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明細書 :酸素および酸化物イオンセンサとその利用

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4742261号 (P4742261)
公開番号 特開2007-085948 (P2007-085948A)
登録日 平成23年5月20日(2011.5.20)
発行日 平成23年8月10日(2011.8.10)
公開日 平成19年4月5日(2007.4.5)
発明の名称または考案の名称 酸素および酸化物イオンセンサとその利用
国際特許分類 G01N  27/416       (2006.01)
G01N  27/30        (2006.01)
FI G01N 27/46 381
G01N 27/30 B
請求項の数または発明の数 8
全頁数 19
出願番号 特願2005-276789 (P2005-276789)
出願日 平成17年9月22日(2005.9.22)
審査請求日 平成20年9月17日(2008.9.17)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
発明者または考案者 【氏名】萩原 理加
【氏名】後藤 琢也
【氏名】荒木 保博
個別代理人の代理人 【識別番号】110000338、【氏名又は名称】特許業務法人原謙三国際特許事務所
審査官 【審査官】黒田 浩一
参考文献・文献 特開2005-017173(JP,A)
Shigeomi Takai 外2名,Properties of the Bi2O3-based molten salt/ceramic,Solid State Ionics,1998年12月,Volumes113-115,第653-658頁
松本 太 外4名,イミダゾリウム系常温溶融塩中における酸素分子の還元反応に関する基礎的研究,電気化学会第69回大会講演要旨集,日本,2002年 3月25日,第128頁
調査した分野 G01N 27/26-27/49
JSTPlus(JDreamII)
特許請求の範囲 【請求項1】
測定対象の雰囲気の酸素濃度を検出するための酸素センサであって、
sp3結合を有する炭素系材料を含む第1電極と、
参照電極として機能する第2電極と、
上記第1,第2電極と接触し、酸化物イオンを含む溶融塩を有する電解質相と、
上記第1,第2電極間における電位差を測定する電位差測定手段と、
上記電解質相中の酸化物イオン濃度が既知である場合において、上記電位差測定手段によって得られる測定結果および上記電解質相中の酸化物イオン濃度に基づき、上記測定対象の雰囲気の酸素濃度を算出する算出手段と、を備えることを特徴とする酸素センサ。
【請求項2】
上記測定対象の雰囲気は、上記第1電極および電解質相と接触することを特徴とする請求項1に記載の酸素センサ。
【請求項3】
上記電解質相が、支持体として多孔質媒体を備え、酸化物イオンを含む溶融塩を当該多孔質媒体に含浸させたものを有することを特徴とする請求項1または2に記載の酸素センサ。
【請求項4】
上記第2電極が、sp3結合を有する炭素材料を含むものであることを特徴とする請求項3に記載の酸素センサ。
【請求項5】
上記sp3結合を有する炭素系材料が、不純物をドープしたダイヤモンドであることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の酸素センサ。
【請求項6】
測定対象の雰囲気の酸素濃度を検出するための酸素濃度検出方法であって、
酸化物イオンを含む溶融塩を有する電解質相に接触した、sp3結合を有する炭素系材料を含む第1電極と参照電極として機能する第2電極との間の電位差を測定する電位差測定工程と、
上記電解質相中の酸化物イオン濃度が既知である場合において、上記電位差測定工程によって得られる測定結果および上記電解質相中の酸化物イオン濃度に基づき、測定対象の雰囲気の酸素濃度を算出する算出工程と、を有することを特徴とする酸素濃度検出方法。
【請求項7】
sp3結合を有する炭素系材料を含む第1電極と、
参照電極として機能する第2電極と、
上記第1,第2電極と接触し、酸化物イオンを含む溶融塩を有する電解質相と、
上記第1,第2電極間における電位差を測定する電位差測定手段と、を備え、
さらに、上記第1電極および電解質相に対して酸素濃度が既知の基準雰囲気を接触させる場合において、上記電位差測定手段によって得られる測定結果および当該基準雰囲気中の酸素濃度に基づき、上記溶融塩中の酸化物イオン濃度を算出する算出手段と、を備えることを特徴とする酸化物イオンセンサ。
【請求項8】
溶融塩中の酸化物イオン濃度を検出するための酸化物イオン濃度検出方法であって、
酸素濃度が既知の基準雰囲気に接触した、sp3結合を有する炭素系材料を含む第1電極と参照電極として機能する第2電極との間の電位差を測定する電位差測定工程と、
上記基準雰囲気の酸素濃度が既知である場合において、上記電位差測定工程によって得られる測定結果および上記基準雰囲気の酸素濃度に基づき、上記溶融塩中の酸化物イオン濃度を算出する算出工程と、を有することを特徴とする酸化物イオン濃度検出方法。

発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素センサおよびその利用に関し、特に、溶融塩を用いた電気化学反応に基づく酸素および酸化物イオンセンサとその利用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、バイオテクノロジー・半導体製造・医療・食品・環境技術などのさまざまな産業分野において、酸素濃度を測定する技術への需要が高まっている。これまで酸素濃度を測定する装置として、ガルバニ式酸素センサ、ポーラロ式酸素センサ、ジルコニア式酸素センサ、および室温溶融塩を利用した酸素センサなどが開発されている。
【0003】
まず、ガルバニ式酸素センサおよびポーラロ式酸素センサについて、図8を参照しながら説明する。同図に示すように、これら2つのセンサはいずれも、電解液104を満たした容器105内に、カソード101とアノード102からなる一対の電極103、ガス透過性の隔膜106を配置した構成である。この電極103に外部より電圧を印加すると、隔膜106を透過して拡散してきた酸素がカソード101上で電気化学的に還元され、電流が発生する。この発生した電流は酸素濃度に比例するため、生じた電流を測定することにより酸素濃度を求めることができる。なお、ガルバニ式酸素センサではアノード102に鉛を用い、ポーラロ式酸素センサではアノード102に塩化銀を用いる。
【0004】
