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明細書 :eIF4H発現抑制による癌細胞の増殖阻害方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4806772号 (P4806772)
公開番号 特開2007-277204 (P2007-277204A)
登録日 平成23年8月26日(2011.8.26)
発行日 平成23年11月2日(2011.11.2)
公開日 平成19年10月25日(2007.10.25)
発明の名称または考案の名称 eIF4H発現抑制による癌細胞の増殖阻害方法
国際特許分類 A61K  31/713       (2006.01)
A61K  48/00        (2006.01)
A61P  35/00        (2006.01)
A61P  43/00        (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
FI A61K 31/713 ZNA
A61K 48/00
A61P 35/00
A61P 43/00 111
C12N 15/00 A
請求項の数または発明の数 2
全頁数 11
出願番号 特願2006-109310 (P2006-109310)
出願日 平成18年4月12日(2006.4.12)
審査請求日 平成19年3月12日(2007.3.12)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】304021831
【氏名又は名称】国立大学法人 千葉大学
発明者または考案者 【氏名】島田 英昭
【氏名】松下 一之
【氏名】朝長 毅
【氏名】野村 文夫
【氏名】落合 武徳
審査官 【審査官】澤田 浩平
参考文献・文献 特開2004-298112(JP,A)
TOMONAGA,T. et al,Identification of altered protein expression and post-translational modifications in primary colorectal cancer by using agarose two-dimensional gel electrophoresis,Clin Cancer Res,2004年,Vol.10, No.6,p.2007-14
調査した分野 A61K31/44-31/80,48/00,
C12N15/00-15/90
特許請求の範囲 【請求項1】
以下に示すいずれかの塩基配列又はその一部の連続する塩基配列を含む21~23個の塩基から成るオリゴヌクレオチド及びその相補的オリゴヌクレオチドから成る二本鎖RNAである、eIF-4Hアイソフォーム1に特異的なsiRNAを活性成分として含有する癌細胞増殖阻害剤。
(R102)5’-aacccacagaagaggaaagag-3’;
(R103)5’-aatgggtagctctcgagaatc-3’;
(R104)5’-aatctagaggtggatgggatt-3’。
【請求項2】
癌が消化器癌である、請求項記載の癌細胞増殖阻害剤。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、真核生物翻訳開始因子(eucaryotic Initiation Factor 4H: eIF-4H)、特にヒトのeIF-4H(以降、本明細書において、特に断わりのない限り、「eIF-4H」はヒト由来のeIF-4Hを意味する)の発現を抑制することから成る、癌細胞の増殖阻害方法、eIF4Hに特異的な siRNAのようなeIF4Hの発現を抑制し得る物質を活性成分として含有する癌細胞増殖阻害剤、及び、eIF-4Hの発現量に基く、癌細胞増殖阻害活性を有する物質のスクリーニング方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
今までに、二次元電気泳動(2-DE)及び質量分析等の種々のプロテオミクス技術によって、癌の診断・治療に有用な癌特異的な蛋白質が同定されている。このような癌特異的な蛋白質に関する研究の多くは、疾患特異的な様式で増加調節又は減少調節されるものに焦点が当てられてきた。しかしながら、蛋白質の選択的スプライシング変異体及び蛋白質の翻訳後修飾に関する報告は余りない。
【0003】
ヒト遺伝子の60%が少なくとも一つの選択的スプライシング変異体(バリアント)を有しているといわれており(Black, D.L. (2003). Mechanisms of alternative pre-messenger RNA splicing. Annu Rev Biochem 72, 291-336)、このような変異体が癌等のヒトの疾患において重要な役割を担っていることも報告されている(Brinkman, B.M. (2004). Splice variants as cancer biomarkers. Clin Biochem 37, 584-594)。従って、このような選択的スプライシング変異体は有力な診断ツール又は薬剤ターゲットに成る可能性があると考えられる。
