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明細書 :バイオシリカ製造法、およびバイオシリカ固定基板の製造法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5311806号 (P5311806)
公開番号 特開2009-126745 (P2009-126745A)
登録日 平成25年7月12日(2013.7.12)
発行日 平成25年10月9日(2013.10.9)
公開日 平成21年6月11日(2009.6.11)
発明の名称または考案の名称 バイオシリカ製造法、およびバイオシリカ固定基板の製造法
国際特許分類 C01B  33/18        (2006.01)
B82B   3/00        (2006.01)
C07K  14/415       (2006.01)
FI C01B 33/18 ZNAZ
B82B 3/00
C07K 14/415
請求項の数または発明の数 4
全頁数 19
出願番号 特願2007-303952 (P2007-303952)
出願日 平成19年11月26日(2007.11.26)
審査請求日 平成22年10月26日(2010.10.26)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503092180
【氏名又は名称】学校法人関西学院
発明者または考案者 【氏名】松田 祐介
【氏名】金子 忠昭
個別代理人の代理人 【識別番号】100065215、【弁理士】、【氏名又は名称】三枝 英二
【識別番号】100108084、【弁理士】、【氏名又は名称】中野 睦子
【識別番号】100115484、【弁理士】、【氏名又は名称】林 雅仁
審査官 【審査官】西山 義之
参考文献・文献 特開昭63-074911(JP,A)
特開2006-197825(JP,A)
特表2005-512087(JP,A)
田中祐二他,珪藻殻自己組織化機能を用いた人工バイオミネラリゼーション,生物工学会誌,2005年,Vol. 83, No. 8,p. 376-379
WHITLOCK, P. W. et al.,Peptide biosilification: Catalytic activity under varied reaction conditions and observed morphology,Polym. Prepr.,2001年,Vol. 42, No. 1,p. 252
調査した分野 C01B 33/00-33/193
JSTPlus(JDreamIII)
特許請求の範囲 【請求項1】
シラフィンを用いてバイオシリカ粒を形成する方法において、
使用するシラフィンのリピートユニット濃度を10nM以上1500nM以下に、および/又は、
形成時の温度を40℃以上80℃以下の範囲に
調節することにより、形成するバイオシリカ粒の粒径を300nm以下に制御することを特徴とするバイオシリカの製造法。
【請求項2】
組換えシラフィンを使用することを特徴とする請求項1に記載のバイオシリカ製造法。
【請求項3】
単リピート型又は7回リピート型の組換えシラフィンを使用することを特徴とする請求項記載のバイオシリカ製造法。
【請求項4】
ヒスチジンのタグを付加した組換えシラフィンを使用することを特徴とする請求項記載のバイオシリカ製造法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオシリカ(bio-silica)製造法、およびバイオシリカ固定基板の製造法に関し、より詳細には、バイオシリカの製造においてバイオシリカの粒径(粒の大きさ)を制御する方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
生物の歯や骨、貝殻や真珠などは、有機物と無機物とが互いにナノスケールからマクロスケールで融合または複合した構造体である。このような鉱物を生物が作り出す作用をバイオミネラリゼーションと呼ぶ。自然界では、膨大な量のシリカ(SiO2)が生物によって産出・利用されている。その生物の代表例が単細胞の珪藻である。珪藻の細胞壁は多くの植物の細胞壁とは異なり、セルロースではなくシリカを主成分として構成されている。
【0003】
1999年以降Krogerらにより、海洋性珪藻Cylindrotheca fusiformisの細胞壁をフッ素酸で溶かした溶液から、4kDa~8kDaのポリペプチドSilaffin-1A1,Silaffin-1A2,Silaffin-1Bが単離され、これらのポリペプチドそれぞれにin vitroにおいて球状バイオシリカ形成能があることが示された(下記の非特許文献1・2)。また、これら3種類のポリペプチドのアミノ酸配列はsilaffin-1と呼ばれる遺伝子上に、Silaffin-1A2とSilaffin-1Bとは1回ずつ、Silaffin-1A1は5回繰り返しコードされていた(図1参照)。
【0004】
Silaffin-1は翻訳後調節により細胞内で分解作用を受け、それぞれの機能リピート単位に断片化されてから機能すると考えられているが、実際に生体内で各機能リピート単位に分かれてから機能しているかどうかは不明であり、リピート構造が保たれたまま機能している可能性も否定できない。いずれにしても、珪酸を顆粒状に凝集させ、球状バイオシリカ形成活性を有するこれらのポリペプチド(以下、総称して「シラフィン」という。)は、他の種類の珪藻にも存在し、珪藻殻形成に関与していると考えられている。
【0005】

【非特許文献1】Nils Kroger, Rainer Deutzmann, Manfred Sumper (1999) Polycationic Peptides from Diatom Biosilica That Direct Silica Nanosphere Formation. Science, 286:1129-1132.
