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明細書 :アルギニンとクーマリン色素から合成した蛍光性化合物

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5261710号 (P5261710)
公開番号 特開2008-195677 (P2008-195677A)
登録日 平成25年5月10日(2013.5.10)
発行日 平成25年8月14日(2013.8.14)
公開日 平成20年8月28日(2008.8.28)
発明の名称または考案の名称 アルギニンとクーマリン色素から合成した蛍光性化合物
国際特許分類 C07D 311/68        (2006.01)
FI C07D 311/68 CSP
請求項の数または発明の数 4
全頁数 10
出願番号 特願2007-034546 (P2007-034546)
出願日 平成19年2月15日(2007.2.15)
審査請求日 平成22年1月21日(2010.1.21)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504409543
【氏名又は名称】国立大学法人秋田大学
発明者または考案者 【氏名】辻内 裕
個別代理人の代理人 【識別番号】100110537、【弁理士】、【氏名又は名称】熊谷 繁
審査官 【審査官】砂原 一公
参考文献・文献 特開昭54-009273(JP,A)
調査した分野 C07D 311/00
CAplus(STN)
REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
特許請求の範囲 【請求項1】
アルギニンと4-ヒドロキシクーマリンを含む水溶液をマイクロ波照射して合成される、蛍光性合物。
【請求項2】
前記請求項1に記載の蛍光性合物を水中に含有してなる、水溶液。
【請求項3】
アルギニンと4-ヒドロキシクーマリンを水中で混合し混合溶液とする工程、
前記混合溶液に対してマイクロ波を照射する工程、
を備えた、蛍光性合物の製造方法。
【請求項4】
前記マイクロ波の照射を2分超行う、請求項に記載の蛍光性合物の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光性色素クーマリンを人工的に改変し、光エネルギー利用材料物質に応用するための、アミノ酸の一種であるアルギニンと色素クーマリンの一種である4-ヒドロキシクーマリンを原料として合成される化合物、及び、かかる化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
4-ヒドロキシクーマリン(ここでは単に4Cと略記場合あり)とは化1のような構造になっている単純ク-マリン化合物の一種である。
【0003】
【化1】
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常温では淡黄色もしくは淡茶色の結晶性粉末である。今日では、天然物また合成物として1,000 種類以上のクーマリン化合物が見出されている。中でも4-ヒドロキシクーマリンは、現在、誘導体のワーファリンが血液の抗凝固剤や殺鼠剤として用いられているように、構造が単純なため、多様な物質合成の可能性を持っている。単純クーマリンにはまた、化2に示すような、7-ヒドロキシ-4-メチルクーマリン(ここでは単に7Cと略記場合あり)なども存在する。
【0004】
【化2】
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クーマリンは、従来から香料などに応用されたり医学目的に使用されたりしてきたが、最近ではクーマリンの光吸収と発光特性を利用した有機色素レーザー材料などへの応用も多く試みられるようになってきた。また、近年、太陽エネルギー利用の新形態として注目されている色素増感太陽電池の増感剤となる効果的な物質がクーマリンの誘導体として実現された例も出てきているなど光エネルギー利用材料物質として工業的利用の可能性が広がりつつある。
