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明細書 :バイオディーゼル油製造用固体塩基触媒及びその製造方法、バイオディーゼル油製造用反応器及び装置、並びに該装置を用いたバイオディーゼル油の製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5105418号 (P5105418)
登録日 平成24年10月12日(2012.10.12)
発行日 平成24年12月26日(2012.12.26)
発明の名称または考案の名称 バイオディーゼル油製造用固体塩基触媒及びその製造方法、バイオディーゼル油製造用反応器及び装置、並びに該装置を用いたバイオディーゼル油の製造方法
国際特許分類 B01J  23/02        (2006.01)
B01J  37/08        (2006.01)
C10L   1/02        (2006.01)
C11C   3/10        (2006.01)
FI B01J 23/02 M
B01J 37/08
C10L 1/02
C11C 3/10
請求項の数または発明の数 6
全頁数 14
出願番号 特願2007-521267 (P2007-521267)
出願日 平成18年6月9日(2006.6.9)
国際出願番号 PCT/JP2006/311642
国際公開番号 WO2006/134845
国際公開日 平成18年12月21日(2006.12.21)
優先権出願番号 2005171844
優先日 平成17年6月13日(2005.6.13)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成21年5月26日(2009.5.26)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503027931
【氏名又は名称】学校法人同志社
発明者または考案者 【氏名】日高 重助
【氏名】高津 淑人
個別代理人の代理人 【識別番号】110000475、【氏名又は名称】特許業務法人みのり特許事務所
審査官 【審査官】壺内 信吾
参考文献・文献 特開2001-302584(JP,A)
特開2004-035873(JP,A)
T. Wei et al.,Effect of base strength and basicity on catalytic behavior of solid bases for synthesis of dimethyl carbonate from propylene carbonate and methanol,Fuel Processing Technology,2003年 9月15日,Vol.83, No.1-3,p.175-182
調査した分野 B01J21/00-38/74
Science Direct
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
特許請求の範囲 【請求項1】
原料油脂とアルコールとのエステル交換反応によってバイオディーゼル油を製造する際に使用される固体塩基触媒であって、当該固体塩基触媒が、生石灰、炭酸カルシウム、酢酸カルシウム及び消石灰からなるグループより選ばれた触媒原料を、水を含まずに炭酸ガス濃度が1ppm以下である不活性ガス雰囲気下にて焼成することにより得られたものであり、15以上の塩基強度(H_)を有し、かつ、0.1mmol/g以上の塩基量を有した酸化カルシウムからなることを特徴とするバイオディーゼル油製造用固体塩基触媒。
【請求項2】
原料油脂とアルコールとのエステル交換反応によってバイオディーゼル油を製造する際に使用される固体塩基触媒を製造するための方法であって、当該方法が、生石灰、炭酸カルシウム、酢酸カルシウム及び消石灰からなるグループより選ばれた触媒原料を準備する工程Aと、前記触媒原料を、水を含まずに炭酸ガス濃度が1ppm以下である不活性ガス雰囲気下にて300℃以上の温度で焼成する工程Bとを含むことを特徴とするバイオディーゼル油製造用固体塩基触媒の製造方法。
【請求項3】
前記不活性ガスが、ヘリウム、ネオン、アルゴン、窒素及びこれらの混合物から成るグループより選ばれたものであることを特徴とする請求項2に記載のバイオディーゼル油製造用固体塩基触媒の製造方法。
【請求項4】
