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明細書 :コロイダル金属含有漆系塗料及び漆塗装材

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第3894225号 (P3894225)
登録日 平成18年12月22日(2006.12.22)
発行日 平成19年3月14日(2007.3.14)
発明の名称または考案の名称 コロイダル金属含有漆系塗料及び漆塗装材
国際特許分類 C09D 193/00        (2006.01)
C09D   7/12        (2006.01)
C09D 183/04        (2006.01)
B32B  17/06        (2006.01)
B32B  21/04        (2006.01)
B32B   9/02        (2006.01)
FI C09D 193/00
C09D 7/12
C09D 183/04
B32B 17/06
B32B 21/04
B32B 9/02
請求項の数または発明の数 10
全頁数 12
出願番号 特願2005-517939 (P2005-517939)
出願日 平成17年2月8日(2005.2.8)
国際出願番号 PCT/JP2005/001809
国際公開番号 WO2005/078031
国際公開日 平成17年8月25日(2005.8.25)
優先権出願番号 2004039143
優先日 平成16年2月17日(2004.2.17)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成18年8月25日(2006.8.25)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】801000027
【氏名又は名称】学校法人明治大学
発明者または考案者 【氏名】宮腰 哲雄
【氏名】永瀬 喜助
早期審査対象出願または早期審理対象出願 早期審査対象出願
個別代理人の代理人 【識別番号】100101719、【弁理士】、【氏名又は名称】野口 恭弘
審査官 【審査官】滝口 尚良
参考文献・文献 特開昭59-6234(JP,A)
特開平5-320576(JP,A)
特開2002-3720(JP,A)
特開2002-327148(JP,A)
特開2003-55558(JP,A)
特開2003-306640(JP,A)
特開平11-80647(JP,A)
特開平11-236521(JP,A)
調査した分野 CA(STN)
JSTPlus(JDream2)
C09D 1/00- 10/00
C09D101/00-201/10
特許請求の範囲 【請求項1】
天然産の生漆又は精製漆、および
金属コロイド粒子を含有することを特徴とする
漆系塗料。
【請求項2】
精製漆および貴金属コロイド粒子の混合物であって、平均水滴粒径が0.1~3μmである請求項1記載の漆系塗料。
【請求項3】
精製漆が無油透漆又は有油透漆である請求項1又は2記載の漆系塗料。
【請求項4】
金属コロイド粒子が金コロイド粒子、銀コロイド粒子又は白金族コロイド粒子よりなる群より選ばれた貴金属コロイド粒子である請求項1~3いずれか1つに記載の漆系塗料。
【請求項5】
金属コロイド粒子が金コロイド粒子または銀コロイド粒子である請求項1~4いずれか1つに記載の漆系塗料。
【請求項6】
顔料分散安定剤により分散安定化された金属コロイド粒子である請求項1~5いずれか1つに記載の漆系塗料。
【請求項7】
有機酸を加えることにより塗料のpHを4~5に調節した請求項1~6いずれか1つに記載の漆系塗料。
【請求項8】
アルコキシシラン類を添加した請求項1~6いずれか1つに記載の漆系塗料。
【請求項9】
請求項1~8いずれか1つに記載の漆系塗料で塗装された漆塗装材。
【請求項10】
木製品又はガラス製品である請求項9記載の漆塗装材。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は漆系塗料(Rhus Lacquer, Urushi Lacquer, Oriental Lacquer)に関し、さらに詳しくは、天然産の生漆液と金コロイド溶液や銀コロイド溶液などの貴金属コロイド溶液等を混合した漆系塗料またはこの塗料を混練し脱水精製して得られる精製漆系塗料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