次に、ジルコニア式酸素センサについて図9を参照しながら説明する。同図に示すように、ジルコニア式酸素センサは、ジルコニア固体電解質110の両側に一対の電極111,112を配置した構成である。ジルコニア固体電解質110は、良好な酸素イオン導電体として知られている。このため、ジルコニア固体電解質110の両側に酸素濃度が異なる気体が存在する場合、ジルコニア固体電解質110を加熱すると、酸素濃度の高い方から低い方へ酸素が移動しようとする。このとき、酸素がジルコニア固体電解質110を通り抜ける際には酸化物イオン(O2-)になるので、ジルコニア固体電解質110の両側の気体における酸素分圧の差に応じた起電力が発生する。そして、この起電力を測定することにより酸素濃度を求めることができる。
【0005】
次いで、溶融塩を用いた酸素センサについて説明する。かかる酸素センサとして、例えば、特許文献1に、酸素を電気化学的に酸化還元する第1電極と、該第1電極との間に電流を流す第2電極と、該第1電極の基準となる電位参照用の第3電極とを備え、該第1、第2、および第3の電極と接触する常温溶融塩を電解質相として備え、該第1電極と第3電極との間に電位パルスを発生させ、該第1電極と第2電極との間に流れる電流値により酸素濃度を演算する手段を備える酸素センサ等が開発されている。この酸素センサによれば、常温作動かつ長期間の安定性に優れ、小型化可能な酸素センサを提供できると報告されている。

【特許文献1】特開2005-17173号公報(平成17(2005)年1月20日公開)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述したガルバニ式酸素センサ及びポーラロ式酸素センサでは、電解液に水溶液を用いていることから、作動温度が室温(5~40℃)に限定されてしまうという問題点がある。さらに、測定により電極や電解質等が消耗してしまい、長期間連続的に使用することができない。
【0007】
また、上述したジルコニア式酸素センサでは、ジルコニア固体電解質の酸素伝導性を十分に得るために、作動温度を600℃以上にする必要がある。それゆえ高温域でないと酸素センサを使用できないという問題がある。また、酸素センサ以外に加熱装置、保温装置、冷却装置等が必要となり、装置の大型化、加熱操作による高消費電力化ならびに取扱いが煩雑になってしまう。
【0008】
また、上述したガルバニ式酸素センサ、ポーラロ式酸素センサ、並びに室温溶融塩を利用した酸素センサでは、外部から電圧を印加して酸素を還元させ、その際に生じた電流を測定することにより酸素濃度を算出する構成である。すなわち、これらの酸素センサでは、外部からエネルギーを印加し酸素を強制的に異なる分子種に変化させ、酸素濃度を算出する形式、いわゆる動的(dynamic)に酸素濃度を検出する構成である。しかし、このような動的に酸素濃度を検出する構成の場合、原理的に酸素濃度が高い領域の測定が困難であることが知られている。
【0009】
このため、電極や電解質が消耗することなく、幅広い温度範囲で使用でき、かつ酸素濃度を広い範囲で精度よく検出することができる酸素センサの開発が強く求められていた。
【0010】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、電極や電解質が消耗することなく、幅広い温度範囲で使用でき、かつ酸素濃度を精度よく広い範囲で検出することができる酸素および酸化物イオンセンサとその利用を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、酸素雰囲気下において、sp3結合を有する炭素系材料からなる電極と参照電極とを酸化物イオンを含む溶融塩中に浸漬したところ、(i) 当該炭素系材料からなる電極表面において酸素(O)と酸化物イオン(O2-)との平衡反応が成り立つこと、(ii) 酸化物イオン濃度が既知の状況でO/O2-電極の平衡電位を測定することにより、ネルンストの式から酸素分圧を算出できること、そして、(iii) このとき電極も電解質も消耗しないこと等の新規知見を見出し、本願発明を完成させるに至った。本発明は、かかる新規知見に基づいて完成されたものであり、以下の発明を包含する。
【0012】
(1)測定対象の雰囲気の酸素濃度を検出するための酸素センサであって、sp3結合を有する炭素系材料を含む第1電極と、参照電極として機能する第2電極と、上記第1,第2電極と接触し、酸化物イオンを含む溶融塩を有する電解質相と、上記第1,第2電極間における電位差を測定する電位差測定手段と、上記電解質相中の酸化物イオン濃度が既知である場合において、上記電位差測定手段によって得られる測定結果および上記電解質相中の酸化物イオン濃度に基づき、上記測定対象の雰囲気の酸素濃度を算出する算出手段と、を備える酸素センサ。
【0013】
(2)上記測定対象の雰囲気は、上記第1電極および電解質相と接触する(1)に記載の酸素センサ。
【0014】
(3)上記電解質相が、支持体として多孔質媒体を備え、酸化物イオンを含む溶融塩を当該多孔質媒体に含浸させたものを有する(1)または(2)に記載の酸素センサ。
【0015】
(4)上記第2電極が、sp3結合を有する炭素材料を含むものである(3)に記載の酸素センサ。
【0016】
(5)上記sp3結合を有する炭素系材料が、不純物をドープしたダイヤモンドである(1)~(4)のいずれかに記載の酸素センサ。
【0017】
(6)測定対象の雰囲気の酸素濃度を検出するための酸素濃度検出方法であって、酸化物イオンを含む溶融塩を有する電解質相に接触した、sp3結合を有する炭素系材料を含む第1電極と参照電極として機能する第2電極との間の電位差を測定する電位差測定工程と、上記電解質相中の酸化物イオン濃度が既知である場合において、上記電位差測定工程によって得られる測定結果および上記電解質相中の酸化物イオン濃度に基づき、測定対象の雰囲気の酸素濃度を算出する算出工程と、を有する酸素濃度検出方法。
【0018】
(7)sp3結合を有する炭素系材料を含む第1電極と、参照電極として機能する第2電極と、上記第1,第2電極と接触し、酸化物イオンを含む溶融塩を有する電解質相と、上記第1,第2電極間における電位差を測定する電位差測定手段と、を備え、さらに、上記第1電極および電解質相に対して酸素濃度が既知の基準雰囲気を接触させる場合において、上記電位差測定手段によって得られる測定結果および当該基準雰囲気中の酸素濃度に基づき、上記溶融塩中の酸化物イオン濃度を算出する算出手段と、を備える酸化物イオンセンサ。
