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明細書 :エルゴチオネインを利用したクローン病の診断および治療

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5376421号 (P5376421)
公開番号 特開2009-192383 (P2009-192383A)
登録日 平成25年10月4日(2013.10.4)
発行日 平成25年12月25日(2013.12.25)
公開日 平成21年8月27日(2009.8.27)
発明の名称または考案の名称 エルゴチオネインを利用したクローン病の診断および治療
国際特許分類 G01N  33/68        (2006.01)
G01N  33/53        (2006.01)
FI G01N 33/68 ZNA
G01N 33/53 S
請求項の数または発明の数 4
全頁数 29
出願番号 特願2008-033588 (P2008-033588)
出願日 平成20年2月14日(2008.2.14)
審査請求日 平成23年2月3日(2011.2.3)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
発明者または考案者 【氏名】辻 彰
【氏名】加藤 将夫
【氏名】久保 義行
【氏名】金子 周一
【氏名】加賀谷 尚史
【氏名】曽我 朋義
個別代理人の代理人 【識別番号】100091096、【弁理士】、【氏名又は名称】平木 祐輔
【識別番号】100096183、【弁理士】、【氏名又は名称】石井 貞次
【識別番号】100118773、【弁理士】、【氏名又は名称】藤田 節
【識別番号】100119183、【弁理士】、【氏名又は名称】松任谷 優子
審査官 【審査官】吉田 将志
参考文献・文献 Taubert D,Functional role of the 503F variant of the organic cation transporter OCTN1 in Crohn's disease.,Gut,2005年10月,Vol.54/No.10,1505-1506
調査した分野 G01N 33/48-98
MEDLINE(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
被験者がクローン病に罹患しているか否かを判定するためにエルゴチオネインレベルを測定する方法であって、前記被験者から単離された体液中における、エルゴチオネインレベルが健常人に比較して有意に低い場合に、前記被験者がクローン病に罹患している可能性が高いと判定することを特徴とする、前記方法
【請求項2】
前記エルゴチオネインレベルがエルゴチオネイン特異的抗体を用いた免疫学的方法あるいはHPLCによって測定されることを特徴とする、請求項に記載の方法。
【請求項3】
前記免疫学的方法が、免疫沈降法、ならびにウエスタンブロット法、ドットブロット法、スロットブロット法、ELISA法、およびRIA法を含む固相免疫法あるいはこれらの変法から選ばれるいずれかの方法である、請求項に記載の方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の方法で使用するための、エルゴチオネイン特異的抗体を含む、クローン病診断用キット。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、エルゴチオネインを利用したクローン病の診断および治療に関する。より詳細には、エルゴチオネインレベルや多型解析に基づくクローン病の罹患あるいは罹患可能性の評価方法、および、エルゴチオネインまたはその類縁体を有効成分とするクローン病治療薬に関する。
【背景技術】
【0002】
クローン病は、難治性の疾患として知られている、原因不明の炎症性腸疾患である。我が国では、クローン病は特定疾患治療研究事業対象疾患に認定され、患者数は10~30代を中心に増加傾向にある。クローン病の原因については、遺伝的素因、ウイルス、環境因子、食餌因子など、さまざまな要因が報告されているが定説はない。
【0003】
クローン病の治療は、その原因が不明であるため、根本的治療法は確立されておらず、対症療法として食餌療法(栄養療法)や薬物療法といった内科的治療が選択されることがほとんどである。外科的治療は、内科的治療の望めない場合に限り実施され、その場合においても最終的には内科的治療が採られることとなる。クローン病の診断は、腸カメラによる目視が主体であるが、特異的な所見が無いため、確定診断は消去法で行われるのが現状であり、特に潰瘍性大腸炎、ベーチェット病や腸結核との鑑別が重要とされる。
【0004】
2004年、カナダの研究グループがクローン病の発症リスクにカルニチントランスポーターOCTNファミリーの1つであるOCTN1の遺伝子多型(L503F)が関与していることを発表した(非特許文献1)。しかしながら、2006年に国内の研究グループが、この遺伝子多型は日本人のクローン病患者では見出されないことを発表し(非特許文献2)、クローン病発症におけるOCTN1の関与は結局不明のままになっている。
【0005】
このOCTN1 (SLC22A4)は、1997年に発明者らによって見出された新規SLCトランスポーターで、必須栄養素・カルニチンと有機カチオン系薬物が輸送基質となることがin vitroの実験系で確認されている(非特許文献3および4)。発明者らは、OCTN1のホモログであるOCTN2 (SLC22A5)については、その生理的基質がカルニチンであることを同定し、OCTN2が致死性疾患である全身性カルニチン欠乏症の原因遺伝子となることを解明している(非特許文献5)。しかしながら、OCTN1については、その生理的役割は未だ明らかになっていない。
【0006】
2005年、ドイツの研究グループは、in vitroの実験系を用いて、エルゴチオネインがOCTN1の良好な輸送基質となることを報告した(非特許文献6)。エルゴチオネインは、カビやキノコ類に多く含まれる強い抗酸化力をもった含硫アミノ酸であるが、哺乳類は、エルゴチオネインを自ら合成することはできず、専ら食餌によって摂取する。哺乳類の各種臓器にはエルゴチオネインが相当量貯蔵されているが、生体内におけるエルゴチオネインの生理的役割やOCTNとの関連についてはよくわかっていない。
【0007】

【非特許文献1】Peltekova VD, Wintle RF, Rubin LA, Amos CI, Huang Q, Gu X, Newman B, Van Oene M, Cescon D, Greenberg G, Griffiths AM, St George-Hyslop PH, Siminovitch KA. Functional variants of OCTN cation transporter genes are associated with Crohn disease. Nat Genet. 2004. 36(5):471-5.
【非特許文献2】Tosa M, Negoro K, Kinouchi Y, Abe H, Nomura E, Takagi S, Aihara H, Oomori S, Sugimura M, Takahashi K, Hiwatashi N, Takahashi S, Shimosegawa T. Lack of association between IBD5 and Crohn's disease in Japanese patients demonstrates population-specific differences in inflammatory bowel disease. Scand J Gastroenterol. 2006. 41(1):48-53.
【非特許文献3】Yabuuchi H, Tamai I, Nezu J, Sakamoto K, Oku A, Shimane M, Sai Y, Tsuji A. Novel membrane transporter OCTN1 mediates multispecific, bidirectional, and pH-dependent transport of organic cations. J Pharmacol Exp Ther. 1999. 289(2):768-73.
【非特許文献4】Tamai I, Yabuuchi H, Nezu J, Sai Y, Oku A, Shimane M, Tsuji A. Cloning and characterization of a novel human pH-dependent organic cation transporter, OCTN1. FEBS Lett. 1997. 419(1):107-11.
【非特許文献5】Nezu J, Tamai I, Oku A, Ohashi R, Yabuuchi H, Hashimoto N, Nikaido H, Sai Y, Koizumi A, Shoji Y, Takada G, Matsuishi T, Yoshino M, Kato H, Ohura T, Tsujimoto G, Hayakawa J, Shimane M, Tsuji A. Primary systemic carnitine deficiency is caused by mutations in a gene encoding sodium ion-dependent carnitine transporter. Nat Genet. 1999. 21(1):91-4.
