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明細書 :魚類胚の作製方法及びその利用

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5327733号 (P5327733)
公開番号 特開2009-072074 (P2009-072074A)
登録日 平成25年8月2日(2013.8.2)
発行日 平成25年10月30日(2013.10.30)
公開日 平成21年4月9日(2009.4.9)
発明の名称または考案の名称 魚類胚の作製方法及びその利用
国際特許分類 C12N   5/10        (2006.01)
A01K  67/02        (2006.01)
A01K  67/027       (2006.01)
C12N  15/873       (2010.01)
FI C12N 5/00 102
A01K 67/02
A01K 67/027
C12N 15/00 K
請求項の数または発明の数 10
全頁数 19
出願番号 特願2007-241633 (P2007-241633)
出願日 平成19年9月18日(2007.9.18)
審査請求日 平成22年9月21日(2010.9.21)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人名古屋大学
発明者または考案者 【氏名】若松 佑子
【氏名】橋本 寿史
【氏名】エカテリーナ ブベンシコバ
【氏名】エレナ カフタノフスカヤ
個別代理人の代理人 【識別番号】100105728、【弁理士】、【氏名又は名称】中村 敦子
【識別番号】110000110、【氏名又は名称】特許業務法人快友国際特許事務所
審査官 【審査官】山本 匡子
参考文献・文献 国際公開第2007/096985(WO,A1)
特開2006-187210(JP,A)
特表2003-518936(JP,A)
特表2003-517317(JP,A)
特表2002-537785(JP,A)
調査した分野 C12N 1/00-5/10
A01K 67/02
A01K 67/027
C12N 15/00-90
WPIDS/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
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Wiley Online Library
CiNii


特許請求の範囲 【請求項1】
魚類胚の作製方法であって、
除核していない魚類の未受精卵に対して物理的及び/又は化学的なストレスを付与するストレス付与工程と、
細胞周期がG2期又はM期の前記除核していない未受精卵に対し、G2期又はM期の魚類の細胞核を移植する核移植工程と、
を備える、作製方法。
【請求項2】
前記ストレス付与工程に先立って、前記未受精卵を活性化する刺激を付与する活性化工程を備え、
前記ストレス付与工程及び前記核移植工程を、前記活性化工程を開始したときから一定期間内に実施する、請求項1に記載の作製方法。
【請求項3】
前記活性化工程後であって前記ストレス付与工程後に、活性化後の未受精卵の保存工程を備える、請求項2に記載の作製方法。
【請求項4】
前記核移植工程を、4倍体細胞である培養魚類細胞から採取された細胞核を用いて実施する、請求項1~3のいずれかに記載の作製方法。
【請求項5】
前記培養魚類細胞は、初代培養細胞である、請求項3又は4に記載の作製方法。
【請求項6】
前記ストレス付与工程は、熱ストレスを付与する工程である、請求項1~5のいずれかに記載の作製方法。
【請求項7】
前記魚類はメダカ属又はその近縁に属する魚類から選択される、請求項1~6のいずれかに記載の作製方法。
【請求項8】
魚類個体の作製方法であって、
請求項1~7のいずれかに記載の魚類胚の作製方法における各工程と、
作製された前記魚類胚を孵化まで発生させる工程と、
を備える、作製方法。
【請求項9】
前記魚類個体を繁殖させる工程を備える、請求項に記載の作製方法。
【請求項10】
トランスジェニック魚類の作製方法であって、
除核していない魚類の未受精卵に対して物理的及び/又は化学的なストレスを付与するストレス付与工程と、
G2期又はM期の前記除核していない未受精卵に対し、外来DNAが染色体上に導入された魚類細胞のG2期又はM期の細胞核を移植する核移植工程と、
を備える、作製方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、魚類胚及び魚類個体の作製技術に関する。
【背景技術】
【0002】
魚類におけるより効率的な個体作製あるいは遺伝子工学的な修飾を施した個体作製のためには、培養細胞や体細胞の核を用いた核移植個体の作製方法の開発が望まれている。そうした中、ゼブラフィッシュにおいて、除核した未受精卵に胚由来の培養細胞を移植して個体を作製したとの報告がある(非特許文献1)。また、メダカにおいて、除核しない未受精卵に培養細胞核を移植することによる個体の作製も試みられている(非特許文献2)。しかしながら、後者の報告では、一部の胚が孵化するものの成魚には至らず、程度の異なるものの奇形胚が多いこと、また、胚を構成する細胞は、その染色体の倍数性についてモザイクとなっていることが開示されている。
【0003】
そこで、本発明者らは、既に、未受精卵に対し、染色体の二倍体化を生じさせるストレスを付与し、その後、ドナーとなる魚類細胞の細胞核を移植することで、正しい倍数性の染色体を保持する魚類胚を作製できることを報告した(特許
文献1)

【特許文献1】特開2006-187210号公報
【非特許文献1】Ki-Young Leeら、Nature Biotecnology 20, p.795-799, 2002
【非特許文献2】B. Juら、Develop. Growth Differ. 45, p.167-174, 2003
