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明細書 :モーフィング楽曲生成装置及びモーフィング楽曲生成用プログラム

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5051539号 (P5051539)
公開番号 特開2009-186671 (P2009-186671A)
登録日 平成24年8月3日(2012.8.3)
発行日 平成24年10月17日(2012.10.17)
公開日 平成21年8月20日(2009.8.20)
発明の名称または考案の名称 モーフィング楽曲生成装置及びモーフィング楽曲生成用プログラム
国際特許分類 G10H   1/00        (2006.01)
FI G10H 1/00 Z
G10H 1/00 102Z
請求項の数または発明の数 17
全頁数 23
出願番号 特願2008-025374 (P2008-025374)
出願日 平成20年2月5日(2008.2.5)
審査請求日 平成22年10月18日(2010.10.18)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】浜中 雅俊
個別代理人の代理人 【識別番号】100091443、【弁理士】、【氏名又は名称】西浦 ▲嗣▼晴
審査官 【審査官】清水 正一
参考文献・文献 特開2002-236484(JP,A)
調査した分野 G10H 1/00
特許請求の範囲 【請求項1】
第1の楽曲と第2の楽曲の中間的なモーフィング楽曲を生成するモーフィング楽曲生成装置であって、
前記第1の楽曲の第1の楽曲データを分析して得た第1のタイムスパン木についての第1のタイムスパン木データと、前記第2の楽曲の楽曲データを分析して得た第2のタイムスパン木についての第2のタイムスパン木データとに基づいて、前記第1のタイムスパン木と前記第2のタイムスパン木の共通部分を抽出して得られる共通タイムスパン木についての共通タイムスパン木データを生成する共通タイムスパン木生成部と、
前記第1のタイムスパン木データと前記共通タイムスパン木データとに基づいて、前記第1のタイムスパン木と前記共通タイムスパン木との複数の非共通部分を前記第1のタイムスパン木から選択的に除去するか、前記複数の非共通部分を前記共通タイムスパン木に選択的に追加して生成される第1の中間タイムスパン木についての第1の中間タイムスパン木データを生成する第1の中間タイムスパン木データ生成部と、
前記第2のタイムスパン木データと前記共通タイムスパン木データとに基づいて、前記第2のタイムスパン木と前記共通タイムスパン木との1以上の非共通部分を前記第2のタイムスパン木から選択的に除去するか、前記1以上の非共通部分を前記共通タイムスパン木に選択的に追加して生成される第2の中間タイムスパン木についての第2の中間タイムスパン木データを生成する第2の中間タイムスパン木データ生成部と、
前記第1の中間タイムスパン木データと前記第2の中間タイムスパン木データとに基づいて、前記第1の中間タイムスパン木と前記第2の中間タイムスパン木とを統合して得られる統合タイムスパン木についての統合タイムスパン木データを生成するデータ統合部と、
前記統合タイムスパン木データに基づいて、前記統合タイムスパン木に対応する楽曲データを前記モーフィング楽曲の楽曲データとして生成する楽曲データ生成部とを備えていることを特徴とするモーフィング楽曲生成装置。
【請求項2】
前記第1の中間タイムスパン木データ生成部と前記第2の中間タイムスパン木データ生成部は、前記1以上の非共通部分を選択的に除去または追加するための指令を、マニュアル操作により発生するマニュアル指令発生部を備えている請求項1に記載のモーフィング楽曲生成装置。
【請求項3】
前記マニュアル指令発生部は、前記第1の中間タイムスパン木データ生成部における前記指令と前記第2の中間タイムスパン木データ生成部における前記指令とをそれぞれ別個独立に発生するように構成されている請求項2に記載のモーフィング楽曲生成装置。
【請求項4】
前記マニュアル指令発生部は、前記第1の中間タイムスパン木データ生成部における前記指令と前記第2の中間タイムスパン木データ生成部における前記指令とをそれぞれ相反的に発生するように構成されている請求項2に記載のモーフィング楽曲生成装置。
【請求項5】
前記第1の中間タイムスパン木データ生成部と前記第2の中間タイムスパン木データ生成部は、予め定めた優先順位に従って前記1以上の非共通部分を選択的に除去または追加するように構成されている請求項1に記載のモーフィング楽曲生成装置。
【請求項6】
前記優先順位は、前記1以上の非共通部分の音符の重要度に基づいて定められる請求項5に記載のモーフィング楽曲生成装置。
【請求項7】
前記第1及び第2の楽曲は和音を含まない単旋律の楽曲であり、
前記楽曲データ生成部は、前記統合タイムスパン木が同じタイムスパンに異なる2音を含む場合に、前記2音をそれぞれ選択した複数種類の楽曲データを前記モーフィング楽曲の楽曲データとして出力するように構成されている請求項1に記載のモーフィング楽曲生成装置。
【請求項8】
予め前記共通タイムスパン木を生成できる関係を有する複数の楽曲についての前記楽曲データ及びタイムスパン木データを記憶する楽曲データベースと、
前記楽曲データベースから選択した一つの楽曲と該一つの楽曲のタイムスパン木と共通タイムスパン木を生成できる複数の楽曲を選択可能に提示する楽曲提示部と、
前記楽曲提示部に提示された複数の楽曲から選択された楽曲のタイムスパン木データと前記一つの楽曲のタイムスパン木データとを前記共通タイムスパン木データ生成部に転送するデータ転送部とをさらに備えている請求項1に記載のモーフィング楽曲生成装置。
【請求項9】
コンピュータにおいて実行されて第1の楽曲と第2の楽曲の中間的なモーフィング楽曲を生成するためのモーフィング楽曲生成用プログラムであって、
