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明細書 :試料膨張・収縮量計測システムおよび試料膨張・収縮量計測方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4759748号 (P4759748)
登録日 平成23年6月17日(2011.6.17)
発行日 平成23年8月31日(2011.8.31)
発明の名称または考案の名称 試料膨張・収縮量計測システムおよび試料膨張・収縮量計測方法
国際特許分類 G01N  25/16        (2006.01)
FI G01N 25/16 C
請求項の数または発明の数 21
全頁数 34
出願番号 特願2007-522342 (P2007-522342)
出願日 平成18年6月21日(2006.6.21)
国際出願番号 PCT/JP2006/312427
国際公開番号 WO2006/137448
国際公開日 平成18年12月28日(2006.12.28)
優先権出願番号 2005181145
優先日 平成17年6月21日(2005.6.21)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成21年3月30日(2009.3.30)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
発明者または考案者 【氏名】三浦 誠司
【氏名】岡 和彦
【氏名】毛利 哲夫
【氏名】大久保 賢二
個別代理人の代理人 【識別番号】110000338、【氏名又は名称】特許業務法人原謙三国際特許事務所
審査官 【審査官】西村 直史
参考文献・文献 特開2005-17134(JP,A)
特開平7-294466(JP,A)
特開平4-366744(JP,A)
特公平1-61189(JP,B2)
特開昭59-216003(JP,A)
特開昭48-8265(JP,A)
調査した分野 G01N21/00-21/01
21/17-21/61
25/00-25/72
特許請求の範囲 【請求項1】
平滑な表面を有しており、当該表面の一方の端部側に試料を載置する試料台と、
平板状であり、一方の端部の下面に上記試料台上の試料が接するとともに、他方の端部が上記試料台の表面における他方の端部側に接した状態で、上記表面に対して傾斜して設けられる透光板部材と、
少なくとも試料台の表面と透光板部材の下面との間に挟持された状態にある試料に対して、温度、湿度、圧力および雰囲気から選ばれる少なくともいずれか一つの条件を変化させ、他の条件を一定に維持することを可能とする試料条件変化手段と、
顕微鏡手段とを備えており、
上記顕微鏡手段では、試料に対する上記条件の変化に伴う膨張または収縮によって透光板部材の傾斜角度が変化することにより生ずる、上記試料台および透光板部材の間における光の干渉縞の変化を観察し、この干渉縞の変化を基準として試料の膨張量および/または収縮量を計測することを特徴とする試料膨張・収縮量計測システム。
【請求項2】
上記試料条件変化手段が、少なくとも試料台の表面と透光板部材の下面との間に挟持された状態にある試料を加熱または冷却可能とする試料温度変化手段であって、
温度変化に伴う試料の熱膨張量および/または熱収縮量を計測する熱膨張・収縮量計測システムである請求項1に記載の試料膨張・収縮量計測システム。
【請求項3】
上記試料条件変化手段は、試料に加えて、当該試料を挟持する試料台および透光板部材に対して温度、湿度、圧力および雰囲気から選ばれる少なくとも何れか1つの条件を変化させ、他の条件を一定に維持することを可能とすることを特徴とする請求項1または2に記載の試料膨張・収縮量計測システム。
【請求項4】
請求項1または2に記載の試料膨張・収縮量計測システムにおいて、上記試料条件変化手段に代えて、
少なくとも試料台の表面と透光板部材の下面との間に挟持された状態にある試料に対して、温度、湿度、圧力および雰囲気を一定に維持することを可能とする試料条件維持手段を備え、
上記顕微鏡手段では、試料の上記条件維持下での経時的な膨張または収縮によって透光板部材の傾斜角度が変化することにより生ずる、上記試料台および透光板部材の間における光の干渉縞の変化を観察し、この干渉縞の変化を基準として試料の膨張量および/または収縮量を計測することを特徴とする試料膨張・収縮量計測システム。
【請求項5】
上記試料条件維持手段は、試料に加えて、当該試料を挟持する試料台および透光板部材に対して、温度、湿度、圧力および雰囲気を一定に維持することを可能とすることを特徴とする請求項4に記載の試料膨張・収縮量計測システム。
【請求項6】
さらに、システムの稼動に伴って、試料台および透光板部材、並びにこれらに挟持される試料に生ずる振動を防止または除去する防振・除振手段を備えていることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の試料膨張・収縮量計測システム。
