TOP > 国内特許検索 > 位相物体識別装置及び方法 > 明細書

明細書 :位相物体識別装置及び方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5109025号 (P5109025)
公開番号 特開2009-237085 (P2009-237085A)
登録日 平成24年10月19日(2012.10.19)
発行日 平成24年12月26日(2012.12.26)
公開日 平成21年10月15日(2009.10.15)
発明の名称または考案の名称 位相物体識別装置及び方法
国際特許分類 G01N  21/47        (2006.01)
G03H   1/22        (2006.01)
G01J   9/02        (2006.01)
FI G01N 21/47 A
G03H 1/22
G01J 9/02
請求項の数または発明の数 11
全頁数 21
出願番号 特願2008-080976 (P2008-080976)
出願日 平成20年3月26日(2008.3.26)
審査請求日 平成22年12月13日(2010.12.13)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】渡邉 恵理子
【氏名】小舘 香椎子
個別代理人の代理人 【識別番号】100123858、【弁理士】、【氏名又は名称】磯田 志郎
【識別番号】100081282、【弁理士】、【氏名又は名称】中尾 俊輔
【識別番号】100085084、【弁理士】、【氏名又は名称】伊藤 高英
【識別番号】100095326、【弁理士】、【氏名又は名称】畑中 芳実
【識別番号】100115314、【弁理士】、【氏名又は名称】大倉 奈緒子
【識別番号】100117190、【弁理士】、【氏名又は名称】玉利 房枝
【識別番号】100120385、【弁理士】、【氏名又は名称】鈴木 健之
審査官 【審査官】横尾 雅一
参考文献・文献 特開平06-303887(JP,A)
特開平01-300382(JP,A)
特開2006-329722(JP,A)
特開平10-089919(JP,A)
特開2000-113187(JP,A)
調査した分野 G01N 21/00-21/61
G01B 11/24
G01J 9/00- 9/04
G03H 1/22
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
特許請求の範囲 【請求項1】
光に位相変化を与える位相物体を識別するための位相物体識別装置であって、
光源と、
識別対象の位相物体を保持する試料保持手段と、
前記試料保持手段に保持された識別対象の位相物体を観察するための試料側対物レンズを備えた観察光学系と、
前記識別対象の位相物体と前記試料側対物レンズとの間の距離を変更する焦点調節手段と、
参照光と既知の位相物体の位相パターンによって位相が変調された物体光との干渉により形成されたホログラムが記録されたホログラフィック記録媒体と、
光検出器と
前記光源から射出された光の位相を前記識別対象の位相物体の位相パターンによって変調して試料光を生成し、前記試料光を前記ホログラフィック記録媒体の前記ホログラムに照射し、前記ホログラフィック記録媒体の前記ホログラムから再生された再生光を前記光検出器によって検出するための識別光学系とを有し、
前記観察光学系の前記試料側対物レンズは、前記識別光学系の一部としても使用されることを特徴とする位相物体識別装置。
【請求項2】
前記識別対象の位相物体の実像が入射瞳面に位置するように配置された対物レンズによって、前記試料光を前記ホログラフィック記録媒体の前記ホログラムに照射することを特徴とする請求項1に記載の位相物体識別装置。
【請求項3】
前記ホログラフィック記録媒体には、複数の既知の位相物体によって形成された複数のホログラムが記録されており、
前記ホログラフィック記録媒体における前記試料光の照射位置を移動させる照射位置移動手段を有することを特徴とする請求項1または2に記載の位相物体識別装置。
【請求項4】
前記観察光学系は、結像レンズまたは接眼レンズを有することを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の位相物体識別装置。
【請求項5】
前記試料保持手段は、光軸に対して直交する平面方向に前記識別対象の位相物体を移動させる試料位置調整手段を有することを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の位相物体識別装置。
【請求項6】
前記試料保持手段に複数の識別対象の位相物体を順次搬送する試料搬送手段を有することを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載の位相物体識別装置。
【請求項7】
前記識別対象の位相物体は、生体細胞または細菌であり、生体細胞または細菌内の細胞核の有無を識別することを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項に記載の位相物体識別装置。
【請求項8】
前記既知の位相物体は、規格の範囲内の標本であり、前記識別対象の位相物体が規格に該当するか否かを識別することを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項に記載の位相物体識別装置。
【請求項9】
参照光を生成する参照光生成手段を有し、
前記試料保持手段は既知の位相物体を保持することができ、
前記光源から射出された光の位相を前記既知の位相物体の位相パターンによって変調して物体光を生成し、前記参照光生成手段によって参照光を生成し、前記物体光及び前記参照光を前記ホログラフィック記録媒体に照射し、前記物体光と前記参照光との干渉により形成されたホログラムを前記ホログラフィック記録媒体に記録することを特徴とする請求項1乃至8の何れか1項に記載の位相物体識別装置。
【請求項10】
前記参照光生成手段は、前記試料保持手段に形成された開口であることを特徴とする請求項9に記載の位相物体識別装置。
【請求項11】
光に位相変化を与える位相物体を識別するための位相物体識別方法であって、
観察光学系によって識別対象の位相物体を観察し、
前記観察光学系の試料側対物レンズと前記識別対象の位相物体との距離を変更することによって、観察される前記識別対象の位相物体の大きさを調整し、
前記観察系光学系を調整した状態で光源から射出された光の位相を識別対象の位相物体の位相パターンによって変調して試料光を生成し、
参照光と既知の位相物体の位相パターンによって位相が変調された物体光との干渉により形成されたホログラムが記録されたホログラフィック記録媒体に前記試料光を照射し、
前記ホログラフィック記録媒体の前記ホログラムから再生された再生光を光検出器によって検出し、
前記光検出器によって検出された前記再生光の強度がしきい値よりも大きい場合は、前記識別対象の位相物体が、前記既知の位相物体と相関があると識別し、前記再生光の強度がしきい値よりも小さい場合は、前記識別対象の位相物体が、前記既知の位相物体と相関がないと識別することを特徴とする位相物体識別方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、光に位相変化を与える物体(以下「位相物体」という)を識別する位相物体識別装置及び方法に関し、特にホログラフィを用いて識別対象の位相物体を識別する位相物体識別装置及び方法に関するものであり、また位相物体識別装置及び方法を用いた新たな用途にも関するものである。
【背景技術】
【0002】
最も簡便な物体の観察手法は、肉眼による観察であるが、肉眼は、光の強度変化を検出するものであるから、光の強度を変化させない物体や変化が小さい物体の観察には適していない。この点は、一般的な写真や撮像素子も、光の強度変化を検出するものであるから同じである。例えば、生体細胞、細菌、グレーティング、導波路、物体表面の微小な段差、同一色の構造物等は、光の強度を変化させない又はその変化の程度が小さいため、形状の観察が難しかった。特に、生体細胞は、多くの細胞内構成物が透明で無色のため、その形状及び細胞内構成物を観察することが非常に困難であった。
【0003】
