TOP > 国内特許検索 > 層間移動式光学分割法 > 明細書

明細書 :層間移動式光学分割法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5117784号 (P5117784)
公開番号 特開2009-029741 (P2009-029741A)
登録日 平成24年10月26日(2012.10.26)
発行日 平成25年1月16日(2013.1.16)
公開日 平成21年2月12日(2009.2.12)
発明の名称または考案の名称 層間移動式光学分割法
国際特許分類 C07C 209/88        (2006.01)
C07C 211/27        (2006.01)
C07B  57/00        (2006.01)
FI C07C 209/88
C07C 211/27
C07B 57/00 360
請求項の数または発明の数 3
全頁数 7
出願番号 特願2007-194592 (P2007-194592)
出願日 平成19年7月26日(2007.7.26)
審査請求日 平成22年7月1日(2010.7.1)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】000125369
【氏名又は名称】学校法人東海大学
発明者または考案者 【氏名】稲津 敏行
【氏名】鈴木 貴之
個別代理人の代理人 【識別番号】110001070、【氏名又は名称】特許業務法人SSINPAT
【識別番号】100103218、【弁理士】、【氏名又は名称】牧村 浩次
【識別番号】100115392、【弁理士】、【氏名又は名称】八本 佳子
審査官 【審査官】井上 千弥子
参考文献・文献 特開平07-242569(JP,A)
特開昭58-124722(JP,A)
特開2008-143847(JP,A)
特開2005-255546(JP,A)
特表2000-514062(JP,A)
国際公開第2003/037842(WO,A1)
国際公開第2007/139182(WO,A1)
化学,2002年,57(6),pp. 16-20
Tetrahedron Letters,2003年,44,pp. 6221-6225
Tetrahedron Letters,2003年,44,pp. 6227-6230
調査した分野 C07B 57/00
CA/REGISTRY(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
二層を形成する2つの液体の一方に光学分割剤を溶解させ、他方の液体に溶解している一対の光学異性体の片方を、該二層の界面を経由して他層側に抽出する光学分割方法であって、
前記二層を形成する2つの液体のうち、前記光学分割剤を溶解させる液体が、フルオラス溶媒であり、前記光学分割剤が、下記式(1)で表されるアシル基を有する誘導体であることを特徴とする光学分割方法。
【化1】
JP0005117784B2_000004t.gif

【請求項2】
前記光学分割剤が、アミノ基を上記式(1)で表されるアシル基で置換されたアミノ酸である、請求項に記載の光学分割方法。
【請求項3】
前記光学異性体が、アミンである、請求項1または2に記載の光学分割方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、光学分割方法に関し、さらに詳しくは、特定の光学分割剤を使用することによって、効率的に片方の光学異性体を二層間抽出する光学分割方法に関する。
【背景技術】
【0002】
サリドマイド禍を引例するまでもなく、近年、光学活性体が医薬、農薬、有機材料など幅広い分野でその重要性が高まり、様々な形で利用されるようになってきている。その光学活性体を製造する不斉合成法の発達があると同時に、古くから知られている、光学活性体の分離方法である光学分割法が重要な技術として利用されている。光学分割には、光学活性な担体を用いる特許文献1に記載のクロマトグラフィー法とともに、光学分割剤を用いる方法が多用されている。その方法の多くは、ラセミ混合物をジアステレオマーに誘導して分割するもので、特許文献2に記載のいわゆる優先晶出させる方法が一般的である。すなわち、目的とする化合物のエナンチオマー混合物と、光学活性な分割剤を反応させて得られるジアステレオマーの結晶性の違いを利用している。この方法では、結晶化するかどうかが、最大の問題点であり、結晶性に優れた多くの光学分割剤が開発されてきている。しかし、目的のジアステレオマーが結晶化するかどうかは、トライアンドエラー型の予備試験や、経験に基づく方法でのみ決定される。

【特許文献1】特開2002-105052号公報
【特許文献2】特開2002-30032号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、互いに混じらない二層を形成する溶媒間におけるジアステレオマーの物理的および化学的性質の違いを利用することによって、結晶化に頼ることなく、従来法より簡便な光学分割する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、互いに混じらない二層、とりわけフルオラス溶媒/有機溶媒からなる二層に着目し、結晶化に頼らない光学分割について鋭意検討した結果、特定の光学分割剤、好ましくは高度にフッ素化された置換基を有する光学分割剤を用いることによって達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0005】
すなわち、本発明は以下に記載した事項により特定される。
本発明は、二層を形成する2つの液体の一方に光学分割剤を溶解させ、他方の液体に溶解している一対の光学異性体の片方を、該二層の界面を経由して他層側に抽出する光学分割方法であることを特徴とする。
【0006】
上記二層を形成する2つの液体のうち、上記光学分割剤を溶解させる液体が、フルオラス溶媒であってもよく、また、上記光学異性体は、アミンであってもよい。
また、上記光学分割剤は、好ましくは高度にフッ素化された置換基を有する誘導体であって、さらに好ましくはアミノ基を高度にフッ素化された置換基で置換されたアミノ酸である。
【0007】
なお、上記高度にフッ素化された置換基は、下記式(1)で表されるアシル基であってもよい。
【0008】
【化1】
JP0005117784B2_000002t.gif