天然の漆液(うるし)は油中水滴型のエマルションであり、ウルシオール(脂質成分)、ゴム質(多糖)、含窒素物(糖蛋白)、ラッカーゼ(酵素)及び水で構成されている。漆液の化学については、多くの報告があり、非特許文献1~4の報告が含まれる。
【0003】
生漆エマルションの水滴粒径は約10マイクロメータ(μm)であるが、「ナヤシ」によるかき混ぜて練る操作及び「クロメ」による加熱処理をして水分を低減した精製漆の平均水滴粒径は約1μmである。これを塗膜にして高湿度の漆室中に静置すると、水滴中に含まれるラッカーゼ酵素がウルシオールを酸化し、ウルシオールキノンの生成、ジベンゾフランの生成、キノン-オレフィン付加重合物の生成などが進行する。また、これらの反応による抗酸化力の減少により側鎖の不飽和結合の自動酸化反応も進行し、乾燥硬化した漆塗膜が得られる(図1及び2の反応スキームを参照のこと;側鎖の自動酸化反応は、実際には、ウルシオールオリゴマーやウルシオールポリマーの状態で進行する。)。
漆塗膜はふっくら感、しっとり感、深み感などの高級感を発現し数千年の保存に耐えることは周知の事実であるが、エマルションの分散粒径が比較的大きいために塗膜の光沢は低くなる。このために重合荏油やロジン変性重合亜麻仁油などを混合したり、乾燥塗膜表面の水研ぎ、胴刷りによる蝋色仕上げにより漆塗膜に光沢を付与することが行われている。
【0004】

【非特許文献1】永瀬喜助、神谷幸男、木村徹、穂積賢吾、宮腰哲雄、日化、No.10, 587(2001)
【非特許文献2】永瀬喜助、神谷幸男、穂積賢吾、宮腰哲雄、日化、No.3, 377(2002)
【非特許文献3】永瀬喜助著、「漆の本」(研成社)昭和61(1986)年9月発行
【非特許文献4】宮腰哲雄、永瀬喜助、吉田孝編・著「漆化学の進歩」、(株式会社アイピーシー)平成12(2000)年5月発行
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする一つの課題は、漆塗膜に対する優れた光沢の付与と乾燥性の向上、および耐光性の改善である。さらに別の課題は、環境対応型の白檀塗装や玉虫塗りなど高級塗装材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の上記課題は以下の手段(項1))により解決された。以下に好ましい実施態様項2)~10)とともに列記する。
項1)天然産の生漆又は精製漆および金属コロイド粒子を含有することを特徴とする漆系塗料、
項2)精製漆および金属コロイド粒子の混合物であって、平均水滴粒径が0.1~3μmである項1)記載の漆系塗料、
項3)精製漆が無油透漆又は有油透漆である項1)又は2)に記載の漆系塗料、
項4)金属コロイド粒子が、金コロイド粒子、銀コロイド粒子又は白金族コロイド粒子よりなる群より選ばれた貴金属コロイド粒子である項1)~3)いずれか1つに記載の漆系塗料、
項5)金属コロイド粒子が金コロイド粒子または銀コロイド粒子である項1)~4)いずれか1つに記載の漆系塗料、
項6)顔料分散安定剤により分散安定化された金属コロイド粒子である項1)~5)いずれか1つに記載の漆系塗料、
項7)有機酸を加えることにより塗料のpHを4~5に調節した項1)~6)いずれか1つに記載の漆系塗料、
項8)アルコキシシラン類を添加した項1)~6)いずれか1つに記載の漆系塗料、
項9)項1)~8)いずれか1つに記載の漆系塗料で塗装された漆塗装材、
項10)木製品又はガラス製品である項9)記載の漆塗装材。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係るコロイダル貴金属含有漆は、硬化時間が短く、光沢のある深みを帯びた赤色又は黄色の漆塗膜を発現するのみならず塗膜耐光性の向上が達成できた。本発明の漆塗料は、貴金属コロイド色を利用した漆の高級塗装を可能にし、さらには環境対応型のエコロジカルな自然系塗料として作用する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】ウルシオールの常温反応図を示し、ラッカーゼ酵素によるカテコール環の酸化反応を模式的に示す。
