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明細書 :オーステンパ球状黒鉛鋳鉄の溶接方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5099543号 (P5099543)
公開番号 特開2009-022987 (P2009-022987A)
登録日 平成24年10月5日(2012.10.5)
発行日 平成24年12月19日(2012.12.19)
公開日 平成21年2月5日(2009.2.5)
発明の名称または考案の名称 オーステンパ球状黒鉛鋳鉄の溶接方法
国際特許分類 B23K  26/20        (2006.01)
B23K  26/32        (2006.01)
B23K  35/30        (2006.01)
C22C  37/04        (2006.01)
C22C  19/03        (2006.01)
B23K 103/06        (2006.01)
FI B23K 26/20 310F
B23K 26/32
B23K 35/30 Z
C22C 37/04 B
C22C 19/03 G
C22C 37/04 A
B23K 103:06
請求項の数または発明の数 2
全頁数 8
出願番号 特願2007-189347 (P2007-189347)
出願日 平成19年7月20日(2007.7.20)
審査請求日 平成22年7月7日(2010.7.7)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】899000057
【氏名又は名称】学校法人日本大学
発明者または考案者 【氏名】柴田 文男
個別代理人の代理人 【識別番号】100066980、【弁理士】、【氏名又は名称】森 哲也
【識別番号】100075579、【弁理士】、【氏名又は名称】内藤 嘉昭
【識別番号】100103850、【弁理士】、【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
審査官 【審査官】大屋 静男
参考文献・文献 特開平08-290292(JP,A)
特開2001-334378(JP,A)
特開昭48-017450(JP,A)
特開2003-105436(JP,A)
調査した分野 B23K 26/00-26/42
特許請求の範囲 【請求項1】
少なくとも一方がオーステンパ球状黒鉛鋳鉄からなる2つの部材を突合せ、そこにレーザを照射して前記両部材を溶接するに際して、前記両部材の突合せ面の間にインサート材を挿入してレーザを照射し、前記両部材の突合せ面近傍部分と前記インサート材とを共に溶融、凝固させ前記両部材を溶接するとともに、前記インサート材は、前記両部材の突合せ面近傍部分と前記インサート材とが溶融、凝固した溶融凝固部の組織が、オーステナイト相を主とする組織となるような金属からなり、該金属が、ニッケル及びクロムを合金成分として含有する鋼であることを特徴とするオーステンパ球状黒鉛鋳鉄の溶接方法。
【請求項2】
前記鋼がSUS310Sであることを特徴とする請求項1に記載のオーステンパ球状黒鉛鋳鉄の溶接方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、オーステンパ球状黒鉛鋳鉄の溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
オーステンパ球状黒鉛鋳鉄(以降はADIと記すこともある)は、球状黒鉛鋳鉄をオーステンパ処理して得られるものである。このADIは機械的性質が大変優れており鋳鉄の中でも最も高強度であるため、自動車部品や構造部材の材料として有用であり、ADIの利用によって部材の薄肉化,軽量化が可能である。

【特許文献1】特開平11-104884号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、球状黒鉛鋳鉄の溶接方法は知られているものの(特許文献1を参照)、ADIを溶接する方法は現在までほとんど研究されておらず、ADIを欠陥なく溶接する方法は知られていない。すなわち、ADIは溶接が著しく困難で、ADIを溶接すると溶接割れ(クラック),気孔(ポロシティ)等の溶接欠陥が生じるため、満足な溶接を行うことができないという難点を有していた。このようなADIの性質は、ADIを利用する上で大きな制約となっている。
そこで、本発明は、上記のような従来技術が有する問題点を解決し、溶接割れ,気孔等の溶接欠陥が生じにくいオーステンパ球状黒鉛鋳鉄の溶接方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
前記課題を解決するため、本発明は次のような構成からなる。すなわち、本発明に係る請求項1のオーステンパ球状黒鉛鋳鉄の溶接方法は、少なくとも一方がオーステンパ球状黒鉛鋳鉄からなる2つの部材を突合せ、そこにレーザを照射して前記両部材を溶接するに際して、前記両部材の突合せ面の間にインサート材を挿入してレーザを照射し、前記両部材の突合せ面近傍部分と前記インサート材とを共に溶融、凝固させ前記両部材を溶接するとともに、前記インサート材は、前記両部材の突合せ面近傍部分と前記インサート材とが溶融、凝固した溶融凝固部の組織が、オーステナイト相を主とする組織となるような金属からなり、該金属が、ニッケル及びクロムを合金成分として含有する鋼であることを特徴とする。
【0005】
また、本発明に係る請求項2のオーステンパ球状黒鉛鋳鉄の溶接方法は、請求項1に記載のオーステンパ球状黒鉛鋳鉄の溶接方法において、前記鋼がSUS310Sであることを特徴とする
【発明の効果】
【0006】
本発明のオーステンパ球状黒鉛鋳鉄の溶接方法によれば、溶接割れ等の溶接欠陥をほとんど生じることなくオーステンパ球状黒鉛鋳鉄を溶接することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明に係るオーステンパ球状黒鉛鋳鉄の溶接方法の実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。図1,2は、オーステンパ球状黒鉛鋳鉄の溶接方法を説明する図であり、図1は斜視図、図2は一部を破断した側面図である。
板状のADI製試験片(縦100mm,横100mm,厚さ6mm)を用意して、アセトン中で超音波洗浄した。洗浄した2枚のADI製試験片1,1を溶接台10に載置し、互いの側面1a,1aを突合せた。その際には、突合せた両側面(突合せ面)1a,1aの間に、ニッケル(ただし、不可避の不純物を含有している)製のインサート材3を挿入した。
【0008】
そして、両試験片1,1の側面1a,1aの近傍部分及びインサート材3にレーザを照射して溶接を行った。レーザ溶接の条件は、溶接速度500mm/min、焦点位置-2mmである。また、このレーザ溶接はシールドガス法により行い、シールドガスとしてヘリウムとアルゴンを用いた。図1,2に示すように、ヘリウムは流量30L/minでレーザを照射している部分及びその周辺部に試験片1の上方から吹き付け、アルゴンは流量10L/minで試験片1の下側に流した。
【0009】
レーザを照射すると、試験片1,1の側面1a,1aの近傍部分とインサート材3とが共に溶融される。そして、レーザの照射を停止すると、溶融している部分が凝固して両試験片1,1が溶接される。
ADIは炭素や黒鉛を多量に含有しているため、インサート材3を用いずに溶接すると、溶融、凝固した部分(以降は溶融凝固部と記す)が白銑化して硬化し、溶接割れや気孔が発生した。そのため、一応接合はしたものの、接合部の強度は極めて低く、実用に耐え得るものではなかった。溶接割れの発生は、急熱,急冷による熱サイクルを受けて、溶融凝固部が著しく硬化したことが一因であると考えられる。
【0010】
一方、インサート材3を用いて溶接した場合は、ADIとニッケルとが共に溶融して混合されるため、溶融凝固部の組織はオーステナイト相を主とする組織となる。そのため、溶融凝固部の硬さが低くなって、溶接割れが抑制されたと考えられ、接合部の強度は、インサート材3を用いずに溶接した場合と比べて格段に高かった。
ADI製試験片1に用いたADI及びインサート材3に用いたニッケルの化学組成を表1に示す。また、溶融凝固部の化学組成を表2に示す。なお、シェフラー組織図による溶融凝固部のニッケル当量は37.4であり、クロム当量は0.02であった。
【0011】
【表1】
JP0005099543B2_000002t.gif

