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明細書 :超伝導量子干渉素子

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5187559号 (P5187559)
公開番号 特開2009-147179 (P2009-147179A)
登録日 平成25年2月1日(2013.2.1)
発行日 平成25年4月24日(2013.4.24)
公開日 平成21年7月2日(2009.7.2)
発明の名称または考案の名称 超伝導量子干渉素子
国際特許分類 H01L  39/22        (2006.01)
G01R  33/035       (2006.01)
FI H01L 39/22 ZAAD
G01R 33/035
請求項の数または発明の数 5
全頁数 16
出願番号 特願2007-324093 (P2007-324093)
出願日 平成19年12月15日(2007.12.15)
審査請求日 平成22年9月13日(2010.9.13)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】前田 京剛
【氏名】ゴメス・エスピノーザ・ルイス・ベルトラン
個別代理人の代理人 【識別番号】100082876、【弁理士】、【氏名又は名称】平山 一幸
【識別番号】100109807、【弁理士】、【氏名又は名称】篠田 哲也
【識別番号】100148127、【弁理士】、【氏名又は名称】小川 耕太
審査官 【審査官】正山 旭
参考文献・文献 国際公開第2006/011451(WO,A1)
特表2005-521248(JP,A)
特開2001-153936(JP,A)
特開平05-251768(JP,A)
特開2003-224311(JP,A)
調査した分野 H01L 39/22
H01L 39/24
G01R 33/035
特許請求の範囲 【請求項1】
一対のアンテナ部を一対の狭窄部で接続してなるリング部を有する超伝導体層と、
上記一対の狭窄部の一方に跨るように配設された強磁性層と、を備える、超伝導量子干渉素子。
【請求項2】
一対のアンテナ部を一対の狭窄部で接続してなるリング部を有する超伝導体層と、
上記一対の狭窄部のそれぞれに跨るように配設された強磁性層と、を備える、超伝導量子干渉素子。
【請求項3】
前記超伝導体層及び前記強磁性層は、基板をオーバーエッチングして形成されたメサ部上に配設されている、請求項1又は2に記載の超伝導量子干渉素子。
【請求項4】
前記一対のアンテナ部のそれぞれは、縦幅0.1~1000μm×横幅0.1~1000μmの矩形状を成し、前記狭窄部の幅はμmのオーダーである、請求項1又は2に記載の超伝導量子干渉素子。
【請求項5】
前記強磁性層の幅は2nm~1μmである、請求項1又は2に記載の超伝導量子干渉素子。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、ジョセフソン接合を用いた超伝導量子干渉素子(SQUID)に関する。

【背景技術】
【0002】
これまで、超伝導トンネル接合として、酸化膜(I)の両側に超伝導体層(S)を挟み込んだSIS型ジョセフソン接合がある。このSIS型ジョセフソン接合を作製する場合、超伝導体層と絶縁バリア層と超伝導体層との合計3層を順に積層するために最低でも3回の成膜工程が必要であった(例えば、非特許文献1参照)。超伝導トンネル接合の特性は、いわゆるI積によって特徴づけられ、この値が大きいほど良好な接合となる。
【0003】
単一磁束量子デバイス(Single Flux Quantum Device、以下、SFQ素子と称する。)は、ジョセフソン接合を用いた論理回路である(非特許文献2参照)。このSFQ素子においては、磁束量子一本がジョセフソン接合を横切るときに発生するパルス状の電圧を利用して論理回路を構成する。この場合のスイッチング速度は、I積に逆比例する。従って、I積が大きい程、高速で動作する。I積は、大凡、ジョセフソン接合に用いる超伝導体の臨界温度(Tc)に比例して大きくなる。
