TOP > 国内特許検索 > アドレノメデュリン前駆体C末端ペプチドの濃度の上昇を循環器疾患又は炎症性疾患の指標とする方法 > 明細書

明細書 :アドレノメデュリン前駆体C末端ペプチドの濃度の上昇を循環器疾患又は炎症性疾患の指標とする方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4423426号 (P4423426)
公開番号 特開2007-316009 (P2007-316009A)
登録日 平成21年12月18日(2009.12.18)
発行日 平成22年3月3日(2010.3.3)
公開日 平成19年12月6日(2007.12.6)
発明の名称または考案の名称 アドレノメデュリン前駆体C末端ペプチドの濃度の上昇を循環器疾患又は炎症性疾患の指標とする方法
国際特許分類 G01N  33/53        (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
C07K  16/18        (2006.01)
FI G01N 33/53 ZNAD
C12N 15/00 A
C07K 16/18
請求項の数または発明の数 11
全頁数 15
出願番号 特願2006-148348 (P2006-148348)
出願日 平成18年5月29日(2006.5.29)
審査請求日 平成21年4月23日(2009.4.23)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504224153
【氏名又は名称】国立大学法人 宮崎大学
発明者または考案者 【氏名】北村 和雄
早期審査対象出願または早期審理対象出願 早期審査対象出願
個別代理人の代理人 【識別番号】100091096、【弁理士】、【氏名又は名称】平木 祐輔
【識別番号】100096183、【弁理士】、【氏名又は名称】石井 貞次
【識別番号】100118773、【弁理士】、【氏名又は名称】藤田 節
【識別番号】100101904、【弁理士】、【氏名又は名称】島村 直己
【識別番号】100130443、【弁理士】、【氏名又は名称】遠藤 真治
審査官 【審査官】白形 由美子
参考文献・文献 独国特許出願公開第10316583(DE,A1)
特表2002-527753(JP,A)
特開平07-196693(JP,A)
国際公開第2004/059293(WO,A1)
KATAYAMA,T. et al.,Evaluation of Neurohumoral Activation (Adrenomedullin, BNP, Catecholamines, etc.) in Patients with Acute Myocardial Infarction ,Intern.Med.,2004年,Vol.43, No.11,p.1015-1022
北村和雄,アドレノメデュリンの臨床応用,最新医学 ,2005年,Vol.60 No.7,p.1600-1605
加藤丈司 他,高血圧の生化学検査 第14回 (最終回) アドレノメデュリン ,血圧,2006年 2月 1日,Vol.13 No.2,p.225-227
調査した分野 G01N 33/48 - G01N 33/98
C07K 16/18
C12N 15/09
PubMed
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)

特許請求の範囲 【請求項1】
被検体から単離された試料中の、配列表の配列番号1に示されるアミノ酸配列又はその部分配列からなるポリペプチドを定量し、前記ポリペプチドの量の上昇を循環器疾患又は炎症性疾患の指標とする方法。
【請求項2】
請求項1記載の方法であって、
被検体から単離された試料中の、配列表の配列番号1に示されるアミノ酸配列又はその部分配列からなるポリペプチドを定量する工程と、
被検体から単離された試料中の前記ポリペプチドの量を、健常検体から単離された試料中の前記ポリペプチドの量と対比する工程とを含む方法。
【請求項3】
配列表の配列番号1に示されるアミノ酸配列又はその部分配列からなるポリペプチドに結合し得る抗体を用いて、被検体から単離された試料中の、配列表の配列番号1に示されるアミノ酸配列又はその部分配列を含むポリペプチドを定量し、前記ポリペプチドの量の上昇を循環器疾患又は炎症性疾患の指標とする方法。
【請求項4】
配列表の配列番号1に示されるアミノ酸配列又はその部分配列からなるポリペプチドに結合し得る抗体を用いて、被検体から単離された試料中の、配列表の配列番号1に示されるアミノ酸配列又はその部分配列を含むポリペプチドを定量し、前記ポリペプチドの量の上昇を循環器疾患又は炎症性疾患の指標とする方法であって、
