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明細書 :路面のすべり摩擦予測方法及び装置並びにそのプログラム

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4899054号 (P4899054)
公開番号 特開2008-102006 (P2008-102006A)
登録日 平成24年1月13日(2012.1.13)
発行日 平成24年3月21日(2012.3.21)
公開日 平成20年5月1日(2008.5.1)
発明の名称または考案の名称 路面のすべり摩擦予測方法及び装置並びにそのプログラム
国際特許分類 G01W   1/10        (2006.01)
G08G   1/00        (2006.01)
FI G01W 1/10 B
G08G 1/00 J
請求項の数または発明の数 9
全頁数 22
出願番号 特願2006-284361 (P2006-284361)
出願日 平成18年10月18日(2006.10.18)
審査請求日 平成21年10月13日(2009.10.13)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504145320
【氏名又は名称】国立大学法人福井大学
発明者または考案者 【氏名】福原 輝幸
【氏名】渡邊 洋
【氏名】藤本 明宏
個別代理人の代理人 【識別番号】100111855、【弁理士】、【氏名又は名称】川崎 好昭
審査官 【審査官】田中 秀直
参考文献・文献 福原輝幸、他,凍結路面の発生メカニズム,日本雪工学会誌,2005年 4月,Vol.21,No.2,P.110-115
荒川智之、他,熱収支法による路面凍結解析,寒地技術論文・報告集,2000年11月,Vol.16,P.389-395
調査した分野 G01W 1/00-1/18
G08G 1/00
JSTPlus(JDreamII)
特許請求の範囲 【請求項1】
気象条件及び交通条件に関する予測データを用いて路面雪氷層の熱収支モデル、路面雪氷層の氷に関する質量の収支モデル、路面雪氷層の水に関する質量の収支モデル及び路面雪氷層の空気に関する体積の収支モデルに基づいて路面雪氷層中の雪氷状態予測データを算出し、算出された雪氷状態予測データに基づいて路面のすべり摩擦係数を決定することを特徴とする路面のすべり摩擦予測方法。
【請求項2】
気象条件及び交通条件に関する予測データ並びに凍結防止剤の散布データを用いて路面雪氷層の熱収支モデル、路面雪氷層の氷に関する質量の収支モデル、路面雪氷層の水に関する質量の収支モデル及び路面雪氷層の空気に関する体積の収支モデルに基づいて路面雪氷層中の雪氷状態予測データを算出し、算出された雪氷状態予測データに基づいて路面のすべり摩擦係数を決定し、決定された路面のすべり摩擦係数が所定範囲内であるか否か判定し、所定範囲内でない場合には路面のすべり摩擦係数が所定範囲内となるまで凍結防止剤の散布データを再設定して前記雪氷状態予測データを再算出し、所定範囲内となる凍結防止剤の散布データを決定することを特徴とする路面のすべり摩擦予測方法。
【請求項3】
前記雪氷状態予測データは、路面雪氷層中の氷、水及び空気の混合割合であることを特徴とする請求項1又は2に記載の路面のすべり摩擦予測方法。
【請求項4】
気象条件及び交通条件に関する予測データを設定する条件データ設定部と、設定された前記予測データを用いて路面雪氷層の熱収支モデル、路面雪氷層の氷に関する質量の収支モデル、路面雪氷層の水に関する質量の収支モデル及び路面雪氷層の空気に関する体積の収支モデルに基づいて路面雪氷層中の雪氷状態予測データを算出する雪氷状態予測部と、算出された雪氷状態予測データに基づいて路面のすべり摩擦係数を決定するすべり摩擦決定部とを備えていることを特徴とする路面のすべり摩擦予測装置。
【請求項5】
気象条件及び交通条件に関する予測データ並びに凍結防止剤の散布データを設定する条件データ設定部と、設定された前記予測データ及び前記散布データを用いて路面雪氷層の熱収支モデル、路面雪氷層の氷に関する質量の収支モデル、路面雪氷層の水に関する質量の収支モデル及び路面雪氷層の空気に関する体積の収支モデルに基づいて路面雪氷層中の雪氷状態予測データを算出する雪氷状態予測部と、算出された雪氷状態予測データに基づいて路面のすべり摩擦係数を決定するすべり摩擦決定部と、決定された路面のすべり摩擦係数が所定範囲内となるように前記条件データ設定部で散布データの再設定を行い前記雪氷状態予測部で雪氷状態予測データの再算出を行うことで凍結防止剤の散布データを決定する散布条件決定部とを備えていることを特徴とする路面のすべり摩擦予測装置。
【請求項6】
前記雪氷状態予測データは、路面雪氷層中の氷、水及び空気の混合割合であることを特徴とする請求項4又は5に記載の路面のすべり摩擦予測装置。
【請求項7】
気象条件及び交通条件に関する予測データを設定して路面のすべり摩擦係数を決定する路面のすべり摩擦予測装置を機能させるためのプログラムであって、
前記路面のすべり摩擦予測装置を、
設定された前記予測データを用いて路面雪氷層の熱収支モデル、路面雪氷層の氷に関する質量の収支モデル、路面雪氷層の水に関する質量の収支モデル及び路面雪氷層の空気に関する体積の収支モデルに基づいて路面雪氷層中の雪氷状態予測データを算出する手段、
算出された雪氷状態予測データに基づいて路面のすべり摩擦係数を決定する手段
として機能させるためのプログラム。
【請求項8】
気象条件及び交通条件に関する予測データ並びに凍結防止剤の散布データを設定して路面のすべり摩擦係数を決定する路面のすべり摩擦予測装置を機能させるためのプログラムであって、
前記路面のすべり摩擦予測装置を、
設定された前記予測データ及び前記散布データを用いて路面雪氷層の熱収支モデル、路面雪氷層の氷に関する質量の収支モデル、路面雪氷層の水に関する質量の収支モデル及び路面雪氷層の空気に関する体積の収支モデルに基づいて路面雪氷層中の雪氷状態予測データを算出する手段、
算出された雪氷状態予測データに基づいて路面のすべり摩擦係数を決定する手段、
決定された路面のすべり摩擦係数が所定範囲内であるか否か判定する手段、
所定範囲内でない場合には路面のすべり摩擦係数が所定範囲内となるまで凍結防止剤の散布データを再設定し前記雪氷状態予測データを再算出して所定範囲内となる凍結防止剤の散布データを決定する手段
