TOP > 国内特許検索 > アントシアニジン類の製造方法 > 明細書

明細書 :アントシアニジン類の製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5382676号 (P5382676)
公開番号 特開2009-137904 (P2009-137904A)
登録日 平成25年10月11日(2013.10.11)
発行日 平成26年1月8日(2014.1.8)
公開日 平成21年6月25日(2009.6.25)
発明の名称または考案の名称 アントシアニジン類の製造方法
国際特許分類 C07H  17/07        (2006.01)
C07B  61/00        (2006.01)
FI C07H 17/07
C07B 61/00 300
請求項の数または発明の数 6
全頁数 21
出願番号 特願2007-317648 (P2007-317648)
出願日 平成19年12月7日(2007.12.7)
審査請求日 平成22年11月30日(2010.11.30)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人名古屋大学
発明者または考案者 【氏名】吉田 久美
【氏名】近藤 忠雄
【氏名】尾山 公一
個別代理人の代理人 【識別番号】100094190、【弁理士】、【氏名又は名称】小島 清路
審査官 【審査官】早川 裕之
参考文献・文献 中国特許出願公開第1110697(CN,A)
特開昭51-121034(JP,A)
特開昭54-134736(JP,A)
Tetrahedron Lett.,1995年,36,4611-4614
Tetrahedron Lett.,2007年 6月30日,48,6005-6009
Food Research,1951年,16,169-180
Comptes Rendus des Seances de l'Academie des Sciences, Serie D: Sciences Naturelles,1978年,286,1739-1741
Bull. Liaison-Groupe Polyphenols,1978年,8,126-133
Phytochemistry,1991年,30,3828-3829
調査した分野 C07H 17/065~07
C07B 61/00
CAplus/REGISTRY(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
(1)無酸素雰囲気下において、メタノール溶媒中で塩化水素及び硫酸から選択される酸、並びに亜鉛及びマグネシウムから選択される粉状又は粒状の金属単体の存在下、下記一般式(A)で表されるフラボノール誘導体を還元し、還元生成物を得る工程と、
(2)次いで、上記金属を含まない状態で上記還元生成物を酸化させる工程と、
を有し、
上記工程(1)において、上記フラボノール誘導体を還元することにより、下記一般式(B1)又は(B2)で表されるフラベノール誘導体を生成することを特徴とするアントシアニジン類の製造方法。
【化1】
JP0005382676B2_000013t.gif
(式中、R-ORで表されるアルコキシ基(Rは置換基を有していない炭素数1~6のアルキル基)又は-OG基である。Rは水素原子又は水酸基である。R、R、R及びRはそれぞれ独立に水素原子、水酸基、アルコキシ基、又は-OG基である。尚、Gは糖鎖である。)
【化2】
JP0005382676B2_000014t.gif
(式中、R-ORで表されるアルコキシ基(Rは置換基を有していない炭素数1~6のアルキル基)又は-OG基である。R、R、及びRはそれぞれ独立に水素原子、水酸基、又は-OG基である。尚、Gは糖鎖である。)
【請求項2】
上記還元生成物が、上記一般式(B1)又は(B2)で表されるフラベノール誘導体である請求項1に記載のアントシアニジン類の製造方法。
【請求項3】
上記工程(2)において、上記金属を上記工程(1)の反応液から除去し、その後、上記還元生成物を酸化させる請求項1又は2に記載のアントシアニジン類の製造方法。
【請求項4】
上記酸化は、反応液と酸素含有ガスとを接触させることにより行う請求項1乃至3のいずれかに記載のアントシアニジン類の製造方法。
【請求項5】
上記工程(2)において、反応液のpHが4以下である請求項1乃至4のいずれかに記載のアントシアニジン類の製造方法。
【請求項6】
