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明細書 :時系列データ認識方法、時系列データ認識装置及びプログラム

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4710014号 (P4710014)
公開番号 特開2007-220032 (P2007-220032A)
登録日 平成23年4月1日(2011.4.1)
発行日 平成23年6月29日(2011.6.29)
公開日 平成19年8月30日(2007.8.30)
発明の名称または考案の名称 時系列データ認識方法、時系列データ認識装置及びプログラム
国際特許分類 G06K   9/66        (2006.01)
G06K   9/62        (2006.01)
G06N   3/00        (2006.01)
G06T   7/00        (2006.01)
FI G06K 9/66
G06K 9/62 G
G06N 3/00 560A
G06T 7/00 350C
請求項の数または発明の数 5
全頁数 14
出願番号 特願2006-043009 (P2006-043009)
出願日 平成18年2月20日(2006.2.20)
審査請求日 平成20年12月26日(2008.12.26)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504174135
【氏名又は名称】国立大学法人九州工業大学
発明者または考案者 【氏名】山川 烈
【氏名】堀尾 恵一
【氏名】高取 純一
個別代理人の代理人 【識別番号】110000154、【氏名又は名称】特許業務法人はるか国際特許事務所
審査官 【審査官】新井 則和
参考文献・文献 特開平07-141313(JP,A)
堤瑞樹 外1名,忘却概念の導入による自己組織化学習と教師あり学習の統合,電子情報通信学会技術研究報告 Vol.102 No.731,日本,社団法人電子情報通信学会,2003年 3月12日,第102巻 第731号,頁71~76
和久屋寛 外2名,自己組織化マップを用いた時系列信号処理:点字認識課題への応用,電子情報通信学会技術研究報告 Vol.102 No.731,日本,社団法人電子情報通信学会,2003年 3月12日,第102巻 第731号,頁47~52
調査した分野 G06K 9/66
G06K 9/62
G06N 3/00
G06T 7/00
特許請求の範囲 【請求項1】
複数のユニットが配置された競合層を備えるとともに、前記各ユニットに第1及び第2の重みベクトルが関連づけられた自己組織化マップの学習を学習用の時系列データを用いて行う学習ステップと、
前記自己組織化マップを用いて認識用の時系列データを認識する認識ステップと、を含み、
前記学習ステップは、
前記学習用の時系列データに対応する学習入力ベクトルを順次受け付けるステップと、
順次受け付けられた前記学習入力ベクトルと、前記各ユニットに関連づけられた前記第1の重みベクトルと、の類似度に基づいて、前記複数のユニットの中から一部を選出するステップと、
選出された前記ユニットに関連づけられた前記第1の重みベクトルを、受け付けられた前記学習入力ベクトルに近づけるステップと、
前記学習用の時系列データに対応する学習入力ベクトルを時間順に受け付けるステップと、
順次受け付けられた前記学習入力ベクトルと、前記各ユニットに関連づけられた前記第1の重みベクトルと、の類似度に基づいて、前記複数のユニットの中から一部を選出するとともに、選出された前記ユニットに関連づけられた前記第2の重みベクトルと、以前に受け付けられた前記学習入力ベクトルに対する勝者ユニットの履歴を示す勝者余韻ベクトルと、の類似度に基づいて、選出された前記一部のユニットの中から1の勝者ユニットを選出するステップと、
選出された前記勝者ユニットに関連づけられた前記第2の重みベクトルを前記勝者余韻ベクトルに近づけるステップと、
選出された前記勝者ユニットに従って前記勝者余韻ベクトルを更新するステップと、を含み、
前記認識ステップは、
前記認識用の時系列データに対応する認識入力ベクトルを時間順に受け付けるステップと、