【請求項7】
さらに、上記顕微鏡手段により観察される画像を記録する画像記録手段を備えていることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1項に記載の試料膨張・収縮量計測システム。
【請求項8】
さらに、上記顕微鏡手段により観察される画像を記録する画像記録手段と、
当該画像記録手段により記録された画像情報を解析する画像解析手段とを備えており、
上記画像記録手段に記録された観察画像から、干渉縞の経時的な変化を画像解析手段により解析することで、試料の膨張量および/または収縮量を数値化することを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1項に記載の試料膨張・収縮量計測システム。
【請求項9】
上記画像解析手段では、干渉縞の移動および干渉縞の間隔変化の少なくとも一方に基づいて、試料の膨張量および/または収縮量を数値化することを特徴とする請求項8に記載の試料膨張・収縮量計測システム。
【請求項10】
上記顕微鏡手段は、画像記録手段に記録される観察画像において少なくとも干渉縞の本数が50~300本の範囲内となるような範囲で、当該干渉縞の変化を観察することを特徴とする請求項7ないし9の何れか1項に記載の試料膨張・収縮量計測システム。
【請求項11】
上記顕微鏡手段が、共焦点走査型レーザー顕微鏡であることを特徴とする請求項1ないし10の何れか1項に記載の試料膨張・収縮量計測システム。
【請求項12】
さらに、上記試料、試料台および透光板部材を外部と隔離された密閉状態で、かつ、これらを試料条件変化手段または試料条件維持手段により条件をそれぞれ変化または維持するように収容する試料収容手段と、上記試料収容手段の内部にガス若しくは液体を導入可能とする雰囲気導入手段、または、上記試料収容手段の内部を真空にする真空手段を備えていることを特徴とする請求項1ないし11のいずれか1項に記載の試料膨張・収縮量計測システム。
【請求項13】
標準物質と、
平滑な表面を有しており、試料と、上記標準物質とを載置する試料台と、
平板状であり、上記試料台および上記標準物質とそれぞれ異なる端部の下面において接し、且つ、上記試料台および上記試料とそれぞれ異なる端部の下面において接するように設けられている少なくとも一枚の透光板部材と、
少なくとも試料台の表面と透光板部材の下面との間に挟持された状態にある試料および上記標準物質に対して、温度、湿度、圧力および雰囲気から選ばれる少なくともいずれか一つの条件を変化させ、他の条件を一定に維持することを可能とする試料条件変化手段と、
顕微鏡手段とを備えており、
上記条件の変化に伴う上記標準物質の膨張率は予め求められており、
かつ、上記顕微鏡手段では、試料および上記標準物質に対する上記条件の変化に伴う膨張または収縮によって透光板部材の傾斜角度が変化することにより生ずる、上記試料台および透光板部材の間における、試料に関する光の干渉縞の変化と、
上記標準物質に関する光の干渉縞の変化とを観察し、これらの干渉縞の変化を基準として試料の膨張量および/または収縮量を計測することを特徴とする試料膨張・収縮量計測システム。
【請求項14】
上記透光板部材は、三角形状であり、当該透光板部材の各端部の下面において、上記試料台、上記標準物質、および上記試料にそれぞれ接しており、
かつ、上記顕微鏡手段では、上記試料の膨張または収縮に起因する上記透光板部材の傾斜角度の変化、および、上記標準物質の膨張または収縮に起因する上記透光板部材の傾斜角度の変化のそれぞれによって生ずる、上記試料台および透光板部材の間における光の干渉縞の変化を観察し、比較することを特徴とする請求項13に記載の試料膨張・収縮量計測システム。
【請求項15】
上記試料膨張・収縮量計測システムは、2枚の上記透光板部材を備え、
第1の透光板部材は、一方の端部の下面において、上記試料台と接し、他方の端部の下面において、上記試料と接しており、
第2の透光板部材は、一方の端部の下面において、上記試料台と接し、他方の端部の下面において、上記標準物質と接しており、
かつ、上記顕微鏡手段では、上記試料の膨張または収縮に起因する上記第1の透光板部材の傾斜角度の変化によって生ずる、上記試料台および上記第1の透光板部材の間における光の干渉縞の変化、および、上記標準物質の膨張または収縮に起因する上記第2の透光板部材の傾斜角度の変化によって生ずる、上記試料台および上記第2の透光板部材の間における光の干渉縞の変化、を観察し比較することを特徴とする請求項13に記載の試料膨張・収縮量計測システム。
【請求項16】
標準物質と、
平滑な表面を有しており、試料と、上記標準物質とを載置する試料台と、
平板状であり、上記試料および上記標準物質とそれぞれ異なる端部の下面において接するように設けられている透光板部材と、