【0004】
真核生物翻訳開始因子4H(eucaryotic Initiation Factor 4H: eIF-4H)は最初にウサギ赤血球における翻訳を刺激する物質として同定された(Rogers, G.W., Jr., Richter, N.J., and Merrick, W.C. (1999). Biochemical and kinetic characterization of the RNA helicase activity of eukaryotic initiation factor 4A. J Biol Chem 274, 12236-12244)。eIF-4Hは真核生物における翻訳開始因子ファミリーの一員として、eIF-4F複合体のサブユニットであるeIF-4Aのヘリカーゼ活性を促進することによって蛋白質合成を刺激することが知られている(Richter-Cook, N.J., Dever, T.E., Hensold, J.O., and Merrick, W.C. (1998). Purification and characterization of a new eukaryotic protein translation factor. Eukaryotic initiation factor 4H. J Biol Chem 273, 7579-7587; )。更に、eIF-4Hは他の幾つかの開始因子の活性を促進して、4E-BP1による阻害等の負調節を打ち消している可能性も指摘されている(Lin, T.A., Kong, X., Haystead, T.A., Pause, A., Belsham, G., Sonenberg, N., and Lawrence, J.C., Jr. (1994). PHAS-I as a link between mitogen-activated protein kinase and translation initiation. Science 266, 653-656)。従って、eIF-4Hは、eIF-4E又は-4G の活性化を通じて直接的又は間接的に様々な悪性腫瘍(癌)関連mRNAの翻訳を変化させることによって、細胞増殖及び腫瘍形成に関与している可能性がある。
【0005】
eIF-4H遺伝子は、7q11.23における隣接遺伝子群の欠損が原因である多重人格を発生する疾患であるウィリアムズ症候群で欠損していることが知られているが、これが該症候群の発生とどのような関係があるかについては未だ解明されていない。該遺伝子の選択的スプライシングによって2つ変異体、即ち、アイソフォーム1及びアイソフォーム2(エクソン5が欠失したもの)が生じ、これらは夫々、分子量27kDa及び25kDaを有する。これら2つのアイソフォームの特異的な機能は未だ判っていないが、分子量の小さいアイソフォーム2はヒト細胞においてはより多く存在していることが知られている(Martindale, D.W., Wilson, M.D., Wang, D., Burke, R.D., Chen, X., Duronio, V., and Koop, B.F. (2000). Comparative genomic sequence analysis of the Williams syndrome region (LIMK1-RFC2) of human chromosome 7q11.23. Mamm Genome 11, 890-898:非特許文献1)。
【0006】
本発明者等は既に、原発大腸癌における蛋白質の発現をアガロース2-DEを用いて分析し、腫瘍組織とそれに隣接する正常組織の間で、幾つかの蛋白質に関するpI及び分子量が異なることを見出し、その一つとして、eIF-4Hの選択的スプライシング変異体であるアイソフォーム1の発現が殆どの腫瘍組織において増加していることを見出した(Tomonaga, T., Matsushita, K., Yamaguchi, S., Oh-Ishi, M., Kodera, Y., Maeda, T., Shimada, H., Ochiai, T., and Nomura, F. (2004). Identification of altered protein expression and post-translational modifications in primary colorectal cancer by using agarose two-dimensional gel electrophoresis. Clin Cancer Res 10, 2007-2014:非特許文献2)。