上記一般式(A)及び上記一般式(B1)及び(B2)におけるGの糖鎖を構成する糖が、ルチノースである請求項1乃至5のいずれかに記載のアントシアニジン類の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、アントシアニジン類の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アントシアニンは、アントシアニジンをアグリコンとするフラボノイド配糖体である。アントシアニンは、植物界に広く存在し、花及び果実の色の表現に役立っている。この性質を利用して、アントシアニンは着色料として利用されている。また、アントシアニンは、種々の生理機能を有するポリフェノールとして注目されている。例えば、アントシアニンはポリフェノールの一種として抗酸化性を有することから、生体内酸化ストレスに対する防御因子して利用することが期待されている。その他、アントシアニンは毛細血管透過性抑制作用、視覚改善作用、及び抗糖尿病作用等の機能を有することが報告されている。
【0003】
アントシアニンの供給の多くは、アントシアニンを含む植物からの抽出に頼っている。しかし、この方法では、アントシアニンを含む植物を栽培しなければならず、安定な供給という観点から問題がある。また、アントシアニンを含む植物を栽培すると、時間と手間がかかることから、生産効率が悪いという問題もある。そこで、アントシアニンを安定的且つ効率的に得る方法として、合成反応による製造方法の開発が望まれている。
【0004】
アントシアニンを合成反応により得る方法として、植物より安価で大量に得られる配糖化フラボノールを還元する方法が知られている。例えば、下記非特許文献1及び2並びに特許文献1及び2には、配糖化フラボノールを酸性下、マグネシウム等の金属により還元してアントシアニンを得る方法が記載されている。また、下記非特許文献3及び4には、配糖化フラボノールの電解反応により、アントシアニンを得る方法が記載されている。更に、下記特許文献3及び4には、ヒドリド試薬を用いて、アントシアニンを得る方法が記載されている。
【0005】

【非特許文献1】J. Am. Chem. Soc.(1919) 41, 208-20
【非特許文献2】Tetrahedron Letters,(1995) 36(26), 4611-14
【非特許文献3】Collection of Czechoslovak Chemical Communication,(1950) 15, 433-6
【非特許文献4】Bulletin de Liaison-Groupe Polyphenols,(1990) 15, 33-6
【特許文献1】特開昭51-121034号公報
【特許文献2】特開昭54-134736号公報
【特許文献3】特開昭55-111418号公報
【特許文献4】欧州特許公開第490615号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、金属による還元反応では、収率が20~30%程度であり、収率が低いという問題がある。尚、上記非特許文献2では、収率が60%と記載されているが、根拠となるモル吸光係数が誤っており、実際の収率は30%程度である。また、電解反応でも収率が低い上、生成物が種々の構造を有する混合物となる。一方、ヒドリド試薬による方法では、収率が約60~70%程度と記載されているが、試薬の価格が高く、大スケールでの製造には適さない。
【0007】
本発明の目的は、従来よりも安価且つ高効率で、合成反応によりアントシアニジン類を製造する方法を提供することである。また、本発明の他の目的は、アントシアニジン類の製造方法に用いることができるフラベノール誘導体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のアントシアニジン類の製造方法は、(1)無酸素雰囲気下において、メタノール溶媒中で塩化水素及び硫酸から選択される酸、並びに亜鉛及びマグネシウムから選択される粉状又は粒状の金属単体の存在下、下記一般式(A)で表されるフラボノール誘導体を還元し、還元生成物を得る工程と、
(2)次いで、上記金属を含まない状態で上記還元生成物を酸化させる工程と、
を有し、
上記工程(1)において、上記フラボノール誘導体を還元することにより、下記一般式(B1)又は(B2)で表されるフラベノール誘導体を生成することを特徴とするアントシアニジン類の製造方法。
【化3】
JP0005382676B2_000002t.gif
(式中、R-ORで表されるアルコキシ基(Rは置換基を有していない炭素数1~6のアルキル基)又は-OG基である。Rは水素原子又は水酸基である。R、R、R及びRはそれぞれ独立に水素原子、水酸基、アルコキシ基、又は-OG基である。尚、Gは糖鎖である。)
【化4】
JP0005382676B2_000003t.gif
(式中、R-ORで表されるアルコキシ基(Rは置換基を有していない炭素数1~6のアルキル基)又は-OG基である。R、R、及びRはそれぞれ独立に水素原子、水酸基、又は-OG基である。尚、Gは糖鎖である。)