固体塩基触媒を用いて原料油脂とアルコールからバイオディーゼル油を製造する際に使用される反応器であって、当該反応器が、一方の導入口側から他方の排出口側に向かって流体が流れる流路を有した気密性のある容器からなり、当該反応器の内部には、15以上の塩基強度(H_)を有し、かつ、0.1mmol/g以上の塩基量を有した酸化カルシウムからなる固体塩基触媒が充填されていること、及び、前記反応器における流体導入口側と流体排出口側に、当該反応器に外気が流入するのを防止するための遮断手段が設けられていることを特徴とするバイオディーゼル油製造用反応器。
【請求項5】
固体塩基触媒を用いて原料油脂とアルコールからバイオディーゼル油を製造するための装置であって、当該装置が、
一方の導入口側から他方の排出口側に向かって流体が流れる流路を有した気密性のある容器からなる反応器であって、当該反応器の内部に、15以上の塩基強度(H_)を有し、かつ、0.1mmol/g以上の塩基量を有した酸化カルシウムからなる固体塩基触媒が充填されており、当該反応器における流体導入口側と流体排出口側に、当該反応器に外気が流入するのを防止するための遮断手段が設けられている反応器と、
前記反応器内でのエステル交換反応によって生じるグリセリンを除去し、生成したバイオディーゼル油を分離するための静置槽
とを具備することを特徴とするバイオディーゼル油製造用装置。
【請求項6】
固体塩基触媒を用いて原料油脂とアルコールからバイオディーゼル油を製造するための方法であって、当該方法が、15以上の塩基強度(H_)を有し、かつ、0.1mmol/g以上の塩基量を有した酸化カルシウムからなる固体塩基触媒が内部に充填され、一方の導入口側から他方の排出口側に向かって流体が流れる流路を有し、流体導入口側と流体排出口側に、外気が流入するのを防止するための遮断手段が設けられている気密性のある容器からなる反応器内に、原料油脂とアルコールとを導入して常圧下で50~80℃の温度にて反応させる工程A’と、前記工程A’にて得られた反応液を取り出して静置し、前記反応液中に含まれるグリセリンを分離除去する工程B’とを含むことを特徴とするバイオディーゼル油の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、原料油脂からバイオディーゼル油を効率良く製造するのに適した固体塩基触媒(バイオディーゼル油製造用固体塩基触媒)及びその製造方法に関するものである。又、本発明は、前記固体塩基触媒が容器内に充填されたバイオディーゼル油製造用反応器、当該反応器を具備したバイオディーゼル油製造用装置、並びに、当該装置を用いたバイオディーゼル油の製造方法に関するものでもある。
【背景技術】
【0002】
これまでに、植物油脂やその使用済み廃食油中に含まれる脂肪酸トリグリセリドを1価アルコールとエステル交換反応させて得られた脂肪酸アルキルエステルが、ディーゼル燃料油として有効利用できることが知られており、数多くの方法が検討されてきている。
その一つの、触媒として水酸化アルカリを用いる水酸化アルカリ法については、例えば下記の特許文献1に記載されているが、このような方法の場合には、原料アルコールに触媒が溶解するため、反応後に大量の水を用いて均一化した触媒を除去しなければならず、触媒除去に伴う強アルカリ水が発生することで排水処理装置が不可欠となる。しかも、この方法の場合には、石鹸生成による生成物の乳化が起こるので分離操作が困難であり、副生グリセリンがアルカリ化し、処理が難しく、しかも高コストとなり、又、製造装置が回分操作方式であるために、反応効率が低く、操作が煩雑であるという問題点もあった。
【特許文献1】
特開平7-197047号公報
【0003】
そこで、最近では、固体塩基触媒を使用して、植物由来の原料油脂からバイオディーゼル油を製造するための方法(固体触媒法)も種々提案されてきている(例えば、下記の特許文献2~4参照)。
【特許文献2】
特開2000-44984号公報
【特許文献3】
特開2004-35873号公報
【特許文献4】
特開2001-302584号公報
【0004】
しかしながら、水酸化カルシウムを触媒として使用する上記特許文献2記載の方法の場合には、触媒の表面性状を制御していないために、他の成分(酸化鉄)との複合化によって触媒活性を高めなければならず、触媒製造コストが高いという問題点があった。又、上記特許文献3記載の方法の場合には触媒として生石灰あるいは苦土が使用されているが、触媒の表面性状を制御していないために極めて活性が低く、大量に使用しなければならなかった。更に、酸化カルシウムを触媒として使用する上記特許文献4記載の方法の場合にも、触媒の表面性状を制御していないために活性が低く、油脂と1価アルコールのいずれも超臨界状態とはならない温度条件では収率が低くなり、収率を上げるには超臨界状態を利用しなければならず、反応条件が過酷であるという問題点があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、地球温暖化ガスと大気汚染物質の排出量を削減し、来るべき「エネルギー循環型社会」の構築に極めて重要なバイオディーゼル油を効率良く製造するのに適したバイオディーゼル油製造用固体塩基触媒を提供することにある。
