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明細書 :哺乳類人工染色体

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4293990号 (P4293990)
登録日 平成21年4月17日(2009.4.17)
発行日 平成21年7月8日(2009.7.8)
発明の名称または考案の名称 哺乳類人工染色体
国際特許分類 C12N  15/09        (2006.01)
C12N   5/10        (2006.01)
A01K  67/027       (2006.01)
FI C12N 15/00 ZNAA
C12N 5/00 B
A01K 67/027
請求項の数または発明の数 34
全頁数 46
出願番号 特願2004-534126 (P2004-534126)
出願日 平成15年9月1日(2003.9.1)
国際出願番号 PCT/JP2003/011134
国際公開番号 WO2004/022741
国際公開日 平成16年3月18日(2004.3.18)
優先権出願番号 2002258114
2002338865
優先日 平成14年9月3日(2002.9.3)
平成14年11月22日(2002.11.22)
優先権主張国 日本国(JP)
日本国(JP)
審査請求日 平成17年4月7日(2005.4.7)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】396020800
【氏名又は名称】科学技術振興事業団
【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】岡崎 恒子
【氏名】池野 正史
【氏名】伊藤 俊英
【氏名】鈴木 伸卓
個別代理人の代理人 【識別番号】100095577、【弁理士】、【氏名又は名称】小西 富雅
【識別番号】100100424、【弁理士】、【氏名又は名称】中村 知公
【識別番号】100114362、【弁理士】、【氏名又は名称】萩野 幹治
審査官 【審査官】福澤 洋光
参考文献・文献 細胞,2001年,Vol.33, No.3,p.114-117
Genes and Development,2000年,Vol.14,p.1186-1195
EMBO Reports,2001年,Vol.2, No.10,p.910-914
戦略的基礎研究推進事業研究年報,2002年 3月,Vol.2000,p.61-64
実験医学,2001年,Vol.19, No.1,p.50-52
FEBS Letters,2002年 6月,Vol.520, No.1-3,p.47-52
Journal of Virology,2000年,Vol.74, No.10,p.4679-4687
調査した分野 C12N1/00-15/90
CA/MEDLINE/BIOSIS/WPIDS(STN)
JSTPlus(JDreamII)
Genbank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
Pubmed
特許請求の範囲 【請求項1】
哺乳類セントロメア配列を含む環状の第1ベクターと、所望の配列を特異的に挿入するための挿入用配列及びインスレーター配列を含む環状の第2ベクターと、を哺乳類宿主細胞に生体外で導入する第1工程と、
形質転換細胞を選択する第2工程と、及び
選択された形質転換細胞の中から哺乳類人工染色体を保有する細胞を選択する第3工程と、
を含み、前記哺乳類セントロメア配列は、以下の配列が規則的間隔で複数個配列される領域を含む、ことを特徴とする哺乳類人工染色体の作製方法、
5'-NTTCGNNNNANNCGGGN-3':配列番号1(但し、NはA,T,C,及びGのいずれかである)。
【請求項2】
哺乳類セントロメア配列及び哺乳類テロメア配列を含む酵母人工染色体からなる第1ベクターと、所望の配列を特異的に挿入するための挿入用配列及びインスレーター配列を含む酵母人工染色体からなる第2ベクターと、を哺乳類宿主細胞に生体外で導入する第1工程と、
形質転換細胞を選択する第2工程と、及び
選択された形質転換細胞の中から哺乳類人工染色体を保有する細胞を選択する第3工程と、
を含み、前記哺乳類セントロメア配列は、以下の配列が規則的間隔で複数個配列される領域を含む、ことを特徴とする哺乳類人工染色体の作製方法、
5'-NTTCGNNNNANNCGGGN-3':配列番号1(但し、NはA,T,C,及びGのいずれかである)。
【請求項3】
前記第1ベクターが選択マーカー遺伝子を有し、前記第2工程における形質転換細胞の選択は該選択マーカー遺伝子を利用して行われる、請求項1又2に記載の作製方法。
【請求項4】
前記哺乳類セントロメア配列はヒト染色体アルファサテライト領域由来の配列を含む、請求項1~のいずれか一項に記載の作製方法。
【請求項5】
前記哺乳類セントロメア配列はヒト21番染色体由来の11量体繰返しユニットを含む、請求項に記載の作製方法。
【請求項6】
前記哺乳類セントロメア配列のサイズは約50kb以下である、請求項1~のいずれか一項に記載の作製方法。
【請求項7】
前記挿入用配列がloxPサイト若しくはFRTサイト又はこれらいずれかの配列の一部を改変した配列であって、前記所望の配列を挿入する機能を有する配列である、請求項1~のいずれか一項に記載の作製方法。
【請求項8】
前記第1工程において導入する、前記第1ベクターと前記第2ベクターの量比はモル比で約10:1~約1:10の範囲にある、請求項1~のいずれか一項に記載の作製方法。
【請求項9】
請求項1~のいずれか一項に記載の作製方法によって得られ、
哺乳類複製起点、哺乳類セントロメア配列、並びに所望の配列を特異的に挿入するための挿入用配列及びインスレーター配列を有し、
環状であって、哺乳類細胞中で複製され、宿主細胞の染色体外に維持され、及び細胞分裂の際に娘細胞に伝達され、
前記哺乳類セントロメア配列は、以下の配列が規則的間隔で複数個配列される領域を含む、哺乳類人工染色体、
5'-NTTCGNNNNANNCGGGN-3':配列番号1(但し、NはA,T,C,及びGのいずれかである)。
【請求項10】
請求項1~のいずれか一項に記載の作製方法によって得られ、
哺乳類複製起点、哺乳類セントロメア配列、哺乳類テロメア配列、並びに所望の配列を特異的に挿入するための挿入用配列及びインスレーター配列を有し、
線状であって、哺乳類細胞中で複製され、宿主細胞の染色体外に維持され、及び細胞分裂の際に娘細胞に伝達され、
前記哺乳類セントロメア配列は、以下の配列が規則的間隔で複数個配列される領域を含む、哺乳類人工染色体、
5'-NTTCGNNNNANNCGGGN-3':配列番号1(但し、NはA,T,C,及びGのいずれかである)。
【請求項11】
哺乳類複製起点、哺乳類セントロメア配列、並びに所望の配列を特異的に挿入するための挿入用配列及びインスレーター配列を有し、
環状であって、哺乳類細胞中で複製され、宿主細胞の染色体外に維持され、及び細胞分裂の際に娘細胞に伝達され、
前記哺乳類セントロメア配列は、以下の配列が規則的間隔で複数個配列される領域を含む、哺乳類人工染色体、
5'-NTTCGNNNNANNCGGGN-3':配列番号1(但し、NはA,T,C,及びGのいずれかである)。
【請求項12】
哺乳類複製起点、哺乳類セントロメア配列、哺乳類テロメア配列、並びに所望の配列を特異的に挿入するための挿入用配列及びインスレーター配列を有し、
線状であって、哺乳類細胞中で複製され、宿主細胞の染色体外に維持され、及び細胞分裂の際に娘細胞に伝達され、
前記哺乳類セントロメア配列は、以下の配列が規則的間隔で複数個配列される領域を含む、哺乳類人工染色体、
5'-NTTCGNNNNANNCGGGN-3':配列番号1(但し、NはA,T,C,及びGのいずれかである)。
【請求項13】
前記挿入用配列がloxPサイト若しくはFRTサイト又はこれらいずれかの配列の一部を改変した配列であって、前記所望の配列を挿入する機能を有する配列である、請求項11又は12に記載の作製の哺乳類人工染色体。
【請求項14】
前記哺乳類セントロメア配列はヒト染色体アルファサテライト領域由来の配列を含む、請求項13のいずれか一項に記載の哺乳類人工染色体。
【請求項15】
前記哺乳類セントロメア配列はヒト21番染色体由来の11量体繰返しユニットを含む、請求項14に記載の哺乳類人工染色体。
【請求項16】
前記挿入用配列及び前記インスレーター配列を複数個有する、請求項15のいずれか一項に記載の哺乳類人工染色体。
【請求項17】
請求項16のいずれか一項に記載の哺乳類人工染色体を自己の染色体外に保有する哺乳類細胞。
【請求項18】
請求項16のいずれか一項に記載の哺乳類人工染色体を自己の染色体外に保有するヒト細胞。
【請求項19】
請求項16のいずれか一項に記載の哺乳類人工染色体を自己の染色体外に保有する胚性幹細胞。
【請求項20】
請求項1~のいずれか一項に記載の作製方法によって得られる哺乳類人工染色体又は請求項16のいずれか一項に記載の哺乳類人工染色体をターゲット細胞としての哺乳類細胞に生体外で導入する工程を含む、
ことを特徴とする、前記機能配列又は前記挿入用配列が長期間安定して維持可能な状態に導入された哺乳類細胞の作製方法。
【請求項21】
哺乳類セントロメア配列を含む環状の第1ベクターと、所望の配列を特異的に挿入するための挿入用配列及びインスレーター配列を含む環状の第2ベクターと、を哺乳類宿主細胞に生体外で導入する第1工程と、
形質転換細胞を選択する第2工程と、
選択された形質転換細胞の中から、哺乳類人工染色体を保有する細胞を選択する第3工程と、
選択された細胞から前記哺乳類人工染色体を分離する第4工程と、及び
分離された前記哺乳類人工染色体をターゲット細胞としての哺乳類細胞に生体外で導入する第5工程と、
を含み、
前記哺乳類セントロメア配列は、以下の配列が規則的間隔で複数個配列される領域を含む、哺乳類人工染色体を保有する哺乳類細胞の作製方法、
5'-NTTCGNNNNANNCGGGN-3':配列番号1(但し、NはA,T,C,及びGのいずれかである)。
【請求項22】
哺乳類セントロメア配列及び哺乳類テロメア配列を含む酵母人工染色体からなる第1ベクターと、所望の配列を特異的に挿入するための挿入用配列及びインスレーター配列を含む酵母人工染色体からなる第2ベクターと、を哺乳類宿主細胞に生体外で導入する第1工程と、
形質転換細胞を選択する第2工程と、
選択された形質転換細胞の中から哺乳類人工染色体を保有する細胞を選択する第3工程と、
選択された細胞から前記哺乳類人工染色体を分離する第4工程と、及び
分離された前記哺乳類人工染色体をターゲット細胞としての哺乳類細胞に生体外で導入する第5工程と、
を含み、
前記哺乳類セントロメア配列は、以下の配列が規則的間隔で複数個配列される領域を含む、哺乳類人工染色体を保有する哺乳類細胞の作製方法、
5'-NTTCGNNNNANNCGGGN-3':配列番号1(但し、NはA,T,C,及びGのいずれかである)。
【請求項23】
哺乳類セントロメア配列を含む環状の第1ベクターと、所望の配列を特異的に挿入するための挿入用配列及びインスレーター配列を含む環状の第2ベクターと、を哺乳類宿主細胞に生体外で導入する第1工程と、
形質転換細胞を選択する第2工程と、
選択された形質転換細胞の中から、哺乳類人工染色体を保有する細胞を選択する第3工程と、
選択された細胞と、微小核形成能を有する哺乳類細胞とを生体外で融合させる第4工程と、
融合細胞の中から、微小核形成能を有し、かつ前記哺乳類人工染色体を保有するハイブリッド細胞を選択する第5工程と、及び
選択されたハイブリッド細胞から微小核を形成させる第6工程と、
を含み、
前記哺乳類セントロメア配列は、以下の配列が規則的間隔で複数個配列される領域を含む、哺乳類人工染色体を含有する微小核体の作製方法、
5'-NTTCGNNNNANNCGGGN-3':配列番号1(但し、NはA,T,C,及びGのいずれかである)。
【請求項24】
哺乳類セントロメア配列及び哺乳類テロメア配列を含む酵母人工染色体からなる第1ベクターと、所望の配列を特異的に挿入するための挿入用配列及びインスレーター配列を含む酵母人工染色体からなる第2ベクターと、を哺乳類宿主細胞に生体外で導入する第1工程と、
形質転換細胞を選択する第2工程と、
選択された形質転換細胞の中から哺乳類人工染色体を保有する細胞を選択する第3工程と、
選択された細胞と、微小核形成能を有する哺乳類細胞とを生体外で融合させる第4工程と、
融合細胞の中から、微小核形成能を有し、かつ前記哺乳類人工染色体を保有するハイブリッド細胞を選択する第5工程と、及び
選択されたハイブリッド細胞から微小核を形成させる第6工程と、
を含み、
前記哺乳類セントロメア配列は、以下の配列が規則的間隔で複数個配列される領域を含む、哺乳類人工染色体を含有する微小核体の作製方法、
5'-NTTCGNNNNANNCGGGN-3':配列番号1(但し、NはA,T,C,及びGのいずれかである)。
【請求項25】
請求項23又は24に記載の作製方法によって得られる微小核体とターゲット細胞としての哺乳類細胞とを生体外で融合させる工程、
を含む、哺乳類人工染色体を保有する哺乳類細胞の作製方法。
【請求項26】
請求項16のいずれか一項に記載の哺乳類人工染色体を保有する宿主細胞から哺乳類人工染色体を分離する工程と、及び
分離された前記哺乳類人工染色体をターゲット細胞としての哺乳類細胞に生体外で導入する工程と、
を含む、哺乳類人工染色体を保有する哺乳類細胞の作製方法。
【請求項27】
請求項16のいずれか一項に記載の哺乳類人工染色体を保有する宿主細胞と、微小核形成能を有する哺乳類細胞と、を生体外で融合させる工程と、
融合細胞の中から、微小核形成能を有し、かつ前記哺乳類人工染色体を保有するハイブリッド細胞を選択する工程と、及び
選択されたハイブリッド細胞から微小核を形成させる工程と、
を含む、哺乳類人工染色体を含有する微小核体の作製方法。
【請求項28】
請求項27に記載の作製方法によって得られる微小核体とターゲット細胞としての哺乳類細胞とを生体外で融合させる工程、
を含む、哺乳類人工染色体を保有する哺乳類細胞の作製方法。
【請求項29】
前記ターゲット細胞としての哺乳類細胞は、胚性幹細胞、胚性生殖細胞、又は組織幹細胞である、請求項2021222526及び28のいずれか一項に記載の哺乳類細胞の作製方法。
【請求項30】
前記ターゲット細胞としての哺乳類細胞は、胚性幹細胞、胚性生殖細胞、又は組織幹細胞を、特定の組織の細胞へと分化するように誘導してなる細胞である、請求項2021222526及び28のいずれか一項に記載の哺乳類細胞の作製方法。
【請求項31】
前記ターゲット細胞としての哺乳類細胞は、哺乳類の受精卵である、請求項2021222526及び28のいずれか一項に記載の哺乳類細胞の作製方法。
【請求項32】
請求項又は10に記載の哺乳類人工染色体が導入されてなる、非ヒト形質転換動物。
【請求項33】
請求項又は10に記載の哺乳類人工染色体が導入されてなる、XO型マウス胚性幹細胞。
【請求項34】
請求項又は10に記載の哺乳類人工染色体が導入されてなる、メスキメラマウス。
発明の詳細な説明 【技術分野】

本発明は哺乳類人工染色体に関する。詳しくは、哺乳類人工染色体の作製方法、哺乳類人工染色体、及び哺乳類人工染色体の利用に関する。本発明において提供される哺乳類人工染色体は、例えば所望の遺伝子を哺乳類細胞内へと運搬するためのベクターとして遺伝子治療、細胞、組織、又は哺乳類個体の形質転換等に利用することができる。
【背景技術】

有糸分裂において安定して維持されるヒト人工染色体(HAC(s))は数メガbpのサイズを有し、そしていくつものCENP-Bボックスを有する線状(YAC)又は環状(BAC又はPAC)であり、数10キロベースのヒトαサテライト(アルフォイド)を含む前駆体DNAコンストラクトの導入によってヒト線維芽細胞株HT1080内でしばしばde novoに形成される(Ikeno et al.1998;Henning et al.1999;Ebersole et al.2000)。そのようなHAC上には必須キネトコアタンパク質が検出されるので、導入されたアルファサテライトアレイは真のヒト染色体におけるものに類似した活性型セントロメア/キネトコア構造をde novoに組み立てることができる(Ikeno et al.1994;Ikeno et al.1998;Henning et al.1999;Ebersole et al.2000;Ando et al.2002)。HACは細胞内タンパク因子を利用して細胞周期ごとに複製されるので、HACはアルフォイド配列内に一つ又は複数の複製起点も有する。テロメア配列を有するアルフォイドYACから調製された線状のHACはその末端に機能的テロメア構造を獲得したが、BAC又はPACから調製された環状のHACはテロメア構造を有していなかった(Ikeno et al.1998;Ebersole et al.2000)。