【図2】ウルシオールの常温反応図を示し、ウルシオール側鎖の不飽和結合の自動酸化反応を模式的に示す。

【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に本発明を詳細に説明する。
本発明の漆系塗料は、生漆液(油中水滴型(W/O型)エマルション)に金属コロイド粒子又は金属コロイド溶液を混合して得られる混合物を、好ましくは撹拌等により微粒化することにより製造される。ここで「微粒子化」とは、漆エマルションにおける平均水滴粒径を3μm以下にすること、好ましくは0.1~3μmにすること、より好ましくは0.1~1μmにすることを言う。ここで平均水滴粒径は、数平均を意味する。
本発明の漆系塗料は、後述のナヤシ操作又は更にクロメ処理により得られる微粒子化した精製漆に貴金属コロイド粒子又は貴金属コロイド溶液を混合することによっても得られる。微粒子化は上述と同義である。
本発明に使用する生漆及び精製漆に関する用語は、日本工業規格JISK5950に従う。
また「コロイド」とは、コロイド溶液又はコロイド粒子を意味する。
【0010】
金属コロイドは、卑金属コロイドと貴金属コロイドに大別される。貴金属は、金、銀、白金族を意味し、卑金属とは貴金属以外の金属を意味する。貴金属は、空気中で酸化されにくく、金属光沢又はコロイダル金属としての色合いを保つので本発明に好ましく使用できる。貴金属コロイドについては後述する。
本発明に使用することができる卑金属コロイド溶液としては、マグネシウム、アルミニウム、銅、チタン、マンガン、鉄、コバルト、亜鉛、及びスズの各コロイド溶液が例示できる。卑金属のナノオーダーのコロイド粒子を直接精製漆に混合することもできる。これらのナノ粒子は、瞬間気相生成法等により製造することができる。
【0011】
原料の生漆は、通常20~30重量%の水分を含み、またエマルションのサイズも大きいために、そのままでは流展性が乏しく、仮に塗装しても光沢がなく平滑でない塗膜を与えるに過ぎない。生漆を木製の底の浅い容器に入れて擦り込むと、複合成分が均一に分散され、エマルションの微粒子化が達成できる。この処理を「ナヤシ」ともいう。さらに均一分散と同時に輻射線で加熱して、過剰な水分を除去することにより、流展性を付与することも広く行われる。この処理を「クロメ」とも称する。クロメ処理により得られる脱水精製漆をクロメ漆という。クロメは、漆液中のラッカーゼ酵素が失活しないように、温度を45℃以下に保って行われる。脱水の程度も、ラッカーゼ酵素が失活しないように、約3%程度の水分を残すように行われる。
脱水精製した漆は、そのまま透漆(すきうるし)として使用することが好ましい。脱水精製した漆に、鉄粉又は水酸化鉄で黒く着色した後固形分を除いた黒漆として使用することもできる。
透漆又は黒漆のいずれもそのまま無油漆(「すぐろめ漆」ともいう。)として使用できる他に、又、アマニ油や荏油(重合荏油やロジン変性重合亜麻仁油を含む。)などの乾性油を加えた有油漆としても使用することができる。無油透漆には、梨地漆、木地蝋漆(きじろううるし)、箔下漆、中塗漆、艶消漆、及び釦漆(いつかけうるし)が含まれるが、箔下漆が好ましく用いられる。有油透漆としては、春慶漆、朱合漆(しゅあいうるし)、中花漆、並花漆、塗立漆(ぬりたてうるし)、及び留漆が含まれるが、朱合漆を好ましく使用することができる。
【0012】
本発明において、生漆を使用する替わりに、上記の「ナヤシ」または「クロメ」処理を施したナヤシ漆又はクロメ漆の精製漆を使用することが好ましい。クロメ漆や朱合漆と貴金属コロイド溶液又は貴金属コロイド粒子を混合して容易に微粒子化したコロイダル貴金属含有漆系塗料を製造することもできる。
これらのコロイダル貴金属含有漆系塗料は、貴金属コロイド粒子が安定に分散された着色漆塗料であり、外観が優れているのみならず耐久性に優れた塗装材を提供する。
【0013】
原料の生漆液には、国産生漆液又は外国産生漆液を使用できる。外国産には、中国産、ベトナム産、及びミャンマー産等が含まれる。
【0014】