このため、従来では、生体細胞に前処理を施して染色し、その形状を可視化したり、染色の度合いによって各細胞内構成物を特定したりしていた。生体細胞であれば、染色することで可視化できるが、対象によっては、染色の技法が利用できない場合もある。また、染色の前処理は、生体細胞の固定化などに時間が必要であり、簡便な観察手法ではなかった。さらに、染色することにより、生体細胞が死んでしまったり、変質してしまうことがあり、本来の状態の生体細胞を観察できず、また、その後の試料の利用が制限されてしまうという問題があった。
【0004】
ところで、光の強度を変化させない物体であっても、屈折率や光路差の違いにより、光の位相を変化させる場合が多い。上で述べた生体細胞、細菌、グレーティング、導波路、物体表面の微小な段差、同一色の構造物等も、光の位相を変調させる位相物体の一つである。このような位相物体の場合、位相差顕微鏡、微分干渉顕微鏡などによって、相対的な位相情報を強度に変換して観察することが可能である。また、非特許文献1に記載のように、位相物体の絶対的な位相情報を計測する技術も研究開発されている。非特許文献1では、マッハツェンダー型干渉計に閉ループフィードバック技術を導入し、無色透明な位相物体の微小領域の位相変化を高精度に測定できる位相計測システムによって、位相物体の全面を走査することで、無色透明な位相物体の絶対的な位相情報を計測している。
【0005】

【非特許文献1】羽根坂円彩、渡邉恵理子、水野潤、小舘香椎子「位相ロック技術を用いた微小物体2次元位相計測システム」Optics&Photonics Japan 2007 講演予稿集、2007年11月26日、p.272-273
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、胚性幹細胞(Embryonic Stem cell:ES細胞)の発見により、更なる再生医療の可能性が広がり、様々な研究開発が活発に行われている。ES細胞は、動物の初期胚から樹立される多能性幹細胞であり、すべての細胞へと分化する可能性のある細胞である。そして、ES細胞は、分化多能性を維持したまま培養、増殖させることができるので、目的とする細胞、器官、組織を作り出して治療に利用することが期待されている。皮膚移植や骨髄移植、臓器移植といった生きた細胞を使った細胞移植には、ドナー不足や拒絶反応といった大きな問題があるが、ES細胞の発見により解決の兆しが見えている。
【0007】
また、病変部より採取、培養した細胞を顕微鏡で観察し、異常細胞、ガン細胞等を検出することにより、病変の有無や病変部の診断を行う細胞診断は、比較的容易で患者の負担も少ないため頻繁に行われている。
【0008】
これらの細胞培養技術において、核の有無が重要となる。つまり、最初に細胞内に核がなければ細胞分裂は起こらず、細胞を作り出すことができない。このため、細胞内の核の有無を検査する必要があった。上で述べたように、染色した細胞の観察は、時間がかかること及び生体細胞が死んでしまったり、変質してしまうため、検査に向いていない。また、位相差顕微鏡、微分干渉顕微鏡などによる観察は、生きた細胞を観察できるが、肉眼による検査であり、観察者の技量や経験により、検査の精度が大きく左右される。位相計測システムによって計測する場合は、計測に時間がかかるという問題があった。
【0009】
本発明は、従来の位相物体の観察方法または計測方法とは全く異なる方法で、位相物体を識別できる位相物体識別装置及び方法を提供することを目的とする。また位相物体識別装置及び方法を用いた新たな用途を提供することも目的とする。かかる用途の一つとして、上で述べた生体細胞の核の検査装置及び検査方法を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記問題を解決するため、本発明の光に位相変化を与える位相物体を識別するための位相物体識別装置は、光源と、識別対象の位相物体を保持する試料保持手段と、前記試料保持手段に保持された識別対象の位相物体を観察するための試料側対物レンズを備えた観察光学系と、 前記識別対象の位相物体と前記試料側対物レンズとの間の距離を変更する焦点調節手段と、参照光と既知の位相物体の位相パターンによって位相が変調された物体光との干渉により形成されたホログラムが記録されたホログラフィック記録媒体と、光検出器と前記光源から射出された光の位相を前記識別対象の位相物体の位相パターンによって変調して試料光を生成し、前記試料光を前記ホログラフィック記録媒体の前記ホログラムに照射し、前記ホログラフィック記録媒体の前記ホログラムから再生された再生光を前記光検出器によって検出するための識別光学系とを有し、前記観察光学系の前記試料側対物レンズは、前記識別光学系の一部としても使用されることを特徴とする
【0011】
また、上記位相物体識別装置において、前記識別対象の位相物体の実像が入射瞳面に位置するように配置された対物レンズによって、前記試料光を前記ホログラフィック記録媒体の前記ホログラムに照射することが好ましい。
【0012】
また、上記位相物体識別装置において、前記ホログラフィック記録媒体には、複数の既知の位相物体によって形成された複数のホログラムが記録されており、前記ホログラフィック記録媒体における前記試料光の照射位置を移動させる照射位置移動手段を有することが好ましい。
【0013】
また、上記位相物体識別装置において、前記試料保持手段に保持された識別対象の位相物体を観察する観察光学系を有し、前記観察光学系は、試料側対物レンズと、結像レンズまたは接眼レンズとを有することが好ましい。さらに、前記試料保持手段は、保持された識別対象の位相物体を前記観察光学系によって観察するために、光軸方向に識別対象の位相物体を移動させる焦点調節手段または光軸に対して直交する平面方向に識別対象の位相物体を移動させる試料位置調整手段を有することが好ましい。
【0014】
また、上記位相物体識別装置において、前記試料保持手段に複数の識別対象の位相物体を順次搬送する試料搬送手段を有していてもよい。
【0015】
また、上記位相物体識別装置において、前記識別対象の位相物体は、生体細胞または細菌であり、生体細胞または細菌内の細胞核の有無を識別してもよいし、前記既知の位相物体は、規格の範囲内の標本であり、前記識別対象の位相物体が規格に該当するか否かを識別してもよい。
【0016】
また、上記位相物体識別装置において、参照光を生成する参照光生成手段を有し、前記試料保持手段は既知の位相物体を保持することができ、前記光源から射出された光の位相を前記既知の位相物体の位相パターンによって変調して物体光を生成し、前記参照光生成手段によって参照光を生成し、前記物体光及び前記参照光を前記ホログラフィック記録媒体に照射し、前記物体光と前記参照光との干渉により形成されたホログラムを前記ホログラフィック記録媒体に記録することが好ましい。さらに、前記参照光生成手段は、前記試料保持手段に形成された開口であってもよい。
【0017】
本発明の位相物体識別方法は、光に位相変化を与える位相物体を識別するための位相物体識別方法であって、観察光学系によって識別対象の位相物体を観察し、前記観察光学系の試料側対物レンズと前記識別対象の位相物体との距離を変更することによって、観察される前記識別対象の位相物体の大きさを調整し、前記観察系光学系を調整した状態で光源から射出された光の位相を識別対象の位相物体の位相パターンによって変調して試料光を生成し、参照光と既知の位相物体の位相パターンによって位相が変調された物体光との干渉により形成されたホログラムが記録されたホログラフィック記録媒体に前記試料光を照射し、前記ホログラフィック記録媒体の前記ホログラムから再生された再生光を光検出器によって検出し、前記光検出器によって検出された前記再生光の強度がしきい値よりも大きい場合は、前記識別対象の位相物体が、前記既知の位相物体と相関があると識別し、前記再生光の強度がしきい値よりも小さい場合は、前記識別対象の位相物体が、前記既知の位相物体と相関がないと識別することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明の位相物体識別装置及び方法では、識別対象の位相物体による光の位相変化を光の強度変化に変換することにより位相物体の位相変調パターンそれ自体を識別していた従来技術とは本質的に技術思想が異なり、既知の位相物体との相関を検出して識別対象の位相物体を識別するものである。さらに、本発明の位相物体識別装置及び方法では、ホログラフィを利用した光相関演算によって、識別対象の位相物体との相関を検出する点にも大きな特徴がある。
