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明細書 :心不全治療薬

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5344671号 (P5344671)
公開番号 特開2009-189292 (P2009-189292A)
登録日 平成25年8月23日(2013.8.23)
発行日 平成25年11月20日(2013.11.20)
公開日 平成21年8月27日(2009.8.27)
発明の名称または考案の名称 心不全治療薬
国際特許分類 C12N  15/115       (2010.01)
A61K  48/00        (2006.01)
A61P   9/04        (2006.01)
FI C12N 15/00 ZNAH
A61K 48/00
A61P 9/04
請求項の数または発明の数 3
全頁数 11
出願番号 特願2008-032744 (P2008-032744)
出願日 平成20年2月14日(2008.2.14)
審査請求日 平成23年1月12日(2011.1.12)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】304020177
【氏名又は名称】国立大学法人山口大学
発明者または考案者 【氏名】乾 誠
審査官 【審査官】吉田 知美
参考文献・文献 特開2002-062296(JP,A)
特開2006-042645(JP,A)
国際公開第2007/004748(WO,A1)
特開2007-082543(JP,A)
調査した分野 C12N 15/00-15/90
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/WPIDS/BIOSIS(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
ホスホランバンの細胞質ドメインを含む融合蛋白質をターゲットとしてSELEX法により選択されるホスホランバン・アプタマーが、以下の(a)~(c)のいずれかの塩基配列を有する1本鎖DNAまたはRNAであって、ホスホランバンに特異的な結合性を有するアプタマー。
(a)配列番号2~12(但し配列番号6を除く)のいずれかで表される塩基配列。
(b)配列番号2~12(但し配列番号6を除く)のいずれかで表される塩基配列の1若しくは数個の塩基が欠失・置換若しくは付加された塩基配列。
(c)配列番号2~12(但し配列番号6を除く)のいずれかで表される塩基配列との相同性が90%以上である塩基配列
【請求項2】
融合蛋白質がホスホランバンの1番目から26番目のアミノ酸部分に標識蛋白質が結合したものである請求項1に記載のホスホランバン・アプタマー
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のホスホランバン・アプタマーを含有する心不全治療薬
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、ホスホランバンに特異的に結合してホスホランバン機能を阻害するDNAまたはRNAアプタマー、および該アプタマーを含有する心不全治療薬に関する。
【背景技術】
【0002】
心臓の収縮力制御には、心筋細胞内のCa2+が中心的役割を果たすことが明らかになっている。心筋細胞内Ca2+は、主として細胞内Ca2+貯蔵部位である心筋小胞体へのCa2+輸送と、Ca2+遊離によって制御されている。心筋小胞体へのCa2+輸送により細胞質Ca2+濃度が低下すると心筋弛緩が起こり、心筋小胞体からのCa2+遊離によって細胞質Ca2+濃度が上昇すると収縮が起こる。従来、強心薬を主とした心不全治療薬は、動物への投与や取り出した拍動心臓への投与実験による心筋収縮力増強を指標にしたスクリーニング方法が用いられてきた。この方法で得られた強心薬は、交感神経系やレニン・アンギオテンシン系に関係するものであり、細胞外から細胞内へのCa2+流入を増加させる作用を有し、心筋細胞内Ca2+動態を制御するものではない。このため弛緩時の細胞質Ca2+濃度が充分に低下せず、充分な弛緩が得られないために、重症心不全をむしろ悪化させる方向に働く。
【0003】
心筋細胞内Ca2+動態では、細胞内のCa2+を制御している心筋小胞体のCa2+ポンプATPase(SERCA)蛋白質と、その調節蛋白質のホスホランバンが重要である。ホスホランバンは、心筋小胞体のCa2+輸送を司るSERCAの抑制因子として働き(非特許文献1)、ホスホランバンがSERCAから解離するとCa2+輸送が促進されることが明らかにされ(非特許文献2)、両蛋白質の結合部位も特定された(非特許文献3)。心筋小胞体のCa2+輸送が促進されると、最終的に心筋収縮力が増強される。