遺伝子療法によるヒト疾患の治療は取り組む価値があり且つ将来有望な分野である。我々は、欠損ヒト遺伝子の修復やそれらの機能又は制御機構を詳細に特徴付けることに利用し得る数万もの遺伝子を手にしているが、効率的な遺伝子輸送技術の開発には依然として大きな障害が存在する。哺乳動物細胞用として現在利用可能なベクターはそのほとんどが小さなウイルス由来である(Mineta et al.1995;Fisher et al.1997;Pfeiter & Verna 2001)。これらのベクターは所望の遺伝子(導入遺伝子)を高い効率で遺伝子導入できるという利点を有するものの、そのクローニング許容サイズは限られている。これらのベクターは小さすぎるために組織特異的制御領域を含む長いゲノム断片を挿入することができない。さらには、導入遺伝子はたいていの場合、宿主細胞の染色体内へのランダムインテグレーションの後に限って安定して維持され、そのような場合の遺伝子発現は通常予測不可能であって(ほとんどの場合は抑制される)、導入遺伝子の真の制御領域による制御は行われない。更に悪いことには、このような導入遺伝子を組み込むステップは好ましくない突然変異(ミュータジェネシス)を伴うことがある。
一方HACは、制御領域を含み、100kbを越える大きさのDNAからなる大きな導入遺伝子を保持する能力を備える。導入遺伝子を含むHACは、導入遺伝子及びアルフォイド配列の両者を有する前駆コンストラクトから(Mejia et al.2001)、又はアルフォイド配列と導入遺伝子をそれぞれ別個に有した前駆コンストラクトからde novoに形成され得る(Grimes et al.2001)。したがって、HACは治療用途におけるベクターとしてだけでなく、大きなゲノム断片を用いることによってはじめて可能となる、組織又は器官特異的な遺伝子発現制御を解析するモデルシステムとしても利用できると考えられる。
【図面の簡単な説明】

図1は、形質転換株内におけるコトランスフェクトBACの運命についてまとめた表である。GCH1-BACに加えてCMV/α100BAC又はSV/α50BACを用いたコトランスフェクションによって得られたBS耐性細胞株をFISHで解析した結果が示される。「HAC上」は、α21-IアルフォイドDNAプローブとBACベクタープローブの両方で検出された人工染色体を保有する細胞株を示す。これらの細胞株のメタフェイズ・スプレッドの95%以上においてそれぞれ一つのHACが検出された。残りの細胞では、導入されたBACはHT1080の染色体に組込まれたか(染色体上)、又はFISH解析においてシグナルが検出できなかった(検出されず)。「GCHを保有するHAC」は、GCH1遺伝子のシグナルが認められたHACを保有する細胞株を示す。
図2は、HAC保有細胞株におけるGCH1活性の測定結果をまとめた表である。IFN-γ誘導の存在下、及び非存在下においてHT/GCH2-10、HT/GCH5-18及びHT1080細胞におけるGCH1活性を測定した結果が示される。表中の各データはこれら三つの独立した実験から得られた平均値±標準偏差で表されている。
図3は、アルフォイドBAC及びGCH1-BACのコンストラクトを示す図である。CMV/α100 BACは、BACベクター内にヒト21番染色体由来の100kbのα21-Iアルフォイド配列、及び哺乳類細胞を選択するためのCMV-Bsd(アスペルギルス・テレウス(Aspergillus terreus)由来のBlasticidinSデアミナーゼ遺伝子)選択マーカーを含む。SV/α50BACは、50kbのα21-Iアルフォイド配列、及びSV2-Bsr(バチルス・セレウス(Bacillus cereus)由来のBlasticidinSデアミナーゼ遺伝子)選択マーカーを含む。GCH1-BACはGCH1遺伝子を含む180kbのゲノムDNA断片を含む。FISH解析用、サザン解析用、及びGCH1遺伝子のエクソン(1~6)用のプローブとして使用された領域は、それぞれハッチングを施したボックス、黒塗りのボックス、及び白抜きのボックスで表される。BACベクターはE.coli内での選択のためのクロラムフェニコール耐性遺伝子(Cm)を含む。
図4は、HAC上のGCH1シグナルを検出するためのFISH解析の結果を示す図である。HT/GCH2-10細胞株(CMV/α100BACとGCH1-BACのコトランスフェクションによって形成された)、及びHT/GCH5-18(SV/α50BACとGCH1-BACのコトランスフェクションによって形成された)にGCH1エクソン1プローブ(緑)及びBACベクタープローブ(赤)を(左欄)、又はGCH1エクソン456(緑)及びGCH1エクソン1(赤)を(右欄)ハイブリダイズさせている。矢じりはHACを示す。
図5は、GCH1-HACの構造解析の結果を示す図である。HAC内のGCH1遺伝子を制限酵素分析した結果が示される。HT/GCH2-10、HT/GCH5-18、及びトランスフェクションを行っていないHT1080から調製したゲノムDNAをBamHI(A)又はStuI(B)で消化し、常法的なゲル電気泳動で分画した。内在性GCH1遺伝子座及びGCH1-BACを使用した場合に、USプローブ(A)及びエクソン6プローブ(B)によって検出されるBamHI断片及びStuI断片の予想されるサイズが上段に示される。
図6は、ドットハイブリダイゼーションによるHAC内のGCH1-BAC及びアルフォイドBACのコピー数の推定に用いたグラフ図である。左欄はGCH1エクソン6プローブで得られた強度値である。GCH1-BAC(0.4,0.2,0.1ng)の入力DNAと、HT1080、HT/GCH2-10及びHT/GCH5-18からそれぞれ調製したゲノムDNA(1.0,0.5μg)とをGCH1エクソン6プローブとハイブリダイズさせた。0.1ngのGCH1-BAC DNAの強度値を基準値として使用した。右欄はBACベクタープローブで得られた強度値である。GCH1-BAC(0.5,0.1,0.05ng)と、HT1080、HT/GCH2-10及びHT/GCH5-18からそれぞれ調製したのゲノムDNA(0.5,0.25μg)とをBACベクタープローブとハイブリダイズさせた。各プローブで得られたシグナル強度はフジ・イメージアナライザーBAS1000を使用して決定した。
図7は、HAC保有細胞株とマウスA9細胞との細胞融合によって得られたハイブリッド細胞をFISH解析した結果を示す図である。HT/GCH5-18細胞株をPEGを利用してA9細胞と融合させた。BS耐性及びウワバイン耐性の細胞株をFISHで解析した。メタフェイズ・スプレッドをBACベクタープローブ(赤)及びAlu反復配列プローブ(緑)と(A)、又はBACベクタープローブ(緑)及びマウス・マイナーサテライトプローブ(赤)と(B)ハイブリダイズさせた。矢印はHACを示す。
図8は、HACを移入したES細胞をFISH解析した結果を示す図である。AはアルフォイドDNA及びBACベクターをプローブとして検出した結果であり、BはGCH1のエクソン1領域及びBACベクターをプローブとして検出した結果であり、CはマウスマイナーサテライトDNAとBACベクターをプローブとして検出した結果である。
図9は、ES細胞中でのHACの安定性を解析した結果を示す図である。黒塗りのボックスはブラストサイジンS存在下(bs+)で培養した場合におけるHAC保有細胞の割合であり、白抜きのボックスはブラストサイジンS非存在下(bs-)で培養した場合におけるHAC保有細胞割合である。
図10(A)は、A201F4.3(1レーン及び2レーン)及び7c5hTEL(3レーン及び4レーン)をPEGEで分析した結果を示す図である。宿主の染色体に加えて150kb又は100kbにグロビン又はアルフォイドYACが存在するのが認められる(1レーン及び3レーン)。YACを精製、濃縮し(2レーン及び4レーン)、混合したYAC(5レーン)をHT1080細胞に導入した。図中のMは分子量マーカーを示す。図10(B)は、YACの導入によって得られた形質転換株に対するFISH解析の結果を示す図である。形質転換株に認められたミニ染色体が矢印で示される(上段)。また、YACの腕部(緑色:矢じり)とアルフォイド(赤色:矢印)のシグナルが存在する(下段)。DAPIで染色している(青色)。
図11は、ミニ染色体を保有する形質転換株に対するFISH解析の結果を示す図である。プローブとしてYACの腕部(緑色、矢じり)及びアルフォイド(赤色、矢印)を用いた結果(左上)、同図下段に示されるβグロビンのA(緑、矢じり)及びアルフォイド(赤、矢印)を用いた結果(右上)、βグロビンのB(緑、矢じり)及びアルフォイド(赤、矢印)を用いた結果(左下)、βグロビンのC(緑、矢じり)及びアルフォイド(赤、矢印)を用いた結果(右下)である。
図12は、ミニ染色体を保有する形質転換株である二つのクローン(C11及びC29)に対してヒトβグロビンプローブ(配列番号5、配列番号6、及び配列番号9)又はテロメア反復配列(配列番号8の配列が繰り返されてなる約500bpの配列)をプローブとして行ったFISH解析の結果を示す図である。青、緑、赤はそれぞれDAPI、ヒトβグロビン、テロメアのシグナルである。
図13は、A9細胞とミニ染色体保有細胞の融合により得られた形質転換細胞のFISH解析結果を示す図である。左上欄はDAPI(青)による染色結果、右上欄はヒトβグロビンプローブ(配列番号5、配列番号6、及び配列番号9の混合)によるシグナル(緑)を検出した結果、左下欄はアルフォイドプローブ(配列番号3)によるシグナル(赤)を検出した結果、右下欄はこれらを重ね合わせたものである。アルフォイドのシグナルはミニ染色体にのみ認められる。
図14は、ミニ染色体のファイバーFISH解析の結果を示す図である。上段はβグロビンプローブ(配列番号5、配列番号6、及び配列番号9の混合)を用いた結果、中段はアルフォイドプローブ(配列番号3)を用いた結果、下段は以上の二つの結果を重ね合わせたものである。アルフォイド及びβグロビンの各シグナルはそれぞれ赤及び緑で表される。
図15は、HAC保有細胞におけるグロビン遺伝子の転写量を解析した結果を示す図である。上段はRT-PCR法による解析結果、下段はリアルタイムPCR法による解析結果である。図中の+及びはそれぞれHAC保有及びHAC非保有を表す。
図16(a)は、HAC保有ES細胞株を用いて作出されたキメラマウスを示す図である。図16(b)は、HAC保有ES細胞を導入した胚を移植したマウス(仮親)から自然分娩により得られた仔マウス(生後24時間)の各種臓器由来DNAに対するPCR解析の結果である。TT2はES細胞を、TT2/GCH2-10はHAC保有ES細胞を、brainは脳を、heartは心臓を、thymusは胸腺を、liverは肝臓を、spleenは脾臓を、kidneyは腎臓をそれぞれ表す。また、c1~c15は各個体を表す。図16(c)は、ES細胞を用いて作出したマウス個体に対するFISH解析の結果を示す図である。アルフォイド配列のシグナル及びBACベクターのシグナルが観察される(矢じり)。
図17は、HAC保有のXO核型ES細胞株を用いて作出されたキメラマウスを示す図である。
図18は、哺乳類人工染色体の構築に使用したアクセプター前駆体BAC-LCR-lox71の特徴部分を示す図である。
図19は、ヒトβグロビンLCR及びlox部位を含む前駆体を使用して構築された人工染色体において、EGFP強度を測定した結果の図である。HAC:ヒトβグロビンLCR及びlox部位を含む前駆体を使用して構築された人工染色体、INT1及びINT2:pEGFP-C1を染色体上のランダムな場所に組み込んだ安定株の中から、EGFPの蛍光強度の高い順に選択した二つの細胞株。右下のグラフは、各測定結果をグラフ化したものである。
【発明の開示】

本発明は以上の背景の下なされたものであって、その目的は哺乳類細胞内で遺伝子などの目的とする機能配列を安定的に発現させる技術を提供することである。具体的には、本発明は哺乳類細胞内で安定的に維持され、それが保持する機能配列の発現が効率的に行われる哺乳類人工染色体、その作製方法、及びそれを利用した細胞等の形質転換方法等を提供することを目的とする。
本発明者らは以上の目的に鑑み、哺乳類人工染色体を人工染色体前駆体から形成させる過程で、機能配列としての目的遺伝子を取り込む方法を探用し、目的遺伝子(GCH1遺伝子)が発現可能に保持される哺乳類人工染色体の作製を試みた。即ち、環状ベクターであるBACを人工染色体前駆体として使用し、GCH1遺伝子全体及びその上流制御領域をカバーする約180kbのゲノム領域を保持するBAC(GCH1-BAC)と、ヒトセントロメア配列として約50kb又は約100kbのアルフォイド配列を含むBAC(アルフォイドBAC)をヒト線維芽細胞であるHT1080細胞にコトランスフェクトした。その結果、GCH1遺伝子を複数コピー有するヒト人工染色体(HAC)を構築することに成功し、得られたHACは選択操作を行わなくともヒト細胞及びマウス細胞の両者において安定して維持されることが示された。さらに検討を行ったところ、このHACを有する形質転換株においてGCH1活性の上昇が認められ、また、その活性は染色体上に存在する場合と同様にインターフェロンγの誘導に応答性を示すものであった。即ち、構築されたHACから自然な状態のGCH1遺伝子の発現が確認された。
一方、線状ベクターであるYACを前駆体として使用し、BACの場合と同様の方法でヒトβグロビン遺伝子群全領域を保持するヒト人工染色体の構築に成功した。
更に、構築されたHACをマウス胚性幹細胞(ES細胞)に移入することに成功するとともに、得られたES細胞を利用してキメラマウス(HAC保有マウス)の作出にも成功した。このことは、個体レベルでの遺伝子導入ツールとして人工染色体を利用できることが実験的に確認されたという、極めて重要な意味をもつ。また、XY核型に加えてXO核型ES細胞に対してもHACの移入に成功し、さらにそれを用いてHAC保有のメスキメラマウスの作出にも成功した。尚、メスキメラマウスが利用できれば哺乳類人工染色体の伝達が容易になると考えられている。
また、遺伝子挿入部位を備える哺乳類人工染色体を作製する際に、後に導入される遺伝子の発現を促進する目的でインスレーター配列を組み込んで哺乳類人工染色体の構築を行ったことろ、驚くべきことに哺乳類人工染色体への遺伝子導入効率が高くなった。つまり、インスレーター配列を用いることによって、目的遺伝子を保持する哺乳類人工染色体を高効率で作製できることが判明した。
本発明は以上の検討の結果得られた知見に基づいてなされたものであって、以下の構成を提供する。
[1] 哺乳類セントロメア配列を含む環状の第1ベクターと、機能配列を含む環状の第2ベクターと、を哺乳類宿主細胞に導入する第1工程と、
形質転換細胞を選択する第2工程と、及び
選択された形質転換細胞の中から哺乳類人工染色体を保有する細胞を選択する第3工程と、
を含むことを特徴とする哺乳類人工染色体の作製方法。
[2] 哺乳類セントロメア配列及び哺乳類テロメア配列を含む酵母人工染色体からなる第1ベクターと、機能配列を含む酵母人工染色体からなる第2ベクターと、を哺乳類宿主細胞に導入する第1工程と、
形質転換細胞を選択する第2工程と、及び
選択された形質転換細胞の中から哺乳類人工染色体を保有する細胞を選択する第3工程と、
を含むことを特徴とする哺乳類人工染色体の作製方法。
[3] 前記第1ベクターが選択マーカー遺伝子を有し、前記第2工程における形質転換細胞の選択は該選択マーカー遺伝子を利用して行われる、1又は2に記載の作製方法。
[4] 前記哺乳類セントロメア配列は、以下の配列が規則的間隔で複数個配列される領域を含む、1~3のいずれかに記載の作製方法、
5’-NTTCGNNNNANNCGGGN-3’:配列番号1(但し、NはA,T,C,及びGのいずれかである)。
[5] 前記哺乳類セントロメア配列はヒト染色体アルファサテライト領域由来の配列を含む、1~4のいずれかに記載の作製方法。
[6] 前記哺乳類セントロメア配列はヒト21番染色体由来の11量体繰返しユニットを含む、5に記載の作製方法。
[7] 前記哺乳類セントロメア配列のサイズは約50kb以下である、1~6のいずれかに記載の作製方法。
[8] 前記機能配列が目的遺伝子及びその制御領域をコードする配列からなる、1~7のいずれかに記載の作製方法。
[9] 前記目的遺伝子はハウスキーピング遺伝子以外の遺伝子である、8に記載の作製方法。
[10] 前記目的遺伝子はヒトグアノシン三リン酸シクロヒドロラーゼlの構造遺伝子である、8に記載の作製方法。
[11] 前記機能配列はヒトβグロビン遺伝子群全領域をコードする配列である、8に記載の作製方法。
[12] 前記機能配列は、所望の配列を特異的に挿入するための挿入用配列からなる、1~7のいずれかに記載の作製方法。
[13] 前記挿入用配列がloXPサイト若しくはFRTサイト又はこれらいずれかの配列の一部を改変した配列であって、前記所望の配列を挿入する機能を有する配列である、12に記載の作製方法。
[14] 前記第1工程において導入する、前記第1ベクターと前記第2ベクターの量比はモル比で約10:1~約1:10の範囲にある、1~13のいずれかに記載の作製方法。