順次受け付けられた前記認識入力ベクトルと、前記各ユニットに関連づけられた前記第1の重みベクトルと、の類似度に基づいて、前記複数のユニットの中から一部を選出するとともに、選出された前記一部のユニットに関連づけられた前記第2の重みベクトルと、以前に受け付けられた前記認識入力ベクトルに対する勝者ユニットの履歴を示す勝者余韻ベクトルと、の類似度に基づいて、選出された前記一部のユニットの中から1の勝者ユニットを選出するステップと、
選出された前記勝者ユニットに従って前記勝者余韻ベクトルを更新するステップと、
選出された勝者ユニットのうち一部又は全部により、前記認識用の時系列データを認識するステップと、を含む、
ことを特徴とする時系列データ認識方法。
【請求項2】
請求項1に記載の時系列データ認識方法において、
前記勝者余韻ベクトルは、前記各ユニットに関連づけられた、該ユニットが勝者ユニットとして選出されるのに応じて更新される勝者余韻値を含む、
ことを特徴とする時系列データ認識方法。
【請求項3】
請求項2に記載の時系列データ認識方法において、
前記勝者余韻値は、前記学習入力ベクトル又は前記認識入力ベクトルが受け付けられるのに従って減少する、
ことを特徴とする時系列データ認識方法。
【請求項4】
複数のユニットが配置された競合層を備える自己組織化マップを用いて、時系列データを認識する時系列データ認識装置であって、
前記各ユニットに関連づけて、第1及び第2の重みベクトルを記憶する重みベクトル記憶手段と、
認識用の時系列データに対応する認識入力ベクトルを時間順に受け付ける認識入力ベクトル受付手段と、
順次受け付けられた前記認識入力ベクトルと前記第1の重みベクトルとの類似度、及び前記第2の重みベクトルと以前に前記認識入力ベクトル受付手段により受け付けられた前記認識入力ベクトルに対する勝者ユニットの履歴を示す勝者余韻ベクトルとの類似度に基づいて、前記複数のユニットの中から1の勝者ユニットを選出する勝者ユニット選出手段と、
選出された前記勝者ユニットに従って前記勝者余韻ベクトルを更新する勝者余韻ベクトル更新手段と、
選出された勝者ユニットのうち一部又は全部により、前記認識用の時系列データを認識する認識手段と、
を含むことを特徴とする時系列データ認識装置。
【請求項5】
複数のユニットが配置された競合層を備える自己組織化マップを用いて、時系列データを認識するプログラムであって、
前記各ユニットに関連づけて、第1及び第2の重みベクトルを記憶する重みベクトル記憶手段、
認識用の時系列データに対応する認識入力ベクトルを時間順に受け付ける認識入力ベクトル受付手段、
順次受け付けられた前記認識入力ベクトルと前記第1の重みベクトルとの類似度、及び前記第2の重みベクトルと以前に前記認識入力ベクトル受付手段により受け付けられた前記認識入力ベクトルに対する勝者ユニットの履歴を示す勝者余韻ベクトルとの類似度に基づいて、前記複数のユニットの中から1の勝者ユニットを選出する勝者ユニット選出手段、
選出された前記勝者ユニットに従って前記勝者余韻ベクトルを更新する勝者余韻ベクトル更新手段、及び
選出された勝者ユニットのうち一部又は全部により、前記認識用の時系列データを認識する認識手段
としてコンピュータを機能させるためのプログラム。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は時系列データ認識方法、時系列データ認識装置及びプログラムに関し、特に時間経過に従って内容が変化する時系列データの認識に関する。
【背景技術】
【0002】
ニューラルネットワークの一種である自己組織化マップ(Self-Organizing Map;SOM)は、T.Kohonenによって提案された教師なし競合学習モデルである。自己組織化とは、外部からの信号に自己を変化させ、適応することであり、自己組織化過程を簡略化したモデルが自己組織化マップである。かかる自己組織化マップによれば、外部から与えられたデータを、その内容に従って分類することが可能であり、データ認識技術への適用が広く検討されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、データ認識技術が対象とすべきデータは、例えば時系列の音圧データ群を特定する音声データ、時系列の静止画像群を特定する動画像データ、時系列の筆記位置群を特定する手書き文字のデータ等、その多くが時間経過に従って内容が変化する時系列データである。ところが、従来の自己組織化マップを用いた時系列データの認識技術では、データの内容とその時間情報を同列に扱って、自己組織化マップに入力するものが多かった。このため、時系列データの推移をデータ認識に反映させることが困難であり、データ認識の精度向上に限界があった。