該抗体を用いて、被検体から単離された試料中の、配列表の配列番号1に示されるアミノ酸配列又はその部分配列を含むポリペプチドを定量する工程と、
被検体から単離された試料中の前記ポリペプチドの量を、健常検体から単離された試料中の前記ポリペプチドの量と対比する工程とを含む方法。
【請求項5】
前記抗体が、配列表の配列番号3に示されるアミノ酸配列のうち第170番~第185番のアミノ酸配列からなるポリペプチドを抗原として用いて誘導された抗体である、請求項3又は4に記載の方法。
【請求項6】
試料が血液である、請求項1~のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
循環器疾患又は炎症性疾患が心不全、高血圧症、敗血症、又は敗血症性ショックである、請求項1~のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
配列表の配列番号1に示されるアミノ酸配列又はその部分配列からなるポリペプチドに結合し得る抗体を含む、循環器疾患又は炎症性疾患の診断薬。
【請求項9】
前記抗体が、配列表の配列番号3に示されるアミノ酸配列のうち第170番~第185番のアミノ酸配列からなるポリペプチドを抗原として用いて誘導された抗体である、請求項記載の診断薬。
【請求項10】
配列表の配列番号1に示されるアミノ酸配列又はその部分配列からなるポリペプチドに結合し得る抗体を含む、循環器疾患又は炎症性疾患の診断用キット。
【請求項11】
前記抗体が、配列表の配列番号3に示されるアミノ酸配列のうち第170番~第185番のアミノ酸配列からなるポリペプチドを抗原として用いて誘導された抗体である、請求項10記載の診断用キット。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は循環器疾患又は炎症性疾患を診断する方法、そのための診断薬又は診断用キットに関する。
【背景技術】
【0002】
アドレノメデュリン(adrenomedullin; 「AM」と略記する場合がある)とプロアドレノメデュリンN-末端20ペプチド(Proadrenomedullin N-terminal 20 peptide,「PAMP」と略記する場合がある)は全身の組織で広く生合成・分泌されており、さらにその産生部位と結合部位が近似していることから、AMとPAMPは局所ホルモンとして作用している可能性が高い。そのため、AMとPAMPの血中濃度は、組織での産生、分泌、受容体への結合、代謝等の相互関係に依存していると考えられる。末梢静脈血でのAMとPAMP濃度は末梢循環におけるAMとPAMP分泌の増加、さらには局所での濃度上昇を反映していると考えられる。AMとPAMPの測定上の意義などは、例えば非特許文献1を参照されたい。
【0003】
血中におけるAMとPAMPの濃度は、高血圧・動脈硬化症性疾患、心不全、腎不全、炎症性疾患の重症度に従い増加することが明らかにされている。血中AMとPAMPはこれらの疾患の重症度や予後に関連する。また、敗血症性ショックでは血中AMが著増しており、診断学的意義があるものと思われる。しかし、血中AMやPAMP濃度は低濃度であり、ラジオイムノアッセイによる測定法には、血中からの煩雑な抽出処理が必要である。また、IRMAやELISAを用いれば直接測定が可能であるが、複数の種類の抗体が必要であるため、測定系の確立が難しい。
【0004】
ヒトAM・PAMPの前駆体(本明細書において「ProhAM」と略記する場合がある)は、185個のアミノ酸からなる前駆体蛋白である。ProhAM からはAMとPAMPが生合成されるが、AMとPAMPが生合成されない部分のペプチドの活性は不明な点が多い。
【0005】
ProhAM(153-185)はヒトAM・PAMP前駆体のC末端の33個のアミノ酸からなるペプチドである。本ペプチドに対するラジオイムノアッセイ(RIA)による測定系はキットとしてPHOENIX PHARMACEUTICAL社から発売されている。同社の報告では循環器疾患では血中のペプチド濃度が低下することが示されている。
非特許文献2及び3にはProhAM(153-185)の活性について記載されている。
【0006】
以上のようにProhAM(153-185)に関しては種々の検討がされているが、ProhAM(153-185)の血中濃度の上昇を疾患の診断の指標とすることの可能性については明らかでない。