【0005】
アルギニンは化3のような構造になっている塩基性アミノ酸の一種である。
【0006】
【化3】
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アルギニンは側鎖RがCH2CH2CH2NH(=NH)NH2であるα-アミノ酸で、荷電極性側鎖アミノ酸であり、塩基性アミノ酸である(蛋白質を構成するアミノ酸としては最も塩基性が高い)。側鎖Rの構造は通常のポリペプチドとは異なる高分子化合物を形成する材料となることを意味している。すなわち主鎖ではなく、側鎖のアミノ基を介して高分子化するポリアルギニン等の高分子材料となることを意味している。ポリアミノ酸にはまた、側鎖のカルボキシル基を介して高分子化するグルタミン酸など多様に存在し、食品、医薬品以外の材料系の応用例としては、生分解性プラスチックスや酵素硬化ハイドロゲル、インジェクション可能な生体材料として、細胞足場材料、DDSマトリックス、生医学用止血剤・接着剤等様々である。
【0007】
本発明で化学合成に用いるマイクロ波とは、波長0.3mm~30cm、周波数1GHz~1THzの電磁波を指し、マイクロ波の振動電場および振動磁場が物質中の永久・誘起双極子あるいは電荷と相互作用することにより、分子レベルで熱を発生し、物質を直接加熱する。化学反応系に利用した場合、迅速に、熱伝導および対流によらない均一な直接加熱、マイクロ波と相互作用をする物質のみの選択的加熱、パルス、連続照射による加熱モードの精密制御、といったことが可能である。また、反応器壁や物質移動の影響のない、また熱伝導の良否にかかわらない加熱が可能であり、外部熱源からの加熱では得られない精密な反応制御プロセスが構成できるものである。
【0008】
4-ヒドロキシクーマリンは、図1の曲線(a)に示すような光吸収スペクトルを有する。この光吸収特性は紫外部における光吸収が大きく太陽エネルギーの紫外線領域の光吸収には向いているが、可視領域における光吸収帯は少ない。主要な吸収ピークは二つ有りその波長帯は接近しているため、このままでは波長制御を要するメモリー等の利用には不向きである。7-ヒドロキシ-4-メチルクーマリンの場合は、図1の曲線(b)に示すような光吸収スペクトルを有する。この光吸収特性は紫外線領域の光吸収には向いていて、4-ヒドロキシクーマリンよりも少し長波長側に光吸収帯があるが可視領域における光吸収帯はやはり少ない。主要な吸収ピークは密集しているため、このままでは波長制御を要するメモリー等の利用には不向きである。
【0009】
したがって、太陽エネルギーの効果的な利用のための材料とするには光吸収帯が紫外~可視に広領域にあることが、メモリーなどの波長制御を要する材料とするには主要な吸収ピークが明瞭に分離したスペクトル特性を有する物質であることがそれぞれ必要である。
【0010】
また、レーザー材料等の光放射を利用する材料としては、蛍光スペクトルにおける励起発光ピークの制御が重要となる。より高エネルギーの放射エネルギーをもたらす材料とするにはより短波長にピークのある蛍光スペクトルすなわち励起発光スペクトルを有する物質であることが求められる。
【0011】
近年のマイクロ波によるクーマリンの誘導体合成の方法には、Stoyanovらが試みた、4-ヒドロキシクーマリンとアミン類の混合系へのマイクロ波照射と化学合成の例がある(非特許文献1を参照)。これは4-ヒドロキシクーマリンと第一級アミン類、第二級アミン類を混合しマイクロ波合成を試みたもので、4-ヒドロキシクーマリン分子の4位の水酸基(-OH基)が脱離しアミンが置換すること等を報告したものである。マイクロ波も電子レンジの利用で行なえる簡便な手法で行なえることが特徴である。
【0012】
研究レベルでは実用化に入ったマイクロ波合成化学の手法ではあるが、未だクーマリンの誘導体としてアルギニンとの合成を行なった例はない。
【0013】