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記方法によれば正しい倍数性の魚類胚を従来に比べて確実に作製できるようになったが、次の段階としては、魚類個体を効率よく得ることが要請される。そこで、本発明は、魚類個体を効率よく作製する技術及びその用途を提供することを一つの目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、未受精卵を活性化後一定期間内に二倍体化刺激を付与しさらに核移植を実施することにより、予想に反して個体となる魚類胚の作製効率が高まることという知見を得た。さらに、この一定期間内において未受精卵がG2期又はM期にあるという知見を得た。本発明者らはこれらの知見に基づき本発明を完成した。本発明によれば以下の手段が提供される。
【0006】
本発明によれば、魚類胚の作製方法であって、魚類の未受精卵に対して物理的及び/又は化学的なストレスを付与するストレス付与工程と、前記未受精卵に対し魚類の細胞核を移植する核移植工程と、を備え、前記核移植工程は、前記細胞核の移植を前記未受精卵の細胞周期がG2期又はM期にあるとき実施する、作製方法が提供される。
【0007】
本発明の方法においては、前記ストレス付与工程に先立って、前記未受精卵を活性化する刺激を付与する活性化工程を備え、前記ストレス付与工程及び前記核移植工程を、それぞれ前記活性化工程を開始したときから一定期間内に実施してもよく、前記活性化工程後であって前記ストレス付与工程後に、活性化後の未受精卵の保存工程を備えていてもよい。また、前記核移植工程は、G2期又はM期の培養魚類細胞から採取された細胞核を移植する工程としてもよいし、4倍体細胞である培養魚類細胞から採取された細胞核を用いて実施してもよい。これらの態様において、前記培養魚類細胞は初代培養細胞とすることができる。
【0008】
本発明の方法においては、前記ストレス付与工程は、熱ストレスを付与する工程であることが好ましい。また、前記魚類はメダカ属又はその近縁に属する魚類から選択されることが好ましい。
【0009】
本発明によれば、上記いずれかに記載の魚類胚の作製方法によって得られる魚類胚が提供される。
【0010】
本発明によれば、魚類個体の作製方法であって、上記いずれかの魚類胚の作製方法における各工程と、作製された前記魚類胚を孵化まで発生させる工程と、を備える、魚類個体の作製方法が提供される。この魚類個体の作製方法においては、前記魚類個体を繁殖させる工程を備えてもよい。
【0011】
本発明によれば,上記いずれかに記載の魚類個体の作製方法によって得られる、魚類個体も提供される。
【0012】
本発明によれば、トランスジェニック魚類の作製方法であって、魚類の未受精卵に対して物理的及び/又は化学的なストレスを付与するストレス付与工程と、前記未受精卵に対し、外来DNAが染色体上に導入された魚類細胞の細胞核を移植する核移植工程と、を備え、前記核移植工程を、少なくとも前記未受精卵及び前記細胞核のいずれかの細胞周期をG2期又はM期にあるとき実施する、作製方法が提供される。
【0013】
本発明によれば、上記トランスジェニック魚類の作製方法によって得られる、トランスジェニック魚類も提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明は、魚類胚の作製方法及び魚類胚、魚類個体の作製方法及び魚類個体並びにトランスジェニック魚類の作製方法及びトランスジェニック魚類に関する。
【0015】
本発明は、魚類の未受精卵に対して物理的及び/又は化学的なストレスを付与し、この未受精卵に対し魚類の細胞核を移植する核移植するのに際し、核移植を前記未受精卵の細胞周期がG2期又はM期にあるとき実施することを特徴とする。この方法によると、ドナー核に由来する魚類個体を効率よく得られる魚類胚を作製できる。すなわち、核移植卵を孵化して成魚となる魚類胚を効率的に得ることができる。推論であって本発明を拘束するものではないが、未受精卵の細胞周期がG2期又はM期にあることで、魚類胚の作製効率が高まると考えられる。
【0016】
哺乳動物のクローン作製時における核移植には、一般にG1期またはG0期のドナー細胞核が用いられている(Wilmut, I.ら、Nature 385, 810-813, 1997)。これを参考にして、魚類の核移植でもG1期またはG0期のドナー細胞核を用いている例はある(Liu, T. M. ら、J. Exptl. Zool. 293, 719-725, 2002、 Lee, K-Y. ら、Nature Biotechnology 20, 795-799, 2002.)。しかし、ドナー核とレシピエント卵の細胞周期の長さが大きく違わない哺乳動物とは異なり、魚類では一般に両者は大きく異なる。このため、哺乳動物で行われている方法が魚類でも有効かどうかは不明であったが、この問題についての研究はこれまで行われていない。今回、我々は我々の核移植の方法で細胞周期を調べてみて、初めて、両者がG2期又はM期にあることを発見したのである。G2期又はM期にあるドナー細胞を細胞核取得源として用いることによる本発明の効果は当業者といえども予想を超えるものである。
【0017】
さらに、G2期又はM期にあるドナー細胞から採取した細胞核を移植することで一層効率的に魚類胚を得ることができる。未受精卵の細胞周期とドナー核の細胞周期とがG2期又はM期に同調することが、魚類胚の作製効率を一層高めると考えられる。ドナー核とレシピエント卵の細胞周期の長さが大きく異なることが成功を難しくしている下等脊椎動物の体細胞核移植において、両者の細胞周期の同調により、高い成功率が得られたことの意味は大きいと考えられる。
【0018】
以下、本発明の各種実施形態につき、適宜図面を参照しつつ詳細に説明する。図1は、本発明の魚類胚の作製方法の一例を示す図である。なお、これらの図は、本発明を説明するための図であり、本発明を限定するものではない。
【0019】
(魚類胚)
