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明細書 :細胞特異的発現複製ベクター

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4107919号 (P4107919)
公開番号 特開2003-250579 (P2003-250579A)
登録日 平成20年4月11日(2008.4.11)
発行日 平成20年6月25日(2008.6.25)
公開日 平成15年9月9日(2003.9.9)
発明の名称または考案の名称 細胞特異的発現複製ベクター
国際特許分類 C12N  15/09        (2006.01)
A61K  35/76        (2006.01)
A61K  48/00        (2006.01)
A61P  35/00        (2006.01)
A61P  35/04        (2006.01)
A61P  43/00        (2006.01)
C12N   7/00        (2006.01)
FI C12N 15/00 ZNAA
A61K 35/76
A61K 48/00
A61P 35/00
A61P 35/04
A61P 43/00 101
C12N 7/00
請求項の数または発明の数 26
全頁数 30
出願番号 特願2002-255395 (P2002-255395)
出願日 平成14年8月30日(2002.8.30)
優先権出願番号 2001402102
優先日 平成13年12月28日(2001.12.28)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成16年10月29日(2004.10.29)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】高橋 克仁
【氏名】山村 倫子
個別代理人の代理人 【識別番号】100107984、【弁理士】、【氏名又は名称】廣田 雅紀
審査官 【審査官】中村 花野子
参考文献・文献 特表平10-501990(JP,A)
特表平11-506931(JP,A)
日本心脈管作動物質学会誌,2001年 1月 1日,Vol. 24,p. 15,B-2
遺伝子医学,2001年11月10日,Vol. 5, No. 4,p. 670-678
遺伝子医学,2001年11月10日,Vol. 5, No. 4,p. 588-589
Cancer Research,2001年,Vol. 61,p. 3969-3977
調査した分野 C12N 15/09-15/90
C12N 7/00-7/08
JSTPlus(JDreamII)
JMEDPlus(JDreamII)
BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
細胞特異的に発現するヒトカルポニン遺伝子又はヒトSM22α遺伝子プロモーターを含む領域と、前記プロモーターを含む領域の下流に組み込まれたヘルペスウイルスの複製開始に必要な転写因子をコードするICP4遺伝子及びマーカー遺伝子、並びに前記プロモーターを含む領域の上流に組み込まれた前記マーカー遺伝子とは異なるマーカー遺伝子と、チミジンキナーゼ遺伝子を含む成体正常細胞に作用しない細胞特異的単純ヘルペスウイルスベクター(HSVベクター)であって、前記プロモーターを含む領域とICP4遺伝子と2種類のマーカー遺伝子とを含むDNA断片がリボヌクレオチドリダクターゼ遺伝子座に組み換えにより挿入されており、前記2種類のマーカー遺伝子の発現を指標にして得られる、チミジンキナーゼ遺伝子を利用して所望の時期にその複製を抑制しうることを特徴とする成体正常細胞に作用しない細胞特異的発現複製ベクター。
【請求項2】
ヒトカルポニン遺伝子のプロモーターを含む領域が、配列番号2に示される塩基配列からなるヒトカルポニン遺伝子プロモーターを含む領域であることを特徴とする請求項1記載の成体正常細胞に作用しない細胞特異的発現複製ベクター。
【請求項3】
配列番号2に示される塩基配列を含む領域が、配列番号3に示される塩基配列を含む領域であることを特徴とする請求項2記載の成体正常細胞に作用しない細胞特異的発現複製ベクター。
【請求項4】
細胞特異的に発現するヒトカルポニン遺伝子のプロモーターを含む領域が、配列番号2又は配列番号3に示される塩基配列において、1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなり、かつプロモーター活性を有する塩基配列を含む領域であることを特徴とする請求項1記載の成体正常細胞に作用しない細胞特異的発現複製ベクター。
【請求項5】
プロモーターを含む領域の上流にエンハンサーが組み込まれていることを特徴とする請求項1~4のいずれか記載の成体正常細胞に作用しない細胞特異的発現複製ベクター。
【請求項6】
エンハンサーが4F2エンハンサーであることを特徴とする請求項5記載の成体正常細胞に作用しない細胞特異的発現複製ベクター。
【請求項7】
ICP4遺伝子のさらに下流に、目的タンパク質をコードするDNAが連結され、前記プロモーターを含む領域の制御下に目的タンパク質を発現することを特徴とする請求項1~6のいずれか記載の成体正常細胞に作用しない細胞特異的発現複製ベクター。
【請求項8】
目的タンパク質をコードするDNAが、IRES(internalribosomal entry site)を介してICP4遺伝子に連結されていることを特徴とする請求項7記載の成体正常細胞に作用しない細胞特異的発現複製ベクター。
【請求項9】
目的タンパク質をコードするDNAが、アポトーシス関連遺伝子であることを特徴とする請求項1~8のいずれか記載の成体正常細胞に作用しない細胞特異的発現複製ベクター。
【請求項10】
目的タンパク質をコードするDNAが、血管新生抑制作用をもつタンパク質をコードするDNAであることを特徴とする請求項1~8のいずれか記載の成体正常細胞に作用しない細胞特異的発現複製ベクター。
【請求項11】
目的タンパク質をコードするDNAが、癌転移抑制作用をもつタンパク質をコードするDNAであることを特徴とする請求項1~8のいずれか記載の成体正常細胞に作用しない細胞特異的発現複製ベクター。
【請求項12】
目的タンパク質をコードするDNAが、癌抑制作用をもつタンパク質をコードするDNAであることを特徴とする請求項1~8のいずれか記載の成体正常細胞に作用しない細胞特異的発現複製ベクター。
【請求項13】
細胞特異的に発現するヒトカルポニン遺伝子のプロモーターを含む領域と、前記プロモーターを含む領域の下流に組み込まれたヘルペスウイルスの複製開始に必要な転写因子をコードするICP4遺伝子及びマーカー遺伝子、並びに前記プロモーターを含む領域の上流に組み込まれた前記マーカー遺伝子とは異なるマーカー遺伝子と、チミジンキナーゼ遺伝子を含む成体正常細胞に作用しない細胞特異的単純ヘルペスウイルスベクター(HSVベクター)であって、前記プロモーターを含む領域とICP4遺伝子と2種類のマーカー遺伝子とを含むDNA断片がリボヌクレオチドリダクターゼ遺伝子座に組み換えにより挿入されており、前記2種類のマーカー遺伝子の発現を指標にして得られる、チミジンキナーゼ遺伝子を利用して所望の時期にその複製を抑制しうる成体正常細胞に作用しない細胞特異的発現複製ベクターを含むことを特徴とする治療薬。
【請求項14】
ヒトカルポニン遺伝子のプロモーターを含む領域が、配列番号2に示される塩基配列からなるヒトカルポニン遺伝子プロモーターを含む領域であることを特徴とする請求項13記載の治療薬。
【請求項15】
配列番号2に示される塩基配列を含む領域が、配列番号3に示される塩基配列を含む領域であることを特徴とする請求項14記載の治療薬。
【請求項16】
細胞特異的に発現するヒトカルポニン遺伝子のプロモーターを含む領域が、配列番号2又は配列番号3に示される塩基配列において、1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなり、かつプロモーター活性を有する塩基配列を含む領域であることを特徴とする請求項13記載の治療薬。
【請求項17】
プロモーターを含む領域の上流にエンハンサーが組み込まれていることを特徴とする請求項13~16のいずれか記載の治療薬
【請求項18】
エンハンサーが4F2エンハンサーであることを特徴とする請求項17記載の治療薬。
【請求項19】
ICP4遺伝子のさらに下流に、目的タンパク質をコードするDNAが連結され、前記プロモーターを含む領域の制御下に目的タンパク質を発現することを特徴とする請求項13~18のいずれか記載の治療薬。
【請求項20】
目的タンパク質をコードするDNAが、IRES(internalribosomal entry site)を介してICP4遺伝子に連結されていることを特徴とする請求項19記載の治療薬。
【請求項21】
目的タンパク質をコードするDNAが、アポトーシス関連遺伝子であることを特徴とする請求項13~20のいずれか記載の治療薬。
【請求項22】
目的タンパク質をコードするDNAが、血管新生抑制作用をもつタンパク質をコードするDNAであることを特徴とする請求項13~20のいずれか記載の治療薬。
【請求項23】
目的タンパク質をコードするDNAが、癌転移抑制作用をもつタンパク質をコードするDNAであることを特徴とする請求項13~20のいずれか記載の治療薬。
【請求項24】
目的タンパク質をコードするDNAが、癌抑制作用をもつタンパク質をコードするDNAであることを特徴とする請求項13~20のいずれか記載の治療薬。
【請求項25】
細胞特異的に発現する遺伝子のプロモーターを含む領域が活性化され得る細胞又は該遺伝子を発現する細胞に、細胞特異的に発現するヒトカルポニン遺伝子又はヒトSM22α遺伝子プロモーターを含む領域と、前記プロモーターを含む領域の下流に組み込まれたヘルペスウイルスの複製開始に必要な転写因子をコードするICP4遺伝子と、チミジンキナーゼ遺伝子を含む細胞特異的単純ヘルペスウイルスベクター(HSVベクター)であって、前記プロモーターを含む領域とICP4遺伝子を含むDNA断片がリボヌクレオチドリダクターゼ遺伝子座に組み換えにより挿入されている組み換え後のウイルス混合液を感染させ、ベクター内に組み込んだ前記プロモーターをもつマーカー遺伝子と、前記プロモーターとは異なるプロモーターをもつ前記マーカー遺伝子とは異なるマーカー遺伝子の2種類のマーカー遺伝子の発現を指標にして、アガロースゲルオーバーレイ法を用いず、単一クローンにまで精製することを特徴とする細胞特異的発現複製ベクターの製造方法。
【請求項26】
細胞が、ICP4(-)細胞であることを特徴とする請求項25記載の細胞特異的発現複製ベクターの製造方法。