として機能させるためのプログラム。
【請求項9】
前記雪氷状態予測データは、路面雪氷層中の氷、水及び空気の混合割合である請求項7又は8に記載のプログラム。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、道路等の路面状態を予測するすべり摩擦予測方法及び装置並びにそのプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
積雪地域では、道路に積もった雪が車両の通行により圧雪状態となり、スリップしやすい状態となることから、事故防止のために凍結防止剤の散布といった道路管理が行われている。しかしながら、道路の路面状態は、降雪-圧雪-凍結-融解といったように時刻及び場所によって多様に変化していくため、最適の道路管理が行われているとはいいがたい。例えば、道路をパトロールしたり、定点観測により道路状態を目視でチェックしたとしても各人の経験に基づいて管理が行われることになり、客観的な状況判断に基づくものではない。
【0003】
そのため、こうした道路の路面状態を客観的に予測するための技術開発が進められており、その1つの手法として統計的手法を用いる方法が提案されている。統計的手法としては、重回帰分析、判別関数法、パターン解析法、ニューラルネットワークを用いた方法が挙げられるが、こうした統計的手法は、地域性に依存して汎用性に乏しく広範囲に及ぶ道路全体を管理するためには不向きである。
【0004】
また、別の手法として、熱収支を用いる方法が提案されている。この方法は、路面に形成された雪氷層を横切る熱フラックスを定量評価して路面状態を予測する方法であり、舗装構造やそれらの熱物性値等の内的因子、気象や地形等の自然的因子、通過車両等の人為的因子を考慮することで、地域性に依存せずに評価を行うことができ、道路管理に用いる上で適した手法である。
【0005】
本発明者らは、こうした熱収支を用いる方法について研究を進め、車両底面輻射熱を含む熱収支モデルを提案し、気象変化に伴う、乾燥、湿潤及び雪氷路面における路面温度についてその妥当性を検証した(非特許文献1参照)。また、提案した熱収支モデルをもとに、タイヤ摩擦熱フラックス及び車両底面輻射熱フラックスの定量評価を行い、路面温度に及ぼす影響について検討した(非特許文献2参照)。
【0006】
また、本発明者らは、熱収支モデルに基づいて道路の路面状態を予測する手法とともに路面の雪氷状態と路面のすべり摩擦係数の関係についても研究を進め、シャーベット路面、湿潤路面及び氷板路面での野外試験車によるすべり摩擦係数の測定を行い、すべり摩擦係数と質量含氷率、すべり摩擦係数とシャーベット厚さに関する分析を行った(非特許文献3参照)。
【0007】
上述した統計的手法や熱収支法を用いて路面状態の凍結を予測する方法としては、例えば、特許文献1では、路面状態データ、路面温度予測データ及び天気予報データに基づいて路面状態を予測する路面状態予測システムが記載されている。また、特許文献2では、路線沿いに複数の路面凍結検知装置を配置して過去数年間の路面温度を測定し、路面温度の変化パターンを天候別及び月別に分類しておき、実変化パターンに最も類似する分類パターンを抽出して路面温度を予測する路面予測方法が記載されている。また、特許文献3では、現地の路面形状センサーと気象センサーを備える現地気象データ収集装置からの現地データに基づいて路面状態の短期予測を行い、気象庁GPV天気予報データに基づいて路面状態の中期及び長期予測を行うようにした路面状態予測システムが記載されている。

【特許文献1】特開2006-30139号公報
【特許文献2】特開平6-300860号公報
【特許文献3】特開2002-196085号公報
【非特許文献1】荒川 智之 外4名、「熱収支法による路面凍結解析-乾燥、湿潤および積雪路面における熱的挙動-」、寒地技術論文・報告集、Vol.16、pp.389-395、2000年
【非特許文献2】渡邊 洋 外2名、「通過車両から路面への熱供給に関するモデリング」、第21回寒地技術シンポジウム、寒地技術論文・報告集、Vol.21、pp.195-200、2005年
【非特許文献3】藤本 明宏 外7名、「MASS車によるすべり摩擦と道路雪氷との関係」、日本雪工学会誌、2005年10月、Vol.21、No.5、pp.26-35
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように、従来は熱収支手法による路面温度の予測を行うとともに、路面状態について凹凸形状による分類や湿潤、シャーベット、圧雪といった分類で類型化して路面状態を把握して路面状態の変化を予測しようとしているが、車両等がどの程度すべりやすい状態であるのかを判断するためには、路面のすべり摩擦係数がどの程度であるのかを予測した方が凍結防止剤の散布といった道路管理を効率よく行ことができる。
【0009】
そこで、本発明者らは、非特許文献2に示すように、路面のすべり摩擦係数に着目して路面状態との関連性を分析してきており、こうした分析結果で得られた知見に基づいて、本発明は、路面状態を路面雪氷層の熱収支モデル及び氷・水・空気収支モデルによりモデル化して各モデルの同時連成解析よる定量評価を行うことで、路面のすべり摩擦係数を予測することが可能な路面のすべり摩擦予測方法及び装置並びにそのプログラムを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る路面のすべり摩擦予測方法は、気象条件及び交通条件に関する予測データを用いて路面雪氷層の熱収支モデル、路面雪氷層の氷に関する質量の収支モデル、路面雪氷層の水に関する質量の収支モデル及び路面雪氷層の空気に関する体積の収支モデルに基づいて路面雪氷層中の雪氷状態予測データを算出し、算出された雪氷状態予測データに基づいて路面のすべり摩擦係数を決定することを特徴とする。
【0011】
本発明に係る別の路面のすべり摩擦予測方法は、気象条件及び交通条件に関する予測データ並びに凍結防止剤の散布データを用いて路面雪氷層の熱収支モデル、路面雪氷層の氷に関する質量の収支モデル、路面雪氷層の水に関する質量の収支モデル及び路面雪氷層の空気に関する体積の収支モデルに基づいて路面雪氷層中の雪氷状態予測データを算出し、算出された雪氷状態予測データに基づいて路面のすべり摩擦係数を決定し、決定された路面のすべり摩擦係数が所定範囲内であるか否か判定し、所定範囲内でない場合には路面のすべり摩擦係数が所定範囲内となるまで凍結防止剤の散布データを再設定して前記雪氷状態予測データを再算出し、所定範囲内となる凍結防止剤の散布データを決定することを特徴とする。