[15] 前記第2ベクターとして、それに含まれる機能配列が互いに異なる複数のベクターが使用される、1~14のいずれかに記載の作製方法。
[16] 前記第2ベクターがインスレーター配列をさらに含む、1~15のいずれかに記載の作製方法。
[17] 1~16のいずれかに記載の作製方法によって得られ、
哺乳類複製起点、哺乳類セントロメア配列、及び機能配列を有し、
環状であって、哺乳類細胞中で複製され、宿主細胞の染色体外に維持され、及び細胞分裂の際に娘細胞に伝達される哺乳類人工染色体。
[18] 1~16のいずれかに記載の作製方法によって得られ、
哺乳類複製起点、哺乳類セントロメア配列、哺乳類テロメア配列、並びに目的遺伝子及びその制御領域をコードする機能配列を有し、
線状であって、哺乳類細胞中で複製され、宿主細胞の染色体外に維持され、及び細胞分裂の際に娘細胞に伝達される哺乳類人工染色体。
[19] 哺乳類複製起点、哺乳類セントロメア配列、並びに目的遺伝子(ハウスキーピング遺伝子を除く)及びその制御領域をコードする機能配列を有し、
環状であって、哺乳類細胞中で複製され、宿主細胞の染色体外に維持され、及び細胞分裂の際に娘細胞に伝達される哺乳類人工染色体。
[20] 前記目的遺伝子はヒトグアノシン三リン酸シクロヒドロラーゼlの構造遺伝子である、19に記載の哺乳類人工染色体。
[21] 哺乳類複製起点、哺乳類セントロメア配列、哺乳類テロメア配列、並びに目的遺伝子(ハウスキーピング遺伝子を除く)及びその制御領域をコードする機能配列を有し、
線状であって、哺乳類細胞中で複製され、宿主細胞の染色体外に維持され、及び細胞分裂の際に娘細胞に伝達される哺乳類人工染色体。
[22] 前記機能配列はヒトβグロビン遺伝子群全領域からなる、21に記載の哺乳類人工染色体。
[23] 哺乳類複製起点、哺乳類セントロメア配列、及び所望の配列を特異的に挿入するための挿入用配列を有し、
環状であって、哺乳類細胞中で複製され、宿主細胞の染色体外に維持され、及び細胞分裂の際に娘細胞に伝達される哺乳類人工染色体。
[24] 哺乳類複製起点、哺乳類セントロメア配列、哺乳類テロメア配列、及び所望の配列を特異的に挿入するための挿入用配列を有し、
線状であって、哺乳類細胞中で複製され、宿主細胞の染色体外に維持され、及び細胞分裂の際に娘細胞に伝達される哺乳類人工染色体。
[25] 前記挿入用配列がloxPサイト若しくはFRTサイト又はこれらいずれかの配列の一部を改変した配列であって、前記所望の配列を挿入する機能を有する配列である、23又は24に記載の作製の哺乳類人工染色体。
[26] 前記哺乳類セントロメア配列は、以下の配列が規則的間隔で複数個配列される領域を含む、17~25のいずれかに記載の哺乳類人工染色体、
5’-NTTCGNNNNANNCGGGN-3’:配列番号1(但し、NはA,T,C,及びGのいずれかである)。
[27] 前記哺乳類セントロメア配列はヒト染色体アルファサテライト領域由来の配列を含む、17~25のいずれかに記載の哺乳類人工染色体。
[28] 前記哺乳類セントロメア配列はヒト21番染色体由来の11量体繰返しユニットを含む、27に記載の哺乳類人工染色体。
[29] 前記機能配列又は前記挿入用配列を複数個有する、17~28のいずれかに記載の哺乳類人工染色体。
[30] インスレーター配列をさらに含む、17~29のいずれかに記載の哺乳類人工染色体。
[31] 17~30のいずれかに記載の哺乳類人工染色体を自己の染色体外に保有する哺乳類細胞。
[32] 17~30のいずれかに記載の哺乳類人工染色体を自己の染色体外に保有するヒト細胞。
[33] 17~30のいずれかに記載の哺乳類人工染色体を自己の染色体外に保有する胚性幹細胞。
[34] 1~16のいずれかに記載の作製方法によって得られる哺乳類人工染色体又は17~30のいずれかに記載の哺乳類人工染色体をターゲット細胞としての哺乳類細胞に導入する工程を含む、
ことを特徴とする、前記機能配列又は前記挿入用配列が長期間安定して維持可能な状態に導入された哺乳類細胞の作製方法。
[35] 哺乳類セントロメア配列を含む環状の第1ベクターと、機能配列を含む環状の第2ベクターと、を哺乳類宿主細胞に導入する第1工程と、
形質転換細胞を選択する第2工程と、
選択された形質転換細胞の中から、哺乳類人工染色体を保有する細胞を選択する第3工程と、
選択された細胞から前記哺乳類人工染色体を分離する第4工程と、及び
分離された前記哺乳類人工染色体をターゲット細胞としての哺乳類細胞に導入する第5工程と、
を含む、哺乳類人工染色体を保有する哺乳類細胞の作製方法。
[36] 哺乳類セントロメア配列及び哺乳類テロメア配列を含む酵母人工染色体からなる第1ベクターと、機能配列を含む酵母人工染色体からなる第2ベクターと、を哺乳類宿主細胞に導入する第1工程と、
形質転換細胞を選択する第2工程と、
選択された形質転換細胞の中から哺乳類人工染色体を保有する細胞を選択する第3工程と、
選択された細胞から前記哺乳類人工染色体を分離する第4工程と、及び
分離された前記哺乳類人工染色体をターゲット細胞としての哺乳類細胞に導入する第5工程と、
を含む、哺乳類人工染色体を保有する哺乳類細胞の作製方法。
[37] 哺乳類セントロメア配列を含む環状の第1ベクターと、機能配列を含む環状の第2ベクターと、を哺乳類宿主細胞に導入する第1工程と、
形質転換細胞を選択する第2工程と、
選択された形質転換細胞の中から、哺乳類人工染色体を保有する細胞を選択する第3工程と、
選択された細胞と、微小核形成能を有する哺乳類細胞とを融合させる第4工程と、
融合細胞の中から、微小核形成能を有し、かつ前記哺乳類人工染色体を保有するハイブリッド細胞を選択する第5工程と、及び
選択されたハイブリッド細胞から微小核を形成させる第6工程と、
を含む、哺乳類人工染色体を含有する微小核体の作製方法。
[38] 哺乳類セントロメア配列及び哺乳類テロメア配列を含む酵母人工染色体からなる第1ベクターと、機能配列を含む酵母人工染色体からなる第2ベクターと、を哺乳類宿主細胞に導入する第1工程と、
形質転換細胞を選択する第2工程と、
選択された形質転換細胞の中から哺乳類人工染色体を保有する細胞を選択する第3工程と、
選択された細胞と、微小核形成能を有する哺乳類細胞とを融合させる第4工程と、
融合細胞の中から、微小核形成能を有し、かつ前記哺乳類人工染色体を保有するハイブリッド細胞を選択する第5工程と、及び
選択されたハイブリッド細胞から微小核を形成させる第6工程と、
を含む、哺乳類人工染色体を含有する微小核体の作製方法。
[39] 37又は38に記載の作製方法によって得られる微小核体とターゲット細胞としての哺乳類細胞とを融合させる工程、
を含む、哺乳類人工染色体を保有する哺乳類細胞の作製方法。
[40] 17~30のいずれかに記載の哺乳類人工染色体を保有する宿主細胞から哺乳類人工染色体を分離する工程と、及び
分離された前記哺乳類人工染色体をターゲット細胞としての哺乳類細胞に導入する工程と、
を含む、哺乳類人工染色体を保有する哺乳類細胞の作製方法。
[41] 17~30のいずれかに記載の哺乳類人工染色体を保有する宿主細胞と、微小核形成能を有する哺乳類細胞と、を融合させる工程と、
融合細胞の中から、微小核形成能を有し、かつ前記哺乳類人工染色体を保有するハイブリッド細胞を選択する工程と、及び
選択されたハイブリッド細胞から微小核を形成させる工程と、
を含む、哺乳類人工染色体を含有する微小核体の作製方法。
[42] 41に記載の作製方法によって得られる微小核体とターゲット細胞としての哺乳類細胞とを融合させる工程、
を含む、哺乳類人工染色体を保有する哺乳類細胞の作製方法。
[43] 前記ターゲット細胞としての哺乳類細胞は、胚性幹細胞、胚性生殖細胞、又は組織幹細胞である、34、35、36、39、40、及び42のいずれかに記載の哺乳類細胞の作製方法。
[44] 前記ターゲット細胞としての哺乳類細胞は、胚性幹細胞、胚性生殖細胞、又は組織幹細胞を、特定の組織の細胞へと分化するように誘導してなる細胞である、34、35、36、39、40、及び42のいずれかに記載の哺乳類細胞の作製方法。
[45] 前記ターゲット細胞としての哺乳類細胞は、哺乳類の受精卵である、34、35、36、39、40、及び42のいずれかに記載の哺乳類細胞の作製方法。
[46] 哺乳類人工染色体の作製に使用されるベクターであって、
サイズが約50kb以下の哺乳類セントロメア配列、及び選択マーカー遺伝子を含むベクター。
[47] 前記哺乳類セントロメア配列は、以下の配列が規則的間隔で複数個配列される領域を含む、46に記載のベクター、
5’-NTTCGNNNNANNCGGGN-3’:配列番号1(但し、NはA,T,C,及びGのいずれかである)。
[48] 前記哺乳類セントロメア配列はヒト染色体アルファサテライト領域由来の配列を含む、46又は47に記載のベクター。
[49] 前記哺乳類セントロメア配列はヒト21番染色体由来の11量体繰返しユニットを含む、48に記載のベクター。
[50] 哺乳類人工染色体の作製に使用されるベクターであって、
loxPサイト若しくはFRTサイト又はこれらいずれかの配列の一部を改変した配列であって、前記所望の配列を挿入する機能を有する配列と、
インスレーター配列と、を含むベクター。
[51] 哺乳類人工染色体が導入されてなる、非ヒト形質転換動物。
[52] 前記哺乳類人工染色体が、17~19のいずれかに記載の哺乳類人工染色体である、51に記載の非ヒト形質転換動物。
[53] 哺乳類人工染色体が導入されてなる、XO型マウス胚性幹細胞。
[54] 前記哺乳類人工染色体が、17~19のいずれかに記載の哺乳類人工染色体である、53に記載のXO型マウス胚性幹細胞。
[55] 哺乳類人工染色体が導入されてなる、メスキメラマウス。
[56] 前記哺乳類人工染色体が、17~19のいずれかに記載の哺乳類人工染色体である、55に記載の、メスキメラマウス。
【発明を実施するための最良の形態】

本発明の第1の局面は哺乳類人工染色体(mammalian artificial chromosome)の作製方法に関し、環状ベクターを前駆体として用いる方法と線状ベクターを前駆体として用いる方法を包含する。尚、以下の説明において哺乳類人工染色体をMACともよび、これにはヒト人工染色体(human artificial chromosome;以下、「HAC」ともいう)が含まれる。
(哺乳類人工染色体の前駆体としてのベクター)
本発明では哺乳類人工染色体(MAC)前駆体として第1ベクター(環状ベクター又は酵母人工染色体)と第2ベクター(環状ベクター又は酵母人工染色体)が用いられる。第1ベクターは哺乳類セントロメア配列を含み、MACの複製及び安定的な維持に必要なセントロメアを供給し、他方、第2ベクターは機能配列を含み、MACに組込まれる機能配列の供給源となる。それに含まれる機能配列が互いに異なる複数種類の第2ベクターを使用することもできる。即ち、例えば第1ベクターと、それに含まれる機能配列が異なるベクターを2種類使用して本発明のMACを作製することができる。このように複数種類の第2ベクターを使用すれば、複数の機能配列が発現可能に保持されたMACを構築することが可能となる。このことは例えば、協同的に作用する複数の遺伝子などを同時に導入するためのツールとして本発明のMACを利用できることを意味する。
第1ベクター及び第2ベクターとして環状ベクター又は線状ベクターが使用される。環状ベクターとしては細菌(大腸菌など)において自律複製できるBAC(bacterial artificial chromosome)又はPAC(P1 artificial chromosome)を用いることができる。BAC又はPACを使用することは、導入操作、増幅、維持などの取り扱いが容易であり、また様々な種類のものを入手可能であるといった利点を有する。
本発明で使用される環状ベクターは公知のBAC又はPACに必要な改変を施すことにより構築され得る。例えば、Belo-BAC(New England Biolabs inc.,Beverly,MA 01915-5599)を出発材料として、これに制限酵素処理等によって哺乳類セントロメア配列の挿入部位を作製し、この挿入部位に別途用意した哺乳類セントロメア配列を挿入することにより、哺乳類セントロメア配列を含む環状ベクター(第1ベクター)を構築することができる。一方、機能配列を含むベクター(第2ベクター)は、そのクローンを含むライブラリーが提供されている場合には当該ライブラリーから調製することができる。勿論のこと、第1ベクターと同様に、公知のベクターに遺伝子工学的手法を用いて第2のベクターを作製してもよい。
線状ベクターとしては酵母内で染色体として機能するDNAコンストラクト(酵母人工染色体、以下、「YAC」ともいう)が使用される。この場合の第1ベクターは哺乳類セントロメア配列、哺乳類テロメア配列を少なくとも含む。ここで、「哺乳類テロメア」とは哺乳類の染色体のテロメア領域に存在する繰り返し配列をいう。ヒトテロメアは5’-TTAGGG-3’が繰り返されて構成されており、ヒト人工染色体(HAC)を作製する場合にはこの配列の繰り返しを含んでいるセントロメア配列を用いることが好ましい。
第1ベクター及び/又は第2ベクターが選択マーカー遺伝子を含んでいることが好ましい。これらのベクターを用いてトランスフォーメーション(トランスフェクション)を行った際に、選択マーカー遺伝子を利用して形質転換細胞を容易に選択することが可能となるからである。いずれかのベクターのみが選択マーカー遺伝子を含んでいることがさらに好ましい。選択マーカーの使用数を削減することにより、MACの作製あるいはその利用の過程において必要な各選択操作がより簡便化されるからである。
さらに、第1ベクターのみが選択マーカー遺伝子を含んでいることが特に好ましい。かかる構成によれば、選択マーカー遺伝子を利用して哺乳類セントロメア配列が適切に導入された形質転換細胞を選択することができ、即ち染色体として機能するDNAコンストラクトを保有する可能性の高い形質転換細胞を効率的に選択することが可能となる。その一方で、機能配列を含むベクター(第2ベクター)に選択マーカーを挿入する必要がなくなることから、選択マーカー遺伝子を含まないクローンの集合からなる市販のライブラリーから調製したベクターをそのままの状態で(即ち、選択マーカー遺伝子を挿入する操作を経ることなく)第2ベクターとして使用できるという利点も有する。加えて、第2ベクターが選択マーカー遺伝子を含む必要がないことは、その分だけ第2ベクターに挿入できるインサートDNAのサイズに余裕ができ、結果としてより大きなサイズの機能配列を保持するMACの構築が可能となる。
(哺乳類セントロメア配列)
本発明において「哺乳類セントロメア配列」とは、哺乳類細胞内においてセントロメアとして機能する配列をいう。哺乳類セントロメア配列としては、例えばヒト染色体のアルファサテライト領域由来の配列を用いることができる。ここでの「アルファサテライト領域由来の配列」とはアルファサテライト領域の一部又は全部の配列、又はこれらいずれかの配列の一部に改変を施した配列を意味する。ここでの「一部に改変」とは、対象となる配列において1若しくは複数の塩基を置換、欠失、挿入、及び/又は付加することをいう。このような改変は複数の領域になされていてもよい。
ヒト染色体のアルファサテライト領域には一般に、5’-NTTCGNNNNANNCGGGN-3’(配列番号1)からなるCENP-B boxと呼ばれる配列が規則的間隔で複数個配置されている(Masumoto et al.NATO ASI Series.vol.H72,Springer-Verlag.pp31-43,1993;Yoda et al.Mol.Cell.Biol.,16,5169-5177,1996)。本発明における哺乳類セントロメア配列は、好ましくはこのCENP-B boxを高頻度に有する領域を含んでいる。
ヒト21番染色体のアルファサテライト領域由来の配列を用いることが好ましい。ヒト21番染色体のアルファサテライト領域については詳細な検討がされておりα21-Iと呼ばれる領域が存在する。α21-I領域はアルフォイド11量体繰り返しユニットと呼ばれる配列を備え、この繰り返しユニットでは5’-NTTCGTTGGAAACGGGA-3’(配列番号2)なるCENP-B boxが規則的間隔で複数個配置されている(Ikeno et al.Human Mol.Genet.,3,1245-1247,1994)。
好ましくは、本発明における哺乳類セントロメア配列はこのようなアルフォイド11量体繰り返しユニットを複数有する。ヒト21番染色体のアルフォイド領域から分離され、同定された配列を配列番号3(約25kbのアルフォイド断片)に示す。