【非特許文献2】Nils Kroger, Rainer Deutzmann, Manfred Sumper (2001) Silica-precipitating Peptides from Diatoms: The Chemical Structure of Silaffin-1A from Cylindrotheca fusiformis. J. Biol. Chem., 276:26066-26070.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで近年、半導体微細加工技術をはじめとするナノテクノロジー分野では、生体物質の自己組織化機能に注目が集まっている。中でも、自然界の珪藻殻が持つ幾何学的な微細構造が注目されている。上述のように、珪藻由来ペプチドのシラフィンがin vitro系で珪酸を顆粒状に凝集させ、球状バイオシリカ形成活性を有することから、この生体物質の自己組織化機能を細胞外の人工的な環境で良好に再現・コントロールすることで、珪藻殻自己組織化機能を利用した人工バイオミネラリゼーション技術を開発・確立し、さらにこれを半導体微細加工技術に応用することが期待されている。そのため、例えばシラフィンを用いて半導体基板表面にナノスケールのバイオシリカを形成する場合に、基板表面へのシラフィンの吸着を制御することで、基板上にバイオシリカを所望のパターンに形成する技術の開発が求められている。
【0007】
シラフィンを用いたバイオシリカの製造は、半導体微細加工技術への応用にとどまらず、種々の産業利用が期待されている。その一例が、バイオシリカを酵素などの生体高分子の固定化用担体として利用し、この機能高分子担体をバイオリアクターやバイオセンサー等に利用する技術の開発である。ナノスケールの球状バイオシリカは単位重量あたりの表面積が非常に大きく、このバイオシリカに活性を保持したまま酵素などの機能高分子を固定することで、バイオリアクター等に有用な優れた反応素子の提供が期待できる。そのためには、バイオシリカの粒径(粒の大きさ)を良好に制御し、特にその微細化を図る方法が求められている。もちろん、バイオシリカの微細化は半導体微細加工技術への応用においても重要である。
【0008】
そこで、本発明は、シラフィンを用いたバイオシリカの新規製造法、およびバイオシリカ固定基板の製造法を提供すること、特に、シラフィンを用いたバイオシリカの製造において、バイオシリカの微細化を図るためその粒径を制御する方法を提供すること等をその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、後述のように大腸菌発現系により大量精製した単リピート型シラフィンおよび7回リピート型シラフィンの2種類の組換えシラフィンを用いて種々のバイオシリカ形成条件について検討した結果、バイオシリカの粒径が、使用するシラフィンのリピートユニット濃度および形成時の温度に応じて変化し、これら濃度や温度を調節することで形成されるバイオシリカの粒径を制御しうること等を見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明は、産業上有用な発明として、下記A)~J)の発明を包含するものである。
A) シラフィンを用いてバイオシリカ粒を形成する方法において、使用するシラフィンのリピートユニット濃度、および/又は、形成時の温度を調節することにより、形成するバイオシリカ粒の粒径を制御することを特徴とするバイオシリカの製造法。
B) 使用するシラフィンのリピートユニット濃度を10nM以上1500nM以下、および/又は、形成時の温度を40℃以上80℃以下の範囲に設定することを特徴とする上記A)記載のバイオシリカ製造法。
C) 組換えシラフィンを使用することを特徴とする上記A)又はB)記載のバイオシリカ製造法。
D) 単リピート型又は7回リピート型の組換えシラフィンを使用することを特徴とする上記C)記載のバイオシリカ製造法。
E) ヒスチジンのタグを付加した組換えシラフィンを使用することを特徴とする上記C)記載のバイオシリカ製造法。
F) 所定の結晶面を有する基板上にシラフィンを吸着させて、基板上でシラフィンによりバイオシリカを形成させることを特徴とするバイオシリカ固定基板の製造法。
G) 基板表面上に異なった結晶面をパターニングにより形成した後、シラフィンを選択吸着させ、次いで、シラフィン吸着部にバイオシリカを選択的形成させることを特徴とするパターニングされたバイオシリカ固定基板の製造法。
H) 低指数結晶面を有するGaAs結晶基板をエッチングすることにより、基板表面上に異なった結晶面をパターニングにより形成させることを特徴とする上記G)記載のパターニングされたバイオシリカ固定基板の製造法。
I) 基板表面上に異なった結晶面をパターニングにより形成させた後、強制酸化皮膜を形成することを特徴とする上記H)記載のパターニングされたバイオシリカ固定基板の製造法。
