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明細書 :回折格子

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5468195号 (P5468195)
公開番号 特開2009-063754 (P2009-063754A)
登録日 平成26年2月7日(2014.2.7)
発行日 平成26年4月9日(2014.4.9)
公開日 平成21年3月26日(2009.3.26)
発明の名称または考案の名称 回折格子
国際特許分類 G02F   1/39        (2006.01)
FI G02F 1/39
請求項の数または発明の数 7
全頁数 16
出願番号 特願2007-230492 (P2007-230492)
出願日 平成19年9月5日(2007.9.5)
審査請求日 平成22年7月7日(2010.7.7)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503359821
【氏名又は名称】独立行政法人理化学研究所
発明者または考案者 【氏名】海老塚 昇
【氏名】大谷 知行
個別代理人の代理人 【識別番号】100087000、【弁理士】、【氏名又は名称】上島 淳一
審査官 【審査官】岡田 吉美
参考文献・文献 特開平09-146131(JP,A)
特開平02-275418(JP,A)
特開2002-022918(JP,A)
国際公開第2004/111693(WO,A1)
特開2007-164013(JP,A)
調査した分野 G02 F1/00 - 1/125
G02 F1/29 - 7/00
特許請求の範囲 【請求項1】
屈折率n1の固体状の透明媒質よりなる板状体である溝型導光格子構造を持つ回折格子であって、
X軸をY軸に重ねるように回転したとき、右ねじが進む方向をZ軸の正方向とするXYZ直交座標系において、
XZ平面に平行な前記溝型導光格子構造と外部領域との界面である表面には、透過する電磁波の波長以下の幅w2を持つ溝が複数刻設され、
前記溝の長方形状の開口部は開口部の長辺がZ軸に平行に等間隔p2で隣接して設けられ、
前記溝の全体はXZ平面に対して角度θ2傾斜しており、
前記溝の内部には、屈折率n1よりも低い屈折率n2の材質が充填され、
回折格子に入射した電磁波は、前記溝の側面で反射する電磁波と前記溝を透過する電磁波とに分岐することを特徴とする回折格子。
【請求項2】
前記溝の幅w2は透過する電磁波の1/4程度であることを特徴とする請求項1に記載の回折格子。
【請求項3】
前記溝の開口部の間隔p2は透過する電磁波の波長の0.5~10倍であることを特徴とする請求項1または2に記載の回折格子。
【請求項4】
前記溝の深さd2は、前記溝の開口部の間隔p2の1.5~100倍であることを特徴とする請求項3に記載の回折格子。
【請求項5】
角度θ2は45~90度の範囲内であることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の回折格子。
【請求項6】
前記溝の内部に充填された材質は透明媒質であることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の回折格子。
【請求項7】
前記電磁波はテラヘルツ波であることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の回折格子。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、回折格子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、空港等における爆発物や化学物質の遠隔検出手段として、テラヘルツ波の透過観察法が注目されている。こうした観測装置においては、テラヘルツ波発生器の非線形光学結晶に接するように配置されたテラヘルツ波出射用カップラが用いられている。
【0003】

従来より、テラヘルツ波を発生させる手段として、例えば、ニオブ酸リチウム等の非線形光学結晶に2波長のレーザー光(ポンプ光およびシード光)を同時に入射させて、パラメトリック発振によりテラヘルツ波を発生させるようにした光注入テラヘルツ波パラメトリック発生器(以下、適宜に「is-TPG方式」と称する。)や、非線形光学結晶にフェムト秒レーザー(1フェムト秒=10-15秒)を照射してテラヘルツ波を発生させる光伝導方式が知られており、既に実用化されている。
【0004】
ここで、上記したis-TPG方式によれば、シード光の波長を選択することにより、当該シード光の波長に応じた任意の周波数のテラヘルツ波を得ることができるものである。
【0005】
また、上記した光伝導方式の場合は、フェムト秒レーザーが持つ広い帯域中の波長成分間での差周波混合であるため、広い周波数帯域のテラヘルツ波を発生させることができるものである。
【0006】

