TOP > 国内特許検索 > フェノールフタレイン誘導体および生体内ポリアミン検出用検査薬 > 明細書

明細書 :フェノールフタレイン誘導体および生体内ポリアミン検出用検査薬

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5044779号 (P5044779)
公開番号 特開2008-105993 (P2008-105993A)
登録日 平成24年7月27日(2012.7.27)
発行日 平成24年10月10日(2012.10.10)
公開日 平成20年5月8日(2008.5.8)
発明の名称または考案の名称 フェノールフタレイン誘導体および生体内ポリアミン検出用検査薬
国際特許分類 C07D 407/14        (2006.01)
G01N  21/78        (2006.01)
G01N  31/00        (2006.01)
G01N  31/22        (2006.01)
G01N  33/483       (2006.01)
G01N  33/52        (2006.01)
FI C07D 407/14 CSP
G01N 21/78 C
G01N 21/78 Z
G01N 31/00 V
G01N 31/22 122
G01N 33/483 C
G01N 33/52 C
請求項の数または発明の数 8
全頁数 20
出願番号 特願2006-289703 (P2006-289703)
出願日 平成18年10月25日(2006.10.25)
審査請求日 平成21年9月17日(2009.9.17)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
発明者または考案者 【氏名】椿 一典
【氏名】谷間 大輔
【氏名】川端 猛夫
個別代理人の代理人 【識別番号】100067828、【弁理士】、【氏名又は名称】小谷 悦司
【識別番号】100111453、【弁理士】、【氏名又は名称】櫻井 智
審査官 【審査官】深谷 良範
参考文献・文献 TSUBAKI,K. et al,Visual Recognition of Triamines by Phenolphthalein Derivatives: Consideration of the Structure of the Colored Complex,Organic Letters,2001年,Vol.3, No.25,p.4067-4069
FUJI,K. et al,Visualization of molecular length of α,ω-diamines and temperature by a receptor based on phenolphthalein and crown ether,Journal of the American Chemical Society,1999年,Vol.121, No.15,p.3807-3808
TSUBAKI,K. et al,Visual Enantiomeric Recognition of Amino Acid Derivatives in Protic Solvents,Journal of Organic Chemistry,2005年,Vol.70, No.12,p.4609-4616
TSUBAKI,K. et al,Visual Enantiomeric Recognition Using Chiral Phenolphthalein Derivatives,Organic Letters,2001年,Vol.3, No.25,p.4071-4073
TSUBAKI,K. et al,Sequence-selective visual recognition of nonprotected dipeptides,Organic Letters,2002年,Vol.4, No.14,p.2313-2316
調査した分野 C07D 407/
G01N 21/,31/,33/
REGISTRY/CAPLUS(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
下記一般式で示されるフェノールフタレイン誘導体。
【化1】
JP0005044779B2_000004t.gif
[式中、R1は、H、ハロゲン原子(F、Cl、BrまたはI)で置換された炭素数1~4の直鎖または分岐のアルキル基、ハロゲン原子(F、Cl、BrまたはI)、ニトロ基(NO2)、カルボン酸基(CO2H)またはその誘導体(CO2R、CONH2、CONHRまたはCONR2で表され、Rは炭素数1~4の直鎖または分岐のアルキル基)、スルホン酸基(SO3H)またはその誘導体(SO3R、SO2NH2、SO2NHRまたはSO2NR2で表され、Rは炭素数1~4の直鎖または分岐のアルキル基)、および四級アンモニウムカチオン(N+R3で表され、Rは炭素数1~4の直鎖または分岐のアルキル基)からなる群から選ばれる何れか1種であり、
R2は、R1、アミノ基(NH2、NHRまたはNR2で表され、Rは炭素数1~4の直鎖または分岐のアルキル基)、エーテル基(ORで表され、Rは炭素数1~4の直鎖または分岐のアルキル基)、チオエーテル基(SRで表され、Rは炭素数1~4の直鎖または分岐のアルキル基)、OH基、SH基、および芳香族性置換基(ベンゼン環、ヘテロ芳香族5員環またはヘテロ芳香族6員環)からなる群から選ばれる何れか1種である。ただし、R1およびR2が同時にHである場合を除く。]
【請求項2】
前記R1はHであり、R2はアミノ基(NR2で表され、Rは炭素数1~4の直鎖アルキル基)である請求項1に記載のフェノールフタレイン誘導体。
【請求項3】
前記R2はジメチルアミノ基である請求項2に記載のフェノールフタレイン誘導体。
【請求項4】
前記R1はフッ素化アルキル基(アルキル基は炭素数1~4の直鎖アルキル基)であり、R2はHまたはジメチルアミノ基である請求項1に記載のフェノールフタレイン誘導体。
