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明細書 :走査型プローブ顕微鏡と計測方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4344812号 (P4344812)
公開番号 特開2009-069133 (P2009-069133A)
登録日 平成21年7月24日(2009.7.24)
発行日 平成21年10月14日(2009.10.14)
公開日 平成21年4月2日(2009.4.2)
発明の名称または考案の名称 走査型プローブ顕微鏡と計測方法
国際特許分類 G01N  13/22        (2006.01)
G01N  13/16        (2006.01)
FI G01N 13/22 101
G01N 13/16 101D
G01N 13/16 101C
請求項の数または発明の数 13
全頁数 12
出願番号 特願2007-265936 (P2007-265936)
出願日 平成19年9月10日(2007.9.10)
審査請求日 平成21年4月24日(2009.4.24)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504409543
【氏名又は名称】国立大学法人秋田大学
発明者または考案者 【氏名】齊藤 準
早期審査対象出願または早期審理対象出願 早期審査対象出願
個別代理人の代理人 【識別番号】100108800、【弁理士】、【氏名又は名称】星野 哲郎
審査官 【審査官】渡▲辺▼ 純也
参考文献・文献 特開平8-122341(JP,A)
特開2003-185555(JP,A)
特開2003-185556(JP,A)
特開2002-181687(JP,A)
特開2003-65935(JP,A)
米国特許出願公開第2006/254346(US,A1)
調査した分野 G01N 13/10 ~ 13/24
WPI
JSTPlus(JDreamII)

特許請求の範囲 【請求項1】
探針を加振させながら試料上を走査して試料の表面状態を計測する方法において、前記探針が一つの測定点での定常状態から他の測定点での定常状態に移行する間の過渡時間内の振動周波数の変化を計測し、試料と探針との間の力の勾配を画像化することを特徴とする計測方法。
【請求項2】
測定雰囲気が、真空中、大気中、溶液中のいずれかであることを特徴とする、請求項1に記載の計測方法。
【請求項3】
前記探針として磁性探針を用い、試料からの磁場の勾配を画像化することを特徴とする請求項1又は2に記載の計測方法。
【請求項4】
前記磁性探針をその機械的共振周波数の近傍の一定周波数で加振することを特徴とする請求項に記載の計測方法。
【請求項5】
前記磁性探針を連続的ないしは断続的に加振することを特徴とする請求項に記載の計測方法。
【請求項6】
前記磁性探針を断続的に加振する場合は、測定点毎に加振終了後から計測した探針の過渡振動の周波数を利用することを特徴とする請求項に記載の計測方法。
【請求項7】
前記磁性探針を往復で走査させ、それら信号の差を求めることで試料からの磁場の勾配を計測することを特徴とする請求項乃至のいずれか1項に記載の計測方法。
【請求項8】
前記磁性探針の振動の位相を同時に計測することを特徴とする請求項乃至のいずれか1項に記載の計測方法。
【請求項9】
前記磁性探針の振動の振動周波数の変化と位相とを同時に計測することにより試料からの磁場をベクトル的に計測することを特徴とする請求項乃至のいずれか1項に記載の計測方法。
【請求項10】
前記磁性探針の磁化が、測定試料面に垂直な成分を有することを特徴とする請求項乃至のいずれか1項に記載の計測方法。
【請求項11】
磁気記録ディスクの記録磁化状態を調べるのに使用される、請求項3乃至10のいずれか1項に記載の計測方法。
【請求項12】
帯電させた探針を加振させながら試料上を走査して試料の表面状態を計測する方法において、探針が一つの測定点での定常状態から他の測定点での定常状態に移行する間の過渡時間内の振動周波数の変化を計測し、試料からの電場の勾配を画像化することを特徴とする計測方法。