セントロメア配列は、構築された哺乳類人工染色体において適切な機能を有するセントロメアが形成されるのに十分な長さを有する。例えば約25kb~約150kbのサイズ(例えば約50kb、約80kb、約100kb)のセントロメア配列を用いる。好ましくは約80kb以下、さらに好ましくは約50kb以下のセントロメア配列を用いる。サイズの小さなセントロメア配列を用いることは、これを含む第1ベクターの分離、精製などの操作を容易とし、またクローニング及び/又は増殖時に生じ得る脱落、改変などの確率を低下させる。ここで、後述の実施例で示されるように、環状ベクター(BAC)を用いた例において約50kbのアルフォイドDNAをセントロメア配列として用いた場合においてもセントロメア/キネトコア構造を適切に形成可能な人工染色体が構築されることが確認されている。同様に、線状ベクター(酵母人工染色体)を用いた例において約80kbのアルフォイドDNAをセントロメア配列として用いた場合においてもセントロメア/キネトコア構造を適切に形成可能な人工染色体が構築されることが確認されている。
哺乳類セントロメア配列は、適当なヒト細胞や、WAV17等のヒト染色体を保有する融合細胞、又はヒト以外の哺乳類細胞から調製され得る。例えば、これらの中のいずれかの細胞をアガロースプラグとして固定した後、制限酵素処理、パルスフィードゲル電気泳動(以下、「PEGE」ともいう)等によって目的のセントロメア配列を含むDNA断片を精製、濃縮する。その後、適当なベクターにクローニングし、使用に供する。
一方、哺乳類セントロメア配列を保有するクローンを含むライブラリーを利用できる場合には、これから適宜制限酵素処理等を用いて哺乳類セントロメア配列を取得することができる。たとえば、LL21NC02ライブラリー(Lawrence Livermore Laboratory)を利用してα21-Iアルフォイド断片を取得し、この断片を哺乳類セントロメア配列として使用することができる。この場合、取得したα21-Iアルフォイド断片を複数用いて哺乳類セントロメア配列を構築してもよい。さらには、互いに大きさの異なるα21-Iアルフォイド断片を複数取得し、これらを組合わせて哺乳類セントロメア配列を構築してもよい。
(哺乳類複製起点)
一般に哺乳類セントロメア配列内には一つ以上の複製起点が存在する。従って、通常、哺乳類セントロメア配列を含む第1ベクターには哺乳類複製起点が含まれる。使用する哺乳類セントロメア配列が哺乳類複製起点を含んでいない場合には、別途、哺乳類複製起点を第1ベクター又は第2ベクターに含有させる。但し、第2ベクターが保持する機能配列が既に哺乳類複製起点を含んでいる場合にはこの限りでない。
(機能配列)
機能配列はそれが発現することによって特定の作用が奏される配列をいい、典型的には目的遺伝子及びその制御領域をコードする配列からなる。本発明の機能配列として、それが発現することによって特定の遺伝子発現の抑制や特定のRNAの働きを抑制する等の機能を有する配列、例えばいわゆるアンチセンスRNAやリボザイムRNA等をコードする配列を用いることもできる。
目的遺伝子としては種々の遺伝子を採用することができ、ヒトグアノシン三リン酸シクロヒドロラーゼl(GCH1)遺伝子、ヒトβグロビン遺伝子群、RBやp53などの癌抑制遺伝子、c-mycやp53などのアポトーシス誘導遺伝子、サイトカイン、各種増殖因子、抗体、腫瘍抗原等をコードする遺伝子等をその例として挙げることができる。目的遺伝子をコードする配列はゲノムDNAであってもcDNAであってもよい。
機能配列として、複数の目的遺伝子をコードする配列を含むものを用いることができる。このような配列としては、複数のタンパク質が相互作用して特定の効果が得られる場合において当該複数のタンパク質に対応する塩基配列を含むものや、一連の反応系に必要な複数の酵素に対応する塩基配列を含むものを例示することができる。このような場合には、各発現産物に対応する配列ごとにその発現を制御する配列を使用することも可能であるが、全ての発現産物或は一部(二つ以上)の発現産物の発現を一括して制御することが可能な配列を使用してもよい。例えば、複数の発現産物に対応する配列を一つのプロモーター配列の制御下に配置して構成したコンストラクトを使用することができる。
目的遺伝子の配列は例えば公知のライブラリーから調製することができる。目的遺伝子(及びその制御領域)の配列を含むベクタークローンからなるライブラリーを利用可能な場合には、これから調製される目的遺伝子(及びその制御領域)の配列を含むベクターを本発明の第2ベクター(又はその作製材料)として用いることもできる。例えば、CITB(California Institute of Technology)Human BAC Libraries、RPCI-11(Roswell Park Cancer Institute)Human BAC Library(Keio Univercity)、CITB Mouse BAC Library、RPCI-22 Mouse BAC LibraryなどのBACライブラリーや、RPCI Human PAC Libraries、RPCI-21 Mouse PAC LibraryなどのPACライブラリー、又はCEPH Human YAC Library、Washington University Human YAC library、WI/MIT 820 YAC Library、Whitehead I Mouse YAC LibraryなどのYACライブラリー(以上、Reseach Genetics社、2130 Memorial Parkway SW,Huntsville,AL 35801,US)を利用することができる。
本発明ではクローニング許容サイズの大きなベクターを使用することから、構造遺伝子に加えてその制御領域を含む大きなサイズのDNA断片を機能配列として用いることができる。ここでの制御領域は、原則的には目的遺伝子自身の制御配列(染色体で目的遺伝子の制御に直接関与している領域の配列)を意味するが、その機能が維持される限度においてこれに一部の改変を施した配列であってもよい。ここでの「一部の改変」とは、対象となる配列において1若しくは複数の塩基を置換、欠失、挿入、及び/又は付加することをいう。このような改変は複数の領域になされていてもよい。
所望の配列を特異的に挿入するための配列(本発明において、「挿入用配列」という)を機能配列として含む第2ベクターを用いることができる。このような第2ベクターを用いれば所望の配列を後から挿入可能な、汎用的な哺乳類人工染色体(MAC)を構築することができる。ここでの所望の配列とは、典型的には所望の遺伝子をコードする配列(好ましくは併せてその制御領域コードする配列を含む配列)であるがこれに限定されるものではなく、それが発現することによって特定の遺伝子発現の抑制や特定のRNAの働きを抑制する等の機能を有する配列、例えばいわゆるアンチセンスRNAやリボザイムRNA等をコードする配列であってもよい。
挿入用配列の種類は特に限定されるものではないが、loxPサイト又はFRT(Flp Recombination Target)サイト等を好適に用いることができる。例えばloxPサイトを用いれば、まずloxPサイトを有するMACが作製され、これにCreリコンビナーゼを作用させることによって部位特異的に所望の配列を導入することができ、最終的に所望の配列を含むMACが構築される。同様に、FRTサイトを有するMACを作製した場合にはFlpリコンビナーゼを利用して最終的に所望の配列を含むMACを構築することができる。尚、loxPサイト又はFRTサイト等の一部を改変した配列であっても所望の配列を挿入する機能を有する限りにおいて挿入用配列として使用することができる。改変の例としては、その一部を削除、追加、或は置換などして導入効率を高めたり又は導入反応のみが特異的に行われるようにすることが挙げられる。
哺乳類セントロメア配列を含む第1ベクターと、機能配列としての挿入用配列を含む第2ベクターの使用割合を調整することにより、作製される哺乳類人工染色体内に組込まれる挿入用配列の数を変えることが可能である。また、このような第1ベクターと第2ベクターとの共導入によって哺乳類人工染色体を作製すれば、作製される哺乳類人工染色体においてそのセントロメアから離れた位置(即ちセントロメアに挟まれない位置)に挿入用配列を組込むことが可能であり、適切に機能する挿入配列を保持した哺乳類人工染色体が構築される。
本発明で使用される第2ベクターがインスレーター配列を有していることが好ましい。ここにインスレーター配列とは、エンハンサーブロッキング効果(隣会う遺伝子の発現が互いに影響を受けない)又は染色体バウンダリー効果(遺伝子発現を保証する領域と遺伝子発現が抑制される領域を隔て区別する)を発揮することによって特徴付けられた塩基配列のことをいう。インスレーター配列を使用することによって、哺乳類人工染色体が保持する目的遺伝子の発現が促進されることを期待できる。一方、後述の実施例に示されるように、上記のloxP等の挿入用配列を使用する際にインスレーター配列を併用すれば、哺乳類人工染色体への目的遺伝子の導入効率が高くなることが判明した。このように、インスレーター配列を使用すれば哺乳類人工染色体への遺伝子導入効率を高めるという効果も奏され、効率的且つより確実に、目的遺伝子を保持した哺乳類人工染色体の構築が可能となる。使用できるインスレーター配列は特に限定されず、既にインスレーターとして同定されている配列は勿論のこと、期待される効果(目的遺伝子の発現促進又は遺伝子導入効率の上昇)を減殺しない限度でそれらの配列に改変を加えた配列などを本発明におけるインスレーター配列として用いることができる。複数のインスレーター配列を併用してもよい。複数のインスレーター配列を併用する場合には、一種類のインスレーター配列のみを使用しても、複数種類のインスレーター配列を組み合わせて使用してもよい。尚、これまでにインスレーター配列として、ヒトβグロビンHS1~5、ニワトリβグロビンHS4(chicken β-globin HS4)、ショウジョウバエ・ジプシーレトロトランスポゾン(Drosophila gypsy retrotransposon)、ウニ・アリールスルファターゼ5’フランキング領域(sea urchin 5’flanking region of arylsulfatase)、ヒトT細胞受容体α/δの阻害因子α/δ(blocking element α/δ of human T-cell receptor α/δ)、アフリカツメガエル・40SリボソームRNA遺伝子リピートオーガナイザー(repeatorganizer of Xenopus 40S ribosomal RNA gene)等が知られている。
インスレーター配列を使用する場合に用いられる哺乳類人工染色体前駆体(第2ベクター)の具体例としては、機能配列としてloxP等の挿入用配列を有し、当該挿入用配列の5’側にインスレーター配列を有するものを挙げることができる。
挿入用配列の5’側ではなく3’側にインスレーター配列を配置した哺乳類人工染色体前駆体(第2ベクター)としてもよく、或いは、挿入配列を挟むように両側にインスレーター配列を配置した哺乳類人工染色体前駆体(第2ベクター)としてもよい。さらに、いずれの位置に配置する場合においても、複数のインスレーター配列を連続的に又は他の配列を介在させて配置することとしてもよい。
(宿主細胞)
第1ベクター及び第2ベクターを導入する宿主細胞としては、その中で両ベクター間の組換えが行われるものが使用される。例えばヒト線維芽肉腫細胞株であるHT1080細胞、HeLa細胞、CHO細胞、K-562細胞等を宿主細胞として使用することができる。
(哺乳類染色体の作製方法)
本発明の哺乳類人工染色体(MAC)の作製方法は、(1)哺乳類セントロメア配列を含む第1ベクターと、機能配列を含む第2ベクターと、を哺乳類宿主細胞に導入する第1工程、(2)形質転換細胞を選択する第2工程、及び(3)選択された形質転換細胞の中からMACを保有する細胞を選択する第3工程を含む。
第1工程における第1ベクターと第2ベクターの導入方法は特に限定されるものではないが、これら二つのベクターを同時に哺乳類宿主細胞に導入することが好ましい。哺乳類宿主細胞内でのベクター間の組換えを効率的に行うためである。また、導入操作が簡便化されるからである。二つのベクターを同時に導入するためには、例えば導入操作に先立って両ベクターを混合しておき、そして宿主細胞への導入を行えばよい。
導入に供する第1ベクターと第2ベクターの量比は、機能配列を発現可能に保持したMACが適切に形成されるように、例えば第1ベクター:第2ベクターをモル比で約10:1~約1:10とする。好ましくは第1ベクター:第2ベクターを約1:1とする。ここで、第1ベクターが少な過ぎる場合には活性のあるセントロメアを含むMACが形成されないおそれがあり、他方第2ベクターが少な過ぎる場合にはMACに機能配列が取り込まれないおそれがある。一方で、第2ベクターの量を多くすることで効率的に機能配列を取り込ませ、その結果、機能配列を複数コピー保持するMACが構築されることを期待できる。後述の実施例で示されるように、本発明の作製方法によれば目的遺伝子を複数コピー保持する哺乳類人工染色体の構築に成功している。目的遺伝子を複数コピー有するMACでは必然的に目的遺伝子の発現トータル量が多くなる。従って、本発明のMACを目的遺伝子の導入用ベクターとして使用する場合において、導入細胞内での高い発現効果が得られる。このことは本発明のMACを遺伝子治療用のベクターとして用いる場合に特に有益である。薬剤又は薬剤の候補化合物の作用・効果を評価するための材料として用いる場合においても同様に有益である。
宿主細胞への各ベクターの導入方法は特に限定されず、リポフェクション(Felgner,P.L.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.84,7413-7417(1984))、リン酸カルシウムを利用したトランスフェクション、マイクロインジェクション(Graessmann,M.& Graessmann,A.,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.73,366-370(1976))、エレクトロポーレーション(Potter,H.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.81,7161-7165(1984))等の方法を採用することができる。
宿主細胞内では第1ベクターと第2ベクターとの間で組換えが生じ、その結果として第1ベクター由来のセントロメア配列と第2ベクター由来の機能配列とを備えたMACが形成される。
第1ベクターと第2ベクターを導入した後に形質転換細胞(形質転換体)が選択される(第2工程)。形質転換細胞の選択は、第1ベクター又は第2ベクターに予め挿入しておいた選択マーカー遺伝子を利用してベクター導入後の細胞を選択的に培養することにより行うことができる。尚、両ベクターを導入後の細胞群から任意に細胞を分離した結果、分離した細胞が形質転換細胞である場合における当該分離する操作も本発明にいう「形質転換細胞の選択」に含まれる。
形質転換細胞を選択した後にMACを保有する細胞が選択される(第3工程)。かかる選択操作はMACに特異的なプローブや抗体などを用いた検出法によって行うことができる。具体的には、例えば第1ベクターが含む哺乳類セントロメア配列の少なくとも一部に対して特異的にハイブリダイズするプローブを用いたin situハイブリダイゼーション法によって行うことができる。この工程において第2ベクターが適切に組込まれてMACが形成されていることを確認するために、第2ベクターに特異的な配列(例えば機能配列)の少なくとも一部に対して特異的にハイブリダイズするプローブを用いて同様のハイブリダイゼーション分析を併せて行うことが好ましい。以上において使用される各プローブの検出には蛍光物質、放射性物質などを利用できる。プローブの標識に蛍光物質を用いる方法はFISH(Fluorescence in situ hybridization)法と呼ばれ、安全かつ簡便にMACを検出できる(Lawrence,J.B.et al.Cell 52:51-61,1998;Takahashi,E.et al.Jpn.J.Hum.Genet.34:307-311,1989)。
第3工程に加えて、機能配列が適切に組込まれたMACが形成されていることを確認する工程を行うことが好ましい。かかる確認工程は、例えば機能配列が目的遺伝子を含む場合には当該遺伝子の発現産物を検出することによって行うことができる。
以上の作製方法で得られる哺乳類人工染色体(MAC)は非選択条件下においても極めて安定的に維持される。尚、ここでの「非選択条件」とは、MACが存在する細胞のみの生存を可能にするような選択操作を行わない条件をいう。
使用する前駆体ベクター及び宿主細胞の種類等によっても異なるものと予想されるが、本発明の作製方法によれば宿主細胞へのDNAコンストラクト(第1ベクター及び第2ベクター)の導入操作後、非選択条件下、約30日経過後(約30継代後)に細胞(集団)の約95%以上にMACを保有させることが可能であり、しかもMACが1コピーのみ存在する状態を維持できる(後述の実施例を参照)。
最終的に得られる形質転換細胞(哺乳類細胞)が保有するMACの数は少ないほど好ましく、核あたり一つのMACを保有していることが特に好ましい。本発明の作製方法によれば、効率的に核あたり一つの哺乳類人工染色体を保有する形質転換細胞を得ることが可能である。