【請求項5】
前記R1はトリフルオロメチル基であり、R2はHである請求項4に記載のフェノールフタレイン誘導体。
【請求項6】
請求項1~5の何れかに記載のフェノールフタレイン誘導体を含有する、生体内ポリアミンを検出するための検査薬。
【請求項7】
前記生体内ポリアミンがスペルミンおよびスペルミジンの少なくとも1種である請求項6に記載の検査薬。
【請求項8】
前記スペルミンおよびスペルミジンの少なくとも1種を呈色または蛍光によって検出する請求項7に記載の検査薬。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明はフェノールフタレイン誘導体およびそれを含有する生体内ポリアミン検出用検査薬に関する。より詳しくは、クラウンエーテル構造を併せ持つフェノールフタレイン誘導体およびそれを含有する生体内のスペルミンおよびスペルミジンを検出するための検査薬に関する。
【背景技術】
【0002】
生体内ポリアミンは、細胞の分化や増殖にかかわっている事が知られている。特に、生体内ポリアミンの一種であるスペルミンおよびスペルミジンは細胞の分化・増殖に深くかかわっている。癌細胞においてはスペルミン・スペルミジン濃度が上昇しており、進行癌に至っては尿中スペルミン・スペルミジン濃度も上昇していることが知られている。それゆえ、尿中スペルミン・スペルミジン濃度は腫瘍マーカーの一つとして利用されている。
【0003】
また、癌の外科手術に至るケースにおいては切除不完全による再発の可能性が残される。このリスクを最小限にするため、“癌手術の際の術中迅速検査”(癌の外科手術において、切除された組織の一番外側(断端)に癌細胞が残っているか否かを迅速(10分程度)に検査し、その結果を外科医にフィードバックするシステム)が実施され、術中にフローサイトメーターやセルソーターなどの装置を駆使し、病理医、細胞検査士が癌細胞かどうかの判断を下す。しかしながら十人の病理医が十人とも癌細胞と判断する細胞も有れば、判断が分かれる紛らわしい細胞もあるのが現状であり、また複数の病理医をもつ施設も限られている。それゆえ、より感度の高い簡便な染色方法または検査薬の開発は、外科手術の成否を決定する重要な要因となり得る。蛍光色素導入モノクローナル抗体や、様々な染色法がこの迅速検査に用いられているが、スペルミン・スペルミジンを標的にした迅速検査法はまだ無い。
【0004】
このような状況において、スペルミン・スペルミジンを標的とする迅速で高感度な検査薬を開発できれば、腫瘍マーカーとしての尿中スペルミン・スペルミジン濃度の簡便な定量法として期待できるほか、癌手術の際の迅速検査にも応用されれば、切除不完全による再発可能性を著しく低減できるものと期待される。
【0005】
スペルミン・スペルミジンの測定方法としては、スペルミン及びスペルミジンに対して基質特異性を有するポリアミン酸化酵素、又はスペルミンのみに対して基質特異性を有するポリアミン酸化酵素を用い、血液より分離精製した赤血球の溶出液に対してこれらの酵素を作用させ、生じた過酸化水素をジフェニルアミン系の発色試薬で定量する赤血球中ポリアミンの測定方法が提案されている(特許文献1)。しかし、これはスペルミン及びスペルミジンを直接測定する方法ではなく、過酸化水素を発生させてこれを測定するという1ステップ介在させた測定手法でしかない。
【0006】
一方、有機化学の分野において、水素結合やπ‐π相互作用などの共有結合以外の弱い分子間力を巧みに利用して、ゲスト分子を認識する新たな機能をホスト分子に付与する超分子化学・分子認識化学は、近年特に注目されている分野の一つである。この分野における手法の一つとして、ホスト分子内にクラウンエーテル環を導入して、その環構造に適合するゲスト分子を認識させるようにホスト分子の設計が行われている。
【0007】
他方、フェノールフタレインはpH指示薬として知られ、広く利用されている。本発明者等はこのフェノールフタレインに着目し、フェノールフタレインを基本骨格としてクラウンエーテル環構造を併せ持つ化合物をホスト化合物として用いることによって、特定のゲスト化合物の持つ様々な情報を読み取り、色調の変化として呈色化・可視化することを検討してきた。
【0008】
例えば、フェノールフタレインの2つのフェノール基のそれぞれにクラウンエーテル環を導入した構造を有するホスト化合物は、その2つのクラウンエーテル環によって、分子の両末端に離れて2つのアミノ基を持つゲスト化合物をその分子鎖の長さによって認識するとともに、そのフェノールフタレイン構造によってこのゲスト化合物を呈色識別することができることを報告している(非特許文献1)。
【0009】
さらに、本発明者等は、同じ構造を有するホスト化合物が、スペルミジンを含む特定のトリアミンをゲスト化合物として認識し、これらを呈色識別することができることを見出している(非特許文献2)。

【特許文献1】特開2005-348630号公報
【非特許文献1】J.Am.Chem.Soc.1999年、121、3807-3808頁
【非特許文献2】Org.Lett.2001年、3、4067-4069頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記のような単なるフェノールフタレイン構造そのものにクラウンエーテル環構造を併せ持つ化合物では、スペルミン及びスペルミジンを直接認識して呈色識別はすることはできるが、スペルミン及びスペルミジンのみを特異的に認識するには十分なものとはいえず、またその感度は、これらを標的とする臨床的な検査薬として利用するには極めて低いものであった。さらに、臨床検査薬とするには水溶性であることが望ましいが、上記化合物は水溶性にも乏しいことから、実用化・応用化することは困難であった。また、スペルミン及びスペルミジンを高感度に検出するためには蛍光応答性を有することが望ましいが、上記化合物は蛍光発光を示さないため、蛍光応答を利用してスペルミン及びスペルミジンを高感度に検出することも不可能であった。
【0011】