ところで、上記したような手法により非線形光学結晶を用いてテラヘルツ波を発生することができるが、テラヘルツ波は非線形光学結晶内での吸収が大きいために、結晶の表面近傍、即ち、非線形光学結晶と外部媒質との界面近傍でテラヘルツ波を発生させる必要がある。
【0007】
ここで、図1には、上記した従来の手法により非線形光学結晶を用いてテラヘルツ波を発生させた場合の非線形光学結晶内におけるテラヘルツ波の動きを概念的に図示した説明図が示されている。
【0008】
即ち、is-TPG方式を用いてテラヘルツ波を発生させる場合には、まず、非線形光学結晶100内に外部より所定の波長に調整したポンプ光およびシード光を導入することにより、非線形光学結晶100内でテラヘルツ波を発生させることができる。
【0009】
そして、このようにして発生したテラヘルツ波は、非線形光学結晶100の表面へ向かって進むものであるが、非線形光学結晶100を形成するニオブ酸リチウムは屈折率が6程度と非常に大きく、また、非線形光学結晶100表面の法線方向から測った場合の臨界角がわずか10度程度と極めて小さいため、非線形光学結晶100と外部媒質(空気または真空)との界面において全反射し、非線形光学結晶100の表面100aにおける臨界角を超えてしまい、非線形光学結晶100内で吸収されて減衰していくため、非線形光学結晶100の外部にテラヘルツ波を取り出せないという問題点があった。
【0010】
このため、こうしたテラヘルツ波を非線形光学結晶100の外部に取り出すために、界面である非線形光学結晶100の表面100aに中間的な屈折率を有する物質で構成されたプリズム等のカップラを配設するという手法が用いられている。
【0011】
即ち、非線形光学結晶100の表面100aにカップラを配置することにより、テラヘルツ波を取り出すことが可能となり、こうしたカップラとしては、高抵抗(高純度)シリコンにより形成されたプリズムが多く使用されている。
【0012】
図2には、高抵抗シリコンにより形成されたプリズムよりなるカップラ102を用いて、非線形光学結晶100内部で発生したテラヘルツ波を非線形光学結晶100の外部へ取り出す際のテラヘルツ波の動きを概念的に図示した説明図が示されている。
【0013】

ところで、図2に示されるように、非線形光学結晶100に対して大きなシリコンプリズムのカップラ102を用いた場合には、光源サイズが大きくなってしまうため取り扱い難くなるとともに、発生したテラヘルツ波がシリコンに吸収されることにより損失が大きく効率が悪いという問題点があった。
【0014】
さらに、非線形光学結晶100内において発生するテラヘルツ波は周波数により出射角がわずかに異なるため、すべての周波数を同一方向に導くためには、新たに回折格子等の混合器を設置する必要があるという新たな問題点を招来するものであった。
【0015】
一方、非線形光学結晶に対してシリコンプリズムのカップラの大きさを小さくした場合には、非線形光学結晶の表面積に合わせて多数のカップラを精度良く整列させる必要があるため、こうした作業は極めて煩雑でありコスト高を招来するという問題点があった。
【0016】

また、上記したシリコンプリズムのカップラとして、図3に示すように、異方性エッチングにより加工されたシリコンの格子104が用いられている場合にはこうしたシリコンの格子104は光の出射表面104aが階段形状をしており、それぞれのV溝の角度αが72度に固定されるために形状の自由度が少なく、非線形光学結晶100と格子104との界面および格子104と空気あるいは真空などの外部媒質との界面においてフレネル反射損失が生じる等、必ずしも最適な条件で使用することができないという問題点があった。


