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明細書 :自閉症の診断薬

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4834835号 (P4834835)
公開番号 特開2008-032447 (P2008-032447A)
登録日 平成23年10月7日(2011.10.7)
発行日 平成23年12月14日(2011.12.14)
公開日 平成20年2月14日(2008.2.14)
発明の名称または考案の名称 自閉症の診断薬
国際特許分類 G01N  33/53        (2006.01)
A61K  39/395       (2006.01)
FI G01N 33/53 D
A61K 39/395 D
A61K 39/395 N
請求項の数または発明の数 14
全頁数 15
出願番号 特願2006-204155 (P2006-204155)
出願日 平成18年7月27日(2006.7.27)
審査請求日 平成21年6月24日(2009.6.24)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504300181
【氏名又は名称】国立大学法人浜松医科大学
発明者または考案者 【氏名】森 則夫
【氏名】岩田 泰秀
【氏名】中村 和彦
【氏名】杉原 玄一
【氏名】橋本 謙二
【氏名】辻井 正次
個別代理人の代理人 【識別番号】100097733、【弁理士】、【氏名又は名称】北川 治
審査官 【審査官】海野 佳子
参考文献・文献 特表2002-541479(JP,A)
特開平11-083854(JP,A)
国際公開第02/037105(WO,A1)
GILLBERG C. et al.,A 'new' chromosome marker common to the Rett syndrome and infantile autism? The frequency of fragile sites at X p22in 8I children with infantile autism, childhood psychosis and the Rett syndrome,Brain. Dev.,1985年,Vol.7,No.3,P.365-367
VANCASSEL S. et al.,Plasma fatty acid levels in autistic children,Prostaglandins Leukot. Essent. Fatty Acids,2001年 7月,Vol.65,No.1,P.1-7
CHAUHAN V. et al.,Alteration in amino-glycerophospholipids levels in the plasma of children with autism: A potential biochemical diagnostic marker,Life Sci.,2004年 2月13日,Vol.74,No.13,P.1635-1643
MING X. et al.,Increased excretion of a lipid peroxidation biomarker in autism,Prostaglandins Leukot. Essent. Fatty Acids,2005年11月,Vol.73,No.5,P.379-384
PASCA Sergiu P. et al.,High levels of homocysteine and low serum paraoxonase 1 arylesterase activity in children with autism,Life Sci.,2006年 4月 4日,Vol.78,No.19,P.2244-2248
調査した分野 G01N 33/53
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
CAplus(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
抗トランスフォーミング成長因子ベータ1抗体を主成分とする自閉症診断薬。
【請求項2】
前記自閉症診断薬が、ヒト血液試料中のトランスフォーミング成長因子ベータ1(TGFβ1)濃度を測定するために使用されるものである請求項1に記載の自閉症診断薬。
【請求項3】
前記抗トランスフォーミング成長因子ベータ1抗体が、未標識の抗トランスフォーミング成長因子ベータ1抗体、及び/又は、標識化抗トランスフォーミング成長因子ベータ1抗体からなる請求項1又は請求項2に記載の自閉症診断薬。
【請求項4】
請求項1~請求項3のいずれかに記載の自閉症診断薬を含んで構成される自閉症診断キット。
【請求項5】
請求項1~請求項3のいずれかに記載の自閉症診断薬、又は請求項4に記載の自閉症診断キットを用いて、ヒト血液試料中のトランスフォーミング成長因子ベータ1濃度を測定する自閉症検定方法。
【請求項6】
請求項1~請求項3のいずれかに記載の自閉症診断薬、又は請求項4に記載の自閉症診断キットを用いて、自閉症の治療薬の効果を検定する検定方法。
【請求項7】
前記自閉症診断薬が、抗肝細胞増殖因子抗体及び/又は抗上皮成長因子抗体を含有する請求項1~請求項3のいずれかに記載の自閉症診断薬。
【請求項8】
前記自閉症診断薬が、ヒト血液試料中のトランスフォーミング成長因子ベータ1濃度と、肝細胞増殖因子(HGF)濃度及び/又は上皮成長因子(EGF)濃度とを測定するために使用されるものである請求項7に記載の自閉症診断薬。
【請求項9】
前記抗肝細胞増殖因子抗体が、未標識の抗肝細胞増殖因子抗体、及び/又は、標識化抗肝細胞増殖因子抗体からなる請求項7又は請求項8に記載の自閉症診断薬。
【請求項10】
前記抗上皮成長因子抗体が、未標識の抗上皮成長因子抗体、及び/又は、標識化抗上皮成長因子抗体からなる請求項7又は請求項8に記載の自閉症診断薬。
【請求項11】
請求項7~請求項10のいずれかに記載の自閉症診断薬を含んで構成される自閉症診断キット。
【請求項12】
請求項1~請求項3のいずれかに記載の自閉症診断薬と、抗肝細胞増殖因子抗体を主成分とする剤及び/又は抗上皮成長因子抗体を主成分とする剤とを含んでなる自閉症診断キット。
【請求項13】
請求項7~10のいずれかに記載の自閉症診断薬、又は請求項11若しくは請求項12に記載の自閉症診断キットを用いて、ヒト血液試料中のトランスフォーミング成長因子ベータ1濃度と、肝細胞増殖因子濃度及び/又は上皮成長因子濃度とを測定する自閉症検定方法。
【請求項14】