(8)溶融塩中の酸化物イオン濃度を検出するための酸化物イオン濃度検出方法であって、酸素濃度が既知の基準雰囲気に接触した、sp3結合を有する炭素系材料を含む第1電極と参照電極として機能する第2電極との間の電位差を測定する電位差測定工程と、上記基準雰囲気の酸素濃度が既知である場合において、上記電位差測定工程によって得られる測定結果および上記基準雰囲気の酸素濃度に基づき、上記溶融塩中の酸化物イオン濃度を算出する算出工程と、を有する酸化物イオン濃度検出方法。
【0019】
なお、上記酸素センサまたは酸化物イオンセンサのうち、算出手段は、コンピュータによって実現してもよく、この場合には、コンピュータを上記手段として動作させることにより上記算出手段をコンピュータにて実現させる酸素センサまたは酸化物イオンセンサの制御プログラム、およびそれを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体も、本発明の範疇に入る。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る酸素センサによれば、電極や電解質が消耗することなく、幅広い温度範囲で使用でき、かつ酸素濃度を広い範囲で精度よく検出することができる。
【0021】
また、この酸素センサの原理を利用すれば、酸化物イオン濃度が既知の場合、酸素濃度を検出する方法も実現可能である。この原理によれば、逆に酸素濃度が既知の場合、酸化物イオン濃度を検出することもできる。つまり、本発明によれば、酸化物イオン濃度を検出するセンサや酸化物イオン検出方法も実現可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明に係る酸素センサ、酸素濃度検出方法、酸化物イオンセンサ、酸化物イオン濃度検出方法について詳細に説明するが、まず、本発明の理解の一助と資すべく、本発明者らが見出した本発明の基本原理について説明する。
【0023】
<1.本発明の基本原理>
上述したように、従来から酸素ガス濃度を電気化学的に測定する方法は、多数提案されている。しかしながら、広範な温度領域かつ酸素濃度を正確に測定する手法は、確立されていなかった。なぜなら、広範な温度領域で安定な電解質がないこと、また、溶融塩と酸素と共存する環境下で安定な電極材料がないからである。そこで、本発明者らは、電解質として広範な温度領域で酸化物イオンを安定に存在させることができる溶融塩に着目した。さらに、電極材料として、sp3炭素材料からなる電極が溶融塩と酸素と共存する環境下で安定であることに着目した。すなわち、酸化物イオンを含む溶融塩とsp3炭素材料を組み合わせることで、新たな酸素濃度測定手法の確立を期待し検討を行った。具体的には、図1に示すように、電解質相としての溶融塩3に、ダイヤモンド電極からなる電極1および参照電極2を接触させた。電極1には、溶融塩3に接触する部分と、溶融塩3から外部に突出している部分とが存在する。また、電極1と参照電極2との間に電圧計が接続されている。溶融塩3中には、酸化物イオンが含まれている。
【0024】
本発明者らは、このような実験系において、電極1の表面では次式に示すような平衡反応(1)が成り立つことを見出した。
【0025】
【化1】
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【0026】
なお、このとき、電極1と酸素(または酸化物イオン)とは全く反応せず、電極も消耗しないことを確認している。
【0027】
また、酸素分圧、酸化物イオン濃度、O/O2-電極の平衡電位の三者間には、下記数式(2)に示すような「2電子反応のネルンストの式」(T=723K)の関係に従うことを全く新たに見出した。
【0028】
【数1】
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【0029】
そして、本発明者らは、上記知見に基づき鋭意検討を重ねた結果、後述する実施例に示すように、標準式量酸化還元電位(下記数式(3))を決定することに成功した。
【0030】
【数2】
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【0031】
その結果、本発明者らは、上記数式(2),(3)を用いれば、酸化物イオン濃度(XO2-)が既知の状況において、sp3炭素材料からなる電極のO/O2-電極の平衡電位を測定することにより、酸素分圧(PO2)を算出できることを見出した。この原理を用いれば、sp3炭素材料からなる電極を酸素センサとして応用することができる。
【0032】
このsp3炭素材料からなる電極を利用した酸素センサは、O/O2-電極の平衡電位を測定することにより、簡便かつ正確に酸素濃度を検出できる。このため、いわゆる“静的に”酸素濃度を検出することができる。この静的な酸素検出動作は、従来の常温溶融塩式酸素センサのような、外部から電圧等を印加して酸素を強制的に異なる分子種に変換する“動的な”酸素検出動作に比べて、酸素濃度が高い領域から低い領域まで細かい単位で精度よく酸素濃度を検出することができる。例えば、酸素分圧0.01気圧刻み以下でも精度よく算出できる。
【0033】
このように、本発明に係る酸素センサの基本原理は、従来の溶融塩を用いた酸素センサのそれとは全く異なり、極めて精度よく酸素を検出することができる。なお、上述したように、本発明の酸素センサの原理では、ネルンストの式を用いていることから、酸素分圧が既知であれば、溶融塩中の酸化物イオン濃度を検出することも可能となる。このため、この基本原理は、後述するように、酸化物イオンセンサとしても利用可能である。
【0034】
以下、この基本原理を用いた酸素センサ、酸素濃度検出方法、酸化物イオンセンサ、酸化物イオン濃度検出方法について、順に説明する。
【0035】
<2.酸素センサ>
本発明に係る酸素センサは、測定対象の雰囲気の酸素濃度を検出するための酸素センサであって、第1電極と、第2電極と、上記第1,第2電極と接触する電解質相と、電位差測定手段と、酸素濃度を算出する算出手段と、を備える酸素センサであればよく、大きさ、形状、材質等のその他の具体的な構成については特に限定されるものではない。
【0036】
まず、上記測定対象の雰囲気とは、酸素センサのユーザが当該雰囲気の酸素濃度(または酸素分圧)を検出したいと欲するものであればよく、例えば、酸素濃度あるいは酸素分圧が未知のガス(気体)を挙げることができる。
【0037】
次に、上記第1電極は、sp3結合を有する炭素系材料(以下、単に「sp3炭素系材料」とも称する。)を含む材料からなる電極であればよく、その他の大きさ、形状、材質等の具体的な構成については限定されるものではない。
【0038】