【0019】
ホログラフィは、光の振幅(強度)と位相を記録できる技術であり、既知の位相物体の位相情報をそのままホログラムとして記録することが可能である。すなわち、既知の位相物体によって位相が変調された物体光と、参照光とを記録媒体のホログラム記録層で重なるように照射することにより、物体光と参照光との干渉により形成されたホログラムによって、ホログラム記録層内の感光性材料に光反応を生じさせ、ホログラム記録層にホログラムを定着させることができる。
【0020】
こうして記録された記録媒体のホログラムに対し、当該既知の位相物体によって位相が変調された物体光を記録時と同じ条件で照射すると、物体光がホログラムによって回折されて参照光に相当する再生光が発生する。さらに、かかるホログラムは、当該既知の位相物体ではなく、これと相関のある位相物体によって位相が変調された光が記録時と同じ条件で照射されても、その光と干渉し、相関値(類似の程度)に応じて再生光が発生する特性がある。したがって、再生光の有無を検出することにより、識別対象の位相物体と既知の位相物体との相関の有無を識別することができる。つまり、記録時と同じ条件で試料光を照射してホログラムから再生光が発生しなければ、識別対象の位相物体が既知の位相物体と相関のないものであると識別することができ、再生光が発生すれば、識別対象の位相物体が既知の位相物体と相関のあるものであると識別することができる。さらに、再生光の強度も検出することにより、相関の程度も識別することが可能である。その他の本発明の位相物体識別装置及び位相物体識別方法の効果については、以下の実施の形態において記載する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明するが、本発明は下記例に限定されるものではない。図1(A)は、本発明の位相物体識別装置及び方法の基本原理を説明するための模式図である。図1(A)において、位相物体識別装置1は、光源2と、識別対象の位相物体31(以下、試料ともよぶ)が保持されている試料保持手段3と、ホログラム41が記録されたホログラフィック記録媒体4と、光検出器5とを有している。なお、図1(B)は、位相物体識別装置1におけるホログラフィック記録媒体4にホログラム41を記録する記録装置6及び方法の基本原理を説明するための模式図である。なお、本明細書における各種のレンズには、単一のレンズも、複数のレンズが組み合わされたレンズ群も含まれる。
【0022】
光源2は、位相の揃ったコヒーレント光を射出するものであり、光源2としてレーザー光源を利用することが好ましい。光源から射出された光21は、図示しない光学系によって、試料31よりも大きな断面積を有する平面波に加工される。
【0023】
試料保持手段3は、位相物体識別装置1内に試料31を配置するためのものであり、試料31に応じた種々の保持手段を選択できる。例えば、単に試料31を試料保持手段3上に載置するだけでもよいし、真空吸着や固定器具などによって試料保持手段3に固定してもよい。ゴミや埃の付着を減らすためには、固定した試料31を垂直方向に配置したり、試料保持手段3の下面に配置したりすることが好ましい。また、試料31は、クリップなどによって挟持してもよいし、試料31が薄片状の場合は保持手段に設けられたスリットに挿嵌する構成等も採用できる。試料31をそのまま試料保持手段3に保持してもよいが、容器や取付け器具等の補助具を介して試料31を試料保持手段3に保持させてもよい。たとえば、試料31を入れたマイクロプレートやプレパラートを試料保持手段3に保持させてもよい。
【0024】
識別対象の位相物体31は、少なくとも光の位相を変化させるものであればよく、光の強度を変化させないものでも、光の強度を変化させるものでもよい。例えば、識別対象の位相物体31としては、生体細胞、細菌、グレーティング、導波路、物体表面の微小な段差、同一色の構造物等を用いることができる。また、固体に限定されるものではなく、例えば液晶の配向構造なども含まれる。
【0025】
試料保持手段3及びそれに保持されている試料31は、光源2から射出された光21の少なくとも位相を変調して試料光22を生成する試料光生成手段となる。試料31は、少なくとも光の位相を変調する位相物体であるが、さらに光の強度を変調するものであってもよい。図1(A)のように、光源からの光21が試料31及び試料保持手段3を透過して試料光22を生成する透過型の試料光生成手段の場合には、少なくとも試料保持手段3の試料31が位置する部位は、光が遮光されないように構成されている必要がある。たとえば、試料保持手段3の試料31が位置する部位に透明な材料を使用したり、透明な容器や取付け器具に試料31を配置し、試料保持手段3で透明な容器や取付け器具を保持し、試料保持手段3の試料31が位置する部位を開口にすればよい。このような透過型の試料光生成手段における試料保持手段3は、後述する記録装置6における物体光24及び参照光25を生成するためのマスクとして利用することもできる。なお、反射型の試料光生成手段とする場合は、試料保持手段3の表面を鏡面加工し、試料31を透過した光を反射させて、試料光22を生成する。反射型の試料光生成手段の場合は、試料保持手段3に照射される光源からの光21と試料光22とを分離するビームスプリッタ等の光学系が必要となる。
【0026】
ホログラフィック記録媒体4は、参照光25と既知の位相物体によって位相が変調された物体光24との干渉により形成されたホログラム41が記録されている(物体光24と参照光25は図1(B)参照)。ホログラフィック記録媒体4としては、透過型と反射型とがあり、図1(A)では透過型のホログラフィック記録媒体を示している。図1(A)のホログラフィック記録媒体4は、一対の透光性の基板42及び44の間にホログラム記録層43が挟持された構成である。ホログラフィック記録媒体を反射型とする場合には、ホログラフィック記録媒体に光が入射する面を表として、ホログラム記録層43より裏側に反射層を設ければよい。例えば、図1(A)の基板44の表面または裏面に反射層を設ければ、反射型のホログラフィック記録媒体とすることができる。
【0027】
既知の位相物体としては、少なくとも一部の情報または特徴が判明している位相物体である。例えば、位相変調パターンが判明している位相物体や位相パターン、名称の判明している生体細胞や細菌、活性反応が判明している生体細胞や細菌、細胞核の位相パターン、規格の範囲内(寸法公差内)の位相物体(微小な段差を有する製品や同一色の構造物)の標本、間隔が判明しているグレーティングなどが挙げられる。
【0028】
試料光22が、ホログラフィック記録媒体4のホログラム41に照射されると、試料光22とホログラム41との干渉の程度に応じて再生光23が再生する。再生光23は、ホログラム41を記録する時に照射された参照光25に相当する光であり、再生光23の断面形状や進行方向は、参照光25の断面形状や進行方向が反映される。干渉の程度は、ホログラム41を記録した物体光の既知の位相物体と、識別対象の位相物体である試料31との相関値(類似の程度)に対応する。したがって、試料31が、既知の位相物体と同じものであった場合には、自己相関であるから相関値は最高となり、強い再生光が再生する。試料31が、既知の位相物体と異なるが類似している場合は、類似の程度に応じた強度の再生光が再生する。さらに、試料31が、既知の位相物体と全く異なる場合は再生光は再生しない。なお、ホログラフィック記録媒体4を通過した試料光22(図1(A)では点線で示す)は、図示しないマスクまたは分離光学系によって遮光または再生光23と分離され、光検出器5には到達しないようにされている。
【0029】
光検出器5は、ホログラフィック記録媒体4のホログラム41から再生された再生光23を検出するものであり、光強度を検出できることが好ましい。光検出器5として、光電子倍増管(photomultiplier tube:PMT)やアバランシェフォトダイオード(Avalanche Photo Diode)のような非常に感度の高い光検出素子、安価で小型な半導体検出器、例えばピンフォトダイオード、CMOSセンサ、CCDセンサ等を利用することができる。再生光23の断面形状が、光検出器5の受光領域よりも小さい場合は、光検出素子が一つの光検出器をそのまま利用することができるが、光検出器5の受光領域よりも大きい場合は、集光レンズによって集光することで、光検出素子が一つの光検出器を利用することができる。また、光検出素子が複数の光検出器5を利用することもでき、全ての光検出素子の強度を総和することで再生光の光強度を検出することもできる。再生光23の断面形状が光検出器5の受光領域よりも小さい場合であっても、集光レンズを利用すれば信頼性を高めることができる。なお、再生光23の断面形状は、記録時の参照光の断面形状によって決定される。
