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明細書 :強誘電体材料及び圧電体

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5267971号 (P5267971)
公開番号 特開2009-231482 (P2009-231482A)
登録日 平成25年5月17日(2013.5.17)
発行日 平成25年8月21日(2013.8.21)
公開日 平成21年10月8日(2009.10.8)
発明の名称または考案の名称 強誘電体材料及び圧電体
国際特許分類 H01L  41/187       (2006.01)
H01L  21/8246      (2006.01)
H01L  27/105       (2006.01)
H01L  41/18        (2006.01)
H01L  41/39        (2013.01)
H01B   3/12        (2006.01)
C23C  14/08        (2006.01)
C23C  14/34        (2006.01)
C04B  35/26        (2006.01)
FI H01L 41/18 101B
H01L 27/10 444C
H01L 41/18 101Z
H01L 41/22 A
H01B 3/12 318Z
C23C 14/08 K
C23C 14/34 A
C04B 35/26 Z
請求項の数または発明の数 11
全頁数 12
出願番号 特願2008-074105 (P2008-074105)
出願日 平成20年3月21日(2008.3.21)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 平成19年11月30日(発行日)(発表日:平成19年12月1日)に応用物理学会北陸・信越支部主催の「平成19年度応用物理学会北陸・信越支部学術講演会」(開催期間平成19年11月30日~12月1日)において文書をもって発表
審査請求日 平成23年1月26日(2011.1.26)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
発明者または考案者 【氏名】川江 健
【氏名】森本 章治
【氏名】津田 尚
個別代理人の代理人 【識別番号】100109210、【弁理士】、【氏名又は名称】新居 広守
審査官 【審査官】河合 俊英
参考文献・文献 国際公開第2007/099901(WO,A1)
特開2007-284262(JP,A)
特開2007-287740(JP,A)
特開2006-176366(JP,A)
特開2005-039166(JP,A)
特開2007-221066(JP,A)
特開2008-195603(JP,A)
調査した分野 H01L 41/187
C04B 35/26
C23C 14/08
C23C 14/34
H01B 3/12
H01L 21/8246
H01L 27/105
H01L 41/18
H01L 41/39
特許請求の範囲 【請求項1】
強誘電体であるBiFeO3のBiサイトの一部が、希土類元素であるNdを用いて元素置換され、前記BiFeO3のFeサイトの一部が、遷移金属元素であるMnを用いて元素置換された(Bi1-xNdx)(Fe1-yMny)O3の構成を有する
ことを特徴とする強誘電体材料。
【請求項2】
前記Biに対する前記Ndの元素置換の比率及び前記Feに対する前記Mnの元素置換の比率は、1%以上10%以下である
ことを特徴とする請求項記載の強誘電体材料。
【請求項3】
さらに、前記Biに対する前記Ndの元素置換の比率及び前記Feに対する前記Mnの元素置換の比率は、3%以上5%以下である
ことを特徴とする請求項記載の強誘電体材料。
【請求項4】
強誘電体であるBiFeO3のBiサイトの一部が、希土類元素であるNdを用いて元素置換され、前記BiFeO3のFeサイトの一部が、遷移金属元素であるMnを用いて元素置換された(Bi1-xNdx)(Fe1-yMny)O3の構成を有する
