TOP > 国内特許検索 > 植物の育成方法及び育成装置 > 明細書

明細書 :植物の育成方法及び育成装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第3969708号 (P3969708)
公開番号 特開2003-310058 (P2003-310058A)
登録日 平成19年6月15日(2007.6.15)
発行日 平成19年9月5日(2007.9.5)
公開日 平成15年11月5日(2003.11.5)
発明の名称または考案の名称 植物の育成方法及び育成装置
国際特許分類 A01G   7/00        (2006.01)
A01G   7/04        (2006.01)
FI A01G 7/00 601A
A01G 7/00 603
A01G 7/04 A
請求項の数または発明の数 3
全頁数 7
出願番号 特願2002-125781 (P2002-125781)
出願日 平成14年4月26日(2002.4.26)
審査請求日 平成17年3月8日(2005.3.8)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】801000027
【氏名又は名称】学校法人明治大学
発明者または考案者 【氏名】中林 和重
個別代理人の代理人 【識別番号】100107870、【弁理士】、【氏名又は名称】野村 健一
【識別番号】100098121、【弁理士】、【氏名又は名称】間山 世津子
審査官 【審査官】坂田 誠
参考文献・文献 特開平9-275779(JP,A)
特公平8-24489(JP,B2)
調査した分野 A01G 7/00
A01G 7/04
特許請求の範囲 【請求項1】
植物の葉面電位の周波数を検知し、検知された周波数の中から電位強度が最大の周波数を選択し、その周波数±35%の範囲の周波数の光刺激を植物に付与することを特徴とする植物の育成方法。
【請求項2】
光が1~5000mcdの赤色光である請求項1に記載の植物の育成方法。
【請求項3】
植物に取り付けられた二つの電極間の電位を測定する手段、電位の経時的変化を周波数別の電位強度に変換する手段、及び電位強度が最大の周波数±35%の範囲の周波数を有する光刺激を植物に付与する手段から構成される植物育成装置。
発明の詳細な説明 【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、植物の葉面電位の周波数を検知し、その周波数と同一又は近似した周波数の刺激を植物に付与し、植物を育成する方法、及びその方法のための装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
高品質の作物を安定的に生産していくためには、適切な施肥管理により最適な栄養状態を維持していくことが重要であるが、そのためには、作物の栄養状態を正確に把握することが必要である。植物体の栄養状態を診断する方法としては、肉眼によって植物体の状態を観察する方法や茎葉又はその汁液を化学的に分析する方法などがよく行われている。しかし、肉眼によって観察する方法は熟練を要し、また、化学的に分析する方法は、分析に時間がかかるという問題がある。
【0003】
最近、中林らは、特定の栄養素を不足させた条件でトマトを栽培すると、不足させた栄養素に応じた特定周波数の葉面電位が検出されることを報告している(中林和重、田中剛毅、栗田真吏、植物工場学会誌12(2):112-116. 2000)。このような特定周波数の葉面電位を利用すれば、植物の栄養状態を簡易かつ正確に診断することが可能になる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
前述した中林らの診断法により、不足している栄養素を調べ、その栄養素を土壌や養液に補充していけば、最適な栄養状態を維持して植物を育成することが可能になる。しかし、不足した栄養素を補充する作業は手間がかかり、できれば省略したい作業である。もし、特定栄養素に対する植物の取り込み能力を人為的に調節できれば、栄養素の補充作業を行うことなく、植物の栄養状態を改善できる。
【0005】
本発明は、以上のような技術的背景の下になされたものであり、不足している栄養素を正確に診断し、その栄養素を土壌や養液に補充することなく、植物の栄養状態を改善する手段を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、植物の葉面電位の周波数を検知し、その周波数と同一又は近似した周波数の刺激を植物に付与することにより、その植物の栄養状態を改善できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明は、植物の葉面電位の周波数を検知し、その周波数と同一又は近似した周波数の刺激を植物に付与することを特徴とする植物の育成方法である。
【0008】
