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明細書 :気体燃料インジェクタの瞬間流量計測方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5103600号 (P5103600)
公開番号 特開2009-014676 (P2009-014676A)
登録日 平成24年10月12日(2012.10.12)
発行日 平成24年12月19日(2012.12.19)
公開日 平成21年1月22日(2009.1.22)
発明の名称または考案の名称 気体燃料インジェクタの瞬間流量計測方法
国際特許分類 G01F   1/50        (2006.01)
G01F   1/34        (2006.01)
FI G01F 1/50
G01F 1/34 A
請求項の数または発明の数 2
全頁数 20
出願番号 特願2007-179982 (P2007-179982)
出願日 平成19年7月9日(2007.7.9)
審査請求日 平成22年6月24日(2010.6.24)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504145364
【氏名又は名称】国立大学法人群馬大学
発明者または考案者 【氏名】荒木 幹也
【氏名】藤原 康裕
【氏名】志賀 聖一
【氏名】石間 経章
【氏名】小保方 富夫
個別代理人の代理人 【識別番号】100122884、【弁理士】、【氏名又は名称】角田 芳末
【識別番号】100133824、【弁理士】、【氏名又は名称】伊藤 仁恭
審査官 【審査官】松浦 久夫
参考文献・文献 国際公開第2006/104176(WO,A1)
特表2006-504038(JP,A)
調査した分野 G01F 1/34 - 1/50
特許請求の範囲 【請求項1】
気体燃料インジェクタから、気体燃料を計測管内に噴射する工程と、
計測管内に設けた小孔を通して、圧力計測器によって計測管内の静圧を計測する工程と、
前記圧力計測器で計測された静圧から、気体燃料の密度及び速度並びに音速を計算する工程と、
前記圧力計測器で計測した静圧を、管摩擦による圧力勾配で補正する工程と、
前記管摩擦による圧力勾配で補正された静圧を所定の演算式に代入することにより、気体燃料の流量質量(噴射率)を演算する工程と、
を含む気体燃料インジェクタからの気体燃料噴射率の計測方法。
【請求項2】
前記所定の演算式は次式によることを特徴とする請求項1に記載の気体燃料インジェクタからの気体燃料噴射率の計測方法。
JP0005103600B2_000022t.gif(ただし、Aは計測管の断面積(m)、ρ(t)は気体燃料の密度(kg/m)、u(t)は気体燃料の流速(m/sec)、γは比熱比(無次元の断熱係数)、P(t)は計測管内の圧力(Pa)、P=P(0)、ρ=ρ(0)である。)
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、気体燃料インジェクタから噴出する気体燃料の各時刻における噴射率(「質量流量」ともいう。)を精度よく計測する気体燃料インジェクタの瞬間流量計測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車用燃料として、ガソリン、軽油等の液体燃料のほか、水素、圧縮天然ガス(CNG:Compressed Natural Gas)に代表される気体燃料が注目されている。特に、CNGは、(i)単位発熱量当たりのCO排出量が少ないこと、(ii)硫黄分をほとんど含まないため硫黄酸化物(SOX)の排出がないといった利点から、これを自動車用燃料として用いる動きが進んでいる。水素、CNG等の気体燃料を自動車エンジンに用いる場合は、従来のガソリン・軽油と同様に、吸気ポートあるいはシリンダー内へ、燃料インジェクタ(燃料噴射弁ともいう)から水素、CNGを噴射させなければならない。
この水素、CNG等の適用範囲は極めて広く、吸気管噴射火花点火機関、筒内直接噴射火花点火機関、筒内直接噴射圧縮点火機関など、多岐に渡って検討が進められている。
【0003】
燃料インジェクタの噴射率(単位時間当たりの燃料噴射量:m/secあるいはg/sec)は、機関性能に大きな影響を及ぼすので、この噴射率の正確な測定は燃料インジェクタならびにエンジンの設計においてきわめて重要な要素となる。ガソリンや軽油等の従来の液体燃料に関しては、多くの燃料噴射率計測法が存在している。中でも、噴射した燃料を一定断面積の管内に導き、一次元の流れと仮定して噴射率の計測を行う「ボッシュ式噴射率計」は広く利用されている(例えば、非特許文献1を参照。)。
【0004】
このボッシュ式噴射率計は、噴射された燃料を,一定断面積のパイプ内に噴射し,パイプ内の圧力上昇から燃料の流量を求める方法である。これは、燃料ノズルから計測管の中に燃料を噴射した場合、噴射率(m/sec)が管の断面積(m)に流速(m/sec)を乗じたものであるという原理を利用している。すなわち、噴射ノズルから噴射された燃料が細い管を流れる場合、それによるパイプ内の圧力上昇が生じ、この圧力上昇を測定して燃料の瞬間的な流量を求める方式である。
【0005】
しかしながら、ボッシュ式噴射率計は、液体燃料の測定には用いることができるものの、水素、圧縮天然ガス(CNG)等のような気体燃料に用いることはできなかった。すなわち、このボッシュ式噴射率計を気体燃料インジェクタに適用した場合、気体特有の圧縮性、つまり圧力変化とともに密度が変化する性質、及びレイノルズ数の増大による管摩擦の増大等のため、流量の測定が不可能となるという問題があった。