【0007】
また、非特許文献4にはProhAM(45-92)の敗血症性ショックでの診断学的有用性が記載されているが、ProhAM(153-185)についての言及はない。
【0008】

【非特許文献1】ホルモンと臨床(0045-7167)53巻3号 Page269-274(2005.03)
【非特許文献2】Gumusel, B., Chang, J. K., Hao, Q., Hyman, A. and Lippton, H.: Adrenotensin: an adrenomedullin gene product contracts pulmonary blood vessels. Peptides. 17: 461-465 (1996)
【非特許文献3】Gumusel, B., Chang, J. K., Hyman, A. and Lippton, H.: Adrenotensin: an ADM gene product with the opposite effects of ADM. Life Sci. 57: PL87-90 (1995)
【非特許文献4】Struck, J., Tao, C., Morgenthaler, N. G. and Bergmann, A.: Identification of an Adrenomedullin precursor fragment in plasma of sepsis patients. Peptides. 25: 1369-1372 (2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
AMとPAMPは血中にも存在しており、心不全や急性心筋梗塞などの循環器疾患や敗血症性ショックではその血中濃度が増加している。しかし、AMもPAMPも速やかに受容体に結合するため、血中半減期は短く、血中濃度も低いため、疾患マーカーとしては使用しにくいという問題があった。
【0010】
本発明はより簡便かつ正確に循環器疾患又は炎症性疾患を診断する方法、そのための診断薬又は診断用キットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者はAM前駆体(ProhAM)のC末端ペプチド(ProhAM(153-185))はAMやPAMPのような活性を示さないため、血中濃度も高く、生体内のAM・PAMPの産生を反映する可能性があることに着目した。そしてProhAM(153-185)を高感度ラジオイムノアッセイ(RIA)を用いて検出することを試みた。その結果、いままで遺伝子側からの推定でしかなかったProhAM(153-185)ペプチドがヒト血中を高濃度で循環していることが明らかとなった。ProhAM(153-185)の血中濃度は、AMの血中濃度より、7倍程度高く、疾患マーカーとして有用である可能性が示された。また、心不全では重症度に従い、血中濃度が増加していることが明らかとなった。さらに、ProhAM(153-185)の濃度はAM濃度と有意な正の相関があり、相関係数は0.67であった。また、高血圧症では増加傾向にあり、腎不全を伴った高血圧では有意に高いことが示された。また、敗血症性ショックでは、血中ProhAM(153-185)が著明に増加しており、診断学的応用が可能であることが判明した。
【0012】
すなわち本発明は以下の発明を包含する。
(1)被検体から単離された試料中の、配列表の配列番号1に示されるアミノ酸配列又はその部分配列を含むポリペプチドを定量し、前記ポリペプチドの量の上昇を循環器疾患又は炎症性疾患の指標とする方法。
【0013】
(2)(1)記載の方法であって、
被検体から単離された試料中の、配列表の配列番号1に示されるアミノ酸配列又はその部分配列を含むポリペプチドを定量する工程と、
被検体から単離された試料中の前記ポリペプチドの量、健常検体から単離された試料中の前記ポリペプチドの量と対比する工程とを含む方法。
【0014】
(3)前記ポリペプチドの定量が、配列表の配列番号1に示されるアミノ酸配列又はその部分配列を含むポリペプチドに結合し得る抗体を用いて行われる、(1)又は(2)記載の方法。
(4)前記抗体が、配列表の配列番号3に示されるアミノ酸配列のうち第170番~第185番のアミノ酸配列からなるポリペプチドを抗原として用いて誘導された抗体である、(1)~(3)のいずれか1項記載の方法。
(5)試料が血液である、(1)~(4)のいずれかに記載の方法。
【0015】
(6)循環器疾患又は炎症性疾患が心不全、高血圧症、敗血症、又は敗血症性ショックである、(1)~(5)のいずれかに記載の方法。