又、本発明の課題は、このようなバイオディーゼル油製造用固体塩基触媒を製造するための方法を提供することでもあり、この固体塩基触媒を用いたバイオディーゼル油製造用反応器及び装置を提供することでもある。
更に本発明は、上記の固体塩基触媒を用いてバイオディーゼル油を効率良く製造するための方法を提供することを課題とするものでもある。
【0006】
本発明者等は、これまで、バイオディーゼル油製造用触媒として非常に活性が低いと考えられていた酸化カルシウムについて詳細に検討を行った結果、空気雰囲気下での焼成時の表面汚染による活性低下を見い出し、不活性雰囲気下で焼成すれば極めて活性の高い触媒が調製できることを見い出して、本発明を達成した。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のバイオディーゼル油製造用固体塩基触媒は、原料油脂とアルコールとのエステル交換反応によってバイオディーゼル油を製造する際に使用される固体塩基触媒であって、当該固体塩基触媒が、生石灰、炭酸カルシウム、酢酸カルシウム及び消石灰からなるグループより選ばれた触媒原料を、水を含まずに炭酸ガス濃度が1ppm以下である不活性ガス雰囲気下にて焼成することにより得られたものであり、15以上の塩基強度(H_)を有し、かつ、0.1mmol/g以上の塩基量を有した酸化カルシウムからなることを特徴とする。
尚、触媒活性を決定する「塩基強度(H_)」は「Hammett試薬の変色点を示す酸乖離指数(pKa)」を示すものとして定義しており、以下のように説明することができる。
酸化カルシウムの塩基強度は、Hammett指示薬の酸性色から塩基性色への変化により、決定した。Hammett指示薬をAH(酸性色状態)、表面塩基点をBとすれば、固体塩基によるHammett指示薬の塩基性色への変化は以下の化学式で表される。
AH + B → A + BH ・・・ Hammett指示薬からの固体塩基へのプロトン供与
ここで、塩基性色のHammett指示薬の濃度をCA-、酸性色の濃度をCAHとすれば、固体塩基のHammett関数Hは以下の式であらわされる。
H = pKaAH - log(CAH/CA-
実際の測定では、酸乖離定数がpKaの指示薬AHについて、固体塩基表面でCA-がCAHを超えたときに塩基色へ変化すると考える。従ってpKa=9.3のフェノールフタレインを無色から桃色へ変化させる固体塩基は、塩基強度がフェノールフタレインのpKaである9.3を超えていると評価し、H_>9.3と表記した。又、pKa=15の2,4-ジニトロアニリンを色変化させる固体塩基は、塩基強度が2,4-ジニトロアニリンのpKaである15を超えていると評価し、H_>15と表記している。
【0008】
また、本発明は、原料油脂とアルコールとのエステル交換反応によってバイオディーゼル油を製造する際に使用される固体塩基触媒を製造するための方法であって、当該方法が、生石灰、炭酸カルシウム、酢酸カルシウム及び消石灰からなるグループより選ばれた触媒原料を準備する工程Aと、前記触媒原料を、水を含まずに炭酸ガス濃度が1ppm以下である不活性ガス雰囲気下にて300℃以上の温度で焼成する工程Bとを含むことを特徴とするものである。
又、本発明は、上記の特徴を有したバイオディーゼル油製造用固体塩基触媒の製造方法において、前記不活性ガスが、ヘリウム、ネオン、アルゴン、窒素及びこれらの混合物から成るグループより選ばれたものであることを特徴とするものでもある。
[0009]
又、本発明のバイオディーゼル油製造用反応器は、固体塩基触媒を用いて原料油脂とアルコールからバイオディーゼル油を製造する際に使用される反応器であって、当該反応器が、一方の導入口側から他方の排出口側に向かって流体が流れる流路を有した気密性のある容器からなり、当該反応器の内部には、15以上の塩基強度(H_)を有し、かつ、0.1mmol/g以上の塩基量を有した酸化カルシウムからなる固体塩基触媒が充填されていること、及び、前記反応器における流体導入口側と流体排出口側に、当該反応器に外気が流入するのを防止するための遮断手段が設けられていることを特徴とするものである。
又、固体塩基触媒を用いて原料油脂とアルコールからバイオディーゼル油を製造するための本発明のバイオディーゼル油製造用装置は、