【0006】
このため、発明者らは、ボッシュ式燃料噴射率計と同様な手法で、噴射した気体燃料の一次元の流れを作り、その静圧変動から気体燃料インジェクタからの噴射率を求める手法を提案している(特許文献1を参照)。
【0007】
特許文献1に記載の気体燃料噴射率計は、電磁弁が開閉制御される気体燃料インジェクタに、計測管を接続し、さらにこの計測管に反射波を除去するための延長管を設ける構成になっている。そして、計測管に設けた小孔に密接配置された圧力計測計により計測管内の圧力を測定し、この圧力を所定の変換式で気体燃料の流量に変換して、気体燃料の噴射率を求めるものである。
【0008】

【非特許文献1】林 洋「ボッシュ式噴射率計」(内燃機関7巻12号58~64頁)
【特許文献1】国際公開パンフレット WO2006/104176
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1で開示された気体燃料噴射率計では、測定の精度という点で十分なものではなかった。つまり、すでに提案した特許文献1に記載の装置では、10%程度の計測誤差が避けられないという問題があり、この誤差をできる限り少なくするための工夫が求められていた。
【0010】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、測定誤差を少なくするための工夫として、(1)気体燃料が噴射される計測管内の静圧変動から噴射率を算出する関係式を改善する、及び(2)管摩擦による圧力勾配に基づいて計測された静圧の補正を行う、ことにより、気体燃料噴射率計の精度向上を図ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決し、本発明の目的を達成するため、請求項1に係る発明は、気体燃料インジェクタから、気体燃料を計測管内に噴射する工程と、計測管内に設けた小孔を通して、圧力計測器によって計測管内の静圧を計測する工程と、圧力計測器で計測された静圧から、気体燃料の密度及び速度並びに音速を計算する工程と、圧力計測器で計測した静圧を管摩擦による圧力勾配で補正する工程と、管摩擦による圧力勾配で補正された静圧を所定の演算式に代入することにより、気体燃料の噴射率(質量流量)を演算する工程と、を含む気体燃料インジェクタからの気体燃料噴射率の計測方法である。
【0012】
また、請求項2に記載された発明は、請求項1に記載の発明における、所定の演算式を次式に限定するものである。
JP0005103600B2_000002t.gif(ただし、Aは計測管の断面積(m)、ρ(t)は気体燃料の密度(kg/m)、u(t)は気体燃料の流速(m/sec)、γは比熱比(無次元の断熱係数)、P(t)は計測管内の圧力(Pa)、P=P(0)、ρ=ρ(0)である。)
【発明の効果】
【0013】
本発明の気体燃料噴射率の計測方法によれば、従来方式において用いられる噴射率(質量流量)を求める計算式を改善し、かつ管摩擦による圧力勾配により補正された静圧を求めることにより、実際の噴射率と計測される噴射率との誤差を極めて少なくすることができる。これにより、従来、実用化レベルまでに到達していなかった噴射率の計測を、実用化レベルにまで大幅に改善することができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面に基づいて本発明の一実施の形態である気体燃料の瞬間流量計測方法について説明する。
特許文献1に記載された発明と同様に、本発明の基本的な構成は、ボッシュ式燃料噴射率計と類似している。すなわち、本発明の方法を実施する場合でも、一次元の流れを仮定し噴射率を求めるという点でボッシュ式燃料噴射率計と共通点を有している。
【0015】
<気体燃料噴射率計の説明>
まず、本発明方法の実施形態の例を説明する前提として、本発明方法を実施するための装置構成(以下、簡単に「本例」と略記することもある。)について説明する。
図1は、本発明方法を実施する上で用いられる気体燃料瞬間流量計の概略を示す模式図である。本例の気体燃料流量計は、ガスボンベ1と、このガスボンベ1に接続されるバッファチャンバ2と、バッファチャンバ2を介して燃料ガスが導かれる気体燃料インジェクタ3と、圧力計測器4と、気体が流入する計測管5と延長管6から主として構成される。そして、気体燃料ガスを計測管5に供給するため、気体燃料インジェクタ3の不図示の開閉弁をソレノイドで開閉制御するインジェクタドライバ7と、インジェクタドライバ7に矩形波パルスを供給するファンクションジェネレータ8を備え、さらにファンクションジェネレータ8から発生する波形を観察するとともに、圧力計測器4で計測される計測管内の圧力を観察するための、デジタルオシロスコープ9を備えている。このオシロスコープ9は特にデジタル用である必要はなく、アナログ用のものであっても差し支えない。
【0016】
図2は、本例に用いられる気体燃料インジェクタ3と圧力計測器4の部分をより詳細に示した図である。図2(a)は、気体燃料インジェクタ3と圧力計測部4の全体構成を示す概略図であり、図2(b)は、図2(a)の側断面図(図2(c)のB-B断面図)、図2(c)は、図2(b)のA-Aで示す部分の断面図である。
【0017】
気体燃料インジェクタ3は、燃料注入部31、電磁弁開閉部32、燃料噴射部33から構成されている。また、計測管5には小孔(静圧孔)42が設けられており、この小孔42に密接して圧力計測部4の圧力変換器41が配置されている。圧力変換器41の内部には、圧電素子43が設けられている。気体燃料インジェクタ3はフランジ11により、また、圧力変換器41はフランジ12aによって不図示の基台に固定されている。
