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明細書 :多発性嚢胞腎モデル小型魚類及びその利用

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5219185号 (P5219185)
公開番号 特開2009-028017 (P2009-028017A)
登録日 平成25年3月15日(2013.3.15)
発行日 平成25年6月26日(2013.6.26)
公開日 平成21年2月12日(2009.2.12)
発明の名称または考案の名称 多発性嚢胞腎モデル小型魚類及びその利用
国際特許分類 A01K  67/027       (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
G01N  33/15        (2006.01)
G01N  33/50        (2006.01)
FI A01K 67/027 ZNA
C12N 15/00 A
G01N 33/15 Z
G01N 33/50 Z
請求項の数または発明の数 8
全頁数 42
出願番号 特願2007-198207 (P2007-198207)
出願日 平成19年7月30日(2007.7.30)
審査請求日 平成22年7月29日(2010.7.29)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人名古屋大学
発明者または考案者 【氏名】橋本 寿史
【氏名】若松 佑子
【氏名】望月 俊雄
【氏名】宮本 兼玄
個別代理人の代理人 【識別番号】100105728、【弁理士】、【氏名又は名称】中村 敦子
【識別番号】110000110、【氏名又は名称】特許業務法人快友国際特許事務所
【識別番号】100139480、【弁理士】、【氏名又は名称】日野 京子
審査官 【審査官】幸田 俊希
参考文献・文献 GALLAGHER,A.R. et al.,A truncated polycystin-2 protein causes polycystic kidney disease and retinal degeneration in transgenic rats.,J. Am. Soc. Nephrol.,2006年10月,Vol.17, No.10,pp.2719-30
宮本兼玄,常染色体優性多発性嚢胞腎疾患モデルメダカの作成と解析。,北海道医誌,2008年,Vol.82, No.2,pp.103-14
調査した分野 C12N 15/09
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
PubMed
特許請求の範囲 【請求項1】
多発性嚢胞腎モデル小型魚類であって、
前記小型魚類は、ゼブラフィッシュ、メダカ、金魚、ドジョウ、トラフグ及びニジマスからなる群から選択され、
ドミナントネガティブ効果を発現可能に前記小型魚類と同種魚類由来のPKD2遺伝子がコードするタンパク質のC末端側の欠損を生じさせる欠失変異を有する外来性の変異遺伝子を保持する、モデル小型魚類
【請求項2】
メダカである、請求項に記載のモデル小型魚類。
【請求項3】
前記欠失変異はメダカPKD2遺伝子のエクソン12~15の少なくとも一部を欠損させる変異である、請求項2に記載のモデル小型魚類。
【請求項4】
嚢胞腎の形成又は進展に関連する外部因子のスクリーニング方法であって、
請求項1~3のいずれかに記載の多発性嚢胞腎モデル小型魚類にスクリーニング対象である外部因子を付与する工程と、
前記外部因子を付与した前記メダカにおける腎嚢胞の形成及び/又は進展に対する促進作用又は抑制作用を評価する工程と、
を備える、スクリーニング方法。
【請求項5】
前記外部因子は、化合物又は化合物以外の環境因子である、請求項4に記載のスクリーニング方法。
【請求項6】
前記評価工程は、前記腎嚢胞の形成又は進展を抑制する作用を評価する工程である、請求項4又は5に記載のスクリーニング方法。
【請求項7】
前記外部因子付与工程は、前記多発性嚢胞腎モデル小型魚類の発生途中において前記外部因子を付与する工程である、請求項4~6のいずれかに記載のスクリーニング方法。
【請求項8】
前記外部因子付与工程は、前記外部因子を含有するガスを前記多発性嚢胞腎モデル小型魚類に供給する工程である、請求項4~7のいずれかに記載のスクリーニング方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、多発性嚢胞腎疾患のモデル魚類及びその利用に関し、詳しくは多発性嚢胞腎疾患のモデル成魚類及び当該モデル魚類の多発性嚢胞腎疾患の発症及び進展等の予防、治療又は症状の改善への利用に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトにおける多発性嚢胞腎疾患(Polycystic Kidney Disease,PKD)には、常染色体劣性多発性嚢胞腎疾患(Autosomal Ressive Polycystic Kidney Disease, ARPKD)と常染色体優性多発性嚢胞腎疾患(Autosomal Dominant Polycystic Kidney Disease, ARPKD)とがあるが、なかでもADPKDは、ありふれた遺伝子疾患の一つであり、わが国においては10万人~20万人程度の罹患が推測されている。ADPKDは全身性疾患であり、腎臓における嚢胞のほか、肝臓、膵臓、脾臓等にも嚢胞が生じることがあるほか、頭蓋骨内出血などの既往を高い頻度で有し、その半数以上において高血圧症を合併する。ADPKDにおける最も顕著な特徴である腎臓嚢胞の形成は、腎臓の肥大化および腎臓の濃縮能力の低下を引き起こす。ADPKD患者におけるこれらの症状は年齢とともに進行するが、有効な治療方法がないために、最終的に腎不全となり腎臓透析及び腎臓移植を要するようになる場合もある。
【0003】
ヒトADPKDの遺伝学的発症機序として、遺伝子機能の喪失(loss-of-function)、中でもtwo-hit説が提唱されている。父母より変異型と野生型のPKD遺伝子を引き継いで出生後、成長の過程で何らかの原因により野生型PKD 遺伝子に体細胞変異が生じるために、PKD遺伝子の機能が喪失し嚢胞を形成し発症すると考えられている(非特許文献1)。
【0004】
ヒトADPKDの原因遺伝子としては、PKD1遺伝子とPKD2遺伝子が特定されている。ヒトの16番染色体上の16p13.3に位置されるPKD1遺伝子及びヒト4番染色体の4q21-23に位置されるPKD2遺伝子とされており、これらはそれぞれタンパク質ポリシスチン1(PC1)とポリシスチン2(PC2)をコードしている(非特許文献1)。また、マウスの多発性嚢胞腎モデルからも原因遺伝子がクローニングされている(非特許文献2)。
【0005】
PKD1はヒト16番染色体16p13.3に位置し、mRNAの大きさは約14kbpで、46個のエクソンよりなる巨大な遺伝子である。その遺伝子産物であるポリシスチン1(polycystin-1)は4320個のアミノ酸からなり、そのN末端は細胞外に、C末端は細胞内に存在し、11個の膜貫通ドメインをもつ膜貫通蛋白である。細胞外からのシグナルを細胞内に伝えるセンサーの役割を果たすと考えられている。Pkd1ノックアウトマウスはヘテロ接合体では表現型に乏しく、ホモ接合体で多発性嚢胞腎及び胎性致死をきたす(非特許文献3)。
【0006】
PKD2はヒト4番染色体4q21-23に位置し、5.4kbpのmRNAをもち、15個のエクソンよりなる遺伝子である。遺伝子産物であるポリシスチン2(polycystin-2)は968個のアミノ酸から成り、N末端、C末端ともに細胞内に存在し、その間に6個の膜貫通ドメインをもつ膜貫通蛋白であり、その機能はCa2+イオンチャンネルと考えられている(非特許文献1)。Pkd2ノックアウトマウスはPkd1ノックアウトマウスと同様、ヘテロ接合体では特異的な表現型に乏しく、ホモ接合体で多発性嚢胞腎を形成し、胎性致死となる(非特許文献4)。Pkd1ノックアウトマウスとの相違点として、Pkd2ノックアウトマウスのホモ接合体では内臓逆位が起こる(非特許文献5)。
【0007】
ポリシスチン1及びポリシスチン2は、ともに尿細管上皮細胞の管腔側に存在する線毛(primary cilium)に局在し、細胞内のそれぞれのC末端で相互作用がある。ポリシスチン1が尿細管内の尿の流速を傾きとして捉え、共役するポリシスチン2に伝え、Ca2+チャンネルとしてポリシスチン2が機能する。細胞外から細胞内へのCa2+流入は、細胞内の小胞体にあるポリシスチン2からの大量のCa2+放出を引き起こす。この細胞内のCa2+濃度の変化が、引き続いて分化、増殖、アポトーシスなどに関与するさまざまな遺伝子の発現を制御し、尿細管上皮の分化、増殖をコントロールすると推測されている。ポリシスチン1及びポリシスチン2のいずれの変異でも、センサーとしての線毛機能は破綻し、適切な尿細管径の維持ができず嚢胞を生じさせる(非特許文献6、7)。
【0008】
生じた嚢胞は、いくつかの増殖機転により増大していくが、その一つとして、cAMPが関与することが報告されている。cAMPは正常尿細管細胞の増殖を抑制するが、ADPKD患者から得られた尿細管細胞では、逆にcAMPが増殖を促進する。ポリシスチン1の発現低下によりcAMPの作用が細胞増殖抑制から細胞増殖促進へと変化したと考えられている(非特許文献8)。バゾプレッシン、プロスタグランディンE2、セクレチン、VIP(vasoactive intestinal polypeptide)などのホルモンはcAMPを増加させ、嚢胞を増大させる可能性がある。自然発症嚢胞腎ラット(ヒト常染色体劣性多発性嚢胞腎遺伝子異常を持つ)ならびにPkd2遺伝子操作マウスにcAMPを抑制するバゾプレッシンV2レセプター阻害薬であるOPC31260を投与したところ、腎cAMP含有量が減少し、嚢胞形成も著明に減少したとの報告がある(非特許文献9、10)。これらのことより、嚢胞形成におけるcAMPの関与が有力視され、その抑制を目的としたバゾプレッシンV2レセプター阻害薬の臨床治験が世界で始まりつつある。
【0009】
一方、現在多発性嚢胞腎モデル動物として複数のノックアウトマウスが作成されているが(非特許文献11)、遺伝子組換えマウスの維持・繁殖には多大な手間と費用が必要である。既に説明したように、通常のノックアウトマウスでは胎性致死となるため薬剤投与研究には適さない。また、胎性致死を回避させたPkd1コンディショナルノックアウトマウスも報告されている(非特許文献12)。さらに、Nishioらが作製したPkd1ノックアウトキメラマウスではヒトADPKDに類似した多発性嚢胞腎が認められ、病態解析モデルとして有用なことが報告されている(非特許文献13)。
【0010】
また、近年、小型魚類を用いて薬物スクリーニングを行う試みが成果をあげつつある。メダカ(Oryzias latipes)は、日本産のモデル動物である。染色体は48本あり、ゲノムサイズが800Mbpと小さく、ヒトゲノムの4分の1の大きさである。飼育が比較的容易で、世代交代時間が2~3ヵ月であり、毎日産卵するといった遺伝学研究に適した利点をもつ。さらに、ゼブラフィッシュにおいては、腎嚢胞形成突然変異体も多数発見され(非特許文献14、15)、メダカにおいては、多発性嚢胞腎を発症する突然変異メダカが報告されている(非特許文献16)。さらに、メダカについて、モルホリノアンチセンスオリゴヌクレオチドによる遺伝子ノックダウンも報告されている(非特許文献17、18)。

【非特許文献1】N Engl J Med 2004; 350: 151-164
【非特許文献2】J Formos Med Assoc. 2003 Jun;102(6):367-74.