【0004】
このような機序に基づいた心不全治療の安全性と有効性は、遺伝子操作によりホスホランバンを欠損させたマウスの実験(非特許文献4)や、ウイルスを用いて不活性なホスホランバンを大量に発現させたラットの実験(非特許文献5)で示されている。これらの心臓では心筋小胞体のSERCA活性が著明に促進され、Ca2+動態の異常が是正されている。しかしながら、これらの遺伝子操作やウイルスによる遺伝子発現を治療方策として臨床で使うには、安全性や技術的な観点から現時点では極めて困難である。
【0005】
特許文献1では、心筋細胞内でのホスホランバンと筋小胞体SERCAの相互作用を阻害することにより、不全心臓における収縮能を高める心不全治療薬として、2つのペプチド複合体と、ホスホランバンの変異蛋白質を明らかにしている。また、心不全治療薬のスクリーニング方法として、ホスホランバンとの結合部位を含むCa2+ポンプ遺伝子組み換え蛋白質と、Ca2+ポンプとの結合部位を含むホスホランバン遺伝子組み換え蛋白質とを用いて、有用物質を選択する方法(特許文献2)が提示されているが、膨大な数の化合物ライブラリーをスクリーニングする必要があり、そのような薬物は未だ見出されていない。
【0006】
酵素や受容体に結合する短い1本鎖のDNAやRNAであるアプタマーは、医薬品としての可能性のため種々の分野で注目されている。特定の蛋白質に結合するアプタマーは、SELEX(Systematic evolution of ligands by exponential enrichment)法を用いることにより比較的容易に見出すことができる。SELEX法により取得したアプタマーの報告として、プリオン蛋白質と特異的に結合するRNAアプタマー(特許文献3)の他、ビトロネクチンアプタマー(特許文献4)、HGF(肝細胞増殖因子)に特異的に結合するアプタマー(特許文献5)があり、それぞれ、プリオン病の診断薬、抗癌剤、癌転移抑制剤としての用途が明らかにされている。しかしながら、心臓でホスホランバンに作用し心筋小胞体のSERCA活性を促進するようなアプタマーは知られていない。

【非特許文献1】Inui,M.et al.,J.Biol.Chem.261:1794-1800,1986
【非特許文献2】James,P.et al.,Nature 342:90-92,1989
【非特許文献3】Sasaki,T.et al.,J.Biol,Chem.267:1674-1679,1992
【非特許文献4】Minamisawa,S.et al.,Cell 99:312-322,1999Luo,W.et al.,Circ.Res.75:401-409,1994
【非特許文献5】Iwanaga,Y.et al.,J.Clin.Invest.113:727-736,2004
【特許文献1】特表2002-528512公報
【特許文献2】特開2002-62296公報
【特許文献3】特開2006-042645公報
【特許文献4】特開2002-58491公報
【特許文献5】特開2006-149302公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、遺伝子操作や遺伝子発現を伴わない心不全治療薬を提供するため、ホスホランバンに結合する物質、および当該物質を含有する心筋細胞内Ca2+動態の異常を是正する心不全治療薬を提供することをその主課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、心筋小胞体のCa2+輸送を司るSERCAの抑制因子として働くホスホランバンに結合する物質が、ホスホランバンの作用を阻害することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の(1)~(3)を提供する。
【0010】
(1)ホスホランバンの細胞質ドメインを含む融合蛋白質をターゲットとしてSELEX法により選択されるホスホランバン・アプタマーが、以下の(a)~(c)のいずれかの塩基配列を有する1本鎖DNAまたはRNAであって、ホスホランバンに特異的な結合性を有するアプタマー。
(a)配列番号2~12(但し配列番号6を除く)のいずれかで表される塩基配列。
(b)配列番号2~12(但し配列番号6を除く)のいずれかで表される塩基配列の1若しくは数個の塩基が欠失・置換若しくは付加された塩基配列。
