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明細書 :リン酸カルシウム類微粒子を安定化させる方法、それを利用したリン酸カルシウム類微粒子の製造方法、およびその利用

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5261712号 (P5261712)
登録日 平成25年5月10日(2013.5.10)
発行日 平成25年8月14日(2013.8.14)
発明の名称または考案の名称 リン酸カルシウム類微粒子を安定化させる方法、それを利用したリン酸カルシウム類微粒子の製造方法、およびその利用
国際特許分類 C01B  25/32        (2006.01)
A61L  27/00        (2006.01)
FI C01B 25/32 B
C01B 25/32 Q
A61L 27/00 J
請求項の数または発明の数 10
全頁数 56
出願番号 特願2007-531002 (P2007-531002)
出願日 平成18年8月15日(2006.8.15)
国際出願番号 PCT/JP2006/316054
国際公開番号 WO2007/020928
国際公開日 平成19年2月22日(2007.2.22)
優先権出願番号 2005235499
優先日 平成17年8月15日(2005.8.15)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成21年8月7日(2009.8.7)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
発明者または考案者 【氏名】八尾 健
【氏名】日比野 光宏
【氏名】山口 誠二
【氏名】岡田 英孝
個別代理人の代理人 【識別番号】110000338、【氏名又は名称】特許業務法人原謙三国際特許事務所
審査官 【審査官】磯部 香
参考文献・文献 特表2005-518327(JP,A)
特開2005-059001(JP,A)
特開2005-126335(JP,A)
特表2002-532375(JP,A)
特開2005-097081(JP,A)
特開平04-187600(JP,A)
調査した分野 C01B 25/32
A61L 27/00
JSTPlus(JDreamII)
JST7580(JDreamII)
特許請求の範囲 【請求項1】
リン酸カルシウム類の成長核を製造する製造方法であって、
リン酸カルシウム類に対して過飽和でありかつリン酸カルシウム類が析出していない水溶液中にリン酸カルシウム類を析出させる第1工程であって、リン酸カルシウム類の析出が開始するまで、当該水溶液の無機イオン濃度、温度および/またはpHを上げるか、または当該水溶液に機械的な衝撃を加える、第1工程;および
上記水溶液中にリン酸カルシウム類の析出が開始した直後に、析出したリン酸カルシウム類微粒子の成長を止める第2工程
を包含することを特徴とする製造方法。
【請求項2】
第2工程が、リン酸カルシウム類微粒子が析出している水溶液の無機イオン濃度を低下させることによって行われることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
第2工程が、ろ過、希釈、イオン交換および遠心分離から選択された少なくとも1つを用いることによって行われることを特徴とする請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
第2工程が、リン酸カルシウム類微粒子が析出している水溶液のpHを下げることによって行われることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
第2工程の後にさらに透析および/またはろ過を行うことを特徴とする請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
第2工程が、リン酸カルシウム類微粒子が析出している水溶液から当該リン酸カルシウム類微粒子を分離することによって行われることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項7】
ろ過および/または遠心分離を用いることにより、リン酸カルシウム類微粒子を分離することを特徴とする請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
上記無機イオンが、カルシウムイオンおよびリン酸水素イオンの少なくとも一方であることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項9】
上記機械的な衝撃が超音波照射であることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項10】
請求項1に記載の製造方法によって製造されたリン酸カルシウム類の成長核が水または有機溶媒に分散されているリン酸カルシウム類微粒子分散液中に基材を配置する工程を包含することを特徴とする基材上にリン酸カルシウム類を成長させる方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、薬剤送達システム、バイオセンサー、バイオリアクター、人工臓器等の医療用デバイス、電子素子、光学素子、磁性体、および生体デバイス等に好適に利用されるリン酸カルシウム類微粒子を安定化させる方法、リン酸カルシウム類微粒子の製造方法、リン酸カルシウム類微粒子の製造方法、およびその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
リン酸カルシウム類は、生体物質(例えば、DNA、蛋白質、骨など)、細胞、微生物などに高い親和性を有していることが知られている。リン酸カルシウム類の中でも、アパタイト類は生体親和性を持ち、特にヒドロキシアパタイト類は高い親和性を持つ。さらに、ヒドロキシアパタイト類は、コラーゲンとともに生体の骨を構成する無機質成分として知られている。ヒドロキシアパタイト類は、このように、生体成分であること、生体との高い親和性があることなどから、生体適合性を有する機能性材料(例えば、人工歯、人工骨などの材料)として注目を浴びている。
【0003】
例えば、リン酸カルシウム類であるヒドロキシアパタイトを含む構造体(ヒドロキシアパタイト構造体)を細胞、微生物などの生体と複合させることによって、これらの生体が有するセンシング機能、物質生産機能、生理機能を利用するバイオセンサー、バイオリアクター、人工臓器などを作製することができると考えられている。
【0004】
このようなヒドロキシアパタイト構造体の製造方法として、水溶液反応による湿式法、高温での固相反応を使用する乾式法、高温高圧下で単結晶の育成を行う水熱法、体内の環境に近い条件下でよってヒドロキシアパタイトを成長させるバイオミメティック法等が挙げられる。この中でも特にバイオミメティック法は、表面積が大きく、生体親和性および生体活性の高いヒドロキシアパタイト構造体を形成することができるという点で優れている。
【0005】
非特許文献1には、バイオミメティック法によってヒドロキシアパタイトを得る方法が具体的に開示されている。また、特許文献1には、バイオミメティック法によって目的の物質の周りをリン酸カルシウム類で覆う方法が記載されている。
【0006】
これらの文献にも記載されているが、リン酸カルシウム類の成長には、核となる種結晶が必要である。これらの文献では、擬似体液中でCaO-SiO2系ガラス粉末と樹脂フィルムとを接触させ、数日間放置することで、フィルム表面に種結晶を析出させる。そして、この種結晶を、リン酸カルシウム類の成長の核としている。
〔特許文献1〕
特開2005-59001号公報(2005年3月10日公開)
〔非特許文献1〕
Masami Tanahashi, et al., J. Am. Ceram. Soc., 77 (11) 2805-808 (1994)
上述のように、これまでは、リン酸カルシウム類の成長の核を得る方法として、上述したガラス粉末、および樹脂フィルム等の固体を用いて、この固体表面に核となる種結晶を析出させる方法が試みられてきた。しかし、このようなガラス粉末を用いる方法は、種結晶とこれら固体とを分離する工程を行う等、工程が煩雑になりがちであった。
【0007】
本発明は、これまで試みられることのなかったリン酸カルシウム類微粒子を安定化させる方法を提供するとともに、この方法の利用、例えばリン酸カルシウム類微粒子の製造方法等を提供することを目的とする。
【発明の開示】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、リン酸カルシウム類に対して過飽和な水溶液中に形成されたリン酸カルシウム類微粒子の成長を止めること、例えばリン酸カルシウム類微粒子を低無機イオン濃度の媒質で囲むことによって、当該リン酸カルシウム類微粒子を安定化させることができることを独自に見出し、本発明を完成するに至った。本発明は上記新規な知見に基づいて完成されたものであり、以下の発明を包含する。
(1)リン酸カルシウム類に対して過飽和な水溶液中に形成されたリン酸カルシウム類微粒子の成長を止めることによって、当該リン酸カルシウム類微粒子を安定化させる方法。
(2)リン酸カルシウム類微粒子を低無機イオン濃度環境下に置くことによって、当該リン酸カルシウム類微粒子の成長を止めることを特徴とする上記(1)に記載の方法。
(3)リン酸カルシウム類微粒子の置かれる環境中の無機イオン濃度を低下させることによって、当該リン酸カルシウム類微粒子を低無機イオン濃度環境下に置くことを特徴とする上記(2)に記載の方法。
(4)リン酸カルシウム類微粒子の置かれる環境から無機イオンを除くことによって、当該リン酸カルシウム類微粒子を低無機イオン濃度環境下に置くことを特徴とする上記(2)に記載の方法。
(5)透析、イオン交換、希釈、ろ過および遠心分離から選択された少なくとも1つを用いてリン酸カルシウム類微粒子を低無機イオン濃度環境下に置くことを特徴とする上記(2)に記載の方法。
(6)リン酸カルシウム類微粒子を含む微粒子形成溶液の無機イオン濃度を低下させることによって、当該リン酸カルシウム類微粒子の成長を止めることを特徴とする上記(1)に記載の方法。
(7)透析および希釈の少なくともいずれかを行うことによりリン酸カルシウム類微粒子を含む微粒子形成溶液の無機イオン濃度を低下させることを特徴とする上記(6)に記載の方法。
(8)リン酸カルシウム類微粒子を含む微粒子形成溶液から当該リン酸カルシウム類微粒子を分離することによって、当該リン酸カルシウム類微粒子の成長を止めることを特徴とする上記(1)に記載の方法。
(9)ろ過および遠心分離の少なくともいずれかを用いてリン酸カルシウム類微粒子を含む微粒子形成溶液から当該リン酸カルシウム類微粒子を分離することを特徴とする上記(8)に記載の方法。
(10)上記(1)~(9)のいずれかに記載の方法を一工程として含むことを特徴とするリン酸カルシウム類微粒子の製造方法。
(11)上記(10)に記載の製造方法によって製造されることを特徴とするリン酸カルシウム類微粒子。
(12)上記(11)に記載のリン酸カルシウム類微粒子を含むことを特徴とする微粒子含有組成物。
(13)上記(11)に記載のリン酸カルシウム類微粒子が水または有機溶媒に分散されていることを特徴とするリン酸カルシウム類微粒子分散液。
(14)上記(11)に記載のリン酸カルシウム類微粒子を核として、リン酸カルシウム類を成長させる方法。
(15)上記(14)に記載の方法を一工程として含むことを特徴とするリン酸カルシウム類含有組成物の製造方法。
(16)上記(15)に記載の製造方法によって製造されることを特徴とするリン酸カルシウム類含有組成物。
【0009】
本発明のさらに他の目的、特徴、および優れた点は、以下に示す記載によって十分わかるであろう。また、本発明の利益は、添付図面を参照した次の説明で明白になるだろう。

【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係るリン酸カルシウム類含有組成物の製造方法の一実施形態を示す工程図である。
【図2】本発明の実施例1に係るリン酸カルシウム類構造体の表面構造を示す走査電子顕微鏡写真である。
【図3】本発明の実施例1に係るリン酸カルシウム類構造体の表面構造を示す走査電子顕微鏡写真である。
【図4】本発明の実施例2に係るリン酸カルシウム類構造体の表面構造を示す走査電子顕微鏡写真である。
【図5】本発明の実施例2に係るリン酸カルシウム類構造体の表面構造を示す走査電子顕微鏡写真である。
【図6】本発明の実施例3に係るリン酸カルシウム類構造体の表面構造を示す走査電子顕微鏡写真である。
【図7】本発明の実施例3に係るリン酸カルシウム類構造体の表面構造を示す走査電子顕微鏡写真である。
【図8(a)】本発明の実施例11の(1)に係るリン酸カルシウム類構造体の表面構造を示す走査電子顕微鏡写真である。
【図8(b)】本発明の実施例11の(1)に係るリン酸カルシウム類構造体の表面構造を示す走査電子顕微鏡写真である。
【図8(c)】本発明の実施例11の(1)に係るリン酸カルシウム類構造体の表面構造のEDX分析結果を示すチャートである。