【0004】

【非特許文献1】Gomez Espinoza Luis Beltran、博士号学位論文、米国、Cincinnati大学、2003年5月30日提出
【非特許文献2】萬 伸一、「単一磁束量子デバイス」、固体物理、第40巻、No.10,p.807、2005年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
高温超伝導体層を用いたジョセフソン接合によれば、そのTcが従来のNbなどの超伝導体よりも大きいので、I積が大きくなることが予測されている。しかしながら、現状の高温超伝導体においては、I積が理論的に期待される値に対し10%程度の値をもつジョセフソン接合しか得られず、I積が高くできないという課題がある。
【0006】
特に、高温超伝導体においては、絶縁バリア層作製の制御性や再現性を高めることが非常に困難であるために、良質の超伝導SIS型トンネル接合の作製ができなかった。そのため、安定した特性を有する量子磁束干渉素子(SQUID)を簡便な方法で作製することが困難であった。
【0007】
本発明は上記課題に鑑み、超伝導体、特に高温超伝導体によるSIS型ジョセフソン接合において、良好な絶縁バリア層が得られないという技術的困難を克服するために、絶縁バリア層の形成を不要とする新たな超伝導量子干渉素子を提供することを目的としている。

【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、超伝導体層上に強磁性層を被覆した構造において、強磁性層をなす磁性体が下側の超伝導体層の超伝導を抑制し、特に高温超伝導体層に対して超伝導体(S)から絶縁体(I)への転移を引き起こす点に着目してなされたものである。
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の超伝導量子干渉素子は、一対のアンテナ部を一対の狭窄部で接続して構成したリング部を有する超伝導体層と、この一対の狭窄部の一方に跨るように配設された強磁性層と、を備える。
また、本発明の超伝導量子干渉素子は、一対のアンテナ部を一対の狭窄部で接続して構成したリング部を有する超伝導体層と、一対の狭窄部のそれぞれに跨るように配設された強磁性層と、を備える。
好ましくは、超伝導体層及び強磁性層は、基板をオーバーエッチングして形成されたメサ部上に配設されている。
好ましくは、一対のアンテナ部のそれぞれは、縦幅0.1~1000μm×横幅0.1~1000μmの矩形状を成し、狭窄部はμmのオーダーの幅であり、強磁性層は、2nm~1μmの幅である。

【発明の効果】
【0011】
本発明の超伝導量子干渉素子によれば、超伝導体層のループ部の一部に強磁性層を配設して構成されているため、強磁性層で被覆された超伝導体層の超伝導体から絶縁体へ転移が生じ、これにより、SIS型ジョセフソン接合が形成される。よって、従来のようにバリア層を超伝導体層で挟んだ構造と異なり、簡単な構造により超伝導量子干渉素子を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。各図において、同一又は対応する部材には同一の符号を用いる。
超伝導量子干渉素子の第1実施形態について説明する。
図1は、第1実施形態に係る超伝導量子干渉素子を示し、(A)は平面図、(B)はX1-X1線に沿う断面図である。超伝導量子干渉素子10は、リング部12Aを有する超伝導体層12と、この超伝導体層12のリング部12Aの一部を跨いで配設された強磁性層13,13と、を有する。第1実施形態では、複数の強磁性層13、13がリング部12Aに跨いで被覆している。超伝導体層12のリング部12Aのうち強磁性層13,13で被覆された領域12B,12Bが、強磁性層13により超伝導体(S)から絶縁体(I)へ転移し、障壁となる。この構造により所謂SIS型のジョセフソン接合が2箇所で形成されるため、所謂DC-SQUIDを構成する。
【0014】