【非特許文献3】J. Hum Mol Gene 2001; 10: 2385-2396
【非特許文献4】Nat Genet 2000; 24: 75-78.
【非特許文献5】Curr Biol 2002; 12: 938-943.
【非特許文献6】Bioessays 2004; 26: 844-856.
【非特許文献8】Kidney Int 2000; 57: 1460-1471.
【非特許文献9】Nat Med 2004; 10: 363-364.
【非特許文献10】Nat Med 2003; 9: 1323-1326.
【非特許文献11】Am J Physiol Renal Physiol 2003; 285: F1034-F1049.
【非特許文献12】J Am Soc Nephrol 2004; 15: 3035-3043.
【非特許文献13】J Clin Invest 2005; 115: 910-918.
【非特許文献14】Development 1998; 125: 4655-4667.
【非特許文献15】Genes & Dev 2001; 15: 3217-3229.
【非特許文献16】Kidney Int 2005; 68: 23-34
【非特許文献17】J Am Soc Nephrol. 2006;17(10):2706-18
【非特許文献18】Development. 2007 Apr;134(8):1605-15
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記特許文献9、10に開示されるcAMPの抑制に関する報告における自然発症嚢胞腎ラット及びPkd2遺伝子操作マウスでは、いずれも嚢胞はバゾプレッシンV2レセプターが高発現している遠位尿細管・集合管を主体に形成されている。したがって、近位尿細管由来の嚢胞が70%と考えられているヒトADPKDでの有効性については不明であり、有効薬剤のさらなる検討が必要であり、このためには、ヒトADPKDについての適切なモデル動物が必要である。
【0012】
しかしながら、現状において、ヒトADPKDの発症、進展を抑制する薬剤スクリーニング等に適したモデル動物が提供されているとはいえなかった。また、簡易で迅速なスクリーニングに適したモデル動物が提供されているともいえなかった。
【0013】
すなわち、薬剤の検討には、多発性嚢胞腎疾患モデル動物が必要であるが、非特許文献3、4に開示されるように、PKD1遺伝子又はPKD2遺伝子のヘテロ接合ノックアウトマウスでは嚢胞腎特異的な発現が不十分であり、ホモ接合ノックアウトマウスでは、致死性であった。また、非特許特許文献12に開示される胎生致死を回避させたPkd1コンディショナルノックアウトマウスは、腎嚢胞の数は少なく、非特許特許文献14に開示されるPkd1ノックアウトキメラマウスではそのキメラ率により表現型にばらつきがあった。このように、いずれのモデルマウスにおいても薬剤投与研究には適するものではなかった。
【0014】
また、ゼブラフィッシュやメダカにおいて嚢胞腎形成突然変異体が発見されているが、これらの原因遺伝子は、PKD1、PKD2遺伝子と相同遺伝子ではなく、ポリシスチン1及び2をコードするmRNAの発現には異常が認められないことがわかっている。さらに、メダカ等の小型魚類には、上述のような利点があるが、現時点においてノックアウトが不可能である。さらにまた、遺伝子ノックダウン法は系統化することが困難であり、非特許文献17に開示されるノックダウンメダカは、嚢胞を形成するものの成魚に至らない致死性であった。
【0015】
そこで、本発明では、ヒトADPKDに有効な薬剤検討等に適切なモデル魚類及びその用途を提供することを一つの目的とする。また、本発明は、多発性嚢胞腎の病態(典型的には嚢胞腎の増大)を形成し、胎生致死でなく、ヒトADPKDの原因遺伝子に変異を有する遺伝子組換え魚類及びその用途を提供することを他の一つの目的とする。さらに、本発明は、こうした魚類において、系統化可能な魚類及びその用途を提供することを他の一つの目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、薬剤投与研究がより簡便に低コストで実施可能な動物モデルとしてメダカに着目した。そこで、本発明者らは、メダカPKD1及びPKD2をクローニングし、さらに、これらの遺伝子につき、可能性あるドミナントネガティブ変異体について検討した。マウスの先例によれば、メダカPKD1遺伝子及び/又はPKD2遺伝子の変異は、メダカにおいても致死的であると考えられたが、意外にも、これらの遺伝子のドミナントネガティブ遺伝子導入メダカは、その表現型において、胎生致死でなく、成魚後多発性嚢胞腎を発症するとともにその魚令に伴い嚢胞は増加して、ヒトADPKDの同様の疾患の発症、進展経緯を示した。本発明らはこれらの知見に基づき以下の発明を完成した。すなわち、本発明によれば、以下の手段が提供される。
【0017】
本発明によれば、ドミナントネガティブ効果を発現可能にPKD2遺伝子の変異遺伝子が導入されて得られる遺伝子組換え魚類である、多発性嚢胞腎モデル小型魚類が提供される。好ましくは、このモデル小型魚類はメダカである。
【0018】
前記変異遺伝子は、前記モデル魚類と同種魚類由来の前記PKD2遺伝子の変異遺伝子とすることができる。また、前記変異遺伝子は、前記PKD2遺伝子がコードするタンパク質の少なくとも一部の欠損を生じさせる欠失変異を有していてもよい。さらに、前記変異遺伝子は、前記PKD2遺伝子がコードするタンパク質のC末端側の欠損を生じさせる欠失変異を有していてもよい。
【0019】
本発明によれば、ヒト多発性嚢胞腎の発症又は進展に関連する外部因子のスクリーニング方法であって、上記いずれかの多発性嚢胞腎モデル小型魚類にスクリーニング対象である外部因子を付与する工程と、前記外部因子を付与した前記モデル魚類におけるヒト多発性嚢胞腎の発症及び/又は進展に対する促進作用又は抑制作用を評価する工程と、を備える、スクリーニング方法が提供される。
【0020】
本スクリーニング方法においては、前記外部因子は、化合物又は化合物以外の環境因子とすることができる。また、前記外部因子は化合物であり、前記評価工程は、前記ヒト多発性嚢胞腎疾患の発症又は進展を抑制する作用を評価する工程とすることもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の多発性嚢胞腎モデル魚類は、PKD2遺伝子のドミナントネガティブ変異遺伝子が導入されて得られる魚類である。本発明の魚類によれば、ヒトADPKDの原因遺伝子の変異に起因して、嚢胞を多発し胎生致死でない遺伝子組換え小型魚類を得ることができる。すなわち、ヒトADPKDの発症及び進展態様を有するモデル魚類を得ることができる。また、本発明の小型魚類によれば、遺伝子組換え魚類であるため、系統化することが魚類を提供することができる。さらに、本発明の小型魚類によれば、小型魚類の特性から、低コストで簡易にかつ迅速にヒトADPKDに関連する外部因子をスクリーニングすることができる。
【0022】
また、本発明のヒト多発性嚢胞腎の発症又は進展に関連する外部因子のスクリーニング方法は、本発明の魚類にスクリーニング対象である外部因子を付与し、外部因子を付与したモデル魚類における多発性嚢胞腎の発症及び/又は進展に対する促進作用又は抑制作用を評価する、方法である。このスクリーニング方法によれば、ヒトADPKDの発症等に関連する外部因子を適切、簡易かつ迅速にスクリーニングすることができる。また、ヒトADPKDの病因についての解明にも利用することができる。
【0023】
以下、本発明の多発性嚢胞腎モデル小型魚類及びその利用についての実施の形態について詳細に説明する。
【0024】
(多発性嚢胞腎モデル小型魚類)
本発明の多発性嚢胞腎モデル小型魚類(以下、単に本小型魚類ともいう。)は、遺伝子組換えにより、ドミナントネガティブ効果を発現可能にPKD2遺伝子の変異遺伝子を導入して得られる遺伝子組換え小型魚類である。
【0025】
(小型魚類)
本小型魚類を得るための小型魚類は、研究又は実験用途の小型魚類が好ましく、より好ましくは、硬骨魚類の小型魚類であって、ゼブラフィッシュ、メダカ、キンギョ、ドジョウ、トラフグ及びニジマスなどが挙げられる。なかでも、体外から内部器官を視認できる透明小型魚類が好ましい。こうした透明小型魚類としては、例えば、特開2001-328480号公報に開示される透明メダカなどを含むメダカ属又はその近縁に属する小型魚類を好ましく用いることができる。また、ゼブラフィッシュも好ましく用いることができる。