【0030】
このように、再生光23の有無を検出することにより、識別対象の位相物体31と既知の位相物体との相関の有無を識別することができる。つまり、記録時と同じ条件で試料光を照射してホログラムから再生光が発生しなければ、識別対象の位相物体が既知の位相物体と相関のないものであると識別することができ、再生光が発生すれば、識別対象の位相物体が既知の位相物体と相関のあるものであると識別することができる。さらに、再生光の強度も検出することにより、相関の程度も識別することが可能である。
【0031】
たとえば、相関の有無を識別するだけであっても、既知の位相物体として、細胞核を有する既知の生体細胞または細菌を使用し、識別対象の位相物体として、採取、培養した生体細胞または細菌を使用することで、採取、培養した生体細胞または細菌に細胞核が有るのか無いのかを識別する検査に利用できる。他にも、既知の位相物体として、規格の範囲内の標本を使用して、生産された製品を識別対象の位相物体として、識別することで、生産された製品が規格に該当するか否かを識別できる。例えば、グレーティング素子の回折格子周期の誤差や同一色彩の構造物における三次元形状などの検査に利用することができる。これらの検査において、試料を連続的且つ大量に検査するために、試料保持手段3に試料31を順次搬送する試料搬送手段を設けることが好ましい。
【0032】
また、試料光22を複数のホログラム41に照射して、複数の既知の位相物体との相関の有無を識別することにより、さらに試料31を特定することが可能である。試料光22を複数のホログラム41に照射するためには、ホログラフィック記録媒体4自体を取り替えて、別のホログラフィック記録媒体4に記録されたホログラム41に試料光22を照射させてもよいが、ホログラフィック記録媒体4に複数の既知の位相物体によって形成された複数のホログラム41を記録しておき、ホログラフィック記録媒体4における試料光22の照射位置を移動させる照射位置移動手段を設けることがより好ましい。
【0033】
照射位置移動手段としては、試料光22を移動する方式、ホログラフィック記録媒体4を移動する方式及び両方を移動する方式があるが、移動に伴う振動などによる光学系の位置ずれを防ぐため、試料光22を固定し、ホログラフィック記録媒体4を移動する方式が好ましい。例えば、XYステージによってホログラフィック記録媒体4を光軸に対して直交する平面方向に移動させたり、モーターによってホログラフィック記録媒体4を回転させたりすればよい。
【0034】
図1(B)の記録装置6は、位相物体識別装置1で利用されるホログラフィック記録媒体4を製造するものであり、ホログラフィック記録媒体4に物体光24と参照光25とを照射して、それらの干渉により形成されたホログラム41をホログラフィック記録媒体4に記録する。ここで、記録装置6でホログラフィック記録媒体4に記録されたホログラム41は、位相物体識別装置1において試料光22と干渉して再生光23を発生させるものでなければならない。このためには、試料光22と同じ波長の光を同じ照射条件(入射角度、倍率、焦点など)で物体光24をホログラフィック記録媒体4に照射する必要がある。最も簡便な手法としては、位相物体識別装置1の試料光22を生成し照射する構成と記録装置6の物体光24を生成し照射する構成を同じにすればよい。このことは、位相物体識別装置1及び記録装置6の両方の機能を備えた装置を製造できることを意味している。ただし、位相物体識別装置1には再生光を検出する光検出器5が別途必要であり、記録装置6には、参照光を生成するための参照光生成手段が別途必要となる。本明細書において、位相物体識別装置1または記録装置6の各構成についての説明は、基本的に他方の装置の共通する構成についても援用される。
【0035】
図1(B)の記録装置6は、図1(A)の試料光22を生成し照射する構成と同じ構成(同じ符号で示す)を同じ配置で使用している。すなわち、図1(B)の記録装置6は、光源2と、試料保持手段3と、ホログラフィック記録媒体4とを有している。しかし、記録装置6では、試料保持手段3には、既知の位相物体32が保持されており、試料保持手段3及び既知の位相物体32は、光源2からの光21によって物体光24を生成する物体光生成手段となる。また、図示しない参照光生成手段によって生成された参照光25がホログラフィック記録媒体4に照射される。物体光24と参照光25との干渉により形成されたホログラムによって、ホログラム記録層43内の感光性材料に光反応を生じさせ、ホログラム記録層43にホログラム41を定着させることができる。
【0036】
ホログラフィック記録媒体4に複数のホログラム41を記録する場合は、照射位置移動手段によって、ホログラフィック記録媒体における物体光24及び参照光25の照射位置を移動させ、別の位置に別の既知の位相物体32による物体光24と参照光25とを照射して別のホログラム41を記録すればよい。
【0037】
物体光生成手段としては、既知の位相物体32を利用する方法以外にも、位相空間光変調器を利用することもできる。位相空間光変調器として、例えば位相変調型の液晶表示装置を採用することができ、位相変調型の液晶表示装置に既知の位相物体の位相パターンを表示すればよい。位相空間光変調器を利用した場合は、複数のホログラム41を記録する場合に、位相空間光変調器の表示を変更するだけで、別の物体光を生成できるので好ましい。
【0038】
参照光生成手段は、光源1からの光11を利用して参照光25を生成することが好ましいが、物体光24と干渉性を有する他の光源の光を利用してもよい。参照光25は、ホログラフィック記録媒体4において、物体光24と交差するように照射される。参照光は、物体光に比べて小さい領域の発散光や、空間的に離間した複数の光線の束を利用することができる。物体光24の光軸と参照光25の光軸が異なる二光束干渉型の光学系を利用することもできるが、コリニア方式の光学系を利用してホログラム41を記録することが好ましい。コリニア方式の光学系については、図2において詳細に説明する。
【0039】
図1(A)及び(B)では、基本原理を説明するため、最低限必要な構成を用いて発明を説明したが、かかる構成のみのものに限定されるものではなく、求める効果に応じて更に多くの構成を付加することができる。例えば、ホログラム41として、既知の位相物体32の実像を記録するのではなく、フーリエ像を記録することが好ましい。このために、試料光22及び物体光24の実像が入射瞳面に位置するように配置された対物レンズを採用し、対物レンズによって試料光22及び物体光24をホログラフィック記録媒体に照射するように構成してもよい。フーリエ像は、位相パターンの形状ではなく、位相パターンの空間周波数分布であるから、単純な形状の相関ではなく、パターンの傾向の相関を識別することができる。
【0040】
また、試料31や既知の位相物体32を観察する観察光学系を備えていることも好ましい。さらに、連続的に複数の試料を識別するためには、試料保持手段3に複数の試料31を順次搬送する試料搬送手段を有することが好ましい。
【0041】
図2は、コリニア方式の光学系を利用してホログラム41を記録する記録装置6としても利用可能な位相物体識別装置1の一実施態様を示す概略構成図である。図2の位相物体識別装置1は、試料を識別するための識別光学系を備え、さらに試料または既知の位相物体(以下、試料と既知の位相物体を併せて「試料等」という)を観察するための観察光学系7及び観察用撮像素子71も備えている。なお、図2の位相物体識別装置1では、反射型のホログラフィック記録媒体4を使用している。
【0042】
位相物体識別装置1は、光源2、試料保持手段3、ホログラフィック記録媒体4及び光検出器5に加えて、試料光を生成し、ホログラフィック記録媒体4に照射し、再生光を検出する光学系を有しており、かかる光学系には、試料等を観察するための観察光学系7も含まれている。光学系は、ビーム成形光学系51、一対のミラー52、試料側対物レンズ53、結像レンズ54、ビームスプリッタ55、マスク56、偏光ビームスプリッタ57、第1のリレーレンズ58、第2のリレーレンズ59、四分の一波長板60、対物レンズ61、アパーチャー62、集光レンズ63を有している。