上記構造において、超伝導体層12の各両端部に電流端子12G,12Hが設けられている。電流端子12G,12H間に電流を流すと、ある閾値を超えたときに超伝導量子干渉素子10にはゼロでない電圧が発生する。この閾値を臨界電流と呼ぶことにする。臨界電流が磁束の関数になることを利用することで、臨界電流の測定により磁束を高感度で検出することができる。
【0015】
この構造は、トンネル層を超伝導体層で挟んで構成した従来のSIS型のジョセフソン接合とは異なり、超伝導体層、酸化膜などのトンネル層、超伝導体層の最低三層の成膜工程が必要ではないため、トンネル層の形成が不要となり工程数を減らすことができる。
特に、従来の構造では、銅酸化物による高温超電導体に対してトンネル層を積層するので、せっかく形成された洗浄表面が必ず汚染され、ジョセフソン接合の特性が悪くなっていた。しかしながら、超伝導量子干渉素子10では、酸化膜を部分的に除去してトンネル層を形成することはないため、ジョセフソン接合の電気的な特性の制御や再現性が良くなり、超伝導量子干渉素子10の感度などの特性も極めて向上する。
【0016】
さらに、超伝導量子干渉素子10の構成について具体的に説明する。
超伝導量子干渉素子10は、図1に示すように、超伝導体層12及び強磁性層13が基板11上に配設されて構成されている。図1(A)では基板11は省略している。
基板11として、例えば酸化マグネシウム(MgO)基板、サファイア(Al)基板、LaとAlとOからなる化合物(LaAlO)基板、SrとAlとOとからなる化合物(SrAlO)基板が挙げられる。
【0017】
超伝導体層12は、四角形、矩形状、円環状その他のリング部12Aを有する。超伝導体層12は、一対のアンテナ部12C,12Dが一対の狭窄部12E,12Fにより連結されてループを構成している。一対のアンテナ部12C,12Dは何れも、例えば図1に示すように横幅W11、縦幅W12、厚みD11の矩形状である。一対のアンテナ部は、図示を省略するが、台形状、特に等脚台形状であってもよい。この場合、平行をなす上底部と下底部の何れか一方に一対の狭窄部12E,12Fが接続されている。一対の狭窄部12E,12Fは、図1に示すように幅W21、長さL21、厚みD11を有する細線部である。
【0018】
ここで、横幅W11、縦幅W12は何れも、0.1μm以上でかつ1000μm以下であることが良く、特に下記の範囲であることが好ましい。
0.1μm≦W11≦10μm
1μm≦W12≦10μm
【0019】
21は5μm程度以下であればよいが、高温超伝導体層12のコヒーレンス長と同程度、例えば30nmから50nm程度としてもよい。幅W21は、電流分布が一様となるように設定される必要がある。これは、電流分布が一様でない場合には、ジョセフソン磁束が生じてしまい、動作に支障をきたすからである。そのため、高温超伝導体層12における幅W21はジョセフソン侵入長程度以下という条件でなければならない。ジョセフソン侵入長は臨界電流に反比例するので、温度を変化させることによってジョセフソン接合がこの条件を満たすようにすればよい。
【0020】
高温超伝導体層12における厚さD11の唯一の制約は、超伝導特性が発現するための必要最小限の値以上になっていることである。その具体的値は、超伝導体の材料として何を用いるかに依存する。例えば、後述する実施例の銅酸化物超伝導体の場合、過去の文献では、数nmで比較的良好な超伝導特性が発現している例がある。
【0021】
一対のアンテナ部12C,12Dは、一対の狭窄部12E,12Fの長さL21だけ離れて配設される。この長さL21は下記の範囲が好ましい。
0.1μm≦L21≦10μm
上記範囲を超えると、磁束量子1個の運動を取り出すことが著しく困難になるからである。
【0022】
超伝導体層12は、超伝導体、例えばニオブ、窒化ニオブ、アルミニウム、鉛を含む化合物や銅酸化物超伝導体で成る。銅酸化物超伝導体として、La,Sr,Cu及びOからなる化合物(LSCO)、Y,Ba,Cu及びOからなる化合物(YBCO)、Bi,Sr,Ca,Cu及びOからなる化合物(BSCCO)などが挙げられる。特に、超伝導体層12が大きいTcを有することで、ジョセフソン接合のI積が大きくなる。