本発明において魚類胚とは、魚類個体を構築しうる遺伝物質を保持し、かつ魚類個体の孵化に至るまでの全ての段階にあるものをいう。また、ここで魚類個体とは、成魚のほか、一旦孵化したものは幼魚であっても個体というものとする。本発明は少なくとも魚類に適用される。魚類としては特に限定しないが、例えば、研究又は実験用途として、ゼブラフィッシュ、メダカ、キンギョ、ドジョウが挙げられる。また、鑑賞用途としては、コイ、フナ、メダカ、キンギョ等が挙げられる。さらに、食用としては、サケ、マス、ニジマス、ヤマメ、アマゴ、ウナギ、ブリ、コイ、ヒラメ、マダイ、ティラピア等が挙げられる。なかでも、特開2001-346480号公報に開示される透明メダカなどを含むメダカ属又はその近縁に属する魚類は各種のモデル魚など研究用途の他鑑賞用途にも適している。さらに、本発明を適用する魚類は、天然変異又は既に人工的に遺伝子が修飾された魚類も包含しており、これらの改変魚類の遺伝的性質を維持しあるいはさらに改変する場合にも有用である。
【0020】
(未受精卵)
本発明における未受精卵は、核移植による魚類胚作製にあたり、魚類胚に細胞質を提供するレシピエント細胞となることができる。本発明において用いる未受精卵は、第二減数分裂のメタフェーズで停止した未受精卵(いわゆる成熟した未受精卵)であることが好ましい。こうした未受精卵は、成熟した雌の個体の卵巣等から採取することもできるし、卵母細胞をインビトロで培養し第二減数分裂のメタフェーズを到来させることにより得ることもできる。
【0021】
本発明における処理工程を行うにあたり未受精卵は除核されていることを要しないし、除核されていないで内在性核を有していることがより好ましい。また、未受精卵に対する除核操作は、魚類胚を得るまでの工程において行われないことが好ましい。公知の除核操作によれば、魚類胚作製効率が低下する傾向にあるからである。ここでいう除核とは、未受精卵からの物理的及び/又は化学的な手段による雌由来の内在性核の除去を意味している。なお、除核の手段としては、一般的に紫外線などの電磁波照射、マイクロピペットによる核を含む細胞質の吸引、薬剤処理などが挙げられる。
【0022】
(細胞核供給細胞)
未受精卵への魚類の細胞核の供給細胞(以下、単にドナー細胞という。)は、レシピエント細胞である未受精卵へ核を提供する。ドナー細胞としては、少なくとも個体の発生に必要な染色体セットを有していれば特に限定されないで、胚性細胞、幼生及び成体の体細胞のいずれかを用いることができる。
【0023】
本明細書において、胚性細胞は、受精卵から孵化に到達するまでの全ての発生段階にある細胞を包含している。また、胚性細胞には、胚性幹細胞、始原生殖細胞から誘導した胚性細胞も包含される。以上のことから明らかなように、ドナー細胞は、未分化の細胞のみならず分化した細胞も包含している。また、ドナー細胞は、融合細胞に由来する細胞であってもよい。さらに、ドナー細胞は培養細胞であることが好ましく、体細胞の培養細胞であることがより好ましい。さらに好ましくは初代培養細胞である。
【0024】
ドナー細胞としては、例えば、繊維芽細胞、外皮細胞、内皮細胞、神経細胞、軟骨細胞、筋肉細胞、心臓、肝臓等の各種内蔵の構成細胞、赤血球等の血液細胞等が挙げられる。こうしたドナー細胞は、魚類胚、魚類個体の一部又は全体から採取することにより、また採取した細胞を培養することにより得ることができる。
【0025】
細胞核を提供するのに適したドナー細胞の細胞周期は、G2期又はM期である。ドナー細胞がこうした細胞周期にあると、正しい倍数性の魚類胚を効率よく得ることができる。このようなドナー細胞は、典型的には4倍体細胞である。4倍体細胞は、例えば、フローサイトメトリー等で選択することができる。また、細胞の大きさで4倍体細胞を多く含む細胞画分を選択することも可能である。例えば、培養細胞の場合、特定種の魚類培養細胞につき、細胞の大きさ(典型的には直径)と染色体の状態(2倍体か4倍体か)を予め検討しておき、4倍体細胞を多く含む細胞サイズを決定しておくことができる。一例として、メダカ成魚尾鰭初代培養細胞の場合、17μm以上19μm以下の細胞が4倍体細胞が優勢である。なお、好ましくは、17μm以上18μm以下である。なお、こうした細胞直径以下の細胞であっても、移植のタイミングを調整することにより、従来に比較して高い比率で成魚となる魚類胚を得ることができる。
【0026】
ドナー細胞は未受精卵と同種の魚類に由来することを必ずしも要しないが、これらは同種の魚類の細胞であることが好ましい。なお、後述するように、ドナー細胞の染色体上には、未受精卵とは異種の魚類のDNAや同種魚類の他の個体のDNAの他、魚類以外の動物など異種生物のDNAや人工的なDNAを有していてもよい。
【0027】
(細胞核)
未受精卵に供給される細胞核は、ドナー細胞本来の内在性染色体DNAを含む。ドナー細胞の染色体には天然の又は人工的に導入された変異を備えていてもよい。人工的変異は化学的又は物理的な処理のほか、相同組換えにより導入されていてもよい。また、ドナー染色体には、外来性のDNAを備えていてもよい。外来DNAとしては所望のタンパク質をコードするDNAや選択マーカーをコードするDNAのほかプロモーター、エンハンサー等の各種調節領域をコードするDNA、RNA干渉を生じさせるRNAに対応するDNA等が挙げられる。これらの外来DNAは、染色体上にランダムに導入されていてもよいが、相同組換えにより染色体上に導入されていることが好ましい。
【0028】
未受精卵には、ドナー細胞の内在性染色体の他、ドナー細胞内あるいは核内に存在する染色体外DNAやRNAなどの核酸も核移植により移植されることができる。こうした染色体外核酸としては、染色体上に備え得る変異や外来性DNAのほか、ウイルスのほか、プラスミドあるいは人工染色体などを用いることができる。また、ドナー細胞には、モルフォリノアンチセンスオリゴの手法に基づくRNAやCaged技術に基づくRNAやDNAを保持していてもよい。このような染色体外核酸も染色体とともに未受精卵に移植されうる。
【0029】