本発明は上記課題を鑑みてなされたものであり、スペルミン及びスペルミジンを高感度にかつ特異的に認識するとともに、水溶性にも優れ、呈色応答性のみならず蛍光応答性を有するフェノールフタレイン誘導体及びこれを含有する検査薬を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決した本発明のフェノールフタレイン誘導体は、下記一般式で示される。
【0013】
【化1】
JP0005044779B2_000002t.gif

【0014】
[式中、R1は、H、ハロゲン原子(F、Cl、BrまたはI)で置換された炭素数1~4の直鎖または分岐のアルキル基、ハロゲン原子(F、Cl、BrまたはI)、ニトロ基(NO2)、カルボン酸基(CO2H)またはその誘導体(CO2R、CONH2、CONHRまたはCONR2で表され、Rは炭素数1~4の直鎖または分岐のアルキル基)、スルホン酸基(SO3H)またはその誘導体(SO3R、SO2NH2、SO2NHRまたはSO2NR2で表され、Rは炭素数1~4の直鎖または分岐のアルキル基)、および四級アンモニウムカチオン(N+R3で表され、Rは炭素数1~4の直鎖または分岐のアルキル基)からなる群から選ばれる何れか1種であり、R2は、R1、アミノ基(NH2、NHRまたはNR2で表され、Rは炭素数1~4の直鎖または分岐のアルキル基)、エーテル基(ORで表され、Rは炭素数1~4の直鎖または分岐のアルキル基)、チオエーテル基(SRで表され、Rは炭素数1~4の直鎖または分岐のアルキル基)、OH基、SH基、および芳香族性置換基(ベンゼン環、ヘテロ芳香族5員環またはヘテロ芳香族6員環)からなる群から選ばれる何れか1種である。ただし、R1およびR2が同時にHである場合を除く。]
【0015】
本発明のフェノールフタレイン誘導体がスペルミン及びスペルミジンを認識して呈色を示すとき、すなわちこれらのターゲット分子の両端のアミノ基がクラウンエーテル内のフェノールと酸塩基反応を起こしてフェノールフタレイン誘導体のラクトンが開裂して橋架け型の呈色錯体が形成されるとき、本発明のフェノールフタレイン誘導体のラクトンカルボニル基のパラ位に位置する電子吸引性置換基R1は、その電子吸引性に基づいて、生じるカルボキシレートアニオンを安定化し、これによって呈色感度を高めることができる。
【0016】
また、ラクトンカルボニル基のメタ位に位置する置換基R2は、電子供与基である場合には、イソベンゾフラノン環が励起されて置換基R2からラクトンカルボニル基への1電子移動が起こることにより分子内電荷分離状態が形成され、これによって蛍光発光を示すことができる。
【0017】
上記の置換基R1がHであるとき、R2はアミノ基(NR2で表され、Rは炭素数1~4の直鎖アルキル基)であることが好ましい。アミノ基はラクトンカルボニル基への電子移動を促進し、これにより強い蛍光発光を示すことができる。さらに、本発明のフェノールフタレイン誘導体がスペルミン及びスペルミジンと橋架け型の呈色錯体を形成してカルボキシレートを生じるとき、カルボキシレートはスペルミン及びスペルミジン分子の中央部のアミノ基によって安定化されやすくなり、これによってスペルミン及びスペルミジンを特異的に認識するとともに、呈色を高感度にすることができる。
【0018】
そして、上記置換基R2がジメチルアミノ基である場合には、蛍光応答性を有し、スペルミン及びスペルミジンを高感度にかつ特異的に呈色認識するとともに、水溶性にも優れたフェノールフタレイン誘導体が得られる。
【0019】
また、上記置換基R2がHまたはジメチルアミノ基であるとき、R1はフッ素化アルキル基(アルキル基は炭素数1~4の直鎖アルキル基)であることが好ましい。本発明のフェノールフタレイン誘導体がスペルミン及びスペルミジンと橋架け型の呈色錯体を形成してカルボキシレートアニオンを生じるとき、そのアニオンはフッ素化アルキル基の強い電子吸引性によって安定化され、もって呈色感度を向上させることができる。特に、置換基R2がジメチルアミノ基である場合には、水溶性に優れ、スペルミン及びスペルミジンをより高感度にかつ特異的に呈色認識するフェノールフタレイン誘導体を得ることができる。
【0020】
そして、上記置換基R1がトリフルオロメチル基であってR2がHである場合には、蛍光応答性を有し、かつスペルミン及びスペルミジンに対して高感度に呈色応答できるフェノールフタレイン誘導体を得ることができる。
【0021】
上記のフェノールフタレイン誘導体を含有する検査薬は、細胞増殖に深くかかわる生体内ポリアミンを検出するために用いることができる。上記フェノールフタレイン誘導体の2つのクラウンエーテル環によって特定の鎖長を有する生体内ポリアミンを選択的に認識し、上記置換基R1およびR2によってポリアミンに対する高感度の呈色応答性および蛍光応答性を検査薬に付与することができる。
【0022】
さらに、上記フェノールフタレイン誘導体を含有する検査薬は、特に、腫瘍マーカーの一つであるスペルミンおよびスペルミジンの少なくとも1種を検出するために用いることができる。上記フェノールフタレイン誘導体はスペルミン及びスペルミジンに特有の化学構造を特異的に認識することができる。
【0023】