ここで「炭素系材料」とは、炭素を主成分とする材料のことを意味する。また、「sp3結合を有する炭素」とは、炭素の化学結合状態がsp3結合であることを意味する。また「sp3炭素系材料」とは、sp3結合のみを有する炭素系材料のみならず、炭素系材料に含まれるsp3結合の割合が60%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは99%以上である材料をも含む意味である。上記好ましい範囲のうち、sp3結合の割合が高くなるほど、当該炭素系材料を電極として用いた場合に、酸化物イオンや酸素と反応して電極が消耗しなくなるため、より好ましい。したがって、sp3結合のみを有する炭素系材料が最も好ましいといえる。炭素系材料におけるsp3結合の割合を調べる方法としては、例えばラマンスペクトル法による測定でsp3結合に関するピークを観測し、調べることができる。
【0039】
sp3炭素系材料としては、特に限定されるものではなく、例えばダイヤモンド、ダイヤモンドライクカーボン等が挙げられるが、特に化学的、機械的安定性が高いとの理由からダイヤモンドが好ましい。
【0040】
また、上記第1電極は、上記「sp3炭素系材料」を含む電極であればよく、炭素系材料以外の材料を含んでいてもよく、その具体的な構成や製造方法等は特に限定されるものではない。かかる電極としては、例えば、基板上に「sp3炭素系材料」が蒸着されているものを挙げることができる。この「基板」としては特に限定されるものではないが、sp3炭素系材料との密着性がよいとの理由からニオブ(Nb)、ケイ素(Si)または炭素(C)材料が好ましい。なお、「sp3炭素系材料」を基板へ蒸着する方法としては、特に限定されるものではないが、例えば化学気相成長法(CVD法)、またはホットフィラメント化学気相成長法(HFCVD法)が適用可能である。
【0041】
また、sp3炭素系材料を用いて電極を構成する場合、当該sp3炭素系材料には導電性を付与するための不純物がドープされていることが好ましい。sp3炭素系材料は導電性を有していないため、不純物を加えて導電性を付与することが目的である。上記不純物としてはsp3炭素系材料へ導電性を付与することができるものであれば特に限定されるものではなく、例えばホウ素、リン、窒素、砒素、ガリウム等が利用可能であり、作製が容易との理由からホウ素が特に好ましい。
【0042】
上述したように、上記第1電極としては、不純物がドープされたダイヤモンドを材料とする電極、いわゆる「導電性ダイヤモンド電極」を用いることが特に好ましい。かかるダイヤモンド電極の製造方法については、例えば、H. Notsu, I. Yagi, T. Tatsuma, D. A. Tryk and A. Fujishima, Electrochem. Solid-State Lett. 2 (1999) 522. に記載されている。またダイヤモンド電極として、Adamant社(商品名:Diamond Electrode)、Condias社(商品名:DIACHEM electrode)から市販品を購入することも可能である。なお、市販品のダイヤモンド電極は、その入手容易性から特に好ましいといえる。
【0043】
また、上述したように、上記第1電極として、ダイヤモンドライクカーボンを用いた電極(「ダイヤモンドライクカーボン電極」)を用いてもよい。かかるダイヤモンドライクカーボン電極は、プラズマ気相蒸着法により製造することができる。ダイヤモンドライクカーボン電極の製造方法については、例えば、M. Weiler, S. Sattel, T. Giessen, K. Jung, H. Ehrhardt, V.S. Veerasamy and J. Robertson Phys. Rev. B 53 (1996), 1594に記載されている。
【0044】
上記第2電極は、参照電極として機能するものであればよく、その他の具体的な構成は特に限定されない。具体的には、溶融塩を電解質相とする場合に使用される従来公知の参照電極を好適に使用することができ、例えば、アルミニウム-リチウム(Al-Li)、塩化銀(AgCl-Ag)等を材料とする電極を用いることができる。
【0045】
上記電解質相は、酸化物イオンを含む溶融塩を有するものであればよい。ここで溶融塩としては、特に限定されるものではなく、酸化物イオンを安定に存在させることができる溶融塩であればよい。つまり、酸化物イオンを含有することができる溶融塩であれば、従来公知のものを好適に用いることができる。
【0046】
具体的には、中温溶融塩、高温溶融塩を用いることが好ましい。中温溶融塩、高温溶融塩としては、例えば、塩化リチウム-塩化カリウム共晶塩(LiCl-KCl共晶塩)を始めとするアルカリ金属ハロゲン化物系、塩化カルシウム(CaCl)を始めとするアルカリ土類金属ハロゲン化物系、硫酸塩や硝酸塩を始めとするオキシ酸系、有機塩化物と分子性の塩を混合して得られる溶融塩、分子性溶融塩等、幅広く利用が可能である。特に、LiCl-KCl、NaCl-CsCl、LiCl-CsCl、NaCl-KCl、LiCl-KCl-CsCl、LiCl、MgClなどの塩化物の溶融塩やそれ以外にもフッ化物の溶融塩、LiF-KF-NaF、NaF-AlFなどを用いることが好ましい。
【0047】
ここで、本発明に係る酸素センサでは、電解質相として溶融塩を用いている。このため、溶融塩の温度範囲に応じて、酸素センサの作動温度を適宜設定することができる。例えば、溶融塩として温度範囲:350~550℃であるLiCl-KClを用いる場合、当該温度範囲で酸素センサを作動させることができる。特に、本明細書の背景技術にも記載しているが、従来の酸素センサの動作範囲は室温(5~40℃)か、または600℃以上の高温域に限られており、中温域の酸素センサは存在しない。このため、この点においても、本発明に係る酸素センサは非常に有用性が高いといえる。もちろん、LiCl-KCl以外の中温域の溶融塩を用いることもできるし、さらに、常温溶融塩を用いたり、LiCl-CsCl(250℃~)、NaCl-KCl(600~900℃)などを用いることにより、酸素センサの動作温度を自由に制御できる。つまり、本発明によれば、広範な温度域に対応できる酸素センサを提供できるといえる。
【0048】
また、上述したように、溶融塩中には酸化物イオンが含まれている。溶融塩中に酸化物イオンを含有させる方法としては、従来公知の方法を用いることができ、特に限定されるものではない。例えば、LiO等の金属酸化物などの酸化物イオン供給源を溶融塩に添加することにより、簡便に酸化物イオンを含ませることができる。
【0049】
