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明細書 :新規多糖類の製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5205569号 (P5205569)
公開番号 特開2007-231266 (P2007-231266A)
登録日 平成25年3月1日(2013.3.1)
発行日 平成25年6月5日(2013.6.5)
公開日 平成19年9月13日(2007.9.13)
発明の名称または考案の名称 新規多糖類の製造方法
国際特許分類 C08B  37/00        (2006.01)
A23L   1/05        (2006.01)
A23L   1/03        (2006.01)
FI C08B 37/00
A23L 1/04
A23L 1/03
請求項の数または発明の数 4
全頁数 13
出願番号 特願2007-023905 (P2007-023905)
出願日 平成19年2月2日(2007.2.2)
優先権出願番号 2006025166
優先日 平成18年2月2日(2006.2.2)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成21年2月24日(2009.2.24)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】594156880
【氏名又は名称】三重県
発明者または考案者 【氏名】山崎 栄次
【氏名】栗田 修
【氏名】中林 徹
【氏名】苔庵 泰志
個別代理人の代理人 【識別番号】100108280、【弁理士】、【氏名又は名称】小林 洋平
審査官 【審査官】大野 晃
参考文献・文献 中国特許出願公開第1454904(CN,A)
中国特許出願公開第1657542(CN,A)
宇野喜貴ら,月刊ACCP,1999年,Vol.5, No.3,p.44-50
Kimiko Ohtani et al.,Biosci. Biotech. Biochem.,1995年,Vol.59, No.3,p.378-381
調査した分野 C08B 37/00
A23L 1/03
A23L 1/05
CAplus(STN)
JSTPlus(JDreamII)
JST7580(JDreamII)
特許請求の範囲 【請求項1】
モロヘイヤ、ツルムラサキ、オクラおよび伊勢いもからなる群から選択される原料から多糖類を抽出するに際して、40%W/V~80%W/Vの硫安水溶液を用いて、前記多糖類を沈澱させることを特徴とする多糖類の抽出方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法で抽出された多糖類を水に分散・溶解させ、再度沈殿させた後に、水に分散・溶解させ、その上清の脱塩処理を行うことを特徴とする多糖類の分画方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の方法によって得られた多糖類を用いて製造されたことを特徴とする増粘剤。
【請求項4】
前記原料がモロヘイヤであり、この多糖類から製造された増粘剤と、カラギーナン、キサンタンガム、ローカストビーンガム、またはグアーガムのうちの少なくともいずれか一種とを含有することを特徴とする請求項記載の増粘剤。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、多糖類を簡単に抽出および分画する技術、及びこの技術を使用して得られる多糖類から製造される増粘剤に関する。
【背景技術】
【0002】
食品に利用されている増粘剤は、穀物(デンプンなど)、海草類(カラギーナン、寒天、アルギン酸など)、樹脂(アラビアガムなど)および果実(ガラクトマンナン、ペクチンなど)などに含まれる多糖類を原料として製造される。多くの場合、増粘多糖類は原料の特定部位に局在しているので、この特定部位を集めれば、比較的簡単に抽出することができる(たとえば、非特許文献1を参照)。
【0003】
一方、モロヘイヤ、ツルムラサキなどの植物では、独特の物性を有する多糖類を豊富に含有している(たとえば、非特許文献2を参照)。これらの植物では、多糖類が植物全体に分布しており、前記特定部位が認め難い。このため、多糖類を得るために、相当の工夫が必要となる。従来技術を用いると、求める増粘多糖類の性質に合わせて、酸やアルカリなどの溶剤抽出を行った後、カラムクロマトグラフィーなどを組み合わせて抽出・精製するため、工程が複雑で各工程間で抽出効率が低くなってしまう。また、アルカリ抽出では、酸性多糖類のみが抽出され、それ以外の多糖類の抽出は困難であるといったように、得られる増粘多糖類の種類は、用いる手段によって限られてしまう(たとえば、非特許文献3を参照)。
さらに、増粘多糖類を含む原料は、溶媒抽出の際に粘度が上昇し、ろ過などに時間を要し、作業性が悪い。このため、大量の溶媒で希釈するなどして、粘度を下げる必要があった。
【0004】

【非特許文献1】岡崎直道、佐野征男、「食品多糖類」、幸書房、2001年11月25日、p.43—204
【非特許文献2】Ohtani K, Okai K, Yamashita U, Yuasa I,and Misaki A. (1995). Biosci. Biotech. Biochem., 59, 378-381.