【非特許文献6】Grundemann D, Harlfinger S, Golz S, Geerts A, Lazar A, Berkels R, Jung N, Rubbert A, Schomig E. Discovery of the ergothioneine transporter. Proc Natl Acad Sci U S A. 2005. 102(14):5256-61.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、クローン病の病態や発症におけるOCTN1およびエルゴチオネインの関与を解明することにより、クローン病の診断と治療のための新規な手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者らは、OCTN1ノックアウトマウスを作製し、これを用いてメタボローム解析を実施した。その結果、OCTN1ノックアウトマウスの体内において、エルゴチオネインのみが激減していること、エルゴチオネインの消化管吸収や臓器移行性、腎臓における再吸収にOCTN1が関与していることが明らかとなった。このことから、OCTN1は生体のエルゴチオネイン恒常性に重要な分子であり、OCTN1の機能失調は個体におけるエルゴチオネインレベルの低下に繋がることが明らかとなった。
【0010】
さらに、OCTN1ノックアウトマウスを用いて小腸虚血再かん流実験を行った結果、OCTN1ノックアウトマウスは野生型マウスに比べて、酸化ストレスに対して脆弱であり、これは抗酸化物質エルゴチオネインの欠乏に起因することが推測された。そこで、ヒトクローン病患者における血中エルゴチオネイン濃度を測定したところ、健常人に比して有意に低いことが確認された。一方、同じ炎症性腸疾患である潰瘍性大腸炎患者では健常人と患者の間に有意な差は認められず、エルゴチオネインレベルの低下はクローン病患者に特異的なものであることが確認された。
【0011】
さらに、クローン病発症とOCTN1の直接的関わりを明らかとするために、OCTN1の遺伝子多型解析を実施した。その結果、クローン病患者においてのみ特異的に高い頻度で出現するディプロタイプの存在が見出された。
【0012】
かくして、クローン病の病態と発症における、OCTN1とエルゴチオネインの関与が、発明者らにより初めて明らかにされた。すなわち、本発明は、OCTN1とエルゴチオネインを利用したクローン病の診断と治療のための新規な手段を提供する。
【0013】
本発明の第1の実施形態は、被験者から単離された体液中における、エルゴチオネインレベルを指標として、前記被験者がクローン病に罹患しているか否かを判定する方法である。
【0014】
前記方法では、エルゴチオネインレベルが健常人に比較して有意に低い場合に、前記被験者はクローン病に罹患している可能性が高いと判定する。
【0015】
前記エルゴチオネインレベルは、エルゴチオネイン特異的抗体を用いた免疫学的方法あるいはHPLCによって測定できる。
【0016】
前記免疫学的方法としては、免疫沈降法、ならびにウエスタンブロット法、ドットブロット法、スロットブロット法、ELISA法、およびRIA法を含む固相免疫法あるいはこれらの変法等を挙げることができる。
【0017】
本発明は、前記方法のために利用されるクローン病診断用キットも提供する。このキットは、必須の構成要素としてエルゴチオネイン特異的抗体を含む。
【0018】
本発明の第2の実施形態は、被験者から単離されたゲノムDNAを含む試料において、染色体5q31に存在するOCTN1遺伝子領域のSNPs rs272893とrs272879が変異型でありOCTN2遺伝子領域のSNPs rs13180169、rs13180186、rs13180043、rs13180295、rs2631365、rs274558、rs274557が全て野生型であるハプロタイプ1のホモ接合からなるディプロタイプ1を検出することにより、該被験者のクローン病の罹患リスクを判定する方法である。
【0019】
前記方法では、さらに、ディプロタイプ20を合わせて検出することにより、潰瘍性大腸炎と鑑別してクローン病の罹患リスクを判定することができる。ディプロタイプ20は、染色体5q31に存在するOCTN1遺伝子領域のSNPs rs272893とrs272879が野生型であり、OCTN2遺伝子領域のSNPs rs13180169、rs13180186、rs13180043、rs13180295、rs2631365、rs274558、rs274557が全て変異型であるハプロタイプ2と、OCTN1遺伝子領域のSNPs rs272893とrs272879が変異型であり、OCTN2遺伝子領域のSNPs rs2631365が変異型であるハプロタイプ11のヘテロ接合からなる。
【0020】
前記ディプロタイプは、RFLP法、PCR-SSCP法、ASOハイブリダイゼーション、ダイレクトシークエンス法、ARMS法、変性剤濃度勾配ゲル電気泳動法、RNaseA切断法、化学切断法、DOL法、TaqMan PCR法、インベーダー法、MALDI-TOF/MS法、TDI法、モレキュラー・ビーコン法、ダイナミック・アレルスペシフィック・ハイブリダイゼーション法、パドロック・プローブ法、UCAN法、DNAチップまたはDNAマイクロアレイを用いた核酸ハイブリダイゼーション法、およびECA法等によって検出することができる。
【0021】
本発明は、前記方法のために利用されるクローン病の罹患リスク判定用キットも提供する。このキットは、以下の1)~3)から選ばれる少なくとも1以上を含む:
1)OCTN1遺伝子領域上においてSNPs rs460271、rs398064、rs11568509、rs11568510、rs456392、rs11568500、rs3761659、rs270600、rs11568503、rs272893、rs2304081、rs272879、rs1050150、rs4646201、またはrs1050152を含む16塩基長以上の連続したポリヌクレオチド、あるいはOCTN2遺伝子領域上においてSNPs rs13180169、rs13180186、rs13180043、rs13180295、rs2631365、rs274558、またはrs274557を含む16塩基長以上の連続したポリヌクレオチドの一部に相補的で、該ポリヌクレオチドを特異的に増幅するための、15~30塩基長のオリゴヌクレオチドまたはその標識物、
2)OCTN1遺伝子領域上においてSNPs rs460271、rs398064、rs11568509、rs11568510、rs456392、rs11568500、rs3761659、rs270600、rs11568503、rs272893、rs2304081、rs272879、rs1050150、rs4646201、またはrs1050152を含む16~500塩基長の連続したポリヌクレオチド、あるいはOCTN2遺伝子領域上においてSNPs rs13180169、rs13180186、rs13180043、rs13180295、rs2631365、rs274558、またはrs274557を含む16~500塩基長の連続したポリヌクレオチド(ただし、上記ポリヌクレオチドがRNAである場合、配列表中の塩基記号「t」は「u」に読み替えるものとする)、
3) 上記2)のポリヌクレオチドを固定した固相化試料。
【0022】
本発明の第3の実施形態は、エルゴチオネインまたはその類縁体を有効成分とするクローン病の予防または治療用組成物である。前記組成物は、クローン病において顕著に認められるエルゴチオネインレベルの低下を改善することで、その発症の予防又は症状の改善を図ることを期待して投与される。
【発明の効果】
【0023】
従来、クローン病の診断は腸カメラによる目視が主体であり、その治療は対症的な食餌療法、免疫抑制剤による薬物療法などが主体であった。本発明によれば、被験者から単離したサンプルを用いてクローン病の罹患を簡便かつ非侵襲的に診断することができる。また、特定ディプロタイプの検出により、発症前にクローン病の罹患リスク(発症危険性)を評価することができる。さらに、本発明によれば、エルゴチオネインやその類縁体を投与(あるいは摂取)することにより、低エルゴチオネイン状態を改善して、クローン病を含む炎症性腸疾患を根本的に予防あるいは治療することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
1. 定義
1.1 クローン病
大腸および小腸の粘膜に慢性の炎症や潰瘍を生じる原因不明の疾患を総称して「炎症性腸疾患(Inflammatory Bowel Disease:IBD)」という。本発明にかかる「クローン病」は、この炎症性腸疾患のひとつで、1932年に内科医ブリル・バーナード・クローンらによってはじめて報告された。クローン病は、主として若年者にみられ、口腔から肛門にいたる消化管全域で非連続性の炎症や潰瘍を生じることを特徴とする。クローン病では、その病変に伴う腹痛、下痢、血便、体重減少などが生じ、進行すると腸管の狭窄による腸閉塞、穿孔や瘻孔、膿瘍を来たすこともある。
【0025】
クローン病の原因は解明されていないが、遺伝的素因に食餌や環境因子が関与しているといわれている。そのため、クローン病の診断は腸カメラによる目視が主体であり、治療は対症療法としての食餌療法や、免疫抑制剤による薬物療法が主体である。
【0026】
1.2 エルゴチオネイン
本発明にかかる「エルゴチオネイン(ergothioneine)」は、1909年にM. C. Tanretにより、麦角(ergot)から初めて単離された親水性アミノ酸の一種である。エルゴチオネインは、チオールヒスチジンのベタインで、結晶状態では下記の構造式を有するが、溶液中ではチオール型と互変異性体として存在する。
【0027】
【化1】
JP0005376421B2_000002t.gif

【0028】
エルゴチオネインは、強い抗酸化作用と金属イオン補足能を有し、カビ・キノコ類やマイコバクテリアにより生合成されるが、哺乳類は食餌のみから摂取可能である。エルゴチオネインは、その強い抗酸化作用から化粧品や健康・美容食品等に汎用されており、キノコ等から抽出・精製された天然品のほか、化学合成品も市販されている。