そして、上記フェノールフタレイン誘導体を含有する検査薬は、スペルミンおよびスペルミジンの少なくとも1種を呈色または蛍光によって検出することができる。上記フェノールフタレイン誘導体の置換基R1およびR2によって、スペルミン及びスペルミジンに対する高感度の呈色応答性および蛍光応答性が付与された検査薬を得ることができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明のフェノールフタレイン誘導体は、スペルミン及びスペルミジンのみを特異的に認識し、呈色応答性のみならず蛍光応答性を有するため、これらのターゲットを高感度に識別することができる。これを用いることにより、スペルミン及びスペルミジンのみを高感度に検出できる検査薬が得られ、もって腫瘍を簡便かつ迅速に診断し得る検査薬が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明のフェノールフタレイン誘導体は上記一般式で示され、置換基R1は、H、ハロゲン原子(F、Cl、BrまたはI)で置換された炭素数1~4の直鎖または分岐のアルキル基、ハロゲン原子(F、Cl、BrまたはI)、ニトロ基(NO2)、カルボン酸基(CO2H)またはその誘導体(CO2R、CONH2、CONHRまたはCONR2で表され、Rは炭素数1~4の直鎖または分岐のアルキル基)、スルホン酸基(SO3H)またはその誘導体(SO3R、SO2NH2、SO2NHRまたはSO2NR2で表され、Rは炭素数1~4の直鎖または分岐のアルキル基)、および四級アンモニウムカチオン(N+R3で表され、Rは炭素数1~4の直鎖または分岐のアルキル基)からなる群から選ばれる何れか1種の置換基である。
【0026】
本発明者等の検討によれば、本発明のフェノールフタレイン誘導体が特定のポリアミンを特異的に認識して呈色を示すのは、これらのターゲット分子の両端のアミノ基がクラウンエーテル内のフェノールと酸塩基反応を起こしてフェノールフタレイン誘導体のラクトンが開裂して橋架け型の呈色錯体を形成することに由来する。ポリアミンが分子鎖の中央部にアミノ基を有するスペルミン及びスペルミジンであるとき、このアミノ基はラクトンが開裂して生じるカルボキシレートと相互作用できるほど近い位置に接近することができる。それゆえ、本発明のフェノールフタレイン誘導体においては、ラクトンカルボニル基のパラ位に置換基R1として電子吸引基を配置することにより、その電子吸引性によってカルボキシレートアニオンを安定化することができ、これによって呈色感度を高めることができる。
【0027】
置換基R1において、上記のハロゲン化アルキル基、ハロゲン原子、ニトロ基、カルボン酸基またはその誘導体、スルホン酸基またはその誘導体および四級アンモニウムカチオンからなる群から選ばれる何れか1種の置換基は、いずれも電子吸引性置換基である。これらの電子吸引性置換基は、その電子吸引性によってカルボキシレートアニオンを安定化する。
【0028】
ハロゲン化アルキル基、カルボン酸誘導体基、スルホン酸誘導体基及び四級アンモニウムカチオンを構成する各アルキル基は、炭素数1~4の直鎖または分岐のアルキル基である。そのようなアルキル基の中で、立体的にかさばらない炭素数1~4の直鎖アルキル基が好ましい。炭素数1~4の直鎖アルキル基としては、エチル基が好ましく、メチル基がさらに好ましい。ハロゲン化アルキル基及びハロゲン原子におけるハロゲンとしては、フッ素が好ましい。
【0029】
特に、置換基R1がトリフルオロメチル基である場合には、蛍光応答性を有し、かつスペルミン及びスペルミジンに対して高感度に呈色応答できるフェノールフタレイン誘導体が得られる。
【0030】
本発明の上記一般式で示されるフェノールフタレイン誘導体において、置換基R2は、H、上記電子吸引性置換基R1、アミノ基(NH2、NHRまたはNR2で表され、Rは炭素数1~4の直鎖または分岐のアルキル基)、エーテル基(ORで表され、Rは炭素数1~4の直鎖または分岐のアルキル基)、チオエーテル基(SRで表され、Rは炭素数1~4の直鎖または分岐のアルキル基)、OH基、SH基、および芳香族性置換基(ベンゼン環、ヘテロ芳香族5員環またはヘテロ芳香族6員環)からなる群から選ばれる何れか1種の置換基である。
【0031】
本発明者等の検討によれば、本発明のフェノールフタレイン誘導体においては、ラクトンカルボニル基のメタ位に置換基R2として電子供与基を配置することにより、イソベンゾフラノン環が励起されて電子供与基からラクトンカルボニル基への1電子移動が起こることにより分子内電荷分離状態が形成され、これによって蛍光発光を示すことができる。さらに、本発明のフェノールフタレイン誘導体がスペルミン及びスペルミジンと橋架け型の呈色錯体を形成してカルボキシレートを生じるとき、カルボキシレートは近接するスペルミン・スペルミジン分子の中央部のアミノ基によって安定化されやすくなり、これによって高感度の呈色が可能となる。
【0032】
また、本発明のフェノールフタレイン誘導体においては、ラクトンカルボニル基のメタ位に置換基R2として電子吸引基を配置することにより、上記呈色錯体が形成されるときに生じるカルボキシレートアニオンを安定化し、これによって高感度の呈色が可能となる。
【0033】
置換基R2において、上記のアミノ基、エーテル基、チオエーテル基、水酸基、チオール基および芳香族性置換基(ベンゼン環、ヘテロ芳香族5員環またはヘテロ芳香族6員環)からなる群から選ばれる何れか1種の置換基は、いずれも電子供与性置換基である。特に、これらの電子供与性置換基の中では、高感度の呈色応答性を示す観点からアミノ基が好ましい。アミノ基の中では、電子供与性の強さから二置換アミノ基が好ましい。
【0034】
アミノ基、エーテル基、チオエーテル基を構成する各アルキル基は、炭素数1~4の直鎖または分岐のアルキル基である。そのようなアルキル基の中では、立体的にかさばらない炭素数1~4の直鎖アルキル基が好ましく、エチル基が更に好ましく、メチル基が最も好ましい。
【0035】
特に、置換基R2がジメチルアミノ基である場合には、蛍光応答性を有し、スペルミン及びスペルミジンを高感度にかつ特異的に呈色認識するとともに、水溶性にも優れたフェノールフタレイン誘導体が得られる。
【0036】
本発明のフェノールフタレイン誘導体において、置換基R2は上記の電子吸引性置換基R1であってもよい。置換基R2が電子吸引性置換基R1である場合、電子吸引性置換基としては上記の電子吸引基R1と同じ置換基が適用される。これらの電子吸引性置換基は、その電子吸引性によって、カルボキシレートアニオンを安定化し、これによって高感度の呈色が可能となる。
【0037】
