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明細書 :残留α粒を有する高温強度に優れたマルテンサイト系酸化物分散強化型鋼の製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第3753248号 (P3753248)
公開番号 特開2005-076087 (P2005-076087A)
登録日 平成17年12月22日(2005.12.22)
発行日 平成18年3月8日(2006.3.8)
公開日 平成17年3月24日(2005.3.24)
発明の名称または考案の名称 残留α粒を有する高温強度に優れたマルテンサイト系酸化物分散強化型鋼の製造方法
国際特許分類 B22F   3/12        (2006.01)
C22C  38/00        (2006.01)
FI B22F 3/12
C22C 38/00 304
請求項の数または発明の数 1
全頁数 15
出願番号 特願2003-308458 (P2003-308458)
出願日 平成15年9月1日(2003.9.1)
審査請求日 平成15年9月1日(2003.9.1)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】000224754
【氏名又は名称】核燃料サイクル開発機構
【識別番号】000130259
【氏名又は名称】株式会社コベルコ科研
発明者または考案者 【氏名】大塚 智史
【氏名】鵜飼 重治
【氏名】皆藤 威二
【氏名】成田 健
【氏名】藤原 優行
個別代理人の代理人 【識別番号】100096862、【弁理士】、【氏名又は名称】清水 千春
審査官 【審査官】米田 健志
調査した分野 B22F 1/00~8/00
特許請求の範囲 【請求項1】
元素粉末または合金粉末とY2 3 粉末を混合して機械的合金化処理を行い、熱間押出しにより固化した後、最終熱処理として焼きならし焼き戻し熱処理を施すことにより、質量%で、Cが0.05~0.25%、Crが8.0~12.0%、Wが0.1~4.0%、Tiが0.1~1.0%、Y2 3 が0.1~0.5%、残部がFeおよび不可避不純物からなるY2 3 粒子を分散させたマルテンサイト系酸化物分散強化型鋼を製造する方法において、鋼中の過剰酸素量が
0.22×Ti<ExO<0.32-8C/3+2Ti/3
(式中、 ExO:鋼中の過剰酸素量、質量%
Ti:鋼中のTi含有量、質量%
C:鋼中のC含有量、質量%
ここで過剰酸素量ExOは、YがすべてY2 3 として存在すると仮定して
鋼中の全酸素量からY2 3 中の酸素量を差し引いた量であり、次式に従
い算出する: ExO=Ototal -0.27Y
total :鋼中の全酸素量、質量%
Y:鋼中のY量、質量%)
となるように前記機械的合金化処理に際して粉末配合を行うことによって、前記熱間押出し時にα→γ変態を生じず、酸化物粒子が微細高密度に分散した残留α粒の割合を高めることを特徴とする残留α粒を有する高温強度に優れたマルテンサイト系酸化物分散強化型鋼の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、高温強度に優れたマルテンサイト系酸化物分散強化型(ODS)鋼を製造する方法に関するものである。
【0002】
本発明のマルテンサイト系酸化物分散強化型鋼は、優れた高温強度やクリープ強度が求められる高速増殖炉燃料被覆管用材料、核融合炉第一壁材料、火力発電用材料等に好ましく利用できる。
【背景技術】
【0003】
優れた高温強度と耐中性子照射特性が要求される原子炉、特に高速炉の構成部材には、従来よりオーステナイト系ステンレス鋼が用いられてきたが、耐スエリング特性などの耐照射特性に限界がある。一方、マルテンサイト系ステンレス鋼は耐照射特性に優れるものの、高温強度が低い欠点がある。
【0004】
そこで、耐照射特性と高温強度特性の両方を具備した材料として、マルテンサイト系酸化物分散強化型鋼が開発され、この鋼中にTiを添加して酸化物分散粒子を微細分散化させることによって、高温強度を向上させる技術が提案されている。
【0005】
