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明細書 :核酸塩基対相補性の電気化学的検出方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第3956214号 (P3956214)
登録日 平成19年5月18日(2007.5.18)
発行日 平成19年8月8日(2007.8.8)
発明の名称または考案の名称 核酸塩基対相補性の電気化学的検出方法
国際特許分類 G01N  27/416       (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
C12M   1/00        (2006.01)
G01N  27/327       (2006.01)
FI G01N 27/46 336M
C12N 15/00 A
C12M 1/00 A
G01N 27/30 351
請求項の数または発明の数 11
全頁数 13
出願番号 特願2002-572395 (P2002-572395)
出願日 平成13年3月13日(2001.3.13)
国際出願番号 PCT/JP2001/001974
国際公開番号 WO2002/073183
国際公開日 平成14年9月19日(2002.9.19)
審査請求日 平成16年7月2日(2004.7.2)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】梅澤 喜夫
【氏名】青木 寛
個別代理人の代理人 【識別番号】100093230、【弁理士】、【氏名又は名称】西澤 利夫
審査官 【審査官】谷垣 圭二
参考文献・文献 特開2001-056311(JP,A)
調査した分野 G01N 27/416
G01N 27/327
特許請求の範囲 【請求項1】
電極に少なくとも核酸単鎖を結合して得られる修飾電極を、分析物核酸単鎖と酸化還元マーカーを含有する溶液に接触させ、酸化還元マーカーの酸化還元反応を測定することを特徴とする核酸塩基対相補性の電気化学的検出方法。
【請求項2】
電極は、金ディスク電極である請求項1の核酸塩基対相補性の電気化学的検出方法。
【請求項3】
修飾電極には核酸単鎖とともに、分析物核酸単鎖と相補性を有さない分子を結合する請求項1または2のいずれかの核酸塩基対相補性の電気化学的検出方法。
【請求項4】
核酸単鎖および分析物核酸単鎖と相補性を有さない分子は、電極表面に混合単分子膜を形成している請求項3の核酸塩基対相補性の電気化学的検出方法。
【請求項5】
分析物核酸単鎖と相補性を有さない分子が6-メルカプト-1-ヘキサノールである請求項3または4のいずれかの核酸塩基対相補性の電気化学的検出方法。
【請求項6】
核酸単鎖がペプチド核酸単鎖である請求項1ないし5のいずれかの核酸塩基対相補性の電気化学的検出方法。
【請求項7】
分析物核酸単鎖の濃度が10-11~10-2Mである請求項1ないし6のいずれかの核酸塩基対相補性の電気化学的検出方法。
【請求項8】
分析物核酸単鎖がDNA単鎖である請求項1ないし7のいずれかの核酸塩基対相補性の電気化学的検出方法。
【請求項9】
酸化還元マーカーが〔Fe(CN)64-/3-である請求項1ないし8のいずれかの核酸塩基対相補性の電気化学的検出方法。
【請求項10】
〔Fe(CN)64-/3-の濃度が0.1~1mMである請求項9の核酸塩基対相補性の電気化学的検出方法。
【請求項11】
酸化還元反応は、ボルタンメトリーにより測定する請求項1ないし10のいずれかの核酸塩基対相補性の電気化学的検出方法。
発明の詳細な説明 技術分野
この出願の発明は、核酸塩基対の相補性を電気化学的に検出する方法に関するものである。さらに詳しくは、この出願の発明は、分析物核酸の配列を、電極に結合したプローブ核酸との塩基対相補性を電気化学的に検出することにより確認する方法に関するものである。
背景技術
近年、分子生物学分野における技術的発展により、様々な生物のゲノム構造が明らかになりつつある。また、ゲノム構造の解明により、様々な遺伝的疾患やウィルス性疾患において遺伝子の変異が関与することが明らかになっている。そのため、医学、法医学、分子生物学等の様々な分野において、特定遺伝子配列や遺伝子配列の変異を検出、解析する方法の確立が重要な課題となっている。