前記第1の楽曲の第1の楽曲データを分析して得た第1のタイムスパン木についての第1のタイムスパン木データと、前記第2の楽曲の楽曲データを分析して得た第2のタイムスパン木についての第2のタイムスパン木データとに基づいて、前記第1のタイムスパン木と前記第2のタイムスパン木の共通部分を抽出して得られる共通タイムスパン木についての共通タイムスパン木データを生成する共通タイムスパン木生成部と、
前記第1のタイムスパン木データと前記共通タイムスパン木データとに基づいて、前記第1のタイムスパン木と前記共通タイムスパン木との1以上の非共通部分を前記第1のタイムスパン木から選択的に除去するか、前記1以上の非共通部分を前記共通タイムスパン木に選択的に追加して生成される第1の中間タイムスパン木についての第1の中間タイムスパン木データを生成する第1の中間タイムスパン木データ生成部と、
前記第2のタイムスパン木データと前記共通タイムスパン木データとに基づいて、前記第2のタイムスパン木と前記共通タイムスパン木との1以上の非共通部分を前記第2のタイムスパン木から選択的に除去するか、前記1以上の非共通部分を前記共通タイムスパン木に選択的に追加して生成される第2の中間タイムスパン木についての第2の中間タイムスパン木データを生成する第2の中間タイムスパン木データ生成部と、
前記第1の中間タイムスパン木データと前記第2の中間タイムスパン木データとに基づいて、前記第1の中間タイムスパン木と前記第2の中間タイムスパン木とを統合して得られる統合タイムスパン木についての統合タイムスパン木データを生成するデータ統合部と、
前記統合タイムスパン木データに基づいて、前記統合タイムスパン木に対応する楽曲データを前記モーフィング楽曲の楽曲データとして生成する楽曲データ生成部とを前記コンピュータ内に実現するように構成されているモーフィング楽曲生成用プログラム。
【請求項10】
前記第1の中間タイムスパン木データ生成部と前記第2の中間タイムスパン木データ生成部は、前記非共通部分を選択的に除去または追加するための指令を、マニュアル操作により発生するマニュアル指令発生部を備えている請求項9に記載のモーフィング楽曲生成用プログラム。
【請求項11】
前記マニュアル指令発生部は、前記第1の中間タイムスパン木データ生成部における前記指令と前記第2の中間タイムスパン木データ生成部における前記指令とをそれぞれ別個独立に発生するように構成されている請求項10に記載のモーフィング楽曲生成用プログラム。
【請求項12】
前記マニュアル指令発生部は、前記第1の中間タイムスパン木データ生成部における前記指令と前記第2の中間タイムスパン木データ生成部における前記指令とをそれぞれ相反的に発生するように構成されている請求項9に記載のモーフィング楽曲生成用プログラム。
【請求項13】
前記第1の中間タイムスパン木データ生成部と前記第2の中間タイムスパン木データ生成部は、予め定めた優先順位に従って前記1以上の非共通部分を選択的に除去または追加するように構成されている請求項9に記載のモーフィング楽曲生成用プログラム。
【請求項14】
前記優先順位は、前記1以上の非共通部分の音符の重要度に基づいて定められ請求項13に記載のモーフィング楽曲生成用プログラム。
【請求項15】
前記第1及び第2の楽曲は和音を含まない単旋律の楽曲であり、
前記楽曲データ生成部は、前記統合タイムスパン木が同じタイムスパンに異なる2音を含む場合に、前記2音をそれぞれ選択した複数種類の楽曲データを前記モーフィング楽曲の楽曲データとして出力するように構成されている請求項9に記載のモーフィング楽曲生成用プログラム。
【請求項16】
予め前記共通タイムスパン木を生成できる関係を有する複数の楽曲についての前記楽曲データ及びタイムスパン木データを記憶する楽曲データベースから選択した一つの楽曲と該一つの楽曲のタイムスパン木と共通タイムスパン木を生成できる複数の楽曲を選択可能に提示する楽曲提示部と、
前記楽曲提示部に提示された複数の楽曲から選択された楽曲のタイムスパン木データと前記一つの楽曲のタイムスパン木データとを前記共通タイムスパン木データ生成部に転送するデータ転送部とをさらに前記コンピュータ内に実現する請求項9に記載のモーフィング楽曲生成用プログラム。
【請求項17】
請求項9乃至16のいずれか1項に記載のプログラムをコンピュータ読みとり可能に記録した記録媒体。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、二つの異なる楽曲の中間的なモーフィング楽曲を生成するモーフィング楽曲生成装置及びモーフィング楽曲生成用プログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
音楽というメディアの認識や表現は曖昧なため、音楽知識が乏しいユーザが思い通りに計算機に作曲させたり演奏させたりすることは一般に困難である。音楽知識が乏しいユーザが操作可能な音楽システムを実現する上で重要なのは、1)音楽をいかにして操作するのか、2)ユーザの意図をいかに反映するのか、の2つである。その際に注意すべきなのは操作対象の抽象度をあげると操作は容易になる反面、ユーザの意図を反映しにくくなる可能性がある点である。
【0003】
例えば、楽譜エディタやシーケンサ(非特許文献1)が市販されている。しかしながら操作できる対象は、音符、休符、和音名など曖昧性の低い表層的な構造に限定されている。一方、非特許文献2(http://www.apple.com/jp/ilife/garageband/)で公表されているシステムでは、システムが予め多くのループ素材を用意することで、それらを組み合わせというシンプルな操作のみで作曲を行うことができる。
【0004】
また、非特許文献3には、相対擬補元を用いた2つのコンテンツのモーフィング手法が提案されていた。

【非特許文献1】佐藤天平著、「コンピュータ・ミュージックスーパー・ビギナーズマニュアル」,ソフトバンククリエイティブ,1997.
