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明細書 :人工血管

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4437227号 (P4437227)
公開番号 特開2007-089737 (P2007-089737A)
登録日 平成22年1月15日(2010.1.15)
発行日 平成22年3月24日(2010.3.24)
公開日 平成19年4月12日(2007.4.12)
発明の名称または考案の名称 人工血管
国際特許分類 A61F   2/06        (2006.01)
A61L  27/00        (2006.01)
FI A61F 2/06
A61L 27/00 Q
請求項の数または発明の数 6
全頁数 13
出願番号 特願2005-281268 (P2005-281268)
出願日 平成17年9月28日(2005.9.28)
審査請求日 平成20年4月30日(2008.4.30)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
発明者または考案者 【氏名】田中 賢
【氏名】高山 あい子
【氏名】下村 政嗣
個別代理人の代理人 【識別番号】100105050、【弁理士】、【氏名又は名称】鷲田 公一
【識別番号】100131587、【弁理士】、【氏名又は名称】飯沼 和人
審査官 【審査官】川端 修
参考文献・文献 特表2002-528567(JP,A)
国際公開第2004/048064(WO,A1)
国際公開第98/024385(WO,A1)
特開平03-095199(JP,A)
特開2001-157574(JP,A)
調査した分野 A61F 2/06
A61L 27/00
特許請求の範囲 【請求項1】
筒状に成形された非水溶性ポリマーからなるハニカム状多孔質体を含み、
前記ハニカム状多孔質体の各孔の孔径は1~20μmである、
人工血管。
【請求項2】
前記ハニカム状多孔質体は、その表面に対して垂直方向に貫通する孔、および前記垂直方向に貫通した孔同士を連通する平面方向の孔を有し、
前記ハニカム状多孔質体の膜厚は1~20μmである、
請求項1に記載の人工血管。
【請求項3】
前記ハニカム状多孔質体が網目構造を有する筒状構造体によって支持されている、請求項1または2に記載の人工血管。
【請求項4】
前記筒状に成形された非水溶性ポリマーからなるハニカム状多孔質体の筒内面が血管内皮細胞によって被覆されている、請求項1~3のいずれかに記載の人工血管。
【請求項5】
前記筒状に成形された非水溶性ポリマーからなるハニカム状多孔質体の筒外面が血管平滑筋細胞によって被覆されている、請求項に記載の人工血管。
【請求項6】
前記血管内皮細胞及び/又は前記血管平滑筋細胞がコンフルエントの状態である、請求項またはに記載の人工血管。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、筒状に成形されたハニカム状多孔質体を含む人工血管、特に血管上皮細胞及び/又は血管平滑筋細胞によって被覆された人工血管に関する。
【背景技術】
【0002】
人工血管に求められる特性としては、心臓の拍動によって圧送される血液を通すことのできる機械的強度と柔軟性だけでなく、人工血管内で血液が詰まらない性質すなわち抗血栓性も重要な特性である。
【0003】
血栓は、ポリエステル性の線維や伸展性の四塩化フッ素化合物などの代表的な原料から人工血管、特に小口径(内径が約0.5mm~約5mm)の人工血管を成形した場合によく認められる現象である。小口径人工血管では、口径が小さいために血流速度を十分に確保することが難しく、人工血管表面に形成される血栓による閉塞、或いは極端な組織の過形成による狭窄等による閉塞などの発生が報告されている。閉塞、特に移植後の長時間経過後に発生する閉塞は多くの要因が複雑に影響を及ぼしていると言われているが、人工血管の内壁を血管内皮細胞等によって被覆させることによって、この問題は事実上解消されることが知られている。