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、従来の方法よりも高効率で、合成反応によりアントシアニジン類を製造することができる。また、従来の方法よりも安価で且つ容易な方法でアントシアニジン類を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
(1)アントシアニジン類の製造方法
(A)工程(1)
本発明の製造方法において、上記フラボノール誘導体としては、以下の一般式(A)で表される化合物である。本発明では、合成するアントシアニジン類に応じて種々の種類及び構造のフラボノール誘導体を用いることができる。
【0012】
【化5】
JP0005382676B2_000004t.gif
(式中、R-ORで表されるアルコキシ基(Rは置換基を有していない炭素数1~6のアルキル基)又は-OG基である。Rは水素原子又は水酸基である。R、R、R及びRはそれぞれ独立に水素原子、水酸基、アルコキシ基、又は-OG基である。尚、Gは糖鎖である。)
【0013】
上記一般式(A)において、上記アルコキシ基(-OR,R;炭化水素基)の種類及び構造には限定はない。上記アルコキシ基に含まれている炭化水素基は、直鎖状でもよく、分岐状でもよい。また、上記アルキル基等は、鎖状構造でもよく、環状構造(シクロアルキル基、シクロアルケニル基、及びシクロアルキニル基)でもよい。更に、上記炭化水素基は、飽和炭化水素基でもよく、不飽和炭化水素基でもよい。上記炭化水素基としては、例えば、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基 、アリール基、アリールアルキル基、アリールアルケニル基、及びアリールアルキニル基が挙げられる。尚、上記一般式(A)において、上記アルコキシ基が2以上存在する場合は、各アルコキシ基は同じアルコキシ基でもよく、構造が異なるアルコキシ基でもよい。また、アリール基、アリールアルキル基、アリールアルケニル基、及びアリールアルキニル基に含まれる芳香環は、他の置換基を含んでいてもよい。
【0014】
上記炭化水素基の炭素数には特に限定はない。上記炭化水素基の炭素数は通常1~10、好ましくは1~6、更に好ましくは1~4である。更に、上記炭化水素基は、炭素原子及び水素原子のみで構成されていてもよく、あるいは、その構造中に炭素原子及び水素原子以外の原子を1個又は2個以上含んでいてもよい。例えば、上記炭化水素基は、置換基として、炭素原子及び水素原子以外の原子を含む置換基を1種又は2種以上有していてもよい。また、上記アルキル基等は、鎖状構造中又は環状構造中に炭素原子及び水素原子以外の原子を1個又は2個以上含んでいてもよい。上記アルコキシ基として具体的には、例えば、メトキシ基及びエトキシ基が挙げられる。
但し、上記式一般式(A)のRにおけるアルコキシ基(-OR、R;炭化水素基)は、アルコキシ基を構成するRが、置換基を有していない炭素数1~6のアルキル基である。
【0015】
上記一般式(A)において、Gは糖鎖である。該糖鎖は酸素原子を介してグリコシド結合している。該糖鎖の構造及び該糖鎖を構成する糖の種類には特に限定はない。上記糖鎖を構成する糖の数には特に限定はないが、通常は1~4、好ましくは1~3、更に好ましくは1又は2である。上記糖鎖を構成する糖は、五炭糖でもよく、六炭糖でもよい。更に、上記糖鎖に含まれている水酸基は、他の基により修飾されていてもよい。例えば、上記水酸基は、後述のようにエステル化されていてもよく、アルコキシ化されていてもよい。また、グリコシド結合は通常はβ-結合であるが、α-結合でもよい。
【0016】
上記糖として具体的には、例えば、α-D-リボース、β-D-グルコース、β-D-マンノース、β-D-ガラクトース、α-L-ラムノース、β-D-キシロース、β-D-アラビノース、β-D-グルクロン酸、ルチノース、ソフォロース、ゲンチオビオース、ザンブビオース、ラチロース、ラミナリビオノース、ゲンチオトリオース、ロビノビオース、2-グルコシルルチノース、及び2-キシロシルルチノースが挙げられる。
【0017】
上記糖は、有機酸が単独又は複数エステル化結合した糖(有機酸結合糖)でもよい。該有機酸の結合位置には特に限定はない。該有機酸の結合位置として具体的には、例えば、糖の2位、3位、及び6位の1又は2以上が挙げられる。通常、該有機酸の結合位置は、糖の6位である。
【0018】
