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明細書 :分子デバイス及びその製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4714881号 (P4714881)
登録日 平成23年4月8日(2011.4.8)
発行日 平成23年6月29日(2011.6.29)
発明の名称または考案の名称 分子デバイス及びその製造方法
国際特許分類 H01L  29/06        (2006.01)
H01L  51/05        (2006.01)
H01L  51/40        (2006.01)
B82B   1/00        (2006.01)
B82B   3/00        (2006.01)
FI H01L 29/06 601N
H01L 29/28 100A
H01L 29/28 310E
B82B 1/00
B82B 3/00
請求項の数または発明の数 6
全頁数 13
出願番号 特願2006-532724 (P2006-532724)
出願日 平成17年8月30日(2005.8.30)
国際出願番号 PCT/JP2005/015773
国際公開番号 WO2006/025391
国際公開日 平成18年3月9日(2006.3.9)
優先権出願番号 2004253280
優先日 平成16年8月31日(2004.8.31)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成19年4月3日(2007.4.3)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
発明者または考案者 【氏名】宮戸 祐治
【氏名】小林 圭
【氏名】山田 啓文
【氏名】松重 和美
個別代理人の代理人 【識別番号】110000338、【氏名又は名称】特許業務法人原謙三国際特許事務所
審査官 【審査官】恩田 春香
参考文献・文献 特開2001-513909(JP,A)
特開2004-142097(JP,A)
調査した分野 H01L 29/06
B82B 1/00
B82B 3/00
JOISEasy
特許請求の範囲 【請求項1】
基板上にナノ構造体が配置された分子デバイスであって、
上記基板は、酸化物からなる酸化物層を有し、
上記酸化物層上には、該酸化物層の表面に化学的に結合するように疎水性膜が形成され、
上記疎水性膜は、自己組織化された単分子膜であって、上記疎水性膜上に上記ナノ構造体が配置されていることを特徴とする分子デバイス。
【請求項2】
上記疎水性膜は、有機シラン化合物で形成されていることを特徴とする請求項1に記載の分子デバイス。
【請求項3】
上記ナノ構造体は、ナノチューブ、ナノワイヤのうちの少なくとも一方であることを特徴とする請求項1又は2に記載の分子デバイス。
【請求項4】
表面に酸化物層を有する基板上に、ナノ構造体が配置された分子デバイスの製造方法であって、
上記基板の酸化物層上に、該酸化物層の表面の酸化物に化学的に結合するように、自己組織化された単分子膜である疎水性膜を形成する膜形成工程と、
上記疎水性膜上に、上記ナノ構造体を配置する構造体配置工程と、を含むことを特徴とする分子デバイスの製造方法。
【請求項5】
上記疎水性膜は、有機シラン化合物で形成され、
上記膜形成工程では、上記基板の酸化物表面のヒドロキシル基と、上記有機シラン化合物と、を化学的に反応させることを特徴とする請求項4に記載の分子デバイスの製造方法。
【請求項6】
さらに、上記基板の酸化物表面上に、少なくとも1対の電極を形成する電極形成工程を含み、
上記構造体配置工程は、
上記電極形成工程で形成された1対の電極間に交流電界を印加する電界印加工程と、