【0012】
【表2】
JP0005099543B2_000003t.gif

【0013】
図3に、溶融凝固部の周辺部分の硬さ分布を示す。硬さの測定位置は、表面から1mm内部とした。インサート材3を用いずに溶接した場合の結果は、白丸印でプロットしてあるが、溶融凝固部(図3にはF.Z.と記してある)の平均硬さは824Hvで、熱影響部(図3にはH.A.Z.と記してある)の最高硬さは1192Hvであり、500Hv以下である元のADIの硬さよりも著しく硬化していることが分かる。これに対して、インサート材3を用いて溶接した場合は、黒丸印でプロットしてあるが、溶融凝固部の平均硬さは395Hvで、熱影響部の最高硬さは1047Hvであり、溶融凝固部の硬さは元のADIの硬さとほぼ同程度であることが分かる。
【0014】
なお、インサート材3の素材はニッケルに限定されるものではなく、インサート材3を形成する金属がADIに混合されることにより溶融凝固部の組織が、オーステナイト相を主とする組織となるならば、他種の金属でも差し支えない。例えば、ニッケルを合金成分として含有する合金でもよいし、ニッケル及びクロムを合金成分として含有する合金でもよい。この合金においては、ニッケルが主成分であってもよいし、ニッケル以外の金属が主成分であってもよい。ニッケル以外の金属が主成分である合金としては、例えば鋼があげられる。このような鋼の具体例としては、SUS304やSUS310Sがあげられる。
また、本実施形態においては、インサート材3の厚さを1.0mmとしたが、溶融凝固部の組織がオーステナイト相を主とする組織となるならば、この厚さに限定されるものではない。
【0015】
さらに、本実施形態においては、ADI製の部材同士を溶接する方法について説明したが、2つの部材のうち一方の部材がADI製であれば、他方の部材は他種の金属(例えば球状黒鉛鋳鉄)製であっても、本発明の溶接方法を適用することができる。すなわち、オーステンパ球状黒鉛鋳鉄からなる部材と、他種の金属材料からなる部材とを突合せ、突合せ面の間にインサート材を挿入して前述のようにレーザ溶接を行えば、溶接割れ等の溶接欠陥をほとんど生じることなく両部材を溶接することができる。
以上説明したように、本発明のオーステンパ球状黒鉛鋳鉄の溶接方法によれば、溶接割れ等の溶接欠陥をほとんど生じることなくオーステンパ球状黒鉛鋳鉄を溶接することができる。よって、低強度の鋳鉄に代えて、オーステンパ球状黒鉛鋳鉄を自動車部品や構造部材の材料として適用することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係るオーステンパ球状黒鉛鋳鉄の溶接方法の一実施形態を説明する斜視図である。
【図2】本発明に係るオーステンパ球状黒鉛鋳鉄の溶接方法の一実施形態を説明する側面図である。
【図3】溶融凝固部の周辺部分の硬さ分布を示すグラフである。
【符号の説明】
【0017】
1 ADI製試験片
1a 側面(突合せ面)
3 インサート材
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2