【0004】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであって、その目的は、時系列データの推移をデータ認識に反映させて、認識精度を向上させることができる時系列データ認識方法、時系列データ認識装置及びプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明に係る時系列データ認識方法は、複数のユニットが配置された競合層を備えるとともに、前記各ユニットに第1及び第2の重みベクトルが関連づけられた自己組織化マップの学習を学習用の時系列データを用いて行う学習ステップと、前記自己組織化マップを用いて認識用の時系列データを認識する認識ステップと、を含む。
【0006】
そして、前記学習ステップは、前記学習用の時系列データに対応する学習入力ベクトルを順次受け付けるステップと、順次受け付けられた前記学習入力ベクトルと、前記各ユニットに関連づけられた前記第1の重みベクトルと、の類似度に基づいて、前記複数のユニットの中から一部を選出するステップと、選出された前記ユニットに関連づけられた前記第1の重みベクトルを、受け付けられた前記学習入力ベクトルに近づけるステップと、前記学習用の時系列データに対応する学習入力ベクトルを時間順に受け付けるステップと、順次受け付けられた前記学習入力ベクトルと、前記各ユニットに関連づけられた前記第1の重みベクトルと、の類似度に基づいて、前記複数のユニットの中から一部を選出するとともに、選出された前記ユニットに関連づけられた前記第2の重みベクトルと、以前に受け付けられた前記学習入力ベクトルに対する勝者ユニットの履歴を示す勝者余韻ベクトルと、の類似度に基づいて、選出された前記一部のユニットの中から1の勝者ユニットを選出するステップと、選出された前記勝者ユニットに関連づけられた前記第2の重みベクトルを前記勝者余韻ベクトルに近づけるステップと、選出された前記勝者ユニットに従って前記勝者余韻ベクトルを更新するステップと、を含む。
【0007】
一方、前記認識ステップは、前記認識用の時系列データに対応する認識入力ベクトルを時間順に受け付けるステップと、順次受け付けられた前記認識入力ベクトルと、前記各ユニットに関連づけられた前記第1の重みベクトルと、の類似度に基づいて、前記複数のユニットの中から一部を選出するとともに、選出された前記一部のユニットに関連づけられた前記第2の重みベクトルと、以前に受け付けられた前記認識入力ベクトルに対する勝者ユニットの履歴を示す勝者余韻ベクトルと、の類似度に基づいて、選出された前記一部のユニットの中から1の勝者ユニットを選出するステップと、選出された前記勝者ユニットに従って前記勝者余韻ベクトルを更新するステップと、選出された勝者ユニットのうち一部又は全部により、前記認識用の時系列データを認識するステップと、を含む。
【0008】
また、本発明に係る時系列データ認識装置は、複数のユニットが配置された競合層を備える自己組織化マップを用いて、時系列データを認識する時系列データ認識装置であって、前記各ユニットに関連づけて、第1及び第2の重みベクトルを記憶する重みベクトル記憶手段と、認識用の時系列データに対応する認識入力ベクトルを時間順に受け付ける認識入力ベクトル受付手段と、順次受け付けられた前記認識入力ベクトルと前記第1の重みベクトルとの類似度、及び前記第2の重みベクトルと以前に前記認識入力ベクトル受付手段により受け付けられた前記認識入力ベクトルに対する勝者ユニットの履歴を示す勝者余韻ベクトルとの類似度に基づいて、前記複数のユニットの中から1の勝者ユニットを選出する勝者ユニット選出手段と、選出された前記勝者ユニットに従って前記勝者余韻ベクトルを更新する勝者余韻ベクトル更新手段と、選出された勝者ユニットのうち一部又は全部により、前記認識用の時系列データを認識する認識手段と、を含むことを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