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明細書 :dsr-2タンパク質及びそれをコードする遺伝子、D-セリンシグナル調節薬をスクリーニングするための標的物質、及びD-セリンシグナル調節薬をスクリーニングする方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4408212号 (P4408212)
公開番号 特開2005-143311 (P2005-143311A)
登録日 平成21年11月20日(2009.11.20)
発行日 平成22年2月3日(2010.2.3)
公開日 平成17年6月9日(2005.6.9)
発明の名称または考案の名称 dsr-2タンパク質及びそれをコードする遺伝子、D-セリンシグナル調節薬をスクリーニングするための標的物質、及びD-セリンシグナル調節薬をスクリーニングする方法
国際特許分類 C12N  15/09        (2006.01)
C07K  14/47        (2006.01)
C12Q   1/68        (2006.01)
G01N  33/15        (2006.01)
G01N  33/50        (2006.01)
A61K  45/00        (2006.01)
A61P  25/00        (2006.01)
A61P  43/00        (2006.01)
FI C12N 15/00 ZNAA
C07K 14/47
C12Q 1/68 A
G01N 33/15 Z
G01N 33/50 Z
A61K 45/00
A61P 25/00
A61P 43/00 111
請求項の数または発明の数 8
全頁数 12
出願番号 特願2003-381299 (P2003-381299)
出願日 平成15年11月11日(2003.11.11)
審査請求日 平成18年10月12日(2006.10.12)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】西川 徹
【氏名】山本 直樹
【氏名】海野 麻未
個別代理人の代理人 【識別番号】100098682、【弁理士】、【氏名又は名称】赤塚 賢次
審査官 【審査官】光本 美奈子
参考文献・文献 Biochem. Biophys. Res. Commun., vol.280, p.1189-1196, (2001)
Biochem. Biophys. Res. Commun., vol.235, p.26-30, (1997)
J. Neurochem., vol.95, p.1541-1549, (2005)
調査した分野 C12N 15/09
C07K 14/47
C12Q 1/68
G01N 33/15
G01N 33/50
A61K 45/00
A61P 25/00
A61P 43/00
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
SwissProt/PIR/GeneSeq
PubMed
BIOSIS(DIALOG)
WPI(DIALOG)
特許請求の範囲 【請求項1】
配列番号3のアミノ酸配列を有するdsr-2タンパク質。
【請求項2】
配列番号1の塩基配列を有するdsr-2タンパク質をコードする遺伝子。
【請求項3】
配列番号3のアミノ酸配列を有するdsr-2タンパク質を有効成分として含有することを特徴とするdsr-2タンパク質と相互作用を有する物質をスクリーニングすることにより、D-セリンシグナル調節薬をスクリーニングするための標的物質。
【請求項4】
前記D-セリンシグナル調節薬が、脊髄小脳変性症又は統合失調症の治療薬であることを特徴とする請求項3に記載の標的物質。
【請求項5】
配列番号1の塩基配列を有するdsr-2タンパク質をコードする遺伝子を有効成分として含有することを特徴とするdsr-2タンパク質をコードする遺伝子の発現量を変化させる治療薬をスクリーニングすることにより、D-セリンシグナル調節薬をスクリーニングするための標的物質。
【請求項6】
前記D-セリンシグナル調節薬が、脊髄小脳変性症又は統合失調症の治療薬であることを特徴とする請求項5に記載の標的物質。
【請求項7】
実験用動物に対してD-セリンシグナル調節薬の候補物質を投与する投与工程を行い、該実験用動物の中枢神経系細胞からRNAを抽出する抽出工程を行い、逆転写酵素により前記RNA からcDNAを合成する合成工程を行い、次いで遺伝子特異的プライマーにより前記cDNA をPCR増幅し、配列番号1の塩基配列を有するdsr-2タンパク質をコードする遺伝子の発現量を測定する発現測定工程を行うことを特徴とするD-セリンシグナル調節薬をスクリーニングする方法。