【図9(a)】本発明の実施例11の(2)に係るリン酸カルシウム類構造体の表面構造を示す走査電子顕微鏡写真である。
【図9(b)】本発明の実施例11の(2)に係るリン酸カルシウム類構造体の表面構造を示す走査電子顕微鏡写真である。
【図9(c)】本発明の実施例11の(2)に係るリン酸カルシウム類構造体の表面構造のEDX分析結果を示すチャートである。
【図10(a)】本発明の実施例11の(3)に係るリン酸カルシウム類構造体の表面構造を示す走査電子顕微鏡写真である。
【図10(b)】本発明の実施例11の(3)に係るリン酸カルシウム類構造体の表面構造を示す走査電子顕微鏡写真である。
【図10(c)】本発明の実施例11の(3)に係るリン酸カルシウム類構造体の表面構造のEDX分析結果を示すチャートである。
【図11(a)】本発明の実施例11の(4)に係るリン酸カルシウム類構造体の表面構造を示す走査電子顕微鏡写真である。
【図11(b)】本発明の実施例11の(4)に係るリン酸カルシウム類構造体の表面構造を示す走査電子顕微鏡写真である。
【図11(c)】本発明の実施例11の(4)に係るリン酸カルシウム類構造体の表面構造のEDX分析結果を示すチャートである。
【図12(a)】本発明の実施例11の(5)に係るリン酸カルシウム類構造体の表面構造を示す走査電子顕微鏡写真である。
【図12(b)】本発明の実施例11の(5)に係るリン酸カルシウム類構造体の表面構造を示す走査電子顕微鏡写真である。
【図12(c)】本発明の実施例11の(5)に係るリン酸カルシウム類構造体の表面構造のEDX分析結果を示すチャートである。
【図13(a)】本発明の実施例11の(6)に係るリン酸カルシウム類構造体の表面構造を示す走査電子顕微鏡写真である。
【図13(b)】本発明の実施例11の(6)に係るリン酸カルシウム類構造体の表面構造を示す走査電子顕微鏡写真である。
【図13(c)】本発明の実施例11の(6)に係るリン酸カルシウム類構造体の表面構造のEDX分析結果を示すチャートである。
【図14】比較例4におけるpH8.00に調整した1.0SBFを16日間静置して得られたリン酸カルシウム類微粒子の走査電子顕微鏡写真である。
【図15】比較例4におけるpH8.30に調整した1.0SBFを16日間静置して得られたリン酸カルシウム類微粒子の走査電子顕微鏡写真である。
【図16(a)】比較例4におけるpH8.00に調整した1.0SBFを16日間静置して得られたリン酸カルシウム類微粒子を核として用いた結果を示す走査電子顕微鏡写真である。
【図16(b)】比較例4におけるpH8.00に調整した1.0SBFを16日間静置して得られたリン酸カルシウム類微粒子を核として用いた結果を示す走査電子顕微鏡写真である。
【図16(c)】比較例4におけるpH8.00に調整した1.0SBFを16日間静置して得られたリン酸カルシウム類微粒子を核として用いた場合のEDX分析結果を示すチャートである。
【図17(a)】比較例4におけるpH8.30に調整した1.0SBFを16日間静置して得られたリン酸カルシウム類微粒子を核として用いた結果を示す走査電子顕微鏡写真である。
【図17(b)】比較例4におけるpH8.30に調整した1.0SBFを16日間静置して得られたリン酸カルシウム類微粒子を核として用いた場合のEDX分析結果を示すチャートである。
【図18】本発明の実施例12においてpH7.40に調整した1.0SBFを成長溶液として用いた結果を示す走査電子顕微鏡写真である。
【図19】本発明の実施例12においてpH7.50に調整した1.0SBFを成長溶液として用いた結果を示す走査電子顕微鏡写真である。
【図20】本発明の実施例12においてpH7.60に調整した1.0SBFを成長溶液として用いた結果を示す走査電子顕微鏡写真である。
【図21】比較例5における各pHの1.5SBFにおけるリン酸カルシウム類微粒子の生成を経時的にチンダル現象により確認した結果を示す図である。
【図22(a)】本発明の実施例13においてポリ乳酸球粒子を基材としてヒドロキシアパタイト類を成長させた結果を示す走査電子顕微鏡写真である。
【図22(b)】本発明の実施例13においてポリ乳酸球粒子を基材としてヒドロキシアパタイト類を成長させた結果を示す走査電子顕微鏡写真である。
【図22(c)】本発明の実施例13においてポリ乳酸球粒子を基材としてヒドロキシアパタイト類を成長させた場合のEDX分析結果を示すチャートである。
【図23(a)】本発明の実施例13のヒドロキシアパタイト類のカプセルの走査電子顕微鏡写真である。
【図23(b)】本発明の実施例13のヒドロキシアパタイト類のカプセルのEDX分析結果を示すチャートである。
【図24(a)】本発明の実施例13のヒドロキシアパタイト類のカプセルの走査電子顕微鏡写真である。
【図24(b)】本発明の実施例13のヒドロキシアパタイト類のカプセルのEDX分析結果を示すチャートである。
【図25(a)】本発明の実施例14において孔径0.1μmのろ紙により分離したリン酸カルシウム類微粒子を核とした場合のPLA微粒子表面の走査電子顕微鏡写真である。
【図25(b)】本発明の実施例14において孔径0.1μmのろ紙により分離したリン酸カルシウム類微粒子を核とした場合のPLA微粒子表面のEDX分析結果を示すチャートである。
【図26(a)】本発明の実施例14において孔径0.05μmのろ紙により分離したリン酸カルシウム類微粒子を核とした場合のPLA微粒子表面の走査電子顕微鏡写真である。
【図26(b)】本発明の実施例14において孔径0.05μmのろ紙により分離したリン酸カルシウム類微粒子を核とした場合のPLA微粒子表面のEDX分析結果を示すチャートである。
【図27】本発明の実施例15におけるリン酸カルシウム類微粒子分散エタノール溶液中のリン酸カルシウム類微粒子の走査電子顕微鏡写真である。
【図28(a)】本発明の実施例15においてPLA微粒子を基材としてヒドロキシアパタイト類を成長させた結果を示す走査電子顕微鏡写真である。
【図28(b)】本発明の実施例15においてPLA微粒子を基材としてヒドロキシアパタイト類を成長させた結果を示す走査電子顕微鏡写真である。
【図28(c)】本発明の実施例15においてPLA微粒子を基材としてヒドロキシアパタイト類を成長させた場合のEDX分析結果を示すチャートである。
【図29(a)】本発明の実施例15においてコラーゲン微粒子を基材としてヒドロキシアパタイト類を成長させた結果を示す走査電子顕微鏡写真である。
【図29(b)】本発明の実施例15においてコラーゲン微粒子を基材としてヒドロキシアパタイト類を成長させた結果を示す走査電子顕微鏡写真である。
【図29(c)】本発明の実施例15においてコラーゲン微粒子を基材としてヒドロキシアパタイト類を成長させた場合のEDX分析結果を示すチャートである。
【図30(a)】本発明の実施例16における条件1のPLA微粒子表面の走査電子顕微鏡写真である。
【図30(b)】本発明の実施例16における条件1のPLA微粒子表面のEDX分析結果を示すチャートである。
【図31(a)】本発明の実施例16における条件2のPLA微粒子表面の走査電子顕微鏡写真である。
【図31(b)】本発明の実施例16における条件2のPLA微粒子表面のEDX分析結果を示すチャートである。
【図32(a)】本発明の実施例16における条件3のPLA微粒子表面の走査電子顕微鏡写真である。
【図32(b)】本発明の実施例16における条件3のPLA微粒子表面のEDX分析結果を示すチャートである。
【図33(a)】本発明の実施例16における条件3のPLA微粒子表面の走査電子顕微鏡写真である。
【図33(b)】本発明の実施例16における条件3のPLA微粒子表面のEDX分析結果を示すチャートである。
【図34(a)】本発明の実施例16における条件4のPLA微粒子表面の走査電子顕微鏡写真である。
【図34(b)】本発明の実施例16における条件4のPLA微粒子表面のEDX分析結果を示すチャートである。
【図35(a)】本発明の実施例16における条件4のPLA微粒子表面の走査電子顕微鏡写真である。
【図35(b)】本発明の実施例16における条件4のPLA微粒子表面のEDX分析結果を示すチャートである。
【図36】本発明の実施例17において超音波を照射した1.0SBF(pH7.70)におけるリン酸カルシウム類微粒子の生成を経時的にチンダル現象により確認した結果を示す図である。
【図37(a)】本発明の実施例17における超音波照射直後の1.0SBF(pH7.70)のろ過物の走査電子顕微鏡写真である。
【図37(b)】本発明の実施例17における超音波照射直後の1.0SBF(pH7.70)のろ過物の走査電子顕微鏡写真である。
【図37(c)】本発明の実施例17における超音波照射直後の1.0SBF(pH7.70)のろ過物のEDX分析結果を示すチャートである。
【図38(a)】本発明の実施例17における超音波照射しなかった1.0SBF(pH7.70)のろ過物の走査電子顕微鏡写真である。
【図38(b)】本発明の実施例17における超音波照射しなかった1.0SBF(pH7.70)のろ過物のEDX分析結果を示すチャートである。

【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明は、リン酸カルシウム類微粒子を安定化させる方法、およびその利用に関するものである。そこで、以下ではまず、リン酸カルシウム類微粒子を安定化させる方法について説明し、次いで、その利用について説明する。
【0012】
<1.リン酸カルシウム類微粒子を安定化させる方法>
従来、リン酸カルシウム類の成長の核を得るには、ガラス等を用いて、樹脂フィルムの表面にリン酸カルシウム類の微結晶を析出させ、その後樹脂フィルムを溶解させたり、超音波振動を与えたりしてこの微結晶と樹脂フィルムとを分離し、核となる微結晶を回収するという方法がとられてきた。
【0013】
しかし、本発明者らは鋭意検討の結果、このような工程を経ることなく、より簡便に、より固相形成活性が高く、純度も高いリン酸カルシウム類微粒子を得る方法を見出した。
【0014】
なお、本発明において、固相形成活性とは、リン酸カルシウム類を成長させる活性のことである。つまり、固相形成活性を有するとは、リン酸カルシウム類の成長の核となり得るという意である。
【0015】
本発明に係るリン酸カルシウム類微粒子を安定化させる方法は、リン酸カルシウム類に対して過飽和な水溶液中に形成されたリン酸カルシウム類微粒子の置かれている環境を低無機イオン濃度とすることによって当該リン酸カルシウム類微粒子の成長を止め、当該リン酸カルシウム類微粒子を安定化させる方法であり、これ以外の構成については特に限定されるものではない。つまり、その他の工程、反応条件、材料、製造機器・製造装置等については従来公知のものを好適に利用でき、特に限定されるものではない。以下に詳しく説明する。
【0016】
(リン酸カルシウム類)
リン酸カルシウム類としては、第一リン酸カルシウム(Ca(HPO)、第二リン酸カルシウム(CaHPO)、第三リン酸カルシウム(Ca(PO)、リン酸四カルシウム(Ca(POO)、リン酸八カルシウム(Ca(PO)、ヒドロキシアパタイト類を含むアパタイト類、アモルファスリン酸カルシウムなどがあり、いずれも結晶水をもつものも含む。
【0017】
(ヒドロキシアパタイト類)
ヒドロキシアパタイトは、化学式Ca10(PO)(OH)で表される化合物をいう。ヒドロキシアパタイト類とは、ヒドロキシアパタイト、または、その構成元素が置換および/または欠損しているものをいう。ヒドロキシアパタイト類は、例えば、ヒドロキシアパタイトを構成する元素または基の一部が、Na、Kなどの周期律表第I族の元素、Mg、Znなどの周期律表第II族の元素、F、Clなどの周期律表第VII族の元素;CO2-、HPO2-、SO2-などの基で置換されていてよい。更に、希土類により置換されていてもよい。このようなヒドロキシアパタイト類は、リン酸カルシウム類を形成するための溶液(リン酸カルシウム類形成溶液)中に含まれる種々の元素あるいは基に由来する。
【0018】
(リン酸カルシウム類微粒子)
本発明に係るリン酸カルシウム類微粒子(以下、単に微粒子と称することがある)は、上述したように、リン酸カルシウム類の析出を促進するものであり、より具体的にはリン酸カルシウム類の成長を誘起および促進する微粒子である。
【0019】
本発明に係るリン酸カルシウム類微粒子は、リン酸カルシウム類を含む粒子であって、リン酸カルシウム類を成長させることができるものであればよい。なお、リン酸カルシウム類微粒子は、リン酸カルシウム類以外の物質を含んでいてもよい。言い換えると、リン酸カルシウム類の成長の核となることができるものであればよい。また、その大きさおよび形状等も特に限定されない。
【0020】
また、微粒子は、後述のリン酸カルシウム類の製造に用いる場合は、目的とするリン酸カルシウム類と同一又は類似の原子間隔を有するものであればよく、目的とするリン酸カルシウム類含有組成物中のリン酸カルシウム類部分と、化学組成が異なっていてもよい。
【0021】
また、リン酸カルシウム類微粒子の大きさは、リン酸カルシウム類の成長を促進するという観点から、0.5nm~1mm、好ましくは0.6nm~100μm、より好ましくは0.7nm~10μmである。