J) 7回リピート型の組換えシラフィンを使用することを特徴とする上記F)~I)のいずれかに記載のバイオシリカ固定基板の製造法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、使用するシラフィンのリピートユニット濃度等を調節することによってバイオシリカの粒径(粒の大きさ)を良好に制御することができるので、その微細化を図ることができる。また、本発明のバイオシリカ固定基板の製造法により、基板上でバイオシリカを選択的形成させることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の好ましい態様について説明する。なお、本明細書および図面においてアミノ酸等を略号で表記する場合、その表記はIUPAC-IUB Commission on Biochemical Nomenclature による略号あるいは当該分野における慣用略号に基づくものであり、例えばアミノ酸については、GまたはGly:グリシン、AまたはAla:アラニン、VまたはVal:バリン、LまたはLeu:ロイシン、IまたはIle:イソロイシン、SまたはSer:セリン、TまたはThr:スレオニン、CまたはCys:システイン、MまたはMet:メチオニン、EまたはGlu:グルタミン酸、DまたはAsp:アスパラギン酸、KまたはLys:リジン、RまたはArg:アルギニン、HまたはHis:ヒスチジン、FまたはPhe:フェニルアラニン、YまたはTyr:チロシン、WまたはTrp:トリプトファン、PまたはPro:プロリン、NまたはAsn:アスパラギン、QまたはGln:グルタミンである。
【0013】
[1]バイオシリカの粒径(粒の大きさ)を制御する方法
上述のように、本発明のバイオシリカ製造法は、シラフィンを用いてバイオシリカ粒を形成する場合に、使用するシラフィンのリピートユニット濃度、および/又は、形成時の温度を調節することにより、形成するバイオシリカ粒の粒径を制御することを特徴とする。
【0014】
シラフィンは、天然シラフィン、合成シラフィンまたは組換えシラフィンの使用が例示され、特に限定されるものではないが、大腸菌などを用いた大量調製が可能なことから組換えシラフィンの使用が好ましい。図1および配列表の配列番号1には、海洋性珪藻Cylindrotheca fusiformis由来天然シラフィン-1(Silaffin-1)の全アミノ酸配列が示される。この一部のポリペプチド(SSKKSGSYSGSKGSK)を化学合成した合成シラフィンには、バイオシリカ形成能(沈積能)が認められている。
【0015】
また、本発明者が大腸菌発現系により大量精製した単リピート型シラフィンおよび7回リピート型シラフィンの2種類の組換えシラフィンの配列が、それぞれ配列番号4と5に示される。このうち単リピート型シラフィンは、シラフィン-1のリピート単位R7のアミノ酸配列(配列番号2)のN末にメチオニンを、C末にロイシン、グルタミン酸およびヒスチジンヘキサマーを付加したアミノ酸配列からなる。他方、7回リピート型シラフィンは、シラフィン-1の7つのリピート単位R1~R7のアミノ酸配列(配列番号3)のN末にメチオニンを、C末にロイシン、グルタミン酸およびヒスチジンヘキサマーを付加したアミノ酸配列からなる(図1参照)。
【0016】
後述の実施例に示すように、上記の単リピート型シラフィンおよび7回リピート型シラフィンのいずれもバイオシリカ形成活性が確認されているので、これらの組換えシラフィンを本発明に使用することは好ましい。これらの組換えシラフィンは、ニッケルカラムを用いて精製するためにC末にヒスチジンのタグを付加しているが、このようにヒスチジンのタグを付加した組換えシラフィンを使用することは以下の点から好ましい。即ち、シラフィンを用いてin vitro系でバイオシリカを形成する場合に、反応溶液中にニッケルイオンを加えることで、組換えシラフィンのヒスチジン側鎖がニッケルイオンと結合し、ニッケルを含有した特殊なバイオシリカの形成が可能である。このように他の原子・分子と結合親和性のある配列タグを付加した組換えシラフィンを使用することは、他の原子・分子を含有した特殊なバイオシリカを形成するのに有用である。
【0017】
もちろん、使用する単リピート型シラフィン、7回リピート型シラフィンの各アミノ酸配列は配列番号2~5に示されるものに限られず、このうち1~数個のアミノ酸を置換、欠失または付加させたものを使用してもよいし、2~6回リピート型のシラフィンを使用してもよい。さらに、バイオシリカ形成活性を有する限り、他の珪藻由来のシラフィンや、その合成シラフィン、組換えシラフィンを使用してもよい。
【0018】
また、本発明のバイオシリカ製造法において、バイオシリカの原料となる物質(換言すれば、シラフィンのバイオシリカ形成活性の基質となる物質)は珪酸であるが、具体的な基質・原料として、テトラメトキシシラン(TMOS)、テトラエトキシシラン(TEOS)などのアルコキシシラン(珪酸エステル)を使用することができる。そのほかに基質・原料としてケイ酸ソーダ(水ガラス)やコロイダルシリカ等の使用も考えられ、使用する基質・原料は特に限定されるものではない。
【0019】
シラフィンによるバイオシリカ形成反応は、シラフィン、基質・原料となる珪酸塩(例えばテトラメトキシシラン(TMOS))、水、リン酸緩衝液のみで速やかに進行する。通常、直径約 500 nm の球状バイオシリカが数珠状あるいは房状に連結した形で形成される。各球状バイオシリカの粒径は、走査型電子顕微鏡(SEM)などを用いることにより測定可能である。
【0020】
本発明者は、後述のようにシラフィンのリピートユニット濃度、反応温度などが、シラフィンのバイオシリカ形成活性にどのような影響を与えるか、特にバイオシリカの粒径に与える影響を検討した。その結果、シラフィンのリピートユニット濃度はバイオシリカの粒径に影響を与え、シラフィン濃度を低く設定するほどバイオシリカの粒径は小さくなり、特に、シラフィンのリピートユニット濃度を1500 nM以下に設定することで、バイオシリカの粒径を100-200 nm程度またはそれ以下に微細化することができた(図3)。また、シラフィンのリピートユニット濃度を10 nMとした場合でも、バイオシリカ形成活性が認められた(図4)。
【0021】