貴金属コロイド溶液は、貴金属のコロイド粒子と必要に応じて分散安定剤を含む。貴金属としては、金、銀、白金族が挙げられ、白金族としてはルテニウム、ロジウム、オスミウム、イリジウム、白金及びパラジウムが例示できる。なかでも、金、銀、および白金が好ましく、金及び銀が特に好ましい。貴金属コロイド溶液は、ナノオーダー(約1~100nm)の貴金属コロイド粒子を含有することが好ましい。粒子径が約5~20nmの貴金属コロイド粒子を含む貴金属コロイド溶液がより好ましい。
【0015】
貴金属コロイド溶液は、可溶性の貴金属塩溶液を、好ましくは顔料分散安定剤の存在下に、化学的に還元することにより製造することができる。例えば、金コロイド溶液の製造には塩化金酸を原料にすることができ、銀コロイド溶液の製造には硝酸銀や酢酸銀を原料に用いることができ、白金コロイド溶液の製造には塩化白金酸カリウムを原料にすることができる。
還元剤としては、NaBH4等のアルカリ金属水素化ホウ素塩、ヒドラジン化合物、クエン酸ナトリウム等のクエン酸化合物、ジメチルアミノエタノール等のアルカノールアミン、等が挙げられる。貴金属化合物の溶液1モルに対して一般に還元剤を1.5~8モルの過剰に使用することが好ましい。還元反応に際して、金属モル濃度が50mM以上であることが好ましく、100mM以上であることがより好ましい。
【0016】
貴金属コロイド溶液の溶媒としては、水、及び有機溶媒が共に使用でき、有機溶媒としては、アセトン、メタノール、エタノール、酢酸エチル等の単独使用または混合使用が可能である。
ヒドロゾルの方が貴金属コロイドの高い濃度(50mM以上)が得易いので、オルガノゾルよりも好ましい。
【0017】
貴金属コロイド溶液を安定に保存するためには、例えば電気透析によりイオン成分を除去する方法がある。電気透析には旭化成(株)のマイクロアナライザーS3等を使用することができる。電気透析により、貴金属コロイド溶液の安定性を向上させることができる。
【0018】
顔料分散安定剤としては、一般に顔料の分散安定化を目的として使用される極性高分子が好ましい。本発明において、この分散安定剤は好ましくは高分子化合物である。「高分子」とは分子量が1万以上の化合物をいい、1万以上数十万以下が好ましい。極性高分子の極性基としては、コロイド状貴金属に対して親和性を有する基であり、酸性基(カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基など)、塩基性基(第3級アミノ基、第4級アンモニウム基、塩基性窒素原子を有する複素環基など)及び中性基(ポリアルキレンオキシ基、エポキシ基など)が例示でき、2種以上の極性基を有する極性高分子を貴金属コロイドの分散安定剤として使用することが好ましい。貴金属コロイド溶液が水溶液(ヒドロゾル)の場合には、上記の極性基を有する水溶性の極性高分子が好ましく使用することができ、貴金属コロイド溶液が有機溶剤溶液(オルガノゾル)の場合には、その有機溶剤に可溶の極性高分子を使用することができる。
【0019】
顔料分散安定剤は公知であり、特開平4-210220号公報、特開平5-177123号公報、特開平6-100642号公報、特開昭46-7294号公報などに記載されている。またこのような顔料分散安定剤は、市販されており、ゼネカ社のソルスパース-シリーズ、EFKAケミカル社のEFKA-シリーズ、ビックケミー社のディスパースビック-シリーズ、味の素(株)のアジスパー-シリーズ、共栄社化学(株)のフローレン-シリーズが例示できる。
分散安定高分子は貴金属コロイドの10mMあたり、1~20g使用することが好ましく、1~5g使用することがより好ましい。
【0020】
金コロイドは、そのコロイド金の粒径によって異なった色を示し、青、青紫、赤紫が例示できるが、本発明おいては、赤紫の金コロイド液が好ましく使用できる。
貴金属コロイドの粒径は、数~数百nmであることが、上記の優れた発色を得るために好ましく、数~数十nmであることが更に好ましい。
【0021】
金コロイド水性液の製造例は以下の通りであり、特開平11-80647号公報の実施例1と類似の方法である。
