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明細書 :電動機の磁極位置推定方法及び装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4670044号 (P4670044)
公開番号 特開2006-230056 (P2006-230056A)
登録日 平成23年1月28日(2011.1.28)
発行日 平成23年4月13日(2011.4.13)
公開日 平成18年8月31日(2006.8.31)
発明の名称または考案の名称 電動機の磁極位置推定方法及び装置
国際特許分類 H02P   6/18        (2006.01)
FI H02P 6/02 371S
請求項の数または発明の数 14
全頁数 14
出願番号 特願2005-038221 (P2005-038221)
出願日 平成17年2月15日(2005.2.15)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 社団法人電気学会 平成16年度電気学会産業応用部門大会講演論文集(平成16年9月14日発行)
審査請求日 平成20年2月7日(2008.2.7)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】801000027
【氏名又は名称】学校法人明治大学
発明者または考案者 【氏名】久保田 寿夫
個別代理人の代理人 【識別番号】100079164、【弁理士】、【氏名又は名称】高橋 勇
審査官 【審査官】齋藤 健児
参考文献・文献 特開2005-278389(JP,A)
調査した分野 H02P 6/18
特許請求の範囲 【請求項1】
単相の三角波からなる搬送波を用いてPWM信号を得るとともに、直流電圧電源から直流電圧を入力し、前記PWM信号に応じてスイッチ素子をオンオフすることにより、突極性を有する電動機の三相巻線に前記直流電圧を三相交流電圧として出力する三相PWMインバータに併用され、前記電動機の磁極の位置を推定する方法であって、
前記PWM信号を得る際に、前記三相巻線の各相ごとに、前記搬送波の連続する三周期の期間のうち、1/3の期間で本来の指令値を三倍し、残りの2/3の期間で高周波成分を重畳させる機能を有する前記三相PWMインバータに併用され、
前記各相ごとに、前記三角波の山及び谷の時点で当該各相に流れる電流を測定し、これらの測定値の差を高調波成分とし、
これらの各相ごとの高調波成分に基づき前記電動機の磁極位置を推定する、
ことを特徴とする電動機の磁極位置推定方法。
【請求項2】
前記三相巻線をu相、v相、w相とし、
前記三周期のうち、最初の周期を第一周期、次の周期を第二周期、最後の周期を第三周期としたとき、
前記u相について、前記第一周期の山及び前記第二周期の谷の時点で測定した電流をiu-,iu+とし、これらの差を高調波成分Iuとし、
前記v相について、前記第二周期の山及び前記第三周期の谷の時点で測定した電流をiv-,iv+とし、これらの差を高調波成分Ivとし、
前記w相について、前記第三周期の山及び前記第一周期の谷の時点で測定した電流をiw-,iw+とし、これらの差を高調波成分Iwとし、
前記Iu、前記Iv及び前記Iwを所定の演算式に代入して磁極位置θを求める、
請求項1記載の電動機の磁極位置推定方法。
【請求項3】
前記三相巻線をu相、v相、w相とし、
前記三周期のうち、最初の周期を第一周期、次の周期を第二周期、最後の周期を第三周期とし、
この三周期の前後の周期を、それぞれ第零周期及び第四周期としたとき、
前記u相について、前記第一周期及び前記第零周期の谷並びに前記第三周期及び前記第二周期の山の時点で測定した電流をiu+1,iu+2,iu-1,iu-2とし、これらの差{(iu+1-iu+2)-(iu-1-iu-2)}を高調波成分Iuとし、
前記v相について、前記第二周期及び前記第一周期の谷並びに前記第四周期及び前記第三周期の山の時点で測定した電流をiv+1,iv+2,iv-1,iv-2とし、これらの差{(iv+1-iv+2)-(iv-1-iv-2)}を高調波成分Ivとし、
前記w相について、前記第三周期及び前記第二周期の谷並びに前記第二周期及び前記第一周期の山の時点で測定した電流をiw+1,iw+2,iw-1,iw-2とし、これらの差{(iw+1-iw+2)-(iw-1-iw-2)}を高調波成分Iwとし、
前記Iu、前記Iv及び前記Iwを所定の演算式に代入して磁極位置θを求める、