本発明のフェノールフタレイン誘導体は、例えば、図1および図2に示すようなスキームに従って製造することができる。この方法では、ベンゼン環の所定位置が置換基R1及び/又はR2で置換された無水フタル酸を出発物質として用いることにより、フェノールフタレイン骨格に置換基R1及び/又はR2を導入する。まず、フェノール性水酸基をマスクしたクラウンエーテル化合物をブチルリチウム等によりリチオ化し、これに、前記一置換または二置換無水フタル酸を反応させて、本発明のフェノールフタレイン誘導体の前駆化合物を合成する。次いで、前記前駆化合物からマスク基を取り去ると、本発明のフェノールフタレイン誘導体を得ることができる。
【0038】
本発明のフェノールフタレイン誘導体を含有する検査薬は、フェノールフタレイン誘導体の2つのクラウンエーテル環によって特定の鎖長を有する生体内ポリアミンを選択的に認識するため、このような生体内ポリアミンの検出に用いることができる。
【0039】
特に、本発明のフェノールフタレイン誘導体は、上記のように、スペルミン及びスペルミジンに特有の化学構造からこれらを特異的に認識し、かつスペルミンおよびスペルミジンに対し呈色応答性のみならず蛍光応答性を有する。このため、本発明のフェノールフタレイン誘導体を含有する検査薬は、これらのターゲットを極めて高感度に検出することができる。
【0040】
以上、本発明は詳細に説明されたが、上記した説明は全ての局面において例示であって、本発明がそれらに限定されるものではない。例示されていない無数の変形例が、この発明の範囲から外れることなく想定され得るものと解される。
【0041】
以下に、本発明に関する実施例が示されるが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0042】
無水テトラヒドロフラン(THF)は金属ナトリウムで乾燥し、ベンゾフェノンケチルを指示薬として蒸留したものを使用した。無水酢酸は水素化カルシウムから蒸留し、活性化モレキュラーシーブ4 Å(1/16、non-indicator type)を加えて保存したものを使用した。反応はすべてアルゴン雰囲気下で行い、必要に応じてゴムのセプタムを使用した。無水溶媒は、オーブン乾燥したシリンジでアルゴン雰囲気下で扱った。
【0043】
1H NMRは、JEOL JNM-AL300 spectrometerあるいはJEOL JNM-AL400 spectrometerで測定した。化学シフト値はテトラメチルシランを内部標準物質としてppmで、カップリングコンスタントはHzで表示した。赤外吸収スペクトルはJASCO FT-IR 300 spectrometerあるいはJASCO FT-IR 4200 spectrometerで測定した。質量分析(MS)及び高分解能質量分析(HRMS)はJOEL JMS-DX 300 mass spectrometerあるいはJMS 700 mass spectrometerで測定した。フラッシュカラムクロマトグラフィーには、Silica gel 60 spherical (150-230 mesh、ナカライ)あるいはUltra Pure Silica Gel(230-400 mesh、SILICYCLE)を使用した。中圧カラムクロマトグラフィーにはSilica gel 60 N(40-50 μm、関東化学)を使用した。分取用TLC(PTLC)にはSilica gel 60 F254(0.5 mm、Merck)を使用した。リサイクル分取用HPLCはLC-908(日本分析化学工業)を使用し、JAIGEL-1Hカラム(20 x 600 μm)及びJAIGEL-2Hカラム(20 x 600 mm)を連結して装着し、クロロホルム流速3.5 ml/minでUV(254 nm)及びRI(Refractive Index)にて検出した。
【0044】
紫外‐可視吸収スペクトルはJASCO V-550 UV/Vis Spectrophotometerで測定した。蛍光スペクトルはJASCO FP-750 Spectrofluorometerで測定した。各種機器測定には、分光分析用あるいは蛍光分析用の溶媒(いずれも関東化学から購入)を使用した。
【0045】
写真は、Canon EOS KISS DIGITALを用いて撮影した。
【0046】
[実施例1]
図1に本発明のフェノールフタレイン誘導体の製造スキームを示した。
【0047】
(実施例1-1)
<位置異性体3及び4の合成>
4‐N, N‐ジメチルアミノ無水フタル酸1は、Imperialiらの方法(Org. Biomol. Chem. 2004, 2, 1965)に従って合成した。また、クラウンエーテル化合物2は、Tsubakiらの方法(J. Org. Chem. 2005, 70, 4609)に準じて合成した。
【0048】
クラウンエーテル化合物2(2 g、4.64 mmol)を無水THF(30 ml)に溶解させ、-78 ℃に冷却した。t-ブチルリチウム(1.46 Mペンタン溶液、 4.57 ml、6.68 mmol)を5分間かけてゆっくり滴下した。30分間攪拌後、4‐N, N‐ジメチルアミノ無水フタル酸1(355 mg、1.86 mmol)の無水THF溶液(36 ml)を20分間かけてゆっくり滴下した。反応溶液を-78 ℃で3時間保った後、室温まで自然に昇温させながらさらに3時間攪拌した。1M HCl水溶液で反応を停止させ、1時間攪拌した。反応混合物を減圧濃縮した後、飽和NaHCO3水溶液に注ぎ、酢酸エチルで2回抽出した。有機層を合わせて水、飽和食塩水で順次洗浄した後、無水硫酸ナトリウムで乾燥し減圧留去した。残渣をフラッシュカラムクロマトグラフィー(n-ヘキサン:酢酸エチル=1:1 ~酢酸エチル:メタノール=10:1)にて精製し、目的とする位置異性体3及び4の混合物(1.908 g)を白色泡状物として得た。位置異性体の分離は中圧カラムクロマトグラフィー(酢酸エチル:エタノール=99:1~50:1)で行い、位置異性体3(638 mg, 39%)及び4(928 mg、57%)をそれぞれ白色泡状物として単離した。
【0049】