【0023】
強磁性層13は、第1の実施形態では、一対の狭窄部12E,12Fとしての細線部上にそれぞれ被覆されている。強磁性層13は、図示するように、各狭窄部12E,12Fに被覆され、その両端部が基板11上に延設されていても、図示を省略するが、各狭窄部12E,12F上にのみ被覆されていてもよい。強磁性層13は、狭窄部12E,12Fのうち強磁性層13で被覆されている領域が強磁性層13により超伝導体(S)から絶縁体(I)に転移してバリアが形成されるため、強磁性層13の幅W31は下記の範囲であることが好ましい。
【0024】
強磁性層13の狭窄部12E,12F方向の幅W31は、高温超伝導体層12における狭窄部を覆う長さであればよい。例えば、強磁性層13の幅W31は、理論的には、超伝導体のコヒーレンス長程度でないとジョセフソン効果は起こらないが、未解明の機構などによりそれより長距離でジョセフソン効果が生起する可能性もある。この場合には、寸法上の制約はなくなる。強磁性層13の幅W31は、具体的には数nmから1μm程度の範囲、即ち2nm~1μmであればよい。特に2nmから0.1μmの範囲が好ましい。
強磁性層13の積層方向の厚さtは、下部にある高温超伝導体層12の超伝導特性を抑制してジョセフソン特性が出現しさえすればよいので、厚くする分には特に寸法上の制約はない。例えば、10nm以上(t≧10nm)とすればよい。厚さtが大凡10nm未満では、後述する高温超伝導体層における狭窄部12Cへのバリア作用が果たせなくなるので好ましくない。
なお、強磁性層13の長さL31は、狭窄部12E,12Fの幅W21と同程度で狭窄部12E,12Fを被覆するだけの長さを有していても、また、図示するように、狭窄部12E,12Fの幅W21よりも長くてもよい。
【0025】
強磁性層13は、Feなど各種フェライトその他の絶縁性強磁性材料で構成しても、鉄(Fe),ニッケル(Ni),マンガン(Mn),クロム(Cr)などの単体又は合金その他の導電性強磁性材料で構成してもよい。
【0026】
超伝導量子干渉素子の第2実施形態について説明する。
図2は、第2実施形態に係る超伝導量子干渉素子20を示し、(A)は平面図、(B)はX2-X2線に沿う断面図である。なお、図1と同一又は対応する部材には同一の符号を付してある。
図2に示す超伝導量子干渉素子20は第1の実施形態と異なり、リング部12Aを有する超伝導体層12と、この超伝導体層12のリング部12Aの一箇所を被覆した強磁性層13と、を有する。超伝導体層12のリング部12Aのうち強磁性層13で被覆された領域12Bが、強磁性層13により超伝導体(S)から絶縁体(I)へ転移し、障壁となる。この構造により所謂SIS型のジョセフソン接合が1箇所で形成されるため、RF-SQUIDを構成する。このRF-SQUIDにおいても臨界電流の測定による磁束を高感度で検出することができる。
【0027】
超伝導量子干渉素子の第3の実施形態について説明する。
図3は、第3実施形態に係る超伝導量子干渉素子30を示し、(A)は平面図、(B)はX3-X3線に沿う断面図である。図3に示す超伝導量子干渉素子30は第1の実施形態と異なり、基板11において超伝導体層12及び強磁性層13が形成されない領域がオーバーエッチングされている。すなわち、超伝導体層12及び強磁性層13が基板11のメサ部31A上に形成されている点で異なる。基板11をオーバーエッチングすることで、基板11上の超伝導体層12や強磁性層13との段差にウエットエッチング残渣が残らない。従って、ジョセフソン接合の特性劣化の要因とはならない。
【0028】
超伝導量子干渉素子の第4の実施形態について説明する。
図4は、第4実施形態に係る超伝導量子干渉素子40を示し、(A)は平面図、(B)はX4-X4線に沿う断面図である。図4に示す超伝導量子干渉素子40は第2の実施形態と異なり、基板11において超伝導体層12及び強磁性層13が形成されない領域がオーバーエッチングされている。すなわち、超伝導体層12及び強磁性層13が基板11のメサ部31A上に形成されている点で異なる。基板11をオーバーエッチングすることで、基板11上の超伝導体層12や強磁性層13との段差にウエットエッチング残渣が残らない。従って、ジョセフソン接合の特性劣化の要因とはならない。