ことを特徴とする圧電体。
【請求項5】
前記Biに対する前記Ndの元素置換の比率及び前記Feに対する前記Mnの元素置換比率は、1%以上10%以下である
ことを特徴とする請求項記載の圧電体。
【請求項6】
さらに、前記Biに対する前記Ndの元素置換の比率及び前記Feに対する前記Mnの元素置換の比率は、3%以上5%以下である
ことを特徴とする請求項記載の圧電体。
【請求項7】
焼結ターゲットにパルスレーザを照射することにより、強誘電体であるBiFeO3のBiサイトの一部を、希土類元素であるNdを用いて元素置換すると共に、前記BiFeO3のFeサイトの一部を、遷移金属元素であるMnを用いて元素置換することにより、(Bi1-xNdx)(Fe1-yMny)O3の構成を有する強誘電体材料の薄膜を基板上に堆積するステップを含む
ことを特徴とする強誘電体材料の製造方法。
【請求項8】
前記ステップにおいて、
前記焼結ターゲットは、Bi:Nd:Fe:Mn=1.0:0.05:0.97:0.03の組成比である
ことを特徴とする請求項記載の強誘電体材料の製造方法。
【請求項9】
前記基板として、SrTiO3基板上にPtをPLA(Pulsed Laser Ablation)堆積させたPt/SrTiO3基板を使用し、
前記ステップにおいては、前記Pt/SrTiO3基板上に前記強誘電体材料として前記(Bi1-xNdx)(Fe1-yMny)O3の薄膜を堆積させる
ことを特徴とする請求項記載の強誘電体材料の製造方法。
【請求項10】
前記請求項1からのいずれか1項に記載の強誘電体材料を備える
ことを特徴とするメモリ。
【請求項11】
前記請求項からのいずれか1項に記載の圧電体を備える
ことを特徴とするアクチュエータ。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、強誘電体材料及び圧電体に関し、特に強誘電体であるBiFeO3材料を用いて元素置換を行って生成される強誘電体材料及び圧電体に関連する。
【背景技術】
【0002】
従来から、強誘電体は電子機器の各種キャパシタやICタグに組み込まれている不揮発メモリの内蔵キャパシタなどに、圧電体は携帯電話、各種携帯電子機器及び各種家電製品のマイクやスピーカ、さらに民生用・産業用の精密駆動回路用の各種アクチュエータなど、幅広い電子機器に組み込まれている。これら強誘電体及び圧電体のほとんどは、大きな分極値、大きな比誘電率及び電気機械結合定数を有し、焼成温度が低いチタン酸ジルコン酸鉛(PZT:Pb(Zr、Ti)O3)を中心とする鉛系ペロブスカイト強誘電体で構成されている。
【0003】
ところで、鉛は人体にとって有害であり、各種電子機器の廃棄後に、産廃場で酸性雨等により環境に有害な鉛が流出するのではないかとの懸念が広まっている。その機運が最も高いのが欧州であり、コンピュータ、通信機器及び家電製品などで、鉛を含む有害な化学物質の使用を禁止する指令RoHS(電気電子機器の特定有害物質使用規制)が出ている。これは、欧州連合(EU)ですでに発効しており、2006年7月にはEU加盟国が施行予定である。RoHS指令はEU内での規制であり、日本や米国に同様の規制はまだないが、日本のメーカーの多くが欧州で製品を販売しているため、製品をRoHS指令に準拠させる必要に迫られている。
【0004】
このような状況の下、ハンダの鉛フリー化はある程度進んでいるが、強誘電体や圧電体に対しても鉛フリー化を行うことが焦眉の急となっている。しかし、強誘電体や圧電体を構成する材料については鉛系材料に置き換わる良い代替材料が見いだせないことから、対応に苦慮している。また、強誘電体や圧電体を構成する材料は酸化物が主体であることから酸性雨等による環境への流出の可能性は金属のハンダほどではないにせよ、その使用範囲が益々拡大していることから見逃せない。特に、ICタグなどはマイクロチップとして目に見えないサイズで日常生活のありとあらゆる場所で使用されているため、ICタグなどを介して経口で鉛が人体に入る可能性も高くなって来ている。強誘電体や圧電体を構成する鉛系材料に置き換わる代替材料として注目されているのが、ビスマス系酸化物材料である。特にBiFeO3(以下BFOと記載)は鉛系に迫る良好な強誘電性・圧電性を示すことから、不揮発メモリ用や各種圧電デバイス材料などへの応用が幅広く検討されている。