【非特許文献2】http://www.apple.com/jp/ilife/garageband/
【非特許文献3】平田圭二及び東条敏著の「相対擬補元を用いたメディアデザイン操作の形式化について」第19回人工知能学会全国大会, 2B3-08, 2005.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非特許文献1の市販のシーケンサでは、音楽知識が乏しいユーザがそれらの構造を適切に扱うことは困難である。また非特許文献2のシステムで作った曲のメロディの一部を修正したいと考えた場合には、手動で音符や休符など表層的な構造を操作する必要があるため、このシステムでも音楽知識が乏しいユーザがその意図を反映することは困難である。さらに非特許文献3に示された技術を用いるためには、相対擬補元を求める必要があるが、相対擬補元を効率的に求める手法は明らかではなく、実現には至っていない。
【0006】
本発明の目的は、音楽知識が乏しいユーザであっても二つの異なる楽曲の中間的なモーフィング楽曲を簡単に生成することができるモーフィング楽曲生成装置及びモーフィング楽曲生成用プログラムを提供することにある。
【0007】
本発明の他の目的は、音楽知識が乏しいユーザを支援し、旋律、リズム、和声といった高次の音楽的構造を適切に操作してモーフィング楽曲を生成できるモーフィング楽曲生成装置及びモーフィング楽曲生成用プログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、第1の楽曲と第2の楽曲の中間的なモーフィング楽曲を生成するモーフィング楽曲生成装置を対象とする。本願明細書において、モーフィング楽曲とは、第1の楽曲の特徴の一部と第2の楽曲の特徴の一部を含んだ楽曲を意味する。モーフィング楽曲には、第1の楽曲の特徴が強いものから、第2の楽曲の特徴が強いものまで、多数の楽曲が含まれる。ここで楽曲は、歌を含まないメロディからなるものである。
【0009】
本発明のモーフィング楽曲生成装置では、共通タイムスパン木生成部と、第1の中間タイムスパン木データ生成部と、第2の中間タイムスパン木データ生成部と、データ統合部と、楽曲データ生成部とを備えている。共通タイムスパン木生成部は、第1の楽曲の第1の楽曲データを分析して得た第1のタイムスパン木についての第1のタイムスパン木データと、第2の楽曲の楽曲データを分析して得た第2のタイムスパン木についての第2のタイムスパン木データとに基づいて、第1のタイムスパン木と第2のタイムスパン木の共通部分を抽出して得られる共通タイムスパン木についての共通タイムスパン木データを生成する。
【0010】
そして第1の中間タイムスパン木データ生成部は、第1のタイムスパン木データと共通タイムスパン木データとに基づいて、第1のタイムスパン木と共通タイムスパン木との1以上の非共通部分を第1のタイムスパン木から選択的に除去するか、または1以上の非共通部分を共通タイムスパン木に選択的に追加して生成される第1の中間タイムスパン木についての第1の中間タイムスパン木データを生成する。同様に、第2の中間タイムスパン木データ生成部は、第2のタイムスパン木データと共通タイムスパン木データとに基づいて、第2のタイムスパン木と共通タイムスパン木との1以上の非共通部分を第2のタイムスパン木から選択的に除去するか、または1以上の非共通部分を共通タイムスパン木に選択的に追加して生成される第2の中間タイムスパン木についての第2の中間タイムスパン木データを生成する。第1及び第2の中間タイムスパン木データ生成部で選択的に除去または追加する非共通部分は、1つの非共通部分または2以上の非共通部分のいずれでもよい。
【0011】
そしてデータ統合部は、第1の中間タイムスパン木データと第2の中間タイムスパン木データとに基づいて、第1の中間タイムスパン木と第2の中間タイムスパン木とを統合して得られる統合タイムスパン木についての統合タイムスパン木データを生成する。また楽曲データ生成部は、統合タイムスパン木データに基づいて、統合タイムスパン木に対応する楽曲データをモーフィング楽曲の楽曲データとして生成する。
【0012】
本発明によれば、特別な音楽知識を持たないユーザでも、第1及び第2の中間タイムスパン木データ生成部における、非共通部分の選択的な除去と追加が適宜に実施されることにより、第1の楽曲と第2の楽曲の中間的な楽曲を得ることができる。本発明で、第1の中間タイムスパン木データ生成部で非共通部分を第1のタイムスパン木データから選択的に除去することは、第1の中間タイムスパン木を第1のタイムスパン木データから共通タイムスパン木に近づけること、すなわち第1の楽曲の影響を弱めることを意味する。逆に第1の中間タイムスパン木データ生成部で非共通部分を共通タイムスパン木に追加することは第1の中間タイムスパン木を第1のタイムスパン木データに近づけること、即ち第1の楽曲の影響を強めることを意味する。第2の中間タイムスパン木データ生成部においても、第2の中間タイムスパン木即ち第2の楽曲の影響について同様のことが行われる。したがって除去される非共通部分の数、または追加される非共通部分の数が変更されることにより、第1の中間タイムスパン木データと第2の中間タイムスパン木データを統合して得られる統合タイムスパン木データにより定まるモーフィング楽曲における第1の楽曲の影響の程度と第2の楽曲の影響の程度が変更される。その結果、本発明によれば、音楽的な知識に乏しいユーザであっても、第1の楽曲の影響の程度と第2の楽曲の影響の程度が変更されたモーフィング楽曲を簡単に得ることができる。
【0013】
なお第1の中間タイムスパン木データ生成部と第2の中間タイムスパン木データ生成部は、非共通部分を選択的に除去または追加するための指令を、マニュアル操作により発生するマニュアル指令発生部を備えているのが好ましい。指令は自動で発生することもできるが、マニュアル指令発生部を備えていれば、ユーザの意思で第1の楽曲の影響と第2の楽曲の影響の程度を変えたモーフィング楽曲を簡単に得ることができる。
【0014】
マニュアル指令発生部は、第1の中間タイムスパン木データ生成部における指令と第2の中間タイムスパン木データ生成部における指令とをそれぞれ別個独立に発生するように構成されているものでよい。このような構成では、ユーザの選択の自由度が高くなる。またマニュアル指令発生部を、第1の中間タイムスパン木データ生成部における指令と第2の中間タイムスパン木データ生成部における指令とをそれぞれ相反的に発生するように構成してもよい。二つの指令を相反的に発生させると、第1の楽曲の影響が強くなるときには第2の楽曲の影響が自動的に弱くなり、第1の楽曲の影響が弱くなるときには第2の楽曲の影響が自動的に強くなる。したがってユーザの操作は簡単になる。
【0015】