請求項7~10のいずれかに記載の自閉症診断薬、又は請求項11若しくは請求項12に記載の自閉症診断キットを用いて、自閉症の治療薬の効果を検定する検定方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は自閉症の診断薬に関する。さらに詳しくは本発明は、自閉症診断の指標として有効であることが新規に見出された生体タンパク質に対する抗体を主成分とする自閉症の診断薬の発明と、これに関連する発明に関する。
【背景技術】
【0002】
自閉症はアメリカのカナー博士により1943年に“情緒接触の自閉的障害”として最初に記載された障害である。発症は人生の極めて早期であり、主要症状として周囲からの極端な孤立と自閉化、特異な言語症状、強迫的な同一性保持が指摘されている。自閉症は、人生の早い時期に障害が現れ、発達の過程によって状態が変わっていく発達障害であり、未だ特定できない高次の中枢神経系の障害であると推測されている。
【0003】
一方、高機能自閉症とは、3歳位までに現れ、他人との社会的関係の形成の困難さ、言葉の発達の遅れ、興味や関心が狭く特定のものにこだわることを特徴とする行動の障害である自閉症のうち、知的発達の遅れを伴わないものをいう。自閉症の罹病率は、子供1万人あたり7~16人であり、高機能自閉症は自閉症のおおよそ11~34%であると報告されている(非特許文献1)。高機能自閉症の原因は現在のところ明らかでないが、脳の機能障害および発達障害を基盤とする生物学的要因と、発達段階における環境からの心理学的要因とが複雑に絡み合っているものと推測されている。
【0004】

【非特許文献1】マッキントッシュ,KEら著、 Annotation:The similarities and differences between autistic disorderand Asperger's disorder: a review of the empirical evidence.Journal of Child Psychology and Psychiatry. (2004) 45: 421-434. 自閉症の診断は、米国精神医学会の診断基準(DSM-IV)、世界保健機構WHOのICD-10、ADI-R(Autism Diagnostic Interview-Revised )を用いた面接で行なわれている。自閉症では出生後早期に頭囲の拡大がみとめられており、この時期の神経細胞やグリアの新生の増加もしくは細胞死の減少が存在していると考えられる。さらに、この過程には神経成長因子が関与していることが強く示唆されている(非特許文献2)。また、自閉症の病態の特殊性から、早期診断、早期治療、社会復帰活動、予防といった包括的な治療体系の確立が望まれているが、自閉症の生物学的マ-カ-は未だ確立されていない。
【0005】

【非特許文献2】マッカフェリー,Pら著、 Macrocephaly and the control of brain growth in autistic disorders.Progress in Neurobioligy (2005) 77: 38-56. ところで、トランスフォーミング成長因子ベータ1( Transforming Growth Factor β1 :以下、「TGFβ1」とも呼ぶ) は発達や組織修復に関与する多機能性を持つ調節サイトカインのサブタイプの一つである。TGFβは脳内ではグリアと神経細胞にて産生され、TGFβ1は主に傷害修復に関係するサイトカインと考えられているが、神経系における調節因子としても重要な役割を担っている(非特許文献3)。TGFβ1とその受容体は発達段階の神経系に発現していることから、脳の発達に関与していることが示唆されており(非特許文献4)、TGFβ1ノックアウトマウスにおいて広範な細胞死を伴う重篤な皮質の発達障害が認められる(非特許文献5)。これらから、脳発達におけるTGFβ1の役割を考えると、自閉症患者の病態生理との関連が考えられる。
【0006】

【非特許文献3】ゴメス,FCら著、 Emerging roles for TGF-betal in nervous system development.Int J Dev Neurosci (2005) 23: 413-424.
【非特許文献4】ボートナー,Mら著、 The transforming growth factor-betas: structure, signaling, and rolesin nervous system development and functions.J Neurochem (2000) 75: 2227-2240.
【非特許文献5】ブリオンネ,TCら著、 Loss of TGF-betal leads to increased neuronal cell death andmicrogliosis in mouse brain.Neuron (2003) 40: 1133-1145. 次に、肝細胞増殖因子(Hepatocyte Growth Factor:以下、「HGF」とも呼ぶ)は、肝蔵のみならず腎臓、肺、心血管系そして神経系などに存在し、臓器の再生、保護の役割を担っている。またHGFはげっ歯類において、終脳における腹側から背側への介在ニューロンの移動促進(非特許文献6)や、顆粒細胞の増殖分化の制御(非特許文献7)など胎生期の神経細胞発達に関与している(非特許文献8)。更に、HGFは新生児期の大脳皮質錐体細胞樹状突起の形成を制御し、神経細胞の発達に不可欠であることがわかっている(非特許文献9)。これらの脳の発達におけるHGFの役割を考慮すると、自閉症患者の病態生理にHGFが関与していることが考えられる(非特許文献10)。近年、自閉症患者の脳脊髄液中のHGFが健常群に比べて顕著に高値であると報告されたことから(非特許文献11)、末梢血中HGF濃度の異常が推定されるが,これまでのところ報告はない。
【0007】

【非特許文献6】パウエル,EMら著、 Hepatocyte growth factor/scatter factor is a motogen for interneuronsmigrating from the ventral to dorsal telencephalon.Neuron (2001) 30: 79-89.
【非特許文献7】アイエラキ,Aら著、Viable hypomorphic signaling mutant of the Met receptor reveals a rolefor hepatocyte growth factor in postnatal cerebellar development.Proc Natl Acad Sci USA (2002) 99: 15200-15205.