【0005】
そして、例えば特許文献1にはBSZT誘電体、キャパシタ及び不揮発性メモリ並びにそれらの製造方法、特許文献2には、BFOを用いた強誘電体メモリ材料が開示されている。

【特許文献1】特開2005-191154号公報
【特許文献2】特開2001-210794号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、次世代材料として期待されているBFOには致命的な弱点と言える「試料のリーク電流」の問題がある。一般に強誘電体・圧電体は、その応用手法の性質上(電界印加により分極又は機械的変動をさせるという性質上)、リーク電流はゼロに近い事が求められるが、この基本的な要求に対してBFOは充分に応える事が出来ない。原因としてはBFO内部における「揮発性元素であるBiの欠損」、「遷移元素であるFeの価数変動によるキャリア誘起」及び「酸素欠損」が挙げられる。
【0007】
この致命的な弱点を克服する方法としては、(i)各種の薄膜やバルク型のBFOを作製時のプロセス条件(パラメータ)を最適化する方法、及び(ii)BiもしくはFeサイトに対する元素置換を用いた材料特性を改善するという方法の二つが主流である。
【0008】
これらのアプローチに対してはそれぞれ一長一短があり、例えば(i)の方法に関しては、「BFO組成を変化させる事が無い為、特性劣化の心配が無い」、「プロセス毎に最適化を行う必要があり、扱うパラメータの数が膨大なものとなる」、及び「原理的にプロセスパラメータの最適化は装置に特化したものであるため汎用性が無い」、などが挙げられる。
【0009】
また、(ii)の方法に関しては、「原理的には様々な成膜・形成プロセスに適用可能であり、汎用性が高い」、「元素置換に伴う、不純物の析出や特性劣化が生じる可能性がある」、及び「上記の問題を引き起こさない適正な添加量・元素種の最適化に膨大な手間を要する」といった事が挙げられる。
【0010】
以上のような状況にあるが、工業的応用を視野に入れると汎用性の高さは非常に重要であるため、(ii)の元素置換法によるBFOの特性改善が今後の主流になると示唆される。
【0011】
そして、元素置換法によるBFOの特性改善の基本的なアプローチとしては、BFO内のBiサイトもしくはFeサイトの個別置換が主である。これまでに報告された各サイトに対する置換元素種と改善に至る原理は以下のようになる。
【0012】
(1)Biサイトへの元素置換
揮発性元素であるBiの欠損防止を目的に融点の高い希土類元素(La、Nd、Sm、Gd、Dy、Ybなど)が主に用いられる。また、希土類元素の中でもLa、Ndはイオン半径がBiに比較的近い事から安定な置換(不純物析出が生じにくい)が可能と考えられている。
【0013】
また、置換による影響としては、上述のBi欠損防止が可能である他、結晶粒径縮小に伴う表面形状のスムージング効果が得られる。これにより、リーク電流が抑制される。
【0014】
ただし、粒径縮小に伴う強誘電特性の劣化が顕著に現れる事例が報告されており、特にLa添加についてリーク抑制効果は高いものの強誘電特性の劣化が著しい。
【0015】
(2)Feサイトへの元素置換
遷移金属元素であるFeの価数変化防止を目的に比較的イオン半径の近い遷移金属元素(Ti、Cr、Mn、Co、Ni、Cuなど)が主に用いられる。ただし、置換元素も遷移金属である為に価数変化防止に関する厳密な改善報告等はまだ少ない。
【0016】
また、置換による影響としては、上述の価数変化防止の他、結晶粒径肥大化に伴う耐圧改善効果が得られ、リーク電流抑制と共に強誘電特性も改善される。
【0017】
ただし、結晶粒径肥大化に伴い、表面形状の深刻な荒れが問題視されており、結果的にリーク特性が劣化するケースが多い。現状ではMn添加が比較的リーク特性改善に優れている。
【0018】