こうした変異や外来核酸を染色体上あるいは染色体外に有するドナー細胞は、天然変異を備える魚類や遺伝子工学的に作製した魚類から採取し、必要に応じ培養することによって得ることができる。また、変異は、培養魚類細胞を化学的及び/又は物理的に処理して染色体上に導入することもできる。さらには、培養魚類細胞に対して、注入、細胞融合、各種のトランスフェクション法を用いて外来核酸を導入して染色体上あるいは染色体外に外来核酸を備える魚類細胞を得ることもできる。
【0030】
(未受精卵の処理)
(未受精卵への活性化刺激の付与)
図1には、本発明の魚類胚の作製方法における典型的なスキームを示す。図1に示すように、未受精卵への物理的及び/又は化学的なストレスの付与前に、活性化刺激を付与しておくことができる。活性化刺激は、未受精卵に発生を開始させることができるものであればよい。こうした刺激としては、未受精卵において
一般に雌性発生を開始させることができるような刺激から適宜選択して用いることができる。刺激付与方法としては、例えば、DCパルスなどによる電気的刺激、紫外線、γ線、X線による照射等によって不活性化した精子による受精、精子抽出液との接触、エタノール処理、カルシウム濃度の調整等が挙げられる。これらの刺激は単独で又は二種類以上を組み合わせて用いることができる。なかでも、電気的刺激が好ましい。電気的刺激は操作性がよいとともに、刺激付与の後段で物理的及び/又は化学的ストレスを付与する場合、これらのストレス付与ステップへ容易に移行できる。電気的刺激は、例えば、25℃、5V、50マイクロ秒間を2回など、適宜設定することができる。
【0031】
なお、未受精卵の活性化は、上記のような細胞核の移植を伴わないものに限られず細胞核を未受精卵に移植する際の刺激によって行うこともできる。すなわち、未受精卵の活性化は、細胞核の移植(導入)を伴っていてもよい。後述する各種方法による細胞核の未受精卵への移植は、一般に未受精卵を活性化することができるからである。
【0032】
なお、細胞核の移植を伴わないで未受精卵の活性化を行う場合には、外来の細胞核を導入するまで、第二極体の放出の阻止又は第一卵分割を阻止して未受精卵の二倍数体状態を維持することが好ましい。レシピエントの雌性核を二倍体化することで、発生してくる胚が倍数性のモザイクになることを防いで、正常な倍数性の魚類胚を得られやすくなると考えられるからである。
【0033】
本発明においては、こうした未受精卵への活性化刺激は、除核されていない、すなわち、内在性核を有する未受精卵に対して行われることが好ましい。より具体的には除核されていない未受精卵である。除核されていない未受精卵にかかる処理を行うことにより、雌性核を保持する細胞質に外来の細胞核を受容することができ、孵化率の高い魚類胚を作製できる。また、活性化の後段に実施するストレス付与処理により、未受精卵の発生初期段階を効果的に調節して、正常な倍数性の魚類胚を構築できると考えられる。
【0034】
(未受精卵に対する物理的及び/又は化学的なストレスの付与)
未受精卵に対する物理的及び/又は化学的ストレスは、未受精卵における発生開始の過程に抑制的に作用する物理的及び/又は化学的刺激を包含している。発生の開始の過程に抑制的に作用する刺激は、発生を開始した未受精卵に染色体二倍体化を生じさせるか又はそれと同等の物理的及び/又は化学的ストレスを含んでいる。より具体的には、発生を開始した未受精卵において染色体二倍体化を生じさせるか、染色体二倍体化を生じさせないにしても染色体の半減化を抑制ないし遅延するなど染色体二倍体化よりも低い程度で正常な発生開始の過程を抑制するような物理的及び/又は化学ストレスを含んでいる。なお、ここでいう「発生」とは単為発生を含んでいる。こうしたストレスは、好ましくは、染色体の半減化を抑制又は遅延させて二倍体化を促進するようなストレスである。より好ましくは、二倍体化を生じさせるストレスである。
【0035】
このような物理的及び/又は化学的ストレスは、少なくとも未受精卵において第二極体の放出及び第一卵分割のいずれかを阻止又は抑制するようなストレスであることが好ましい。かかるストレスの具体的態様は魚種によって様々であるが、物理的ストレスとしては、温度処理及び圧力処理が一般的である。また、化学的ストレスとしては、サイトカラシンB等による処理や、高pH処理や高濃度カルシウム処理などが挙げられる。これらの物理的及び化学的ストレスは、単独で又は2種類以上を組み合わせて付与することもできる。
【0036】
たとえば、第二極体放出阻止のための温度処理としては、一般にマダイ、ヒラメなどの比較的高温域に生息する魚類では低温処理が有効な場合が多く、サケ、マス類などの冷水性の魚類では、高温処理が有効な場合が多い。マダイやヒラメでは、活性化後3~5分後0℃付近で10~45分間程度、サケ、マス類では、活性化後10~60分後に25~30℃で10~20分間程度である。
【0037】
また、例えば、メダカでは、活性化直後から10分以内に温度処理を行うことができる。この時間内において温度処理を行うことで活性化しつつそれによって誘発される第二極体放出を抑制できるからである。好ましくは、1分以上経過後であり、より好ましくは2分以上経過後である。1分以上経過後であれば確実に活性化でき、2分以上経過後であればその後のストレス付与によって効果的に第二極体放出が阻止される。また、活性化後から6分以内に温度処理を開始することが好ましい。6分以内であればストレス付与により第二極体放出を抑制できるからである。より好ましくは4分以内である。4分以内であれば、第二極体放出をより効果的に阻止できる。さらに好ましくは、活性化後2分以上4分以内である。典型的には2分30秒程度である。
【0038】
また、メダカにおける温度処理の温度は、37℃以上45℃以下とすることができる。この範囲であると第二極体放出を効果的に抑制できるからである。好ましくは、40℃以上である。40℃以上であると短時間の処理で有効だからである。さらに好ましくは41℃以上である。また、好ましくは43℃以下である。43℃以下であるとその後の胚発生を阻害しにくいからである。さらに好ましくは、42℃以下である。典型的には、41℃又は41.5℃である。さらにまた、当該温度による処理時間は、5分以内とすることができる。この範囲であると、その後の魚類胚発生を抑制することなく第二極体の放出を抑制できるからである。より好ましくは4分以内であり、さらに好ましくは2~3分以内である。