【0026】
(導入遺伝子)
導入する遺伝子であるドミナントネガティブ変異遺伝子は、遺伝子組換えしようとする小型魚類と同種又は異種の小型魚類由来のPKD2遺伝子を変異させたものであってもよいし、異種動物のPKD2遺伝子を変異させたものであってもよい。小型魚類のPKD2遺伝子においては、ヒトなどの哺乳動物の遺伝子と高い相同性を有していることも多いため、必ずしも小型魚類のPKD2遺伝子を変異させたものでなくもよい。
【0027】
PKD2遺伝子としては、既に、ヒト(アクセッション番号:NM_000297)、マウス(アクセッション番号:NM_008861)、ゼブラフィッシュ(アクセッション番号:NM_001002310)において知られている。現在知られていない小型魚類を含む動物のPKD2遺伝子は、こうした既知の小型魚類のPKD2遺伝子の塩基配列又はアミノ酸配列及び/又は既知のヒトやマウスなどの異種動物のPKD2遺伝子の塩基配列又はアミノ酸配列に基づいて、遺伝子の塩基配列やアミノ酸配列に関し利用可能に公開されているデータベース(National Center for Biotechnology Information, USA及びMedaka genome project by NIG DNA Sequencing Center, Japan)等を利用して相同検索を行うことで取得することができる。例えば、メダカPKD2遺伝子は、本発明者らがはじめて同定したものであるが、マウスPKD2遺伝子に基づいてフグデータベース(DOE Joint Genome Institute, USA)上で、フグPKD2遺伝子を予測し、これをもとにメダカデータベースで相同検索を行ってメダカPKD2遺伝子を取得している(配列番号3)。なお、メダカPKD2遺伝子は、ヒトやマウスのPKD2とも比較的高い相同性を示した。
【0028】
なお、他の一つの原因遺伝子であるPKD1遺伝子としては、既に、ヒト(アクセッション番号:NM_001009944)、マウス(アクセッション番号:NM_013630、において知られている。現在知られていない小型魚類を含む動物のPKD1遺伝子は、こうした既知の小型魚類のPKD1遺伝子の塩基配列又はアミノ酸配列及び/又は既知のヒトやマウスなどの異種動物のPKD1遺伝子の塩基配列又はアミノ酸配列に基づいて、遺伝子の塩基配列やアミノ酸配列に関し利用可能に公開されているデータベース(National Center for Biotechnology Information, USA及びMedaka genome project by NIG DNA Sequencing Center, Japan)等を利用して相同検索を行うことで取得することができる。例えば、メダカPKD1遺伝子は、本発明者らがはじめて同定したものであるが、フグPKD1遺伝子の塩基配列に基づいてアミノ酸レベルで相同性のあるメダカ配列をメダカデータベース(Medaka genome project by NIG DNA Sequencing Center, Japan)上でのBLAST検索により取得している(配列番号1)。なお、メダカPKD1遺伝子は、フグのPKD1遺伝子と高い相同性を示したが、ヒトやマウスなどの哺乳類のPKD1遺伝子との相同性は低い。
【0029】
導入遺伝子は、PKD2遺伝子を変異させることにより、変異遺伝子を導入する遺伝子組換えによりドミナントネガティブ効果を発現させるものであることが好ましい。PKD2遺伝子における変異がドミナントネガティブ効果を発現可能なものであれば、当該変異遺伝子の導入量や発現時期や発現量の調節によって、ドミナントネガティブ効果の発現について調節することが可能となる。
【0030】
遺伝子に対する変異は、塩基の置換、欠失、挿入及び付加から選択される1種又は2種以上の組み合わせとすることができ、また、こうした変異に係る塩基数も特に限定されない。変異は、また、PKD2遺伝子の産物のアミノ酸配列においては、1個又は複数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入及び付加を生じる変異のほか、ノンセンス変異、ナンセンス変異及びフレームシフト変異の形態を採ることができる。
【0031】
PKD2遺伝子のドミナントネガティブ変異としては、例えば、その遺伝子産物であるPC2のC末端側を欠損するような欠失変異が挙げられる。C末端側の欠損は、有効にドミナントネガティブ効果を発現可能な程度に欠失していればよいが、例えば、ヒトPKD2遺伝子及びメダカPKD2遺伝子は、ともに15個のエクソンに分かれているが、エクソン12~15の全部又は一部を欠失させる変異とすることができる。好ましくは、エクソン12~15の全てを欠失する変異とする。なお、他の小型魚類や動物のPKD2遺伝子のドミナントネガティブ変異としては、メダカ又はヒトのPKD2遺伝子のエクソン12~15に相当する領域の全部又は一部を欠失させる変異とすることが好ましい。
【0032】
このような変異遺伝子、例えば、1個若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなるDNAは、化学合成、遺伝子工学的手法、突然変異誘発などの当業者に既知の任意の方法により作製することができる。
【0033】
なお、PKD2遺伝子を変異させてドミナントネガティブ効果を発現可能とするPKD2遺伝子の変異形態はこれに限定するものではなく、各種のPKD2変異遺伝子を作製し、これを導入遺伝子として遺伝子組換えした小型魚類について、多発性嚢胞腎における嚢胞腎の形成態様等を指標とし正常なPKD2遺伝子産物の機能が阻害されているかどうかを評価することで、有効なPKD2遺伝子の変異形態を取得することができる。なお、こうした評価にあたっては、例えば、得られた遺伝子組換え小型魚類の組織切片における嚢胞の観察する手法を採用できる。
【0034】
(変異遺伝子導入用DNA構築物)
PKD2変異遺伝子による遺伝子組換え小型魚類を作製するには、変異遺伝子産物を小型魚類細胞内で発現可能なDNA構築物として導入する必要がある。このようなDNA構築物における遺伝子発現のための要素の組み合わせやその配列は、特に限定しないが、PKD2変異遺伝子を適当なプロモーターの制御下に連結するほか、ポリアデニル化配列等必要な調節領域を付加することができる。その他必要に応じて、遺伝子の発現を増強させる機能を持つイントロン配列やエンハンサー配列、転写終結を指令するターミネーター配列を用いることもできる
【0035】
プロモーターとしては、特に限定しないで、小型魚類内において機能可能なものであればよい。構成的プロモーターであってもよいし、誘導的プロモーターであってもよい。構成的プロモーターを用いるか誘導的プロモーターを用いるかは、変異遺伝子によって得られるドミナントネガティブ効果の程度によって決定することもできる。例えば、正常PKD2遺伝子の機能抑制程度が強い場合には、誘導的プロモーターを用いてその発現強度を調節することで、有効なヒトADPKDモデルとして成立する場合がある。また、変異遺伝子の正常PKD2遺伝子の機能抑制程度が穏やかな場合には、構成的プロモーターを用いて発現させることで有効なヒトADPKDモデルとして成立する場合がある。
【0036】
誘導的プロモーターとしては、商業的に入手可能な各種のシステムを用いることができる。例えば、ドキシサイクリンによる誘導可能なTet-On and Tet-Off gene expression systems(タカラバイオ)が挙げられる。さらに、PKD2変異遺伝子にあっては、発現状態を容易に確認可能にPKD2の変異タンパク質と各種のレポータータンパク質との融合タンパク質として発現させるようにしてもよい。レポータータンパク質遺伝子としては、GFPをはじめとする蛍光タンパク質の遺伝子、lacZ遺伝子、可溶性アルカリフォスファターゼ遺伝子、ルシフェラーゼ遺伝子などが挙げられる。
【0037】
また、組織特異性の高いプロモーターであってもよいし、組織特異性の低いプロモーターであってもよい。組織特異性を考慮すると、少なくとも腎臓においてPKD2変異遺伝子を発現可能なプロモーターであることが必要である。ヒトADPKDは、本来全身的な疾患であり多種類の器官に及ぶ疾患であることを考慮すると、筋肉以外の組織で発現されるプロモーターを利用することが好ましい。こうしたプロモーターとしては、例えば、EF-1α-Aプロモーター、β-アクチンプロモーター等が挙げられる。