【非特許文献3】松田 和雄、「多糖の分離・精製法」、学会出版センター、1987年2月28日、p.19-113。
【非特許文献4】Dubois M., Gilles K. A., Hamilton J. K., Rebers P. A., and Smith F. (1956). Analytical Chemistry, 28, 350-356.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
多糖類が組織全体に分布しているモロヘイヤやツルムラサキなどを原料とする場合、目的の多糖類を得るために、他の成分と分離することが必要である。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、多糖類の抽出をできるだけ簡単に、かつ少ない工程で達成すること、加えて粘度を下げることにより作業性を向上させられる方法等を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明者らは、鋭意検討の結果、多糖類を含む原料を硫安水溶液で処理することにより、上記課題が解決されることを見出し、基本的には本発明を完成するに至った。すなわち、原料を硫安水溶液で処理することによって、多糖類による水溶液粘度の上昇が抑制されると同時に、各種多糖類が不溶化し、他の成分との分離を容易に行うことに成功した。
こうして、上記課題を解決するための発明に係る多糖類の抽出方法は、原料から多糖類を抽出するに際して、40%W/V~80%W/Vの硫安水溶液を用いることを特徴とする。
【0007】
上記発明により抽出された多糖類を水に分散・溶解させ、再度沈殿させた後に、水に分散・溶解させ、その上清の脱塩処理を行うことにより適当な多糖類を分画することができる。ここで、水に分散・溶解とは、多糖類を完全に水に溶解する場合の他、多糖類の一部が分散状態で水中に懸濁している場合を含む。脱塩処理とは、分画された多糖類に含まれる塩(主として、硫安に由来する塩、原料に由来する塩など)を分離する処理を意味する。そのような脱塩処理としては、例えばゲル濾過、限外濾過、透析などの方法を用いることができる。
本発明で得られる多糖類は、様々な酸性多糖およびアルカリ性多糖など様々な性質の多糖類が含まれている。このため、必要に応じて、カラムクロマトグラフィーや溶媒抽出などで分画し、用途に応じて適当なものを使用することができる。
また、上記発明で得られた多糖類を用いて増粘剤を製造することができる。
【0008】
上記発明において、原料がモロヘイヤであり、この多糖類から製造された増粘剤と、カラギーナン、キサンタンガム、ローカストビーンガム、またはグアーガムのうちの少なくともいずれか一種とを含有する増粘剤を提供することができる。
通常、硫安(硫酸アンモニウム)は、酵素やタンパク質の抽出の工程において、最終段階での精製に利用される(たとえば非特許文献4を参照)。本発明においては、従来は抽出の工程が多く、高粘度のため、抽出が困難であった多糖類において、最初の工程で硫安水溶液処理を行い、目的の多糖類の分画と粘度の低下を同時に達成できることを特徴としている。
【0009】
このように本発明は、硫安水溶液処理を特徴とする多糖類の製造に関する技術である。
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明においては、原料は、その対象が限定されるものではなく、従来法(つまり、増粘多糖類が局在した部位を集めて抽出する方法)で増粘多糖類を抽出していた植物を用いることができるし、多糖類が全体に分布しており従来法では増粘多糖類の抽出が困難であった植物(例えば、モロヘイヤ、ツルムラサキ、オクラおよび伊勢いもからなる群から選択されるもの)にも用いることができる。これらの原料のうち、特に後者の植物については、好適に使用することができる。原料は粉砕または磨り潰したもの、加熱処理を施したものなど加工品も使用できる。さらに、ヘキサン、酢酸エチル、アセトン、メタノール等の有機溶剤で脱脂したもの、搾り粕なども使用できる。