例えば特許文献1には、質量%で、C:0.05~0.25%、Si:0.1%以下、Mn:0.1%以下、Cr:8~12%(但し12%は含まず)、Mo+W:0.1~4.0%、O(Y2 3 およびTiO2 分は除く):0.01%以下、残部がFeおよび不可避不純物からなり、かつ平均粒径1000Å以下のY2 3 とTiO2 による複合酸化物粒子がY2 3 +TiO2 =0.1~1.0%、分子比でTiO2 /Y2 3 0.5~2.0の範囲で基地に均一に分散されている焼戻しマルテンサイト系酸化物分散強化型鋼が記載されている。
【0006】

【特許文献1】特公平5-18897号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、Y2 3 とTiO2 の合計量とそれらの比率を特平5-1897号公報の教示のように調整してマルテンサイト系酸化物分散強化型鋼を製造しても、酸化物粒子が均一に微細分散化されない場合もあり、この場合には目的とする高温強度の向上効果が達成できないことになる。
【0008】
そのため本発明は、酸化物粒子が微細化され均一かつ高密度に分散されている結晶粒が確実に得られ、その結果、優れた高温強度が発現するマルテンサイト系酸化物分散強化型鋼を製造できる方法を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、原料粉末を機械的合金化処理した後、熱間押出しにより固化し、さらに最終熱処理として焼きならし焼き戻し熱処理を施すマルテンサイト系酸化物分散強化型鋼を製造するに際して、熱間押出し時にα→γ変態を生じず、酸化物粒子が微細高密度に分散した残留α粒の割合を高めることによって、高温強度を確実に改善できること、さらに、鋼中の過剰酸素量(鋼中の酸素量からY2 3 中の酸素量を差し引いた値)を一定の範囲に調整することによって、残留α粒の割合を高められることを見出し、本発明を完成させたものである。
【0010】
すなわち本発明の残留α粒を有する高温強度に優れたマルテンサイト系酸化物分散強化型鋼の製造方法は、元素粉末または合金粉末とY2 3 粉末を混合して機械的合金化処理を行い、熱間押出しにより固化した後、最終熱処理として焼きならし焼き戻し熱処理を施すことにより、質量%で、Cが0.05~0.25%、Crが8.0~12.0%、Wが0.1~4.0%、Tiが0.1~1.0%、Y2 3 が0.1~0.5%、残部がFeおよび不可避不純物からなるY2 3 粒子を分散させたマルテンサイト系酸化物分散強化型鋼を製造する方法において、鋼中の過剰酸素量が
0.22×Ti<ExO<0.32-8C/3+2Ti/3
(式中、 ExO:鋼中の過剰酸素量、質量%
Ti:鋼中のTi含有量、質量%
C:鋼中のC含有量、質量%
ここで過剰酸素量ExOは、YがすべてY2 3 として存在すると仮定して
鋼中の全酸素量からY2 3 中の酸素量を差し引いた量であり、次式に従
い算出する: ExO=Ototal -0.27Y
total :鋼中の全酸素量、質量%
Y:鋼中のY量、質量%)
となるように前記機械的合金化処理に際して粉末配合を行うことによって、前記熱間押出し時にα→γ変態を生じず、酸化物粒子が微細高密度に分散した残留α粒の割合を高めることを特徴とする。
なお、以下の本明細書中の記載において「%」は、特に断りのない限り「質量%」を表すものとする。
【発明の効果】
【0011】
本発明においては、鋼中の過剰酸素量が所定の範囲となるように機械的合金化処理時の粉末配合量を適切に調整することにより、熱間押出し時の残留α粒の生成割合を高めている。この残留α粒中の酸化物分散粒子は、熱間押出し時のα→γ変態で生じた変態γ粒中の酸化物分散粒子に比べて微細かつ高密度となる。その結果、本発明によれば、熱間押出し時の残留α粒の生成割合を高めることで、高温強度に優れたマルテンサイト系酸化物分散強化型鋼を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に本発明のマルテンサイト系酸化物分散強化型鋼の化学成分およびその限定理由について説明する。
【0013】
Crは、耐食性の確保に重要な元素であり、8.0%未満となると耐食性の悪化が著しくなる。また12.0%を超えると、靱性および延性の低下が懸念される。この理由から、Cr含有量は8.0~12.0%とする。
【0014】