クーマリン以外の色素とアルギニンの組み合わせによる技術開発の例は以下の3件ほどある。能田均と里園浩の発明による化学発光試薬及びそれを用いる過酸化水素の検出方法では、ダンシル系色素と有機合成によって出来るダンシルヒスタミン、ダンシルアルギニン、ダンシルアスパラギン等の化学発光試薬を用いて、過酸化水素の検出を実現するものである(特許文献1を参照)。また、ロッシュ ウォルター ジェイによる歯周病病原性細菌のタンパク質加水分解活性の測定系では、アルギニン含有化合物であるBANAを含むアルカリ性緩衝水溶液に色素生産性試験物質であるp-ニトロフェノールリン酸エステルを添加し、引き続く諸反応過程を経て微生物由来物質を発色団p-ニトロフェノール生成によって検出する方法である(特許文献2を参照)。三番目のブロンベルグ フレッドトウーレ、フリベルグ ジヤン オベ、グリンドレ ジヤンーオロフ ヴァルデマル、カンガスメツツエ ジヤリ ジユハニによるルミネセント又はルミノメトリック検定は前記第二の技術と類似しており、微生物由来物質と試験薬との反応によって発色団分子を生成検出する方法である(特許文献3を参照)。この中では第一の能田均と里園浩の技術において色素物質とアルギニンの化合物の有効性が示されている。ただし、利用目的が化学物質、特に過酸化水素の検出に限定されているのは、その化学反応性、すなわち、シュウ酸エステルを用いた過酸化水素の検出に用いるための分子中の化学発光色素と化学発光触媒機能に特化しているためである。その発明での請求項には二点あり、『請求項1 イミダゾール基又はグアニジノ基を有する触媒活性基と、発光色素団とを有することを特徴とする化学発光試薬。請求項2 前記発光色素団が、ダンシル系色素、ローダミン系色素、又はシアニン系色素である請求項1に記載の化学発光試薬。』とある。クーマリン色素は取り扱われておらず、材料工学的応用の道は示されていない。
【0014】

【特許文献1】特開平10-139406号公報
【特許文献2】特表平08-500241号公報
【特許文献3】特表平05-505513号公報
【非特許文献1】Edmond V. Stoyanov and Ivo C. Ivanov, Convenient Replacement of the Hydroxy by an Amino Group in 4-Hydroxycoumarin and 4-Hydroxy-6-methyl-2-pyrone under Microwave Irradiation, Molecule, 9 (2004) 627-631.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、単純クーマリン等のクーマリン色素を原材料とし、太陽エネルギーの効果的な利用のための材料となる光吸収帯が紫外~可視に広がった、従来存在しなかった新規物質、メモリーなどの波長制御を可能とする主要な吸収ピークが明瞭に分離したスペクトル特性を有する、従来存在しなかった新規蛍光性物質を製造することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の蛍光性化合物は、アルギニンとクーマリン色素から合成される物質により構成される。
前記アルギニンはアミノ酸である。
前記クーマリン色素は4-ヒドロキシクーマリン等化学合成可能な材料となるクーマリン類の化合物である。
前記蛍光性化合物はアルギニンとクーマリン色素から合成される1種類、もしくは複数種類の生成物から構成される物質群である
【0017】
上記課題は、以下の本願発明により解決される。
第1の本願発明は、アルギニンと4-ヒドロキシクーマリンを含む水溶液をマイクロ波照射して合成される、蛍光性混合物である。
の本願発明は、第の本願発明の蛍光性合物を水中に含有してなる、水溶液である。
の本願発明は、アルギニンと4-ヒドロキシクーマリンを水中で混合し混合溶液とする工程、前記混合溶液に対してマイクロ波を照射する工程、を備えた、蛍光性合物の製造方法である。
の本願発明において、前記マイクロ波の照射を2分超行うことが好ましい。

【0022】
本発明の蛍光性化合物の製造方法は、水もしくは有機溶媒中に溶解したアルギニンおよびクーマリン色素にマイクロ波を印加し高温高圧の条件下で合成させるものである。