【非特許文献1】Hayashi、Shin’ichiro;Minamide、Hiroaki;Ikari、Tomofumi;Ogawa、Yuichi;Shikata、Jun-Ichi;Ito、Hiromasa;Otani、Chiko;Kawase、Kodo、“Output power enhancement of a palmtop terahertz-wave parametric generator”、Applied Optics IP、117-123、(2007)
【非特許文献2】K.Kawase、J.Shikata、H.Ito、“TOPICAL REVIEW:Terahertz wave parametric source”、Journal of Physics D:Appl.Phys.、R1-R14、(2001)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、上記したような従来の技術の有する種々の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、簡潔な構造で高い精度と高い効率とを達成することができるようにした回折格子を提供しようとするものである。
【0018】
また、本発明の目的とするところは、作製に手間を必要とせず、小型で薄型の回折格子を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記目的を達成するために、本発明による回折格子は、板状体あるいはプリズム形状の表面に所定の幅と深さを有する複数のスリット状の溝を互いに平行に配置し、溝の側面において全反射または溝の周期構造と光波とのカップリングにより、溝型導光格子構造の外部へテラヘルツ波などの光を導くようにしたものである。
【0020】
即ち、本発明は、固体状の透明媒質よりなる板状体あるいはプリズム形状である溝型導光格子構造を持つテラヘルツ発生器であって、上記溝型導光格子構造における上記溝型導光格子構造の外部領域との界面である表面に、複数の溝が隣接して等間隔で並行に、かつ、該溝全体が上記表面に対して垂直あるいは所定の角度傾斜して刻設されているようにしたものである。
【0021】
また、本発明は、さらに、上記溝型導光格子構造の上記溝の内部に所定の材質を充填し、上記溝の内部に充填する所定の材質の屈折率を、上記溝型導光格子構造を形成する固体状の透明媒質が有する屈折率よりも低くしたものである。
【0022】
また、本発明は、上記溝型導光格子構造の上記溝の幅、上記溝型導光格子構造内に入射された電磁波を上記溝の側面において全反射し、上記溝型導光格子構造の外部に出射するように設定するようにしたものである。
【0023】
また、本発明は、さらに、上記溝型導光格子構造の上記溝の内部に所定の材質を充填し、上記溝の内部に充填する所定の材質の屈折率を、上記溝型導光格子構造を形成する固体状の透明媒質が有する屈折率よりも高くしたものである。
【0024】
また、本発明は、上記溝型導光格子構造の上記溝の幅と上記溝が隣接して配置される間隔と、上記溝型導光格子構造内に入射された電磁波が上記溝の側面で反射する電磁波と透過する電磁波とに分岐し、上記反射する電磁波は上記透過する電磁波とは異なる透過する電磁波と合わさり、かつ、上記透過する電磁波は上記反射する電磁波とは異なる反射する電磁波と合わさり、上記溝型導光格子構造の外に出射されるように設定するようにしたものである。
【0025】
また、本発明は、上記溝型導光格子構造の上記溝の幅、入射する電磁波の波長以下とするようにしたものである。
【0026】
また、本発明は、固体状の透明媒質よりなる板状体あるいはプリズム形状である溝型導光格子構造の表面をダイサーにより刻設して、上記表面に複数の溝を隣接して等間隔で並行に、かつ、該溝全体が上記表面に対して垂直あるいは所定の角度傾斜するように形成するようにしたものである。
【0027】
また、本発明、固体状の透明媒質よりなる板状体である溝型導光格子構造の表面をレーザーアブレーションにより刻設して、上記表面に複数の溝を隣接して等間隔で並行に、かつ、該溝全体が上記表面に対して垂直あるいは所定の角度傾斜するように形成するようにしたものである。
【発明の効果】
【0028】
本発明は、以上説明したように構成されているので、簡潔な構造で高い精度と高い効率とを達成することが可能な回折格子を提供することができるという優れた効果を奏する。
【0029】
また、本発明は、以上説明したように構成されているので、作製に手間を必要とせず、小型で薄型の回折格子を提供することができるという優れた効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明による回折格子の実施の形態の一例を詳細に説明するものとする。
【0031】

まず、図4には、本発明による回折格子の溝型導光格子構造10の第1の実施の形態の概念構成断面説明図が示されている。
【0032】
この溝型導光格子構造10は、固体状の透明媒質よりなる板状体である。こうした溝型導光格子構造10は、真空中や透明媒質(気体、液体または固体)中で使用されるものである。
【0033】
そして、この溝型導光格子構造10の表面10bには複数の溝10aの開口部が互いに並行であるように刻設されている。
【0034】
なお、溝10aの開口部は、溝型導光格子構造10の長辺を有する側面が図4に示したXYZ直交座標系を示す参考図におけるXY平面に平行であるように載置されている場合において、Z軸に平行であるように並んでいるものである。
【0035】
溝10aの開口部は長方形形状であり、図4に示すように、各溝10aは開口部からY軸と平行あるいはY軸方向における左斜め下方向へ所定の深さを有する。
【0036】
より詳細には、この複数の溝10aはすべて、所定の長さd1と所定の幅w1とを有しており、溝型導光格子構造10の表面10bに対して角度θ1だけ傾斜して整列している。
【0037】

上記した構成を有する溝型導光格子構造10は、例えば、非線形光学結晶100上に載置され、非線形光学結晶100内においてパラメトリック発振により発生されたテラヘルツ波を非線形光学結晶100から外部に取り出すためのカップラとして用いられるものである。
【0038】
なお、その際には、非線形光学結晶100の長辺と溝型導光格子構造10の長辺とが平行になるように向きをあわせて載置するようにすることが好ましい。
【0039】