(7)配列表の配列番号1に示されるアミノ酸配列又はその部分配列を含むポリペプチドに結合し得る抗体を含む、循環器疾患又は炎症性疾患の診断薬。
(8)前記抗体が、配列表の配列番号3に示されるアミノ酸配列のうち第170番~第185番のアミノ酸配列からなるポリペプチドを抗原として用いて誘導された抗体である、(7)記載の診断薬。
【0016】
(9)配列表の配列番号1に示されるアミノ酸配列又はその部分配列を含むポリペプチドに結合し得る抗体を含む、循環器疾患又は炎症性疾患の診断用キット。
(10)前記抗体が、配列表の配列番号3に示されるアミノ酸配列のうち第170番~第185番のアミノ酸配列からなるポリペプチドを抗原として用いて誘導された抗体である、(9)記載の診断用キット。
【発明の効果】
【0017】
ProhAM(153-185)の血中濃度はAMやPAMPに比較して高濃度であり、安定性も良いことから、本発明によれば簡便かつ正確に循環器疾患又は炎症性疾患の診断を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
被検体
本発明において「被検体」とは哺乳類であれば特に限定されないが、ヒトが特に好ましい。
【0019】
試料
本発明で使用される「試料」とは具体的には被検体の血液、尿、髄液、唾液、母乳、組織抽出液が挙げられる。なかでも血液が好ましい。血液としては全血、血漿、血清、血球成分の抽出液など種々の形態のものを試料として使用できる。
【0020】
ポリペプチド
本発明において疾患マーカーとして使用されるポリペプチドは、配列表の配列番号1に示されるアミノ酸配列又はその部分配列を含むポリペプチドである。配列番号1は、ヒトAM・PAMPの前駆体タンパク質(ProhAM)の第153番~第185番の部分ポリペプチド(ProhAM(153-185))のアミノ酸配列を示す。
【0021】
本明細書中では、配列表の配列番号1に示されるアミノ酸配列又はその部分配列を含むポリペプチドを「マーカーポリペプチド」と呼ぶ場合がある。
【0022】
マーカーポリペプチドはProhAM(153-185)が最も好ましいが、これには限定されない。マーカーポリペプチドはProhAM(153-185)を部分配列として含むポリペプチドであってもよく、具体的には、アドレノメデュリン前駆体、ProhAM(21-185)が挙げられる。また、マーカーポリペプチドはProhAM(153-185)の部分配列を含むポリペプチドであってもよく、ProhAM(153-185)の部分配列からなるポリペプチドがより好ましく、具体的には、ProhAM(X-185)(Xは174以下の整数であれば特に限定されない)が挙げられる。
【0023】
ポリペプチドの定量方法
マーカーポリペプチドの定量は、マーカーポリペプチドに結合し得る抗体を用いた免疫学的方法により行われることが好ましい。
【0024】
マーカーポリペプチドに結合し得る抗体は、マーカーポリペプチド、マーカーポリペプチドのアミノ酸配列を部分配列として含むポリペプチド、あるいはマーカーポリペプチドの部分配列からなるポリペプチドを抗原として用い、常法により作成された抗体を好適に使用できる。なかでも、配列表の配列番号3で示されるアミノ酸配列(ProhAMのアミノ酸配列)の第170番~第185番のアミノ酸配列からなるポリペプチドを抗原として用いて誘導された抗体が好ましい。抗体はポリクローナル抗体であってもモノクローナル抗体であってもよい。また抗体はマーカーポリペプチドに結合し得る限り断片として使用することもできる。抗体の断片としては、例えば、Fab断片、F(ab)’断片、単鎖抗体(scFv)等が挙げられる。
【0025】
本発明に用いることができる免疫学的測定法としては、特に限定されないが、ラジオイムノアッセイ法 (RIA)、酵素免疫測定法(ELISA)、IRMA(immunoradio metric assay)が挙げられる。なかでもラジオイムノアッセイ法が好ましい。
【0026】
モノクローナル抗体は例えば次の手順で作成することができる。
上記の抗原を、動物に対して、抗原の投与により抗体産生が可能な部位にそれ自体あるいは担体、希釈剤とともに投与する。投与に際して抗体産生能を高めるため、完全フロイントアジュバントや不完全フロイントアジュバントを投与してもよい。用いられる動物としては、例えば、サル、ウサギ、イヌ、モルモット、マウス、ラット、ヒツジ、ヤギなどの哺乳動物が挙げられるが、マウスおよびラットが好ましい。抗血清中の抗体価の測定は常法により行うことができる。