【発明の効果】
【0023】
本発明は、アルギニンとクーマリン色素の混合溶液にマイクロ波を印加することによって、明瞭に分離した光吸収ピークを有する新規物質を合成する方法を提供するものであり、励起発光ピークの波長帯が原材料のクーマリン色素より短波長である新規蛍光性物質を得ることができる。
【0024】
この特徴的な新規蛍光性物質の発明によって、太陽エネルギーの効果的な利用のための材料となる光吸収帯が紫外~可視に広がった従来存在しなかった物質材料を提供可能であり、メモリーなどの波長制御を可能とする主要な吸収ピークが明瞭に分離したスペクトル特性を有する従来存在しなかった物質材料としての応用などが期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明者は、アミノ酸とくにアミノ基を二個以上有するアミノ酸とクーマリン類の官能基等の原子または原子団の脱離、置換等化学反応の可能性とその化合物の従来物質に比べての有利性について考察した。その結果、レチナールやレチノイン酸等の光捕集分子の構造と機能の相関に近い相関関係を有する物質の可能性を予測した。これはアミノ酸の一種のアルギニン分子の側鎖構造のもつ高分子化の可能性とクーマリンのパイ電子系の組み合わせによる予測である。すなわち、クーマリン分子本体のいずれかの原子団が脱離し、そこにアルギニンが結合すると電子密度分布の変化が大きく生成し、光吸収過程におけるエネルギー値に大きな変化が現れるのではないかと予測したのである。
【0026】
また、クーマリンとアミン類の化学合成に効果があるマイクロ波合成の方法は、前記予測による新規物質合成にも有効に働くのではないかと予測した。これは、アミノ酸はアミン類と機能は異なるが、構造上アミノ基を有していることがその理由である。
【0027】
以下、本発明による蛍光性化合物及びその製造方法について、図面を用いて詳細に説明する。
反応に用いたアミノ酸のアルギニンだけを含む水溶液の紫外可視光吸収は、207nm近傍の紫外部に吸収波長帯があるだけである。
【0028】
アルギニンと4-ヒドロキシクーマリンを1:1のモル比で混合した場合、両者は反応するかどうかを確かめる実験を行なってみた。すると、光吸収スペクトルは図1のような結果となった。図1は曲線(a)4-ヒドロキシクーマリンと曲線(b)7-ヒドロキシ-4-メチルクーマリンの紫外可視光吸収スペクトルを示すグラフ図である。1、2、3が4-ヒドロキシクーマリンの光吸収極大、4,5が7-ヒドロキシ-4-メチルクーマリンの光吸収極大である。0.05mM、0.1mM、0.2mMの三段階の濃度依存性を調べた結果、いずれも205nm,286nm,299nmに吸収極大が見られただけであり、これは、4-ヒドロキシクーマリンの極大波長206nm,286nm,300nmとほぼ一致しており、4-ヒドロキシクーマリンの存在が確認されただけである。アルギニンの光吸収帯と4-ヒドロキシクーマリンの205nmピークをもつ光吸収帯はほぼ重なっている。この実験結果からは、単に両者を混合しただけでは反応しないことがわかった。図1では、7-ヒドロキシ-4-メチルクーマリンの光吸収スペクトルも測定し載せた。 化1と化2で比較して分かるようにヒドロキシル基(-OH)の位置の違いが大きな違いとなって現れている。図1により7-ヒドロキシ-4-メチルクーマリンは波長290nmと322nmに主要な吸収帯があることがわかる。よくみると、322nmの吸収は4-ヒドロキシクーマリンにもある。これは基本的な分子構造由来である。
【0029】