少なくとも試料台の表面と透光板部材の下面との間に挟持された状態にある試料および上記標準物質に対して、温度、湿度、圧力および雰囲気から選ばれる少なくともいずれか一つの条件を変化させ、他の条件を一定に維持することを可能とする試料条件変化手段と、
顕微鏡手段とを備えており、
上記条件の変化に伴う上記標準物質の膨張率は予め求められており、
かつ、上記顕微鏡手段では、試料および上記標準物質に対する上記条件の変化に伴う膨張または収縮によって透光板部材の傾斜角度が変化することにより生ずる、上記試料台および透光板部材の間における光の干渉縞の変化を観察し、この干渉縞の変化を基準として試料の膨張量および/または収縮量を計測することを特徴とする試料膨張・収縮量計測システム。
【請求項17】
平滑な表面を有している試料台上に、試料を載置する工程と、
平板状の透光板部材を、異なる端部の下面において上記試料台の表面、および上記試料に接するように、上記表面に対して傾斜して設置する工程と、
少なくとも試料台の表面と透光板部材の下面との間に挟持された状態にある試料に対して、温度、湿度、圧力および雰囲気から選ばれる少なくともいずれか一つの条件を変化させ、他の条件を一定に維持すると同時に、試料に対する上記条件の変化に伴う膨張または収縮によって透光板部材の傾斜角度が変化することにより生ずる、上記試料台および透光板部材の間における光の干渉縞の変化を観察する工程と、
上記観察された干渉縞の変化を基準として、試料の膨張量および/または収縮量を計測する工程とを含むことを特徴とする試料膨張・収縮量計測方法。
【請求項18】
平滑な表面を有している試料台上に、試料を載置する工程と、
平板状の透光板部材を、異なる端部の下面において上記試料台の表面、および上記試料に接するように、上記表面に対して傾斜して設置する工程と、
少なくとも試料台の表面と透光板部材の下面との間に挟持された状態にある試料に対して、温度、湿度、圧力および雰囲気を一定に維持しながら、上記顕微鏡手段では、試料の上記条件維持下での経時的な膨張または収縮によって透光板部材の傾斜角度が変化することにより生ずる、上記試料台および透光板部材の間における光の干渉縞の変化を観察する工程と、
上記観察された干渉縞の変化を基準として、試料の膨張量および/または収縮量を計測する工程とを含むことを特徴とする試料膨張・収縮量計測方法。
【請求項19】
平滑な表面を有している試料台上に、試料と、標準物質とを載置する工程と、
少なくとも一枚の平板状の透光板部材を上記試料台および上記標準物質とそれぞれ異なる端部の下面において接し、且つ、上記試料台および上記試料とそれぞれ異なる端部の下面において接するように設置する工程と、
少なくとも試料台の表面と透光板部材の下面との間に挟持された状態にある試料および上記標準物質に対して、温度、湿度、圧力および雰囲気から選ばれる少なくともいずれか一つの条件を変化させ、他の条件を一定に維持すると同時に、試料および上記標準物質に対する上記条件の変化に伴う膨張または収縮によって透光板部材の傾斜角度が変化することにより生ずる、上記試料台および透光板部材の間における、試料に関する光の干渉縞の変化と、上記標準物質に関する光の干渉縞の変化とを観察する工程と、
上記観察された干渉縞の変化を基準として、試料の膨張量および/または収縮量を計測する工程とを含み、
かつ、上記条件の変化に伴う上記標準物質の膨張率は予め求められていることを特徴とする試料膨張・収縮量計測方法。
【請求項20】
上記観察された干渉縞の変化を基準として、試料の膨張量および/または収縮量を計測する工程は、干渉縞の本数を数え、一定長さ当たりの干渉縞の本数の変化から試料膨張・収縮量を算出する工程であることを特徴とする請求項17ないし19のいずれか1項に記載の試料膨張・収縮量計測方法。
【請求項21】
上記観察された干渉縞の変化を基準として、試料の膨張量および/または収縮量を計測する工程は、フーリエ変換法により、上記干渉縞を観察した領域上の点において干渉縞の位相を求め、これを用いて得られる上記干渉縞を観察した領域における位相の分布に基づいて試料膨張・収縮量を算出する工程であることを特徴とする請求項17ないし19のいずれか1項に記載の試料膨張・収縮量計測方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、微小サイズの試験片の膨張量および/または収縮量を計測可能とする試料膨張・収縮量計測システムおよび試料膨張・収縮量計測方法に関するものであり、特に、微小サイズの試験片の熱膨張量および/または熱収縮量を計測可能とする熱膨張・収縮量計測システムおよび試料膨張・収縮量計測方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
MEMS(micro electro-mechanical system)デバイスは、IT、バイオ・医療分野をはじめとして多くの科学技術分野への応用を通じて、将来、我国にとって重要な基板技術の一つとなるものと期待されている。その実現には材料の選択(最適な弾性率、強度の組合せ等)並びに、その加工法の選択が極めて重要であるが、必要な物性値が巨視的な測定で得られた場合と同一であるとして設計することは必ずしも妥当ではない。