【0004】
移植後の人工血管内壁の内皮化を促進する試みとして、合成ポリマーと生体適合性材料とを複合化させて人工血管を製造する方法が報告されている。例えば、ポリエステルとゼラチン又は低温不溶性グロブリンとからなる人工血管(非特許文献1)、ポリエステルとフィブロネクチンあるいはECGF(内皮細胞成長因子)とを複合化した人工血管(非特許文献2)、多孔質PTFEにプラスミン処理フィブリンを複合化した人工血管(非特許文献3)等が提案されている。
【0005】
また、内皮化を促進する因子を人工血管自身から供給させる技術も報告されている。例えば、多孔質高分子化合物の管壁の孔内、内面および外面の全体もしくは一部分に、血管内皮細胞を刺激誘引する物質を、生体分解性ポリマーに分散して複合化した人工血管(特許文献1)などがある。
【0006】
しかしながらこの試みでは、移植後の人工血管と生体血管との吻合部から伸展してくる内皮を対象としているため、人工血管が長くなるに従い内皮化が遅れる、吻合部からの内皮伸展には限界があり途中で内皮化が止まってしまうという、等の問題も指摘されている。また、内皮化を促進させる因子の供給は初期血栓を重篤にし、結果として内皮化以前に人工血管が閉塞するという問題も指摘されている。
【0007】
これらの移植後の内皮化を促進させるという試みとは別の血栓防止技術として、移植に先立っての人工血管内壁の内皮化(endothelialization)がある。これは、移植前の人工血管内壁に血管内皮細胞を予め増殖させ、同細胞の単層からなる内皮を形成させることで人工血管に抗血栓性を持たせようとする試みである。
【0008】
例えば、平滑筋を含有し、内皮細胞の層を内腔面上に形成できるような平滑な内腔面を有する人工的な筒状物質を形成したハイブリッド型人工血管モデル(非特許文献4、非特許文献5)などが提唱されている。しかしこの人工血管は機械的強度が非常に低く、移植時の取り扱い操作で容易に壊れたり、移植後も血圧によって破裂したりするなどの問題を有している。
【0009】

【特許文献1】特開平5-76588
【特許文献2】特開2001-78750号公報
【特許文献3】特開平1-170467号
【非特許文献1】ゴブレビッチ(Govrebitich)ら、バイオマテリアル(Biomaterials)、1988年、第9巻、第9号、第97頁
【非特許文献2】グライスラー(Greisler)ら、1987年、ジャーナル・オブ・バスキュラー・サージュリー(J.Vasc.Surg)、第52巻、第393頁
【非特許文献3】日本人工臓器学会予稿集、1990年、第161頁
【非特許文献4】ワインバーグら(Weinberg et al.)、サイエンス( Science)、1986年、第231巻、第397-400頁
【非特許文献5】ヒライら(Hirai et al.)、ASAIO journal、1994年、383-388頁
【非特許文献6】ニクラソンら(Niklason et al.)、1999年、サイエンス( Science)、 第284巻、 第489-493頁
【非特許文献7】ジェファーソン大学(Jefferson T.Univ.)、WPIアクセッションNo.86-340436/52
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、移植前に予め内皮化を行う型の人工血管で指摘されている血管内皮細胞の増殖あるいは接着不良、密度不足を解消し、さらに増殖細胞の維持に優れた人工血管とその製造法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、非水溶性ポリマーからなる筒状に成形したハニカム状多孔質体が人工血管の製造に好適であること、特にこのハニカム状多孔質体上は、その上で血管上皮細胞のみならず血管平滑筋細胞の増殖をも可能にし、かつ高い付着率を維持できることを見いだし、以下の各発明を完成した。