また、本発明は、植物に取り付けられた二つの電極間の電位を測定する手段、電位の経時的変化を周波数別の電位強度に変換する手段、及び特定周波数の刺激を植物に付与する手段から構成される植物育成装置である。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0010】
本発明の植物の育成方法は、植物の葉面電位の周波数を検知し、その周波数と同一又は近似した周波数の刺激を植物に付与することを特徴とするものである。
【0011】
本発明の育成方法は、植物一般に適用することができる。具体的には、トマト、レタス、チンゲンサイなどを適用対象とすることができるが、これらに限定されるわけではない。
【0012】
葉面電位の周波数の検知は、例えば、以下のようにして行うことができる。まず、葉面電位を検知しようとする植物に基準電極と比較電極を取り付け、電極間の電位の経時的変化を測定する。電極間の電位の測定は、例えば、市販のレコーダー(例えば、NR-2000〔株式会社キーエンス〕)などを用いて行うことができる。電極は、葉面電位の測定に用いられる一般的なものでよい。次に、その測定データをFFT解析により周波数ごとの電位強度に変換し、その中から強度の高い周波数(通常は最強度の周波数)をその植物における葉面電位の周波数とする。周波数ごとの電位強度への変換は、波形解析用ソフトウェア(例えば、DADiSP〔アストロデザイン株式会社〕)がインストールされたパーソナルコンピューターを用いて行うことができる。
【0013】
なお、葉面電位の周波数の検知方法は公知であり、例えば、中林和重、松本匡史、植物工場学会誌 11(3):189‐200.1999や中林和重、田中剛毅、栗田真吏、植物工場学会誌 12(2):112‐116.2000などの文献に記載されている。
【0014】
植物に付与する刺激の周波数は、検知された葉面電位の周波数と同一の周波数とするのが原則であるが、検知された葉面電位の周波数と近似した周波数を付与してもよい。ここで、「近似した周波数」とは、例えば、検知された葉面電位の周波数の±35%の範囲の周波数が含まれる。
【0015】
付与する刺激は、植物の栄養状態を改善できるものであれば特に限定されず、磁力、電気、音、光、物理的な力などを例示できるが、これらに限定されるわけではない。
【0016】
これらの刺激は、例えば、以下のような方法で付与することができる。
(1)磁力
磁力刺激の付与方法は特に限定されず、例えば、植物に永久磁石を近づけたり遠ざけたりして機械的に作用させてもよく、また、植物の近くに設置した誘導コイルあるいは線状の導線に、間断、あるいは強弱をつけた通電をして磁界を発生させてもよい。この時に用いる電流はサイン波でもデジタル波でも矩形波でもよい。また、デューティー比は1:1000~1000:1で構わない。
【0017】
磁力刺激を付与する部位は、根部が望ましいが、地上部でも構わない。作用させる磁力は0.01~1000ミリガウスの範囲でよいが、1~20ミリガウスとした方が効果が高い。
【0018】
(2)電気
電気刺激の付与方法も特に限定されず、例えば、植物周辺の土壌中に電線を埋め、そこに交流電流を流したり、あるいは養液の入った水槽に電極を設置し、そこに交流電流を流したりしてもよい。
【0019】
電気刺激を与える部位は、植物体地上部でも根部でもよいが、養液栽培の場合には水槽内に電極を設置すれば根部だけでなく、培養液もイオンが活性化されるなどの影響を受けるので都合がよい。対になる電極は白金、銅、銀、ステンレススチール、炭素棒などが適しており、両端の電圧は0.01V~60Vが好ましい。波形は、サイン波、デジタル波、矩形波を問わず、デューティー比は1:1000~1000:1の範囲でよい。
【0020】
(3)音
音刺激の付与方法も特に限定されず、例えば、特定周波数の音を発する装置(スピーカーなど)を植物体の近傍に設置することにより、音刺激を付与できる。植物に付与する位置は、地上部が好ましいが、地下部でもよい。音刺激の強さは、0.01db~100dbでよいが、1~10dbが望ましい。
【0021】
(4)光
光刺激の付与方法も特に限定されず、例えば、一定周期、もしくは不定期で点滅する光を植物に照射すればよい。使用する光は、ストロボ光でよいが、白熱電球やLED単色光などを用いてもよい。光の波長は、可視光のほか、紫外光や赤外線も含む。可視光はどのようなものでもよいが、青色よりも赤色や黄色の光の方が好ましい。光の強さは特に限定されないが、1~5000mcd程度が好ましい。光の照射部位は、通常は地上部であるが、養液栽培の場合は、植物体の地上部だけでなく、地下部に照射してもよい。
【0022】
(5)物理的な力
物理的な力による刺激の付与方法も特に限定されず、例えば、栽培ベッドにセラミックスピーカーを取り付け、振動を発生させることにより、物理的な力による刺激を付与できる。波形は、サイン波、デジタル波、矩形波を問わず、デューティー比は1:1000~1000:1の範囲でよい。振動の強さは特に限定されないが0.01~100dBが好ましい。