非共通部分をどのようにして、除去しまたは追加するかは、任意に定めることができる。しかし第1の中間タイムスパン木データ生成部と第2の中間タイムスパン木データ生成部を、予め定めた優先順位に従って1以上の非共通部分を選択的に除去または追加するように構成するのが好ましい。すなわち予め定めた優先順位に従って1以上の非共通部分を選択的に除去または追加すれば、得られるモーフィング楽曲の変化の傾向を認識して適切な操作することができるようになる。優先順位の定め方としては、1以上の非共通部分の音符の重要度に基づいて定めるのが好ましい。音符の重要度は、その音の強さに比例している。音符の重要度の定め方の一例として、音楽理論GTTMに基づき求めた拍点の数を利用することができる。この拍点の数は、各音符の拍節的な重要度であり、音符の重要度を定めるのに適している。したがってまず音符の重要度が少ない音から除去するように優先順位を定めれば、徐々に一方の楽曲の影響を弱めることができる。逆に音符の重要度が多い音から除去するように優先順位を定めると、比較的早く一方の影響を弱めることができる。また音符の重要度が少ない音から追加するように優先順位を定めれば、徐々に一方の楽曲の影響を強めることができる。逆に音符の重要度が多い音から追加するように優先順位を定めると、比較的早く一方の影響を強めることができる。
【0016】
第1及び第2の楽曲は和音を含まない単旋律の楽曲であれば、楽曲データ生成部は、統合タイムスパン木の1本の枝が異なる2音を含む場合に、2音をそれぞれ選択した複数種類の楽曲データをモーフィング楽曲の楽曲データとして出力するように構成する。このようにすれば、例えば統合タイムスパン木の1本の枝に異なる2音が含まれている場合には、それぞれの音を別個に含んだ2種類の楽曲データが作成される。1つの統合タイムスパン木の複数本の枝に異なる2音が含まれている場合には、2のべき乗の数の楽曲データが作成される。
【0017】
第1及び第2の楽曲のタイムスパン木データの作成方法は任意である。しかし予め共通タイムスパン木を生成できる関係を有する複数の楽曲についての楽曲データ及びタイムスパン木データを記憶する楽曲データベースを用意してもよい。この場合には、楽曲データベースから選択した一つの楽曲と該一つの楽曲のタイムスパン木と共通タイムスパン木を生成できる複数の楽曲を選択可能に提示する楽曲提示部を用意する。そして楽曲提示部に提示された複数の楽曲から選択された楽曲のタイムスパン木データと前記一つの楽曲のタイムスパン木データとを共通タイムスパン木データ生成部に転送するデータ転送部とをさらに用意にする。このような楽曲データベースを採用すると、必ず共通タイムスパン木を得ることができる二つの楽曲の組み合わせを選択することができる。
【0018】
なお本発明の装置をコンピュータを用いて実現する場合に用いるプログラムは、上記共通タイムスパン木データ生成部と、第1の中間タイムスパン木データ生成部と、第1の中間タイムスパン木データ生成部と、データ統合部と楽曲データ生成部、マニュアル指令発生部と、楽曲提示部とデータ転送部とをコンピュータ内に実現するように構成される。そしてこのプログラムは、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録してもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、音楽的な知識に乏しいユーザであっても、第1の楽曲の影響の程度と第2の楽曲の影響の程度が変更されたモーフィング楽曲を簡単に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下図面を参照して本発明のモーフィング楽曲生成装置の実施の形態について説明する。図1は、本発明のモーフィング楽曲生成装置をコンピュータを主要構成装置として構成する実施の形態の構成を示すブロックである。図1のモーフィング楽曲生成装置は、楽曲データベース1と、選択部2と、楽曲提示部3と、データ転送部4と、共通タイムスパン木データ生成部5と、第1の中間タイムスパン木データ生成部6と、第2の中間タイムスパン木データ生成部7と、マニュアル指令発生部8と、データ統合部9と、楽曲データ生成部10と、楽曲データ再生装置11とを備えている。以下図1の構成の概略を最初に説明し、各ブロックの詳細については後に説明する。
【0021】
楽曲データベース1には、予め共通タイムスパン木を生成できる関係を有する複数の楽曲についての楽曲データ及びタイムスパン木データが記憶されている。楽曲提示部3は、楽曲データベース1から選択部2により選択した一つの楽曲と該一つの楽曲のタイムスパン木と共通タイムスパン木を生成できる複数の楽曲を選択可能に提示する。データ転送部4は、楽曲提示部3に提示された複数の楽曲から選択部2により選択された楽曲のタイムスパン木データと先に選択した一つの楽曲のタイムスパン木データとを共通タイムスパン木データ生成部5に転送する。
【0022】
共通タイムスパン木生成部5は、楽曲データベース1に保存されていて、データ転送部4から転送されてきた、第1の楽曲の第1の楽曲データを分析して得た第1のタイムスパン木についての第1のタイムスパン木データと、第2の楽曲の楽曲データを分析して得た第2のタイムスパン木についての第2のタイムスパン木データとに基づいて、第1のタイムスパン木と第2のタイムスパン木の共通部分を抽出して得られる共通タイムスパン木についての共通タイムスパン木データを生成する。
【0023】
そして第1の中間タイムスパン木データ生成部6は、第1のタイムスパン木データと共通タイムスパン木データとに基づいて、第1のタイムスパン木と共通タイムスパン木との1以上の非共通部分を第1のタイムスパン木から選択的に除去するか、または1以上の非共通部分を共通タイムスパン木に選択的に追加して生成される第1の中間タイムスパン木についての第1の中間タイムスパン木データを生成する。同様に、第2の中間タイムスパン木データ生成部7は、第2のタイムスパン木データと共通タイムスパン木データとに基づいて、第2のタイムスパン木と共通タイムスパン木との1以上の非共通部分を第2のタイムスパン木から選択的に除去するか、または1以上の非共通部分を共通タイムスパン木に選択的に追加して生成される第2の中間タイムスパン木についての第2の中間タイムスパン木データを生成する。第1及び第2の中間タイムスパン木データ生成部6及び7で選択的に除去または追加する非共通部分は、1つの非共通部分または1以上の非共通部分のいずれでもよい。
【0024】
なお第1の中間タイムスパン木データ生成部6と第2の中間タイムスパン木データ生成部7は、非共通部分を選択的に除去または追加するための指令を、マニュアル操作により発生するマニュアル指令発生部8を備えている。本実施の形態では、マニュアル指令発生部8を第1の中間タイムスパン木データ生成部6と第2の中間タイムスパン木データ生成部7が共通に備えているため、便宜的にマニュアル指令発生部8と第1の中間タイムスパン木データ生成部6及び第2の中間タイムスパン木データ生成部7とを分離して記載してある。マニュアル指令発生部8を備えているので、ユーザの意思で第1の楽曲の影響と第2の楽曲の影響の程度を変えたモーフィング楽曲を簡単に得ることができる。