以上のような指針と効果の下、各サイト置換による特性改善が試みられているが、上述のように各々一長一短があり、単独置換による(工業的応用に耐えうる)充分な改善は困難と思われる。
【0019】
そこで、本発明は、かかる問題点に鑑み、強誘電体材料であるBFOのBiサイト及びFeサイトの両方のサイトを特定の元素で元素置換して、リーク電流を抑制すると共に強誘電特性を維持した新たな強誘電体材料及び圧電体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記目的を達成するために、本発明の強誘電体材料は、強誘電体であるBiFeO3のBiサイトが、希土類元素であるLa、Nd、Sm、Gd、Dy、及びYbのうち少なくとも1つを用いて元素置換され、前記BiFeO3のFeサイトが、遷移金属元素であるTi、Cr、Mn、Co、Ni、及びCuのうち少なくとも1つを用いて元素置換がされたことを特徴とする。
【0021】
また、本発明に係る強誘電体材料は、前記希土類元素として前記Ndを用いて、前記BiFeO3の前記Biサイトの一部を元素置換すると共に、前記遷移金属元素として前記Mnを用いて、前記BiFeO3の前記Feサイトの一部を元素置換して構成される(Bi1-xNdx)(Fe1-yMny)O3であることを特徴とする。
【0022】
また、本発明に係る強誘電体材料の前記Biに対する前記Ndの元素置換の比率及び前記Feに対する前記Mnの元素置換比率は、1%以上10%以下であることを特徴とし、より好ましくは3%以上5%以下であることを特徴とする。
【0023】
これらの構成により、BFOのBiサイトの一部をNdで元素置換すると共に、BFOのFeサイトの一部をMnで元素置換した(Bi1-xNdx)(Fe1-yMny)O3とした強誘電体材料を実現し、強誘電特性の劣化を引き起こすことなく、効率的にリーク電流を抑制した新たな強誘電体材料を提供できる。
【0024】
なお、本発明においては強誘電体材料として実現するのみではなく、その製造方法、本発明の強誘電体材料を用いたメモリや、同様の材料での圧電体、その圧電体を用いたアクチュエータ等でも本発明を実現することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、強誘電体材料であるBFOのBiサイト及びFeサイトの両サイトを元素置換するため、Biサイト若しくはFeサイトどちらかの単独の元素置換では得られない優れたリーク電流抑制効果及び強誘電特性を示す新たな強誘電体材料を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態に係るBFOを用いた強誘電体材料について、図面を参照しながら説明する。
【0027】
(実施の形態)
本発明では、各々のサイト置換に対する長所短所が表裏一体である事実(結晶粒径肥大化に伴う影響など)に着目し、両サイトを同時置換する事で各々の短所を互いに補填しあった新材料である強誘電体材料を提供する。すなわち、本発明ではBFOのBiサイト及びFeサイトの各サイトの置換元素は以下の二種をそれぞれ選択することを特徴とするものである。
【0028】
Biサイト:イオン半径がBiに近く、Laに比べてリーク抑制効果は低いものの、強誘電特性劣化の少ないNdを選択した。
【0029】
Feサイト:Feサイトへ置換可能な元素類の中で比較的結晶粒径肥大化に伴うリーク抑制効果が高く、かつ毒性が低く地球上に豊富に存在するMnを選択した。
【0030】
(作製方法)
以下、本発明に係る強誘電体材料の作製方法について図面を参照して説明を行う。
【0031】
図1は、試料に対するMIMキャパシタ(1e)の完成後の構造について模式図である。
【0032】
Nd、Mn同時置換BFO(以下BNFMと記載)薄膜試料の作製については、以下のように行った。また、BNFMの特性に関して個別置換試料に対する比較検討を同時に行う為にBFO、Nd添加BFO(以下BNFと記載)、Mn添加BFO(以下BFMと記載)も作製した。
【0033】
まず、BNFM薄膜堆積はPLA法を用いて行った。
【0034】