【0012】
上記の路面のすべり摩擦予測方法において、前記雪氷状態予測データは、路面雪氷層中の氷、水及び空気の混合割合であることを特徴とする。
【0013】
本発明に係る路面のすべり摩擦予測装置は、気象条件及び交通条件に関する予測データを設定する条件データ設定部と、設定された前記予測データを用いて路面雪氷層の熱収支モデル、路面雪氷層の氷に関する質量の収支モデル、路面雪氷層の水に関する質量の収支モデル及び路面雪氷層の空気に関する体積の収支モデルに基づいて路面雪氷層中の雪氷状態予測データを算出する雪氷状態予測部と、算出された雪氷状態予測データに基づいて路面のすべり摩擦係数を決定するすべり摩擦決定部とを備えていることを特徴とする。
【0014】
本発明に係る別の路面のすべり摩擦予測装置は、気象条件及び交通条件に関する予測データ並びに凍結防止剤の散布データを設定する条件データ設定部と、設定された前記予測データ及び前記散布データを用いて路面雪氷層の熱収支モデル、路面雪氷層の氷に関する質量の収支モデル、路面雪氷層の水に関する質量の収支モデル及び路面雪氷層の空気に関する体積の収支モデルに基づいて路面雪氷層中の雪氷状態予測データを算出する雪氷状態予測部と、算出された雪氷状態予測データに基づいて路面のすべり摩擦係数を決定するすべり摩擦決定部と、決定された路面のすべり摩擦係数が所定範囲内となるように前記条件データ設定部で散布データの再設定を行い前記雪氷状態予測部で雪氷状態予測データの再算出を行うことで凍結防止剤の散布データを決定する散布条件決定部とを備えていることを特徴とする。
【0015】
上記の路面のすべり摩擦予測装置において、前記雪氷状態予測データは、路面雪氷層中の氷、水及び空気の混合割合であることを特徴とする。
【0016】
本発明に係るプログラムは、気象条件及び交通条件に関する予測データを設定して路面のすべり摩擦係数を決定する路面のすべり摩擦予測装置を機能させるためのプログラムであって、前記路面のすべり摩擦予測装置を、設定された前記予測データを用いて路面雪氷層の熱収支モデル、路面雪氷層の氷に関する質量の収支モデル、路面雪氷層の水に関する質量の収支モデル及び路面雪氷層の空気に関する体積の収支モデルに基づいて路面雪氷層中の雪氷状態予測データを算出する手段、算出された雪氷状態予測データに基づいて路面のすべり摩擦係数を決定する手段として機能させる。
【0017】
本発明に係る別のプログラムは、気象条件及び交通条件に関する予測データ並びに凍結防止剤の散布データを設定して路面のすべり摩擦係数を決定する路面のすべり摩擦予測装置を機能させるためのプログラムであって、前記路面のすべり摩擦予測装置を、設定された前記予測データ及び前記散布データを用いて路面雪氷層の熱収支モデル、路面雪氷層の氷に関する質量の収支モデル、路面雪氷層の水に関する質量の収支モデル及び路面雪氷層の空気に関する体積の収支モデルに基づいて路面雪氷層中の雪氷状態予測データを算出する手段、算出された雪氷状態予測データに基づいて路面のすべり摩擦係数を決定する手段、決定された路面のすべり摩擦係数が所定範囲内であるか否か判定する手段、所定範囲内でない場合には路面のすべり摩擦係数が所定範囲内となるまで凍結防止剤の散布データを再設定し前記雪氷状態予測データを再算出して所定範囲内となる凍結防止剤の散布データを決定する手段として機能させる。
【0018】
上記のプログラムにおいて、前記雪氷状態予測データは、路面雪氷層中の氷、水及び空気の混合割合である。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る路面のすべり摩擦予測方法は、上記のような構成を有することで、路面のすべり摩擦係数を道路の各予測地点においてその時間推移を定量的に評価することが可能となり、道路全体にわたってきめ細かい道路管理を効率よく行うことができる。
【0020】
すなわち、予測地点の天気、気温、風向、風速、降水(降雪)量といった気象条件に関する予測データは、例えば、予測地点に設置された観測装置の過去の観測データに基づいて設定することができ、また、日本気象協会のGPV(Grid Point Value)による局地気象予測モデルから提供される気象データを利用することもできる。予測地点の時間交通量、車両の走行速度といった交通条件に関する予測データについても、例えば、予測地点に設置した測定装置の過去の測定データに基づいて設定することができ、また、日本道路交通情報センターから提供されるデータや交通量調査によるデータを利用することもできる。
【0021】
このように、各予測地点の気象条件及び交通条件に関する精度の高い予測データを設定し、設定された気象条件及び交通条件に関する予測データを用いて路面雪氷層の熱収支モデル及び氷・水・空気収支モデルに基づいて同時連成解析により路面雪氷層中の雪氷状態予測データを算出すれば、路面の滑りやすさに密接に関連する雪氷状態予測データの精度を高めることができる。そして、より精度の高い雪氷状態予測データに基づいて路面のすべり摩擦係数を決定すれば、路面の滑りやすさを定量的に評価することが可能となり、客観的な根拠に裏付けられたデータにより道路管理を適確に行うことができる。
【0022】
ここで、上述の各モデルの同時連成解析とは、別々の支配方程式で表される各モデルを互いに関連付けて同時に解析していく解析手法を意味する。
【0023】
本発明に係る路面のすべり摩擦予測装置は、上記のような構成を有することで、上述した路面のすべり摩擦予測方法と同様に、路面のすべり摩擦係数を道路の各地点においてその時間推移を定量的に評価することが可能となり、道路全体にわたってきめ細かい道路管理を効率よく行うことができる。
【0024】
本発明に係る別の路面のすべり摩擦予測方法は、上記のような構成を有することで、路面のすべり摩擦係数を所定範囲内とする適切な量の凍結防止剤を散布することが可能となり、凍結防止剤の散布不足によるスリップの発生や凍結防止剤の過剰散布による無駄を抑止して適確な道路管理を行うことができる。
【0025】