【発明の効果】
【0009】
本発明は、フルオラス溶媒および高度にフッ素化された置換基を有する光学分割剤を好適に使用することによって、片方の光学異性体を二層間抽出する光学分割方法を提供することができる。さらに、本発明は、従来の方法のように結晶化するか否かを全く問わない点において、工業的価値やその波及効果は極めて大である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
次に本発明について具体的に説明する。なお、本明細書において、「光学異性体」という用語は、「エナンチオマー」という用語と同義として使用する。
本発明において使用される二層を形成する2つの液体は、互いに混じり合わない液体同士であれば何でもよく、特に制限されない。具体的には、水/有機溶媒、水/フルオラス溶媒、有機溶媒/有機溶媒、有機溶媒/フルオラス溶媒等が挙げられる。中でも、有機溶媒/フルオラス溶媒が好ましい。それぞれの溶媒を混合した溶媒によって二層を形成してもよい。
【0011】
上記「フルオラス溶媒」という用語は、「親フルオロカーボン性の溶媒」という意味の造語である。水素原子を、フッ素原子によって多数置換されたフルオラス溶媒は、他の一般的な有機溶媒や水などには難溶であるが、高度にフッ素化されたことにより親フルオロカーボン性を付与させたフルオラス化合物を良く溶解できる。本発明において使用される光学分割剤は、該フルオラス化合物である。
【0012】
二層を形成する2つの液体の一方をフルオラス溶媒とすることが好ましく、特に有機溶媒/フルオラス溶媒のような非水系二層は、光学分割の対象となるラセミ体の有機溶媒への溶解性が高い点、およびラセミ体と光学分割剤との反応に対する制限が少なくなる点において有用である。
【0013】
上記有機溶媒としては、周知の溶媒を用いることができる。具体的には、ヘキサン、ペンタン等のアルカン類;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル類;酢酸エチルや酢酸イソアミル等のエステル類;トルエン、キシレン等の芳香族類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;メタノール、エタノール、1-ブタノール等のアルコール類;アセトニトリル等のニトリル類;N,N-ジメチルホルムアミド等の非プロトン性極性溶媒などが挙げられる。中でも、アルカン類、芳香族類、ニトリル類、アルコール類が好ましく、特にトルエン、アセトニトリル、メタノールが好ましい。上記溶媒は単独で使用してもよく、また2種以上の混合物として使用してもよい。
【0014】
上記フルオラス溶媒としては、周知の高度にフッ素化された溶媒を用いることができる。具体的には、パーフルオロヘキサン、パーフルオロヘプタン、パーフルオロオクタンなどのパーフルオロアルカン類;パーフルオロメチルシクロヘキサン、パーフルオロ-1,2-ジメチルシクロヘキサン、パーフルオロデカリンなどのパーフルオロシクロアルカン類;パーフルオロ-2-ブチルテトラヒドロフランや高分子量のポリエーテル類をパーフルオロ化した誘導体などのパーフルオロエーテル類;パーフルオロトリブチルアミン、パーフルオロトリペンチルアミンなどのパーフルオロアミン類など、完全に水素をフッ素化した誘導体を挙げることができる。中でも、パーフルオロヘキサンが好ましい。また、パーフルオロブチルメチルエーテル等のように部分的に高度にフッ素化されたフルオラス溶媒、一部の水素を残した高度にフッ素化された誘導体等も挙げることができる。上記溶媒は単独で使用してもよく、また2種以上の混合物として使用してもよい。
【0015】
さらに、パーフルオロブチルメチルエーテル等の溶媒のように、周知の有機溶媒と混和できる溶媒を用いて、様々な混合溶媒を形成できる。該混合溶媒は、二層を形成できれば、本発明に使用してもよい。
【0016】
本発明の光学分割する方法の作用原理は、以下のとおりである。
上記二層の界面において、基質である一対の光学異性体(ラセミ体)に、化学量論量より少ない光学分割剤を反応させ、共有結合あるいは適当な分子間力によって、対応するジアステレオマーが誘導される。その際、ジアステレオマー間の生成過程における速度論的な差、あるいは生成したジアステレオマー間の熱力学的な差が生じれば、その片方のジアステレオマーだけが一方の溶媒に分配され、または二層の界面を経由して層間移動する。他方、光学分割剤と反応しない、または反応したが不安定なため分解した、もう片方のエナンチオマーは元の溶媒中に残る。
【0017】
光学分割する上記の反応として、具体的には、酸-塩基による塩の生成反応、アルコールとカルボニル基とによるアセタール形成反応、加水分解反応、エステル化反応等が挙げられ、光学分割に利用されている周知の反応を利用できる。中でも、酸-塩基による塩の生成反応が好ましい。
【0018】
本発明において使用される光学分割剤は、あるラセミ体化合物のそれぞれのエナンチオマーと共有結合、あるいは適当な分子間力によって、対応するジアステレオマーに誘導する。
【0019】
上記光学分割剤は、目的に応じ適宜誘導化され、上記二層を形成する液体の一方に充分溶解されることが必要である。よって、光学分割剤を充分に溶解させるためには、脂溶性、フルオラス性、水溶性など溶解を有利にする性質を付与させることが重要である。
【0020】
光学分割剤の使用量は、基質のラセミ体の量に依存する。たとえば、基質全量がラセミ体(光学純度が0)の場合もあれば、既に光学純度が上がり、1/2量がラセミ体(光学純度50%)の場合もある。いずれの場合も、対象となるラセミ体の量に対し、光学分割剤のモル比を0.01~0.75、好ましくは0.3~0.6、さらに好ましくは0.4~0.55で使用する。
【0021】
本発明において使用される光学分割の対象となるラセミ体は、何ら制限はない。アミンであってもよく、アミンとしては、具体的に、1-フェニルエチルアミン、3-(2-アミノプロピル)-7-ベンジルオキシインドール、2-アミノシクロヘキサノール、3-フェニル-2-メチルブチルアミン等が挙げられる。中でも、1-フェニルエチルアミンが好ましい。
【0022】
例えば、基質としてアミンを光学分割する場合、従来方法として、光学分割剤として光学活性なカルボン酸を反応させ、互いにジアステレオマーの関係にある塩に誘導する方法がある。多くの場合には、これら2つのジアステレオマー間の結晶性や優先晶出の性質の違いを利用して光学分割されている。
【0023】
これに対して、本発明の光学分割する方法では、二層を形成した一方の溶媒中に対応するアミンを溶解させ、他方の溶媒に光学分割剤を溶解させることにより、塩を形成したジアステレオマーを、光学分割剤が溶解している溶媒に分配することができる。
【0024】
このようにして得られたジアステレオマーは周知の方法によって、元の遊離のアミンに誘導できる。他方のエナンチオマーである遊離のアミンは、アミンが溶解していた溶媒中に残る。
【0025】
本発明によると、アミンを光学分割する方法として、具体的には、フルオラス溶媒/有機溶媒二層系において、0.4~0.55当量のフルオラスカルボン酸を光学分割剤とし、一方のエナンチオマーに対応する塩であるジアステレオマーを形成させると、得られたアミン-カルボン酸塩は、フルオラス層に分配され、また、他方のエナンチオマーであるアミンは有機溶媒に残る。この場合、光学分割剤として、アミノ基を高度にフッ素化された置換基で置換されたアミノ酸を用いることが好ましい。特に、下記式(1)で表されたアシル基によって置換された誘導体が好ましい。
【0026】
また、上記アミノ酸としては、具体的に、L-チロシン、L-トリプトファン、L-フェニルアラニンなどが挙げられる。中でも、L-チロシン、L-トリプトファンが好ましい。
【0027】
【化2】
JP0005117784B2_000003t.gif