パルスレーザを照射し、薄膜化させるターゲット材料として、Bi:Nd:Fe:Mn=1.0:0.05:0.97:0.03組成を有する焼結ターゲットを用いた。尚、BFM作製にはBi:Fe=1.1:1.0組成、BNF作製にはBi:Nd:Fe=1.0:0.05:1.0組成、BFM作製にはBi:Fe:Mn=1.1: 0.97:0.03組成のターゲットを準備した。
【0035】
また、レーザ照射によりターゲットから射出されたアブレーション粒子を堆積させる基板として、BNFMの電気特性評価を目的として、STO基板(1d)上にPt(1c)をPLA堆積させたPt/STO基板を使用した。この際、Ptは[100]配向した試料を用いた。さらにBNFM/Pt/STO試料に対し、Au電極(1a)をBNFM(1b)上に蒸着し、Au/BNFM/Pt/STO構造となるMIMキャパシタ(1e)を作製した。
【0036】
なお、特許請求の範囲においては、BFOのBiサイト及びFeサイトの各サイトを、1モルのBiの一部をxだけNdで置換、1モルのFeの一部をyだけMnで置換したものを、(Bi1-xNdx)(Fe1-yMny)O3として表記している。
【0037】
また、PLA法とは、パルスレーザをターゲットに照射する事により、ターゲット表面からターゲットを構成する原子・分子・クラスタ・イオン等が放出させ、基板上に堆積し薄膜形成を行う技術である。一般にPLA法はBNFMのような多元素系材料に対して組成ずれを回避した成膜を実現するものであり、本発明の遂行に最適な技術であると言える。
【0038】
さらに、MIMキャパシタとは、金属M・絶縁体I・金属Mのサンドイッチ構造で構成されるキャパシタ素子であり、強誘電体・高誘電体といった絶縁性材料の物性評価を行う際に広く用いられるものである。本文中に述べたように、本発明ではMをAu(上部側)及びPt(下部側)、IをBNFMとしたMIMキャパシタとしている。また、強誘電体のデバイス応用の一つであるFeRAMはMIMキャパシタを基本構造とするものであり、MIMキャパシタの実現は物性評価のみならず応用面においても極めて重要であると言える。
【0039】
成膜プロセス時における実験条件は(表1)に示す通りである。
【0040】
【表1】
JP0005267971B2_000002t.gif

【0041】
ここで表中に示した各パラメータについて、以下のように定義した。
(a)レーザエネルギ:照射するパルスレーザのエネルギ
(b)レーザ周波数:間欠的に照射されるパルスレーザの繰り返し周波数
(c)作製時加熱温度:プロセスin-situにおける薄膜結晶化及び表面平坦等を目的とした基板加熱の温度。尚、実際のプロセスが起こっている場所/時間を意味し、in-situ計測を 「その場計測」と言う場合もある。
(d)作製時圧力:薄膜結晶化及び酸素欠損防止を目的として成膜時に導入したO2ガスの圧力
(e)除冷時圧力:酸素欠損防止を目的としてプロセス終了後に導入したO2ガスの圧力
【0042】
(評価方法)
次に、本発明に係るBNFM薄膜試料の特性評価を行った。
【0043】
BNFM薄膜試料の特性評価については、以下のように行った。
【0044】
(1)BNFM/Pt/STO試料の材料としての評価として、XRDによる構造解析を行った。
(2)試料の膜厚については、触針式膜厚計を用いて評価を行った。
(3)Au/BNFM/Pt/STO試料を用いた電気特性評価として、強誘電体評価システムRT-66Aによる計測を行った。
【0045】
この際、RT-66Aを用いて、電流-電界特性(J-E):リーク電流特性評価、分極-電界特性(P-E):誘電特性評価をそれぞれ室温で行った。
【0046】
なお、強誘電体の飽和特性に関しては、強誘電体は印加電界による自発分極に由来して、P-E特性において図5に示すような特徴的な飽和曲線(ヒステリシスカーブ)を描く事が知られる。一般に、新規材料に対する強誘電性発現の判定を行う際にはこの飽和曲線の観測が不可欠であると言える。
【0047】
以下、上記の(1)から(3)の手法を用いたBNFM薄膜試料の特性評価について具体的な実験結果について説明する。