【0029】
ここで、前述の超伝導量子干渉素子10,20,30,40では基板11上に超伝導体層12を直接設けていたが、超伝導体層12の結晶性を高めるために基板11と超伝導体層12との間にバッファー層を設けても良い。
【0030】
また、超伝導量子干渉素子10,20,30,40では、超伝導体層12の上に強磁性層13を直接設けていたが、特に導電性の強磁性層の場合には、超伝導体層12と強磁性層13との間に絶縁膜が介在していてもよい。この絶縁膜は従来のSIS型のジョセフソン接合に不可欠なトンネル層としては作用しない。この介在させる絶縁膜は、単に絶縁特性を有すれば良く、例えば数nmから数十nmの厚さを有する。絶縁膜は超伝導量子干渉素子の製造工程において強磁性層13となる鉄やニッケルなどの単体又は合金その他の強磁性材料の表面に形成される自然酸化膜でも、意図的に形成したSi膜やSiO膜などの絶縁膜でもよい。
【0031】
次に、本発明の超伝導量子干渉素子の製造方法について、図1に示す第1の実施形態の場合を例にとって説明する。図5は、本発明の超伝導量子干渉素子の製造工程を示す図である。
先ず、図5(A)に示すように、基板11上に超伝導体層12となる膜51を成膜する。その際、基板11には予めバッファー層(図示せず)が形成されていてもよい。成膜にはパルスレーザを用いたアブレーション法、すなわちPLD法等の堆積法を用い、所定の厚さとなるまで堆積を行う。
【0032】
次に、超伝導量子干渉素子の電流端子12G,12Hに接続される電極を形成する。その際、アライメント用のマーカーを同時に形成することが好ましい。具体的には、膜51の上に電子ビーム露光用レジストを塗布し、電子ビーム露光用レジストを露光し、電子ビーム露光用レジストを現像し、電極やマーカーとなる領域を開口したパターンを形成する。このマスクパターンに電極となる金属層を堆積し、レジストを除去する、所謂リフトオフ法により電極やマーカーを同時に形成することができる。
【0033】
次に、強磁性層13を形成するためのリフトオフマスクを形成する。具体的には、図5(B)に示すように膜51の上に電子ビーム露光用レジスト52を塗布し、図5(C)に示すように電子ビーム露光用レジスト52に対して露光56を行い、電子ビーム露光用レジスト52の現像を行うことで、強磁性層が配置されるべき領域が開口されたレジストパターン53をエッチングにより形成する(図5(D)参照)。
【0034】
次に、レジストパターン53が形成された基板の表面全体に、強磁性材料54を抵抗加熱による蒸着法等により堆積し(図5(E)参照)、レジストパターンをエッチングにより除去する(図5(F)ご参照)。これで、所謂リフトオフ工程により余分な強磁性膜が除去され、強磁性層13のパターンが超伝導膜51上に形成される。
【0035】
次に、余分な超伝導膜51をエッチングにより除去して超伝導体層12を形成する。具体的には、電子ビーム露光用レジスト55を塗布し(図5(G)参照)、電子ビーム露光用レジストの露光56を行い、電子ビーム露光用レジストの現像を行うことで、超伝導体層となる以外の領域が開口されたレジストパターン57をエッチングにより形成する(図5(I)参照)。
【0036】
その後、図5(J)に示すレジストパターン57を除去することにより、図1に示す超伝導量子干渉素子10を作製することができる(図5(K)参照)。
【0037】
ここで、図2に示す超伝導量子干渉素子20を作製する場合には、上記工程において、強磁性層が配置される領域が開口されたレジストパターンを変えることで実現できる。
【0038】
図3及び図4に示す超伝導量子干渉素子30,40の作製方法について説明する。超伝導量子干渉素子30と超伝導量子干渉素子40とでは強磁性層のパターンが異なるだけであるので、特に、超伝導量子干渉素子30の場合について説明する。
【0039】