これまで、分光学的、生物化学的、あるいは電気化学的に遺伝子変異を検出、解析する方法が研究されている。現在のところ、一般的には、電気泳動法や高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法が遺伝子変異の検出、解析に用いられているが、これらの従来法は、いずれも多くのサンプルを同時に解析することが困難である、解析に長時間を要する上、精度が高くないなどの問題があった。
近年になって、高い測定精度を有し、微量の試料で検出が可能で、多検体を同時に分析することが可能な電気化学的測定法が注目され、様々な修飾電極がバイオセンサーとして研究、報告されている(Wang,J.,Anal.Chem.1999,71,328)。
具体的には、電極表面に膜状に酵素を固定化し、酵素反応により物質変化を電気信号に変換し、検出する酵素電極が初期に報告された。しかし、これを遺伝子の検出や解析に用いるためには、分析物(標的遺伝子)と特異的に反応する酵素を選択しなければならず、汎用性が低いという問題が残った。
そこで、最近では、電極上に固定化されたプローブと標的遺伝子のハイブリダイゼーションを電気信号として検出するDNAバイオセンサーに関する研究が盛んに行われている。例えば、Patolskyらは金電極上にホスホチオレート基を介してビオチン化オリゴヌクレオチドプローブを固定化し、プローブとターゲットDNA単鎖を接触させることによりハイブリッドを形成させ、さらにビオチンと特異的に相互作用するアビジンを結合した酵素を反応させてその酵素反応に基づく電気信号からDNAを検出する方法を報告している(Langmuir,1999,15,3703)。しかし、このような方法は、プローブの固定化、ハイブリダイゼーション、タンパク質相互作用、酵素反応、生成物の電極上への析出という多くの操作を必要とし、簡便とは言い難かった。
また、Takenakaらは、金電極上にチオールアンカーを介して化学吸着させたオリゴヌクレオチドプローブを用いてナフタレン-フェロセン酸化還元インターカレーターによってDNAを検出する方法を報告している(Anal.Chem.2000,72,1334)。しかし、インターカレーターを電極活性プローブとして用いる方法では、一般的に単鎖DNAと二重鎖DNAの識別は可能なものの、インターカレーターの結合領域の配列依存性があるため、分析物に対応したインターカレーターを選択する必要があるという問題があった。
さらに、De Lumley-Woodyearらはガラス状カーボン電極上に導電性酸化還元高分子膜を形成し、酵素(HRP)でラベルした(dT)25-30または(dA)25-30を共有結合させ、相補オリゴヌクレオチドとのハイブリダイゼーションによって起こる酵素反応に基づく電気信号を検出する方法を報告している(Anal.Chem.1999,71,394)。しかし、このような酵素ラベルを用いる方法では、オリゴヌクレオチドを酵素でラベルする際に煩雑な操作を必要とする上、過剰なラベル酵素を洗浄除去する必要があり、測定精度が必ずしも安定しないという問題があった。
そこで、この出願の発明は、以上のとおりの事情に鑑みてなされたものであり、従来技術の問題点を解消し、任意の配列を有する核酸を特異的に検出できる簡便で汎用性の高い方法を提供することを課題としている。
発明の開示
この出願の発明は、上記の課題を解決するものとして、まず第1には、電極に少なくとも核酸単鎖を結合して得られる修飾電極を、分析物核酸単鎖と酸化還元マーカーを含有する溶液に接触させ、修飾電極と酸化還元マーカーの反応により生じる電気信号が、修飾電極の核酸単鎖と分析物核酸単鎖が相補性を有するとき消失することを検出することを特徴とする核酸塩基対相補性の電気化学的検出方法を提供する。
第2には、この出願の発明は、電極が金ディスク電極である核酸塩基対相補性の電気化学的検出方法を提供する。
この出願の発明は、さらに、第3には、修飾電極に核酸単鎖とともに分析物核酸単鎖と相補性を有さない分子が結合されている核酸塩基対相補性の電気化学的検出方法を、また、第4には、核酸単鎖および分析物核酸単鎖と相補性を有さない分子が電極表面に混合単分子膜を形成している核酸塩基対相補性の電気化学的検出方法を、そして、第5には、分析物核酸単鎖と相補性を有さない分子が6-メルカプト-1-ヘキサノールである核酸塩基対相補性の電気化学的検出方法を提供する。
この出願の発明は、第6には、核酸単鎖がペプチド核酸単鎖であること、第7には、分析物核酸単鎖の濃度が10-11~10-2Mであることを前記のいずれかの核酸塩基対相補性の電気化学的検出方法の態様として提供する。