このような酸化物イオン供給源としては、例えば酸化リチウムあるいは酸化カルシウム、酸化ナトリウム等が利用可能である。酸化物イオン供給源の好適な添加量については、酸化物イオン供給源の種類、溶融塩の組成等により異なるために限定されるものではなく、適宜検討の上、決定すればよい。例えば、好ましい溶融塩と酸化物の組成としては、溶融塩中への酸化物イオンの溶解度およびその安定性の観点から、LiCl-KCl-LiO(LiCl:58.2mol%、KCl:41.3mol%、Li0:0.5mol%)を挙げることができる。
【0050】
なお、<1>欄の基本原理でも述べたように、本発明に係る酸素センサでは、電解質相(溶融塩)中に含まれる酸化物イオン濃度が既知の状態において酸素濃度を検出するというものであるため、酸化物イオン濃度を把握しておくことが重要となる。
【0051】
また、上記電位差測定手段は、上記第1電極と第2電極との間における電位差を測定できるものであればよく、その他の具体的な構成は特に限定されるものではない。すなわち、本電位差測定手段は、第1電極におけるO/O2-電極の平衡電位を測定するものといえる。かかる電位差測定手段としては、例えば、従来公知の電圧計を好適に用いることができる。
【0052】
上記算出手段は、上記電解質相中の酸化物イオン濃度が既知である場合において、上記電位差測定手段によって得られる測定結果および上記電解質相中の酸化物イオン濃度に基づき、上記測定対象の雰囲気の酸素濃度を算出するものであればよく、その他の具体的な構成は特に限定されるものではない。すなわち、本算出手段は、上述の<1>欄で説明したように、ネルンストの式(上記数式(2),(3))を用いて、上記電位差測定手段によって得られる“O/O2-電極の平衡電位”と“電解質相中の酸化物イオン濃度”とに基づき、酸素濃度を算出するものであればよい。
【0053】
本算出手段の具体的な構成としては、PC(パーソナルコンピュータ)やマイクロコンピュータ等の従来公知の演算装置を用いることができ、特に限定されるものではない。なお、“O/O2-電極の平衡電位”や“電解質相中の酸化物イオン濃度”は、例えばユーザによって本算出手段に入力したり、または電位差測定手段から電気通信回路を通じて直接入力したり、あるいは算出手段が備える記憶部に予め記憶させておく等の従来公知の技術により利用可能に構成することができる。
【0054】
また、本酸素センサでは、上記測定対象の雰囲気は上記第1電極および電解質相と接触する構成であることが好ましい。これは、測定対象の雰囲気と第1電極と電解質相との三相界面において、上記平衡反応(1)が成立することになるためである。それゆえ、本酸素センサでは、上記電位差測定手段によって第1電極と第2電極との間のO/O2-電極の平衡電位を測定する際には、測定対象の雰囲気と上記第1電極および電解質相とが接触していることになる。
【0055】
次に、本発明に係る酸素センサの実施形態について、図面を用いて説明する。
【0056】
<2-1:実施形態1>
図2は、本発明の一実施形態に係る酸素センサの構成を模式的に示す図である。具体的には、図2に示すように、本実施の形態に係る酸素センサ10は、第1電極11、第2電極12、電解質相13、電位差測定部14、酸素濃度算出部15を備えている。
【0057】
第1電極11はsp3炭素系材料からなる電極である。第2電極12は参照電極として機能する電極である。電解質相13は濃度既知の酸化物イオンを含有する溶融塩である。電位差測定部14は上述の電位差測定手段として機能するものであり、例えば電圧計を用いることができる。酸素濃度算出部15は上述の算出手段として機能するものであり、例えばPCなどにより構成できる。なお、測定対象の雰囲気として、濃度未知の酸素を含む混合ガスを用いる。
【0058】
また、本酸素センサ10では、第1電極11と第2電極12とは、電解質相13と接触している。電位差測定部14は、第1電極11と第2電極12との間に連結されている。酸素濃度算出部15は、電位差測定部14の測定結果を利用できるように構成されている。なお、電解質相13中の酸化物イオン濃度は既知であり、酸素濃度算出部15はこの酸化物イオン濃度の情報を利用可能に構成されている。
【0059】
また、図2に示すように、酸素濃度の測定対象の雰囲気は、電解質相13の表面に接触する構成である。
【0060】
上述の構成によれば、第1電極11において上記平衡反応(1)が成立する。また、電位差測定部14が、第1電極11におけるO/O2-電極の平衡電位と参照極である第2電極12との電位差を測定する。そして、酸素濃度算出部15が、電位差測定部14によって測定したO/O2-電極の平衡電位と、電解質相13中の酸化物イオン濃度とに基づき、ネルンストの式(上記数式(2),(3))を用いて、測定対象の雰囲気の酸素濃度を算出することができる。このように本酸素センサ10によれば、簡便かつ正確に測定対象の雰囲気の酸素濃度を検出することができる。
【0061】
<2-2:実施形態2>
本発明では、上記電解質相が、支持体として多孔質媒体を備え、溶融塩を当該多孔質媒体に含浸させたものを有する形態でも実施可能である。かかる支持体として機能する多孔質媒体としては、溶融塩を含浸させることができるものであればよく、従来公知の多孔質媒体を好適に利用することができる。具体的には、例えば、溶融炭酸塩型燃料電池などに利用されているリチウムアルミネートなどの多孔質媒体のほか、焼結シリカを利用することができる。
【0062】
また、多孔質媒体に溶融塩を含浸させて電解質相とする方法も、従来公知の方法を利用することができ、特に限定されるものではない。例えば、多孔質材料に溶融塩を含浸させて焼結させると、溶融塩が固体で保持される形式でも利用可能できる。
【0063】
上述のような支持体として多孔質媒体を備える電解質相を有する酸素センサの一実施形態について図3を用いて説明する。図3に示すように、本実施の形態に係る酸素センサ20は、第1電極21、第2電極22、電解質相23、電位差測定部24、酸素濃度算出部25を備えている。第1電極21はsp3炭素系材料からなる電極である。第2電極22は参照電極として機能する電極である。電解質相23は、多孔質媒体に溶融塩を含浸させたものであり、固体電解質として利用できる形態である。なお、上記溶融塩中には、濃度既知の酸化物イオンが含まれている。電位差測定部24は上述の電位差測定手段として機能するものであり、例えば電圧計を用いることができる。酸素濃度算出部25は上述の算出手段として機能するものであり、例えばPCにより構成できる。なお、測定対象の雰囲気として、濃度未知の酸素を含む混合ガスを用いる。
【0064】