【0023】
本発明の植物育成装置は、上述した植物の育成方法を実施するための装置であって、植物に取り付けられた二つの電極間の電位を測定する手段、電位の経時的変化を周波数別の電位強度に変換する手段、及び特定周波数の刺激を植物に付与する手段から構成されるものである。この装置では、まず、植物に取り付けられた二つの電極間の電位を測定する手段と電位の経時的変化を周波数別の電位強度に変換する手段により、その植物の葉面電位の周波数を検知し、次に、特定周波数の刺激を植物に付与する手段により、検知された周波数を植物に付与する。これにより、上述した本発明の植物育成方法を実施することができる。
【0024】
【実施例】
ミニトマト(チェリーゴールド(トキタ種苗))を用いて水耕栽培試験を行なった。栽培用培養液組成は園芸試験場処方の0.5単位濃度(以下標準培養液とよぶ)に準じたが、窒素(N)、リン酸(P)、カリウム(K)、マグネシウム(Mg)の濃度についてはそれぞれ標準濃度を半減させた半減区をガラス温室内に設けた。
【0025】
ミニトマトの播種1週間後に生育そろいのよい幼苗を3cm角のポリエステル製ポットに仮植して、標準培養液で育てた。その6週間後、再度、生育具合が均等な苗を選抜し、上記試験区設定に従った培養液区に移植し、2週間処理(生育)した。その直後、植物体の葉面電位測定と生重量の測定をし、葉柄汁液中の無機成分の分析を行なった。なお、温室内の温度は15℃~30℃、湿度は30%~80%で管理した。測定結果を表1に示した。
【0026】
なお、葉面電位の測定はモバイル型高速レコーダー(NR‐2000(株式会社キーエンス))を用い、サンプリング周期を200Hz、データポイント数を2000点に設定し行なった。測定用の電極(NE-301A(日本光電工業社))には、PVAを基材とし、四ホウ酸カリウムを用いた植物用PVA-Kペーストを塗り、基準電極を茎の根元に、比較電極を測定葉の先端に取り付け、その間の電位差を測定した。収集した時間軸データをWindows用ソフト(DADiSP(アストロデザイン株式会社))でFFT解析し、周波数軸に変換後、移動平均処理によりスムージングを行い、葉面電位スペクトラムデータとした。
【0027】
また、葉柄汁液中の無機成分の測定は次の方法によった。葉柄とその重量の19倍のイオン交換水を加えてミキサーで破砕し均一となるようによく混ぜ合わせ、ろ別後、ろ液を分析試料とし、硝酸態窒素はリフレクトクァント試験紙を用いて簡易比色計(RQ-Flex:MERCK社)で測定し,Pは硫酸モリブデン法で,KおよびMgは原子吸光光度計で測定した。
【0028】
【表1】
JP0003969708B2_000002t.gif【0029】
この結果から、植物の栄養欠乏の診断法としては、植物を破砕して得た汁液中の無機成分の化学分析によらずとも、葉面電位の周波数成分を測定することで植物体を非破壊のまま短時間で予測可能なことわかる。
【0030】
即ち、ミニトマトがN欠乏の時には主に14Hzと20Hzの葉面電位が、P欠乏の時には主に28Hzが、Mg欠乏の時には主に20Hzと7Hzの葉面電位が発生していることから、これらをもって栄養診断をすることが可能である。
【0031】
さらに、こうして得られた栄養診断結果をもとに、前述の播種後10週間目の栄養欠乏ミニトマトに特定の電磁気刺激を与えることによって、培養液中の当該栄養成分濃度が低くても欠乏栄養素を中心とした養分の吸収がさかんになり、栄養状態もしくは生育の回復が可能であった。これを表2に示す。
【0032】
なお、刺激の付与は次の方法によった。光刺激にはストロボ(MS-60D(島津理化器械株式会社))を用い、植物体の上方85cmの距離に設置し、午前9時から11時の2時間照射した。音刺激には光刺激に用いたストロボから同期信号を取り出し、アンプ(C-A9,B-A9(KENWOOD))で信号を増幅し、ヘッドフォン用スピーカー(RP-HT300(松下電器産業株式会社))を用い、10dBの強さで植物体の上方50cmの距離から午前9時から11時の2時間付与した。磁気刺激はエナメル線を直径5cmに30巻きしたコイルを用い、植物体の茎を囲うように取り付けた。磁力は10ミリガウスとし、午前9・10・11時からそれぞれ15分ずつ3回計45分間付与した。
【0033】
【表2】
JP0003969708B2_000003t.gif【0034】
この結果によれば、葉面電位周波数のうち14Hzと20Hzを多く出力したN欠乏株には20Hzもしくは30Hzの刺激を付与した場合に、植物体汁液中N濃度が回復し、生重量も増大・回復していることがわかる。同様に、P欠乏株には30Hzと20Hzが、Mg欠乏株には20Hzと7Hzの刺激が栄養状態の回復もしくは生育促進に効果をもつことが示された。
【0035】
【発明の効果】
本発明は、植物の新規な育成方法を提供する。この方法は、不足している栄養素に対する植物の取り込み能力を高め、不足栄養素を土壌や養液に補充することなく、植物の栄養状態を改善できる。