係るプログラムは、複数のユニットが配置された競合層を備える自己組織化マップを用いて、時系列データを認識するプログラムであって、前記各ユニットに関連づけて、第1及び第2の重みベクトルを記憶する重みベクトル記憶手段、認識用の時系列データに対応する認識入力ベクトルを時間順に受け付ける認識入力ベクトル受付手段、順次受け付けられた前記認識入力ベクトルと、順次受け付けられた前記認識入力ベクトルと前記第1の重みベクトルとの類似度、及び前記第2の重みベクトルと以前に前記認識入力ベクトル受付手段により受け付けられた前記認識入力ベクトルに対する勝者ユニットの履歴を示す勝者余韻ベクトルとの類似度に基づいて、前記複数のユニットの中から1の勝者ユニットを選出する勝者ユニット選出手段と、選出された前記勝者ユニットに従って前記勝者余韻ベクトルを更新する勝者余韻ベクトル更新手段、及び選出された勝者ユニットのうち一部又は全部により、前記認識用の時系列データを認識する認識手段としてコンピュータを機能させるためのプログラムである。
【0010】
本発明では、データ認識の際、認識用の時系列データが入力される。この時系列データは認識入力ベクトルの時間順の列からなっており、各認識入力ベクトルが時間順に入力される。自己組織化マップの競合層に配置された各ユニットには、2つの重みベクトル、すなわち第1及び第2の重みベクトルが関連づけられる。第1の重みベクトルは認識入力ベクトルとの類似度(第1の類似度)が算出されるものであり、第2の重みベクトルは勝者ユニットの履歴を示す勝者余韻ベクトルとの類似度(第2の類似度)が算出されるものである。本発明によれば、競合層のユニットのうちどれが勝者ユニットであるかを、上記第1の類似度、すなわち認識入力ベクトルの内容に関する評価と、上記第2の類似度、すなわち勝者ユニットの履歴に関する評価と、を考慮して決定することができる。換言すれば、本発明では、認識入力ベクトルの内容及びその内容に至るまでの認識入力ベクトルの変化を考慮して勝者ユニットを決定することができる。このため、認識用の時系列データの推移をデータ認識に反映させて、認識精度を向上させることができる。
【0011】
なお、前記勝者余韻ベクトルは、前記各ユニットに関連づけられた、該ユニットが勝者ユニットとして選出されるのに応じて更新される勝者余韻値を含んでもよい。また、前記勝者余韻値は、前記学習入力ベクトル又は前記認識入力ベクトルが受け付けられるのに従って減少するようにしてもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態について図面に基づき詳細に説明する。
【0013】
本実施形態に係る時系列データ認識方法では自己組織化マップが用いられる。図1は、この自己組織化マップのネットワーク構造を示す図である。本実施形態では、同図に示す構造の自己組織化マップがコンピュータ上で管理され、これを用いてコンピュータにより時系列データの認識が行われる。同図に示すように、本実施形態に係る時系列データ認識方法で用いる自己組織化マップは、入力層、競合層、勝者余韻層の3層から構成されている点が特徴的である。
【0014】
入力層は、時系列データを構成する入力ベクトルの各成分が入力されるユニットが配置されている。本実施形態では、手書き数字の筆跡を示す座標の系列から生成された速度ベクトルの系列が、認識対象の時系列データとして用いられる。図2は、本実施形態において認識対象となる時系列データの生成手順を示している。同図に示すように、まずタブレット等にユーザが数字を筆記することにより、所定時間毎の筆記位置の座標が取得される。そして、時間的に前後する筆記位置の座標の差分を演算することにより、各手書き数字について、筆記位置の速度ベクトルの系列が得られる。同図において、各手書き数字の上に描かれた丸印はタブレット等により取得される所定時間毎の筆記位置を示している。また、各手書き数字の右側に示されたグラフは、筆記位置の速度ベクトルの垂直方向及び水平方向の各成分の値の推移を示している。次式(1)に示すように、各手書き数字は、有限(例えばT個)の速度ベクトル(入力ベクトル)の系列(時系列データ)により表現され、各速度ベクトルは、次式(2)に示すように、垂直方向の成分x1(t)及び水平方向の成分x2(t)を有している。ここでは、入力層に2つのユニットが配置され、一方にx1(t)が入力され、他方にx2(t)が入力される。