ここで、溝型導光格子構造10を非線形光学結晶100上に載置して、非線形光学結晶100内においてパラメトリック発振により発生された波長30~600μmのテラヘルツ波を非線形光学結晶100から外部に取り出すためのカップラとして用いる場合について具体的に説明すると、溝型導光格子構造10の材質としては、ニオブ酸リチウム(LiNbO)、シリコン、ダイアモンドおよび樹脂などを用いることが好ましい。なお、本実施の形態においては、溝型導光格子構造10の材質としてシリコンを選択し、シリコンにより形成された溝型導光格子構造10を用いた。
【0040】
そして、溝型導光格子構造10は長方体形状を備えるものとして、その寸法は、縦10~100mm、横1.5~50mm、高さ1~20mmとした。
【0041】
また、ある溝10aと当該溝10aと隣り合う溝10aとの間隔たるピッチp1は、テラヘルツ波の媒質中における波長に対して1.5倍以上とし、本実施の形態においては、ピッチp1を50~5000μmとした。
【0042】
さらに、溝10aの深さd1は格子間隔であるピッチp1の値の1~20倍とし、本実施の形態においては、深さd1を30~12000μmとした。
【0043】
さらにまた、溝10aの幅w1は、テラヘルツ波の媒質中における波長に対して0.5倍以上とし、本実施の形態においては、溝10aの幅w1を15~1000μmとした。
【0044】
そして、溝10aと表面10bとがなす角θ1は、45~90度の範囲内であるものとし、本実施の形態においては、溝10aと表面10bとがなす角θ1を60~90度とした。
【0045】

また、本実施の形態においては、溝型導光格子構造10の下部に配置する非線形光学結晶100の材質としては、ニオブ酸リチウム(LiNbO)を用いるものとした。
【0046】

以上の構成において、図5を参照しながら溝型導光格子構造10によるテラヘルツ波の発生について説明する。
即ち、まず、ポンプ光を発生する光源(図示せず。)とシード光を発生する光源(図示せず。)とによりポンプ光とシード光とをそれぞれ発生させ、溝型導光格子構造10の下部に設置した非線形光学結晶100にポンプ光とシード光とを同時に入射する。
【0047】
こうして非線形光学結晶100にポンプ光とシード光とを同時に入射することにより、パラメトリック発振により発生されたテラヘルツ波12は、溝型導光格子構造10と非線形光学結晶100との界面に向かって進む。
【0048】
そして、溝型導光格子構造10と非線形光学結晶100との界面に向かって進んだテラヘルツ波12は、溝型導光格子構造10に入射する際に、溝型導光格子構造10と非線形光学結晶100との界面において、その大部分は屈折してテラヘルツ波12aとして溝型導光格子構造10に入射するが、その一部は溝型導光格子構造10に入射されずに溝型導光格子構造10と非線形光学結晶100との界面において反射され、非線形光学結晶100内に戻るテラヘルツ波12bとなる(図5を参照する。)。
【0049】
なお、溝型導光格子構造10と非線形光学結晶100との界面において反射されたテラヘルツ波12bは、非線形光学結晶100内で吸収されて減衰する。
【0050】
一方、上記したように非線形光学結晶100から溝型導光格子構造10へ入射したテラヘルツ波12aは、溝型導光格子構造10と非線形光学結晶100との屈折率の違いに応じて(スネルの法則に従って)屈折する。こうしたテラヘルツ波12aは直進した後に、溝10aの側面において全反射するものである。
【0051】
そして、溝10aの側面において全反射したテラヘルツ波12aは、直進し、溝型導光格子構造10と空気または真空である外部媒質との界面に到達する。そして、テラヘルツ波12aの大部分は、テラヘルツ波12dとして溝型導光格子構造10と外部媒質との界面である表面10bより溝型導光格子構造10の外に出射される。
【0052】
より詳細には、テラヘルツ波12aが溝型導光格子構造10より出射される際に、テラヘルツ波12aの一部であるテラヘルツ波12cは、溝型導光格子構造10と外部媒質との界面において反射して溝型導光格子構造10内に戻る。
【0053】
しかしながら、テラヘルツ波12aの大部分であるテラヘルツ波12dは、溝型導光格子構造10と空気または真空である外部媒質との界面で反射せずに、溝型導光格子構造10の外部へ出射されることになるものである。
【0054】
ここで、溝型導光格子構造10と外部媒質との界面において反射されたテラヘルツ波12cは、溝型導光格子構造10内から再び非線形光学結晶100に入射減衰するか、反射を繰り返して溝10aより溝型導光格子構造10の外部へ出射する。
【0055】
一方、溝型導光格子構造10より外部へ出射したテラヘルツ波12dは、溝型導光格子構造10と外部媒質との界面においてスネルの法則に従って屈折しながら外部媒質中へ放出されるものであり、溝型導光格子構造10によれば、少ない損失で効率よくテラヘルツ波を得ることができるものである。
【0056】