【0012】
1)筒状に成形された非水溶性ポリマーからなるハニカム状多孔質体を含む人工血管。
【0013】
2)ハニカム状多孔質体が網目構造を有する筒状構造体によって支持されている、1)に記載の人工血管。
【0014】
3)筒状に成形された非水溶性ポリマーからなるハニカム状多孔質体の筒内面が血管内皮細胞によって被覆されている、1)または2)に記載の人工血管。
【0015】
4)さらに筒状に成形された非水溶性ポリマーからなるハニカム状多孔質体の筒外面が血管平滑筋細胞によって被覆されている、3)に記載の人工血管。
【0016】
5)血管内皮細胞及び/又は血管平滑筋細胞がコンフルエントの状態である、3)または4)のいずれかに記載の人工血管。
【発明の効果】
【0017】
ハニカム状多孔質体を基本構造とする本発明の人工血管は、人工血管に求められる十分な強度を有する、さらにハニカム状多孔質体の表面において血管内皮細胞を密に増殖させ、これを保持することによって血液の漏れや血栓の発生を防ぐという効果を有する。ハニカム状多孔質体は簡便かつ安価に製造することでき、人工血管自体の製造コストを低減することもできる。
【0018】
また、垂直方向に貫通した孔を有するハニカム状多孔質体を利用することにより、筒状に成型したハニカム状多孔質体の内外で増殖させた細胞はハニカム状多孔質体によって仕切られつつも相互作用を及ぼし合うことができるので、より本物の血管に近い細胞層構造を形成させることができる。さらに、垂直方向に貫通した孔及び/又は平面方向に存在する周囲の孔と連通している孔を有するハニカム状多孔質体を用いた場合には、栄養分、酸素、老廃物等を効率よく運搬あるいは排出させることができ、より効果的に内皮化を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の人工血管の基本構造であるハニカム状多孔質体(ハニカム構造体あるいはハニカムシートとも呼ばれる)とは、高分子(ポリマー)でできた多孔性の薄膜であって、膜の垂直方向に向けられた微少な孔(くぼみを含む)が膜の平面方向に蜂の巣状に(ハニカム状に)設けられているものを意味する。孔は膜を垂直方向に貫通していてもよく、また平面方向に存在する周囲の孔と連通していてもよい。
【0020】
この様なハニカム状という規則的な配置で孔が設けられている多孔質の薄膜は、孔の口径、形状あるいは深さなどがまちまちである不規則な孔を有する通常の多孔質体とは全く異なる構造体として理解される。
【0021】
本発明で利用可能なハニカム状多孔質体の形状は、膜厚が0.01μm~100μm、好ましくは0.1μm~50μm、より好ましくは1μm~20μmであり、孔径が0.01μm~100μm、好ましくは0.1μm~50μm、より好ましくは1μm~20μm、特に好ましくは5μm~10μmである。
【0022】
この様な構造的特徴を有するハニカム状多孔質体は、種々の公知の方法に従って製造することができる。例えばフォトリソグラフィーやソフトリソグラフィー(ホワイトサイドら、 Angew. Chem. Int. Ed.,1998年、第37巻、 第550-575頁)、ブロックコポリマーの相分離(アルブレヒトら,マクロモレキュール(Macromolecules)、 2002年、第35巻、第8106-8110頁)、サブミクロンのコロイド微粒子を集積することで2次元、3次元の周期構造を作製する方法(グら、ラングミュア(Langmuir)、第17巻)、これを鋳型にしてインバースドオパール構造を作製する方法(カルソら、 ラングミュア(Langmuir)、1999年、第15巻、第8276-8281頁)などを挙げることができる。
【0023】