【0015】
【数1】
JP0004710014B2_000002t.gif

【0016】
競合層にはN個のユニット(ここではN=6×6)が正方配置されており、各ユニットには結合重みベクトル(第1の重みベクトル)Wj及び経験重みベクトル(第2の重みベクトル)Ujが関連づけられている。入力層に時系列データを構成する各入力ベクトルが入力されると、各ユニットの結合重みベクトルWj及び経験重みベクトルUjに基づいて、競合層に配置されたユニットの中から1つの勝者ユニットが選出される。結合重みベクトルWjは、次式(3)に示すように入力ベクトルと同次元のベクトルであり、経験重みベクトルUjは、次式(4)に示すように競合層に配置されたユニットと同数の次元数を有するベクトルである。
【0017】
【数2】
JP0004710014B2_000003t.gif

【0018】
勝者余韻層にも、競合層に配置されたユニットと同数のN個のユニットが正方配置されている。勝者余韻層の各ユニットAjは、競合層のユニットBjに対応している。そして、勝者余韻層の各ユニットAjには勝者余韻値Yj(t)が関連づけられている。この勝者余韻値Yj(t)は、競合層のユニットBjが勝者ユニットに選出された場合に増加し、また時間経過に従って減少するものである。従って、次式(5)に示す、勝者余韻値Y1(t)~YN(t)を成分とする勝者余韻ベクトルY(t)は、競合層に配置されたユニットにおける勝者ユニットの履歴を示す。
【0019】
【数3】
JP0004710014B2_000004t.gif

【0020】
図3は、勝者余韻ベクトルの更新を説明する図である。同図において、勝者余韻層のユニット上に描かれた棒は同ユニットに関連づけられた勝者余韻値の大きさを示している。同図に示すように、時刻1で競合層のあるユニットが勝者ユニットに選出されると、時刻2でそのユニットに関連づけられた勝者余韻値が急増する。また、時刻2では競合層の別のユニットが勝者ユニットに選出されると、時刻3でそのユニットに関連づけられた勝者余韻値が急増する。このとき、時刻2で急増した勝者余韻値は時刻3になると、時間経過により減少する。同様に、時刻3で競合層のさらに別のユニットが勝者ユニットに選出されると、時刻4でそのユニットに関連づけられた勝者余韻値が急増する。このとき、時刻3で急増した勝者余韻値は時刻4になると、時間経過により減少する。また、時刻2で急増した勝者余韻値は、時間経過によりさらに減少する。このように、勝者余韻ベクトルY(t)は、時刻t-1以前における勝者ユニット及びそれらが勝者ユニットに選出された順序の情報を含んでいる。
【0021】
具体的には、勝者余韻ベクトルの更新は、次式(6)に従って行われる。同式によりYjの値域は次式(7)のようになる。また、式(6)の右辺第一項に含まれるZj(t)は、次式(8)に示すように、時刻tにおいて競合層のユニットBjが勝者ユニットに選出された場合に1の値をとり、選出されなかった場合に0の値をとる関数である。また、式(6)の右辺に含まれるγは次式(9)の値域をとる忘却関数であり、あるユニットが勝者ユニットに選出された場合に、それに対応する勝者余韻値が急増する程度、及び時間経過とともに勝者余韻値が減少する程度を示すパラメータである。
【0022】
【数4】
JP0004710014B2_000005t.gif

【0023】
ここで、時系列データの認識にあたって必要となる、事前準備の処理について説明する。図4は、この事前準備の処理を示すフロー図である。事前準備としては、まず学習用の時系列データを用いて、自己組織化マップの競合層の各ユニットBjに関連づけられた結合重みベクトルWjの学習を行う(S101)。さらに、同じく学習用の時系列データを用いて、各ユニットBjに関連づけられた経験重みベクトルUjの学習を行う(S102)。その後、既知の時系列データを学習済みの自己組織化マップに入力して、その時系列データを構成する入力ベクトルのうち最後のものに対応する勝者ユニットの識別番号を出力する(S103)。そして、その値をS103で自己組織化マップに入力した時系列データが表す手書き数字の内容に関連づけて、判定データとして記録しておく(S104)。
【0024】