【0038】
DNA構築物の形態も特に限定されない。後述するように受精卵等に対する遺伝子導入形態等に応じて適宜選択することができる。DNA構築物は、裸の状態であってもよいし、適当なプラスミドに保持させたベクターの形態としてもよい。
【0039】
遺伝子組換え小型魚類は、遺伝子導入のDNA構築物を小型魚類の受精卵等に導入するなど、公知の遺伝子組換え小型魚類の作製方法に基づいて作製できる。すなわち、卵母細胞又は受精卵へのマイクロインジェクション法、ウイルスベクター感染法、パーティクルガン法、エレクトロポレーション法によって行うことができる。
【0040】
なお、本小型魚類には、このような変異遺伝子が導入された魚成体、その子孫の他、魚受精卵細胞、魚胚細胞なども含まれる。
【0041】
(ヒト多発性嚢胞腎の発症又は進展に関連する外部因子のスクリーニング方法)
本発明のスクリーニング方法は、本小型魚類にスクリーニング対象である外部因子を付与する工程と、前記外部因子を付与した本小型魚類における多発性嚢胞腎の発症及び/又は進展に対する促進作用又は抑制作用を評価する工程と、
を備えることができる。
【0042】
(外部因子付与工程)
スクリーニング対象である外部因子としては、特に限定しない。ヒトADPKDの発症や進展に関連する可能性があればよい。例えば、外部因子としては,ヒトADPKDの発症や進展を抑制、すなわち、予防又は治療する薬剤となりうる化合物や環境因子であってもよいし、ヒトADPKDの発症や進展を促進するような化合物や各種ストレスなどの環境因子であってもよい。付与する外部因子は、1種利のみならず、複数種類であってもよい。例えば、化合物と環境ストレスとの双方であってもよいし、相乗効果がある可能性のある2種類以上の化合物であってもよい。互いに相殺作用のある可能性のある2種類以上の化合物であってもよい。本スクリーニング方法は、モデル動物を大量に準備できるため、2種類以上の外部因子を組み合わせたスクリーニングも大きなコストをかけずに実施することができる。
【0043】
外部因子を本小型魚類に付与するには、本小型魚類が仔魚又は成魚の場合には、仔魚又は成魚の飼料中に化合物などの外部因子を含めてもよいし、これらを飼育する液体に対して化合物を供給してもよいし、温度等の各種環境因子を付与してもよい。また、飼育用液体に供給する酸素を含有するガスに外部因子を含めることもできる。本小型魚類が発生途中の場合には、培地が培養中のガスに化合物や環境因子を付与することができる。
【0044】
(評価工程)
本小型魚類における多発性嚢胞腎の発症及び/又は進展に対する促進作用や抑制作用を評価する手法は特に限定されない。こうした評価のための指標としては、例えば、発生途中又は飼育中の本小型魚類の状態、組織切片における嚢胞の状態などが挙げられる。そのほか、嚢胞の増加や減少に伴うものであればどのようなものであってもよい。例えば、スクリーニング時における飼育用液体中の組成から検出される新たな指標であってもよいし、スクリーニング時における本小型魚類から検出される新たな指標であってもよい。すなわち、外部因子工程と評価工程とに加えて、飼育用液体や飼育中の本小型魚類おいて増減する因子の有無を評価する工程を実施することで、ヒトAPKDの発症及び/又は進展の抑制又は促進をモニターすることができる新たな指標を見出すこともできる。
【0045】
評価工程においては、多発性嚢胞腎の発症及び/又は進展に対する促進作用や抑制作用を評価するには、外部因子が付与されない場合などコントロールとなりうる飼育等の条件下で本小型魚類を飼育等するか、あるいは、こうしたコントロールとしてのデータを予め取得しておき、コントロールにおける多発性嚢胞腎の発症及び進展の傾向と対比することができる。
【0046】
評価工程において、外部因子について本小型魚類における多発性嚢胞腎の発症及び/又は進展に対する促進作用が肯定される場合には、当該外部因子は、ヒトADPKDの発症及び/又は進展に悪影響を及ぼす外部因子である。したがって、ヒトADPKDの予防・治療の観点からは、こうした外部因子の不活性化、分解又は除去等が可能な別の外部因子等を新たにスクリーニングする。例えば、本スクリーニング方法において、悪影響を及ぼす外部因子を予め本小型魚類の飼育用液体等の飼育環境や飼料等に付与しておいた上、この外部因子の影響を緩和、中和等する可能性のある外部因子を付与し、その作用を評価すればよい。
【0047】
また、評価工程において、外部因子について本小型魚類における多発性嚢胞腎の発症及び/又は進展に対する抑制作用が肯定される場合には、当該外部因子は、ヒトADPKDの発症及び/又は進展の予防又は治療に好ましい影響を及ぼす外部因子である。このような外部因子は、ヒトADPKDの予防・治療用の薬剤として利用可能であり、また、ヒトADPKDの予防・治療に好ましい環境因子として利用可能である。
【実施例1】
【0048】
以下、本発明を、実施例を挙げて具体的に説明する。ただし、本実施例は本発明を限定するものではない。
【0049】
(メダカPkd1とPkd2のクローニング)
フグPkd1の塩基配列(Hum Mol Genet 1997; 6: 1483-1489.)とアミノ酸レベルで相同性のあるメダカゲノム配列を特定するためにデータベース(National Center for Biotechnology Information, USA及びMedaka genome project by NIG DNA Sequencing Center, Japan)上でBlast searchを行った。メダカPkd2については、まずマウスPkd2をもとにフグデーターベース(DOE Joint Genome Institute, USA)上でフグPkd2を予測し、これをもとに相同検索を行った。
【0050】
得られたメダカPkd1,Pkd2において、エクソンと推測される場所にプライマーを設定しRT-PCRを行った。RT-PCRの鋳型には、Marathon法(Marathon cDNA Amplification Kit;タカラバイオ, 大津、 滋賀, 日本)により、野生型メダカOR(orange red)から作成された卵および腎臓cDNAライブラリーを使用した。遺伝子の両末端は、キット付属のプロトコールにより5'RACE及び3'RACE法を用いた。得られたPCR産物をベクターにサブクローニングし、シーケンス解析を行った。結果を図1並びに表1及び表2に示す。
【0051】
(1)メダカPkd1
図1A及び表1に示すように、遺伝子の大きさはおよそ80kbpであり、mRNAの翻訳領域は13791bpで56個のエクソンに分かれていた(図1A~図1N)。なお、図1B~図1Qの塩基配列中の下線部位は、それぞれエクソンの最後の塩基であり、当該塩基の配列右欄に記載の数字は、最後の塩基が含まれるエクソンの番号を示している。アミノ酸レベルの相同性はヒトPKD1では49.6%、マウスPkd1では48.4%、フグPkd1では68.7%であった。他の種で認められた長いイントロン1がメダカPkd1でも認められた。フグのエクソン2とエクソン31がメダカではそれぞれ2つに分かれ、結果としてメダカPkd1は56個のエクソンからなっていた。なお、表1には、ヒト、フグ、メダカPkd1の比較を示し、ヒトPKD1のデータベース(NCBI)上のドメインと、それぞれの種のエクソンとの対応を示している。
【表1】
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【0052】
(2)メダカPkd2
図1A及び表2に示すように、遺伝子の大きさはおよそ9.2kbpであり、mRNAの翻訳領域は2706bpで15個のエクソンに分かれていた(図1A、図1O~図1Q)。アミノ酸レベルの相同性はヒトPKD2では64.6%、マウスPkd2では65.2%であった。ヒトPKD2と同じように15個のエクソンに分かれていた。なお、表2には、ヒト、メダカPkd2の比較を示しており、ヒトPKD2のデータベース(NCBI)上のドメインと、それぞれの種のエクソンとの対応を示す。
【表2】
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【0053】