【非特許文献1】Martindale, D.W., Wilson, M.D., Wang, D., Burke, R.D., Chen, X., Duronio, V., and Koop, B.F. (2000). Comparative genomic sequence analysis of the Williams syndrome region (LIMK1-RFC2) of human chromosome 7q11.23. Mamm Genome 11, 890-898
【非特許文献2】Tomonaga, T., Matsushita, K., Yamaguchi, S., Oh-Ishi, M., Kodera, Y., Maeda, T., Shimada, H., Ochiai, T., and Nomura, F. (2004). Identification of altered protein expression and post-translational modifications in primary colorectal cancer by using agarose two-dimensional gel electrophoresis. Clin Cancer Res 10, 2007-2014
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明は、癌、特に大腸癌に代表される消化器癌等のより有効で確実な検出・診断・治療を提供すること、及び、このような癌の遺伝子診断システムと遺伝子治療臨床研究システムの開発に利用される各種の生体分子を提供すること等を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は上記課題を解決すべく、大腸癌における上記のeIF4Hアイソフォーム1の過剰発現が細胞増殖及び腫瘍形成に与える影響を研究した。その結果、eIF4H発現を抑制することによって、大腸癌等の癌細胞の増殖が特異的に阻害され、アポトーシスが誘導されることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
即ち、本発明は、以下の各態様を含むものである。
[1]eIF-4Hの発現を抑制することから成る、癌細胞の増殖阻害方法
[2]eIF-4Hの発現を有意に抑制できる物質を活性成分として含有する医薬組成物。
[3]eIF-4Hの発現量に基く、癌細胞増殖阻害活性を有する物質のスクリーニング方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によって、eIF-4H、特に、eIF4Hアイソフォーム1の発現を抑制することによって、癌細胞の増殖を阻害する方法、更に、eIF-4Hに特異的な siRNAのようなeIF-4H発現を抑制する物質を有効成分として含有する癌細胞に対する特異性が高い優れた癌細胞増殖阻害剤(抗癌剤)等が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明において、癌細胞におけるeIF-4Hの発現の抑制は、当業者に公知の任意のレベル、即ち、例えば、eIF-4H遺伝子の転写レベル若しくはeIF-4H蛋白質の産生、又はeIF-4H蛋白質の活性発現レベルで実施することが可能である。尚、対象となる癌の種類に特に制限はないが、特に、大腸癌等に代表される消化器癌が好適である。
【0012】
例えば、転写レベルでの抑制には、eIF-4H遺伝子(DNA又はmRNA)を標的とするsiRNA等のRNA干渉(RNAi)を誘導する核酸配列(eIF-4H遺伝子の部分塩基配列に特異的な配列を有する一本鎖RNA又は二本鎖RNA)による遺伝子ノックダウン、アンチセンスRNA、又は各種のリボザイム等を用いる方法を挙げることが出来る。又、eIF-4H蛋白質の活性発現レベルでは、例えば、抗eIF-4H抗体を用いる方法を挙げることが出来る。
【0013】
RNA干渉(RNAi)を誘導する核酸は、eIF-4Hの塩基配列(NM_022170 (isoform 1), NM_031992 (isoform2):データベース参照)に基き、当業者であれば、適宜設計して調製することが出来る。その代表的な例としては、以下に示すいずれかの塩基配列又はその一部の連続する塩基配列(例えば、18~20個の連続する塩基配列)を含む15~30個の塩基から成るオリゴヌクレオチド及びその相補的オリゴヌクレオチドから成る核酸配列、特に、21~23個の塩基から成るsiRNA(二本鎖RNA)を挙げることが出来る。尚、かかるsiRNAには、細胞内で上記核酸配列がDicer により消化されて生成されるものも含まれる。
【0014】
(R102) 5’-aacccacagaagaggaaagag-3’;
(R103) 5’-aatgggtagctctcgagaatc-3’;
(R104) 5’-aatctagaggtggatgggatt-3’ 。
【0015】
特に、癌細胞で過剰発現しているeIF4Hアイソフォーム1に対して特異的に反応する塩基配列である (103)又は (104)を含むオリゴヌクレオチドが好ましい。