【0018】
次に、図1及び図2に基づいて、本例の気体燃料の瞬間流量計測装置の動作を説明する。
図1において、ガスボンベ1からの気体燃料は,図の矢印Aにそってバッファチャンバ(圧力容器)2に導かれる。バッファチャンバ2は、ガスボンベ1から供給される気体燃料の脈動を除去するために設けられたものであり、バッファチャンバ2から供給される気体燃料ガスの圧力はほぼ一定とされて、気体燃料インジェクタ3に供給される。
【0019】
図2に示されるように、気体燃料インジェクタ3の電磁弁開閉部32内には、不図示の電磁弁が設けられ、この電磁弁がインジェクタドライバ7からの制御信号に基づいて開閉される。ここで、1回の噴射における電磁弁の開弁期間は、数msec~数10msecである。この電磁弁の開閉により、バッファチャンバ2から気体燃料インジェクタ3に供給される気体燃料は、燃料噴射部33から計測管5内に噴射される。ここで、燃料噴射部33の噴射口は径1~2mmφであり、計測管5の内径は8mmφ(断面積は一定)とされ、長さは100mm程度とされる。
【0020】
通常、気体燃料インジェクタ3から計測管5に同じ質量の燃料を噴射する場合、液体燃料の場合と比較して大雑把にいってその体積は1000倍となる。このため、計測管5内の気体燃料の速度も1000倍となるので、この速度を低くするために、燃料インジェクタの噴射口の径1~2mφに対して計測管5の内径を8mφと大きくしている。この径の急な拡大により、断面積は16倍以上になるので、計測管5内の流れは大きく乱れる。つまり乱流が発生する。このため、特許文献1に記載された発明では、テーパ状または開口が次第に大きくなる階段状のノズル10が設けられている。このノズル10を設けることにより、計測管5内の圧力振動がなくなった。
【0021】
このように、本例ではテーパ状または階段状のノズル10を設けているが、ノズル10を設けることにより、別の問題が発生する。つまり、気体燃料のインジェクタの噴口径にあわせて、その都度テーパノズル10を交換する必要があること、また、テーパノズル10内で流れが加速するため、圧力が上昇しすぎて「オーバーシュート」を生じる場合があることである。
【0022】
このように、テーパ状のノズル10は、圧力振動をなくすという利点がある反面で、上記のような欠点を備えているため、本発明の他の実施例として、ノズル10を設けることなく、圧力振動を減らす方法が考案されている。すなわち、テーパノズル10を用いない場合、流れの乱れによる圧力振動は、50kHz以上のオーダの比較的高い周波数帯に現れることが分かっている。このため、取得したデータを「ローパスフィルタ処理」をするか、「移動平均処理」をすることにより、圧力振動を取り除くことが可能となるのである。
【0023】
ここで、「移動平均処理」とは、隣接データを用いた平均法を意味する。すなわち、後述するように、計測管内の圧力振動は、圧力センサ(図2参照)で検出され、デジタルオシロスコープで、例えば2μ秒ごとにサンプリングされて、時系列データとして取得される。こうして得られるデータの振動が激しい場合には、ある時刻の前後、例えば10μ秒分(前後5点)のデータを平均することにより、細かな変動を除去することができる。このような処理をすることにより、ローパスフィルタと同様の効果を得ることができるのである。
【0024】
また、図2において、計測管5には、噴射口から100mm下流の位置に、直径1mmφ程度の小孔(静圧孔)42が設けられており、この小孔42には圧力変換器(圧力センサ)41が密着配置されている。この圧力変換器41としては、例えばピエゾ式圧力センサ(Piezotronics,H112A22)が用いられ、計測管5内の静圧が計測される。すなわち、気体燃料が計測管5内に噴射されることにより、計測管5内に圧力波が生じ、計測管5内の圧力は変動するのであるが、この圧力変動が圧力変換器41によって検出される。この圧力変換器41からの信号は、デジタルオシロスコープ9(Recroy社製、WR6030A)によって記録される。
【0025】
さらに、本例においては、計測管5の下流には延長管6が取り付けられている。この延長管6の直径は計測管5と同じ8mmφであり、長さは4mと長いものである。このように、延長管6の長さを長いものとしているのは、計測管5の圧力計測部における反射波の影響を無くすためである。つまり、燃料噴射に伴う圧力波は、延長管6の下流端で反射し計測管5の圧力計測部分に反射波として戻ってくる。この反射波が燃料噴射にともなう通常の圧力波に重畳すると測定が不可能となるので、反射波到達までの時間を稼ぐため、延長管6が設けられるのである。なお、この延長管6の下流端は大気に開放してもかまわないし、あるいは延長管6の下流端に背圧弁13を設置して流量をしぼることで、計測管5ならびに延長管6内の静圧が均一に上昇し、エンジンシリンダー内の高圧条件下への燃料噴射を模擬することもできる。
【0026】
<定式化の説明>
本発明の実施形態で用いられる気体燃料の瞬間流量の計測において、圧力変換器41で検出される圧力から、気体燃料の噴射率(単位時間当たりの瞬間流量)を導出する数式に特徴があるので、以下、その数式を導出する方法について、図3を参照しつつ説明する。
【0027】
本発明における瞬間燃料の導出方法を説明するため、以下の理論では、一次元・圧縮性・非粘性であり、かつ断熱的な流れであると仮定する。