【0003】
MEMSデバイスの一例としては、基板上に形成させた薄膜から半導体製造技術を応用したマイクロマシニング技術で三次元の微小構造体を作製することが想定されている。このため作製される部材の寸法は、薄膜の厚さを基本とするサイズ、すなわちサブミクロンからミクロン程度の寸法となるが、このような薄膜の物性は作製プロセス(スパッタ、メッキ、エッチング条件等)に大きく依存する。
【0004】
特にプロセス中の欠陥導入に関しては、通常サイズでは問題とならないようなマイクロメートルオーダーやナノメートルオーダーの欠陥が微小部材の物性には大きな影響を与える。このことは、対応するバルク材料(通常寸法材料)の物性から薄膜の物性を推定することが不可能もしくは著しく困難であることを意味している。
【0005】
一般に、機械の設計においては、要求される性能を満たすために様々な材料を組み合わせて構成し使用する。その検討過程では組み合わされる個々の材料の物性が十分に知られていることが必要となる。MEMSデバイスの設計においては、まだ選択した作製方法によって材料の物性が決まってくるのが現状である。しかし、より広範な材料や作製方法から最適なものを選択するためには、個々の材料の微小サイズの試験片の物性を簡便な方法で計測できる手法を確立することが強く望まれる。かかる手法の確立により、将来的には、例えば、材料と作製方法の両面から検索することが可能なデータベースの構築等によって、より広範な材料や作製方法から最適なものを選択することが可能となる。
【0006】
特に、材料の物性の中でも、温度変化に伴う寸法変化は、MEMSデバイスの設計においては、非常に重要な物性である。すなわち、MEMSデバイスのような微小な部品からなるシステムでは、わずかな熱流や通電加熱の導入によって大きな温度上昇とそれに伴う熱膨張が起こる。そのため、均一でない熱膨張量を有する部品で構成される構造では、わずかな熱や電力による部品間の熱膨張の差が大きな弾性応力の原因となり、力学的な不安定要因となり得る。
【0007】
このように、そのサイズに比べて大きな熱流に晒される微小構造物は、上述したMEMSに限らず、発光ダイオードや無機ELや有機ELのような発光素子、LSIなどの電子部品、高温材料における遮熱・耐酸化コーティング被膜等のように多岐にわたって存在する。このような微小構造物においては、例えば、基盤となる物質と機能を発揮する物質との熱膨張量の差は、弾性・塑性ひずみを引き起こすことになる。このようなひずみは、上記微小構造物の物性や作動原理にも大きな影響を与えるだけでなく、微細構造物の力学的破壊に至ることもある。
【0008】
したがって、かかる微小構造物において、より最適な熱膨張量を有する材料を選択するためには、個々の材料の微小サイズの試験片の熱膨張量を簡便な方法で計測できる手法を確立することが強く望まれる。
【0009】
しかし、このような微小サイズの試験片に対する熱膨張量の直接測定は、試験片の小ささゆえ非常に困難である。一般的な熱膨張測定装置では、数mmないし20mm程度のサイズの試料を用い、10ミクロン程度の変位をトランスデューサで測定し、その試料の熱膨張量を得ることはできる。しかしこの方法では、一般的な機械設計に必要な熱膨張量や物性研究には十分なデータを得ることはできても、トランスデューサの測定精度が低いため、目的とする微小サイズの試料の熱膨張量を測定することは不可能である。また、かかる通常の熱膨張測定装置では、試料温度の均一性の確保が難しい。
【0010】
微小サイズの試験片において熱膨張を測定する技術については、これまでにいくつかが提案されており、一部は実用化されている。かかる技術としては、X線回折により格子定数の温度依存性を計測する技術(非特許文献1)や、基盤の湾曲を高精度で測定する技術(非特許文献2)、薄膜多結晶シリコンの熱膨張係数を測定するマイクロゲージセンサー(非特許文献3)等を挙げることができる。また、レーザーを利用した熱膨張の測定技術としては、マイケルソン干渉計を応用した技術も知られている。

【非特許文献1】S.Raju et al.,Journal of Nuclear Materials,Vol.325,18-25(2004)
【非特許文献2】H.Toda et al.,Journal of Applied Physics,Vol.87,4189-4193(2000)
【非特許文献3】Jung-Hun Chae et al.,Sensors and Actuators,Vol.75,222-229(1999)
【発明の開示】
【0011】
しかしながら、上述した従来の技術は、何れも、微小サイズの試験片の熱膨張を計測するには不十分である。
【0012】