すなわち、路面雪氷層の熱収支モデル及び氷・水・空気収支モデルに基づいて路面雪氷層中の雪氷状態予測データを算出する際に凍結防止剤の散布データを反映させることで、散布後の路面のすべり摩擦係数を予測することができる。そのため、凍結防止剤の散布データを変更しながら繰返し雪氷状態予測データを算出して路面のすべり摩擦係数の変化をみることで、路面のすべり摩擦係数が所定範囲内に入る散布データを決定することが可能となり、道路の各地点における状況に応じて凍結防止剤の散布作業をきめ細かく行うことができる。
【0026】
本発明に係る別の路面のすべり摩擦予測装置は、上記のような構成を有することで、上述した別の路面のすべり摩擦予測方法と同様に、路面のすべり摩擦係数を所定範囲内とする適切な量の凍結防止剤を散布することが可能となる。
【0027】
そして、雪氷状態予測データとして、路面雪氷層中の氷、水及び空気の混合割合を算出することで、降雪状態、圧雪状態、凍結状態、シャーベット状態、湿潤状態といった路面雪氷層の多様な状態変化に密接に関連させた予測データを得ることができ、より精度の高いすべり摩擦係数の予測を行うことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明に係る実施形態について詳しく説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明を実施するにあたって好ましい具体例であるから、技術的に種々の限定がなされているが、本発明は、以下の説明において特に本発明を限定する旨明記されていない限り、これらの形態に限定されるものではない。
【0029】
図1は、本発明に係る路面のすべり摩擦予測装置に関する概略ブロック構成図である。すべり摩擦予測装置は、すべり摩擦係数の決定に必要な情報処理を行う情報処理部1、情報処理に必要な予測地点に関する設定データを保存する設定データ記憶部2、予測する道路に沿って配設された検知装置301~30nとの間でデータを送受信する送受信部3、情報処理に必要なプログラムやデータを保存する記憶部4、予測結果等を表示する表示部5、設定データ等を入力する入力部6を備えている。そして、予測装置は、インターネット等の通信ネットワーク20と接続されており、外部のサーバとの間でデータの送受信が可能となっている。
【0030】
情報処理部1は、条件データ設定部10、雪氷状態予測部11及びすべり摩擦決定部12を備えている。
【0031】
条件データ設定部10は、例えば、日本気象協会のサーバ21と接続して気象条件に関する予測データDB22から予測地点の気象条件に関する予測データを取得して設定データ記憶部2に記憶する。同様に、日本道路交通情報センターのサーバ23に接続して交通条件に関する予測データDB24から予測地点の交通条件に関する予測データを取得して設定データ記憶部2に記憶する。また、送受信部3を介して予測地点の検知装置から検知データを取得し、過去に蓄積した検知データに基づいて予測データを作成して設定データ記憶部2に記憶する。また、入力部6から入力された予測地点に関する路面表層の物性値(路面表層厚さ等)や設定値を設定データ記憶部2に記憶するとともに、実験結果等から求められたすべり摩擦係数の値を設定テーブル42に記憶する。
【0032】
雪氷状態予測部11は、設定データ記憶部2に記憶された予測地点のデータを読み出して路面雪氷層の熱収支モデル及び氷・水・空気収支モデルに基づいて同時連成解析により予測地点の雪氷状態予測データを算出する。
【0033】
路面雪氷状態モデルとして、路面雪氷層の熱収支モデル及び氷・水・空気収支モデルを組み合わせたものを用いることで、温度変化に伴う雪氷層内の水、氷及び空気の体積変化(融解・凍結)が計算可能となり、雪氷厚さ及び雪氷層中の水、氷及び空気の混合割合(体積又は質量)が算出できる。雪氷状態は、この混合割合で表現できる。例えば、体積割合が水:氷:空気=1:0:0で湿潤状態、水:氷:空気=0.3:0.7:0でシャーベット状態、水:氷:空気=0:0.7:0.3で圧雪状態となる。
【0034】
路面雪氷層は、不純物や凍結防止剤を除けば、水、氷粒子及び間隙空気によって構成されることから、単位面積当りの雪氷体積Vs(m3/m2)は、数1に示す式のように、水体積Vw(m3/m2)、氷体積Vi(m3(m3/m2)及び空気体積Va(m3(m3/m2)の和となる。
【0035】
【数1】
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【0036】
したがって、雪氷層中の水、氷及び空気の体積割合(体積含水率θw、体積含氷率θi及び体積含空率θa)は、数2に示す式で表される。
【0037】
【数2】
JP0004899054B2_000003t.gif

【0038】
また,雪氷密度ρs(kg/m3)及び質量含氷率Θiは、数3に示す式で求められる。
【0039】
【数3】
JP0004899054B2_000004t.gif
ここで、Mwは雪氷層中の水質量(kg/m2)、Miは雪氷層中の氷質量(kg/m2)、ρwは水密度(kg/m3)、ρiは氷密度(kg/m3)、ρaは空気密度(kg/m3)である。
【0040】
図2は、路面雪氷層の水収支モデル及び氷収支モデルを図解した説明図である。路面雪氷層の水収支(質量)については、図2の左半分に示すように、降雨フラックスMwf(kg/m2/s)、蒸発・凝結フラックスMwl(kg/m2/s)、融解・凝固フラックスMwi(kg/m2/s)、車両の走行に伴う飛散フラックスMws(kg/m2/s)及び道路勾配に伴う排水フラックスMwd(kg/m2/s)で規定され、雪氷層の水質量Mw(kg/m2)の時間変化率は、数4に示す式で表される。ここで、t:時間(s)である。
【0041】
【数4】
JP0004899054B2_000005t.gif

【0042】
降雨フラックスMwfは、降雨強度vfw(m/s)及び水密度ρwの積で与えられ、数5で示す式で表される。
【0043】
【数5】
JP0004899054B2_000006t.gif
ここで、降雨強度vfwとしては、例えば、気象協会から提供される予想降水量を用いることができる。
【0044】
蒸発・凝結フラックスMwlは、数6で示すバルク式により与えられる。
【0045】
【数6】
JP0004899054B2_000007t.gif
ここで、αwlは蒸発・凝結バルク係数(m/s)、ρvaは大気の水蒸気密度(kg/m3)、ρvsは雪氷表面の水蒸気密度(kg/m3)である。なお、ρva及びρvsは、世界気象機関で採用されている実験式を用いて求められる。
【0046】