Cは、Cr含有量が8.0~12.0%の場合に、組織を安定なマルテンサイト組織とするためには0.05%以上含有させる必要がある。このマルテンサイト組織は1000~1150℃の焼ならし+700~800℃の焼戻し熱処理により得られる。C含有量が多くなるほど炭化物(M236 、M6 C等)の析出量が多くなり高温強度が高くなるが、0.25%より多量に含有すると加工性が悪くなる。この理由から、C含有量は0.05~0.25%とする。
【0015】
Wは、合金中に固溶し高温強度を向上させる重要な元素であり、0.1%以上添加する。W含有量を多くすれば、固溶強化作用、炭化物(M236 、M6 C等)析出強化作用、金属間化合物析出強化作用により、クリープ破断強度が向上するが、4.0%を超えるとδフェライト量が多くなり、かえって強度も低下する。この理由から、W含有量は0.1~4.0%とする。
【0016】
Tiは、Y2 3 の分散強化に重要な役割を果たし、Y2 3 と反応してY2 Ti2 7 またはY2 TiO5 という複合酸化物を形成して、酸化物粒子を微細化させる働きがある。この作用はTi含有量が1.0%を超えると飽和する傾向があり、0.1%未満では微細化作用が小さい。この理由から、Ti含有量は0.1~1.0%とする。
【0017】
2 3 は、分散強化により高温強度を向上させる重要な添加物である。この含有量が0.1%未満の場合には、分散強化の効果が小さく強度が低い。一方、0.5%を超えて含有すると、硬化が著しく加工性に問題が生じる。この理由から、Y2 3 の含有量は0.1~0.5%とする。
【0018】
本発明のマルテンサイト系酸化物分散強化型鋼の一般的製造方法としては、上記した各成分を元素粉末または合金粉末およびY2 3 粉末として目標組成となるように混合し、粉末混合物を高エネルギーアトライターに装入してAr雰囲気中で撹拌する機械的合金化処理(メカニカルアロイング)を行った後、得られた合金化粉末を押出用軟鉄製カプセルに充填して脱気、密封し、例えば1150~1200℃、押出比7~8:1で熱間押出しを行うことにより合金化粉末を固化させ、ついで最終熱処理として焼きならし焼き戻し熱処理、例えば1050℃×1hr・空冷+780℃×1hr・空冷を行う方法が採用できる。
【0019】
酸化物分散強化型マルテンサイト鋼では化学組成により、熱間押出し時に完全α→γ変態が生じて変態γ粒の単相組織となる場合と、完全にα→γ変態せずにα相のまま残留する残留α粒が生じて二相組織となる場合がある。変態γ粒は、その後の熱処理により、例えば焼きならし熱処理を施すとマルテンサイト粒に変態し、炉冷熱処理を施すとα粒に変態する。(以下、本明細書中では、変態γ粒、変態マルテンサイト粒および変態α粒を総称するときは“変態粒”という。)一方、熱間押出し時の残留α粒は、その後に熱処理を施してもα相のままであり、このα粒中の酸化物分散粒子は、変態粒中の酸化物分散粒子に比べて微細かつ高密度となる。
【0020】
したがって、熱間押出し時に残留α粒をできるだけ増加させることで、酸化物粒子が微細かつ高密度に分散した組織を得ることができる。本発明においては、機械的合金化処理に際しての原料粉末の配合量、特にTiの添加量を調整して鋼中の過剰酸素量を所定の範囲とすることによって、熱間押出し時の残留α粒の割合を高めている。
【試験例】
【0021】
表1は、マルテンサイト系酸化物分散強化型鋼試作材の目標組成および成分の特徴をまとめて示している。
【0022】
【表1】
JP0003753248B2_000002t.gif
【0023】
各試作材とも、元素粉末あるいは合金粉末とY2 3 粉末を目標組成に調合し、高エネルギーアトライター中に装入後、Ar雰囲気中で撹拌して機械的合金化処理を行った。アトライターの回転数は約220rpm、撹拌時間は約48hrとした。得られた合金化粉末を軟鉄製カプセルに充填後、高温真空脱気して約1150~1200℃、7~8:1の押出比で熱間押出しを行い、熱間押出棒材を得た。
【0024】
表1中の各試作材ともに、Y2 3 粉末だけでなくTiを添加して、TiとYの複合酸化物形成により、酸化物分散粒子の微細高密度化を図っている。MM11、E5、E7は、基本組成の標準材であり、T14は過剰酸素量が若干高めの鋼である。T3は基本組成に不安定酸化物(Fe2 3 )を添加して意図的に過剰酸素量を増加させた鋼、T4は基本組成に対してTi添加量を増加させた鋼、T5はTi添加量を約0.5%に増量するとともに不安定酸化物(Fe2 3 )を添加して過剰酸素量を増加させた鋼である。