すなわち、非特許文献1に開示されている、X線回折により格子定数の温度依存性を計測する技術では、一般的には、数ミクロン程度の微粒子からなる試料が数グラム程度必要であり、普及している装置では目的とする微小サイズの試験片の熱膨張量を測定することは困難である。また、目的とする微小サイズの試験片において起こりうる格子定数変化の異方性の決定は容易ではない。
【0013】
さらに、格子の熱振動に起因する熱膨張は測定可能であるが、組織変化や欠陥の導入・修復による変位は本質的に測定不能である。具体的には、熱膨張の要因は大きく二つに分けることができる。一つは、イントリンジックな要因であり、原子間ポテンシャルの非対称性と原子の熱振動に基づく原子間距離の変動である。もう一方は、エクストリンジックな要因であり、欠陥の存在およびその量の温度に依存した変動である。非特許文献1に開示されている、X線回折により格子定数の温度依存性を計測する技術では、熱膨張の計測は、対象となる試料のサイズや形状にあまり依存しないイントリンジックな熱膨張計測は可能である。しかし、試料の作製時に導入される欠陥によって、サンプルの長さが変化する場合の測定には無力である。また、非晶質物質(アモルファスなど)には適用できない。
【0014】
また、非特許文献2に開示されているように、基盤の湾曲を高精度で測定する技術は、組み合わされた材料について個別のマッチングを判定することは可能になっているものの、個別の材料の熱膨張測定を高い精度で行うことは困難である。すなわち、基盤の湾曲を高精度で測定する技術を用いて熱膨張の相対比較はできるが、個別の材料の熱膨張量の絶対値を高い精度で得ることには困難がある。それゆえ、基盤の湾曲を高精度で測定する技術は、より自由度の高い微小構造物の設計を行うための、微小サイズの材料の基礎物性である熱膨張量の測定法には適していない。また、測定のための装置も特殊なものである。
【0015】
さらに、非特許文献3に開示されている技術は、薄膜多結晶シリコンの熱膨張係数を測定する手法に事実上特化しているため、汎用性に乏しいと考えられる。
【0016】
加えて、前述したマイケルソン干渉計の技術を応用した技術では、既存の顕微鏡システムに組み込む点で困難が多く、簡便さの点で問題がある。すなわち、微小な試験片の寸法変化の測定は可能であるものの、試験片サイズそのものの測定は別方法で行う必要がある。また、マイケルソン干渉計では、半透鏡(光路分離)および参照鏡を顕微鏡に組み込まなければならないが、そのためには既存の顕微鏡の大改造または顕微鏡の新規設計が必要となる。さらに、半透鏡および参照鏡が試料と独立に振動すると、その振動による変位がそのまま測定誤差となる。このため、特にnmオーダーの変位を測定する場合には、極めて厳密な防振が必要となり、実施の上で大きな障害となる。
【0017】
微小な試験片の熱膨張測定のためには、簡便な測定用試験片の作製方法および微細な試験片を測定可能な測定方法の確立が必要である。マイクロマシニングや、電子顕微鏡薄膜試料作製法の進歩は測定用試験片の作製を容易にした。しかし、上述したように、これまで、かかる微小な試験片に見合った測定方法はなかった。
【0018】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、結晶質・非結晶質といった固体物質の状態を問わずに、微小サイズの試験片の熱膨張量を計測可能とする熱膨張量計測システムを提供することにある。
【0019】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、試験片の熱膨張(または熱収縮)に伴う試料の実際の動きを、当該試験片を挟持する2つの部材の相対的な動きに変換し、これら部材の微細な動きを干渉縞の変化から計測することにより、微小サイズの試験片であっても熱膨張(または熱収縮)をより正確に測定することが可能であることを見出し、また、かかる計測は、熱膨張(または熱収縮)に限られず、熱(温度)以外の条件変化に伴う試料の膨張(または収縮)の計測にも用いることができることを考慮し、本発明を完成させるに至った。
【0020】
すなわち、本発明にかかる試料膨張・収縮量計測システムは、平滑な表面を有しており、当該表面の一方の端部側に試料を載置する試料台と、平板状であり、一方の端部の下面に上記試料台上の試料が接するとともに、他方の端部が上記試料台の表面における他方の端部側に接した状態で、上記表面に対して傾斜して設けられる透光板部材と、少なくとも試料台の表面と透光板部材の下面との間に挟持された状態にある試料に対して、温度、湿度、圧力および雰囲気から選ばれる少なくともいずれか一つの条件を変化させ、他の条件を一定に維持することを可能とする試料条件変化手段と、顕微鏡手段とを備えており、上記顕微鏡手段では、試料に対する上記条件の変化に伴う膨張または収縮によって透光板部材の傾斜角度が変化することにより生ずる、上記試料台および透光板部材の間における光の干渉縞の変化を観察し、この干渉縞の変化を基準として試料の膨張量および/または収縮量を計測することを特徴としている。
【0021】