図3は、計測管5内の圧力波の伝播と、各気体変数の変化を示した模式図である。X軸は流れの方向であり、インジェクタから噴射された気体燃料の移動距離を示している。tは時間である。計測管5の断面積をA(m)とし、気体の速度(流速)、音速、静圧、密度、静温、全温をそれぞれ、u(m/sec)、a(m/sec)、P(kPa)、ρ(kg/m)、T(K)、T(K)で示す。ここで、全温とは、熱エネルギーと運動エネルギーの総和であり、静温とは、全温から運動エネルギー分を引いた温度をいう。したがって、静止していた気体燃料が噴射され運動を開始すると、熱エネルギーが運動エネルギーに変換されるため、静温は、全温に比べて低い温度となる。
【0028】
まず、気体が、インジェクタから計測管5内に微小速度duで流入するとする。これによって、物質境界(図3の領域2と領域3の境界)前方の気体(領域3)は圧縮され、音速aで圧縮波が伝播する。圧縮波の背後にある気体の速度はduとなる。微小時間dt後に、物質境界は、距離dudtまで到達する。これが領域2である。このとき圧縮波は距離adtまで到達する。ここで、流れの場は以下の領域1~領域4に分けられる。
領域1:インジェクタ噴口より上流の、よどみ点状態の気体の領域であり、インジェク タ3の内部領域である。
領域2:インジェクタから噴射され、計測管5内に導かれた気体の領域である。
領域3:もともと計測管5内にある気体が、インジェクタから噴射された気体燃料によ り圧縮された領域である。
領域4:もともと計測管5内にある気体であるが、インジェクタから噴射された気体燃 料の影響を受けていない領域である。
【0029】
特許文献1に開示した発明では、領域2と領域3の間で、全ての変数が連続であると仮定して計算式を導出したが、実際には、領域2と領域3の間には物質境界があるので、音速aと密度ρ、静温Tが不連続となる。本発明の実施形態例では、これらパラメータの不連続性を考慮して新しい定式化を試みた。
【0030】
以下、本例で用いる定式を導く過程について説明する。本例では、領域1から領域2の間で、インジェクタから計測管5内に気体が噴射されると、流速u、音速a、静圧P、密度ρ、静温Tが図3に示すように変化する。また、領域2と領域3の間では、力学的平衡条件及び連続条件から速度uと静圧Pは等しい値となる。一方、この領域2と領域3の間では、静温Tは一致しない。これは、領域2の気体はインジェクタから噴出して膨張した気体であるため、静温が下がりながら加速していく。これに対して領域3の気体はもともと計測管5内にあった気体であり、噴射された気体燃料で圧縮され圧力が増大するため、静温Tは上昇する。この気体の圧力と密度、温度の関係は気体の状態方程式(P=ρRT:Rは気体定数)が成立する。このため、領域2と領域3の間では、音速aと密度ρも不連続となる。そこで、領域2における音速、密度、静温をそれぞれa´、ρ´、T´と置き、以下の定式の導出を進めることとする。
【0031】
なお、領域3と領域4の境界部分は圧力波の波面となっている。このため、領域3と領域4の間ですべての変数は微小変化する。領域1と領域4においては、気体の速度uはともに“0”となるので、静温T(u=0であるので静温Tは全温Tと同じ。)は一致している。
【0032】
以上の前提条件の下で、領域1の気体燃料インジェクタ3から計測管5内の領域2に気体が流入する。このため、もともと計測管内にあった気体は、長さadt(領域2と領域3を足した長さ)から領域3の長さ(a-du)dtに変化する。このように、噴射された気体燃料により、もともと計測管内にあった気体の体積は圧縮されるが、圧縮の前後でもその質量は変わらないため、(1)式が成立する。
【数1】
JP0005103600B2_000003t.gif
すなわち、ρ(kg/m3)、a(m/sec)、A(m2)、dt(sec)であるから、ρaAdtの次元は(kg)であり、質量の次元となっている。
【0033】
続いて、圧力波面(領域3と領域4の境界)前後の運動量の変化が力積は等しいことから、(2)式が成立する。すなわち、圧力波の波面から見て領域3側の圧力は(P+dP)であり、領域4の圧力はPであるから、(2)式の左辺は、単位時間当たりの波面を押す力積(N・sec)となる。一方、(2)式の右辺は、単位時間当たりの質量ρaA((kg/m)*(m/sec)*(m)*sec=kg)と波面前後における速度変化の積(運動量変化)である。すなわち、領域4の運動量はρaA*a(ρaAは単位時間当たりの移動質量、aは音速)から、領域3の運動量は、ρaA*(a-du)を減算した値である。
【数2】
JP0005103600B2_000004t.gif
この(1)式と(2)式から、二次の微小項を省略して演算することにより、(3)式が成立する。
【数3】
JP0005103600B2_000005t.gif

【0034】
この(3)式から分かるように、速度変化duは、静圧変化dPを、音速aと密度ρの積で割った値となる。この音速aと密度ρの積は、音響インピーダンスと呼ばれる値である。ボッシュ式の液体燃料噴射率計では、この値は定数として定式化されているのであるが、本例のような圧縮性流体では、音速aも密度ρも共に変数であり、時間とともに変化する値となる。
【0035】
以降は、全ての関数を時間の関数として表すこととする。したがって、(3)式は(4)式として書き表すことができる。
【数4】
JP0005103600B2_000006t.gif

【0036】
この(4)式の両辺を積分すると、最終的に計測管5内の静圧と速度の関係式を得ることができる。本発明の実施形態例で、計測されるのは計測管5内の圧力のみである。このため、(4)式の中の音速a(t)と密度ρ(t)を、管内静圧P(t)の関数として表す必要がある。
計測管5内では、断熱変化が成り立ちうるから、(5)式が成立する。
【数5】
JP0005103600B2_000007t.gif