請求項1記載の電動機の磁極位置推定方法。
【請求項4】
前記所定の演算式が次式である、
θ=(1/2)tan-1[{Iu-(1/2)(Iv+Iw)}/{(√3/2)(Iv-Iw)}] ・・・

請求項2又は3記載の電動機の磁極位置推定方法。
【請求項5】
前記三角波の山及び谷の時点とは、当該三角波の周期をTとすると、当該山及び谷を中心とするT/2の範囲内のいずれかの時である、
請求項1乃至4のいずれかに記載の電動機の磁極位置推定方法。
【請求項6】
前記三角波に代えて鋸歯状波とした、
請求項1乃至5のいずれかに記載の電動機の磁極位置推定方法。
【請求項7】
前記電動機が埋め込み型永久磁石同期電動機である、
請求項1乃至6のいずれかに記載の電動機の磁極位置推定方法。

【請求項8】
単相の三角波からなる搬送波を用いてPWM信号を得るとともに、直流電圧電源から直流電圧を入力し、前記PWM信号に応じてスイッチ素子をオンオフすることにより、突極性を有する電動機の三相巻線に前記直流電圧を三相交流電圧として出力する三相PWMインバータに併用され、前記電動機の磁極の位置を推定する装置であって、
前記PWM信号を得る際に、前記三相巻線の各相ごとに、前記搬送波の連続する三周期の期間のうち、1/3の期間で本来の指令値を三倍し、残りの2/3の期間で高周波成分を重畳させる機能を有する前記三相PWMインバータに併用され、
前記各相の電流を測定する電流センサと、
前記各相ごとに、前記三角波の山及び谷の時点で前記電流センサを介して当該各相に流れる電流を測定し、これらの測定値の差を高調波成分とし、これらの各相ごとの高調波成分に基づき前記電動機の磁極位置を推定する演算手段と、
を備えたことを特徴とする電動機の磁極位置推定装置。
【請求項9】
前記演算手段は、
前記三相巻線をu相、v相、w相とし、
前記三周期のうち、最初の周期を第一周期、次の周期を第二周期、最後の周期を第三周期としたとき、
前記u相について、前記第一周期の山及び前記第二周期の谷の時点で測定した電流をiu-,iu+とし、これらの差を高調波成分Iuとし、
前記v相について、前記第二周期の山及び前記第三周期の谷の時点で測定した電流をiv-,iv+とし、これらの差を高調波成分Ivとし、
前記w相について、前記第三周期の山及び前記第一周期の谷の時点で測定した電流をiw-,iw+とし、これらの差を高調波成分Iwとし、
前記Iu、前記Iv及び前記Iwを所定の演算式に代入して磁極位置θを求める、
請求項8記載の電動機の磁極位置推定装置。
【請求項10】
前記演算手段は、
前記三相巻線をu相、v相、w相とし、
前記三周期のうち、最初の周期を第一周期、次の周期を第二周期、最後の周期を第三周期とし、
この三周期の前後の周期を、それぞれ第零周期及び第四周期としたとき、
前記u相について、前記第一周期及び前記第零周期の谷並びに前記第三周期及び前記第二周期の山の時点で測定した電流をiu+1,iu+2,iu-1,iu-2とし、これらの差{(iu+1-iu+2)-(iu-1-iu-2)}を高調波成分Iuとし、
前記v相について、前記第二周期及び前記第一周期の谷並びに前記第四周期及び前記第三周期の山の時点で測定した電流をiv+1,iv+2,iv-1,iv-2とし、これらの差{(iv+1-iv+2)-(iv-1-iv-2)}を高調波成分Ivとし、
前記w相について、前記第三周期及び前記第二周期の谷並びに前記第二周期及び前記第一周期の山の時点で測定した電流をiw+1,iw+2,iw-1,iw-2とし、これらの差{(iw+1-iw+2)-(iw-1-iw-2)}を高調波成分Iwとし、
前記Iu、前記Iv及び前記Iwを所定の演算式に代入して磁極位置θを求める、
請求項9記載の電動機の磁極位置推定装置。
【請求項11】
前記所定の演算式が次式
である、
θ=(1/2)tan-1[{Iu-(1/2)(Iv+Iw)}/{(√3/2)(Iv-Iw)}] ・・・

請求項9又は10記載の電動機の磁極位置推定装置。
【請求項12】
前記三角波の山及び谷の時点とは、当該三角波の周期をTとすると、当該山及び谷を中心とするT/2の範囲内のいずれかの時である、
請求項8乃至11のいずれかに記載の電動機の磁極位置推定装置。
【請求項13】
前記三角波に代えて鋸歯状波とした、
請求項8乃至12のいずれかに記載の電動機の磁極位置推定装置。
【請求項14】
前記電動機が埋め込み型永久磁石同期電動機である、