【0016】
従って、本発明の医薬組成物、例えば、癌細胞増殖阻害剤は、上記に示したようなeIF-4Hの発現を有意に抑制できる物質を活性成分として含有するものである。
【0017】
更に、上記の活性成分中で、RNA又はDNAのような核酸分子は適当な発現ベクター等の当業者に公知の任意の各種の運搬ビークル内に組み込まれた状態で使用することも可能である。
【0018】
このような活性成分は当業者に公知の任意の方法、例えば、活性成分がsiRNAのような核酸分子である場合には、形質得転換法に使用される方法、例えば、リン酸カルシウム法又はDOSPA(リポフェクタミン)等により構成される人工リポソームでDNAを包み込むリポフェクション法等に基き対象細胞に取り込まれるようにすることが出来る。
【0019】
又、上記の医薬組成物には、各種の有効成分と組合せて、薬学上許容できる、当業者に公知の任意の医薬キャリア-又は希釈剤等のその他の成分を含むことが出来る。
【0020】
本発明の有効成分の薬学的な有効量及び投与方法又は投与手段は、有効成分の種類、病状の重さ、治療方針、患者の年齢、体重、性別、全般的な健康状態、及び患者の(遺伝的)人種的背景に応じて、当業者が適宜選択することができる。例えば、該有効成分の投与量は0.1~100mg/日/成人、より一般的には1~10mg/日/成人である。
【0021】
本発明の医薬組成物は投与方法・投与経路等に応じて当業者に公知の任意の形状とすることが出来る。それらは適当な方法で投与することが出来る。例えば、形状としては、液体状、粉末状、及びコロイド状等があり、上記のキャリア-又は希釈剤を伴った形で、静脈内、腹腔内、皮下に注射するか、又は、経口投与等が挙げられる。
【0022】
本発明のスクリーニング方法は、例えば、以下の工程で実施することが出来る。
(a)被検物質の存在下に細胞を培養する工程、
(b)該細胞におけるeIF-4H遺伝子の発現量を測定する工程、及び
(c)発現量を抑制させる物質を選択する工程。
【0023】
ここで、工程(b)におけるeIF-4H遺伝子の発現量は、当業者に公知の任意のレベル、即ち、例えば、eIF-4H遺伝子の転写レベル若しくはeIF-4H蛋白質の産生、又はeIF-4H蛋白質の活性発現レベルで測定することが可能である。
【0024】
eIF-4H遺伝子の発現量を測定は、測定方法・原理に応じて、定量的、半定量的、又は定性的であり得る。特に、eIF-4Hアイソフォームは癌細胞で過剰発現しているので、その発現の抑制は定性的な判定で有意に検出することが可能となる。尚、発現量を抑制させる物質の選択は、例えば、被検物質の非存在下でのeIF-4H遺伝子の発現量との比較をすることにより実施することが出来る。
【0025】
eIF-4H蛋白質の産生量は、当業者に公知の任意の方法で測定することが可能である。例えば、適当な抗体を用いたウェスタンブロット等の免疫染色及びEIA等の各種の免疫学的特異反応を利用する方法、エドマン法を用いた気相シークエンサー等ペプチドのアミノ酸配列分析法、更には、MALDI-TOF/MS及びESI Q-TOF/MS法等に代表される質量分析によって検出することが出来る。
【0026】
上記の方法の中でも、eIF-4Hに特異的な抗体との抗原抗体反応によって該白質の発現量を測定する検査方法が好適である。尚、ウェスタンブロット法においては、分子量の違いに基き、アイソフォーム1及びアイソフォーム2の夫々の発現量の変化を測定することが可能となる。
【0027】
従って、上記抗体は、eIF-4H又はその適当な部分ポリペプチド(ペプチド断片)又はそれらの各種誘導体又は複合体等を抗原物質又は免疫原として用いて、当業者に公知の適当な方法で調製することが可能である。例えば、ポリクローナル抗体の場合には、マウス、ラット、ウサギ、ヤギ、ニワトリ等の適当な動物に投与し、その抗血清から調製することが可能である。或いは、モノクローナル抗体作成法(「単クローン抗体」、長宗香明、寺田弘共著、廣川書店、1990年; "Monoclonal Antibody" James W. Goding, third edition, Academic Press, 1996)等に記載の公知の細胞融合を用いる方法でモノクローナル抗体として調製することも可能である。
【0028】
尚、このような抗体は、その元来の抗体活性を失わない限り、遺伝子工学(DNA組換え技術)により、例えば、Fab、F(ab')2、Fv断片等の完全な抗体由来の各種誘導体を含む、当業者に公知の様々な形態に改変された誘導体、組換え体又はフラグメントであっても良い。
【0029】
更に、eIF-4Hアイソフォーム1のみ特異的に反応する抗体を使用して、例えば、EIA等の酵素免疫測定法により測定することが可能である。このような抗体には、酵素、放射性同位体蛍光色素、及び金属原子等の当業者に公知の各種の標識物質で標識されているものも含まれる。
【0030】