【0022】
リン酸カルシウム類微粒子は、例えば、リン酸カルシウム類に対して過飽和な水溶液(後述の微粒子形成溶液)を調製し、そのpHを調整することによって、形成することができる。リン酸カルシウム類微粒子の形成方法については後述する。
【0023】
(本発明に係る方法)
本発明者らは、リン酸カルシウム類に対して過飽和な水溶液中に形成されたリン酸カルシウム類微粒子を低無機イオン濃度環境下に置くことによって当該リン酸カルシウム類微粒子の成長を止め、当該リン酸カルシウム類微粒子を安定化させることができることを見出した。なお、「リン酸カルシウム類微粒子を安定化させる」とは、リン酸カルシウム類微粒子を、固相形成活性を有する状態に保つことを意味するものである。したがって、「リン酸カルシウム類微粒子を安定化させる方法」は、「リン酸カルシウム類微粒子を、固相形成活性を有する状態を維持しながら長期間保存する方法」であるといえる。
【0024】
無機イオン、特にリン酸水素イオンおよび/またはカルシウムイオンが存在すると、リン酸カルシウム類微粒子が成長し、その結果、リン酸カルシウム類微粒子の固相成長活性が低下するか失われると考えられる。本発明の方法によると、リン酸カルシウム類微粒子を低無機イオン濃度環境下に置くことによって、リン酸カルシウム類微粒子が成長することを防ぐので、リン酸カルシウム類微粒子を安定化させ、長期間保存することができると考えられる。
【0025】
ただし、このメカニズムはあくまでも仮説であり、このメカニズム以外によっても、低無機イオン濃度環境下に置くことによってリン酸カルシウム類微粒子が固相形成活性を有する状態で保たれるのであれば、本発明に含まれる。
【0026】
つまり、本発明において、「リン酸カルシウム類微粒子を安定化させる」とは、例えばリン酸カルシウム類微粒子の成長を止めることによって、リン酸カルシウム類微粒子の固相成長活性を保持することであってもよい。
【0027】
つまり、本発明の方法は、最終的にリン酸カルシウム類微粒子の置かれる環境を、リン酸カルシウム類微粒子を成長させない程度の低無機イオン濃度にすればよく、低無機イオン濃度に至るまでの過程については何ら限定されるものではない。
【0028】
なお、リン酸カルシウム類微粒子の置かれる環境とは、気体、液体、または固体のいずれであってもよく、さらに真空であってもよく、特に限定されない。なお、リン酸カルシウム類微粒子の置かれる環境のことを、「媒質」と称することがある。リン酸カルシウム類微粒子が気体、液体、固体中に分散しているときは、この気体、液体、固体が、それぞれ「媒質」となる。なお、本実施の形態中では、説明の便宜上、リン酸カルシウム類微粒子が真空中に置かれている場合も、媒質中に分散されているとみなす場合がある。
【0029】
本発明において、「リン酸カルシウム類微粒子を低無機イオン環境下に置く」方法としては、リン酸カルシウム類微粒子の置かれる環境中の無機イオン濃度を低下させる方法が含まれる。
【0030】
より詳しく述べると、「リン酸カルシウム類微粒子の置かれる環境中の無機イオン濃度を低下させる」としては、リン酸カルシウム類微粒子の置かれる環境から無機イオンを除く;リン酸カルシウム類微粒子の周囲の媒質を希釈する;リン酸カルシウム類微粒子を低無機イオン濃度環境下に移す、等の方法が挙げられる。
【0031】
リン酸カルシウム類微粒子の置かれる環境から無機イオンを除く方法としては、透析、多重透析および/またはイオン交換樹脂等によって無機イオンの少なくとも一部を除くことが挙げられる。
【0032】
また、リン酸カルシウム類微粒子の周囲の媒質を希釈するとは、具体的には、リン酸カルシウム類微粒子を含む溶液に蒸留水等を加えることによって無機イオン濃度を低下させることであってもよい。
【0033】
また、リン酸カルシウム類微粒子を低無機イオン濃度環境下に移すとは、具体的には、リン酸カルシウム類微粒子を囲む媒質を、当該媒質より低無機イオン濃度の媒質に置換することであってもよい。次のような方法が挙げられる。まず、リン酸カルシウム類微粒子を囲む第一の媒質から、ろ過または遠心分離等によってリン酸カルシウム類微粒子を分離する。このように分離するだけでも、リン酸カルシウム類微粒子を囲む媒質は、低無機イオン濃度である第二の媒質、すなわち空気に置換されたといえる。このように分離されたリン酸カルシウム類微粒子は、そのまま空気中で保管してもよく、液体等の第二の媒質と混合されてもよい。また、リン酸カルシウム類微粒子を真空中に置くことによって、低無機イオン環境下に置いてもよい。
【0034】
さらに具体的には、上記リン酸カルシウム類微粒子は、後述する微粒子形成溶液中で形成された微粒子であってもよい。この場合、リン酸カルシウム類微粒子を含む微粒子形成溶液の無機イオン濃度を低下させることによって、当該リン酸カルシウム類微粒子を安定化させることができる。このとき用いられる方法としては、透析、多重透析および/またはイオン交換樹脂等によって無機イオンの少なくとも一部を除く;リン酸カルシウム類微粒子を含む溶液に蒸留水等を加えることによって無機イオン濃度を低下させる等が挙げられる。
【0035】
また、リン酸カルシウム類微粒子を含む微粒子形成溶液から当該リン酸カルシウム類微粒子を分離することによって、当該リン酸カルシウム類微粒子を安定化させることができる。分離されたリン酸カルシウム類微粒子は、そのまま空気中で保管してもよく、他の液体等の媒質と混合してもよい。分離の方法としては、ろ過、遠心分離等が挙げられる。
【0036】
なお、透析によって微粒子を囲む媒質から無機イオンを除く場合、使用する透析チューブは求める微粒子の大きさによって適宜変更可能である。つまり、より小さな微粒子を求めるときは分画分子量を小さく、より大きな粒子を求めるときは分画分子量の大きい透析チューブを使用すればよい。また、できるだけ早く無機イオン濃度を低下させるという観点からは透析チューブの分画分子量は大きいほうがよいが、透析外液への微粒子の流失も鑑みて、適宜設定すればよい。
【0037】
また、低無機イオン濃度とは、リン酸カルシウム類微粒子を安定に保つことができる状態であればよく、特に限定されるものではない。つまり、リン酸カルシウム類微粒子の置かれる環境に存在する無機イオンの種類およびその濃度等が、リン酸カルシウム類微粒子の固相成長活性を低下させないものであればよい。濃度が低いことが特に好ましい無機イオンとしては、リン酸水素イオンおよびカルシウムイオンが挙げられる。具体的には、例えば、リン酸カルシウム類微粒子を水溶液で安定化させる場合、低無機イオン濃度とは「リン酸水素イオンの濃度とカルシウムイオンの濃度がリン酸カルシウム類の溶解度積以下となる濃度」である。
【0038】
また、他の無機イオンであっても、リン酸カルシウム類微粒子の固相形成活性を低下させるようなイオンの濃度は低く設定されることが好ましい。また、このような無機イオンの濃度は、より低く設定されることが好ましいが、リン酸カルシウム類微粒子の固相形成活性を保つことができる濃度であれば、特に限定されない。これらイオンの他にも、すべての無機イオンの濃度ができるだけ低いことが好ましい。しかし、リン酸カルシウム類微粒子を成長させず、その固相形成活性を低下させないイオンは、リン酸カルシウム類微粒子を囲む媒質中に存在してもよい。
【0039】
なお、本発明において、リン酸水素イオンとは、水溶液中でPO3-を生成し得るリン酸の総称である。つまり、本発明においては、リン酸(HPO)、リン酸二水素イオン(HPO)、リン酸水素イオン(HPO2-)、およびリン酸イオン(PO3-)を総括してリン酸水素イオンと称するものとする。また2個以上のPO四面体が重合して生成した縮合リン酸も含まれる。
【0040】
本方法によって安定化されたリン酸カルシウム類微粒子は、高い固相形成活性を保持したまま、長期間保存することが可能である。また、後述するようにそれ自体非常に有用であって、微粒子含有組成物として用いることもでき、さらにはリン酸カルシウム類含有組成物の製造に好適に用いることができる。
【0041】
また、本方法のこの他の構成、およびより具体的な構成については、下記<2>欄の(安定化工程)で述べる。
【0042】
以上に述べたように、本発明に係るリン酸カルシウム類微粒子を安定化させる方法は、リン酸カルシウム類微粒子の固相形成活性を減ずることなく、長期間保存することを可能とする。また、この方法は、後述するリン酸カルシウム類微粒子の製造方法の一工程としても好適に利用できる。この製造方法は、従来の製造方法のようにガラス粉末等の不溶物の添加を必要としないので、簡便に、かつ大量に、生体親和性および固相形成活性の高いリン酸カルシウム類微粒子を製造することができる。リン酸カルシウム類微粒子の製造方法については、後述する。
【0043】
本方法によって安定化されたリン酸カルシウム類微粒子は、そのまま保存または使用することもできるし、リン酸カルシウム類微粒子を安定に保つことができるような母材中に分散させて微粒子含有組成物とすることもできる。このとき用いる母材、および微粒子含有組成物については後述する。
【0044】
<2.リン酸カルシウム類微粒子の製造方法>
本発明のリン酸カルシウム類微粒子の製造方法は、上記<1>欄のリン酸カルシウム類微粒子を安定化させる方法を、一工程(安定化工程)として含むものであればよい。
【0045】
以下では、このような製造方法の一例として、安定化工程に微粒子形成溶液からリン酸カルシウム類微粒子を形成する微粒子形成工程を含む製造方法について説明する。
【0046】
図1に示すように、本実施の形態に係るリン酸カルシウム類微粒子の製造方法は、リン酸カルシウム類微粒子を製造する微粒子形成工程と、このリン酸カルシウム類微粒子を安定化させる安定化工程とを含む。
【0047】
(微粒子形成工程)
微粒子形成工程は、微粒子形成溶液を調製し、必要に応じてこの微粒子形成溶液に対して超音波処理等の更なる処理を施すことによって、上記<1>欄で述べたリン酸カルシウム類微粒子を形成する工程である。
【0048】
微粒子形成溶液は、上記<1>欄で述べたリン酸カルシウム類微粒子を形成可能な水溶液つまりカルシウムイオン(Ca2+)およびリン酸水素イオンを含む水溶液であればよく、その他の組成および溶質の濃度等は特に限定されない。
【0049】
リン酸カルシウム類微粒子を形成するには、溶液中のイオンの濃度、特にカルシウムイオン(Ca2+)およびリン酸水素イオンの濃度、さらにはpHが適切に設定されていることが重要である。pHが高くなると(より塩基性になると)、溶液中のリン酸カルシウム類の微粒子は大きくなり、凝集沈殿が起きやすくなる。一方、pHが低くなると(より酸性になると)微粒子が小さくなり、さらにpHが低くなると微粒子は形成されない。このように、pHで微粒子の生成およびサイズが調節される。つまり、微粒子形成工程とは、微粒子形成溶液のpHを調整する工程を含んでいてもよい。
【0050】
微粒子形成溶液は、具体的には、カルシウムイオンを0.02~25mM、リン酸水素イオンを0.01~10mM含有し、pHが4~9であることが好ましい。より好ましくはカルシウムイオンを0.2~20mM、リン酸水素イオンを0.1~8mM含み、pHは6.2~8.0である。さらに好ましくは、カルシウムイオンを1.2~5mM、リン酸水素イオンを0.5~2mM含み、pHは7.2~7.9である。pHは約7.4~7.8の間で調整されることが特に好ましい。
【0051】
リン酸カルシウム類形成溶液の調製には、リン酸水素二カリウム・三水和物及び塩化カルシウムを用いることが好ましい。リン酸カルシウム類形成溶液のpHは、適切な緩衝液、例えばNHC(CHOH)を用い、更に塩酸のような酸を加えて調整することが好ましい。
【0052】
生体適合性に優れたリン酸カルシウム類微粒子を形成するためには、カルシウムイオンとリン酸水素イオンに加えて、例えば、塩化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム・六水和物、硫酸ナトリウムなどをさらに含む溶液であって、その組成が人体の血漿中の無機イオン濃度に類似する、いわゆる擬似体液(SBF)とすることが好ましい。擬似体液を調製する場合、ナトリウムイオン(Na)を1.4~1420mM、カリウムイオン(K)を0.05~50mM、マグネシウムイオン(Mg2+)を0.01~15mM、塩素イオン(Cl)を1.4~1500mM、炭酸水素イオン(HCO)を0.04~45mM、硫酸イオン(SO2-)を5.0×10-3~5mM含有していてもよい。好ましくは、ナトリウムイオンを14~1140mM、カリウムイオンを0.5~40mM、マグネシウムイオンを0.1~12mM、塩素イオンを14.5~1200mM、炭酸水素イオンを0.4~36mM、硫酸イオンを0.05~4mM含む。より好ましくは、ナトリウムイオンを70~290mM、カリウムイオンを2.5~10mM、マグネシウムイオンを0.7~3.0mM、塩素イオンを70~300mM、炭酸水素イオンを2.0~9.0mM、硫酸イオンを0.2~1.0mM含有していてもよい。
【0053】
なお、特に無機イオン濃度が体液と近いSBFを、1.0SBFと呼ぶ。1.0SBFは、無機成分の組成が、ナトリウムイオンを142.0mM、カリウムイオンを5.0mM、マグネシウムイオンを1.5mM、カルシウムイオンを2.5mM、塩素イオンを148.8mM、炭酸水素イオンを4.2mM、リン酸水素イオンを1.0mM、硫酸イオンを0.5mM含む。