さらに、第8には、この出願の発明は、分析物核酸単鎖がDNA単鎖である前記のいずれかの核酸塩基対相補性の電気化学的検出方法をも提供する。
この出願の発明は、第9には、インターカレーターを用いず水溶性酸化還元マーカー[Fe(CN)4-/3-を用いること、および第10には、[Fe(CN)4-/3-の濃度が0.1~1mMであることをこの核酸塩基対相補性の電気化学的検出方法の態様として提供する。
さらに、第11には、この出願の発明は、酸化還元反応を、ボルタンメトリーにより測定することを上記の核酸塩基対相補性の電気化学的検出方法の態様として提供する。
そして、この出願の発明は、第12には、上記のいずれかの方法により核酸塩基対相補性を電気化学的に検出するための修飾電極であって、金ディスク電極の表面にペプチド核酸と分析物核酸と相補性を有さない分子の混合単分子膜が形成されていることを特徴とする核酸塩基対相補性検出用修飾電極をも提供する。
発明を実施するための最良の形態
この出願の発明は、核酸塩基対の相補性を電気化学的に検出する方法に関するものであるが、具体的には、電極表面に固定化されたレセプターに分析物が結合することにより、酸化還元マーカーの電極への移動が物理的および/または静電的に抑制され、酸化還元マーカーと電極間の電子移動が阻害され、電気信号が現れるという原理に基づく、いわゆるイオンチャンネルセンサーによる検出方法といえる。
イオンチャンネルセンサーについては、発明者らが1987年に提案して以来、数多くの報告がなされている。これまでにも、例えば、水素イオン(Electroanalytical Chemistry Vol.19,Marcel Dekker,New York,1996,p.109;J.Am.Chem.Soc.1997,119,8720)や抗体(Langmuir,1997,13,1783)等をイオンチャンネルセンサーで検出する方法が報告されている。また、発明者らも、金属カチオン(Anal.Chem.1987,59,2842;J.Electroanal.Chem.1996,401,65;Mikrochim.Acta 1999,132,55)、ヌクレオチド(Thin Solid Films 1989,180,129;Anal.Chem.1990,62,1252他)、無機アニオン(Anal.Chem.1999,71,1183)、アミン(J.Electroanal.Chem.1999,473,105)等の種々のイオンや分子をイオンチャンネルセンサーを用いて検出する方法を報告している。さらに、発明者等は、イオンチャンネルセンサーを用いて親水性の高いリン酸の選択的検出や、プロタミン(Anal.Chem.1999,71,5109)、ヘパリン(Anal.Chim.Acta 2000,411,163)等の多価イオンの検出が可能であることを明らかにしている。
そこで、発明者等は、以上のとおりの知見に基づき、DNA等の核酸がこれらのプロタミンやヘパリンと同様に多価イオンであることに着目し、核酸の検出や分析においてイオンチャンネルセンサーを用いることを検討した。そして鋭意研究の成果として、本願発明に至ったのである。
すなわち、この出願の発明の核酸塩基対相補性の電気化学的検出方法は、電極に核酸単鎖を結合させ、修飾電極とした後、この修飾電極を当該核酸単鎖との相補性を確認したい分析物核酸と酸化還元マーカーを含有する溶液に接触させ、修飾電極と酸化還元マーカーの反応により生じる電気信号が、修飾電極の核酸単鎖と分析物核酸単鎖が相補性を有するとき消失することを検出するというものである。この出願の発明の核酸塩基対相補性の電気化学的検出方法をより具体的に説明するために、図1に概略図を示した。
つまり、この出願の発明では、電極(1)上に少なくとも核酸単鎖(2)を結合し、修飾電極(11)として用いる(ステップ▲1▼)。電極(1)上に結合された核酸単鎖(2)はプローブ分子として作用し、溶液中の分析物核酸単鎖(3)がこのプローブ核酸単鎖(2)と相補性を有すれば、電極(1)上で相補核酸間のハイブリダイゼーションが起こる(ステップ▲3▼)。このようなハイブリダイゼーションは、溶液中の酸化還元マーカー(5)を物理的に電極に近づけにくくするだけでなく、分析物核酸単鎖(3)表面の負荷電(31)が酸化還元マーカー(5)からの電子移動をも阻害する。