【0025】
Y1、Y2、Y3はY2 3 粉末の代わりに金属Y粉末を添加したものである。すなわち、Y1は金属Y粉末を添加し、不安定酸化物(Fe2 3 )を添加せずに目標過剰酸素量を0%としている。Y2とY3は、金属Y粉末とともにFe2 3 粉末をそれぞれ0.15%および0.29%添加し、目標過剰酸素量をそれぞれ0.04%および0.08%としている。
上記で得られた各試作材の成分分析結果を表2にまとめて示す。
【0026】
【表2】
JP0003753248B2_000003t.gif
【0027】
(1)酸化物の分散状態
前述したように、酸化物分散強化型マルテンサイト鋼では化学組成により、熱間押出し時に完全α→γ変態が生じて変態γ粒の単相組織となる場合と、完全にα→γ変態せずにα相のまま残留する残留α粒が生じて二相組織となる場合がある。
図1は、MM11、T5、T3の各試作材中の残留α粒と変態α粒における薄膜透過型電子顕微鏡写真である。なお、図1の電子顕微鏡写真は、観察しやすくするために、各試作材を熱間押出しした後に、さらに低冷却速度で徐冷する炉冷熱処理を施した後の組織についてのものである。熱間押出し時にα→γ変態してγ粒となった変態γ粒は、炉冷熱処理を施すとγ→α変態が生じて変態α粒となる。一方、熱間押出し時にα→γ変態しなかった残留α粒は、炉冷熱処理を施しても細かい結晶粒のα粒のままとなる。過剰酸素量の低いMM11(E7相当材)とTi添加量の高いT5では、炉冷熱処理により生じた粗大結晶粒の変態α粒と、炉冷熱処理しても変態しなかった細かい結晶粒の残留α粒との二相組織となっているが、過剰酸素量の多いT3では、粗大結晶粒の変態α粒の単相組織となっている。すなわち、T3では熱間押出し時に完全α→γ変態が生じているのに対して、MM11とT5では熱間押出し時にα→γ変態しない残留α粒が生じている。
【0028】
図1の透過型電子顕微鏡写真の画像解析により、酸化物分散粒子の平均粒子径を測定した結果を図2に示す。図2からわかるように、変態α粒中の酸化物分散粒子径に比べて、残留α粒中の酸化物分散粒子径は約半分程度に微細化されている。このことから、高温強度の改善のために重要な微細かつ高密度の酸化物分散組織を得るためには、残留α粒の導入が有効であるといえる。
【0029】
(2)残留α粒量の制御
残留α粒の形成割合は、強力なγ生成元素であるC量に依存する。すなわち、マトリックス中のC量を低く抑えると、熱間押出し時および1050℃最終熱処理時のα→γ変態が減少して残留α粒の割合が増加する。
酸化物分散強化型マルテンサイト鋼には、酸化物粒子の微細化のためにTiを添加しているが、Tiは炭化物生成能が強いため、過剰に添加するとTi炭化物を形成してマトリックス中の固溶C量が減少し、残留α粒が増加する。しかしながら、過度に過剰酸素量を低減すると、酸化物分散粒子の数密度が減るため、酸化物分散粒子による変態抑制効果の低減により残留α粒は減少すると考えられる。一方、Ti酸化物はTi炭化物よりも安定であるため、過剰酸素量を高めると、Ti酸化物の形成によりTi炭化物生成が抑制され、マトリックス中の固溶C量は増加するため、熱間押出し時および1050℃最終熱処理時に十分なα→γ変態が生じ、残留α粒は減少する。以上より、過剰酸素量とTi添加量を調整することにより、残留α粒の割合を制御することが可能であるといえる。例えば、制御パラメータとしてTiOx(ExO/Ti原子数比)を用いた場合には、TiOxを減少させるほどTi炭化物が形成されやすく、マトリックス中の固溶C量は減少し、残留α粒は増加することになる。
【0030】
残留α粒は、熱間押出し時に引き延ばされて筋状の結晶粒となり、その後の焼きならし焼き戻し熱処理を施しても筋状結晶粒を維持する。一方、熱間押出し時にα→γ変態した変態γ粒も熱間押出しにより筋状に引き延ばされるが、その後の焼きならし焼き戻し熱処理時に結晶粒は微細かつ等方化される。したがって、焼きならし焼き戻し熱処理後の金相組織が、筋状に延びた結晶粒は残留α粒であり、微細かつ等方的な結晶粒は変態粒(マルテンサイト粒)であると判断できる。