【請求項8】
中枢神経系細胞が、大脳新皮質、大脳辺縁系前脳部、線条体、海馬、視床、視床下部、小脳の細胞であることを特徴とする請求項に記載のスクリーニングする方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、D-セリンシグナル調節薬を開発するために有用な新規タンパク質、これをコードする新規遺伝子、D-セリンシグナル調節薬をスクリーニングするための標的物質、及びD-セリンシグナル調節薬をスクリーニングする方法に関する。
【背景技術】
【0002】
統合失調症では既存の治療薬に抵抗する難治性症状が多く、又脊髄小脳変性症における運動失調は、現在のところ満足できる治療法が確立されていない。本発明者らは、実験動物でD-セリンが、1)NMDA型グルタミン酸受容体チャンネル(以下NMDA受容体と称する)遮断薬による統合失調症モデルと考えられる異常行動および小脳性の運動失調を改善すること、および2)脳に選択的かつNMDA受容体と類似した分布を示す内在性物質であることを発見した。そこで、内在性D-セリンの代謝と機能を明らかにし、統合失調症状発現および運動失調発現における意義や治療薬開発への応用について検討している。
【0003】
統合失調症の薬物療法は、1952年以来現在まで、ドーパミン受容体阻害剤が用いられている。近年、新たな世代の治療薬としてドーパミン受容体と同時にセロトニン受容体等を阻害する非定型抗精神病薬が開発された。しかし、陰性症状と呼ばれる、自閉、感情平板化、意欲低下にはいまだ十分な治療効果が得られていないのが現状である。一方、大脳新皮質の高次機能において主要な役割を担うNMDA受容体に対してチャンネル阻害作用をもつフェンサイクリジンをヒトに単回または反復投与すると、陰性症状を含む統合失調症に酷似した病態が引き起こされる。本発明者らは1991年に非特許文献1で、動物実験において、NMDA受容体のグリシン調節部位を選択的に刺激するD-セリン(この作用は立体特異的でL-セリンはほとんど効果がない)がフェンサイクリジンによって引き起こされる行動異常を改善する効果があることを明らかにした。さらに、本発明者らは、1992年にNMDA受容体のコアゴニストであるD-セリンがほ乳動物の脳に局在する内在性物質であることをみいだした。実際に、非特許文献2において、米国ハーバード大学のグループから、D-セリンの経口投与が統合失調症の陰性症状に対して効果的であったという二重盲験法をもちいた臨床試験結果が近年報告されている。D-セリンの経口投与は、脳内在性D-セリンの制御に影響を与えている、すなわち、脳内のD-セリンシグナルを調節していると考えられる。これらの事実から、D-セリンの作用や脳内代謝を調節するD-セリンシグナル調節薬をスクリーニングすることによって、統合失調症の新たな治療法の開発が可能となると推定されるが、その手がかりは得られていなかった。
【0004】
発明者らは、非特許文献3において、D-セリンは、NMDA受容体のグリシン調節部位を立体選択的に刺激することから(L-セリンは無効)、同様の性質をもつD-セリンエチルエステルおよびD-サイクロセリンを腹腔内投与し、遺伝性の小脳変性モデルマウスあるいは薬物誘発性の小脳変性モデルマウス(例えば、核酸合成阻害作用をもつシトシンアラビノシドAを全身的に投与する処理を行うと小脳に顆粒細胞脱落を中心とする変性が生じ、運動失調が発現する)に認められる運動失調症を改善することを見出した。この抗運動失調効果は立体選択的で、L-セリンエチルエステルおよびL-サイクロセリンには認められず、グリシン調節部位の刺激によることも確認した。したがって、D-セリンエチルエステルおよびD-サイクロセリンは小脳性運動失調の治療薬として役立つと考えられる。ただし、治療用量の設定がむずかしく、D-セリン自身も腎臓等への毒性が懸念されるため、内在性D-セリンのシグナルを調節する新しいタイプの治療薬の開発が待たれる。そこで、D-セリンのシグナルを調節する薬剤をスクリーニングすることにより、脊髄小脳変性症の新たな治療法の開発が可能となると推定されるが、その手がかりは得られていなかった。

【非特許文献1】(Nishikawa T, Tanii Y et al. Brain Res. Vol 563, p. 281-284, 1991.)