【0010】
本発明でいう多糖類とは、主に単糖がその構成成分であり、水などの適当な溶媒に分散した際に、高い粘度を発する高分子をいう。
本発明でいう増粘剤は、多糖類を主成分とし、用いる用途に応じて増粘効果を調整したものをいう。たとえば、多糖類をそのまま、複数種類の多糖類、または多糖類に塩類などを添加したものが例示される。増粘剤は、食品の粘度を増加させたり、油脂の乳化を安定させたり、ゲルを形成してゼリー等を作ったり、食品にボディ感を付与するために使用されるが、これらの用途には限られない。増粘剤としては、乳化安定剤、ゲル化剤、保水剤などが例示される。
【0011】
本明細書中では、硫安水溶液処理(または硫安処理)とは、原料を水に分散し硫安を添加することを意味する。硫安未添加では、原料による増粘効果が顕著であるが、硫安の添加量の増加に伴い、水溶液の粘度は減少する。粘度の低下が収まったところで硫安の添加を終了し、静かに放置する。或いは、原料の粘度低下が収まる硫安添加量が既知の場合には、予めその濃度の硫安水溶液を調製しておき、その中に原料を分散させてもよい。いずれの方法を用いても、多糖類は不溶物として沈殿する。
【0012】
沈殿した多糖類の回収方法は、たとえばデカンテーション、ろ過または遠心分離などを利用する。回収された多糖類は、最小量の水で分散および溶解させる。
この硫安処理によって、多糖類と夾雑物(たとえばタンパク質や核酸)を分離することができる。加えて、一時的に多糖類を含有する水溶液の粘度を下げることができるため、製造工程での作業効率を著しく向上させることができる。
【0013】
本発明でいうモロヘイヤ由来増粘剤を得るための原料のモロヘイヤは、シナノキ科コルコルス属の植物であり、学名はCorchorus olitoriusである。モロヘイヤの葉や茎を用いることができるが、葉を使用することが好ましい。葉を磨りつぶしたもの、焙煎等により加熱処理したものなど種々のモロヘイヤ加工品も使用できる。さらに、ヘキサン、酢酸エチル、アセトン、メタノールなどの有機溶剤で脱脂したものも原料として使用できる。
【0014】
本発明でいうカラギーナンとは、紅藻類から抽出され、アンヒドロガラクトースとガラクトースの硫酸エステルを構成糖とする多糖類である。カラギーナンは硫酸エステル含量によりκ(カッパ)、ι(イオタ)およびλ(ラムダ)があり、本発明においては、いずれのカラギーナンを用いるができるが、これらのうちで特にκカラギーナンを用いることが好ましい。
本発明でいうキサンタンガムとは、キサントモナス・キャンペストリス(Xanthomonas campestris)が菌体外に生産する多糖類である。
本発明でいうローカストビーンガムとは、カロブビーンとも呼ばれ、豆科植物のCeratonia siliquaの種子の胚乳部分を原料として作られる。
本発明でいうグアーガムとは、豆科植物のCyamopsis tetragonolobusの種子の胚乳部分を原料として作られる。
前述の製造方法によって得られた本発明のモロヘイヤ由来増粘剤は、カラギーナンと混合し水に溶解するとゲルを形成する。また、キサンタンガムと混合することによって、その水溶液の顕著に上昇する。このようなモロヘイヤ由来増粘剤は、食品を増粘化、ゲル化させる性質を備えているため、食感の改良に利用できるので、例えば、食品、化粧品、医薬品に含有させることができる。
【0015】