また、上記本発明にかかる試料膨張・収縮量計測システムは、上記試料条件変化手段が、少なくとも試料台の表面と透光板部材の下面との間に挟持された状態にある試料を加熱または冷却可能とする試料温度変化手段であって、温度変化に伴う試料の熱膨張量および/または熱収縮量を計測する熱膨張・収縮量計測システムであってもよい。
【0022】
また、上記本発明にかかる試料膨張・収縮量計測システムでは、上記試料条件変化手段は、試料に加えて、当該試料を挟持する試料台および透光板部材に対して温度、湿度、圧力および雰囲気から選ばれる少なくとも何れか1つの条件を変化させ、他の条件を一定に維持することを可能とするものであることが好ましい。
【0023】
また、上記熱膨張・収縮量計測システムでは、上記試料条件変化手段は、試料に加えて、当該試料を挟持する試料台および透光板部材を加熱または冷却可能とするものであることが好ましい。
【0024】
また、本発明の試料膨張・収縮量計測システムは、上記試料膨張・収縮量計測システムにおいて、上記試料条件変化手段に代えて、少なくとも試料台の表面と透光板部材の下面との間に挟持された状態にある試料に対して、温度、湿度、圧力および雰囲気を一定に維持することを可能とする試料条件維持手段を備え、上記顕微鏡手段では、試料の上記条件維持下での経時的な膨張または収縮によって透光板部材の傾斜角度が変化することにより生ずる、上記試料台および透光板部材の間における光の干渉縞の変化を観察し、この干渉縞の変化を基準として試料の膨張量および/または収縮量を計測するものであってもよい。
【0025】
また、上記試料条件維持手段は、試料に加えて、当該試料を挟持する試料台および透光板部材に対して、温度、湿度、圧力および雰囲気を一定に維持することを可能とするものであることが好ましい。
【0026】
また、本発明の試料膨張・収縮量計測システムは、さらに、システムの稼動に伴って、試料台および透光板部材、並びにこれらに挟持される試料に生ずる振動を防止または除去する防振・除振手段を備えていることが好ましい。
【0027】
また、本発明の試料膨張・収縮量計測システムは、さらに、上記顕微鏡手段により観察される画像を記録する画像記録手段を備えていることが好ましい。
【0028】
また、本発明の試料膨張・収縮量計測システムは、さらに、当該画像記録手段により記録された画像情報を解析する画像解析手段とを備えており、上記画像記録手段に記録された観察画像から、干渉縞の経時的な変化を画像解析手段により解析することで、試料の膨張量および/または収縮量を数値化することがさらに好ましい。かかる試料膨張・収縮量計測システムでは、上記画像解析手段は、干渉縞の移動および干渉縞の間隔変化の少なくとも一方に基づいて、試料の膨張量および/または収縮量を数値化するようになっていることが好ましい。
【0029】
上記顕微鏡手段は、画像記録手段に記録される観察画像において少なくとも干渉縞の本数が50~300本の範囲内となるような範囲で、当該干渉縞の変化を観察することが好ましい。上記顕微鏡手段が、共焦点走査型レーザー顕微鏡であることが好ましい。
【0030】
上記試料膨張・収縮量計測システムは、さらに、上記試料、試料台および透光板部材を外部と隔離された密閉状態で、かつ、これらを試料条件変化手段または試料条件維持手段により条件をそれぞれ変化または維持するように収容する試料収容手段備えていることが好ましい。また、上記熱膨張・収縮量計測システムは、上記試料、試料台および透光板部材を外部と隔離された密閉状態で、かつ、これらを試料温度変化手段により加熱または冷却可能とするように収容する試料収容手段備えていることが好ましい。
【0031】
上記試料膨張・収縮量計測システムは、さらに、上記試料収容手段の内部にガス若しくは液体を導入可能とする雰囲気導入手段、または、上記試料収容手段の内部を真空にする真空手段を備えていることが好ましい。
【0032】
上記試料膨張・収縮量計測システムにおいては、さらに、システムの動作を制御する制御手段を備えており、当該制御手段は、少なくとも、試料条件変化手段による試料の経時的な条件変化に対応させて、顕微鏡手段による観察動作を制御することが好ましい。上記制御手段は、さらに、試料条件変化手段による試料の経時的な条件変化に対応させて、画像記録手段による顕微鏡手段の観察画像の記録を制御することが好ましい。
【0033】
上記熱膨張・収縮量計測システムにおいては、さらに、システムの動作を制御する制御手段を備えており、当該制御手段は、少なくとも、試料温度変化手段による試料の経時的な温度変化に対応させて、顕微鏡手段による観察動作を制御することが好ましい。上記制御手段は、さらに、試料温度変化手段による試料の経時的な温度変化に対応させて、画像記録手段による顕微鏡手段の観察画像の記録を制御することが好ましい。
【0034】