上記有機酸の種類及び構成には特に限定はない。上記有機酸は芳香族有機酸でもよく、脂肪族有機酸でもよい。上記芳香族有機酸としては、ケイ皮酸類(E体又はZ体)及び安息香酸類が挙げられる。上記ケイ皮酸類及び安息香酸類としては、例えば、ヒドロキシケイ皮酸類(E体又はZ体)及びヒドロキシ安息香酸類が挙げられる。上記ケイ皮酸類として具体的には、例えば、ケイ皮酸、p-クマル酸、コーヒー酸、フェルラ酸、及びシナピン酸が挙げられる。また、上記安息香酸類として具体的には、例えば、安息香酸、p-ヒドロキシ安息香酸及び没食子酸が挙げられる。上記脂肪族有機酸は、モノカルボン酸でもよく、ジカルボン酸でもよい。上記脂肪族有機酸として具体的には、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、及びリンゴ酸が挙げられる。
【0019】
上記一般式(A)において、上記-OG基の数及び位置には特に限定はない。上記-OG基の数は通常1~5、好ましくは1~4、更に好ましくは1~3、より好ましくは1~2である。また、上記-OG基の位置は通常、3位(R)、3’位(R)、5位(R)、5’位(R)、及び7位(R)のうちの1又は2以上である。上記フラボノール誘導体として具体的には、例えば、3,5位、3,7位、3,3’位、3,5,7位、3,5,3’位、及び3,7,3’位が-OG基のフラボノール配糖体が挙げられる。上記フラボノール誘導体として好ましくは、3位又は5位が-OG基であるフラボノール配糖体である。
【0020】
上記一般式(A)において、上記水酸基の数及び位置には特に限定はない。上記水酸基の数は通常1~5、好ましくは1~4、更に好ましくは1~3、より好ましくは1~2である。また、上記水酸基の位置は通常、3’位(R)、5位(R)、5’位(R)、及び7位(R)のうちの1又は2以上である。上記フラボノール誘導体として具体的には、例えば、5,7位及び5,7,3’位が水酸基のフラボノール誘導体が挙げられる。
【0021】
上記フラボノール誘導体としてより具体的には、例えば、下記一般式(A1)で表されるフラボノール誘導体が挙げられる。一般式(A1)で表されるフラボノール誘導体として具体的には、例えば、ケルセチン配糖体(ルチン、ケルセチン-3-グルコシド、及びケルセチン-3-ロビノビオシド等)並びにケンフェロール配糖体(ケンフェロール-3-グルコシド及びケンフェロール-3-ロビノビオシド等)が挙げられる。
【0022】
【化3】
JP0005382676B2_000005t.gif
(式中、Rは水素原子、水酸基、アルコキシ基、又は-OG基である。Rはアルコキシ基又は-OG基である。R及びRはそれぞれ独立に水酸基、アルコキシ基、又は-OG基である。)
【0023】
工程(1)は無酸素雰囲気下で行う。「無酸素雰囲気」の具体的内容は、本発明の作用効果を阻害しない限り特に限定はない。上記「無酸素雰囲気」は、1種の気体のみでもよく、2種以上の気体を含んでいてもよい。上記「無酸素雰囲気」を構成する気体として具体的には、例えば、窒素ガス、希ガス(ヘリウムガス、ネオンガス、アルゴンガス)、水素ガス、及び二酸化炭素ガスの1種又は2種以上が挙げられる。尚、上記「無酸素雰囲気」とは、雰囲気中に酸素を全く含まないのが通常であるが、本発明の作用効果を阻害しない程度の酸素を含んでいても構わない。上記「無酸素雰囲気」中の酸素濃度は、通常0.1体積%以下(例えば、0~0.1体積%)、好ましくは0.05体積%以下、更に好ましくは0.01体積%以下(例えば、0.001~0.01体積%)である。
【0024】
上記酸は塩化水素及び硫酸のいずれか一方のみでもよく、両方でもよい。また、上記酸の濃度には特に限定はない。上記酸の濃度は通常1~20体積%、好ましくは3~20体積%、更に好ましくは3~15体積%、より好ましくは5~12体積%である。
【0025】
上記金属は、Zn及びMgから選択される粉状又は粒状の金属単体である。本発明では、Zn及びMgのいずれか一方のみを用いてもよく、両方を用いてもよい。
【0026】
工程(1)において、溶媒としてメタノールを用いる。工程(1)において、溶媒中に水が存在しなければ、反応の進行を促進することができる。従って、上記メタノールは、無水メタノールが好ましい。しかし、本発明の作用効果を阻害しない限度であれば、溶媒中に水を含有していてもよい。溶媒中の水の含有量は通常、1体積%以下、好ましくは0.5体積%以下、更に好ましくは0.1体積%以下(例えば、0.01~0.1体積%)である。
【0027】
本発明において、上記フラボノール誘導体、上記酸及び上記金属の添加方法には特に限定はない。例えば、本発明では、上記フラボノール誘導体、上記酸及び上記金属をそれぞれ溶媒に添加することができる。また、上記フラボノール誘導体、上記酸及び上記金属の一部を溶媒に溶解又は懸濁させた液と、残りを溶媒に溶解又は懸濁させた液とを別途調製し、次いで、上記各液を混合してもよい。
【0028】