【非特許文献8】マイナ,Fら著、 Hepatocyte growth factor, a versatile signal for developing neurons.Nature Neurosci (1999) 2: 213-217.
【非特許文献9】グティーレッツ,Hら著、 HGF regulates the development of cortical pyramidaldendrites.Development (2004) 131: 3717-3726.
【非特許文献10】レビット,Pら著、Regulation of neocortical interneuron development and the implicationsfor neurodevelopmental disorders.Trends Neurosci (2004) 27: 400-406.
【非特許文献11】ヴァーガス,DLら著、 Neuroglial activation and neuroinflammation in the brain of patientswith autism.Ann Neurol (2005) 57: 67-81. 更に、上皮成長因子( Epidermal Growth Factor:以下「EGF」とも呼ぶ)とその関連因子は、EGFレセプターに結合し、繊維芽細胞や上皮細胞の増殖を促進させる働きがあり、増殖、分化、血管新生、アポトーシスの抑制において重要な役割を果たしている。また、EGFは成人脳の神経細胞や星状細胞にその存在が確認され、脳神経におけるEGFの役割を考慮すると自閉症患者の病態生理にEGFが関与していることが考えられる(非特許文献12)。さらに血液中に投与された放射性標識されたEGFは脳血流関門を急速に通過することから、末梢血中のEGF濃度は脳内EGF濃度を反映していると考えられる(非特許文献13)。
【0008】

【非特許文献12】フェラー,Iら著、 Transforming growth factor-alpha (TGF-) and epidermal growth factor-receptor(EGF-R) immunoreactivity in normal and pathologic brain.Prog Neurobiol (1996) 49: 99-123.
【非特許文献13】パン,Wら著、 Entry of EGF into brain is rapid and saturable.Peptides (1999) 20: 1091-1098.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
自閉症は、前述したとおり簡便な生物学的マ-カ-が確立されておらず、その診断が困難であり、早期に適切な処置を講じることができず、そのことが症状をさらに悪化させる原因になっている。従って、医療の現場から、自閉症を早期に診断できる診断薬および診断方法の開発が望まれている。
【0010】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討を行なった結果、自閉症患者の血清中におけるTGFβ1、HGF、EGFのそれぞれのレベルが、健常者のそれらと比較して有意に低下していることを見出した。
【0011】
そして、このようなTGFβ1、HGFあるいはEGFのレベルの違いを利用することにより、抗トランスフォーミング成長因子ベータ1抗体(抗TGFβ1抗体)、抗肝細胞増殖因子抗体(抗HGF抗体)あるいは抗上皮成長因子抗体(抗EGF抗体)を用いて自閉症の早期、簡便かつ信頼性のある診断が可能となることを知った。本発明はかかる知見に基づいて完成されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
〔用語の意味、定義〕
以下、本明細書における用語の意味あるいは定義について述べる。
【0013】
「自閉症」とは、主要症状として周囲からの極端な孤立と自閉化、特異な言語症状、強迫的な同一性保持があげられており、人生の早い時期に障害が現れ、発達の過程によって状態が変わっていく発達障害である。「高機能自閉症」とは、3歳位までに現れ、他人との社会的関係の形成の困難さ、言葉の発達の遅れ、興味や関心が狭く特定のものにこだわることを特徴とする行動の障害である自閉症のうち、知的発達の遅れを伴わないものをいう。
【0014】
「血液試料」とは、ヒト(自閉症患者に限定されない)又は動物(例えば自閉症モデル動物)から採取した血液の他、これらの血液から調製した血清、血液又は血清を含む組成物(例えば、pH緩衝液による希釈物等)、あるいはこれらの凍結乾燥物等を限定なく包含する概念である。
【0015】
「抗トランスフォーミング成長因子ベータ1抗体」とは、トランスフォーミング成長因子ベータ1を抗原として用いて精製された抗体をいう。該抗体は、トランスフォーミング成長因子ベータ1に結合する能力があればよく、ポリクロ-ナル抗体、モノクロ-ナル抗体を含む。また好ましいものとしては、特異的にトランスフォーミング成長因子ベータ1に結合するポリクロ-ナル抗体、モノクロ-ナル抗体等が挙げられる。
【0016】