【0027】
抗原を免疫された動物マウスから抗体価の認められた個体を選択し最終免疫の2~5日後に脾臓またはリンパ節を採取し、それらに含まれる抗体産生細胞を骨髄腫細胞と融合させることにより、モノクローナル抗体産生ハイブリドーマを調製することができる。融合操作は既知の方法、例えば、Nature 256: 495 (1975)記載の方法に従い実施することができる。融合促進剤としては、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)などが挙げられる。骨髄腫細胞としては、例えば、NS-1、P3U1、SP2/0などが挙げられる。
【0028】
モノクローナル抗体の選別は、公知あるいはそれに準じる方法に従って行なうことができるが、通常はHAT(ヒポキサンチン、アミノプテリン、チミジン)を添加した動物細胞用培地などで行なうことができる。選別および育種用培地としては、ハイブリドーマが生育できるものならばどのような培地を用いても良い。ハイブリドーマ培養上清の抗体価は、抗血清中の抗体価の測定と同様にして測定できる。
【0029】
モノクローナル抗体の分離精製は、通常のポリクローナル抗体の分離精製と同様の、例えば塩析法、アルコール沈殿法、等電点沈殿法、電気泳動法、イオン交換体(例、DEAE)による吸脱着法、超遠心法、ゲルろ過法、抗原結合固相またはプロテインAあるいはプロテインGなどを用いた特異的精製法による免疫グロブリンの分離精製法に従って行なうことができる。
【0030】
一方、ポリクローナル抗体は例えば次の手順で作成することができる。
ポリクローナル抗体は、例えば、抗原とキャリアーとの複合体をつくり、上記のモノクローナル抗体の製造法と同様に哺乳動物に免疫を行ない、該免疫動物から活性型ハプトグロビン対する抗体含有物を採取して、抗体の分離精製を行なうことにより製造できる。ポリクローナル抗体の作成に使用する抗原はモノクローナル抗体の作成におけるのと同様である。抗原とキャリアーとの複合体を形成する際に、キャリアーの種類および抗原とキャリアーとの混合比は、キャリアーに架橋させた抗原に対して抗体が効率良くできれば、どの様なものをどの様な比率で架橋させてもよい。キャリアーとしては、例えば、ウシ血清アルブミン、ウシサイログロブリン、キーホール・リンペット・ヘモシアニン等が用いられる。また、抗原とキャリアーのカップリングには、種々の縮合剤を用いることができるが、グルタルアルデヒドやカルボジイミド、マレイミド活性エステル、チオール基、ジチオビリジル基を含有する活性エステル試薬等が用いられる。
【0031】
抗原とキャリアーとの複合体は、免疫される動物に対して、抗体産生が可能な部位にそれ自体あるいは担体、希釈剤とともに投与される。投与に際して抗体産生能を高めるため、完全フロイントアジュバントや不完全フロイントアジュバントを投与してもよい。投与は、通常約2~6週毎に1回ずつ、計約3~10回程度行なうことができる。用いられる動物としては、モノクローナル抗体作成の場合と同様の哺乳動物が挙げられる。ポリクローナル抗体は、上記の方法で免疫された動物の血液、腹水など、好ましくは血液から採取することができる。抗血清中のポリクローナル抗体価の測定は、上記の血清中の抗体価の測定と同様にして測定できる。ポリクローナル抗体の分離精製は、上記のモノクローナル抗体の分離精製と同様の手順で行なうことができる。
【0032】
診断の対象となる疾患
本発明により診断される疾患は循環器疾患又は炎症性疾患であり、具体的には特に心不全、高血圧症、敗血症、又は敗血症性ショックが挙げられる。高血圧症のなかでも特に腎機能障害を伴う高血圧症の診断に有効である。また、本発明のマーカーポリペプチドの血中濃度は、アドレノメデュリンの血中濃度と正の相関を示すことから、本発明の方法はアドレノメデュリンの血中濃度の上昇を伴う疾患(具体的には肺高血圧症、糖尿病、気管支炎、妊娠、動脈硬化症、心筋梗塞)の診断にも使用することができる。
【0033】
診断
本発明では被検試料中のマーカーポリペプチド量の上昇を指標として循環器疾患又は炎症性疾患を診断する。
【0034】
本発明において「診断」とは、被検体が循環器疾患又は炎症性疾患に羅患しているか否かの判定、将来的に循環器疾患又は炎症性疾患に羅患する危険性が存在するか否かの判定、循環器疾患又は炎症性疾患の重症度の判定、治療の効果の判定、および治療後に循環器疾患又は炎症性疾患を再発する危険性が存在するか否かの判定を包含する概念である。
【0035】