但し、γは比熱比、P、ρは、計測管5内の初期静圧と初期密度である。(5)式から、ある時刻tにおける密度ρ(t)は、(6)式で求められる。
【数6】
JP0005103600B2_000008t.gif

【0037】
一方、(2)式から、音速a(t)は、(7)式として表すことができる。
【数7】
JP0005103600B2_000009t.gif

【0038】
(6)式を(7)式に代入すると、(8)式が成立する。
【数8】
JP0005103600B2_000010t.gif
(6)式と(8)式より、密度ρ(t)と音速a(t)は、計測管5内の圧力P(t)として表すことが可能となる。
【0039】
(6)式と(8)式を(4)式に代入すると、(9)式が成立する。
【数9】
JP0005103600B2_000011t.gif
この(9)式を積分すると、(10)式が成立する。
【数10】
JP0005103600B2_000012t.gif
ここで、Cは積分定数であるが、(10)式で、時刻t=0のとき、速度u(0)=0、計測管5内の静圧P(0)=Pであるから、この初期値を代入して、(10)式を書き直すと、(11)式になる。
すなわち、各時刻tにおける速度u(t)は、計測管5内の圧力P(t)のみの関数として表すことができる。
【数11】
JP0005103600B2_000013t.gif

【0040】
したがって、計測管5内で計測された圧力P(t)を(11)式に代入することにより、各時刻tにおける気体の速度u(t)を求めることができる。
【0041】
一方、気体燃料噴射率m(t)は、図3の領域1と領域2の間を通過した気体の瞬間流量であり、(12)式で表すことができる。ここで、(12)式では、m(t)が瞬間流量を表す意味でmの上にドット(・)を付けている。
【数12】
JP0005103600B2_000014t.gif
ここで、ρ´(t)は領域2における気体燃料の密度であるが、このρ´(t)を、計測管5内の圧力P(t)の関数として表す必要がある。
そこで、領域1と領域2の間でのエネルギー保存側を考慮すると、(13)式が成立する。
【数13】
JP0005103600B2_000015t.gif
但し、Tは初期静温(=全温)、Rは気体定数である。
【0042】
この(13)式から、領域2の密度ρ´(t)は、(14)式で表すことができる。
【数14】
JP0005103600B2_000016t.gif
したがって、各時刻における気体燃料噴射率m(t)は、(11)式、(12)式及び(14)式より、(15)式として求めることができる。
【数15】
JP0005103600B2_000017t.gif
すなわち、気体燃料噴射率m(t)は、計測管5内の静圧P(t)のみの関数となる。
この(15)式を見ると分かるように、気体燃料噴射率m(t)の算出において、インジェクタの上流(図3の領域1)の情報は一切必要とされない。
もともと計測管5内にあった気体の変数初期値と、噴射後の計測管内の静圧変化のみで気体燃料の噴射率の計測が可能となることが分かる。
【0043】
一般に、液体燃料の場合には、噴射率は体積流量で表記されるが、気体燃料の場合は、温度・圧力とともに体積が変化するので、気体燃料噴射率は質量流量として表記するのが一般的である。
本発明の実施形態例では、気体燃料噴射率(質量流量)m(t)を上記導出した計算式(15)を用いてもとめることになる。したがって、計測管5内の静圧測定が極めて重要になる。
【0044】
<計測管内の静圧履歴の説明>
図4は、入力電圧に対する静圧の時間的な変化を示したものである。図4(a)は、インジェクタの開弁、閉弁信号を示し、図4(b)はそのときの計測管5内の静圧を示している。横軸は時刻t(ms)である。ここでは、開弁信号の入力時刻tをゼロとしている。噴射時間τは20msである。計測管5の静圧の初期値は、P(0)=P0=101(kPa)である。
図4(a)は、ファンクションジェネレータ8からインジェクタドライバ7に与えられる矩形信号である。また、図4(b)は、この矩形信号が気体燃料インジェクタ3に供給されたときの、圧力計測部分の圧力変化をデジタルオシロスコープ9で見た波形図である。
【0045】
図4に示すように、時刻t=0(ms)で開弁信号が入力されると、約2msの時間遅れで、計測管内の静圧Pが急激に上昇する。すなわち、インジェクタからの気体燃料の噴射開始に伴って、計測管5内の気体が圧縮され、静圧PがΔPだけ上昇する。この静圧Pの上昇が始まるまでの時間遅れは、開弁信号の入力から気体燃料噴射開始までにかかる時間遅れによるものである。静圧上昇に要する時間は約0.5msである。この期間は、インジェクタの開弁過渡期間であり、インジェクタ内部の電磁弁陽程が増大していき、全開になるまでに要する時間である。
【0046】
時刻t=3ms以降は、計測管5内の静圧がさらにΔPだけ上昇する。この期間は、インジェクタ全開の定常噴射となっており、計測管内の静圧Pも一定であるべきである。この静圧の上昇は管摩擦によるものと考えられる。この静圧の上昇については、補正が必要となるが、これについては後述する。
【0047】
次に、時刻t=20msで閉弁信号が入力されると、約1msの時間遅れを経て、計測管5内の静圧Pが急激に減少する。これは、インジェクタからの気体燃料の供給が止まり、計測管5内の気体が膨張するため、静圧Pが下がるからである。この静圧Pの減少に要する時間は約1msである。
この期間はインジェクタの閉弁過渡期間であり、インジェクタ内部の電磁弁陽程が減少して全閉になるまでの時間である。
【0048】