雪氷温度Ts=0℃で、後述する路面雪氷層の純熱収支フラックスQs(W/m2)>0のとき、Qsは雪氷層の融解に費やされ、逆にQs<0のとき、Qsは凝固に費やされる。その際、Mwiは、数7に示す式で与えられる。
【0047】
【数7】
JP0004899054B2_000008t.gif
ここで、qmは融解及び凝固潜熱(kJ/kg)である。
【0048】
飛散フラックスMwsについては、実際の車両走行実験の結果に基づいて推定値を与えることができる。また、排水フラックスMwdについては、公知のマニングの公式又は平均流速の公式を用いて求めることができ、計算に必要な道路勾配及び粗度係数は、実測値に基づいて設定すればよい。
【0049】
路面雪氷層の氷収支(質量)については、図2の右半分に示すように、降雪フラックスMif(kg/m2/s)、昇華フラックスMil(kg/m2/s)、融解・凝固フラックスMwi(kg/m2/s)及び車両の走行に伴う飛散フラックスMis(kg/m2/s)で規定され、雪氷層の氷質量Mi(kg/m2)の時間変化率は、数8に示す式で表される。
【0050】
【数8】
JP0004899054B2_000009t.gif

【0051】
降雪フラックスMifは、降雪強度vfi(m/s)及び降雪密度ρsiの積で与えられ、数9で示す式で表される。
【0052】
【数9】
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ここで、降雪強度vfiとしては、例えば、気象協会から提供される予想降雪量を用いることができる。降雪密度ρsiは、例えば、実際の測定結果に基づいて設定すればよい。
【0053】
昇華フラックスMilは、数10で示すバルク式により与えられる。
【0054】
【数10】
JP0004899054B2_000011t.gif
ここで、αwlは昇華バルク係数(m/s)であり、ρva及びρvsは、世界気象機関で採用されている実験式を用いて求められる。
【0055】
雪氷層の空気収支(体積)は、降雪空気フラックスVaf(m3/m2/s)、置換空気フラックスVaex(m3/m2/s)及び開放空気フラックスVao(m3/m2/s)で規定され、路面雪氷層の空気体積Va(m3/m2)の時間変化率は、数11に示す式で与えられる。
【0056】
【数11】
JP0004899054B2_000012t.gif

【0057】
降雪空気フラックスVafは、降雪フラックスMifに伴って供給される空気体積であり、数12に示す式で与えられる。
【0058】
【数12】
JP0004899054B2_000013t.gif

【0059】
置換空気フラックスVaexは、氷の融解により雪氷層内部の空気が水と置換されて雪氷層から放出される空気の単位時間・単位面積当りの体積であり、数13に示す式で表される。
【0060】
【数13】
JP0004899054B2_000014t.gif

【0061】
開放空気フラックスVaoは、氷の融解により雪氷層内部から開放される空気の単位時間・単位面積当りの体積であり、数14に示す式で表される。
【0062】
【数14】
JP0004899054B2_000015t.gif

【0063】
図3は、路面雪氷層に影響を及ぼす熱収支成分を図解した説明図である。まず、左端に示すように、舗装された路面上に積雪により雪氷層が形成されて積雪路面となる。形成された雪氷層は、主に車両の走行によって圧雪されて圧密状態となり、圧雪路面となるが、車両の走行により、車両底面輻射熱、タイヤによる摩擦熱、車両通過により誘発される風に基づく顕熱といった熱収支成分が発生すると考えられる。そして、圧密状態の雪氷層の車両通過領域において融解した状態になる。
【0064】
こうした人為的因子による熱収支成分の他に、自然的因子による熱収支成分が考えられる。図3では、舗装面から雪氷層に伝えられる舗装伝導熱、自然風による顕熱、降雨・除雪による顕熱、凍結に伴う凝固潜熱、天空から雪氷層に放射される放射熱、雪氷層から放射される長波放射熱が発生すると考えられる。そして、主に夜間において雪氷層表面で融解した水が凍結して凍結路面となる。また、日中においては、日射による太陽熱、蒸発による潜熱が発生すると考えられ、雪氷層全体がシャーベット状に緩んだ状態のシャーベット路面となる。
【0065】
図4は、図3に示す熱収支成分をそれぞれ定量化した熱フラックスを図解した説明図である。自然的因子による熱フラックス(単位;W/m2)としては、舗装熱フラックスGsp、放射フラックスRsd、日射の反射フラックスRsu、日射の透過フラックスRst、天空放射熱フラックスRld、路面放射熱フラックスRlu、自然風による顕熱フラックスSa、降雨-降雪に伴う顕熱フラックスSf及び蒸発・昇華潜熱フラックスLe及び融解・凝固潜熱フラックスLmが挙げられる。人為的因子による熱フラックスとしては、車両熱フラックスQvが挙げられる。なお、この例では、道路縦断方向(x方向)の熱移動が十分小さいと仮定して、道路横断方向(y方向)及び鉛直方向(z方向)の2次元で取り扱う。
【0066】
そして、雪氷表層の体積熱容量を(ρc)s(J/m3/K)、雪氷温度をTs(℃)、雪氷厚さをzs(m)とすると、車両通過領域における雪氷表層の純熱収支Qsは、数15に示す式で与えられる。
【0067】
【数15】
JP0004899054B2_000016t.gif
体積熱容量(ρc)sは、雪氷層中の水、氷及び空気の調和平均により数16に示す式で与えられる。
【0068】
【数16】
JP0004899054B2_000017t.gif
ここで、(ρc)w、(ρc)i及び(ρc)aは、それぞれ水、氷及び空気の体積熱容量(J/m3/K)である。
【0069】
雪氷厚さzsは、単位面積当りの雪氷層の水、氷及び空気体積(Vw、Vi及びVa)の和として数17に示す式で与えられる。
【0070】
【数17】
JP0004899054B2_000018t.gif
なお、θw、θi、θa、Vw、Vi及びVaは、上述した氷・水・空気収支より求められる。
【0071】
舗装熱フラックスGspは、雪氷層と舗装表面間の熱移動量であり、接触熱抵抗Rc(m2K/W)を用いて数18に示す式により与えられる。
【0072】
【数18】
JP0004899054B2_000019t.gif
ここで、λsは雪氷の熱伝導率(W/m/K)、λpは舗装の熱伝導率(W/m/K)、zpsは舗装表層厚(m)、Tsは界面からΔzs/2上方の雪氷温度(℃)、Tpsは界面からΔzps/2下方の舗装温度(℃)である。接触熱抵抗Rc(m2K/W)は、θaの関数として数19に示す式で表される。