【0025】
マニュアル指令発生部8は、第1の中間タイムスパン木データ生成部6における指令と第2の中間タイムスパン木データ生成部7における指令とをそれぞれ別個独立に発生するように構成されているものでよい。図2(A)は、別個の指令を発生する場合に、2つのスイッチSW1及びSW2を使用するマニュアル指令発生部8´のインターフェースを示す。この例ではA側のスイッチSW1を操作すると、第1の楽曲の影響を調整できる。またB側のスイッチSW2を操作すると、第2の楽曲の影響を調整できる。またマニュアル指令発生部8を、第1の中間タイムスパン木データ生成部6における指令と第2の中間タイムスパン木データ生成部7における指令とをそれぞれ相反的に発生するように構成してもよい。図2(B)は、1つのスライドスイッチSWをスライドさせることにより、二つの指令を相反的に発生させるマニュアル指令発生部8″のインターフェースを示している。この例では、スライドスイッチSWをA側にスライドさせると第1の楽曲の影響が強くなり、第2の楽曲の影響が弱くなる。またスライドスイッチSWをB側にスライドさせると、第1の楽曲の影響が弱くなり、第2の楽曲の影響が弱くなる。したがってユーザの操作は簡単になる。
【0026】
そして統合データ統合部9は、第1の中間タイムスパン木データ生成部6と第2の中間タイムスパン木データ生成部7とに基づいて、第1の中間タイムスパン木と第2の中間タイムスパン木とを統合して得られる統合タイムスパン木についての統合タイムスパン木データを生成する。また楽曲データ生成部10は、統合タイムスパン木データに基づいて、統合タイムスパン木に対応する楽曲データをモーフィング楽曲の楽曲データとして生成する。楽曲データ再生装置11は、楽曲データ生成部10で生成された複数のモーフィング楽曲の楽曲データを選択的に再生する。
【0027】
本実施の形態では、特別な音楽知識を持たないユーザでも、第1及び第2の中間タイムスパン木データ生成部6及び7における、1以上の非共通部分の選択的な除去と追加が適宜に実施されることにより、第1の楽曲と第2の楽曲の中間的な楽曲を得ることができる。本実施の形態で、第1の中間タイムスパン木データ生成部6で1以上の非共通部分を第1のタイムスパン木データから選択的に除去することは、第1の中間タイムスパン木を第1のタイムスパン木データから共通タイムスパン木に近づけること、すなわち第1の楽曲の影響を弱めることを意味する。逆に第1の中間タイムスパン木データ生成部6で非共通部分を共通タイムスパン木に追加することは第1の中間タイムスパン木を第1のタイムスパン木データに近づけること、即ち第1の楽曲の影響を強めることを意味する。第2の中間タイムスパン木データ生成部7においても、第2の中間タイムスパン木即ち第2の楽曲の影響について同様のことが行われる。したがって除去される非共通部分の数、または追加される非共通部分の数が変更されることにより、第1の中間タイムスパン木データと第2の中間タイムスパン木データを統合して得られる統合タイムスパン木データにより定まるモーフィング楽曲における第1の楽曲の影響の程度と第2の楽曲の影響の程度が変更される。その結果、本実施の形態によれば、音楽的な知識に乏しいユーザであっても、第1の楽曲の影響の程度と第2の楽曲の影響の程度が変更されたモーフィング楽曲を簡単に得ることができる。
【0028】
以下さらに詳しく図1の実施の形態のブロックにおける動作を説明する。最初に、音楽データベース1に記憶するタイムスパン木に関する音楽理論とタイムスパン木の自動分析について説明する。本発明の実施の形態では、音楽理論としてはGenerative Theory of Tonal Music(GTTM)[F. Lerdahl, and R. Jackendoff. “A Generative Theory of Tonal Music.” Cambridge, Massachusetts: MIT Press, 1983.]を採用する。音楽理論GTTMの特徴は、音楽が備える多様な側面を包括的に表象しているという点である。音楽知識の乏しいユーザを支援し、音楽的な構造を適切に操作するためには、音楽の持つ旋律、リズム、和声という3つの側面に関して一貫性のある操作を実現する必要がある。たとえば、楽曲を2つに分割するという単純な操作を考えたとき、着目する音楽的な構造によってその操作の実現は異なってくる。しかし装飾が付いた楽曲とそうでない楽曲に対して2つに分割する箇所は本質的に同じであることが望ましい。GTTMでは、楽曲のメロディの区切りを表現するグルーピング構造と、リズムや韻律を表現する拍節構造をもとに、メロディや和声を本質的な部分と装飾的な部分に区別するタイムスパン木を抽出する手順が提案されている。GTTMに従えば、旋律、リズム、和声という3つの側面に関して一貫性のある操作の実現ができる。
【0029】
GTTMの計算機上への実装については、FATTA(Full-Automatic Time-span Tree Analyzer)がすでに構築されている。このFATTAについては、1)Masatoshi Hamanaka, Keiji Hirata, and Satoshi Tojo. Implementing ‘A Generative Theory of Tonal Music’. Journal of New Music Research, 35:4, 249-277, 2006.、2)Masatoshi Hamanaka, Keiji Hirata, and Satoshi Tojo. FATTA: Full Automatic Time-span Tree Analyzer, Proceedings of the 2007 International Computer Music conference,Vol. 1, pp. 153-156, 2007.、3)浜中雅俊,平田圭二及び東条敏著の「音楽理論GTTM に基づくグルーピング構造獲得システム」, 情報処理学会論文誌, Vol. 48, No. 1, pp. 284-299, 2007.に詳しく説明されている。また楽曲データからタイムスパン木を自動分析することについては、特開2007-191780号公報にも詳しく説明されている。さらに発明者等が2007年8月にSIGMUS 71で発表した「タイムスパン木獲得システムの完全自動化」と題する論文でも詳しく説明されている。楽曲データベース1には、このような公知の技術を用いて生成された複数の楽曲についてのタイムスパン木と楽曲データとが保存されている。本実施の形態の楽曲データベース1には、予め前述の共通タイムスパン木を生成できる関係を有する複数の楽曲についての楽曲データ及びタイムスパン木データを記憶している。したがって楽曲提示部3に提示された楽曲について選択した2つの楽曲からは、必ずモーフィング楽曲を生成することができる。