(c)配列番号2~12(但し配列番号6を除く)のいずれかで表される塩基配列との相同性が90%以上である塩基配列
【0011】
(2)融合蛋白質がホスホランバンの1番目から26番目のアミノ酸部分に標識蛋白質が結合したものである上記(1)に記載のホスホランバン・アプタマー
【0013】
(3)上記(1)または(2)に記載のホスホランバン・アプタマーを含有する心不全治療薬。
【発明の効果】
【0014】
本発明のホスホランバンに特異的な結合性を有する核酸アプタマーは、心不全時の心筋細胞内Ca2+動態を改善し、心臓の収縮機能を改善するため、重症心不全患者に対し有効な治療剤となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明のアプタマーは、心筋小胞体のSERCAに作用するホスホランバンに特異的な結合性を有するものである。ホスホランバンは、心臓の遅筋および平滑筋に存在する低分子蛋白質で、配列番号1に示すように52個のアミノ酸からなり、細胞質ドメインは、ホスホランバンとCa2+-ATPaseとの機能的な結合にとって必須な領域であるとされている。心筋小胞体のSERCAの阻害因子であるホスホランバンは、SERCAと結合することによりSERCA活性を抑制し、必要に応じてSERCAから解離することによりSERCAを活性化する。心筋小胞体のSERCAが活性化されると、心筋小胞体へのCa2+輸送が増加し心筋弛緩が促進され、それに引き続く心筋収縮力が増強される。
【0016】
本発明のアプタマーは、ホスホランバンに特異的な結合性を有し、SERCAからホスホランバンを解離させ、SERCA活性を促進することが出来る物質であり、SELEX法により得ることができる。
【0017】
SELEX法とは、蛋白質などのターゲットに特異的に結合する物質を得るための操作法である。本発明で行うSELEX法は、ランダム配列をもつDNAまたはRNAのプールの中からターゲットに結合する配列をもつものを選択し、PCR(Polymerase chain reaction)法またはRT-PCR(Reverse Transcription Polymerase Chain Reaction:逆転写ポリメラーゼ連鎖反応)法での増幅を行い、それをもとにした1本鎖DNAまたは転写したRNAの中から再び結合する配列を選択する。このサイクルを繰り返すことによって結合する配列を収束させる。それぞれのサイクルにおいて、選択の際に蛋白質とDNAまたはRNAプールの濃度比、競合剤などの結合条件を厳しくすることにより、結合特異性の高い配列を得ることができる。
【0018】
本発明のSELEX法で使用するターゲット物質として、ホスホランバンの細胞質ドメインの選択された部分を使用できるが、SELEX法での精度を高めるために、該ドメイン選択部分のアミノ酸配列を有する物質に適切な蛋白を結合させた融合蛋白質を用いることが望ましい。ホスホランバンの細胞質ドメインの選択された部分のアミノ酸配列は、配列番号1に示すホスホランバン蛋白質の第1番目のM(メチオニン)から第26番目のQ(グルタミン)までのアミノ酸からなる配列である。リンカーを介して、該配列へ結合する適切な蛋白は、SELEX時に、容易に選別できる標識機能を有するものであればいかなるものでも良く、Myc、His6、HA、GST、FLAGなどの蛋白質をあげることができる。これらの蛋白質は、ホスホランバンの細胞質外部位に結合する適切なリンカーに結合させて、融合蛋白を形成させ、SELEX法で使用するターゲット物質として用いることができる。適切なリンカーとは、ホスホランバンの細胞質ドメイン選択部分にも、標識蛋白質にも容易に結合するものであり、融合蛋白質としてSDS電気泳動で確認ができる程度の分子量を付加することができればいかなるものでも良く、例えば、PDZドメインを使用することができる。
【0019】
本発明のSELEX法で取得するホスホランバン・アプタマーは、例えば、20塩基~80塩基、好ましくは、20塩基~60塩基のDNAまたはRNAのランダム・ライブラリーから選択することができる。該ランダム・ライブラリーは、それぞれ4種類のオリゴヌクレオチドから、ランダムに連続した20~80塩基、好ましくは、20塩基~60塩基を、化学的に合成して得られる。この場合、DNA合成用機器を用いることができる。DNAまたはRNAの両端にはPCRで増幅するための配列を付加する。RNAの場合には、さらに、5’端にRNA合成のための配列を付加する。DNAアプタマーの場合は1本鎖のDNAライブラーを、RNAアプタマーの場合はDNAライブラリーから合成したRNAを、ビーズに固相化したホスホランバンの細胞質ドメインを含まない組み換え融合蛋白質(コントロール融合蛋白質)と混合し、非特異的に結合するDNAまたはRNAを除く。