本発明の他の局面は、以上の方法によって作製される哺乳類人工染色体(MAC)を保有する形質転換細胞(形質転換体)を提供する。かかる形質転換細胞はMACを他の細胞に移入する際の供給源として利用することができる。また、それ自身を生体に導入するなど、哺乳類人工染色体を生体内に導入するための運搬体として利用することもできる。
(哺乳類人工染色体の性質)
本発明において構築される哺乳類人工染色体(MAC)は以下の性質を備える。即ち、(1)哺乳類複製起点、哺乳類セントロメア配列、及び機能配列(目的遺伝子及びその制御領域をコードする配列又は所望の配列を挿入するための挿入用配列)を有する、(2)哺乳類細胞中で複製される、(3)宿主細胞の染色体外に維持される、(4)細胞分裂の際に娘細胞に伝達される、及び(5)環状又は線状である。MACの形態は、環状ベクター(BAC又はPAC)を前駆体として作製した場合はテロメア配列を含まないために環状となる。他方、線状ベクター(酵母人工染色体)を前駆体として作製した場合は、十分に機能するテロメア配列がその両端に備えられれば線状形態をとり、それ以外の場合には環状形態をとるものと考えられる。尚、哺乳類複製起点は哺乳類セントロメア配列内に存在していてもよい。
以上の諸性質を備えることにより、本発明のMACはそれが導入される哺乳類細胞内で染色体として機能しつつ、細胞分裂の際に実質的な構造変化を伴うことなく娘細胞へと適切に分配されて維持される。
また、本発明のMACでは所望の目的遺伝子をその制御領域とともに保持させることができ、目的遺伝子を導入細胞内で効率よく発現させることができる。尚、後述の実施例で示されるように、目的遺伝子としてGCH1遺伝子を使用した例において、染色体上に存在している場合と同様の発現制御が実現されている。
本発明の哺乳類人工染色体は、哺乳類細胞以外の細胞(例えば酵母細胞、大腸菌などの細菌)で自律的に複製し分配されることを可能にするDNA配列を有していてもよい。このようなDNA配列を有することにより、本発明のMACは哺乳類細胞以外の細胞においても染色体として機能する。従って、本発明のMACをシャトルベクターとして利用し得る。
哺乳類セントロメア配列はCENP-B box配列を含んでいることが好ましい。CENP-B boxを高頻度に有する領域を含んでいることが特に好ましい。さらには、哺乳類セントロメア配列がヒト21番染色体のアルファサテライト領域由来の配列、特にα21-Iアルフォイド領域の配列を含んでいることが好ましい。
後述の実施例に示されるように、本発明者らはBACを前駆体として用いた系においてヒトGCH1(EC 3.5.4.16;GCH1)をコードする約180kbの遺伝子を発現可能に保持するヒト人工染色体(human artificial chromosome:HAC)の作製に成功している。ヒトGCH1遺伝子の一つは染色体上で14q22.1-q22.2に位置し、60kb以上に亘る6個のエクソンから構成される(図1)(Ichinose et al.1995;Hubbard et al.2001)。GCH1は後述の各種酵素反応での必須コファクターであるテトラヒドロビオプテリンの生合成経路における第1段階酵素であり、種々の高等生物に存在している(Nichol et al.1985;Tanaka et al.1989;Werner et al.1990)。テトラヒドロビオプテリンはGCH1、6-ピルボイル-テトラヒドロプテリン合成酵素(EC 4.6.1.10;PTPS)及びセピアプテリン還元酵素(EC 1.1.1.153 SR)による三段階の反応によってGTPから合成される。これらの酵素の中で主要な制御ポイントはGCH1であって、その発現は転写段階においてはサイトカイン誘導の支配下にあり(Werner et al.1993)、翻訳後段階においてはフィードバック制御タンパク質であるGFRPの支配下にある。テトラヒドロビオプテリンは芳香族アミノ酸ヒドロキシラーゼ、即ち、フェニルアラニンヒドロキシラーゼ(EC 1.14.16.2;PAH)、ドーパミン合成における第1段階かつ律速酵素であるチロシンヒドロキシラーゼ(EC 1.14.16.3;TH)、セロトニン生合成に関与するトリプトファン5-ヒドロキシラーゼ(EC 1.14.16.4;TPH)のナチュラル・コファクターとして機能する。テトラヒドロビオプテリンは一酸化窒素合成酵素(NOS)の三つの分子形のすべてに必須でもある(Kaufman 1993)。GCH1活性、テトラヒドロビオプテリンレベル、及び/又はTH活性の低下が黒質線状体(nigrostriatum)ドーパミンニューロンにおけるドーパミン欠乏の原因となり、そして遺伝的ドーパ応答性ジストニー(dopa-responsive dystonia:DRD、セガワ症候群)(Ichinose et al.1994)やパーキンソニズムのようないくつかの有名な臨床的症状を引き起こす。したがって、その真の制御領域を含んだGCH1遺伝子を保持する哺乳類人工染色体はGCH1遺伝子の欠損を修復することに間違いなく有用であって、同時にin vivoにおけるGCH1の複雑な制御メカニズムについての詳細な研究を容易にするであろう。
(哺乳類人工染色体の移入)
哺乳類人工染色体(MAC)の哺乳類細胞への導入は例えば次の方法で行うことができる。
まず、MACを保有する宿主細胞からMACを分離し、分離されたMACを哺乳類細胞(ターゲット細胞)に導入する。MACの分離は、例えば次の方法によって行うことができる。まずMACを保有する宿主細胞の懸濁液を調製し、そして核酸成分を抽出する。その後フィコールなどを用いた密度勾配遠心法によって染色体が含まれる画分を取得する。続いて、フィルター等を用いて分子量の小さい人工染色体を分離する。
分離されたMACを哺乳類細胞へ導入する方法としてはリポフェクション、リン酸カルシウムを利用したトランスフェクション、マイクロインジェクション、エレクトロポーレーションなどから適宜好適な方法を選択することができる。
細胞融合を利用した以下の方法でMACを哺乳類細胞へ導入することもできる。まず、MACを保有する宿主細胞と微小核形成能を有する哺乳類細胞とを融合させ、続いて融合細胞の中から微小核形成能を有し且つMACを保有するハイブリッド細胞(雑種細胞)を選択する。ここで、微小核形成能を有する哺乳類細胞としては、例えばマウスA9細胞(American Type Culture Collection,Manassas,VA 20110-2209)、マウスES細胞、CHO細胞等を用いることができる。細胞融合はPEG(Polyethlene Glycol)を用いて行うことができる。目的のハイブリッド細胞の選択は、マウスA9を使用した場合を例に採れば、融合に使用した宿主細胞に特異的な選択マーカーとウワバインとを利用した選択培養によって行うことができる。
次に、選択されたハイブリッド細胞から微小核を形成させる。一般的にはコルセミド処理をして微小核多核細胞を形成させ、続いてサイトカラシンB処理及び遠心処理をして微小核体を得る。
微小核体は、PEGを利用した融合法等によって哺乳類細胞(ターゲット細胞)と融合される。以上の工程によって哺乳類細胞へのMACの移入(導入)が行われ、MACを保有する哺乳類細胞が得られる。
ここでのターゲット細胞としては、ヒト又は非ヒト哺乳動物(マウス、ラットなど)の特定組織を形成する細胞(線維芽細胞、内皮細胞、心筋細胞)、生殖細胞(受精卵を含む)、胚性幹細胞(embryonic stem cell:ES細胞)、胚性生殖細胞(embryonic germ cell:EG細胞)、組織幹細胞(造血系幹細胞、間葉系幹細胞、神経系幹細胞、骨系幹細胞、軟骨系幹細胞、上皮系幹細胞、肝幹細胞など)などが用いられる。これらの幹細胞に対して特定の組織の細胞へと分化するように誘導処理を施した細胞をターゲット細胞として用いることもできる。このようなターゲット細胞としては、例えば神経系幹細胞に血小板由来増殖因子(PDGF)、毛様体由来神経栄養因子(DNTF)及びトリヨードサイロニン(T3)を用いてそれぞれニューロン、アストロサイト及びオリゴデンドロサイトへと分化誘導した細胞、間葉系幹細胞にデキサメタゾン及びアスコルビン酸をなどを用いて骨芽細胞へと分化誘導した細胞、間葉系幹細胞をTGF-βの存在下で培養して軟骨細胞へと分化誘導した細胞が挙げられる。
本発明のMACを導入する細胞として、魚類(メダカ、ゼブラフィッシュなど)、両生類(アフリカツメガエルなど)、鳥類(ニワトリ、ウズラなど)など、哺乳類以外の脊椎動物の細胞を用いることもできる。
ターゲット細胞へのMACの移入はin vitro、in vivo又はex vivoで行われる。例えば生体内の細胞に対して直接、哺乳類人工染色体(MAC)の移入を行うことにより、又は生体外でMACを移入した細胞を生体に導入することにより、生体を構成する所望の部位(例えば、心臓、肺等の特定の組織)にMACを導入できる。その結果、導入部位においてMACに保持された機能配列からの発現が行われる。このように、MACを外来遺伝子を生体内へと導入するためのベクターとして利用できる。MACはクローニング許容サイズが大きいことから、特に制御領域を含む大きな外来遺伝子を導入するためのベクターとして好適に利用することができる。
より具体的には、本発明の哺乳類人工染色体(MAC)は例えば遺伝子治療用のベクターとして利用され得る。即ち、欠損遺伝子の機能補填を目的として外来遺伝子を導入することや、異常遺伝子の発現を抑制又はその発現産物の作用を抑制する目的で外来遺伝子を導入すること等に本発明のMACを利用することができる。本発明のMACはそれを導入した細胞内で安定して維持されることから、導入遺伝子が安定的、かつ長期的に発現され、優れた治療効果が期待される。また、本発明のMACを利用すれば制御領域を含んだ、サイズの大きな外来遺伝子を導入可能であるから、それを導入した細胞内で本来の制御領域に支配された遺伝子発現を行うことができる。この観点からも優れた治療効果が期待される。
また、本発明のMACは所望の遺伝子の機能又はその作用メカニズムを解明するための手段をも提供する。特に、サイズが大きいがために従来のベクターでは遺伝子導入を行うことができなかった遺伝子の機能又は作用メカニズムを解明するための手段を提供する点で有用である。即ち、機能が未知の又は作用メカニズムが未知の遺伝子の研究手段も提供する。特に本発明のMACは、外来遺伝子をその本来の制御領域に支配された発現が可能なように保持できることから、組織特異的発現機構の解析や、マウスなどモデル動物個体に導入したヒト遺伝子の発現解析、阻害剤や促進剤の開発などに威力を発揮すると考えられる。
後述の実施例で示されるように、本発明者らは、ES細胞を利用して上記本発明の哺乳類人工染色体(MAC)が導入されたマウス個体(キメラマウス)の作出に成功した。尚、XY核型のES細胞を用いたキメラマウス(オス)の作出に加え、XO核型のES細胞を用いたキメラマウス(メス)の作出にも成功した。これによって、本発明の哺乳類人工染色体を形質転換動物の作出にも利用できることが確認された。このような成果に基づいて本発明の他の局面では、哺乳類人工染色体が導入されてなる非ヒト形質転換動物及びその作出方法が提供される。本発明における非ヒト形質転換動物にはマウス、ラット等の齧歯目動物が含まれるがこれらに限定されるものではない。
本発明の非ヒト形質転換動物はその発生段階でMACを導入することにより作出される。作出方法としては、ES細胞を利用する方法や受精卵の前核に直接核酸コンストラクト(MAC)の注入を行うマイクロインジェクション法などを用いることができる。以下、本発明の非ヒト形質転換動物の作出方法の具体例として、マウスES細胞を用いた方法を説明する。この方法ではまず、MACを保有するES細胞を調製する。かかるES細胞の調製は上述の微小核融合法を利用して行うことができる。即ち、まず所望の構成のMACを保有する細胞(例えばHT1080)を用意し、これを微小核融合能を有する細胞(例えばマウスA9細胞)に融合してMACの移入を行う。その後、適切にMACが移入された細胞からコルセミド処理等によって微小核を形成させる。得られた微小核を、PEGなどを利用してES細胞と融合させる。そして融合細胞の中からMACを保有するものを選択する。以上のようにして調製されたMAC保有ES細胞をマウスの胚盤胞(ブラストシスト)に導入する。即ち、まず交配後の雌マウスから卵巣ごと子宮全体を取り出した後、子宮内より胚盤胞を採取し、この胚盤胞の胚胞腔内にマイクロインジェクションによってHAC保有ES細胞を導入する。続いてインジェクションの終了した胚盤胞を子宮偽妊娠マウス(仮親)に移植し、自然分娩又は帝王切開により仔マウス(胎仔)を得る。
尚、得られた仔マウスにMACが導入されていることは、仔マウスの毛色の観察や、使用したMACに特異的な配列を有するプローブを用いたDNA解析などによって確認できる。
<実施例1> アルフォイド-BACの構築
Belo-BACのXholサイトにMluI-SfiI-SacIIリンカーを挿入してpBAC-TANを作製した。pBAC-TANのNotI-HindIIIサイトに、ともにブラスチシジン(Blasticidin)S耐性遺伝子を含む断片である、pCMV/Bsd(インビトロゲン)のNotI-HindIII断片(1.3kb)又はpSV2bsr(科研製薬)のPvuII-EcoRI断片(2.6kb)を挿入することによりpBAC-CMVとpBAC-SVを作製した。LL21NCO2ライブラリー(Lawrence Livermore Laboratory)から得られたコスミドクローンであるQ25F12をSfiI消化及びpBAC-TANのSfiIサイトへクローニングすることによって約25kbのα21-Iアルフォイド断片(α25:配列番号3)を単離した。その結果得られた、アルフォイド配列がタンデム状に配列されてなる50kb又は100kbのアルフォイドインサートを含んだアルフォイド-BACをMluI及びSacIIで消化し、続いてアルフォイド断片をpBAC-CMV又はpBAC-SVのMluI-SacIIサイトにそれぞれ挿入することにより、50kb又は100kbのアルフォイド断片を含むアルフォイド-BACであるSV/α50及びCMV/α100を構築した(図3)。
<実施例2> GCH1遺伝子座を含むHACの形成
ヒト21番染色体由来の11量体高次繰り返しユニット(11 monomer repeating units:モノマー繰り返しユニット)(Ikeno et al.1994)からなるα21-IアルフォイドをHT1080細胞に導入することによって効率的にHACを作製することが可能である(Ikeno et al.1998)。本実施例ではアルフォイド-BAC及びGCH1-BACを利用して、GCH1遺伝子座を含み、正常に制御された遺伝子発現をする複数のHACを作製した。本実施例で使用したBACを図3に示した。CMV/α100は100kbのα21-Iアルフォイド配列と選択マーカーとしてのCMV-Bsdを含み、そしてSV/α50は50kbのα21-Iアルフォイド配列とSV2-Bsr選択マーカーを含み、上述の方法でそれぞれ構築された。GCH1-BACはBACライブラリー(Genome systems)から取得され、それはGCH1遺伝子を含む180kbのゲノムDNA断片を有する。尚、BAC-DNAの精製はCsCl密度勾配遠心法により行った。
いずれかのアルフォイド-BACとGCH1-BACをモル比で1:1となるようにHT1080細胞にリポフェクションでコトランスフェクトし、形質転換細胞を選択した。具体的には、リポフェクタミン(ギブコ BRL)を使用して0.5μgのアルフォイド-BACと1.0μgのGCH1-BAC(186LO9、ゲノムシステム)をHT1080(5x10)にコトランスフェクションした。尚、この操作は製品使用説明書に従って行った。形質転換した細胞を4μg/mlのブラスチシジンS(BS、科研製薬)で選択し、10日後にコロニーを採取した。
染色体外分子としてHACが存在していることを検出するために、α21-IアルフォイドDNAとBACベクターをプローブとして用いたFISH法でBS-耐性細胞株を分析した。具体的には、メタノール/酢酸(3:1)による固定化後のメタフェイズ・スプレッド(分裂中期染色体)をスライドガラス上に調製し、常法にしたがってFISHを行った。HACを検出するために、プローブとしてビオチン標識α21-IアルフォイドDNA(11-4)(Ikeno et al.1994)及びジゴキシゲニン標識Belo-BACを用いた。この二色FISHにおいてはビオチン標識DNAをFITC結合アビジンによって可視化し、他方ジゴキシゲニン標識DNAをTRITC結合抗ジゴキシゲニン(ベーリンガー マンハイム)によって可視化した。ツアイス顕微鏡に設置したCCDカメラを用いて写真撮影したIPLab及びAdobe Photoshop 6.0を用いてイメージ加工した。