発明の詳細な説明 【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、特定の細胞に特異的に遺伝子を発現させ自己複製する成体正常細胞に作用しない細胞特異的発現複製ベクター、特にその発現複製後の所望の時期に発現複製を抑制することができる細胞特異的発現複製ベクター、更には前記ベクターを用いて、特定の生体細胞で遺伝子を発現する方法、あるいは特定の細胞を破壊する方法等に関し、詳しくは、(1)癌の遺伝子治療分野において、特定の癌細胞そのものあるいは腫瘍内新生血管の増殖平滑筋細胞を特異的に破壊するために、遺伝子の発現を細胞特異的に行い得る発現複製ベクターを作製し、正常細胞には傷害を与えることなく治療を可能とし、治療終了後、ベクター感染細胞を完全に除去することができる安全性の高い細胞特異的発現複製ベクターの構築や、(2)肺や肝臓などの線維症に対する遺伝子治療の分野において、増殖筋線維芽細胞を特異的に破壊するために、遺伝子の発現を細胞特異的に行い得る発現複製ベクターを作製し、正常細胞には傷害を与えることなく治療を可能とし、治療終了後、ベクター感染細胞を完全に除去することができる安全性の高い細胞特異的発現複製ベクターの構築や、(3)ステント留置後や臓器移植後の血管狭窄や動脈硬化症、糖尿病性網膜症などの遺伝子治療分野において、増殖血管平滑筋細胞を特異的に破壊するために、遺伝子の発現を細胞特異的に行い得る発現複製ベクターを作製し、正常細胞には傷害を与えることなく治療を可能とし、治療終了後、ベクター感染細胞を完全に除去することができる安全性の高い細胞特異的発現複製ベクターの構築や、(4)糸球体腎炎の遺伝子治療の分野において、増殖メサンギウム細胞を特異的に破壊するために、遺伝子の発現を細胞特異的に行い得る発現複製ベクターを作製し、正常細胞には傷害を与えることなく治療を可能とし、治療終了後、ベクター感染細胞を完全に除去することができる安全性の高い細胞特異的発現複製ベクターの構築等に関する。
【0002】
【従来の技術】
正常細胞には影響を与えず、癌細胞のみを選択的に傷害することができる、副作用の少ない理想的な癌の治療法が近年求められている。その一つとして遺伝子治療法が挙げられるが、かかる治療法は癌細胞に導入する遺伝子の細胞選択性や発現プロモーターの活性、ウイルスベクターの感染導入法など、いろいろなレベルで癌細胞選択性を高めることが可能であり、将来の有望な治療法として注目されている。しかし、すべての癌細胞において治療遺伝子を導入できないという共通の問題がある。一方、癌の免疫細胞療法も、正常組織にもわずかながら組織特異的分化抗原の発現が認められることから、正常細胞に対する副作用が問題となっている。また、突然変異に基づく癌抗原は、個々の癌にその変異が限られるという欠点をもっていることから、それを分子標的とした癌の免疫細胞療法として一般化するには適しているとはいえない。
【0003】
最近、感染と複製によって次々と増殖細胞のみを選択的に傷害する複製可能型単純ヘルペスウイルス(HSV)ベクターを用いた悪性脳腫瘍の遺伝子治療臨床研究が米国と英国で行われている(Gene Ther. 7, 859-866, 2000、Gene Ther. 7, 867-874, 2000)。複製可能型HSVベクターは、ウイルス複製に必須なRibonucleotide reductase(RR)又はThymidine kinase(TK)を欠失したベクターであり、これらの酵素は正常細胞では増殖時にのみ発現するが、腫瘍細胞では構成的に発現している。そのため、このHSVベクターは、正常細胞であれ腫瘍細胞であれ増殖の盛んな細胞に感染すると、細胞由来のRRやTKを利用して複製され細胞溶解活性を示す。一方、国内では動物実験で、前立腺癌や膵臓癌に対する複製可能型HSVベクターの抗腫瘍効果が報告されている(J. Surg. Oncol. 72, 136-141, 1999)が、これらも細胞選択性がなく、安全性が低い。従って、血液脳関門があり、循環血液中にベクターが拡散しない脳ではヒトの治療に用いることができたが、脳以外の臓器での治療には適さないという問題点があった。
【0004】
上記のことから、HSVベクターの傷害活性を標的細胞特異的にコントロールできれば、さらに有効で安全な治療法になると考えられている。これまでに、米国のMartuzaらによって、アルブミンプロモーターを用いた肝腫瘍選択的な複製可能型HSVベクターが報告されている(J. Virol. 71, 5124-5132, 1997)。しかし、かかるベクターを用いると肝細胞癌ではアルブミン遺伝子の発現が低下し、また正常な再生肝細胞をも傷害することなどからヒトでの臨床応用には適さないと考えられている。その他、米国特許第5728379号明細書(「腫瘍あるいは細胞特異的単純ヘルペスウイルスの複製」)では、中皮腫に対する応用の可能性を述べているが、平滑筋肉腫や骨肉腫、消化管ストローマ腫瘍 (GIST) などのヒトの肉腫全般、腫瘍血管、増殖性血管病変、増殖性糸球体腎炎、肺、肝臓等の線維症あるいは悪性腫瘍の間質で増殖する筋線維芽細胞に対する治療への応用可能性の記述はなされていない。
【0005】
肉腫の病因と病態に関する遺伝子解析により、一部の腫瘍でp53とRbの変異や融合遺伝子の存在が報告されているが、まだ広く治療に応用できる段階に至ってはいない。ヌードマウスを用いた動物実験で、Milasらは複製能を持たないアデノウイルスベクターを用いて平滑筋肉腫細胞にp53遺伝子を導入し、腫瘍の増殖遅延効果があることを報告している(Cancer Gene Ther. 7, 422-429, 2000)。その他、オステオカルシン遺伝子のプロモーターを用いて、自殺遺伝子であるチミジンキナーゼを骨肉種に導入発現させる方法が報告されている(Cancer Gene Ther. 5, 274-280, 1998)が、これは複製能を欠失したウイルスベクターを用いたものであり、遺伝子導入の効率が悪く、骨肉腫以外の肉腫には適用できない。特に、Milasらの報告では、本発明者らによる報告(Cancer Res. 61, 3969-3977, 2001)に記載されているのと同じ、ヒト平滑筋細胞株SK-LMS-1を用いた実験例を示しているが、上記報告において使用したウイルスベクターの粒子量の100~1000倍多くのウイルス粒子を使用し、効果は上記報告におけるものよりも劣っている。従って、Milasらの結果は、体内に注入するウイルス粒子の数をできるだけ少なくして副作用を押さえるという観点から、好ましいとは言えない。
【0006】
また、癌の血管新生抑制療法としては、米国のFolkmanのグループによるマウスの実験系で、アンジオスタチンやエンドスタチンなどのペプチド性抑制因子の劇的な抗腫瘍効果が報告されている(Cell 79, 315-328, 1994、Cell 88, 277-285, 1997)。我国においても中村らによって、肝細胞増殖因子の分子内断片であるNK4の血管新生抑制作用が報告されている(Biochem. Biophys. Res. Commun. 279, 846-852, 2000)。しかしこれらの方法は、大量のペプチドを必要とすること、エンドスタチンに関しては再現性が低いという報告があること、作用メカニズムが不明であること、さらにヒトでの有効性がまだ確認されていないこと、などの問題点がある。現在臨床試験中の血管新生阻害剤は、細胞選択性がなく、阻害効率も低い。米国のChereshらが報告した、内皮細胞の表面のインテグリンの作用を阻害するペプチドも同様に細胞選択性がなく、阻害効率が低い(J. Clin. Invest. 103, 1227-1230, 1999)。これらの研究は、すべて血管内皮細胞を標的にした治療であるが、腫瘍血管を構成する増殖血管平滑筋細胞を標的にした細胞選択的治療剤は未だ知られていない。実際、平滑筋細胞の増殖と遊走を促進する血小板由来増殖因子受容体の拮抗剤が強力な腫瘍新生血管抑制作用をもつことが報告され(Cancer Res. 60, 4152-4160, 2000)、腫瘍血管新生を抑制するために血管平滑筋を攻撃することの重要性が推測されるが、この方法は細胞非選択的であり、副作用も予想される。
【0007】
また、増殖性血管病変特に、ステント留置後や心臓移植後の血管狭窄に対しては、新生内膜の平滑筋増殖を抑制する種々の薬剤が試みられているが、いずれも狭窄の予防には成功していない。最近の遺伝子治療の試みとしては、複製能を欠くアデノウイルスベクターを用いて、カルポニンの相同遺伝子であるSM22αのプロモーターの制御下にLacZ遺伝子をバルーン傷害後のラット頚動脈の平滑筋細胞に選択的に導入したLeidenらの報告がある(J. Clin. Investi. 100, 1006-1014, 1997)。しかし、この実験ではLacZ遺伝子が導入されたのは、標的細胞である内膜の増殖平滑筋ではなく中膜の平滑筋で、導入効率も極めて低いものであった。また、Nabelらも複製能のないアデノウイルスベクターを用いてSM22αのプロモーターの制御下にLacZ遺伝子をCAT(chloramphenicol acetyltransferase)遺伝子をブタの動脈に導入する実験を行ったが、内膜の平滑筋細胞の2.2%、中膜平滑筋細胞の0.56%に遺伝子発現が認められたにすぎなかった(Mol. Med. 6, 983-991, 2000)。一方、複製可能型HSVベクターを用いてバルーン傷害後のラット頚動脈に感染させた宮武らの報告(Stroke 30, 2431-2439, 1999)では、ウイルスの複製は主に内膜の増殖平滑筋で観察され、複製可能型ウイルスベクターを用いることの有用性が推測されるが、このベクターは細胞非選択的であり、内皮細胞や外膜線維芽細胞の破壊などの副作用も予想される。その他にもデコイやアンチセンスDNAなどのオリゴヌクレオチドを血管に直接導入する方法も発表されているが、導入効率が低く、血管平滑筋増殖の十分な抑制効果は期待できない。
【0008】
また、増殖性糸球体腎炎に対する最近の遺伝子治療の試みとしては、TGFβ1の阻害作用をもつデコリン(decorin)やTGFβ受容体とIgG Fc領域のキメラ遺伝子、またNFkappaBのデコイをリポソームベクターを用いて腎糸球体に導入する方法が報告されている(Nature Med. 2, 418-423, 1996; Kidney Int. 55, 465-475, 1999; Gene Ther. 7, 1326-1332, 2000)が、この方法は細胞非選択的であり、副作用も予想される。また、腎糸球体に選択的に遺伝子を導入するために、複製能を欠くアデノウイルスベクターをポリスチレンの微小球(microsphere)に結合させてラットの大動脈に投与する方法が発表されている(Kidney Int. 58, 1500-1510, 2000)が、増殖性糸球体腎炎の原因となるメサンギウム細胞以外に血管内皮細胞にも導入遺伝子の発現が認められ、治療の標的化は未だ不完全である。さらに、アデノウイルスは免疫原性が強く、それ自体が糸球体腎炎の原因となる免疫反応を惹起する危険性も指摘されている(Kidney Int. 61, S85-S88, 1997)。
【0009】
他方、本発明者らは、ヒト由来の肉腫の腫瘍細胞に平滑筋の分化マーカーとされるカルポニン遺伝子が発現していることを見い出し、はじめて報告した(Int. J. Cancer 79, 245-250, 1998、Sarcoma 3, 107-113, 1999、Intern. J. Cancer 82, 678-686, 1999)。その後、骨・軟部肉腫に加えて消化管ストローマ腫瘍(GIST)や唾液腺肉腫、繊維肉腫、悪性神経鞘腫など20種類近い間葉系細胞由来のヒト悪性腫瘍で、カルポニン遺伝子が異常発現していることが国内外で相次いで報告されている。上記カルポニン(h1又はbasic)は、X線結晶構造と、インビトロ及びインビボの機能解析により、アクチン分子のC末端に結合して、アクチン・ミオシンの滑り運動を抑制することが明らかにされている(Biochem. Biophys. Res. Commun. 279, 150-157, 2000、J. Physiol. 529, 811-824, 2000)。カルポニン遺伝子は、成体では、平滑筋細胞に選択的に発現し、血管の分化のマーカーと考えられている(Physiol. Rev. 75, 487-517, 1995)。