次に、時系列データの内容を判定する処理について説明する。図5は、時系列データの内容判定処理を示すフロー図である。この処理では、まず認識用の時系列データを学習済みの自己組織化マップに入力して、その時系列データを構成する入力ベクトルのうち最後のものに対応する勝者ユニットの識別番号を出力する(S501)。そして、この識別番号を上記判定データに照らして、認識用の時系列データが表す手書き数字の内容を判定し、判定結果を出力する(S502)。
【0025】
図6は、結合重みベクトルの学習処理を示すフロー図である。同図に示す処理は、図4のS101の処理を詳細に示すものである。この処理では、まず結合重みベクトルWj(j=1~N)を例えば乱数により初期化する(S201)。次に、事前に用意された、多数の学習用の時系列データのそれぞれを構成する入力ベクトルx(1)~x(T)の中から、ランダムに選択された1つ(ここではx(t)と記す)を取得する(S202)。そして、この入力ベクトルx(t)と結合重みベクトルWj(j=1~N)の類似度を次式(10)により算出するとともに、その値を用いて次式(11)により勝者ユニットcを選出する。すなわち、勝者ユニットcは、競合層に配置されたユニットBj(j=1~N)のうち、それに対応する結合重みベクトルWjと入力ベクトルx(t)との類似度が最も大きなものである。さらに、競合層において、勝者ユニットcの近傍(所定の近傍範囲内)に配置されたユニットも選出する(S203)。
【0026】
【数5】
JP0004710014B2_000006t.gif

【0027】
そして、勝者ユニットc及びその近傍のユニットに関連づけられた結合重みベクトルWjを次式(12)に従って更新する。ここで、Wjnewは更新後の重みベクトルWjであり、Wjoldは更新前の重みベクトルWjである。また、αは学習係数である。
【0028】
【数6】
JP0004710014B2_000007t.gif

【0029】
その後、事前に用意された入力ベクトルの中に、S202で未だ選択されていないものがないかを判断する(S205)。そして、そのようなものがあれば、それらの入力ベクトルについてS202~S204の処理を実行する。また、以上のS202~S205の処理は既定回数繰り返される(S206)。この際、上記の学習係数αを徐々に小さくし、また上記の所定の近傍範囲を徐々に狭くする。以上の学習処理により、競合層の各ユニットBjに関連づけられた結合重みベクトルWjは、手書き文字で頻出する速度ベクトルに相当するものとなる。
【0030】
次に、図7は、経験重みベクトルUjの学習処理を示すフロー図である。同図に示す処理は、図4のS102の処理を詳細に示すものである。この処理では、まず経験重みベクトルUj(j=1~N)を例えば乱数により初期化する(S301)。次に、時間の変数tを1に設定して(S302)、学習用の時系列データを構成する入力ベクトルx(t)を取得する(S303)。そして、次式(13)により仮勝者ユニットkを決定する(S304)。ここで、次式(13)において、右辺の括弧内の式は入力ベクトルx(t)と結合重みベクトルWjの類似度を示す。さらに、次式(14)を満足する、複数の勝者候補ユニットhを決定する(S305)。ここで、Φは所与の定数である。
【0031】
【数7】
JP0004710014B2_000008t.gif

【0032】
その後、勝者候補ユニットhの中から、次式(15)により勝者ユニットsを選出する(S306)。すなわち、すべての勝者候補ユニットhについて、次式(16)により、勝者余韻ベクトルY(t)と経験重みベクトルUj(j∈h)との類似度を算出し、類似度が最大となる(つまり、式(16)の値が最小となる)ものを、勝者ユニットsとして選出する。そして、次式(17)により、勝者ユニットsの経験重みベクトルUsを更新する。ここで、Usnewは更新後の経験重みベクトルUsであり、Usoldは更新前の経験重みベクトルUsである。
【0033】
【数8】
JP0004710014B2_000009t.gif

【0034】