一方の導入口側から他方の排出口側に向かって流体が流れる流路を有した気密性のある容器からなる反応器であって、当該反応器の内部に、15以上の塩基強度(H_)を有し、かつ、0.1mmol/g以上の塩基量を有した酸化カルシウムからなる固体塩基触媒が充填されており、当該反応器における流体導入口側と流体排出口側に、当該反応器に外気が流入するのを防止するための遮断手段が設けられている反応器と、
前記反応器内でのエステル交換反応によって生じるグリセリンを除去し、生成したバイオディーゼル油を分離するための静置槽
とを具備することを特徴とする。
[0010]
更に、固体塩基触媒を用いて原料油脂とアルコールからバイオディーゼル油を製造するための本発明のバイオディーゼル油の製造方法は、15以上の塩基強度(H_)を有し、かつ、0.1mmol/g以上の塩基量を有した酸化カルシウムからなる固体塩基触媒が内部に充填され、一方の導入口側から他方の排出口側に向かって流体が流れる流路を有し、流体導入口側と流体排出口側に、外気が流入するのを防止するための遮断手段が設けられている気密性のある容器からなる反応器内に、植物由来の原料油脂とアルコールとを導入して常圧下で50~80℃の温度にて反応させる工程A’と、前記工程A’にて得られた反応液を取り出して静置し、前記反応液中に含まれるグリセリンを分離除去する工程B’とを含むことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明のバイオディーゼル油製造用固体塩基触媒を使用した場合には、水酸化アルカリを使用した場合のような触媒除去のための中和工程が不要であり、強アルカリ排水が副生しないという利点がある。又、この固体塩基触媒を用いた場合には、極めて高い反応効率を達成することができ、装置のコンパクト化が可能で、操作性、整備性が良好であるという利点もある。上記の固体塩基触媒をハンドリングするには流通式反応装置が好適であり、原料油脂を連続処理可能な、このような本発明の装置を使用した場合には、著しく高められた反応効率が達成可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
まず最初に、原料油脂とアルコールとのエステル交換反応によってバイオディーゼル油を製造する際に使用される本発明のバイオディーゼル油製造用固体塩基触媒について説明する。この固体塩基触媒は、表面塩基量を制御した酸化カルシウムからなり、この触媒は、触媒原料である工業製品として安価に入手可能な炭酸カルシウム(重カル/軽カルいずれも可)、消石灰、酢酸カルシウム、生石灰などを、炭酸ガス及び水分を実質的に含まない気流中で温度300℃以上の焼成操作によって得られたものであり、その塩基強度(最大塩基強度:H_)は、2,4-ジニトロアニリンの変色強度に相当する15以上であり、炭酸ガスや水分を含んだ一般的な大気中で焼成して得られる酸化カルシウムの塩基強度(フェノールフタレインの変色強度に相当する9.3を少し越えた程度の塩基強度)よりもかなり大きい。そして、本発明の固体塩基触媒にあっては、塩基量(単位重量当たりの塩基量)が0.1mmol/g以上であり、この値も、大気中で焼成して得られる酸化カルシウムの塩基量(約0.03mmol/g程度)よりもかなり大きい。
以下の表1に、各種カルシウム化合物を焼成することにより得られる焼成物の表面特性(塩基強度他)並びに油収率を示す。
【0013】
【表1】
JP0005105418B2_000002t.gif【0014】
本発明の固体塩基触媒においては、粒子径、表面積等の物理的性質は特に限定されないが、流通式反応器内で使用できるような形状となっており、良好な流動性を確保するための粒子径としては、反応器内径の1/5以下で、かつ触媒充填高さの1/10以下であることが望ましい。触媒ハンドリングを容易にするためにタブレット状、ペレット状、ハニカム状等に成形してよい。又、触媒と原料の接触効率を高めるために、希釈用不活性固体と共に使用しても良い。
【0015】
尚、本発明のバイオディーゼル油製造用固体塩基触媒の原料となるカルシウム化合物については、工業製品として安価に入手できるカルシウム化合物、例えば重質炭酸カルシウム(石灰石を粉砕・分級によって得た粉体)、軽質炭酸カルシウム(石灰乳の炭酸化、塩化カルシウムと炭酸ナトリウムの反応等によって得た炭酸カルシウム)、生石灰(上記炭酸カルシウムを大気下の焼成操作によって得た酸化カルシウム)、消石灰(上記生石灰の水和物)、酢酸カルシウムなどがいずれも使用できる。
【0016】
上記の固体塩基触媒を製造するための本発明の方法においては、工業製品として安価に入手可能な炭酸カルシウム(重質炭酸カルシウム/軽質炭酸カルシウムいずれも可)、消石灰、生石灰のいずれかを触媒原料として準備し(工程A)、この触媒原料を、水と炭酸ガスを実質的に含まない不活性ガス気流中にて300℃以上の温度で焼成し、触媒を得る(工程B)。