本発明でいうツルムラサキ由来増粘剤を得るための原料のツルムラサキは、ツルムラサキ科ツルムラサキ属の植物であり、学名はBasella rubraである。ツルムラサキの葉や茎を用いることができる。葉や茎を磨りつぶしたもの、焙煎等により加熱処理したものなど種々のツルムラサキ加工品も使用できるが、生のまま、または生のものを凍結乾燥したものを抽出に用いることが好ましい。さらに、ヘキサン、酢酸エチル、アセトン、メタノールなどの有機溶剤で脱脂したものも原料として使用できる。
【0016】
本発明でいうオクラ由来増粘剤を得るための原料のオクラは、アオイ科トロロアオイ属の植物であり、学名はAbelmoschus esculentus Moenchである。オクラの果実を用いることができる。果実を磨りつぶしたもの、焙煎等により加熱処理したものなど種々のオクラ加工品も使用できる。さらに、ヘキサン、酢酸エチル、アセトン、メタノールなどの有機溶剤で脱脂したものも原料として使用できる。
【0017】
本発明でいう伊勢いも由来増粘剤を得るための原料の伊勢いもは、ヤマノイモ科ヤマノイモ属の植物であり、学名はDioscorea batatasである。伊勢いもを磨りつぶしたもの、焙煎等により加熱処理したものなど種々の加工品も使用できる。さらに、ヘキサン、酢酸エチル、アセトン、メタノールなどの有機溶剤で脱脂したものも原料として使用できる。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、増粘多糖類を豊富に含む原料から簡単に増粘多糖類を分画することができる。これまで、抽出が難しかった原料からの増粘多糖類の製造が可能となり、増粘多糖類を原料とした新しい増粘剤を提供することができ、食品、化粧品、医薬品に用いることができる。さらに、本発明を使用して得られたモロヘイヤ増粘剤はカラギーナンのゲル強度や、キサンタンガムの粘土を改善することができる。これらのことは、食品産業上において非常に重要な貢献が期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
次に、本発明の実施形態について、図表を参照しつつ説明するが、本発明の技術的範囲は、これらの実施形態によって限定されるものではなく、発明の要旨を変更することなく様々な形態で実施することができる。また、本発明の技術的範囲は、均等の範囲にまで及ぶものである。
<試験例1> モロヘイヤ由来増粘剤の製造方法
モロヘイヤ乾燥粉末(農業組合法人伊賀町モロヘイヤ生産組合)50gを50%w/v硫安水溶液1リットルに撹拌しながら少量ずつ添加した。水溶液の粘度上昇は認められなかった。1時間撹拌し、遠心分離(6000×g、10分間)で沈殿を回収した。沈殿を水1リットルに溶解し、最終アセトン濃度が50%v/vとなるまでアセトンを加えて多糖を析出させ、デカンテーションと遠心分離(6000×g、10分間)を行って沈殿を回収した(モロヘイヤ沈殿1)。
更に、遠心分離後の上清に対して、アセトン濃度が80%v/vなるようにアセトンを加え、デカンテーションと遠心分離(6000×g、10分間)を行って沈殿を回収した(モロヘイヤ沈殿2)。
【0020】
モロヘイヤ沈殿1およびモロヘイヤ沈殿2をそれぞれが析出した濃度のアセトンで洗浄し、徐々にアセトン濃度を高め、最終100%のアセトンで洗浄し、遠心分離(6000×g、10分間)で沈殿を回収した。さらに沈殿を水で溶解し、透析(分子量14000分離)した。その後、凍結乾燥機で乾燥し、モロヘイヤ沈殿1およびモロヘイヤ沈殿2から得られたものを、それぞれモロヘイヤ増粘剤1、モロヘイヤ増粘剤2とした。
【0021】
上記の方法に従って、モロヘイヤ乾燥粉末50gを硫安水溶液(50%w/v)1リットルで分散した場合と、水1リットルで分散した場合の粘度をブルックフィールド型粘度計で測定し、粘度を比較した。粘度測定の条件は、次の通りであった。
ブルックフィールド型粘度計:株式会社東京計器製造所製B型粘度計
治具:NO.1(硫安水溶液処理)及びNO.3(水で分散)
回転数:60rpm
測定温度:23℃