その後、上記の式(6)及び式(8)により、勝者余韻ベクトルY(t)を更新して、時刻t+1における勝者余韻ベクトルY(t+1)を算出する(S308)。そして、tの値がT(学習用の時系列データを構成する入力ベクトルの個数)以上となるまで、tを1ずつインクリメントして(S310)、S303~S308を繰り返す。こうして、学習用の時系列データを構成する入力ベクトルx(1)~x(T)を順に用いて、経験重みベクトルUj(j=1~N)の学習を行う。以上の処理は他の手書き数字に対応する時系列データについても同様に行われ(S311)、さらにいずれも既定回数繰り返される(S312)。以上の学習処理により、競合層の各ユニットBjに関連づけられた経験重みベクトルUjは、ユニットBjが勝者ユニットに選出される際の勝者余韻ベクトルY(t)に相当するものとなる。
【0035】
ここで、以上のようにして結合重みベクトルWj及び経験重みベクトルUjの学習を終えた自己組織化マップを用いて、時系列データを認識する処理について説明する。図8は、時系列データの認識処理を示すフロー図であり、図4のS103及び図5のS501の処理を詳細に示すものである。この処理では、まず時間の変数tを1に設定して(S401)、認識用の時系列データを構成する入力ベクトルx(t)を取得する(S402)。そして、上式(13)により仮勝者ユニットkを決定する(S403)。さらに、上式(14)を満足する、複数の勝者候補ユニットhを決定する(S404)。
【0036】
その後、勝者候補ユニットhの中から、上式(15)により勝者ユニットsを選出する(S405)。すなわち、すべての勝者候補ユニットhについて、上式(16)により、勝者余韻ベクトルY(t)と経験重みベクトルUj(j∈h)との類似度を算出し、類似度が最大となる(つまり、式(16)の値が最小となる)ものを、勝者ユニットsとして選出する。
【0037】
次に、上記の式(6)及び式(8)により、勝者余韻ベクトルY(t)を更新して、時刻t+1における勝者余韻ベクトルY(t+1)を算出する(S406)。そして、tの値がT(認識用の時系列データを構成する入力ベクトルの個数)以上となるまで、tを1ずつインクリメントして(S408)、S402~S406を繰り返す。こうして、認識用の時系列データを構成する入力ベクトルx(1)~x(T)を順に自己組織化マップに入力して、勝者ユニットsを順次決定する。そして、最終の入力ベクトル、すなわち入力ベクトルx(T)に対して得られた勝者ユニットsの識別番号sを出力する(S409)。
【0038】
図1に示す自己組織化マップにおいて、競合層の各ユニットBjに関連づけられた結合重みベクトルWjは、事前の学習により、手書き文字で頻出する速度ベクトルに相当するものとなっている。また、競合層の各ユニットBjに関連づけられた経験重みベクトルUjは、事前の学習により、ユニットBjが勝者ユニットに選出される際の勝者余韻ベクトルY(t)に相当するものとなっている。従って、認識用の時系列データを構成する入力ベクトルx(t)を自己組織化マップに時間順に入力して、入力ベクトルx(t)と結合重みベクトルWjとの類似度が高く、且つ勝者余韻ベクトルY(t)と経験重みベクトルUjとの類似度が高い競合層のユニットBjを勝者ユニットsとして順次決定することにより、最終の入力ベクトルx(T)に対応する勝者ユニットsは、認識用に入力した時系列データが示す手書き数字の内容に対応するものとなる。そして、本実施形態では、この勝者ユニットsの識別番号sを、判定データに照査することにより認識用に入力した時系列データが示す手書き数字の内容を判定するようにしている。このように、本実施形態によれば、認識用の時系列データの推移をデータ認識に反映させることができるので、認識精度を向上させることができる。
【0039】
図9は、上記の時系列データ認識方法を適用した時系列データ認識装置の構成を示す図である。同図に示すように、この時系列データ認識装置10は、入力ベクトル受付部12、勝者候補決定部14、結合重みベクトル記憶部16、経験重みベクトル記憶部18、勝者決定部20、勝者余韻ベクトル記憶部22、勝者余韻ベクトル更新部24、判定部26及び判定データ記憶部28を含んでいる。これらの要素は各種のコンピュータに本実施形態に係る認識プログラムを実行させることにより実現されるものである。プログラムは、CD-ROMやDVD-ROM等のコンピュータ読み取り可能な情報記憶媒体に格納されてよい。
【0040】