【0039】
さらに、メダカにおける温度処理の温度は、-5℃以上15℃以下としてもよい。この範囲であっても第二極体放出を抑制することができる。なお、0℃以下の温度で処理を行う場合は、処理のための媒体はその温度で凍結しないものを使用する。好ましくは、0℃以上であるが、媒体が凍結しない限り0℃近傍であってもよい。また、好ましくは10℃以下であり、より好ましくは5℃以下である。
【0040】
こうした各種魚類における第二極体放出阻止のための条件は、活性化後の経過時間、温度ないし圧力条件などの処理条件、処理時間を適宜組み合わせ、染色体染色やフローサイトメトリーなどを採用することにより、適切な条件を見出すことができる。
【0041】
また、第一卵割阻止のための温度処理としては、一般に高温処理や高水圧処理が有効とされている。例えば、マダイでは活性化後46分後から700kg/cmで5分30秒、ヒラメでは、活性化後60分以後から650kg/cmで6分間、ニジマスでは、活性化後180~300分後に28~32℃で4~10分間、コイでは活性化後28~30分後から40℃で2分間などである。こうした第一卵割阻止のための条件は、魚種により様々であるが、活性化後の経過時間、温度ないし圧力条件などの処理条件、処理時間を適宜組み合わせ、染色体染色やフローサイトメトリーなどを利用することにより、適切な条件を見出すことができる。
【0042】
なお、こうした第二極体放出や第一卵分割の阻止又は抑制は、既に述べたように未受精卵の活性化刺激が前提となるが、必ずしも活性化刺激がストレス付与に先立つことが必要でない場合もありえ、ストレス付与下で活性化刺激が付与されたりしてもよい場合がありうる。活性化刺激の付与及びこうしたストレスの付与と核移植との時間的関係としては、各種の組み合わせがあるが、好ましくは、核移植を伴わない活性化刺激後に、ストレスを付与しそれとともにあるいはその後核移植を行う。このようなスキームによれば、未受精卵の発生初期段階を効果的に調節して、正常な倍数性の魚類胚を構築するのに最も有効である。
【0043】
(未受精卵に対する活性化刺激付与後からストレス付与までの保存工程)
正しい又は意図した倍数性の魚類胚を効率よく得るには、未受精卵を活性化する刺激付与後上記ストレス付与までの保存条件が影響する。魚類個体の効率的に得るには、未受精卵の細胞周期がG2期~M期にある一定期間内に細胞核を移植する工程を実施する必要があるからである。換言すれば、未受精卵に対する活性化刺激付与後からストレス付与までの保存工程における保存条件の調整により、得られる魚類胚の倍数性や魚類胚の得られる効率を向上させ、結果として適切な魚類個体の作製効率を向上させることができる。したがって、保存条件の適切な設定により、魚類胚及び魚類個体を効率的に得ることができる。なお、こうした保存条件は、ストレス付与による第二極体の放出の抑制や第一卵割の阻止又は抑制の効果にも影響するものと推測される。
【0044】
保存条件は、温度及び時間によって規定することができる。こうした保存条件は、未受精卵に対する活性化刺激後からストレス付与までの待機時間と温度とを種々に変更し、ストレス付与、核移植及び胚作製を実施して意図した倍数性又は正しい倍数性(例えば2倍体など)を効率的に得られた条件を選択すればよい。
【0045】
例えば、実施例において後述するように、メダカ(Oryzias latipes)にあっては、活性化刺激付与後2分以上3分以下の範囲で保存工程を実施することが好ましく、好ましい温度は25℃~26℃程度である。また、さらに、好ましくは、2分30秒以上2分45秒以下の範囲で保存工程を実施することで正しい倍数性の魚類胚を効率よく得ることができる。
【0046】
(核移植)
魚類胚は、未受精卵にドナー細胞の細胞核を移植することによって作製する。未受精卵に対するドナー核の移植タイミング(実際に未受精卵にドナー核を移植するとき)は、未受精卵の細胞周期がG2期又はM期にあるときである。核移植を未受精卵がこの細胞周期にあるとき、正しい染色体倍数性を有して魚類個体となる魚類胚を効率よく得ることができる。また、移植する細胞核のドナー細胞がG2期又はM期であると、一層効率よく魚類胚を得ることができる。したがって、魚類の核移植においては、レシピエント細胞及び細胞核の由来するドナー細胞をG2期又はM期に同調することが好ましい。
【0047】
細胞周期がG2期又はM期である未受精卵を準備するには、未受精卵につきそのような細胞周期にあるかどうか観察して取得してもよいが、未受精卵に対する所定の活性化刺激付与からのG2期又はM期にいたる条件を、上記した保存条件やストレス付与時の条件等を考慮して確認しておき、そのような条件を充足するような未受精卵を準備してもよい。例えば、後述する実施例に示すように、メダカの未受精卵については、活性化刺激後、おおよそ10分~15分以内はG2期及びM期にあることがわかっている。
【0048】
核移植のタイミングは、ストレス付与工程との関係からは、未受精卵の細胞周期がG2期又はM期である限り特に限定されない。ストレス付与工程の直後であってもよいし、しばらく後であってもよい。好ましくは、ストレス付与工程の完了後速やかに(2~3分以内程度)、好ましくは直ちに(1分以内程度)に核移植工程を開始し、ストレス付与工程完了後から開始からできるだけ早いタイミングで核移植を実施することが好ましい。なお、以下に記載するように、ストレス付与工程完了後、未受精卵が耐えうる程度の低温等の条件下で細胞周期を遅延させることがより好ましい。
【0049】
核移植工程自体一定時間を要するが、少なくとも核移植のタイミングが、未受精卵がG2期又はM期であるときであればよい。なお、核移植工程を10℃以下程度で実施することにより、細胞周期を遅延化することで核移植工程完了までG2期又はM期に維持しやすくなる。
【0050】