次に、三段階の濃度の混合溶液をそれぞれ、容積15mL、最大耐圧1400kPaの高耐圧ガラスチューブ(Ace社製)に5mL入れ封印し、それぞれ別々にマイクロ波を4分間印加した場合について説明する。図5はマイクロ波印加装置の概略図である。1は電子レンジ本体、2は被照射物質を設置する部分、3はマイクロ波を発生させるマグネトロン、4は高耐圧ガラスチューブ、および5はビーカーである。マイクロ波印加装置には一般家庭用電子レンジ(2.45GHz約900W)を使用した。ビーカー5に入れた高耐圧ガラスチューブ4を電子レンジ1の被照射物質を設置する部分2に設置し、マイクロ波を照射した。反応前と反応後の光吸収スペクトルを図2に示す。曲線1は照射前、曲線2は2分間照射後、曲線3は4分照射後のそれぞれのスペクトルである、可視波長域には吸収は見られず、208nm,287nm,300nmに吸収極大が見られた。これは、4‐ヒドロキシクーマリンの極大波長207nm,286nm,299nmとほぼ一致しており、4-ヒドロキシクーマリンの存在が確認された。しかしながら、アルギニンと4-ヒドロキシクーマリンの吸収領域と、4-ヒドロキシクーマリンのみに特有の吸収領域の吸光度が減少し、253nmと331nm近傍の吸光度が増加している。これは、アルギニンと4-ヒドロキシクーマリンが、何らかの反応を起こして吸収極大がシフトしていると考えられた。
【0030】
このマイクロ波印加時間を2分で行なった場合、図2の曲線2に示したように、吸収スペクトルの変化が観察されたが吸収値の変化量は少なく、286nm,0.05mMにおいて、マイクロ波照射前後で、吸光度は、0.125下がった。4-ヒドロキシクーマリン水溶液の検量線を別途実験的に求め、0.01mM~0.04mMの濃度においては、吸光度をy、濃度をxとすると、関数y=54.44x+0.055で近似されることが分かっている。

よって、Δy=-0.125として、

Δy=-0.125=54.44Δx , Δx=-2.30×10-3mM

つまり、286nm,0.05mMにおいて、マイクロ波照射前後で4-ヒドロキシクーマリンは、2.30×10-3mM減少したことになり、全体の(2.30×10-3/0.05)×100=4.6%が反応したと考えられる。同様にして、0.1mMでは4.2%、0.2mMでは3.1%(吸光度が0.25~0.7を大きく越えているため誤差が大きい)となり、マイクロ波照射前後で、4-ヒドロキシクーマリンは、約4%近く反応したと考えられた。4分になると図2の曲線3に示したような劇的な変化が生じ90%以上が反応したものと考えられた。
【0031】
この反応の前後における光吸収スペクトルデータから差スペクトルを計算し、グラフ図化したものが図3である。図3はマイクロ波2分間及び4分間照射前後における、アルギニンと4-ヒドロキシクーマリンを含む水溶液の紫外可視光吸収差スペクトルを示すグラフ図である。曲線1,曲線4は濃度0.05mMの場合、曲線2,曲線5は濃度0.1mMの場合、曲線3,曲線6は濃度0.2mMの場合である。可視波長域には吸収は見られず、208nm,253nm,330nm近傍に吸収極大が見られた。これは、4‐ヒドロキシクーマリンの極大波長207nm,286nm,299nmと比べると短波長の208nmのみほぼ一致し、それ以外は一致せず、吸収極大のシフトが見られた。このことから、4-ヒドロキシクーマリンは、ほとんど存在していないと考えられ、ほとんどの4-ヒドロキシクーマリンが化学反応を起こし別の物質になったと考えられる。
【0032】
また、2分間照射の場合、約4%が反応したと考えられるが、4分間照射の場合、4-ヒドロキシクーマリンの吸収領域である286nm,300nm付近の吸収帯がほとんどシフトしているので、前述のようにほとんどが反応したと考えられ、照射時間2分間と4分間の間で大幅に反応割合が増加している。このことから、ある一定の高温高圧の条件でこの反応過程が急速に進むと考えられる。
【0033】
この反応をさらに続けて4分超行なうと、高耐圧ガラスチューブ4といえども耐え切れない圧力となり、破壊現象が起きることも確かめることができた。様々な条件で実験を試みたところ、以下の事象が確認できた。
【0034】
ビーカー5に高耐圧ガラスチューブ4をそのまま入れた場合は4分の照射でほぼ反応物は全て生成物となり、その後は化学反応にエネルギーが消費されることがないために高耐圧ガラスチューブ4内のエネルギーの充満によって圧力が一気に上昇し破壊現象が起きる。
【0035】
ビーカー5内に酸化アルミニウムの粉末を敷き詰めて同様の反応を行なった場合、約半分の2分間の照射で反応生成物が飽和し、破壊現象が始まる。これはマイクロ波のエネルギーの反応物への効率的な伝達が起きるためであると考えられる。