上記電極間に、上記ナノ構造体が分散した分散溶液を滴下する分散溶液滴下工程と、を含むことを特徴とする請求項4又は5に記載の分子デバイスの製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノ構造体を用いた分子デバイス及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体産業は、現在、約1兆ドル規模の市場と言われ、その大半には、シリコン(Si)が用いられている。シリコンを用いた半導体デバイスは、高機能化や高速化、大容量化のための微細化が進められているが、今後数十年の間に、集積化限界、配線限界、高周波限界にまで微細化され、シリコン加工における微細化の限界に直面すると予想されている。このような微細化の限界が懸念される中、シリコンを用いた半導体デバイスに代わる次世代のデバイス材料として、カーボンナノチューブ等のナノチューブに注目が集められ、該ナノチューブを用いた各種のデバイスが検討されている。
【0003】
上記ナノチューブは、そのサイズが数ナノメートルの微細な構造を有するため、高集積化が可能であるとともに、構造の違いによって種々の電気伝導性を示す。そのため、エレクトロニクスの分野では、コンデンサやトランジスタ等の微細な電子素子、微細な配線材料等としての用途が期待されている。一般に、エレクトロニクスの分野では、上記ナノチューブは、SiO2等の絶縁性の基板上に配置されて用いられる。そのため、従来から、ナノチューブを用いた集積回路の形成に際して、基板上の所定の位置にナノチューブを配置するための種々の技術が提案されている。
【0004】
例えば、電極間に配置される配線としてナノチューブを用いる場合には、(a)基板上の所定位置に、CVD(chemical vapor deposition;化学蒸着)法により、ナノチューブを直接成長させる、(b)基板上に、まずナノチューブを分散した後、電極をリソグラフィによって蒸着する、(c)走査型プローブ顕微鏡によってナノチューブを1本ずつ動かして回路を形成する、(d)基板上に設けられた電極間に、ナノチューブを分散した溶媒を滴下し、電極間に交流電圧を印加する誘電泳動法によって、ナノチューブを電極間に配置する(特許文献1:日本国公開特許公報「特開2003-332266号公報(2003年11月21日公開)」)、等の手法を用いて、基板上にナノチューブを配向させている。
【0005】
基板上にナノチューブを配置した場合、ナノチューブが微細な構造を有するために、ナノチューブと基板表面との間には比較的強い相互作用が生じる。そのため、上記相互作用により、基板に堆積したナノチューブが基板上から引き離され難くなり、基板上でのナノチューブのマニピュレーションが困難になるという問題を有している。さらに、ナノチューブは、上記の相互作用により力学的な変形、又は化学的な作用を受けることによって、その物性が変化しやすい。
【0006】
そのため、上記(a)~(d)の技術を用いて、基板上にナノチューブを配置した場合にも、ナノチューブと基板表面との間に生じる相互作用により、基板上でのナノチューブの配置を自在に制御することが困難であるという問題を有している。具体的には、上記相互作用により、基板上の所望しない位置に配置されたナノチューブを取り除くことが困難になり、基板上の所望の位置にナノチューブを移動させて配置することが困難となってしまう。さらに、上記の相互作用により、ナノチューブ本来の物性を引き出すことができないという問題もある。
【0007】
なお、非特許文献1:S.Kobayashi等,“Control of carrier density by self-assembled monolayers in organic field-effect transistors”,Nature Mater.,3巻,p.317,2004年、及び非特許文献2:D.J.Gundlach等,“Thin-film transistors based on well-ordered thermally evaporated naphthacene films”,Appl.Phys.Lett.,80巻,p.2925,2002年には、ペンタセンやナフタセン等の有機薄膜を用いた有機薄膜トランジスタに関する技術が記載されている。上記非特許文献1・2には、SiO2といった絶縁性の基板上に、オクタデシルトリクロロシランを用いた自己組織化単分子膜を形成し、該自己組織化単分子膜上に有機薄膜を形成することによって、キャリアの移動度の向上が可能であることが記載されている。しかしながら、上記非特許文献1・2には、ナノチューブを用いた分子デバイスに関する記載はない。
