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明細書 :局所的遺伝子発現調節法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4380857号 (P4380857)
公開番号 特開2001-136962 (P2001-136962A)
登録日 平成21年10月2日(2009.10.2)
発行日 平成21年12月9日(2009.12.9)
公開日 平成13年5月22日(2001.5.22)
発明の名称または考案の名称 局所的遺伝子発現調節法
国際特許分類 C12N  15/09        (2006.01)
C12N  13/00        (2006.01)
A01K  67/027       (2006.01)
FI C12N 15/00 A
C12N 13/00
A01K 67/027
請求項の数または発明の数 6
全頁数 6
出願番号 特願平11-322481 (P1999-322481)
出願日 平成11年11月12日(1999.11.12)
審査請求日 平成18年4月28日(2006.4.28)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】弓場 俊輔
【氏名】船津 高志
個別代理人の代理人 【識別番号】100093230、【弁理士】、【氏名又は名称】西澤 利夫
審査官 【審査官】中野 あい
参考文献・文献 Genetics, 1996年, vol. 144, p. 715-726
日本レーザー医学会誌, 1998年9月28日, vol. 19, no. 3, p. 27-31
日本分子生物学会年会プログラム・講演要旨集, 1997年, vol. 20th, p. 565(3-510-P-604)
細胞工学, 2001年, vol. 20, no. 3, p. 428-433
さきがけ研究21研究報告会「形とはたらき領域」講演要旨集, 2001年, p. 189-196
調査した分野 C12N 15/00-15/90
MEDLINE/BIOSIS/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
PubMed
特許請求の範囲 【請求項1】
構成的プロモーターの下流に組換え標的配列、転写抑制カセット、熱ショックプロモーター、部位特異的組換え酵素遺伝子、組換え標的配列が順に存在しており、最下流に目的遺伝子が存在する構造を有する熱誘導ベクターが導入された形質転換細胞を保有する非ヒト生物個体の局所領域に赤外線レーザーを選択的に照射して、局所領域の温度を上昇させることにより、熱ショックによる部位特異的遺伝子組換えを引き起こし、目的遺伝子を発現させることを特徴とする局所的遺伝子発現調節法。
【請求項2】
熱誘導ベクターにおける部位特異的組換え酵素遺伝子がCreであり、組換え標的配列がloxPであることを特徴とする請求項1の局所的遺伝子発現調節法。
【請求項3】
赤外線レーザーの局所的照射が、少なくとも赤外線レーザー発信装置、顕微鏡、および対象非ヒト生物個体を装着する試料台からなる赤外線レーザー顕微鏡システムを用いて行われることを特徴とする請求項1または2の局所的遺伝子発現調節法。
【請求項4】
非ヒト生物個体に導入される熱誘導ベクターであって、構成的プロモーターの下流に組換え標的配列、転写抑制カセット、熱ショックプロモーター、部位特異的組換え酵素遺伝子、組換え標的配列が順に存在しており、最下流に目的遺伝子が存在する構造を有することを特徴とする熱誘導ベクター。
【請求項5】
部位特異的組換え酵素遺伝子がCreであり、組換え標的配列がloxPであることを特徴とする熱誘導ベクター。
【請求項6】
請求項4または5に記載の熱誘導ベクターが導入された形質転換細胞を保有する非ヒト生物個体。
発明の詳細な説明
【0001】
【発明の属する技術分野】
この出願の発明は、生物個体に部位特異的に遺伝子組換えを引き起こさせる遺伝子工学的手法に関するものである。さらに詳しくは、この出願の発明は、生物個体の局所領域に赤外線レーザーを照射することにより部位特異的遺伝子組換えを引き起こさせる遺伝子工学的手法に関するものである。
【0002】
【従来の技術とその課題】
固体の発生において、最も簡便に標的細胞の変化を引き起こす方法としては、従来よりレーザー光を用いたレーザーアブレーション法が知られている。この方法は、色素レーザーを照射することにより、ラジカルを発生させ、標的細胞を死滅させる方法で、特定の細胞を死滅させることによって個体の発生、分化に変化を起こす。しかし、この方法では、細胞を生かしたままの状態で遺伝子発現を調節することができないという点が大きな問題となっている。
【0003】