また、本発明にかかる試料膨張・収縮量計測システムは、標準物質と、平滑な表面を有しており、試料と、上記標準物質とを載置する試料台と、平板状であり、上記試料台および上記標準物質とそれぞれ異なる端部の下面において接し、且つ、上記試料台および上記試料とそれぞれ異なる端部の下面において接するように設けられている少なくとも一枚の透光板部材と、少なくとも試料台の表面と透光板部材の下面との間に挟持された状態にある試料および上記標準物質に対して、温度、湿度、圧力および雰囲気から選ばれる少なくともいずれか一つの条件を変化させ、他の条件を一定に維持することを可能とする試料条件変化手段と、顕微鏡手段とを備えており、上記条件の変化に伴う上記標準物質の膨張率は予め求められており、かつ、上記顕微鏡手段では、試料および上記標準物質に対する上記条件の変化に伴う膨張または収縮によって透光板部材の傾斜角度が変化することにより生ずる、上記試料台および透光板部材の間における、試料に関する光の干渉縞の変化と、上記標準物質に関する光の干渉縞の変化とを観察し、これらの干渉縞の変化を基準として試料の膨張量および/または収縮量を計測するものであってもよい。
【0035】
かかる試料膨張・収縮量計測システムにおいては、上記透光板部材は、三角形状であり、当該透光板部材の各端部の下面において、上記試料台、上記標準物質、および上記試料にそれぞれ接しており、かつ、上記顕微鏡手段では、上記試料の膨張または収縮に起因する上記透光板部材の傾斜角度の変化、および、上記標準物質の膨張または収縮に起因する上記透光板部材の傾斜角度の変化のそれぞれによって生ずる、上記試料台および透光板部材の間における光の干渉縞の変化を観察し、比較する。
【0036】
また、上記試料膨張・収縮量計測システムは、2枚の上記透光板部材を備え、第1の透光板部材は、一方の端部の下面において、上記試料台と接し、他方の端部の下面において、上記試料と接しており、第2の透光板部材は、一方の端部の下面において、上記試料台と接し、他方の端部の下面において、上記標準物質と接しており、かつ、上記顕微鏡手段では、上記試料の膨張または収縮に起因する上記第1の透光板部材の傾斜角度の変化によって生ずる、上記試料台および上記第1の透光板部材の間における光の干渉縞の変化、および、上記標準物質の膨張または収縮に起因する上記第2の透光板部材の傾斜角度の変化によって生ずる、上記試料台および上記第2の透光板部材の間における光の干渉縞の変化、を観察し比較するものであってもよい。
【0037】
また、本発明にかかる試料膨張・収縮量計測システムは、標準物質と、平滑な表面を有しており、試料と、上記標準物質とを載置する試料台と、平板状であり、上記試料および上記標準物質とそれぞれ異なる端部の下面において接するように設けられている透光板部材と、少なくとも試料台の表面と透光板部材の下面との間に挟持された状態にある試料および上記標準物質に対して、温度、湿度、圧力および雰囲気から選ばれる少なくともいずれか一つの条件を変化させ、他の条件を一定に維持することを可能とする試料条件変化手段と、顕微鏡手段とを備えており、上記条件の変化に伴う上記標準物質の膨張率は予め求められており、かつ、上記顕微鏡手段では、試料および上記標準物質に対する上記条件の変化に伴う膨張または収縮によって透光板部材の傾斜角度が変化することにより生ずる、上記試料台および透光板部材の間における光の干渉縞の変化を観察し、この干渉縞の変化を基準として試料の膨張量および/または収縮量を計測するものであってもよい。
【0038】
本発明にかかる試料膨張・収縮量計測方法は、平滑な表面を有している試料台上に、試料を載置する工程と、平板状の透光板部材を、異なる端部の下面において上記試料台の表面、および上記試料に接するように、上記表面に対して傾斜して設置する工程と、少なくとも試料台の表面と透光板部材の下面との間に挟持された状態にある試料に対して、温度、湿度、圧力および雰囲気から選ばれる少なくともいずれか一つの条件を変化させ、他の条件を一定に維持すると同時に、試料に対する上記条件の変化に伴う膨張または収縮によって透光板部材の傾斜角度が変化することにより生ずる、上記試料台および透光板部材の間における光の干渉縞の変化を観察する工程と、上記観察された干渉縞の変化を基準として、試料の膨張量および/または収縮量を計測する工程とを含むことを特徴としている。
【0039】
また、本発明にかかる試料膨張・収縮量計測方法は、平滑な表面を有している試料台上に、試料を載置する工程と、平板状の透光板部材を、異なる端部の下面において上記試料台の表面、および上記試料に接するように、上記表面に対して傾斜して設置する工程と、少なくとも試料台の表面と透光板部材の下面との間に挟持された状態にある試料に対して、温度、湿度、圧力および雰囲気を一定に維持しながら、上記顕微鏡手段では、試料の上記条件維持下での経時的な膨張または収縮によって透光板部材の傾斜角度が変化することにより生ずる、上記試料台および透光板部材の間における光の干渉縞の変化を観察する工程と、上記観察された干渉縞の変化を基準として、試料の膨張量および/または収縮量を計測する工程とを含むものであってもよい。
【0040】