【発明の開示】
【0008】
本発明は、上記従来の問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、基板と該基板上に配置されるナノ構造体との相互作用を低減し、基板上でのナノ構造体の配向を容易に制御し得る分子デバイス及びその製造方法を提供することにある。
【0009】
本発明に係る分子デバイスは、上記課題を解決するために、基板上にナノ構造体が配置された分子デバイスであって、上記基板は、酸化物からなる酸化物層を有し、上記酸化物層上には、該酸化物層の表面に化学的に結合するように疎水性膜が形成され、上記疎水性膜は、自己組織化された単分子膜であって、上記疎水性膜上に上記ナノ構造体が配置されていることを特徴としている。
【0010】
また、本発明に係る分子デバイスの製造方法は、上記課題を解決するために、表面に酸化物層を有する基板上に、ナノ構造体が配置された分子デバイスの製造方法であって、上記基板の酸化物層上に、該酸化物層の表面の酸化物に化学的に結合するように、自己組織化された単分子膜である疎水性膜を形成する膜形成工程と、上記疎水性膜上に、上記ナノ構造体を配置する構造体配置工程と、を含むことを特徴としている。
【0011】
上記の構成、及び方法によれば、基板の酸化物層上には、該酸化物層表面に化学的に結合した疎水性膜が形成され、該疎水性膜を介して、基板上にナノ構造体が配置されている。疎水性膜はナノ構造体とほとんど相互作用しない。それゆえ、上記疎水性膜の存在により、基板とナノ構造体との相互作用を低減することができるので、疎水性膜を介して基板上の所望しない位置に配置されたナノ構造体を基板上から取り除くことが容易となり、疎水性膜を介して基板上の所望の位置にナノ構造体を移動させて配置することができる。また、上記疎水性膜は自己組織化単分子膜であることから、疎水性膜を1分子長の膜厚で形成することができる。従って、分子デバイスの大きさを増加させることなく、所望する位置にナノ構造体が配置され、かつ、信頼性の高い分子デバイスを簡便に製造することが可能になる。
【0012】
その結果、基板と該基板上に配置されるナノ構造体との相互作用を低減し、基板上でのナノ構造体の配向を容易に制御し得る分子デバイス及びその製造方法を提供できるという効果を奏する。
【0013】
これにより、基板上の所望の位置に、コンデンサやトランジスタ等の微細な電子素子及び/又は配線として、ナノ構造体を配置することができるので、所望する回路構成を有し、かつ、信頼性の高い分子デバイス、及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明における分子デバイスの実施の一形態を示す断面図である。
【図2】(a)は、単分子膜が形成されたシリコン基板の表面写真を示す図であり、(b)~(f)は、該シリコン基板上のAu電極に所定の電圧を印加したときの表面電位を示す画像である。
【図3】(a)は、単分子膜上にカーボンナノチューブが配置されたシリコン基板の、超音波洗浄前のAFM画像であり、(b)は、該シリコン基板の超音波洗浄後のAFM画像である。
【図4】(a)は、単分子膜上にカーボンナノチューブが配置されたシリコン基板の、マニピュレーション前のAFM画像であり、(b)は、該シリコン基板のマニピュレーション後のAFM画像である。
【図5】(a)~(d)は、単分子膜上にカーボンナノチューブが配置されたシリコン基板上にて、マニピュレーションを行ったときのAFM画像である。
【図6】(a)は、単分子膜が形成されていないシリコン基板の表面写真を示す図であり、(b)~(f)は、該シリコン基板上のAu電極に所定の電圧を印加したときの表面電位を示す画像である。
【図7】(a)は、単分子膜を介在せずにカーボンナノチューブが配置されたシリコン基板の、超音波洗浄前のAFM画像であり、(b)は、該シリコン基板の超音波洗浄後のAFM画像である。
【図8】(a)は、単分子膜を介在せずにカーボンナノチューブが配置されたシリコン基板の、マニピュレーション前のAFM画像であり、(b)は、該シリコン基板のマニピュレーション後のAFM画像である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