特に心不全においては重症度に応じてマーカーポリペプチド量が異なることから、本発明の方法は心不全の重症度の判別に有用である。
【0036】
また高血圧症においては腎臓機能障害を伴う高血圧症であるか否かを本発明の方法により判別することができる。
【0037】
被検体が循環器疾患又は炎症性疾患に羅患しているか否かの判定の際には、健常検体の試料中におけるマーカーポリペプチド量を基準とすることができる。治療の効果の判定の際には、治療前の被検体から採取された試料中のマーカーポリペプチド量を基準値とすることもできるであろう。
【0038】
抗体を含む診断薬又は診断用キット
本発明はまた、マーカーポリペプチドに結合し得る抗体を含む、循環器疾患又は炎症性疾患の診断薬に関する。
【0039】
本発明の診断薬は、必要な試薬とともにキット化することもできる。例えばラジオイムノアッセイ用のキットには放射線標識されたトレーサーペプチドが含まれる。
【0040】
キットには更に、標準試料、緩衝液、溶解液、洗浄液、反応停止液、使用説明書などが含まれていてもよい。
【0041】
また、マーカーポリペプチドに結合し得る抗体はチップ上に高密度に貼り付けてプロテインチップとしてよく、このようなプロテインチップも本発明の診断用キットに含まれる。
【実施例】
【0042】
実験操作
抗ProhAM(170-185)抗体の調製(ProhAM(153-185)のC末認識抗体の調製)
ProhAM(170-185) (アミノ酸配列 AHGAPAPPSGSAPHFL)とウシサイログロブリンをグルタルアルデヒド法によりコンジュゲート(縮合)し免疫した。ProhAM(170-185)(8mg)とウシサイログロブリン(10mg)を2mlの0.1 Mリン酸バッファー(PH7.4)に溶解した。0℃で撹拌下、5%グルタルアルデヒド100μlを加え10分間反応した。生理食塩水、0.05Mリン酸バッファー(PH7.4, 0.08M NaCl入り)に対して透析後、同リン酸バッファーで11mlにし、NaN3を0.1%になるように加え凍結保存した。免疫は、ProhAM(170-185) とウシサイログロブリンとのコンジュゲートをTiter Max Gold (Sigma-Aldrich) adjuvantを当量まぜ、十分にエマルジョンし、コンジュゲート1ml分を兎(3匹)の背部数カ所に分けて皮下注射して行った。追加免疫は1ヶ月後から初回の1/2量を2週間おきに行った。採血は追加免疫の7日後に採取し、遠心により血清分離後、NaN3を0.1%になるように加え凍結保存した。
【0043】
抗体価の検討
抗体価は125 Iでラベルしたトレーサーを用いて検討した。RIA と同一条件で抗血清の濃度のみを変化させ、50%のトレーサーを結合できる抗血清濃度を求め比較した。抗体価の上昇しないウサギは3回程度で免疫を中止し、上昇を続けるものには継続して免疫を行なった。耳動脈より1回に60ml程度まで採取可能で、高力価のものはくり返し採血した。
【0044】
ラジオイムノアッセイ系の確立
(1) トレーサーの調整
ペプチド(N-tyr-ProhAM(170-185), アミノ酸配列: YAHGAPAPPSGSAPHFL)の放射性ヨードラベルは、既報(Kitamura K, Matsui E, Kato J, Katoh F, Kita T, Tsuji T, Kangawa K, Eto T. Adrenomedullin (11-26): a novel endogenous hypertensive peptide isolated from bovine adrenal medulla. Peptides. 2001 Nov;22(11):1713-8. )に従いラクトパーオキシダーゼ法で行なった。25μlの0.4M酢酸ナトリウムバッファー(PH5.6)にペプチド(5μg)、NaI (125 I)1mci/10μl、ラクトパーオキシダーゼ20ng、H2O2 200ng(2回に分けて加える)を加え、37℃、20分間反応させた。
【0045】
トレーサーの精製は、逆相HPLCによりCH3CN濃度を変えることで行った。Column, TSK ODS 120A(4.6 x 150 mm); flow rate, 1.0 ml/min; solvent system, linear gradient elution from A:B=80:20 to A:B=O:100 (80 min). (A) H20:CH3CN:10% TFA = 90:10:1 (v/v); (B) H20:CH3CN:10% TFA = 40:60:1 (v/v).