さらに、反応温度の影響を検討した結果、広い温度範囲でシラフィンのバイオシリカ形成活性が認められたが、反応温度はバイオシリカの粒径に影響を与え、反応温度を高く設定するほどバイオシリカの粒径は小さくなり、特に、反応温度を40℃以上に設定することで、バイオシリカの粒径を約300 nm程度またはそれ以下に微細化することができた(図7)。
【0022】
以上の結果から、バイオシリカの微細化を図るために、使用するシラフィンのリピートユニット濃度を10nM以上1500nM以下とすること、あるいは、反応温度を40℃以上の範囲に設定することは好ましい。なお、好ましい反応温度の上限は、シラフィンタンパク質の変性温度等を考慮して80℃程度と考えられる。
【0023】
また、反応液のpHの影響についても検討した結果、6.0≦pH≦8.0の範囲において、均一な球状バイオシリカの形成が観察されたため、この範囲でバイオシリカ形成反応を行うことが好ましい。なお、反応液のNaCl濃度を段階的に変えることで、イオン強度の影響についてもあわせて検討したが、バイオシリカの粒径に対する影響は認められなかった。
【0024】
本方法は、シラフィン、珪酸塩、水、リン酸緩衝液といったシンプルな組成で、しかも迅速に微細化したバイオシリカを形成することができる。また、反応溶液中に、酵素等の機能高分子、あるいは低分子等を添加して反応させることで、これらの添加物質を含有したバイオシリカを形成することができる。実際に、酵素β-ガラクトシダーゼを添加して反応を行ったところ、酵素活性を保持したままβ-ガラクトシダーゼをバイオシリカに固定することができ、酵素とバイオシリカとの複合体を作ることに成功した。このようにして得られた複合体は、酵素反応を行うバイオリアクターの反応素子などとして利用することができる。
【0025】
[2]バイオシリカ固定基板の製造法
本発明のバイオシリカ固定基板の製造法は、(a)所定の結晶面を有する基板上にシラフィンを吸着させて、基板上でシラフィンによりバイオシリカを形成させる方法、あるいは、(b)基板表面上に異なった結晶面がパターニングされた状態を創出させた後、シラフィンを選択吸着させ、次いで、シラフィン吸着部にバイオシリカを選択的形成させることを特徴とするパターニングされたバイオシリカ固定基板の製造法である。
【0026】
上記(b)の方法の好ましい態様の1つとして、低指数結晶面を有するGaAs(ガリウム砒素)結晶基板をエッチングすることにより、基板表面上に異なった結晶面をパターニングにより形成させる方法を挙げることができる。ここで、「低指数結晶面」とは、(100)、(110)、(111)A、(111)B面等のことである。
【0027】
本発明のバイオシリカ吸着基板の製造法においては、バイオシリカの選択形成、すなわち、選択的固定の観点より、基板表面上に異なった結晶面をパターニングにより形成させた後、強制酸化皮膜を形成することは好ましい。また、本発明のバイオシリカ吸着基板の製造法において使用するシラフィンとしては、GaAs結晶基板との親和性の観点より、7回リピート型の組換えシラフィン、もしくは他の複数回リピート型の組換えシラフィンであることが好ましい。
【実施例】
【0028】
以下、本発明の実施例について図面を参照しながら説明するが、本発明はこれら実施例の記載によって何ら制限されるものではない。
【0029】
[実験方法]
[1]バイオシリカの粒径制御に関する実験
[1-1]実験に使用したシラフィン
シラフィンは、大腸菌発現系により大量精製した単リピート型の組換えシラフィン-1および7回リピート型の組換えシラフィン-1の2種類を使用した。(以下、これらを総称して、「組換えシラフィン」あるいは単に「シラフィン」という場合がある。)
【0030】
シラフィンの調製において、宿主大腸菌にはBL21(DE3) (Novagen, EMD Biosciences, Inc., Canada)を使用し、プラスミドベクターにはpET21a (Novagen, EMD Biosciences, Inc., Canada)を使用した。また、ヒスチジンタグを付加し、ニッケルニトリロ酢酸(Ni-NTA)カラムを用いて精製を行った。実験に使用した単リピート型の組換えシラフィンおよび7回リピート型の組換えシラフィンのアミノ酸配列は、それぞれ配列番号4・5に示される。
【0031】
[1-2]各反応条件の検討
シラフィン(リピートユニット)濃度、基質(TMOS)量、pHおよび反応温度の各反応条件について、シラフィンのバイオシリカ形成活性にどのような影響を与えるか、特にここではバイオシリカの粒径に与える影響を検討した。
【0032】
[1-2-1]シラフィン(リピートユニット)濃度の影響検討
精製・濃縮・Buffer置換したシラフィンのサンプルに対し、Buffer置換に使用した脱imidazole bufferを用いて、観察するシラフィン濃度条件の10倍濃度になるように段階希釈を行った。そして以下の反応溶液を混合し、最後に1M TMOS(テトラメトキシシラン)を添加し、室温でバイオシリカ形成反応を開始した。
800 mM Na2HPO4 (終pH 7.75)
(終濃度 80 mM) 10 μL
組換えシラフィン-1 10 μL
超純水 70 μL
1M TMOS (終濃度 100 mM) 10 μL
Total 100 μL
【0033】
TMOS添加後5分以降10分以内に13,000 rpm、3分、室温で遠心し、超純水での洗浄操作を、数回(実験時期によって異なる)繰り返した。その後、ガリウム砒素基板(以下、「GaAs基板」という場合がある。)に、得られたバイオシリカを10μL程度スポットし、シリカゲル吸湿剤を敷いた10cmプラスチックシャーレに静置した後、フタをしてパラフィルムで密閉し数時間放置し、バイオシリカを乾燥させた。乾燥後、電子線露光装置 (ELS-3300PLM, Elionix, Tokyo, Japan)の走査型電子顕微鏡(SEM)機能を用いてバイオシリカを観察した。