図6は、図3に示す超伝導量子干渉素子30の作製工程の一部を示す図である。
図3に示す超伝導量子干渉素子30を作製する場合、図5に示すように、超伝導量子干渉素子10の作製工程と同様な工程を経る。そして、図5(J)に示す状態、すなわち、図6(A)に示す状態となる。
次に、図6(B)に示すようにイオン58でイオンミリングやリアクティグイオンエッチング(RIE)を行うことで、基板11のうち、超伝導体層及び強磁性層が形成されていない領域をオーバーエッチングして、メサ部31Aを形成する(図6(C)参照)。
その後、図6(C)に示すレジストパターン57を除去することにより、図3に示す超伝導量子干渉素子30を作製することができる(図6(D)参照)。
【0040】
このようにして、超伝導量子干渉素子10,20,30,40が作製できるが、最終工程として、電極以外の領域に最終保護膜を形成することが好ましい。
以上のように、リング部を有する超伝導体層と、リング部上に配設された一又は複数の強磁性層とを備える超伝導量子干渉素子の作製方法にあっては、基板上に超伝導膜を形成するステップと、超伝導膜上に強磁性膜を形成してパターニングにより強磁性層を形成するステップと、超伝導膜の不要な部分をエッチングして超伝導体層を形成するステップと、を含んでいる。超伝導膜をエッチングして超伝導体層を形成した後に、さらに基板をオーバーエッチングしてもよい。
これによれば、従来のバリア層を形成する必要がなく、超伝導体層のループ部の一部に強磁性層を一又は複数跨って配設することで作製することができるので、従来のようにフッ酸などでパターニングしてバリア層を形成するというプロセスを経る必要がない。よって、従来のように、超伝導体層とバリア層との界面特性が劣化するという問題が生じない。また、プロセス工程数が少なく、作製制御が容易な作製方法を提供することができる。これにより、再現性がよく、感度の高い超伝導量子干渉素子を作製することができる。

【実施例】
【0041】
超伝導量子干渉素子として図1に示すDC-SQUIDを次の工程により作製した。
先ず、LaSrAlO基板11上にLa2-xSrCuO(LSCO)を約42nm堆積させた。波長248nmのKrFエキシマレーザによるPLD法を用いた。
次に、La2-xSrCuO超伝導体層となる膜51上にポジ型の電子ビーム露光用レジスト(Shipley社製、型番1813)を塗布し、電子ビーム露光を行い、現像を行うことによって電極が配置されるべき領域が開口されたレジストパターンを形成した。
レジストパターンを形成した基板11の表面全面に電極となる金を抵抗加熱による蒸着法により堆積させた。基礎真空度は約5×10-6Torrであり、1nm/秒の蒸着速度で250nm堆積させた。そして、レジストパターン53をエッチングで除去する、所謂リフトオフ工程により余分な金を除去して電極及びアライメント用のマーカーを膜51上に形成した。
【0042】
次に、La2-xSrCuO超伝導体層となる膜51上にポジ型の電子ビーム露光用レジスト52(Shipley社製、型番1813)を塗布し、電子ビーム露光を行い、現像を行うことによって強磁性層13が配置されるべき領域を開口させたレジストパターン53を形成した(図5(D)参照)。
図5(E)に示すようにレジストパターン53を形成した基板11の表面全体に強磁性層13となる鉄を抵抗加熱による蒸着法により堆積させた。基礎真空度は約5×10-7Torrであり、1nm/秒の蒸着速度で60~100nm堆積させた。
そして、レジストパターン53をエッチングで除去する、所謂リフトオフ工程により余分な鉄を除去して強磁性層13のパターンが超伝導体層12上に形成した(図5(F)参照)。その際、強磁性層13の幅W31は100~500nmであり、長さL31は2μ~10μmであった。
【0043】
その後、LSCO薄膜エッチングのために、電子ビーム露光用レジスト55を塗布し(図5(G)参照)、電子ビーム露光用レジストを露光し、電子ビーム露光用レジストの現像を行うことで、超伝導体層となる以外の領域が開口されたレジストパターン57をエッチングにより形成した。そして、超伝導体膜のうちマスクで覆われていない部分を0.01~0.05%の塩酸でエッチングし、その後マスク57を除去した。