工程(1)の反応条件には特に限定はない。本発明の工程(1)は、通常、短時間で進行する。よって、反応時間は通常1~10分、好ましくは2~8分である。また、反応温度は通常-10~50℃、好ましくは0℃~30℃である。また、上記フラボノール誘導体は完全に溶解していてもよく、懸濁状態でもよい。更に、上記工程(1)では、適宜攪拌及び超音波照射等の他の操作を行うことができる。例えば、上記フラボノール誘導体を溶解させる等の目的で、反応液に超音波を照射することができる。
【0029】
工程(1)において、上記フラボノール誘導体が還元されて還元生成物を生じる。通常、上記還元生成物としては、上記一般式(B1)又は(B2)で表されるフラベノール誘導体である。一般式(B1)及び(B2)中のR、R、R、及びRは、一般式(A1)におけるR、R、R、及びRの説明が妥当する。一般式(B1)又は(B2)で表されるフラベノール誘導体として具体的には、例えば、下記一般式(B1’)又は(B2’)で表されるフラベノール誘導体が挙げられる。尚、本発明の製造方法では、一般式(B1)又は(B2)で表されるフラベノール誘導体から、更に別の還元生成物が生成してもよい。
【0030】
【化4】
JP0005382676B2_000006t.gif
(式中、Rは水素原子、水酸基、アルコキシ基、又は-OG基である。Gは糖鎖である。)
【0031】
本発明の製造方法では、上記還元生成物(一般式(B1)又は(B2)で表されるフラベノール誘導体等)を反応液から単離することなく、引き続き工程(2)を行ってもよい。また、本発明の製造方法では、反応液を適宜のカラムに通して上記還元生成物をカラムに吸着させ、その後、適宜の溶離液で上記還元生成物を溶出させることにより、上記還元生成物を単離することができる。よって、本発明の製造方法では、上記還元生成物を反応液から単離し、別の溶媒に添加して工程(2)を行ってもよい。
【0032】
(B)工程(2)
工程(2)では、上記金属を含まない状態で上記還元生成物を酸化させる。これにより、アントシアニジン類の収率を高めることができる。この効果は以下のように考えられる。即ち、後述のように、本発明において、フラボノール誘導体からアントシアニジン類への反応は、フラボノール誘導体からフラベノール誘導体への還元反応と、その次のフラベノール誘導体からアントシアニジン類への酸化反応からなると考えられる。後者の酸化反応においてZn等の金属が存在すると、生成したアントシアニジン類が還元又は分解し、その結果、アントシアニジン類の収率が低下すると考えられる(尚、当該説明は、発明者の推測に基づくものであり、何ら本発明を限定する趣旨の説明ではなく、また、本発明を定義する趣旨の説明でもない。)。
【0033】
工程(2)において、「上記金属を含まない状態」を実現する手段には特に限定はない。上記のように、上記金属として粉末状金属を用いる。よって、本発明では、工程(1)の反応液をろ過することにより、上記金属を除去し、次いで工程(2)を行うことができる。また、上記「上記金属を含まない状態」は、工程(1)の反応液から上記金属を除去する場合だけでなく、工程(1)の反応液から上記還元生成物を単離することも含む。即ち、工程(2)の「上記金属を含まない状態で上記還元生成物を酸化させる」とは、工程(1)の反応液から上記還元生成物を単離し、次いで、単離した上記還元生成物を、上記金属を含まない別の溶媒に添加して、上記還元生成物の酸化を行う場合も含む。
【0034】
上記還元生成物を酸化させる方法には特に限定はない。上記還元生成物は、適宜の酸化剤を添加することにより酸化することができる。また、上記還元生成物の酸化は、反応液と酸素含有ガスとを接触させることにより行うこともできる。この方法としてより具体的には、例えば、反応液中に酸素含有ガスを供給する方法、あるいは反応液を適宜攪拌等することにより、反応液と酸素含有ガスとを接触させる方法が挙げられる。上記還元生成物の酸化は、例えば、工程(1)で得られた反応液から上記金属を除去した後、大気中で該反応液を適宜攪拌することにより行うことができる。上記酸素含有ガスの種類には特に限定はない。上記酸素含有ガスは酸素自体でもよく、酸素と他のガスとの混合ガスでもよい。上記酸素含有ガスとしては、例えば、空気が挙げられる。
【0035】
工程(2)は通常、酸性条件下で行う。工程(2)を酸性条件下で行うと、生成するアントシアニンの分解を抑制できるので好ましい。より具体的には、上記工程(2)において、反応液のpHを4以下、好ましくは3以下の範囲とすることができる。尚、pHの下限値には特に限定はない。該下限値は、例えば-2、-1、0、1等の適宜の値とすることができる。工程(2)を酸性条件下で行う方法としては、例えば、反応液に適宜の酸(塩化水素等)を添加する方法が挙げられる。
【0036】