【0034】
[1-2-2]基質(TMOS)量の影響検討
1M TMOS溶液調製し、これを段階希釈した。そして以下の反応溶液を混合し、最後にTMOSを添加し、室温でバイオシリカ形成反応を開始した。
800 mM Phosphate (終pH 7.0)
(終濃度 80 mM) 10 μL
組換えシラフィン-1(リピートユニット1500 nM) 10 μL
超純水 70 μL
1M TMOS (終濃度 100 mM, 50 mM,…) 10 μL
Total 100 μL
この後の操作は[1-2-1]と共通である。
【0035】
[1-2-3]pHの影響検討
TMOSを加える前の反応溶液混合液のpHが目的の値となるように、シラフィンのバイオシリカ形成反応に用いるリン酸溶液のpHを調節し、室温でバイオシリカ形成反応を行った。
800 mM Phosphate
(終濃度 80 mM) 10 μL
組換えシラフィン-1(リピートユニット1500 nM) 10 μL
超純水 70 μL
1M TMOS (終濃度 100 mM) 10 μL
Total 100 μL
この後の操作は[1-2-1]と共通である。
【0036】
[1-2-4]反応温度の影響検討
TMOS以外の反応溶液を混合した溶液、および1M TMOSをそれぞれ目的の温度環境(例えば0℃なら氷水中、40℃ならサンプルポケットに水を入れておいたヒートブロックを用いる)で3分間プレインキュベートした。プレインキュベート後TMOSを混合液に添加し反応を開始した。反応開始5分後に氷水中に入れ、13,000 rpm、3分、4℃で遠心し、超純水での洗浄操作を、5回繰り返した。
800 mM Phosphate (終pH 7.0)
(終濃度 80 mM) 10 μL
組換えシラフィン-1(リピートユニット1500 nM) 10 μL
超純水 70 μL
1M TMOS (終濃度 100 mM) 10 μL
Total 100 μL
この後の操作は[1-2-1]と共通である。
【0037】
[2]バイオシリカ固定基板の製造法に関する実験
[2-1]7回リピート型シラフィン(164.4μM)を用いたバイオシリカ形成とGaAs(100)酸化膜上での固定
7回リピート型シラフィンを用いてバイオシリカの形成を行った。全ての作業は室温にて行っている。反応溶液としては、7回リピート型シラフィン 50μl, 800mMリン酸buffer 50μl, 1M TMOS 50μl, MilliQ水 350μlである。これらの溶液をエッペンチューブ内で反応させ、バイオシリカを形成させた。その後、遠心し、バイオシリカ以外の成分を分離した。形成したバイオシリカをGaAs(100)基板上に固定し、走査型電子顕微鏡(SEM)観察を行った。同時にEDX(energy dispersive X-ray analysis)を用いて組成分析を行った。
【0038】
[2-2]GaAs基板上での7回リピート型シラフィン(164.4μM)吸着実験
[単一基板上での7回リピート型シラフィン吸着実験]
単リピート型シラフィンよりもルイス塩基として働くアミノ酸を数多く有する7回リピート型シラフィンはGaAs自然酸化膜内の極性に依存して、吸着に選択性を持つ可能性が示唆される。そこで、GaAs(100),(110),(111)A,(111)B,Si(100)基板を用い、7回リピート型シラフィン吸着能を測定した。本発明者は吸着能についてGaAs酸化膜を構成するGa2O3,As2O3に着目しており、そのため、全ての基板に対して、GaAs酸化膜内Ga2O3の局所的な化学的安定化を目的とした過熱水蒸気照射を250℃、60分間行った。また、シラフィンとGaAs基板間の吸着をより顕著に確認できることが期待されるため、基板上へシラフィンを添加後、バイオシリカ形成原料を供給した。
【0039】
すなわち、7回リピート型シラフィン吸着の極性依存の確認手順として、以下のプロセスを行った。(1)基板上にシラフィンを5μlアプライし、シラフィンを基板表面に吸着させる。(2)バイオシリカ形成の原料(800mMリン酸buffer, MilliQ水, 1M TMOS)5μlをアプライする。(3)MilliQ水による洗浄を行う。この洗浄によってバイオシリカが残存した場合をシラフィン吸着、はく離した場合をシラフィン非吸着とした。
【0040】
[Ga-rich,As-rich面複合構造基板上での7回リピート型シラフィン(164.4μM)吸着実験]
さらに、同一基板上においてパターニングして形成された異なった結晶面に対する選択吸着、すなわち、結晶面上の酸化膜内の極性の違いによる7回リピート型シラフィンの選択吸着を明らかにすることを目的とし、GaAs(100)基板をウエットエッチング(etchant:H2SO4:H2O2:H2O=1:8:1000)することによって、Ga-rich面およびAs-rich面を持つ構造物を作製した。その後、基板への過熱水蒸気の印加→シラフィン吸着→原料供給→洗浄を行い、SEM観察を行った。作製した基板におけるGa-rich面およびAs-rich面は微細な領域であること、さらに、バイオシリカは球の集合体で存在する可能性が高いことからバイオシリカの重力による沈殿を極力抑える必要性がある。そこで、バイオシリカ形成反応においてシラフィンが過多な条件下(原料供給律速反応)で実験を行った。この反応系では、供給した原料の量に応じたバイオシリカ形成が見込まれるため、極少量のバイオシリカ形成が可能である。そこで、「バイオシリカの沈殿力<シラフィンの面極性による吸着力」を実現すべく、原料供給量に着目した。(1)シラフィン3μl:原料3μl, (2)シラフィン3μl:原料2μl, (3)シラフィン3μl:原料1μlの3通りの条件下で行った。(1)、(2)、(3)全ての反応は原料供給律速でのバイオシリカ形成である。