請求項8乃至13のいずれかに記載の電動機の磁極位置推定装置。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、突極性を有する電動機の磁極位置推定方法及び装置に関する。突極性を有する電動機には、埋め込み型永久磁石同期電動機やリラクタンス電動機などがある。
【背景技術】
【0002】
永久磁石を回転子内に埋め込んだ構造の埋め込み型永久磁石同期電動機(以下「IPMSM(interior permanent magnet synchronous motor)」と略称する。)は、マグネットトルクの他にリラクタンストルクも利用できるため、高効率で可変速範囲の広い電動機として、エアコンなどの家電製品、電気自動車の走行用、及び一般産業用に広く用いられている。
【0003】
IPMSMは、磁極位置に応じて電機子の電流位相を制御する必要があるので、一般にエンコーダなどの機械的センサを取り付けて磁極位置情報を得ている。しかし、機械的センサは、高価であり信頼性に欠け、また設置スペースが増加するという問題もある。そこで、IPMSM各相の交流電流を測定する電流センサのみを用いて磁極位置情報を得る、様々なセンサレス制御法が提案されている。
【0004】
その中で、搬送波周波数成分を用いることにより、停止時を含む低速時の磁極位置を推定する技術が、非特許文献1に開示されている。この非特許文献1の技術では、搬送波信号を三相三角波とすることにより、搬送波周波数成分を重畳することにより、電磁騒音を低減させている。
【0005】
また、インバータに供給される直流電流に基づき磁極位置を推定する技術が、非特許文献2に開示されている。
【0006】
更に、停止時及び低速時に磁極位置推定を可能とするため、高周波成分やパルス上のパイロット電圧を加える方法が知られている。IPMSMでは、突極性があることにより、dq軸のインダクタンスが異なる。そのため、高周波成分によってそれぞれインダクタンスを検出できるので、磁極位置推定が可能となる。例えば、間欠的にパイロット電圧を印加して、電流変化率から磁極位置を推定する方法が、非特許文献3に開示されている。
【0007】

【非特許文献1】小山、樋口、阿部他「PWMインバータのキャリア周波数成分を用いたIPMモータのセンサレス制御の推定精度改善」、平成14年電気学会産業応用部門大会、No.149
【非特許文献2】川端、遠藤、高倉「位置センサレス・モータ電流センサレス永久磁石同期モータ制御に関する検討」、平成14年電気学会産業応用部門大会、No.171
【非特許文献3】M.Scroedl,1996 IEEE IAS Annual Meeting,PP.270-277
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、非特許文献1の技術では、電流検出を搬送波の十倍程度の頻度で行う必要がある、バンドパスフィルタを必要とする、常時高周波成分を印加する必要がある、などの欠点がある。
【0009】
また、高周波成分として、搬送波周波数よりも十分に低い周波数の正弦波を加える方法では、電流検出は通常のPWM制御と同様、1サンプリングに一度で済むが、特定の周波数成分を抽出するためのバンドパスフィルタを必要とする、電磁騒音が発生する、常時高周波成分を印加する必要がある、などの欠点がある。
【0010】
非特許文献2の技術では、機械的センサもホールセンサも不要となり、安価なシャント抵抗器で直流電流を測定することができる。しかしながら、磁極位置の推定に速度起電力を用いているので、原理的に低速時及び停止時には使用できない。
【0011】
一方、非特許文献3の技術では、パイロット電圧印加時の電流検出が複雑となる、パイロット電圧印加時には電流制御ができない、などの欠点がある。
【0012】
そこで、本発明の目的は、バンドパスフィルタが不要であり、かつ高周波成分を常時印加する必要がなく、しかも低速時及び停止時でも磁極位置を正確に推定できる、電動機の磁極位置推定方法及び装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る磁極位置推定方法及び装置が併用される三相PWMインバータは、単相の三角波からなる搬送波を用いてPWM信号を得るとともに、直流電圧電源から直流電圧を入力し、PWM信号に応じてスイッチ素子をオンオフすることにより、突極性を有する電動機の三相巻線に直流電圧を三相交流電圧として出力するものである。そして、PWM信号を得る際に、三相巻線の各相ごとに、搬送波の連続する三周期の期間のうち、1/3の期間で本来の指令値を三倍し、残りの2/3の期間で高周波成分を重畳させる機能を有するものである。これにより、PWM信号には、搬送波の1/3の周波数の高周波成分が重畳される。そのため、各相に流れる電流にも高周波成分が発生する。