また、これらの方法と製造原理を大きく異にする方法である特開平8-311231、特開2001-157475、特開2002-347107あるいは特開2002-335949に記載された方法も使用することができる。これらの方法は、高分子の非水溶性有機溶媒溶液表面上に水滴を結露させ、該水滴を鋳型としてハニカム状の多孔質体を調製するものであり、製造コストや効率等の点でその他の製造法に比べて有利である。以下、さらに詳しく説明する。
【0024】
この方法では、非水溶性有機溶媒、特に50dyn/cm以下の表面張力γLを有する非水溶性有機溶媒に非水溶性ポリマーを溶解した非水溶性ポリマーの非水溶性有機溶媒溶液を、表面の表面張力をγSとし、塗布される非水溶性有機溶媒の表面張力γLならびに該基板と該溶媒との間の表面張力γLSとした場合にγS-γSL>γLの関係を満たす基板の表面に塗布し、さらに30%以上の空気の存在下で基板上に塗布された非水溶性ポリマーの非水溶性有機溶媒溶液を蒸発させることが好ましい。
【0025】
ここにいう非水溶性有機溶媒は、50dyn/cm以下の表面張力を有し、かつ該溶液表面に結露した水滴を保持し得る程度の非水溶性と、大気圧下で0~150℃、好ましくは10~50℃の沸点を有する有機溶媒を言う。例えば四塩化炭素、ジクロロメタン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、メチルイソブチルケトン等の非水溶性のケトン類、二硫化炭素などを挙げることができる。
【0026】
また非水溶性ポリマーは、水に不溶性でかつ上記の非水溶性有機溶媒に可溶な、あるいは適当な界面活性剤の存在下で非水溶性有機溶媒に溶解し得るポリマーであれば特別の制限はなく、適宜選択して使用することができる。
【0027】
例えば、ポリ乳酸やポリヒドロキシ酪酸のような生分解性ポリマー、脂肪族ポリカーボネート、両親媒性ポリマー、光機能性ポリマー、電子機能性ポリマーなどを挙げることができる。
【0028】
上記の非水溶性有機溶媒と非水溶性ポリマーとの具体的な組み合わせの例としては、例えばポリスチレン、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアルキルシロキサン、ポリメタクリル酸メチルなどのポリアルキルメタクリレートまたはポリアルキルアクリレート、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリ-N-ビニルカルバゾール、ポリ乳酸、ポリ-ε-カプロラクトン、ポリアルキルアクリルアミド、およびこれらの共重合体よりなる群から選ばれるポリマーに対しては、四塩化炭素、ジクロロメタン、クロロホルム、ベンゼン、トルエン、キシレン、二硫化炭素などの有機溶媒を組み合わせて使用することができる。また、フッ素化アルキルを側鎖に持つアクリレート、メタクリレートおよびこれらの共重合体よりなる群から選ばれるポリマーに対しては、AK-225(旭硝子株式会社製)などのフッ化炭素溶媒、トリフルオロベンゼン、フルオロエーテル類などの使用も良好な結果を与える。これらの中から、具体的に使用する非水溶性ポリマーに対する溶解性を考慮して、適宜選択して使用することができる。
【0029】
また、フッ素化アルキルを側鎖に持つポリアクリレートやメタクリレートの側鎖の水素をフッ素に置換したフッ素系ポリマーを用いてハニカム状多孔質体を製造する際には、フッ素系の有機溶媒(AK-225等)の使用も良好な結果を与える。
【0030】
非水溶性有機溶媒に非水溶性ポリマーを溶解する際には、同溶媒に対して0.1g/L~10g/Lの非水溶性ポリマーを溶解して使用することが好ましい。ここで、溶液中の非水溶性ポリマー濃度は、製造されるハニカム状多孔質体に求める特性、物性並びに使用する非水溶性有機溶媒に応じて、適宜定めることができる。
【0031】