【0010】
また、上記米国特許第5728379号明細書や本発明者らによる報告(Cancer Res. 61, 3969-3977, 2001)においては、HSVのチミジンキナーゼ(Thymidine kinase)をコードするDNAを欠失している複製可能型ベクターについて記述されているが、チミジンキナーゼを欠失しているHSVは、抗ヘルペスウイルス薬であるアシクロビル(aciclovir)やガンシクロビル(ganciclovir)に対する感受性がなく、これらベクターをヒトの治療に応用する場合には、予期せぬウイルス感染の拡大を防ぐという安全対策の面において問題がないとはいえなかった。
【0011】
その他、神経細胞での複製に関与するgamma34.5遺伝子を2コピーとも欠失し、LacZ遺伝子がRibonucleotide reductase(ICP6)-locusに挿入されている複製可能型HSV-1ベクターG207(Nature Med. 1, 938-943, 1995)や、CMVプロモーター/エンハンサーによって発現するautofluorescent proteinとcytosine deaminaseをICP6-locusに相同組換え法で挿入した複製可能型HSV-1ベクターHSV1yCD(Cancer Res. 61, 5447-5452, 2001)は知られていたが、ともにRibonucleotide reductaseが欠失する結果、増殖細胞でのみ複製可能であるが、細胞選択性をもたない。また、肺や肝臓などの線維症における増殖筋線維芽細胞を標的にして、選択的に破壊する治療法の報告はない。また、悪性腫瘍の間質で増殖する筋線維芽細胞を標的にした治療法もこれまで報告がない。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、悪性腫瘍等の治療に用いるために、悪性腫瘍等の特定の細胞で特異的に遺伝子を発現しつつ複製し、かつ正常細胞には損傷を与えないような、細胞特異的発現複製ベクター、特にその発現複製後の所望の時期に発現複製を抑制することができる細胞特異的発現複製ベクターを構築すること、更には、該ベクターを悪性腫瘍等の特定の生体細胞に導入し発現させて治療する方法などを提供することにある。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究し、特定の腫瘍細胞や平滑筋細胞に特異的に発現するヒトカルポニン遺伝子の該細胞内における転写開始制御領域を取得し、ウイルス複製関連遺伝子の複製開始に必要な転写因子をコードする遺伝子の上流に組み込んで、これをウイルスDNAの複製に必須の酵素であるTK遺伝子と置き換えることによって、悪性腫瘍細胞や腫瘍内新生血管の増殖平滑筋細胞等の特定の細胞で該遺伝子を発現させ、ウイルス複製を誘導し得る成人正常細胞に作用しない細胞特異的発現複製ベクターを構築した。この構築した細胞特異的発現複製ベクターを悪性腫瘍組織に導入したところ、腫瘍細胞や腫瘍新生血管の増殖平滑筋を選択的に傷害することを報告している(Cancer Res. 61, 3969-3977, 2001;特願2001-143999)。
【0014】
上記本発明者らが報告したカルポニンプロモーターをもつ複製可能型HSV-1ベクター(Cancer Res. 61, 3969-3977, 2001;特願2001-143999)や、前記米国のMartuzaらによる、アルブミンプロモーターを用いた肝腫瘍選択的な複製可能型HSV-1ベクター(J. Virol. 71, 5124-5132, 1997;米国特許5728379)が、これまでに発表された細胞特異的に複製可能なHSV-1ベクターであるが、どちらもウイルス複製に必須の転写因子であるICP4をコードする遺伝子を2つとも欠失したHSV-1変異体ウイルスd120を親株とし、プロモーターの上流にLacZ cDNAを、下流にICP4 cDNAを接続し、d120のチミジンキナーゼ(Thimidine kinase)遺伝子座(TK-locus)に相同組み換えしたものである。したがって、ベクター精製の過程で指標となるLacZ遺伝子の発現はTK遺伝子のプロモーターの制御下にある。
【0015】
かかるチミジンキナーゼをコードするDNAを欠失している複製可能型HSV-1ベクターは、抗ヘルペスウイルス薬であるアシクロビル(aciclovir)やガンシクロビル(ganciclovir)に対する感受性が欠如している。したがって、ベクターを単一クローンにまで精製する方法は、相同組み換え後のウイルス混合液をICP4cDNAを導入したVeroE5細胞に感染させ、5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリル-β-D-ガラクトピラノシド(X-gal)アガロースオーバーレイ法でLacZ遺伝子の発現を示す青色の染色によって、複数、好ましくは少数のプラークを回収し、ガンシクロビル(ganciclovir)の存在下でVeroE5細胞に再び感染させるというプラーク精製のサイクルを繰り返すことによって行われてきた。抗ヘルペスウイルス薬によってTK-locusで組み換えが起こらなかったウイルスすなわちTK遺伝子をもつウイルスを排除するこの方法は、当然のことながらTK遺伝子をもつ細胞特異的発現複製ベクターの精製には適用することができない。
【0016】
また、X-galアガロースオーバーレイ法は、スクリーニングの初期段階では単一のプラークを回収することは不可能である。さらに、この方法ではアガロースをオーバーレイした時点で、細胞の分裂増殖が停止するとともにウイルスの複製も停止する結果、それ以降はウイルス粒子の数が増加しない。この場合、リボヌクレオチド還元酵素(Ribonucleotide reductase,RR)遺伝子のプロモーターなどTK遺伝子のプロモーターより活性の強いプロモーターによって発現されるLacZ遺伝子をもつ複製可能型ベクターでは、ベクター自身の複製能が高くない場合、TK遺伝子のプロモーターによって発現されるLacZ遺伝子をもつ複製可能型ベクターのものと同程度に青色に染色された細胞1個あたりのウイルス数が少ない。そのため、次のスクリーニングに向けて複製能力のあるベクターを回収することが困難である。
【0017】
さらに、細胞特異的発現複製ベクターとして、ICP4 cDNAとIRES(internal ribosomal entry site)の下流に挿入した任意の遺伝子(蛍光を発するGreen Fluorescent Proteinを発現するcDNAを好適に例示することができる)を連結させると、上記任意の遺伝子を細胞特異的な転写開始制御領域の制御下に発現させ、この任意の遺伝子の発現とLacZ遺伝子の発現の両方を指標にしてスクリーニングすることが可能となり、目的の場所に相同組み換えが起こったウイルスベクターをより確実にしかも迅速に単離することができるとの知見を得た。
【0018】
また、相同組み換え後の最初のスクリーニングに、細胞特異的に発現する遺伝子のプロモーターすなわち転写開始制御領域が活性化され得るICP4(-)細胞又は該遺伝子を発現するICP4(-)細胞に、細胞特異的発現複製ベクターを含む相同組み換え後のウイルス混合液を感染させ、前記ウイルスを複製・増殖させた後、ベクター内に組み込んだ遺伝子の発現を指標にして、限界希釈法によって単一クローンにまで精製する方法を用いることによって、細胞特異的プロモーターの制御下にICP4を発現するという目的の組み換えが起こったベクターを選別濃縮することができることを見い出した。さらに、チミジンキナーゼを温存した細胞特異的発現複製ベクターは、アシクロビル(aciclovir)やガンシクロビル(ganciclovir)によってその感染細胞とともにウイルスを死滅させることが可能であり、予期せぬウイルス感染の拡大を防ぐという安全対策の面で優れた特性を有しているとの知見を得た。一方、チミジンキナーゼを欠失することを特徴とする細胞特異的複製可能型HSV-1ベクターである米国特許5728379号の発明および先に出願した特願2001-143999号の発明の実施例は、ヒトの治療への応用には適さないとも考えられる。そして、細胞特異的発現複製ベクターが、実際にヒト軟部肉腫の中で最も頻度の高い悪性線維性組織球種(Malignant Fibrous Histiocytoma;MFH)や、ヒト消化管肉腫の中で最も頻度の高い消化管ストローマ腫瘍(Gastrointestinal stromal tumor;GIST)や、婦人科領域で最も頻度の高い子宮筋腫に対して治療効果をもつことをインビトロの細胞培養系または動物実験系で確認した。本発明は上記の知見に基づいて完成するに至ったものである。
【0019】
すなわち本発明は、(1)細胞特異的に発現するヒトカルポニン遺伝子又はヒトSM22α遺伝子プロモーターを含む領域と、前記プロモーターを含む領域の下流に組み込まれたヘルペスウイルスの複製開始に必要な転写因子をコードするICP4遺伝子及びマーカー遺伝子、並びに前記プロモーターを含む領域の上流に組み込まれた前記マーカー遺伝子とは異なるマーカー遺伝子と、チミジンキナーゼ遺伝子を含む成体正常細胞に作用しない細胞特異的単純ヘルペスウイルスベクター(HSVベクター)であって、前記プロモーターを含む領域とICP4遺伝子と2種類のマーカー遺伝子とを含むDNA断片がリボヌクレオチドリダクターゼ遺伝子座に組み換えにより挿入されており、前記2種類のマーカー遺伝子の発現を指標にして得られる、チミジンキナーゼ遺伝子を利用して所望の時期にその複製を抑制しうることを特徴とする成体正常細胞に作用しない細胞特異的発現複製ベクターや、(2)ヒトカルポニン遺伝子のプロモーターを含む領域が、配列番号2に示される塩基配列からなるヒトカルポニン遺伝子プロモーターを含む領域であることを特徴とする上記(1)記載の成体正常細胞に作用しない細胞特異的発現複製ベクターや、(3)配列番号2に示される塩基配列を含む領域が、配列番号3に示される塩基配列を含む領域であることを特徴とする上記(2)記載の成体正常細胞に作用しない細胞特異的発現複製ベクターや、(4)細胞特異的に発現するヒトカルポニン遺伝子のプロモーターを含む領域が、配列番号2又は配列番号3に示される塩基配列において、1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなり、かつプロモーター活性を有する塩基配列を含む領域であることを特徴とする上記(1)記載の成体正常細胞に作用しない細胞特異的発現複製ベクターや、(5)プロモーターを含む領域の上流にエンハンサーが組み込まれていることを特徴とする上記(1)~(4)のいずれか記載の成体正常細胞に作用しない細胞特異的発現複製ベクターや、(6)エンハンサーが4F2エンハンサーであることを特徴とする上記(5)記載の成体正常細胞に作用しない細胞特異的発現複製ベクターや、(7)ICP4遺伝子のさらに下流に、目的タンパク質をコードするDNAが連結され、前記プロモーターを含む領域の制御下に目的タンパク質を発現することを特徴とする上記(1)~(6)のいずれか記載の成体正常細胞に作用しない細胞特異的発現複製ベクターや、(8)目的タンパク質をコードするDNAが、IRES(internalribosomalentry site)を介してICP4遺伝子に連結されていることを特徴とする上記(7)記載の成体正常細胞に作用しない細胞特異的発現複製ベクターや、(9)目的タンパク質をコードするDNAが、アポトーシス関連遺伝子であることを特徴とする上記(1)~(8)のいずれか記載の成体正常細胞に作用しない細胞特異的発現複製ベクターや、(10)目的タンパク質をコードするDNAが、血管新生抑制作用をもつタンパク質をコードするDNAであることを特徴とする上記(1)~(8)のいずれか記載の成体正常細胞に作用しない細胞特異的発現複製ベクターに関する。