本発明の固体塩基触媒の製造方法の工程Bにおいて使用される、水と炭酸ガスを実質的に含まない気体の種類は不活性ガスだけに限定されるものではなく、酸素を含んでいても良いが、この場合には焼成温度を高くする必要がある。本発明において使用できる高純度の気体としては、ヘリウム、ネオン、アルゴン、窒素、酸素及びこれらの混合物が挙げられ、特に高純度ヘリウムガス(純度99.999%)が望ましい。この製法における焼成温度は300℃以上であり、一般的には300~900℃の範囲、好ましくは500~700℃であって、炭酸カルシウムや水酸化カルシウムを触媒原料とする場合は500℃以上であることが望ましい。
【0017】
このようにして製造された本発明の固体塩基触媒の触媒活性化機構は、以下のように考えられる。本発明では、前述のいずれの触媒原料を用いても、酸化カルシウムが活性形態として作用する。酸化カルシウムは、炭酸ガスや水分を吸着しやすいため、大気下では表面の塩基性が小さく、反応物の酸性が強いと劣化表面が更新されて塩基性を発現するが、本発明では、反応物である油脂やアルコールの酸性度が極めて小さいため、反応を促進させるには酸化カルシウムの表面を清浄化(炭酸ガスや水分の吸着)して塩基性の劣化を防止せねばならない。このため、本発明では炭酸ガスや水分が除去されている不活性ガス(酸素を含んでも可)の流通下において触媒原料を焼成している。これにより、触媒表面が清浄化されるだけでなく、炭酸塩の分解に関する平衡解離圧の制約が弱められることで焼成所要温度を低減する効果ももたらす。尚、市販されている不活性ガスはその純度によって残存する炭酸ガスや水分の濃度が異なるため、高純度品を使用することが好ましい。不活性ガスの純度が低いと平衡解離圧の制約によって焼成に要する温度が高くなり、触媒調製コストの面で不利となる。
【0018】
次に、前記の固体塩基触媒を用いて原料油脂とアルコールからバイオディーゼル油を製造する際に使用される本発明のバイオディーゼル油製造用反応器について説明する。
この反応器は、一方の導入口側から他方の排出口側に向かって流体が流れる流路を有した気密性のある容器からなり、その外観形状が限定されるものではないが、一般的には、一方の側に流体導入口が設けられており、他方の側に流体排出口が設けられた実質的に筒状体容器からなる。そして、この筒状容器の内部には、15以上の塩基強度(H_)を有し、かつ、0.1mmol/g以上の塩基量を有した酸化カルシウムからなる前述の固体塩基触媒が充填された構造となっている。この際、反応器における流体導入口側と流体排出口側には、当該反応器に外気が流入するのを防止するための遮断手段が設けられていることが好ましく、本発明のバイオディーゼル油製造用反応器は、前述の触媒を充填した反応器をカートリッジ方式で使用する流通式反応器の形態であることが好ましい。
【0019】
本発明のバイオディーゼル油製造用固体塩基触媒にあっては、大気中の炭酸ガスや水分が被毒成分であり、焼成時に炭酸ガスや水分が存在すると触媒活性が著しく低下するので、これらを含む大気との接触を極力避けるようなハンドリングが必要である。これを達成する方法としては、触媒原料を充填した管型反応器(流通式反応器)内に、炭酸ガスと水分を除去した不活性ガスを流して前述の焼成操作を行うのが最も良い方法である。ただし、バイオディーゼル油を製造するための装置内で焼成を行うのはコスト的に不利となるため、オフサイト、すなわち装置とは別の場所で焼成するのが良い。オフサイト焼成時には保管、運搬、反応管取り付け時に触媒が大気接触により劣化することが危惧されるので、管型反応器の両端にブロックバルブ等の大気遮断装置を設置すればよい。このような反応器を用いれば、オフサイトでの焼成操作後に不活性ガスを封入してブロックバルブを閉めるだけで、保管、運搬、反応管取り付け時の大気接触を避けることができる。また、触媒劣化を可能な限り低減させる観点からは、原料の油脂やアルコールに溶解している炭酸ガスや水分を除去しておくのが望ましい。炭酸ガスについては不活性ガスを用いた置換除去、水分については吸着除去が考えられる。
【0020】
図1には、好ましい形態である本発明のカートリッジ方式の流通式反応器の一例が示されている。このような流通式反応器の場合、反応容器内に前述の触媒原料を充填し、前述の焼成操作を装置オフサイトで行い、大気と接触させることなく装置サイトに運搬し、バイオディーゼル油製造装置に取り付けることができる。この図1の反応器にあっては、流体導入口側と流体排出口側に、反応器内部に充填された触媒の大気との接触を遮断できる装置としてブロックバルブが設けられているが、反応器の両端に設けられる遮断手段はこれに限定されるものではない。