【0031】
図3は、Ti添加量と過剰酸素量の異なる各試作材の焼きならし焼き戻し熱処理後の金相組織の光学顕微鏡写真である。0.2%Ti添加の試作材の場合、過剰酸素量を増加したT3および金属Y添加により過剰酸素量を低減したY1とY2では、微細かつ等方的な変態粒(マルテンサイト粒)となっているが、過剰酸素量が0.08%近傍の標準材E7(MM11相当材)では、筋状の残留α粒と微細かつ等方的な変態粒(マルテンサイト粒)とが混在した組織となっている。また、過剰酸素量を増加したT5でも、Ti添加量が0.46%と高いため、筋状の残留α粒と微細かつ等方的な変態粒(マルテンサイト粒)とが混在した二相組織となっている。これらの結果から、過剰酸素量の低減およびTi添加量の増加は、残留α粒の形成に有効であるが、過剰酸素量を過度に低減すると残留α粒は減少することがわかった。過剰酸素量の過度の低減による残留α粒の減少は、酸化物粒子の数密度が減少して酸化物分散による変態抑制効果が低減されたため生じたものと考えられる。
【0032】
残留α粒内では酸化物粒子が微細高密度に分散しているため、残留α粒の割合が高くなるほど鋼の硬度は高くなる。図4(a)は、各試作材のビッカース硬さHvのTiOx依存性を示すグラフである。また、各試作材の金相組織を2階調化し、白い筋状の領域を残留α粒、黒い領域を変態粒(マルテンサイト粒)として、残留α粒の面積率(%)を算出した値も参考までに図4(a)に示している。図4(a)から、TiOxが1近傍でビッカース硬さはピークとなることがわかる。ビッカース硬さは残留α粒の割合を反映していることから、残留α粒の割合もTiOxが1前後でピークとなると考えられる。TiOx>1.0の範囲におけるTiOx増加に伴う残留α粒の減少は、Ti炭化物形成によるマトリックス中の固溶C量の減少によるものである。なお、TiOx<1での残留α粒の減少は、酸化物分散粒子の数密度が減少し、分散粒子による変態抑制効果が減少したためであると考えられる。
【0033】
図4(b)は、図4(a)におけるTiOx>1.0の場合の各試作材のビッカース硬さと残留α粒面積率の推定固溶C量依存性を定量的に評価した結果を示すグラフである。ここで、マトリックス中の推定固溶C量は、Tiが優先的に過剰酸素と反応してTiO2 を形成し、残ったTiがCとTiCを形成することによりマトリックス中の固溶C量を低減させると考え、以下の式に従って算出した。
【0034】
S =C-CTiC …(1)
TiC ={(Ti/48)-(ExO/16×2)}×12 …(2)
ここで、 CS :推定固溶C量(質量%)
C:添加C量(質量%)
TiC :TiC形成に費やされるC量(質量%)
Ti:添加Ti量(質量%)
ExO:過剰酸素量(質量%)
【0035】
図4(b)より、Ti添加量の増量または過剰酸素量の低減により、マトリックス中の固溶C量が低減し、ビッカース硬さすなわち残留α粒の割合が増加していることがわかる。
以上より、TiOxを適切な範囲に調整することにより、残留α粒の割合を制御可能であるといえる。
なお、マルテンサイト系酸化物分散強化型鋼は、α→γ変態を利用した圧延方向に細かく引き延ばされた結晶粒を等軸化するものであり、α粒単相のフェライト系酸化物分散強化型鋼ではこのような変態制御を利用することはできない。
【0036】
(3)高温強度
図5(a)に、焼きならし焼き戻し熱処理(焼ならし(1050℃×1hr・空冷)+焼戻し(780℃×1hr・空冷))からなる最終熱処理を施した各試作材の700℃におけるクリープ破断強度の試験結果を示す。残留α粒の多いE5、E7、T5(画像解析による面積率で約10%程度)では、残留α粒の少ないY1、T14や残留α粒のないT3に比べて、クリープ破断強度が飛躍的に向上している。これは、残留α粒中の酸化物分散粒子が微細高密度に分散しているためである。
図5(b)に、クリープ破断強度試験に供したものと同様な最終熱処理を施した試作材Y1、E5、T3について、700℃および800℃で引張強度試験を行った結果を示す。引張強度もクリープ破断強度と同様に、残留α粒量がピークとなるTiOxが1近傍のE5で最も高くなる。また、破断伸びに関しても、TiOxが1近傍のE5でも十分な延性が保たれている。