メダカPkd1はフグPkd1と高い相同性を示したが、ヒトやマウスなどの哺乳類との相同性は低かった。それに対して、メダカPkd2は、ヒトやマウスのPKD2とも比較的高い相同性を示した。PKD2相同遺伝子が線虫C. elegansにも存在すること[22]からも、進化の過程で種を越えてよく保存されており生物にとって極めて重要な機能を果たしていると考えられた。
【実施例2】
【0054】
本実施例では、図2に示す各種コンストラクトを作製、マイクロインジェクション法による遺伝子導入により一過性発現実験を行った。
【0055】
(欠失変異体コンストラクト作製)
図2に示す各種コンストラクトを作製した。メダカPkd1では、シグナルペプチド以外のN末端を欠失させるためエクソン6からエクソン27までを欠失させ、強化緑色蛍光蛋白質EGFP(タカラバイオ)に置き換えたプラスミドコンストラクトEF-1α-A-EGFP-Pkd1ΔNを作成した。
【0056】
メダカPkd2ではエクソン12からエクソン15までのC末端を欠失させた変異体の3’側にEGFPをタグとして付加したプラスミドコンストラクトEF-1α-A-Pkd2ΔC-EGFPを作成した。なお、プロモーターとして、筋肉以外の全身で発現するEF-1α-Aプロモーター(Develop Growth Differ 2000; 42: 469-478.)を使用した。
【0057】
また、Tet-On/Off誘導系を用いた系統をつくるため、市販のTet-On and Tet-Off gene expression systems(タカラバイオ)を用いて、Tet-On用の転写因子rtTAをEF-1α-Aプロモーターにより発現させるコンストラクトEF-1α-A-rtTAとTet-Off用の転写因子tTAを発現するコンストラクトEF-1α-A-tTAを作成した。これに対応するtet response elementを持ち、ドキシサイクリンにより発現が調節される応答遺伝子をもつコンストラクトTRE2-EGFP-Pkd1ΔN及びTRE2-Pkd2ΔC-EGFPも作成した。
【0058】
(Micro-injection法による遺伝子導入)
野生型メダカOR(orange red)の1~4細胞期の受精卵細胞質にマイクロマニピュレータ及びマイクロメーターシリンジを用いて、顕微鏡下にmicro-injection法[21]で遺伝子導入を行った。DNA濃度は25ng/μlに調整した。
【0059】
(結果)
(1)EGFP-Pkd1ΔNの一過性発現実験
275個の受精卵に、プラスミドコンストラクトEF-1α-A-EGFP-Pkd1ΔNをmicro-injection法により遺伝子導入した。結果を表3及び図3に示す。24時間後、104個の卵がEGFPによる蛍光を発した。1個の卵に心臓逆位を認めた。35個が孵化し、12匹に躯幹の屈曲を認めた。組織切片による評価で25匹中1匹に前腎の嚢胞を認めた(図3A,B)。
【0060】
なお、表3には、一過性発現実験結果を示す。すなわち、micro-injection法により遺伝子導入し、受精卵及び稚魚で認められた表現型の一覧を示す。ただし、蛍光;micro-injectionの24時間後、EGFPによる緑色蛍光を呈した卵数、心臓逆位;6日目の受精卵の観察により心臓逆位があると認めた個体数、屈曲;孵化したものの躯幹屈曲を呈した稚魚数、直;異常なく孵化した稚魚数、切片;主に屈曲した稚魚を固定し組織切片を作成した数、腎嚢胞;組織切片の検鏡により前腎嚢胞が確認された個体数、である。
【表3】
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【0061】
(2)Pkd2ΔC-EGFPの一過性発現実験
452個の卵にプラスミドコンストラクトEF-1α-A-Pkd2ΔC-EGFPをmicro-injection法により遺伝子導入した。結果を表3及び図4に示す。24時間後、135個の卵がEGFPによる蛍光を発した。孵化直前の受精後6日目の卵を実体顕微鏡で観察したところ、8個の卵に心臓逆位を認めた(図4C、D)。74個が孵化し、29匹に躯幹の屈曲を認めた(図4A)。組織切片による評価で24匹中3匹に前腎の嚢胞を認めた(図4B)。
【0062】
メダカでは受精卵の1~4細胞期の細胞質にプラスミドコンストラクトをmicro-injectionすることにより、in vivoで導入遺伝子を発現させることができる。遺伝子導入された卵はおよそ7日で孵化し、稚魚は脊椎動物の基本的器官をすべて備えているため、導入遺伝子の機能の簡便な評価が可能であった。本実験では、ペプチド鎖伸長因子のプロモーターであるEF-1α-AプロモーターによりC末端の欠失した変異メダカPkd2を初期胚の段階で過剰発現させた。この結果、前腎に嚢胞が形成され、欠失変異蛋白質がドミナントネガティブ変異体として働き、ノックアウト動物と同等の表現型を得たものと考えられた。また腎嚢胞以外に、心臓逆位、屈曲も一過性の欠失変異体遺伝子発現の表現型として認められた。野生型メダカでは約0.5%に心臓逆位を認めるが、一過性発現実験では、Pkd2欠失変異体をmicro-injectionされ蛍光を認めた卵のうち6%の個体に心臓逆位を認めた。ヒトADPKDでは心臓逆位を認めないが、Pkd2ノックアウトマウスのホモ接合体では33%に心臓逆位を認める。これは初期胚においてpolycystin-2が左右軸決定に関与しており、その機能が阻害されたときに心臓逆位が発生すると考えられている。従って、一過性発現ではあるものの変異Pkd2を導入したメダカの初期胚に心臓逆位が認められたことはPkd2欠失変異体がドミナントネガティブ機序を介して野生型のPkd2を阻害した可能性を強く示唆するものであった。
【0063】
躯幹の屈曲については、野生型では孵化した稚魚の0.5%に認められるが、Pkd1欠失変異体導入では蛍光を認めた卵のうち13%、Pkd2欠失変異体導入では33%に躯幹屈曲が認められた。micro-injection自体の影響でも屈曲が生じる可能性も考えられたが、本実験においては屈曲のある稚魚にのみ腎嚢胞を認めた。Morpholino anti-sense oligonucleotideによりInvsやPkd2の遺伝子発現をノックダウンさせたゼブラフィッシュや腎嚢胞を持つ多くのゼブラフィッシュの変異体においても腎嚢胞とともに屈曲も表現型として出現することが報告されており、腎嚢胞と屈曲の関連性が示唆された。
【0064】
もう1つ特記すべきことは、micro-injection後に半数以上が孵化せず死滅したことである。Pkd1ならびにPkd2ノックアウトマウスのホモ接合体ではそのほとんどが胎性致死となるが、胎生期に既に腎実質をほとんど認めないような多発性嚢胞腎を有している。欠失変異体導入メダカに関しても、胚生期に変異体が過剰発現した場合に腎嚢胞はできるものの胚性致死となり孵化できなかった可能性が考えられた。胚性致死を免れ、孵化したメダカではむしろ欠失変異体遺伝子発現が十分でなく、嚢胞形成も少なかったとも考えられた。
【0065】
このようにPkd1およびPkd2の欠失変異体の遺伝子導入では、腎嚢胞ができるほど十分量を導入されると屈曲及び致死を起こす可能性があり、何らかの発現調節可能な系統化されたトランスジェニックメダカの作成が必要であると考えられた。このため、EF-1α-Aプロモーターにより構成的に導入遺伝子を発現する系統以外にも、Tet-On/Off誘導系を用いて、ドキシサイクリンを投与することにより遺伝子発現を調節する系統も作成し、さらなる検討を行った。
【実施例3】
【0066】
(トランスジェニックメダカ系統の確立)
本実施例では、一過性発現実験から得られた成魚から、PCR法にて導入遺伝子が導入された個体を特定し、この個体を野生型との交配、さらに遺伝子導入が確認された個体と野生型との交配によってF1世代を取得し、さらにF2世代を取得した。
【0067】
(系統化及びジェノタイピング)
micro-injection後の卵から孵化した稚魚を2~3ヵ月飼育し、成魚となった後、尾びれより以下の方法でDNAを抽出し、以下の表4に示すPCR法にて導入遺伝子が導入された個体を特定した。なお、表4には、ゲノタイピングに用いられるPCRプライマー(配列番号5~配列番号14)を示す。mep1-B1FとGFP3の組は、EF-1α-A-EGFP-Pkd1ΔN系統も検出する。P2HindFとGFP3の組は、EF-1α-A-Pkd2ΔC-EGFP系統も検出する。

【表4】
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【0068】