【0021】
前述の固体塩基触媒を用いて原料油脂とアルコールからバイオディーゼル油を製造するための本発明のバイオディーゼル油製造用装置は、図2に示されるような構成を有しており、油脂とアルコールが導入される反応器内には、前述の、15以上の塩基強度(H_)を有し、かつ、0.1mmol/g以上の塩基量を有した酸化カルシウムからなる固体塩基触媒が充填されている。そして、この反応器の流出側には、反応器内でのエステル交換反応によって生じるグリセリンを除去し、生成したバイオディーゼル油を分離するための静置槽が設けられている。なお、本発明では、グリセリンを除去した後のバイオディーゼル油中に含まれる極微量の触媒(酸化カルシウム)を除去する目的で吸着槽を設けることが好ましく、この吸着槽としては、その内部に市販の活性炭が充填されたカラム等が使用でき、グリセリン除去後のバイオディーゼル油を濾過するだけで簡単に触媒を除去することが可能である。
【0022】
最後に、前述の固体塩基触媒を用いて原料油脂とアルコールからバイオディーゼル油を製造するための本発明のバイオディーゼル油の製造方法について説明する。
この製造方法は、15以上の塩基強度(H_)を有し、かつ、0.1mmol/g以上の塩基量を有した酸化カルシウムからなる前述の固体塩基触媒が内部に充填された反応器内に、植物由来の原料油脂とアルコールとを導入して常圧下で50~80℃の温度にて反応させる工程A’と、前記工程A’にて得られた反応液を取り出して静置し、前記反応液中に含まれるグリセリンを分離除去する工程B’とを含む。本発明のより詳しい製造方法は、i)原料貯蔵工程、ii)反応工程、iii) グリセリン除去工程、iv) アルコール分離工程、v)吸着精製工程から成り、これらの工程を実施するための各部が組み込まれた1台のパッケージユニット型の製造装置も、本発明のバイオディーゼル油製造用装置の一例であり、このような製造装置を用いると原料油脂を大規模で集約する意義が薄まり、バイオディーゼル油製造コストの面で有利である。
以下、上記工程i)~v)について説明する。
【0023】
i)原料貯蔵工程
本発明において使用可能な原料油脂は特に限定されるものではなく、複数種類の油脂を混合処理することもできる。具体的には、菜種油、大豆油、ひまわり油、とうもろこし油、綿実油、パーム油等の植物油や、豚脂、牛脂、イワシ油等の動物脂がいずれも使用できるが、飽和高級脂肪酸成分の多い原料油脂(例えばパーム核油、動物脂)を原料油脂として使用する場合には、加熱あるいは低粘度油との混合等による流動化処理を行っておくとよい。又、食品調理に使用された廃油も使用可能である。この場合、装置の目詰まりを防止するために、濾過処理等により固体成分(揚げカス)の除去しておき、更に、反応阻害作用を緩和させるために、吸着処理等による水分や遊離脂肪酸を除去しておくのが望ましい。
吸着処理に用いる吸着材としては、活性炭、活性アルミナ、活性白土などが有効である。
また、触媒劣化を防止する観点から、原料の油脂とアルコールに溶解している炭酸ガスを除去しておくことが望ましい。例えば、原料の貯蔵タンクに不活性ガスの導入ノズルを設けて、溶解炭酸ガスを不活性ガスで置換除去する方法等が考えられる。
【0024】
ii)反応工程
本発明のバイオディーゼル油製造方法における反応工程(工程A’)では、前記の触媒を充填した反応器を用いる流通反応方式とし、この方式によって、従来技術の最大の問題点であった「触媒分離除去」操作が不要となる。
この工程において使用される反応器については、前述の如く、触媒原料を充填した状態でオフサイトの焼成操作ができるよう、製造装置から容易に脱着できるようなカートリッジタイプとするのが好ましい。本発明の触媒は活性が非常に高く、5~20h-1の液空間速度で反応を操作するので、反応器がコンパクトなカートリッジタイプにできる。また、焼成操作後の保管、運搬および製造装置への取り付け時に触媒が大気と接触しないような装備(例えば図1に示されるようなブロックバルブ)が反応器に設けられる。
この反応工程においては、前述の固体塩基触媒が内部に充填された反応器内に、原料油脂とアルコールとが導入され、常圧下で50~80℃の温度、好ましくは60~70℃の温度にて反応が行われ、脂肪酸エステルとグリセリンが生成する。