【0029】
エルゴチオネインは哺乳類では臓器中に多量に蓄積されているが、生体内におけるその本質的な役割は十分に解明されていない。
【0030】
1.3 OCTN
OCTNはカルニチントランスポーターで、OCTN1、OCTN2、OCTN3等が知られている。トランスポーターは、生体膜に存在する膜タンパク質であり、栄養物や薬物などの低分子化合物を細胞の内外に輸送する。トランスポーターは、ATP加水分解エネルギーを直接利用して基質を輸送するABCトランスポーターと、無機イオンの電気化学的ポテンシャル(細胞内外の濃度勾配等)を利用して基質を輸送するSLCトランスポーターに大別され、OCTNは後者のSLCトランスポーターに分類される。
【0031】
OCTN1とOCTN2は、発明者らによってクローニングされ、前述のとおり、OCTN2はカルニチンを生理的基質とし、その遺伝子の異常は全身性カルニチン欠乏症の原因となることがわかっている。一方、OCTN1はin vitroにおいてカルニチンと有機カチオン系薬物、そしてエルゴチオネインを輸送基質とすることが報告されているが、生理的機能は解明されていなかった。
【0032】
発明者らは、OCTN1ノックアウスマウスを用いた研究により、OCTN1の機能不全(あるいは失調)は、個体におけるエルゴチオネインレベルの低下を招き、小腸酸化ストレス等の酸化ストレスに対して個体を脆弱化させ、クローン病等の炎症性腸疾患を発生させることを見出した。
【0033】
OCTNファミリーの遺伝子は、いずれも染色体5q31に存在するが、この領域には免疫関連遺伝子が多数存在し、炎症性腸疾患と密接に関わるゲノム領域とされている。この領域に存在するOCTN1とOCTN2のSNPsを下表1および2に示す。
【0034】
これらのSNPsのうち、TCハプロタイプは、連鎖不平衡にある2つのSNPs(第7エキソン-207番目のGのCへの変異(IGR2222)、1672番目のCのTへの変異(IGR3002))から形成され、欧米人ではクローン病の罹患リスクに関連することが報告されているが、日本人にはこのハプロタイプは存在しない(前掲)。
【0035】
【表1】
JP0005376421B2_000003t.gif
NT_034772.5はヒト第5染色体ゲノム配列のGenBank Accession Number
【0036】
【表2】
JP0005376421B2_000004t.gif
NT_034772.5はヒト第5染色体ゲノム配列のGenBank Accession Number
【0037】
発明者らは、クローン病の発症リスクとOCTNの直接的関わりを明らかとするために、OCTN1およびOCTN2の遺伝子多型解析を実施し、その結果、クローン病患者において健常人よりも10倍以上の頻度で出現する新規なディプロタイプ:ディプロタイプ1と、クローン病患者や健常人ではほとんど認められず、潰瘍性大腸炎で高頻度で出現するディプロタイプ:ディプロタイプ20を見出した(図8および11)。
【0038】
2. クローン病の診断方法
2.1 試料の調製
本発明の検査方法は、被験者から採取した組織や体液、例えば末梢血を用いて非侵襲的に行われる。血液は、必要に応じて高速遠心を行うことにより不溶性の物質を除去した後、その後の検出方法に応じて適宜調製される。
【0039】
ELISA/RIA(あるいはこれらの変法)用試料は、例えば、回収した血清をそのまま使用するか、緩衝液で適宜希釈したものを用いる。ウエスタンブロット用(電気泳動用)試料は、例えば、細胞抽出液をそのまま使用するか、緩衝液で適宜希釈して、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動用の2-メルカプトエタノールを含むサンプル緩衝液(シグマ社製等)と混合したものを用いる。ドット/スロットブロット用試料は、例えば、回収した細胞抽出液そのもの、又は緩衝液で適宜希釈したものを、ブロッティング装置を使用するなどして、直接メンブレンへ吸着させたものを用いる。
【0040】
2.2 エルゴチオネインレベルの測定
指標とするエルゴチオネインレベルは、抗原抗体反応を利用した免疫学的方法あるいはHPLCを用いて測定することができる。ここで「レベル」とはエルゴチオネインの量に限定されず、これを間接的に示す力価(抗体価等)も含む。
【0041】
免疫学的方法としては、たとえば、免疫沈降法や、ウエスタンブロット法、ドットブロット法、スロットブロット法、ELISA法、およびRIA法を含む固相免疫法あるいはこれらに改変を加えた公知の変法(サンドイッチELISA、US Patent No.4202875記載の方法、Meagerらの方法(Meager A., Clin Exp Immunol. 2003 Apr, 132(1), p128-36)等)を挙げることができる。すなわち、これらの方法に基づき、抗原検出の場合はこれに対する特異的抗体を、抗体検出の場合はこれに対する特異的抗原を利用して行う。
【0042】
上記した免疫学的方法で用いられる抗体は、公知の方法にしたがって調製できるし、市販のものを用いてもよい。抗体は、常法により、抗原となるエルゴチオネイン、あるいはその一部を用いて動物を免疫し、該動物生体内に産生される抗体を採取、精製することによって得ることができる。また、公知の方法(例えば、Kohler and Milstein, Nature 256, 495-497, 1975、Kennet, R. ed., Monoclonal Antibody p.365-367, 1980, Prenum Press, N.Y.)にしたがって、特異的抗体を産生する抗体産生細胞とミエローマ細胞とを融合させることによりハイブリドーマを樹立し、これよりモノクローナル抗体を得ることもできる。
【0043】
検出に用いられる抗原あるいは前記抗体作製用の抗原は、抗原であるエルゴチオネイン又はその一部(エピトープ部分)、あるいはこれらに任意の担体(例えば、N末端付加するキーホールリンペットヘモシアニン)が付加された誘導体を挙げることができる。
【0044】
抗エルゴチオネイン抗体は、それを直接標識するか、又は該抗体を一次抗体とし、該一次抗体を特異的に認識する(抗体を作製した動物由来の抗体を認識する)標識二次抗体と協同で検出に用いられる。
【0045】
前記標識の種類として好ましいものは、酵素(アルカリホスファターゼ又は西洋ワサビペルオキシダーゼ)又はビオチン(ただし二次抗体のビオチンにさらに酵素標識ストレプトアビジンを結合させる操作が加わる)であるが、これらに限定されない。標識二次抗体(又は標識ストレプトアビジン)としては、予め標識された抗体(又はストレプトアビジン)が、各種市販されている。なお、RIAの場合は125I等の放射性同位元素で標識された抗体を用い、測定は液体シンチレーションカウンター等を用いて行う。
【0046】
これら標識された酵素の活性を検出することにより、抗原の発現量が測定される。アルカリホスファターゼ又は西洋ワサビペルオキシダーゼで標識する場合、これら酵素の触媒により発色する基質や発光する基質が市販されている。
【0047】
発色する基質を用いた場合、ウエスタンブロット法やドット/スロットブロット法を利用すれば、目視で検出できる。ELISA法では、市販のマイクロプレートリーダーを用いて各ウェルの吸光度(測定波長は基質により異なる)を測定し、定量することが好ましい。また上述の抗体作製に使用した抗原の希釈系列を調製し、これを標準抗原試料として他の試料と同時に検出操作を行い、標準抗原濃度と測定値をプロットした標準曲線を作成することにより、他の試料中の抗原濃度を定量することも可能である。
【0048】
一方、発光する基質を使用した場合は、ウエスタンブロット法やドット/スロットブロット法においては、X線フィルム又はイメージングプレートを用いたオートラジオグラフィーや、インスタントカメラを用いた写真撮影により検出することができる。また、デンシトメトリーやモレキュラー・イメージャーFxシステム(バイオラッド社製)等を利用した定量も可能である。さらに、ELISA法で発光基質を用いる場合は、発光マイクロプレートリーダー(例えば、バイオラッド社製等)を用いて酵素活性を測定する。
【0049】
高速液体クロマトグラム(HPLC)を用いる場合、順相もしくは逆相カラムにポンプを用いてエルゴチオネインを含むサンプルを流して他の不純物とエルゴチオネインとを分離し、続いてUV(紫外線)検出器に流し込むことにより、エルゴチオネインの持つ吸収波長である268 nmないしその近辺における吸収を測定することによりエルゴチオネインを定量することが可能である。またUV検出器の代わりに、質量分析装置(MSないしはMS/MS)を設置することによりイオン化されたエルゴチオネインを測定することにより定量することもできる。
【0050】
2.3 判定
判定は、試料中に含まれるエルゴチオネインレベルを指標として行う。すなわち、健常人に比較して、被験者の試料(末梢血(血清))中においてDエルゴチオネインレベルの有意な低下(p<0.05)が認められた場合には、当該被験者はクローン病を罹患している可能性が高いと判定できる。2.4. クローン病診断用キット
本発明はまた、クローン病診断用キットであって、被験者のクローン病の罹患の有無を診断できることを特徴とするキットを提供する。本発明のキットは、必須の構成要素として抗エルゴチオネイン抗体含む。
前記エルゴチオネイン抗体の由来は、ヒトエルゴチオネイン検出に利用可能であれば特に限定されないが、抗ヒトエルゴチオネイン抗体が望ましい。抗体は、適当な標識によりラベル(例えば、酵素標識、放射性標識、蛍光標識等)されていてもよいし、ビオチン等により適当に修飾されていてもよい。また、適当な支持体に固相化されていてもよいし、あるいは固相化可能なように別個に支持体がキットが含まれていてもよい。そのような支持体としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン、ポリスチレン、ポリメタクリレート、ポリアクリルアミド等の蛋白を付着可能な合成樹脂、ガラス、ニトロセルロース、セルロース、およびアガロース製の支持体、あるいはゲル型支持体を使用することができる。支持体の形態は特に限定されないが、極小球あるいはビーズ(例えば“ラテックス”ビーズ)などの微粒子、微量遠心チューブなどのチューブ(内壁)、マイクロタイタープレート(ウェル)等の形態で提供される。