「標識化抗トランスフォーミング成長因子ベータ1抗体」とは、トランスフォーミング成長因子ベータ1抗体をペルオキシダ-ゼ、β-D-ガラクトシダ-ゼ、アルカリフォスファタ-ゼ、グルコ-ス-6-リン酸脱水素酵素等の酵素、デルフィニウム等の蛍光標識、放射性同位元素標識または同位元素標識、ビオチン等を結合させ、トランスフォーミング成長因子ベータ1を定量化できるように工夫された抗体をいう。
【0017】
更に、「標識化抗トランスフォーミング成長因子ベータ1抗体」には、ビオチン、2,4-ジニトロフェノ-ル等で修飾した抗トランスフォーミング成長因子ベータ1も含まれる。この際には、該標識化抗トランスフォーミング成長因子ベータ1抗体に標識化したアビジン、標識化抗2,4-ジニトロフェノ-ル抗体を更に用いて定量化できる。
【0018】
「抗肝細胞増殖因子抗体」とは、肝細胞増殖因子を抗原として用いて精製された抗体をいう。該抗体は、肝細胞増殖因子に結合する能力があればよく、ポリクロ-ナル抗体、モノクロ-ナル抗体を含む。また好ましいものとしては、特異的に肝細胞増殖因子に結合するポリクロ-ナル抗体、モノクロ-ナル抗体等が挙げられる。
【0019】
「標識化抗肝細胞増殖因子抗体」とは、肝細胞増殖因子抗体をペルオキシダ-ゼ、β-D-ガラクトシダ-ゼ、アルカリフォスファタ-ゼ、グルコ-ス-6-リン酸脱水素酵素等の酵素、デルフィニウム等の蛍光標識、放射性同位元素標識または同位元素標識、ビオチン等を結合させ、肝細胞増殖因子を定量化できるように工夫された抗体をいう。
【0020】
更に、「標識化抗肝細胞増殖因子抗体」には、ビオチン、2,4-ジニトロフェノ-ル等で修飾した抗肝細胞増殖因子も含まれる。この際には、該標識化抗肝細胞増殖因子抗体に標識化したアビジン、標識化抗2,4-ジニトロフェノ-ル抗体を更に用いて定量化できる。
【0021】
「抗上皮成長因子抗体」とは、上皮成長因子を抗原として用いて精製された抗体をいう。該抗体は上皮成長因子に結合する能力があればよく、ポリクロ-ナル抗体、モノクロ-ナル抗体を含む。また好ましいものとしては、特異的に上皮成長因子に結合するポリクロ-ナル抗体、モノクロ-ナル抗体等が挙げられる。
【0022】
「標識化抗上皮成長因子抗体」とは、上皮成長因子抗体をペルオキシダ-ゼ、β-D-ガラクトシダ-ゼ、アルカリフォスファタ-ゼ、グルコ-ス-6-リン酸脱水素酵素等の酵素、デルフィニウム等の蛍光標識、放射性同位元素標識または同位元素標識、ビオチン等を結合させ、上皮成長因子を定量化できるように工夫された抗体をいう。
【0023】
更に、「標識化抗上皮成長因子抗体」には、ビオチン、2,4-ジニトロフェノ-ル等で修飾した抗上皮成長因子も含まれる。この際には、該標識化抗上皮成長因子抗体に標識化したアビジン、標識化抗2,4-ジニトロフェノ-ル抗体を更に用いて定量化できる。
【0024】
なお、上記したTGFβ1、HGF、EGFや、抗TGFβ1抗体、抗HGF抗体、抗EGF抗体は、それら自体としてはいずれも公知であるため、本明細書ではこれらのアミノ酸配列等の説明は省略する。
【0025】
〔TGFβ1に関連する発明〕
本発明の内、TGFβ1に関連する発明群は以下の通りである。
【0026】
1)抗TGFβ1抗体を主成分とする自閉症診断薬。
【0027】
2)ヒト血液試料中のTGFβ1濃度を測定するために使用されるものである、上記1)の自閉症診断薬。
【0028】
3)未標識の抗TGFβ1抗体、及び/又は、標識化抗TGFβ1抗体からなる、上記1)又は2)の自閉症診断薬。
【0029】
4)上記の1)~3)のいずれかの自閉症診断薬を含んで構成される自閉症診断キット。
【0030】
5)ヒト血液試料中のTGFβ1濃度を測定するために使用されるものである、上記4)の自閉症診断キット。
【0031】
6)上記の1)~3)のいずれかの自閉症診断薬、あるいは上記4)又は5)の自閉症診断キットを用いて、ヒト血液試料中のTGFβ1濃度を測定する自閉症検定方法。
【0032】
7)上記の1)~3)のいずれかの自閉症診断薬、あるいは上記4)又は5)の自閉症診断キットを用いて、自閉症の治療薬の効果を検定する検定方法。
【0033】
8)上記の1)~3)のいずれかの自閉症診断薬、あるいは上記4)又は5)の自閉症診断キットを用いて、少なくとも自閉症モデル動物を包含する動物の血液試料中のTGFβ1濃度を測定する自閉症の検定方法。
【0034】
9)TGFβ1をヒト体内において増加させる化合物である自閉症治療薬。
【0035】
〔HGFに関連する発明〕
本発明の内、HGFに関連する発明群は以下の通りである。
【0036】
1)抗HGF抗体を主成分とする自閉症診断薬。
【0037】
2)ヒト血液試料中のHGF濃度を測定するために使用されるものである、上記の1)の自閉症診断薬。
【0038】
3)未標識の抗HGF抗体、及び/又は、標識化抗HGF抗体からなる、上記1)又は2)の自閉症診断薬。
【0039】
4)上記の1)~3)のいずれかの自閉症診断薬を含んで構成される自閉症診断キット。
【0040】
5)ヒト血液試料中のHGFを測定するために使用されるものである、4)の自閉症診断キット。
【0041】
6)上記の1)~3)のいずれかの自閉症診断薬、あるいは上記4)又は5)の自閉症診断キットを用いて、ヒト血液試料中のHGF濃度を測定する自閉症検定方法。
【0042】
7)上記の1)~3)のいずれかの自閉症診断薬、あるいは上記4)又は5)の自閉症診断キットを用いて、自閉症の治療薬の効果を検定する検定方法。
【0043】