また本発明は、(11)目的タンパク質をコードするDNAが、癌転移抑制作用をもつタンパク質をコードするDNAであることを特徴とする上記(1)~(8)のいずれか記載の成体正常細胞に作用しない細胞特異的発現複製ベクターや、(12)目的タンパク質をコードするDNAが、癌抑制作用をもつタンパク質をコードするDNAであることを特徴とする上記(1)~(8)のいずれか記載の成体正常細胞に作用しない細胞特異的発現複製ベクターや、(13)細胞特異的に発現するヒトカルポニン遺伝子のプロモーターを含む領域と、前記プロモーターを含む領域の下流に組み込まれたヘルペスウイルスの複製開始に必要な転写因子をコードするICP4遺伝子及びマーカー遺伝子、並びに前記プロモーターを含む領域の上流に組み込まれた前記マーカー遺伝子とは異なるマーカー遺伝子と、チミジンキナーゼ遺伝子を含む成体正常細胞に作用しない細胞特異的単純ヘルペスウイルスベクター(HSVベクター)であって、前記プロモーターを含む領域とICP4遺伝子と2種類のマーカー遺伝子とを含むDNA断片がリボヌクレオチドリダクターゼ遺伝子座に組み換えにより挿入されており、前記2種類のマーカー遺伝子の発現を指標にして得られる、チミジンキナーゼ遺伝子を利用して所望の時期にその複製を抑制しうる成体正常細胞に作用しない細胞特異的発現複製ベクターを含むことを特徴とする治療薬や、(14)ヒトカルポニン遺伝子のプロモーターを含む領域が、配列番号2に示される塩基配列からなるヒトカルポニン遺伝子プロモーターを含む領域であることを特徴とする上記(13)記載の治療薬や、(15)配列番号2に示される塩基配列を含む領域が、配列番号3に示される塩基配列を含む領域であることを特徴とする上記(14)記載の治療薬や、(16)細胞特異的に発現するヒトカルポニン遺伝子のプロモーターを含む領域が、配列番号2又は配列番号3に示される塩基配列において、1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなり、かつプロモーター活性を有する塩基配列を含む領域であることを特徴とする上記(13)記載の治療薬に関する。
さらに本発明は、(17)プロモーターを含む領域の上流にエンハンサーが組み込まれていることを特徴とする上記(13)~(16)のいずれか記載の治療薬や、(18)エンハンサーが4F2エンハンサーであることを特徴とする上記(17)記載の治療薬や、(19)ICP4遺伝子のさらに下流に、目的タンパク質をコードするDNAが連結され、前記プロモーターを含む領域の制御下に目的タンパク質を発現することを特徴とする上記(13)~(18)のいずれか記載の治療薬や、(20)目的タンパク質をコードするDNAが、IRES(internalribosomalentry site)を介してICP4遺伝子に連結されていることを特徴とする上記(19)記載の治療薬や、(21)目的タンパク質をコードするDNAが、アポトーシス関連遺伝子であることを特徴とする上記(13)~(20)のいずれか記載の治療薬や、(22)目的タンパク質をコードするDNAが、血管新生抑制作用をもつタンパク質をコードするDNAであることを特徴とする上記(13)~(20)のいずれか記載の治療薬や、(23)目的タンパク質をコードするDNAが、癌転移抑制作用をもつタンパク質をコードするDNAであることを特徴とする上記(13)~(20)のいずれか記載の治療薬や、(24)目的タンパク質をコードするDNAが、癌抑制作用をもつタンパク質をコードするDNAであることを特徴とする上記(13)~(20)のいずれか記載の治療薬や、(25)細胞特異的に発現する遺伝子のプロモーターを含む領域が活性化され得る細胞又は該遺伝子を発現する細胞に、細胞特異的に発現するヒトカルポニン遺伝子又はヒトSM22α遺伝子のプロモーターを含む領域と、前記プロモーターを含む領域の下流に組み込まれたヘルペスウイルスの複製開始に必要な転写因子をコードするICP4遺伝子と、チミジンキナーゼ遺伝子を含む細胞特異的単純ヘルペスウイルスベクター(HSVベクター)であって、前記プロモーターを含む領域とICP4遺伝子を含むDNA断片がリボヌクレオチドリダクターゼ遺伝子座に組み換えにより挿入されている組み換え後のウイルス混合液を感染させ、ベクター内に組み込んだ前記プロモーターをもつマーカー遺伝子と、前記プロモーターとは異なるプロモーターをもつ前記マーカー遺伝子とは異なるマーカー遺伝子の2種類のマーカー遺伝子の発現を指標にして、アガロースゲルオーバーレイ法を用いず、単一クローンにまで精製することを特徴とする細胞特異的発現複製ベクターの製造方法や、(26)細胞が、ICP4(-)細胞であることを特徴とする上記(25)記載の細胞特異的発現複製ベクターの製造方法に関する
【0022】
【発明の実施の形態】
本発明の成体正常細胞に作用しない細胞特異的発現複製ベクターとしては、細胞特異的に発現する遺伝子の転写開始制御領域を所定の遺伝子の上流に組み込んだ成体正常細胞に作用しない細胞特異的発現複製ベクターにおいて、前記細胞特異的発現複製ベクターに存在するチミジンキナーゼ(Thymidine kinase)遺伝子を利用して所望の時期にその複製を抑制しうるベクターであれば特に制限されるものではないが、腫瘍細胞特異的、腫瘍新生血管の増殖平滑筋特異的、増殖性血管病変における増殖平滑筋特異的、糸球体腎炎における増殖メサンギウム細胞特異的、又は線維症における増殖筋線維芽細胞特異的な発現複製ベクターが好ましく、上記細胞特異的に発現する遺伝子の転写開始制御領域としては、細胞特異的に発現している遺伝子のプロモーター領域や該プロモーターの一部の領域を挙げることができ、より具体的には、カルポニン遺伝子のプロモーターの-260から-219までの配列番号1に示される塩基配列を含む領域、好ましくは配列番号2に示される塩基配列からなるヒトカルポニン遺伝子プロモーター、より好ましくは配列番号3に示される塩基配列からなるヒトカルポニン遺伝子プロモーターとその構造遺伝子の一部を含む領域を例示することができる。また、細胞特異的に発現する遺伝子の転写開始制御領域として、上記配列番号1、配列番号2又は配列番号3に示される塩基配列において、1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなり、かつ転写開始制御活性を有する塩基配列、例えばマウス、ラット及びブタ由来のカルポニンプロモーターのそれに相同な領域を含む領域を例示することができる。
【0023】
上記の他、細胞特異的に発現する遺伝子の転写開始制御領域として、増殖平滑筋細胞を攻撃の標的にする場合は、SM22α遺伝子のプロモーター領域(ヒトSM22α遺伝子では-480から-26までの配列;GenBank accession# D84342-D84344、マウスやラットあるいはその他の哺乳動物由来のSM22α遺伝子ではそれに相同な領域)、内皮細胞を標的にする場合は、Flk-1のプロモーター領域又はFlt-1遺伝子など内皮細胞特異的遺伝子のプロモーター領域を用いることができる。これらの場合にも、一部構造遺伝子を含む領域を転写開始制御領域とすることもできる。
【0024】
上記細胞特異的に発現する遺伝子の転写開始制御領域の上流に、転写を著しく活性化するエンハンサーを連結することが好ましく、かかるエンハンサーとしてはアデノウイルス初期遺伝子のエンハンサー、モロニーマウス白血病ウイルス末端反復配列のエンハンサー、ヒストンH2A遺伝子エンハンサー、免疫グロブリンエンハンサー、インスリン遺伝子エンハンサー、c-fos遺伝子エンハンサー、T細胞抗原受容体遺伝子エンハンサー、筋型クレアチンキナーゼ遺伝子エンハンサー、ヒト4F2重鎖(ヘビーチェイン)転写エンハンサー等のエンハンサーであれば特に制限されないが、細胞特異的に発現する遺伝子の転写開始制御領域が、カルポニン遺伝子のプロモーターの-260から+73までの配列を含む領域の場合、アミノ酸トランスポーターの活性化因子であると考えられている膜貫通構造を一回しか持たない二型膜糖タンパク質である4F2ヘビーチェイン遺伝子のエンハンサーであるヒト4F2重鎖転写エンハンサー(配列番号4)等の4F2エンハンサーが転写効率を著しく高めうる点で好ましい。
【0025】
本発明の成体正常細胞に作用しない細胞特異的発現複製ベクターの作製に用いられる所定の遺伝子としては、ウイルスの複製の開始又は維持に必要な遺伝子であれば特に制限されるものではなく、例えば、アデノウイルスのE1A遺伝子、ICP6(Ribonucleotide reductase)遺伝子などのウイルス複製関連遺伝子を挙げることができ、中でもヘルペスウイルスの複製開始に必要な転写因子をコードする遺伝子(ICP4)を好適に例示することができる。また、これら遺伝子は、転写開始制御領域の下流に位置する本来の構造遺伝子の一部又は全部と上記所定の遺伝子がインフレームで結合したものでもよく、例えば、カルポニン蛋白質のN末側の一部とICP4蛋白質との融合タンパク質をコードするDNAを具体的に挙げることができる。
【0026】
本発明の成体正常細胞に作用しない細胞特異的発現複製ベクターとして、所定の遺伝子のさらに下流に、所定の遺伝子とは異なる目的タンパク質をコードするDNAが連結され、前記転写開始制御領域の制御下に目的タンパク質を発現することができる細胞特異的発現複製ベクター、具体的には、上記目的タンパク質をコードするDNAが、IRES(internal ribosomal entry site;米国特許第4937190号明細書)を介して所定の遺伝子に連結されている細胞特異的発現複製ベクターを好適に挙げることができる。このIRES部分にカルポニンのホモログであるSM22α遺伝子のプロモーターを連結することもできる。かかるヒトSM22αプロモーター配列は本発明者らが最初にクローニングし、報告しており(J. Biochem. (Tokyo) 122, 157-167, 1997)、プロモーター活性に重要な部分(ヒトSM22αプロモーター領域のBamHI-DraI断片445bp)の塩基配列を配列番号5として示す。その他、IRESに代えて、CMVプロモ-タ-やCAG プロモーター エンハンサーを用いると、カルポニンのプロモーターの制御から外れ、細胞非選択的に下流の目的タンパク質をコードする遺伝子を発現させることができる。
【0027】