eIF-4HをコードするcDNA又はそれに対応するmRNAを含む核酸分子又はそれらの一部からなるオリゴヌクレオチド、又は、eIF-4Hの各アイソフォームに特異的な塩基配列から成るDNAは、例えば、eIF-4H遺伝子の塩基配列に基づき適宜設計したプライマー又はプローブを使用したRT-PCR法、リアルタイムPCR等の各種定量的PCR法、並びに各種のマイクロアレイ(DNAチップ)法等の当業者に公知の方法で増幅・検出することが出来る。PCR法で増幅された核酸分子の検出・同定は、その塩基配列を直接決定する方法(シークエンス法)、又は電気泳動との組み合わせ等、適当な方法で行うことが出来る。
【0031】
上記のプライマー又はプローブの塩基配列は、鋳型との特異的な結合が可能となるような塩基数、例えば、15-40塩基、より具体的には、15-25塩基程度を有することが好ましく、更には、プライマー内でヘアピン構造をとったり、センス鎖とアンチセンス鎖とが互いにアニーリングしないような塩基配列とすることも重要である。例えば、OligoTM(National Bioscience Inc.製)のような市販のプライマー設計用のソフトウェアを使用することも可能である。
【0032】
本発明のスクリーニング方法に使用されるキットは、測定対象又は測定原理等に応じて、適当な構成をとることが出来る。該キットは、その構成要素として、例えば、抗eIF-4H抗体、各種の二次抗体(標識抗体)、上記のmRNA(cDNA)の増幅用プライマー及びDNAチップ等で使用するハイブリダイゼーション用のプローブ(例えば、10~100個程度の連続した塩基配列から成る)を含むことが出来る。更に、上記キットには、その構成・使用目的などに応じて、当業者に公知の他の要素又は成分、例えば、各種試薬、酵素、緩衝液、反応プレート(容器)等が含まれる。
【実施例】
【0033】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は以下の実施例の記載によって何ら限定して解釈されるものではない。又、特に記載のない場合には、以下の実施例は、例えば、Sambrook and Maniatis, in Molecular Cloning-A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York, 1989; Ausubel, F. M. et al., Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, New York, N.Y, 1995等に記載されている、当業者に公知の標準的な遺伝子工学及び分子生物学的技術に従い、実施することが出来る。又、本明細書中に引用された文献の記載内容は本明細書の開示、及び、内容の一部を構成するものである。
【0034】
ヒト組織試料の採取
原発性大腸癌患者(10名)から術前に文書による同意を得て、術後1時間以内に癌部及び癌部から5~10cm以内に位置する非癌組織を採取し、直ちに-80℃の液体窒素中で保存した 。
【0035】
細胞培養
2つの大腸癌細胞であるLOVO及びRKO、並びに肺繊維芽細胞株MRC5 はRIKEN Cell Bank(日本茨城県つくば市)から購入した。腫瘍細胞であるLOVO及びRKO、並びに、正常細胞であるMRC5 は、夫々、10%牛胎児血清、100U/mlペニシリン及び100μg/mlストレプトマイシン(これらは全て、Invitrogen, Carlsbad, CA から購入)添加のRPMI-1640及びIMDM を用いて、5%CO2条件下、37℃培養した。
【0036】
リアルタイム定量的RT-PCR
Total RNAは癌部、非癌部からRNeasyTM Mini Kit (Qiagen)を用いて抽出した。cDNA はtotal RNAから 1st strand cDNA Synthesis Kit を用いて合成した (Roche, Mannheim, Germany)。LightCyclerTM (Roche, Mannheim, Germany) を用いたeIF-4H cDNAの Real-time quantitative PCR は、LightCycler キャピラリー中のLightCyclere DNA Master SYBR Green I (FastStart TaqDNA polymerase, deoxynucleotide triphosphate, buffer, SYBR Green I)、3.0 mM MgCl2、及び0.5μM の各プライマー配列(forward primer:5’-TTCCTCTCGGAGCGGAGACG-3’,
reverse primer: 5’-GGAATCCCATCCACCTCTAG-3’)を含有する反応液(20μl)で行った。鋳型cDNAの段階的希釈によりPCR産物を直線領域で最適化した。定量的PCRの分析はLightCyclerソフトウェア3.3 版を用いて行った。
【0037】
siRNAによる遺伝子ノックダウン