コントロール融合蛋白質に結合しなかったDNAまたはRNAをホスホランバンの細胞質ドメインを含む組み換え融合蛋白質を固相化したビーズと混合する。洗浄後、結合したDNAまたはRNAを溶出、回収する。DNAアプタマーの場合は、回収されたDNAから2本鎖DNAをPCRで増幅し、さらに1本鎖DNAにする。RNAアプタマーの場合は、RT-PCRにより2本鎖DNAを増幅し、これを鋳型にRNAを合成する。これらの1本鎖DNAまたはRNAをもとに、前述のコントロール融合蛋白質による非特異的結合の除去、融合蛋白質への結合、PCRまたはRT-PCRによる増幅のサイクルを繰り返す。増幅サイクルは7~20サイクル行うが、好ましくは9~15サイクル行う。
【0020】
PCRまたはRT-PCRで増幅した2本鎖DNAは、クローニング・ベクターに挿入し、アプタマーの配列を決定する。得られた配列から1本鎖DNAまたはRNAを合成しアプタマーを得ることができる。ホスホランバンの細胞質ドメインを含む組み換え融合蛋白質へのアプタマーの結合能は、アプタマーの5’または3’端にビオチンを付加し、酵素標識したアビジンを用いて、結合したビオチン標識アプタマーを定量することにより求めることができる。
【0021】
さらに、これらのアプタマーのSERCA活性への効果は、イヌ心臓から調製した心筋小胞体濾胞を用いて測定し、ホスホランバンが存在しないウサギ骨格筋の筋小胞体濾胞へのアプタマーの効果と比較することによって求めることができる。アプタマーは、心筋小胞体濾胞のホスホランバンに結合することにより、SERCAからホスホランバンを解離させ、SERCA活性を促進する。骨格筋の筋小胞体濾胞においては、SERCA活性が変化しないことから、両SERCA活性の比を求めることにより、アプタマーのSERCA活性への効果の程度を知ることができる。
【0022】
SELEX法により選抜されたホスホランバンに特異的に結合するDNAアプタマーの例として、配列番号2~12の塩基配列を有するDNAをあげることができる。本発明は、これらのDNAに限定されるものではなく、ホスホランバンに特異的に結合するRNAの他、配列番号2~12で表される塩基配列の1若しくは数個の塩基が欠失・置換若しくは付加された塩基配列、または配列番号2~12で表される塩基配列との相同性が90%以上である塩基配列も含まれる。
【0023】
本発明のアプタマーは、経口投与、非経口投与または局所投与に適した種々の形態に製剤することができる。この場合、製剤化のために通常使用される賦形剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、防腐剤、等張化剤、安定化剤、分散剤、酸化防止剤、着色剤、香味剤、緩衝剤等の添加物を使用することができる。
【0024】
本発明の心不全治療薬は、錠剤、硬カプセル剤、軟カプセル剤、顆粒剤、散剤、細粒剤、丸剤、トローチ錠などの固体形態、あるいは、坐剤、軟膏などの半固体形態、注射剤、乳剤、懸濁液、ローション、スプレーなどの液体形態などの製剤形態として製剤化することができる。これらの製剤形態では、剤形に好ましい、製剤上許容される添加物を用いるが、例えば、乳糖、ブドウ糖、乳糖、果糖、マルトース、炭酸マグネシウム、タルク、ステアリン酸マグネシウム、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、アラビアゴム、ポリエチレングリコール、p-ヒドロキシ安息香酸アルキルエステル、シロップ、エタノール、プロピレングリコール、グリセリン、ワセリン、または硬質油のような脂質成分、塩化ナトリウム、亜硫酸ソーダ、リン酸ナトリウム、クエン酸等が挙げられる。
【0025】
本発明の心不全治療薬において、アプタマーの含有量はその剤形に応じて異なるが、一般に固体及び半固体形態の場合には0.01~10重量%の濃度で、液体形態の場合には0.001~1重量%の濃度で含有していることが望ましい。投与量は、投与方法、患者の年齢及び体重、患者の容態等に応じて異なるが、経口投与する場合は1日当たり、0.01~10mg/kg体重とし、非経口投与する場合の1日当たりの用量は0.001~1mg/kg体重とすることができる。また、投与量は1日1回または数回に分けて投与することができる。
【0026】
以下、本発明をさらに詳しく説明するため、実施例を挙げるが本発明はこれに限定されない。
【実施例1】
【0027】
<SELEX法によるホスホランバン・アプタマーの選択>
【0028】