次に、時刻t=22ms以降は、計測管5内の静圧Pは、初期値P0よりやや大きな値となっている。この期間は、インジェクタが全閉期間であり、噴射率はゼロとなっている。この期間の静圧Pの初期値Pからのずれも管摩擦によるものと考えられる。
【0049】
時刻t=27msでは、計測管5内の静圧Pは減少を開始する。もちろん、この期間、インジェクタは動作していない。この静圧の減少は、延長管6(図1参照)の下流端で生じた反射波が、計測部まで戻ってきたことによるものである。このように反射波が重畳すると、もはや圧力の測定は意味をなさなくなるので、すべての計測は反射波が戻ってくるまでの間に行う必要がある。
【0050】
<管摩擦補正に関する説明>
図4の静圧の変化ΔPは管摩擦によって生じると説明したが、この管摩擦を補正する方法について、図5に基づいて説明する。図5(a)は、計測管5(図2参照)内の管摩擦による圧力勾配を示した模式図である。図5(a)に示した計測管5の最上流が気体燃料インジェクタ3からの噴射面であり、図3の領域1と領域2の境界に対応している。
【0051】
図4(b)に示したように、インジェクタの開弁によって、気体燃料が計測管5内に流入すると、これにより圧縮波が計測管5内を伝播して行き、計測管5内の静圧がΔPだけ上昇する。その後、インジェクタは全開となり、定常噴射期間となる。この燃料噴射によって、圧縮波が到達した範囲内にある気体は徐々に乱流状態に遷移していく。
【0052】
本例の場合のように、気体燃料を計測管5内に噴射すると計測管5内の気体のレイノルズ数Reは数万にも達する。このようにレイノルズ数Reが大きい場合には、計測管5内で流れが乱れるため管摩擦が発生する。
図5(b)は、計測点における静圧の時間変化を示している。気体燃料インジェクタ3から気体燃料が噴射して所定時間経過すると、静圧PがΔPだけ上昇する。その後、噴射が継続している間は、徐々に圧力が上場し続ける。この間の静圧の上昇分がΔPである。この図5(b)は図4(b)に対応しており、微小時間dtの間に、静圧がdPだけ変化することを示している。これは、図5(a)に示した管摩擦による圧力勾配dP/dxに依存して発生するものである。
【0053】
図5(b)に示されるように、定常的な噴射期間であっても、計測管5内の位置によって静圧Pが異なってしまう。つまり、静圧Pの計測を行う計測管5内の静圧Pは、上流は高く下流は低くなる。このように、管摩擦が発生することにより、管内の静圧が増大すると、見かけの質量流量が増大してしまうため、計測管内の静圧の計測が困難となる。
【0054】
ここで管摩擦による圧力勾配dP/dxと静圧時間変化dP/dtの関係を考える。ある微小区間dxの圧力分布は、その位置での音速a(t)で管内を伝播する。この微小区間dxが計測点を通過するに要する時間は、dx/a(t)であり、この間に静圧PはdPだけ変化することになる。
したがって、静圧Pの時間変化dP/dtは(16)式で表すことができる。
【数16】
JP0005103600B2_000018t.gif
すなわち、静圧の時間変化は圧力勾配dP/dxと速度a(t)の積で表すことができる。
【0055】
一方、管摩擦による圧力勾配dP/dxは、管内の流れのレイノルズ数Reで決まる。特許文献1に記載の発明では、計測管5の内径Dを拡大することで、レイノルズ数Reを減少させ、管摩擦による圧力勾配を抑制した。しかしながら、この方法では、(i)使用するインジェクタの噴射率にあわせて計測管5内径を変化させる必要が生じる、また、(ii)完全に圧力勾配をゼロにすることはできないという問題が生じていた。そこで、本例では、圧力勾配dP/dxの大きさを理論的に見積もり、その分を補正することでより正確な静圧の測定に成功した。
【0056】
すなわち、管摩擦による圧力勾配dP/dxは、ダルシー・ワイズバッハの式から、(17)式で表すことができる。
【数17】
JP0005103600B2_000019t.gif
ここで、fは管摩擦係数であり、レイノルズ数Reが10以下の滑らかな管内の乱流の場合には、(18)式で表される。
【数18】
JP0005103600B2_000020t.gif
以上、説明したように、管摩擦による圧力勾配dP/dxは、レイノルズ数Re、計測管内径D、密度ρ、速度uで与えられ、前述した諸式を用いて予測することができる。
【0057】
図6は、管摩擦による圧力勾配の実験値と理論値を示したものである。図6(a)は実験値、図6(b)はダルシー・ワイズバッハの式で求めた理論値である。縦軸は圧力勾配dP/dxを示し、横軸はレイノルズ数Reである。
図6(a)は、静圧時間変化dP/dtから、(16)式を用いて求めた圧力勾配の実験値を示している。噴射圧力を徐々に変化させ、定常噴射期間中のレイノルズ数Reをさまざまに変化させた。
図6(b)は、(17)式、(18)式を使って求めた圧力勾配の理論値である。
【0058】
ここで注意しなければならないことは、図6の実験値(a)と理論値(b)は、傾向は似ているものの絶対値が異なっている。(17)式、(18)式を用いて算出した理論値の方が、実際の静圧時間変化を用いて算出した実験値より、圧力勾配の値が常に4倍大きくなっている。この点については、異なる仕様のインジェクタを用いた場合でも、同様の結果が得られることが確認されている。この実験値と理論値との違いは、気体燃料噴射率計特有の非定常な流れが原因であると想定される。
【0059】
図7は、定常流及び非定常流の管内の乱れの模式図を示したものであり、(a)は定常流、(b)は非定常流を示している。
すなわち、図7(a)は、十分に発達した管乱流を示している。(17)式、(18)式は、このような十分に発達した乱流について成立する式である。一方、図7(b)に示す非定常流の場合は、もともと静止していた管内の気体は、圧力波の到達した瞬間から、突然、運動を開始して、境界層が成長していく。そして、やがて助走区間が終わり、乱流へと遷移する。