8)上記の1)~3)のいずれかの自閉症診断薬、あるいは上記4)又は5)の自閉症診断キットを用いて、少なくとも自閉症モデル動物を包含する動物の血液試料中のHGF濃度を測定する自閉症の検定方法。
【0044】
9)HGFをヒト体内において増加させる化合物である、自閉症の治療薬。
【0045】
〔EGFに関連する発明〕
本発明の内、EGFに関連する発明群は以下の通りである。
【0046】
1)抗EGF抗体を主成分とする自閉症診断薬。
【0047】
2)ヒト血液試料中のEGF濃度を測定するために使用されるものである、上記の1)の自閉症診断薬。
【0048】
3)未標識の抗EGF抗体、及び/又は、標識化抗EGF抗体からなる、上記1)又は2)の自閉症診断薬。
【0049】
4)上記の1)~3)のいずれかの自閉症診断薬を含んで構成される自閉症診断キット。
【0050】
5)ヒト血液試料中のEGFを測定するために使用されるものである、4)の自閉症診断キット。
【0051】
6)上記の1)~3)のいずれかの自閉症診断薬、あるいは上記4)又は5)の自閉症診断キットを用いて、ヒト血液試料中のEGF濃度を測定する自閉症検定方法。
【0052】
7)上記の1)~3)のいずれかの自閉症診断薬、あるいは上記4)又は5)の自閉症診断キットを用いて、自閉症の治療薬の効果を検定する検定方法。
【0053】
8)上記の1)~3)のいずれかの自閉症診断薬、あるいは上記4)又は5)の自閉症診断キットを用いて、少なくとも自閉症モデル動物を包含する動物の血液試料中のEGF濃度を測定する自閉症の検定方法。
【0054】
9)EGFをヒト体内において増加させる化合物である、自閉症の治療薬。
【0055】
〔複数因子系に関連する発明〕
本発明の内、TGFβ1、HGF、EGFから選ばれる2種以上を対象とする複数因子系に関連する発明群は、以下の通りである。
【0056】
1)抗TGFβ1抗体、抗HGF抗体及び抗EGF抗体の内のいずれか2以上の抗体を主成分とする自閉症診断薬。
【0057】
2)ヒト血液試料中のTGFβ1濃度、HGF濃度及びEGF濃度の内のいずれか2以上を測定するために使用されるものである、1)の自閉症診断薬。
【0058】
3)抗TGFβ1抗体、抗HGF抗体、抗EGF抗体が、それぞれ、未標識のもの、及び/又は、標識化されたものからなる、上記1)又は2)の自閉症診断薬。
【0059】
4)上記の1)~3)のいずれかの自閉症診断薬を含んで構成される自閉症診断キット。少なくとも上記いずれかの自閉症診断薬を含んで構成された自閉症診断用のキットであれば、この自閉症診断キットに該当する。自閉症診断キットは、この種のキットが備えることがある他の任意の構成要素、例えば希釈用の緩衝液等の構成要素を備えることができる。
【0060】
5)ヒト血液試料中のTGFβ1濃度、HGF濃度及びEGF濃度の内のいずれか2以上を測定するために使用されるものである、上記4)の自閉症診断キット。
【0061】
6)上記の1)~3)のいずれかの自閉症診断薬、あるいは上記4)又は5)の自閉症診断キットを用いて、ヒト血液試料中のTGFβ1濃度、HGF濃度及びEGF濃度の内のいずれか2以上を測定する自閉症検定方法。
【0062】
7)上記の1)~3)のいずれかの自閉症診断薬、あるいは上記4)又は5)の自閉症診断キットを用いて、自閉症の治療薬の効果を検定する検定方法。
【0063】
8)上記の1)~3)のいずれかの自閉症診断薬、あるいは上記4)又は5)の自閉症診断キットを用いて、少なくとも自閉症モデル動物を包含する動物の血液試料中のTGFβ1濃度、HGF濃度及びEGF濃度の内のいずれか2以上を測定する自閉症の検定方法。
【発明の効果】
【0064】
以上の手段により、自閉症の早期、簡便かつ信頼性のある診断が可能となる。特に抗TGFβ1抗体、抗HGF抗体、抗EGF抗体、又はこれらを適宜な手段で標識化してなる標識化抗体を用いて、ヒト(患者)の血液試料中のTGFβ1、HGF、EGFの濃度を測定することによって、自閉症の診断を容易に行うことができる。
【0065】
更に、これらの抗体の内のいずれか2以上の抗体を主成分とする自閉症診断薬あるいはこの自閉症診断薬を含んで構成される自閉症診断キットを利用する場合、2種類以上の指標に基づく自閉症診断を同時に行うことにより、診断の信頼性を更に高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0066】
次に、本発明を実施するための形態を、その最良の形態を含めて説明する。
【0067】
〔TGFβ1、HGF又はEGFのいずれかに関連する発明の実施形態〕
本発明による自閉症の診断は、例えば次のように行なうことが出来る。ヒトの血液から血清を調製し、血清中のTGFβ1、HGF又はEGFの量を種々の方法により定量する。望ましくは、TGFβ1、HGF又はEGFに対して特異性の高い抗体を用いたサンドイッチELISAによって、TGFβ1、HGF又はEGFを検出・定量する。自閉症患者の血清中のTGFβ1、HGF又はEGFの濃度が健常者の場合より有意に低いことを利用し、自閉症を診断できる。
【0068】
血清中のTGFβ1、HGF又はEGFを測定する具体的な方法としては、例えば、以下の工程からなる方法を挙げることができる。
【0069】
1.ポリスチレン、ナイロン、ガラス、シリコンラバ-、セファロ-ス等の固相に抗TGFβ1抗体、抗HGF抗体又は抗EGF抗体を固定する工程、