核移植は、特に限定しないで従来公知の方法によることができる。手法としては、例えば、化学的、ウイルス的あるいは電気的手法を介した細胞融合や、無傷あるいは損傷した細胞の注入、溶解した細胞の注入、核の注入などによることができる。これらの核移植によれば、活性化されていない未受精卵であっても、また、活性化後上記ストレスが付与された後であっても、未受精卵において発生を誘導し開始させることができる。例えば、マイクロマニピュレーターによるマイクロインジェクションによってドナー細胞を注入することは、上記ストレスが付与された後の未受精卵における発生を誘導するのに十分に刺激的である。
【0051】
なお、トランスジェニック魚類を作製するのにあたり、作製した魚類胚に所望のDNAを備えるDNAコンストラクト(プラスミドベクターなど各種ベクターを含む)を導入することもできる。DNAコンストラクトに備えられるDNAとしては、所望のタンパク質をコードするDNAや選択マーカーをコードするDNAのほかプロモーター、エンハンサー等の各種調節領域をコードするDNA、RNA干渉を生じさせるRNAに対応するDNA等が挙げられる。こうした胚へのDNAコンストラクトの導入はマイクロインジェクションによるほかトランスフェクションなど従来公知の方法を採用することができる。また、モルフォルノアンチセンスオリゴの手法に基づくRNAやCaged技術に基づくRNAやDNAをドナー細胞に導入してもよい。
【0052】
(魚類胚の培養)
こうして得られた魚類胚は、魚種に応じた条件下で孵化するまで発生させる。孵化まで発生させるための培養条件は、魚種に応じて適宜選択することができる。例えば、メダカの場合には、核移植後から24時間程度は18℃程度で培養し、その後は、26℃程度の温度で培養することができる。培養液は、メチレンブルーを含む平衡塩類溶液(BSS)などを用いることができる。こうして魚類胚を孵化させることで魚類個体を得ることができる。得られた魚類個体は、魚種に応じた方法で飼育することができる。また、交配または染色体操作によりさらなる遺伝的改変が可能である。
【0053】
以上説明した本発明によれば、魚類個体となる魚類胚を効率よく得ることができる。すなわち、未受精卵に対する核移植数に対して高い比率で魚類個体を得ることができる。しかも、得られる魚類個体は、核移植により正しい染色体倍数性を有しドナー由来のDNAを保持することができる。なお、本発明によれば、染色体の倍数性についてのモザイク性が回避されており、魚類胚及び魚類個体として正しい染色体倍数性が保持されている。魚類の染色体は二倍数性であるので、二倍数性の胚及び個体が得られる。また、本発明によって得られる魚類個体は、正常な生殖細胞を有しており繁殖性も有している。
【0054】
本発明によって得られる魚類胚及び個体は、ドナー細胞由来の染色体DNAを保持している。ドナー染色体に組み込まれた外来DNAとしてGFP(緑色蛍光タンパク質)を用いてドナー由来染色体上の遺伝子発現を視認化したとき、魚類胚及び個体においてGFPがドナー系統と同様の形態で発現することが確認されている。このような遺伝子発現形態及び上記した染色体倍数性から、本発明の魚類胚及び魚類個体は、ドナー染色体を未受精卵由来染色体に対して優勢的に保持するか、あるいはドナーのクローンに近い形態あるいはクローンである魚類胚及び魚類個体となっている。さらに、こうしたGFP発現形態を備える本発明の魚類個体と当該魚類個体のレシピエントとなった系統の個体と交配させた結果得られたF世代においてもドナー系統と同様の形態でGFP遺伝子を発現していることから、生殖細胞においても、ドナー染色体を優勢的にあるいはドナー染色体のみを保持している。
【0055】
さらに、ドナー核の染色体上に外来DNAや変異を備える場合、あるいは魚類胚にDNA構築物など外来性核酸を導入した場合には、本発明の魚類胚及び魚類個体はそのようなDNAにコードされる遺伝子産物が発現されるトランスジェニック魚類(ノックイン、ノックアウト、ノックダウンを含む)となっている。体細胞や培養細胞は遺伝子工学的な修飾を容易に実施できるため、本発明によれば、簡易に遺伝子工学的に修飾を施した魚類胚及び個体を得ることができる。また、本発明によれば、こうしたトランスジェニック魚類の作製方法として、魚類細胞に外来DNAを導入して染色体上に外来DNAを有する魚類細胞を得る工程と、未受精卵に前記外来DNAが染色体上に導入された魚類細胞核を移植して魚類胚を作製する工程と、該魚類胚を孵化まで発生させる工程と、を備え、前記魚類胚の作製工程は、前記未受精卵に対して物理的及び/又は化学的なストレスを付与する処理する工程を含む方法が提供されることになる。
【0056】
さらにまた、得られた魚類個体を繁殖させることにより、当該魚類個体の子孫を増やすことができるが、魚類一般に適用されている単為発生等の染色体操作によって、一旦作製した魚類個体からこの魚類個体に由来するクローンやその改変体を容易に得ることができる。また、本発明の魚類個体の交配試験結果によれば、本発明の魚類個体の生殖細胞はドナー染色体を優勢的にあるいはドナー染色体のみあるいはそれに近い形態で保持するものとなっている。
【0057】
また、本発明の魚類胚及び個体の作製方法によれば、保存すべき魚種や保存すべき形質を保存しておくことができる。さらに、トランスジェニック魚を容易に作製できることから、魚類の品種
改良や増産のみならず、毒性学におけるモデル魚類、各種疾患モデル魚類、環境ホルモン等化学物質の環境モニタリングのための環境モニタリング魚類を用意に作製でき、遺伝子発現解析、新薬探索及び環境評価のための有用なツールを提供することができる。
【0058】
さらに、こうした魚類個体の細胞は、各種研究用用途や医療用用途に用いられる。また、魚類個体の細胞には、体細胞、胚細胞、生殖細胞のほか、該細胞の集合体である組織や器官及び臓器も含めることができる。
【0059】
本発明によれば、こうした魚類胚及び魚類個体を極めて効率よく得ることができる。したがって、魚類胚及び魚類個体を得る労力及び時間を著しく低減でき、これらを各種用途に適用する場合に十分量を容易に調達でき、これら用途にかかるコストを低減することができる。
【0060】