【0044】
図7は、作製した超伝導量子干渉素子10のSEM像を示す図である。図7に示すように、超伝導体層12として、一対の矩形状のアンテナ部12C,12Dにおける両側に電流端子12G,12Hが形成され、一対の矩形状のアンテナ部12C,12Dの間に一対の狭窄部12E,12Fとしての細線部が接続されて、略正方形状のループが形成されていることが分かる。また、一対の狭窄部12E,12Fとしての細線部にそれぞれ強磁性層13がブリッジ状に跨って被覆されていることが分かる。
【0045】
図8は、実施例においてパルスレーザアブレーション法で堆積したLa2-xSrCuO(x=0.15)膜の抵抗についての温度依存性を示す図である。図8の縦軸は抵抗(Ω)であり、横軸は絶対温度(K)である。図8から明らかなように、La2-xSrCuO(x=0.15)膜からなる超伝導体層の臨界温度は約30Kであることが分かった。
【0046】
図9は、作製した超伝導量子干渉素子10の電流-電圧特性を示す図である。図9の縦軸は電流(μA)であり、横軸は電圧(μV)である。測定温度は8Kとした。図9から、超伝導量子干渉素子10は良好な電流-電圧特性を示すことが分かる。
【0047】
図10は、作製した超伝導量子干渉素子10の電圧-磁束特性を示す図である。図10の縦軸は生じる電圧(μV)であり、横軸は外部からの磁束(G)である。なお、測定温度は18Kとし、電流端子間に530μAの一定電流を流した。図10から、外部からの磁束の変化に応じて電圧が振動しており、DC-SQUID特有の特性が得られていることが分かった。
【0048】
(比較例)
比較例として、強磁性層の素材を鉄(Fe)から、非磁性層の銅(Cu)に代え、同一寸法で同一構造の素子を作製した。
図11は、実施例と比較例における電流-電圧特性を示す図である。図の縦軸は電流(mA)を、横軸は電圧(mV)を示す。実施例の結果を塗り潰したマーク(■等)で示し、比較例の結果を中空のマーク(□等)で示している。測定温度は、8,10,12,14,16,18,20Kとした。
図11から、実施例では臨界電流は小さいのに対して、比較例では臨界電流が大きくなっていることが分かった。また、電流-電圧特性の曲線は、比較例ではフラックスフロー的になっており、ジョセフソン接合が形成されていないことが示唆されている。
【0049】
図12は臨界電流の磁場依存性を示す図であり、図の縦軸は臨界電流Ic(μA)、横軸は磁束密度B(G)である。マーク(●)のプロットが実施例の結果であり、マーク(■)のプロットが比較例の結果である。
図12から、鉄からなる磁性層を狭窄部に載置してブリッジ構造とした場合には、●プロットが示すように、ジョセフソン接合特有のフランホファー型の磁場依存性が観測されたが、鉄からなる層を狭窄部に載置した場合にはそのような変化は観察されなかった。
【0050】
図13は、実施例の超伝導量子干渉素子で用いたジョセフソン接合において、2GHzのマイクロ波を照射したときの電流電圧特性及び微分抵抗を測定した結果を示す図である。図の横軸は一対のアンテナ部間への印加電圧(μV)であり、左縦軸が電流(μA)を、右縦軸が微分抵抗(dV/DI[Ω])を示している。測定温度は35Kである。図中、■のプロットはマイクロ波を照射していないときの電流電圧特性の測定結果を示し、●のプロットはマイクロ波を800μW照射したときの電流電圧特性の測定結果を示し、○のプロットは、マイクロ波を800μW照射したときの微分抵抗の測定結果を示す。
図13から明らかなように、実施例ではジョセフソン接合に流れる電流は、その微分抵抗においてなだらかなキンクが約4μVおきに観測された。
【0051】
ジョセフソン接合が示す干渉効果であるシャッピーロ・ステップは、下記式(1)で表される。
V=hf/(2e)=Φf (1)
ここで、Vはシャッピーロ・ステップの間隔電圧(V)、hはプランク定数(6.626×10-34J・s)、eは電子の単位電荷(1.602×10-19C)、Φ=h/(2e)は磁束量子である。
