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明細書 :液晶組成物及びスイッチング素子

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5283254号 (P5283254)
公開番号 特開2009-155416 (P2009-155416A)
登録日 平成25年6月7日(2013.6.7)
発行日 平成25年9月4日(2013.9.4)
公開日 平成21年7月16日(2009.7.16)
発明の名称または考案の名称 液晶組成物及びスイッチング素子
国際特許分類 C09K  19/38        (2006.01)
G02F   1/13        (2006.01)
FI C09K 19/38
G02F 1/13 500
請求項の数または発明の数 5
全頁数 13
出願番号 特願2007-333743 (P2007-333743)
出願日 平成19年12月26日(2007.12.26)
審査請求日 平成22年12月17日(2010.12.17)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】803000115
【氏名又は名称】学校法人東京理科大学
発明者または考案者 【氏名】坂口 謙吾
【氏名】岩端 一樹
【氏名】中林 匡
【氏名】内山 幸伸
【氏名】小林 駿介
【氏名】井上 勝
個別代理人の代理人 【識別番号】100079049、【弁理士】、【氏名又は名称】中島 淳
【識別番号】100084995、【弁理士】、【氏名又は名称】加藤 和詳
【識別番号】100085279、【弁理士】、【氏名又は名称】西元 勝一
【識別番号】100099025、【弁理士】、【氏名又は名称】福田 浩志
審査官 【審査官】小出 輝
参考文献・文献 特開2004-347618(JP,A)
特表2004-526830(JP,A)
特表2010-520945(JP,A)
調査した分野 C09K 19/38
G02F 1/13
特許請求の範囲 【請求項1】
シアノビフェニル類、コレステリルエステル類、炭酸エステル類、フェニルエステル類、シッフ塩基類、ベンジジン類、アゾキシベンゼン類及び液晶高分子からなる群より選択される少なくとも一種の液晶と、ポリヌクレオチドと、を少なくとも含み、前記ポリヌクレオチドの濃度が、5.5x10-3質量%以上5.5x10-1質量%以下である液晶組成物。
【請求項2】
前記液晶が、シアノビフェニル類である請求項1に記載の液晶組成物。
【請求項3】
前記ポリヌクレオチドの長さが、7塩基以上1000塩基以下である請求項1に記載の液晶組成物。
【請求項4】
600nmにおける吸光度が0.1以下である請求項1に記載の液晶組成物。
【請求項5】
対向する一対の電極と、
これら電極の対向する内側面にそれぞれプレティルト角を伴って設けられた配向膜と、
これら一対の配向膜の間に形成された請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の液晶組成物を含む液晶層と、
前記電極に接続され、所定周波数の電圧を前記液晶層に印加する印加手段と、
前記印加手段による印加電圧及び周波数を制御する制御手段と、
を備えたスイッチング素子。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、スイッチング素子及び該スイッチング素子に用いられる液晶組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶は厳密には結晶と液体の中間状態のうち、粒子の方向の何らかの秩序は保っているものの、3次元的な位置の秩序を失った状態である。もともと液晶という名称は、液体(Liquid)の流動性と結晶(Crystal)の異方性を合わせ持つことに由来する。今日、この液晶を応用した機器は、コンピュータ用モニター・テレビ・携帯電話などのモバイル機器の表示等、広く世の中に浸透している。
【0003】
近年、液晶内に添加物を加えることで、液晶に新たな機能を付加して電子工学的に利用する研究が行われている。例えば加藤等は、液晶にアミノ酸誘導体を添加することで液晶の特性を変化させる報告をしている(例えば、非特許文献1乃至6参照)。具体的には、アミノ酸誘導体同士の相互作用によりネットワーク状の集合体を形成し、ソフトなゼリー状の液晶ゲルを調製する。この液晶ゲルには、電界に対する応答速度の高速化や、高コントラストなどといった高機能性を新たに付加できることが確認されている。
【0004】
また、小林等は、液晶中に液晶分子又は液晶様分子で保護された金属ナノ粒子を分散添加することにより電気光学応答に広範囲の周波数依存性を持たせることを可能とした。さらに、印加電界の周波数を切り替えることにより高速の電気光学応答が得られることを報告している(例えば、非特許文献7乃至9並びに特許文献1及び2参照)。

【非特許文献1】N. Mizoshita et al., Adv. Funct. Mater., 13, 313(2003).