【0054】
微粒子形成溶液は、リン酸カルシウム類に対して過飽和な溶液であれば、溶液を調製するだけで、特に他の処理を施すことなく微粒子を形成することができる。なお、本発明における過飽和とは、pHの影響を鑑みた状態である。すなわち、同濃度、同温度でも、pHによって溶媒に対するリン酸カルシウム類の溶解度は異なってくる。ここでいう過飽和とは、単に溶質の濃度のみを規定する文言ではなく、このようにpHを含めた条件が、リン酸カルシウム類微粒子を形成するのに十分な条件を満たしていることを示す。
【0055】
ただし、このように過飽和とはいえない場合、つまり、溶質の濃度および/またはpH等の条件によって、過飽和ではない状態にある場合、または、過飽和でもリン酸カルシウム類微粒子が形成されていない場合であっても、析出誘起物質の添加および/または超音波処理等、微粒子の形成を促進する処理を施すことによって、微粒子を形成することができる。これらの技術について、以下に具体的に述べる。
【0056】
析出誘起物質とは、リン酸カルシウム類の析出を誘起する物質の意である。このような析出誘起物質としては、例えば、リン酸カルシウム類、CaO-SiO系ガラス、リン酸系ガラス、NaO-CaO-SiO-P系ガラス、NaO-KO-MgO-CaO-SiO-P-CaF系ガラス、MgO-CaO-SiO-P-CaF系結晶化ガラスなどの特定組成のガラス及び/又は結晶化ガラス、ウォラストナイトが好ましく用いられる。Si-OH基、Zr-OH基、Ti-OH基、Ta-OH基、PO基、COOH基などをその表面に有する物質も用いることができる。
【0057】
また、超音波によって微粒子の形成を促進することもできる。例えば、そのままでは微粒子が形成されない程度にpHの低い微粒子形成溶液に超音波処理を施すことによって、微粒子を形成することもできる。
【0058】
また、超音波には、リン酸カルシウム類微粒子を分散させる効果もある。この効果を利用することで、超音波によってリン酸カルシウム類微粒子の凝集を防ぎ、固相形成活性の高いリン酸カルシウム類微粒子を製造することができる。
【0059】
また、リン酸カルシウム類に対して過飽和な微粒子形成溶液に対しても、pHの調整、超音波等を行うことで、微粒子の形成促進や、微粒子径の調整等を行うことができる。
【0060】
(安定化工程)
安定化工程は、リン酸カルシウム類微粒子を安定化させる工程であり、この工程としては、上記<1>欄で述べたリン酸カルシウム類微粒子を安定化させる方法を適用することができる。
【0061】
なお、本実施の形態に係る製造方法では、この安定化工程は、上述の微粒子形成工程によって形成されたリン酸カルシウム類微粒子に対して行うものとするが、本発明はこれに限定されない。
【0062】
また、安定化工程と微粒子形成工程とは分離して行う必要はなく、同時に(並行して)行ってもよい。また、上述の微粒子形成工程において説明したpHの調整による微粒子径の調整、析出誘起物質の添加、および超音波処理は、本安定化工程にも適用可能である。
【0063】
具体的には、安定化工程に供する微粒子形成溶液のpHは、目的とするリン酸カルシウム類微粒子の大きさによって変更すればよく、より小さなリン酸カルシウム類微粒子を求めるときはpHを低く、より大きなリン酸カルシウム類微粒子を求めるときはpHを高くすればよい。
【0064】
また、微粒子形成溶液に析出誘起物質を加えた状態で安定化工程を行い、リン酸カルシウム類微粒子の形成を促進してもよい。また、安定化工程中に超音波処理を施すことで、リン酸カルシウム類微粒子の形成を促進したり、微粒子を分散させたりしてもよい。
【0065】
また、安定化工程は、微粒子形成工程を行ってからすぐに(または同時に)行われることが好ましい。つまり、リン酸カルシウム類微粒子は、形成されてからできるだけ早く低無機イオン濃度環境下に置かれることが好ましい。これによって、固相形成活性の特に高い微粒子が得られる。微粒子を高無機イオン濃度環境下(例えば微粒子形成溶液中)に放置すると、微粒子が成長してしまい、その結果、固相形成活性が低下してしまう。なお、ここでいう高無機イオン濃度とは、特に、リン酸水素イオンおよびカルシウムイオン濃度の高い状態をいう。
【0066】
安定化工程を経ることによって安定化された微粒子は、必要に応じて更なる工程を経て、目的の形態に加工される。
【0067】
本発明のリン酸カルシウム類微粒子の製造方法は、従来のガラス粉末を用いる方法より工程が単純化でき、容易な操作によって、固相形成活性の高いリン酸カルシウム類微粒子を大量に製造できる。例えば、擬似体液を単に透析することによって、リン酸カルシウム類微粒子を製造することができる。また、ガラス粉末の混入が好ましくないような場合にも、本製造方法によってリン酸カルシウム類微粒子を得ることができる。
【0068】
(微粒子含有組成物)
本発明において、微粒子含有組成物とは、上記方法によって製造されたリン酸カルシウム類微粒子を含む物質であればよく、その他の組成、リン酸カルシウム類微粒子の含有量、リン酸カルシウム類微粒子の含有形態(混合、分散等)等は特に限定されない。
【0069】
微粒子含有組成物としては、リン酸カルシウム類微粒子を母材中に分散させたもの、すなわち分散物であってもよい。このとき用いられる母材は、微粒子含有組成物の使用目的等に合わせて、適宜変更すればよい。
【0070】
用いられる母材は、気体、液体、または固体のいずれであってもよい。例えば液体である場合は、水溶液であってもよく有機溶媒であってもよい。より具体的には、アセトン等のケトン、エタノールおよびメタノール等のアルコール、エーテル、灯油等を用いることができる。リン酸カルシウム類微粒子が水または上記に例示した有機溶媒に分散されているリン酸カルシウム類微粒子分散液は、固相形成活性の高いリン酸カルシウム類微粒子を長期間保存するための保存液として非常に有用である。
【0071】
また、固体としては、ゴム、プラスチックス、金属、セラミックス、およびガラス等が含まれ、温度等の条件によって液体になり得る物質であって、微粒子を分散させることができるものが好ましい。また、母材は、ゲルに代表されるように、弾性と固さをもってゼリー状に固化したものであってもよい。また、気体に微粒子を分散させ、エアロゾルとすることもできる。このとき用いられる母材は、微粒子含有組成物の使用目的等に合わせて、適宜変更すればよい。
【0072】
また、この母材は、上記<1>欄で述べたリン酸カルシウム類微粒子を安定化させる方法において、リン酸カルシウム類微粒子を囲む低無機イオン濃度の媒質として用いることもできる。つまり、上記方法(言い換えると安定化工程)において、リン酸カルシウム類微粒子をこれらの母材に分散させることによって、リン酸カルシウム類微粒子を安定化させることができる。言い換えると、安定化工程によって微粒子含有組成物を製造することができるのである。
【0073】
なお、微粒子含有組成物としては、例えば、上述の透析または希釈等の安定化工程を経た微粒子形成溶液も含まれる。
【0074】
また、母材が液体である場合は、この液体を蒸発および/またはろ過等によって除くことにより、リン酸カルシウム類微粒子の濃度を調節したり、母材を除去することによって微粒子を取り出したりすることができる。
【0075】
本発明に係るリン酸カルシウム類微粒子は、固相形成活性が高いので、後述のリン酸カルシウム類の成長、およびリン酸カルシウム類含有組成物の製造に、好適に用いることができる。
【0076】
さらに、本発明に係るリン酸カルシウム類微粒子は、生体内でその表面に骨類似のリン酸カルシウム類の層を形成し、繊維状の組織を介することなしに生体骨と直接結合することができる。すなわち、生体活性を有する。また、本発明に係るリン酸カルシウム類微粒子は、生体親和性も高い。
【0077】
そのため、本発明に係るリン酸カルシウム類微粒子および微粒子含有組成物は、特に歯および骨の障害・疾患の治療に好適に用いることができる。具体的な使用方法としては、微粒子含有組成物(例えばゲル状の組成物)を、歯または骨に付着させる。すると、微粒子含有組成物が付着した箇所でリン酸カルシウム類の成長が起こる。これを利用して歯または骨を再生させることができる。また、リン酸カルシウム類微粒子を含む医薬品および歯磨き等、リン酸カルシウム類微粒子を含む種々の工業製品も、本発明の微粒子含有組成物に含まれる。
【0078】
<3.リン酸カルシウム類を成長させる方法>
本発明に係るリン酸カルシウム類を成長させる方法は、上記<2>欄の製造方法によって製造された微粒子を核として、その周りにリン酸カルシウム類を成長させる方法であればよく、他の工程等は限定されない。
【0079】
成長させる方法としては、従来のリン酸カルシウム類の成長方法を好適に利用することができる。つまり、湿式法、高温での固相反応を使用する乾式法、高温高圧下で単結晶の育成を行う水熱法、バイオミメティック法等のいずれも用いることができる。
【0080】
リン酸カルシウム類を成長させるには、後述のリン酸カルシウム類成長溶液を、リン酸カルシウム類微粒子に接触させればよい。こうすることによって、リン酸カルシウム類微粒子を核として、リン酸カルシウム類が成長する。
【0081】
リン酸カルシウム類成長溶液としては、上記<2>欄で述べた微粒子形成溶液と同様の組成の溶液を用いることができる。また、その他にも、リン酸水素イオンおよびカルシウムイオンを含む溶液を用いることができる。
【0082】
また、このリン酸カルシウム類成長溶液には、有機高分子が溶解されていてもよい。有機高分子としては、例えば、コラーゲン、キチン、ポリ乳酸、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタラート、ポリメタクリル酸メチル、ポリプロピレン、ポリスチレン、シリコーンなどが用いられ、特にコラーゲン、キチンなどの生体高分子が好ましく用いられる。例えばコラーゲンを用いた場合、本方法によって成長したリン酸カルシウム類、すなわち後述のリン酸カルシウム類含有組成物は、人工骨材として好適に用いられる。
【0083】
また、リン酸カルシウム類成長溶液中のナトリウムイオンや塩化物イオン等、共存イオンの濃度は、リン酸カルシウム類の成長速度に影響するので、目的に合わせて適宜設定すればよい。また、濃度の他に、pH、温度を変化させる等によっても成長速度を調整することができる。成長速度を遅くすると、成長したリン酸カルシウム類は緻密なものとなる。
【0084】
また、リン酸カルシウム類成長溶液をリン酸カルシウム類微粒子に接触させる方法としては、特に限定されない。例えば、リン酸カルシウム類微粒子またはリン酸カルシウム類微粒子が付着した基材を、リン酸カルシウム類成長溶液に浸漬する、またはリン酸カルシウム類成長溶液を噴射する等の方法を用いればよい。より具体的な方法については、下記<4>欄で述べる。
【0085】
また、リン酸カルシウム類を成長させる方法としては、特にバイオミメティック法が好ましい。バイオミメティック法は、体内の環境に近い状態でリン酸カルシウム類を成長させる方法である。体内の環境に近い状態とは、上述の擬似体液を用いると共に、温度条件を体温である36~37℃程度とすることを意味する。ただし、本発明ではこれに限定されるものではない。本発明のリン酸カルシウム類を成長させる方法では、擬似体液を用いることが特に好ましいが、温度は特に限定されない。
【0086】
バイオミメティック法によって成長したリン酸カルシウム類は、生体アパタイトと呼ばれ、リン酸基の部分が一部炭酸イオンに置き換わっている等の特性をもつ。そのため、バイオミメティック法は、生体親和性および生体活性の高いリン酸カルシウム類を形成することができるので、生体に用いるリン酸カルシウム類含有組成物の製造方法には適している。以下では、バイオミメティック法によってリン酸カルシウム類を成長させる方法について主に述べるが、もちろん、本発明はこれに限定されるものではない。
【0087】
<4.リン酸カルシウム類含有組成物およびその製造方法>
(製造方法)
本発明に係るリン酸カルシウム類含有組成物の製造方法は、上記<3>欄に記載の方法を一工程(成長工程)として含めばよく、他の工程等は、特に限定されない。なお、リン酸カルシウム類含有組成物については後で詳細に述べる。
【0088】
以下に、本製造方法の一例を図1に基づいて説明する。図1は、本実施の形態に係るリン酸カルシウム類含有組成物の製造方法を示す工程図である。
【0089】
図1に示すように、本実施の形態に係る製造方法は、リン酸カルシウム類微粒子を目的の位置に配置する配置工程、配置工程を経たリン酸カルシウム類微粒子の周りにリン酸カルシウム類を成長させる成長工程とを含む。なお、図1にはリン酸カルシウム類微粒子の製造工程(微粒子製造工程)も記したが、この工程は上記<2>欄で説明した微粒子の製造方法を適用することができるので、本欄ではその説明を省略する。
【0090】
(配置工程)
本実施の形態の配置工程としては、リン酸カルシウム類微粒子を目的の位置に配置することができる工程であればよく、その方法は限定されない。
【0091】
