe-PEG4000(Boc-配列番号12-PEG4000(2)を、CoCl2の水溶液 (0.1 mM) に滴下した際の見かけ上のスペクトル変化を示した図である。2の濃度 (2の平均分子量を5505として計算) が増加するに従い(0.1, 0.2, 0.3, 0.4 mM)、400-800 nmのベースラインが上昇した。これは2の濃度が増加するに従って、2がより大きな凝集体を形成し、入射光を散乱することにより生じる、みかけの吸光度の増大を表している。
【図5】図5は実施例2で作成した、Boc-Leu-Leu-Aib-Pal-Leu-Leu-Aib-Pal-Leu-Leu-Aib-Phe-PEG4000(Boc-配列番号12-PEG4000(2)を、CoCl2の水溶液 (0.1 mM) に滴下した際のスペクトル変化を示した図である。Co(II)イオンのd-d吸収が、2の濃度 (2の平均分子量を5505として計算)が増加するに従い、547、575、606、654、675 nmに等吸収点を示しながら変化した。また、590、660 nmに強い吸収極大があらわれた。
【図6】図6は実施例2で作成した、Boc-Leu-Leu-Aib-Pal-Leu-Leu-Aib-Pal-Leu-Leu-Aib-Phe-PEG4000(Boc-配列番号12-PEG4000(2)を、CoCl2の水溶液 (0.1 mM) に滴下した際の見かけ上のスペクトル変化について、590 nmの吸光度変化をプロットした図である。2の濃度が0.1 mM以下では、図5に示すように、凝集による散乱がおおよそ無視できると考えて、非線形最小自乗法により結合定数を算出した。計算式にK = [CoCl2-2]/[CoCl2][2]を用いて、Δabs∞ = 0.0086、K = 1.2 x 105 M-1 の結果を得た。
【図7】図7a,7bは本発明の一実施態様である、高分子錯体(111In-1, 111In-2)の紫外光(220 nm)によって検出したゲルパーミエーションクロマトグラムをそれぞれ示した。(GPC装置, 島津製作所製LC-10イナート型HPLCシステム; GPCカラム, TOSOH SW-3000; 溶離液, リン酸バッファー(pH7.0) 0.2 mL/min; UV検出器, 220 nm。)111In-1は分子量が5000(単量体)、10100(2量体)、15100(3量体)に相当すると考えられる3本のピークが見られた(図7a)。111In-2は分子量5500の位置に鋭いピークが見られた(図7b)。
【図8】図8a,8bは本発明の一実施態様である、高分子錯体(111In-1, 111In-2)のγ線によって検出したゲルパーミエーションクロマトグラムをそれぞれ示した。(GPC装置, 島津製作所製LC-10イナート型HPLCシステム; GPCカラム, TOSOH SW-3000; 溶離液,リン酸バッファー(pH7.0) 0.2 mL/min; 0.2mL毎に分取してγ線カウンターで定量しクロマトグラムを作成。)試料の検出にγ線検出器を用いると、111In-1は1~3量体に由来する幅広い溶出ピークと大きなテーリングを示した(図8a-as prepared)。このうち最大ピークを示す分画no.23を用いて再度GPC測定を行うと同様な幅広い溶出ピークを示したがテーリングは見られなかった(図8a-fraction)。111In-2は単量体に由来する鋭い溶出ピークを示し、テーリングは起こらなかった(図8b-as prepared)。また最大ピークを示す分画no.24を用いて再度GPC測定を行っても同様であった(図8b-fraction)。
【図9】図9は実施例2で作成した、Boc-Leu-Leu-Aib-Pal-Leu-Leu-Aib-Pal-Leu-Leu-Aib-Phe-PEG4000(Boc-配列番号12-PEG4000(2)を蛍光標識したCF-Leu-Leu-Aib-Pal-Leu-Leu-Aib-Pal-Leu-Leu-Aib-Phe-(配列番号12)PEG4000(3) を担癌ヌードマウスに投与(およそ100μg/匹)して検出された、肝臓への転移癌の蛍光画像を示す(写真)。(投与後2時間で、各臓器を摘出して蛍光イメージャー(CRi社製Maestro)で観察した。
【図10】本発明の高分子錯体の錯形成構造の模式図。図10A、10Bは、それぞれ、Boc-Leu-Leu-Aib-Pal-Leu-Leu-Aib-Phe-PEG4000(Boc-配列番号13-PEG4000 (1)とCoCl2からなる高分子錯体の架橋型または単核型の構造を示す。図10Cと10Dはそれぞれ、Boc-Leu-Leu-Aib-Pal-Leu-Leu-Aib-Pal-Leu-Leu-Aib-Phe-PEG4000 (Boc-配列番号12-PEG4000(2)とCoCl2からなる高分子錯体の架橋型または単核型の構造を示す。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9