一方、分析物核酸単鎖(3)が電極(1)上のプローブ核酸単鎖(2)と相補性を示さない場合(ステップ▲2▼)には、酸化還元マーカー(5)からの電子移動が阻害されないため、電極反応がスムーズに進行する。そのため、酸化還元マーカー(5)のみを含有し、分析物核酸単鎖(3)を有さない溶液における酸化還元マーカー(5)の酸化還元電位と、分析物核酸単鎖(3)を含有する溶液での酸化還元マーカー(5)の酸化還元電位を比較すれば、分析物核酸単鎖(3)が電極(1)上のプローブ核酸単鎖(2)と相補性を有するものであるか否かが明確に示されるのである。
この出願の発明において、電極(1)材料は、プローブとしての核酸単鎖(2)を結合できるものであればよく、とくに限定されない。好ましくは硫黄原子等を介した化学吸着方法が確立されている金電極である。また、電極(1)の形状もとくに限定されない。しかし、後述するように、電極(1)上のプローブ核酸単鎖(2)が分子間にある程度の間隔を有した単分子層となっていることが好ましいことから、ディスク電極とすることが好ましい。このとき、ディスク電極の電極面積はとくに限定されないが、少量の分析物でも高い精度で測定を可能とするためには、電極面積を5mm以下とすることが好ましい。
この出願の発明の核酸塩基対相補性の電気化学的検出方法においては、プローブ核酸単鎖(2)は、単独で電極(1)表面に結合させてもよいが、合わせてプローブ核酸単鎖(2)の分子間隔を調整するためのプローブ分子間充填用分子(4)を結合させてもよい。これは、後述の実施例からも示されるように、プローブ核酸単鎖(2)が電極上に垂直に配向し、単分子膜を形成していることが好ましいためである。すなわち、プローブ核酸単鎖(2)があまり緻密に電極(1)を被っている場合には、分析物核酸単鎖(3)がプローブ核酸単鎖(2)間に入り込めず、ハイブリダイゼーションが十分に行われない場合があるためである。しかし、一方で、プローブ核酸単鎖(2)の単分子膜に隙間を持たせる目的で、インキュベーションの時間を短縮しただけでは、プローブ核酸単鎖(2)が電極(1)表面に垂直に配向せず、横たわってしまい、十分なハイブリダイゼーションが行われないことが考えられる。
そこで、発明者らは、鋭意研究により、電極(1)上で分子間の空隙を埋め、プローブ核酸単鎖(2)の分子間隔を調節し、プローブ核酸単鎖(2)が分析物核酸単鎖(3)とのハイブリダイゼーションを起こし易いように、分析物核酸単鎖(3)を電極(1)に対して垂直方向に配向させ、横たわりを防止するためにプローブ分子間充填用分子(4)を核酸単鎖(2)とともに結合させ、混合単分子膜を形成することが有効であることを見出したのである。
このようなプローブ分子間充填用分子(4)は、分析物核酸単鎖(3)と相補性を有さず、電極(1)に安定に結合できるものであり、酸化還元マーカー(5)の電極反応を阻害しないものであればよく、とくに限定されない。具体的には、短鎖アルカンチオールやジスルフィド等の種々の化合物から選択される。中でも6-メルカプト-1-ヘキサノールは、鎖長が短いためマーカーの酸化還元反応を阻害せず、又、末端が親水性であるので、PNAの吸着を避けることができるため効果が高く、好ましい。
さらに、この出願の発明の核酸塩基対相補性の電気化学的検出方法において、プローブ核酸単鎖(2)は、DNAであってもペプチド核酸(PNA)であってもよい。
PNAは、DNAの類似体であり、負電荷を帯びたリン酸の代わりに中性なN-(2-アミノエチル)グリシンをバックボーンとして有する。PNAは、種々のミスマッチDNAを高感度で区別でき、相補DNAに対してDNAよりも高い結合親和性を有することが知られている(Nature 1993,365,566;J.Chem.Soc.,Chem.Commun.1993,800;Clin.Chem.1993,39,715)。
例えば、WangらはPNA膜をDNAの検出に用い、カーボンペースト電極上に析出させたPNAプローブが高い選択性で相補DNAを認識することを報告した(J.Am.Chem.Soc.1996,118,7667)。また、Alinghausらは固体支持体上に成形されたPNAとDNAプローブのアレイを比較し、PNAを使用した方が1塩基ミスマッチの区別が可能であると報告している(Anal.Chem.1997,69,3747)。
発明者らは、鋭意研究により、プローブ核酸単鎖(2)としてPNAを使用することにより、分析物核酸(3)とPNAの相補性がある場合の電気信号が、DNAを使用した場合に比べて大きく、検出感度が高くなることを明らかにした(本願実施例)。したがって、プローブ核酸単鎖(2)としては、PNAを用いることがより好ましいといえる。