精製したトレーサーはBSAを0.25%~0.5%になるように加え、分注して-20℃で凍結保存した。
【0046】
(2) ラジオイムノアッセイの方法
RIAは既報(Kitamura K, Matsui E, Kato J, Katoh F, Kita T, Tsuji T, Kangawa K, Eto T. Adrenomedullin (11-26): a novel endogenous hypertensive peptide isolated from bovine adrenal medulla. Peptides. 2001 Nov;22(11):1713-8. )と同様の方法で行なった。RIA用標準バッファー(以下RIAバッファーと略す)には0.05Mリン酸ナトリウム(PH7.4)にBSA 0.25%、NaCl 0.08M、EDTA-2Na 0.025M、NaN3 0.05%を加えた溶液を用いた。また、RIA用チューブとしてはアクリルチューブ(10×78mm、セントラル貿易)を用いた。
【0047】
RIAの反応液は全体で400μlであり、以下の溶液から構成されている。
200μl:標準ペプチド溶液、あるいは未知試料溶液
100μl:125Iで標識したトレーサー(17500~18500 cpm)
100μl:抗血清(最終希釈の4倍濃度)
(以上のものは全てRIAバッファーに溶解、希釈したものである。)
【0048】
上記3種の溶液を十分に撹拌したのち、4℃、20時間インキュベートした。100μlの1%ウシγ-グロブリン溶液(0.05Mリン酸バッファー、PH7.4-0.08M NaCl に溶解)を加え撹拌したのち、1mlの23%ポリエチレングリコール(同バッファーに溶解)を加え沈殿を生成させることにより反応を停止した。4℃で15分間放置後、4℃、3000rpm で30分間遠心し、上清をアスピレートしたのち、ペレット部分の放射活性をγ-カウンターで測定した。試料は通常同一物を2本ずつアッセイした。
【0049】
(3) 抗血清の希釈度およびラジオイムノアッセイ用スタンダード
抗血清の希釈度は抗体価の測定と全く同じように行なった。RIAと同一条件で抗血清濃度のみを変化させ、抗体と結合した放射活性を測定することにより希釈曲線を作製した。同時に抗原であるペプチドを過剰に加えた系でも希釈曲線を作製し、抗原の有無により結合した放射活性量の差が十分に大きく、かつ希釈度の最大となるような抗血清濃度を求め、RIAに用いた。
【0050】
RIA用スタンダードには合成ペプチドをアミノ酸分析で定量し使用した。スタンダードはペプチドの濃度を基準にして、512fmol/200μl、256fmol/200μlから0.5fmol/200μlまで2倍希釈ずつ10点、0fmol/200μl、合計12点作製し、実際のスタンダードとして用いた。また、交叉活性検討用の種々のペプチドのスタンダードも、同様に最高1μg/100μlまで調整した。組織抽出物のRIAの場合には試料溶液中にかなりの量のトリスと酢酸が含まれるが、この場合にはスタンダードも試料と同じ組成のバッファーで調製した。
【0051】
実験結果
(1) ラジオイムノアッセイにおける交叉活性の検討
本ラジオイムノアッセイ系における各種ペプチドの交差活性を検討した。その結果、ProhAM(153-185)、N-tyr-ProhAM C-II(170-185)とは100%の交叉活性があり、ProhAM(153-167)、アドレノメデュリン、PAMPとは0%の交叉活性であることが確認された。これらの結果は、調製された抗血清はProhAMのC末端を認識する抗体を含んでいることを示す。
【0052】
図1にはProhAM(153-185)のラジオイムノアッセイの標準曲線を示す。中点が42fmol/tubeであり、4fmol/tubeまで測定可能である。
またアッセイ内誤差は3.5% であり、アッセイ間誤差は 10% であった。
【0053】
(2) 添加回収試験
4, 8, 32 fmolのProhAM(153-185)を加えた後に測定を行ったところ、回収率は 86-118% であり良好であった。
【0054】
(3) 希釈試験
2種類の血漿サンプル(心不全患者、健常人からの血漿サンプル)をそれぞれ100μl、50μl、又は25μl使用してラジオイムノアッセイを行い、血漿サンプルの使用量(希釈倍率に対応する)とProhAM(153-185)の検出量との相関関係を確認した。結果を図2に示す。図2中、白丸は心不全患者からの血漿サンプルからのデータであり、黒丸は健常人からの血漿サンプルからのデータである。図2に示されるとおり、ほぼ良好な直線性が得られた。
【0055】
(4) ProhAM (153-185)の安定性
検体採取から血漿分離凍結まで、8時間は安定であった。
凍結融解は4回まで繰り返しても値に有意な変動はないことが確認された。
凍結保存では6ヶ月以上は安定であった。
【0056】
(5) 血漿中のペプチドのHPLCによる定性
108mlの健常人血漿をSEPPACを用いて脱塩および除蛋白を行った(回収率:約60% )。HPLCで分析した。分析条件は次の通りである。
カラム:050412HPLC RP chemcosorb 7ODSH 0x250mm
溶出液:(A):(B)=100:0~0:100, 直線グラジエント 2.0ml/fr,
(A) H20:CH3CN:10% TFA = 90:10:1 (v/v); (B) H20:CH3CN:10% TFA = 40:60:1 (v/v)
【0057】