FISHの結果、CMV/α100及びGCH1-BACのコトランスフェクションによって得られた16の形質転換細胞株の中の1つ(HT/GCH2-10)、及びSV/α50及びGCH1-BACのコトランスフェクションによって得られた17の形質転換細胞株の中の3つ(その中の一つはHT/GCH5-18)は、分析した細胞の95%以上においてHACのコピーを核あたり一つ有していた。残りの細胞株では、導入されたBACがHT1080の染色体に組込まれるか、又はFISH解析においてシグナルが検出できないものであった。
構築されたHACがGCH1遺伝子のゲノム断片を含むか否かを検討するために、HACを含む4つの細胞株に対してGCH1遺伝子のエクソン1及びエクソン4~6に対するプローブ(図3)をハイブリダイズさせた。エクソン1用のプローブにはエクソン1を含む13kbのビオチン標識断片を、エクソン4~6用のプローブにはエクソン4、5及び6を含む8kbのジゴキシゲニン標識断片を用いた。
CMV/α100及びGCH1-BACのコトランスフェクションによって得られたHT/GCH2-10細胞株内のHAC上、及びSV/α50及びGCH1-BACのコトランスフェクションによって得られたHT/GCH5-18細胞株内のHAC上において両プローブのシグナルがそれぞれ検出された(図4)。これらのHAC上に検出されたGCH1シグナルはHT1080の染色体上の内在性遺伝子のそれよりも強いものであった。HT/GCH2-10及びHT/GCH5-18のいずれにおいても導入遺伝子がHT1080の染色体内に組込まれたのは少数の細胞(5%未満)であったので、これらの細胞株は核あたり一コピーのHACを保有するようにサブクローニングして、それ(サブクローニングした細胞株)を更なる検討の対象として用いた。
<実施例3> HACのセントロメア/キネトコア構造及び有糸分裂における安定性
HACのセントロメア/キネトコア構造を調べるために、必須セントロメア/キネトコアタンパク質であるCENP-A及びCENP-E(Palmer et al.1991;Yen et al.1991;Howman et al.2000)の存在をHT/GCH2-10及びHT/GCH5-18のメタフェイズ・スプレッドを用いて間接免疫蛍光法で調べた。尚、間接免疫蛍光法は次のように行った。まず、低張処理及び1%パラホルムアルデヒド固定化細胞を抗CENP-A抗体(Ando et al.2002)又は抗CENP-E(Santa Cruz)抗体とともにインキュベートした。各抗体の局在についてはFITC結合抗マウスlgGで可視化した。次のFISH解析分析のために、処理後の細胞を1%パラホルムアルデヒドで固定し、続いてメタノール/酢酸(3:1)で固定した。
間接免疫蛍光法による分析の結果、一対の姉妹染色分体に対応して対を形成するようにCENP-Aシグナル及びCENP-Eシグナルが各HAC上に検出され、そしてそのようなシグナルはすべての内在性染色体のセントロメアにおいても同様に検出された(データ示さず)。
次に、選択を行わない条件下におけるHT/GCH2-10細胞株及びHT/GCH5-18細胞株が保有するHACの有糸分裂における安定性を検討した。HACの安定性は、それを保有する細胞を非選択条件下で約30日間培養することにより評価した。具体的には、BS選択を行わない条件下、培養10日後、20日後及び30日後の各細胞株からメタフェイズ・スプレッドを調製し、HACの存在をFISHで分析した。サンプル日毎に各細胞株から調製された50個の伸展染色体を分析し、HACを保有する細胞の割合を決定した。HACの損失割合は次の式によって計算した。即ち、N=N×(1-R)、但し、Nは選択条件下においてHACを保有するメタフェイズ・スプレッドの数、Nは非選択条件下、培養n日後においてHACを保有するメタフェイズ・スプレッドの数である。尚、FISH解析は上述の方法と同様に行った。
非選択条件下、培養30日後において、HT/GCH5-18の分裂中期細胞の95%が、またHT/GCH2-10の分裂中期細胞の80%がHACを保有しており、HACのコピー数が非選択条件下で一つに維持された。いずれも細胞株においても宿主染色体への組み込みは観察されなかった。非選択条件下、培養30日後においてHACを保有する細胞の割合を基に一日当たりの染色体損失を算出した。HT/GCH5-18及びHT/GCH2-10におけるその値は、それぞれ0.2%及び0.5%であった。これらの結果は、各細胞株においてHAC上に活性のあるセントロメア/キネトコア構造が形成され、各HACが有糸分裂を通して安定に維持されたことを示すものである。
<実施例4> HACのDNA構造
HT/GCH2-10内及びHT/GCH5-18内の各HACが環状であるか線状であるかを決定するために、プローブとしてテロメア配列及びBACベクターを用いてFISHを行った。HAC上にテロメアシグナルは検出されず、他方でBACベクターのプローブでは染色された。これに対して、宿主細胞であるHT1080由来の染色体の末端ははっきりとした斑点状に染色された。予想された通り、BAC由来HACは環状構造であると考えられた。
次に、HT/GCH2-10、HT/GCH5-18、及びトランスフェクションを行っていないHT1080細胞からそれぞれ単離したDNAを制限酵素処理することによりHACのDNA構成を分析した。各ゲノムDNAサンプル(5μg)をBamHI又はStuIで4時間消化した後、常法に従ってゲル電気泳動に供した。そしてゲル内のDNAをナイロン膜に転写した後、GCH1エクソン6(2.1kb)から調製された32P標識DNAプローブ(エクソン6ブローブ)及びGCH1の上流領域(1.4kb、GCH1-BACでの位置595-1959)から調製された32P標識DNAプローブ(USプローブ)をハイブリダイズさせた。
その結果、USプローブによって検出されたBamHI断片のサイズは、内在性GCH1遺伝子由来のものが5.0kb、GCH1-BAC由来のものが3.5kbであった。これら5.0kb及び3.5kb断片はHT/GCH2-10及びHT/GCH5-18から調製されたDNAにおいてほぼ等しいシグナル強度で検出された(図5(A))。一方、エクソン6プローブによって検出されたStuI断片のサイズは、内在性GCH1由来のものが24.5kb.GCH1-BAC由来のものが14.4kbであった。これら24.5kb及び14.4kb断片はHT/GCH5-18から調製されたDNAにおいてほぼ等しいシグナル強度で検出されたが、一方でHT/GCH2-10から調製されたDNAについては内在性GCH1由来の断片に加えてサイズが異なる3種類の断片が検出された(図5(B))。これらの結果は、本実施例において使用したHT1080細胞の核型が3nであるので、HT/GCH5-18内のGCH1保有HACがトランスフェクトされたGCH1-BAC DNAの約3コピーの集合によって構築されたことを示唆するものであり、一方でHT/GCH2-10ではGCH1エクソン6の末端領域において再配列が生じ、しかしUSプローブによって認識されたバンドの強度によって判断されるように、おそらくGCH1-BACを3コピー保有していることを示唆するものである。HT/GCH2-10内のGCH1転写産物をRT-PCRで分析したところ、GCH1遺伝子の内部再配列が確認された(データ示さず)。
HT/GCH2-10とHT/GCH5-18内のGCH1-BAC及びアルフォイドBACのコピー数をGCH1エクソン6及びBACベクターをそれぞれプローブとして用いたドットハイブリダイゼーションによって決定した。HACに含まれる各BACの相対コピー数についてはハイブリダイゼーションのシグナル強度値から推定した。ここでの各シグナル強度値については各DNAプローブを用いて決定し、0.1ngのGCH1-BAC DNAのシグナル強度値を基準にして標準化した(図6)。GCH1エクソン6をプローブとして用いた場合には、HT/GCH2-10及びHT/GCH5-18から調製されたDNAでは0.5μgで、またHT1080から調製されたDNAでは1μgで0.1ngのGCH1-BAC DNAと等しいハイブリダイゼーション強度値を示した(図6左欄)。本研究で使用したHT1080の核型が3nであるのでHT1080の染色体内においてGCH1遺伝子が3コピー存在し、そしてHT1080から調製したDNAのシグナル強度値と等しい値がHT/GCH2-10及びHT/GCH5-18から調製した場合には半量のDNAで得られたという結果を考えれば、HT/GCH2-10及びHT/GCH5-18はGCH1遺伝子を6コピー(即ち、染色体上及びHAC上にそれぞれ3コピー)含有しなければならない。BACの合計コピー数をBACベクタープローブを用いて得られた強度値から推定した。HT/GCH2-10及びHT/GCH5-18から調製されたDNAでは0.33μgで0.1ngのGCH1-BAC DNAと等しいハイブリダイゼーション強度値を示した。一方予想されたように、HT1080から調製されたDNAではシグナルが検出されなかった(図6右欄)。それ故に、両HACはGCH1遺伝子のコピー数のおおよそ3倍のBACベクターのコピー数を有する。したがって、全BACベクターのコピー数は細胞あたり約9のはずである。即ち、GCH1遺伝子の3コピーはGCH1-BACのかたちで存在し、BACの残りの6コピーは両HACにおいてアルフォイドBACのかたちで存在しているはずである。
<実施例5> HAC保有細胞株のマウスA9細胞への導入
クローン化したアルフォイドDNAを使用することによる、HACのde novo形成がヒト線維芽細胞株であるHT1080内で成功している。神経細胞株におけるGCH1遺伝子の正常な発現を確認するためには、HT1080内に構築されたHACを神経細胞株内に導入する必要がある。
微小核体介在性染色体導入(MMCT)(Fournier et al.1997)を可能とするためにHAC保有細胞株(HT/GCH5-18)とマウスA9細胞株をPEGを用いて融合した。即ち、HAC保有細胞株(5x10)及びマウスA9細胞(5x10)を共培養し、そしてPEG/DMSO溶液(シグマ)内で融合させた。続いてBS及びウワバイン(Ouabain)耐性細胞をそれぞれBS(2.5μg/ml)及びウワバイン(3μM)で選択し、BS及びウワバイン耐性細胞株をFISHで分析した。HAC及びヒト染色体を同定するためにそれぞれBACベクタープローブ及びAlu反復配列プローブをメタフェイズ・スプレッドにハイブリダイズさせた(図7(A))。結果、融合細胞株の一つであるF/GCH5-18は8-10個のヒト染色体とともにHACのコピーを1又は2以上含んでいた。
各融合細胞内のHACは非選択条件下で有糸分裂を通して安定して維持され、一日あたりの染色体損失は約1%であった(データ示さず)。マウス細胞株内でのヒト染色体の有糸分裂における安定性は時として、マウス染色体のセントロメアに位置し、機能的セントロメア配列として作用すると考えられているマイナーサテライトDNAを融合に供されるマウス細胞から獲得することによって得られる(Shen et al.1997)。そこで、HAC上のマウスマイナーサテライトDNAの存在の有無をFISHで調べた。HAC上にマイナーサテライトDNAのシグナルは検出されず、一方でマウス染色体のセントロメアでは強いシグナルが検出された(図7(B))。融合細胞株はコルセミド処理の条件で微小核体(マイクロセル)を形成することが可能であった(データ示さず)。それ故に、HACは神経細胞株に導入可能であると考えられる。
【実施例6】

HACが保有する大きなゲノム断片内の導入遺伝子からの正常に制御された遺伝子発現が期待された。HAC形成に使用されたGCH1-BACはGCH1エクソン1の5’側上流領域から始まる100kbを越えるゲノム配列を含んでいた。そこで、HT1080及びHACを保有するその派生株におけるGTPシクロヒドロラーゼI(GCH1)活性を測定した。先の報告によれば、線維芽細胞株におけるGCH1活性はほとんど検出されないが、IFN-γの誘導によってその活性は上昇するであろうと予測された(Werner et al.1990)。そこで、HT1080、HT/GCH2-10及びHT/GCH5-18におけるGCH1活性をIFN-γの存在下及び非存在下で分析した(図2)。尚、GCH1活性の測定手順は次の通りとした。IFN-γ非含有又は含有(250U/ml)の培養液を用いて48時間各細胞を培養した。培養後の細胞をトリプシン処理し、その後PBS(phosphate-buffered saline)で洗浄し、続いて0.3M KCl、2.5mM EDTA、及び10%グリセロールを含む0.1M Tris-HCl(pH8.0)に溶解した。GCH1活性の測定は既述の方法(Hibiya et al.2000)に従った。
GCH1-HACを保有しないHT1080ではIFN-γ誘導をしない条件においてGCH1活性はかろうじて検出できるレベルであった。一方、その活性はIFN-γの添加によって15倍に上昇した。HT/GCH2-10細胞株ではIFN-γ誘導をしない条件において、HACを保有しないHT1080の検出値の3倍のGCH1活性が認められた。IFN-γ誘導後は30倍近くの活性の上昇がみられた。これに対してHT/GCH5-18ではIFN-γの非存在下においてGCH1活性は70倍にまで上昇し、IFN-γを添加することで更に約5倍の活性の上昇がみられた。いずれのHT/GCH-HAC細胞株においてもその程度は異なるもののGCH1活性の上昇が認められ、これは染色体構造及び/又はHAC内のDNA再配列における相違を反映したものであると考えられる。また、両HT/GCH-HAC細胞株は依然としてIFN-γ誘導に感受性であって、それは真の染色体上のGCH1遺伝子の発現における応答性と同様であった。
以上の実施例で示したように、アルフォイド-BAC及びGCH1-BACを約1:1のDNA割合で用いた簡易なコトランスフェクション法によって、GCH1遺伝子(GCH1-HAC)を含む大きなDNA断片を含有したHACを得ることに成功した。このGCH1-HACはテロメアを含まない環状構造にも拘わらず、非選択条件下、30継代以上の後においても1コピーが存在する状態に維持された。これはHACが細胞周期ごとに一度複製され、そして正確に娘細胞に分配されることを示唆するものである。HACはサイズがメガベース(cytologically megabases in size)であって、トランスフェクトされたBAC DNAよりも約10倍大きい。
HACの特性及びそのde novo形成のメカニズムを調べるためにHACのDNA構造を分析した。BACコンストラクトではレアカッター(制限酵素)切断部位のほとんど全てがメチル化されること、及び使用される細胞株が内在性のGCH1遺伝子座を含むことから、GCH1遺伝子の全領域を対象とした制限酵素分析は困難であった。それ故に、我々はBACベクターとGCH1遺伝子座との連結部位に相当する領域を対象に制限酵素分析を行った。その結果、得られた二つの細胞株内のGCH1-HACはその構成分子としてGCH1-BACを3コピーとアルフォイド-BACを6コピー含有していた(図5、6)。HAC形成の正確なメカニズムは不明であるが、GCH1-HACは導入したDNAの多量体から構成され、これは導入分子としてアルフォイド-YAC又はアルフォイド-BACのみ(データ示さず)を用いて形成されたHAC(Ikeno et al.1998)に類似するものであった。HACの形成の際に別個のBACの会合(集合)を伴うという事実は、BAC分子の多量体化がBAC DNA自身の増幅に加えて非特異的組換えに媒介され得ることを示唆した。
大きなヒトゲノムDNAを含むHACの形成については、過去に140kb又は162kbのHPRT遺伝子座を使用した例が報告されている(Grimas et al.2001;Mejia et al.2001)。彼らは相補性に依存するHAT培地内においてHPRT遺伝子欠損HT1080細胞株内にHPRT遺伝子を含むHACを得ている。組織及びステージ特異的な発現をする遺伝子(即ちハウスキーピング遺伝子ではない遺伝子)に対してはこのようなアプローチのHT1080細胞における実現性は低いであろう。本実施例によればBACに挿入された50kb程度の小さなα21-IアルフォイドDNAによってHAC(セントロメア/キネトコア)を形成できることが示され、一方で50%のHACが導入遺伝子を含んでいたことから、選択マーカーを有しない大きな導入遺伝子を含有するBACを効率的にHACに組込むことができることが示された。したがって、50kbのアルフォイドDNAを含むアルフォイド-BACと、直ちに利用可能なBACライブラリーをそのまま利用することにより、大きな所望のゲノム領域を含むHACを形成することが可能であるといえる。導入遺伝子が完全な状態であることはHACの形成の後に確認されるであろう。
CMVプロモーター支配下のBsd遺伝子を有する形質転換細胞の選択はBS耐性細胞の数を増加させるが、HAC又は宿主染色体上への組込みに対するFISHシグナルは多くの形質転換細胞で検出されなかった(図1)。アルフォイド及びBACベクター配列をプローブとして用いたサザンハイブリダイゼーション分析によって、これらの細胞株は染色体のみに組込まれたBsd遺伝子を保有することが示唆された。したがって、高発現プロモーターによって発現される様に組込まれた選択マーカーは、HAC保有細胞株のスクリーニング用としては好ましいものではないと言える。