【0043】
光源2は、ホログラムを記録するための物体光及び参照光の光源となり、また、試料31を識別するための試料光の光源となるものである。さらに、図2においては、観察光学系7で試料等を観察するための光源としても利用されている。ただし、観察光学系の光源としては、光源2ではなく、観察に適した光源を別途用意することが好ましい。光源2としては、例えば、532nmのYVO4レーザーを使用することができる。なお、光源2としては、ホログラフィック記録媒体4のホログラム記録層43内の感光材料が感度を示す波長の光を選択する。
【0044】
ビーム成形光学系51は、光源2から射出された光の形状を加工するために必要に応じて設けられるものであり、たとえば発散光を平行光に加工するコリメータレンズや、ビームの口径を大きくするビームエキスパンダーなどが含まれる。
【0045】
一対のミラー52は、光源2から射出された光の進行方向を試料等に向けるためのものである。図2では、一対のミラー52によって光源2から射出された光の進行方向を180°変更して装置を小型化している。光の進行方向を試料等に向ける手段は、一対のミラー52という構成に限定されるものではなく、光学系の構成に応じて適当な構成が採用される。たとえば、ミラーではなく、プリズムや偏向素子などを使用することもできるし、光源2から射出された光の進行方向が、直接試料等に向いていれば、光の進行方向を試料等に向ける手段はそもそも必要ない。
【0046】
試料保持手段3は、試料等を保持するためのものである。図2においては、試料保持手段3は、光の照射される領域は開口となっており、開口の領域に試料31が保持されている。図2の位相物体識別装置1は、試料保持手段3に保持された試料等は、観察光学系7及び観察用撮像素子71によって観察することができる。
【0047】
観察光学系7は、試料等を観察用撮像素子71の受光面並びにそれと共役な面33(マスク56が配置される位置)及び対物レンズの入射瞳面35において結像させるものであり、各種顕微鏡の光学系を利用することが可能である。図2においては、観察光学系7は、試料側対物レンズ53と結像レンズ54とを有しており、試料等を明視野により観察することができる。試料等が小さい場合、試料側対物レンズ53及び結像レンズ54によって、試料等を拡大できることが好ましい。また、試料側対物レンズ53は、観察を容易にするために、倍率の異なる複数のレンズを切替えられることが好ましい。また、結像レンズ54と併せて、または結像レンズ54に代えて、肉眼で観察するための接眼レンズを設けてもよい。
【0048】
さらに、図2のように観察光学系7を有している場合、試料保持手段3は、試料等の焦点を調整する焦点調節手段36または/及び試料等の位置を調整する試料位置調整手段37を有していることが好ましい。焦点調節手段36は、光軸方向に識別対象の位相物体(試料31)や既知の位相物体32を移動させる手段であり、試料等を結像面(観察用撮像素子71の受光面、位置33、位置35)において結像させるために設けられている。焦点調節手段36によって、試料31等を手動または電動で光軸方向(Z軸方向)に移動させる。また、試料位置調整手段37は、光軸に対して直交する平面方向に識別対象の位相物体(試料31)や既知の位相物体32を移動させる手段であり、試料31等を観察視野内に配置するために設けられている。試料位置調整手段37によって、試料31等を手動または電動で光軸に対して直交する平面方向(X軸方向及びY軸方向)に移動させる。焦点調節手段36及び試料位置調整手段37としては、種々の移動機構を利用することができ、たとえば微動用の調整機構を備えたXYZ駆動ステージ等を利用できる。
【0049】
観察用撮像素子71としては、CCDやCOMSセンサーなどを利用することができる。観察用撮像素子71は、図示されていないモニターや記録媒体に接続されており、観察用撮像素子71によって取得した画像をモニターに表示したり、記録媒体に記録したりできる。観察用撮像素子71で観察しながら、焦点調節手段36や試料位置調整手段37によって試料等が光軸の中心で結像するように調整すれば、識別の精度を格段に向上させることができる。また、観察光学系7によって、試料等の倍率を調整することで、物体光及び試料光の基礎となる位相物体の大きさを規格化することができる。観察光学系7によって、観察用撮像素子71の受光面に結像した像と同じ像が位置33に結像され、位置33における像が試料光及び物体光としてホログラフィック記録媒体4に照射されることになるので、位置33における像(観察用撮像素子71で観察される画像)を同じ大きさとすることで、試料等の大きさの違いを補正することができる。
【0050】
試料31等を観察するための観察光学系7、試料保持手段3、焦点調節手段36、試料位置調整手段37及び観察用撮像素子71は、従来の光学顕微鏡の構成を転用することが可能である。明視野での観察は、試料等が光の強度を変調させない場合または強度差が小さい場合は、観察が困難であるので、暗視野での観察や位相差顕微鏡または微分干渉顕微鏡としても観察可能な構成とすることが好ましい。
【0051】
ビームスプリッタ55は、入射した光の一部を反射し、他の一部を透過させる光学素子であり、試料等からの光を観察用撮像素子71に向かう光とホログラフィック記録媒体4に向かう光とを生成している。ビームスプリッタ55では、光が分割されるが、光の進行方向を切替える光学素子が設けられていてもよい。たとえば、ビームスプリッタ55の代わりに移動可能なミラーを設け、試料等を観察する場合は、試料等からの光を観察用撮像素子71に向けて反射させ、試料等を識別する場合は、ミラーを光軸外に移動させて、試料等からの光をホログラフィック記録媒体4に向けて進行させることもできる。
【0052】
マスク56は、観察光学系7によって試料等が結像する結像面または試料保持手段の位置に配置されるものであり、識別時には試料光の輪郭を成形するマスクが配置され、記録時には物体光の輪郭を成形し、且つ参照光の強度パターンを生成する別のマスクが配置される。マスク56は、位置33ではなく、試料等の位置(すなわち、試料保持手段3)または他の結像面(対物レンズの入射瞳面35)に配置されてもよい。たとえば、試料保持手段3の開口をマスク56として、試料光の輪郭や物体光の輪郭及び参照光の強度パターンを成形してもよいし、対物レンズの入射瞳面35にマスク56を配置してもよい。なお、試料光及び物体光それ自体は、試料等によって変調されることで生成され、マスク56は、その輪郭を成形するものである。
【0053】
図3(A)は、識別時における試料光の輪郭を成形するためのマスク56の一例であり、図3(B)は記録時における物体光の輪郭及び参照光の強度パターンを生成するためのマスク56の一例である。図3(A)において、マスク56は、中央に円形の開口56aが設けられており、マスク56を通過させることで試料光の輪郭を円形に成形することができる。図3(B)において、マスク56は、中央に円形の開口56bと、その周囲に放射状に12個の小さい円形の開口56cとが設けられており、マスク56を通過させることで開口56bによって物体光の輪郭を円形に成形することができ、開口56cによって物体光の周囲に放射状に配置された12個の小さい円形からなるパターンの参照光を生成することができる。マスク56としては、光源2からの光を遮断できる素材で形成されている。なお、記録時のマスクと識別時のマスクは、切替えスイッチ等で入れ替わる構成とすることもできるし、56cの開口にシャッターを設けて識別時にはシャッターを閉じる構成とすることもできる。
【0054】
偏光ビームスプリッタ57は、直交する偏光方向の一方を透過し、他方を反射するものであり、ホログラフィック記録媒体4に向かう試料光、物体光及び参照光とホログラフィック記録媒体4から再生された再生光とを分離するために、四分の一波長板60と共に設けられる。図2においては、ホログラフィック記録媒体4に向かう試料光、物体光及び参照光を透過し、ホログラフィック記録媒体4から再生された再生光を光検出器5に向けて反射する。光学系の構成によっては、試料光、物体光及び参照光をホログラフィック記録媒体4に向けて反射し、光検出器に向かう再生光を透過させる構成であってもよい。
【0055】