【0048】
(実験結果)
(1)構造解析
図2は、試料のXRD計測による構造解析の結果を示す。なお、図2(a)はBFO試料、図2(b)はBNF試料、図2(c)はBFM試料、図2(d)はBNFM試料に対応する構造解析の結果である。
【0049】
いずれの試料もBFO薄膜に由来した回折ピークは[100]、[110]が確認され、配向性が揃っていないランダム配向薄膜である事が分かる。しかしながら、図2(a)及び図2(c)に示すBFOおよびBFMについてはBi欠損に由来した不純物が析出しており、Biサイトにおける問題が明瞭に表れている事が分かる。
【0050】
一方、図2(b)及び図2(d)に示すNd添加したBNFおよびBNFMについては、Bi欠損相は極僅かもしくは殆ど確認されず、Nd置換によるBi欠損抑制が効果的に機能している事が分かる。さらにランダム配向ではあるものの、金属電極上にBNFMが不純物の無い単相で成膜可能である事が確認された結果であると言える。
【0051】
(2)各試料の表面状態評価
次に、各試料の表面状態評価を行う。
【0052】
図3は、試料のAFM観察像を示す。なお、図3(a)はBFO試料、図3(b)はBNF試料、図3(c)はBFM試料、図3(d)はBNFM試料に対応するAFM観察像である。
【0053】
図3(a)に示すBFOの結晶粒径は約300~500nm程度であり、表面ラフネスの値は20nmであった。これに対し、図3(b)に示すBNFの粒径は100~300nm程度であるものの、小さな結晶粒が密に詰まる事によりラフネスが低く抑えられている事が分かる。また、図3(c)に示すBFMについては、粒径が500~1000nmとBFOに比べて肥大化している。しかしながら、ラフネスに関しては肥大化した結晶粒の間が空乏化しており改善には至っていない。
【0054】
一方、図3(d)に示すBNFMについて、結晶粒はBNFと同程度であるものの、小さな結晶粒が大きな結晶粒形成を促すように互いに密に詰まった様子を示している。これにより表面のラフネスはBNFと同程度が得られており、さらにBNFと比べて結晶粒の肥大化も同時に促す傾向にある事が分かる。
【0055】
以上より、NdとMnを同時置換する事で、図3(d)に示すようにリーク電流発生の要因となる表面状態のラフネスを少なくして両者の特徴を兼ね備えた形状を有する試料が実現される事が明らかにされた。
【0056】
(3)MIMキャパシタを用いた電気特性評価
次に、MIMキャパシタを用いた電気特性評価を行う。
【0057】
図4は、各試料のLeakage Current density vs. Electric field(J-E)特性の結果を示す。なお、図4の401はBFO試料、402はBNF試料、403はBFM試料、404はBNFM試料に対応する電気特性評価の結果である。
【0058】
BFO(401)およびBNF(402)について、リーク電流の値は正負どちらのバイアス方向に対しても100kV/cm未満域において約10-4A/cm2程度が得られた。しかしながら、さらに電界を増加すると急激に電流値が増加している事が分かる。また、僅かながら、BNFはBFOに比べて低いリーク電流を示している。
【0059】
一方、BFM(403)については、100kV/cm未満の低バイアス域においてBFO、BNFに比べて約一桁高い電流値を示すものの、高バイアス域でも急激な電流増加を示す事が無い優れた耐圧性を有している事が分かる。この結果はBFMにおけるMn添加による結晶粒肥大化に由来するものと言える。
【0060】
そして、本発明に係るBNFM試料(404)については、低バイアス域においてBFO、BNFとほぼ同等の振舞いを示し、高バイアス域においてはBFMと同様優れた耐圧となっている。さらに高バイアス域におけるリーク電流値はBFMと比べて約二桁低い値となっており、この結果はBNFMの優れた表面状態に由来するものと言える。
【0061】
以上の結果から、BNFM(404)はBNF(402)及びBFM(403)のリーク特性改善における長所を双方より引き継ぐ事により、単独での元素置換では得られない優れたリーク抑制効果を示す事が明らかとなった。