第1電極21と第2電極22とは、電解質相23を挟むように構成されており、それぞれ一方の面で電解質相23と接触している。電位差測定部24は、第1電極21と第2電極22との間に連結されている。酸素濃度算出部25は、電位差測定部24の測定結果を利用できるように構成されている。なお、電解質相23中の酸化物イオン濃度は既知であり、酸素濃度算出部25はこの酸化物イオン濃度の情報を利用可能に構成されている。
【0065】
また、図3に示すように、測定対象の雰囲気は、第1電極21における、電解質相23と接触しない側の表面から酸素センサ20と接触するように導入される。そして、測定対象の雰囲気は、第1電極21を透過して電解質相23と接触する。つまり、本酸素センサ20では、測定対象の雰囲気は、第1電極21および電解質相23と接触するように構成されているといえる。
【0066】
また、第2電極22における、電解質相23と接触しない側の表面は、例えば大気開放されている(なお、大気中の酸素濃度は0.2atm)。
【0067】
本酸素センサ20によれば、上述したように、第1電極21において上記平衡反応(1)が成立する。また、電位差測定部24が、第1電極21におけるO/O2-電極の平衡電位を測定する。そして、酸素濃度算出部25が、電位差測定部24によって測定したO/O2-電極の平衡電位と、電解質相23中の酸化物イオン濃度とに基づき、ネルンストの式(上記数式(2),(3))を用いて、測定対象の雰囲気の酸素濃度を算出することができる。このように本酸素センサ20によれば、簡便かつ正確に測定対象の雰囲気の酸素濃度を検出することができる。
【0068】
また、本酸素センサ20では、電解質相23が支持体に含浸されており、固体電解質として用いることができる。このため、取扱いが容易であり、極めて利便性の高いという利点がある。
【0069】
<2-3:実施形態3>
また、上記実施形態2において、第2電極を第1電極と同じ材料、つまりsp3炭素系材料を用いて構成してもよい。この場合でも、第1電極において上記平衡反応(1)が成立する。このため、電位差測定部によって測定したO/O2-電極の平衡電位と、電解質相中の酸化物イオン濃度とに基づき、測定対象の雰囲気の酸素濃度を簡便かつ正確に算出することができる。また、電解質相が支持体に含浸されており、固体電解質として用いることができるため、取扱いが容易であり、極めて利便性の高い酸素センサを提供することができる。
【0070】
<3.酸素濃度検出方法>
本発明に係る酸素濃度検出方法は、測定対象の雰囲気の酸素濃度を検出するための酸素濃度検出方法であって、電位差測定工程と、酸素濃度を算出する算出工程と、を有する方法であればよく、その他の具体的な構成については、特に限定されるものではない。
【0071】
具体的には、電位差測定工程は、酸化物イオンを含む溶融塩を有する電解質相に接触した、sp3結合を有する炭素系材料を含む第1電極と参照電極として機能する第2電極との間の電位差を測定する工程である。
【0072】
また、酸素濃度を算出する算出工程は、上記電解質相中の酸化物イオン濃度が既知である場合において、上記電位差測定工程によって得られる測定結果および上記電解質相中の酸化物イオン濃度に基づき、上記測定対象の雰囲気の酸素濃度を算出する工程である。なお、測定対象の雰囲気は、第1電極と電解質相とに接触するように方法を実施することが好ましい。
【0073】
本酸素濃度検出方法は、上記<2>欄で説明した酸素センサと同様の基本原理を用いている。具体的には、電位差測定工程において、sp3炭素系材料からなる第1電極における“O/O2-電極の平衡電位”を測定する。そして、算出工程において、上記測定結果と溶融塩中の酸化物イオン濃度とを用いて、ネルンストの式(上記数式(2),(3))から測定対象の雰囲気の酸素濃度(酸素分圧)を算出する方法である。
【0074】
つまり、本酸素濃度検出方法は、上記<2>欄で説明した酸素センサを方法として表現したものともいえ、基本原理や使用する材料、機器、条件等については、酸素センサと同様のものを好適に用いることができる。このように、本酸素濃度検出方法の詳細については、上記酸素センサの説明を適宜参酌することができるため、ここではその説明を省略する。
【0075】
<4.酸化物イオンセンサ>
上記<1>欄において説明したように、本発明の基本原理は、ネルンストの式(上記数式(2),(3))を用いて、“測定対象の雰囲気の酸素濃度(酸素分圧)”、“電解質相(溶融塩)中の酸化物イオン濃度”、“sp3炭素系材料からなる第1電極におけるO/O2-電極の平衡電位”の3つの値のうち、既知の2つの値から、残りの1つの値を算出するというものである。このため、“測定対象の雰囲気の酸素濃度(酸素分圧)”、“sp3炭素系材料からなる第1電極におけるO/O2-電極の平衡電位”が既知であれば、“電解質相(溶融塩)中の酸化物イオン濃度”を検出することも可能となる。
【0076】
すなわち、本発明には、電解質相(溶融塩)中に含まれる酸化物イオンの濃度を検出する酸化物イオンセンサも含まれる。本酸化物イオンセンサの構成は、sp3結合を有する炭素系材料を含む第1電極と、参照電極として機能する第2電極と、上記第1,第2電極と接触し、酸化物イオンを含む溶融塩を有する電解質相と、上記第1,第2電極間における電位差を測定する電位差測定手段と、を備え、さらに、上記第1電極および電解質相に対して酸素濃度が既知の基準雰囲気を接触させる場合において、上記電位差測定手段によって得られる測定結果および当該基準雰囲気中の酸素濃度に基づき、上記溶融塩中の酸化物イオン濃度を算出する算出手段と、を備えるものであればよく、その他の具体的な構成については特に限定されるものではない。
【0077】
ここで「基準雰囲気」とは、第1電極と電解質相とに接触するものであって、酸素濃度(酸素分圧)が既知のものであればよく、その他の具体的な構成は特に限定されるものではないが、好ましくは、酸素分圧既知の気体(ガス)を用いることができる。
【0078】
本酸化物イオンセンサは、上記<2>欄で説明した酸素センサと略同様の構成であり、“測定対象の雰囲気の酸素濃度(酸素分圧)”が既知の場合に、“電解質相(溶融塩)中の酸化物イオン濃度”を検出する点のみが異なるものといえる。このため、本酸化物イオンセンサに関しては、基本原理や使用する材料、機器、条件等については、酸素センサと同様のものを好適に用いることができる。
【0079】