次に、図6を参照しながら、本発明による回折格子の溝型導光格子構造の第2の実施の形態について説明する。
【0057】
ここで、本発明による溝型導光格子構造の第2の実施の形態の原理について簡単に説明すると、屈折率が高い媒質aから媒質aよりも屈折率が低い媒質bに電磁波が入射する際に、電磁波が臨界角を超えて入射した場合であっても、屈折率が低い媒質bに波長程度の距離にわたってエバネッセント波と呼ばれる電磁波が漏れ出すことが知られている。
【0058】
本発明による溝型導光格子構造の第2の実施の形態においては、溝型導光格子構造に刻設する溝の幅(光学長)を波長以下の寸法、具体的には波長の4分の1程度の幅を有するようになされており、こうした溝型導光格子構造に入射された電磁波は溝の側面を透過する(光トンネル効果)ことができ、等価的に屈折率変調格子が形成される。溝の幅、溝同士の間隔および溝の深さをテラヘルツ波と溝の電磁気的なカップリングが強い条件になるように調整された溝型導光格子構造を用いることにより、高い回折効率が得られるものである。
【0059】

こうした第2の実施の形態の溝型導光格子構造20(図6参照)は、上記した第1の実施の形態の溝型導光格子構造10(図4参照)と比較すると、非線形光学結晶で溝型導光格子構造20を構成している点と、溝型導光格子構造20の表面20bに刻設された溝20aが有する幅w2が溝型導光格子構造10の溝10aの幅w1に比べて細く、かつ、溝20aの内部に樹脂などが充填されている点とにおいて異なっている。
【0060】
こうした、第2の実施の形態の溝型導光格子構造20によれば、溝の深さを波長の1.5~10倍にすることができるため、シリコン等の透過型回折格子を用いることなく非線形光学結晶の溝型導光格子構造20のみでテラヘルツ波を非線形光学結晶の外部に取り出すことが可能になるものである。
【0061】

具体的には、溝型導光格子構造20は、固体状の透明媒質よりなる直方体形状を備えている。こうした溝型導光格子構造20は、真空中や透明媒質(気体、液体または固体)中で使用されるものである。
【0062】
こうした溝型導光格子構造20の長辺を有する側面が、図6に示したXYZ直交座標系を示す参考図におけるXY平面に平行であるように載置されている場合には、Z軸に平行であるように複数の深い溝20aが溝型導光格子構造20の表面に刻設されている。
【0063】
溝20aの開口部は、長方形形状をしており、その長辺が図6に示したXYZ直交座標系を示す参考図におけるZ軸に平行に複数並んでおり、各溝20aは、図6に示すように、開口部からY軸と平行あるいはY軸方向における左斜め下方向へ所定の深さを有するように形成されているものである。
【0064】
より詳細には、この複数の溝20aはすべて、所定の長さd2と所定の幅w2とを有しており、溝型導光格子構造20の表面20bに対して角度θ2傾斜しており、かつ、複数の溝20aが互いに平行であるように整列している。
【0065】

ここで、溝型導光格子構造20を用いてパラメトリック発振により波長30~600μmのテラヘルツ波を発生させる場合について具体的に説明すると、溝型導光格子構造20の材質としては、ニオブ酸リチウム(LiNbO)、シリコン、ダイアモンドおよび樹脂などが挙げられるが、本発明による第2の実施の形態においては、ニオブ酸リチウム(LiNbO)を用いた。
【0066】
そして、溝型導光格子構造20は非線形光学結晶の表面に形成されるものとして、その寸法は、縦10~100mm、横1.5~50mmとした。
【0067】
また、ある溝20aと当該溝20aと隣り合う溝20aとの間隔たるピッチp2は、テラヘルツ波の媒質中における波長に対して0.5~10倍程度とし、本実施の形態においては、ピッチp2を15~6000μmとした。