【請求項13】
探針を加振させながら試料上を走査して、前記探針が一つの測定点での定常状態から他の測定点での定常状態に移行する間の過渡時間内における前記探針の振動周波数の変化を計測し、前記試料と前記探針との間の力の勾配を画像化することを特徴とする走査型プローブ顕微鏡。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、探針を試料に近接させて走査することにより、試料の微視的な表面情報を得る走査型プローブ顕微鏡を用いた計測方法に係り、特に試料表面の形状と同時に磁気力分布および電気力分布等の表面情報を得ることのできる走査型プローブ顕微鏡を用いた計測方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、走査型プローブ顕微鏡としては、試料と探針の相互作用力を、カンチレバーを用いて検出する原子力顕微鏡(Atomic Force Microscope:以下、AFMと称する)や原子間力顕微鏡の探針に磁性体を用いた磁気力顕微鏡(Magnetic Force Microscope:以下、MFMと称する)などが知られている。(例えば特許文献1及び2参照)
【0003】
このような走査型プローブ顕微鏡において、探針が試料に近接したことにより働く、電場、磁場、ファンデルワールス引力等の力の勾配を受けて、あたかもカンチレバーのバネ定数が変化したようになることを利用し、カンチレバーを所定の振動周波数で励振するとともに,カンチレバーの共振特性の変動を検出して試料表面形状と同時に試料の表面近傍の電場あるいは磁場の分布を測定するのがACモードと呼ばれる方式である。すなわち、カンチレバーの実効的なバネ定数が変化すると、探針の共振周波数が変化し、カンチレバーを一定の振動周波数で励振した場合には、探針の振動振幅と位相が変化する。
【0004】
ACモードのAFMにおいて、探針はバネ定数が0.01から数10N/mで、共振周波数が数kHz~数百kHzのカンチレバーの上に形成される。このカンチレバーは、励振用のアクチュエータに固定され、微動素子上に支持された試料面すなわちxy平面に正対するように配置される。探針は試料の走査に応じて試料表面を走査される。
【0005】
この走査の間、励振用アクチュエータには、共振周波数近傍の周波数で試料表面に垂直な方向の所定の振幅の振動をするような駆動電圧が印加される。さらに試料を支持している圧電素子等で構成された微動素子は、カンチレバーの振動振幅を一定に保つように、0.1nm以下の精度で制御され、試料表面に垂直な方向、すなわちz方向に試料が相対移動される。この結果、探針の先端は試料、表面形状を反映した曲面上をトレ-スする。
【0006】
従って、探針先端のxy面上の位置と同時に、z方向の位置を圧電体に印加した電圧から求め記録することにより、試料表面の微細な凹凸を示すAFM像が得られる。
【0007】
このときカンチレバー先端に磁性体(例えば、CoCrやFePt、パーマロイ等)を用いて、試料として磁性のあるもの(例えば、磁気テープやハードディスクメディア、磁気ヘッド、光磁気ディスクメディア等)を用いると、AFM像に影響を与える力の勾配は、近距離力である試料表面近傍で働くファンデルワールス引力等の他に、遠距離力である磁気力も加わる。
【0008】
従って、探針試料間距離が短い場合には表面の凹凸が、探針試料間距離が長い場合には磁気力が主に画像化される。ここで走査中の探針試料間距離の調整は、カンチレバーの振動振幅の減衰率を一定に保つように行う。すなわち、探針を試料に近づけると、カンチレバーの共振周波数が減少することで、一定の加振周波数で励振しているカンチレバーの振動振幅は減少し、その減衰率が増加するほど、探針は試料に近づくことになる。ここで得られる像は力勾配一定像となる。すなわち、カンチレバーの振動振幅の減衰率が大きくなる探針試料間距離が短い条件で測定した力勾配一定像は表面凹凸像となる。
【0009】