eIF-4HRNAを標的とするsiRNAを用いてeIF-4Hの発現を抑制した。siRNAは化学合成のより作製した(Japan Bio Services 日本、埼玉県)その塩基配列は以下の通りである(図2)。尚、カッコ内の数字はeIF-4H遺伝子における塩基配列番号を示す。
(R102) 5’-aacccacagaagaggaaagag-3’; (596-616)
(R103) 5’-aatgggtagctctcgagaatc-3’; (411-431)
(R104) 5’-aatctagaggtggatgggatt-3’ (428-448)。
ここで、siRNA-102塩基配列は2つの選択的スプライシング変異体であるアイソフォーム1及びアイソフォーム2に共通するものであり、一方、siRNA-103及びsiRNA-104はアイソフォーム1のみに特異的なものである。Blast 分析 (http://www.ncbi.nlm.nih. gov/BLAST/) によると該標的配列と他のヒト遺伝子との間に共通する領域は見出せなかった。各細胞を6ウェルプレートで培養し、リポフェクタミン2000(Invitrogen, Carlsbad, CA)を用いて上記のsiRNAをトランスフェクションした。48時間後に大腸癌及び正常繊維芽細胞を採取し、以下のウェスタンブロット分析、細胞増殖アッセイ(MTSアッセイ)、及び細胞周期分析に供した。
【0038】
ウェスタンブロット分析
各細胞溶解物からの蛋白質(総30μg)を10-20%勾配ポリアクリルアミドゲル電気泳動(Bio-Rad, Hercules, CA)にかけて分離した。Tank-transfer装置(Bio-Rad)を用いて蛋白質をポリビニリデンフルオライド膜(Milipore, Bedford, MA)に移し、この膜を5%スキムミルク含有PBSでブロックした。ウサギ抗eIF-4H抗体(Japan Bio Services調製)及びヤギ抗β‐アクチン抗体(Cappel, West Chester, PA)を上記ブロッキング緩衝液中で1:500に希釈したものを一次抗体として使用した。更に、夫々、ブロッキング緩衝液中で3000倍希釈のヤギ抗ウサギIgG西洋ワサビペルオキシダーゼ標識抗体(Bio-Rad)、及び、ブロッキング緩衝液中で500倍希釈のウサギ抗ヤギIgG西洋ワサビペルオキシダーゼ標識抗体(Cappel, West Chester, PA)を二次抗体として使用した。膜上の抗原蛋白質はECLTM detection reagents (Amersham Pharmacia Biothech)で検出した。
【0039】
細胞増殖アッセイ
翌日に50%集密(コンフルエント)状態になるように細胞を96穴ウェルに播き、Lipofectamine 2000試薬を用いて上記のsiRNAをトランスフェクションした。細胞を37℃、5%CO条件下で48時間培養した。試薬製造者の指示に従い、3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-5-(3-カルボキシメトキシフェニル)-2-(4-スルホフェニル)-2H-テトラゾリウム(MTS)染料の吸収を測定することにより、細胞の増殖を評価した。吸収は、Wallac 1420 ARVOsx Multilabel Counter (Perkin-Elmer, Tokyo, Japan)を用いて行った。実験は2回の独立系で、夫々、平行して8回繰り返した。
【0040】
細胞周期分析
LOVO、RKO及びMRC5細胞を6穴ウェルに播き、翌日、上記のようにsiRNAをトランスフェクションし、48時間培養した。その後、70%エタノールで固定し、200μg/ml Rnase 存在下50μg/mlヨウ化プロピジウム(和光純薬、日本)含有PBS溶液で処理した。次いで、FACS Caliber cytometer (Beccton Dickinson, SanJose, CA, USA)を用いて細胞を細胞周期分析した。各試料につき少なくとも10,000個の細胞を計測し、得られたデータはCell Quest プログラム(Beccton Dickinson, SanJose, CA, USA)により分析した。
【0041】
結果(1):転写レベルにおけるeIF-4Hアイソフォーム1の過剰発現
既に記載したように、本発明者が以前に、eIF-4Hの選択的スプライシング変異体であるアイソフォーム1が原発性大腸癌の殆どの腫瘍組織において過剰発現していることを報告している。このeIF-4Hアイソフォーム1の過剰発現を転写レベルで確認すべく、上記のようにリアルタイム定量的RT-PCRを行った。その結果、eIF-4Hアイソフォーム1mRNAレベルは腫瘍組織において有意(P<0.01)に増加していることが示され、過剰発現が転写レベルで起こっていることが確認された(図1)。結果(2):eIF-4Hの抑制による大腸癌細胞の増殖阻害