【0068】
さらに、溝20aの深さd2は格子間隔であるピッチp2の値の1.5~100倍とし、本実施の形態においては、深さd2を30~6000μmとした。
【0069】
さらにまた、溝20aの幅w2は、テラヘルツ波の媒質中における波長に対して1倍以下とし、本実施の形態においては、溝20aの幅w2を7.5~150μmとした。
【0070】
そして、溝20aと表面20bとがなす角θ2は、45~90度の範囲内であるものとし、本実施の形態においては、溝20aと表面20bとがなす角θ2を60~90度とした。
【0071】

また、溝20aの内部には樹脂などが充填されるが、その材質としては、例えば、ポリエチレンや透明な樹脂などが挙げられる。なお、本実施の形態においては、透明な樹脂を充填するものとした。
【0072】

以上の構成において、図7を参照しながら溝型導光格子構造20によるテラヘルツ波の発生および伝搬について幾何光学的に概念を説明する。
【0073】
まず、はじめに、ポンプ光を発生する光源(図示せず。)とシード光を発生する光源(図示せず。)とを用いてポンプ光とシード光とをそれぞれ発生させ、溝型導光格子構造20の下部20cにポンプ光とシード光とを同時に入射する。
【0074】
なお、ポンプ光とシード光とを入射する溝型導光格子構造20の下部20cとは、溝型導光格子構造20において、溝型導光格子構造20の表面に刻設された溝20aの下端部20aaよりも下方の領域を意味するものである。
【0075】
そうすると、溝型導光格子構造20の下部20cへのポンプ光とシード光との同時に入射によるパラメトリック発振により発生されたテラヘルツ波22は、溝型導光格子構造20の下部20cから溝型導光格子構造20の表面20bへ向かい斜め上方向へ出射され、溝20aの下端部20aa付近の側面に到達し、溝20aの側面に反射するテラヘルツ波22aと溝20aを透過するテラヘルツ波22bとに分岐される。
【0076】
そして、溝20aに反射したテラヘルツ波22aは、そのまま溝型導光格子構造20の透明媒質中を直進し、先ほど反射した溝20aと隣接する他の溝20aの側面上のある地点Aに到達する。このとき、新たな溝20aの側面の地点Aに到達したテラヘルツ波22aは、溝20aを透過する。
【0077】
一方、溝20aの下端部20aa付近の側面に到達し、溝20aの側面を透過したテラヘルツ波22bは、溝型導光格子構造20の透明媒質内をさらに直進し、先ほど透過したある溝20aと隣接する他の溝20aの側面上の地点Aに到達する。このとき、新たな溝20aの側面の地点Aに到達したテラヘルツ波22bは、溝20aに対して正反射する。
【0078】
即ち、テラヘルツ波22aとテラヘルツ波22bとは、同じ地点Aにおいて合流するものである。
【0079】
こうした地点Aにおいて、テラヘルツ波22aは溝20aを透過し、一方、テラヘルツ波22bは溝20aに対して正反射する。そして、透過したテラヘルツ波22aと反射したテラヘルツ波22bとが合わさり、テラヘルツ波22cとなる。
【0080】
テラヘルツ波22cは、地点Aより斜め上方側に直進し、溝型導光格子構造20と外部媒質との界面たる溝型導光格子構造20の表面20bまで到達する。
【0081】
表面20bに到達したテラヘルツ波22cの大部分は表面20bより溝型導光格子構造20の外部に出射されるテラヘルツ波22dとなり、溝型導光格子構造20と外部媒質との界面である表面20bより溝型導光格子構造20の外に出射される。
【0082】
このとき、テラヘルツ波22cは溝型導光格子構造20と外部媒質との界面において反射し溝型導光格子構造20内に戻るテラヘルツ波22eと、溝型導光格子構造20と外部媒質との界面で反射せずに、溝型導光格子構造20の外部へ出射されるテラヘルツ波22dとに分かれるものである。
【0083】
そして、溝型導光格子構造20と外部媒質との界面において反射し、溝型導光格子構造20内に戻ったテラヘルツ波22eは、溝型導光格子構造20内に吸収され減衰する。
【0084】
一方、溝型導光格子構造20より外部へ出射したテラヘルツ波22dは、溝型導光格子構造20と外部媒質との界面においてわずかに屈折し、外部媒質中へ放出される。このようにして、本発明によれば少ない損失で効率よくテラヘルツ波を得ることができるものである。
【0085】