【非特許文献2】Y. Suzuki et al., J. Mater. Chem., 13, 2870(2003).
【非特許文献3】N. Mizoshita et al., Mol. Cryst. Liq. Cryst., 409, 175(2004).
【非特許文献4】T. Kato, Science, 295, 2414(2002).
【非特許文献5】N. Mizoshita et al., J. Mater. Chem., 12, 2197(2002).
【非特許文献6】N. Mizoshita et al., Adv. Mater., 11, 392(1999).
【非特許文献7】J. Thisayukata et al., Jpn. J. Appl. Phys., 41, 5430(2004).
【非特許文献8】Y. Shiraishi et al., Appl. Phys. Lett., 81, 2845(2002).
【非特許文献9】H. Yoshikawa et al., Jpn. J. Appl. Phys., 41, L1315(2002).
【特許文献1】特開2003-149683号公報
【特許文献2】特開2004-347618号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
液晶を用いた各種部材に対するユーザーの要求は多岐にわたる。このようなユーザーの多様な要求に応えるべく新たなスイッチング素子の開発が望まれていた。
本発明は、液晶を用いた新規なスイッチング素子及びそれに用いられる液晶組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、液晶に添加物としてポリヌクレオチドを加えた液晶組成物を調製し、この液晶組成物に一定の電圧を印加しながら電圧の周波数を変化させたところ、ポリヌクレオチドの種類や濃度によって誘電緩和に対する固有のピーク周波数が現れ、誘電率が変化することを発見した。本発明は、上記発見に基づきなされたものである。
即ち、本発明は、
<1> シアノビフェニル類、コレステリルエステル類、炭酸エステル類、フェニルエステル類、シッフ塩基類、ベンジジン類、アゾキシベンゼン類及び液晶高分子からなる群より選択される少なくとも一種の液晶と、ポリヌクレオチドと、を少なくとも含み、前記ポリヌクレオチドの濃度が、5.5x10-3質量%以上5.5x10-1質量%以下である液晶組成物である。
【0007】
<2> 前記液晶が、シアノビフェニル類である<1>に記載の液晶組成物である。
【0009】
<3> 前記ポリヌクレオチドの長さが、7塩基以上1000塩基以下である<1>に記載の液晶組成物である。
【0010】
<4> 600nmにおける吸光度が0.1以下である<1>に記載の液晶組成物である。
【0011】
<5> 対向する一対の電極と、これら電極の対向する内側面にそれぞれプレティルト角を伴って設けられた配向膜と、これら一対の配向膜の間に形成された<1>~<4>のいずれか1つに記載の液晶組成物を含む液晶層と、前記電極に接続され、所定周波数の電圧を前記液晶層に印加する印加手段と、前記印加手段による印加電圧及び周波数を制御する制御手段と、を備えたスイッチング素子である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、誘電率の変化を利用した新規なスイッチング素子及びそれに用いられる液晶組成物が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の液晶組成物及びそれを用いたスイッチング素子について詳細に説明する。
<液晶組成物>
本発明の液晶組成物は、シアノビフェニル類、コレステリルエステル類、炭酸エステル類、フェニルエステル類、シッフ塩基類、ベンジジン類、アゾキシベンゼン類及び液晶高分子からなる群より選択される少なくとも一種の液晶と、ポリヌクレオチドと、を少なくとも含むものである。