上記の原料油脂と共に反応器に導入される原料アルコールとしては、炭素数が1~5の1価アルコールが使用されるが、製品蒸留性状の観点からは、メチルアルコールが望ましい。このアルコールの供給量は、原料油脂の3倍モル以上とし、その範囲内でできる限り少量にするのが、反応後の分離回収操作やそれに要するエネルギー消費の観点から望ましい。なお、使用するアルコールの純度によっては、事前に脱水処理するのが望ましい。
【0025】
iii)グリセリン分離除去工程(工程B’)
この工程においては、反応生成物がバイオディーゼル油(脂肪酸エステル)から成る軽液とグリセリンから成る重液の2相に分離するため、両者の比重差を利用してグリセリンを除去する。この際、エネルギー的には静置分離方式が望ましいが、分離効率を勘案して遠心分離方式を適用しても良い。分離したグリセリンは化学工業原料として使用できる。
【0026】
iv)アルコール分離工程
前記の反応工程において反応に使用されなかった未反応のアルコールは、反応生成物の顕熱を利用して蒸発分離する。この際、分離度に応じてこの工程に熱量を加えても良く、蒸発分離後に回収したアルコールは、原料として再利用できる。
【0027】
v)吸着精製工程
本発明では、エステル交換反応後の反応液中に、酸化カルシウムのごく一部がメトキサイドに転化し、生成物に溶解する恐れがあり、また、廃油を原料油脂としたときには、微量の水分や遊離脂肪酸、あるいは食品由来の成分が反応生成物に含まれることがある。そのため、燃料油としてのバイオディーゼル油の仕様を満足する製品を得るには、吸着処理による精製工程を設けるのが望ましい。吸着処理に用いる吸着材としては活性炭、活性アルミナ、活性白土などが有効である。
【0028】
上記のようにして製造された脂肪酸エステルは、ディーゼル燃料として使用することができ、通常のディーゼル油を使用した場合に比べて、排ガス中のSOX等が減少するという利点をもたらす。
なお、本発明では、製造装置に印加した熱量を回収するため、適当な箇所に熱交換部を設ければ、バイオディーゼル油製造装置のランニングコストの面で有利である。
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0029】
実施例1:本発明のバイオディーゼル油製造用固体塩基触媒の製造例
触媒原料として、沈降性炭酸カルシウムから得た生石灰を準備し、この触媒原料を、ステンレス製の管状反応器(内径:30mm×長さ:600mm)内へ装入し、この反応器内に高純度ヘリウム(純度99.999%、CO2は1ppm以下、露点は-70℃)を流量:150ml/分で流通させながら700℃の温度にて1.5時間焼成した。
このような焼成によって得られた酸化カルシウムの各種物性値を測定したところ、平均粒径が0.5μmで、表面積(BET法)は5.5m/gであり、最大塩基強度(H_)は15以上であり、塩基量(H_>9.3)は0.16mmol/gであった。
【0030】
実施例2:触媒活性に及ぼす焼成温度の影響
焼成温度を150℃、300℃、500℃に変更した以外は、前記実施例1と同様の方法によって焼成を行い、得られた酸化カルシウムの表面積、最大塩基強度(H_)、塩基量をそれぞれ測定した。この結果を以下の表2に示す。
又、各焼成温度で得られた酸化カルシウム1.5gをそれぞれ秤量し、大豆油(リノール酸やオレイン酸から成る脂肪酸トリグリセリドが主成分)100mlと、メタノール50mlと共に、パイレックス(登録商標)ガラス製のバッチ反応器(内容積:500cm)内に充填し密閉した。そして、この反応器を、メタノール環流温度(約65℃)にまで加温し、攪拌しながら1時間反応させ、その後、反応液を取り出して、静置槽において比重差により脂肪酸メチルエステルから成る軽液とグリセリンから成る重液とを分離した。分離した軽液をガスクロマトグラフで分析することにより、得られた脂肪酸メチルエステルの反応収率を算出した。
このような実験により得られたバイオディーゼル油(脂肪酸メチルエステル)の収率についても以下の表2に併記した。
【0031】
【表2】
JP0005105418B2_000003t.gif【0032】
上記表2の実験結果から、焼成温度が150℃の場合に得られた酸化カルシウムのバイオディーゼル油収率はわずか0.3%に過ぎないが、焼成温度が300℃~700℃の場合に得られた酸化カルシウムのバイオディーゼル油収率はいずれも85%以上の高い値を示すことがわかる。又、焼成体の表面積には大きな差は見られないが、焼成温度が300℃~700℃の場合に得られた酸化カルシウムの塩基強度はいずれも15.0以上であり、焼成温度が150℃の場合に得られた酸化カルシウムの塩基強度よりも高く、バイオディーゼル油製造用固体塩基触媒として有効に機能するための塩基強度が15以上必要であることが理解される。更に、単位重量当たりの塩基量についても、焼成温度が150℃の場合と、焼成温度が300℃以上の場合とで差が観察され、焼成温度が150℃の場合の塩基量が0.02mmol/gであるのに対して、焼成温度が300℃以上の場合の塩基量は0.13mmol/g以上であった。