ビーカーに50mMの塩化金酸水溶液100mlを入れ、分散安定化のための極性高分子として、ゼネカ社製の「ソルスパース27000」(商品名)の4gを溶解する。ジメチルアミノエタノール2.5mlを撹拌しながら加えて還元し赤色の金コロイド水性液を得る。
銀コロイド水性液の製造例は以下の通りであり、上記の公報の実施例3と類似の方法である。
ビーカーに硝酸酸性の100mM硝酸銀水溶液100mlを入れ、極性高分子として、ビックケミー社製の「ディスパービック180」(商品名)5gを溶解する。ジメチルアミノエタノール2.5mlを撹拌しながら加えて還元し黄色の銀コロイド水溶液を得る。
【0022】
貴金属コロイド液を限外濾過することにより濃縮することができる。具体的な方法は、特開2003-103158に記載されている。
【0023】
生漆又は精製漆(箔下漆等の無油透漆又は朱合漆等の有油透漆)中の水や油を除く漆成分100gに対して混合しうる貴金属コロイド液の固形分は、目的とする色彩等を考慮して適宜選択できるが、一般に0.01~20gであり、好ましくは0.05~10gであり、より好ましくは0.05~1.0gである。二種以上の貴金属コロイドを混合使用することもでき、その場合には貴金属コロイドの総量を前記の範囲内とすることが好ましい。
【0024】
本発明の漆系塗料は、天然産生漆および貴金属コロイドの混合物を好ましくは微粒化することにより得られる。微粒子化の処理は、この混合物を撹拌することにより達成でき、好ましくは剪断力のかかった撹拌が好ましい。具体的な撹拌方法には、ホモジナイズ分散法(特開平3-174482公報参照)や、三本ロールミル分散法(特開平4-359077公報参照)を例示できるが、これらに限られない。
漆塗料は不均一であるから、エマルション粒子をこのように微粒化することにより、優れた光沢を与える塗膜を得ることができる。微粒子化のサイズは前述の通りである。
【0025】
本発明の原料生漆に、所望により前述の「ナヤシ」及び「クロメ」処理を施すと、乳化粒子が微粒子分散された脱水精製漆が得られる。この脱水精製漆にナノオーダーの貴金属粒子を混合すると、コロイダル貴金属含有漆系塗料が得られる。クロメ加熱処理を45℃以下で行うと、ラッカーゼ酵素の活性を維持することができるので、漆塗膜を室温加湿乾燥することができる。生漆の脱水処理を温度90~100℃において1~数時間行うこともできる。この処理を施した漆の乾燥には、加熱乾燥が必要である。
塗膜の乾燥は、常温での加湿乾燥と高温での熱硬化とに大別される。加湿乾燥の代表的な条件は、ラッカーゼ酵素の作用を活用し、湿度40~80%RH、温度20~30℃である。加熱乾燥は、ラッカーゼ酵素の作用を活用しない乾燥であり、100~200℃、好ましくは150~200℃で加熱乾燥する。
【0026】
本発明のコロイダル貴金属含有漆系塗料を酵素重合させる条件は、好ましくは温度15~25℃で湿度60~90%RHである。一般に設定湿度が高くなると乾燥が早まるが、漆塗膜の色が濃くなり、場合によっては塗膜に皺が生じることがある。コロイド状の貴金属を添加した漆塗料を、奇麗な色に発色するように仕上げるためには、一般の漆塗料を使用した場合よりも湿度を低く設定することが好ましい。好ましい乾燥条件は、温度15~25℃で湿度60~80%RHであり、より好ましい乾燥条件は、温度約20℃で、湿度約70%RHである。また、硬化促進剤である有機ケイ素を配合したコロイダル貴金属含有漆系塗料は、さらに低湿度で乾燥硬化させることが好ましく、温度15~25℃で湿度50~60%RHの乾燥条件が好ましい。
漆塗膜の厚さは、適宜選択できるが、好ましい漆塗膜の厚さは10~80μmである。
【0027】
コロイダル金属含有漆系塗料には、漆系塗料に公知の種々の添加剤を添加することができる。特に漆系塗料の硬化速度を調節するための添加剤が有用である。
日本産漆の硬化速度を遅らせるためには、有機酸を加えることにより塗料のpHを酸性(pH=4~5)にすることが好ましい。有機酸としては、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、クエン酸、酒石酸などが例示でき、クエン酸が好ましい。その添加量は、pH調節に必要十分な量である。
ベトナム産の漆は、アルカリ性側で硬化速度が遅くなる逆の傾向を有する。
【0028】