一方、カンチレバーの振動振幅の減衰率が小さくなる探針試料間距離が長い条件で測定した力勾配一定像は磁気力勾配一定像となるが、この像は探針試料間距離が一定の条件を満たさないので、像には磁気情報の他に表面凹凸情報が含まれることになり、磁気記録媒体等の評価に際しては、表面凹凸と磁気特性を分離することができなかった。
【0010】
このため探針走査において、最初に表面凹凸をカンチレバーの振動振幅の減衰率が大きな探針が間欠接触する条件で1ライン測定した後に、次に同じ試料位置でさらに一定の高さだけ探針を離し磁気力が主となる探針試料間距離にして、探針を振動させその振動振幅あるいは位相を記録し、磁気力勾配を探針試料間距離が一定のもとで測定する方式が提案されている。この方式を用いると、表面凹凸像と同一の場所で磁気力像を得ることができる。このため、磁気記録媒体等においては、記録再生特性に影響を及ぼす表面凹凸が磁気特性に及ぼす効果を知ることもできる。
【0011】
近年、磁気記録媒体の高密度化に伴い、磁気力顕微鏡の空間分解能を向上させることが求められている。磁気力顕微鏡の高分解能化には、力勾配の検出感度の向上が必要となり、カンチレバーの共振特性を向上させることが有効である。カンチレバーの共振特性は測定雰囲気に依存し、空気粘性が小さくなる真空雰囲気では、大気雰囲気と比較して、共振特性が大幅に向上する。共振特性は共振の性能因子Qの値で評価することができる。共振により検出感度はQ倍程度に増加する。Q値は大気雰囲気では数百であるが、真空雰囲気では数千から数万に増加する。
【0012】

【特許文献1】特開平8-122341号
【特許文献2】特開2003-65935号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
感度を向上させるためにQ値を増加させると、共振は共振周波数近傍でのみ起こるようになる。このため、カンチレバーを一定の振動周波数で励振しているACモードでは、探針が受けるわずかな力勾配の変化により、探針の振動振幅と位相が大きく変化する。ここで振幅を検出する方法は振幅検出法、位相を検出する方法は位相検出法と呼ばれる。このようにQ値を増加させると、高い感度で力勾配を測定することが可能となる。
【0014】
しかしながら、Q値の増加により、探針が観測点での力勾配で決定される定常振動に落ち着くまでに時間を要するようになる過渡現象が顕著となり、時間応答性が劣化する。このため、ACモードにおいては、Q値が1万以上になると、高感度と時間応答性は両立しなくなる。すなわち、カンチレバーの振動振幅を一定に保つように制御して測定する表面凹凸像の取得が、フィードバックのゲインが高くなることと時間応答性が劣化することにより困難になる。
【0015】
この問題を解決するために、設定した周波数に探針の共振周波数が一致するように探針試料間距離を制御するのと同時に、探針の共振周波数を検出して、設定した共振周波数に励振周波数を追従させる周波数検出法が考案された。この方式では一定の共振周波数のもとで探針を走査することにより、力勾配一定像が得られる。
【0016】
これにより、Q値が1万以上の場合においても、像の取得が可能となった。この方式を磁気力測定に適用した場合、磁気力勾配一定像は高い感度で測定することが可能となったものの、探針の共振周波数の設定値を減少させて探針試料間距離を減少させても、表面凹凸像に磁気像が混入した像しか得られず、表面凹凸像と探針試料間距離一定のもとでの磁気像を同時に取得することが困難であった。この理由はこの方式では、探針が試料表面に間欠接触する良好な表面凹凸像が取得できる探針試料間距離では、制御および周波数検出が困難であることによる。
【0017】
さらに、これら振幅検出法、位相検出法、周波数検出法においては、検出する磁気力勾配の方向は、使用する磁性探針の磁化状態に依存して決まるので、検出する磁気力勾配の方向を任意に変化させることは容易ではない。通常、磁性探針の磁気モーメントの方向を観察試料面に垂直方向とした探針(垂直磁化探針)が用いられ、この場合、試料面に垂直方向の磁場に対して試料面に垂直方向での勾配が測定される。