なお、治具については、規格品の番号を示し、その番号の後ろに処理した溶液をカッコ書きで示した。
【0022】
実施例1
モロヘイヤ乾燥粉末50gを硫安水溶液(50%w/v)1リットルで分散したものを用いた。
比較例1
モロヘイヤ乾燥粉末50gを水1リットルで分散したものを用いた。
それぞれの溶液の粘度測定の結果を表1に示した。
【0023】
表1
-------------------
サンプル 粘度(mPa・s)
-------------------
実施例1 780
比較例1 50,000
-------------------
【0024】
表から明らかなように、モロヘイヤ乾燥粉末を水に分散した溶液(比較例1)では、粘度が50000mPa・sとなり、非常に上昇した。一方、モロヘイヤ乾燥粉末を硫安水溶液に分散した溶液(実施例1)では、粘度は780mPa・sであり、比較例2の1/64程度に留まった。このことから、硫安水溶液を用いることにより、モロヘイヤ乾燥粉末を含有する水溶液の粘度が低く留まり、作業性が良好となることが分かった。
【0025】
次に、モロヘイヤ増粘剤1およびモロヘイヤ増粘剤2の分子量分布を測定し、精製の程度を調べた。分子量分布の測定条件は、次の通りであった。
カラム:アマシャムバイオサイエンス株式会社製Sepharose CL-4B、47.5×1.1cm
溶出液:pH 6.8 50mMリン酸緩衝液(0.1M 食塩含有)
流速(線速度):6.3cm/h
試料:1mg/mlを1ml注入
温度:23℃
検出:フェノール硫酸法(非特許文献4を参照)
分子量標準物質:アマシャムバイオサイエンス株式会社製デキストラン2000、デキストラン500,デキストラン70、デキストラン40
【0026】
実施例2
モロヘイヤ増粘剤1を溶出液1mlに1mg溶解し、カラムに注入した。溶出液を1mlずつ分画し、前述のフェノール硫酸法で検出した。
実施例3
モロヘイヤ増粘剤2を溶出液1mlに1mg溶解し、カラムに注入した。溶出液を1mlずつ分画し、前述のフェノール硫酸法で検出した。
分子量測定の結果を図1に示した。
【0027】
図より明らかなように、モロヘイヤ増粘剤1は分子量約2000kDaであり、ほぼ単一のピークまで精製されていた。モロヘイヤ増粘剤2は分子量40kDa以下から2000kDa以上まで広範囲に分子量が分布していた。非特許文献2には、モロヘイヤ由来の増粘多糖類が、水抽出、四級アンモニウム塩抽出、陰イオンクロマトグラフィーによる精製を経て得られたものが報告されており、その増粘多糖類の分子量は500kDaであった。一般に、高分子物質は、精製工程が複雑になればなるほど低分子化する傾向がある。本実施形態による方法では、非特許文献2で報告された方法で得られた多糖類に比べると、極めて簡単な工程でモロヘイヤから増粘多糖類の製造が達成された。また、その分子量は約4倍も大きかった。
【0028】
<試験例2> モロヘイヤ増粘剤とカラギーナンとを含有する増粘剤
次に、モロヘイヤ増粘剤がκカラギーナンのゲル強度に及ぼす影響を測定した。ゲル強度の測定条件は、次の通りであった。
ゲル強度の測定条件
装置:株式会社山電製クリープメーター
測定モード:破断強度試験
治具:No.6
測定スピード:1mm/sec
温度:23℃
【0029】
実施例4
モロヘイヤ増粘剤1をカラギーナン水溶液(0.9%w/v)に加え、0~0.1%w/vのモロヘイヤ増粘剤1+κカラギーナン水溶液を調製した。これを湯煎で溶かし、円柱型(直径1cm、高さ2cm)に注ぎ、4℃で24時間放置してゲルを得た。
【0030】
実施例5
モロヘイヤ増粘剤2をカラギーナン水溶液(0.9%w/v)に加え、0~0.1%w/vのモロヘイヤ増粘剤2+κカラギーナン水溶液を調製した。これを湯煎で溶かし、円柱型(直径1cm、高さ2cm)に注ぎ、4℃で24時間放置してゲルを得た。