また、硬化速度を促進するためには、有機ケイ素化合物、特にアルコキシシラン類が有効である。このアルコキシシラン類を主成分とする硬化促進剤の一つは、本発明者らが開示したテトラアルコキシシラン及び/又はその縮合物を成分とする。この硬化促進剤は、特開2003-306640に開示されている。本発明に好ましく使用できる硬化促進剤は、漆類のフェノール性水酸基を変性して、その硬化を促進させるためのものであり、下記一般式(1)で表わすことができる:
【0029】
【化1】
JP0003894225B1_000002t.gif

(但し、式中、Rは互いに同じであっても異なっていてもよいアルキル基であり、nは1以上の整数である。)
具体的には、Rは、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基などの炭素数1~12のアルキル基が好適に挙げられ、このうち炭素数1~4のアルキル基が更に好ましく、メチル基が特に好ましい。このアルコキシシラン類としては、具体的には、オルトケイ酸アルキルエステル(n=1)、その加水分解縮合生成物(n=2~10)、又はこれらの混合物が好ましく、オルトケイ酸メチルエステル及びその加水分解物が特に好ましい。このアルコキシシラン類は、単独で使用できるだけではなく、2種以上を混合して使用することができる。混合使用した場合、耐水性の向上や乾燥速度の調節も容易となる。
【0030】
上記のアルコキシシラン類は市販品を入手することができる。市販のオルトケイ酸メチルエステルの加水分解生成物としては、シリコーンレジンメトキシオリゴマー2327(信越化学工業(株)製)が例示できる。
【0031】
本発明に好ましく使用できる他の硬化促進剤としてのアルコキシシラン類は、漆類のフェノール性水酸基を変性して、その硬化を促進させるためのものであり、下記一般式(2)で表わす化合物及び/又はその縮合物である:
nSi(OR)m (2)
(式中、Xはアミノ基、アルキルアミノ基、アミノアルキル基、エポキシ基、アクリロキシ基、メタクリロキシ基及びビニル基からなる群から選ばれる基であり、Rはアルキル基であり、nとmはそれぞれ同じであっても異なっていてもよい1~3の整数であり、かつ、nとmの合計は4である。)
上記のアルコキシシラン類は、特開2003-55558号公報に記載されており、N-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシランが例示できる。
アルコキシシラン類を配合すると、漆塗料の乾燥促進、塗膜の耐水性向上、及び紫外線照射に対する耐久性向上の硬化が得られる。
【0032】
上記の硬化促進剤の配合量は、漆系塗料中の生漆又は精製漆(箔下漆等のクロメ漆又は朱合漆等)中の水や油を除く漆成分100gに対して、アルコキシシラン類1~30gであることが好ましく、1~10gであることがより好ましい。
【0033】
本発明の漆系塗料は、種々の基材に塗布して塗膜を形成することができる。基材としては、木材、金属、ガラス、合成樹脂等特に限定されないが、ガラス、木材が好ましい。木材としては、天然材及び合板のいずれも使用できる。
塗布の方法は特に限定されず、従来行われている通常の方法が使用できる。高級木製品への漆塗りに本発明の漆系塗料を使用すると特にその効果が顕著である。これらの木製品としては、紫檀板、黒檀板、ケヤキ材、唐木、ヒノキ材等が例示できる。塗装品への応用の例としてわが国伝統の調度品、工芸品、美術品が含まれ、応用例には、各種の仏具も対象とすることができる。
【0034】
板ガラスを基材とする漆塗装材はステンドグラス用材料として使用することができる。その他ワイングラス等のガラス食器の装飾に本発明の漆系塗料を使用することができる。
特に、金コロイドを含有し、オルトケイ酸メチルエステエルの加水分解物を含む漆塗料は、美しいワインレッドの塗膜を生じ、ガラスとの密着性に優れるので、カラス製食器等の着色に好ましく使用することができる。
【0035】
本発明の漆塗料は高級塗装の用途に使用することが好ましい。