【0033】
実施例3:触媒活性に及ぼす焼成雰囲気の影響
沈降性炭酸カルシウムを触媒原料として準備し、この触媒原料を、ステンレス製の管状反応器(内径:30mm×長さ:600mm)内に約2.7g装入し、この反応器内に、以下の表3に記載される種々のガス(単一ガス又は混合ガス)を流量:150ml/分で流通させながら900℃の温度にて1.5時間焼成し、焼成体をそれぞれ得た。この際、高純度ヘリウムガスとしては純度99.999%以上(COは<1ppm)のものを使用し、二酸化炭素は300ppmの濃度で混入し、水は露点が10℃となるように混入した。
尚、エステル交換反応の条件については、表2に記載した通りであり、バッチ反応器としては、内容積500cmのものを使用した。
【0034】
【表3】
JP0005105418B2_000004t.gif【0035】
上記表3の実験結果から、高純度ヘリウムガスを流通させた焼成により得られた酸化カルシウム(固体塩基触媒)を用いた場合には、非常に良好なバイオディーゼル油収率となることがわかり、二酸化炭素及び/又は水(水分)が存在する雰囲気下、特に二酸化炭素が存在する雰囲気下で焼成して得られた酸化カルシウムを用いた場合には、バイオディーゼル油収率が極めて低くなることが確認された。又、ヘリウムガスを用いない場合であっても、二酸化炭素と水を含まない焼成雰囲気下である「窒素ガス+酸素ガスの混合ガス」雰囲気下で焼成を行った場合に得られる酸化カルシウムは、良好なバイオディーゼル油収率を示すこともわかった。
【0036】
実施例4:本発明により製造されたバイオディーゼル油の燃料油特性
攪拌器、ジムロート型冷却器管、窒素導入用ノズルを設置した4つ口フラスコ(内容積:500cm)を回分反応器に用い、このフラスコ内に、実施例1で得られた本発明のバイオディーゼル油製造用固体塩基触媒を1.5g、大豆油(和光純薬製試薬)100ml、メタノール(和光純薬製試薬 特級)50mlを入れ、フラスコ内に窒素を毎分30ml導入しながら、マントルヒータを用いてフラスコを常圧で65℃に加熱した。メタノールを還流させながら約120分間加熱した後、反応液をフラスコから取り出し、反応液を静置槽内に入れ、この静置槽において比重差によりグリセリンを分離除去し、脂肪酸メチルエステルが主体の軽液を回収した。この軽液を、活性炭が充填されたカラムを用いた吸着処理とロータリーエバポレータによる溶媒加熱除去処理で精製し、純粋なバイオディーゼル油を得た。
上記の方法によって得られた純バイオディーゼル油(脂肪酸メチルエステル)についての燃料油特性(動粘度、流動点、残留炭素分、金属分)を以下の表4に示す。
【0037】
【表4】
JP0005105418B2_000005t.gif【0038】
上記表4に併記したヨーロッパでのバイオディーゼル油規格値、及び米国でのバイオディーゼル油規格値との比較により、本発明のバイオディーゼル油製造用固体塩基触媒を使用して製造されたバイオディーゼル油は、これらの規格を満たすものであることがわかった。又、日本国内で市販されている軽油の動粘度(@30℃,2.7mm/s)、流動点(-7.5℃以下)、残留炭素分(0.1%以下)に関する規格からみても、市販の軽油に代わる燃料として利用可能なものであることも確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明のバイオディーゼル油製造用固体塩基触媒を使用することによって、植物由来の油脂等の原料油脂からバイオディーゼル油を高収率で製造することができ、製造されたバイオディーゼル油は、燃料として利用でき、大気汚染物質の排出量を削減し、地球温暖化を防止するのに有用である。しかも、この固体塩基触媒は、原料油脂とアルコールとの反応効率を大幅に改善し、バイオディーゼル油の収率を著しく高めるので、バイオディーゼル油が普及する原動力となるものである。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明のカートリッジ方式の流通式反応器の好ましい一例を示す図である。
【図2】本発明のバイオディーゼル油製造用装置の一例における構成を示す図である。
図面
【図1】
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【図2】
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