【0041】
[2-3]GaAs(111)A,(111)B酸化膜評価
GaAs酸化膜極性の違いによる7回リピート型シラフィン吸着の優位性が発生するメカニズムを検証するために、異なる表面極性を持つGaAs(111)A,(111)B酸化膜内の組成変調評価を行った。本発明者が着目したのが基板温度に依存したGaAs酸化膜熱脱離過程である。GaAs酸化膜はGa系酸化物およびAs系酸化物で構成されており、真空環境において、基板温度に応じた物質の脱離が確認可能である。GaAs(100)酸化膜脱離過程は、基板温度が100℃付近ではH2Oの脱離、143℃付近ではAsOなどのAs系酸化物の脱離、200℃~300℃において、As2O3+2GaAs→Ga2O3+2As2(or As4)への置換、さらに、Ga系酸化物の脱離反応は、410℃においてGa2O3+Ga→Ga2Oの反応が起こることによって誘起される。
【0042】
実験は以下の手順で行った。まず、真空チャンバー内に過熱水蒸気を印加した基板をセットし、H2Oなどの不純物を除去することを目的とした真空チャンバー内の予備加熱を行う。次に、酸化膜表面におけるAs系酸化物の脱離のみに着目するために、基板温度を150℃まで上昇させる。なお、200℃付近まで基板温度を上昇してしまうと、As2O3+2GaAs→Ga2O3+2As2(or As4)への置換反応が進行してしまうため、酸化膜表面からの脱離反応のみに特化することができない。そして、この時のチャンバー内の真空度を測定し、GaAs(111)A,(111)B酸化膜の表面組成を検証した。
【0043】
[実験結果]
[1]バイオシリカの粒径制御に関する実験結果
[1-1]シラフィン(リピートユニット)濃度の影響検討結果
図2は、単リピート型シラフィンを使用し、そのリピートユニット濃度を1400 nM から70000 nMの範囲で変化させて、形成された各バイオシリカのSEM像を示す図である。図3は、同じく単リピート型シラフィンを使用し、そのリピートユニット濃度を100 nM から3000 nMの範囲で変化させて、形成された各バイオシリカのSEM像を示すと共に、以上の結果をもとに、シラフィンのリピートユニット濃度と形成されるバイオシリカの粒径との関係をまとめたグラフを示す。グラフに示すように、シラフィン濃度はバイオシリカの粒径に影響を与え、シラフィン濃度を低く設定するほどバイオシリカの粒径は小さくなり、特に、シラフィンのリピートユニット濃度を1500 nM以下に設定することで、バイオシリカの粒径を100-200 nm程度またはそれ以下に微細化することができた。
【0044】
上記の結果は、7回リピート型シラフィンを用いた場合にも同様に観察された。図4は、7回リピート型シラフィン(リピートユニット濃度10 nM)を用いて形成させたバイオシリカのSEM像を示す。1000 nMのサンプルの像でも見られた様な概径5~10 nmのバイオシリカ粒が確認でき、さらにそれらが集合して30~50 nmの塊が形成されているように見えた。このようにリピートユニット濃度10 nMにおいても微細なバイオシリカ粒を形成することができた。(なお、7回リピート型シラフィンを用いた場合の結果については、図8・9にもその結果が示される。)
【0045】
[1-2]基質(TMOS)量の影響検討結果
図5は、単リピート型シラフィンを使用した場合で、基質(TMOS)量がバイオシリカの粒径に与える影響を検討した結果を示す図であり、各基質(TMOS)量において形成されたバイオシリカのSEM像を示す。基質(TMOS)量を12.5 mM以下にするとバイオシリカを観察できなくなった。基質(TMOS)量を25 mM以上にした場合は、直径約400 nmと約150nmの異なるサイズのバイオシリカが観察された。また、7回リピート型シラフィンを用いた場合にも同様の結果が観察された。
【0046】
[1-3]pHの影響検討結果
図6は、単リピート型シラフィンを使用した場合で、反応液のpHがバイオシリカの粒径に与える影響を検討した結果を示す図であり、5.0≦pH≦10.0の範囲の各pHにおいて形成されたバイオシリカのSEM像を示す。6.0≦pH≦8.0の範囲では、均一で球状のバイオシリカの形成が観察された。また、7回リピート型シラフィンを用いた場合にも同様の結果が観察された。
【0047】
[1-4]反応温度の影響検討結果
図7は、単リピート型シラフィンを使用した場合で、反応温度がバイオシリカの粒径に与える影響を検討した結果を示す図であり、0℃から60℃の範囲の各温度において形成されたバイオシリカのSEM像を示す。同図に示すように、広い温度範囲でシラフィンのバイオシリカ形成活性が認められると共に、反応温度はバイオシリカの粒径に影響を与え、反応温度を高く設定するほどバイオシリカの粒径は小さくなり、特に、反応温度を40℃以上に設定することで、バイオシリカの粒径を約300 nm程度またはそれ以下に微細化することができた。また、7回リピート型シラフィンを用いた場合にも同様の結果が観察された。
【0048】
[2]バイオシリカ固定基板の製造法に関する実験結果
[2-1]バイオシリカ形成とGaAs(100)基板上での固定の確認
図8は、7回リピート型シラフィン(1000 nM)を用いて形成させたバイオシリカのGaAs(100)基板上に固定した状態でのSEM像およびEDX測定結果である。SEM像より、バイオシリカは球構造を最小単位としていることが分かり、その球が集合体として存在している。EDXの結果からは、バイオシリカ形成領域にのみ、Si,Oだけでなく、C,Pのピークも観察されている。つまり、バイオシリカのGaAs(100)基板上への固定はシラフィンの吸着を介しての固定であることが予測される。