なお、目的の位置に配置することには、リン酸カルシウム類微粒子を基材に付着させることも、または基材等を用いずに単独でリン酸カルシウム類微粒子を集合させることも含まれる。
【0092】
基材としては、硬度、形状、組成、大きさ等、特に限定されるものではなく、ゲル、金属、セラミックス、タンパク質、DNA等の様々な物質を用いることができる。
【0093】
また、基材によっては、表面にリン酸カルシウム類微粒子が付着しにくいものもある。このような場合は、基材に対して、プラズマ、アブレーション、紫外線照射、および/またはグラフト重合等による表面改質に代表されるような表面加工を施せばよい。
【0094】
また、基材は、完成したリン酸カルシウム類含有組成物に含まれてもよいし、配置工程後または成長工程後に除かれてもよい。
【0095】
リン酸カルシウム類微粒子を配置する方法としては、付着、吸着、相の界面への配置、噴射、塗布、誘電泳動、電気泳動、クロマトグラフィー、遠心力、および/または磁力等を利用することができる。
【0096】
相の界面への配置における相の組み合わせとしては、液-液、固-液、気-固または気-液等、特に限定されない。固-液の界面を利用する方法としては、浸漬が挙げられる。浸漬とは、リン酸カルシウム類微粒子が分散した溶液に基材を浸漬することで、基材の表面にリン酸カルシウム類微粒子を付着させる方法である。また、固-固の界面を利用する方法としては、リン酸カルシウム類微粒子を含んだゲルと基材とを接触させることで、基材表面にカルシウム類微粒子を配置させる方法がある。また、リン酸カルシウム類微粒子を気体中に分散させ、この気体と基材とを接触させることで、基材の表面(気-固の界面)にリン酸カルシウム類微粒子を集合させることができる。また、液-液、気-液等、固体(基材)を用いない方法では、基材を用いることなくリン酸カルシウム類微粒子を単独で集合させることができる。
【0097】
噴射としては、インクジェット等の手段を用いて分散液を基材に噴射することによって、目的の位置にリン酸カルシウム類微粒子を配置する方法が挙げられる。また、リン酸カルシウム類微粒子を分散させた液体を、基材に塗布することによっても、リン酸カルシウム類微粒子を基材上に配置することが可能である。
【0098】
また、誘電泳動によると、基材なしにリン酸カルシウム類微粒子を目的の位置に配置することができる。
【0099】
また、上述したこれらの方法を用いて、パターンを形成することもできる。この場合は、例えば基材の表面にレジストによるパターンを形成しておいてもよい。そして、浸漬等によって基材にリン酸カルシウム類微粒子を付着させた後、レジストを有機溶剤によって溶解することで、レジスト上のリン酸カルシウム類微粒子を除く。これによって、基材表面にはリン酸カルシウム類微粒子によるパターンが形成されることとなる。このようにしてリン酸カルシウム類微粒子を付着させた基材に対して、後述の成長工程を行うことによって、基材表面に、リン酸カルシウム類からなる所望のパターンを形成することができる。後述の成長工程を行ってから、レジスト上の余剰のリン酸カルシウム類を除いてもよいが、成長工程の前に余剰のリン酸カルシウム類を除いた方が、より精確なパターン形成が可能であるため好ましい。
【0100】
また、配置工程において、リン酸カルシウム類微粒子を蒸発しにくい遅乾性の有機溶媒に分散させて用いた場合、例えば、リン酸カルシウム類微粒子を分散させた遅乾性の有機溶媒に基材を浸漬させた場合、配置工程後の基材を、速乾性のある有機溶媒で洗浄することによって、遅乾性の有機溶媒を除くこともできる。
【0101】
また、配置工程で、リン酸カルシウム類微粒子を液体中に分散させて用いる(基材に塗布する等)場合、液体は、乾燥した後に皮膜を形成するような物質であってもよい。皮膜表面を溶剤で溶かすことによって、リン酸カルシウム類微粒子を皮膜表面に露出させることもできる。
【0102】
(成長工程)
本製造方法における成長工程には、上記<3>欄で述べた「リン酸カルシウム類を成長させる方法」を好適に利用することができる。つまり、本工程は、上記配置工程によって目的の位置に配置されたリン酸カルシウム類微粒子を核として、その周囲にリン酸カルシウム類を成長させる工程である。
【0103】
上記<3>欄で述べたように、リン酸カルシウム類を成長させるには、リン酸カルシウム類成長溶液を配置されたリン酸カルシウム類微粒子に接触させればよい。このとき、微粒子に接触させるのは、リン酸カルシウム類成長溶液を含む物質であればよいので、それを含む液体、またはそれを含むゲル等が用いられる。
【0104】
接触させる方法としては、上記配置工程で基材上にリン酸カルシウム類微粒子を配置した場合は、基材ごとリン酸カルシウム類成長溶液に浸漬すればよい。また、上記配置工程でインクジェットを用いた場合は、インクジェットによって、リン酸カルシウム類微粒子供給と同時、または時間をずらしてリン酸カルシウム類成長溶液を供給してもよい。
【0105】
(リン酸カルシウム類含有組成物)
本発明に係るリン酸カルシウム類含有組成物としては、上述の製造方法によって製造されたリン酸カルシウム類を含むものであればよく、他の組成、リン酸カルシウム類の含有量等は特に限定されるものではない。
【0106】
リン酸カルシウム類は、生体親和性および生体活性に優れている。そのため、本発明に係るリン酸カルシウム類含有組成物は、医療の分野での利用に特に適している。また、上述の成長工程でリン酸カルシウム類成長溶液を用いると、生体内の化学組成に近いリン酸カルシウム類を備え、特に生体親和性および生体活性に優れたリン酸カルシウム類含有組成物を得ることができる。
【0107】
なお、本発明のリン酸カルシウム類含有組成物には、リン酸カルシウム類から、またはリン酸カルシウム類と他の物質との混合物からなる構造体(リン酸カルシウム類構造体)、および、リン酸カルシウム類構造体と他の物質(対象物)との複合体(リン酸カルシウム類複合体)も含まれる。
【0108】
具体的には、本発明に係るリン酸カルシウム類含有組成物としては、治療薬、検査薬、人工骨、人工歯、人工関節、経皮端子、人工軟組織、チップデバイス等の医療用製品、化粧品、パターン、およびマイクロマシーンを始めとして、種々の工業製品が含まれ、さらに、これら製品の材料も含まれる。また、リン酸カルシウム類構造体に細胞、微生物などの生体を担持させ、これらの生体が有するセンシング機能、物質生産機能、生理機能を利用するバイオセンサー、バイオリアクター、人工臓器等の医療用デバイスが挙げられる。また、本発明のリン酸カルシウム類含有組成物は、薬剤送達システム、電子素子、光学素子、磁性体、生体デバイス、クロマトグラムの充填材、または有機物・生体の吸着材等にも利用可能である。
【0109】
また、本発明に係るリン酸カルシウム類含有組成物は、細胞膜を通過することができ、そして細胞内で溶解され得るので、細胞内に対象物を導入する目的にも使用することが可能である。
【0110】
また、本発明に係るリン酸カルシウム類含有組成物は、食品用途、あるいは、コンクリートの崩壊防止などの建築用途にも用いられる。
【0111】
本発明に係るリン酸カルシウム類含有組成物が他の物質(対象物)との複合体である場合、対象物としては、薬剤(例えば、制癌剤、抗癌剤など)、放射性物質、抗体、抗酸化剤、治療目的のための磁性体、骨形成促進剤などの他、タンパク質、核酸(DNA、RNA)、酵素、栄養素、磁性体、金属、半導体、ガラス、セラミックス、カーボン材料(例えば、アモルファスカーボン)、ダイヤモンド、セッコウなどの塩、有機高分子、天然物、毒物、劇物、細胞、微生物などが挙げられる。対象物としては、さらに、マイクロマシーン、チップデバイス等の人工物も含まれる。これら対象物を含むリン酸カルシウム類複合体は、任意の場所(例えば、治療を必要とする場所)に配置されて、対象物の機能を発揮することができる。本発明のリン酸カルシウム類含有組成物は、特に骨部には安定にとどまる。
【0112】
食品用途としては、酸化防止剤(ビタミンC、ビタミンE、ごま油など)、抗菌剤(銀、タンニン、ショウガエキスなど)、防腐剤などの食品添加物と複合体を形成してもよい。
【0113】
あるいは、アルカリ剤、防カビ剤、殺菌剤などと複合体を形成した場合、これをコンクリート材料に練りこんで徐放することにより、中性化や鉄筋の錆び、硫黄酸化細菌、カビなどに起因する劣化を防止でき、コンクリート構造物の寿命を延長することもできる。
【0114】
リン酸カルシウム類複合体としては、対象物全体がリン酸カルシウム類構造体で被覆されていても、その一部が被覆されていてもよく、目的によって適宜設定すればよい。例えば、薬剤等の全体をリン酸カルシウム類構造体で覆った場合、言い換えると対象物を内包したリン酸カルシウム類複合体の場合、治療を必要とする場所で、徐々に薬剤(内包物)を放出することができる。そのため、長期間にわたって薬剤の効果を発揮させることができる。また、同様に、防腐剤等の食品添加物を内包したリン酸カルシウム類複合体は、長期にわたって食品中で内包物質を徐々に放出し、食品の劣化を長期間にわたって抑える効果がある。
【0115】
より詳しく述べると、バイオミメティック法で作られたリン酸カルシウム類は、多くの場合微細孔を有している場合が多い。微細孔を通して薬剤等が放出される。微細孔がない場合、体内でリン酸カルシウム類が徐々に溶けることにより、薬剤等が放出される。
【0116】
また、リン酸カルシウム類含有組成物が、放射性物質との複合体である場合は、溶ける必要がない。リン酸カルシウム類が骨と直接接合し、患部に安定にとどまり、放射線を照射することができる。
【0117】
なお、対象物は、上述の配置工程および成長工程で用いられた基材と同一であってもよい。つまり、対象物とリン酸カルシウム類との複合体は、上記成長工程によって形成されるものであってもよい。また、上記成長工程によって成長したリン酸カルシウム類を含む構造体を、対象物と別途複合させてもよい。
【0118】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0119】
〔実施例〕
以下、実施例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。本実施例で形成されたのはヒドロキシアパタイト類を含むリン酸カルシウム類である。以下、本実施例で形成されたリン酸カルシウム類を、単にヒドロキシアパタイト類と表記する。
【0120】
以下の実施例または比較例における「pH・・・に調整した1.0SBF」、「1.0SBFをpH・・・に調整した」、「1.0SBF(pH・・・)」等の記載は、1.0SBF(pH7.4)を調製後pHを・・・に調整した溶液を便宜的に表現したものである。1.5SBFおよび0.5SBFについても同様の表現が用いられている。
【0121】
〔実施例1〕
(A)1.5SBFの調製
1.5SBFは、無機イオン濃度が下記1.0SBF(擬似体液)の1.5倍のリン酸カルシウム類形成溶液である。なお、本実施例1では、この1.5SBFを、微粒子形成溶液およびリン酸カルシウム類成長溶液として用いた。
【0122】
蒸留水700mLに、NaClを11.999g、NaHCOを0.525g、KClを0.336g、KHPO・3HOを0.342g、MgCl・6HOを0.458g、1M塩酸を52.5ml、CaClを0.417g、NaSOを0.107g、トリスヒドロキシメチルアミノメタンを9.086g溶解させ、36.5℃でpHが7.4となるように、1M塩酸で調整し、溶液全体を1Lとして、1.5SBFを調製した。
【0123】
(B)pHの調整
1.5SBFにトリスヒドロキシメチルアミノメタンを加えて、pHを一旦8.3まで上昇させた。溶液が白濁した。
【0124】
塩酸を用いてpHを7.8まで下げた。pH7.8の辺りが、白濁が消え、液が透明になる境界である。なお、pHが8.3のままで透析すると、透析中に液中に生成したヒドロキシアパタイト類が凝集・沈殿するので好ましくない。なお、本実施例1では、1.5SBFの調製(上記(A)欄の工程)とこのpHの調整とを合わせて微粒子形成工程とみなす。
【0125】
(C)安定化工程
本実施例では、安定化工程として、透析によって1.5SBF中の無機イオン濃度を低下させた。具体的には、上記(B)欄の溶液を微粒子形成溶液として用い、以下の操作を室温(25℃)で行った。
【0126】
上記(B)欄の溶液を分画分子量1000の透析チューブ(RC透析チューブポア6:再生セルロース膜、Spectrum社製)に一杯になるまで入れ、一方をおもり付きクローサーで止め、もう一方をおもり無しのクローサーで止めた。この透析チューブを蒸留水2000mlの入ったリザーバーに入れ、立てた状態で静置した。リザーバー中の蒸留水は、攪拌子でゆっくりと攪拌した。リザーバー中の蒸留水を、1時間後、その2時間後、その4時間後、その8時間後、その24時間後に新しい蒸留水と交換し、さらにそのあと48時間おいて透析を終了した。この透析内液は、安定化されたリン酸カルシウム類微粒子が分散した分散液となっている。
【0127】