【0014】
本発明の液晶組成物は、誘電率の変化を利用した後述する本発明のスイッチング素子の構成要素として好適に用いることができる。
【0015】
本発明の液晶組成物においては、溶質であるポリヌクレオチドが溶媒である液晶中に溶解又は分散した状態となっている。上記以外の液晶を用いると、液晶組成物に一定の電圧を印加しながら電圧の周波数を変化させたとしても、ポリヌクレオチドの種類や濃度による誘電緩和に対する固有のピーク周波数が現れず、誘電率が変化しないことがある。
【0016】
本発明に係る液晶としては、例えば、4-シアノ-4’-n-ペンチルビフェニル、4-シアノ-4’-n-ヘプチルビフェニル、4-シアノ-4’-n-へプチロキシビフェニル等のシアノビフェニル類;コレステリルアセテート、コレステリルベンゾエート等のコレステリルエステル類;4-カルボキシフェニルエチルカーボネート、4-カルボキシフェニル-n-ブチルカーボネート等の炭酸エステル類;安息香酸フェニルエステル、フタル酸ビフェニルエステル等のフェニルエステル類;ベンジリデン-2-ナフチルアミン、4’-n-ブトキシベンジリデン-4-アセチルアニリン等のシッフ塩基類;N,N’-ビスベンジリデンベンジジン、p-ジアニスアルベンジジン等のベンジジン類;4,4’-アゾキシジアニソール、4,4’-ジ-n-ブトキシアゾキシベンゼン等のアゾキシベンゼン類;ポリ(p-フェニレンテレフタルアミド)等の液晶高分子;のうち少なくとも1種が用いられる。
また、4-メルカプト-4’-n-ビフェニル、4-シアノ-4’-(ω-メルカプトペンチル)ビフェニル等の液晶分子に構造の似た液晶様分子も用いることができる。
これらの液晶及び液晶様分子は一種単独で用いてもよいし2種以上を混合して用いてもよい。
【0017】
本発明に用いられる液晶としては、これらの中でもポリヌクレオチドとの相互作用により誘電率の変化が観測しやすいシアノビフェニル類が好ましく、さらに好ましくは安定した供給が可能であることから4-シアノ-4’-n-ペンチルビフェニル(以下、5CBと称することがある)又は4-シアノ-4’-n-ヘプチルビフェニルである。
【0018】
本発明に用いられるポリヌクレオチドの長さ及び濃度並びにポリヌクレオチドを構成するヌクレオチドの種類は、特に限定されるものではなく適宜選択することができる。また、一種類のポリヌクレオチドを単独で用いてもよいし二種以上のポリヌクレオチドを併用することもできる。
【0019】
ポリヌクレオチドの具体例としては、一本鎖又は二本鎖のDNA、RNA、DNA/RNAハイブリッド等が挙げられる。
【0020】
ポリヌクレオチドの長さは、7塩基以上1000塩基以下が好ましく、有機合成が容易に可能であることから7塩基以上100塩基以下がさらに好ましく、液晶組成物中にポリヌクレオチドを均一に分散又は溶解するのが容易であることから7塩基以上50塩基以下が特に好ましい。
【0021】
本発明の液晶組成物中に含まれるポリヌクレオチドの濃度は、5.5x10-3質量%以上5.5x10-1質量%以下が好ましく、6.9x10-3質量%以上5.5x10-2質量%以下が特に好ましい。ポリヌクレオチドの濃度が5.5x10-3質量%以上であれば、本発明の液晶組成物の誘電緩和現象が顕著に現れる。ポリヌクレオチドの濃度が5.5x10-1質量%以下であれば、ポリヌクレオチドを均一に液晶組成物中に分散しやすくなる。
【0022】
本発明の液晶組成物には、所定の液晶及びポリヌクレオチド以外のその他の成分が含まれていてもよい。その他の成分としては、アミノ酸、オリゴペプチド、ポリペプチド、糖鎖、リン脂質、及びそれらの複合体等が挙げられる。
【0023】