ホスホランバン・アプタマーの選択は、以下の方法で行った。PLN1‐26-PDZ-Myc-Hisまたは、PDZ-Myc-His融合蛋白質の調製は、Kimuraらの方法(Kimura,Y.et al.,Mol.Pharmacol.61:667-673,2002)で行った。PLN1-26-PDZ-Myc-Hisまたは、PDZ-Myc-Hisを結合したNi-NTAビーズの調製は、Ni-NTAビーズをPBS-T(0.05%のTween20を含むリン酸ブッファー溶液)で平衡化した後に、5μlのビーズにPLN1‐26-PDZ-Myc-Hisまたは、PDZ-Myc-His 10μgを含むPBS-T 200μlを加え、4℃で30分間振とうした。反応させたビーズは、PBS-T 1mlで3回洗浄した。1本鎖DNAライブラリーとしては、40塩基の混合配列の5’端と3’にそれぞれPCR用増幅用の配列P1(配列番号13)とP2(配列番号14)を付加した80塩基の1本鎖DNAを合成した。1nmolの1本鎖DNAライブラリーをPBS-T 100μl中98℃で3分間変性させ、直ちに4℃で冷却した。第1回目の選択では、1本鎖DNAライブラリーをPDZ-Myc-His6結合Ni-NTAビーズ 5μlとBSA 1μg/mlを含むPBS-T 10mlへ添加した。室温で30分間振とうした後、混合物を3,000rpmで5分間遠心分離し、その上清をPLN1‐26-PDZ-Myc-His 結合Ni-NTAビーズ 5μlと、室温で30分間混合した。ビーズは、PBS-T 1mlで3回洗浄した。蛋白に結合したアプタマーは、0.5mMのイミダゾール-HCl(pH 7.4)50μlに溶出した。溶出液は、フェノール-クロロホルム混合液で抽出し、1本鎖DNAをエタノールで沈殿させた。70%のエタノールで洗浄した後、1本鎖DNAは、10X PCRバッファー 10μl、4dNTPs(各2.5mM)8μl、100pmolのP1プライマー(配列番号13)と5’端をビオチン化したP2プライマー(配列番号14)、5% DMSO、Ex Taq DNA polymerase(タカラ・バイオ)2.5Uを含むPCR混合液100μlに溶解した。PCR反応では、95℃で2分間変性させた。95℃で30秒間の熱変性、58℃で30秒間のアニーリング、72℃で15秒間の伸長反応を20サイクル行い、最終的な伸長反応を72℃で2分間行った。
【0029】
PCR産物の一部を4%アガロースゲルで電気泳動し、正しい長さの2本鎖DNAが増幅されていることを確認した。PCR産物 90μlと5M NaCl 23μlを、Neuroavidin ビーズ(Pierce)5μlと室温で10分間混合した。PBS-T 1mlで3回洗浄した後、ビオチン化されていない1本鎖DNAは、0.1N NaOH 50μl中で5分間振とうした後、3,000rpmで5分間遠心分離してNeuroavidin ビーズから上清へと回収した。得られた上清のpHを調整するために、1M HCl 5μlを上清に加えた。1本鎖DNAは、エタノールで沈殿させ、70%のエタノールで洗浄し、PBS-T 100μlに溶解した。この1本鎖DNAを用いて2回目以降のホスホランバン・アプタマーの選択も1回目の選択と同様に行ったが、2回目以降の選択ではNi-NTAビーズに結合したPLN1‐26-PDZ-Myc-Hisの量をビーズ5μl当たり5μgとした。
【0030】
9回目の選択を行った後、得られた1本鎖DNAは、P1プライマー(配列番号13)とビオチン化していないP2プライマー(配列番号14)を使ってPCRで増幅した。PCRで得られた2本鎖DNAは、pCR2.1-TOPOベクター(Invitrogen,Carlsbad,CA)へ挿入、大腸菌(TOP 10:Invitrogen)へ導入して形質転換した。生育した大腸菌のコロニーから任意に45個のコロニーを選び、大腸菌からプラスミドを精製した。精製したプラスミドからT7プロモーターとM13逆転写プライマーを使用して、挿入したDNA配列を決定し、アプタマーのDNA配列を決定した。その結果、11種類のDNAアプタマーが得られた。11種類の配列は、表1の通りであった。
【0031】
【表1】
JP0005344671B2_000002t.gif

【実施例2】
【0032】
<ホスホランバン・アプタマーの心筋小胞体SERCA活性への効果>
【0033】