工程(2)は通常、大気等の酸素雰囲気で行われる。しかし、工程(2)は、工程(1)と同様に「無酸素雰囲気」で行ってもよい。例えば、「無酸素雰囲気」で工程(1)を行い、引き続き「無酸素雰囲気」で反応液に酸化剤を添加したり、あるいは酸素含有ガスを反応液に吹き込む等の方法により、工程(2)を行うことができる。
【0037】
工程(2)の反応条件には特に限定はない。工程(2)の反応時間は通常1分~30時間、好ましくは1~24時間である。また、反応温度は通常-10~50℃、好ましくは0℃~30℃である。
【0038】
(C)その他
本発明は、必要に応じて他の工程を含んでいてもよい。例えば、工程(2)の終了後、公知の方法、例えば、蒸留、吸着、抽出、及び再結晶等の方法又はこれらの方法を組み合わせて、目的のアントシアニジン類の回収及び精製を行うことができる。
【0039】
本明細書において、「アントシアニジン類」とは、アントシアニジン及びアントシアニン(アントシアニジンをアグリコンとする配糖体)を意味する。本発明により製造されるアントシアニジン類としては、以下の一般式(C)で表されるアントシアニジン類が挙げられる。尚、一般式(C)中、R~Rの内容は、一般式(A)のR~Rの説明が妥当する。
【0040】
【化5】
JP0005382676B2_000007t.gif
(式中、Rはアルコキシ基又は-OG基である。Rは水素原子又は水酸基である。R、R、R及びRはそれぞれ独立に水素原子、水酸基、アルコキシ基、又は-OG基である。尚、Gは糖鎖である。)
【0041】
上記アントシアニジン類として具体的には、例えば、下記一般式(C1)で表されるアントシアニンが挙げられる。一般式(C1)で表されるアントシアニンとして好ましくは、R及びRのいずれか一方又は両方が-OG基又は水酸基であるアントシアニンである。尚、一般式(C1)中、R、R及びRの内容は、一般式(A1)のR、R及びRの説明が妥当する。一般式(C1)で表されるアントシアニンとしてより具体的には、例えば、シアニジン-3-グルコシド、シアニジン-3-ルチノシド、シアニジン-3,5-ジグルコシド、ペラルゴニジン-3-グルコシド、ペラルゴニジン3-ルチノシド、及びペラルゴニジン-3,5-ジグルコシドが挙げられる。
【0042】
【化6】
JP0005382676B2_000008t.gif
(式中、R、R及びRはそれぞれ独立に水素原子、水酸基、アルコキシ基、又は-OG基である。尚、Gは糖鎖である。)
【実施例】
【0043】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。尚、本発明は、実施例に示す形態に限られない。本発明の実施形態は、目的及び用途等に応じて、本発明の範囲内で種々変更することができる。
【0044】
(1)実施例1
反応機構を以下に示す。
【化7】
JP0005382676B2_000009t.gif

【0045】
ルチン(1.00g、1.64mmol)及びZn粉末(10.0g)を真空下で乾燥させ、これらを反応器内に収容した。次いで、反応器内にアルゴン(Ar)ガスを導入し、反応器内をArガス雰囲気とした。そして、反応器内に無水メタノール(60ml)を加え、超音波(40KHz)を外部から5分間照射することにより、ルチンを完全に無水メタノールに溶解させた。この溶液の温度を5℃にして、超音波照射下に7%塩化水素-無水メタノール溶液(60ml)を加えた。超音波照射及び攪拌を5分間行った後、乾燥条件下で反応液をろ過してZn粉末を除去し、ろ液を得た。
【0046】
上記ろ液を強力に攪拌しながら室温で乾燥空気と接触させると、反応液の色は淡赤色から濃赤色に変化した。攪拌を始めてから3時間後、反応液を水(2.5L)に注ぎ、次いでろ過した。「アンバーライトXAD-7ゲル」(0.5%トリフルオロ酢酸(TFA)水溶液で置換)を充填したカラム(内径5cm、高さ50cm)に、得られたろ液を注ぎ、色素分子をカラムに吸着させた。次いで、0.5%TFA水溶液(2L)でカラムを洗浄した。その後、0.5%TFAを含む90%アセトニトリル水溶液を加えて、カラムに吸着させた色素を溶出した。この色素画分を40℃で減圧下濃縮乾固して、1.00g(収率86%)のシアニジン-3-ルチノシドを得た。
【0047】
色素画分の純度は、ODSカラムを用いた高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分析により測定した(図1参照)。HPLC分析条件は以下の通りである。その結果、色素画分の純度は90%以上であった。
カラム:Develosil 「ODS-HG-5」(2.0mm×250mm)
溶媒A:0.5%TFA-10%CHCN水溶液
溶媒B:0.5%TFA-10%CHCN水溶液
溶出条件:リニアグラジエント溶出(0~15分;溶媒A100%~80%、15~25分;溶媒A80%~50%、25~35分;溶媒50%~0%)