この出願の発明の核酸塩基対相補性の電気化学的検出方法においては、接触させる分析物核酸単鎖(3)を含有する溶液の溶媒、濃度、pH等はとくに限定されない。好ましくは、リン酸緩衝液などを含有する水溶液とし、核酸のインキュベーションに適したpH7.0前後とすることが好ましい。また、精度高い検出を可能にするためには、分析物核酸単鎖(3)の濃度はあまり高くない方がよく、10-11~10-2Mとすることが好ましい。
以上のとおりの核酸塩基対相補性の電気化学的検出方法において、分析物核酸(3)としては、例えば化学合成されたポリヌクレオチドやオリゴヌクレオチドでもよいし、DNAやRNA等の天然ヌクレオチドであってもよい。つまり、この発明の方法により、所望の配列を有するヌクレオチドが合成されたことをプローブ核酸単鎖(2)との相補性より確認したり、天然DNA上の変異をプローブ核酸単鎖(2)に対する相補性の有無を確認することにより遺伝的疾患やウィルス性疾患を診断することも可能となる。
さらに、酸化還元マーカー(5)は、負電荷を有し、プローブ分子の電極への結合性や、核酸塩基対の相補性に影響を与えないものであって、その電子移動が核酸塩基対の相補的作用によって抑制されるようなものであれば、とくに限定されない。好ましくは、[Mo(CN)4-/3-や[Fe(CN)4-/3-が例示される。このような酸化還元マーカー(5)の濃度は、とくに限定されないが、精度高い測定を可能とするためには、例えば[Fe(CN)4-/3-の場合、0.1~1mMとすることが好ましい。
以上のとおりの酸化還元反応は、電極反応により検出されればよく、その方法や条件はとくに限定されない。具体的には、クーロメトリー、ファラデーインピーダンス分光法、ボルタンメトリー等が挙げられる。好ましくは酸化還元電位の変化が簡便に感度高く測定でき、誤差の原因となりうる複雑な計算等を必要としないボルタンメトリー法である。
以上のとおりの核酸塩基対相補性の電気化学的検出方法において、この出願の発明の修飾電極(11)の作成方法はとくに限定されない。プローブ核酸単鎖(2)の電極(1)への結合が安定であり、酸化還元マーカー(5)の電気化学的反応や分析物核酸(3)とのハイブリダイゼーションにより脱離するようなことがなければよい。例えば、公知の方法(Langmuir 1999,15,3703;Anal.Chem.1999,71,394;Anal.Chem.1999,72,1334他)を用いてもよいし、種々のリンカーを介して化学的、あるいは物理的にプローブ核酸単鎖(2)を電極表面に結合させてもよい。好ましくは、後述の実施例に示すように、プローブ核酸単鎖(2)および分析物核酸(3)と相補性を有さないプローブ分子間充填用分子(4)を混合単分子膜として電極(1)表面に形成し、修飾電極(11)とする。
この出願の発明の核酸塩基対相補性の電気化学的検出方法は、公知の超小型セルを応用したり、プレート上に以上のとおりの修飾電極を複数装着することにより、小型化が可能であり、微量の試料で多検体の同時分析を行うことをも可能とする。また、高価な装置等を必要とせず、ポテンシオスタット等の一般的な電気化学測定装置を利用できるため、医療や産業等の現場でDNA診断や合成オリゴヌクレオチドの解析を精度高く行うための簡便な方法として有用性が高い。
以下、添付した図面に沿って実施例を示し、この発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、この発明は以下の例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることは言うまでもない。
実施例
<準備>
(1) 試料
システインを末端に有する10量体PNAプローブをSawady Technology社から購入した。構造は、化学式1に示されるように、配列番号1のオリゴペプチドの5’側にシステインとエチレングリコール単位を連結したものである。
JP0003956214B2_000002t.gif末端にヘキサンチオール基を有する配列番号2の15量体DNAプローブ(5′-HS(CH-GGC AGT GCC TCA CAA-3′)、オリゴヌクレオチド(dA)10、(dT)10、DNAプローブに相補性を有する配列番号3のオリゴヌクレオチド(5′-TTG TGA GGC ACT GCC-3′)、PNAプローブに相補性を示す配列番号4のオリゴヌクレオチド(5′-TGA GGC ACTG-3′)、およびPNAプローブに結合するオリゴマーで、1つのミスマッチを有する配列番号5のオリゴヌクレオチド(5′-TGA GC ACTG-3′)はいずれも日清紡(株)から購入した。