上記目的タンパク質をコードするDNAとしては、アポトーシスの促進に関連する遺伝子や、血管新生抑制作用をもつタンパク質をコードするDNAや、癌転移抑制作用をもつタンパク質をコードするDNAや、癌抑制作用をもつタンパク質をコードするDNA等を挙げることができ、これらは2以上連結してもよい。上記アポトーシス関連遺伝子としては、Bcl-xs、Bok/Mtd、Bcl-Gs/Bra、Bcl-GL、Bcl-Rambo、Hrk/DP5、Bik/Nbk/Blk、Bad、Bid、BimL,S,EL/BodL,M,S、Noxa/APR、Puma等のアポトーシス促進遺伝子を、血管新生抑制作用をもつタンパク質をコードするDNAとしては、アンジオスタチン、エンドスタチン、可溶性Flk-1、可溶性Flt-1、可溶性FLT4、Tie1、Tie2などのドミナントネガティブ受容体タンパク質をコードするDNAを、癌転移抑制作用をもつタンパク質をコードするDNAとしては、マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)阻害剤、ウシラクトフェリン(bLF)などのタンパク質をコードするDNAを、癌抑制作用をもつタンパク質をコードするDNAとしては、p21、p16、p15等の細胞周期抑制物質や、p53、Rb、IRF-1、APC等の細胞増殖抑制物質をコードするDNAを、それぞれ具体的に例示することができるがこれらに限定されるものではない。
【0028】
上記目的タンパク質をコードするDNAとして、EGFP cDNAや、ルシフェラーゼ(Luciferase)遺伝子等のマーカータンパク質をコードする遺伝子を挙げることができ、これらマーカータンパク質を発現することができる細胞特異的発現複製ベクターは、スクリーニングや各種実験等においてきわめて有用である。
【0029】
本発明の成体では正常細胞に作用しない細胞特異的発現複製ベクターの作製に用いられるウイルスベクターの骨格としては、骨・軟部肉腫、平滑筋肉腫、消化管ストローマ腫瘍(GIST)、悪性中皮腫、悪性繊維性組織球腫(MFH)、繊維肉腫、悪性髄膜腫、子宮筋腫、神経鞘腫等の腫瘍細胞又は腫瘍新生血管の増殖平滑筋あるいは血管周細胞に感染又は遺伝子を導入し発現することができるベクターが好ましく、かかるベクターとしては、染色体、エピソーム、リポソーム及びウイルスに由来する発現ベクターを例示することができるが、SV40のようなパポバウイルス、ワクシニアウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルスベクター、鶏痘ウイルス、仮性狂犬病ウイルス、レトロウイルス由来のベクター、単純ヘルペスウイルスベクター(HSVベクター)等のウイルスベクターが好ましく、中でも、HSVベクターとアデノウイルスベクター、特に条件付き複製可能型HSVベクター、又は条件付き複製可能型アデノウイルスベクターが、遺伝子発現の高効率性、増殖細胞特異的細胞傷害活性などの点で好ましい。上記条件付き複製可能型HSVベクターとして、例えば、リボヌクレオチドリダクターゼ(Ribonucleotide reductase)をコードするDNAが欠失しているベクターを用いることにより、本発明の成体正常細胞に作用せず、ベクターの複製と遺伝子の発現を制御できる細胞特異的発現複製ベクターを好適に作製することができる。
【0030】
本発明の成体では正常細胞に作用しない細胞特異的発現複製ベクターの発現複製方法としては、前記の成体正常細胞に作用しない細胞特異的発現複製ベクターを、生体細胞組織、好ましくは骨・軟部肉腫、平滑筋肉腫、消化管ストローマ腫瘍、悪性中皮腫、悪性繊維性組織球腫、繊維肉腫、悪性髄膜腫、神経鞘腫等の腫瘍が生じている組織の他、ステント留置後や臓器移植後の血管狭窄組織若しくは動脈狭窄組織、腎炎組織又は線維症組織、又はこれら組織を含む器官に直接導入又は腫瘍を養う血管系から注入、又は血管内にステント等を用いて直接注入し発現複製させる方法、又は腫瘍新生血管の増殖平滑筋を攻撃の標的とする場合は、悪性固形腫瘍の種類がいかなるものであれ、直接導入又は腫瘍を養う血管系から注入し、発現複製させる方法であれば、特に制限されるものでない。また、本発明の成体正常細胞に作用しない細胞特異的発現複製ベクターの遺伝子、タンパク質又はペプチドの発現複製・抑制方法としては、前記の成体正常細胞に作用しない細胞特異的発現複製ベクターを、上記生体細胞組織に導入して発現複製させ、その後の所望の時期に、例えば、アシクロビル(aciclovir)、ガンシクロビル(ganciclovir)等の抗ウイルス薬を用いて、細胞特異的発現複製ベクターの発現複製を抑制する方法であれば、特に制限されるものでない。そしてまた、本発明の治療薬としては、前記本発明の成体正常細胞に作用しない細胞特異的発現複製ベクターを有効成分として含むものであればどのようなものでもよく、かかる治療薬としては生体細胞組織、好ましくは上記悪性腫瘍、線維症、増殖性血管病変、増殖性糸球体腎炎等に対する治療薬を具体的に例示することができる。
【0031】
本発明の線維症及び悪性腫瘍の治療方法としては、前記本発明の成体正常細胞に作用しない細胞特異的発現複製ベクターを、肺、肝臓などの線維症組織又は乳がん、胃がん、膵臓がんなどの悪性腫瘍組織に導入し、遺伝子、タンパク質又はペプチドを発現させる方法であれば特に制限されず、なかでも、増殖筋線維芽細胞だけを選択的に破壊する方法や、腫瘍新生血管の増殖平滑筋又は血管周細胞だけを選択的に破壊する方法が好ましい。悪性腫瘍が生じている組織に導入する方法としては、悪性腫瘍に上記細胞特異的発現複製ベクターを直接注入する方法又は動静脈投与等の腫瘍を潅流する血管系に注入する方法を好適に例示することができる。本発明の増殖性血管病変の治療方法としては、前記本発明の成体正常細胞に作用しない細胞特異的発現複製ベクターを、血管狭窄組織又は動脈硬化組織、糖尿病性網膜症組織に導入し、遺伝子、タンパク質又はペプチドを発現させる方法であれば特に制限されず、なかでも、増殖平滑筋細胞又は血管周細胞だけを選択的に破壊する方法を好適に例示することができる。また、本発明の増殖性糸球体腎炎の治療方法としては、前記本発明の成体正常細胞に作用しない細胞特異的発現複製ベクターを、腎炎組織に導入し、遺伝子、タンパク質又はペプチドを発現させる方法であれば特に制限されず、なかでも、増殖メサンギウム細胞だけを選択的に破壊する方法を好適に例示することができる。そして、本発明の上記治療方法においては、細胞特異的発現複製ベクターの発現複製を、治療終了後等の所望の時期に、抑制することを大きな特徴としている。
【0032】
本発明の成体正常細胞に作用しない細胞特異的発現複製ベクターの生体内分布を検出する方法としては、前記本発明の成体正常細胞に作用しない細胞特異的発現複製ベクターを、生体細胞組織に導入し、発現複製させて前記細胞特異的発現複製ベクターによるチミジンキナーゼ活性を検出・測定することを特徴とし、具体的には、124Iでラベルしたウラシル誘導体FIAUを生体に投与し、Positron Emission Tomographyにより124Iを検出・測定することにより、細胞特異的発現複製ベクターの生体内分布を検出することができる(Nature Med. 7, 859-863,
2001)。
【0033】
本発明の細胞特異的発現複製ベクターの製造方法としては、細胞特異的に発現する遺伝子の転写開始制御領域が活性化され得る細胞又は該遺伝子を発現する細胞、好ましくはICP4(-)細胞に、前記本発明の成体正常細胞に作用しない細胞特異的発現複製ベクターを含む相同組み換え後のウイルス混合液を感染させ、ベクター内に組み込んだ遺伝子の発現を指標にして、限界希釈法によって単一クローンにまで精製するスクリーニング方法であれば特に制限されるものではなく、かかるスクリーニングによる本発明の細胞特異的発現複製ベクターの製造方法の確立により、前記本発明の成体正常細胞に作用しない細胞特異的発現複製ベクターをはじめて得ることができる。
【0034】
【実施例】
以下に、実施例を揚げてこの発明を更に具体的に説明するが、この発明の範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
実施例A[方法と材料]
A-1(細胞、培養方法、抗体、及びウイルス)
ヒト平滑筋肉腫細胞株SK-LMS-1(HTB-88)、及びベロ細胞(CCL-81)は、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(American Type Culuture Collection)から購入した。ヒト骨肉腫細胞株OST(RCB0454)は、理研ジーンバンク(RIKEN GENE BANK)から購入した。ICP4遺伝子を導入したベロ細胞、E5細胞は、N. Deluca(University of Pittsburgh School of Medicine, Pittsburgh)から供与されたものを用いた。ヒト悪性線維性組織球種細胞株(MFH-AI)は、神奈川県立がんセンターの矢野間博士より供与されたものを用いた。ヒト消化管ストローマ腫瘍(GIST)細胞とヒト子宮筋腫細胞は、カルポニンタンパク質を発現していることを免疫組織化学によって確認した手術標本から腫瘍塊を無菌的に摘出し、コラゲナーゼ(1mg/ml;Sigma Cat.# C-9722)溶液で処理し、初代培養細胞を分離し、ベクターの感染実験にはRPMI1640培地で3~4世代継代培養したものを用いた。SK-LMS-1は1mMのピルビン酸ナトリウムを添加したイーグルMEMで培養した。OST、ベロ及びE5細胞は、DMEMで培養した。MFH-AIはRPMI1640培地で培養した。全ての培地には、最終濃度で10%の熱不活性化ウシ胎仔血清(Upstate Biotechnologies)、2mMのL-グルタミン、100unit/mLのペニシリン、及び100μg/mLのストレプトマイシンがそれぞれ含まれている。また、上記全ての細胞は、加湿された5%のCO2条件下で37℃にて培養した。
【0035】
上記MFH-AI細胞を、6週齢の雌の無胸腺症ヌードマウス(BALB/cSlc-nu/nu)(日本SLC社製)の体側部に皮下注射して、腫瘍を定着させた。2ヶ月後に解剖し、肺に転移した腫瘍塊を無菌的に摘出し、コラゲナーゼ(1mg/ml;Sigma Cat.# C-9722)溶液で処理し、細胞を分離した。この細胞1×106個を6週齢雌の無胸腺症ヌードマウスの尾静脈から注入した。1ヶ月後再び肺に転移した腫瘍塊から前回と同様の方法で個々の腫瘍細胞を分離した。この操作をさらにもう1回繰り返し、ヒト悪性線維性組織球種MFH-AI細胞の高肺転移性の細胞株MFH-AI-LM細胞を分離した。
【0036】
HSV-1又はHSV-2のICP4タンパク質に対するモノクローナル抗体(clone No.1101)は、Goodwin Institute for Cancer Researchのものを用いた。イムノブロット分析は、文献(Int. J. Cancer 79, 245-250, 1998)記載の方法と同様に行った。化学ルミネッセンス(ECL;Amersham Pharmacia Biotech社製)は、製造者のプロトコルに従って結合抗体を視覚化した。また、それぞれICP4導入Vero E5細胞又はベロ細胞に低多重度で感染させることにより生成した、HSVのICP4欠損変異体d120(J. Virol. 56, 558-570, 1985)及びHSVのICP6(ribonucleotide reductase)欠損変異体hrR3は、N. Deluca又はS. Weller博士(University of Connecticut Health Center, Farmington)からそれぞれ供与されたものを用いた。