【0036】
反応生成物は10ヶ月以上の長期間保存しておいても安定しており元のアルギニンと4-ヒドロキシクーマリンに戻ることはなかった。
【0037】
この化学合成で得られる合成物の大きな特徴は、吸収スペクトル上ふたつある。ひとつは最大長波長吸収極大が300nm→324nmへと長波長側へシフトしている点、もうひとつは253へ短波長シフトしている点である。これは、分子の鎖の長さが長くなると、電気的対称性の変化によって光吸収過程に大きな変化が生じ、吸収極大波長が長波長側へシフトするという特徴がある、という考察から、4-ヒドロキシクーマリンとアルギニンが反応し、鎖の長さが長くなったためであると考えられる。また、非特許文献1で報告されているマイクロ波の照射下における、アミンの-NH基による4-ヒドロキシクーマリンのヒドロキシル基(-OH)との置換反応と同じように、マイクロ波による熱触媒作用により、アルギニンの-NH基と、4-ヒドロキシクーマリンのヒドロキシル基とが脱水を伴う置換反応を起こしたのではないかと考えられる
【0043】
次に得られた生成物アルギニルクーマリンの励起発光スペクトルを測定したところ、図4のようになった。曲線1はマイクロ波照射前のアルギニンと4-ヒドロキシクーマリンの混合物の励起発光スペクトルである。曲線2は生成物アルギニルクーマリンの励起発光スペクトルである。反応前は374nm近傍に発光強度の極大があるが、生成物アルギニルクーマリンの発光強度極大点は348nmに26nmも短波長シフトしていることが分かった。よって生成物アルギニルクーマリンには元の4-ヒドロキシクーマリンよりも高エネルギーの光量子が放出される性質が備わっていることが明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0044】
以上の段階的な実験研究を通して発見したことは、アルギニンと4-ヒドロキシクーマリンのマイクロ波による合成生成物の光吸収特性および励起発光特性はフォトニクス材料の出発材料となるということである。アルギニンと4-ヒドロキシクーマリンとは大きく異なり、太陽エネルギーの効果的な利用のための材料ならびにメモリーなどの波長制御を要する材料となる条件としての主要な光吸収ピークの明瞭な分離型スペクトル特性を有する物質であるということである。
【0045】
前述したように、産業上の利用可能性としては、香料や医薬品の原料の他、クーマリンの光吸収と発光特性を利用した有機色素レーザー材料、太陽エネルギー利用の新形態として注目されている色素増感太陽電池の増感剤が考えられる。また、側鎖のアミノ基を介して高分子化するポリアルギニンとして色素クーマリン類と反応生成物を得るようにすれば、得られる性能はより特徴が顕著に出ると予想されるため、機能性高分子材料となることを意味している。生分解性プラスチックスや酵素硬化ハイドロゲル、インジェクション可能な生体材料の蛍光性の新規材料として、細胞足場材料、DDSマトリックス、生医学用止血剤・接着剤等となりうる可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】7-ヒドロキシ-4-メチルクーマリンと4-ヒドロキシクーマリンの紫外可視光吸収スペクトルを示すグラフ図である。
【図2】アルギニンと4-ヒドロキシクーマリンを含む水溶液の紫外可視光吸収スペクトルを示すグラフ図である。
【図3】アルギニンと4-ヒドロキシクーマリンを含む水溶液の紫外可視光吸収差スペクトルを示すグラフ図である。
【図4】アルギニンと4-ヒドロキシクーマリンを含む水溶液のマイクロ波照射前と照射後における励起発光スペクトルを示すグラフ図である。
【図5】マイクロ波印加装置の概略図である。
【符号の説明】
【0047】
1 電子レンジ本体
2 被照射物質を設置する部分
3 マグネトロン
4 高耐圧ガラスチューブ
5 ビーカー
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4