2.診断する患者の血清を固相に加える、または接触させる工程、
3.固相を洗浄する工程、
4.標識化された抗TGFβ1抗体、抗HGF抗体又は抗EGF抗体を加える、または接触させる工程、
5.該標識を用いてTGFβ1、HGF又はEGFの量を測定する工程。
【0070】
更に、具体的な血清中のTGFβ1、HGF又はEGFを測定する方法としては、例えば、以下の工程からなる方法を挙げることができる。
【0071】
1.ポリスチレン、ナイロン、ガラス、シリコンラバ-、セファロ-ス等の固相に抗TGFβ1抗体、抗HGF抗体又は抗EGF抗体を固定する工程、
2.診断する患者の血清を固相に加える、または接触させる工程、
3.固相を洗浄する工程、
4.ビオチンまたは2,4-ジニトロフェノ-ルで修飾した抗TGFβ1抗体、抗HGF抗体又は抗EGF抗体を加える、または接触させる工程、
5.標識化アビジンまたは標識化2,4-ジニトロフェノ-ル抗体を加える、または接触させる工程、
6.該標識を用いて、TGFβ1、HGF又はEGF量を測定する工程。
【0072】
更に、具体的な血清中のTGFβ1、HGF又はEGFを測定する方法としては、例えば、以下の工程からなる方法を挙げることができる。この方法において、固相の形状として小球、ウェル、試験管等が挙げられる。
【0073】
1.ポリスチレン、ナイロン、ガラス、シリコンラバ-、セファロ-ス等の固相に抗TGFβ1抗体、抗HGF抗体又は抗EGF抗体を固定する工程、
2.診断する患者の血液を固相に加える、または接触させる工程、
3.固相を洗浄する工程、
4.ビオチンで修飾した抗TGFβ1抗体、抗HGF抗体又は抗EGF抗体を加える、または接触させる工程、
5.標識化アビジンを加える、または接触させる工程、
6.該標識を用いてTGFβ1、HGF又はEGFの量を測定する工程。
【0074】
抗原またはELISAのスタンダ-ドとして用いられるTGFβ1、HGF又はEGFは市販されているので、それらを用いるか、または以下の方法で調製することができる。
【0075】
遺伝子工学的手法を用いる場合、TGFβ1、HGF又はEGFをコードする遺伝子を適切なベクタ-に組み込み、これを適切な宿主に挿入して形質転換し、この形質転換の培養上清から目的とする組換えTGFβ1、組換えHGF又は組換えEGFをそれぞれ得ることができ、均質な多量のTGFβ1、HGF又はEGFの生産に好適である。上記宿主細胞は特に限定されず、従来から遺伝子工学的手法で用いられている各種の宿主細胞、例えば大腸菌、枯草菌、酵母、植物または動物細胞を用いることができる。
【0076】
抗TGFβ1抗体、抗HGF抗体又は抗EGF抗体は、それぞれTGFβ1、HGF又はEGFを抗原として、ウサギ、ニワトリ、シチメンチョウなどに免疫することにより、調製される。標識化抗TGFβ1抗体、標識化抗HGF抗体又は標識化抗EGF抗体は、それぞれ抗TGFβ1抗体、抗HGF抗体又は抗EGF抗体をビオチン化試薬や架橋剤付きペルオキシダ-ゼの市販されているキットを用いて、反応させ、調製することができる。
【0077】
本方法は、また自閉症の治療薬の判定にも有用である。すなわち、ヒト体内又はモデル動物体内においてTGFβ1、HGF又はEGFを増加させる作用を有する化合物は、自閉症の治療薬として有用である可能性がある。また、TGFβ1、HGF又はEGFの量が低いモデル動物(マウスやラットなど)は、自閉症の動物モデルとしても有用である。従って、この検定方法を利用することにより、新しい自閉症の治療薬のスクリ-ニングも行なうことが可能である。
【0078】
このような方法で見出される治療薬には、非経口的または経口的に投与できる薬物が含まれ得る。その治療薬の正確な投与量および投与計画は、個々の治療対象毎の所要量、治療方法、疾病または必要性の程度、および、当然医師の判断によることが必要である。
【0079】
非経口的投与する場合の投与量、投与回数は限定されないが、症状、年齢、体重、投与形態等によって異なり、例えば注射剤として皮下または静脈に投与する場合、成人の患者の体重1kg、一日当たり約0.1mg~約2500mgの範囲、好ましくは約1mg~約500mgの範囲から投与量が選択され、例えば噴霧剤として気管に投与する場合、成人の患者の体重1kg、一日当たり約0.1mg~約2500mgの範囲、好ましくは約1mg~約500mgの範囲から投与量が選択される。投与計画としては、連日投与または間欠投与またはその組み合わせがある。
【0080】
経口的投与する場合の投与量、投与回数はは限定されないが、症状、年齢、体重、投与形態等によって異なり、例えば、成人の患者の体重1kg、一日当たり約0.5mg~約2500mgの範囲、好ましくは約1mg~約1000mgの範囲から投与量が選択される。
【0081】
本方法で得られる自閉症の治療薬を、薬学的に許容しうる非毒性の担体と混和することにより医薬組成物を製造することができる。このような組成物を、非経口投与用(皮下注射、筋肉注射、または静脈注射)に調製する場合は、特に溶液剤形または懸濁剤形がよく、膣または直腸投与用の場合は、特にクリ-ムまたは坐薬のような半固形型剤形がよく、経鼻腔投与用の場合、特に粉末、鼻用滴剤、またはエアロゾル剤形がよい。
【0082】
組成物は一回量投与剤形で投与することができ、また例えばレミントンの製薬科学(マック・パブリッシング・カンパニ-、イ-ストン、PA、1970年)に記載されているような製薬技術上良く知られているいずれかの方法によって調製できる。