〔実施の形態1〕
本発明の実施の一形態について図1に基づいて説明すれば、以下の通りである。図1は、本実施の形態の分子デバイス1の断面図である。
【0016】
上記分子デバイス1は、図1に示すように、基板4上に、単分子膜(疎水性膜・自己組織化単分子膜)3を有し、該単分子膜3上にナノチューブ(ナノ構造体)2が配置されてなる。
【0017】
上記基板4は、例えば、導電層4aと酸化物で形成された絶縁性の酸化物層4bとを有し、該酸化物層4bは基板4表面に形成されている。上記基板4をなす導電層4aとしては、特に限定されないが、例えば、シリコン(Si)、チタン(Ti)、タンタル(Ta)、ジルコニウム(Zr)、アルミニウム(Ar)等の導電性材料で形成すればよい。
【0018】
また、上記酸化物層4bは、酸化物で形成され、その表面は、後述するように、単分子膜3と化学的に結合している。上記酸化物層4bをなす酸化物は、例えば、上記導電層4aをなす導電性材料の酸化物で形成されていればよく、具体的には、SiO2、TiO2、ZrO2、Al2O3等であればよい。上記のうち、汎用性の点から、上記導電層4aとしてシリコンを用い、上記酸化物層4bとしてSiO2を用いることが好ましい。
【0019】
上記単分子膜3は、上記基板4の酸化物層4b上に形成され、1分子長の膜厚からなる自己組織化単分子膜である。上記単分子膜3は、基板4表面を疎水性に改質することを目的として形成される。従って、微小な分子デバイス1を実現するためには、上記単分子膜3を用いることが好適である。しかし、必ずしも単分子膜3に限定されず、上記酸化物層4bに化学的に結合して、表面疎水性を示す疎水性膜を用いてもよい。
【0020】
このように、上記単分子膜3を設けることによって、単分子膜3とナノチューブ2との相互作用を低減することができる。すなわち、上記酸化物層4bの表面には、酸化物のO原子にH原子が結合したヒドロキシル(-OH)基が配置されることになる。酸化物層4b表面に存在するヒドロキシル基は、酸化物層4bの表面に親水性を付与するが、このヒドロキシル基の存在によって、酸化物層4b上にナノチューブ2等の微細な物質が配置されると、上記ヒドロキシル基を介して、酸化物層4bとナノチューブ2との間に無視できない程度に大きな相互作用を生じさせることになる。このような相互作用は、基板4上でのナノチューブ2の配置位置の制御を困難にする原因となる。そして、その結果、ナノチューブ2の物性にも悪影響を及ぼす可能性がある。
そこで、本実施の形態では、酸化物層4bのヒドロキシル基との化学反応により、酸化物層4bと化学的に結合するように、単分子膜3を形成する。つまり、酸化物層4b表面のヒドロキシル基を、単分子膜3を形成する際に化学反応に供される部位として用い、酸化物層4b表面を覆うように単分子膜3を形成する。これにより、酸化物層4bの存在により親水性表面を有していた基板4が、単分子膜3の存在によって疎水性表面を有するように変化する。従って、基板4上に形成された単分子膜3上に、ナノチューブ2を配置すれば、単分子膜3とナノチューブ2との間にはほとんど相互作用が生じなくなる。それゆえ、上記単分子膜3を設けることにより、単分子膜3を介在させなくても、基板4の酸化物層4b上に直接ナノチューブ2を配置していた場合に比べて、基板4とナノチューブ2との間の相互作用を大幅に低減することができる。
なお、上記単分子膜3は、上記酸化物層4bをなす酸化物のヒドロキシル基と化学的に結合し得る化合物であって、疎水性表面を形成するものであればよい。該化合物としては、具体的には、(CHSi-NH-Si(CH(HMDS:hexamethyldisilazane)、(CH)(CH17SiCl(OTS:octadecyltrichlorosilane)、(CH)(CHSi(OC、(CF)(CF)(CHSi(OC、(CF)(CF(CHSi(OC、(CH)(CHSi(OC、等の有機シラン化合物;TiCl、TiClの少なくとも一つのClが-CH基や-OC基等の有機置換基で置換された置換体等のチタン化合物を挙げることができる。