具体的には、上記<2-1>~<2-3>欄で説明した酸素センサの3つの実施形態において、第1電極、第2電極、電位差測定部の構成は共通している。そして、電解質相については、溶融塩中の酸化物イオン濃度が不明である点を除き、その余は共通である。また、酸素センサでは測定対象の雰囲気の酸素濃度が不明であったが、本酸化物イオンセンサでは、第1電極と電解質相とに接触させる基準雰囲気(例えば、基準ガス)中の酸素濃度(酸素分圧)は既知である。加えて、酸素センサにおける酸素濃度算出部が、酸化物イオン濃度算出部となっている。本酸化物イオン濃度算出部は、電位差測定部の測定結果と基準雰囲気中の酸素濃度とに基づき、ネルンストの式(上記数式(2),(3))を用いて酸化物イオン濃度を算出するものである。このように、本酸化物イオンセンサの詳細については、上述した相違点以外の点に関して酸素センサの説明を適宜参酌することができるため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0080】
なお、ここまで酸化物イオンセンサについて説明してきたが、酸化物イオンセンサを方法として表現する“酸化物イオン濃度検出方法”についても、同様に実現できる。このため、かかる酸化物イオン検出方法も本発明に含まれる。かかる方法としては、例えば、酸化物イオンを含む溶融塩を有する電解質相に接触した、sp3結合を有する炭素系材料を含む第1電極と参照電極として機能する第2電極との間の電位差を測定する電位差測定工程と、上記第1電極および電解質相に対して酸素濃度が既知の基準雰囲気を接触させる場合において、上記電位差測定工程によって得られる測定結果および当該基準雰囲気中の酸素濃度に基づき、上記溶融塩中の酸化物イオン濃度を算出する算出工程と、を有する、溶融塩中の酸化物イオン濃度を検出する方法を挙げることができる。なお、本方法においても、上記酸素センサおよび酸化物イオンセンサの説明を適宜参酌することができるため、ここでは詳細な説明を省略する。
<5.酸化物イオン濃度検出方法>
本発明に係る酸化物イオン濃度検出方法は、溶融塩中の酸化物イオン濃度を検出するための酸化物イオン濃度検出方法であって、電位差測定工程と、酸化物イオン濃度を算出する算出工程と、を有する方法であればよく、その他の具体的な構成については、特に限定されるものではない。
【0081】
具体的には、電位差測定工程は、酸素濃度が既知の基準雰囲気が溶融塩を有する電解質相に接触した、sp3結合を有する炭素系材料を含む第1電極と参照電極として機能する第2電極との間の電位差を測定する工程である。
【0082】
また、酸化物イオン濃度を算出する算出工程は、上記基準雰囲気中の酸素濃度が既知である場合において、上記電位差測定工程によって得られる測定結果および上記基準雰囲気中の酸素濃度に基づき、溶融塩中の酸化物イオン濃度を算出する工程である。
【0083】
本酸化物イオン濃度検出方法は、上記<4>欄で説明した酸化物イオンセンサと同様の基本原理を用いている。具体的には、電位差測定工程において、sp3炭素系材料からなる第1電極における“O/O2-電極の平衡電位”を測定する。そして、算出工程において、上記測定結果と基準雰囲気中の酸素濃度とを用いて、ネルンストの式(上記数式(2),(3))から測定対象の雰囲気の酸化物イオン濃度を算出する方法である。
【0084】
つまり、本酸化物イオン濃度検出方法は、上記<4>欄で説明した酸化物イオンセンサを方法として表現したものともいえ、基本原理や使用する材料、機器、条件等については、酸化物イオンセンサと同様のものを好適に用いることができる。このように、本酸化物イオン濃度検出方法の詳細については、上記酸化物イオンセンサの説明を適宜参酌することができるため、ここではその説明を省略する。
【0085】
最後に、上記酸素センサおよび酸化物イオンセンサの各ブロック、特に酸素濃度算出部および酸化物イオン濃度算出部は、ハードウェアロジックによって構成してもよいし、次のようにCPUを用いてソフトウェアによって実現してもよい。
【0086】
すなわち、酸素濃度算出部または酸化物イオン濃度算出部は、各機能を実現する制御プログラムの命令を実行するCPU(central processing unit)、上記プログラムを格納したROM(read only memory)、上記プログラムを展開するRAM(random access memory)、上記プログラムおよび各種データを格納するメモリ等の記憶装置(記録媒体)などを備えている。そして、本発明の目的は、上述した機能を実現するソフトウェアである酸素濃度算出部または酸化物イオン濃度算出部の制御プログラムのプログラムコード(実行形式プログラム、中間コードプログラム、ソースプログラム)をコンピュータで読み取り可能に記録した記録媒体を、上記酸素濃度算出部または酸化物イオン濃度算出部に供給し、そのコンピュータ(またはCPUやMPU)が記録媒体に記録されているプログラムコードを読み出し実行することによっても、達成可能である。
【0087】
上記記録媒体としては、例えば、磁気テープやカセットテープ等のテープ系、フロッピー(登録商標)ディスク/ハードディスク等の磁気ディスクやCD-ROM/MO/MD/DVD/CD-R等の光ディスクを含むディスク系、ICカード(メモリカードを含む)/光カード等のカード系、あるいはマスクROM/EPROM/EEPROM/フラッシュROM等の半導体メモリ系などを用いることができる。
【0088】
また、酸素濃度算出部または酸化物イオン濃度算出部を通信ネットワークと接続可能に構成し、上記プログラムコードを通信ネットワークを介して供給してもよい。この通信ネットワークとしては、特に限定されず、例えば、インターネット、イントラネット、エキストラネット、LAN、ISDN、VAN、CATV通信網、仮想専用網(virtual private network)、電話回線網、移動体通信網、衛星通信網等が利用可能である。また、通信ネットワークを構成する伝送媒体としては、特に限定されず、例えば、IEEE1394、USB、電力線搬送、ケーブルTV回線、電話線、ADSL回線等の有線でも、IrDAやリモコンのような赤外線、Bluetooth(登録商標)、802.11無線、HDR、携帯電話網、衛星回線、地上波デジタル網等の無線でも利用可能である。なお、本発明は、上記プログラムコードが電子的な伝送で具現化された、搬送波に埋め込まれたコンピュータデータ信号の形態でも実現され得る。
【0089】
以下実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることはいうまでもない。さらに、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、それぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0090】
<実験条件および実験装置>
溶融塩として、共晶組成に混合したLiCl-KCl(58.5mol%:41.5mol%)を数日間473Kで真空乾燥させた後、723Kのアルゴン雰囲気中で溶融させたものを用いた。
【0091】