【0030】
本実施の形態では、音楽理論GTTMに基づく楽曲分析の結果得られるタイムスパン木を用いてメロディのモーフィングを実現する。GTTMは、音楽に関して専門知識のある聴取者の直観を形式的に記述するための理論としてFred Lerdahl とRay Jackendoff により提唱された。この理論は、グルーピング構造分析,拍節構造分析,タイムスパン簡約,プロロンゲーション簡約という4つのサブ理論から構成されており、楽譜に分析を加えることで、楽譜に内在する様々な階層構造を深層構造として顕在化させる。タイムスパン木による楽曲の分析は、あるメロディを簡約化することによって、そのメロディの装飾的な部分が削ぎ落とされ、本質的なメロディが抽出されるという直観を表したものである。この分析では、楽曲(1フレーズ以上の楽曲を含む)の構造的に重要な音が幹になるような2分木(タイムスパン木)を求める。図3には、楽曲の音符とタイムスパン木の関係の一例を示している。まず、グルーピング構造と拍節構造の分析の結果を用いて、楽曲を階層的なタイムスパンに分割する。次に、各タイムスパンにおいて重要な音(headと呼ぶ)がそのタイムスパンを代表する。
【0031】
図4は、タイムスパン木を用いた楽曲即ちメロディの簡約の例を示している。以下楽曲を便宜的にメロディと言う。図4のメロディAの上にあるタイムスパン木構造は、メロディAを分析した結果得られたタイムスパン木である。タイムスパン木のレベルBより下にある枝の音符を省略するとメロディBのようになる。さらに、レベルCより下にある枝の音符を省略するとメロディCのようになる。このとき、メロディBはメロディAとメロディCの中間的なメロディであることから、このようなメロディの簡約もメロディのモーフィングの一種と考えることができる。本実施の形態では、演算に使用する楽曲のタイムスパン木として、メロディA乃至Cの範囲内の所定のレベルのタイムスパン木を用いることができる。
【0032】
次に共通タイムスパン木データ生成部5で使用するタイムスパン木の共通化演算とデータ統合部9で使用するタイムスパン木の統合演算に用いる基本的な演算手法について説明する。本実施の形態で用いる演算手法は、1)平田圭二及び青柳龍也著の「音楽理論 GTTM に基づく多声音楽の表現手法と基本演算」、情報処理学会論文誌 Vol.43, No.2, 2002.、2)平田圭二及び平賀譲著の「GTTM に基づく音楽表現手法再考」、情報処理学会研究報告2002-MUS-45, pp.1-7, 2002.、3)平田圭二及び東条敏著の「相対擬補元を用いたメディアデザイン操作の形式化について」、第19回人工知能学会全国大会, 2B3-08,2005.、4)平田圭二及び東条敏著の「楽曲構造束とその上の演算系」、第20回人工知能学会全国大会,1D2-4, 2006.に詳しく説明されているので、ここでは簡単に説明する。メロディのモーフィングを実現するために、本実施の形態では、上記1)乃至4)の文献で定義されている演算を利用する。すなわち包摂関係⊆と、meet(最大下界)∩と、join(最小上界)∪とを用いる。包摂関係⊆は、F1下位の構造、F2を上位の構造(下位の構造を含んでそれ以上の構造を持つ)としたとき、F1⊆F2と表記し、F2はF1を包摂すると言う。例えば図に示したメロディA,B,Cのタイムスパン木(簡約されたタイムスパン木)TA ,TB ,TC の包摂関係は、以下のように表される。
【0033】
C ⊆TB ⊆TA
meet(最大下界)の演算は、図5(A)に示すように、TA ,TB の共通部分のタイムスパン木TA ∩TB を求めることである。join(最小上界)の演算は、図5(B)に示すように、メロディA、Bのタイムスパン木TA ,TB が矛盾を起こさない限り統合したタイムスパン木TA ∪TB を求めることである。
【0034】
次に本実施の形態におけるメロディモーフィングの具体的な方法を説明する。本実施の形態では、第1の楽曲すなわちメロディAの第1のタイムスパン木データと第2の楽曲すなわちメロディBの第2のタイムスパン木データとを共通タイムスパン木データ生成部5に入力し、第1及び第2の中間タイムスパン木データ生成部6及び7における非共通部分の除去と追加の指令を発生するマニュアル指令発生部8からの指令を変えて、第1及び第2の楽曲(メロディ)のそれぞれの特徴を反映させる度合いを変化することで、データ統合部9からメロディAとメロディBの中間のメロディCを生成するための複数の統合タイムスパン木データを出力する。以下の説明では、メロディA,B,Cは以下の条件を満たすものとする。
【0035】
1.AとBよりAとCのほうが類似している。また、AとBよりBとCのほうが類似している。
【0036】
2.AとBそれぞれの特徴を反映させる度合いを変化させることで、Cが複数出力される。
【0037】
3.BがAと同じ場合、CもAとなる。
【0038】
4.AとBがいずれもモノフォニー(和音を含まない単旋律)の場合、Cもモノフォニーとなる。
【0039】
モーフィングという用語は、通常、二つの画像がある場合に、片方の画像からもう一つの画像へ滑らかに変化していくよう、その中間を補うための画像を作成することをいう。これに対して本実施の形態におけるメロディモーフィングでは、以下のような操作で中間的なメロディの生成を実現する。
【0040】
a)2つのメロディの共通部分の対応づけ(図6)
(共通タイムスパン木データの作成)
b)各メロディについてメロディの部分簡約
(第1及び第2の中間タイムスパン木データの作成)
c)両方のメロディの重ね合わせ
(第1及び第2の中間タイムスパン木データの統合)
まず上記a)の「メロディの共通部分の対応づけ」について説明する。2つのメロディA及びBのそれぞれのタイムスパン木TA ,TB を求め、それらの共通部分(最大下界)のタイムスパン木すなわち共通タイムスパン木TA ∩TB を求める。これにより、タイムスパン木TA 及びTB は、それぞれ共通部分と非共通部分に分けることができる。本実施の形態では、前述のFATTAすなわちタイムスパン木の自動獲得技術を用いて、メロディからそのタイムスパン木の自動獲得を行う。FATTA は、分析の対象をモノフォニーに限定しているため、本実施の形態で楽曲は、モノフォニーを対象とする。
【0041】
共通タイムスパン木TA ∩TB は、メロディAとメロディBのタイムスパン木TA ,TB をそれぞれ頂点から下方に向かって比較して、最も大きく共通する部分を取り出す。その際、オクターブの異なる2音(たとえばC4とC3)を異なる音とみなす場合と、同じ音とみなす場合で結果が異なる。異なる音とみなす場合には、C4∩C3の解は空疎となる。一方、同じ音とみなす場合には、C4∩C3の解は、オクターブの情報が捨象されたCとなる。オクターブの情報が未定義の場合には、第1及び第2の中間タイムスパン木データ生成部6及び7以降での処理が困難となる。そこで本実施の形態では、オクターブの異なる2音は、異なる音として扱う。