【0060】
このため、非定常流の場合、形成される圧力勾配の値は理論値より小さくなる。本例では、圧力勾配の理論値と実験値との比を求め、補正係数をαとした。
すなわち、ある時刻tにおける、管摩擦による静圧上昇ΔP(t)は、時刻ゼロから時刻tまでの間、微小時間毎の管摩擦による圧力変化を積分したものである。(16)~(17)式より、静圧上昇ΔP(t)は、(19)式のように表すことができる。
【数19】
JP0005103600B2_000021t.gif
この(19)式で求められるΔP(t)を、図4(b)に示される計測された静圧履歴P(t)から順次差し引くことにより、管摩擦の影響を補正することができる。
【0061】
<補正係数αを決定する手順の説明>
以上説明した、本例における気体燃料噴射率の計算の手順を説明したが、この手順を図8、図9に示すフローチャートに基づいて詳細に説明する。
【0062】
図8は、予備実験の結果から補正係数αを導き出すためのフローチャートである。このフローチャートでは、予備実験として、気体燃料インジェクタ3より、ある一定噴射率で気体が噴射された場合に,圧力勾配の理論値と実測値がどの程度異なる値となるか確認するための作業手順を示したものである。圧力勾配の理論値と実測値の比が補正係数αとなる。
【0063】
まず、気体燃料インジェクタ3から計測管5内に一定噴射率で気体燃料を噴射させる(ステップS1)。ここで、「一定噴射率」で噴射させるということが重要な意味を持つ。気体燃料インジェクタ3が全開となった状態では、噴射率は一定となっている。また、気体燃料インジェクタへ供給する気体燃料圧力を高く設定しておけば噴射率は大きな値で一定となり、圧力を低く設定しておけば噴射率は小さな値で一定となる。この一定の噴射率の噴射時間は例えば20msである。次に、計測管5の最下流において、計測管5に設けられた小孔42に密接配置した圧力変換器41(図2参照)で、計測管5内の静圧P(t)が計測される(ステップS2)。この静圧P(t)は時刻とともに時々刻々と変化する圧力である。
【0064】
次に、この静圧P(t)を(6)式に代入することにより気体の密度ρ(t)が計算される(ステップS3)。また、静圧P(t)を(8)式に代入することにより音速a(t)が計算され(ステップS4)、(11)式に代入することにより気体燃料の流速u(t)が計算される(ステップS5)。
【0065】
続いて、計測した静圧P(t)を時間微分し、これを(16)式に代入すると、計測管5内の圧力勾配dP/dxが求められる(ステップS6)。一方、管摩擦による圧力勾配の理論値は、(17)式で示されるダルシー・ワイズバッハの式からも計算される(ステップS7)。このようにして求めた圧力勾配dP/dxの実験値と理論値は、レイノルズ数の変化に対して類似の傾向を示すものの、その値に約4倍の開きがあったことは、図6で説明したとおりである。このようにして計測した実験値とダルシー・ワイズバッハの式から計算した理論値の比を補正係数αとして求める(ステップS8)。この補正係数αは,計測管内径Dによって決まる装置固有の値である。したがって、一度決定すれば、その後は定数として使用できる値である。
予備試験では、噴射率を様々に変化させて上記手順による処理を実行し、補正係数αの値は変化しないことを確認した。すなわち、補正係数αは噴射率に依存しないものである。
【0066】
<気体燃料噴射率(質量流量)の計算手順の説明>
図9は、この補正係数αを用いて、気体燃料噴射率を計測した静圧Pから求める手順を示すフローチャートである。図9において、図8と同じ工程については、同一のステップ番号を付している。ただ、図8に示す予備実験のフローチャートでは、ステップS1は、気体燃料インジェクタ3から計測管5内に一定噴射率で気体燃料を噴射させるとしているが、図9のステップS1では、質量流量を計算で求めるための噴射であるから、一定の噴射率ということにはならない。図9の噴射率は未知数であり、この噴射率が計測されることになる。特に、インジェクタの開弁過渡期間、閉弁過渡期間等における噴射率の急激な変動を計測できることが、本計測方法の大きな利点である。
【0067】
図8の予備実験で求めた計測管内の圧力勾配(図5(a)のdP/dx)の理論値(17式)と実験値(16式)の比は図8のステップS8で求められている。また、上述したように、計測管5内の圧力勾配(理論値)はダルシー・ワイズバッハの式で求められる(ステップS10)。ステップS10で求めた圧力勾配に補正係数αを乗ずると、静圧Pの時間微分から(16)式で求められる実験値に近い圧力勾配が得られ、これを積分することにより時刻tにおける圧力上昇ΔP(t)が得られる(ステップS11)。
【0068】
ステップS11で得られた圧力上昇ΔP(t)を、ステップS2で求めた静圧Pから減算し、(P(t)-ΔP(t))を求める(ステップS12)。これにより、計測管内の管摩擦による圧力勾配の補正がなされ、管内静圧履歴は、後述する図10(b)に示すようになる。
【0069】
このステップS12で求められる静圧Pは、時間とともに変化する瞬時の静圧P(t)であり、この静圧P(t)を、質量流量(噴射率)を求める(15)式に代入することにより、瞬間的な気体燃料の質量流量(噴射率)が求められる(ステップS13)。
【0070】
<気体燃料噴射率計の計測精度の説明>