流速:0.2ml/min
分析温度:40℃
検出温度:280nm
【0048】
(2)実施例2
実施例1と同様の方法でルチン(1.00g、1.64mmol)及びZn粉末(10.0g)を反応させ、ろ液1を得た。該ろ液1を3Lの水に注ぎ、次いで、アンバーライトXAD-7ゲル(水で置換)を充填したカラム(内径5cm、高さ50cm)に注ぎ、反応分子を吸着させた。次いで、2Lの水を流してカラムを洗浄し、塩素イオンが検出されなくなったのを確認した後、90%アセトニトリル水溶液(1L)で反応分子を溶出した。減圧下、流出液を濃縮乾固し、4種類の反応生成物の混合物1を得た。
【0049】
分取ODS-HPLCを用い、混合物1をODSカラムに吸着させ、次いでアセトニトリル水溶液のアセトニトリル濃度を5%から50%まで段階的に上げて溶出を行った。その結果、2種類の3,4-フラベノール体(1,2)、2,3-フラベノール体(3)及びシアニジン-3-ルチノシド(4)をそれぞれ、215mg(収率22%)、464mg(収率47%)、100mg(収率10%)、及び178mg(収率15%)得た。混合物1のHPLCクロマトグラムを図2に示す。尚、HPLC分析条件は上記実施例1と同じである。
【0050】
上記フラベノール体1~3の構造は、核磁気共鳴スペクトル分析(H-NMR及び13C-NMR)及び質量分析(FAB-MASS)によって決定した。上記フラベノール体1~3のH-NMRの分析結果を表1に示す。また、上記フラベノール体1~3のH-NMR及び13C-NMRのスペクトルチャートを図3~図8に示す。上記フラベノール体1~3の質量分析の結果は以下の通りである。尚、質量分析は全てプロトン付加体として測定された。
フラベノール体1(C273315):
実測値;597.1839,計算値;597.1819
フラベノール体2(C273315);
実測値;597.1839,計算値;597.1819
フラベノール体3(C273315);
実測値;597.1817,計算値;597.1819
【0051】
【表1】
JP0005382676B2_000010t.gif

【0052】
(3)実施例3
実施例2で得た混合物1(10.1mg)を無水メタノール(0.5ml)に溶解した。該溶液に7%塩化水素-無水メタノール溶液(0.5ml)を加え、乾燥空気下12時間攪拌した。上記実施例1と同じ方法でODSカラムを用いたHPLC分析により、色素画分を分析した。その結果、混合物1に含まれていたフラベノール体が単一のシアニジン-3-ルチノシドへと変換されたことが確認された(図9参照)。
【0053】
(4)実施例4
ルチン(103mg)及びZn粉末(1.07g)を真空下で乾燥させ、これらを反応器内に収容した。次いで、反応器内にArガスを導入し、反応器内をArガス雰囲気とした。そして、反応器内に無水メタノール(5.0ml)を加え、超音波(40KHz)を外部から15分間照射することにより、ルチンを完全に無水メタノールに溶解させた。室温で攪拌下、この溶液に10%濃硫酸-メタノール溶液(5.0ml)を加えた。2時間攪拌した後、反応液をろ過してZn粉末を除去した。ろ過残渣をメタノール(6ml)で洗浄して、このメタノールもろ液に加えた。
【0054】
このろ液を室温下で23時間攪拌して乾燥空気と接触させることにより、酸化を行った。反応液に水(300ml)を加え、直ちに「アンバーライトXAD-7ゲル」(0.5%TFA水溶液で置換)を充填したカラム(内径2cm、高さ25cm)に注ぎ、色素分子を吸着させた。次いで、0.5%TFA水溶液(200ml)でカラムを洗浄した。その後、0.5%TFAを含む90%アセトニトリル水溶液を加えて、カラムに吸着させた色素分子を溶出した。この色素画分を40℃で減圧下濃縮乾固して、色素を106mg得た(収率89%)。色素画分の純度の測定方法は、上記実施例1と同じである。その結果、色素画分の純度は90%以上であった(図10参照)。
【0055】
(5)実施例5
反応機構を以下に示す。
【化8】
JP0005382676B2_000011t.gif

【0056】
ケルセチン-3-グルコシド(102mg、0.22mmol)及びZn粉末(1.25g)を真空下で乾燥させ、これらを反応器内に収容した。次いで、反応器内にArガスを導入し、反応器内をArガス雰囲気とした。そして、反応器内に無水メタノールを加え、超音波(40KHz)を外部から5分間照射することにより、ケルセチン-3-グルコシドを完全に無水メタノール中に溶解させた。超音波照射下、室温でこの溶液に10.5%の塩化水素を含む無水メタノール溶液(10ml)を加えた。超音波照射及び攪拌を3時間30分行った後、乾燥条件下で反応液をろ過してZn粉末を除去し、ろ液を得た。