【0037】
A-2(RNAの調製とRT-PCR分析)
全RNAはIsogene RNA extraction kit(Nippon Gene社製)を用いて培養した細胞又は組織からそれぞれ抽出し、文献(Int. J. Cancer 79, 245-250, 1998)記載の半定量的RT-PCR分析を行った。PCR増幅の条件としては、94℃で40秒間変性させ、60℃で30秒間アニーリングし、72℃で90秒間伸長反応させるというサイクルを30回繰返し行った。ヒトカルポニンプライマーとしては、5'-gagtgtgcagacggaacttcagcc-3'[フォーワードプライマー1(FP1);nt# 10-33 GenBank D17408;配列番号6]と5'-gtctgtgcccagcttggggtc-3'[リバースプライマー1(RP1);nt# 660-680;配列番号7]を、コントロールとしてのGAPDH(glyceraldehyde 3-phosphate dehydrogenase)のプライマーとしては、5'-cccatcaccatcttccagga-3'[フォーワードプライマー2(FP2);nt# 342-360;配列番号8]と5'-ttgtcataccaggaaatgagc-3'[リバースプライマー2(RP2);nt# 1052-1070;配列番号9]を用いて、それぞれ671bpと731bpのDNAを増幅させた。
【0038】
A-3(ヒトカルポニンプロモーターの単離)
文献(J. Biochem. 120, 18-21, 1996)記載の方法に従い、ヒトゲノムλEMBL3ファージライブラリーのスクリーニングを行って、ヒトカルポニン遺伝子の5′上流側を含むゲノムクローンを単離した。5′側が欠失した断片であるp-1159Luc、p-385Luc、p-343Luc、p-310Luc、p-299Luc、p-288Luc、p-260Luc、p-239Luc、p-219Luc、p-201Luc、p-176Luc、p-153Lucをゲノムクローンを鋳型にしてPCR法で増幅することにより作製した。番号は、以後+1と表示されるATG翻訳開始コドンの上流に位置するDNA断片の5′末端を示している。欠失したこれらの断片は+73の位置に共通の3′末端を有している。DQS-2000L DNA sequencer(SHIMADZU社製)を製造者のプロトコールに従って使用し、該クローン断片のヌクレオチド配列を決定し、その配列は文献(J. Biochem. 120, 18-21, 1996)に記載の配列(DDBJ/GenBankTM/ EMBL database;accession No. D85611)と同一であることを確認した。文献(Cancer Res. 61, 3969-3977, 2001)に記載の方法によって、最小の発現調節領域(-260~+73)を同定した。
【0039】
A-4(トランスフェクション及びルシフェラーゼ分析)
トランスフェクションする24時間前に、あらかじめ培養した細胞を分割し、プレート上に播いた。製造者のプロトコルに従い1ウエル当たり、1.2μgのプロモータープラスミドと、0.3μgのpCAGGS/β-gal 関連プラスミドと、3.75μlのFuGENETM6トランスフェクション試薬(Roche社製)とを6ウエルディッシュに注入し、細胞(5×104)をトランスフェクションした。トランスフェクションの24時間後、100μl/ウエルの細胞溶解緩衝液(PicaGeneTM ルシフェラーゼ分析システム、Toyo Ink社製)中で細胞を回収した。4℃で12000g×5分間の遠心分離を行った後、上清(20μl又は30μl)をルシフェラーゼアッセイ及びβ-ガラクトシダーゼアッセイにそれぞれ使用した。ルシフェラーゼ活性はBLR-201 luminescence reader(Aloka社製)を用いて測定した。β-ガラクトシダーゼアッセイは、文献(J. Biochem. (Tokyo) 122, 157-167, 1997)記載の方法に準じてβガラクトシダーゼ酵素分析システム(Promega社製)を用いて行った。再現性を確認するため、全実験は最低三回繰り返した。細胞抽出物のβ-ガラクトシダーゼ活性を測定することによりトランスフェクション効率を決定し、その値に応じて、ルシフェラーゼ活性(光ユニット)を補正した。SV40エンハンサー及びSV40プロモーターを含むpSV2-Luc遺伝子の発現を比較することにより、種々の細胞株のトランスフェクション効率を評価した。データは、pSV2-Lucの値に対してノーマライズした吸光度±S.E.を%として表している。
【0040】
A-5(ウィルスの調製)
ICP4のコード領域を含むpGH108(J. Virol. 56, 558-570, 1985)由来の4.1kbの平滑末端SalI-MseI断片(Johns Hopkins School of MedicineのHayward博士より提供)を、pAMP1プラスミドにクローニングした333bpヒトカルポニンプロモーター(-260~+73)の下流の平滑末端BamHIサイトに挿入し、及びかかるプラスミドのSmaIサイトにヒト4F2重鎖転写エンハンサー(Mol. Cell Biol. 9, 2588-2597, 1989)(Harvard Medical SchoolのLeiden氏より提供)の444bpのNotI断片をサブクローンした。このpAMP1/CALP-ICP4プラスミドの3'側にあるHindIIIサイトを平滑化し、pIRES2-EGFPプラスミド(Clontech社)を、BamHIとAflIIとを用いて二重消化させることにより得られた1576-bp断片をサブクローンした。このBamHI-AflII断片は、IRES配列(米国特許第4937190号明細書)とEGFP配列(米国特許第5625048号及び第5804387号明細書)およびSV40由来ポリAシグナルから構成されている。次に、pAMP1/CALP-ICP4-IRES2-EGFPプラスミドをEcoRIとSphIとを用いて二重消化させることにより得られた6.7-kb断片を平滑化し、pKX2βG3組換えベクターのStuI平滑末端サイトにサブクローニングした(pKX2βG3/CALP-ICP4-IRES2-EGFP)。pKX2βG3組換えベクター(Coneticut大学のWeller氏より提供)は、ICP6コード配列の2.3-kbXhoI断片(pKpX2)とそのBamH1サイトに挿入された3.0-kbの大腸菌(Escharicia coli)由来のLacZ配列及びpUC19のバックボーンからなる(J. Virol. 62, 196-205, 1988)。
【0041】
続いて、上記プラスミドpKX2βG3/CALP-ICP4-IRES2-EGFPをXhoIサイト(pKX2βG3の5’側ICP6配列の5’側にあるXbaIサイトと3’側ICP6配列の3’側にあるHindIIIサイトをともにXhoIサイトで置換したもの)で線状化し、pUC19配列を除去したpRRΔ-CALP-ICP4-IRES2-EGFPとd120ウイルスDNAとを、製造者のプロトコルに従ってLipofectamineTM(GIBCO/BRL社製)を使用し、6ウエル組織培養プレート中のICP4cDNAを導入したVeroE5細胞(2.5×105/well)のサブコンフルエント単層培養にコトランスフェクションした。トランスフェクション3時間後に20%DMEM培養液1mlを添加し、96時間後まで、4-hydroxymethylbenzoic acid(HMBA)0.5mg/mlを含む前記培養液(10%FBS/DMEM)で培養した。プラーク形成を確認した後、HMBAを含まない10%FBS/DMEMで24時間培養した。500μl/ウエルのコールドウイルスバッファー(150mMのNaClを含む20mMのTris-HCl;pH7.5)に細胞を懸濁し、凍結保存した。
【0042】
超音波処理(30秒間を3回)を組み合わせた凍結処理と解凍処理を三回行い,上記懸濁液を溶解した。懸濁液を段階的に希釈し、96ウエル組織培養プレートのサブコンフルエント単層培養SK-LMS-1細胞に感染させた。感染後96時間1ウエルあたり100μlの11.3μg/mlのヒトIgG(Jackson ImmunoResearch Lab.社製)を含む1%FBS/DMEMで培養した。プラーク形成を確認し得たウエルを蛍光顕微鏡下でのGFPの発現を指標にしてスクリーニングした。GFP陽性のプラークを含むウエルのSK-LMS-1単層培養細胞を前記培養液100μlに懸濁し、そのうちの6μlを用いて、5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリル-β-D-ガラクトピラノシド(X-gal)を基質にしたβガラクトシダーゼ酵素活性を、βガラクトシダーゼ酵素分析システム(Promega社製)を用いて測定した。βガラクトシダーゼ酵素活性陽性のウエルのSK-LMS-1細胞懸濁液を5000回転で5分間遠心し、ペレットを100μl/ウエルのコールドウイルスバッファーに懸濁した。96ウエル組織培養プレートを用いた同様の限界希釈感染・βガラクトシダーゼ酵素活性測定法をVeroE5細胞を用いてさらに2回繰り返し、組換えウィルスベクターd12・CALP・ΔRRを単一のプラークとして精製した。ウイルスDNAを精製した後、制限酵素XhoIで消化し、ICP6cDNAのXhoI断片(2.3-kb)をプローブにしたサザンブロット分析によりリボヌクレオチド還元酵素遺伝子座(ICP6 or RR-locus)での組換えを確認し得た(図1)。
【0043】
10~20個の150cm2/tissue culture flasks(IWAKI CLASS社製)中のE5細胞に感染させ、48時間後に剥離した細胞を回収することにより、ウィルスを調製した。4℃で5分間、400×gで遠心分離を行って細胞を収集し、10mlのコールドウィルスバッファー(150mMのNaClを含む20mMのTris-HCl;pH7.5)に懸濁した。超音波処理(30秒間を3回)を組み合わせた凍結処理と解凍処理を三回行い、上記細胞を溶解した。4℃で5分間、1500×gで遠心分離を行ったあと、その上清に対してさらに4℃で45分間、15000×gで遠心分離を行った。その結果得られたペレットをコールドウィルスバッファーに懸濁し、VeroE5細胞におけるプラークアッセイにより精製したd12・CALP・ΔRRウィルスベクターの力価を決定した。
【0044】
A-6(インビトロでの細胞崩壊分析及びウィルス複製分析)