ポリヌクレオチドが液晶中に溶解又は分散しているか否かは、例えば、IR測定器を用いてポリヌクレオチドに含まれるリン酸基由来の2400cm-1付近の吸収ピークの有無を確認する方法、目視による液晶組成物中の分離の有無を確認する方法、ポリヌクレオチド中に含まれ且つ液晶中に含まれない元素をICP元素分析により定量する方法、又は、後述する分光光度計を用いた方法等により確認することができる。これらの中でも、簡便且つ定量的な評価が可能なことから分光光度計を用いた方法が好ましい。
【0024】
ポリヌクレオチドが液晶中に溶解又は分散していない場合、液晶組成物が白濁又は分離することがある。この場合、ポリヌクレオチドが液晶中に溶解又は分散しているか否かは液晶組成物の白濁の度合いを分光光度計により測定して確認することができる。本発明の液晶組成物においては、600nmにおける吸光度が0.1(Abs)以下であることが好ましい。600nmにおける吸光度が0.1(Abs)以下であれば、ポリヌクレオチドが液晶中に溶解又は分散していると考えてよい。
なお、本発明において吸光度とは液晶組成物を構成する液晶を対照としたときの該液晶が液体状態となる温度において測定された液晶組成物の吸光度をいう。
【0025】
本発明の液晶組成物において、ポリヌクレオチドを液晶へ溶解又は分散させる方法については特に限定されるものではないが、液晶及び有機溶剤を混合した液晶溶液とポリヌクレオチド水溶液とを混合してポリヌクレオチド水溶液を液晶溶液に分散することにより分散液を得る分散工程と、前記分散液を凍結させて凍結した分散液を得る凍結工程と、前記凍結した分散液を凍結乾燥する乾燥工程と、を経て調製することが、ポリヌクレオチドを均一に液晶に分散することができる点から好ましい。凍結乾燥により有機溶剤及び水が除去され、液晶組成物を得ることができる。
【0026】
液晶溶液の調製に用いられる有機溶剤としては、例えば、ブタノール、オクタン、メタノール、エタノール、プロパノール、ペンタン、ヘキサン等の10-1Pa環境下で、沸点が10℃以下の条件を満たす溶剤が挙げられ、これらの有機溶媒を一種単独で、又は二種以上を混合して用いることができる。これらの中でも、ブタノール、オクタン、エタノール等が好ましく、ブタノールとオクタンとの混合溶剤がさらに好ましい。
【0027】
<スイッチング素子>
次に、本発明のスイッチング素子を図面に基づき説明する。
図1は、本発明のスイッチング素子の一実施形態を示す概略断面図である。本実施形態のスイッチング素子は、一対の基板1A及び基板1Bと、基板1A及び基板1Bの内側面にそれぞれ対向するように設けられた電極2A及び電極2Bと、電極2A及び電極2Bの対向する内側面にそれぞれプレティルト角を伴って設けられた配向膜3A及び配向膜3Bと、配向膜3A及び配向膜3Bの間に形成された液晶6とポリヌクレオチド5とからなる本発明の液晶組成物を含む液晶層4と、電極2A及び電極2Bに接続され、所定周波数の電圧を液晶層4に印加する印加手段である電源8及び電源8による印加電圧及び周波数を制御する制御手段である制御部9を含む制御回路10と、を備える。
【0028】
本発明の液晶組成物を含む液晶層4に印加される電圧の周波数を制御部9で制御することにより、液晶層4の誘電率を印加電圧の周波数に基づいて変化させることが可能となる。つまり、本発明のスイッチング素子によれば、印加電圧の周波数を変化させることにより液晶層4の誘電率を上げ下げできるスイッチが実現可能となる。
【0029】
基板1A及び基板1Bの素材は特に限定されるものではなく、厚さ1mm程度のガラスまたは透光性樹脂から構成することができる。
【0030】
電極2A及び電極2Bとしては電気伝導度が大きいものが好ましく、具体的には、ITO、ZnO、In-ZnOなどの材料が用いられ、スパッタリング法などにより成膜されて形成される。
【0031】