イヌの心臓より調製した心筋小胞体濾胞(最終濃度50μg/ml)またはウサギ骨格筋より調製した筋小胞体濾胞(最終濃度50μg/ml)を、20mMのイミダゾール-HCl(pH6.9)、100mMのKCl、2mMのMgCl2、5mMのNaN3、0.1mMのATP、0.35μM Ca2+(Ca-EGTA buffer:0.5mMのCaCl2と1.3mMのEGTA)を含む反応液50μlに懸濁し、合成した11種類それぞれのホスホランバン・アプタマー(10μM)存在下および非存在下で、37℃で4分間のATPase活性を測定した。活性測定は、佐々木ら方法(Sasaki,T.et al.,J.Biol,Chem.267:1674-1679,1992)を用いた。0.35μM Ca2+の代わりに2mMのEGTAを加えたCa2+非存在下でも同様にATPase活性を測定し、両者の差からCa2+依存性ATPase活性(SERCA活性)を求めた。アプタマーのSERCA活性への効果を見るために、アプタマー存在下と非存在下でのSERCA活性の比を求めた。
【0034】
心筋小胞体と骨格筋小胞体で、11種類のホスホランバン・アプタマーの存在下と非存在下でのSERCA活性の比を求めた結果を図1に示す。縦軸は、アプタマーによるSERCA活性の促進の程度をあらわす。ホスホランバンの存在しない骨格筋小胞体(黒)では、アプタマーはSERCA活性にはほとんど影響を与えなかった。これに対し、心筋小胞体(白)ではアプタマーによるSERCA活性の促進が認められた。10μMのアプタマー存在下での骨格筋小胞体と心筋小胞体の比較では、アプタマーNo.5を除く10種類のアプタマーで心筋小胞体のSERCA活性が有意に促進されていた。これらの結果は、アプタマーがホスホランバンに作用してSERCAに対する抑制を解除しSERCA活性を促進していることを示す。データは、3-5回の測定の平均値と標準偏差を示す。骨格筋小胞体と心筋小胞体の比較の統計学的有意差は、T検定で行った。*、**、***は、それぞれP<0.05、P<0.01、P<0.001を示す。
【実施例3】
【0035】
<ホスホランバン・アプタマーによる心筋小胞体SERCA活性への効果の濃度依存性>
【0036】
イヌの心臓より調製した心筋小胞体濾胞(最終濃度50μg/ml)に、種々の濃度の合成したアプタマーNo.9(0-40μM)を加え、実施例2と同様の方法でSERCA活性を測定し、アプタマー非存在下に対する比を求めた。
【0037】
図2に実験結果の1例を示す。ホスホランバン・アプタマー(アプタマーNo.9)は、心筋小胞体SERCA活性を濃度依存的に促進した。この促進効果のED50は、15μMであった。この結果は、アプタマーが濃度依存性にホスホランバンに作用してSERCA活性を促進していることを示す。
【実施例4】
【0038】
<心筋小胞体SERCA活性のCa2+濃度依存性へのホスホランバン・アプタマーの効果>
【0039】
イヌの心臓より調製した心筋小胞体濾胞(最終濃度50μg/ml)に、合成したアプタマーNo.9(30μM)を加え、種々のCa2+存在下で(free Ca2+として0.11~16.3μM)、実施例2と同様の方法でSERCA活性を測定した。SERCA活性のCa2+濃度依存性は、最大のSERCA活性を100%としたパーセント表示で示した。
【0040】
図3にホスホランバン・アプタマーNo.9の非存在下(黒丸)、存在下(白丸)でのSERCA活性のCa2+濃度依存性を示した。アプタマーNo.9は、特に0.11~2μM/mlのCa2+濃度で心筋小胞体SERCA活性を促進し、濃度依存性曲線を左方にシフトさせた。この効果は、SERCAへのホスホランバンの抑制効果が解除されたことを意味する。各データ点は、3回行った実験の平均値と標準偏差を示す。アプタマーの存在下と非存在下の比較の統計学的有意差は、T検定で行った。*、**、***は、それぞれP<0.05、P<0.01、P<0.001を示す。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明のホスホランバン・アプタマーは、治療困難な重症の心不全患者に新たな治療手段を提供するものであり、その産業上の利用価値は極めて大きい。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】心筋小胞体と骨格筋小胞体で、11種類のホスホランバン・アプタマーのCa2+依存性ATPase活性(SERCA活性)を比較した結果を示した図である。
【図2】ホスホランバン・アプタマー(アプタマーNo.9)が、心筋小胞体SERCA活性を濃度依存的に促進した結果を示した図である。
【図3】ホスホランバン・アプタマー(アプタマーNo.9)が、心筋小胞体SERCA活性のCa2+濃度依存性に及ぼす効果を示した図である。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2