【0018】
ここで試料から発生する磁場Hは試料面をxy面とし、試料面に垂直な方向をz方向とし、そのx、y、z成分をH、H、Hで表すと、磁気力顕微鏡が検出する試料面に垂直方向の磁場勾配は、探針の磁気モーメントの長さに依存し、探針の磁気モーメントの長
JP0004344812B2_000002t.gif
【0019】
以上のように、従来の磁場勾配を計測する走査型プローブ顕微鏡では、表面凹凸像と高い空間分解能の磁気像の同時取得が困難であり、また測定する磁場勾配の方向は1方向のみで変更が容易ではなかった。
【0020】
そこで本発明では高い空間分解能の磁気像を表面凹凸像と同時に取得でき、かつ測定する磁場勾配の方向を探針磁化の方向を変えることなく容易に選択できる計測方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明は上記目的を達成するために、探針を一定の加振周波数で励振して試料上を走査させる際に、探針振動の周波数変化を測定するものであり、その特徴は探針を加振させながら試料上を走査して試料の表面状態を計測する方法において、前記探針が一つの測定点での定常状態から他の測定点での定常状態に移行する間の過渡時間内の振動周波数の変化を計測し、試料と探針との間の力の勾配を画像化することを特徴とする計測方法である。
【0022】
このことにより探針は走査により測定点を変えるときに過渡振動を生じ、探針の振動周波数が励振周波数から変化し、この周波数変化を画像化することにより、試料と探針との間の力の勾配を高い空間分解能で計測することができる。
【0023】
また、前記探針として磁性探針を用い、試料からの磁場の勾配を画像化することを特徴とすることにより、探針としてその磁気モーメントの方向が観察試料面に対して垂直な垂直磁化探針を用いると、従来の計測方法(振幅検出法、位相検出法、周波数検出法)ではすべて垂直磁場勾配が測定されるが、本計測方法では探針の走査方向の面内磁場勾配を測定することができる。
【0024】
また、前記磁性探針をその機械的共振周波数の近傍の一定周波数で加振することにより、過渡振動時の探針の周波数変化を高感度かつ安定に測定できるのでさらに安定した高分解能の計測が実現できる。ここで近傍とは探針が機械的共振を起こす範囲であり、要するに探針の振幅が共振周波数での振幅の50%以上になる周波数範囲で定めることができる。
【0025】
また、前記磁性探針の加振は、連続的であっても、断続的であっても高分解能の計測が実現できる。
【0026】
前記磁性探針を断続的に加振する場合は、測定点毎に加振終了後から計測した探針の過渡振動のみに起因する周波数変化を測定するので、さらに感度が倍増し高分解能の計測が実現できる。
【0027】
また、前記磁性探針を往復で走査させ、それら信号の差を求めることで試料からの磁場の勾配を計測することを特徴とすることにより、磁場勾配と雑音を分離することで、磁場勾配のさらなる高感度計測が実現できる。
【0028】
また、前記磁性探針の振動の位相を同時に計測することを特徴とすることにより、本計測方法で測定する面内磁場勾配の他に、位相を計測することで得られる垂直磁場勾配の同時計測が実現できる。
【0029】
また、前記磁性探針の振動の振動周波数の変化と位相とを同時に計測することにより、試料からの面内磁場勾配と垂直磁場勾配をベクトル的に計測することができるので、さらに高精度の磁場勾配の計測が実現できる。
【0030】
また、前記磁性探針の磁化が、測定試料面に垂直な成分を有することを特徴とすることにより磁性探針の受ける磁気力が増大するのでさらに高感度な計測が実現できる。
【0031】
また、磁性探針を加振させながら試料上を走査して試料の表面状態を計測する方法において、前記磁性探針が一つの測定点での定常状態から他の測定点での定常状態に移行する間の過渡時間内の振動周波数の変化を計測し、試料からの磁場の勾配を画像化することを特徴とすることにより面内磁場勾配を任意の方向で高い空間分解能で計測できるので、記録ビットが一方向に記録された磁気記録用ディスク等の記録磁化状態を調べるのに使用される磁気記録用ディスク検査装置に好適に適用できる。