モロヘイヤ増粘剤の濃度とゲルの破断加重との関係を示すグラフを図2に示した。図より明らかなように、κカラギーナンにモロヘイヤ増粘剤1または2を加えることによって、κカラギーナンゲルの強度を飛躍的に向上させることができた。
【0031】
<試験例3> ツルムラサキ由来増粘剤の製造方法
生鮮ツルムラサキ(三重県科学技術振興センター農業研究部にて栽培)を凍結乾燥機によって処理し、乾燥粉末を得た。この乾燥粉末5gを50%w/v硫安水溶液145mlに撹拌しながら少量ずつ添加した。水溶液の粘度上昇は認められなかった。1時間撹拌し、遠心分離(6000×g、10分間)で沈殿を回収した。沈殿を水500mlに溶解し、最終アセトン濃度が50%v/vとなるまでアセトンを加えて多糖を析出させ、デカンテーションと遠心分離(6000×g、10分間)を行った沈殿を回収した(ツルムラサキ沈殿1)。
更に、遠心分離後の上清に対して、アセトン濃度が80%v/vなるようにアセトンを加え、デカンテーションと遠心分離(6000×g、10分間)を行って沈殿を回収した(ツルムラサキ沈殿2)。
【0032】
ツルムラサキ沈殿1およびツルムラサキ沈殿2をそれぞれが析出した濃度のアセトンで洗浄し、徐々にアセトン濃度を高め、最終100%のアセトンで洗浄し、遠心分離(6000×g、10分間)で沈殿を回収した。回収物を凍結乾燥機で乾燥し、ツルムラサキ沈殿1およびツルムラサキ沈殿2から得られたものを、それぞれツルムラサキ増粘剤1、ツルムラサキ増粘剤2とした。回収されたツルムラサキ増粘剤の質量は、それぞれ0.165g(増粘剤1)および0.073g(増粘剤2)であった。
【0033】
上記の方法に従って、ツルムラサキ凍結乾燥粉末5gを硫安水溶液(50%w/v)145mlで分散した場合と、水145mlで分散した場合の粘度をブルックフィールド型粘度計で測定し、粘度を比較した。粘度測定の条件は、次の通りであった。
ブルックフィールド型粘度計:株式会社東京計器製造所製B型粘度計
治具:BLアダプター
回転数:60rpm
測定温度:23℃
【0034】
実施例6
ツルムラサキ乾燥粉末5gを硫安水溶液(50%w/v)145mlで分散したものを用いた。
比較例2
ツルムラサキ乾燥粉末5gを水145mlで分散したものを用いた。
結果を表2に示した。
【0035】
表2
-------------------
サンプル 粘度(mPa・s)
-------------------
実施例6 135
比較例2 750
-------------------
【0036】
表から明らかなように、ツルムラサキ乾燥粉末を水に分散した溶液(比較例2)では、粘度が750mPa・sまで上昇した。一方、ツルムラサキ乾燥粉末を硫安水溶液に分散した溶液(実施例6)では、粘度は135mPa・sであり、比較例8の1/5.5程度に留まった。このことから、硫安水溶液を用いることにより、ツルムラサキ乾燥粉末を含有する水溶液の粘度が低く留まり、作業性が良好となることが分かった。
【0037】
ツルムラサキ増粘剤1およびツルムラサキ増粘剤2の分子量分布を測定し、精製の程度を調べた。分子量分布の測定条件は、次の通りであった。
カラム:アマシャムバイオサイエンス株式会社製Sepharose CL-4B、47.5×1.1cm
溶出液:pH 6.8 50mMリン酸緩衝液(0.1M 食塩含有)
流速(線速度):6.3cm/h
試料:1mg/mlを1ml注入
温度:23℃
検出:フェノール硫酸法(非特許文献4)
分子量標準物質:アマシャムバイオサイエンス株式会社製デキストラン2000、デキストラン500,デキストラン70、デキストラン40。
【0038】
実施例7
ツルムラサキ増粘剤1を溶出液1mlに1mg溶解し、カラムに注入した。溶出液を1mlずつ分画し、前述のフェノール硫酸法で検出した。
実施例8
ツルムラサキ増粘剤2を溶出液1mlに1mg溶解し、カラムに注入した。溶出液を1mlずつ分画し、前述のフェノール硫酸法で検出した。