さらにかかる非水溶性ポリマーの非水溶性有機溶媒溶液を塗布する基板は、基板表面の表面張力γSと塗布される非水溶性有機溶媒の表面張力γLならびに該基板と該溶媒との間の表面張力γLSとの間で、γS-γSL>γLの関係を満たす基板を選択して用いることが望ましい。これは、非水溶性ポリマー溶液の非水溶性有機溶媒溶液を塗布する基板自体の非水溶性有機溶媒に対する濡れ性が、基板上に形成される液膜の厚みに影響を与え得るためである。基板には、塗布される非水溶性ポリマーの非水溶性有機溶媒溶液との親和性が高いものであることが好ましい。具体的には、非水溶性有機溶媒の表面張力γLを指標にして上記式で表すことのできる表面張力を示す表面を有する基板を利用すればよい。そのような基板の好適な例としては、ガラス板、シリコン製板あるいは金属板などを挙げることができる。
【0032】
また、非水溶性有機溶媒溶液との親和性を高めることのできる加工を表面に施した基板の使用も可能である。この様な基板表面の濡れ性の改良は、基板と使用する非水溶性有機溶媒に合わせて、自体公知の方法、例えばガラス製や金属製の基板に対してはそれぞれシランカップリング処理やチオール化合物による単分子膜形成処理方法などを利用することができる。
【0033】
例えば、クロロホルムなどの疎水性有機溶媒を非水溶性有機溶媒として用いる場合の基板としては、十分に洗浄されたSi基板や、アルキルシランカップリング剤などで表面を修飾したガラス基板などの使用が好ましい。また、フッ素系溶媒を用いる場合は、テフロン(登録商標)基板、あるいはフッ素化アルキルシランカップリング剤などで修飾したガラス基板などの使用が好ましい。
【0034】
非水溶性ポリマーの非水溶性有機溶媒溶液を基板に塗付して同溶液の液膜を形成させる際の液膜厚としては1μm~100μm、好ましくは30μm以下とすることが望ましい。また基板に非水溶性ポリマーの非水溶性有機溶媒溶液を塗付する方法としては、基板に同溶液を滴下する方法の他、バーコート、ディップコート、スピンコート法などを挙げることができ、バッチ式、連続式の何れも利用することができる。
【0035】
本発明においては、上記に例示したような方法により調製することができるハニカム状多孔質体を筒状に成形し、その内面に血管内皮細胞を接種し増殖させることで筒内面を血管内皮細胞で被覆すること(いわゆる内皮化)が望ましい。
【0036】
ハニカム状多孔質体を筒状に成形するには、薄膜状のハニカム状多孔質体を適当な内径を有する筒状に維持すればよい。このとき、網目構造を有する筒状構造体、例えばステンレスメッシュチューブあるいはテフロン(登録商標)やポリウレタンなどからなるポリマーメッシュチューブなどの外側を覆うようにしてハニカム状多孔質体を巻くことで、簡便に筒状に成形することができる。あるいはハニカム状多孔質体を例えばステンレスメッシュシートあるいはテフロン(登録商標)やポリウレタンなどからなるポリマーメッシュシートなどに密着させた、シートを丸めて筒状に成形してもよい。
【0037】
本発明における網目構造を有する筒状構造体は、上述のステンレスメッシュチューブやシートに代表されるような、例えば20μm~5mmの大きさの細孔を有する構造体であって筒状に成形されているものを意味する。その材質、チューブ径や長さあるいは筒状の成形する前のシートの大きさは人工血管として利用可能なものであれば特に制限はなく、移植に適した材質と必要とされる血管のサイズとを任意に選択することができる。
【0038】
また一枚のハニカム状多孔質体を筒状に成形するのではなく、複数枚のハニカム状多孔質体をつなぎ合わせることで筒状に成形してもよい。この場合も、つなぎ合わせは網目構造を有する構造体の上で行う方が簡便である。この「つなぎ合わせ」は先に述べたハニカム状多孔質体の製造法によって調製される薄膜の大きさの範囲に制限を受けることなく、任意の太さあるいは長さを有する人工血管を製造することを可能にするという利点を有する。なお、ハニカム状多孔質体は重なり合うことで密着して剥離しにくくなる性質を有しているので、筒状を維持するためのあるいは「つなぎ合わせ」のための拘束手段は必須ではない。
【0039】