遺伝子発現は染色体構造の影響を受ける。染色体への導入遺伝子の組み込みの結果、位置効果による斑入り(PEV)(Karpen 1994)として一般に知られている現象であるジーンサイレンシングがしばしば起こる。最近の分子学的解析によって、リジン9上のヒストンH3のメチル化がHP1のクロマチンへのターゲティングの原因となり、そしてヘテロクロマチン化及び遺伝子発現の抑制が引き起こされることが報告されている(Platero et al.1995;Bannister et al.2001;Lachner et al.2001)。酵母及びハエにおいてセントロメア/キネトコア又はその近隣におけるジーンサイレンシングも報告されており(Karpen & Allshire 1997)、このようなジーンサイレンシングは哺乳類細胞でも生ずるものと予測された。最近本発明者らは、HACのアルフォイド配列内にひとたびセントロメア/キネトコア構造が形成されると、たとえ高発現プロモーターの制御下であってもHAC内に組込まれた短いマーカー遺伝子の発現が強く抑制されることを示した(Abe et al.投稿中)。したがって、HAC内で導入遺伝子を発現させようと思えば、セントロメア/キネトコア構造との関係においてトポロジー的な問題を解決する必要がある。
HACからのGCH1遺伝子の発現はGCH1遺伝子座又はその近隣のクロマチン構造と相互に関連しているのかもしれない。そこで本発明者らはセントロメア/キネトコア構造がアルフォイド配列部分にのみ形成されたのか、それともGCH1遺伝子座内へと拡がったのかを検証した。CENP-Aは機能的セントロメア/キネトコアに必須のタンパク質であって、セントロメア特異的ヌクレオソームのヒストン成分を構成するので(Paler et al.1991;Howman et al.2000)、我々はHACのクロマチン構造を抗CENP-A抗体を用いたクロマチン免疫沈降(ChlP)法(Ando et al.2002)で分析した。ChlP法は次のように行った。まず、HT/GCH5-18細胞株(5x10)の核を単離し、WB(20mM HEPES(pH8.0)、20mM KCl、0.5mM EDTA、0.5mMジチオスレイトール、0.05mMフェニルメチルスルフォニルフルオリド)に溶解した。MNase消化後、可溶化されたクロマチンを既述の方法(Ando et al.2002)に従い抗CENP-A抗体で免疫沈降した。
HeLa細胞及びHT1080細胞を使用したそのような分析において全免疫沈降DNA中の60~80%がアルフォイド配列に富んでいた。抗CENP-A抗体を用いた分析の結果、全免疫沈降DNA中においてGCH1-HAC内のアルフォイド配列は豊富に存在することが認められたが、GCH1領域はほとんど存在していなかった。これに対してアルフォイド配列からおよそ3kb離れて存在するBACベクター配列もまた免疫沈降され、これによってアルフォイド配列部分にセントロメア/キネトコア構造が形成され、周囲のアルフォイド配列でない領域に拡がったことが示唆された(データ示さず)。セントロメア/キネトコア構造がHAC内のGCH1遺伝子座に侵入することは、おそらく上流制御配列に備えられる未知の制御メカニズムによって阻止されたものと考えられる。
GCH1遺伝子はテトラヒドロビオプテリンの生合成経路における、第1段階かつ律速酵素をコードし(Nichol et al.1985)、当該酵素は芳香族アミノ酸ヒドロキシラーゼ(PAH、TH、TPH)及び一酸化窒素シンターゼのコファクターであって高等生物に存在する(Kaufma 1993)。GCH1遺伝子はドーパ応答性ジストニア(DRD/セガワ病)(Ichinose et al.1994)におけるドーパミン欠損の原因遺伝子である。TH遺伝子の突然変異とともにGCH1遺伝子の欠損が生ずると重篤な初期段階ジストニア/パーキンソニズムが引き起こされる(Ichinose et al.1999)。
ヒト及びマウスのGCH1遺伝子の上流制御配列についてはこれまでのところ限られた数の解析が行われたにすぎないが、CCAATボックス及びTATAボックスが保存されていることが報告されている(Ichinose et al.1995;Hubbard et al,2002)。様々なげっ歯類及びヒト細胞においてGCH1遺伝子の発現がIFN-γによって誘導され得ることが確認されている(Werner et al.1990)。しかしながら、IFN-γのシグナル伝達を含んだ正確なメカニズムは未知のままである。
ヒトβグロビン等いくつかの遺伝子の発現は、安定した組織特異的な開クロマチン構造の開始及び維持を担う遺伝子座調節領域(LCR)によって制御されることが知られている(Festentein et al.1996;Milot et al.1996)。本実施例で使用したGCH1-HACはGCH1遺伝子を含む180kbのゲノム断片を保持し、それ故に組織特異的発現のため及び近隣セントロメアによる発現抑制効果を防ぐために必要な制御配列を含んでいると考えられる。上述のように、本発明者らはIFN-γの存在下及び非存在下においてHACからのGCH1遺伝子の発現をGTPシクロヒドロラーゼ活性を指標に測定した(図2)。IFN-γの非存在下では、HAC保有細胞株であるHT/GCH2-10のGCH1活性はHT1080のそれよりもほんの少し高いものであった。また、IFN-γの添加によってGCH1活性は約30倍上昇した。もう一つの細胞株であってHT1080の2倍の数のGCH1遺伝子を保有するHT/GCH5-18のGCH1活性はIFN-γ非存在下においてHT1080のそれよりも70倍高いものであった。そしてその活性はIFN-γ誘導によってさらに5倍上昇した。上述のようにGCH2-10HAC上のGCH1遺伝子のいくつかは構造的異常を有することが示唆されたので、HT/GCH2-10とHT1080との間の僅かな活性の相違は完全なGCH1遺伝子のコピー数が少ないことに対応するものであると考えられる。これらの結果によって、GCH1の遺伝子発現はHACにおけるGCH1遺伝子座に構築されるクロマチン構造の違いに影響を受ける一方で、GCH1遺伝子の発現は依然としてIFN-γに応答性を有することが示された。しかしながら、IFN-γ誘導後の最終GCH1活性レベルは細胞株間で同等であった。このことはGCH1活性を適当な範囲内に維持するための複雑な細胞内制御システムが存在することを示唆するものである。in vivoにおけるGCH1発現の複雑な制御メカニズムを理解するためにGCH1-HACは好適なシステムであると言える。
アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターはヘルパーウイルス依存的増殖感染による遺伝子治療用として頻用される。AAVベクターのクローニング許容サイズは通常、遺伝子発現に必要なそれ自身の制御配列を含まないcDNAを運搬するために十分なものに限られている(Dong et al.1996)。GCH1はチロシンヒドロキシラーゼ(TH)及び芳香族Lアミノ酸デカルボキシラーゼ(AADC)とともに効率的なドーパミン生産に必須の酵素である。線状体においてAAVからこれら三つの酵素を発現させることによって、霊長類パーキンソン病モデルにおいて比較的長期の行動回復が認められている(Muramatsu et al.2002)。
最近、エプスタイン・バーウイルス(EBV)ベースのエピソーム状ベクターは限られた哺乳類細胞株に対してHPRT遺伝子(115kb)を導入する能力があり、導入された遺伝子の発現は抑止されなかったとの報告がなされた(Wade-Martins et al.2000)。しかしながらEBVベースのベクターは非選択条件下ではHACよりも急速に失われていき、その複製はウイルストランスアクチベータであるEBNA1の存在に依存する。したがって、臨床的遺伝子治療におけるEBVベクターの安全性についてはさらなる検討が必要である。HACは上記の遺伝子導入用ベクターについての問題を解決し得るものであり、さらに安全性の面でも有利なものである。本実施例において大きなゲノム遺伝子座を保持したHACは染色体外において維持され、調節された遺伝子発現を長期にわたって示した。それ故にTH、AADC及びGCH1を含有するHACはパーキンソン病の有望な治療戦略を提供し得る。
しかしながら、BACを利用したHACのde novo形成がそれほど効率的に行われないこと、HAC形成のための特定の細胞株が必要であること、及びHACのサイズが大きいことから、細胞又は組織の必要な部位にHACを輸送することには困難が伴う。HACを遺伝子導入ベクターとして簡便に利用するためにはHT1080内に構築されたHACが適当な細胞株内へと導入されなければならない。HACは微小核体(ミクロセル)の形成を可能とするマウスA9細胞を用いたMMCTによって導入することができる(Fournier et al.1997)。上述の実施例に示したように、本発明者らは非選択条件下でHACの検出し得る構造変化を伴うことなく有糸分裂においてHACを安定的に維持するマウスA9細胞株を樹立することに成功した。このHACはA9細胞株から他の細胞株へと容易に導入可能であると考えられる。
以上の実施例により、GCH1遺伝子をそれ自身の制御領域とともに保持するHACをGCH1-BAC及びアルフォイド-BACのコトランスフェクションによって構築できることが示された。このGCH1-HACは制御された状態でGCH1遺伝子を発現し、したがってin vivoでGCH1の制御メカニズムを研究するための好適なシステムであることが証明された。GCH1-HACについての更なる研究によって、セントロメア/キネトコアを構築するのに最低限必要なアルフォイド配列の数、GCH1遺伝子の制御された状態での発現に必要な上流領域の構造、及び制御領域における転写因子の活性部位が明らかにされるであろう。本実施例で得られた結果はモデル動物又は臨床試験において将来GCH1-HACが遺伝子運搬ツールとして有用であることをも示すものである。
<実施例7> 微小核融合法によるHACのES細胞への移入
GCH1遺伝子を保持したHACを含有するHT1080細胞を細胞融合法でマウスA9細胞へ移入した。まず実施例5と同様の手順で、HAC保有細胞株(HT/GCH2-10)とマウスA9細胞を融合させ、BS耐性且つウワバイン耐性の細胞株を選択した。選択された細胞株F(A9/2-10)4に終濃度0.05μg/mlとなるようにコルセミドを加えた後、37℃、5%COの条件で72hr培養した。トリプシン処理により細胞を回収し、血清を含まないD-MEM培地に懸濁した。サイトカラシンBを20μg/mlになるように加えて37℃、5min.放置した後、予め37℃に保温しておいたPercolを等量加えた。続いて遠心処理(15,000rpm、90min.)を行い、微小核を回収した。回収した微小核を血清を含まないD-MEM培地に懸濁した後、再び遠心処理(2,000rpm、5min.)を行い、得られた沈殿(微小核)を再度、血清を含まないD-MEM培地に懸濁した。この操作を2回繰り返した後、微小核を含む沈殿に、トリプシン処理により回収したES細胞TT2(C57BL/6×CBA)を加えて1,500rpm、5min.の遠心処理を行い、細胞と微小核を沈殿させた。上清を捨てた後、血清を含まない1mlのD-MEM培地を加えて懸濁させた。この状態で10分間静置(室温)した。続いて、1,500rpm、5min.の遠心処理によって細胞と微小核を沈殿させ、上清を捨てた後に1mlのPEG1500(ロッシュ)を加えて懸濁させた。室温で90秒間静置した後に血清を含まないD-MEM培地を5ml加え、遠心処理(1,000rpm、5min.)し、細胞を回収した。
回収した細胞に血清を含まないD-MEM培地を10ml加えた後、1,000rpm、5min.の遠心処理による洗浄を2回行った。洗浄後の沈殿をESM培地(D-MEM+非必須アミノ酸(Invitrogen)+0.1mM β-メルカプトエタノール+10U/ml ESGRO(Chemicon)+ヌクレオシド)に懸濁し、得られた細胞懸濁液を、マイトマイシンC処理により増殖を停止させたフィーダー細胞SLB(角川祐造博士(藤田保健衛生大学:Fujita Health University School of Medicine)より供与)上に播種した。培養開始から24時間経過した時点で、ブラストサイジンSを終濃度4μg/mlで含むESM培地に交換して培養を継続した。この選択操作を開始後5日目にESM培地(4μg/mlブラストサイジンS、1xHAT(Sigma))に交換し、更に5日間培養を継続した。
得られたコロニーを単離し、マイトマイシンC処理により増殖を停止させたフィーダー細胞SLB上(24穴培養皿)に播種した。増殖した細胞の中からPCRを利用してBAC DNAを保有する細胞株を選択し、アルフォイドDNA、BACベクター、GCH1遺伝子、及びマウスマイナーサテライトDNAをプローブ(実施例2、5を参照)として用いたFISH解析に供した。
図8AはアルフォイドDNA及びBACベクターをプローブとして用いたFISH解析の結果である。緑がアルフォイドDNAのシグナル(矢印)、赤がBACベクターのシグナル(矢じり)を示す。単離されたES細胞はHACを1コピー保有し、かつ正常核型を維持していることがわかる。
図8BはヒトGCH1遺伝子のエクソン1領域とBACベクターをプローブとして用いたFISH解析の結果である。GCH1遺伝子の緑のシグナル(矢印)とBACベクターの赤のシグナル(矢じり)がHAC上に同時に検出された。
図8CはマウスマイナーサテライトDNAとBACベクターをプローブとして用いたFISH解析の結果である。HAC上にはマウスマイナーサテライトDNAのシグナル(一部を矢印で示す)が検出されなかった。尚、矢じりはBACベクターのシグナルを示す。
<実施例8> ES細胞におけるHACの安定性
ES細胞中でのHACの安定性を、選択薬剤非存在下において長期に培養することにより解析した。実施例7で得られたHAC保有ES細胞をブラストサイジンSの存在下と非存在下で培養(20日間)した後、FISH法を利用してHACを保有している細胞の割合をそれぞれ求めた。解析結果を図9に示す。薬剤非存在下での長期培養後においても8割以上の細胞がHACを1コピーの状態で保持していた。一回の細胞分裂あたりの染色体脱落率を計算したところ0.2%であって、HT/GCH2-10細胞におけるHACの場合とほぼ同程度の安定性を示した。尚、染色体脱落率Rは次式により求めた。
=N×(1-R)
<実施例9> 酵母人工染色体(YAC)を用いたヒト人工染色体(HAC)の構築
前駆体としてYACを用いてヒト11番染色体のβグロビン遺伝子群(クラスター)全領域を保持するヒト人工染色体を以下の手順で構築した。使用した前駆体YACは次の通りである。
(9-1)前駆体YAC
A201F4.3:ヒトβグロビン遺伝子座を有する150kbのYACであって、A201F4の右腕部を改変しPGKneorが挿入されている(Keiji Tanimono,Douglas Engelより供与、Nucleic Acid Research,27;3130-3137)。
7c5hTEL:ヒト21番染色体アルフォイド領域由来の約80kbのアルファサテライト配列(α21-I)及びマーカー遺伝子のSVbsrを含み、その両端に酵母テロメア配列を備えかつその内側にヒトテロメア配列を備える人工染色体前駆体YACである。7c5hTELを保有する酵母(Saccaromyces serevisiae EPY 305-5b α7C5hTEL)は1996年8月14日付けで通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所(現在は独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター、〒305-8566 茨城県つくば市東1丁目1番3号 中央第6)に寄託されており(受託番号FERM BP-5625)、7c5Htelはこの酵母株から調製される。尚、当該酵母株の作製方法については特表2000-517182号公報を参照されたい。
F61:HT1080にpTet-OFF(CLONTECH)を導入し、G418選択により樹立したテトラサイクリン誘導発現系細胞である。
(9-2)酵母人工染色体の精製
以下の手順でPulsed Field Gel Electrophoresis(PFGE)を施行して2種類の酵母人工染色体(A201F4.3及び7c5hTEL)をそれぞれ分離した。PFGEはGene Nabigator(Amersham Pharmacia Biotech)を使用し、0.7%アガロースゲルにおいて0.5xTBE、180Volt及び15second pulseの条件で15時間行った。PFGEゲルより分離したYAC DNAを電気泳動により1%低融点アガロースゲルに移し、このゲルを10mM Tris(pH8.0),1mM EDTA,100mM NaClの緩衝液に16時間浸漬した。YAC DNA(0.3μg/0.3ml)に100μgのE.coli tRNAを加えて70℃で10分間加温してゲルを融解し、続いて30Uのβ agarase(Sigma)を加えて42℃で2h反応させることによりアガロースを消化した。これらにPFGEを施行して7c5hTEL(90kb)及びA201F4.3(150kb)のバンドを確認した(図10A)。