【0057】
上記ろ液を20時間攪拌して室温で乾燥空気と接触させると、反応液の色は淡赤色から濃赤色に変化した。その後、反応液に水(400ml)を加え、直ちに「アンバーライトXAD-7ゲル」(0.5%TFA水溶液で置換)を充填したカラム(内径2cm、高さ25cm)に注ぎ、色素分子を吸着させた。次いで、0.5%TFA水溶液(500ml)でカラムを洗浄した。その後、0.5%TFAを含む90%アセトニトリル水溶液を加えて、カラムに吸着させた色素分子を溶出した。この色素画分を40℃で減圧下濃縮乾固して、シアニジン-3-グルコシドを113mg得た(収率91%)。色素画分の純度の測定方法は、上記実施例1と同じである。その結果、色素画分の純度は95%以上であった(図11参照)。
【0058】
(6)実験例6
ルチン(102mg、0.167mmol)及び粒状Mg(326mg)を真空下で乾燥させ、これらを反応器内に収容した。次いで、反応器内にArガスを導入し、反応器内をArガス雰囲気とした。そして、反応器内に無水メタノール(2ml)を加え、ルチンを無水メタノールに溶解させた。この溶液を0℃に冷却して、10%塩化水素-無水メタノール溶液(6ml)を加えた。反応液を室温にしてから30分間攪拌し、乾燥条件下で反応液をろ過して粒状Mgを除去し、ろ液を得た。
【0059】
上記ろ液を乾燥空気中で攪拌しながら、10%塩化水素-無水メタノール溶液(2ml)を加え、室温で16時間攪拌を続けた。その後、反応液に水(300ml)を加え、直ちに「アンバーライトXAD-7ゲル」(0.5%TFA水溶液で置換)を充填したカラム(内径5cm、高さ25cm)に注ぎ、色素分子を吸着させた。次いで、0.5%TFA水溶液(2L)でカラムを洗浄した。その後、0.5%TFAを含む90%アセトニトリル水溶液を加えて、カラムに吸着させた色素を溶出した。上記実施例1と同じ方法でODSカラムを用いたHPLC分析により、色素画分を分析したところ、ほぼ単一のシアニジン-3-ルチノシドのピークを検出した。
【0060】
(5)実施例7
反応機構を以下に示す。
【化9】
JP0005382676B2_000012t.gif

【0061】
ケンフェロール-3-(6-O-アセチル)グルコシド(9.75mg,0.020mmol)及びZn粉末(164mg)を真空下に乾燥させ、これらを反応器内に収容した。次いで、反応器内にArガスを導入し、反応器内をArガス雰囲気にした。そして、超音波照射下、0℃で、3.5%塩化水素-無水メタノール溶液(1.2ml)を加えた。超音波照射及び強力な撹拌を7分間行った後、乾燥条件下で反応液をろ過してZn粉末を除去し、ろ液を得た。
【0062】
上記ろ液を強力に撹拌しながら室温で乾燥空気と接触させ、3.5時間反応させると、反応液の色は淡赤色から濃い赤色に変化した。反応液を水(30ml)に注ぎ、次いで、これを「アンバーライトXAD-7ゲル」(0.5%TFA水溶液で置換)を充填したカラム(内径1.5cm、高さ17cm)に注ぎ、色素分子をカラムに吸着させた。次いで、0.5%TFA水溶液(250ml)でカラムを洗浄した。その後、0.5%TFAを含む90%アセトニトリル水溶液を加えて、カラムに吸着させた色素を溶出した。色素画分を分取ODS-HPLCで精製した。ODSカラムを用いたHPLC分析の結果、色素画分は、二種類のアントシアニンを含んでいた(図12参照)。得られた色素画分を40℃で減圧下濃縮乾固して、5.8mgのペラルゴニジン-3-(6-O-アセチル)グルコシド(収率50%)及び5.4mgのペラルゴニジン-3-グルコシド(収率50%)を得た。色素画分の純度の測定方法は、上記実施例1と同じである。その結果、色素画分の純度は、いずれの色素も95%以上であった(図12参照)。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】実施例1の色素画分のHPLCクロマトグラムである。
【図2】実施例2の混合物1のHPLCクロマトグラムである。
【図3】フラベノール体1のH-NMRチャートである。
【図4】フラベノール体1の13C-NMRチャートである。
【図5】フラベノール体2のH-NMRチャートである。
【図6】フラベノール体2の13C-NMRチャートである。
【図7】フラベノール体3のH-NMRチャートである。
【図8】フラベノール体3の13C-NMRチャートである。
【図9】実施例3の色素画分のHPLCクロマトグラムである。
【図10】実施例4の色素画分のHPLCクロマトグラムである。
【図11】実施例5の色素画分のHPLCクロマトグラムである。
【図12】実施例7の色素画分のHPLCクロマトグラムである。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11