この分散液を数ml取り出し、硝酸銀水溶液を滴下し、白濁(塩化銀の沈殿)がごく僅かであることを観察し、1.5SBF内に含まれる種々の無機イオンが透析によって失われ、濃度が希薄になっていることの証左とした。もともとの1.5SBF中には塩化物イオンが多量に含まれているが、この時点で、透析によって塩化物イオンが失われ、同時に他の無機イオンの濃度も希薄な状態(低無機イオン濃度)となっていた。
【0128】
(D)配置工程
ポリスチレンビンに上記(C)欄の分散液を30ml入れた。この分散液の中に、PESF(ポリエーテルスルホン,基材)をクリップで吊るし、36.5℃で24時間浸漬した。ただし、温度はこれに限られるものではない。
【0129】
(E)成長工程
上記(D)欄の工程を経たPESFを、ポリスチレンビンに入った30mlの1.5SBF(pH7.4)中にクリップで吊るし、36.5℃で24時間浸漬した。つまり、1.5SBFをリン酸カルシウム類成長溶液として用いた。PESF上にヒドロキシアパタイト類が形成された。上記(D)欄の工程でPESF表面にリン酸カルシウム類微粒子が付着し、このリン酸カルシウム類微粒子を核として、(E)欄の1.5SBF中でヒドロキシアパタイト類が成長したと考えられる。基材表面の走査電子顕微鏡写真を図2、図3に示す。
【0130】
〔比較例1〕
上記(B)~(D)欄の工程を行わない以外は、実施例1と同様の工程を実施した。具体的には、上記(A)欄の工程によって1.5SBFを調製した。そして、PESFをそのまま、上記(D)欄の工程を行うことなく、ポリスチレンビンに入った30mlの1.5SBF中にクリップで吊るし、36.5℃で24時間浸漬した。PESF上にヒドロキシアパタイト類は成長しなかった(図示せず)。
【0131】
これは、リン酸カルシウム類微粒子をPESFに付着させなかったためであると考えられる。
【0132】
〔実施例2〕
上記実施例1の(A)~(C)欄と同様の工程を行って、リン酸カルシウム類微粒子を安定化した。
【0133】
上記(D)欄の配置工程において、基材としてPESFの代わりに鮭の卵(直径約5mm)を1個浸漬し、36.5℃で30分静置した(鮭の卵へのリン酸カルシウム類微粒子の付着:配置工程)。
【0134】
次に、この鮭の卵を1.5SBF30mlの入ったポリスチレンビンに入れ、36.5℃で14日間浸漬した(成長工程)。1.5SBFは、2日ごとに新しいものと交換した。
【0135】
その後、この鮭の卵を取り出し、その表面について走査電子顕微鏡観察を行った。その結果、鮭の卵の表面を被う形でヒドロキシアパタイト類が形成されていることが認められた。走査電子顕微鏡写真を図4、図5に示す。
【0136】
〔実施例3〕
鮭の卵の代わりに鱈の卵(直径約0.5mm)を数個用いた以外は、実施例2と同様の工程を行った。その結果、鱈の卵の表面を被う形でヒドロキシアパタイト類が形成されていることが認められた。走査電子顕微鏡写真を図6、図7に示す。
【0137】
〔実施例4〕
上記(E)欄の工程において、1.5SBFの代わりに下記(F)欄の1.0SBFをリン酸カルシウム類成長溶液として用いる共に、リン酸カルシウム類成長溶液への浸漬時間を変えた以外は、実施例1と同様の操作を行った。
【0138】
具体的には、ポリスチレンビンに入れた30mlの下記(F)欄の1.0SBF中に、PESFをクリップで吊るし、36.5℃で4日間浸漬した。1.0SBFは、2日ごとに新しいものと交換した。基材上にヒドロキシアパタイト類が形成された(データ不図示)。
【0139】
(F)1.0SBFの調製
蒸留水700mLに、NaClを7.996g、NaHCOを0.350g、KClを0.224g、KHPO・3HOを0.228g、MgCl・6HOを0.305g、1M塩酸を35ml、CaClを0.278g、NaSOを0.071g、トリスヒドロキシメチルアミノメタンを6.057g溶解させ、36.5℃でpHが7.4となるように1M塩酸で調整し、溶液全体を1Lとして、1.0SBFを調製した。
【0140】
〔実施例5〕
以後の操作を室温(25℃)で行った。
【0141】
上記(B)欄の溶液を、孔径が10μm、1μm、0.2μmのろ紙(OMNIPORE(商標) 親水性PTFEタイプメンブレンフィルター、MILLIPORE社製)に段階的に透過させた(安定化工程)。その後、ろ紙を36.5℃のインキュベーター内で充分に乾燥させた。
【0142】
ろ過後、孔径が1μmおよび0.2μmのろ紙をそれぞれ50mlの蒸留水中に浸し、超音波洗浄機に5分間かけ、ろ過によってろ紙表面に残ったリン酸カルシウム類微粒子を蒸留水中へ分散させた。この分散液をそれぞれ、分散液G、分散液Hとする。
【0143】
ポリスチレンビンに上記分散液Gまたは分散液Hを30ml入れた。この分散液の中に、PESFをクリップで吊るし、36.5℃で24時間浸漬した(配置工程)。分散液G、分散液Hに浸漬したPESFを、それぞれ基材G、基材Hとする。
【0144】
上記の工程を経た基材GおよびHを、それぞれポリスチレンビンに入った1.5SBF,30ml中にクリップで吊るし、36.5℃で24時間浸漬した。基材GおよびH両方の表面に、ヒドロキシアパタイト類が形成された(データ不図示)。上記の工程で基材表面にリン酸カルシウム類微粒子が付着し、このリン酸カルシウム類微粒子を核として1.5SBF中でヒドロキシアパタイト類が成長したと考えられる。
【0145】
〔実施例6〕
上記(B)欄において、1.5SBFの代わりに上記(F)欄の1.0SBFを微粒子形成溶液として用いた以外は、実施例1と同様の操作を行った。
【0146】
その結果、PESF表面にヒドロキシアパタイト類が形成された(データ不図示)。
【0147】
〔比較例2〕
上記(B)欄の操作によって得られた溶液を、安定化工程(上記(C)欄の工程)を行うことなく、pH調整後すぐに分散液として用いた以外は、実施例1と同様の操作を行った。PESF表面にヒドロキシアパタイト類が形成された(データ不図示)。
【0148】
なお、本比較例で、1.5SBFの代わりに上記(F)欄の1.0SBFをリン酸カルシウム類成長溶液として用いて同様の操作を行ったところ、PESF表面にヒドロキシアパタイト類が形成された(データ不図示)。
【0149】
〔比較例3〕
上記(B)欄の操作によって得られた溶液を、安定化工程(上記(C)欄の工程)を行うことなく24時間置いた。白色の沈殿が見られた。この溶液を用いて、実施例1同様、上記(D)および(E)の工程を行ったが、PESF表面にヒドロキシアパタイト類は形成されなかった(データ不図示)。
【0150】
上記白色沈殿物は、リン酸カルシウム類微粒子が成長した結果生じた沈殿であると考えられる。つまり、安定化工程を行わなかったことで、リン酸カルシウム類微粒子が成長し、凝集・沈殿し、その結果、固相形成活性を失ったものと考えられる。
【0151】
なお、本比較例で、1.5SBFの代わりに上記(F)欄の1.0SBFをリン酸カルシウム類成長溶液として用いて同様の操作を行ったところ、ヒドロキシアパタイト類は形成されなかった(データ不図示)。
【0152】
〔実施例7〕
微粒子形成溶液として、上記(B)欄の溶液の代わりに、下記(I)欄に記載の1.0SBFを用い、さらに、この微粒子形成溶液を上記(C)欄の安定化工程の代わりに、下記(K)欄に記載の安定化工程によって安定化した以外は、実施例4と同様の操作(配置工程および成長工程)を行った。
【0153】
その結果、PESF上にヒドロキシアパタイト類が形成された(データ不図示)。
【0154】
(I)pHの調整
上記(F)欄の1.0SBFにトリスヒドロキシメチルアミノメタンを加えて、pHを一旦8.5まで上昇させた。溶液が白濁した。次いで塩酸を用いてpHを7.8まで下げた。pH7.8の辺りが、白濁が消え、液が透明になる境界である。
【0155】
(K)安定化工程
以下の操作を室温(25℃)で行った。
【0156】
上記(I)欄の溶液を分画分子量1000の透析チューブ(RC透析チューブポア6:再生セルロース膜、Spectrum社製)に一杯になるまで入れ、一方をおもり付きクローサーで止め、もう一方をおもり無しのクローサーで止めた。この透析チューブを蒸留水2000mlの入ったリザーバーに入れ、立てた状態で静置した。リザーバー中の蒸留水は、攪拌子でゆっくりと攪拌した。リザーバー中の蒸留水を、1時間後、その2時間後に新しい蒸留水と交換し、さらにそのあと4時間おいて透析を終了した。
【0157】
〔実施例8〕
微粒子形成溶液として、上記(I)欄の溶液の代わりに、下記(J)欄に記載の0.5SBFを用いた以外は、実施例7と同様の操作を行った。その結果、PESF上にヒドロキシアパタイト類が形成された(データ不図示)。
【0158】
(J)0.5SBFの調製、およびpHの調整
蒸留水700mLに、NaClを3.998g、NaHCOを0.175g、KClを0.112g、KHPO・3HOを0.114g、MgCl・6HOを0.153g、1M塩酸を17.5ml、CaClを0.139g、NaSOを0.036g、トリスヒドロキシメチルアミノメタンを3.028g溶解させ、36.5℃でpHが7.4となるように1M塩酸で調整し、溶液全体を1Lとして、0.5SBFを調製した。
【0159】
上記0.5SBFにトリスヒドロキシメチルアミノメタンを加えて、pHを一旦9.6まで上昇させた。溶液が白濁した。次いで、塩酸を用いてpHを8.8まで下げた。pH8.8の辺りが、白濁が消え、液が透明になる境界である。
【0160】
〔実施例9〕
以下の操作によって、ヒドロキシアパタイト類パターンを形成した。
【0161】
シリコーン基材(10×15×1mm)の表面を、ヘキサメチルジシラザンで処理した後、ポジ型ノボラック系レジストを、長方形の形状にパターンでスクリーン印刷し、90℃で30分間加熱した。次いで、上記のパターンを形成させた領域に高圧水銀灯により、後述の平行な線状のパターンを形成させるよう、ホトマスクを介して、紫外線を25W/cm2で1.5秒間照射した。照射した試料を水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液からなる現像液に25℃で60秒間浸漬し、該現像液に溶解する部分を溶解させ、純水で洗浄した後、120℃で30分間加熱した。このようにして、レジストで被覆した領域に線幅1μm、線間隔1μmのシリコーン基材を露出させ、残余の部分がレジストで被覆された平行な線状のパターンを有する基材を得た。
【0162】
こうして得られた基材を上記(C)欄の工程で得られた分散液に36.5℃で24時間浸漬した(配置工程)。
【0163】
こうしてリン酸カルシウム類微粒子が付着した基材をアセトン中に浸漬して、レジストを溶解した。
【0164】
その後、上記(A)欄の1.5SBFをリン酸カルシウム類成長溶液とし、この溶液に基材を浸漬して、ヒドロキシアパタイト類を成長させた。
【0165】
この基材表面には、ヒドロキシアパタイト類によるパターンが形成されており、このヒドロキシアパタイト類パターンは、レジストのなかった部分にヒドロキシアパタイト類が形成されることで、レジストパターンを正確に再現していた。
〔実施例10〕
リン酸カルシウム類微粒子分散溶液の長期保存について検討した。
【0166】
1000mlの1.0SBFを25℃においてトリスヒドロキシメチルアミノメタンを加えることで、pH8.5に調整した。調整後、直ちに孔径が0.05μmのろ紙(ISOPORE(商標) ポリカーボネート製トラックエッチドメンブレンフィルター、MILLIPORE社製)でろ過した。ろ過後、ろ紙に蒸留水を通してNaClを除去し、続けてエタノールを通して水分を除去した。その後、200mlのエタノールの入ったポリスチレン製ネジ口瓶へ当該ろ紙を浸漬し、30分間超音波洗浄機を用いて、ろ紙表面のリン酸カルシウム類微粒子をエタノール中に十分に分散させた。
【0167】
以上のようにして取得したリン酸カルシウム類微粒子分散エタノール溶液を50mlずつ4本のネジ口瓶に分注し、1本は直ちに、1本は1週間後に、1本は2週間後に、もう1本は4週間後に、それぞれ以下の操作を行った。
【0168】
リン酸カルシウム類微粒子分散エタノール溶液から、エバポレーターを用いてエタノールを除去し、蒸留水へ置換した。こうして得られたリン酸カルシウム類微粒子分散水溶液50mlに、粒径2μmのポリ乳酸(PLA)微粒子分散水溶液(購入元:コアフロント株式会社、製品番号:11-00-203)を20μl加え、PLA微粒子表面への核付けを行った(配置工程)。核付けの期間は1日とした。
核付け後のPLA微粒子を、孔径が0.1μmのろ紙(OMNIPORE(商標) 親水性PTFEメンブレンフィルター、MILLIPORE社製)でろ過して回収した。ろ紙を1.0SBF(36.5℃でpH7.4)に浸漬し、30分間超音波をかけて十分拡散させた。浸漬期間は1週間とし(成長工程)、浸漬期間の折り返し日となる3日目に1.0SBFの交換を行った。交換の方法は、核付け後の処理方法と同様であり、孔径0.1μmの親水性PTFEタイプのろ紙でろ過することでPLA微粒子を回収し、当該ろ紙を30mlの1.0SBFへ浸漬し、30分間超音波にかけて十分拡散させた。
【0169】
1.0SBFへの浸漬期間終了後、孔径が0.1μmの親水性PTFEタイプのろ紙でろ過してPLA微粒子を回収し、蒸留水を通してNaClを除去し、36.5℃のインキュベーターで乾燥した後、PLA微粒子の表面状態をSEM(走査電子顕微鏡)で観察した。