第1のリレーレンズ58及び第2のリレーレンズ59は、位置33に結像された試料等の像を対物レンズ61の入射瞳面35に結像させるための光学系の一例である。第1のリレーレンズ58は、位置33から第1のリレーレンズ58までの間隔及び第1のリレーレンズ58からフーリエ面34までの間隔が第1のリレーレンズ58の焦点距離となるように配置される。また、第2のリレーレンズ59は、フーリエ面34から第2のリレーレンズ59までの間隔及び第2のリレーレンズ59から入射瞳面35までの間隔が第2のリレーレンズ59の焦点距離となるように配置される。かかる光学系は、第1及び第2のリレーレンズ58、59という構成に限定されるものではなく、種々の結像光学系を利用することができる。
【0056】
四分の一波長板60は、直線偏光を円偏光に変換するものであり、2回通過させることで直線偏光を90度回転させることができる。試料光が照射されることによってホログラム41から再生する再生光は、記録時の参照光に相当するものであり、参照光はホログラム41を記録する際に、四分の一波長板60を1回通過しているので、再度、四分の一波長板60を通過することにより、記録時の四分の一波長板60を通過する前の参照光と比べて直交する偏光方向の直線偏光となり、偏光ビームスプリッタ57によって分離することができる。
【0057】
対物レンズ61は、試料光、物体光及び参照光をフーリエ変換してホログラフィック記録媒体4に照射するものである。また、図2のように反射型のホログラフィック記録媒体4を使用した場合は、ホログラム41から再生した再生光を射出瞳面に結像させる。試料光、物体光及び参照光をフーリエ変換させるために、結像光学系53,54,58,59を使用して、対物レンズ61の入射瞳面35に試料等の像または参照光の強度パターンを結像させる。
【0058】
図2のホログラフィック記録媒体4は、透明な基板42と反射層を有する基板44との間にホログラム記録層43が狭持された反射型の構造である。位相物体識別装置1が、記録装置6として機能する時には、物体光及び参照光がホログラフィック記録媒体4に照射され、ホログラム記録層43にホログラム41が記録される。また、位相物体識別装置1が位相物体を識別する際には、試料光がホログラフィック記録媒体4に照射され、試料光は、ホログラム41から再生された再生光と共に、ホログラフィック記録媒体4の入射面側から射出される。
【0059】
ホログラフィック記録媒体4は、ホログラフィック記録媒体4を移動する記録媒体移動手段45に保持されている。記録媒体移動手段45は、光軸に対して直交する方向において、ホログラフィック記録媒体4を移動または回転させることができ、ホログラフィック記録媒体4における試料光、物体光及び参照光の照射位置を移動させて、ホログラフィック記録媒体4に複数のホログラムを記録したり、ホログラフィック記録媒体4の複数のホログラム41と試料光とを光相関演算させることができる。
【0060】
アパーチャー62は、反射型のホログラフィック記録媒体4で反射された試料光を遮光し、再生された再生光のみを光検出器5に通過させる開口を有している。アパーチャー62は、偏光ビームスプリッタ57から集光レンズ63までの間に配置されるが、試料光の回折光によるノイズを低減するため、試料光の結像面、たとえば第1のリレーレンズ58の焦点面(位置33と共役な位置)に配置することが好ましい。図3(C)は、アパーチャー62の一例であり、図3(B)に示す記録時のマスク56における開口56cに対応する放射状に配置された12個の小さい円形の開口62aが設けられている。
【0061】
集光レンズ63は、再生光を光検出器5の受光領域に集光させるために設けられており、光検出素子が一つの光検出器5でも利用可能とされている。
【0062】
光検出器5は、再生された再生光の光強度を検出するものである。再生光が集光レンズ63によって小さい領域に集光されるので、光検出素子が一つのものも利用することができる。
【0063】
次に、図2の位相物体識別装置1における各処理の動作を簡単に説明する。まず試料等を観察する場合、光源2から照射された光は、ビーム成形光学系51によって必要な口径及び平行光とされ、一対のミラー52によって反射され、試料等に照射され、試料側対物レンズ53及び結像レンズ54を通過し、ビームスプリッタ55によって反射され、観察用撮像素子71に到達する。試料等の像は、試料側対物レンズ53及び結像レンズ54によって観察用撮像素子71の受光面に結像する。そして、試料等が、観察用撮像素子71の受光面において、中心に配置されるように試料位置調整手段37で試料等の位置を調整し、受光面に試料等の焦点が合うように焦点調節手段36で調整する。このように試料等を観察した状態であれば、結像面33においても、試料等の像が中心に配置され、且つ焦点が合った状態となり、識別処理や記録処理を続けて行うことで、識別の信頼性及び記録の均一性を保つことができる。
【0064】
図2の位相物体識別装置1で試料31を識別する場合、光源2から照射された光は、ビーム成形光学系51によって必要な口径及び平行光とされ、一対のミラー52によって反射され、試料31に照射される。試料31によって少なくとも光の位相が空間的に変調され、試料側対物レンズ53及び結像レンズ54によって位置33に試料31の像が結像する。位置33には、図3(A)のマスク56が配置されており、輪郭が円形の試料光を生成する。そして、試料光は、偏光ビームスプリッタ57を透過し、第1及び第2のリレーレンズ58、59によって対物レンズ61の入射瞳面に結像され、四分の一波長板60によって円偏光に変換され、対物レンズ61によってフーリエ変換されてホログラフィック記録媒体4のホログラム記録層43に記録されたホログラム41に照射される。この結果、ホログラム41と試料光とが干渉して、相関があれば記録時の参照光に相当する再生光が再生される。
【0065】
反射層で反射された試料光及び再生光は、ホログラフィック記録媒体4から射出され、照射時とは反対方向に、対物レンズ61、四分の一波長板60、第2のリレーレンズ59及び第1のリレーレンズ58を経て、偏光ビームスプリッタ57に入射する。再生光は、記録時の参照光に相当するものであり、参照光はホログラフィック記録媒体4に照射される際に四分の一波長板60を通過して円偏光に変換されていたので、再度、再生光として四分の一波長板60を通過することにより、再生光は、参照光とは直交する偏光方向の直線偏光となっている。このため、再生光は、参照光を透過した偏光ビームスプリッタ57によって反射され、アパーチャー62を通過し、集光レンズ63によって光検出器5に集光される。なお、反射層で反射された試料光は、ホログラフィック記録媒体4から射出され、再生光と同様の光学系を経て偏光ビームスプリッタ57によって反射されるが、アパーチャー62によって遮光される。
【0066】
さらに、複数のホログラム41に識別させるためには、試料光を連続的またはパルス状に照射したまま、記録媒体移動手段45によって、ホログラフィック記録媒体4を移動または回転させる。すると、ホログラフィック記録媒体4に記録された複数のホログラム41に対し、試料光を連続的または断続的に照射することができ、再生光も連続的または断続的に検出することができる。
【0067】
再生光の光強度は、ホログラム41を記録したときの物体光と試料光との相関値(類似度)に応じて変化し、光強度の値が大きいほど物体光と試料光とが類似していることになる。したがって、再生光の光強度が、予め実験等によって定めたしきい値を超えた場合に、試料31は、かかる再生光を再生したホログラム41を記録した既知の位相物体と一致または類似する位相物体であると識別することができる。また、しきい値を超えた再生光が検出されなかった場合には、試料31は、ホログラフィック記録媒体4にホログラム41として記録された既知の位相物体と一致または類似していないと識別することができる。なお、複数の再生光の光強度がしきい値を超えた場合には、光強度の大きなものから類似する識別結果として出力することが好ましい。
【0068】