【0073】
【数19】
JP0004899054B2_000020t.gif
なお、λsは、水、氷及び空気の熱伝導率の調和平均として与えればよい。
【0074】
日射の反射フラックスRsu及び日射の透過フラックスRstは、それぞれ数20に示す式で与えられる。
【0075】
【数20】
JP0004899054B2_000021t.gif
ここで、αlはアルベドであり、アルベドモデルに基づいて理論的に求められる(例えば、近藤純正 外2名、「積雪面のアルベードのパラメータ化」、雪氷、Vol.50、No.4、pp.216-224、1988)。また、Trは透過率であり、透過実験に基づいて決定することができる。
【0076】
路面長波放射ラテックスRluは、Stefan-Boltzmannの法則に従い、数21に示す式で与えられる。
【0077】
【数21】
JP0004899054B2_000022t.gif
雪氷表面の射出率εsは、氷面と水面の面積率を重み係数とした調和平均で数22に示す式で与えられる。
【0078】
【数22】
JP0004899054B2_000023t.gif
ここで、σはStefan-Boltzmann定数(5.67×10-8W/m2/K4)、εiは氷面の射出率(0.98)及びεwは水面の射出率(0.96)である。
【0079】
自然風による顕熱フラックスSaは、Newtonの冷却則に従い、数5に示す式で与えられる。
【0080】
【数23】
JP0004899054B2_000024t.gif
ここで、αasは大気-雪氷層間の熱伝達率(W/m2/K)であり、室内実験と伝熱解析から得られた値を採用し、数24に示すような風速(Vw(m/s))の関数で与えられる。
【0081】
【数24】
JP0004899054B2_000025t.gif
気温(Ta)及び風速(Vw)は、条件データ設定部10により日本気象協会から取得した予測データを用いればよい。取得した予測データに対応する地点が予測地点から外れている場合には、予測データに対応する地点の間を補間法により近似値を算出して予測地点の予測データとして用いてもよい。また、予測地点において観測された過去の蓄積データに基づいて作成された予測データを用いるようにしてもよい。
【0082】
降雨-降雪に伴う顕熱フラックスSfは、降雨強度vfw又は降雪強度vfiを用いて数25に示す式で与えられる。
【0083】
【数25】
JP0004899054B2_000026t.gif
ここで、Tfは降雨-降雪温度である。降雨と降雪の区別は気温により判別する。
【0084】
蒸発・昇華潜熱フラックスLeは、蒸発フラックスMwl及び昇華フラックスMilを用いて数26に示す式で与えられる。
【0085】
【数26】
JP0004899054B2_000027t.gif
ここで、qeは蒸発潜熱(kJ/kg)、qsは昇華潜熱(kJ/kg)である。
【0086】
融解・凝固潜熱フラックスLmは、融解・凝固フラックスMwiに氷の融解潜熱qmを乗じて数27に示す式で与えられる。
【0087】
【数27】
JP0004899054B2_000028t.gif
融解・凝固潜熱フラックスLmは、雪氷の変成に費やされて雪氷厚さzsが増減するようになる。
【0088】
車両熱フラックスQvは、タイヤ摩擦熱フラックスSt、車両底面輻射熱フラックスRv及び車両誘発顕熱フラックスSvaの和として与えられ、数28に示す式になる。
【0089】
【数28】
JP0004899054B2_000029t.gif

【0090】
タイヤ摩擦熱フラックスStは、数29に示すように、タイヤ及び路面の温度差に熱伝達率を乗じた式で与えられる。
【0091】
【数29】
JP0004899054B2_000030t.gif
ここで、αtpはタイヤ-乾燥路面間の熱伝達率(W/m2/K)であり、室内実験と伝熱モデルから得られた60W/m2/Kを用いる(武士 俊也 外5名、「熱収支法による路面凍結解析-車両タイヤ-圧雪層-路面間の熱移動-、寒地技術論文・報告集、Vol.18、pp.71-76、2002年)。また、タイヤ温度Ttは、気温(Ta)及び車両速度(Vvkm/h)の関数として数30で示す式で計算される。
【0092】
【数30】
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車両速度(Vv)は、条件データ設定部10により日本道路交通情報センターから取得された時間交通量に関する予測データや定期的な交通量調査結果に基づいて設定された予測データを用いて設定する。
【0093】
車両底面輻射熱フラックスRvは、数31に示す式で与えられる。
【0094】
【数31】
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ここで、εvは車両底面の射出率(0.80)であり、Tvは車両底面の絶対温度(K)である。車両底面の絶対温度Tvは、図5に示すように、3つの領域に分けてそれぞれ数32に示す式で与えられる。
【0095】
【数32】
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ここで、L*は、車両全長(L)を車両前方からの距離(x)で除した無次元距離である。
【0096】
車両誘発顕熱フラックスSvaは、数33に示す式で与えられる。
【0097】
【数33】
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αsは、数24に示す式と同様に車両誘発風Vwの関数で与えられる。この場合、車両誘発風Vwは、実験結果に基づいて設定することができる。一例として、普通車両の通過に伴う場合では図6のグラフに示すような時間変化をするものとして設定することができる。
【0098】
雪氷状態予測部11では、以上説明した路面雪氷層の熱収支モデル及び氷・水・空気収支モデルを用いて必要な気象条件及び交通条件の予測データを設定データ記憶部2から読出し同時連成解析により解析することで、雪氷温度、雪氷厚さ及び雪氷層中の水、氷及び空気の混合割合(質量又は体積)等の雪氷状態予測データを算出する。そして、算出された雪氷層中の水、氷及び空気の混合割合に関する予測データに基づいて雪氷密度及び質量含氷率といったすべり摩擦に密接な関連性を有するデータを得ることができる。
【0099】