【0170】
リン酸カルシウム類微粒子分散エタノール溶液作製後の時間経過にかかわらず、基材であるPLA微粒子表面にヒドロキシアパタイト類の薄膜が形成されることが確認された。この結果から、本発明に係るリン酸カルシウム類微粒子を安定化させる方法によりリン酸カルシウム類微粒子を高い固相形成活性を維持したまま安定に長期間保存できることが実証された。
【0171】
〔実施例11〕
1.0SBFにおいて、表1に示す試薬の重量を半分にして調製した6種類の溶液を、微粒子形成溶液として用いた。なお、各溶液は表1に記載のpHに調整した。
【0172】
【表1】
JP0005261712B2_000002t.gif

【0173】
1000mlの各微粒子形成溶液を孔径が0.05μmのろ紙(ISOPORE(商標) ポリカーボネート製トラックエッチドメンブレンフィルター、MILLIPORE社製)を用いてろ過した(安定化工程)。その後、ろ紙を200mlのエタノールに浸し、ろ紙上のリン酸カルシウム類微粒子を分散させた。
【0174】
エバポレーターを用いて分散液の溶媒をエタノールから蒸留水に置換した。この分散液にポリ乳酸(PLA)微粒子(粒子径2μm)を20μl添加し、1日間浸漬させた(配置工程)。核となるリン酸カルシウム類微粒子が付着したPLA微粒子を、孔径が0.1μmの親水性PTFEタイプのろ紙でろ過して回収した。回収したPLA微粒子を1.0SBF(pH7.4)に分散し、36.5℃で1週間浸漬(成長工程)した後、孔径が0.1μmの親水性PTFEタイプのろ紙でろ過して回収し、PLA微粒子の表面状態をSEM(走査電子顕微鏡)/EDX(エネルギー分散型X線元素分析装置)で観察および分析した。
【0175】
(1) NaCl濃度を半分にした微粒子形成溶液の結果を図8(a)、(b)、(c)に示した。
【0176】
(2) MgCl濃度を半分にした微粒子形成溶液の結果を図9(a)、(b)、(c)に示した。
【0177】
(3) KCl濃度を半分にした微粒子形成溶液の結果を図10(a)、(b)、(c)に示した。
【0178】
(4) CaCl濃度を半分にした微粒子形成溶液の結果を図11(a)、(b)、(c)に示した。
【0179】
(5) KHPO濃度を半分にした微粒子形成溶液の結果を図12(a)、(b)、(c)に示した。
【0180】
(6) CaCl濃度およびKHPO濃度を半分にした微粒子形成溶液の結果を図13(a)、(b)、(c)に示した。
【0181】
以上、(1)~(6)の結果から、1.0SBFの組成のうち一部の成分の濃度を半分にした溶液を微粒子形成溶液として用いても、当該微粒子形成溶液において形成されるリン酸カルシウム類微粒子を核として、基材であるPLA微粒子表面にヒドロキシアパタイト類が形成されることが確認された。
【0182】
〔比較例4〕
pHを8.00および8.30にそれぞれ調整した1.0SBF(200ml)を16日間静置した。各pHの1.0SBFを孔径が10μmの親水性PTFEタイプのろ紙でろ過した後、ろ紙を200mlのエタノールに浸し、ろ紙上のリン酸カルシウム類微粒子を分散させた。このエタノール分散液50mlを、エバポレーターを用いて50mlの蒸留水分散液に置換した。
【0183】
上記蒸留水分散液に粒子径2μmのPLA微粒子20μl添加し、1日間浸漬させた。PLA微粒子を、孔径が0.1μmの親水性PTFEタイプのろ紙でろ過して回収し、1.0SBF(pH7.4)に分散して36.5℃で1週間浸漬した。孔径が0.1μmの親水性PTFEタイプのろ紙でろ過して回収し、PLA微粒子の表面状態をSEM/EDXで観察および分析した。
【0184】
図14にpH8.00に調整した1.0SBFを16日間静置して得られたリン酸カルシウム類微粒子のSEM画像を示した。この微粒子の粒径は約2~6μmであった。
【0185】
図15にpH8.30に調整した1.0SBFを16日間静置して得られたリン酸カルシウム類微粒子のSEM画像を示した。この微粒子の粒径は約200~400nmであった。
【0186】
pH8.00に調整した1.0SBFを16日間静置して得られたリン酸カルシウム類微粒子を核として、PLA微粒子表面のヒドロキシアパタイト類の成長を試みた結果を図16(a)、(b)、(c)に示した。図16(a)および(b)より、いくつかのPLAがヒドロキシアパタイト類の成長とともに固まっている様子がわかる。
【0187】
pH8.30に調整した1.0SBFを16日間静置して得られたリン酸カルシウム類微粒子を核として、PLA微粒子表面のヒドロキシアパタイト類の成長を試みた結果を図17(a)、(b)に示した。図17(a)より、PLA表面にヒドロキシアパタイト類の成長が認められるものの、ごつごつしたダマの存在も確認された。
【0188】
以上の結果より、pH調整後長期間経過後の1.0SBF(微粒子形成溶液)から得られるリン酸カルシウム類微粒子は粒子成長をして大きくなったため、それよりも十分大きくない基材に対してヒドロキシアパタイト類の成長の核微粒子として適さないことが明らかとなった。
【0189】
〔実施例12〕
1000mlの1.0SBFを25℃でトリスヒドロキシメチルアミノメタンを加えてpHを8.50に調整した(微粒子形成溶液)。孔径が0.05μmのポリカーボネート製のろ紙を用いてろ過し(安定化工程)、ろ紙を200mlのエタノールに浸してろ紙上のリン酸カルシウム類微粒子を分散させた。
【0190】
5mlのエタノール分散液のエタノールをエバポレーターを用いて除去し、50mlの蒸留水に置換した。この蒸留水分散液に、粒子径2μmのPLA微粒子20μl添加し、1日間浸漬させた(配置工程)。PLA微粒子を、孔径が0.1μmの親水性PTFEタイプのろ紙でろ過して回収し、pHをそれぞれ7.40、7.50、7.60に調整した3種類の1.0SBFに分散して36.5℃で4日間浸漬した(成長工程)。なお、2日目に各pH調整した1.0SBFを交換した。孔径が0.1μmの親水性PTFEタイプのろ紙でろ過して回収し、PLA微粒子の表面状態をSEMで観察した。
【0191】
図18、図19および図20に、それぞれpH7.40、pH7.50およびpH7.60に調整した1.0SBFを成長溶液として用いた結果を示した。何れのpHの1.0SBFを成長溶液として用いても、PLA表面に良好なヒドロキシアパタイト類の成長が認められた。
【0192】
〔比較例5〕
1.5SBFを36.5℃でpH7.00、7.20、7.40、7.60、7.80および8.00にそれぞれ調整した後、リン酸カルシウム類微粒子の生成を経時的にチンダル現象により確認した。
【0193】
結果を図21に示した。図21から明らかなように、pH8.00では、pH調整直後からはっきりとしたチンダル現象が確認でき、その3時間後には白濁と共に白色の沈殿も確認できた。pH7.80についても、pH調整1時間後にはチンダル現象がはっきりと確認でき、調整6時間後には白沈も確認できた。これらはさらに時間が経過することで沈殿の量が増加していった。pH7.60では、調整53時間後にチンダル現象がうっすらと確認でき、77時間後には白沈が確認できた。さらに時間が経過することで白沈の量が増えることも149時間後、さらに508時間後の観測で分かった。pH7.40では、508時間静置した後に白色沈殿が生じ、チンダル現象が確認できた。一方、pH7.00および7.20は調整後508時間が経過してもチンダル現象が確認できなかった。
【0194】
以上の結果から、リン酸カルシウム類微粒子が生じると核が成長し白沈を生じるまでに成長してしまうため、リン酸カルシウム類微粒子の保存にSBFは不適当であることが確認された。
【0195】
さらに、SBFは細菌が繁殖しやすく、たとえリン酸カルシウム類微粒子が析出しなくても、濁ってくる。また、SBF中にはNaClをはじめ種々の塩が高濃度で含まれているため、金属の腐食の原因となる。したがって、金属をSBFの容器として使用できない。これに対し、本発明に係るリン酸カルシウム類微粒子は、粉末の状態で保存でき、容易に溶液に分散することができる。またこのリン酸カルシウム類微粒子は水に不溶であるため、リン酸カルシウム類微粒子分散溶液は金属を腐食することがない。さらに、アルコールやアセトンのような水以外の液体にも、リン酸カルシウム類微粒子は容易に分散することができる。また、SBFのまま保存すると、水分の蒸発により塩の析出が起こる。したがって、密閉した状態で保存しなくてはならず、取り扱いが容易ではない。リン酸カルシウム類微粒子分散溶液の場合は、たとえ蒸発が起こっても、使用時に水を加えればよい。
【0196】
〔実施例13〕
36.5℃、pH7.4に調整した1.0SBF1000mlをトリスヒドロキシメチルアミノメタンを用いて、pH8.5に調整した。1.0SBF中には、リン酸カルシウム類微粒子(アパタイト核)が生成している。生成したリン酸カルシウム類微粒子を、pH調整後直ちに孔径0.05μmのポリカーボネート製のろ紙(MILLIPORE社製)を用いてろ過し、ろ紙上に回収した。このろ過後に、超純水とエタノールとを順次ろ紙に通すことで、NaClと水分とをろ紙上から除去した。
【0197】
この後、ろ紙を200mlのエタノールに浸け、30分間超音波洗浄機にかけることで、ろ紙上のリン酸カルシウム類微粒子(アパタイト核)をエタノール中へ拡散させた。この状態でリン酸カルシウム類微粒子(アパタイト核)は安定に保持されることになる。このエタノール液に蒸留水を加えた後にエバポレーターにかけてエタノール分を蒸発させ、リン酸カルシウム類微粒子(アパタイト核)を蒸留水中に分散させた。そこへポリ乳酸球粒子(粒径2μm)を0.2mg加え、核付けを行った。核付け期間は1日とした。
【0198】
核付け後のポリ乳酸球粒子を、孔径が0.1μmの親水性PTFEタイプのろ紙を用いてろ過することで取り出し、1.0SBF中に分散させ、ヒドロキシアパタイト類を成長させた。1.0SBFへの浸漬期間は1週間とした。その後、ポリ乳酸球粒子をろ過により取り出した。SEM観察並びにEDX測定により、ポリ乳酸球粒子表面が均一にヒドロキシアパタイト類の薄膜で覆われていることを確認した。図22(a)、(b)にSEM画像を、図22(c)にEDX分析結果を示した。
【0199】
1.0SBF浸漬後のヒドロキシアパタイト類を表面に成長させたポリ乳酸球粒子をアセトンへ浸漬してポリ乳酸を溶出し、ヒドロキシアパタイト類のカプセルを作製した。
【0200】
図23(a)および(b)にポリ乳酸の溶出により、一部ヒドロキシアパタイト類薄膜が破けたもののSEM画像およびにEDX分析結果を示した。図23(a)からヒドロキシアパタイト類薄膜の内部が空洞になっていることがわかる。また、図24(a)および(b)に、ポリ乳酸の溶出後球形を保持したヒドロキシアパタイト類薄膜からなるカプセルのSEM画像およびにEDX分析結果を示した。
【0201】
以上のように、本発明は、ヒドロキシアパタイト類薄膜からなるカプセルとして実施でき、非常に有用であることが明らかとなった。
【0202】
〔実施例14〕
多段階ろ過により、リン酸カルシウム類微粒子を安定化させることを検討した。
【0203】
1000mlの1.0SBFを25℃においてトリスヒドロキシメチルアミノメタンを加えることでpH8.5に調整した。調整後、直ちに孔径が10μm、1μm、0.1μmの親水性PTFEタイプのろ紙、0.05μmのポリカーボネート製のろ紙で順次ろ過した。ろ過後、各ろ紙に蒸留水を通してNaClを除去し、続けてエタノールを通して水分を除去した。その後、各ろ紙をそれぞれ200mlのエタノールの入ったポリスチレン製ネジ口瓶へ浸漬し、30分間超音波洗浄機を用いて、ろ紙表面のリン酸カルシウム類微粒子をエタノール中に十分に分散させた。以上の操作により4種類のリン酸カルシウム類微粒子分散エタノール溶液が得られた。
【0204】
各リン酸カルシウム類微粒子分散エタノール溶液から150mlをとり、これに蒸留水50mlを加えた後にエバポレーターにかけてエタノール分を蒸発させ、リン酸カルシウム類微粒子(アパタイト核)を50mlの蒸留水中に分散させた。エタノールを水に置換したのは、基材として使用するポリ乳酸(PLA)微粒子が有機溶媒に弱いからである。こうして得られた各リン酸カルシウム類微粒子分散水溶液50mlに、それぞれ粒径2μmのポリ乳酸(PLA)微粒子分散水溶液(購入元:コアフロント株式会社、製品番号:11-00-203)を20μl加え、PLA微粒子表面への核付けを行った。核付けの期間は1日とした。
【0205】
核付け後のPLA微粒子を、孔径が0.1μmの親水性PTFEタイプのろ紙でろ過して回収した。ろ紙を1.0SBF(pH7.4)に浸漬し、30分間超音波をかけて十分拡散させた。浸漬期間は1週間とし(成長工程)、浸漬期間の折り返し日となる3日目に1.0SBFの交換を行った。交換の方法は、核付け後の処理方法と同様であり、孔径0.1μmの親水性PTFEタイプのろ紙でろ過することでPLA微粒子を回収し、当該ろ紙を30mlの1.0SBFへ浸漬し、30分間超音波にかけて十分拡散させた。
【0206】
1.0SBFへの浸漬期間終了後、孔径が0.1μmの親水性PTFEタイプのろ紙でろ過して回収し、蒸留水を通してNaClを除去し、36.5℃のインキュベーターで乾燥した後、PLA微粒子の表面状態をSEM/EDXで観察および分析した。