ここで、溝型導光格子構造10ならびに溝型導光格子構造20の作製方法について、以下に説明する。
【0086】
まず、溝型導光格子構造10の溝10aは、例えば、シリコンウエハからICチップを切断する際に使用されるダイサーやレーザーアブレーション装置を用いることにより、容易に形成することが可能である。
【0087】
従って、ダイサーを用いて直方体形状のシリコンにスリット状の溝を複数刻設することにより、溝型導光格子構造10を作成することが可能である。
【0088】
同様に、溝型導光格子構造20の溝20aもまた、ダイサーやレーザーアブレーション装置を用いて形成することが可能である。
【0089】
従って、直方体形状の非線形光学結晶にダイサーを用いてスリット状の溝を複数刻設し、さらに、刻設された複数のスリット状の溝に樹脂を充填する。
【0090】
より詳細には、溝型導光格子構造20の表面20b上に液体状態の樹脂を溝20a内部に入るように垂らしていき、すべての溝20a内に樹脂を充填し終えたら、溝型導光格子構造20の表面20bにあふれた樹脂を拭き取り、溝20a内の樹脂を硬化させる。こうして溝型導光格子構造20が得られる。
【0091】
上記において説明したように、溝型導光格子構造10ならびに20はスリット状の溝を整列させた回折格子であり、テラヘルツ波発生のための非線形光学結晶用カップラとして有効である。
【0092】
また、溝型導光格子構造10によれば、従来の回折格子が有する階段形状の格子の代わりにスリット状の深い溝の格子による全反射を利用することにより、簡単な構造でありながら高い精度と高い効率を得ることができるようになる。
【0093】
そして、溝型導光格子構造20において、テラヘルツ波と格子の電磁気的なカップリングが強い条件に調整したことにより、等価的に屈折率変調格子が形成されるため、ボリュームフェイズホログラフィック(VPH:Volume Phase Holographic)回折格子のように、テラヘルツ波の入射角と出射角をBraggの条件を満足させることにより、高い効率を得ることができるようになる。
【0094】
さらに、溝型導光格子構造20においては、溝20a内部に樹脂を充填することで、溝20a内に塵埃が入ることを防止し、屈折率の差を小さくする効果がある。
【0095】

また、溝型導光格子構造10ならびに20の格子間隔を調整することにより、非線形光学結晶内において発生するテラヘルツ波の出射角の周波数依存性を打ち消すことも可能である。
【0096】
そして、これら溝型導光格子構造10ならびに溝型導光格子構造20によれば、シリコンウエハからICチップを切断する際に使用されているダイサーやレーザーアブレーション装置を用いることにより、あるいはシリコン等の基板に回折格子を加工したものを非線形光学結晶と接合したり、非線形光学結晶にスリット状回折格子を直接加工することでテラヘルツ波を得られる回折格子を作成することができるため、従来のシリコンカップラと比較して安価で高精度の回折格子を実現することができるようになる。
【0097】
さらに、上記した溝型導光格子構造10ならびに溝型導光格子構造20によれば、非線形光学結晶に直接溝型導光格子構造を加工したり、非線形光学結晶と同一の屈折率を有する材質の溝型導光格子構造を用いて非線形光学結晶と接合することができるため、溝型導光格子構造と非線形光学結晶との界面におけるフレネル反射損失を軽減できるため、効率よくテラヘルツ波を得ることができるようになる。
【0098】