上記ナノチューブ2は、分子デバイス1における配線、コンデンサやトランジスタ等の電子素子等として用いられるナノメートル・オーダーの構造を有する円筒状のナノ構造体である。上記ナノチューブ2としては、単層型,多層型,渦巻き型,螺旋型等のいずれの構造であってもよい。また、上記ナノチューブ2は、カーボンナノチューブ、該カーボンナノチューブを構成する炭素の一部又は全部がホウ素(B)及び/又は窒素(N)に置換されたホウ素カーボン窒素ナノチューブ(BCNナノチューブ)又はホウ素窒素ナノチューブ(BNナノチューブ)等、所望する電気特性が得られるものを用いればよい。
なお、本実施の形態では、ナノチューブ2を例に挙げて説明するが、これに限定されるものではない。すなわち、上記ナノチューブ2に代えて、ナノワイヤを用いてもよい。該ナノワイヤとしては、カーボンナノワイヤ;酸化亜鉛(ZnO)ナノワイヤ;導電性化合物やカーボンナノチューブ、シリコン化合物等の共有結合性のナノワイヤ等がある。
【0025】
上記のように、分子デバイス1は、基板4表面とナノチューブ2との間に、単分子膜3が形成されている。単分子膜3は、上記したように、基板4の親水性を示す酸化物層4bに化学的に結合して形成され、疎水性を示す。それゆえ、単分子膜3上にナノチューブ2を配置しても、単分子膜3とナノチューブ2との間に生じる相互作用は非常に小さい。そのため、単分子膜3を介在させなくても、基板上に直接ナノチューブを配置した従来の分子デバイスに比べて、本実施の形態の分子デバイス1は、基板4の酸化物層4bとナノチューブ2との間の相互作用を大幅に低減することができる。
【0026】
従って、上記単分子膜3を介して、基板4上に配置されたナノチューブ2を、例えばマニピュレーションによって、所望の位置に配置することができる。また、単分子膜3を介して基板4上の所望しない位置に堆積したナノチューブ2を、基板4上から容易に除去することができる。さらに、単分子膜3とナノチューブ2との間の相互作用を低減することにより、ナノチューブ本来の物性を得られることが期待できる。従って、上記単分子膜3を形成することにより、所望する物性を有する分子デバイス1を容易に提供することができる。
【0027】
次に、上記分子デバイス1の製造方法について図1に基づいて説明する。
【0028】
まず、基板4の酸化物層4b上に、必要に応じて、図示しない電極を形成する(電極形成工程)。続いて、基板4の酸化物層4b表面をよく洗浄し、該表面を親水状態にした後、酸化物層4b表面に単分子膜3を形成する。該単分子膜3の形成方法は、酸化物層4b上に自己組織化するように単分子膜3が形成されることが好ましく、例えば、上記基板4と、単分子膜3を形成するための有機シラン化合物又はチタン化合物と、を密封容器内に入れて加熱処理を行う方法や、CVD法、溶液浸漬法によって行えばよい。なお、形成される単分子膜3の膜質を良好に保つために、上記加熱処理は、窒素雰囲気下、すなわち空気中の水分(湿度)の影響を受けない状態で行うことが好ましい。このように形成された単分子膜3は、親水性の酸化物層4b上のみに形成され、電極表面には形成されない。
【0029】
ここで、上記単分子膜3を形成する有機シラン化合物として、HMDSを用いた場合、酸化物層4b表面のM-OH(Mは酸化物層をなす酸素以外の元素を表す)とのシランカップリング反応により、単分子膜3が形成される。具体的には、下記式(1)
2M—OH+(CH)3Si—NH—Si(CH)3→2M—O—Si(CH+NH ・・(1)
の反応により、酸化物層4bに化学結合した単分子膜3が形成される。
【0030】
また、Cl終端された有機シラン化合物又はチタン化合物M‘—Cl(M’はCl終端部分以外の構造を表す)を用いた場合、酸化物層4b表面と、下記式(2)
M—OH+M‘—Cl→M—O—M‘+HCl ・・(2)
の反応により、酸化物層4bに化学結合した単分子膜3が形成される。
【0031】
さらに、OC終端された有機シラン化合物又はチタン化合物M“—Cl(M”はCl終端部分以外の構造を表す)を用いた場合、酸化物層4b表面と、下記式(3)
M—OH+M“(OC)→M—O—M‘+COH ・・(3)
の反応により、酸化物層4bに化学結合した単分子膜3が形成される。
【0032】