【0032】
また、帯電させた探針を加振させながら試料上を走査して試料の表面状態を計測する方法において、探針が一つの測定点での定常状態から他の測定点での定常状態に移行する間の過渡時間内の振動周波数の変化を計測し、試料からの電場の勾配を画像化することを特徴とすることにより、上記の磁場の勾配と同様に、高い空間分解能での電場分布の計測が実現できる。この理由は電荷が発生させる電場は、磁荷(磁極)が発生する磁場と同様に、その強さが発生源である電荷からの距離の2乗に逆比例するクーロン場であることによる。本計測法は絶縁体上の電荷分布の測定に有効であり、例えば強誘電体を利用した半導体メモリの電荷分布の測定に用いることができる。
【0033】
また、本発明の計測方法は、測定雰囲気が、真空中、大気中、溶液中のいずれであっても使用することができる。特に、粘性抵抗が大きくQ値が低い溶液中に適用した場合、探針の振動波形は、振動振幅の変動が大きな正弦波から歪んだものに変化するが、本発明の計測方法は、探針の振動振幅や位相変化を計測する従来法と比較して、探針の振動周波数の変化のみを検出するので、波形歪みの影響を受けることが少なく、従来法と比較してさらに高感度な計測が実現できる。
【0034】
以下では、単磁極型探針を例にとり、本計測手法において探針は走査により測定点を変えるときに過渡振動を生じ、探針の振動周波数が励振周波数から変化し、この試料と探針との間の力の勾配を画像化することにより高分解能の計測が行えることの作用及びその原理を説明する。
【0035】
ここでは、探針の磁気モーメントの長さが長い単磁極型探針を一定の周波数で加振させた場合の運動方程式は(数1)で表わされる。
【数1】
JP0004344812B2_000003t.gif
(m:探針質量,γ:減衰係数,k:探針バネ定数,q:探針磁極,ω:加振角周波数,F:加振力の振幅,z:探針振幅)
(数1)において時間Δtが経過後、探針がxからx+Δxに移動した時、磁気力勾配が
【数2】
JP0004344812B2_000004t.gif
から
【数3】
JP0004344812B2_000005t.gif
に変化すると、探針振動は、定常状態の
【数4】
JP0004344812B2_000006t.gif
から、
【数5】
JP0004344812B2_000007t.gif
に変化する。
【0036】
ここで第2項は過渡振動項であり、過渡振動の振幅が
【数6】
JP0004344812B2_000008t.gif
で減衰する間、加振角周波数ωと異なる角周波数
【数7】
JP0004344812B2_000009t.gif
【数8】
JP0004344812B2_000010t.gif
の振動が発生する。従来法である振幅検出法や位相検出法は、[数5]のA′やθ′を計測するので、過渡振動が発生するとそれが減衰するまでは高精度での計測が困難となる。過渡振動の減衰を待つことは、画像の測定時間を増加させ、かつ装置ドリフトの影響が大きくなるので、限界がある。
【0037】
【数9】
JP0004344812B2_000011t.gif
をさらに変形すると、
【数10】
JP0004344812B2_000012t.gif
したがって、探針が次の測定点に移動すると、角周波数が
【数11】
JP0004344812B2_000013t.gif
である振幅変調した振動が発生することがわかる。
この角周波数は
【数12】
JP0004344812B2_000014t.gif
であるので、探針の移動により、
【数13】
JP0004344812B2_000015t.gif
だけ角周波数が変化することがわかる。本発明の計測方法では、探針の振動振幅や位相変化を計測する従来法と比較して、探針の振動周波数の変化のみを検出するので、波形歪みの影響を受けることが少なく、従来法と比較して高感度な計測が実現できる。特に、粘性抵抗が大きくQ値が低い溶液中では、探針の振動波形は、振動振幅の変動が大きな正弦波から歪んだものに変化するが、本発明の計測方法を使用すると、探針の振動振幅や位相変