【0052】
本発明のキットは、上記した構成要素のほか、必要に応じて、ラベル体の検出のための試薬、反応用緩衝液、酵素、基質等、本発明の実施に必要な他の要素を含んでいてもよい。
【0053】
3. クローン病罹患リスクの診断方法
発明者らは、クローン病の罹患リスク(発症リスク)とOCTN1の直接的関わりを明らかとするために、OCTN1の遺伝子多型解析を実施し、その結果、クローン病患者において健常人よりも10倍以上の頻度で出現する新規なディプロタイプ1とディプロタイプ20を見出した(図8)。このディプロタイプ1は、OCTN1のアミノ酸置換を伴うSNPs rs272893(I306T)とアミノ酸置換を伴わないrs272879(T394T)の変異およびOCTN2のSNPs rs13180169、rs13180186、rs13180043、rs13180295、rs2631365、rs274558、rs274557が全て野生型からなるハプロタイプ1のホモ接合である。さらに、発明者らはディプロタイプ 1とは別なディプロタイプ 20を見出し、このディプロタイプ20 をディプロタイプ1と合わせて解析することにより、クローン病の罹患リスクを潰瘍性大腸炎と鑑別して判定できることを見出した。ちなみに、ディプロタイプ20は、OCTN1のSNPs rs272893(I306T)とrs272879(T394T)が野生型であり、OCTN2のSNPs rs13180169、rs13180186、rs13180043、rs13180295、rs2631365、rs274558、rs274557が全て変異型であるハプロタイプ2と、OCTN1のrs272893(I306T)とrs272879(T394T)が変異型であり、OCTN2のrs2631365(L95L)が変異型であるハプロタイプ11のヘテロ接合である(図11)。
【0054】
3.1 ゲノムDNAを含む試料の調製
本発明の方法で用いられる「ゲノムDNAを含む試料」は、被験者および臨床検体等から単離されたあらゆる細胞(生殖細胞を除く)、組織、臓器等を材料として調製される。該材料としては、口腔粘膜の細胞や末梢血から分離した白血球または単核球が好適である。これらの材料は、臨床検査において通常用いられる方法にしたがって単離される。
【0055】
例えば白血球を材料とする場合、まず被験者より単離した末梢血から常法に従って白血球を分離する。次いで、得られた白血球にプロテイナーゼKとドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を加えてタンパク質を分解、変性させた後、フェノール/クロロホルム抽出を行うことによりゲノムDNA(RNAを含む)を得る。RNAは、必要に応じてRNaseにより除去することができる。ただし、ゲノムDNAの抽出は、上記の方法に限定されず、当該技術分野で周知の方法(例えば、Sambrook, J. et al. (1989):"Molecular Cloning: A Laboratory Manual (2nd Ed.)" Cold Spring Harbor Laboratory, NY)や、市販のDNA抽出キット等を利用して行ってもよい。
【0056】
3.2 遺伝子多型の検出
次に、得られたヒトゲノムDNAを含む試料から、本発明者らによって解明された、クローン病あるいは潰瘍性大腸炎と極めて関連の深い新規遺伝子多型を検出する。遺伝子多型検出方法としては、以下の方法を用いることができるが、これらに限定されるものではない。
【0057】
(1)RFLP(制限酵素切断断片長多型)法
(2)PCR-SSCP法(一本鎖DNA高次構造多型解析)〔Biotechniques, 16,296-297 (1994), Biotechniques, 21, 510-514 (1996)〕
(3)ASO(Allele Specific Oligonucleotide)ハイブリダイゼーション法〔Clin. Chim. Acta, 189, 153-157 (1990)〕
(4)ダイレクトシークエンス法〔Biotechniques, 11, 246-249 (1991)〕
(5)ARMS(Amplification Refracting Mutation System)法〔Nuc. Acids. Res., 19, 3561-3567 (1991), Nuc. Acids. Res., 20,4831-4837 (1992)〕
(6)変性剤濃度勾配ゲル電気泳動(Denaturing Gradient Gel Electrophoresis、以下「DGGE」という)法〔Biotechniqus, 27, 1016-1018 (1999)〕
(7)RNaseA切断法〔DNA Cell. Biol., 14, 87-94 (1995)〕
(8)化学切断法〔Biotechniques, 21, 216-218 (1996)〕
(9)DOL(Dye-labeled Oligonucleotide Ligation)法〔Genome Res., 8, 549-556 (1998)〕。(10)TaqMan PCR法〔Genet. Anal., 14, 143-149 (1999), J. Clin. Microbiol., 34, 2933-2936 (1996)〕
(11)インベーダー法〔Science, 5109, 778-783(1993), J. Biol. Chem., 30, 21387-21394 (1999), Nat. Biotechnol., 17, 292-296 (1999)〕
(12)MALDI-TOF/MS法(Matrix Assisted Laser Desorption-time of Flight/Mass Spectrometry)法〔Genome Res., 7, 378-388 (1997), Eur. J. Clin. Chem. Clin. Biochem., 35, 545-548 (1997)〕
(13)TDI(Template-directed Dye-terminator Incorporation)法〔Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 94, 10756-10761 (1997)〕
(14)モレキュラー・ビーコン(Molecular Beacons)法〔Nat. Biotechnol.,1, p49-53 (1998)、遺伝子医学、4, p46-48(2000)〕
(15)ダイナミック・アレル-スペシフィック・ハイブリダイゼーション法(Dynamic Allele-Specific Hybridization (DASH)法〔Nat. Biotechnol.,1, p87-88, (1999)、遺伝子医学, 4, p47-48 (2000)〕
(16)パドロック・プローブ(Padlock Probe)法〔Nat. Genet., 3, p225-232 (1998)、遺伝子医学, 4, p50-51 (2000)〕
(17)UCAN法[タカラ酒造株式会社ホームページ(http://www.takara.co.jp)参照]
(18)DNAチップまたはDNAマイクロアレイ
(19)ECA法〔Anal. Chem., 72, p1334-1341, 2000〕
【0058】
以上は代表的な多型検出方法であるが、これらに限定されず、他の公知の遺伝子多型検出方法を本発明の判定方法のために利用することができる。また、本発明の方法においては、これらの遺伝子多型検出方法を単独で用いても、2つ以上を組み合わせて用いてもよい。本発明の好適な実施形態の1つとして、後述する実施例では、ダイレクトシークエンス法を用いた判定方法を示す。
【0059】
3.3 検出結果の解析と判定
本発明の方法にしたがい、単離されたヒトゲノムDNAを含む試料における遺伝子多型を調べた結果、ディプロタイプ1が検出されれば、当該被験者はクローン病あるいは潰瘍性大腸炎を発症する危険度が相対的に高いと判定することができる。一方、ディプロタイプ1は検出されるが、ディプロタイプ20が検出されない場合には、当該被験者は(潰瘍性大腸炎ではなく)クローン病を発症する危険度が相対的に高いと判定することができる。このように、2つのディプロタイプを組み合わせることにより、これまで潰瘍性大腸炎との鑑別が困難であったクローン病の罹患リスクを高い確度で評価することができる。
【0060】
3.4 クローン病罹患リスク診断用キット
本発明の判定方法では、クローン病あるいは潰瘍性大腸炎の発症に関連した遺伝子多型を検出するために、検出すべき遺伝子多型が存在する部位またはその近傍の配列を検出するためのプローブもしくは固相化試料、または該配列を特異的に増幅するためのプライマーが用いられる。これらのプローブ、プライマーおよび固相化試料は、本発明の判定方法を実施するための試薬、またはキットとして有用である。
【0061】
すなわち、本発明は、OCTN1遺伝子上の遺伝子多型を検出するためのプローブ、プライマーおよび固相化試料、ならびにこれらの少なくとも一つ以上を含む、クローン病の罹患リスク診断用キットを提供する。
【0062】
(1)プローブ
本発明の方法で用いられるプローブは、OCTN1またはOCTN2遺伝子領域上のSNPs(一塩基多型)を含む部位に特異的にハイブリダイズし、該多型部位を検出するためのポリヌクレオチドプローブである。
【0063】
そのようなプローブは、OCTN1遺伝子領域上においてSNPs rs460271、rs398064、rs11568509、rs11568510、rs456392、rs11568500、rs3761659、rs270600、rs11568503、rs272893、rs2304081、rs272879、rs1050150、rs4646201、またはrs1050152を含む16~500塩基長の連続したポリヌクレオチド、あるいはOCTN2遺伝子領域上においてSNPs rs13180169、rs13180186、rs13180043、rs13180295、rs2631365、rs274558、またはrs274557を含む16~500塩基長の連続したポリヌクレオチド(ただし、上記ポリヌクレオチドがRNAである場合、配列表中の塩基記号「t」は「u」に読み替えるものとする)として設計される。