【0207】
図25(a)および(b)に、孔径0.1μmのろ紙により分離したリン酸カルシウム類微粒子を核とした場合のPLA微粒子表面のSEM画像およびにEDX分析結果を示した。図25(a)および(b)よりPLA微粒子表面にヒドロキシアパタイト類が成長していることが確認された。
【0208】
図26(a)および(b)に、孔径0.05μmのろ紙により分離したリン酸カルシウム類微粒子を核とした場合のPLA微粒子表面のSEM画像およびにEDX分析結果を示した。図26(a)および(b)よりPLA微粒子表面におけるヒドロキシアパタイト類の成長は、孔径0.1μmのろ紙の場合より非常に少ないことが確認された。
【0209】
〔実施例15〕
上記実施例14において、形成されたリン酸カルシウム類微粒子のほとんどは孔径0.1μmのろ紙により回収されたと考えられたため、これを確認するために単段階ろ過を試みた。
【0210】
1000mlの1.0SBFを25℃においてトリスヒドロキシメチルアミノメタンを加えることでpH8.5に調整した。この際、当該1.0SBFは白濁しておらず、透明のままであった。調整後、直ちに孔径が0.05μmのポリカーボネート製のろ紙でろ過した。ろ過後、ろ紙に蒸留水を通してNaClを除去し、続けてエタノールを通して水分を除去した。その後、200mlのエタノールの入ったポリスチレン製ネジ口瓶へ当該ろ紙を浸漬し、30分間超音波洗浄機を用いて、ろ紙表面のリン酸カルシウム類微粒子をエタノール中に十分に分散させた。当該リン酸カルシウム類微粒子分散エタノール溶液は白濁していた。
【0211】
この白濁したリン酸カルシウム類微粒子分散エタノール溶液をスポイトを用いてポリスチレン基板上に数滴滴下し、乾燥後SEMでその表面状態を観察した。
【0212】
また、上記リン酸カルシウム類微粒子分散エタノール溶液から50mlを取り、エバポレーターを用いてエタノールを除去し、50mlの1%HCl水溶液に置換した後、ICP(検量線法)で、そのCaイオンとPイオンの濃度を測定した。
【0213】
上記リン酸カルシウム類微粒子分散エタノール溶液100mlに、蒸留水を100ml加えた後にエバポレーターにかけてエタノール分を蒸発させ、リン酸カルシウム類微粒子(アパタイト核)を蒸留水中に分散させた。得られたリン酸カルシウム類微粒子分散水溶液を50mlずつ2本のネジ口瓶へに分注し、そのうちの1本に、粒径2μmのPLA微粒子分散水溶液(購入元:コアフロント株式会社、製品番号:11-00-203)を20μl添加し、他の1本に粒径10μmのコラーゲン(ポリスチレン/共重合ポリマー粒子の表面をコラーゲンで被覆したもの)微粒子分散水溶液(商品名:micromer、購入元:コアフロント株式会社、製品番号:01-25-104)を20μl添加し、それぞれ微粒子表面への核付けを行った。核付けの期間は1日とした。
【0214】
核付け後、上記実施例14と同様の方法で、各核付けした微粒子を1.0SBFに浸漬し、ヒドロキシアパタイト類を成長させた。
【0215】
リン酸カルシウム類微粒子分散エタノール溶液をポリスチレン基板上に滴下し、乾燥後の表面のSEM画像を図27に示した。SEM観察により、孔径が0.05μmのポリカーボネート製のろ紙で回収されたリン酸カルシウム類微粒子は100nm~200nm程度の大きさであることが確認された。
【0216】
ICP測定結果を表2に示した。多段階ろ過の場合のヒドロキシアパタイト(HAp)量が最大でも0.12mg程度であったことと比較して、収率が極めて向上していることがわかった。なお、表2中、実験1および実験2は、同一の測定を2回行った結果を示している。
【0217】
【表2】
JP0005261712B2_000003t.gif

【0218】
PLA微粒子表面のSEM画像を図28(a)、(b)に、EDX分析結果を図28(c)に示した。PLA微粒子の表面には均一にヒドロキシアパタイト類が成長し、薄膜を形成していることが確認された。
【0219】
コラーゲン微粒子表面のSEM画像を図29(a)、(b)に、EDX分析結果を図29(c)に示した。コラーゲン微粒子の表面には均一にヒドロキシアパタイト類が成長し、薄膜を形成していることが確認された。
【0220】
〔実施例16〕
リン酸カルシウム類微粒子分散溶液のリン酸カルシウム類微粒子濃度を変えることで、各付け後のヒドロキシアパタイト類の成長に影響を及ぼすか否かを検討した。
【0221】
1000mlの1.0SBFを25℃においてトリスヒドロキシメチルアミノメタンを加えることでpH8.5に調整した。調整後、直ちに孔径が0.05μmの親水性PTFEタイプのろ紙でろ過した。ろ過後、ろ紙に蒸留水を通してNaClを除去し、続けてエタノールを通して水分を除去した。その後、200mlのエタノールの入ったポリスチレン製ネジ口瓶へ当該ろ紙を浸漬し、30分間超音波洗浄機を用いて、ろ紙表面のリン酸カルシウム類微粒子をエタノール中に十分に分散させた。
【0222】
当該リン酸カルシウム類微粒子分散エタノール溶液から表3に示す4種類の容量を分取し、それぞれエバポレーターを用いてエタノールを除去し、50mlの蒸留水に置換した。これにより、条件1~4の4種類のリン酸カルシウム類微粒子分散水溶液を得た。
【0223】
【表3】
JP0005261712B2_000004t.gif

【0224】
各リン酸カルシウム類微粒子分散水溶液にそれぞれ粒径2μmのPLA微粒子分散水溶液(購入元:コアフロント株式会社、製品番号:11-00-203)を20μl添加し、PLA微粒子表面への核付けを行った。核付けの期間は1日とした。
【0225】
核付け後、上記実施例14と同様の方法で、各核付けしたPLA微粒子を1.0SBFに浸漬し、ヒドロキシアパタイト類を成長させた。
【0226】
条件1のPLA微粒子表面のSEM画像を図30(a)に、EDX分析結果を図30(b)に示した。PLA微粒子の表面には均一にヒドロキシアパタイト類が成長し、薄膜を形成していることが確認された。
【0227】
条件2のPLA微粒子表面のSEM画像を図31(a)に、EDX分析結果を図31(b)に示した。PLA微粒子の表面には均一にヒドロキシアパタイト類が成長し、薄膜を形成していることが確認された。
【0228】
条件3のPLA微粒子表面のSEM画像を図32(a)に、EDX分析結果を図32(b)に示した。PLA微粒子の表面には均一にヒドロキシアパタイト類が成長し、薄膜を形成していることが確認された。
【0229】
条件3の他のPLA微粒子表面のSEM画像を図33(a)に、EDX分析結果を図33(b)に示した。このPLA微粒子の表面にはヒドロキシアパタイト類が成長せず、薄膜を形成していないことが確認された。
【0230】
条件4のPLA微粒子表面のSEM画像を図34(a)に、EDX分析結果を図34(b)に示した。PLA微粒子の表面には均一にヒドロキシアパタイト類が成長し、薄膜を形成していることが確認された。
【0231】
条件4の他のPLA微粒子表面のSEM画像を図35(a)に、EDX分析結果を図35(b)に示した。このPLA微粒子の表面にはヒドロキシアパタイト類が成長せず、薄膜を形成していないことが確認された。
【0232】
以上の結果より、希釈が3倍~10倍ではPLA微粒子表面にヒドロキシアパタイト類の針状結晶が確認できた。一方、希釈が30倍以上になるとPLA微粒子表面にヒドロキシアパタイト類の薄膜が形成されている微粒子と、形成されていない微粒子とがほぼ同数確認できた。これは、リン酸カルシウム類微粒子分散溶液中に核となるリン酸カルシウム類微粒子が少ないことに起因するものと考えられた。
【0233】
参考例
超音波照射によるリン酸カルシウム類微粒子の形成を検討した。
【0234】
200mlの1.0SBFに、周波数変動型の超音波出力装置とセラミック振動子を用いて超音波照射を行った。1.0SBFは、pH7.70、36.5℃に調整した。周波数は200kHz、出力は50Wとし、当該1.0SBF中へ振動子を浸けることで2時間照射した。
【0235】
結果を図36に示した。サンプルAが超音波を照射した1.0SBF、サンプルBは比較のため超音波を照射しなかった1.0SBFである。超音波照射直後にサンプルAに白濁が確認でき、鮮明なチンダル現象が確認できた。一方で超音波を当てていないサンプルBはチンダル現象が確認できなかった。
【0236】
白濁したのはセラミック振動子から剥がれたセラミック片の混入が原因でないことを確認するため、超音波照射直後のサンプルAを50ml取り、そのろ過物をSEM/EDX観察した。
【0237】
超音波照射直後の1.0SBF(サンプルA)のろ過物のSEM画像を図37(a)、(b)に、EDX分析結果を図37(c)に示した。図37(c)にはCaとPのピークが現れておりリン酸カルシウムと考えられる物質の析出が確認できた。
【0238】
超音波照射しなかった1.0SBF(サンプルB)のろ過物のSEM画像を図38(a)に、EDX分析結果を図38(b)に示した。図38(a)からわかるようにろ紙上には何も確認できなかった。
【0239】
なお、発明を実施するための最良の形態の項においてなした具体的な実施態様または実施例は、あくまでも、本発明の技術内容を明らかにするものであって、そのような具体例にのみ限定して狭義に解釈されるべきものではなく、本発明の精神と次に記載する請求の範囲内で、いろいろと変更して実施することができるものである。

【産業上の利用の可能性】
【0240】
上述したように、本発明に係る方法は、リン酸カルシウム類微粒子を低無機イオン濃度環境下に置くことによって、当該リン酸カルシウム類微粒子を安定化させる方法である。
【0241】
上記方法によると、リン酸カルシウム類微粒子を低無機イオン濃度環境下に置くことによって、当該リン酸カルシウム類微粒子の成長を止めることができる。このようにして成長が止められたリン酸カルシウム類微粒子は、固相形成活性を高く維持した状態で長期間保存することができ、保存後においてもリン酸カルシウム類の成長の核として、好適に用いることができる。このようにリン酸カルシウム類微粒子を安定化させる方法は、これまでに報告がなく、全く新規の方法であるとともに、大量のリン酸カルシウム類微粒子を容易に製造し、保存することを可能とする非常に有用な方法である。
【0242】
上記方法を一工程として含むリン酸カルシウム類微粒子の製造方法、およびこの製造方法によって製造されたリン酸カルシウム類微粒子、当該リン酸カルシウム類微粒子を含む微粒子含有組成物も、本発明に含まれる。微粒子含有組成物は、歯および骨の治療、再生に、利用可能である。
【0243】
なお、本発明に係るリン酸カルシウム類微粒子を核として製造されたリン酸カルシウム類含有組成物は、薬剤送達システム、バイオセンサー、バイオリアクター、人工臓器等の医療用デバイス、電子素子、光学素子、磁性体、および生体デバイス等として、好適に利用することができる。
【0244】
本発明に係るリン酸カルシウム類微粒子を安定化させる方法は、固相形成活性を有するリン酸カルシウム類微粒子を、非常に簡便な方法によって大量に取得し、これを長期間保存することを可能にする。また、このリン酸カルシウム類微粒子、およびそれを含む微粒子含有組成物は、特に医療の分野で好適に利用される。また、このリン酸カルシウム類微粒子を利用することで製造されるリン酸カルシウム類含有組成物も、医療を始めとする多様な分野で好適に利用可能である。
図面
【図1】
0
【図8(c)】
1
【図9(c)】
2
【図10(c)】
3
【図11(c)】
4
【図12(c)】
5
【図13(c)】
6
【図16(c)】
7
【図17(b)】
8
【図22(c)】
9
【図23(b)】
10
【図24(b)】
11
【図25(b)】
12
【図26(b)】
13
【図28(c)】
14
【図29(c)】
15
【図30(b)】
16
【図31(b)】
17
【図32(b)】
18
【図33(b)】
19
【図34(b)】
20
【図35(b)】
21
【図37(c)】
22
【図38(b)】
23
【図2】
24
【図3】
25
【図4】
26
【図5】
27
【図6】
28
【図7】
29
【図8(a)】
30
【図8(b)】
31
【図9(a)】
32
【図9(b)】
33
【図10(a)】
34
【図10(b)】
35
【図11(a)】
36
【図11(b)】
37
【図12(a)】
38
【図12(b)】
39
【図13(a)】
40
【図13(b)】
41
【図14】
42
【図15】
43
【図16(a)】
44
【図16(b)】
45
【図17(a)】
46
【図18】
47
【図19】
48
【図20】
49
【図21】
50
【図22(a)】
51
【図22(b)】
52
【図23(a)】
53
【図24(a)】
54
【図25(a)】
55
【図26(a)】
56
【図27】
57
【図28(a)】
58
【図28(b)】
59
【図29(a)】
60
【図29(b)】
61
【図30(a)】
62
【図31(a)】
63
【図32(a)】
64
【図33(a)】
65
【図34(a)】
66
【図35(a)】
67
【図36】
68
【図37(a)】
69
【図37(b)】
70
【図38(a)】
71