本発明のスイッチング素子を単純マトリクス方式により駆動する場合、電極2A及び電極2Bは各々走査電極及び信号電極として構成される。また、本発明のスイッチング素子をアクティブマトリクス方式により駆動する場合、電極2Aは共通電極として、電極2Bは薄膜トランジスタ(TFT)などのアクティブ素子の二次元アレイ及び画素電極として構成される。
【0032】
配向膜3A及び配向膜3Bは、スイッチング素子の動作モードによりプレティルト角を伴った水平配向または垂直配向を与えるように処理されている。配向膜3A及び配向膜3Bは、例えばポリイミド等を塗布焼成するなど通常公知の方法により形成される。
【0033】
液晶層4は上述した本発明の液晶組成物を含んで構成される。なお、図1において基板1Aと基板1Bとの間を平行に保つためのスペーサ及び液晶層4を封止する封止剤は図示省略されている。
【0034】
電源8は、制御部9の指示により所望の周波数の電圧を液晶層4に印加できるものであれば特に限定されるものではなく、印加電圧及び周波数可変の汎用の交流電源を用いることができる。液晶層4に印加される電圧及び周波数は特に限定されるものではなく液晶組成物を構成する液晶及びポリヌクレオチドの種類により適宜決定することができるが、電圧は1V以上3V以下がノイズ低減の理由から好ましく、周波数は0.1Hz以上100000Hz以下がポリヌクレオチドの誘電緩和現象を見るのに最適な周波数領域であることから好ましい。
【0035】
制御部9は、図示を省略するCPU(中央演算処理装置)、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)を含むマイクロコンピュータとして構成されている。制御部9は電源8と電気的に接続されており、液晶層4に所望の周波数の電圧を印加するように電源8を制御可能とされている。
【0036】
次に、本実施形態に係るスイッチング素子の動作を、液晶組成物として5CB中に200μM(5.5x10-2質量%)のC10b(10分子のデオキシシチジル酸の重合体)を含む液晶組成物を用いた場合を例に説明する。
【0037】
図2(A)は、この液晶組成物の複素誘電率の実部(ε’)を、高性能電気化学測定システム1255WB型(ソーラトロン社製)を用いて測定した結果を示す図である。図2(A)から明らかなように、印加電圧(3V)の周波数が0.1Hzの場合には液晶組成物の複素誘電率の実部(ε’)は約140である一方、印加電圧(3V)の周波数を100Hzとした場合には液晶組成物の複素誘電率の実部(ε’)は約20である。
【0038】
制御部9の指示により電源8が周波数0.1Hzの電圧(3V)を液晶層4に印加すると、図2(A)から明らかなように液晶層4の複素誘電率の実部(ε’)は約140とされる。一方、制御部9の指示により電源8が周波数100Hzの電圧(3V)を液晶層4に印加すると、液晶層4の複素誘電率の実部(ε’)は約20とされる。本実施形態のスイッチング素子は、印加電圧の周波数を切り替えることにより誘電率が変化する素子として動作する。
【0039】
本実施形態に係るスイッチング素子は、液晶層4の誘電率を測定する誘電率測定手段をさらに備えてもよい。このような構成とすることにより、誘電率測定手段から得られる液晶層4の誘電率の値に基づいて制御部9が電源8による印加電圧の周波数等を制御可能となる。その結果として、液晶層4の誘電率を所望の値となるように制御することができるようになる。
【0040】
本発明のスイッチング素子は印加電圧の周波数を変化させることにより液晶層の誘電率を変化させることができるものである。本発明のスイッチング素子は周波数依存的に誘電率が変化することから、コンデンサーとしても機能する。
【0041】
<ポリヌクレオチド構造解析装置>
粘性流体中の電気双極子の外部電界に対する応答は、Debyeモデルで表される。Debyeモデルによると、下記式(1)で表される複素誘電率εに対して、εの周波数応答は下記式(2)で表される。
【0042】
ε=ε’-iε’’ 式(1)