JP0004344812B2_000016t.gif検出するので、振幅変調による波形歪みの影響を受けることなく、従来法と比較してさらに高感度な計測が実現できる。
【0038】
ここで、この周波数変化を検出するためにPLL(位相同期ループ)回路を利用すると、PLL回路はこの周波数変化に追従した出力を発生する。すなわち、探針走査によりΔωが増加するとプラスの出力を、Δωが減少するとマイナスの出力を発生する。このため、探針の走査方向を逆にするとコントラストが反転することになる。すなわち、PLL回路では、探針が移動前と後の出力の変化率(差分)を検出することになる。
【0039】
探針の試料面内での移動方向をx方向とすると、その変化率は
【数14】
JP0004344812B2_000017t.gif
となり、本計測方法では、従来法で測定される物理量より微分操作が1回増えた2次の面内磁場勾配
【数15】
JP0004344812B2_000018t.gif
を検出することが可能となることがわかる。この関係の導出には、磁性体試料から発生する磁場が渦なしの場(∇×H=0)であるので、
【数16】
JP0004344812B2_000019t.gif
となることを用いている。
なお、磁性探針を断続的に加振する場合は、測定点毎に加振終了後から計測した探針の過渡振動のみに起因する周波数変化を測定するので、探針の振動周波数の変化は、
【数17】
JP0004344812B2_000020t.gif
となり、出力が倍増する。
【発明の効果】
【0040】
本発明は以上のように、従来法では測定に悪影響を及ぼす探針の過渡現象を逆に利用することにより、従来法では不可能であった以下のことを可能とする。
【0041】
従来法では垂直磁場勾配のみの測定しかできなかった垂直磁化探針を用いて、面内磁場勾配を測定できる。また、測定する面内磁場勾配の方向は試料面内での探針走査方向に依存するので、探針の走査方向を変えるだけで任意方向の面内磁場勾配を測定できる。
【0042】
従来法の位相検出法と併用することで、面内磁場勾配のみならず、垂直磁場勾配を同時にベクトル的に計測できる。
【0043】
本発明では従来法で計測される磁場勾配より微分操作が1回増えた高次の磁場勾配を計測できるので、微分効果により空間分解能が向上することが、計算機シミュレーションから確かめられた。したがって、探針共振のQ値が低下する大気中雰囲気ならびに溶液中雰囲気において従来法よりも高い空間分解能を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0044】
以下で実施例について説明する。
【0045】
図1に測定系のブロック図を示す。先端に探針1が設けられたカンチレバー2の基部は加振電源と圧電素子を有する加振装置3を有し、探針1を一定周波数で加振できるようにしてある。カンチレバー2の先端に光源41からレーザー照射しその反射光を光学変位センサー4で検知する。探針1によって観察試料5の表面を相対的に走査しながら検知した信号は周波数検出部61、位相検出部62および振幅検出部63に接続され、図示しない画像処理装置に接続されている。本発明においては真空中MFM(日本電子株式会社製走査型プローブ顕微鏡:JSPM-5400)を位相検出方式で使用し、それに周波数検出部61として周波数検出装置(ナノサーフ社製・easyPLL)を追加した構成であり、探針1を一定周波数で加振して、探針振動の位相と周波数変化を測定する。使用した周波数検出装置はPLL回路を用いている。MFM観察は探針1としてFePt高保磁力探針(日東光器製、保磁力8k0e)を用いて行った。探針1は観察試料5面に垂直方向に着磁した垂直磁化探針を用いた。本測定系では、従来法である位相検出法と本発明の検出法の両者を用いた測定ができる。
【0046】