lysis buffer(10mM Tris-HCl, 50mM KCl, 0.3% Tween20, 1mM EDTA) 50μl中に、メダカ成魚の尾びれを入れた。95℃、10分加熱後、ProteinaseK(20mg/ml)を2.5μlを加え、55℃で一晩加熱した。翌日、95℃、10分加熱し、蒸留水で5倍希釈した。このうちの1μlをPCRに使用した。
【0069】
魚類はモザイク状に遺伝子が組み込まれるため、この個体と野生型を交配し、その受精卵のDNAを用いてPCR法で生殖細胞に導入遺伝子が導入された個体をさらに特定した。この個体と野生型との交配で得られたF1世代が、全細胞に導入遺伝子が組み込まれた個体となった。魚類では、F1世代においても、導入遺伝子の挿入部位とコピー数がそれぞれの個体で異なることがあることが知られており、さらにF1世代より1匹を選択し、野生型と交配した。これにより得られたF2世代以降がメンデルの法則に従う遺伝様式をもち系統の確立となった。結果を表5に示す。
【0070】
なお、表5には、micro-injection法により遺伝子導入し、導入遺伝子が生殖細胞に組み込まれたトランスジェニックメダカの数の一覧を示す。ただし、体細胞遺伝子陽性;尾びれを用いたゲノタイピングにより導入遺伝子が陽性であった個体数、生殖細胞遺伝子陽性;さらにそれらの個体を野生型と交配し,得られた受精卵のゲノタイピングが陽性であった個体数である。
【表5】
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【0071】
(結果)
表5に示すように、欠失変異体の遺伝子導入では、屈曲及び致死の可能性があり、発現調節可能な系統を作るためTet-On/Off誘導系を用いた。Tet-On/Off系統については、転写因子を持つ系統と誘導される遺伝子を持つ系統をそれぞれ確立したのち、これらを交配させることにより得た。Tet-On誘導系で使用される転写因子rtTAを持つメダカとして、EF-1α-A-rtTA系統が1系統、Tet-Off誘導系のための転写因子tTAを持つ系統としてEF-1α-A-tTA系統が3系統確立された。
【0072】
(1)Pkd1ΔNを持つ系統
Tet-On/Off誘導系の応答遺伝子をもつメダカとして、TRE2-EGFP-Pkd1ΔN系統が3系統、作成された。サザンブロットの結果からコピー数の最も多いno.7系統を選択し、EF-1α-A-tTA no.6系統と交配し、Tet-Off EGFP-Pkd1ΔN系統とした。さらに誘導系を介さず、導入遺伝子を発現する系統として、EF-1α-A-EGFP-Pkd1ΔN系統が2系統、得られた。
【0073】
(2)Pkd2ΔCを持つ系統
Tet-On/Off誘導系の応答遺伝子をもつメダカとして、TRE2-Pkd2ΔC-EGFP系統が2系統、作成された。サザンブロットの結果からコピー数の最も多いno.17系統を選択し、EF-1α-A-rtTA 系統と交配し、Tet-On Pkd2ΔC-EGFP系統とした。構成的に導入遺伝子を発現する系統として、EF-1α-A-Pkd2ΔC-EGFP系統が5系統、得られた。
【実施例4】
【0074】
(サザンブロッティングによる導入遺伝子の確認とコピー数の概算)
本実施例では、系統化された個体よりゲノムを抽出しDIG-サザンブロッティング法により、導入遺伝子の全長が組み込まれたことを確認するとともに、そのコピー数を概算した。ポジティブコントロールとして、それぞれの系統を作るために使用されたプラスミドコンストラクトを濃度を調整して使用した。
【0075】
(ゲノム抽出)
lysis buffer(50mM Tris-HCl,20mM EDTA, 100mM NaCl) 5ml中に、メダカ成魚全個体をいれ、ホモジナイズした。その後、10%SDS 250μl、ProteinaseK(20mg/ml) 125μlを加え、55℃で一晩加熱した。翌日、3000rpm、室温、5分遠心し上清のみを別のチューブに移し、5M NaClを1.25ml加え、氷上に15分置いた。3000rpm、室温、5分遠心し、上清を別のチューブに移し、蒸留水を2ml加え、再度、3000rpm、室温、15分遠心した。上清のみ別のチューブに移し、0.8倍容量のイソプロパノールを加え、DNAのひも状の沈殿を作った。沈殿をエッペンチューブに移し、70%エタノールでリンスしTE 200μlに溶解したあと、RNase(10mg/ml)2μlを加え37℃、1時間加熱した。フェノール・クロロホルム処理を2回行った後、エタノール沈殿を行い、TE 200μlに溶解した。
【0076】
(サザンブロッティング(DIG法))
上記方法にてメダカ全個体よりゲノムを抽出し、それぞれ8μgを使用した。EGFP-Pkd1ΔNを持つ系統はゲノムをEcoRI/BglIIで切断し、Pkd2ΔC-EGFPを持つ系統はBamHIで切断した。メダカPkd1に対するDIG-dUTP(Roche, Basel, Basel-Stadt, Switzerland)で標識されたプローブは、エクソン56を目標にコンストラクトEF-1α-A-EGFP-Pkd1ΔNをテンプレートにプライマー5'-GCTCATCCTCCACCAGTGAC-3'(配列番号15)と5'-CCCTCCCTCTCTGAAAGGTT-3'(配列番号16)を使用し PCR法を用い作成した。メダカPkd2に対するプローブはエクソン1を目標にコンストラクトEF-1α-A-Pkd2ΔC-EGFPをテンプレートにプライマー5'-CTGATGTTTTGCGCTTTGTC-3'(配列番号17)と5'-GGGATGCTCGTGTCTGTCTT-3'(配列番号18)を用いPCR法で作成した。
【0077】
標準的なプロトコールに従い、アルカリトランスファー法でポジティブチャージナイロンメンブレン(Hybond N+;GE healthcare Bio-Science Corp, Piscataway, New Jersey, USA)に転写した。化学発光基質に、CDP-star(Roche)を用い、現像はCCDカメラ(Cool saver;アトー、東京、日本)で行った。結果を、図5に示す。
【0078】
(結果)
(1)Pkd1ΔNを持つ系統
TRE2-EGFP-Pkd1ΔN系統及びEF-1α-A-EGFP-Pkd1ΔN系統のサザンブロッティングを行った。計算上、プラスミド100pgが1コピーに相当した。それぞれの系統の中でもっともコピー数が多いものは、EF-1α-A-EGFP-Pkd1ΔN no.1系統のおよそ10コピー(図5A)、TRE2-EGFP-Pkd1ΔN no.7系統のおよそ10コピー(図5B)であると概算された。
【0079】
(2)Pkd2ΔCを持つ系統
TRE2-Pkd2ΔC-EGFP系統及びEF-1α-A-Pkd2ΔC-EGFP系統のサザンブロッティングを行った。TRE2-Pkd2ΔC-EGFP no.17系統とno.24系統はともに10コピー未満であると概算された(図5C)。EF-1α-A-Pkd2ΔC-EGFP系統の中では no.7及びno.12系統が10コピー以上あり、多くのコピー数があると考えられた(図5D)。
【実施例5】
【0080】
(RT-PCRによる発現の確認)
本実施例では、ゲノムに組み込まれた導入遺伝子が発現しているか、導入遺伝子固有のプライマーを用いてRT-PCRで確認した。
【0081】
メダカ肝および腎を摘出し、RNAlater(QIAGEN, Hilden, North Rhine-Westphalia, Germany)中に保存した。RNeasy mini kit(QIAGEN)を用いてキット添付のプロトコールに従いシリカメンブレン上でのRNase-free DNase I(QIAGEN)処理を追加して、total RNAを抽出した。さらにDNase I (Invitrogen, Carlsbad, California, USA)処理を行い、フェノール・クロロホルム処理及びエタノール沈殿後、RNA濃度を1μg/μlに調整した。このtotal RNA 1μlをテンプレートにランダムヘキサマーを用いてSuperScriptIII Reverse Transcriptase(Invitrogen)で逆転写を行いcDNAを得た。RNase(SIGMA, Saint Louis, Missouri, USA)処理を行ったあと、このcDNAをテンプレートに、Pkd1ΔNの発現については、mep-1B1Fプライマー及びGFP3プライマー(表4)を用い、Pkd2ΔCはP2HindFプライマー及びGFP3プライマー(表4)を用いてPCR反応を行った。ネガティブコントロールとして、逆転写前のRNAを用いて同じ条件でPCR反応を行った。PCR条件は、Ex Taq(タカラバイオ)を用い、熱変性94℃、30秒、アニール温度60℃、30秒、伸長反応72℃、1分を35サイクル行った。結果を図6に示す。