ここで、ε’は複素誘電率の実部を、ε’’は複素誘電率の虚部を表す。
【0043】
【数1】
JP0005283254B2_000002t.gif

【0044】
ここで、ε(∞)はω=∞のときの誘電率を、ε(0)は静的誘電率を、ωは角周波数を、τRは緩和時間を、σは電気伝導率を表す。
【0045】
このεに対して、複素平面上の偏角θ(=arctan(-ε’’/ε’))を周波数に対してプロットすると、媒質中の電気双極子の強さや分子の形状・大きさ等の特性によって誘電緩和に対する溶媒分子に特異的なピーク周波数が現れることが知られている。言い換えれば、交流電場を印加しながら周波数を変化させると、電場中に存在する分子の種類をピーク周波数等に基づいて推定可能となる。
【0046】
この原理を利用してポリヌクレオチドの立体構造・塩基配列・長さ・体積等の構造を解析することが可能となる。
ポリヌクレオチド構造解析装置としては、対向する一対の電極と、これら電極の対向する内側面にそれぞれプレティルト角を伴って設けられた配向膜と、前記電極に接続され、これら一対の配向膜の間に形成された液晶とポリヌクレオチドとを含有する液晶組成物で構成される液晶層の誘電特性を測定する測定手段と、を備えるものが挙げられる。
【0047】
ポリヌクレオチド構造解析装置に供される液晶組成物は、本発明の液晶組成物と同様の材料、濃度及び方法等により調製することができる。また、電極や配向膜等としては、本発明のスイッチング素子と同様の部材を用いることができる。
【0048】
前記測定手段により測定される液晶層の誘電特性としては、ε’、ε’’、tanδ、arctanδ(θ)等が挙げられる。
【0049】
ポリヌクレオチド構造解析装置によれば、ポリヌクレオチドの構造に固有の誘電特性が測定されるため、この誘電特性に基づいてポリヌクレオチドの構造を推定することができる。
例えば、上述のポリヌクレオチド構造解析装置を用いて未知の構造のポリヌクレオチドの誘電特性を測定し、その結果と上述のポリヌクレオチド構造解析装置を用いて得られた既知の構造のポリヌクレオチドの誘電特性とを対比することにより、未知の構造のポリヌクレオチドの構造を推定することができる。
【実施例】
【0050】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
<実施例で用いたポリヌクレオチド(DNA)の種類>
本実施例では、下記表1に示すポリヌクレオチドを用いた。ポリヌクレオチドは、インビトロジェンからカートリッジ精製されたものを用いた。
【0051】
【表1】
JP0005283254B2_000003t.gif

【0052】
ここで、塩基がアデニンで長さが10の場合、デオキシアデニル酸10分子の重合体を意味し、以下A10bと称する。その他のポリヌクレオチドについても同様とし、デオキシグアニル酸、デオキシシチジル酸又はチミジル酸の重合体を意味する。
【0053】
<液晶組成物の調製>
4-シアノ-4´-n-ペンチルビフェニル(5CB;東京化成工業社製)と1-ブタノールとn-オクタンとを50:1:25の体積比率で混合して液晶溶液を調製した。別途、所望のポリヌクレオチドを1mmol/l(mM、2.8x10-1質量%)含むポリヌクレオチド水溶液のマスターバッチを調製した。液晶組成物中に含まれるポリヌクレオチド濃度が所望の濃度となるようにこのマスターバッチを適宜希釈して調製したポリヌクレオチド水溶液と液晶溶液とを混合した。得られた混合液を超音波処理(Branson SONIFIER450を用い400W,10secの条件で処理)することにより分散液を得た。超音波処理後すぐに液体窒素で分散液を凍結させた。凍結した状態で凍結乾燥機(東京理化器械株式会社製EYELA FDU-2100)を用いて16時間処理することにより1-ブタノール、n-オクタン及び水を除去して5CB中に所望量のポリヌクレオチドを含む液晶組成物を調製した。液晶組成物は使用直前まで減圧下(2~3Pa)にて保存した。