【0064】
(2)プライマー
本発明の方法で用いられるプライマーは、OCTN1またはOCTN2遺伝子領域上のSNPs(一塩基多型)を含む部位を特異的に増幅するためのオリゴヌクレオチドプライマーである。
【0065】
そのようなプライマーは、OCTN1遺伝子領域上においてSNPs rs460271、rs398064、rs11568509、rs11568510、rs456392、rs11568500、rs3761659、rs270600、rs11568503、rs272893、rs2304081、rs272879、rs1050150、rs4646201、またはrs1050152を含む16塩基長以上の連続したポリヌクレオチド、あるいはOCTN2遺伝子領域上においてSNPs rs13180169、rs13180186、rs13180043、rs13180295、rs2631365、rs274558、またはrs274557を含む16塩基長以上の連続したポリヌクレオチドの一部に相補的で、該ポリヌクレオチドを特異的に増幅するための、15~30塩基長、好ましくは18~25塩基長程度のオリゴヌクレオチドとして設計される。
【0066】
増幅するポリヌクレオチドの長さは、用いられる検出方法に応じて適宜設定されるが、一般的には16~1000塩基長、好ましくは20~500塩基長、より好ましくは20~200塩基長である。
【0067】
以上のことから、多型部位近傍の配列に含まれる、15塩基以上の連続したヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド(あるいはオリゴヌクレオチド)は、上記プライマーまたはプローブとして利用することができる。
【0068】
本発明のプライマーまたはプローブには、その配列の末端に、検出のための適当な標識、例えば、蛍光色素、酵素、タンパク、放射性同位体、化学発光物質、ビオチン等が付加されたものも含むものとする。
【0069】
なお、本発明において用いられる蛍光色素としては、一般にヌクレオチドを標識して、核酸の定量、検出等に用いられるものが好適に使用でき、例えば、HEX(4,7,2',4',5',7'-hexachloro-6-carboxyfluorescein、緑色蛍光色素)、フルオレセイン(fluorescein)、NED(アプライドバイオシステムズ社商品名、黄色蛍光色素)、あるいは、6-FAM(アプライドバイオシステムズ社商品名、黄緑色蛍光色素)、ローダミン(rhodamin)またはその誘導体(例えば、テトラメチルローダミン(TMR))等を挙げることができるが、これらに限定されない。蛍光色素でヌクレオチドを標識する方法は、公知の標識法のうち適当なものを使用できる〔Nature Biotechnology, 14, p303-308 (1996)〕参照」。また、市販の蛍光標識キットを使用することもできる(例えば、アマシャム・ファルマシア社製 オリゴヌクレオチドECL 3’-オリゴラベリングシステム等)。
【0070】
また、本発明のプライマーには、その末端に多型検出のためのリンカー配列が付加されたものも含むものとする。このようなリンカー配列としては、例えば、前述したインベーダー法で用いられるオリゴヌクレオチド5’末端に付加される、フラップ(多型近傍の配列とは全く無関係な配列)等が挙げられる。
【0071】
なお、本明細書中において、「ポリヌクレオチド」は核酸と同義であって、DNAおよびRNAの両方を含むものとする。また、2本鎖であっても1本鎖であってもよく、したがって、ある配列を有するポリヌクレオチドには、これに相補的な配列を有するポリヌクレオチドも常に包含される(オリゴヌクレオチドも同様)。さらに、ポリヌクレオチドがRNAである場合、配列表に示される塩基記号「t」は「u」に読み替えるものとする。
【0072】
上記プライマーまたはプローブとして用いられ得るポリヌクレオチドは、当該技術分野で周知の方法に基づき化学合成することにより得ることができる。これらのプローブまたはプライマーとして用いられるポリヌクレオチドは、クローン病の罹患リスク診断用試薬として利用できる。
【0073】
(3)固相化試料
本発明の固相化試料は、(1)記載のプローブとして用いられるポリヌクレオチドを、ガラス板、ナイロンメンブレン、マイクロビーズ、シリコンチップ、キャピラリー等の固相に固定することにより作製される。固相への固定は、予め合成したポリヌクレオチドを固相上に乗せる方法であってもよいし、目的とするポリヌクレオチドを固相上で合成する方法であってもよい。固定方法は、例えばDNAマイクロアレイであれば、市販のスポッター(Amersham社製等)を利用するなど、目的とする固相化試料に適した方法が、当該技術分野で周知である。このような固相化試料としては、例えば、遺伝子チップ、cDNAマイクロアレイ、オリゴアレイ、メンブレンフィルター等を挙げることができる。
【0074】
(4)キット
本発明のキットは、上記プローブまたはプライマーとして用いられ得るポリヌクレオチド、ならびに固相化試料から選ばれる少なくとも一つ以上を含む。本発明のキットは上記構成要素のほか、必要に応じて、ハイブリダイゼーション、プローブの標識、ラベル体の検出等、本発明の判定方法の実施に必要な他の試薬、器具等を適宜含んでいてもよい。
【0075】
本発明によって、上記判定基準からクローン病あるいは潰瘍性大腸炎を発症する危険度(罹患リスク)が相対的に高いことが判明した被験者に対しては、その旨を告知し、予めクローン病あるいは潰瘍性大腸炎の発症を防ぐための対策を講じることができる。したがって、本発明はクローン病あるいは潰瘍性大腸炎を予防するための検査方法としてきわめて有用である。
【0076】
4.クローン病の予防または治療用組成物
本発明において、エルゴチオネインの類縁体とは、エルゴチオネインの基本構造に対して、その一部(複数箇所であってもよい)を他の原子団等で置換すること、或いは他の分子を付加すること等の修飾を施すことによって、少なくとも一部において前記基本構造と相違する構造の化合物を示す。
【0077】
本発明における類縁体の代表例としては、エルゴチオネインの一部が他の原子または原子団で置換された誘導体を挙げることができる。ここでの他の原子または原子団としては、ヒドロキシル基、ハロゲン(フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等)、アルキル基(メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基等)、ヒドロキシアルキル基(ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基等)、アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基等)、アシル基(ホルミル基、アセチル基、マロニル基、ベンゾイル基等)等を例示することができる。
【0078】
本発明のエルゴチオネイン類縁体には、その官能基が適当な保護基によって保護されているものも含まれる。このような目的に使用される保護基としては、アシル基、アルキル基、単糖、オリゴ糖、多糖等を用いることができる。このような保護基は、保護基を結合させるペプチド部位や使用する保護基の種類などに応じて、アミド結合、エステル結合、ウレタン結合、尿素結合等によって連結される。
【0079】
本発明のエルゴチオネイン類縁体の更なる例としては、糖鎖の付加による修飾が施されているものを挙げることができる。また、N末端またはC末端が他の原子等で置換されることによってアルキルアミン、アルキルアミド、スルフィニル、スルフォニルアミド、ハライド、アミド、アミノアルコール、エステル、アミノアルデヒド等に分類される各種誘導体も本発明のエルゴチオネイン類縁体に含まれる。なお、以上で説明した各種の修飾方法は、適宜組み合わせることができる。
【0080】
上記のエルゴチオネイン類縁体の具体例としては、例えば、stachydrineやbetonicineを挙げることができる。
【0081】
本発明のエルゴチオネインまたはその類縁体には、エルゴチオネインの塩また上記エルゴチオネイン類縁体の塩またはその水和物も含まれる。本発明の塩は薬学的に許容可能な限りその種類は特に限定されず、塩酸、リン酸、硫酸、硝酸、ホウ酸等との塩(無機酸塩)や、ギ酸、酢酸、乳酸、フマル酸、マレイン酸、酒石酸、クエン酸等との塩(有機酸塩)をその例として挙げることができる。これらの塩の調製は慣用手段によって行なうことができる。
【0082】
本発明における潰瘍性大腸疾患の予防または治療薬としては、医薬製剤のほか、ダイエタリーサプリメントが挙げられる。ダイエタリーサプリメントとしては、医薬品と同様の形状を有するが薬事法上医薬品に属さない経口投与製剤、または本発明の有効成分を食品に添加したものが挙げられる。
【0083】
即ち本発明はエルゴチオネインまたはその類縁体を有効成分とする医薬組成物またはダイエタリーサプリメント用栄養組成物に該当する。
【0084】
本発明において医薬製剤とは、本発明の有効成分に医薬品製剤基剤として通常用いられる担体、例えば賦形剤、崩壊剤、滑沢剤、緩衝剤、結合剤、乳化剤、懸濁剤、無痛化剤、安定剤、保存剤、防腐剤、生理食塩水等を加えたものを表し、剤型としては錠剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、カプセル剤、シロップ剤、注射剤、外用剤、および座剤等が挙げられる。賦形剤としては乳糖、デンプン、ソルビトール、D-マンニトール、白糖等を用いることができる。崩壊剤としてはデンプン、カルボキシメチルセルロース、炭酸カルシウム等を用いることができる。緩衝剤としてはリン酸塩、クエン酸塩、酢酸塩等を用いることができる。乳化剤としてはアラビアゴム、アルギン酸ナトリウム、トラガント等を用いることができる。結合剤としては、プルラン、アラビアゴム、ゼラチン、デンプン等を用いることができる。滑沢剤としてはステアリン酸マグネシウム、メチルセルロース、ケイ酸マグネシウムを用いることができる。懸濁剤としてはモノステアリン酸グリセリン、モノステアリン酸アルミニウム、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ラウリル硫酸ナトリウム等を用いることができる。無痛化剤としてはベンジルアルコール、クロロブタノール、ソルビトール等を用いることができる。安定剤としてはプロピレングリコール、ジエチリン亜硫酸塩、アスコルビン酸等を用いることができる。保存剤としてはフェノール、塩化ベンザルコニウム、ベンジルアルコール、クロロブタノール、メチルパラベン等を用いることができる。防腐剤としては塩化ベンザルコニウム、パラオキシ安息香酸、クロロブタノール等を用いることができる。