eIF-4Hアイソフォーム1が細胞増殖及び腫瘍形成に関与しているか否かを検討すべく、RNAi法を用いてeIF-4H発現を抑制した。これに用いた3種類のsiRNAはeIF-4H読取枠の夫々異なる領域を標的をすべく設計された(図2A,B)。2つの大腸癌細胞であるLOVO及びRKOのsiRNA処理後48時間後に、 (R102)はeIF-4Hの2つのアイソファームの両方を抑制した。一方、(R103)及び(R104)はeIF-4Hアイソフォーム1のみを抑制した(図2B,C)。従って、これら3種類のsiRNAを更なる分析に使用した。
【0043】
即ち、siRNA処理後48時間後に実施したMTSアッセイの結果によれば、eIF-4Hの2種類のアイソフォームの発現が(R102)により抑制されると、細胞増殖が50%も顕著に阻害された。驚くべきことに、(R103)及び(R104)を用いてeIF-4Hアイソフォーム1のみを抑制した場合にも、細胞増殖が同様の程度阻害された(図2D,E)。 尚、(R104)と比べて、(R103)の方が増殖阻害効果が高く、これはeIF-4Hアイソフォーム1のノックダウンレベルの結果(図2B,C)とも一致した。これらの結果から、eIF-4Hアイソフォーム1が大腸癌細胞の増殖において重要な役割を担っていることが示された。
【0044】
結果(3):eIF-4Hの抑制による肺繊維芽細胞株の増殖阻害
eIF-4Hアイソフォーム1による細胞増殖効果が癌細胞に特異的か、又はより一般的な特徴かどうかという問題を解決すべく、正常ヒト肺繊維芽細胞株MRC5の増殖に対するeIF-4H抑制による効果を検討した。siRNA処理48時間後のウェスタンブロット分析の結果によれば、MRC5におけるeIF-4Hアイソフォーム1の発現レベルは大腸癌細胞株のそれよりも低いにも拘らず、その発現レベルは検出不可能なレベルまで減少した(図3A)。しかしながら、大腸癌細胞株の場合と対照的に、MRC5の細胞増殖に対するRNAiによる阻害効果は得られなかった(図3B)。別の正常ヒト肺繊維芽細胞株WI38を用いた実験でも同様な結果が得られた。以上の結果から、eIF-4Hアイソフォーム1の発現抑制により癌細胞の増殖が阻害されるが、正常ヒト肺繊維芽細胞株の増殖は阻害されないことが判明し、eIF-4Hアイソフォーム1は大腸癌の治療剤の標的として適当である可能性があることが示された。
【0045】
結果(4):eIF-4H1の抑制によるアポトーシスの誘導
eIF-4Hアイソフォーム1の発現抑制による細胞増殖の阻害効果が細胞周期の停止によるものであるか否かを検討するために、フローサイトメトリー分析を実施した。siRNA処理した大腸癌細胞の細胞周期分布をコントロールのそれと比較した(図4)。その結果、(R103)で処理した細胞はコントロールと比較して、sub-G1期細胞数が3倍に増加し、S期細胞が減少した。このことは、RNAiによる細胞増殖阻害がアポトーシスの誘導に依るものであること示唆している。これについては、eIF-4Hが低いレベルになった為に、mRNAに対するeIF-4Aの親和性が減少し抗アポトーシス因子の翻訳効率が低下した為である、という説明が可能である。従って、以上の結果から、eIF-4Hアイソフォーム1はアポトーシスから癌細胞を保護することによって増殖を刺激していることが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明によって、癌、特に大腸癌に代表される消化器癌等のより有効で確実な検出・診断・治療を提供すること、及び、このような癌の遺伝子診断システムと遺伝子治療臨床研究システムの開発に利用される各種の生体分子を提供される。特に、eIF-4Hアイソフォーム1は大腸癌等の癌治療において、正常細胞に損傷をあたえず癌細胞のみに特異的に作用する「magic bullets」 (Khosla, S. (2005). Magic bullets to kill nasty osteoclasts, Endocrinology 146, 3233-3234)開発のための、有望な標的分子となる可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】転写レベルにおけるeIF-4Hアイソフォーム1の過剰発現を示すグラフである。
【図2】siRNAを用いたeIF-4Hの抑制による大腸癌細胞の増殖阻害を示す、ウェスタンブロット分析の結果(ポリアクリルアミドゲル電気泳動の写真)等である。
【図3】siRNA用いたeIF-4Hの抑制によっては肺繊維芽細胞株MRC5の増殖は阻害されないことを示す、ウェスタンブロット分析の結果(ポリアクリルアミドゲル電気泳動の写真)等である。
【図4】eIF-4Hアイソフォーム1の発現抑制によりアポトーシスが誘導されることを示す、細胞フローサイトメトリー分析である。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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