まず、結合重みベクトル記憶部16は、競合層の各ユニットBjに関連づけて結合重みベクトルWjを記憶し、経験重みベクトル記憶部18は、競合層の各ユニットBjに関連づけて経験重みベクトルUjを記憶する。これら結合重みベクトルWj及び経験重みベクトルUjの値は、図6及び図7の処理により事前に得られたものである。また、勝者余韻ベクトル記憶部22は、現時刻tにおける勝者余韻ベクトルY(t)を記憶する。
【0041】
入力ベクトル受付部12は、認識用の時系列データを構成する入力ベクトルx(1)~x(T)を時間順に受け付ける。そして、勝者候補決定部14及び勝者決定部20は、順次受け付けられた入力ベクトルx(t)と結合重みベクトルWjとの類似度、及び経験重みベクトルUjと勝者余韻ベクトルY(t)との類似度に基づいて、競合層のユニットの中から1の勝者ユニットを選出する。すなわち、順次受け付けられた入力ベクトルx(t)と、競合層の各ユニットBjに関連づけられた結合重みベクトルWjと、の類似度に基づいて、競合層のユニットの中から一部を選出するとともに、選出されたユニットに関連づけられた経験重みベクトルUjと、勝者余韻ベクトルY(t)と、の類似度に基づいて、選出された前記一部のユニットの中から1の勝者ユニットを選出する。
【0042】
具体的には、勝者候補決定部14は、入力ベクトル受付部12により受け付けられる入力ベクトルx(t)及び結合重みベクトル記憶部16から読み出される結合重みベクトルWjを上式(13)に代入し、それにより仮勝者ユニットkを決定する。さらに、上式(14)を満足する、複数の勝者候補ユニットhを決定する。そして、勝者決定部20は、勝者候補ユニットhに関する経験重みベクトルUjを経験重みベクトル記憶部18から読み出し、また勝者余韻ベクトル記憶部22から勝者余韻ベクトルY(t)を読み出し、それらを上式(15)に代入して、勝者候補ユニットhの中から勝者ユニットsを選出する。
【0043】
勝者余韻ベクトル更新部24は、勝者決定部20により選出された勝者ユニットsに従って勝者余韻ベクトルY(t)を更新する。すなわち、上記の式(6)及び式(8)により、勝者余韻ベクトルY(t)を更新して、時刻t+1における勝者余韻ベクトルY(t+1)を算出する。
【0044】
判定データ記憶部28は、既知の内容の時系列データを自己組織化マップに入力して、その最後の入力ベクトルに対して選出された勝者ユニットsの識別番号sと、既知の内容を示す内容データ(例えば手書き数字の内容を示す数字データ)と、を関連づけて記憶するものである。判定部26は、認識用の時系列データを構成する入力ベクトルのうち最後のもの(x(T))に対して選出された勝者ベクトルsの識別番号sを取得して、その識別番号sに関連づけて判定データ記憶部28に記憶された内容データを読み出し、それを判定結果として出力する。
【0045】
かかる時系列データ認識装置10によれば、比較的軽い情報処理により、認識用の時系列データの推移をデータ認識に反映させ、認識精度を向上させることができる。従って、携帯電話機や携帯情報端末等の小型のコンピュータに適用しても、手書き文字の認識を高速且つ高精度に行うことができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本実施形態に係る時系列データの認識処理において用いられる自己組織化マップのネットワーク構成図である。
【図2】学習用又は認識用に自己組織化マップに入力される時系列データの生成手順を示す図である。
【図3】勝者余韻ベクトルの更新の様子を示す図である。
【図4】時系列データの認識のための事前準備の処理を示すフロー図である。
【図5】時系列データの内容判定処理を示すフロー図である。
【図6】結合重みベクトルの学習処理を示すフロー図である。
【図7】経験重みベクトルの学習処理を示すフロー図である。
【図8】時系列データの認識処理を示すフロー図である。
【図9】本実施形態に係る時系列データ認識装置の構成図である。
【符号の説明】
【0047】
10 時系列データ認識装置、12 入力ベクトル受付部、14 勝者候補決定部、16 結合重みベクトル記憶部、18 経験重みベクトル記憶部、20 勝者決定部、22 勝者余韻ベクトル記憶部、24 勝者余韻ベクトル更新部、26 判定部、28 判定データ記憶部。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8