図2の位相物体識別装置1で既知の位相物体を記録する場合、試料保持手段3に既知の位相物体を保持させる。光源2から照射された光は、ビーム成形光学系51によって必要な口径及び平行光とされ、一対のミラー52によって反射され、既知の位相物体に照射される。既知の位相物体によって少なくとも光の位相が空間的に変調され、試料側対物レンズ53及び結像レンズ54によって位置33に既知の位相物体の像が結像する。位置33には、図3(B)のマスク56が配置されており、輪郭が円形の物体光及び物体光の周囲に配置された12本の小さい円形の参照光を生成する。そして、物体光及び参照光は、偏光ビームスプリッタ57を透過し、第1及び第2のリレーレンズ58、59によって対物レンズ61の入射瞳面に結像され、四分の一波長板60によって円偏光に変換され、対物レンズ61によってフーリエ変換されてホログラフィック記録媒体4のホログラム記録層43に照射される。この結果、ホログラフィック記録媒体4のホログラム記録層43に物体光と参照光との干渉により形成されたホログラム41が記録される。
【0069】
図4は、試料保持手段3の変形例であり、試料保持手段3にマスク56の機能を付加したものである。図4(A)は、記録時における試料保持手段3の断面図であり、図4(B)は、(A)の平面図であり、図4(C)は、識別時における試料保持手段3の断面図である。図4(A)において、試料保持手段3は、遮光性の一対の板状部材3a及び3bを有し、一対の板状部材3a及び3bの間には、内部に既知の位相物質32が封入されたスライドガラス38aとカバーガラス38bが配置されており、クリップ3cによって、一対の板状部材3a、3bを狭持して、既知の位相物質32をスライドガラス38a及びカバーガラス38bを介して保持している。一対の板状部材3a及び3bには、図4(B)に示すような開口56b、56cが設けられている。なお、図4(A)は図4(B)のA-A断面であり、図4(A)では開口部分を点線で示す。中央の円形の開口56bの領域には、既知の位相物質32が配置されており、光源からの光の位相を変調して物体光が生成される。また、周囲に放射状に配置された開口56cによって物体光の周囲に放射状に配置された12個の小さい円形からなるパターンの参照光が生成される。図4(A)の構成では、既知の位相物質32を封入したスライドガラス38a及びカバーガラス38bといった透明補助具(色付きの透明を含む)が、物体光を生成するための開口56bにも、参照光を生成するための開口56cにも存在するため、補助具による位相や強度の変化を相殺して、既知の位相物質32に基づく位相の変化のみを記録することができる。
【0070】
識別時においては、図4(C)に示すように、既知の位相物体32の代わりに識別対象の位相物体31をスライドガラス38aとカバーガラス38bの間に封入し、一対の板状部材3a及び3bに、さらに図3(A)のマスク56のように、中央にのみ開口56aが設けられた遮光部材3dを重ねた状態でクリップ3cによって狭持する。開口56aの領域に識別対象の位相物体31を配置することで、光源からの光によって、参照光を生成させずに試料光を生成させることができる。なお、参照光の強度パターンは、図3(B)や図4(B)の開口56cのような形状及び数量に限定されるものではなく、少なくとも一つの開口によって参照光が生成されればよい。
【0071】
試料保持手段3に試料31を順次搬送する試料搬送手段を設けると、試料の識別を連続して大量に実施することができる。図5は、試料搬送手段の一例である。図5(A)及び(B)は、ベルトコンベア式の試料搬送手段39a、39bの断面図及び平面図であり、図5(C)及び(D)は、搬送ロボットアーム式の試料搬送手段40a、40bの断面図及び平面図である。図5(A)及び(B)においては、試料31の上下端近傍が並行するベルトコンベア39a、39bに保持されており、ベルトコンベア39a、39bを移動させることで試料31を試料側対物レンズ53の下方に順次搬送する。図5(A)及び(B)では、ベルトコンベア39a、39bが試料保持手段3であるとともに試料搬送手段でもある。なお、図示しないが図5のベルトコンベア39a、39bの右側には、ベルトコンベア39a、39b上に試料31をロードする搬送手段が、ベルトコンベア39a、39bの左側には、ベルトコンベア39a、39b上の試料31をアンロードする搬送手段がそれぞれ設けられる。
【0072】
図5(C)及び(D)においては、搬送ロボットアーム40a、40bは何れも回動可能な支柱に3段階のアーム部分が上下動及び伸縮自在に設けられており、3段目のアーム部分の先端は、試料31を載置するように幅広に構成されている。試料保持手段3には、図の左右方向において凹部3eが設けられており、搬送ロボットアーム40a、40bの試料31を載置する幅広のアーム部分の先端が試料31の下方に挿入可能とされている。搬送ロボットアーム40aは、試料保持手段3に試料31を搬送するものであり、搬送ロボットアーム40bは、試料保持手段3の試料31を搬出するものである。なお、図5(D)において、試料保持手段3の試料31の下方には、光を透過するための透光部材による窓56aが設けられており、光源からの光が試料31に照射され、試料側対物レンズ53に入射されるように構成されている。
【0073】
図6は、物体光生成手段の一部に位相空間光変調器を採用したホログラフィック記録媒体4にホログラム41を記録する記録装置80の一実施形態であり、さらに記録装置80は、再生光を検出する構成も付加したことにより、位相物体識別装置としても機能する。記録装置80は、光源81、コリメータレンズ82、ビームスプリッタ83、位相空間光変調器84、情報処理装置85、第1のリレーレンズ86、ミラー87、第2のリレーレンズ88、マスク89、偏光ビームスプリッタ90、四分の一波長板91、対物レンズ92、アパーチャー93、ミラー94、集光レンズ95、光検出器96を有している。図6も、ホログラフィック記録媒体4が反射型の場合である。
【0074】
光源81から射出された光は、コリメータレンズ82によって略平行光とされ、ビームスプリッタ83によって反射され、位相空間光変調器84に入射する。位相空間光変調器84は、複数の画素を有し、各画素毎に入射した光の位相を変化させることができ、光の位相を空間的に変調することができる。図6においては反射型であり、情報処理装置85から入力された位相パターンが位相空間光変調器84に表示され、表示された位相パターンによって入射した光の位相を変調しつつ反射する。位相空間光変調器84としては、平行配向液晶空間位相変調器(PAL-SLM:Parallel-Aligned Liquid crystal Spatial Light Modulator)等を利用することができる。
【0075】
位相空間光変調器84によって反射された光は、上記の通り、情報処理装置85から入力された位相パターンによって光の位相が変調されている。そして、ビームスプリッタ83を透過した光は、第1及び第2のリレーレンズ86、88によって対物レンズ92の入射瞳面に位相パターンが結像するように伝達される。その途中、第1及び第2のリレーレンズ86、88間の焦点位置(フーリエ面)に配置されたミラー87によって反射され進行方向が変更される。マスク89は、物体光97の輪郭及び参照光98の強度パターンを成形するものであり、対物レンズ92の入射瞳面且つ第1及び第2のリレーレンズ86、88による結像面に配置されることが好ましい。なお、図6の構成において、対物レンズ92の焦点距離が短く、マスク89を入射瞳面に配置することが物理的に困難な場合は、図示しない結像光学系をさらに組み込み、入射瞳面と共役な位置に配置すればよい。その後、偏光ビームスプリッタ90を透過し、四分の一波長板91によって円偏光に変換され、対物レンズ92によってフーリエ変換されてホログラフィック記録媒体4のホログラム記録層43に照射される。この結果、ホログラム記録層43には、物体光97と参照光98との干渉によって形成されたホログラム41が記録される。
【0076】
また、図6の記録装置80において、位相空間光変調器84に表示された位相パターンは、光の位相を変化させるものであり、一種の位相物体と言える。そして、位相空間光変調器84に任意の位相パターンを表示して、識別対象の位相物体とすれば、マスク89を変更することで、ホログラフィック記録媒体4に記録されたホログラム41を用いて識別処理を行うことができる。この場合には、位相空間光変調器84が試料保持手段となる。
【0077】