ハニカム状多孔質体を含む人工血管の内皮化は、筒状に成形したハニカム状多孔質体の筒内面に適当な培地に懸濁した血管内皮細胞を接種し、これを増殖させることで行うことができる。例えば、Modified Eagle's Medium (MEM)やDulbecco’s Modified Eagle’s Medium(DMEM)などの適当な栄養培地に1×10~1×10個の血管内皮細胞を懸濁させた懸濁液を筒の内側に接種して2時間静置後、筒を120℃回転させて再び細胞懸濁液を接種して2時間静置するという操作を繰り返しながら、全体で12~72時間程度培養すればよい。この操作によって血管内皮細胞を筒状のハニカム状多孔質体の内面でコンフルエントになるまで培養させることが可能である。あるいは、ハニカム状多孔質体を調製した後これを適当なシャーレに置き、この上から血管内皮細胞を接種して増殖させて上面を血管内皮細胞で被覆させておいてから、この面を内面になるように筒状に成形してもよい。なお、培地組成や培養温度などの諸条件は通常の液体あるいは固体培地状で血管内皮細胞を培養する際の条件を採用すればよく、本発明の実施に当たって格別の操作は必要とされない。
【0040】
本発明においては、筒状のハニカム状多孔質体の外面をさらに血管平滑筋細胞で被覆することが好ましい。かかる被覆によって細胞外マトリックスを産生させることができ、より高機能の人工血管を製造することができる。
【0041】
血管平滑筋細胞による被覆は、例えば上記の内皮化と同様に適当な培地に1×10~ 1×10個の血管平滑筋細胞を懸濁させた懸濁液を筒の外面頂上部に接種して2時間静置後、筒を120℃回転させて再び細胞懸濁液を外面頂上部に接種して2時間静置するという操作を繰り返しながら、全体で12~72時間程度培養すればよい。この操作によって血管平滑筋細胞を筒状のハニカム状多孔質体の外面でコンフルエントになるまで培養させることが可能である。あるいは、ハニカム状多孔質体を調製した後これを適当なシャーレに置き、この上から血管内皮細胞を接種して増殖させて上面を血管内皮細胞で被覆させた後にハニカム状多孔質体の裏表を反転させて裏面を上に向け、ここに血管平滑筋細胞を接種して増殖させて裏面を血管平滑筋細胞で被覆させ、この面を外面になるように筒状に成形してもよい。なお、培地組成や培養温度などの諸条件は通常の液体あるいは固体培地状で血管平滑筋細胞を培養する際の条件を採用すればよく、本発明の実施に当たって格別の操作は必要とされない。
【0042】
上記のようにして製造される本発明の人工血管は、製造後適当な緩衝液、例えばリン酸緩衝液あるいは生理食塩水等に浸して、使用時まで保存することができる。
【0043】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0044】
1)ハニカム状多孔質体の作製
生分解性高分子であるポリ(ε—カプロラクトン)(PCL)(Wako M.W.70,000~100,000)と両親媒性ポリアクリルポリマーを重量比10:1で5mg/mlとなるようにクロロホルムに溶解した。この溶液4ml、8ml、11mlならびに15mlをカバーガラス(φ15mm)を敷き詰めたガラスシャーレ上にそれぞれキャストし、相対湿度80%の雰囲気下でクロロホルムを蒸発させ、孔径5μm、9μm、12μmならびに16μmの4種のハニカム状多孔質体(A~D)を作製した(図1-a~図1-d)。
【0045】
各フィルムの孔径、幹径および空孔率を走査型電子顕微鏡(SEM)写真を用いて測定した。孔径は垂直に交わる2直径の平均を求め、幹径は最も細い部位を測定した。空孔率は画像解析ソフトScion Image(Scion Corporation)を用いて測定した。空孔率については孔径約5μmのハニカムフィルムでは約2400μm2の範囲を測定し、孔径約9、12、16μmのハニカムフィルムでは約10,000μm2の範囲を測定した。
【0046】
【表1】
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【0047】