【0085】
本発明における、ダイエタリーサプリメント経口製剤とは、本発明の有効成分に栄養食品製剤基剤として通常用いられる担体、例えば賦形剤、崩壊剤、乳化剤、安定剤、滑沢剤、緩衝剤、香料等を加えたものを表し、剤型としては錠剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、カプセル剤が挙げられる。
【0086】
本発明の有効成分を食品に添加したダイエタリーサプリメントとは、本発明の有効成分を用いて常法により製造した、栄養飲料、清涼飲料、ゼリー等が挙げられる。
【0087】
エルゴチオネインは、これを含有するカビ・キノコ類等から公知の方法により抽出・精製することにより製造することができる。あるいは、公知の方法により、化学合成することもできる。こうしたエルゴチオネイン(天然品も合成品も)は既に市販されており、容易に入手可能である。
【0088】
修飾体の類縁体を有効成分とする医薬製剤もしくは経口ダイエタリーサプリメント製剤は、得られたエルゴチオネインまたはその類縁体を主活性成分として用いて、常法に従い製造することができる。
【0089】
製剤化する場合には、製剤上許容される他の成分(例えば、担体、賦形剤、崩壊剤、緩衝剤、乳化剤、結合剤、滑沢剤、懸濁剤、無痛化剤、安定剤、保存剤、防腐剤、生理食塩水など)をエルゴチオネインまたはその類縁体に含有させて所望の製剤を製造することができる。賦形剤としては乳糖、デンプン、ソルビトール、D-マンニトール、白糖等を用いることができる。崩壊剤としてはデンプン、カルボキシメチルセルロース、炭酸カルシウム等を用いることができる。緩衝剤としてはリン酸塩、クエン酸塩、酢酸塩等を用いることができる。乳化剤としてはアラビアゴム、アルギン酸ナトリウム、トラガント等を用いることができる。結合剤としては、プルラン、アラビアゴム、ゼラチン、デンプン等を用いることができる。滑沢剤としてはステアリン酸マグネシウム、メチルセルロース、ケイ酸マグネシウムを用いることができる。懸濁剤としてはモノステアリン酸グリセリン、モノステアリン酸アルミニウム、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ラウリル硫酸ナトリウム等を用いることができる。無痛化剤としてはベンジルアルコール、クロロブタノール、ソルビトール等を用いることができる。安定剤としてはプロピレングリコール、ジエチリン亜硫酸塩、アスコルビン酸等を用いることができる。保存剤としてはフェノール、塩化ベンザルコニウム、ベンジルアルコール、クロロブタノール、メチルパラベン等を用いることができる。防腐剤としては塩化ベンザルコニウム、パラオキシ安息香酸、クロロブタノール等と用いることができる。
【0090】
これらの製剤基剤を用いて常法により錠剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、カプセル剤、シロップ剤、注射剤、外用剤、および座剤等所望の剤型を製造することができる。
【0091】
またエルゴチオネインまたはその類縁体を添加して、常法により栄養飲料、清涼飲料、ゼリー等、栄養食品を製造することができる。
【0092】
このように製剤化した本発明エルゴチオネインまたはその類縁体を有効成分とする潰瘍性大腸疾患の予防および治療薬は、その形態に応じて経口投与または非経口投与(静脈内、動脈内、皮下、筋肉、腹腔内注射など)によって患者に適用され得る。本発明の薬剤中における有効成分(ペプチド等)の含量は一般に剤型によって異なるが、注射剤等液体製剤の場合は約0.001重量%~約10重量%、好ましくは0.01重量%~約3重量%、とりわけ好ましくは0.1重量%~約1重量%であり、錠剤等固形剤の場合は0.1重量%~約90重量%、好ましくは1重量%~約50重量%、とりわけ好ましくは3重量%~約30重量%である。
【0093】
本発明により、エルゴチオネインまたはその類縁体を有効成分とする製剤を投与する、クローン病を含む潰瘍性大腸疾患の予防または治療薬が提供される。本発明の予防または治療薬は、エルゴチオネインまたはその類縁体を有効成分として含む製剤を生体に投与するステップを含む。投与経路は特に限定されず例えば経口、静脈内、皮内、皮下、筋肉内、腹腔内、経皮、経粘膜などを挙げることができる。薬剤の投与量は症状、患者の年齢、性別、および体重などによって異なるが、当業者であれば適宜適当な投与量を設定することが可能である。例えば、エルゴチオネインまたはその類縁体を有効成分として含む製剤を使用する場合には、成人(体重約60 kg)を対象として一日当たりの有効成分量が約0.1μg~約3000 mg、好ましくは約0.1mg~約2000 mg、とりわけ好ましくは約0.1mg~約1000 mg、となるよう投与量を設定することができる。投与スケジュールとしては例えば一日一回~数回、二日に一回、或いは三日に一回などを採用できる。
【0094】
本発明において、エルゴチオネインまたはその類縁体を有効成分とする製剤を投与する潰瘍性大腸疾患の予防方法とは、潰瘍性大腸疾患の症状は発現していない成人が、ストレスにより潰瘍性大腸疾患の症状が発現するのを防ぐために、予防的エルゴチオネインまたはその類縁体を有効成分とする製剤を服用することを示し、エルゴチオネインまたはその類縁体を有効成分とする製剤を投与する潰瘍性大腸疾患の治療方法とは、潰瘍性大腸疾患の症状を発現した患者に対して、それらの進行を抑制または改善するために投与することを示す。投与スケジュールの設定においては、患者の病状や薬剤の効果持続時間などを考慮することができる。
【実施例】
【0095】
以下、実施例を参照しながら、本発明についてより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0096】
1.実験方法
1.1 試薬・器具および実験動物
マウスの飼育および繁殖は金沢大学学際科学実験センター実験動物研究施設にて、金沢大学動物実験指針に従い行った。Expand high fidelity PCR systemはRocheより購入した。LA Taq with GC bufferはTaKaRaより購入した。MinEluteTM PCR purification kitは、QIAGENより購入した。PUREGENE buccal cell DNA purification kitは、Gentra SYSTEMSより購入した。上記以外の試薬は全て、市販試薬特級を用いた。
【0097】
1.2 ヒト血液に含まれるergothioneine濃度の定量
日本人クローン病患者血液サンプル26名(男性19名、女性7名)、日本人潰瘍性大腸炎患者血液サンプル(男性9名、女性6名)、日本人コントロール血液サンプル9名(男性8名、女性1名)は金沢大学大学院医学系研究科環境医科学専攻恒常性制御学分野(金子周一教授、加賀谷尚史助教)より、日本人コントロール血液サンプルは金沢大学自然科学研究科においてボランティア22名(男性16名、女性6名)より提供された。ヘパリン処理された真空採血管により採血した血液サンプル10 μLをcephaloridine (内標準物質) 50 ng/μLを溶解した滅菌MiliQ で10倍に希釈し、溶血させた。アセトニトリル100 μL、滅菌MiliQ 10 μLに10倍希釈した血液50 μLを加え、15,000rpm、4 ℃、15分で遠心し、その上清をHPLCにて測定した。
【0098】
1.3 HPLCによる測定条件
カラム: Atlantis HILIC silica column 5.0 μm, 4.6 x 250 mm (Waters,USA)
ガードカラム: Atlantis HILIC silica guard column 5.0 μm, 4.6 x 10 mm (Waters,USA)
移動相:メタノール/100 mMギ酸 アンモニウム (95/5)
検出波長:268 nm
流速:1.0 mL/分
サンプル注入量:20 μL
ポンプ: PU-2080 Plus (Jasco, Tokyo, Japan)
検出器: UV-2075 Plus (Jasco, Tokyo, Japan)
オートサンプラー: AS-2057 Plus (Jasco, Tokyo, Japan)
カラムオーブン:Co-2065 Plus (Jasco, Tokyo, Japan)
デガッサー: DG-2080-54 (Jasco, Tokyo, Japan)
インテグレーター: C-R7Ae Plus CHROMATOPAC (SHIMADZU)
【0099】
1.4 ゲノムDNAサンプル
ヒトゲノムDNAサンプルを用いた解析は、金沢大学大学院医学系研究科等におけるヒトゲノム・遺伝子解析研究倫理審査委員会により承認された研究計画[課題名『炎症性腸疾患の発症・薬剤応答と薬物トランスポーターの遺伝子多型に関する研究』(審査番号:第96号、平成17年)、課題名『日本人クローン病患者における有機カチオントランスポーター遺伝子の一塩基多型の検討』(審査番号:第97号、平成17年)、課題名『日本人健常人におけるトランスポーター遺伝子ならびに制御因子の一塩基多型の研究』(審査番号:第109号、平成18年)]に則って実施した。
【0100】
日本人クローン病患者のゲノムDNAサンプルのうち、63サンプルは金沢大学大学院医学研究科(金子周一 教授、北村和哉博士)より、193サンプルは九州大学大学院医学研究院(和田守正助教授;現長崎国際大学薬学部教授)より提供された。
【0101】