【0054】
<ICP元素分析>
ICP元素分析により、ポリヌクレオチドが5CB中に含まれているか否かを下記方法に基づき確認した。
5CBはその分子組成として炭素原子、水素原子、酸素原子及び窒素原子を含む。一方、ポリヌクレオチドはこれら4種の元素に加えてリン原子をさらに含む。そこで、液晶組成物中に含まれるリン原子の量を定量することにより5CB中にポリヌクレオチドが含まれているか否かを確認できる。
元素分析は、ICP発光分析装置ICPS-7510((株)島津製作所製)を用いた。リファレンススタンダードとして、AccuStandard社製のリン10000μg/mlを50ppm、10ppm及び1ppmになるように希釈したものを用いた。上述の方法によりC10bを1mM含むように調製された液晶組成物の200μlにDNA抽出buffer(20mM Tris-HCl、pH7.5、10mM MgCl、50mM NaCl;各試薬は和光純薬工業(株)社製)を800μl添加し、超音波処理(Branson SONIFIER450を用い、400W,30secの条件で処理)を行ってエマルジョンを調製した。このエマルジョンに9mlの0.1%Tritonx-100(ナカライテスク社製)を加え、マグネティックスターラーを用いて室温(25℃)で10分撹拌した後、再度超音波処理(Branson SONIFIER450を用い、400W,60secの条件で処理)を行って得られたエマルジョンをICP測定実験に供した。また、DNA水溶液に代えてそれと同体積の水を用いた以外は上記<液晶組成物の調製>と同様の工程を経て5CBを含むエマルジョンを調製し対照としてICP測定実験に供した。
その結果、5CBのみのサンプルではリンに特異的な178.287nmのピークは検出されなかったが、C10bを1mM含む液晶組成物から調製されたサンプルではリンに特異的なピークが検出された。リファレンススタンダードから得られた検量線に基づいてC10bを1mM含む液晶組成物から調製されたサンプル中のリン含有量を求めたところ、6.36ppmであった。C10bを1mM含む液晶組成物から調製されたサンプルは、理論上6ppmのリンを含むものである。この結果から、C10bを1mM含む液晶組成物では5CB中にC10bが含まれていることが明らかとなった。
【0055】
<IR測定>
C10bを1mM含む液晶組成物のIR測定は、日本分光(株)のFT/IR-410を用い、この液晶組成物をNaClの単結晶の間に挟み込んだ状態で測定した。対照として、5CB及び5CBにヌクレオシドの一種であるシチジン(BioChemika製;HPLCグレード)を10mM(2.4x10-1質量%)添加したサンプルについてもC10bを1mM含む液晶組成物の場合と同様にしてIR測定を実施した。C10bを1mM含む液晶組成物のIRスペクトルと5CBのIRスペクトルとを比較すると、2400cm-1付近に5CBには見られない特異的なピークがC10bを1mM含む液晶組成物のIRスペクトルに観察された。また、シチジンを添加したサンプルのIRスペクトルには2400cm-1付近の特異的なピークは観察されなかった。このことから、C10bを1mM含む液晶組成物のIRスペクトルに特異的な2400cm-1付近の吸収ピークはリン酸基由来のものと考えられる。また、この結果からC10bを1mM含む液晶組成物にC10bが含まれていることが示された。
【0056】
<誘電特性の測定>
上述の方法によりC10bを25、30、40、50、75、100、200、500、750、1000、1500及び2000μM含むように調製された液晶組成物を各々調製し、各液晶組成物について誘電特性を測定した。また、ブランクとして5CBの誘電測定を測定した。なお、C10bの分散状態を確認するため、各液晶組成物の50℃における状態を目視により観察すると共に、液晶組成物の一部について吸光度OD600を測定した。