電気化学測定は、2電極方式で行い、参照極には(α+β)共存相のAl-Li電極を使用した。
【0092】
図4に、本実施例において使用した実験装置の概略図を示す。当該実験装置は、アルゴン雰囲気下の密閉系であり、反応容器内に上記溶融塩(図中「D」で示す)が入っている。本溶融塩中には、濃度0.5mol%の酸化物(LiO)が添加されている。当該溶融塩には、陽極(アノード)であるダイヤモンド電極(不純物としてホウ素をドープしたBoron Doped Diamond;BDD)(入手先:Condias社(商品名:DIACHEM electrode、図中「A」で示す)と、上記参照電極(入手先:ニラコ製、図中「B」で示す)と、クロメル・アルメル熱電対(入手先:ニラコ社製、図中「C」で示す)とが挿入されている。アルゴン・酸素混合(O,Ar)ガスは「Gas inlet」から実験装置内へ導入され、電極A、溶融塩相D等と接触し、その後「Gas outlet」から実験装置外へと出る。実験装置外へ出たアルゴンガスを含む気体は、回収され、ガスクロマトグラフィー等で組成分析が行われる。なお、付属のヒーター(図中「E」で示す)によって溶融塩は723Kに保たれている。
【0093】
<溶融LiCl-KCl中の電極Aの平衡電位測定>
上記実験装置を用いて電極Aの平衡電位測定を行うべく、まず、電極Aについての浸漬電位の酸素ガス分圧の依存性を検討した。具体的には、723Kにおいて、「Gas inlet」から真空状態の実験装置内に酸素(O)ガスを導入し、酸素圧をデジタルマノメータでモニターしながら、0atmから1.0atmまで増加させた場合、または1.0atmから0.1atmまで減少させた場合において、電極Aにおける電位を測定した(つまり、それぞれ電極Aと電極Bとの間の電位差を測定した)。
【0094】
その結果を図5(a),(b)に示す。図5(a)には混合ガスの酸素分圧を0~1.0atmまで増加させた場合の電極Aにおける電位の変化を示す図であり、図5(b)は混合ガスの酸素分圧を1.0~0.1atmまで減少させた場合の電極Aにおける電位の変化を示す図である。
【0095】
同図に示すように、電極Aの電位は酸素分圧に依存して変化し、速やかに一定の電位を示すことから、測定された浸漬電位は、下記の反応の平衡電位であることが予測された(下記数式(2))。また、電極A,溶融塩相の表面,混合ガスの三相界面が形成されていることが示唆された。
【0096】
【化2】
JP0004742261B2_000005t.gif

【0097】
【数3】
JP0004742261B2_000006t.gif

【0098】
そこで、図6に電極Aの浸漬電位と酸素ガス分圧の対数をプロットしたところ、良い直線関係が得られた。この関係は、ネルンストの関係と呼ばれ、この場合は、723Kにおける2電子反応すなわち、O/O2-電極の723Kにおける平衡電位に対応していることが示された。
【0099】
ここから2電子反応のネルンストの式(T=723K)の標準式量酸化還元電位を求めることができた。この値を下記に示す。
【0100】
【数4】
JP0004742261B2_000007t.gif

【0101】
次に、浸漬電位の温度依存性を検討した。実験条件は、電解浴としてLiCl-KCl-LiO(0.5mol%)であり、浴温を723K~783Kに昇温させた。また、酸素分圧は1atmとした。具体的には、723Kにおいて、酸素圧を1.0atmの状態に保ち、温度を調節しながら、浴温を723K~783Kに昇温させた場合において、電極Aにおける電位を測定した。
【0102】
その結果を図7に示す。同図に示すように、電極Aにおける平衡電位は温度と直線関係を示し、温度依存性を示すことがわかった。また、この直線関係から、下記に示す値を算出できた(下記数式(4))。
【0103】
【数5】
JP0004742261B2_000008t.gif

【0104】
上記数式(4)を用いることで、各温度条件における標準式量酸化還元電位を算出することができる。さらに、算出された各温度における標準式量酸化還元電位とネルンストの式から、溶融塩中の酸化物イオン濃度が既知の場合その温度における酸素濃度の関係を算出することができる。
【0105】
以上の結果をまとめると、(i) BDDを用いた電極Aにおいて上記平衡反応(1)が成立すること、(ii) 2電子反応のネルンストの式について標準式量酸化還元電位を決定できたこと、(iii)溶融塩中の酸化物イオン濃度が既知の場合、測定した電極Aにおける平衡電位および当該酸化物イオン濃度並びに上記(ii)の標準式量酸化還元電位を、ネルンストの式に代入することにより、混合ガス中の酸素分圧(PO2)を決定できること、がわかった。
【産業上の利用可能性】
【0106】
以上のように、本発明によれば、簡便かつ正確に酸素濃度または溶融塩中の酸化物イオン濃度を検出することができる。このため、酸素濃度や酸化物イオン濃度を検出することが必要となる様々な産業、例えば、バイオテクノロジー・半導体製造・医療・食品・環境技術などにおいて利用可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】本発明の基本原理を説明するための模式的な図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る酸素センサの構成を模式的に示す図である。
【図3】本発明の他の一実施形態に係る酸素センサの構成を模式的に示す図である。
【図4】本実施例において使用した実験装置の概略図である。
【図5】本実施例において平衡電位の酸素分圧を調べた結果を示す図であり、(a)は混合ガスの酸素分圧を0~1.0atmまで増加させた場合の電極Aにおける電位の変化を示す図であり、(b)は混合ガスの酸素分圧を1.0~0.1atmまで減少させた場合の電極Aにおける電位の変化を示す図である。
【図6】本実施例において、T=723KのO/O2-電極の平衡電位のネルンストプロットを行った結果を示す図である。
【図7】本実施例において、浸漬電位の温度依存性を検討した結果を示す図である。
【図8】従来のガルバニ式酸素センサおよびポーラロ式酸素センサについて模式的に示す図である。
【図9】従来のジルコニア式酸素センサについて模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0108】
10,20 酸素センサ
11,21 第1電極
12,22 第2電極
13,23 電解質相
14,24 電位差測定部(電位差測定手段)
15,25 酸素濃度算出部(算出手段)


図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8