日本人潰瘍性大腸炎患者のゲノムDNAサンプルのうち、15サンプルは金沢大学大学院医学研究科(金子周一 教授、加賀谷尚史助教)より、30サンプルは和田守正助教授より提供された。
【0102】
コントロールサンプルは、金子周一 教授、加賀谷尚史 助教より8サンプル、金沢大学大学院自然科学研究科においてボランティア33人より、金沢大学 薬学部において35人より提供された。
【0103】
1.5 コントロールサンプルのゲノムDNA抽出
口腔粘膜細胞を採取し、PUREGENE buccal cell DNA purification kit (Gentra SYSTEMS)の標準プロトコールに従って、ゲノムDNAを抽出した。
【0104】
1.6 ダイレクトシーケンス
OCTN1およびOCTN2に特異的なプライマーをNCBI database (http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)をもとに設計し、ファスマック(Kanagawa, Japan)に合成を依頼した。OCTN1のexon5, 7およびOCTN2の5’UTR, exon1, 4のプライマー配列は、表3に示した。
【0105】
【表3】
JP0005376421B2_000005t.gif

【0106】
Expand High Fidelityを用いたPCR反応(OCTN1 exon5, 7、OCTN2 exon4)では、下記の反応液を調製した。
【0107】
【表4】
JP0005376421B2_000006t.gif

【0108】
LA Taq with GC Bufferを用いたPCR反応(OCTN2 5’UTR, exon1)では、下記の反応液を調製した。
【0109】
【表5】
JP0005376421B2_000007t.gif

【0110】
以上の反応液を24 μLずつ、PCR用チューブに分け、template (5 ng/ μL) 1 μLを加え、軽く遠心し、下記の条件に従い、サーマルサイクラーでPCR反応を行った。
【0111】
【表6】
JP0005376421B2_000008t.gif

【0112】
PCR反応後のDNAの精製は、MinEluteTM PCR purification kit (QIAGEN)を用いて行った。PCR反応液にbuffer PB 500 μLを加えて混和したものをMineluteカラムにアプライし、DNAをカラムに結合させて1分遠心した。フロースルー液は捨て、洗浄のため、Buffer PE 750 μLをカラムに添加し、1分遠心した。フロースルー液を捨て、Buffer PE 由来の残留エタノールを完全に除去するために、さらに1分遠心した。Mineluteカラムを新しい1.5 mLチューブにのせ、カラムのメンブレン表面の中央にbuffer EB 20 μLを添加し、1分放置後、1分遠心した。フロースルー液を再びカラムのメンブレン表面の中央に添加し、1分放置後、1分遠心した。
【0113】
精製されたDNAをtemplateとしたシーケンス反応においては下記の反応液を調製した。
【0114】
【表7】
JP0005376421B2_000009t.gif

【0115】
以上の反応液を19 μLずつ、PCR用チューブに分け、精製したtemplate DNA 1 μLを加え、軽く遠心し、下記の条件に従い、サーマルサイクラーでPCR反応を行った。
【0116】
【表8】
JP0005376421B2_000010t.gif

【0117】
シーケンス反応液に3 M Sodium acetate 2 μL、99.99 % エタノール 50 μLを加え、15,000 rpmで20分遠心した。上清を取り除き、70 % エタノール 100 μLを添加し、数秒ボルテックスをかけたものを15,000 rpm で10分遠心した。上清を完全に取り除き、エタノールを飛ばすため、90 ℃で3分、4 ℃で3分置いたものを、ABI PRISM 310 Genetic Analyzerで測定した。
【0118】
1.7 シーケンスデータの解析
Genotypeの解析においては、NCBI database(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/) に登録されている各SNPsにおいて、contig referenceとされているSNPをwild typeとし、それ以外のSNPをmutantと定義した。また、アミノ酸変異を伴うnonsynonymous SNPおよびアミノ酸変異を伴わないsynonymous SNPに関しては、アミノ酸配列番号およびアミノ酸記号で表記した。それ以外のSNPに関しては、NCBI dbSNPのID番号で表記した。
【0119】
Haplotypeおよびdiplotype頻度解析においては、得られた各SNPsのgenotypeデータをもとに、SNPAlyze software ver. 6.0 (DYNACOM Co.,Ltd)を使用し、haplotypeおよびdiplotypeの頻度解析を行った。各haplotypeおよびdiplotypeの疾患-コントロール間および疾患-疾患間の統計解析にはSPSS software ver. 15.0 (SPSS Japan Inc.)を用いた。
【0120】
1.8 静脈内投与試験(マウス)
16 - 24時間絶食したマウスに、ソムノペンチル25 μL/bodyを腹腔内投与して麻酔し、仰向けに固定した。左右頚静脈を露出させ、さらにポリエチレンチューブ (SP31) を用いて膀胱カニューレを施した後、左頚静脈より薬液 ([3H]ergothioneine 100 μg, [14C]inulin 7 mg /3 mL/kg body) を投与した。投与から1, 5, 15, 30, 60, 90, 120, 180, 240分後に、右頚静脈より血液を約30 μLずつ採取し、ヘパリンコートした1.5 mL tubeに入れ、10,000 rpm, 10分遠心後、血漿10 μLを採取した。また、15, 30, 60, 120, 240分後に膀胱カニューレより生理食塩水200 μLを流し込んで、尿を回収した。投与後240分の採血の後、断頭し、膵臓、脾臓、肝臓、腸、腎臓、精巣、心臓、胸腺、肺、皮膚、筋肉、大腿骨、脳を摘出し、氷冷した生理食塩水で洗ってから、水分を拭き取り、秤量した。
【0121】
1.9 経口投与試験(マウス)
16 - 24時間絶食したマウスに、ソムノペンチル25 μL/bodyを腹腔内投与して麻酔し、仰向けに固定した。右頚静脈を露出させ、さらにポリエチレンチューブ (SP31) を用いて膀胱カニューレを施した後、経口ゾンデを用いて薬液 ([3H]ergothioneine 330 μg, [14C]inulin 23 mg/10 mL/kg body) を投経口与した。投与から5, 15, 30, 60, 90, 120, 180, 240分後に、右頚静脈より血液を約30 μLずつ採取し、ヘパリンコートした1.5 mL tubeに入れ、10,000 rpm, 10分遠心後、血漿10 μLを採取した。また、15, 30, 60, 120, 240分後に膀胱カニューレより生理食塩水200 μLを流し込んで、尿を回収した。投与後240分の採血の後、断頭してから、膵臓、脾臓、肝臓、腸、腎臓、精巣、心臓、胸腺、肺、皮膚、筋肉、大腿骨、脳を摘出し、氷冷した生理食塩水で洗ってから、水分を拭き取り、秤量した。腸管は3等分して、それぞれに生理食塩水5 mLをシリンジで流し込み、腸管管腔内に残存した薬液を回収した。
【0122】
1.10 長期経口投与試験(マウス)
代謝ケージ内で16 - 24時間絶食したマウスに、ソムノペンチル25 μL/bodyを腹腔内投与して麻酔した後、経口ゾンデを用いて薬液 ([3H]ergothioneine 330 μg/10 mL/kg body) を経口投与した。1時間後、カミソリで尾静脈を切り、ヘパリン処理済みcapillary tube (Fisher Scientific) を用いて血液約40 μLを採取した。麻酔から回復後、代謝ケージ内で飼育し、エサおよび水は自由に摂取させ、尿を回収した。投与から1, 2, 3, 5, 7, 10, 14日後に、代謝ケージを洗い込んで尿を回収した。血液10 μLを採取し、残った血液をヘパリンコートした1.5 mL tubeに入れ、10,000 rpm, 10分遠心後、血漿10 μLを採取した。回収した尿は秤量後、0.5 mLを測定に用いた。投与から14日後、断頭し、膵臓、脾臓、肝臓、腸、腎臓、精巣、心臓、胸腺、肺、皮膚、筋肉、大腿骨、脳を摘出し、氷冷した生理食塩水で洗ってから、水分を拭き取り、秤量した。腸管は3等分して、それぞれに生理食塩水5 mLをシリンジで流し込み、腸管管腔内に残存した薬液を回収した。
【0123】
1.11 血漿、血液、尿および腸管管腔内回収液の放射活性測定(マウス)
血漿10 μLにクリアゾルI (nacalai tesque) 3 mLを加えた。血液10 μLを蒸留水で1,000倍希釈して、室温で一晩放置した後、H2O250 μLを加えて脱色し、クリアゾルI 3 mLを加えた。回収した尿全量および腸管管腔内回収液1 mLにクリアゾルI 3 mLを加えた。一晩放置した後、それぞれの放射活性を液体シンチレーションカウンターにより測定した。
【0124】
1.12 臓器の放射活性測定(マウス)
各臓器は、SOLUENE-350 (Packerd) を2 mLずつ加え、50 - 60 ℃, 3 hrまたは40 ℃, over night, 100 rpmで震盪して可溶化した。H2O2 600 μLを入れて1 - 2 hr放置して脱色し、5 M HClを200 μL加え中和した後、クリアゾルI (nacalai tesque) 10 mLを加え、液体シンチレーションカウンターで放射活性を測定した。
【0125】
1.13 臓器中ergothioneine濃度定量(マウス)