【実施例】
【0028】
次に、本発明について実施例を示してさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
〔実施例1〕
上記式(1)で示したアシル基でアミノ基を保護したL-チロシン33mg(20μmol)をFluorinert FC-72(パーフルオロヘキサンを主成分とする市販
のフルオラス溶媒)[3M社製]12mLに溶解した。これに、1-フェニルエチルアミン5μL(39μmol)をトルエン6mLに溶解した溶液を積層し、30分間攪拌し、そ
の後静置した。トルエン層におけるアミンの光学純度の経時変化を、光学純度検定用HPLCカラム(ダイセルCROWNPAK CR(+))を用い測定したところ、
(i) 0時間 (R)/(S)=50:50、
(ii)24時間後 (R)/(S)=65:35、
(iii)14日後 (R)/(S)=66:34、となった。
【0029】
フルオラス層から得られた塩を常法にしたがい、遊離のアミンとした後、同様に測定したところ、(R)/(S)=10:90であった。
〔実施例2〕
L-チロシンの代わりに、L-トリプトファンを光学分割剤として使用した以外は実施例1と同様に実験をした。その結果、
(i) 0時間 (R)/(S)=50:50、
(ii)24時間後 (R)/(S)=54:46、
(iii)14日後 (R)/(S)=72:28、となった。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明の光学分割方法は、トライアンドエラー型の予備試験や、経験に基づく方法に頼っていた従来法と比較し、互いに混じらない二層を形成する溶媒間におけるジアステレオマーの物理的および化学的性質の違いを利用することによって、結晶化する必要のない光学分割方法を提供することができる。これによって、医薬品、食品添加物、化粧品、液晶、電子材料、高分子モノマー機能性材料、および医療材料等のファインケミカルズの製造を容易にすることが可能となり、工業的価値やその波及効果は極めて大きい。