【0049】
図9は、7回リピート型シラフィン(10 nM)を用いて形成させたバイオシリカのSEM像およびEDX測定結果である。SEM像より、原料である珪酸塩のゲル化が確認できる。さらに、EDXの結果から、ゲル化した領域からSi,Oだけでなく、C,Pのピークも観察されていることが分かる。通常、原料律速のバイオシリカ形成時は原料供給量に応じたバイオシリカのサイズが得られることが分かっている。つまり、シラフィンのバイオシリカ形成機能を上回る原料の供給が行われたため、原料である珪酸塩のゲル化が促進したと考えられる。
【0050】
以上のことから、7回リピート型シラフィンによるバイオシリカ形成において、供給した原料を全てバイオシリカ形成に作用させるためには、原料の供給量<シラフィンのバイオシリカ形成量という条件下で行うことが望ましい。
【0051】
[2-2]GaAs基板上での7回リピート型シラフィン吸着実験結果
以前の報告(Sandra R.Whaley,D.S.English,Evelyn L.Hu,Paul F.Barbara,Angela M.Belcher, NATURE, vol.405, 8 June 2000)より、ルイス塩基(電子対供与体)として働くアミノ酸を多く要しているペプチドほど、GaAs基板との吸着力が強いとの記述がある。つまり、GaAs基板はルイス酸(電子対受容体)として働いている。さらに、半導体表面の面極性が吸着の選択性を発現させることに言及している。具体的には、GaAs(100),GaAs(111)Aと比較して、GaAs(111)B,Si(100)にはペプチドが吸着しにくいという結果である。しかし、この報告では、GaAs基板表面全体に対してのペプチド吸着の議論が行われているが、水溶液中の実験において必ず形成されるGaAs酸化膜の影響を示唆しているものの、その効果が考慮されていない。そこで、本発明者はシラフィンのアミノ酸配列および極性半導体であるGaAs表面の酸化膜層に着目した。つまり、GaAs酸化膜層を介してのシラフィン吸着に特化した。
【0052】
図10は、7回リピート型シラフィンを構成するアミノ酸配列(「Sil」で始まる上から3つの配列)および上記論文で扱われていたペプチドを構成するアミノ酸配列(G1-3)を示したものである。7回リピート型シラフィンはsil-1Bとsil-1A2が1つずつ、さらに、sil-1A1が5つ連なったアミノ酸配列を持つ。図中の中性アミノ酸(Neutral amino acids)、酸性アミノ酸(Acidic amino acids)および塩基性アミノ酸(Basic amino acids)(つまり、非極性(疎水性)アミノ酸(Non-polar (hydrophobic) amino acids)以外のアミノ酸)は、ルイス塩基として働くアミノ酸である。つまり、シラフィンはルイス塩基として働くアミノ酸を多く含み、GaAs基板との親和性が強いペプチドであると考えられる。
【0053】
[単一基板上での7回リピート型シラフィン吸着実験結果]
過熱水蒸気を印加することによって得られた酸化膜を有する単一面基板を用いて7回リピート型シラフィン吸着実験を行った。その結果、GaAs(111)A>(100)>(110)の順に吸着力に差が確認され、(111)BおよびSiにおいては吸着しなかった。ルイス塩基として働く7回リピート型シラフィンが表面極性の異なるGaAs酸化膜に対して吸着能が異なるということは、GaAs酸化膜表面における極性が異なるためと予測される。すなわち、バイオシリカ固定基板の製造においては、GaAs(111)A、(100)、(110)の結晶面を有する基板が望ましい。
【0054】
[Ga-rich,As-rich面複合構造基板上での7回リピート型シラフィン吸着実験結果]
さらに、極性の違いによる7回リピート型シラフィン吸着性の違いを利用してパターニングされたバイオシリカ固定基板を製造するため、表面極性が異なる(111)A面(Ga-rich面)および(111)B面(As-rich面)を同一基板上に作製し、この複合構造の酸化膜に対して過熱水蒸気を印加後、7回リピート型シラフィンをGaAs酸化膜に選択的に吸着させた。本実験はμmオーダーの微細構造物上で行っているため、「バイオシリカの沈殿力<シラフィンの面極性による吸着力」を実現する必要性がある。そのため、原料供給律速反応の条件下で、バイオシリカ形成量をコントロールした。図11はシラフィン3μl:原料1μlの条件の時に得られたSEM像である。バイオシリカ球の集合体の直径は約100nmである。原料律速の反応によって、バイオシリカ球集合体のサイズコントロールおよび低密度化を図ることによって、重力を軽減し、バイオシリカの沈殿を抑制した。洗浄過程において超音波を繰り返したのにもかかわらず、バイオシリカの剥離が確認されなかった。つまり、バイオシリカがGaAs(111)A面酸化膜表面に吸着されたシラフィンを介して固定されていることが分かる。したがって、バイオシリカの固定はGaAs酸化膜の極性に依存したものであると考えられる。本実験からも、Ga-rich面における酸化膜に対して7回リピート型シラフィンの吸着が確認され、As-rich面においては吸着が確認されなかった。
【0055】
[2-3]GaA(111)A,(111)B酸化膜評価結果