【0082】
(結果)
(1)Pkd1ΔNを持つ系統
EF-1α-A-EGFP-Pkd1ΔN no.1系統の肝および腎のRT-PCRにおいて、逆転写酵素を添加した場合にのみ目的とする730bpのバンドを認めた(図6A)。
(2)Pkd2ΔCを持つ系統
EF-1α-A-Pkd2ΔC-EGFP no.12系統の肝および腎のRT-PCRにおいて、逆転写酵素を添加した場合にのみ目的とする657bpのバンドを認めた(図6B)。
【実施例6】
【0083】
(ウエスタンブロッティングによる転写因子rtTA及びtTAの確認)
メダカ肝をRIPAバッファー中でホモジェナイズし、10%SDS PAGEゲルを用いて電気泳動した。ウェット型のブロッティング装置でPVDF膜(Immobilon-P;Millipore, Billerica, Massachusetts, USA)にブロッティングした。1次抗体に抗VP16抗体(SIGMA)5000倍希釈、2次抗体にHRP-Goat Anti-Rabbit IgG抗体(H+L)(Zymed, San Francisco, California, USA)20000倍希釈を用いた。化学発光基質にImmobilon Western(Millipore)を用い、CCDカメラ(Cool saver;アトー)で現像した。結果を図7に示す。
【0084】
転写因子rtTA及びtTAにあるVP16 transcription active domain に対する抗体(抗VP16抗体)を用いたウエスタンブロッティングにより、EF-1α-A-rtTA系統及びEF-1α-A-tTA no.6系統が37kDaの目的蛋白質を発現していることを確認した(図7A,図7B)。
【実施例7】
【0085】
(系統化したトランスジェニックメダカの組織切片)
本実施例では、稚魚及び成魚をブアン固定後、パラフィンに包埋した。ミクロトームを用いて連続切片を作成し、HE染色を行った。
【0086】
トランスジェニックメダカを飼育し、定期的に組織切片を作成し、腎嚢胞を検索した。結果を図8及び図9に示す。
【0087】
(結果)
(1)Pkd1ΔNを持つ系統
コピー数が多いと考えられたEF-1α-A-EGFP-Pkd1ΔN no.1系統のヘテロ接合体の成魚の組織検索では5ヵ月の時点では、腎嚢胞を認めなかった。Tet-Off EGFP-Pkd1ΔN系統は、ドキシサイクリンがなければ最大活性で導入遺伝子が発現するはずだが、6ヵ月後の成魚の組織切片では腎嚢胞は認めなかった。
【0088】
以上のことから、メダカPkd1ΔN変異については以下のようにまとめることができる。すなわち、メダカPkd1のN末端欠失変異体を受精卵にmicro-injection法で遺伝子導入したところ、稚魚に腎嚢胞、躯幹屈曲を認めた。メダカPkd1のN末端欠失変異体を遺伝子導入し系統化したが、腎嚢胞は認めなかった。
【0089】
(2)Pkd2ΔCを持つ系統
EF-1α-A-Pkd2ΔC-EGFP no.12系統を7ヵ月飼育した後、ヘテロ接合体の組織切片を作成し検鏡した。両腎に数個の中等度の腎嚢胞を認めた(図8A,8B,8C,8D)。また、Tet-On Pkd2ΔC-EGFP系統をドキシサイクリン10μg/mlに4ヵ月曝露した後、転写因子rtTAと応答遺伝子TRE2-Pkd2ΔC-EGFPがともにヘテロ接合体である個体の組織切片を検鏡したところ、片腎に数個の腎嚢胞を認めた(図9A,9B,9C)。
【0090】
以上のことから、メダカPkd2ΔC変異については以下のようにまとめることができる。すなわちメダカPkd2のC末端欠失変異体を受精卵にmicro-injection法で遺伝子導入したところ、稚魚に腎嚢胞、心臓逆位、躯幹屈曲を認めた。また、メダカPkd2のC末端欠失変異体を用いて腎嚢胞を形成するトランスジェニックメダカを系統化できた。
【0091】
(まとめ)
メダカでは導入遺伝子がモザイク状に組み込まれるため、生殖細胞に入る確率が10%と低い。しかし採卵が容易であることから多数の受精卵にmicro-injectionすることができ、手技に習熟すれば総じてマウスよりも容易にトランスジェニックメダカを作成することが可能である。系統化されたトランスジェニックメダカは全細胞で導入遺伝子が発現する。しかし一過性実験に比べてゲノムに組み込まれた遺伝子の発現量は減少している。micro-injectionされた導入遺伝子の数%のみがゲノムに組み込まれ、さらにその発現はゲノム上の挿入位置により影響を受ける。本実験でも、一過性発現実験ではタグとして用いたEGFPの蛍光を実体顕微鏡下に認めることができたが、系統化されたトランスジェニックメダカでは蛍光を肉眼的に確認することは不可能であり、発現量の差によるものと考えられた。
【0092】
系統化されたトランスジェニックメダカの組織学的検討を行った。 Pkd1 N末端欠失変異体を導入したEF-1α-A-EGFP-Pkd1ΔN系統では腎嚢胞を形成するメダカを認めなかった。腎嚢胞ができるほど欠失変異体が発現したメダカは致死となり、系統化できたものは発現量が少ない可能性が考えられた。このため、転写因子tTAを持つ系統と、応答遺伝子TRE2-EGFP-Pkd1ΔNを持つ系統をそれぞれつくり、この2系統を交配させてTet-Off誘導系によりPkd1のN末端欠失変異体を発現させたが、EF-1α-A-EGFP-Pkd1ΔN系統と同様に腎嚢胞や屈曲などの表現型は認められなかった。Pkd1については、ゼブラフィッシュでヒトPKD1のC末端mRNAを卵にmicro-injectionし過剰発現させることによって腎嚢胞を形成することが示されており[25][26]、本実験の一過性発現実験で認めた表現型は、ドミナントネガティブ効果による野生型Pkd1の阻害によるものではなく、C末端の過剰発現による可能性も考えられた。いずれにしても、系統化されたPkd1変異メダカにおいては欠失変異体の発現量が十分でなく、嚢胞形成を認めなかったことが推察された。
【0093】
一方、Tet-On誘導系を用いたTet-On Pkd2ΔC-EGFP系統は10μg/mlの濃度のドキシサイクリンに曝露し続けて、4ヵ月後に腎嚢胞を形成する個体が出現した。構成的に導入遺伝子を発現したEF-1α-A-Pkd2ΔC-EGFP系統も、当初の仮説に反して遺伝子の発現により致死となることもなく系統化できた。最もコピー数の多いと考えられたno.12系統は7ヵ月後に腎嚢胞を形成したが、腎嚢胞の数は少なかった。他のコピー数の少ない系統は7ヵ月たっても腎嚢胞はできず、欠失変異体がドミナントネガティブ変異体として機能するには十分な発現量が必要であると考えられた。多量に変異体を発現させた一過性実験では稚魚の段階で腎嚢胞を認めているのに対して、系統化したメダカでは嚢胞形成に数ヵ月を要していることから、変異体の発現量が少ないほど、嚢胞形成に要する時間は長くなるものと推察された。また両系統ともに一過性実験で認められた躯幹屈曲や心臓逆位は認めなかった。このことはむしろ腎嚢胞のみを形成するモデルとしては好都合である。躯幹屈曲や心臓逆位が認められない程度に欠失変異体の発現量を増加させることにより、早期に嚢胞が発生し、また嚢胞発生頻度も多くなることが期待され、ヒトADPKDの表現型により近づくことが期待される。
【0094】
以上のことから、Pkd1 N末端欠失変異体導入トランスジェニックメダカでは表現型が得られなかったが、Pkd2 C末端欠失変異体導入トランスジェニックメダカでは,十分な発現量があればドミナントネガティブ変異体として機能し腎嚢胞を形成できることがわかった。また、Pkd2欠失変異体導入トランスジェニックメダカが、嚢胞形成における薬剤曝露試験において有効な新たなモデル動物となることがわかった。
【配列表フリ-テキスト】
【0095】
配列番号5~18:プライマー
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1A】メダカPkd遺伝子の構造の模式図である。Aは、メダカPkd1.56個のエクソンに分かれていることを示す。カッコ内は対応するフグのエクソン番号を示し、Bは、メダカPkd2.15個のエクソンに分かれていることを示す。