【非特許文献2】(Nishikawa T, Hashimoto A et al. FEBS Lett. Vol 296, p. 33-36, 1992)
【非特許文献3】(Nishikawa T, Saigoh K et al. Brain Res. Vol 808, p. 42-47, 1998)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明の目的は、D-セリンシグナル調節薬の開発に利用可能な新規なタンパク質、これをコードする新規遺伝子、D-セリンシグナル調節薬をスクリーニングするための標的物質、及びD-セリンシグナル調節薬をスクリーニングする方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成するために、鋭意検討を重ねた結果、配列番号1の塩基配列を有するdsr-2タンパク質をコードする遺伝子および配列番号2の塩基配列を有するdsr-1タンパク質をコードする遺伝子が、D-セリンを投与した動物脳で発現量が変化することを実験的に確認し、さらに、これらの遺伝子及び該遺伝子の発現生成物であるタンパク質が脳内在性D-セリンシグナルの調節に関与する遺伝子およびタンパク質であることを発見し、これらの遺伝子およびタンパク質がD-セリンシグナル調節薬をスクリーニングするための標的物質として用いることができるとともにD-セリンシグナル調節薬をスクリーニングする方法において用いることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明(1)は、配列番号3のアミノ酸配列を有するdsr-2タンパク質を提供するものである。
【0008】
また、本発明(2)は、配列番号1の塩基配列を有するdsr-2タンパク質をコードする遺伝子を提供するものである。
【0009】
また、本発明(3)は、配列番号3のアミノ酸配列を有するdsr-2タンパク質を有効成分として含有することを特徴とするdsr-2タンパク質と相互作用を有する物質をスクリーニングすることにより、D-セリンシグナル調節薬をスクリーニングするための標的物質を提供するものである。
【0010】
また、本発明(4)は、前記D-セリンシグナル調節薬が、脊髄小脳変性症又は統合失調症の治療薬である前記発明()に記載の標的物質を提供するものである。
また、本発明(5)は、配列番号1の塩基配列を有するdsr-2タンパク質をコードする遺伝子を有効成分として含有することを特徴とするdsr-2タンパク質をコードする遺伝子の発現量を変化させる治療薬をスクリーニングすることにより、D-セリンシグナル調節薬をスクリーニングするための標的物質を提供するものである。
また、本発明(6)は、前記D-セリンシグナル調節薬が、脊髄小脳変性症又は統合失調症の治療薬であることを特徴とする前記発明(5)に記載の標的物質を提供するものである。
【0011】
また、本発明()は、実験用動物に対してD-セリンシグナル調節薬の候補物質を投与する投与工程を行い、該実験用動物の中枢神経系細胞からRNAを抽出する抽出工程を行い、逆転写酵素により前記RNA からcDNAを合成する合成工程を行い、次いで遺伝子特異的プライマーにより前記cDNA をPCR増幅し、配列番号1の塩基配列を有するdsr-2タンパク質をコードする遺伝子の発現量を測定する発現測定工程を行うD-セリンシグナル調節薬をスクリーニングする方法を提供するものである。
【0012】
また、本発明()は、中枢神経系細胞が、大脳新皮質、大脳辺縁系前脳部、線条体、海馬、視床、視床下部、小脳の細胞である前記発明()に記載のスクリーニングする方法を提供するものである。かかる構成を採用することにより、本発明()は、配列番号1の塩基配列を有するdsr-2タンパク質をコードする遺伝子の発現量を精度良く測定することができるという効果を奏する。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、D-セリンシグナル調節薬の開発に利用可能な新規なタンパク質及びこれをコードする新規遺伝子を提供することができる。また、本発明は、D-セリンシグナル調節薬をスクリーニングするための新規な標的物質を提供することができる。さらに、本発明は、D-セリンシグナル調節薬をスクリーニングする新規な方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の配列番号1の塩基配列を有するdsr-2タンパク質をコードする遺伝子、又は配列番号2の塩基配列を有するdsr-1Aタンパク質及びdsr-1Bタンパク質をコードする遺伝子(以下、それぞれ新規遺伝子dsr-2、及び遺伝子dsr-1と言うことがある)は、ラット、マウス、サルなどの実験用動物を用いて、以下に例示するラットを用いた方法により単離・同定することができる。