本発明の漆塗料は、伝統的な塗装法に匹敵する塗膜を与えることができる。伝統的塗装法における白檀塗装や玉虫塗りとは、下地塗装の上に漆液で金箔や銀箔を固着させ、その上に飴色の透漆や染料で着色した赤色の漆を塗装して仕上げる技法であり、高級な変わり塗りとして知られているものである。本発明に係るコロイダル金含有漆系塗料又はコロイダル銀含有漆系塗料(以下、それぞれ「コロイダル金漆」又は「コロイダル銀漆」とも略称する。)を用いれば、金箔や銀箔を下地に固着することなくメタリック感のある変わり塗りが可能となる。
【0036】
また、微量な蛋白質を検出するのに金コロイドが使われる。これは金コロイドが蛋白質に選択的に吸着する性質を利用したものである。漆はW/O型のエマルションであり、ゴム質(多糖)と含窒素物(糖蛋白)がウルシオール中に分散した組成系になっている。このエマルション中に金や銀などのコロイドが進入することにより、多糖や糖蛋白に吸着して漆液自体がゾル状態になり貴金属のコロイド色に着色される。
以下に実施例により発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0037】
(実施例1)
水分25%を含む中国産生漆100グラムに塩化金酸の水溶液を還元して得られた10%濃度の金コロイド水性液0.5グラムを加えてニーダーミキサーで2時間混練りし、残存水分5%の漆液に調製した。これを美吉野紙でろ過精製し透明感のあるコロイダル金漆を得た。このコロイダル金漆を25マイクロメータのフィルムアプリケーターでガラス板に塗布して解析用の試料を作成し試験に供した。金コロイド粒子の直径は約15nmであった。
また、10%濃度の金コロイド水性液0.5gを使用する替わりに、10%濃度の銀コロイド水性液5gを使用する以外は全く同様にしてコロイダル銀漆を得た。同様に解析用の試料を作成して試験に供した。銀コロイド粒子の直径は約7nmであった。
上記の試料を温度20℃、湿度70%の条件下で硬化させた。
市販の生漆及び素クロメ漆と比較したところ、次の表1に示すような結果を得た。
なお、得られた塗膜の電子顕微鏡写真から、本発明で使用した素クロメ漆は、粒子径が1~3μmのゴム質水球を含んでいたことが観察された。
【0038】
【表1】
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【0039】
上記の試験に用いた紫外線照射は、波長365nm、照度2.5mW/cm2、照射距離100mmで行った。尚、本紫外線照射の7.5時間は屋外暴露の紫外線1年に相当するものである。
また、光沢計として堀場製作所(株)製のグロスチェッカーIG-330を使用した。
【0040】
本発明の金コロイドまたは銀コロイドを添加した漆系塗料は、硬化乾燥時間が、比較用の無添加漆塗料より短かった。また、本発明の漆系塗料により得られる漆塗膜に紫外線を照射しても、比較の無添加漆塗膜と異なり、表面光沢が失われなかった。
また、このコロイダル金漆にテレピン油を40%加えて希釈し、アルミニウム板に吹き付け塗装したところ、乾燥塗膜は赤紫色を呈しメタリック感のある赤玉虫塗りになった。
【0041】
(実施例2)
水分3%を含む中国産朱合漆100グラムに塩化金酸水溶液を還元して得られた10%濃度の金コロイド溶液0.5グラムを加えてアズワンハイパワーミキサーで3,000rpmの高速撹拌を行ったコロイダル金漆の分散粒径は0.1~0.2マイクロメータになり高い透明感のある赤色漆液になった。これをガラス板に25マイクロメータのフィルムアプリケーターで塗布して解析用の試料を作成し、漆室(温度20℃、湿度70%)中で乾燥させた。塗膜は高鮮映性を発現する紅春慶色になった。
実施例1と同様の紫外線照射による強制耐光性試験を行ったところ、本発明の漆系塗料により得られる塗膜は耐光性に優れていることを示す結果が得られた。硬化乾燥時間も、比較用の無添加漆塗料より短かかった。
【0042】
(実施例3)
水分3%を含む朱合漆100gに10%濃度の銀コロイド溶液5グラムを加えて高速撹拌機で良くかき混ぜると、淡黄色のコロイダル銀漆を得た。このコロイダル銀漆を76マイクロメータのフィルムアプリケーターでガラス板に塗布して解析用の試料を作成し、漆室(温度20℃、湿度70%)中で乾燥させた。実施例1と同様の紫外線照射による強制耐光性試験を行ったところ、本発明の漆系塗料により得られる塗膜は耐光性に優れていることを示す結果が得られた。硬化乾燥時間も、比較用の無添加漆塗料より短かった。