図6の記録装置80を位相物体識別装置として機能させる場合、光源81から射出された光は、コリメータレンズ82によって略平行光とされ、ビームスプリッタ83によって反射され、位相空間光変調器84に入射し、位相空間光変調器84に表示された位相パターンによって光の位相を変調しつつ反射する。位相空間光変調器84によって反射された光は、ビームスプリッタ83を透過し、第1及び第2のリレーレンズ86、88によって対物レンズの入射瞳面に位相パターンが結像するように伝達される。その途中、第1及び第2のリレーレンズ86、88間の焦点位置(フーリエ面)に配置されたミラー87によって反射され進行方向が変更される。マスク89は、試料光の輪郭を成形するものであり、記録時における参照光98を成形するための開口は遮光する。その後、試料光は、偏光ビームスプリッタ90を透過し、四分の一波長板91によって円偏光に変換され、対物レンズ92によってフーリエ変換されてホログラフィック記録媒体4のホログラム記録層43に記録されたホログラム41に照射される。この結果、ホログラム41と試料光とが干渉して、記録時の参照光に相当する再生光が再生される。

【0078】
反射層で反射された試料光及び再生光は、ホログラフィック記録媒体4から射出され、照射時とは反対方向に、対物レンズ92、四分の一波長板91を経て、偏光ビームスプリッタ90に入射する。再生光は、記録時の参照光に相当するものであり、参照光はホログラフィック記録媒体4に照射される際に四分の一波長板91を通過して円偏光に変換されていたので、再度、再生光として四分の一波長板91を通過することにより、再生光は、参照光とは直交する偏光方向の直線偏光となっている。このため、再生光は、参照光を透過した偏光ビームスプリッタ90によって反射される。また、反射された試料光も、四分の一波長板91を二回通過しているので、偏光ビームスプリッタ90によって反射される。再生光はアパーチャー93の開口を通過し、試料光はアパーチャー93によって遮光される。ミラー94によって反射された再生光は、集光レンズ95によって光検出器96に集光される。なお、図6においては、便宜上、マスク89の開口が物体光を成形する開口と参照光を成形する開口を各1つしか示していないが、参照光の強度パターンは複数であってもよい。
【0079】
[実施例1]図6の装置80を利用して、位相物体の識別可能性を実証した。本実施例においては、光源81として532nmのNd:YVO4レーザーを使用した。マスク89としては、図3(A)及び(B)に示す形状のマスクを使用した。すなわち、識別時のマスクは、中央に試料光を生成するための円形の開口56aを有するマスクであり、記録時のマスクは、中央に物体光を生成するための円形の開口56bと、その周囲に放射状に12個の参照光を生成するための小さい円形の開口56cとを有するマスクである。試料光または物体光の輪郭となる開口56a、56bは直径1mmの円形であり、参照光を生成するための開口56cは0.29mmの円形であった。また、対物レンズ92のNAは0.55であり、焦点距離は4mmであった。
【0080】
まず、ホログラフィック記録媒体4に4種類のホログラム41を記録する。位相空間光変調器84の32×32画素の表示領域に、図7(A)~(D)の位相パターンを表示して、それぞれ物体光を生成し、参照光と干渉させてホログラムを記録した。図7(A)~(D)は、左側に表示面における位相パターンを示し、右側に一点鎖線または二点鎖線における断面の位相変調量を示す。図7(A)では、表示領域100に位相変調量π/2の直径32画素の円形のパターン101を表示した。図7(B)では、表示領域100に、位相変調量π/2の直径32画素の円形のパターン101を表示し、その中心に位相変調量πの直径10画素の円形のパターン102を表示した。図7(C)では、表示領域100に、位相変調量π/2の直径32画素の円形のパターン101を表示し、その中に位相変調量πの直径10画素の円形のパターン102を2つ表示した。図7(D)では、表示領域100に、位相変調量π/2の直径32画素の円形のパターン101を表示し、その中に位相変調量πの直径10画素の円形のパターン102を3つ表示した。なお、図7(D)では、右側にa-a断面とb-b-断面の位相変調量がそれぞれ示されている。以下、図7(A)~(D)の位相パターンによるホログラムをホログラムA~Dと呼ぶ。
【0081】
次に、図7(A)の表示領域100に位相変調量π/2の直径32画素の円形のパターン101を表示した位相パターンで光の位相を変調した試料光を生成し、ホログラムA~Dのそれぞれに対し照射した。図8は、ホログラムA~Dから再生された再生光の検出結果を示すものであり、縦軸は自己相関の相関値によって規格化した任意単位の相関値(再生光の強度)であり、横軸は各ホログラムA~Dである。ホログラムAは、図7(A)の位相パターンの物体光によって記録されているため、試料光と同一であり、自己相関となる。ホログラムBは、図7(B)の位相変調量πの直径10画素の円形のパターン102が一つ表示された位相パターンによって記録されており、試料光の図7(A)の位相パターンとは相互相関となるが、違いが小さいので相関値は63とホログラムC及びDに比べて高い。ホログラムC及びDでは、それぞれ相関値は48と31であり、試料光の図7(A)の位相パターンとの違い(位相変調量πの直径10画素の円形のパターン102の数)が増えるに従って、相関値が小さくなることが確認できる。このことから、本発明の位相物体識別装置において、細胞の数や細胞核の有無などの識別が可能であることが示唆される。
【0082】
[実施例2]図6の装置80を利用して、位相の変化による位相物体の識別可能性を実証した。本実施例の装置条件は、実施例1と同じである。まず、位相空間光変調器84の32×32画素の表示領域の全画素の位相を0からπ/4ずつ2πまで変化させて、それぞれ物体光を生成し、参照光と干渉させて9個のホログラムを記録した。すなわち、表示領域の全画素の位相を0、π/4、π/2、3π/4、π、5π/4、3π/2、7π/4及び2πとした位相パターンの物体光によって、ホログラム0、π/4、π/2、3π/4、π、5π/4、3π/2、7π/4及び2πを記録した。
【0083】
この9個のホログラムに対し、表示領域の全画素の位相を0とした位相パターンの試料光を生成し、照射した。図9は、ホログラム0、π/4、π/2、3π/4、π、5π/4、3π/2、7π/4及び2πから再生された再生光の検出結果を示すものであり、縦軸は自己相関の相関値によって規格化した任意単位の相関値(再生光の強度)であり、横軸は各ホログラムである。ホログラム0及びホログラム2πは、全画素の位相を0として位相パターンの物体光によって記録されているため、試料光と同一であり、自己相関となる。相関値は、ホログラム0及びホログラム2πに近いほど大きく、遠いほど小さくなっており、ホログラムπが最小である。実施例2から、識別対象の位相物体と既知の位相物体との位相差を再生光の強度として識別することができる。そして、これを応用すれば、細胞の振動、核の膨張、動的な位相変化の観察または識別が可能であることが示唆される。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】(A)は本発明の位相物体識別装置及び方法の基本原理を説明するための模式図、(B)は記録装置及び方法の基本原理を説明するための模式図
【図2】記録装置としても利用可能な本発明の位相物体識別装置の一実施態様を示す概略構成図
【図3】(A)は試料光の輪郭を成形するためのマスク形状の一例を示す図、(B)は物体光の輪郭及び参照光の強度パターンを生成するためのマスク形状の一例を示す図、(C)はアパーチャー形状の一例を示す図
【図4】(A)は記録時における試料保持手段の断面図、(B)は(A)の平面図、(C)は識別時における試料保持手段の断面図
【図5】(A)~(D)は試料搬送手段の一例を示す図
【図6】位相物体識別装置としても機能する記録装置の概略構成図
【図7】位相空間光変調器の表示領域における位相パターンを示す図
【図8】ホログラムA~Dから再生された再生光の検出結果を示す図
【図9】ホログラム0~2πから再生された再生光の検出結果を示す図
【符号の説明】
【0085】
1 位相物体識別装置
2 光源
3 試料保持手段
4 ホログラフィック記録媒体
5 光検出器
6 記録装置
21 光源から射出された光
22 試料光
23 再生光
24 物体光
25 参照光
31 識別対象の位相物体(試料)
32 既知の位相物体
41 ホログラム
42 基板
43 ホログラム記録層
44 基板
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8