【0014】
そして、本発明に係る磁極位置推定方法は、次のようなステップからなる。まず、各相ごとに、三角波の山及び谷の時点で当該各相に流れる電流を測定し、これらの測定値の差を高調波成分とする。続いて、これらの各相ごとの高調波成分に基づき、電動機の磁極位置を推定する。また、本発明に係る磁極位置推定装置は、電流センサと演算手段とを備えている。電流センサは、各相の電流を測定する。演算手段は、各相ごとに、三角波の山及び谷の時点で電流センサを介して当該各相に流れる電流を測定し、これらの測定値の差を高調波成分とし、これらの各相ごとの高調波成分に基づき電動機の磁極位置を推定する。
【0015】
より具体的に言えば、例えば次のようなステップ又は動作になる。三相巻線をu相、v相、w相とし、搬送波の三周期のうち、最初の周期を第一周期、次の周期を第二周期、最後の周期を第三周期とする。まず、u相について、第一周期の山及び第二周期の谷の時点で測定した電流をiu-,iu+とし、これらの差を高調波成分Iuとする。同様に、v相について、第二周期の山及び第三周期の谷の時点で測定した電流をiv-,iv+とし、これらの差を高調波成分Ivとする。w相について、第三周期の山及び第一周期の谷の時点で測定した電流をiw-,iw+とし、これらの差を高調波成分Iwとする。最後に、Iu、Iv及びIwを所定の演算式に代入して磁極位置θを求める。
【0016】
又は、三相巻線をu相、v相、w相とし、搬送波の三周期のうち、最初の周期を第一周期、次の周期を第二周期、最後の周期を第三周期とし、この三周期の前後の周期を、それぞれ第零周期及び第四周期とする。まず、u相について、第一周期及び第零周期の谷並びに第三周期及び第二周期の山の時点で測定した電流をiu+1,iu+2,iu-1,iu-2とし、これらの差{(iu+1-iu+2)-(iu-1-iu-2)}を高調波成分Iuとする。同様に、v相について、第二周期及び第一周期の谷並びに第四周期及び第三周期の山の時点で測定した電流をiv+1,iv+2,iv-1,iv-2とし、これらの差{(iv+1-iv+2)-(iv-1-iv-2)}を高調波成分Ivとする。w相について、第三周期及び第二周期の谷並びに第二周期及び第一周期の山の時点で測定した電流をiw+1,iw+2,iw-1,iw-2とし、これらの差{(iw+1-iw+2)-(iw-1-iw-2)}を高調波成分Iwとする。最後に、Iu、前記Iv及び前記Iwを所定の演算式に代入して磁極位置θを求める。
【0017】
ここで、所定の演算式とは、例えば次式である。
【0018】
θ=(1/2)tan-1[{Iu-(1/2)(Iv+Iw)}/{(√3/2)(Iv-Iw)}] ・・・

【0019】
また、三角波の山及び谷の時点とは、例えば三角波の周期をTとすると、山及び谷を中心とするT/2の範囲内のいずれかの時であるとしてもよく、三角波に代えて鋸歯状波としてもよく、電動機が埋め込み型永久磁石同期電動機であるとしてもよい。
【0020】
本発明では、三角波の山と谷で電流を測定し、三角波の三周期又は四周期に得られる六点又は八点の電流情報に基づき計算により磁極位置を求める。この方法は、突極性に基づいているので、停止時及び低速時に使用可能である。また、上式
は、測定値のみからなるので、パラメータ誤差の影響を受けない。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、三角波の山及び谷の時点でインバータに供給される電流を測定し、これらの測定値の差を各相ごとの高調波成分とし、これらの高調波成分に基づき磁極位置を推定することにより、バンドパスフィルタが不要であり、かつ高周波成分を常時印加する必要がなく、しかも低速時及び停止時にも磁極位置を正確に推定できる(図5参照)。また、単純な演算式(式
)を用いることにより、処理に要する時間を短縮できるので、今までに無い高速制御を実現できる。また、高周波成分を常時印加する必要がないので、高周波成分を常時印加する場合に比べて、騒音の低減、効率の改善、トルクリプルの低減等の効果も奏する。
【0022】
その結果、低価格の可変速駆動装置の速度制御範囲を大幅に広げることができる。この応用製品としては、エアコンなどの家電製品や電動パワステアリングなどの自動車用機器が考えられる。このとき、停止時を含めた低速域において滑らかな運転が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