【0015】
D-セリン投与を行ったラット、及びD-セリン投与を行なわないラットから中枢神経系細胞を摘出し、全RNA(total RNA)を抽出する。前記全RNAから逆転写酵素を用いてcDNA合成を行う。合成cDNAについて、公知の方法、例えばRAP-PCR法によって増幅する。増幅産物を、尿素含有ポリアクリルアミドゲル電気泳動によって分離し、蛍光イメージアナライザーによって解析し、各増幅産物ごとにD-セリン投与を行ったラット及びD-セリン投与を行なわないラットの蛍光強度を比較する。D-セリン投与によって蛍光強度が増強した遺伝子増幅産物を取り出し、塩基配列決定して取り出した増幅産物の配列を確認することにより、新規遺伝子dsr-2及び遺伝子dsr-1を所得することができる。さらに、本発明の配列番号3のアミノ酸配列を有するdsr-2タンパク質、配列番号4のアミノ酸配列を有するdsr-1Aタンパク質、及び配列番号5のアミノ酸配列を有するdsr-1Bタンパク質は、それぞれ、新規遺伝子dsr-2及び遺伝子dsr-1を(pGEX)ベクター、(pQE)ベクターなどの発現ベクターに組み込み、大腸菌等を用いて大量に発現し、分離用クロマトグラフィー、免疫学的分離法などの公知の精製方法により所得することができる。
【0016】
本発明の新規遺伝子dsr-2及び遺伝子dsr-1は、例えば、本発明のD-セリンシグナル調節薬、特に脊髄小脳変性症又は統合失調症の治療薬をスクリーニングする方法において、これらの遺伝子の発現量を変化させる治療薬をスクリーニングすることにより、標的物質の有効成分として用いることができる。ここで新規遺伝子dsr-2又は遺伝子dsr-1を有効成分とする標的物質としては、新規遺伝子dsr-2又は遺伝子dsr-1の塩基配列が組み込まれた任意の塩基配列を挙げることができるが、例えば、ラットから抽出された全RNAを逆転写して得られるcDNAを挙げることができる。また、本発明の新規タンパク質dsr-2並びにdsr-1Aタンパク質及びdsr-1Bタンパク質は、共に細胞外D-セリン濃度の調節に関与するという機能を有するため、例えば、これらのタンパク質に結合する分子など、これらのタンパク質と相互作用を有する物質をスクリーニングすることにより、本発明のD-セリンシグナル調節薬、特に脊髄小脳変性症又は統合失調症の治療薬をスクリーニングする方法において標的物質の有効成分として用いることができる。その際、dsr-2タンパク質、dsr-1Aタンパク質又はdsr-1Bタンパク質の一部ペプチドを特異的に認識する抗体を標的物質の有効成分としてさらに含有すると好ましい。このような抗体としては、dsr-2タンパク質の第55~72残基を特異的に認識する抗Dsr-2抗体、dsr-1Aタンパク質の第1~22残基を特異的に認識する抗Dsr-1A抗体、及びdsr-1Bタンパク質の第1~16残基を特異的に認識する抗Dsr-1B抗体を例示することができ、このような抗体は(Ed HarlowとDavid Lane)の方法(文献名「Antibodies, a laboratory manual」 Cold Spring Harbor Press社発行, 1985年)により、作製することができる。
【0017】
以下に本発明のD-セリンシグナル調節薬をスクリーニングする方法を述べる。投与工程におけるラットに対するD-セリンシグナル調節薬の候補物質の投与方法としては、腹腔内投与など公知の方法により行うことができる。また、この際、候補物質を投与しないラットを用意して、対照ラットとすることができる。
【0018】
前記した候補物質を投与したラットの中枢神経系細胞からRNAを抽出する方法、及び逆転写酵素により前記RNA からcDNAを合成する方法としては、公知の方法を用いることができるが、例えば、Toru Nishikawaら(Biochemical and Biophysical Research Communication Vol 280, No4, p1189-1196, 2001)に記載される方法により行うことができる。
【0019】