以上の検討から、酸化物粒子が微細分散した残留α粒を増量することにより、高温クリープ破断強度および高温引張強度の改善が可能であるといえる。
【0037】
(4)残留α粒の増量による高温強度改善のための化学成分範囲
(4-1) Ti添加量
前述したように、TiはY2 3 との複合酸化物形成により、酸化物粒子を微細化させる働きがある。この作用はTi添加量が1.0%を超えると飽和する傾向があり、0.1%未満では微細化作用が小さい。したがって、Ti添加量は0.1~1.0%の範囲で調整する。
【0038】
(4-2) 高TiOx側(TiOx>1.0)での条件式
図6は、TiOx>1.0の範囲での残留α粒増量による高温強度改善に必要な固溶C量の範囲を示しており、図6(a)は、700℃、1000時間クリープ破断強度の推定固溶C量(CS )依存性を、図6(b)は、引張強度の推定固溶C量(CS )依存性をそれぞれ示す。この範囲では、CS の減少とともに残留α粒が増加してクリープ破断強度および引張強度がともに向上することがわかる。図6から、CS <0.12%とすることで高いクリープ破断強度および引張強度を確保できると判断される。
【0039】
したがって、残留α粒の導入による高温強度改善の条件式は、式(1)と(2)を用いて CS =C-CTiC =C-{(Ti/48)-(ExO/16×2)}×12<0.12
…(3)
となる。
式(3)は
ExO<0.32-8C/3+2Ti/3
と変形できる。
【0040】
(4-3) 低TiOx側(TiOx<1.0)での条件式
図7は、残留α粒増量による高温強度改善に必要なTiOxの範囲を示しており、図7(a)は、700℃、1000時間クリープ破断強度のTiOx依存性を、図7(b)は、引張強度のTiOx依存性をそれぞれ示す。TiOxが1未満では、TiOxの低減によりクリープ破断強度と引張強度がともに減少する。これは、TiOxが低すぎると、酸化物粒子の数密度の減少により、残留α粒が減少するためである。図7から、TiOx>0.65とすることにより、残留α粒量を確保して十分な高温強度を得ることができると判断される。
【0041】
したがって、低TiOx側での条件式として
ExO’(原子%)>0.65Ti’(原子%)
ここで、ExO’:過剰酸素量(原子%)
Ti’:Ti添加量(原子%)
が得られる。
上式を質量%に単位換算すると
ExO(質量%)>0.22Ti(質量%) …(4)
となる。

【0042】
以上より、過剰酸素量を「0.22Ti(質量%)<ExO(質量%)<0.32-8C/3+2Ti/3」、Ti添加量を「0.1<Ti<1.0」とすることで、残留α粒の確保による高温強度の改善が可能となる。
【0043】
図8は、各試作材のTi添加量と過剰酸素量ExOとの関係をプロットしたグラフであり、残留α粒増量による高温強度改善に必要な上記の化学成分範囲をグラフ中に斜線で示している。金相観察により、残留α粒が観察され、高温強度が高い試作材は上記の化学成分範囲(グラフの斜線範囲)内にあり、上記(4)で設定した化学成分範囲が妥当であることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】各試作材の透過型電子顕微鏡写真。
【図2】酸化物分散粒子の平均粒子径を測定した結果を示すグラフ。
【図3】各試作材の金相組織の光学顕微鏡写真。
【図4】各試作材のビッカース硬さと残留α粒面積率を示すグラフ。(a)はTiOx依存性を、(b)は推定固溶C量依存性をそれぞれ示している。
【図5】各試作材の高温強度を示すグラフ。(a)はクリープ破断強度試験結果を、(b)は引張強度試験結果をそれぞれ示している。
【図6】残留α粒増量による高温強度改善に必要な固溶C量の範囲を示すグラフ。(a)は700℃、1000時間クリープ破断強度の推定固溶C量(CS )依存性を、(b)は引張強度の推定固溶C量(CS )依存性をそれぞれ示している。
【図7】残留α粒増量による高温強度改善に必要なTiOxの範囲を示すグラフ。(a)は700℃、1000時間クリープ破断強度のTiOx依存性を、(b)は引張強度のTiOx依存性をそれぞれ示している。
【図8】各試作材のTi添加量と過剰酸素量ExOとの関係をプロットしたグラフ。
図面
【図2】
0
【図4】
1
【図5】
2
【図6】
3
【図7】
4
【図8】
5
【図1】
6
【図3】
7