図1は、本発明に係る磁極位置推定装置の第一実施形態を示すブロック図である。以下、この図面に基づき説明する。なお、本発明に係る磁極位置推定方法については、本実施形態の磁極位置推定装置の動作として説明する。
【0024】
本実施形態の磁極位置推定装置40が併用される三相PWMインバータ10は、単相三角波からなる搬送波と三相正弦波からなる信号波とを用いてPWM信号を得るとともに、直流電圧電源20から直流電圧を入力し、PWM信号に応じてスイッチ素子をオンオフすることにより、IPMSM30の三相巻線に直流電圧を三相交流電圧として出力するものである。このとき、三相PWMインバータ10は、PWM信号を得る際に、三相巻線の各相ごとに、搬送波の連続する三周期の期間のうち、1/3の期間で本来の指令値を三倍し、残りの2/3の期間で高周波成分を重畳させる。これにより、PWM信号には、搬送波の1/3の周波数の高周波成分が重畳される。その結果、各相に流れる電流にも高周波成分が発生する。
【0025】
三相PWMインバータ10は、マイクロコンピュータ又はDSPを中心に構成された制御部11と、スイッチ素子12u+,12u-,12v+,12v-,12w+,12w-からなるスイッチ部12とを備えている。スイッチ素子12u+,…は、例えばIGBT(insulated
gate bipolar transistor)であり、三相ブリッジ回路を構成する。制御部11は、磁極位置推定装置40の一部としての機能の他に、IPMSM30の一般的な制御機能を有する。その一般的な制御機能については、周知であるので説明を省略する。
【0026】
直流電圧電源20は、商用交流電源21、整流回路22、平滑コンデンサ23等からなる一般的なものである。IPMSM30は、三相巻線であるu相31u、v相31v及びw相31wと、永久磁石を埋め込んだ構造の回転子32とからなる一般的なものである。
【0027】
磁極位置推定装置40は、ホールセンサ等の電流センサ41u,41vと、制御部11の一機能としてソフトウェアによって実現されている演算手段42とを備えている。電流センサ41u,41vは、それぞれu相31u、v相31vに流れる電流を測定する。u相31u、v相31v及びw相31wはY結線で接続されているので、u相31u、v相31vに流れる電流がわかれば、w相31wに流れる電流も自ずとわかる。ホールセンサから成る電流センサ41u,41vは、スイッチ部12とIPMSM30との間の配線に挿入され、電流に応じて発生した起電力を制御部11へ出力する。
【0028】
図2は、本実施形態における単相三角波、各相への指令値、上下アームのスイッチ状態、及び瞬時空間電圧ベクトルの相互関係を示す波形図である。図3[1]は本実施形態における瞬時空間電圧ベクトル図、図3[2]は本実施形態における搬送波三周期分の電圧指令を示す図表である。以下、図1乃至図3に基づき説明する。
【0029】
制御部11は、単相の三角波Cからなる搬送波と三相の正弦波Su,Sv,Sw(図示せず)からなる信号波とを比較しつつ図3[2]に基づいてPWM信号を得るとともに、そのPWM信号に応じてスイッチ素子12u+,…をオンオフする。その結果、相電圧vu,vv,vw及び線間電圧vuv,vvw,vwu(図示せず)が得られる。図3[2]において、指令値のαは、変調率であり、すなわち-1以上かつ1以下である。「α=1」のとき常に上アームオンであり、「α=-1」のとき常に下アームオンである。搬送波の連続する三周期の期間のうち、1/3の期間で本来の指令値(vu0*,vv0*,vw0*)の3倍の値を入力する理由は、高周波成分を重畳させるためにその前後の2/3の期間で「α」+「-α」=0すなわち変調率が実質的に0になるから、元の電圧指令通りの電圧を平均値として加えるためである。
【0030】
このとき、演算手段42は次のように動作する。三角波Cの連続する三周期のうち、最初の周期を周期T1、次の周期を周期T2、最後の周期を周期T3とする。そして、u相31uについて、周期T1の山及び周期T2の谷の時点で測定した電流をiu-,iu+とし、これらの差を高調波成分Iuとする。同様に、v相31vについて、周期T2の山及び周期T3の谷の時点で測定した電流をiv-,iv+とし、これらの差を高調波成分Ivとする。同様に、w相31wについて、周期T3の山及び周期T1の谷の時点で測定した電流をiw-,iw+とし、これらの差を高調波成分Iwとする。最後に、磁極位置θを前述の式
によって求める。