【0057】
-吸光度測定-
液晶組成物を石英セルにいれ、温度制御ユニットを備えた日立分光光度計U3210型を用いて5CBが液状となる50℃において600nmにおける吸光度OD600を測定した。なお液晶組成物のOD600を測定する際の対照として5CBを用いた。得られた結果を目視による観察と共に表2に示す。
【0058】
-誘電特性測定装置-
液晶組成物の誘電特性は、NIPPO DENKI製のセル(商品名:AL-1051、JSR社製の配向膜を備える)に液晶組成物2.0x10-3mlを充填し、高性能電気化学測定システム1255WB型(ソーラトロン社製)を用いて25℃、大気圧下の条件で測定した。得られた結果を表2に示すと共に、C10bの濃度が0、25、50、100及び200μMの液晶組成物の複素誘電率の実部ε’(図2(A))、虚部ε’’(図2(B))及びtanδ(図2(C))の測定結果を図2に示す。なお、表2においてε’’及びtanδはそれぞれのピーク周波数を示す。
【0059】
C10bの場合と同様にして、C7b、C11b、C12b、C13b、C14b、C15b、C20b、C30b、C40b及びC50b並びにA10b、G10b及びT10bを100μM含む液晶組成物を調製し、C10bの場合と同様にして目視による観察及び誘電特性の測定を実施した。得られた結果を表2に示すと共に、A10b、G10b及びT10bを含む液晶組成物の複素誘電率の実部ε’(図3(A))、虚部ε’’(図3(B))及びtanδ(図3(C))を、C10bを100μM含む液晶組成物の結果と共に図3に示す。
【0060】
【表2】
JP0005283254B2_000004t.gif

【0061】
表2並びに図2及び図3から、液晶に添加するポリヌクレオチドの種類や濃度によって、液晶組成物の誘電率が変化する固有の周波数が現れることがわかる。一方、5CB単独の場合、誘電特性の周波数依存性がほとんど見られない。
本発明の液晶組成物を用いて図1に示すスイッチング素子を構成することで、電圧の周波数を変化させることにより液晶層の誘電率を上げ下げできるスイッチが得られる。
【0062】
液晶として5CBの代わりに4-シアノ-4’-n-ヘプチルビフェニル(東京化成工業社製)を用い、ポリヌクレオチドとしてC10bを100μM(2.7x10-2質量%)添加した液晶組成物を5CBを用いた場合と同様の方法により調製し、5CBを用いた液晶組成物の場合と同様に評価したところ、目視観察の結果は無色透明、ε’’のピーク周波数は20Hz、tanδのピーク周波数は79.4Hzであり、液晶組成物の誘電緩和に対する固有のピーク周波数が現われ、誘電率が変化した。
【0063】
一方、液晶として大日本インキ社製のMO16、DON-103、BPE-M21及び12-13並びにメルク社製のZLI-4792、MLC-2037、MLC-2038及びMLC-6884を用いた場合、これらの液晶にポリヌクレオチドを添加しても液晶組成物の誘電緩和に対する固有のピーク周波数は現れなかった。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明のスイッチング素子の一実施形態を示す概略断面図である。
【図2】実施例で測定された液晶組成物の複素誘電率の実部ε’(A)、虚部ε’’(B)及びtanδ(C)を示す図である。
【図3】実施例で測定された液晶組成物の複素誘電率の実部ε’(A)、虚部ε’’(B)及びtanδ(C)を示す図である。
【符号の説明】
【0065】
1A、1B 基板
2A、2B 電極
3A、3B 配向膜
4 液晶層
5 ポリヌクレオチド
6 液晶
8 電源
9 制御部
10 制御回路
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2