中枢神経系細胞としては、大脳新皮質、大脳辺縁系前脳部、線条体、海馬、視床、視床下部、及び小脳などの細胞を挙げることができるが、新規遺伝子dsr-2又は遺伝子dsr-1が発現している中枢神経系細胞であれば特に制限されない。
【0020】
遺伝子特異的プライマーとしては、特に制限されないが、新規遺伝子dsr-2に対しては、配列番号6及び7の塩基配列を有するプライマーペアを、遺伝子dsr-1に対しては、配列番号8及び9の塩基配列を有するプライマーペアを例示することができる。
【0021】
前記遺伝子特異的プライマーにより前記cDNA をPCR増幅する。発現量の測定は、増幅産物をアガロースゲル電気泳動法などによって精製して、Toru Nishikawaら(Biochemical and Biophysical Research Communication Vol 280, No4, p1189-1196, 2001)に記載される、精製して得られた増幅産物をエチジウムブロミドなどで染色して化学発光検出器によって測定する方法により行うことができる。
【0022】
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、これは単に例示であって、本発明を制限するものではない。以下の実験操作は、特に断りがない限り、Toru Nishikawaら(Biochemical and Biophysical Research Communication Vol 280, No4, p1189-1196, 2001)に記載される方法に基づいて行われたものである。
【実施例1】
【0023】
<RAP-PCR法による大脳皮質D-セリン応答遺伝子dsr-2cDNAの単離と構造の決定>
D-セリンを腹腔内に投与した新生児ラット(8日齢)と対照のラット(生理食塩水を投与した新生児ラット)からそれぞれ大脳新皮質を摘出し、Rneasy Midi kit (Qiagen社製)を用いてtotal RNAを抽出した。SuperScript First-Strand Synthesis System(Invitrogen社製)を用いて逆転写反応によるcDNA合成を行った後に、任意の配列をもつ蛍光標識オリゴヌクレオチドをプライマーとしてPCR(PAP-PCR)を行い、得られた増幅産物を尿素含有ポリアクリルアミドゲル電気泳動によって分離精製し、蛍光イメージアナライザーFM-BIO II(日立製作所社製)にて解析した。これらの任意の配列をもつ蛍光標識オリゴヌクレオチドには、配列番号10の塩基配列を有するオリゴヌクレオチドペアが含まれており、該オリゴヌクレオチドペアによって今回初めて新規遺伝子dsr-2を単離することができた。D-セリン投与によって蛍光強度が増強した遺伝子増副産物を、D-セリン応答遺伝子のcDNA断片として抽出し、TAクローニングベクター pGEM T-Easy vector(Promega社製)に挿入して塩基配列を決定した。そのうちのひとつである新規遺伝子を新規遺伝子dsr-2{D-セリン応答遺伝子(D-serine responsive transcript-2)の略称}と名付けた。この新規遺伝子dsr-2の cDNAの全一次構造は、SMART RACE cDNA Amplification kit (Clontech社製)を用いたRACE-PCR法によって決定した。なお塩基配列の決定にはサンガー法に基づいた蛍光自動シークエンサーABI 377(Applied Biosystems社製)をもちいた。新規遺伝子dsr-2の cDNAの全塩基配列を配列番号1に示す。また、dsr-2タンパク質のアミノ酸配列を配列番号3に示す。
【0024】
<サザンブロッティング>
サザンブロッティングは、ラット大脳新皮質からゲノムDNAを抽出し、各種制限酵素消化により断片化した後、アガロースゲル電気泳動によって分離し、アルカリ処理後にナイロン膜に転写した。そのナイロン膜を放射性同位元素32Pで標識した新規遺伝子dsr-2に特異性を有するDNAプローブ(新規遺伝子dsr-2のcDNAの第212塩基~第1069塩基に対応する858塩基のプローブ)を含むハイブリダイゼーション液とともに一晩反応させた。ナイロン膜を68℃にて0.1%SDS、0.1xSSCの洗浄液で1時間洗浄し、BAS-2500イメージアナライザー(富士フィルム社製)によって放射性シグナルを検出した。結果を図1に示す。
【0025】
<RT-PCR法>