(9-3)YACの導入
精製した7c5hTEL及びA201F4.3を各0.3μg混和した後、Superfect(Qiagen)を60μl加えて穏やかに混和し、室温で10分間反応させた。反応後の溶液をF61細胞に添加した。培養液(10%FBS(Trace Scientific Ltd.,Noble Park,Australia)in D-MEM:Dulbecco’s Modified Eagle Medium(Invitrogen Corp.,Carlsbad,CA,USA))を90分後に一度交換した。72時間後より8μg/mlのブラスチシジン(Blasticidin)S添加培地で耐性株を選択的に培養し、形質転換株を分離した。その結果、19個の形質転換株が得られた。
<実施例10> 形質転換株に対する細胞遺伝学的解析
得られた形質転換株にα21-Iプローブ(アルフォイドプローブ、配列番号3のDNA断片をジゴキシゲニン標識したもの)及びYACの腕部のプローブ(pYAC5ベクター(Dr.Maynard V.Olson(Washington University))をXhoIで切断して得られる約8kbのDNA断片(配列番号4)をビオチン標識したもの)を用いてFISH法を施行した。その結果1個の形質転換株においてミニ染色体の形成が認められ、そしてこのミニ染色体にα21-I及びYACの腕部の両方のシグナルが確認された(図10B)。残りのクローンでは宿主染色体上にシグナルがみられるか、又は全くシグナルが検出されないかのいずれかであった。
一方、ミニ染色体が形成された形質転換株に対してヒトβグロビンクラスター非コード領域の互いに異なる部位をそれぞれ認識する3種類のプローブ(配列番号5、配列番号6、及び配列番号7)を用いてFISH法を施行したところ、ミニ染色体上に各プローブからのシグナルが示された(図11)。尚、各プローブはA201F4.3を鋳型として以下のプライマーでPCR反応(96℃30秒、58℃40秒、72℃10分を1サイクルとした25サイクル)を行い、その結果増幅されたDNAをビオチン標識したものである。
配列番号5のプローブ用プライマー
JP0004293990B2_000002t.gif 配列番号6のプローブ用プライマー
JP0004293990B2_000003t.gif 配列番号7のプローブ用プライマー
JP0004293990B2_000004t.gif また、テロメア反復配列(配列番号8の配列が繰り返されてなる約500bpの配列)をジゴキシゲニン標識したものをプローブとして行ったFISH法ではミニ染色体上に2点又は4点のテロメアのシグナルが認められた(図12)。
以上の結果から、アルファサテライト配列を有する人工染色体YACとヒトβグロビンクラスター全領域を有する人工染色体YACとをHT1080細胞に導入することによって、ヒトβグロビンクラスター全領域を保持するミニ染色体(ヒト人工染色体)を構築できることが確認された。
<実施例11> ファイバーFISHを用いた、ミニ染色体のマクロ構造の解析
各1x10個のマウスA9細胞とミニ染色体保有細胞を培養皿に播種し、これに50%PEG(SIGMA)を3ml添加して1分間培養した。続いて10μMのウワバイン(Oubain),5μg/mlのブラスチシジン(Blasticidin)Sを含む選択培地で培養し、ウワバイン及びブラスチシジンS耐性の形質転換株を取得した。上述の方法と同様にFISH法を施行したところ、得られた形質転換株の中にミニ染色体を保有し、かつ残りの染色体がマウス由来である形質転換株の存在が認められた。この形質転換株に対してアルフォイドプローブ(配列番号3)及びβグロビンプローブ(配列番号5、配列番号6、及び配列番号9の混合)を用いてFISH解析を行った。尚、配列番号9のプローブはA201F4.3を鋳型として以下のプライマーでPCR反応(96℃30秒、58℃40秒、72℃10分を1サイクルとした25サイクル)を行い、その結果増幅されたDNA断片をビオチン標識したものである。
JP0004293990B2_000005t.gif FISH解析の結果、アルファサテライト配列のシグナルがミニ染色体以外の染色体上に認められなかったため(図13)、ミニ染色体のアルファサテライト配列に対するファイバーFISH解析が可能であった。そこで、ファイバーFISH解析を行ったところ、ミニ染色体上にグロビンとアルフォイド配列の複数のシグナルが不規則に並んでいることが確認された(図14)。
<実施例12> HACからの目的遺伝子の転写量の解析
次に、βグロビン遺伝子を保持したHACを保有する細胞におけるグロビン遺伝子の転写量を解析した。
実施例9と同様の手順で7c5hTEL及びA201F4.3を白血球K562細胞(ATCC CCL-243)に導入し、βグロビン遺伝子を保持したHACを保有する細胞(HAC保有K562細胞)を得た。このHAC保有K562細胞と、実施例9で得られたHAC保有HT1080細胞におけるグロビン遺伝子の発現状態を、Gγグロビンの転写量を指標として次のように解析した。尚、7c5hTEL及びA201F4.3の導入操作を行う前、即ちHACを保有しないHT1080細胞及びK562細胞を比較対照(コントロール)として用いた。
まず、各細胞から常法でRNAを抽出し、MMLVの逆転写酵素及びOligo(dT)15プライマーを用いてcDNAを合成した。このようにして得られた各cDNAを鋳型として次のプライマーセット(Gγグロビンのエクソン2及びエクソン3)を用いたRT-PCRを施行した。
JP0004293990B2_000006t.gif RT-PCRの結果を図15の上段に示す。尚、β-アクチン遺伝子に特異的な以下のプライマーを用いて同様にRT-PCRを行った結果を併せて示した。
JP0004293990B2_000007t.gif 一方、リアルタイムPCR法により各サンプルのGγグロビン遺伝子の転写量を定量した。リアルタイムPCRはABI PRISM 7700(ABI アプライドバイオシステムズ社製)及びQiagen QuantiTect SYBR Green PCR kit(Cat 204143)を用いて行った。また、増幅反応に利用するプライマーとしては上記の各プライマーを用いた。尚、各サンプルにおけるβアクチン遺伝子の転写量を求め、これを基にサンプル間の細胞数の差を補正した。
図15の下段にリアルタイムPCR法による解析結果を示す。尚、HAC非保有のHT1080の転写量を1としたときの相対値として各サンプルにおけるGγグロビンの転写量を表した。HACを導入したことにより、Gγグロビンの発現量がHT1080をターゲット細胞とした場合では1.5倍となり、他方K-562をターゲット細胞として場合では5倍以上となった。このように、いずれのターゲット細胞を用いた場合においても導入されたHACからのGγグロビンの発現、即ちHACに保持させた外来遺伝子の発現を確認できた。特に、K-562を用いた場合においては極めて高い活性で外来遺伝子を発現できることが示された。
<実施例13> HAC保有マウス(キメラマウス)の作出
実施例7によって得られたHAC保有ES細胞を培養して樹立された細胞株(HAC保有ES細胞株TT2/GCH2-10)を、ICRマウス(日本クレア株式会社)から採取した8細胞期胚あるいは胚盤胞期胚にインジェクション法により注入し、ES細胞導入胚を仮親に移植した。その後、自然分娩により産仔を得た。生後24時間のマウスから各臓器(脳、心臓、胸腺、肝臓、脾臓、腎臓)を単離し、それぞれについてゲノムDNAを調製した。得られたDNAに対してFastStart Taq DNA polymerase(Roche)を用いてPCRを行い、BAC由来のDNAを検出した。用いたプライマーの配列とサイクル(反応条件)は以下のとおりである。
JP0004293990B2_000008t.gif サイクル:95℃、4分×1、95℃、15秒、55℃、10秒、72℃、30秒×35、72℃、9分×1
PCR法による解析結果を図16(b)に示す。15匹のマウスを解析した結果、この図に示されるように7匹のマウスにおいてBAC DNAがすべての臓器において検出された。
次に、HAC保有ES細胞を用いて作出したキメラマウス個体におけるGCH-HACの存在を確認するために、分裂期染色体標本を作製しFISH解析を行った。まず、生後24時間のキメラマウスの頭と内臓以外の部分をPBSで洗った後に細片化し、0.05%トリプシン/1mM EDTA存在下で1hr,37℃で保温した。トリプシン処理により細片から得られた細胞を遠心分離により回収し、10%FCSを含むDMEM培地で2回洗った。細胞を再度10%FCSを含むDMEM中に浮遊させ、37℃、5%CO存在下で培養した。コンフルエントに近く増えた状態でTN16を加え、分裂期に同調した後に分裂期染色体標本を作製した。
アルフォイド配列とBACベクター配列をプローブに用いてFISHを行った結果、キメラマウス由来(ES細胞由来)の細胞に人工染色体(GCH-HAC)が確認された(図16(c))。尚、図16(a)は、得られたキメラマウスを示す図であり、毛色からキメラマウスであることを確認できる。
<実施例14> HACのXO核型ES細胞への移入、及びキメラマウスの作出
実施例7と同様の手順で、微小核融合法によってHACをマウスES細胞に移入した。実施例7ではXY核型マウスES細胞を用いたが、本実施例ではXO核型のマウスES細胞TT2-F(相沢博士より供与)を用いた。微小核融合処理の後に得られた細胞をFISH解析に供したところ、いくつかの細胞が期待通りHACを保有していた(データ示さず)。このようにして得られたHAC保有ES細胞を培養して細胞株を樹立した後、この細胞株を用いて実施例13と同様の手順でキメラマウスの作出を試みた。その結果、図17に示すように、モザイク状の毛色のキメラマウス(メス)が得られた。
<実施例15> 遺伝子挿入部位を有する哺乳類人工染色体の構築
遺伝子挿入部位と、インスレーター配列の候補としてのヒトβグロビンLCRを含む人工染色体を構築し、人工染色体におけるインスレーター配列の効果を検証した。
15-1.DNAコンストラクト
(1)ヒトβグロビンLCR
ヒトβグロビン遺伝子領域をカバーするYACクローン(A201F4.3,Dr.Douglas Engel,Northwestern Univ.より供与)から20836kb(GenBank data base NG000007の4818から25654まで)をpTWV229ベクター(タカラバイオ株式会社)のマルチクローニング部位にクローン化した(TWV-LCR)。
(2)アクセプター前駆体
pAc-lox71-bsr-pA(Dr.Yamamura,Kumamoto Univ.より供与、Kimi Araki,Masatake Araki and Ken-ichi Yamamura(1997))のEcoR1-XhoI 1.7kb断片をpSV2-bsrのEcoRI部位に挿入してSV-bsr-lox71を得た。SV-bsr-lox71のApaLI断片6kbをpBeloBACのSalI部位に挿入してBAC-bsr-lox71を構築した。
βグロビンLCR(Locus control region、HS1~5を含む)を加えた前駆体を構築するために、TWV-LCRのFspI断片20kbをBAC-bsr-lox71のEco0651部位に挿入した(BAC-LCR-lox71、図18を参照)。尚、この前駆体BAC-LCR-lox71の特徴は、lox71部位の5’側にCAGプロモーター(各種哺乳類培養細胞、マウス個体において安定した遺伝子発現が期待できる)が配置され、組み換えの際に、プロモーターを持たない(プロモーターレス)選択マーカー遺伝子と期待通りに組み換えが生じた時のみ、CAG-選択マーカー遺伝子が構築され、遺伝子の発現が起こるようになっている。
(3)アルフォイド前駆体
CMV-α50(アルフォイド配列がタンデム状に配列されてなる約50kbのアルフォイドインサート(実施例1を参照)を含む)のSalI-SalI(Cos,loxP配列)を取り除いた前駆体を構築した(Δα50)。
(4)ドナープラスミド
pGK-puro(PGKプロモーター、puro遺伝子、PGK遺伝子のpolyA配列、アンピシリン耐性遺伝子、複製起点(ori)を含む大腸菌用ベクター)のHindIII-SalI断片1.2kb(puro遺伝子のcoding region)とlox66-Nlaczeo(Dr.Yamamura,Kumamoto Univ.より供与、Kimi Araki,Masatake Araki and Ken-ichi Yamamura(1997)のHindIII-XhoI断片3.0kb(lox66を含む)をライゲーションし、plox66-puroを得た。plox66-puroよりSpeI-KpnI断片1.2kb(lox66-puroカセット)を平滑末端化しpTWV229のHindIII部位に挿入した(TWV-lox-puro)。pEGFP-Cl(clontech)のAseI-MluI断片1.6kbを平滑末端化し、TWV-lox-puroのSalI部位に挿入した(Dn-EGFP)。
15-2.Lox部位を持つ人工染色体の構築
アルフォイド前駆体(Δα50)とアクセプター前駆体(BAC-bsr-lox7あるいはBAC-LCR-lox71)をHT1080細胞に共導入し、薬剤(bs)耐性細胞からFISHにより人工染色体を保有する細胞株を選び出した。
15-3.挿入部位を持つ哺乳類人工染色体へのGFP遺伝子の挿入
lox15-13細胞株(βグロビンLCR・lox71を持つ人工染色体を保有する、2x10)に1μgのpCAG-Cre(Creリコンビナーゼ遺伝子)と1μgのDn-EGFP(lox66配列とEGFP遺伝子)をリポフェクトアミンプラス試薬(インビトロジェン)を用いてトランスフェクションし、ピューロマイシンにより選択後、FISHにより挿入したEGFPが人工染色体上に存在することを確認した。
15-4.人工染色体からのEGFPの発現量の定量
ヒトβグロビンLCRを含まないアクセプター前駆体(BAC-bsr-lox7lox)を使用した場合にはDn-EGFPを挿入することに成功していないので、pEGFP-C1(Dn-EGFPの作製に用いたEGFP遺伝子)を染色体上のランダムな場所に組み込んだ安定株(pEGFPをHT1080に導入することによって得られる細胞株)と比較した。トリプシン処理により個別にした各細胞のEGFPの蛍光強度をIPLabソフト(日本ローパー)により定量した結果、人工染色体に挿入したEGFPの蛍光は染色体上数倍から十倍程度のEGFP蛍光を発していることがわかった(図19)。
本発明は、上記発明の実施の形態の説明に何ら限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。
本明細書における引用文献を以下に列挙する。
JP0004293990B2_000009t.gifJP0004293990B2_000010t.gifJP0004293990B2_000011t.gifJP0004293990B2_000012t.gifJP0004293990B2_000013t.gifJP0004293990B2_000014t.gif
【産業上の利用の可能性】
本発明によれば、目的遺伝子に加えてその本来の制御領域をも含む巨大なDNA領域を保持する哺乳類人工染色体が提供される。従って、哺乳類人工染色体に保持された遺伝子から本来の制御様式で遺伝子発現を行うことができる。
本発明の哺乳類人工染色体は、これを他の細胞に移入したり、或は胚性幹細胞などを経て個体レベルでの研究にも使用できる。従って、組織特異的遺伝子発現、経時的遺伝子発現の研究やモデル動物を使用したヒト型遺伝子の研究、薬剤(阻害剤、促進剤など)の開発などに極めて有用なツールとなる。
例えば、本発明の方法によって得られる、目的遺伝子を保持した人工染色体を保有する胚性幹細胞を利用すれば、目的遺伝子を発現するヒト人工染色体を保有した形質転換動物(キメラ動物を含む)を作出でき、単独遺伝子の発現様式を個体レベルで解析することが可能となる。また、本発明のHACを保有するクローン動物の作出も可能と考えられる。以上のようなヒト人工染色体を保有した形質転換動物は遺伝子治療のモデルとして利用され得る。更には、目的遺伝子に対する薬剤の効果を生理的条件下で解析することにも利用され得る。
本発明の哺乳類人工染色体は遺伝子治療用のベクターとしても有用である。このように、本発明の哺乳類人工染色体は、目的遺伝子に加えてその本来の制御領域をも含む巨大なDNA領域を運搬するための単純かつ一般的な方法を提供するものである。
図面
【図1】
0
【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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