上記式(1)~(3)に示される化学反応によって、単分子膜3を形成することにより、酸化物層4b上には、各分子が所定の秩序で配向する自己組織化された単分子膜3が形成されることになる。
【0033】
このようにして、基板4上に単分子膜3を形成すると、続いて、単分子膜3上にナノチューブ2を配置する。ナノチューブ2の配置方法は、特に限定されず、例えば、CVD(化学蒸着)法によってナノチューブを単分子膜3上に直接成長させる、走査型プローブ顕微鏡によってナノチューブを1本ずつ動かして配置する、又は誘電泳動法を用いる等の方法を用いればよい。あるいは、基板4上の単分子膜3上にナノチューブ2を配置した後に、電極をリソグラフィによって蒸着するようにしてもよい。
【0034】
上記のナノチューブ2の配線方法のうち、簡便かつ確実に単分子膜3上にナノチューブ2を配置することができ、大量生産も可能な誘電泳動法を用いることが好ましい。すなわち、誘電泳動法では、あらかじめ基板4上に一対の電極(図示せず)を形成し、該一対の電極間に交流電界を印加する(電界印加工程)。そして、ナノチューブ2を、メタノール、又はエタノール等の溶媒に分散させて分散溶液を調製し、上記一対の電極間に、分散溶液を滴下する(分散溶液滴下工程)。なお、一対の電極間に交流電界を印加するタイミングは、分散溶液を滴下して溶媒が蒸発するまでの間であればよい。
【0035】
これにより、一対の電極間にナノチューブ2が電気泳動によって電極間に配置される。その後、残った分散溶媒及びナノチューブ2を回収することによって、所望の位置にナノチューブ2が配置された分子デバイス1を得ることができる。なお、電極間にナノチューブ2が配置されたか否かは、電極間の電気抵抗値の変化をモニターし、所定の電気抵抗値に達した時点で、電極間にナノチューブ2が配置されたと判断すればよい。
【0036】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0037】
また、本発明に係る分子デバイスは、上記の分子デバイスにおいて、上記疎水性膜は、有機シラン化合物で形成されていることが好ましい。
【0038】
上記の構成によれば、基板上の酸化物層表面のヒドロキシル基と、有機シラン化合物との化学反応により、酸化物層と有機シラン化合物とが化学的に結合して、自己組織化単分子膜が形成される。従って、上記の構成によれば、酸化物層に、自己組織化単分子膜を容易に形成することができる。
【0039】
さらに、本発明に係る分子デバイスは、上記の分子デバイスにおいて、上記ナノ構造体は、ナノチューブ、ナノワイヤのうちの少なくとも一方であればよい。
【0040】
上記の構成によれば、ナノチューブやナノワイヤを、コンデンサやトランジスタ等の微細な電子素子及び/又は配線として用いた分子デバイスを簡便に提供することができる。また、疎水性膜の存在により、基板とナノチューブ及び/又はナノワイヤとの相互作用が低減されているので、信頼性の高い分子デバイスを実現することができる。
【0041】
また、本発明に係る分子デバイスの製造方法は、上記分子デバイスの製造方法において、上記疎水性膜は、有機シラン化合物で形成され、上記膜形成工程では、上記基板の酸化物表面のヒドロキシル基と、上記有機シラン化合物と、を化学的に反応させることが好ましい。
【0042】
上記の方法によれば、基板上の酸化物層表面のヒドロキシル基と、有機シラン化合物との化学反応により、酸化物層と有機シラン化合物とを化学的に結合させて、自己組織化された疎水性膜を容易に形成することができる。
【0043】
さらに、本発明に係る分子デバイスの製造方法は、上記分子デバイスの製造方法において、上記基板の酸化物表面上に、少なくとも1対の電極を形成する電極形成工程を含み、上記構造体配置工程は、上記電極形成工程で形成された1対の電極間に交流電界を印加する電界印加工程と、上記電極間に、上記ナノ構造体が分散した分散溶液を滴下する分散溶液滴下工程と、を含んでいてもよい。
【0044】