【0083】
注射用製剤は医薬担体として、例えば、アルブミン等の血漿由来蛋白、グリシン等のアミノ酸、マンニト-ル等の糖を加えることができる。注射剤形で用いる場合には更に緩衝剤、溶解補助剤、等張剤等を添加することもできる。また、水溶製剤、凍結乾燥製剤として使用する場合、凝集を防ぐためにTween80(登録商標)、Tween20(登録商標)などの界面活性剤を添加するのが好ましい。
【0084】
又、注射剤以外の非経口投与剤形は、蒸留水又は生理食塩液、ポリエチレングリコ-ルのようなポリアルキレングリコ-ル、植物起源の油、水素化したナフタレン等を含有してもよい。例えば坐薬のような膣又は直腸投与用の製剤は、一般的な賦形剤として、例えばポリアキレングリコ-ル、ワセリン、カカオ油脂等を含有する。膣用製剤では、胆汁塩、エチレンジアミン塩、クエン酸塩等の吸収促進剤を含有しても良い。吸入用製剤は固体でも良く、賦形剤として例えばラクト-スを含有してもよく、また経鼻腔滴剤は水又は油溶液であってもよい。
【0085】
〔複数因子系に関連する発明の実施形態〕
本発明の内、TGFβ1、HGF、EGFから選ばれる2種以上を対象とする複数因子系に関連する発明に関しても、(1)その診断、(2)TGFβ1、HGF又はEGFを測定する具体的な方法、(3)抗原またはELISAのスタンダ-ドとして用いられるTGFβ1、HGF又はEGFの準備、(4)抗TGFβ1抗体、抗HGF抗体又は抗EGF抗体の準備、(5)自閉症治療薬のスクリ-ニングへの利用、(6)治療薬の投与量および投与計画、(7)医薬組成物としての調製、等に関する上記種々の実施形態を、同様に行うことができる。
【実施例】
【0086】
次に本発明の実施例を説明する。本発明の技術的範囲は、これらの実施例によって限定されない。
【0087】
〔実施例1:TGFβ1〕
(1)被験者
高機能自閉症の男性患者19名〔平均年齢:23.4歳(標準偏差2.6)、年齢範囲:18歳~28歳〕を被験者に選び、ならびに同一年齢層の健康者21名〔平均年齢:22.7歳(標準偏差2.3)、年齢範囲:18歳~26歳〕も正常対照として被験者に選んだ。すべての患者は、高機能自閉症の診断基準ADI-R( Autism Diagnostic Interview-Revised)に従って診断した。
(2)実験方法
被験者の血清検体を採取し、測定まで-80℃で保存した。TGFβ1の血清レベルはトランスフォーミング成長因子ベータ1測定キット(R&D Systems社、米国)を用い、製造者の指示に従って測定した。
【0088】
すなわち、合成トランスフォーミング成長因子ベータ1タイプII受容体をコ-ティングした96穴プレートを使用し、希釈した血清200μLを添加した。定量用のスタンダ-ドとして、合成ヒトTGFβ1(31. 2-2000 pg/mL)を添加したものを用いた。室温で3時間反応させた後、緩衝液で3回洗浄した。その後、抗ワサビペルオキシダ-ゼ標識TGFβ1特異的ポリクローナル抗体(200μL)を添加し、室温で90分間反応させた。次に、緩衝液で3回洗浄した後、TMB溶液(200μL)を添加し、遮光し室温で20分間反応させた後、停止液(2N硫酸:50μL)を添加して反応を止め、30分以内に450nmと550nmの波長での吸光度を自動マイクロプレートリーダー(EL340I、BIO-TEC社、米国)で測定した。検体中のTGFβ1の含量をサンドイッチ型ELISA法にて測定し、検量線からそのTGFβ1の濃度を算出した。
(3)統計分析
データは平均値±標準偏差で示した。2群間の統計分析はマンホイットニ U-テストで解析した。0.05以下のp値は統計的に有意とした。
(4)結果
i)全被験者における血清TGFβ1の濃度
正常対照、および高機能自閉症の被験者における血清TGFβ1濃度の散布状態を図1に示す。
【0089】
上記実験結果に見られるように、高機能自閉症患者の血清TGFβ1濃度(平均値:7.34 ng/ ml)は同一年齢層の正常対照の濃度(平均値:14.48 ng/ ml)と比べて有意に低いことがわかった。TGFβ1は脳の発達過程において極めて重要な役割を果たしていることより、減少した血清TGFβ1値は高機能自閉症の病態生理学に寄与しているものと考えられる。例えば、患者の血清TGFβ1値が、健常者の血清TGFβ1値の平均値-標準偏差の値(12.84 pg/ ml)より低い場合、高機能自閉症と診断される。
【0090】
要するに、本実験により、TGFβ1は自閉症の病態生理学において極めて重要な役割を果たし、血液TGFβ1は自閉症の生物学的マーカーとして有用であることが確認できた。
【0091】
〔実施例2:HGF〕
(1)被験者
高機能自閉症の男性患者19名〔平均年齢:23.4歳(標準偏差2.6)、年齢範囲:18歳~28歳〕を被験者に選び、ならびに同一年齢層の健康者21名〔平均年齢:22.7歳(標準偏差2.3)、年齢範囲:18歳~26歳〕も正常対照として被験者に選んだ。すべての患者は、高機能自閉症の診断基準ADI-R( Autism Diagnostic Interview-Revised)に従って診断した。
(2)実験方法
被験者の血清検体を採取し、測定まで-80℃で保存した。HGFの血清レベルは肝細胞増殖因子測定キット(R&D Systems社、米国)を用い、製造者の指示に従って測定した。