各組織ごとにtotal RNAを抽出し(一部についてはpolyAセレクションによるpoly(A)+RNA)、逆転写酵素によりcDNAを合成し、これを鋳型として遺伝子特異的プライマーとして、新規遺伝子dsr-2に対する配列番号6及び7の塩基配列を有するプライマーペア、β-アクチンをコードする遺伝子に対する配列番号11及び12の塩基配列を有するプライマーペア、NR2Bをコードする遺伝子に対する配列番号13及び14の塩基配列を有するプライマーペア、D-セリン分解活性酵素DAOをコードする遺伝子に対する配列番号15及び16の塩基配列を有するプライマーペア、及びG3PDHをコードする遺伝子に対する配列番号17及び18の塩基配列を有するプライマーペアを用いてRT-PCR法を施行した。アガロースゲル電気泳動により分離した後、紫外線照射を行い、Lumi Imager 化学発光・蛍光検出用イメージアナライザー(ロシュ・ダイアグノスティックス社)により発現量を求めて比較した。ラットの各組織ごとのアガロースゲル電気泳動の結果を、図2に示す。また、ラットの脳内の各領域ごとのアガロースゲル電気泳動の結果を、図3に示す。
【0026】
さらに、新生児ラット(生後8日齢)と成熟ラット(50日齢)の大脳新皮質および小脳を用いて<RT-PCR法>に記載される実験と同様の実験を行った。アガロースゲル電気泳動の結果を、図4に示す。図4中、Cxは大脳新皮質を示し、Clmは、小脳を示す。
【0027】
<D-セリンを候補物質とした場合のスクリーニングの操作>
生理食塩水(Saline)を腹腔内に投与したラット、D-セリンを腹腔内に投与したラット、L-セリンを腹腔内に投与したラットを用意し、それぞれの大脳新皮質を用いて、生理食塩水、D-セリン、L-セリンの投与によって増幅量が影響されないリボソームRNA(28S Ribosomal RNA)に対する公知のプライマーを追加して増幅を行った以外は、上記した<RT-PCR法>と同様にRT-PCR法を施行した。紫外線照射を行いLumi Imager 化学発光・蛍光検出用イメージアナライザー(ロシュ・ダイアグノスティックス社)により発現量を求めた。発現量の半定量的解析は、新規遺伝子dsr-2のバンドの光学密度とリボソームRNAの バンドの光学密度との比を求めることにより新規遺伝子dsr-2の相対的な転写量を求めて行った。生理食塩水(対照)、D-セリン、及びL-セリン投与後3時間後、及び15時間後の新規遺伝子dsr-2の相対的な転写量をそれぞれ図5(A)及び図5(B)に示す。
【0028】
図1の結果から、新規遺伝子dsr-2は、ラットのゲノム上で単一箇所のみに存在することがわかる。図2の結果から、新規遺伝子dsr-2は、中枢神経系においてのみ発現することがわかる。図3の結果から、新規遺伝子dsr-2の多く分布する臓器は、大脳新皮質、大脳辺縁系前脳部、線条体、及び海馬であって、NR2BサブタイプのNMDA受容体をコードする遺伝子が分布する臓器と重複し、D-セリン分解活性酵素DAOをコードする遺伝子が分布する臓器と相補的であることがわかる。図4の結果から、新規遺伝子dsr-2は、新生児ラット(生後8日齢)においては、小脳において一過性の発現が認められる。新生児ラット(生後8日齢)においては、新規遺伝子dsr-2の発現パターンはNR2B発現パターンと重複している。また、新生児ラット(生後8日齢)においては、小脳でD-セリン分解酵素DAOは発現していないことがわかる。また、成熟ラット(生後50日齢)においては前脳部優位の発現が見られるが、新生児ラットでは後脳部においても発現が見られる。図5(A)及び図5(B)の結果から、腹腔内投与後3時間で、D-セリンを投与したラットにおいて、有意な新規遺伝子dsr-2の発現上昇が認められた。この変化はセリンのD体に特異的であり、D-セリンがD-セリンシグナル調節薬として機能することが示唆された。D-セリンシグナル調節薬の候補物質を投与した場合においても同様にD-セリンシグナル調節薬として機能するか否かを調べることが可能であると考えられる。
【実施例2】
【0029】
<RAP-PCR法による大脳皮質D-セリン応答遺伝子dsr-1cDNAの単離と構造の決定>
Toru Nishikawaら(Biochemical and Biophysical Research Communication Vol 280, No4, p1189-1196, 2001)に記載される方法と同様の方法によりdsr-1 cDNAの単離と構造の決定を行った。遺伝子dsr-1の cDNAの全塩基配列を配列番号2に示す。また、dsr-1Aタンパク質及びdsr-1Bタンパク質のアミノ酸配列を配列番号4及び5に示す。なお、dsr-1遺伝子の塩基配列及びタンパク質のアミノ酸配列は、すでにToru Nishikawaら(Biochemical and Biophysical Research Communication Vol 280, No4, p1189-1196, 2001)において報告している。