【0042】
次に第1及び第2の中間タイムスパン木データ生成部6及び7で実施する上記b)のメロディの部分簡約について説明する。前述のメロディAとメロディBのタイムスパン木TA ,TB の非共通部分には、それぞれ相手のメロディにはない特徴が表われていると考えられる。したがって、メロディのモーフィングを実現するためには、それら非共通部分の特徴をなめらかに増減させ、中間的なメロディを生成する必要がある。そこで本実施の形態では、メロディの非共通部分についてのみタイムスパン木から除去したり追加したりする処理(本願明細書では、これを「メロディ部分簡約法」という)を実施する。このメロディ部分簡約法では、メロディAのタイムスパン木TA と、メロディA及びBのタイムスパン木の共通部分すなわち共通タイムスパン木TA ∩TBから、以下の条件を満たすようなメロディCを生成する。
【0043】
A ∩TB⊆T⊆TA
上記条件を満たすような中間タイムスパン木Tは複数存在する。しかしすべての中間タイムスパン木T同士の間で包摂関係が成立するようにする。したがって、C1,C2,…,Cnが存在する場合には次式が成立する。
【0044】
A ∩TB⊆Tcn⊆Tcn-1⊆…⊆Tc2⊆Tc1⊆TA
但し、TA ∩TB≠Tcn
cm≠Tcm-1 (m=2,3,…,n)
c1≠T
図7には、上記の条件を用いた2つのメロディA及びBのメロディモーフィングの処理を概念的に示してある。図7の場合には、メロディAのタイムスパン木TA には、メロディBのタイムスパン木TB にはない音符が9個含まれているため、nの値は8となり、TA ∩TBの中間的なメロディが8種類得られる。
【0045】
具体的には、マニュアル指令発生部8を用いて指令を変更することにより、以下のような操作によってメロディの部分簡約(中間タイムスパン木データの作成)を行う。
【0046】
Step1:簡約レベルLの指定(非共通部分の除去または追加数Lの指定)
簡約レベルLをユーザが指定する。Lは1以上で、共通タイムスパン木TA ∩TBになくタイムスパン木TAに含まれている音符の数未満の整数である。
【0047】
Step2:非共通部分の簡約(中間タイムスパン木データの作成)
タイムスパン木TAと共通タイムスパン木TA ∩TBとの非共通部分のタイムスパンに含まれる拍点の数が最小のものを選び、そのヘッド(音符)を簡約(除去)する。すなわち拍点の数が最小のものを優先順位の高いものとして、タイムスパン木TAから非共通部分を除去する。拍点はGTTMの拍節構造分析により求まる。拍点の数が最小のものが複数あった場合には、楽曲の先頭に近いほうの拍点の数が最小のものヘッドを簡約する。
【0048】
Step3:繰り返し
Step2の操作を指定されたL回繰り返す。図8を見ると分かるように、Lが例えば3であれば、タイムスパン木TAから非共通部分を3個除去してL=3の第1の中間タイムスパン木TCを得る(図8のメロディC及び中間タイムスパン木TC参照)。
【0049】
上記のようにして求めたメロディC(中間タイムスパン木TC)は、メロディB(タイムスパン木TB)にはないメロディA(タイムスパン木TA)のみが持つ特徴の一部を減衰させたものと考えることができる。
【0050】
上記と同様にして、メロディBについても、上記ステップ1乃至ステップ3を繰り返すことにより、タイムスパン木TBと共通タイムスパン木TA ∩TBから下記を満たすメロディDの第2の中間タイムスパン木TDを生成する(図7の中間タイムスパン木TDを参照)。
【0051】
A ∩TB⊆TD⊆TB
このようにして得たメロディCの第1の中間タイムスパン木TCとメロディDの第2の中間タイムスパン木TDとをデータ統合部9で統合(最小上界)し、合成したメロディEの統合タイムスパン木が生成される。第1の中間タイムスパン木TCのデータと第2の中間タイムスパン木TDの統合を行う際には、図5(B)に示したjoin(最小上界)を実行する。但し、第1の中間タイムスパン木TCと第2の中間タイムスパン木TDのメロディC及びDがモノフォニーであっても、統合して得られる統合タイムスパン木TE=TC∪TDのメロディがモノフォニーになるとは限らない。つまり第1の中間タイムスパン木TCと第2の中間タイムスパン木TDを重ね合わせる際に、タイムスパン木の枝は重なるが(時間構造は一致するが)、音高が異なるような場合には、解に和音が含まれることになってしまう。すなわち同じタイムスパンに音高が異なる2つの音が含まれることになる。そこで、本実施の形態のデータ統合部10では、異なる2音をN1,N2 としたとき[N1,N2]のような「N1またはN2」を意味する特殊な値を導入する。すなわちN1∪N2の解を、[N1,N2]とする。このようにするとTC∪TDの解には、[N1,N2]のような値が複数含まれることになる。そして、それらすべての組み合わせ、すなわち複数のモノフォニーをTC∪TDの解とする。図7においては、メロディEとして8つのメロディが作成されている。これは、図7において、タイムスパン木TE=TC∪TDが破線になっている部分で、[N1,N2]のような値となっているからである。すなわちN1を含むメロディとN2を含むメロディの2種類のメロディができるのである。したがってこのような箇所が3カ所あれば23個のモーフィング楽曲が作成されることになるのである。
【0052】
図9は、楽曲データベース1に楽曲データを記憶させておき、新規な1つの楽曲とモーフィング可能な楽曲を記憶している楽曲の中から検索して提示する際に使用するプログラムのアルゴリズムを示すフローチャートである。ステップST1では、モーフィング可能かどうかを決めるパラメータMの値を設定したか否かを確認する。ここでパラメータMは、0以上メロディAの音符数以下の整数である。すなわちモーフィングできる相手のメロディはメロディAの音符数以下のものに限定する。次にステップST2で、楽曲データベース1からメロディを取り出す。このメロディをPとする。次にステップST3で、音楽理論GTTMに基づきメロディPを分析しタイムスパン木(もしくはプロロンゲーショナル木)TPを獲得する。そしてステップST4で、タイムスパン木TPとタイムスパン木TAの最小上界を算出する。ステップST5で、タイムスパン木TPとタイムスパン木TAの最小上界の音符数がM以上であることを判定すると、ステップST6でメロディPをモーフィング可能なメロディとして提示する。ステップST5で、タイムスパン木TPとタイムスパン木TAの最小上界の音符数がM以上でないことを判定すると、ステップST7でメロディPをモーフィングできないメロディとして判定して、このメロディは提示しない。ステップST8で楽曲データベースにまだメロディがあるか以下の判定を行って、モーフィング可能なメロディの全てを提示する。このアルゴリズムでは、新規なメロディとモーフィング可能なメロディを探すのに適している。