さらに、位置異性体3及び4は、それぞれの一部をメタノールに溶解させ数分から数時間静置すると白色固体が析出する。それを濾取し、冷メタノールで洗浄し減圧下乾燥した(いずれも2水和物であると同定した)。
【0050】
位置異性体3; IR (KBr) 3503, 2872, 1765, 1625, 1516, 1474, 1352, 1249, 1110, 1023, 947 cm-1; 1H-NMR (400 MHz, CDCl3) δ7.37 (d, J = 8.8 Hz, 1H), 7.23 (ddw, J = 11.2, 2.4 Hz, 4H), 7.12 (dw, J = 2.4 Hz, 1H), 7.08 (ddw, J = 8.8, 2.4 Hz, 1H), 6.25-6.12 (m, 2H), 5.50 (dd, J = 17.2, 2.0 Hz, 2H) , 5.21 (dd, J = 10.4, 2.0 Hz, 2H), 4.91 (d, J = 5.2 Hz, 4H), 4.50 (ABq, Δν= 313 Hz, JAB= 10.4 Hz, 4H), 4.48 (ABq, Δν= 311 Hz, JAB = 10.4 Hz, 4H), 3.66-3.35 (m, 32H), 3.04 (s, 6H), 2.20 (s, 4H, H2O x2); MS (FAB+, NBA) m/z(rel. intensity) = 916 [(M+K)+, 10], 900 [(M+Na)+, 30]; HRMS (FAB+, NBA) Calcd for C48H63O14NNa (M+Na)+ 900.4146, Found 900.4128。
【0051】
位置異性体4; IR (KBr) 3502, 2872, 1749, 1604, 1523, 1477, 1352, 1295, 1252, 1110, 1025, 981, 945 cm-1; 1H-NMR (400 MHz, CDCl3) δ7.73 (d, J = 8.8 Hz, 1H), 7.26 (ddw, J = 12.4, 2.4 Hz, 4H), 6.79 (ddw, J = 8.8, 2.0 Hz, 1H), 657 (dw, J = 2.0 Hz, 1H), 6.25-6.12 (m, 2H), 5.50 (dd, J = 17.6, 2.0 Hz, 2H) , 5.21 (dd, J = 10.8, 2.0 Hz, 2H), 4.98-4.91 (m, 4H), 4.49 (ABq, Δν= 316 Hz, JAB = 10.4 Hz, 8H), 3.67-3.35 (m, 32H), 3.07 (s, 6H), 2.03 (s, 4H, H2O x2); MS (FAB+, NBA) m/z (rel. intensity) = 916 [(M+K)+, 10], 900 [(M+Na)+, 100], 878 [(M+H)+, 15]; HRMS (FAB+, NBA) Calcd for C48H64O14N (M+H)+ 878.4327, Found 878.4341。
【0052】
(実施例1-2)
<フェノールフタレイン誘導体5(以下、18CKRという)の合成>
位置異性体3(500 mg, 570 μmol)をメタノール(10 ml)に縣濁させPd(PPh3)4(21 mg、17.1 μmol)と水素化ホウ素ナトリウム(30 mg、854 μmol)を加えた。添加後直ぐにガスの発生を伴って、反応溶液は薄黄色から鮮やかな赤紫色に変化した。室温で2時間攪拌した後、1M HCl水溶液で反応を停止させた。反応混合物を減圧濃縮した後、水に注ぎpHを6に調整してクロロホルムで3回抽出した。有機層を合わせて水、飽和食塩水で順次洗浄した後、無水硫酸ナトリウムで乾燥し減圧留去した。残渣をリサイクル分取用HPLCにて精製し、フェノールフタレイン誘導体5(18CKR)(354 mg、78%)を黄色泡状物として得た。
【0053】
IR (neat) 3344, 2872, 1757, 1686, 1619, 1514, 1485, 1356, 1248, 1107, 943, 750 cm-1; 1H-NMR (400 MHz, CDCl3) δ8.25 (s, 2H), 7.30 (d, J = 8.8 Hz, 1H), 7.08 (dw, J = 2.4 Hz, 4H), 7.00 (ddw, J = 8.8, 2.4 Hz, 1H), 4.57 (ABq, Δν= 0 Hz, JAB= 11.2 Hz, 8H), 3.76-3.58 (m, 32H), 3.02 (s, 6H); MS (FAB+, Glycerol) m/z(rel. intensity) = 820 [(M+Na)+, 10], 798 [(M+H)+, 35], 737 (10), 645 (20), 553 (35), 369 (20); HRMS (FAB+, Glycerol) Calcd for C42H56O14N (M+H)+ 798.3701, Found 798.3696。
【0054】
[実施例2]
図2に本発明のフェノールフタレイン誘導体の製造スキームを示した。
【0055】
(実施例2-1)
<位置異性体7及び8の合成>
4‐トリフルオロメチル無水フタル酸6は、Hanackの方法(Synth. Commun. 1981, 11, 351)に従って合成した。
【0056】
クラウンエーテル化合物2(600 mg、1.39 mmol)を無水THF(10 ml)に溶解させ、-78 ℃に冷却した。t-ブチルリチウム(1.46 Mペンタン溶液; 1.37 ml、2.00 mmol)をゆっくり滴下した。30分間攪拌後、4‐トリフルオロメチル無水フタル酸6(120 mg、0.56 mmol)の無水THF溶液(5 ml)をゆっくり滴下した。反応溶液を室温まで自然に昇温させながら16時間攪拌した。1M HCl水溶液で反応を停止させ、4時間攪拌した。反応混合物を減圧濃縮した後、水に注ぎ酢酸エチルで2回抽出した。有機層を合わせて飽和NaHCO3水溶液、飽和食塩水で順次洗浄した後、無水硫酸ナトリウムで乾燥し減圧留去した。残渣をフラッシュカラムクロマトグラフィー(n-ヘキサン:酢酸エチル=1:1 ~5:1)にて精製し、目的とする位置異性体7(178 mg、36%)及び8(225 mg、45%)をそれぞれ白色泡状物として単離した。