なお、上記した実施の形態は、以下の(1)乃至(8)に示すように変形することができるものである。
【0099】
(1)上記した実施の形態においては、本発明をテラヘルツ波の発生に用いる場合について説明したが、これに限られるものではないことは勿論であり、溝型導光格子構造20および非線形光学結晶100の材質を所望の光に対応した材質に変えることにより、別の波長の光を得ることが可能である。例えば、波長200~3000nmの近紫外線~可視光~近赤外線において使用する場合には、溝型導光格子構造10および20および非線形光学結晶100の材質として、例えば、各種光学結晶、各種光学ガラスや樹脂などを用いればよい。また、波長3~30μmの中間赤外線において使用する場合には、溝型導光格子構造10および20の材質として、例えば、ヨウ化セシウム(CsI)、カドミウムテルル(CdTe)、臭化カリウム(KBr)、ゲルマニウム、ガリウムヒ素(GaAs)、シリコン、セレン化亜鉛(ZnSe)や硫化亜鉛(ZnS)などを用いればよい。また、波長300μm以上の電波において使用する場合には、溝型導光格子構造10および20として、例えば、樹脂、ガラス、非金属結晶、セラミックス、乾燥した木材やコンクリートなどを用いればよい。
【0100】
(2)上記した実施の形態においては、溝型導光格子構造20の溝20aに樹脂を充填して用いたが、これに限られるものではないことは勿論であり、溝20a内に樹脂などを充填せずに空洞の状態で用いてもよいものである。
【0101】
(3)上記した実施の形態においては、第1の実施の形態における溝型導光格子構造10の溝10aには樹脂などを充填していないが、これに限られるものではないことは勿論であり、金属や不透明物質や溝型導光格子構造10の材料よりも屈折率が高い材質を充填して用いてもよいものである。
【0102】
(4)上記した実施の形態においては、溝型導光格子構造20の溝20aに充填する材料として樹脂を用いたが、これに限られるものではないことは勿論であり、例えば、イオン結晶を用いてもよい。ポリエチレンは、近紫外線、可視光および近赤外線(300~2500nm)ならびにテラヘルツ波(17~300μm)を扱う場合に適しており、中間赤外線を扱う場合には、CsIやKBrなどのイオン結晶を水溶液から析出させたものが考えられる。
【0103】
(5)上記した実施の形態においては、第1の実施の形態において、溝型導光格子構造10と非線形光学結晶100とを用いたが、これに限られるものではないことは勿論であり、第2の実施の形態で行ったように非線形光学結晶100の材質を基板として格子を加工することで、溝型導光格子構造10として用いても良いものである。また、第2の実施の形態において、溝型導光格子構造20は非線形光学結晶に溝20aを刻設したものであったが、これに限られるものではないことは勿論であり、本発明による第1の実施の形態における溝型導光格子構造10のように、溝型導光格子構造と非線形光学結晶とをそれぞれ個別に用意するようにしてもよい。
【0104】
(6)上記した実施の形態においては、溝型導光格子構造10ならびに溝型導光格子構造20の加工にダイサーを用いたが、これに限られるものではないことは勿論であり、溝型導光格子構造10ならびに溝型導光格子構造20の加工にはレーザーアブレーションなどの技術を用いるようにしてもよいものである。
【0105】
(7)上記した実施の形態においては、溝型導光格子構造10の表面10bならびに溝型導光格子構造20の表面20bに対して特殊な処理を施さなかったが、これに限られるものではないことは勿論であり、溝型導光格子構造と外部媒質(真空、気体、液体または固体)との界面における反射損失を最小に抑えるために、溝型導光格子構造10の表面10bならびに溝型導光格子構造20の表面20bにポリエチレン等からなる反射防止膜を施しても良いものである。
【0106】
(8)上記した実施の形態ならびに上記した(1)乃至(7)に示す変形例は、適宜に組み合わせるようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明は、テラヘルツ波を発生させる際に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0108】
【図1】図1は、従来の方法による非線形光学結晶を用いたテラヘルツ波発生の際の、カップラを使用しない場合の非線形光学結晶内のテラヘルツ波の動きを表した概念説明図である。
【図2】図2は、従来の方法によるシリコンプリズムのカップラと非線形光学結晶とを用いたテラヘルツ波発生の際の、非線形光学結晶内で発生したテラヘルツ波の動きを表した概念説明図である。
【図3】図3は、従来の方法による異方性エッチング加工されたシリコン回折格子のカップラと非線形光学結晶とを用いたテラヘルツ波発生の際の、非線形光学結晶内で発生したテラヘルツ波の動きを表した概念説明図である。
【図4】図4は、本発明による回折格子の溝型導光格子構造の第1の実施の形態を示す概念構成断面説明図である。
【図5】図5は、溝型導光格子構造の第1の実施の形態における、溝型導光格子構造内でのテラヘルツ波の動きを表した概念説明図である。
【図6】図6は、本発明による回折格子の溝型導光格子構造の第2の実施の形態を示す概念構成断面説明図である。
【図7】図7は、溝型導光格子構造の第2の実施の形態における、溝型導光格子構造内でのテラヘルツ波の動きを表した概念説明図である。
【符号の説明】
【0109】
10 溝型導光格子構造
10a 溝
10b 表面
12、12a、12b、12c、12d テラヘルツ波
20 溝型導光格子構造
20a 溝
20aa 下端部
20b 表面
20c 下部
22、22a、22b、22c、22d、22e テラヘルツ波
100 非線形光学結晶
100a 表面
102 カップラ
104 回折格子
104a 出射表面
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図4】
2
【図5】
3
【図6】
4
【図7】
5
【図3】
6