分子量測定の結果を図3に示した。
【0039】
図より明らかなように、ツルムラサキ増粘剤1は分子量約1000kDaであり、ほぼ単一のピークまで精製されていた。ツルムラサキ増粘多糖類2は分子量40kDa以下から2000kDa以上まで広範囲に分子量が分布していた。
このように、モロヘイヤ増粘剤の製造と同様に、きわめて簡単にツルムラサキから増粘剤の製造が達成された。
【0040】
<試験例4> モロヘイヤ由来高粘度増粘剤の製造方法
前記試験例1記載のモロヘイヤ乾燥粉末17gを、500mlの50%w/v硫安水溶液に攪拌しながら少量ずつ添加した。このとき、水溶液の粘度上昇は認められなかった。30分攪拌し、遠心分離(15000×g、10分間)で沈殿を回収した。
この沈殿に水500mlを加えて溶解し、電気伝導度を約2.0 S/m2に調整した。30分攪拌し、遠心分離(10000×g、10分間)で上清を除し、沈殿を回収した。さらに、この沈殿に水500mlを加え電気伝導度を0.96 S/m2に調整し、同様の操作を繰り返し、上清を回収した。上清を透析膜(分子量14000kDa 分離)で脱塩し、凍結乾燥によってモロヘイヤ増粘剤3を得た。モロヘイヤ増粘剤3の1%w/w水溶液は、やや黄色味があった。
【0041】
モロヘイヤ増粘剤3を1%w/wとなるように水に溶解したのち、2倍量のエタノールを加え沈殿を回収した。沈殿を順次高濃度のエタノール(最終エタノール濃度99.5%v/v)で洗浄したのち、沈殿を40℃で一晩乾燥させた(モロヘイヤ増粘剤4)。モロヘイヤ増粘剤4の1%w/w水溶液は、ほぼ無色透明であった。
【0042】
モロヘイヤ増粘剤1,2,3,および4と市販の高粘度増粘剤であるキサンタンガム、ローカストビーンガム、グアーガムおよび非特許文献2で報告された方法で製造されたモロヘイヤ由来の増粘剤の1%w/w水溶液の粘度を振動型粘度計で測定し、比較した。粘度測定条件は次の通りであった。
振動型粘度計:株式会社エー・アンド・デイ製SV-10
温度:25℃
【0043】
実施例9
モロヘイヤ増粘剤1を水で分散したもの(濃度0.25~1.0%w/w)を用いた。
実施例10
モロヘイヤ増粘剤2を水で分散したもの(濃度0.25~1.0%w/w)を用いた。
実施例11
モロヘイヤ増粘剤3を水で分散したもの(濃度0.25~1.0%w/w)を用いた。
実施例12
モロヘイヤ増粘剤4を水で分散したもの(濃度0.25~1.0%w/w)を用いた。
【0044】
比較例3
キサンタンガムを水で分散したもの(濃度0.25~1.0%w/w)を用いた。
比較例4
ローカストビーンガムを水で分散したもの(濃度0.25~1.0%w/w)を用いた。
比較例5
グアーガムを水で分散したもの(濃度0.25~1.0%w/w)を用いた。
比較例6
非特許文献2で報告された方法で製造したモロヘイヤ由来の増粘多糖類を水で分散したもの(濃度0.25~1.0%w/w)を用いた。
それぞれの溶液の粘度測定結果を図4に示した。
【0045】
図4から明らかなように、モロヘイヤ増粘剤3及びモロヘイヤ増粘剤4は、いずれも濃度の増加に伴って、高い粘度を呈した。1%w/wでは、既存の高粘度を呈する増粘剤であるキサンタンガム、ローカストビーンガム及びグアーガムを超える高粘度だった。特にモロヘイヤ増粘剤4は1%w/wにおいて、市販の増粘剤で最も高粘度を呈したローカストビーンガム(比較例5)よりも2倍以上高かった。一方、モロヘイヤ増粘剤1、2および比較例3は、モロヘイヤ増粘剤3および4と比較して、粘度が著しく低かった。さらに、比較例6は非特許文献において指摘のあるとおり、濃い褐色を呈しており、本発明のモロヘイヤ増粘剤3および4とは異なっていた。