図10(a)は、インジェクタの開弁。閉弁信号の時間履歴を示した図、図10(b)は、(19)式で補正した管内静圧履歴を示した図である。また、図10(c)は、(15)式を用いて算出した気体燃料噴射率mを示している。すべての図において横軸は時刻tであり、開弁信号の入力時刻を横軸のゼロ点とした。噴射時間τは20msである。
【0071】
図10(b)から、管摩擦による静圧上昇ΔP(t)の影響は完全に補正されていることが分かる。これにより、従来のように、インジェクタを変更しても、その都度計測管の内径を変更する必要はなくなり、極めて効果的である。また、図10(c)に示すように、計測管5内の一点で計測された管内静圧履歴から、時々刻々変化する気体燃料噴射率を求めることが可能となる。これにより、開弁・閉弁信号の過渡特性など、インジェクタの特性把握がより簡単にできるようになる。
【0072】
<較正試験の説明>
図11は、較正試験に用いた実験装置の概略図である。この実験装置は気体燃料噴射率計によって測定された噴射率の精度を確認するためのものである。第1の実験装置と同じものは同一符号を付している。
図11の実験装置を用いた較正試験では、図1の実験装置のように燃料インジェクタ3から圧力計測器4に向けて燃料を噴射させるのではなく、気体燃料インジェクタ3を真空容器14に接続してこの真空容器14の中に燃料を噴射するようにした。
ここで、気体燃料インジェクタ3より上流の配管内の圧力脈動が噴射率に影響を及ぼす可能性があるので、ガスボンベ1から気体燃料インジェクタ3に至るまでの配管は、図1に示した実験装置と同一のものを使用している。なお、容器内圧力Pと噴射圧力PIJとの圧力比は、常に臨界圧力比より小さくなるように配慮されている。
【0073】
そして、当初は、真空容器14内を真空にしておき、ファンクションジェネレータ8とインジェクタドライバ7を作動させて気体燃料インジェクタ3から真空容器14に気体燃料を噴射させる試験を行った。そして、噴射期間τを固定し、1,000~2,000回の繰返し噴射を行った。真空容器14には、U字形をしたガラス管で形成される圧力計15(水銀マノメータ)が設置されている。
【0074】
この実験により、真空容器14内の圧力上昇から気体の総質量流量を求め、それを噴射回数で除することで噴射1回当たりの質量流量を求めた。一方、図1の実験装置における気体燃料噴射率計で求めた各時刻における噴射率を積分し、噴射1回当りの質量流量を求めて両者を比較した。
これにより、本例の気体燃料噴射率計の計測精度が特許文献1に記載された発明と比べて相当程度向上したことを検証することができた。
【0075】
図12は、上記較正試験の結果を示した図である。気体燃料噴射率計の計測結果をと較正試験結果を比較して示した図である。図12(a)の縦軸は質量流量(mg/st)であり、噴射1回あたりの質量流量を示している。また、図12(b)の縦軸は誤差を示している。横軸は噴射時間τである。
図12(a)から分かるように、気体燃料噴射率計の計測結果(○印)と較正試験結果(●印)とはほぼ一致している。また、図12(b)から、エラー率は、噴射時間τに応じて若干は変化するものの、両者の相違は2~3%にとどまっていることが分かる。
特許文献1に記載の発明では、気体燃料噴射率計の計測誤差は約10%であった。これに対して本例の計測方法では、(i)管内静圧から噴射率を算出する関係式の改善を行ったこと、並びに(ii)管摩擦補正を行うことにより、計測精度を大幅に向上させることができた。
【0076】
以上説明したように、本発明によれば、気体燃料の瞬間流量計測が実用化レベルに近い状態になったといえる。したがって、本発明の気体燃料噴射率の計測方法は、気体燃料を用いた自動車用内燃機関あるいはその他の機関の燃料インジェクタおよびエンジンの設計等に有効な作用効果をもたらすと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明の気体燃料インジェクタの流量計測装置の実施の形態の一例を示す図である。
【図2】本発明の気体燃料インジェクタの流量計測装置の実施の形態例の要部を示す図である。
【図3】本発明の気体燃料インジェクタにおける計測管5内の圧力波の伝播と、各気体変数の変化を示した模式図である。
【図4】気体燃料インジェクタの電磁弁を開閉する駆動信号(a)と計測点の静圧の時間変化(補正前)(b)を示す図である。
【図5】管摩擦による圧力勾配dP/dx(a)と計測点における静圧履歴(b)を示す図である。
【図6】管摩擦による圧力勾配dP/dxの実験値と理論値を示した図であり、(a)は実験値、(b)はダルシー・ワイズバッハの式で求めた理論値である。
【図7】管内の(a)定常流、(b)非定常流の乱れを示した模式図である。
【図8】予備試験に基づいて補正係数αを決定する手順を示すフローチャートである。
【図9】気体燃料の噴射率(質量流量)を計算する手順を示すフローチャートである。
【図10】(a)は、インジェクタの開弁・閉弁信号の時間履歴、(b)は、(18)式で補正した管内静圧履歴、(c)は、(14)式を用いて算出した気体燃料噴射率mを示す図である。
【図11】気体燃料インジェクタの較正試験(キャリブレーション・テスト)を行うための実験装置を示す概略図である。
【図12】気体燃料噴射率計の計測結果と較正試験結果を比較して示した図である。
【符号の説明】
【0078】
1・・・気体燃料のガスボンベ、2・・・バッファチャンバ(圧力容器)、3・・・気体燃料インジェクタ、4・・・圧力計測器、5・・・計測管、6・・・延長管、7・・・インジェクタドライバ、8・・・ファンクションジェネレータ、9・・・デジタルオシロスコープ、14・・・真空容器、15・・・圧力計
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11