また、6-メルカプト-1-ヘキサノールはFluka AG社(Buchs,Switzerland)から購入した。
他の試薬はすべて分析試薬グレードのものを使用した。
さらに、水溶液にはすべてMilli-Q水システム(Millipore社、Bedford,MA)を使用して脱イオン化し、活性炭処理した水(抵抗値>18.2MΩcm)を用いた。
(2) 電極
金ディスク電極(面積1mm、Bioanalytical Systems(BAS)、West Lafayette,IN)を粒径0.3および0.05μmのアルミナスラリー(アルファおよびガンマ マイクロポリッシュ登録商標No.2、Buehler,Lake Bluff,IL)を塗布したフェルトパッド上で最低10分間磨き、水で繰り返し洗浄した後、超音波洗浄器で洗浄した。
研磨された電極をアルゴンで15分間パージして脱酸素化した0.5M KOH溶液に浸漬し、-0.4V~-1.2V(vs.飽和カロメル電極)の間で、サイクリックボルタモグラム(CV)が変化しなくなるまで掃引した。
DNAおよびPNAプローブはTakenakaらによって報告された方法(Anal.Chem.2000,72,1334)に基いて固定化された。電極は水で洗浄し、使い捨て試験管に逆さに設置した。
400μMのDNAまたは100μMのPNAプローブ(水溶液)を2μLずつ金ディスク電極上に塗布し、試験管を密閉して水の蒸発を防止し、所定の時間室温に保持した。混合単分子膜の作製では、その後電極を水洗し、1mMの6-メルカプト-1-ヘキサノール溶液に室温で30分間浸漬して得た。電極は、使用直前に繰り返し水洗した。
(3) ハイブリダイゼーション
0.1Mのリン酸緩衝液(カリウム塩溶液、pH7.0)および1MのNaClを含有するオリゴヌクレオチド溶液100μLに電極を浸漬した。DNAプローブの場合には、電極を65.0±0.1℃で40分間インキュベートした後、室温まで徐冷した。PNAプローブについては、電極を室温、37.0±0.1℃、または47.0±0.1℃で40分間インキュベートして、オリゴヌクレオチドと相互作用するようにした。
(4) 電気化学測定
測定はすべてCV-50Wエレクトロアナライザー(BAS社)を用いて室温でアルゴンガスで15分間置換して脱酸素した溶液について3電極法によりおこなった。いずれのポテンシャルもAg/AgCl電極に対して測定され、対極はプラチナ線とした。サイクリックボルタンメトリーは、0.5mMのK[Fe(CN)]および0.5mMのK[Fe(CN)]を電気化学活性マーカーとして有する0.1Mリン酸緩衝液(カリウム塩、pH7.0)中で測定した。電位は0~+500mVまで掃引され、再び0mVまで掃引した。掃引速度は1003mV/sとした。
最初のCVを解析し、101mV(分析物DNAを含有しないときの[Fe(CN)4-/3-のピーク電位)における電流値から、DNA濃度とセンサー感度の関係を測定した。
<実施例1> DNA単鎖修飾金電極
上記の方法で研磨した電極を35時間かけて15量体DNA単鎖プローブで修飾した。この電極を用いて測定した[Fe(CN)4-/3-のCVを図2Aに示した。
酸化還元はほぼ可逆的で、ピークセパレーションΔEρは75mVであった。ΔEρが未修飾の電極の場合よりも大きかったことから[Fe(CN)4-/3-の還元反応がDNA単鎖プローブ表面の負電荷により若干阻害されていることが示された。
(同様の報告は、Patolskyらによって18量体オリゴヌクレオチド(20μM、10時間)を金表面に結合した修飾電極にもついてなされている(Langmuir 1999,15,3703))。
次に15量体DNAプローブ修飾電極を、88μMの分析物DNA単鎖の溶液に浸漬し、65℃の湯浴で40分間インキュベートし、室温まで徐冷した。このインキュベーション温度は、DNA単鎖プローブの融点(Methods in Enzymology Vol.168,Academic Press,San Diego,California,1989,p.761によれば61.0℃)に基いて決定した。
図2Bに示したCVから、ΔEρが93mVでハイブリダイゼーションによって18mV大きくなったことが示された。
<実施例2> PNA単鎖修飾金電極
実施例1より、DNA単鎖をプローブとして用いた場合にも、CVにおけるΔEρの変化から十分にハイブリダイゼーションが確認できることが示された。