【0031】
PWM発生用の搬送波を単相の三角波Cにし、図3[2]に基づいてスイッチ素子12u+,…をオンオフすることにより、高周波成分が発生する。本実施形態では、三角波Cの山と谷で各相の電流を測定し、三角波Cの三周期T1~T3で得られる六点の電流情報iu-,iu+,iv-,iv+,iw-,iw+に基づき計算により磁極位置θを求める。この方法は、突極性に基づいているので、低速時及び停止時に使用可能である。また、上式
は、測定値のみからなるので、パラメータ誤差の影響を受けない。
【0032】
図4[1]はα-β座標系における磁極位置θを示すグラフであり、図4[2]は本実施形態における単相三角波と電流の測定タイミングとを示す波形図である。以下、図1乃至図4に基づき、上式
の導出方法について説明する。なお、図4[2]には、参考のため、三相三角波Cu,Cv,Cwを単相三角波Cに重ねて表示している。
【0033】
IPMSMの一般的な電圧方程式は、α-β座標系で次式<1>のように表すことができる。
【0034】
【数1】
JP0004670044B2_000002t.gif
ただし、L0=(Ld+Lq)/2、L1=(Ld-Lq)/2、Ld:d軸インダクタンス、Lq:q軸インダクタンス、R:電機子巻線抵抗、Ψ:永久磁石による界磁磁束である。
【0035】
ここで、モータ回転角周波数ω1に対して十分大きい搬送波角周波数ωhを設定し、搬送波周波数成分について考える。すると、式<1>の右辺第1項の電機子巻線抵抗による電圧降下は、高周波電流による電機子巻線のリアクタンス電圧降下に比べ十分小さいので、無視できる。右辺第3項のインダクタンスの変化による電圧降下は、印加電圧の変化に対してインダクタンスの変化が十分に小さいため、無視できる。右辺第4項の速度起電力は、回転子位置の変化も十分に小さいため、無視できる。
【0036】
したがって、α-β座標系における搬送波周波数の高周波電圧に対する電圧方程式は、次式<2>で表すことができる。
【0037】
【数2】
JP0004670044B2_000003t.gif
ここで、添え字hは搬送波周波数成分であることを示す。
【0038】
そして、各相の高調波電圧が対称波であるとし、式<2>を電流について解くと、各相それぞれの電流解を得ることができる。続いて、求めた電流から各相それぞれ測定値の差分をとって基本波成分を除去することにより、磁極位置推定に必要な電流を求める。なお、この磁極位置推定法はパラメータ誤差の影響を受けない。以下に詳しく説明する。
【0039】
式<2>は、次式<3>のように書き換えることができる。
【0040】
【数3】
JP0004670044B2_000004t.gif
ただし。Δ=L0-L1である。
【0041】
ここで、図4[2]に、単相三角波からなる搬送波と電流測定のタイミングとを示している。測定点↓近辺とは、三角波の一周期をTとすると、三角波の山及び谷を中心とするT/2(すなわち左右にT/4ずつ)の範囲内のことである。
【0042】
ここで、各相の高周波電圧が対称波であるとする。このことは、基本波が小さいほど成り立つ。つまり、
【0043】
【数4】
JP0004670044B2_000005t.gif
となる。そして、iαhは、式<3>,<4>から次のように表せる。
【0044】
diαh/dt=Vh{(L0-L1cos2θ)cosωht-L1sin2θ・sinωht} ・・・<5>
∴iαh=(Vh/ωhΔ){(L0-L1cos2θ)sinωht+L1sin2θ・cosωht} ・・・<6>
【0045】
図2[2]の測定点↓は、対応する相のωht=0及びπである。そのため、u相では、式<6>にωht=0,πを代入して、
iuh=(Vh1/ωhΔ)(±L1sin2θ) ・・・<7>
となる。ただし、+:ωht=0、-:ωht=π、Vh1は相電圧の搬送波周波数成分である。
【0046】
続いて、式<7>で示される±の二つの測定値の差分をとって、
2Iuh=(2Vh1/ωhΔ)L1sin2θ ・・・<8>
が得られる。v相、w相についても同様に考えると、測定点↓の位置での測定値により、
2Ivh=(2Vh1/ωhΔ)L1sin2(θ-2π/3) ・・・<9>
2Iwh=(2Vh1/ωhΔ)L1sin2(θ+2π/3) ・・・<10>
が得られる。
【0047】
そして、式<8>~<10>により、
Iuh+(-1/2+j√3/2)Ivh+(-1/2-j√3/2)Iwh=(3/2)(Vh1/ωhΔ)(sinδ+jcosδ) ・・・<11>