【0043】
(実施例4)
紫檀板製の位牌の塗料として、実施例1と同様にして調製したコロイダル金漆を使用した。表面光沢がありやや紫がかった赤色の落ち着いた感じを与える塗膜が得られた。紫檀板の替わりに黒檀板を使用しても同様の効果が得られた。
【0044】
(実施例5)
実施例3で調製したコロイダル銀漆をケヤキ材に塗装した塗膜は高鮮映性を発現する黄春慶色になった。
【0045】
(実施例6)
透箔下漆100gに10%濃度の金コロイド液5gを加えて混練撹拌装置で良くかき混ぜると淡赤色のコロイダル金漆が得られる。このコロイダル金漆を76μマイクロメーターのフィルムアプリケーターでガラス板に塗布して、漆室(温度20℃、湿度70%)中で乾燥させて分析用試料を作製した。その塗膜は淡赤色で光沢があり、高鮮映性を有していた。
【0046】
(実施例7)
透箔下漆100gに17%濃度の銀コロイド液5gを加えて混練撹拌装置で良くかき混ぜると、淡黄色のコロイダル銀漆が得られた。このコロイダル銀漆を76μマイクロメーターのフィルムアプリケーターでガラス板に塗布して、漆室(20℃、湿度70%)中で乾燥させて分析用試料を作製した。その塗膜は淡黄色で光沢があり、高鮮映性を有していた。
【0047】
(実施例8)
透箔下漆100gを混練撹拌装置で良くかき混ぜながらクエン酸水溶液を加えて漆液のpHを約5に調整した。その後10%濃度の金コロイド液5gを加え更に良くかき混ぜると、淡赤色のコロイダル金漆が得られた。このコロイダル金漆を76μマイクロメーターのフィルムアプリケーターでガラス板に塗布して、漆室(20℃、湿度70%)中で乾燥させた。クエン酸水溶液を加えると塗膜の乾燥に時間がかかるが、淡赤色の発現が鮮明になり、高い光沢と高鮮映性に優れていた。
実施例1、2、3にもクエン酸水溶液を添加すると、金コロイドでは赤色が、銀コロイドでは黄色の発現が鮮明になり、その塗膜は高い光沢と高鮮映性に優れていた。
【0048】
(実施例9)
クロメ漆100gを混練撹拌装置で良くかき混ぜながらシリコーンレジンメトキシオリゴマー2327(信越化学工業製)5gを加え、その後10%濃度の金コロイド溶液5gを加えて良くかき混ぜると、淡赤色のコロイダル金漆が得られた。このコロイダル金漆を76マイクロメーターのフィルムアプリケーターでガラス板に塗布して自然乾燥させた。ワインレッドの乾燥塗膜が得られた。シリコーンレジンメトキシオリゴマー2327を加えると塗膜の乾燥は早くなるが、その色相を薄く、ゆっくり発色させるためにできるだけ湿度を押さえた自然乾燥条件(20℃、60%RH)でゆっくり乾燥させた。その結果塗膜は淡赤色に鮮明に発色し、高い光沢と高鮮映性に優れていた。
クロメ漆の代わりに箔下漆、朱合漆とシリコーンレジンメトキシオリゴマー2327(信越化学工業製)と10%濃度の金コロイド液を添加すると金コロイドでは赤色の塗膜が得られた。
【0049】
(実施例10)
クロメ漆100gを混練撹拌装置で良くかき混ぜながらシリコーンレジンメトキシオリゴマー2327(信越化学工業製)5gを加え、その後17%濃度の銀コロイド溶液5gを加えて良くかき混ぜると、淡黄色のコロイダル銀漆が得られた。このコロイダル銀漆を76マイクロメーターのフィルムアプリケーターでガラス板に塗布して自然乾燥させた。シリコーンレジンメトキシオリゴマー2327を加えると塗膜の乾燥は早くなるが、その色相を薄く、ゆっくり発色させるため、できるだけ湿度を押さえた自然乾燥条件(20℃、60%RH)でゆっくり乾燥させた。その結果塗膜は淡赤色に鮮明に発色し、高い光沢と高鮮映性に優れていた。
クロメ漆の代わりに箔下漆、朱合漆とシリコーンレジンメトキシオリゴマー2327(信
越化学工業製)とを使用して、17%濃度の銀コロイド溶液を添加すると黄色の塗膜が得られた。
【0050】
(実施例11)
実施例9で使用したハイブリッド漆をワイングラスの装飾に使用した。ワインレッドに着色された絵柄のワイングラスが得られた。
図面
【図1】
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【図2】
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