最後にGaAs酸化膜とシラフィンとの吸着メカニズムを議論するため、表面極性が異なる面上に形成された酸化膜表面の組成を検証した。そこで、本発明者は、真空環境におけるGaAs酸化膜の熱脱離過程に着目した。GaAs酸化膜はGa系酸化物およびAs系酸化物で構成されている。そして、GaAs(100)基板温度を上昇させることによって、酸化膜の熱脱離過程を観察した場合、先に述べたように基板温度が100℃付近ではH2Oの脱離、143℃付近ではAsOなどのAs系酸化物の脱離、さらに、Ga系酸化物に関しての脱離は410℃付近においてGa2O3+Ga→Ga2Oの反応が起こることによって誘起されることが知られている。
【0056】
図12は酸化膜に過熱水蒸気を印加したGaAs(111)A,(111)B基板を150℃まで加熱した時の、真空チャンバー内の圧力変化を示したものである。基板を150℃に過熱したのにもかかわらず、過熱水蒸気を印加した(111)B酸化膜は(111)A酸化膜と比較して、As系酸化物の脱離が極端に少ない傾向が確認できる。つまり、過熱水蒸気を印加することによって、(111)B酸化膜表面がGa系酸化物で覆われていることが考察される。それに対して(111)A酸化膜はAs系酸化物の脱離が進行していることが考えられる。つまり、(111)A酸化膜と(111)B酸化膜の一番異なる点は、酸化膜表面のGa酸化物の密度(As酸化物の密度)である。
【0057】
本発明者は、このGa照射実験から、ルイス塩基として働くアミノ酸を数多く含むシラフィンとの吸着に際して、GaAs基板酸化膜側では、酸化膜表面のAs系酸化物がルイス酸として機能しているというシラフィン,GaAs基板間の吸着メカニズムを推定する。
【0058】
以上の実験結果より、シラフィンとGaAs酸化膜内As系酸化物間において、ルイス塩基,ルイス酸による吸着反応が起こっていることが確認された。つまり、Ga系酸化物には吸着しにくいということである。したがって、酸化膜表面のGa系酸化物の密度という観点から、シラフィンは(111)A酸化膜に対して(111)B酸化膜に吸着しにくいということを議論した。この吸着法は、シラフィンの特性、GaAs面極性というそれぞれの特性を存分に発揮した吸着メカニズムである。本実験は、半導体微細化技術として、基板表面上に異なった結晶面をパターニングした後、シラフィンを選択吸着させ、次いで、シラフィン吸着部にバイオシリカを選択的形成させることを特徴とするパターニングされたバイオシリカ固定基板の製造法を実証するものであり、生体物質の自己組織化機能を応用した“bottom-up型”微細化技術への足がかりとして期待される。
【産業上の利用可能性】
【0059】
以上のように、本発明は、シラフィンを用いたバイオシリカの新規製造法、およびバイオシリカ固定基板製造法を提供するものであり、前述したとおり、半導体微細加工技術への利用のほか、酵素反応を行うバイオリアクターや抗原を検出するバイオセンサー等において、製造したバイオシリカを酵素タンパク質等の担体として利用しうるなど、産業上種々の利用可能性を有するものである。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】海洋性珪藻Cylindrotheca fusiformis由来シラフィン-1の全アミノ酸配列、および組換えシラフィン等を説明する図である。
【図2】単リピート型シラフィンを使用した場合で、シラフィン濃度(1400-70000nM)がバイオシリカの粒径に与える影響を検討した結果を示す図である。
【図3】単リピート型シラフィンを使用した場合で、シラフィン濃度(100-3000nM)がバイオシリカの粒径に与える影響を検討した結果を示す図である。
【図4】7回リピート型シラフィン(リピートユニット濃度10nM)を用いて形成させたバイオシリカのSEM像を示す図である。
【図5】基質(TMOS)量がバイオシリカの粒径に与える影響を検討した結果を示す図である。
【図6】反応液のpHがバイオシリカの粒径に与える影響を検討した結果を示す図である。
【図7】反応温度がバイオシリカの粒径に与える影響を検討した結果を示す図である。
【図8】7回リピート型シラフィン(リピートユニット濃度1000nM)を用いて形成させたバイオシリカのSEM像およびEDX測定結果を示す図である。
【図9】7回リピート型シラフィン(リピートユニット濃度10nM)を用いて形成させたバイオシリカのSEM像およびEDX測定結果を示す図である。
【図10】シラフィンがそのアミノ酸配列中にルイス塩基として働くアミノ酸を多く含んでいることを説明する図である。
【図11】表面極性が異なる(111)A面(Ga-rich面)および(111)B面(As-rich面)を同一基板上に作製し、各面に対する7回リピート型シラフィンの吸着の相違を調べた実験結果を示す図である。
【図12】酸化膜に過熱水蒸気を印加したGaAs(111)A,(111)B基板を150℃まで加熱した時の、真空チャンバー内の圧力変化を示すグラフである。

【配列表フリ-テキスト】
【0061】
[配列番号1]海洋性珪藻Cylindrotheca fusiformis由来シラフィン-1の全アミノ酸配列
[配列番号2]単リピート型シラフィン-1のアミノ酸配列
[配列番号3]7回リピート型シラフィン-1のアミノ酸配列
[配列番号4]単リピート型シラフィン-1のN末にメチオニンを、C末にロイシン、グルタミン酸およびヒスチジンヘキサマーを付加した組換えシラフィン-1のアミノ酸配列
[配列番号5]7回リピート型シラフィン-1のN末にメチオニンを、C末にロイシン、グルタミン酸およびヒスチジンヘキサマーを付加した組換えシラフィン-1のアミノ酸配列
図面
【図1】
0
【図12】
1
【図2】
2
【図3】
3
【図4】
4
【図5】
5
【図6】
6
【図7】
7
【図8】
8
【図9】
9
【図10】
10
【図11】
11