2GHzのマイクロ波を照射したときのシャッピーロ・ステップの間隔は、式(1)から、約4μVと計算される。従って、実施例で観察されたキンクのステップ間隔は式(1)を満足し、ジョセフソン接合の干渉効果によるシャッピーロ・ステップが観察されていることが判明した。
【0052】
図14は、比較例の素子において、2GHzのマイクロ波を照射したときの電流電圧特性及び微分抵抗を測定した結果を示す図である。図の横軸は一対のアンテナ部間への印加電圧(μV)であり、縦軸が電流(μA)を示している。測定温度は9Kである。図中、■プロットはマイクロ波を照射していないときの電流電圧特性の測定結果を示し、●プロットはマイクロ波を800μW照射したときの電流電圧特性の測定結果を示す。
図14から明らかなように、比較例では、図13と異なり、臨界電流の変化のみであり、干渉構造は一切観察されなかった。
【0053】
以上の実施例及び比較例の結果から、一対の狭窄部に鉄からなる強磁性層を載せた素子では、ジョセフソン接合が形成されていることが分かった。
【0054】
上記実施例において、超伝導体層12の一部に強磁性層13を配置するという所謂ブリッジ構造のジョセフソン接合を有する超伝導量子干渉素子10~40が簡単な製造工程で実現できることが分かった。
【0055】
本発明は図面に示された形状などの構造に限定されるものではなく、発明の範囲内で種々の変形が可能である。例えば、超伝導体層12や強磁性層13の寸法は所望のI積が得られるよう適宜設計することができ、それらも本発明の範囲内に含まれることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】第1実施形態に係る超伝導量子干渉素子を示し、(A)は平面図、(B)はX1-X1線に沿う断面図である。
【図2】第2実施形態に係る超伝導量子干渉素子を示し、(A)は平面図、(B)はX2-X2線に沿う断面図である。
【図3】第3実施形態に係る超伝導量子干渉素子を示し、(A)は平面図、(B)はX3-X3線に沿う断面図である。
【図4】第4の実施形態に係る超伝導量子干渉素子を示し、(A)は平面図、(B)はX4-X4線に沿う断面図である。
【図5】本発明の超伝導量子干渉素子の製造工程を示す図である。
【図6】図3に示す超伝導量子干渉素子の作製工程の一部を示す図である。
【図7】作製した超伝導量子干渉素子のSEM像を示す図である。
【図8】実施例においてパルスレーザアブレーション法で堆積したLa2-xSrCuO(x=0.15)膜の抵抗についての温度依存性を示す図である。
【図9】作製した超伝導量子干渉素子の電流-電圧特性を示す図である。
【図10】作製した超伝導量子干渉素子の電圧-磁束特性を示す図である。
【図11】実施例と比較例における電流-電圧特性を示す図である。
【図12】臨界電流の磁場依存性を示す図である。
【図13】実施例の超伝導量子干渉素子で用いたジョセフソン接合において、2GHzのマイクロ波を照射したときの電流電圧特性及び微分抵抗を測定した結果を示す図である。
【図14】比較例の素子において、2GHzのマイクロ波を照射したときの電流電圧特性及び微分抵抗を測定した結果を示す図である。
【符号の説明】
【0057】
10,20,30,40 超伝導量子干渉素子
11 基板
12 超伝導体層
12A リング部
12B 領域
12C,12D アンテナ部
12E,12F 狭窄部
12G,12H 電流端子
13 強磁性層
31A メサ部
51 超伝導膜
52 電子ビーム露光用レジスト
53 レジストパターン
54 強磁性材料
55 電子ビーム露光用レジスト
56 露光
57 レジストパターン
58 イオン流
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図8】
6
【図9】
7
【図10】
8
【図12】
9
【図13】
10
【図14】
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【図7】
12
【図11】
13