しかし、DNA単鎖は、多くの負電荷を有するため、プローブ分子間の反発力が自己集合の妨げになり、電極表面の単分子膜に欠陥が生じ易いと考えられる。また、DNA単鎖の表面には負電荷が多く存在するため、ハイブリダイゼーションによるプローブ表面の電荷の変化が検出されにくいことも考えられる。
一方、PNAは、中性であるため、ハイブリダイゼーションによるプローブ表面の電荷の変化が大きいことが予想される。
そこで、前記の方法で研磨された電極を24時間かけて10量体PNA単鎖で修飾し、修飾電極とした。
図3Aにこの電極を用いて[Fe(CN)4-/3-の酸化還元を測定した際のCVを示した。これより酸化還元マーカーと電極の間の電子移動が完全に抑制されていることが示された。これは、自己集合単分子膜(Self-assembled monolayers:SAM)が極めて密であるためと考えられる。
そこで、SAMへの透過性を上げるために、PNA単鎖溶液による修飾時間を短縮し、PNA単鎖間の分子間隔を広げることを試みた。また、PNA単鎖が電極表面に横たわり、分析物DNA単鎖とのハイブリダイゼーションが起こりにくくなることを防ぐために、PNA単鎖間の空隙を6-メルカプト-1-ヘキサノールで充填した。
<実施例3> PNA混合修飾金電極の作成
PNA単鎖溶液と電極を30分間接触させた後1mMの6-メルカプト-1-ヘキサノール溶液と30分間接触させた。図3Bにこの混合単分子膜で修飾した金電極を用いた[Fe(CN)4-/3-のCVを示した。
図3BのCVが準可逆的であった(ΔEρ=265)ことから、[Fe(CN)4-/3-の電子移動が実施例2のPNA単鎖修飾金電極を用いた場合ほど阻害されていないことが示された。
したがって、以下、このPNA混合修飾金電極で修飾された電極のみを使用した。
<実施例4> 分析物(オリゴヌクレオチド)によるハイブリダイゼーション
PNA単鎖修飾金電極をPNA単鎖に相補性を有する10量体DNA溶液(100μM)中、47.0℃で40分間インキュベートし、水洗いした後、電気化学測定を行った。このインキュベーション温度は、Tの推定値から求めた。Tは、DNA/DNA対の場合よりも同一配列を有するPNA/DNA対で1℃(Bioorg.Med.Chem.1996,4,5)または1.5℃(Nature 1993,365,566)高くなることが知られている。対応するDNA/DNA対のTは38.5℃であることから、PNA/DNA対のTは48.5℃または53.5℃であると推定した。
図3Cに混合単分子膜で修飾した金電極のPNA単鎖を10量体DNAとハイブリダイゼーションさせた後の[Fe(CN)4-/3-のCVを示した。PNA/DNA修飾電極での[Fe(CN)4-/3-のCVは不可逆であった。ピークが確認されなかったことから、[Fe(CN)4-/3-と電極の間の電子移動が効率的に抑制されていることが示された。
この結果から、10量体DNAがPNA単鎖プローブにハイブリダイゼーションしたことが確認された。PNAプローブは中性なバックボーンを有するが、PNA/DNA対は修飾電極表面に負電荷を与える(PNA1プローブにつき10e(=-10)ずつ)。修飾電極上のPNA/DNA対からの負電荷の静電的反発によって[Fe(CN)4-/3-は容易には電極表面に到達できず、酸化還元反応が抑制されたことが示唆された。
図4は、電極反応(+101mVにおける電流値)と分析物DNAの濃度の関係を示した図である。DNA濃度が10-10M~10-7Mの領域では、電流値に変化が見られず、10-6~10-4Mでは減少することが確認された。さらに高い濃度では最も低い値となったことから、電極上のPNA単鎖プローブがほとんど分析物DNAとハイブリダイゼーションし、飽和となっていることが示唆された。
以上より、10量体DNA単鎖をPNA混合修飾金電極を用いたCVによりマイクロモルのレベルで検出できることが示された。また、パルスボルタンメトリー等のより高い精度を有する電気化学測定法を応用すれば、この修飾電極による測定限界も上昇することが期待される。
<実施例5> オリゴヌクレオチドの選択的検出
実施例3で作成したPNA混合修飾金電極の分析物(オリゴヌクレオチド)選択性を確認するために、用いたPNA単鎖に対して非相補的なオリゴヌクレオチドを用いて、実施例4と同様の方法でハイブリダイゼーションおよび測定を試みた。
図5BおよびCは、40μMの(dA)10溶液と100μMの(dT)10溶液中、室温にてインキュベートされたPNA混合修飾金電極を用いて、[Fe(CN)4-/3-を酸化還元マーカーとしたときのCVである。