以下、本発明を、実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例により限定されるものではない。
【実施例1】
【0061】
本実施例では、図2に示すスキームに従って核移植を実施した。また、図3に示すスキームに従って比較例である核移植を実施した。
【0062】
(ドナー細胞の準備)
本実施例では、ドナー系統として、Tg(OlMA1-DsRed)(メダカα-actin遺伝子調節領域に赤色蛍光タンパク質遺伝子(DsRed)を結合したトランスジーンを保持する)(以下、単にTgREDという。)を準備した。TgREDは、全身の筋組織で赤色蛍光を発現する。この系統の成魚尾鰭の初代培養細胞の核を移植に用いた。なお、この培養中の細胞の約96%は2倍体、残りの約4%は4倍体であった。このうち、直径が約18μmの大型の細胞(以下、大型細胞という。)と、同12μmの小型の細胞(以下、小型細胞という。)と、をそれぞれ用いた。
【0063】
成体尾鰭培養細胞は、ドナーの成体尾鰭を採取し、細切し、ゼラチンコーティングしたプラスチック培養皿でライボビッツL-15培地に牛胎児血清を20%、100U/mLのペニシリン、及び100μg/mLのストレプトマイシンを添加した培養液を用いて25℃、空気中で6~10日間培養することによって得た。培養細胞は、CMF-PBSですすいだ後、0.1%トリプシンと0.01%EDTAを含むCMF-PBS処理を施し、単一の細胞に分離した。得られた細胞懸濁液を50×gで5分間、4℃で遠心分離した。
【0064】
こうしてペレットとして分離した各ドナー細胞を100U/mLのペニシリンと100μg/mLのストレプトマイシンを添加したライボビッツL-15培地中に再懸濁し、使用時まで4℃で保存した。
【0065】
(レシピエント卵の準備)
レシピエント系統として、Tg(OlMA1-GFP) (メダカα-actin遺伝子調節領域に緑色蛍光タンパク質遺伝子(GFP)を結合したトランスジーンを保持する。)(以下、単に、TgGFPという。)を準備した。TgGFPは、全身の筋組織で緑色蛍光を発現する。この系統から得た未受精卵を以下のように採取し、処理を施し、レシピエントとして用いた。
【0066】
毎日産卵していた雌性魚を、実験前日に隔離タンクに移して隔離した。実験当日、明期の開始時から1~2時間以内にそれらを解剖し、卵巣から成熟した未受精卵(未受精卵)を回収し、懸濁培養用の35mmのプラスチック皿(ファルコン(商品名),ベクトン-ディッキンソン,Lincoln Park, NJ, USA)中で18℃で使用時まで維持した。この培養皿は、100U/mLのペニシリンと100μg/mLのストレプトマイシンを添加したメダカ用の平衡塩類溶液(以下、BSSと称す)を含む[Iwamatsu,T.,J.Exp.Zool.228,83(1983)]。
【0067】
(活性化、ストレス付与、核移植)
次に、採取した未受精卵を以下の手順で操作した。すなわち、未受精卵を、BSSを満たしたガラス製の電極間に載置し、25℃で5V、50マイクロ秒間の電気的刺激を2回繰り返すことによって活性化し、その2分30秒後に熱処理(41℃、2分)を施した。その後、直ちに大型細胞から採取したドナー核及び小型細胞から採取したドナー核のそれぞれを用いて核移植を行った。核移植を実施する間、レシピエント卵を7℃に保持して細胞周期の進行を止めた。10分間以内に核
移植を終えた。なお、比較例として、熱処理後26℃で20分放置後に、大型細胞から採取したドナー核を用いて同様にして核移植を実施した。
【0068】
なお、核移植は、従来の方法と基本的に同様な方法を用いて核移植を行った[B. Juら、Develop. Growth Differ.(2003)45,168-169, K.Niwaら,Develop.Growth Differ,41,163(1999)、K.Niwaら,Cloning2,23(2000)]。移植は、倍率が115倍の実体顕微鏡下(MZ16,Leica,Heerbrugg,スイス)で行った。
【0069】
移植床は、60mmのプラスチック皿(ファルコン(商品名),ベクトン-ディッキンソン, Lincoln Park, NJ, USA)中の2%寒天上に形成した1mm幅のV型の溝を形成し、100U/mlペニシリン及び100μg/mlストレプトマイシンを含有するライボビッツL-15培地を満たした。移植用のマイクロピペットは、プーラーを用いて外径1mmのガラスキャピラリーを引いて作製した。マイクロピペットの開口部の内径は、約10μm~18μmであり、これは核ドナー細胞の直径と同じか若干小さいものである。
【0070】
核移植の具体的操作は以下の通りに行った。
(1)実体顕微鏡のステージに配置した冷却板上(Thermo Plate;東海ヒット)に前記プラスチック皿を載置し、寒天プレートの温度を約7℃に維持した。
(2)調製した移植床のV字溝に調製した未受精卵を動物極が移植針の方向に向くように固定した。
(3)核ドナー細胞も同じ寒天プレート上に分散した。
(4)三次元マイクロマニプレーターに
接続した油圧インジェクター(CellTram Oil,エッペンドルフ,ハンブルグ、ドイツ)により、胚に細胞を移植する方法(Wakamatsu,Y., Ozato, K., Hashiomoto,H.らMol. Mar. Biol. Biotechnol. 2, 325(1993))を一部変更した方法により、前記マイクロピペット中に1つの核ドナー細胞を吸引した。
(5)未受精卵の動物極の細胞質中に前記マイクロピペットを突き刺して、核ドナー細胞を未受精卵に移植した。
【0071】
(魚類胚の培養)
2ppmのメチレンブルーを含むBSSを満たした24穴のプラスチックプレート(スミロン、住友ベークライト社)に、施術した卵を1個ずつ移した。始めの24時間は18℃で、次に26℃で前記プレートをインキュベートし、孵化するまで、毎日、観察を行った。孵化した稚魚は、若松らの方法(Wakamatsu,Y.ら(1993)前掲を参照されたい)により飼育した。
【0072】