【0057】
さらに、位置異性体7はメタノールに溶解させ一昼夜静置すると白色固体が析出する。それを濾取し(64 mg)、エーテルで洗浄して減圧下乾燥した。
【0058】
位置異性体7; 1H-NMR (400 MHz, CDCl3) δ8.09 (d, J = 8.4 Hz, 1H), 7.86 (d, J= 8.4 Hz, 1H), 7.83 (s, 1H), 7.20 (s, 1H), 6.24-6.12 (m, 2H), 5.50 (dd, J = 17.6, 2.0 Hz, 2H) , 5.22 (dd, J = 10.4, 2.0 Hz, 2H), 4.93 (d, J = 5.2 Hz, 4H), 4.492 (ABq, Δν= 315 Hz, JAB= 10.4 Hz, 4H), 4.488 (ABq, Δν= 312 Hz, JAB = 10.4 Hz, 4H), 3.67-3.32 (m, 32H)。
【0059】
位置異性体8; 1H-NMR (300 MHz, CDCl3) δ8.21 (s, 1H), 7.97 (d, J = 8.4 Hz, 1H), 7.73 (d, J= 8.4 Hz, 1H), 7.20 (ddw, 1H), 6.28-6.09 (m, 2H), 5.50 (dd, J = 17.1, 2.1 Hz, 2H) , 5.17 (dd, J = 10.8, 2.1 Hz, 2H), 4.93 (d, J = 5.1 Hz, 4H), 4.49 (ABq, Δν= 226 Hz, JAB= 10.8 Hz, 4H), 4.47 (ABq, Δν= 236 Hz, JAB = 10.8 Hz, 4H), 3.72-3.30 (m, 32H)。
【0060】
(実施例2-2)
<フェノールフタレイン誘導体9(以下、pFPPという)の合成>
位置異性体7(35 mg、39 μmol)をメタノール(4 ml)に縣濁させPd(PPh3)4(2.2 mg、1.9 μmol)と水素化ホウ素ナトリウム(2.2 mg、58 μmol)を加えた。添加後直ぐにガスの発生を伴って、反応溶液は薄黄色から青紫色に変化した。室温で30分間、さらに60 °Cで30分間攪拌した後、飽和塩化アンモニウム水溶液で反応停止させた。反応混合物を減圧濃縮した後、0.01 M HCl水溶液に注ぎクロロホルムで2回抽出した。有機層を合わせて飽和食塩水で洗浄した後、無水硫酸ナトリウムで乾燥し減圧留去した。残渣をPTLC(酢酸エチル:メタノール=9:1)にて精製し、フェノールフタレイン誘導体9(pFPP)(15 mg、46%)を薄黄色泡状物として得た。
【0061】
1H-NMR (300 MHz, CDCl3) δ8.30 (br s, 1H), 8.04 (d, J = 8.1 Hz, 1H), 7.81 (d, J = 8.1 Hz, 1H), 7.73 (s, 1H), 7.02 (s, 4H), 4.59 (ABq, Δν= 0 Hz, JAB= 8.1 Hz, 8H) 3.90-3.50 (m, 32H)。
【0062】
(実施例2-3)
<フェノールフタレイン誘導体10(以下、mFPPという)の合成>
位置異性体8(41 mg、45 μmol)をメタノール(4 ml)に縣濁させPd(PPh3)4(2.6 mg、2.3 μmol)と水素化ホウ素ナトリウム(2.6 mg、68 μmol)を加えた。添加後直ぐにガスの発生を伴って、反応溶液は薄黄色から青紫色に変化した。室温で30分間、さらに60 °Cで30分間攪拌した後、飽和塩化アンモニウム水溶液で反応停止させた。反応混合物を減圧濃縮した後、0.01 M HCl水溶液に注ぎクロロホルムで2回抽出した。有機層を合わせて飽和食塩水で洗浄した後、無水硫酸ナトリウムで乾燥し減圧留去した。残渣をPTLC(酢酸エチル:メタノール=9:1)にて精製し、フェノールフタレイン誘導体10(mFPP)(13 mg、35%)を薄黄色泡状物として得た。
【0063】
1H-NMR (300 MHz, CDCl3) δ8.29 (br s, 1H), 8.17 (s, 1H), 7.90 (d, J = 8.1 Hz, 1H), 7.64 (d, J = 8.1 Hz, 1H), 7.02 (s, 4H), 4.58 (ABq, Δν= 0 Hz, JAB= 10.8 Hz, 8H) 3.85-3.40 (m, 32H)。
【0064】
[実施例3]
本発明のフェノールフタレイン誘導体18CKRについて、図3に示す無置換のフェノールフタレイン誘導体(以下、18CPPという)と比較した。
【0065】
(実施例3-1)
<ジアミン及びトリアミンに対する呈色の強度の比較>
メタノール中で18CKRあるいは18CPPに対して、スペルミジンを含む種々の長さのトリアミンあるいはジアミンを加え、同一条件での呈色の強度比較を行った。
【0066】
結果を図3に示した。
【0067】
その結果、いずれのゲストアミンに対しても18CKRは18CPPよりも著しく強い呈色を示し、数十倍感度が増大していることがわかる。
【0068】
(実施例3-2)
<UVスペクトルの比較>
18CPP及び18CKRについてホスト:スペルミジン=1:1の条件で吸収スペクトルを測定した。
【0069】
結果を図4に示した。
【0070】
その結果、18CKRは、ホストおよびスペルミジンそれぞれを18CPPの約10分の1の濃度に設定しても同程度の呈色を示すことが判った。また、その色調も異なるものであった。
【0071】
(実施例3-3)
<18CKRの蛍光応答性>