マウスを一晩絶食した後、ソムノペンチルで麻酔して仰向けに固定した。膀胱から尿を、大静脈より血液を採取した後に、すばやく臓器(肝臓、腎臓、肺、心臓、小腸、大腸、脳、脾臓、膵臓、胸腺、筋肉、皮膚)を摘出し、氷冷した生理食塩水で洗った。その後各臓器を0.050-0.15 g程度の大きさに切り重量を測定した。重量測定された各臓器に4倍量の滅菌蒸留水を加え、氷上で超音波ホモジナイザーmicroson XL-200(和研薬(株))で十分に臓器を破砕した。肝臓、腎臓、肺、心臓、小腸中部、小腸下部、脾臓、膵臓は、ホモジェネート液をさらに滅菌蒸留水で2倍希釈した。アセトニトリル100 μL、滅菌MiliQ 10 μLに各臓器のホモジェネート液50 μL加えて撹拌し、15,000 rpm、4℃で10分遠心し、その上清をHPLCにて測定した。
血液サンプル10 μLをヘパリン処理された真空採血管により採血した後、cephaloridine (内標準物質) 50 ng/μLで10倍に希釈し溶血させた。アセトニトリル100 μL、滅菌MiliQ 10 μLに10倍希釈した血液50 μLを加え、15,000 rpm、4℃、15分で遠心し、その上清をHPLCにて測定した。また、血液サンプルを3,000 rpm、4℃、10分で遠心して、赤血球と血漿を分離した。赤血球20 μLを滅菌MiliQで5倍希釈し、溶血させた。尿20 μLを滅菌MiliQで5倍希釈した。アセトニトリル100 μL、滅菌MiliQ 10 μL、cephaloridine 250 ng/μL 10 μLに5倍希釈した赤血球、血漿、5倍希釈した尿をそれぞれ50 μLを加えて、15,000 rpm、4 ℃で15分遠心し、その上清をHPLCにて測定した。
【0126】
1.14 小腸虚血再灌流(マウス)
両マウスを1日絶食後、ソムノペンチルの腹腔内投与により麻酔して開腹し、上腸間膜動脈を露出させ、動脈クレンメ(曲り、溝有り、極々小;夏目製作所, Tokyo, Japan)で60分間結紮した。その後、クレンメをゆっくり取り除くことにより血流の再灌流を開始し、生存時間を求めた。両マウスの生存曲線のp valueはGraphpad Prism 4により求めた。再灌流後30分に両マウス小腸組織を素早く摘出し4% paraformaldehyde/PBSで4 ℃、4時間浸漬固定した。その後、組織をehhanol、xyleneの順に浸してparaffin包埋し、ミクロトームで5 μmの厚さのparaffin切片を作成した。Paraffin切片はxyleneで脱paraffinし、ethanol、蒸留水の順に浸し、常法に従ってHE染色した。すなわち、切片をhemtoxyolin液に30-60秒浸し、流水に3分間浸した。次に、eosin液に30-60秒浸け、ethanol、xyleneを通して封入し、光学顕微鏡 (Axiovert S 100 microscope; Carl Zeiss) を使って切片を観察した。
【0127】
2.実験結果
2.1 エルゴチオネイン恒常性におけるOCTN1の役割
正常マウスおよびOCTN1ノックアウトマウスより血漿、血球および各臓器を採取し、その抽出液をキャピラリー電気泳動と質量分析装置を組み合わせたメタボローム解析することにより112化合物同時定量を行った結果、OCTN1ノックアウトマウスの体内において、エルゴチオネインのみが激減していることが明らかとなった(図1)。この結果は同様な解析をHPLCを用いて行った場合にも再現できた(図2)。
【0128】
さらにエルゴチオネインの吸収、分布、排泄を明らかとするため、[3H]標識したエルゴチオネインを経口投与後の、血漿中および血球中濃度、尿中排泄量、臓器中残存量を測定したところ、正常マウスでは2週間にわたり[3H]エルゴチオネインが血漿中に維持された一方、OCTN1ノックアウトマウスではいったん血漿中濃度が上昇するもののその後急速に低下した(図3)。一方で正常マウスでは血球中に[3H]エルゴチオネインが蓄積する一方、OCTN1ノックアウトマウスでは急速に低下していた(図3)。このことはノックアウトマウスで腎排泄が大きいこと(図4)とも合致していた。さらに、消化管に残存する[3H]エルゴチオネイン量はOCTN1ノックアウトマウスの方がやや高かった(図4)。以上の結果より、OCTN1がエルゴチオネインの消化管吸収や臓器移行性、腎臓における再吸収に関与していることが明らかとなった(図3および図4)。以上から、OCTN1は生体のエルゴチオネイン恒常性に重要な分子であり、OCTN1の機能失調は個体においてエルゴチオネイン低下に繋がることが明らかとなった。
【0129】
2.2 OCTN1と炎症性ストレスとの関係
OCTN1ノックアウトマウスを用い小腸虚血再かん流実験の結果、OCTN1ノックアウトマウスは野生型マウスに比べ、多くのマウスが速やかに死に至ることから、ノックアウトマウスの方が酸化ストレスに対して脆弱であることが明らかとなった(図5および図6)。これは、OCTN1ノックアウトマウスにおける抗酸化物質エルゴチオネインの欠乏に起因する酸化ストレスに対する脆弱性であると推測された。
【0130】
2.3 クローン病とエルゴチオネインの関係
クローン病患者における血中エルゴチオネイン濃度を測定したところ、健常人に比して有意に低いことが確認された(図7)。一方、同じ炎症性腸疾患である潰瘍性大腸炎患者では健常人と有意な差はなかった。この結果から、エルゴチオネインはクローン病と特異的に関連することが示された(図7)。
【0131】
2.4 クローン病とOCTN1の遺伝子多型の関係
OCTN1の遺伝子多型解析の結果、OCTN1遺伝子変異がホモとなるdiplotype 1が見出された(図8)。このdiplotype1を持つ人は調査された中では計12名いたが、そのうちの11名がクローン病患者であったことから、クローン病患者においては、このdiplotype 1が健常人の10倍以上の頻度で出現することが明らかとなり、このdiplotype 1を持つ人が極めて高いクローン病発症リスクを有していることが示された(図9)。
【0132】
Diplotype1は、haplotype1とhaplotype1の組み合わせである。Haplotype1は、OCTN1のI306TとT394Tがmutantであり、OCTN2のSNPsが全てwild typeである(図10)。エルゴチオネインは主にOCTN1によって輸送されることから、OCTN1に変異が存在するhaplotype1の組み合わせであるdiplotype1は、クローン病患者における血中エルゴチオネイン濃度の低下との関連性が示唆される。
【0133】
Diplotype20は、haplotype2とhaplotype11の組み合わせである。Haplotype2は、OCTN1のSNPsが全てwild typeであり、OCTN2のSNPsが全てmutantである。一方、haplotype11は、OCTN1のI306TとT394TおよびOCTN2のL95Lがmutantのhaplotypeである(図11)。
【0134】
Control、クローン病、潰瘍性大腸炎でのdiplotype1およびdiplotype20の頻度と、各群間での有意差検定を行なった。その結果、diplotype1はクローン病患者特異的に高頻度に出現し、diplotype20は潰瘍性大腸炎患者特異的に高頻度に出現することが確認された(図12および13)。このことから、これまで鑑別困難であったクローン病と潰瘍性大腸炎の発症リスクを、diplotype1およびdiplotype20を検出することで、区別して判定できることが示された。
【0135】
3.考察
本実験の結果、クローン病の複合的な発症メカニズムの要因として、OCTN1とエルゴチオネインが深く関与することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0136】
本発明は、クローン病の病態と発症メカニズムに関する新規な知見を提供する。本発明は、クローン病の根本的治療方法や、他の潰瘍性大腸疾患との鑑別診断を可能にするものであり、医療の分野において極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0137】
【図1】図1は、OCTN1ノックアウトマウスと野生型マウスのメタボローム解析結果(各部位におけるエルゴチオネイン量)を示す。
【図2】図2は、OCTN1ノックアウトマウスと野生型マウスの各部位におけるエルゴチオネイン量を示す。
【図3】図3は、OCTN1ノックアウトマウスと野生型マウスの血中(右)および血漿(左)エルゴチオネイン量を示す。
【図4】図2は、OCTN1ノックアウトマウスと野生型マウスのエルゴチオネインの腸管残存量(右)および尿中排出量(左)示す。
【図5】図5は、OCTN1ノックアウトマウスと野生型マウスの小腸酸化ストレスに対する耐性を示す。
【図6】図6は、CTN1ノックアウトマウスと野生型マウスの小腸を60分間虚血後、再灌流を開始して30分後のHE染色像を示す。
【図7】図7は、クローン病患者、潰瘍性大腸炎患者、健常人における血中エルゴチオネイン量を示す。
【図8】図8は、ディプロタイプ1の構造を示す。
【図9】図9は、健常人-クローン病患者間でのχ2検定結果を示す。
【図10】図10は、各SNPsによるハプロタイプの構成(上)と、各ハプロタイプによるディプロタイプの構成を示す(Reference (NCBI)は、NCBI database(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/) に登録されている各SNPsにおいて、contig referenceと称されている配列を意味し、本解析ではこの配列をwild typeとして定義した)。
【図11】図11は、ディプロタイプ20の構造を示す。
【図12】図12は、Control、クローン病、潰瘍性大腸炎でのdiplotype1の頻度と、各群間での有意差検定の結果を示す。
【図13】図13は、Control、クローン病、潰瘍性大腸炎でのdiplotype20の頻度と、各群間での有意差検定の結果を示す。

【配列表フリ-テキスト】
【0138】
配列番号1-プライマー
配列番号2-プライマー
配列番号3-プライマー
配列番号4-プライマー
配列番号5-プライマー
配列番号6-プライマー
配列番号7-プライマー
配列番号8-プライマー
配列番号9-プライマー
配列番号10-プライマー
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11
【図13】
12