【0092】
すなわち、抗肝細胞増殖因子モノクロナル抗体を96穴プレートにコ-ティングし、緩衝液(150μL)と、希釈した血清50μLを添加した。定量用のスタンダ-ドとして、ヒトHGF(125-8000 pg/mL)を添加したものを用いた。室温で2時間反応させた後、緩衝液で3回洗浄した。その後、抗ワサビペルオキシダ-ゼ標識HGFポリクローナル抗体(200μL)を添加し、室温で2時間反応させた。次に、緩衝液で3回洗浄した後、TMB溶液(200μL)を添加し、遮光し室温で30分間反応させた後、停止液(2N硫酸:50μL)を添加して反応を止め、30分以内に450nmと550nmの波長での吸光度を自動マイクロプレートリーダー(EL340I、BIO-TEC社、米国)で測定した。検体中のHGFの含量をサンドイッチ型ELISA法にて測定し、検量線からそのHGFの濃度を算出した。
(3)統計分析
データは平均値±標準偏差で示した。2群間の統計分析はマンホイットニ U-テストで解析した。0.05以下のp値は統計的に有意とした。
(4)結果
i)全被験者における血清HGFの濃度
正常対照、および高機能自閉症の被験者における血清HGF濃度の散布状態を図2に示す。
【0093】
上記実験結果に見られるように、高機能自閉症患者の血清HGF濃度(平均値:505.2 pg/ ml)は同一年齢層の正常対照の濃度(平均値:825.2 ng/ ml)と比べて有意に低いことがわかった。HGFは脳の発達過程において極めて重要な役割を果たしていることより、減少した血清HGF値は高機能自閉症の病態生理学に寄与しているものと考えられる。例えば、患者の血清HGF値が、健常者の血清HGF値の平均値-標準偏差の値(607.0 pg/ml)より低い場合、高機能自閉症と診断される。
【0094】
要するに、本実験により、HGFは自閉症の病態生理学において極めて重要な役割を果たし、血液HGFは自閉症の生物学的マーカーとして有用であることが確認できた。
【0095】
〔実施例3:EGF〕
(1)被験者
高機能自閉症の男性患者19名〔平均年齢:23.4歳(標準偏差2.6)、年齢範囲:18歳~28歳〕を被験者に選び、ならびに同一年齢層の健康者21名〔平均年齢:22.7歳(標準偏差2.3)、年齢範囲:18歳~26歳〕も正常対照として被験者に選んだ。すべての患者は、高機能自閉症の診断基準ADI-R( Autism Diagnostic Interview-Revised)に従って診断した。
(2)実験方法
被験者の血清検体を採取し、測定まで-80℃で保存した。EGFの血清レベルは上皮成長因子測定キット(R&D Systems社、米国)を用い、製造者の指示に従って測定した。
【0096】
すなわち、抗上皮成長因子モノクロナル抗体を96穴プレートにコ-ティングし、緩衝液(50μL)と、希釈した血清200μLを添加した。定量用のスタンダ-ドとして、ヒトEGF(3.9-250 pg/mL)を添加したものを用いた。室温で2時間反応させた後、緩衝液で3回洗浄した。その後、抗ワサビペルオキシダ-ゼ標識EGFポリクローナル抗体(200μL)を添加し、室温で1時間反応させた。次に、緩衝液で3回洗浄した後、TMB溶液(200μL)を添加し、遮光し室温で20分間反応させた後、停止液(2N硫酸:50μL)を添加して反応を止め、30分以内に450nmと550nmの波長での吸光度を自動マイクロプレートリーダー(EL340I、BIO-TEC社、米国)で測定した。検体中のEGFの含量をサンドイッチ型ELISA法にて測定し、検量線からそのEGFの濃度を算出した。
(3)統計分析
データは平均値±標準偏差で示した。2群間の統計分析はマンホイットニ U-テストで解析した。0.05以下のp値は統計的に有意とした。
(4)結果
i)全被験者における血清EGFの濃度
正常対照、および高機能自閉症の被験者における血清EGF濃度の散布状態を図3に示す。
【0097】
上記実験結果に見られるように、高機能自閉症患者の血清EGF濃度(平均値:80.96 pg/ ml)は同一年齢層の正常対照の濃度(平均値:315.1 ng/ ml)と比べて有意に低いことがわかった。EGFは脳の発達過程において極めて重要な役割を果たしていることより、減少した血清EGF値は高機能自閉症の病態生理学に寄与しているものと考えられる。例えば、患者の血清EGF値が、健常者の血清EGF値の平均値-標準偏差の値(191.5 pg/
ml)より低い場合、高機能自閉症と診断される。
【0098】
要するに、本実験により、EGFは自閉症の病態生理学において極めて重要な役割を果たし、血液EGFは自閉症の生物学的マーカーとして有用であることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明によって自閉症の早期、簡便かつ信頼性ある診断手段が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】実施例1に係る正常対照、自閉症の患者における血清TGFβ1濃度の散布図である。
【図2】実施例2に係る正常対照、自閉症の患者における血清HGF濃度の散布図である。
【図3】実施例3に係る正常対照、自閉症の患者における血清EGF濃度の散布図である。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2