同様の手法として、紫外光のパルスレーザーを細胞に照射して遺伝子発現に変調を加える方法も知られている。しかし、この方法では、強力な紫外光を照射するため、やはり細胞の損傷が避けられないことが問題となっている。
【0004】
従来より、医学、農学を始めとする分野において、生物個体に部位特異的遺伝子組換えを引き起こさせることが行われており、そのための様々な遺伝子工学的手法が開発されている。
【0005】
部位特異的遺伝子組換えを行う方法としては、部位特異的遺伝子組換え酵素Creと組換え標的配列を含むベクターを用いる遺伝子工学的手法が知られている。これらの方法では、目的とする遺伝子と構成的プロモーターを、組換え標的配列で挟まれた転写抑制カセットによって隔離しておき、部位特異的遺伝子組換え酵素遺伝子の作用によって、二つの組換え標的配列によって挟まれた転写抑制カセットが組換えられ、除かれる。そして、これによりプロモーターが目的遺伝子の転写を始める。部位特異的組換え酵素遺伝子は、何らかの発現誘導があった場合のみ活性化されるので、二つの組換え標的配列に挟まれた部位が除去されるためには、任意組織で部位特異的組換え酵素遺伝子のような特定遺伝子の発現を限定するプロモーターが必要である。しかし、あらゆる細胞や組織についてこのような特定部位で作用するプロモーターを得ることはほとんど不可能であり、任意の局所領域における特異的遺伝子組換えは、事実上不可能であった。
【0006】
そこで、この出願の発明は、以上の通りの事情に鑑みてなされたものであり、従来技術の問題点を解消し、任意の局所領域において遺伝子発現を起こさせる方法を提供することをその課題としている。
【0007】
この出願の発明は、上記の課題を解決するものとして、以下の局所的遺伝子発現調節法等を提供する。
<1>構成的プロモーターの下流に組換え標的配列、転写抑制カセット、熱ショックプロモーター、部位特異的組換え酵素遺伝子、組換え標的配列が順に存在しており、最下流に目的遺伝子が存在する構造を有する熱誘導ベクターが導入された形質転換細胞を保有する非ヒト生物個体の局所領域に赤外線レーザーを選択的に照射して、局所領域の温度を上昇させることにより、熱ショックによる部位特異的遺伝子組換えを引き起こし、目的遺伝子を発現させることを特徴とする局所的遺伝子発現調節法。
<2>熱誘導ベクターにおける部位特異的組換え酵素遺伝子がCreであり、組換え標的配列がloxPであることを特徴とする請求項1の局所的遺伝子発現調節法。
<3>赤外線レーザーの局所的照射が、少なくとも赤外線レーザー発信装置、顕微鏡、および対象非ヒト生物個体を装着する試料台からなる赤外線レーザー顕微鏡システムを用いて行われることを特徴とする請求項1または2の局所的遺伝子発現調節法。
<4>非ヒト生物個体に導入される熱誘導ベクターであって、構成的プロモーターの下流に組換え標的配列、転写抑制カセット、熱ショックプロモーター、部位特異的組換え酵素遺伝子、組換え標的配列が順に存在しており、最下流に目的遺伝子が存在する構造を有することを特徴とする熱誘導ベクター。
<5>部位特異的組換え酵素遺伝子がCreであり、組換え標的配列がloxPであることを特徴とする熱誘導ベクター。
<6>請求項4または5に記載の熱誘導ベクターが導入された形質転換細胞を保有する非ヒト生物個体。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下、添付した図面に沿って実施例を示し、この発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。
【0012】
この出願の発明の局所的遺伝子発現調節法は、赤外線レーザーを、生物個体の単一細胞、組織などの局所領域に選択的に照射し、生物個体の局所領域の温度を上昇させることにより、熱ショックによる部位特異的遺伝子組換えを引き起こさせるものである。
【0013】
このとき照射される対象となる生物個体は、外来遺伝子として特定の構造を有する熱誘導ベクターを持っていることが好ましく、その熱誘導ベクターとして、この出願の発明は、構成的プロモーターの下流に組換え標的配列、転写抑制カセット、熱ショックプロモーター、部位特異的組換え酵素遺伝子、組換え標的配列が順に存在しており、最下流に発現させようとする遺伝子(以下GeneXとする)が存在する構造である熱誘導ベクターを提供する。
【0014】
そして、照射される対象となる生物個体は、以上の熱誘導ベクターを外来遺伝子として有するトランスジェニック生物であることが好ましい。