18CKRの優れた特長は蛍光発光を示すことである。これは、18CKRに導入されたジメチルアミノ基からラクトンカルボニル基への1電子移動(ICT; Intramolecular Charge Transfer)による分子内での電荷分離状態からの発光である。
【0072】
18CKRの蛍光発光波長を種々の溶媒について観測した。
【0073】
図5に、溶媒の種類による蛍光発光波長の変化(ソルバトクロミズム)、およびUV非照射時(自然光)とUV照射時の実際の発光の様子を示した。青紫~青緑色の蛍光発光を示した。
【0074】
(実施例3-4)
<pH応答性の比較>
本発明の18CKRについて、18CPP及び基本骨格であるフェノールフタレイン(以下、PPという)と比較して、pH指示薬としての指示領域を調べた。
【0075】
結果を図6に示した。
【0076】
その結果、18CKRは、18CPP及びPPよりも中性側pHで呈色を検出することができ、18CPP及びPPよりも大きい呈色能を有することが判った。
【0077】
[実施例4]
本発明のフェノールフタレイン誘導体18CKRを用いて、スペルミジン及びスペルミンに対する呈色応答性および蛍光応答性を検討した。
【0078】
(実施例4-1)
<蛍光スペクトル特性>
18CKRの蛍光スペクトルデータをまとめたものを表1に示した。
【0079】
【表1】
JP0005044779B2_000003t.gif

【0080】
無置換のフェノールフタレイン誘導体18CPPが無蛍光性分子であるのに対し、本発明のフェノールフタレイン誘導体18CKRの蛍光量子収率(Ffl)は、溶媒によって異なるが数%から12 %程度に達した。
【0081】
(実施例4-2)
<呈色と蛍光発光の相関性>
ゲスト分子としてスペルミジンを用いた際、呈色の変化に応じて蛍光発光がどのように変化するのかを調べた。
【0082】
結果を図7に示した。
【0083】
スペルミジンを0.5当量から10当量へと増加するに従って、UVスペクトルにおいては、560 nm 付近の吸収が増大した。一方、蛍光スペクトルにおいては、スペルミジン濃度の増加に伴って480 nm 付近の蛍光強度(励起波長:276 nm)は減衰した。
【0084】
これらの結果から、18CKRはスペルミジンに対して、図8に示すような作用機作で、呈色挙動および蛍光応答するものと考えられる。
【0085】
18CKRが蛍光性を有するのは、イソベンゾフラノン環が励起されるとジメチルアミノ基からラクトンカルボニル基への1電子移動が起こることにより分子内電荷分離状態となり、これが蛍光発光を示すためである(ICT機構)。
【0086】
一方、18CKRはスペルミジンを認識して呈色を示す。これはスペルミジン両端のアミノ基がクラウンエーテル内のフェノールと酸塩基反応を起こして18CKRのラクトンが開裂し、橋架け型の呈色錯体を形成することに由来する。発生するカルボキシレートはスペルミジンの中央部にあるアミノ基によって安定化される。
【0087】
スペルミジンの添加に伴って18CKRの呈色が強くなるとともに蛍光が減衰するのは、ジメチルアミノ基からカルボキシレートへの1電子移動が阻害されることによると考えられる。
【0088】
また、18CKRに対するゲスト分子としては、2つのクラウンエーテル環を橋架けするのに適した長さを持つジアミン構造であることが呈色錯体形成には必要であることがわかる。このような構造を有する最適なゲスト分子は、スペルミジンおよびスペルミンである。
【0089】
(実施例4-3)
<スペルミジンおよびスペルミンの特異的認識>
18CKRの種々の生体内アミンに対する呈色を調べた。スペルミジン及びスペルミンとともに生体内ポリアミンと総称されるプトレッシン、カダベリン、ならびに神経伝達物質であるドパミン、ヒスタミン、トリプタミン、チラミンの計8種類の生体内アミンをスクリーニングした。
【0090】
結果を図9に示した。
【0091】
図9に示すように、18CKRはスペルミジン及びスペルミンのみを特異的に認識して呈色した。他のアミンのうち、プトレッシン、カダベリンはジアミンであり呈色する可能性はあるが、アミノ基間の距離が短いために先に述べたような構造的要件を満たさず、呈色錯体は形成できない。それゆえ、本発明の検査薬において、これらのジアミンが18CKRとスペルミジン・スペルミンの結合を阻害することは問題にならない。
【0092】
スペルミジンおよびスペルミンは、上記のように、細胞増殖に深く関わる生体内ポリアミンであり、医療現場では腫瘍マーカーの一つに挙げられている。しかし、その測定法は操作が煩雑なものが多く必ずしも実用的であるとは言えない。18CKRはスペルミジンおよびスペルミンのみを特異的に認識して呈色するため、ガンの簡便かつ迅速な検査薬として用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】本発明の実施例1のフェノールフタレイン誘導体の製造スキームを示す図である。
【図2】本発明の実施例2のフェノールフタレイン誘導体の製造スキームを示す図である。
【図3】本発明の実施例3-1のフェノールフタレイン誘導体のジアミン及びトリアミンに対する呈色の強度の比較を示す図である。
【図4】本発明の実施例3-2のフェノールフタレイン誘導体のUVスペクトルの比較を示す図である。
【図5】本発明の実施例3-3のフェノールフタレイン誘導体の蛍光応答性を示す図である。
【図6】本発明の実施例3-4のフェノールフタレイン誘導体のpH応答性の比較を示す図である。
【図7】本発明の実施例4-2のフェノールフタレイン誘導体による呈色と蛍光発光の相関性を示す図である。
【図8】本発明の実施例4-2のフェノールフタレイン誘導体による呈色挙動および蛍光応答を説明する図である。
【図9】本発明の実施例4-3のフェノールフタレイン誘導体によるスペルミジンおよびスペルミンの特異的認識を示す図である。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図4】
2
【図6】
3
【図7】
4
【図8】
5
【図3】
6
【図5】
7
【図9】
8