【0030】
<RT-PCR法>
各組織ごとにtotal RNAを抽出し(一部についてはpolyAセレクションによるpoly(A)+RNA)、逆転写酵素によりcDNAを合成し、これを鋳型として遺伝子特異的プライマーとして、遺伝子dsr-1に対する配列番号8及び9の塩基配列を有するプライマーペア、D-セリン分解活性酵素DAOに対する配列番号15及び16の塩基配列を有するプライマーペア、及びG3PDHをコードする遺伝子に対する配列番号17及び18の塩基配列を有するプライマーペアを用いてRT-PCR法を施行した。アガロースゲル電気泳動により分離精製した後、紫外線照射を行い、Lumi Imager 化学発光・蛍光検出用イメージアナライザー(ロシュ・ダイアグノスティックス社)により発現量を求めて比較した。ラットの脳内の各領域ごとのアガロースゲル電気泳動の結果を、図6に示す。
【0031】
<ツメガエル卵母細胞におけるD-セリン取り込み活性の測定>
dsr-1 cRNA25 ng、又は滅菌水をマイクロインジェクションしたアフリカツメガエル卵母細胞、及び無添加のアフリカツメガエル卵母細胞を培養し、3日後に[3H]標識D-セリン(10uM)を添加した後、18℃で1時間インキュベーションし、得られたアフリカツメガエル卵母細胞中のD-セリン量を液体シンチレーションカウンターによって測定することにより、アフリカツメガエル卵母細胞に取り込まれたD-セリンの量を求め、D-セリンの取り込み活性を測定した。結果を図7に示す。
【0032】
図6の結果から、dsr-1遺伝子は、大脳新皮質、大脳辺縁系前脳部、海馬、視床、視床下部、及び小脳において発現していることがわかる。また、図7の結果から、dsr-1遺伝子を発現させたアフリカツメガエル卵母細胞においては、無処置のアフリカツメガエル卵母細胞ならびに滅菌水をマイクロインジェクションしたアフリカツメガエル卵母細胞にくらべて有意にD-セリンの取り込み活性が低下することがわかる。このことから、このことからdsr-1Aタンパク質及びdsr-1Bタンパク質が前脳部における細胞外D-セリン濃度の調節にかかわることが推定される。
【0033】
われわれの発明により、D-セリンに応答して大脳新皮質で発現する2種類の遺伝子の構造と組織分布があきらかとなった。このため、これらの遺伝子や相互作用する関連分子(例えば、これらの遺伝子が発現して得られたタンパク質)を標的とする薬物をスクリーニングことによってD-セリンの作用や脳内代謝を調節する新規治療薬候補をみいだすことがはじめて可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】ラットの新規遺伝子dsr-2を、サザンブロット法によって解析した結果を示す図である。
【図2】成熟ラットの各臓器におけるdsr-2 遺伝子の発現により産生したmRNAの量をRT-PCR法にて解析した結果を示す図である。
【図3】成熟ラットの脳内の各領域におけるdsr-2遺伝子の発現により産生したmRNAの量をRT-PCR法にて解析した結果を示す図である。
【図4】新生児ラット(生後8日齢)と成熟ラット(50日齢)の大脳新皮質および小脳における新規遺伝子dsr-2の発現により産生したmRNAの量をRT-PCR法にて解析した結果を示す図である。
【図5】サリン、D-セリン、及びL-セリンを投与した成熟ラットの大脳新皮質におけるdsr-2遺伝子の発現により産生したmRNA量を測定した結果を示す図である。
【図6】成熟ラットの脳内の各領域におけるdsr-1 mRNAの分布をRT-PCR法にて解析した結果を示す図である。
【図7】[3H]標識D-セリンの取り込み活性を測定した結果を示す図である。

【0035】
配列番号1及び2は、それぞれ新規遺伝子dsr-2及び遺伝子dsr-1の塩基配列を示し、配列番号3~5は、それぞれdsr-2タンパク質並びにdsr-1Aタンパク質及びdsr-1Bタンパク質を示し、配列番号6~18は、プライマーの配列を示す。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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