1%の熱不活性FBS/PBS中で、感染多重度(MOI)が0.1~0.001pfu/cellで、6ウエル組織培養プレート中の細胞のサブコンフルエント単層培養にd12・CALP・ΔRRウィルスベクターを感染させた。かかる感染細胞を37℃で1時間インキュベートし、その後、1%のFBSと11.3μg/mlのヒトIgG(Jackson ImmunoResearch Lab.社製)を含む前記培地で培養した。感染の48時間後、プラーク/ウエルの数を計測した。ウィルス複製分析のために、12ウエル組織培養プレート中のSK-LMS-1細胞又はOST細胞の単層培養(2×105細胞/well)に、1%のFBS/PBS中にて、感染多重度(MOI)が0.1となるようにd12・CALP・ΔRRウィルスベクターを感染させた。接種したウィルスを1時間後に取り除き、上記細胞を前記培地でインキュベートした。所定の時間(12時間、24時間、48時間)に、100μlのウィルスバッファーを用いて感染細胞をウエルから剥がした。細胞懸濁液(1μl)を10-3、10-4及び10-5に希釈し、その後VeroE5細胞におけるウィルスの力価を決定した。
【0045】
また、1%の熱不活性FBS/PBS中で、感染多重度(MOI)が0.01pfu/cellで、6ウエル組織培養プレート中のMFH-AI-LM細胞(ヒト悪性線維性組織球種MFH-AI細胞の高肺転移性細胞株)のサブコンフルエント単層培養にd12・CALP・ΔRRウィルスベクターを感染させた。また、感染多重度(MOI)が0.1/cell又は0.01/cellで、6ウエル組織培養プレート中のヒトGIST細胞及びヒト子宮筋腫培養細胞のサブコンフルエント単層培養にd12・CALP・ΔRRウィルスベクターをそれぞれ感染させた。かかる感染細胞を37℃で1時間インキュベートし、その後、1%のFBSと11.3μg/mlのヒトIgG(Jackson ImmunoResearch Lab.社製)を含む前記培地で培養した。感染の72時間後、X-Gal染色しプラーク/ウエルの数を計測した。
【0046】
A-7(インビトロでのウィルス複製の抗ヘルペスウイルス剤ガンシクロビル(ganciclovir)に対する感受性分析)
1%の熱不活性FBS/PBS中で、感染多重度(MOI)が0.01pfu/cellで、24ウエル組織培養プレート(5×104/well)または6ウエル組織培養プレート(2.5×105/well)中のSK-LMS-1細胞のサブコンフルエント単層培養にウィルスを感染させた。かかる感染細胞を37℃で1時間インキュベートし、その後、1%のFBSと11.3μg/mlのヒトIgG(Jackson ImmunoResearch Lab.社製)、種々の濃度(0~1μg/ml)のガンシクロビル(ganciclovir)(和光純薬社製)を含む前記培地で培養した。感染の48時間後に1ウェルあたりのプラーク数を計測した。
【0047】
ICP4発現のイムノブロット分析のため、SK-LMS-1細胞及びOST細胞に、感染多重度(MOI)が0.01となるようにd12.CALP又はウィルスバッファーのみをそれぞれ感染させ、22時間培養したのち回収した。同量のタンパク質を9%のSDS-PAGEゲル電気泳動にかけ、ニトロセルロース膜(Bio-Rad社製)に移した。5%のスキムミルク(DIFCO Laboratories社製)を用いて、膜を室温で2時間ブロッキングし、その後、抗ICP4抗体(希釈率1:1000)を用いて、4℃で一晩インキュベートした。
【0048】
A-8(インビボでの処理及び組織学的分析)
ヒト皮下移植腫瘍に対するd12.CALPΔRRウィルスベクターの1回静脈内投与による治療効果を検討するために、ヒト悪性線維性組織球種MFH-AI細胞1×107個を、6週齢の雌の無胸腺症ヌードマウス(BALB/c Slc-nu/nu)(日本SLC社製)の体側部に皮下注射して、腫瘍を定着させた。腫瘍は、ヌードマウスに移植後19日で直径6から7mm程度(50~70mm3)に成長した。1×107pfu/マウスのd12.CALPΔRRウィルスベクターを含む100μlのウィルス懸濁液(n=6)、あるいは同量のウィルス緩衝液(n=6)を、30ゲージの針を用いてそれぞれ尾静脈内に1回注入した。注入後所定の時間に腫瘍を測定し、式[0.53×長さ×幅の2乗]を用いて腫瘍容積を計算した。
【0049】
また、ヒト肺転移腫瘍に対するd12.CALPΔRRウィルスベクターの静脈内投与による治療効果を検討するために、ヒト悪性線維性組織球種MFH-AI細胞の高肺転移性の細胞株MFH-AI-LM細胞1×106個を6週齢の雌の無胸腺症ヌードマウス(BALB/c Slc-nu/nu)(日本SLC社製)の尾静脈から1回注射して肺転移腫瘍モデルを作製した。MFH-AI-LM細胞を静脈注射した14日後、組織学的研究のため、1×107pfu/マウスのd12.CALPΔRRウィルスベクターを含む100μlのウィルス懸濁液を、30ゲージの針を用いて1回静脈内投与し、その13日後にマウスを絶命させ、肺転組織全体並びに脳、肝臓、腎臓、心臓、小腸、子宮及び卵巣を取り出し標本とした。これら標本を、2%のパラホルムアルデヒド、0.5%のグルタルアルデヒドを用いて、1mMのMgCl2を含むPBSで、4℃で1晩固定した。続いて、X-Gal(1mg/ml)、5mMのK3Fe(CN6)、5mMのK4Fe(CN6)及び1mMのMgCl2をPBS中に含む基質溶液に、該腫瘍を37℃で4時間浸し、その後、3%のDMSOを含むPBSで洗浄し、X-Gal染色を行った。また、上記肺転組織全体の標本をブアン溶液[15%(v/v)の飽和ピクリン酸溶液、1.65%(v/v)のホルマリン、及び1%(v/v)の酢酸/PBS]で固定し、パラフィンに包埋した。ポリ-L-リジンでコートしたマイクロスライドに、厚さ4μmの切片をのせ、キシレン中で処理し、段階的濃度のアルコール溶液で脱水した。その後、Hematoxylin-Eosin染色を行い、d12.CALPΔRRウィルスベクターによる腫瘍組織の破壊を倒立型顕微鏡(オリンパスBX-50)を用いて観察した。
【0050】
次に、MFH-AI-LM細胞1×106個又は5×105個を6週齢の雌の無胸腺症ヌードマウス(BALB/c Slc-nu/nu)(日本SLC社製)の尾静脈から注射して肺転移腫瘍モデルを作製した。MFH-AI-LM細胞を静脈注射した17日目、27日目及び34日目に、1×107pfu/マウスのd12.CALPΔRRウィルスベクターを含む50μlのウィルス懸濁液を、30ゲージの針を用いて3回静脈内投与し、13日後にマウスを絶命させ、肺転移腫瘍組織全体を取り出し、2%のパラホルムアルデヒド、0.5%のグルタルアルデヒドを用いて、1mMのMgCl2を含むPBSで、4℃で1晩固定し、ヒト肺転移腫瘍に対するd12.CALPΔRRウィルスベクターの静脈内投与による治療効果を調べた。
【0051】
A-9(統計学的分析)
無対のStudent's t-testを使って、統計的差異を確認した。差異はp<0.05で、統計的に有意であると考えられた。
【0052】
実施例B[結果]
B-1(カルポニン陽性細胞における組換えHSVベクターのインビトロでの選択的複製)
カルポニン陽性細胞及び増殖細胞中で選択的に複製するHSVベクターを構築するため、4F2エンハンサー/-260カルポニンプロモーター/ICP4/IRES-EGFPを含むDNA断片を、ICP4-HSV変異体d120(J. Virol. 56, 558-570, 1985)のRR(ICP6)遺伝子座(UL36)に相同組み換え法を用いて挿入し、d12.CALPΔRRウィルスベクターを作製した。d12.CALPΔRRウィルスベクターは、ICP6プロモーターの制御下にβ-ガラクトシダーゼを発現し、カルポニンプロモーターの制御下にICP4タンパク質とEGFPたんぱく質を発現させることが可能である(図1)。カルポニン発現ヒト平滑筋肉腫細胞株(SK-LMS-1)とカルポニン非発現ヒト骨肉腫細胞株(OST)を使用して、d12.CALPΔRRウィルスベクターのウィルス複製の細胞選択性を評価した。
【0053】
ウィルス力価を感染多重度0.1(2×105cells/well)のシングルステップグロースアッセイで評価した。d12.CALPΔRRウィルスベクターは、カルポニン陽性SK-LMS-1細胞中で複製したが、d12.CALPΔRRの力価は感染の72時間後のカルポニン陰性OST細胞中ではSK-LMS-1細胞に比べて1/105程度に減少した(図2;参考写真1)。両細胞の増殖速度は同程度であった。感染22時間後の細胞抽出物のイムノブロット分析を行った結果、SK-LMS-1細胞ではICP4タンパク質が発現しているが、OST細胞ではICP4タンパク質が発現していないことがわかった。これはウィルス複製分析結果と一致していた。これに対し、相同組み換えの親株であるd120ウィルスベクターは、SK-LMS-1及びOSTの培養物において子孫ウィルスの産生はまったく見られなかった。
【0054】
6ウェルディッシュ中のSK-LMS-1細胞にd12.CALPΔRRウィルスベクターを感染させ、感染の96時間後に、X-galアガロースオーバーレイでβ-ガラクトシダーゼ発現細胞を青色に染色し、同時に倒立型蛍光顕微鏡で、EGFPの発現を検証した。崩壊し死滅しつつある腫瘍細胞にβ-ガラクトシダーゼが発現し、その周囲の生細胞にEGFPが発現していることが確認できた(図3;参考写真2)。1個の細胞に、両者の発現が同時に存在する例も多数観察された。
【0055】
B-2(組換えHSV-1ベクターの抗ヘルペスウイルス剤ガンシクロビル(ganciclovir)に対する感受性)
d12.CALPΔRRウィルスベクターをヒト悪性腫瘍の治療に応用する場合、最も重要な特性は、TK遺伝子をインタクトな状態でもつため、抗ヘルペスウイルス剤であるガンシクロビル(ganciclovir)に感受性を示すことである。24ウェル(5×104/well)ディッシュ中のSK-LMS-1細胞に、種々の濃度(0~100ng/ml)のガンシクロビル(ganciclovir)存在下で、d12.CALPΔRRウィルスベクターを多重感染度0.01で感染させ、感染の48時間後に、X-galを基質にして染色し、1ウェルあたりのβ-ガラクトシダーゼ陽性のプラーク数を計測した。また、6ウェルディッシュ中のVeroE5細胞(2.5×105/well)に1μg/mlのガンシクロビル(ganciclovir)存在下と非存在下で、d12.CALPΔRRウィルスベクターを感染させ、感染の48時間後に、X-galを基質にして染色した(図4;参考写真3)。
【0056】
SK-LMS-1細胞、ICP4 cDNAを導入したVeroE5細胞共に、ガンシクロビル(ganciclovir)の存在下でd12.CALPΔRRウィルスベクターの複製が抑制された。SK-LMS-1細胞では、40ng/mlのガンシクロビル(ganciclovir)存在下で完全に抑制された。d12.CALPΔRRウィルスベクターは、野性型ウイルスよりも同薬剤に感受性が高いことが報告されている(Cancer Res. 54, 3963-3966, 2001)複製可能型HSV-1変異体hrR3と同等のガンシクロビル(ganciclovir)に対する感受性を示した。この結果は、d12.CALPΔRRウィルスベクターが治療後にガンシクロビル(ganciclovir)またはアシクロビル(aciclovir)でウイルス感染細胞を除去できる安全策を備えていることを示している。
【0057】
B-3(インビボでの処理及び組織学的分析)