この出願の発明の熱誘導ベクターでは、構成的プロモーターの下流に、部位特異的組換え酵素遺伝子の遺伝子を繋いだ発現カセットが存在する。部位特異的組換え酵素は、組換え配列を認識して、そこで組換えを起こす。しかしこのベクターでは、さらに発現カセットの5’側に、上流の構成的プロモーターによる転写を止める目的と熱ショックプロモーターによる漏出発現を防止する目的で転写抑制カセットが導入されている。そのため、通常の状態では、転写は進行せず、転写抑制カセットによって阻害されてしまう。
【0015】
しかし、熱ショックにより部位特異的組換え酵素の発現誘導がかかれば、組換えにより、組換え標的配列で挟まれた二つのカセット(転写抑制カセットと発現カセット)が一緒に除かれ、初めて構成的プロモーターとGeneXが直結し、以降、このプロモーターによってGeneXが永続的に発現する。
【0016】
このような熱誘導ベクターを有するトランスジェニック生物は、温浴などの通常の方法で加熱すれば、あらゆる部位において、GeneXの発現が誘導されてしまうため、部位特異的遺伝子組換えを起こすためには、生物個体を局所的に加熱する方法が必要である。
【0017】
そこで、局所的に生物個体を加熱する方法として、この出願の発明では、赤外線レーザーを対物レンズにより、標的とする箇所に集光させる方法を用いる。エネルギーの比較的低い赤外線レーザーを使用し、さらにレーザーを集光させることにより標的を限定することが可能となり、非侵襲的に上記のトランスジェニック生物において遺伝子発現を自在に調節することができるようになる。ここで、標的とは生物個体の単一細胞であってもよいし、複数の細胞からなる組織であってもよい。
【0018】
赤外線レーザー顕微鏡システムとしては、共焦点蛍光顕微鏡をベースとし、赤外線レーザー発信装置を組み込むことにより構築する。顕微鏡に赤外線レーザーが導入されることによって、標的細胞に赤外線レーザー光を集光することが可能となる。
【0019】
カバーガラスから数百マイクロメートル離れた特定の細胞の核だけを加熱し、周囲を暖めないようにするためには、レーザーの波長と集光法に細心の注意を払う必要がある。標的細胞に到達するまでレーザーが吸収されず、しかも標的細胞を充分に加熱するためには、1300~3000nmの波長のレーザーを用い、高開口数の対物レンズを用いることが好ましい。この条件では、細胞の温度を10℃上昇させるのに必要なレーザー光の強度は集光領域で~100mWとなり、数ワットの出力をもつ半導体レーザーで十分対応できる。
【0020】
以下実施例を示す。もちろん、この発明は以下の例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることは言うまでもない。
【0021】
【実施例】
図1は、この出願の発明に用いる赤外線レーザーを照射するための赤外線レーザー顕微鏡システムの概略説明図である。
【0022】
また、図2はトランスジェニック生物に赤外線レーザーを照射、集光させる方法を模式的に表わした概略説明図である。
実施例1
熱誘導ベクターとして、Elongation Factor 1 α(EF1 α)プロモーター/loxP-転写抑制-[熱ショックプロモーター-Cre]-loxP/Cyan Fluorescent Protein遺伝子を外来遺伝子として有するトランスジェニックゼブラフィッシュを通常の遺伝子工学的手法により樹立した。
【0023】
図1に示すように、ラマンレーザー(波長1480nm)を赤外線レーザー顕微鏡システムによってこのトランスジェニックゼブラフィッシュの胚に集光させ、生物個体上の標的部位(単一細胞)を加熱した。Creの発現が誘導され、部位特異的遺伝子組換えにより、Cyan Fluorescent Protein遺伝子の発現が認められた。
【0024】
【発明の効果】
以上詳しく説明した通り、この発明によって、生物個体を局所的に加熱し、部位特異的に遺伝子組換えを引き起こすことのできる、任意の局所領域における遺伝子発現調節法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【図1】この出願の発明である局所的遺伝子発現調節法を実施するために用いる赤外線レーザー顕微鏡システムを例示した概略説明図である。
【図2】この出願の発明の実施例であり、生物個体(トランスジェニックゼブラフィッシュの胚)に赤外線レーザーを集光する方法を模式的に示した概略説明図である。
【符号の説明】
1 赤外線レーザー発信機
1a 赤外線レーザー光
2 顕微鏡
3 対物レンズ
4 試料台
5 生物試料
5a 細胞
6 ダイクロイックミラー
7 ミラー
8 共焦点ユニット
9 画像解析装置
10 生物個体(トランスジェニックゼブラフィッシュの胚)
図面
【図1】
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【図2】
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