が得られる。ただし、δ=2θとする。
【0048】
よって、式<11>により、
δ=2θ=tan-1(実部)/(虚部) ・・・<12>
として磁極位置θが求められる。
【0049】
すなわち、式<12>は次のようになる。
【0050】
θ=(1/2)tan-1[{Iu-(1/2)(Iv+Iw)}/{(√3/2)(Iv-Iw)}] ・・・
ただし、式
では、添え字hを省略して簡潔に表記している。
【0051】
以下に、本実施形態について幾つか補足する。
【0052】
(1).各相の高調波成分は、ω1<<ωhの範囲において
|vuh|=(2E/π)cos(πvu/2E) ・・・<13>
|vvh|=(2E/π)cos(πvv/2E) ・・・<14>
|vwh|=(2E/π)cos(πvw/2E) ・・・<15>
となる。ただしE:Edc/2である。vu,vv,vwは、瞬時値であり、符号も考慮する。よって、5%の誤差範囲は、
|vu/E|≦0.202 ・・・<16>
となる。10%の誤差範囲は、
|vu/E|≦0.287 ・・・<17>
となる。
【0053】
(2).元の電圧指令通りの電圧を平均値として加えるためには、
|vu|<E/3=0.333E ・・・<18>
である。又は、図4[2]に示す単相三角波Cの振幅は、三相正弦波の振幅の三倍よりも大きくする。
【0054】
(3).式<8>~<10>などのようにωhが分母に有るので、ωhが大き過ぎると検出精度が下がる。
【0055】
(4).各相の電流(基本波成分)は、対応する二点の平均値をとる。
【0056】
(5).電圧が大きくなる範囲では、誘起電圧情報を利用する。
【0057】
次に、本発明に係る磁極位置推定方法及び装置の第二実施形態を説明する。第一実施形態と異なる部分は、演算手段の動作だけであるので、図1乃至図3に基づき説明する。
【0058】
本実施形態の演算手段42は次のように動作する。図2に示すように、三角波Cの連続する三周期のうち、最初の周期を周期T1、次の周期を周期T2、最後の周期を周期T3とし、この三周期の前後の周期をそれぞれ周期T0及び周期T4とする。そして、u相31uについて、周期T1及び周期T0の谷並びに周期T3及び周期T2の山の時点で測定した電流をiu+1,iu+2,iu-1,iu-2とし、これらの差{(iu+1-iu+2)-(iu-1-iu-2)}を高調波成分Iuとする。同様に、v相31vについて、周期T2及び周期T1の谷並びに周期T4及び周期T3の山の時点で測定した電流をiv+1,iv+2,iv-1,iv-2とし、これらの差{(iv+1-iv+2)-(iv-1-iv-2)}を高調波成分Ivとする。w相31wについて、周期T3及び周期T2の谷並びに周期T2及び周期T1の山の時点で測定した電流をiw+1,iw+2,iw-1,iw-2とし、これらの差{(iw+1-iw+2)-(iw-1-iw-2)}を高調波成分Iwとする。最後に、磁極位置θを前述の式
によって求める。本実施形態も、第一実施形態と同等の効果を奏する。
【0059】
次に、本発明について、別の観点から別の表現を用いて、もう一度説明する。
【0060】
本発明では、搬送波信号の1/3の周波数成分を重畳することにより、搬送波の山と谷での電流検出のみでよく、バンドパスフィルタを不要とする磁極位置推定方法を提供する。バンドパスフィルタを用いないことから、高周波成分は間欠的に加えることも可能である。
【0061】
1.磁極位置推定のためのPWM波形及び電流検出
【0062】
1/3搬送波周波数成分を重畳するために、搬送波3周期分を1セットとし、これを6分割する。図3[2]に搬送波3周期分の各相の電圧指令を示す。各相ごとに、1/3の期間は本来の指令値(vu0*,vv0*,vw0*)を3倍し、残りの2/3の期間は重畳させる高周波成分とする。重畳成分は大きさαの矩形波状となる。
【0063】
図2に、各相の電圧指令を零、αをEdc/4(変調率0.5)としたときの搬送波波形とPWM信号を示す。瞬時空間ベクトル0~7は図3[1]に示すものである。図2中の搬送波信号に○印で示したA~Hは電流検出のタイミングを示しており、一般的なPWMによる電流制御の場合と同様、搬送波信号の山及び谷で検出する。
【0064】
2.磁極位置推定方法
【0065】
上述のPWM信号及び検出タイミングで測定した電流から磁極位置を推定する方法を説明する。高周波成分を矩形波と考えるか、正弦波と考えるかによって、次の二種類の推定方法がある。
【0066】
2-1.高周波成分を矩形波と考えた場合の推定方法(第二実施形態)