上記の方法によれば、交流電界が印加された電極間にナノ構造体が分散してなる分散溶液を滴下する、あるいは、電極間に上記分散溶液を滴下して、該電極間に交流電界を印加することによって、電極間にナノ構造体を簡便かつ確実に配置することができる。これにより、コンデンサやトランジスタ等の微細な電子素子及び/又は配線として、ナノ構造体を配置した分子デバイスを実現することができる。また、単分子膜上に、ナノ構造体が配置されているので、基板とナノ構造体との相互作用が低減された信頼性の高い分子デバイスを提供することができる。
【0045】
本発明に係る分子デバイスは、以上のように、基板は、酸化物からなる酸化物層を有し、上記酸化物層上には、該酸化物層の表面に化学的に結合するように形成された疎水性膜膜が設けられ、上記疎水性膜上には、ナノ構造体が配置されている。
【0046】
また、本発明に係る分子デバイスの製造方法は、以上のように、基板の酸化物層上に、該酸化物層の表面の酸化物に化学的に結合するように疎水性膜を形成する膜形成工程と、上記疎水性膜上に、ナノ構造体を配置する構造体配置工程とを含む。
【0047】
それゆえ、上記疎水性膜の存在により、基板とナノ構造体との相互作用を低減することができるので、疎水性膜を介して基板上の所望の位置にナノ構造体が配置され、信頼性の高い分子デバイスを容易に提供することができるという効果を奏する。
【実施例】
【0048】
以下、本発明を実施例及び比較例に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0049】
〔実施例〕
導電層がSiからなり、酸化物層がSiO2(膜厚300nm)からなるシリコン基板(基板)上に、フォトリソグラフィによって、膜厚20nm,電極間隔3μmの少なくとも一対のAu電極を形成した。その後、シリコン基板の表面をオゾン洗浄し、テフロン(登録商標)製の密封容器内に、オゾン洗浄した上記シリコン基板と、HMDS(hexamethyldisilazane)とを入れ、密封容器ごとオーブンに入れて100℃で2時間加熱した。ここで、オーブンは、単分子膜の形成に際して、空気中の水分が膜質に悪影響を及ぼすことを避けるために、ガス置換により内部空間を窒素雰囲気とした。この加熱により、シリコン基板の酸化物層上に、Au電極が形成された領域を除いて、単分子膜を形成した。
【0050】
このようにして単分子膜が形成されたシリコン基板上の一対のAu電極間に、電圧の印加を0V,3V,0V,-3V,0Vの順に行い、各印加電圧における単分子膜表面の局所的な表面電位をKFM(Kelvin probe Force Microscopy)によって測定した。なお、KFMは、原子間力顕微鏡(AFM:Atomic Force Microscopy)の技術のひとつであり、この手法により試料表面の電位情報を得ることができる。その結果を図2(b)~(f)に示す。なお、参考のために、単分子膜が形成された側のシリコン基板の表面写真を図2(a)に示す。
【0051】
図2(b)~(f)に示すように、Au電極間に順に異なる電圧を印加しても、印加電圧が0Vでは、Au電極近傍の表面電位はほぼ同じとなる履歴現象が認められた。このことから、単分子膜を形成することにより、電荷注入が抑制されることがわかった。
【0052】
次いで、上記シリコン基板上のAu電極間に、2Vp-p,1MHzの交流電界を印加して、エタノール中にカーボンナノチューブ(ナノチューブ・ナノ構造体)を分散させた分散溶液を滴下し、上記Au電極間にカーボンナノチューブを架橋して配置した。なお、誘電泳動法でAu電極間に印加される交流電界としては、上記の例に限らず、比較的高周波の数MHzの振幅数Vの正弦波であればよい。この振幅が大きいほど架橋されるCNTの数が増えることになる。
【0053】
このようにしてカーボンナノチューブが配置されたシリコン基板の単分子膜表面をAFM(原子間力顕微鏡)で観察した。また、上記シリコン基板をアセトン中に入れて超音波洗浄器で15分間洗浄した後の単分子膜表面をAFMで観察した。その結果を図3(a)・(b)に示す。図中、上部及び下部に見られる白い影はAu電極である。図3(a)に示すように、超音波洗浄前には、Au電極間にカーボンナノチューブが配置されているが、図3(b)に示すように、超音波洗浄後には、電極間にカーボンナノチューブが見られなかった。この超音波洗浄の実験を複数回行ったが、同様の結果が得られた。従って、シリコン基板上に単分子膜を介してカーボンナノチューブを配置することにより、シリコン基板上からカーボンナノチューブを容易に除去できることがわかった。