MFH-AI-LM細胞株がカルポニンのmRNAを発現しているかどうかを、MFH-AI-LM細胞株の全RNAを対象とするRT-PCR分析により調べたところ、MFH-AI-LM細胞株がカルポニンのmRNAを発現していることが確認された(図5a;参考写真4)。また、上記MFH-AI-LM細胞株に、感染多重度0.01のd12.CALPΔRRウィルスベクターを72時間感染させた。ベクターの複製は、X-Gal染色しプラーク形成を指標として評価した(図5b;参考写真4)。その結果、d12.CALPΔRRウィルスベクターはMFH-AI-LM細胞内で複製され、MFH-AI-LM細胞に対して細胞溶解活性を示すことが確認された。さらに、GIST細胞及び子宮筋腫培養細胞に、感染多重度0.01又は0.1のd12.CALPΔRRウィルスベクターをそれぞれ72時間感染させた。ベクターの複製は、X-Gal染色しプラーク形成を指標として評価した(図6;参考写真5)。その結果、d12.CALPΔRRウィルスベクターはGIST細胞(6図a,b)及び子宮筋腫培養細胞(6図c,d)内で複製され、0.01MOI(6図a,c)及び0.1MOI(6図b,d)の結果から投与量に依存して細胞溶解活性を示すことが確認され、特に、0.1MOI(6図b,d)の投与では視野中のすべての腫瘍細胞へのd12.CALPΔRRウィルスベクターの感染が認められた。
【0058】
MFH-AI細胞により定着した皮下腫瘍に対するd12.CALPΔRRウィルスベクターのインビボでの抗腫瘍効果を調べた。MFH-AI-LM細胞株の皮下移植腫瘍に対するd12.CALPΔRRウィルスベクターの1回静脈内投与による治療効果を経時変化として表した(図7)。0日に1×107pfu/マウスのd12.CALPΔRRを尾静脈から注入した。静脈注射後29日目の治療(d12.CALPΔRR投与)群と未治療(PBS投与)群の腫瘍体積(mean±S.E.,n=6)は、それぞれ500±136mm3と183±33mm3であった。治療群は未治療群に比べて有意な抗腫瘍効果を示した。
【0059】
ヒト肺転移腫瘍に対するd12.CALPΔRRの静脈内投与によるインビボでの治療効果を調べた(図8;参考写真6)。ヒト悪性線維性組織球種MFH-AI細胞の高肺転移性株MFH-AI-LM細胞を用いた肺転移腫瘍モデルマウスの尾静脈から、1×107pfu/マウスのd12.CALPΔRRウィルスベクターを注入後13日目の肺転移腫瘍(図8a、b)及び正常組織である脳(図8c)、心臓(図8d)、肝臓(図8e)のX-Gal染色、並びに、Hematoxylin-Eosin染色による肺転移腫瘍の組織学的解析(図8f、g)を行った。d12.CALPΔRRウィルスベクターの1回静脈内投与によって、肺転移巣にd12.CALPΔRRウィルスベクターの複製を示すX-Gal染色と組織学的に腫瘍の壊死が認められたが、脳、心臓、肝臓などの正常組織ではベクターの感染と複製を示すX-Gal染色は認められなかった。
【0060】
次に、MFH-AI-LM細胞の投与細胞数を1×106個又は5×105個とし、MFH-AI-LM細胞の投与後17日目、27日目及び34日目に1×107pfu/マウスのd12.CALPΔRRウィルスベクターを計3回静脈内投与した場合のヒト肺転移腫瘍の治療効果を調べた(図9;参考写真7)。MFH-AI-LM腫瘍細胞1×106個又は5×105個を尾静脈から注射して作製した肺転移腫瘍モデルのいずれに対しても、d12.CALPΔRRウィルスベクター投与の治療群の肺転移腫瘍抑制効果は明らかであった。また、Hematoxylin-Eosin染色による組織学的解析によっても治療群での転移抑制効果が確認された。
【0061】
【発明の効果】
間葉系細胞由来の悪性腫瘍すなわち肉腫は、化学療法や放射線療法に抵抗性で、外科的切除後も再発を繰り返し、最終的には肺、肝、腹膜などに転移し予後が悪い。わが国における症例数は、消化器外科領域のストローマ腫瘍(GIST)、整形外科領域の骨・軟部肉腫を中心に婦人科領域の平滑筋肉腫、胸部・消化器外科領域の悪性中皮腫、脳外科領域の繊維肉腫、悪性髄膜腫、悪性神経鞘腫等を合わせて年間5000例前後の初発例がある。全がんのおよそ1~2%と少ないものの、若年者にも多発し化学療法に感受性のある一部の症例を除いては有効な治療法がないことから、新治療法の開発を切望する社会的要請が強い。肉腫の病因、病態に関連する遺伝子解析は、骨肉腫や平滑筋肉腫でp53とRb遺伝子、GISTでKIT遺伝子の変異、Ewing肉腫や滑膜肉腫、脂肪肉腫で融合遺伝子の存在が報告されているが、まだ治療に応用できる段階にはない。また、これまでの動物実験で、p53やサイトカイン、自殺遺伝子である単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(HSV-tk)などを種々のベクターを用いて肉腫細胞に直接導入する方法が試みられたが、十分な治療効果が得られていない。
【0062】
遺伝子治療は、がん細胞に導入する遺伝子の細胞選択的な作用や発現プロモーターの活性、ウイルスベクターの感染導入など、いろいろなレベルでがん細胞選択性を高めることが可能であり、肉腫に対しても有望な治療法として注目されている。実際、オステオカルシンのプロモーターを用いてHSV-tkを複製能力のないアデノウイルスベクターで骨肉腫選択的に発現させることにより、静脈内投与でも肺転移巣を有意に抑制し得ることが報告された(Cancer Gene Ther. 5, 274-280, 1998)。しかし、オステオカルシンは分化段階にある正常な骨芽細胞にも発現しているので、導入遺伝子の発現を制御するだけでは、がん細胞選択性を高めるには不十分である。加えて、分化のマーカー遺伝子のプロモーターによって細胞選択性を高めることは、一方でベクターの汎用性を低下させることであり、多種多様な組織、細胞に由来し、それぞれの症例数が限られている肉腫の場合、ベクター開発の費用対効果の面で不利である。
【0063】
さらに、これまでの肉腫に対する実験的遺伝子治療に用いられた複製能力を欠如したウイルスベクターやリポソームベクターでは、すべてのがん細胞に治療遺伝子を導入することは不可能である。したがって、動物実験で延命効果は得られるものの持続的な抗腫瘍効果は期待できない。また、がん細胞への遺伝子導入効率が低ければ、それだけ大量のウイルスベクターが必要であり、過剰な免疫反応やアレルギー反応が起きる危険性も高まる。
【0064】
難治性肉腫の治療には、何か従来の方法とは異なる全く新しいアプローチが必要であると考えられてきたが、その手がかりは得られていなかった。本発明の実施例はかかる要望等に応えうるものであり、本発明によると、肉腫に限らず悪性腫瘍等の特定の細胞で複製し腫瘍細胞を破壊しつつ特異的に治療遺伝子を発現する、正常細胞に作用しない細胞特異的発現複製ベクターを提供することができる。治療終了後に薬剤でウイルスの複製を停止させることができる安全策を備えたかかる細胞特異的発現複製ベクターを用いることにより、世界で最初のヒトを対象にした細胞選択的な発現複製ベクターを用いた遺伝子治療が可能となる。
カルポニン遺伝子は成体では主として平滑筋細胞に発現しており、特に血管平滑筋細胞の増殖は、腫瘍血管新生やステント留置後の血管狭窄、糖尿病性網膜症などの増殖性血管病変の原因であるため、本発明によって提供されるカルポニンプロモーターをもつ平滑筋細胞特異的発現複製ベクターで、増殖する平滑筋細胞を選択的に破壊することにより、これらの疾患をも治療することが可能である。中でも、本発明によってはじめて可能となる腫瘍血管平滑筋を選択的に破壊する治療法は、すべての固形癌に有効ながん治療法として、画期的な効果をもたらす可能性がある。さらに、カルポニンを発現するメサンギウム細胞の増殖によっておこる増殖性糸球体腎炎や、カルポニンを発現する筋線維芽細胞の増殖によっておこる肺や肝臓などの線維症に対する治療剤としても有効に作用し得るものである。
【0065】
【配列表】
JP0004107919B2_000002t.gifJP0004107919B2_000003t.gifJP0004107919B2_000004t.gifJP0004107919B2_000005t.gifJP0004107919B2_000006t.gif
【図面の簡単な説明】
【図1】d12・CALPΔRRウィルスベクター作製の手順とその構造を示す図である。左は、pKpX2(ICP6のXhoI断片)とICP6のStuI-XhoI断片をDIG標識プローブにしたサザンブロットの結果を示す。d120は相同組み換えを行った親株で、2つのICP4遺伝子をともに欠失したKOS株由来の変異体である。hrR3は、野性型であるKOS株のRibonucleotide reductase (ICP6)遺伝子のBamHIサイトにLacZ遺伝子が挿入され(pKX2βG3)、結果としてICP6を欠失している。
【図2】インビトロでのカルポニン陽性悪性腫瘍細胞(SK-LMS-1平滑筋肉腫)に対するd12・CALPΔRRウィルスベクターの選択的細胞傷害活性を示す図である。左上は、RT-PCRでカルポニンmRNAの発現をみたもので、OST骨肉腫細胞では、カルポニンはほとんど発現していない。右はプラークのX-Gal染色である。
【図3】インビトロでのカルポニン陽性悪性腫瘍細胞(SK-LMS-1平滑筋肉腫)におけるd12・CALPΔRRウィルスベクターの複製をLacZ遺伝子の発現を示すX-Gal染色で示し、カルポニンプロモーターの制御下に発現するEGFP蛋白を蛍光顕微鏡で観察した図である。LacZとEGFPが共に発現している細胞を多数観察することができる。
【図4】インビトロでのカルポニン陽性悪性腫瘍細胞(SK-LMS-1平滑筋肉腫)およびICP4cDNAを導入したVeroE5細胞におけるd12・CALPΔRRウィルスベクターの複製と細胞傷害活性のガンシクロビル(ganciclovir)感受性を示す図である。左はガンシクロビル(ganciclovir)高感受性のhrR3と比較したものであり、右は、チミジンキナーゼを欠失するd12・CALP(特願2001-143999)と比較したもので、1μg/mlのガンシクロビル(ganciclovir)存在下で細胞傷害活性をみたものである。d12・CALPはガンシクロビル(ganciclovir)に感受性がない。
【図5】カルポニンmRNAの発現及びインビトロでの細胞崩壊分析及びベクター複製分析を示す図である。aは、ヒト肉腫(悪性線維性組織球腫)におけるカルポニン(h1)mRNAの発現を示す。bは、腫瘍に対してd12.CALP△RRウィルスベクター0.01MOIを感染させたときのプラークのX-Gal染色である。
【図6】インビトロでの細胞崩壊分析及びベクター複製分析を示す図である。aは、GIST細胞に対して0.01MOIの、bは、GIST細胞に対して0.1MOIの、cは、子宮筋腫培養細胞に対して0.01MOIの、dは、子宮筋腫培養細胞に対して0.1MOIの、d12.CALP△RRウィルスベクターをそれぞれ感染させたときのプラークのX-Gal染色である。
【図7】インビボでの皮下腫瘍に対する抗腫瘍効果を示すグラフである。
【図8】インビボでの肺転移腫瘍におけるd12.CALP△RRウィルスベクターの1回静脈内投与における複製の分析及び抗腫瘍効果を示す図である。
【図9】インビボでのd12.CALPΔRRウィルスベクターの3回静脈内投与によるヒト肺転移腫瘍の治療効果を示す図である。
図面
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