インキュベーションが実施例4で使用された47.0℃よりもDNA結合において有利な室温で行われ、かつ、分析物(非相補的DNA)の濃度が実施例4の分析物(相補的DNA)の濃度よりも大きかったにもかかわらず、[Fe(CN)4-/3-の酸化還元反応は、インキュベーション前の電極(図5A)を用いた場合とほとんど変化が見られなかった。
したがって、これらのオリゴヌクレオチドがPNA単鎖プローブとハイブリダイゼーションしなかったことが示された。
さらに、上記の修飾電極の選択性を確認するために、1塩基のミスマッチを有するオリゴヌクレオチドを使用して、同様の測定をおこなった。
図6B、図6C、および図6Dに、1塩基ミスマッチオリゴヌクレオチド溶液100μMを室温、37.0℃、および47.0℃でインキュベートして得たPNA混合修飾金電極の[Fe(CN)4-/3-を酸化還元マーカーとしたCVを示した。室温でインキュベーションしたCVからは、準可逆的なCV(ΔEρ=360mV)が示されたことから、ミスマッチオリゴヌクレオチドが、PNA単鎖プローブに若干結合していることが示された。しかし、ΔEρは、高いインキュベーション温度で小さくなった。ΔEρ:309mV(37.0℃)、252mV(47.0℃)。
47.0℃でインキュベートされた修飾電極のΔEρは(dA)10および(dT)10の溶液中でインキュベートされたものと同等であった。これより、PNA混合修飾金電極がターゲットとするDNAと1塩基のミスマッチがあるだけの非相補オリゴヌクレオチドをも区別できることが示された。
産業上の利用可能性
以上詳しく説明したとおり、この発明によって、1ヌクレオチド塩基のミスマッチまでも高い精度で検出できる簡便で汎用性の高い核酸塩基対相補性の電気化学的測定法が提供される。この発明の方法を用いれば、種々の核酸の配列や変異を精度高く、かつ簡便に確認することができる。また、この発明の修飾電極を用いれば、核酸塩基対相補性検出装置の超小型化も可能となり、多検体の核酸塩基対相補性を微量の試料を用いて同時に測定することも可能となる。
【配列表】
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【図面の簡単な説明】
図1は、この発明の核酸塩基対相補性の電気化学的検出方法の概要を示す摸式図である。(1:電極、2:(プローブ)核酸単鎖、3:分析物核酸単鎖、4:プローブ分子間充填用分子、5:酸化還元マーカー、11:修飾電極)
図2は、この発明の実施例においてプローブとしてDNA単鎖の単分子膜を有する修飾電極を用いた際の[Fe(CN)4-/3-の酸化還元反応を示すサイクリックボルタモグラムである。(A:DNA単鎖修飾金電極、B:DNA単鎖修飾金電極+分析物核酸単鎖)。
図3は、この発明の実施例において、プローブとしてPNA単鎖の単分子膜を有する修飾電極を用いた際の[Fe(CN)4-/3-の酸化還元反応を示すサイクリックボルタモグラムである。(A:PNA単鎖(24時間)修飾金電極、B:PNA単鎖(0.5時間)+6-メルカプト-1-ヘキサノール(0.5時間)修飾金電極(以下、PNA混合修飾金電極と呼ぶ)、C:PNA混合修飾金電極+分析物核酸単鎖)。
図4は、この発明の実施例において、PNA混合修飾金電極を用いた際の分析物単鎖濃度と+101mVにおける[Fe(CN)4-/3-の還元電流値の関係を示す図である。
図5は、この発明の分析物単鎖の選択性を確認する実施例において、PNA混合修飾金電極を用いた際の[Fe(CN)4-/3-の酸化還元反応を示すサイクリックボルタモグラムである。(A:PNA混合修飾金電極、B:PNA混合修飾金電極+40μM(dA)10、C:PNA混合修飾金電極+100μM(dT)10)。
図6は、この発明の分析物核酸単鎖の選択性を調べる実施例において、PNA混合修飾金電極を用いた際の[Fe(CN)4-/3-の酸化還元反応を示すサイクリックボルタモグラムである。(A:PNA混合修飾金電極、B:PNA混合修飾金電極+100μM 1塩基ミスマッチオリゴヌクレオチド(室温)、C:PNA混合修飾金電極+100μM 1塩基ミスマッチオリゴヌクレオチド(37.0℃)、D:PNA混合修飾金電極+100μM 1塩基ミスマッチオリゴヌクレオチド(47.0℃))。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
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