すべり摩擦決定部12は、雪氷状態予測部11において算出された雪氷状態予測データに基づいて各予測地点の路面のすべり摩擦係数を決定する。本発明者らは、非特許文献3において、路面の雪氷状態が変化する場合の雪氷層中の水、氷及び空気の体積割合(体積含水率θw、体積含氷率θi及び体積含空率θa)とすべり摩擦係数μとの間の相関関係を実験により分析しており、その分析結果は図7に示すグラフのとおりである。こうして求められたすべり摩擦係数に関するデータは、水、氷及び空気の体積割合と対応させて設定テーブル42に登録しておく。すべり摩擦決定部12では、算出された雪氷状態予測データに基づいて設定テーブル42から対応するすべり摩擦係数を読み出して各予測地点のすべり摩擦係数の時間的推移が決定される。
【0100】
上述した水、氷及び空気の体積割合以外でも、雪氷の厚さ、雪氷密度及び質量含氷率といった予測データがタイヤのスリップに関連することから、こうした予測データを用いてスリップしやすさを総合的に評価するようにしてもよい。例えば、雪氷の厚さについては、10mm以下では走行中のタイヤが路面に直接グリップするようになるため、雪氷層によるすべり摩擦への影響は小さくなるが、10mmを超えると路面に対して直接グリップすることがなくなり、水、氷及び空気の体積割合や質量含氷率によりすべり摩擦が左右されるようになる。
【0101】
図8は、すべり摩擦係数の予測処理に関するフローである。まず、初期状態として、気象条件及び交通条件に関する必要なデータが設定データ記憶部2に記憶される(S100)。次に、熱収支、氷・水・空気収支の計算に必要なパラメータを設定する(S101)。設定するパラメータとしては、各予測地点の気象条件及び交通条件に関する予測データが挙げられる。例えば、図9に示すように、降雪データ、降雨データ及び気温といった気象条件に関するパラメータの時間的推移を設定し、図10に示すように、車両交通量データ、車両速度データといった交通条件に関するパラメータの時間的推移を設定する。
【0102】
次に、雪氷状態予測部11において熱収支モデルを用いて雪氷層及び舗装層の熱収支を計算する(S102)とともに、氷・水・空気収支モデルを用いて雪氷層の氷・水・空気収支を計算し(S103)、相互のモデル間において同時連成解析を行う。解析結果に基づいて各予測地点の雪氷状態予測データ(水、氷及び空気の体積割合、雪氷の厚さ、雪氷密度及び質量含氷率等)を算出する(S104)。
【0103】
図11は、図9及び図10に示す予測データを基に算出した路面温度Tp、雪氷温度Ts及び雪氷層中の水、氷及び空気の体積割合に関する時間的推移である。時間帯TAでは、降雪による積雪及び交通量の影響により圧雪状態の雪氷層が形成されてその厚さが次第に厚くなっていき、含氷率が大きくなっている。そして、残りは空気が含有されており、水は含有されていない。時間帯TBでは、気温が上昇して路面温度Tpが0℃を越えると雪氷層内で氷が融解して含水率が次第に大きくなり、シャーベット状態の雪氷層に変化する。また、日射や降雨の影響で雪氷層の厚さが急激に薄くなっていく。そして、時間体TCでは、雪氷温度Tsが0℃以上となり、氷がすべて融解して雪氷層が消失して湿潤状態の路面になる。このように路面の雪氷状態の変化が、水、氷及び空気の体積割合の変化として定量化される。
【0104】
こうして算出された雪氷層内の水、氷及び空気の体積割合の予測データ及び設定テーブル42に記憶されたすべり摩擦係数のデータに基づいてすべり摩擦係数の予測データを決定する(S105)。
【0105】
図12は、図11に示す予測データを基に決定したすべり摩擦係数の予測結果である。時間帯TAでは、圧雪状態の雪氷層が形成されてその厚さが厚くなっていくため、氷の含有率が大きくなってすべり摩擦係数は0.2~0.4となり、スリップしやすい路面となることが予測される。また、時間帯TBにおいても氷が融解し始めた状態では氷の含有率がそれほど減少していないためすべり摩擦係数が0.4となっており、スリップしやすい状態が依然として解消されていないが、含氷率が減少して含水率が大きくなるに従いすべり摩擦係数が0.6に上昇することが予測されている。
【0106】
以上のように、各地点の気象条件及び交通条件に関する予測データを用いて路面雪氷層の熱収支モデル及び氷・水・空気収支モデルに基づいて路面雪氷層中の雪氷状態予測データを算出すれば、路面の滑りやすさに密接に関連する雪氷状態予測データの精度を高めることが可能となる。そして、より精度の高い雪氷状態予測データに基づいて路面のすべり摩擦係数を決定すれば、路面の滑りやすさを定量的に評価することが可能となり、客観的な根拠に裏付けられたデータにより道路管理を適確に行うことができる。また、運転者に対して警告表示や速度規制といった安全管理を最適のタイミングで行うことができる。
【0107】
次に、路面のすべり摩擦予測装置に関する別の実施形態について説明する。この実施形態では、凍結防止剤を散布する場合の路面のすべり摩擦を予測するもので、図13は、その概略ブロック構成図である。図13では、図1に示す概略ブロック構成図において、情報処理部1に散布条件決定部13が設けられており、それ以外は同じブロック構成となっている。
【0108】
条件データ設定部10では、入力部6から入力された凍結防止剤の種類並びにその散布による融出速度データ及び融解熱量データを設定データとして設定テーブル42に記憶しておく。
【0109】
凍結防止剤に関する融出速度データは、実験により求めることができる。例えば、一定温度状態の氷板に所定量の凍結防止剤を散布して所定時間経過後に溶液濃度と融氷量を測定し、融出速度(g/m3/s)を算出する。そして、気温及び散布量を変えながら同様の実験を繰り返すことで、気温及び散布量に対応した融出速度データを求めることができる。
【0110】
凍結防止剤の融解熱量は、融出速度に融解潜熱を乗じることで算出することができ、求められた融出速度データに基づいて設定する。
【0111】
また、条件データ設定部11では、初期設定として予め決められた凍結防止剤の散布データ(凍結防止剤の種類、単位面積当りの散布量(g/m2)及び散布時期)を設定する。
【0112】