【0062】
次に、図5でBFMおよびBNFMのPolarization vs. Electric field (P-E)特性の結果を示す。なお、図5(a)はBFM試料、図5(b)はBNFM試料に対応する。
【0063】
特性の振る舞いに関しては図5(a)に示すBFM試料が若干開いたループ上の形状である事に対し、図5(b)に示すBNFMは明瞭な強誘電体ヒステリシスループを描いている事が分かる。このような結果が得られた要因としてNd、Mn置換による充分なリーク電流抑制の影響が如実に現れた結果と言える。また、室温および低周波駆動といった過酷な条件においても明瞭なヒステリシス特性が得られている事から、BNFM試料のDC的なリーク成分の大幅抑制が示唆される。
【0064】
図6は、BNFMのP-E特性測定から見積られた印加電界に対する飽和分極値Pr、抗電界Ecの依存性を示す。
【0065】
Prの値に関しては完全な飽和傾向は示されていないものの、BFOと比べて値の劣化は一切見られない事が分かる(BFOの一般的なPr値は約100~150mC/cm2)。一方、Ecについてはほぼ飽和傾向が見られており、さらにその値もBFOの一般的な値(250kV/cm程度)と同等が得られている。
【0066】
以上より、本発明のBFOへのNd、Mn同時置換は、強誘電特性の劣化を引き起こす事無く効率的にリーク電流抑制を実現するものである。
【0067】
以上、非鉛新規強誘電体材料BFOのリーク電流抑制手法として、Nd、Mnを用いた両サイト同時置換を提案し、PLA法による薄膜試料の作製及び電気特性の評価を行った。その結果、Pt上において単相薄膜の形成を実現し、Bi欠損による相分離等を生じずに作製可能である事を明らかにした。
【0068】
また、表面状態および電気特性に関してはNdとMnを個別に置換した効果を同時に実現し、良質な絶縁性と優れた強誘電特性を示す事が確認され、非鉛新規強誘電体材料としての可能性を示唆する結果が得られた。
【0069】
以上の説明のように、本発明では、強誘電特性の劣化を引き起こすことなく、効率的にリーク電流を抑制する強誘電体材料及び圧電体を提供できる。
【0070】
なお、本発明に係る強誘電体材料について、実施の形態に基づいて説明したが、本発明は、この実施の形態に限定されるものではない。本発明の要旨を逸脱しない範囲内で当業者が思いつく各種変形を施したものも本発明の範囲内に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明に係る強誘電体材料及び圧電体は、例えば、強誘電体としては、電子機器の各種キャパシタやICタグに組み込まれている不揮発メモリの内蔵キャパシタなどに、圧電体としては、携帯電話、各種携帯電子機器及び各種家電製品のマイクやスピーカ、さらに民生用・産業用の精密駆動回路用の各種アクチュエータなど、幅広い電子機器に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】試料に対する完成後の構造についての模式図である。
【図2】各試料のXRD計測による構造解析の結果を示す図である。
【図3】各試料のAFM観察像を示す図である。
【図4】各試料のLeakage Current density vs. Electric field(J-E)特性の結果を示す図である。
【図5】BFMおよびBNFMのPolarization vs. Electric field(P-E)特性の結果を示す図である。
【図6】BNFMのP-E特性測定から見積られた印加電界に対する飽和分極値Pr、抗電界Ecの依存性を示す図である。
【符号の説明】
【0073】
1a Au
1b BFO
1c Pt
1d STO
1e MIMキャパシタ
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図4】
2
【図5】
3
【図6】
4
【図3】
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