【0054】
次に、Au電極間にカーボンナノチューブが架橋されて配置されたシリコン基板上を、コンタクトモードのAFMを用いて、該AFMのカンチレバーがAu電極間に架橋されたカーボンナノチューブを横切るようにスキャンを行い、スキャン時の負荷を10nNずつ増加するように変化させて、カーボンナノチューブのマニピュレーションを行った。その結果を図4(a)・(b)に示す。図4(a)に示すように、コンタクトAFMによるスキャンを行う前には、Au電極間に配置されていたカーボンナノチューブが、負荷40nNでスキャンすると、図4(b)中の丸の囲みに示すように、大きく移動することがわかった。
【0055】
また、負荷を100nNまで変化させてスキャンを行うと、図5(a)~(d)に順に示すように、単分子膜を介してシリコン基板上に配置されたカーボンナノチューブを自在に移動可能(マニピュレーション可能)であることがわかった。なお、シリコン基板上に単分子膜を形成した場合、負荷が20nN以上で、カーボンナノチューブのマニピュレーションが可能であった。
【0056】
〔比較例〕
上記実施例1と同様の手順で、シリコン基板上に、少なくとも1対のAu電極を形成した。その後、上記実施例1と同様の手順で、単分子膜が形成されていないシリコン基板上の一対のAu電極間に、電圧の印加を0V,3V,0V,-3V,0Vの順に行い、各印加電圧におけるシリコン基板表面の局所的な表面電位をKFMによって測定した。その結果を図6(b)~(f)に示す。なお、参考のために、Au電極が形成された側のシリコン基板の表面写真を図6(a)に示す。
【0057】
上記実施例1で得られた結果である図6(b)~(f)との比較からも明らかなように、本比較例のシリコン基板では、Au電極間への電圧の印加を繰り返すと、図6(b)・(d)・(f)に示すように、印加電圧0VにおけるAu電極近傍の表面電位が徐々に高まり、履歴現象が認められにくくなった。このことから、シリコン基板上に単分子膜を形成していない場合には、電荷注入が抑制されないことがわかった。
【0058】
次いで、上記実施例1と同様の手順で、上記シリコン基板(単分子膜は形成されていない)上のAu電極間に、カーボンナノチューブを架橋して配置し、シリコン基板表面をAFMで観察した。また、上記シリコン基板をアセトン中に入れて超音波洗浄器で60分間洗浄した後のシリコン基板表面をAFMで観察した。その結果を図7(a)・(b)に示す。図7(a)・(b)に示すように、超音波洗浄前後のいずれにおいても、電極間にカーボンナノチューブが配置されていることが確認された。
【0059】
上記実施例1で得られた結果である図3(a)・(b)と比較すると、シリコン基板上に単分子膜が形成されていない場合には、カーボンナノチューブが除去されにくいことがわかった。
【0060】
次に、上記実施例1と同様の手順で、単分子膜が形成されていないシリコン基板上のAu電極間に架橋されて配置されたカーボンナノチューブのマニピュレーションの評価を行った。その結果を図8(a)・(b)に示す。図8(a)に示すように、コンタクトAFMによるスキャンを行う前には、Au電極間に配置されていたカーボンナノチューブは、負荷を80nNに増加してスキャンしても、図8(b)中の丸の囲みに示すように、ほとんど移動せず、カーボンナノチューブの束のほどけが確認されたのみであった。
【0061】
上記実施例1で得られた結果である図4(a)・(b)と比較すると、シリコン基板上に単分子膜が形成されていない場合には、カーボンナノチューブのマニピュレーションが困難であることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の分子デバイスは、半導体産業等にて、現在のシリコン半導体素子に代わる次世代半導体素子、次世代LSI、又は次世代光学素子等の用途として利用することができる。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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