なお、試験例4において、硫安水溶液で得られる沈殿について最初の加水(500ml)で分離される上清、またモロヘイヤ増粘剤3を製造した際に生じる残滓を繰り返し500mlの加水で分離される上清をそれぞれ回収し、透析膜(分子量14000kDa分離)で脱塩、凍結乾燥によって増粘剤を製造した。これらの1%w/w水溶液はいずれも低粘度であるだけでなく、明らかに着色(緑褐色~茶褐色)していた。
このことから、モロヘイヤ乾燥粉末と、硫安水溶液の混合の割合を調整し、水による抽出を工夫することにより、透明で高い粘度の増粘剤が得られることが分かった。
【0046】
<試験例5> モロヘイヤ増粘剤とキサンタンガムとを含有する増粘剤
次にモロヘイヤ増粘剤がキサンタンガムの粘度に及ぼす影響を測定した。粘度の測定条件は、次の通りであった。
粘度の測定条件
装置:株式会社エー・アンド・デイ製振動型粘度計SV-10
測定温度:25℃
【0047】
実施例13
モロヘイヤ増粘剤3を0.5%w/w水溶液に調製し、キサンタンガム0.5%w/w水溶液と糖質濃度を0.5%w/wで一定にして混ぜた。
結果を図5に示した。モロヘイヤ増粘剤3とキサンタンガムはおおよそ等量ずつ加えたとき、最高粘度を呈することが分かった。
【0048】
実施例14
次に、モロヘイヤ増粘剤3とキサンタンガムを等量含有する増粘剤(糖質濃度0.5%w/w)を15分間煮沸し、その後25℃に冷却したときの溶液の粘度の変化を調べた。
結果を図6に示した。煮沸処理により、混合溶液の粘度はやや増加した。このことから、モロヘイヤ増粘剤3は、耐熱性を保持しながら、キサンタンガムの粘度を飛躍的に向上させる能力を有することが分かった。
【0049】
<試験例6> モロヘイヤ増粘剤のゲル化
次に、モロヘイヤ増粘剤1,2および3と、2価金属イオンとの反応を観察した。
モロヘイヤ増粘剤1%w/w水溶液を調製し、直径3cmのガラスシャーレに薄く塗り広げた。その後、塩化カルシウム溶液(カルシウムイオン換算で100mg/ml)を噴霧し、静置した。
【0050】
実施例15
モロヘイヤ増粘剤1の1%w/w水溶液
実施例16
モロヘイヤ増粘剤2の1%w/w水溶液
実施例17
モロヘイヤ増粘剤3の1%w/w水溶液
各増粘剤溶液に塩化カルシウムを噴霧したところ、モロヘイヤ増粘剤3(実施例17)のみがフィルム状にゲル化した。このゲル化は、カルシウムイオンとの接触で瞬時に進行することが分かった。
【0051】
このように本実施形態によれば、増粘多糖類を豊富に含む原料(例えば、モロヘイヤ、ツルムラサキなど)から簡単に増粘多糖類を分画することができた。これまで、抽出が難しかった原料からの増粘多糖類の製造が可能となり、増粘多糖類を原料とした新しい増粘剤を提供することができ、食品、化粧品、医薬品に用いることができる。さらに、モロヘイヤ増粘剤はκカラギーナンのゲル強度やキサンタンガムの粘度を改善することができる。これらのことは、食品産業上において非常に重要な貢献が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】モロヘイヤ増粘剤1およびモロヘイヤ増粘剤2の分子量分布を示すグラフである。
【図2】モロヘイヤ増粘剤1およびモロヘイヤ増粘剤2がκカラギーナンゲルのゲル強度に及ぼす影響を示すグラフである。
【図3】ツルムラサキ増粘剤1およびツルムラサキ増粘剤2の分子量分布を示すグラフである。
【図4】モロヘイヤ増粘剤1~4と、従来から知られている各種増粘剤との粘度を比較したグラフである。
【図5】モロヘイヤ増粘剤3とキサンタンガムとを混合したときの粘度の変化を調べたグラフである。
【図6】モロヘイヤ増粘剤3とキサンタンガムを等量含有する増粘剤(糖質濃度0.5%w/w)の加熱前後の粘度を比較したグラフである。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
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