【0067】
重畳した成分を矩形波と考え、パルス電圧印加時の電流変化率による磁極位置推定方法(非特許文献3)を参考にする。非特許文献3では、一つの空間ベクトルを印加中に二度電流検出を行い、連続した二点の検出値の差分により、電流変化率を求めている。これに対し、本発明では、搬送波の山と谷で電流検出を行い、搬送波一周期平均の電流変化率を用いる。図2に示すA点からH点で検出した電流を用いて、次のように磁極位置を推定する。
【0068】
1(2θ)=K1{cos(-2θ)+jsin(-2θ)}
=ΔΔiu+ΔΔivej2/3π+ΔΔiwe-j2/3π ・・・<21>
ただし、ΔΔiu=(iuC-iuA)-(iuF-iuD
ΔΔiv=(ivE-ivC)-(ivH-ivF
ΔΔiw=(iwG-iwE)-(iwD-iwB
θは磁極位置であり、添字A~Hは図2中の電流検出タイミングを示す。式<21>の実部と虚部の比によって、磁極位置を求めることができる。
【0069】
2-2.高周波成分を正弦波と考えた場合の推定方法(第一実施形態)
【0070】
重畳した成分を正弦波と考え、各相に重畳した搬送波の1/3周波数成分の正弦波電圧のピークにおける検出電流から含まれる高周波電流の大きさを求め、磁極位置を推定する。高周波電流を抽出するために、高周波電圧の正負それぞれのピークにおける電流の差分をとる。図2に示すB点からG点で検出した電流を用いて、以下のように磁極位置を推定する。
【0071】
2(2θ)=K2{sin(2θ)+jcos(2θ)}
=Δiu+Δivej2/3π+Δiwe-j2/3π ・・・<22>
ただし、Δiu=iuB-iuE
Δiv=ivD-ivG
Δiw=iwF-iwC
式<22>の実部と虚部の比によって、磁極位置を求めることができる。
【0072】
なお、αをEdc/2とし、高周波成分印加時の変調率を1とすると、インバータ直流部電流(図1のidc)のみで検出すべき相の電流が把握できる。
【0073】
3.まとめ
【0074】
本発明に係るIPMSMの磁極位置推定方法よれば、PWM搬送波信号の1/3の周波数成分を重畳することにより、次の特長を有する。
【0075】
1)バンドパスフィルタを必要としない。
2)電流検出は搬送波信号の山及び谷のみで行う。
3)高周波成分を常時印加する必要は無い。
4)インバータ直流部電流のみを検出するシステムにも適用可能である。
【0076】
なお、本発明では、電圧指令の最大値が従来の1/3となるため、中・高速域では速度起電力を利用した方法などの別の磁極位置推定方法に切り替えてもよい。
【実施例1】
【0077】
次に、本発明に係る磁極位置推定方法及び装置の実機実験結果を、実施例1として説明する。
【0078】
図5[1][2]にそれぞれ、第一及び第二実施形態で述べた方法による磁極位置推定結果を示す。試料機は、富士電機製1.5kW、90HzのIPMSM(GNA152GA1-M2G)を用いた。実験では、V/f制御によるオープンループ制御でモータを駆動し、磁極位置を推定した。無負荷で基本波の周波数は5Hzで運転し、高周波成分の大きさαはEdc/4とした。いずれの方法も磁極位置を推定できていることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】本発明に係る磁極位置推定装置の第一及び第二実施形態を示すブロック図である。
【図2】本実施形態における単相三角波、各相への指令値、上下アームのスイッチ状態、及び瞬時空間電圧ベクトルの相互関係を示す波形図である。
【図3】図3[1]は本実施形態における瞬時空間電圧ベクトル図であり、図3[2]は本実施形態における搬送波三周期分の電圧指令を示す図表である。
【図4】図4[1]はα-β座標系における磁極位置θを示すグラフであり、図4[2]は本実施形態における単相三角波と電流の測定タイミングとを示す波形図である。
【図5】第一及び第二実施形態における実機実験結果を示す波形図である。
【符号の説明】
【0080】
10 三相PWMインバータ
11 制御部
12 スイッチ部
12u+,12u-,12v+,12v-,12w+,12w- スイッチ素子
20 直流電圧電源
21 商用交流電源
22 整流回路
23 平滑コンデンサ
30 IPMSM
31u u相
31v v相
31w w相
32 回転子
40 磁極位置推定装置
41u,41v 電流センサ
42 演算手段
θ 磁極位置
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4