【図1B】メダカPKD1遺伝子のcDNA配列及びアミノ酸配列の一部を示す図である。
【図1C】メダカPKD1遺伝子のcDNA配列及びアミノ酸配列の一部を示す図である。
【図1D】メダカPKD1遺伝子のcDNA配列及びアミノ酸配列の一部を示す図である。
【図1E】メダカPKD1遺伝子のcDNA配列及びアミノ酸配列の一部を示す図である。
【図1F】メダカPKD1遺伝子のcDNA配列及びアミノ酸配列の一部を示す図である。
【図1G】メダカPKD1遺伝子のcDNA配列及びアミノ酸配列の一部を示す図である。
【図1H】メダカPKD1遺伝子のcDNA配列及びアミノ酸配列の一部を示す図である。
【図1I】メダカPKD1遺伝子のcDNA配列及びアミノ酸配列の一部を示す図である。
【図1J】メダカPKD1遺伝子のcDNA配列及びアミノ酸配列の一部を示す図である。
【図1K】メダカPKD1遺伝子のcDNA配列及びアミノ酸配列の一部を示す図である。
【図1L】メダカPKD1遺伝子のcDNA配列及びアミノ酸配列の一部を示す図である。
【図1M】メダカPKD1遺伝子のcDNA配列及びアミノ酸配列の一部を示す図である。
【図1N】メダカPKD1遺伝子のcDNA配列及びアミノ酸配列の一部を示す図である。
【図1O】メダカPKD2遺伝子のcDNA配列及びアミノ酸配列の一部を示す図である。
【図1P】メダカPKD2遺伝子のcDNA配列及びアミノ酸配列の一部を示す図である。
【図1Q】メダカPKD2遺伝子のcDNA配列及びアミノ酸配列の一部を示す図である。
【図2】コンストラクト模式図である。それぞれのコンストラクト上の矢印(→←)は、検出用のPCRプライマー(表1)のおよその位置を示す。A) プラスミドコンストラクトEF-1α-A-Pkd2ΔC-EGFPは、EF-1α-Aプロモーターの下流にメダカPkd2のエクソン12以降のC末端を欠失させEGFPと融合させたcDNAを組み込んだ。BamHIは制限酵素部位を示す。B) プラスミドコンストラクトEF-1α-A-EGFP-Pkd1ΔNは、EF-1α-Aプロモーターの下流に、メダカPkd1のシグナルペプチドを含むエクソン1から5まで以外のN末端を欠損させ、かわりにEGFPを融合させたcDNAを組み込んだ。EcoRI及びBglIIは制限酵素部位を示す。C) プラスミドコンストラクトEF-1α-A-rtTAは、EF-1α-Aプロモーターの下流に、Tet-On用の転写活性化因子rtTAを組み込んだ。D) プラスミドコンストラクトTRE2-Pkd2ΔC-EGFPは、テトラサイクリン応答因子(TRE)を持つ最小化CMVプロモーターの下流に、メダカPkd2のC末端を欠失させたcDNAを組み込んだ。E) プラスミドコンストラクトTRE2-EGFP-Pkd1ΔNは、テトラサイクリン応答因子(TRE)を持つ最小化CMVプロモーターの下流に、メダカPkd1のシグナルペプチド以外のN末端を欠失させたcDNAを組み込んだ。F) プラスミドコンストラクトEF-1α-A-tTAは、EF-1α-Aプロモーターの下流に、Tet-Off用の転写活性化因子tTAを組み込んだ。
【図3】EGFP-Pkd1ΔNを一過性に遺伝子導入された稚魚を示す図。A) 外観。躯幹屈曲を認める。B) 孵化2日後のその稚魚の切片。左前腎のボウマン嚢の拡張(*)を認める。C) 対照の野生型の稚魚の切片。矢印は糸球体、矢頭は尿細管を示す。
【図4】Pkd2ΔC-EGFPを一過性に遺伝子導入された稚魚を示す図。A) 外観。躯幹屈曲を認める。B) 孵化2日後のその稚魚の切片。左前腎のボウマン嚢の拡張(*)及び尿細管の拡張(†)を認める。‡は、耳包を示す。C) 遺伝子導入された稚魚は静脈が向かって左から心房に入る。矢印は心房、矢頭は心室を示す。D) 対照の野生型。静脈が向かって右から心房に入る。
【図5】系統化されたトランスジェニックメダカのサザンブロッティング結果を示す図。A) EF-1α-A-EGFP-Pkd1ΔNが組み込まれた複数の系統に属するメダカよりゲノムを抽出し比較した。EchoRI/BglIIで制限酵素処理を行い、プローブが検出した6.6kbのバンドが導入遺伝子である。1;no.1系統, 2;no.11系統, 3;プラスミドEF1-α-A-EGFP-Pkd1ΔN 10pg, 4;同100pg, 5;同1000pg。B) TRE2-EGFP-Pkd1ΔNが組み込まれた複数の系統に属するメダカよりゲノムを抽出し比較した。EchoRI/BglIIで制限酵素処理を行い、プローブが検出した6.6kbのバンドが導入遺伝子である。1;no.7系統, 2;no.10系統, 3;no.15系統, 4;プラスミドTRE2-EGFP-Pkd1ΔN 10pg, 5;同100pg, 6;同1000pg。C) EF-1α-A-Pkd2ΔC-EGFPが組み込まれた複数の系統に属するメダカよりゲノムを抽出し比較した。BamHIで制限酵素処理を行い、プローブが検出した2.3kbのバンドが導入遺伝子である。1;no.4系統, 2;no.7系統, 3;no.11系統, 4;no.12系統, 5;no.18系統, 6;プラスミドEF-1α-A-Pkd2ΔC-EGFP 10pg, 7;同100pg, 8;同1000pg。D) TRE2-Pkd2ΔC-EGFPが組み込まれた複数の系統に属するメダカよりゲノムを抽出し比較した。BamHIで制限酵素処理を行い、プローブが検出した2.3kbのバンドが導入遺伝子である。1;no.17系統, 2;no.24系統, 3;プラスミドTRE2-Pkd2ΔC-EGFP 10pg, 4;同100pg, 5;同 1000pg。
【図6】系統化されたトランスジェニックメダカのRT-PCR結果を示す図。A) EF-1α-A-EGFP-Pkd1ΔN no.1系統。L; 1kb plus DNA ladder(Invitrogen), 1;肝cDNA, 2;腎cDNA, 3;肝RNA, 4;腎RNAB) EF-1α-A-Pkd2ΔC-EGFP no.12系統。L; 1kb plus DNA ladder(Invitrogen), 1;肝cDNA, 2;腎cDNA, 3;肝RNA, 4;腎RNA
【図7】系統化されたトランスジェニックメダカのウエスタンブロッティング結果を示す図。EF-1α-A-rtTA系統及びEF-1α-A-tTA系統に属するメダカの肝臓から蛋白質を抽出し、発現を比較した。1;EF-1α-A-tTA no.6系統 蛋白質量0.15μl, 2;同1.5μl, 3;同0.5μl, 4;EF-1α-A-tTA no.3系統 0.15μl, 5;同1.5μl, 6;同0.5μl, L;MagicMark XP Western Protein Standard(Invitrogen)、7;EF1-α-A-rtTA系統 0.15μl, 8;同1.5μl, 9;同0.5μl, 10;EF1-α-A-tTA no.18系統 0.15μl, 11;同1.5μl, 12;同0.5μl。矢印(→)は37kDaの目的蛋白質を示す。
【図8】EF-1α-A-Pkd2ΔC-EGFP no.12系統の成魚の組織切片を示す図。7ヵ月のヘテロ接合体の成魚のHE染色切片である。A) 弱拡大(40倍)。右腎に腎嚢胞を認める。*は輸尿管(ヒトの尿管に相当)を示す。B) 連続切片の続き。左腎にも複数の腎嚢胞を認める。C) 強拡大(100倍)。D) 対照の野生型(40倍)。
【図9】Tet-On Pkd2ΔC-EGFP成魚の組織切片を示す図。転写因子及び応答遺伝子がともにヘテロである遺伝子型(rtTA/-,Pkd2ΔC/-)の4ヵ月後の成魚のHE染色切片である。A) 弱拡大(40倍)。右腎に尿細管の嚢胞様変化を認める。*は輸尿管(ヒトの尿管に相当)を示す。B) 連続切片の続き。右腎嚢胞は融合し大きな嚢胞となるが、左腎には明らかな嚢胞を認めない。C) 強拡大(100倍)。
図面
【図1A】
0
【図2】
1
【図1B】
2
【図1C】
3
【図1D】
4
【図1E】
5
【図1F】
6
【図1G】
7
【図1H】
8
【図1I】
9
【図1J】
10
【図1K】
11
【図1L】
12
【図1M】
13
【図1N】
14
【図1O】
15
【図1P】
16
【図1Q】
17
【図3】
18
【図4】
19
【図5】
20
【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
24