図2a)に従来法の位相検出法で観察した磁気像、図2b)、c)に本発明を用いて観察した磁気像を示す。観察試料5は記録密度50kfciの垂直磁気記録媒体である。また、観察時の探針1の共振の性能因子Q値は約2800である。ここでa)とb)での探針走査方向は左から右であり、c)での探針走査方向は上から下である。a)の位相検出像は記録磁化の上向き・下向きが明暗コントラストで観察される垂直磁場勾配像に対応しているのに対し、b)の周波数検出像は記録ビットの境界部分が隣接した明暗コントラストをもつ面内磁場勾配像の特徴をもち、探針走査方向である水平方向の面内磁場勾配が画像化されていることがわかる。同様に、c)の周波数検出像は探針走査方向である上下方向の面内磁場勾配が画像化されていることがわかる。
【0047】
図3に従来法ならびに本発明の計測方法について、後述の測定1の条件で求めた記録密度500kfciの垂直磁気記録媒体の磁気像をa)、b)として示し、そして記録方向に沿う方向にフーリエ変換して求めたスペクトルをc)、d)として示した。図3c)、d)は縦軸が強度、横軸が空間周波数を示しており、左急傾斜鎖線71が信号部分7の傾向であり、右の鎖線81がノイズ部分8の傾向である。図3a)、c)は従来法を用いた結果で、図3b)、d)は本発明の計測方法を用いた結果である。
【0048】
ここで空間分解能としては、図3c)、d)に示すように信号とノイズの大きさが等しくなる空間周波数(↓9で示す)を特定し、その半値をnmで表示することができ、この値が小さいほど信号を分離し易く空間分解能が高いと評価できる。図3のd)に示すように本発明では空間周波数の半値が17nmであり、同じくc)に示す従来法での20nmと比較して、高い空間分解能が得られていることがわかる。
【0049】
さらに、図3c)でノイズを示す右の鎖線81が水平に近く、従来法ではノイズの大きさが空間周波数によらず一定であるのに対して、図3d)で示す本発明では空間周波数の増加に伴いノイズを示す右の鎖線81が右下がりに減少しており、高い空間周波数で信号ノイズ比が従来法と比較して向上することがわかる。本発明でノイズが空間周波数の増加に伴い減少する原因は、ノイズに対してローパスフィルタとなるPLL回路により周波数変化を計測していることによるものと考えられる。官能的にも図3b)に示すように本発明の磁気像の方が、図3a)に示す従来法よりも縦ライン10の境界線が明瞭であり、空間分解能が優れることがわかる。
【0050】
表1に、種々の記録密度を有する垂直磁気記録媒体を観察試料として、従来法である位相検出法と本発明の計測方法を用いて同一の探針走査で取得した磁気像から評価した空間分解能(図3と同様、信号とノイズの強度が等しくなる空間周波数の半分の値で定義する)を示す。測定1から4及び6から8は、真空中雰囲気での測定であり、Q値は4500から9200程度の範囲にある。測定5は大気中雰囲気での測定であり、Q値は490程度である。表では記録密度の異なる記録ビットに対する結果の平均値も示した。表1に示すように、本発明の計測方法によれば測定1~8のすべてにおいて従来法と比較して高い空間分解能を有することがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の計測方法は、探針共振のQ値が低下する大気中雰囲気ならびに溶液中雰囲気においても空間分解能が優れることから、磁気記録ディスク検査装置ばかりでなく生体細胞など真空中では変形の恐れのある試料にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明による実施例として、走査型プローブ顕微鏡の概略的な構成を示す図である。
【図2】本実施例における磁気像を示す図である。
【図3】本実施例における磁気像ならびにそのスペクトルを示す図である。
【図4】〔表1〕本実施例における空間分解能を示す表である。
【符号の説明】
【0053】
1・・・探針
2・・・カンチレバー
3・・・加振装置
4・・・光学変位センサー
5・・・観察試料
41・・・レーザー光源
61・・・周波数検出部
62・・・位相検出部
63・・・振幅検出部
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3