HPLCでの回収率は約50%であった。HPLCの結果を図3に示す。図3では横軸が溶出時間(分)、縦軸がペプチド量を示す。図3において矢印で示すフラクションはproAM(153-185)を含む。この結果から、本実験で使用される抗血清と結合する、ProhAMのC末端部分ペプチド ProhAM(X-185)の大部分がProAM(153-185)であることが示された。
【0058】
(6) 心不全患者におけるProhAM (153-185)血中濃度
心不全患者(NYHA) の血漿中におけるProAM(153-185)濃度を、健常人と比較した。
心不全患者(NYHA)は3段階 (NYHA I-II, NYHA III, NYHA IV) に分類した。結果を表1及び図4に示す。
【0059】
【表1】
JP0004423426B2_000002t.gif

【0060】
表1および図4に示されるとおり、ProhAM (153-185)血中濃度は重度の心不全患者において有意に高いことが確認された。
【0061】
比較のために、同様の被験者からの試料に対して、従来の測定法により血中のAMT(AM total)濃度を測定した。この方法は、詳細にはOhta H, Tsuji T, Asai S, Tanizaki S, Sasakura K, Teraoka H, Kitamura K, Kangawa K. A simple immunoradiometric assay for measuring the entire molecules of adrenomedullin in human plasma. Clin Chim Acta. 1999 Sep;287(1-2):131-43.に記載されている。この方法は、アドレノメデュリンのリング構造とリングとC末をつなぐ中間部を認識する抗体を用い、immunoradiometoric assay(IRMA)によりアドレノメデュリンの血中濃度を測定する方法である。生体に含まれるアドレノメデュリンには二つの形態(AM-glyとAM-CONH2)があるが、「AMT」とはAM-glyとAM-CONH2とを両方とも包含する。従って本明細書において「AMT検出値(または濃度)」といった場合、AM-glyおよびAM-CONH2の合計の検出値(または濃度)を意味する。測定結果を表2および図5に示す。
【0062】
【表2】
JP0004423426B2_000003t.gif

【0063】
2つの方法を比較すると、ProhAM (153-185)は心不全患者のマーカーとしてより好ましいことが確認された。
【0064】
(7) ProhAM (153-185)とAMTとの相関関係
健常人および心不全患者におけるAMT検出値を横軸に、ProhAM (153-185)検出値を縦軸にしてプロットし、相関関係を確認した(図6)。相関係数は0.670であった。
【0065】
(8) 高血圧症患者におけるProhAM (153-185)血中濃度
高血圧症患者の血漿中におけるProAM(153-185)濃度を、健常人と比較した。
高血圧症患者は2段階 (臓器障害を伴っていない高血圧症患者、および、腎機能障害を伴う高血圧症患者) に分類した。結果を表3及び図7に示す。
【0066】
【表3】
JP0004423426B2_000004t.gif

【0067】
表3および図7に示されるとおり、ProhAM (153-185)血中濃度は腎機能障害を伴う高血圧症患者において有意に高いことが確認された。
【0068】
(9) 敗血症性ショック患者におけるProhAM (153-185)血中濃度
重症敗血症・敗血症性ショック患者の血漿中におけるProAM(153-185)濃度を、健常人と比較した。また、比較のためにAMT濃度についても同様に測定を行った。結果を表4(ProAM(153-185)検出値)、表5(AMT検出値)および図8に示す。図8中、黒色カラムはAMT検出値を示し、白色カラムはProAM(153-185)検出値を示す。
【0069】
【表4】
JP0004423426B2_000005t.gif

【0070】
【表5】
JP0004423426B2_000006t.gif

【0071】
表4、5および図8に示されるとおり、ProhAM (153-185)血中濃度は重症敗血症・敗血症性ショック患者において有意に高いことが確認された。また、ProhAM (153-185)はAMTと比較して重症敗血症・敗血症性ショックのマーカーとしてより好ましいことが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】ProhAM(153-185)のラジオイムノアッセイの標準曲線を示す。
【図2】血漿サンプルの使用量(希釈倍率に対応する)とProhAM(153-185)の検出量との相関関係を示す。白丸は心不全患者からの血漿サンプルからのデータであり、黒丸は健常人からの血漿サンプルからのデータである。
【図3】健常人血漿サンプル中のペプチドのHPLCによる分析結果を示す。
【図4】健常人と3段階の心不全患者(NYHA) におけるProAM(153-185)の血中濃度を示す。
【図5】健常人と3段階の心不全患者(NYHA) におけるAMTの血中濃度を示す。
【図6】健常人および心不全患者におけるAMT血中濃度とProhAM (153-185) 血中濃度との相関関係を示す。
【図7】健常人と2段階の心高血圧症患者におけるProhAM (153-185)血中濃度を示す。
【図8】健常人と重症敗血症・敗血症性ショック患者における、ProhAM (153-185)血中濃度(白)とAMT血中濃度(黒)とを示す。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7