比較対象として、上記のポリマー溶液20μLをカバーガラス上にキャストした後、カバーガラスをスピンコーター(MIKASA 1H-D7)で1000 rpm30秒間回転させ全面をポリマーで被覆させることで、孔のないフラットフィルムを作成した。
【0048】
ハニカム状多孔質体A~Dと比較対象のフラットフィルムの接触角を、各薄膜上10μLの蒸留水をキャストし、30秒後の水の静的接触角を接触角計(ERMA G-1)を用いて測定したところ、フラットフィルムで73.9°であるのに対し、ハニカムフィルムでは約105°であった。
【実施例2】
【0049】
2)筒内面の内皮化
内径2mm(外径2.1mm)×長さ20mmのステンレスチューブに7mm×20mmのハニカム状多孔質体A~Dをそれぞれ別々に巻いて、筒状のハニカム状多孔質体4種類を成形した。これらをそれぞれシャーレに置き、筒底部内面に2×10個の血管内皮細胞を懸濁したDMEM培地100μlをピペットで接種した後、37℃、CO濃度5%のインキュベーター内で2時間静置した。各筒を円柱軸を中心に120℃回転させてから、上記と等量の細胞懸濁培地を筒底部内面に接種し、再び2時間静置した。この2時間おきの筒の回転と細胞懸濁培地の接種を繰り返しながら、24時間培養した。この培養によって、筒内面がコンフルエントになるまで増殖した血管内皮細胞によって被覆されたハニカム状多孔質体を含む人工血管4種類(人工血管A~D)を製造した。また、上記と同様の操作を比較対象であるフラットフィルムを用いて行った。
【0050】
血管内皮細胞は比較対象である筒状のフラットフィルム上で若干は増殖するものの、コンフルエントには達しなかった。一方、人工血管A~Dではいずれも血管内皮細胞が良好に増殖し、ほぼコンフルエントに達した。また、コンフルエントに達した後も培養を続けても血管内皮細胞は単層状態を保っていた。特に人工血管A(孔径5μmの孔を有するハニカム状多孔質体を含む人工血管)は最も高い血管内皮細胞増殖と細胞接着性を示した。人工血管Aの筒内部の部分拡大図(電子顕微鏡写真)を図2-aと図2-bに示す。
【実施例3】
【0051】
3)筒外面の被覆
2)の内皮化を行った人工血管Aをシャーレに置き、筒頂部外面に2×10個の血管平滑筋細胞を懸濁したDMEM培地100μlをピペットで接種した後、37℃、CO濃度5%のインキュベーター内で2時間静置した。筒状のハニカム状多孔質体を120℃回転させてから、上記と等量の細胞懸濁培地を筒頂部外面に接種し、再び2時間静置した。この2時間おきの筒の回転と細胞懸濁培地の接種を繰り返しながら、24時間培養した。この培養によって、筒内面がコンフルエントになるまで増殖した血管内皮細胞によって被覆され、かつ筒外面がコンフルエントになるまで増殖した血管平滑筋細胞によって被覆されたハニカム状多孔質体を含む人工血管を製造した。この人工血管の電子顕微鏡写真を図3-aと図3-bに示す。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1-a】実施例の1)で調製したハニカム状多孔質体A(孔径5μm)の部分拡大図(電子顕微鏡写真)である。
【図1-b】実施例の1)で調製したハニカム状多孔質体B(孔径9μm)の部分拡大図(電子顕微鏡写真)である。
【図1-c】実施例の1)で調製したハニカム状多孔質体C(孔径12μm)の部分拡大図(電子顕微鏡写真)である。
【図1-d】実施例の1)で調製したハニカム状多孔質体D(孔径16μm)の部分拡大図(電子顕微鏡写真)である。
【図2-a】実施例2)で調製した人工血管Aの筒内面の電子顕微鏡写真である。
【図2-b】実施例2)で調製した人工血管Aの筒内面の電子顕微鏡写真である。
【図3-a】実施例3)で調製した人工血管の筒外面の電子顕微鏡写真である。
【図3-b】実施例3)で調製した人工血管の筒外面の電子顕微鏡写真である。
図面
【図1-a】
0
【図1-b】
1
【図1-c】
2
【図1-d】
3
【図2-a】
4
【図2-b】
5
【図3-a】
6
【図3-b】
7