【0053】
図10は、図1の実施の形態の主要部をコンピュータで実現する場合に、コンピュータにインストールされてコンピュータ内に前述の各構成要素を実現する場合に用いるプログラムのアルゴリズムの一例を示している。なおこの例では、楽曲データベースから得た楽曲データに基づいてタイムスパン木の分析を逐次行っている。このアルゴリズムでは、数小節分の楽曲のモーフィングを実行する。まずステップST11で楽曲(編集中の楽譜)を入力する。そしてステップST12で、編集したい部分(メロディA)を選択したか否かの判定を行う。そしてステップST13で、楽曲データベース1からメロディAとモーフィング可能なメロディを検索して楽曲提示部3に提示する。次にステップST14で、提示したメロディから一つ(メロディB)を選択したかの判定が行われる。ステップST15では、メロディAとメロディBを音楽理論GTTMに基づき楽曲分析してタイムスパン木(もしくはプロロンゲーショナル木)TA及びTBを獲得する。そしてステップST16で、TA及びTBの最小上界(共通タイムスパン木)を算出する。すなわち共通タイムスパン木を求める。次にステップST17において、タイムスパン木TAと共通タイムスパン木とを用いて、タイムスパン木TAを部分簡約(タイムスパン木TAから非共通部分を除去または追加)してメロディC(第1の中間タイムスパン木TC)を生成する。次にステップST18でタイムスパン木TBと共通タイムスパン木とを用いて、タイムスパン木TBを部分簡約(タイムスパン木TBから非共通部分を除去または追加)してメロディD(第2の中間タイムスパン木TD)を生成する。最後にステップST19で、メロディCの第1の中間タイムスパン木とメロディDの第21の中間タイムスパン木の最大下界TC∪TDを算出する。これにより統合タイムスパン木TEを得て、複数のモーフィング楽曲を得る。
【0054】
図11はステップST17の詳細を示したものである。すなわちステップST21では、メロディAの特徴をモーフィング結果に反映させる度合いを決めるパラメータLAを設定したか否かの確認が行われる。すなわち第1の中間タイムスパン木を作成するにあたって除去または追加すべき非共通部分の数(指令)が設定されているか否かがステップST21で確認される。具体的には、LAが、1以上で、TA及びTBの最小上界(共通タイムスパン木)になく第1のタイムスパン木TAに含まれている音符数(非共通部分の数)未満の数であるか否かが判定される。タイムスパン木から非共通部分を除去していく場合であれば、このパラメータLAの値が大きいほどメロディAの影響が小さくなる。次にステップST22で、TA及びTBの最小上界に含まれない第1のタイムスパン木TAの複数のヘッドのうち、各音符の重要度を示す指標となる拍点の数が最小のものを選択し、簡約する(除去する)。拍点の数は、GTTMの拍節構造分析により求まる。拍点の数が最小のものが複数あった場合には、楽曲の先頭に近いほうのヘッドを簡約する(除去の優先順位を高いものとして除去する)。そしてステップST23及びステップST24を経てLA個の非共通部分の除去が実行された後、ステップST25でそのタイムスパン木を第1の中間タイムスパン木とする。すなわち簡約結果をメロディCのタイムスパン木として出力する。
【0055】
図12は、図10のステップST18の詳細ステップを示すものであるが、扱うタイムスパン木が第2のタイムスパン木TBである点及びメロディBの特徴をモーフィング結果に反映させる度合いを決めるパラメータLBとする点を除いて、ステップST31乃至ステップST35は、図11のステップST21乃至ステップST25と同じであるので説明を省略する。
【0056】
本実施の形態によれば、ユーザの意図を反映して、楽曲またはメロディのモーフィングを行うことができる。本実施の形態のモーフィング楽曲生成装置は、メロディAの楽曲データとメロディBの楽曲データとを入力すると、メロディAとメロディBの中間のメロディCを出力する。このような装置であれば、装置への入力と出力の因果関係が比較的理解しやすい。そのため、2つのメロディA及びBを選び、AとBとの比率を変化するというシンプルな操作によって複数のメロディが得られることから、ユーザの意図を比較的反映しやすい。つまり、ユーザがメロディAの一部を修正し、なんらかのニュアンスを付加したいと考えた場合、そのようなニュアンスを持つメロディBを探し、モーフィングを行うことでメロディAにメロディBが持つニュアンスを付加することが可能になる。
【0057】
上記実施の形態では、入力をモノフォニーに限定しているが、本発明は入力が和音を含むポリフォニーの場合にも適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明のモーフィング楽曲生成装置をコンピュータを主要構成装置として構成する実施の形態の構成を示すブロックである。
【図2】(A)は、別個の指令を発生する場合に、2つのスイッチ及びを使用するマニュアル指令発生部のインターフェースを示す図であり、(B)は、1つのスライドスイッチをスライドさせることにより、二つの指令を相反的に発生させるマニュアル指令発生部のインターフェースを示す図である。
【図3】楽曲の音符とタイムスパン木の関係の一例を示す図である。
【図4】タイムスパン木を用いた楽曲即ちメロディの簡約の例を示す図である。
【図5】meet(最大下界)の演算とjoin(最小上界)の演算を説明するために用いる図である。
【図6】メロディの対応付けの例を示す図である。
【図7】2つのメロディのメロディモーフィングの処理を概念的に示す図である。
【図8】中間タイムスパン木を生成する過程を示す図である。
【図9】楽曲データベース1に楽曲データを記憶させておき、新規な1つの楽曲とモーフィング可能な楽曲を記憶している楽曲の中から検索して提示する際に使用するプログラムのアルゴリズムを示すフローチャートである。
【図10】図1の実施の形態の主要部をコンピュータで実現する場合に、コンピュータにインストールされてコンピュータ内に前述の各構成要素を実現する場合に用いるプログラムのアルゴリズムの一例を示すフローチャートである。
【図11】図10のステップST17の詳細を示すフローチャートである。
【図12】図10のステップST18の詳細を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0059】
1 楽曲データベース
2 選択
3 楽曲提示部
4 データ転送部
5 共通タイムスパン木データ生成部
6 第1の中間タイムスパン木データ生成部
7 第2の中間タイムスパン木データ生成部
8 マニュアル指令発生部
9 データ統合部
10 楽曲データ生成部
11 楽曲データ再生部
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11