凍結防止剤としては、食塩や塩化カルシウムといった無機塩系の物質、酢酸カルシウムといった酢酸塩系の物質が挙げられ、粒状又は粉末状で使用されることが多い。凍結防止剤を散布することで、凍結防止剤が雪氷層の表面で溶解して溶液濃度が高まることで凍結温度が低下し路面温度が氷点下となっても雪氷層が凍結しにくくなる。したがって、水分が多いシャーベット路面に近い状態が発生して、水、氷及び空気の体積割合が変化し、図7に示すように、すべり摩擦係数の低下が抑えられるようになる。こうした凍結防止剤の作用は、上述した氷・水・空気収支モデルに影響を与え、融解・凝固フラックスを変化させることになる。また、凍結防止剤の散布により吸熱反応が生じるため、熱収支モデルにも影響を与え、融解・凝固潜熱フラックスを変化させることになる。
【0113】
散布条件決定部13では、予め設定されたすべり摩擦係数の基準範囲データに基づいて、すべり摩擦決定部12で決定されたすべり摩擦係数の予測データが基準範囲内か否か判定する。そして、予測データのうち基準範囲から外れた時間帯がある場合には、条件データ設定部10で散布データの再設定を行い、雪氷状態予測部11で雪氷状態予測データの再算出を行ってすべり摩擦係数の予測データが基準範囲内となる凍結防止剤の散布データを決定する。
【0114】
条件データ設定部10及びすべり摩擦決定部12は、図1において説明した内容と同様であるので説明を省略する。
【0115】
図14は、凍結防止剤を散布する場合のすべり摩擦係数の予測処理に関するフローである。まず、凍結防止剤の散布データとして、その種類、散布量及び散布時期が設定される(S200)。散布データは予め記憶されたデータを自動的に設定してもよいし、入力部6から入力するようにしてもよい。
【0116】
次に、初期状態として、気象条件及び交通条件に関する必要なデータが設定データ記憶部2に記憶される(S201)。そして、熱収支、氷・水・空気収支の計算に必要なパラメータを設定する(S202)。設定するパラメータとしては、図8に示す予測処理フローのステップS101と同様に設定すればよい。
【0117】
次に、雪氷状態予測部11において熱収支モデルを用いて雪氷層及び舗装層の熱収支を計算する(S203)とともに、氷・水・空気収支モデルを用いて雪氷層の氷・水・空気収支を計算し(S204)、相互のモデル間において同時連成解析を行う。解析結果に基づいて各予測地点の雪氷状態予測データ(水、氷及び空気の体積割合、雪氷の厚さ、雪氷密度及び質量含氷率等)を算出する(S205)。こうして算出された雪氷状態予測データ及び設定テーブル42に記憶されたすべり摩擦係数のデータに基づいてすべり摩擦係数の予測データを決定する(S206)。
【0118】
図15は、凍結防止剤として塩化ナトリウムを用い、降雪前に散布量を50g/m2で散布した場合のすべり摩擦係数の予測結果である。図12に示すように散布しない場合には、圧雪状態の雪氷層が形成されてすべり摩擦係数が0.2に低下し、スリップしやすい状態が予測されていたが、図15では、同じ時間帯ですべり摩擦係数が0.4となり、すべり摩擦係数の低下が抑えられていることがわかる。これは、凍結防止剤の散布により圧雪状態の雪氷層の形成が抑止され、含水率が大きくなったことで、すべり摩擦係数の低下が抑えられている。
【0119】
こうして決定されたすべり摩擦係数の予測結果が基準範囲内であるか否か判定し(S207)、予測結果が基準範囲内に収まっている場合には、ステップS200で設定した散布データを最適のものとして散布条件を決定する(S208)。決定されたすべり摩擦係数の予測結果の一部でも基準範囲外である場合には、ステップS200に戻り、散布データを再設定してステップS201からS206まで再計算してすべり摩擦係数を再度決定する。そして、再度決定したすべり摩擦係数が基準範囲内となるまで凍結防止剤の散布データを調整して最適の散布条件を決定する。
【0120】
すべり摩擦係数の基準範囲は、下限についてはスリップを防止するのに必要なすべり摩擦係数であり、路面の傾斜状態等の状況に合せて設定するとよい。一般に0.4以下では滑りやすい状態とされているが、道路状況を勘案して設定することが望ましい。上限については、通常の湿潤状態の路面に合せて設定すればよい。一般に0.6~0.7とされているが、道路状況に合せて設定することが望ましい。
【0121】
図16は、図15の場合の散布データを再設定して散布量を100g/m2に設定した場合のすべり摩擦係数の予測結果である。図15の場合に比べて、すべり摩擦係数が0.5に上昇して路面状況がさらに改善することが予測される。しかし、すべり摩擦係数の基準範囲の下限が0.4の場合には、散布量は50g/m2で散布条件が決定されるようになり、客観的なデータに基づいて過剰散布を行うことなく適正な散布条件を決定することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0122】
【図1】本発明に係る路面のすべり摩擦予測装置に関する概略ブロック構成図である。
【図2】路面雪氷層の水収支モデル及び氷収支モデルを図解した説明図である。
【図3】路面雪氷層に影響を及ぼす熱収支成分を図解した説明図である。
【図4】図3に示す熱収支成分をそれぞれ定量化した熱フラックスを図解した説明図である。
【図5】車両底面温度の無次元距離分布を示す説明図である。
【図6】普通車通過に伴う車両誘発風の時間変化を示すグラフである。
【図7】水、氷及び空気の体積割合とすべり摩擦係数との間の相関関係を示すグラフである。
【図8】すべり摩擦係数の予測処理に関するフローである。
【図9】気象条件に関するパラメータの時間的推移を示すグラフである。
【図10】交通条件に関するパラメータの時間的推移を示すグラフである。
【図11】路面温度、雪氷温度及び雪氷層内の氷・水・空気の混合割合に関する時間的推移を示すグラフである。
【図12】すべり摩擦係数の予測結果を示すグラフである。
【図13】本発明に係る別のすべり摩擦予測装置に関する概略ブロック構成図である。
【図14】凍結防止剤を散布する場合のすべり摩擦係数の予測処理に関するフローである。
【図15】散布量50g/m2で散布した場合のすべり摩擦係数の予測結果を示すグラフである。
【図16】散布量100g/m2で散布した場合のすべり摩擦係数の予測結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0123】
1 情報処理部
2 設定データ記憶部
3 送受信部
4 記憶部
5 表示部
6 入力部
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11
【図13】
12
【図14】
13
【図15】
14
【図16】
15