なお、対照実験として、上記ストレス付与を行わない以外は上記と同様にしてレシピエントに対して核移植を行った。すなわち、移植のタイミングは実験群と同じ(付活後の経過時間)とした。
【0073】
以上の実験結果を表1及び表2に示す。
【表1】
JP0005327733B2_000002t.gif
【表2】
JP0005327733B2_000003t.gif

【0074】
表1には、大型細胞をドナーとした場合の結果を示す。表1に示すように、大型細胞をドナーとして得られる移植個体には、ドナーマーカーのみを発現するもの(GFP-/Red+)、ドナーマーカーとレシピエントマーカーの両方を発現するもの(GFP+/Red+)、レシピエントマーカーのみを発現するもの(GFP+/Red-)の三種類が存在しうる。熱処理直後に核移植を行った実施例では、10個体(20.0%)が孵化した。成魚期に達したものは8個体(16.0%)で、全てがドナーマーカーのみを発現するクローン様の個体であった。これに対して比較例では5個体(3.2%)が孵化したが、成魚期に達したものは3個体(1.9%)であった。このうちドナーマーカーのみを発現するクローン様の個体は2個体(1.3%)であった。なお、対照例では、成魚期に達する個体は得られなかった。
【0075】
以上のことから、新たなタイミング(実施例:熱処理の直後に核移植を実施)による核移植では、従来のタイミング(比較例:熱処理後20分)のものと比較して、12.3倍の高率でクローン様個体が得られることが分かった。
【0076】
表2には、小型細胞をドナーとした場合の結果を示す。表2に示すように、熱処理直後に核移植を行った実施例では、5個体(13.9%)が孵化したが、成魚期に達したものは2個体(5.6%)であった。このうちドナーマーカーのみを発現するクローン様の個体は1個体(2.8%)であった。対照例では、成魚は得られなかった。
【0077】
以上のことから、小型細胞をドナーとした場合であっても、従来のタイミングによる核移植を行った比較例よりも高い比率でクローン様個体が得られることがわかった。
【0078】
また、表1及び表2の結果から、大型細胞をドナーとした場合、小型細胞をドナーとした場合の5.7倍の高率でクローン様個体が得られることが分かった。
【実施例2】
【0079】
(レシピエント卵核の細胞周期の観察)
本実施例では、免疫組織化学法により、実施例1で行ったレシピエントに対する活性化処理から核移植を施した時期に相当するレシピエントの細胞周期を卵核の染色により調べた。すなわち、G2期及びM期の検出にはH3P(phosphrylated histon 3)に対する抗体を用いた。これはG2期からM期にある染色体のリン酸化したヒストンを認識する抗体である。陽性の核は緑色蛍光で染色される。また、G1期及びS期の検出にはこれらの時期のマーカーであるPCNA(proliferating cell nuclear antigen)に対する抗体を用いた。陽性核は赤色蛍光で染色される。なお、活性化処理後のレシピエントは、26℃で2分30秒間保存し、その後、熱ショック処理(41℃、2分)を施し、その後、一部の卵については7℃に保ち、その後の10分間における細胞周期を観察した。他の卵については、熱ショック処理後、26℃に保ち、20分~30分後の細胞周期を観察した。
【0080】
図4に示すように、活性化処理から所定時間経過したレシピエント試料を上記2種類の抗体で染色したところ、熱ショック処理直後から7℃で保存した卵にあっては、10分以内の核は緑色蛍光を持ち、レシピエントはG2期からM期にあることが分かった。なお、核の状態から、この時期の核は第二減数分裂後期(AII)にあると考えられる。熱ショック処理後26℃に保持した卵においては、20~30分経過後の核は赤色蛍光を持ち、レシピエントはG1期からS期にあることがわかった。以上のことから、活性化後、一定時間保存後、熱ショック処理などストレス付与直後からから10分以内にあれば細胞周期はG2期又はM期にあることがわかった。なお、ストレス付与直後にあっては、細胞周期を遅延させることが好ましいことがわかった。一方、10分を超えて20分に到達すると、細胞周期はG1期又はS期に到達してしまうことがわかった。
【実施例3】
【0081】
(ドナー核の細胞周期の観察)
本実施例では、実施例1で調製した核移植の直後(5分以内)に核移植個体を固定し、レシピエント卵核の場合と同様の免疫組織化学染色を施した。蛍光観察結果を図5に示す。
【0082】
図5に示すように、移植に用いられた大型細胞の核の92.9%はG2期~M期(緑色)にあるが、小型細胞の核の場合は、G2期~M期(緑色)にあるものは19.2%であり、残りの細胞は、一部がG1-S期の染色性を示したが、多くは両抗体に対し染色性を示さなかった。実施例1では、大型の細胞を選択することで、G2期又はM期の細胞を選択的にドナー細胞として用いていたことがわかった。
【実施例4】
【0083】
(核移植個体のドナー核とレシピエント卵核の細胞周期)
本実施例では、実施例1と同様に熱処理の直後に大型細胞の核を移植し、その直後に固定、免疫組織化学染色を行った。なお、免疫染色は、実施例2と同様に行った。蛍光観察結果を図6に示す。
【0084】
図6に示すように、ドナー核とレシピエント核は両方とも緑色蛍光をもち、G2期~M期にあることが示された。すなわち、熱処理直後に核移植したとき、レシピエント中において、ドナー核とレシピエント核の細胞周期の同調に成功していることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】本発明の魚類胚の作製方法の一例を示す図である。
【図2】実施例1におけるスキームを示す図である。
【図3】比較例におけるスキームを示す図である。
【図4】実施例2におけるレシピエントの細胞周期の観察結果を示す図である。
【図5】実施例3におけるドナー核の細胞周期の観察結果を示す図である。
【図6】実施例4における核移植個体におけるドナー核とレシピエント卵核の細胞周期の観察結果を示す図である。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5