さらに、本発明にかかる試料膨張・収縮量計測方法は、平滑な表面を有している試料台上に、試料と、標準物質とを載置する工程と、少なくとも一枚の平板状の透光板部材を上記試料台および上記標準物質とそれぞれ異なる端部の下面において接し、且つ、上記試料台および上記試料とそれぞれ異なる端部の下面において接するように設置する工程と、少なくとも試料台の表面と透光板部材の下面との間に挟持された状態にある試料および上記標準物質に対して、温度、湿度、圧力および雰囲気から選ばれる少なくともいずれか一つの条件を変化させ、他の条件を一定に維持すると同時に、試料および上記標準物質に対する上記条件の変化に伴う膨張または収縮によって透光板部材の傾斜角度が変化することにより生ずる、上記試料台および透光板部材の間における、試料に関する光の干渉縞の変化と、上記標準物質に関する光の干渉縞の変化とを観察する工程と、上記観察された干渉縞の変化を基準として、試料の膨張量および/または収縮量を計測する工程とを含み、かつ、上記条件の変化に伴う上記標準物質の膨張率は予め求められているものであってもよい。
【0041】
上記本発明にかかる試料膨張・収縮量計測方法では、上記観察された干渉縞の変化を基準として、試料の膨張量および/または収縮量を計測する工程は、干渉縞の本数を数え、一定長さ当たりの干渉縞の本数の変化から試料膨張・収縮量を算出する工程であることが好ましい。
【0042】
また、上記本発明にかかる試料膨張・収縮量計測方法では、上記観察された干渉縞の変化を基準として、試料の膨張量および/または収縮量を計測する工程は、フーリエ変換法により、上記干渉縞を観察した領域上の点において干渉縞の位相を求め、これを用いて得られる上記干渉縞を観察した領域における位相の分布に基づいて試料膨張・収縮量を算出する工程であってもよい。
【0043】
本発明は、以上のように、顕微鏡が有する光学装置としての機能を拡張し、試料の観察面垂直方向への膨張(または収縮)を、光学的干渉および必要に応じてデジタル処理により高い精度で計測することを可能としている。そのため、従来よりも正確で汎用性の高い熱膨張(または熱収縮)、あるいは、膨張(または収縮)の計測技術となっている。その結果、より適切な製造プロセスの選択や内在する問題点の明確化、設計への例えば熱膨張の意識的な折り込みによる合理的な微細構造の構築など、人工物としてより完成度の高い工業製品への道が開かれるという効果を奏する。
【0044】
また、本発明にかかる熱膨張・収縮量計測システム(または試料膨張・収縮量計測システム)は、構造が簡単であり安価なジグを用いることで、とりわけ微小サイズの試料片の熱膨張・収縮量(膨張・収縮量)測定が可能となる。
【0045】
また、本発明にかかる熱膨張・収縮量計測システム(または試料膨張・収縮量計測システム)では、顕微鏡手段として、わずかな改良を加えるのみで既存の光学装置を利用することができる。例えば、顕微鏡手段として共焦点レーザー顕微鏡を用いる場合には、試料温度変化手段または試料条件変化手段として、例えば炉を設置するのみで、既存の共焦点レーザー顕微鏡を利用することができる。また、例えば、顕微鏡手段として通常の光学顕微鏡を用いる場合には、光源を単色光(ナトリウムランプなど)等とし、試料温度変化手段または試料条件変化手段として、例えば炉を設置するのみで、既存の光学顕微鏡を利用することができる。
【0046】
さらに、本発明にかかる熱膨張・収縮量計測システム(または試料膨張・収縮量計測システム)においては、干渉する2光波が反射する、試料台と傾斜半透鏡(透光板部材。以下、本明細書において、透光板部材を傾斜半透鏡と称することがある。)は隣接しているため、ほぼ同じ振動をすると考えられる。それゆえ、本発明にかかる熱膨張・収縮量計測システム(または試料膨張・収縮量計測システム)試料は振動という外部からの攪乱に対して比較的鈍感であり、高精度の測定が可能である。
【0047】
また、本発明にかかる熱膨張・収縮量計測システム(または試料膨張・収縮量計測システム)においては、プローブに光を利用しており、非接触であるため、プローブの熱膨張といった誤差要因を持たない。
【0048】
さらに、本発明にかかる熱膨張・収縮量計測システム(または試料膨張・収縮量計測システム)においては、温度変化(または条件変化)にさらされる主要部分(試料台と傾斜半透鏡)を小さくすることができるため、温度の不均一による測定精度の低下を回避しやすいという効果を奏する。
【0049】
また、空間キャリア(干渉縞)が発生しているため、サブフリンジ干渉法、特にその中のフーリエ変換法と整合性がよい。それゆえ、nmオーダーの変位を容易に復調することが可能となる。
【0050】
さらに、試料の長さと試料の変位を別々に求める必要なく、熱膨張率(または膨張率)を簡単に計算することが可能となる。
【0051】
また、同一条件下において、当該条件下における膨張率が既知である標準物質の膨張率を計測し、上記試料の計測結果と比較することによって、装置系に起因する誤差を補正し、より精度の高い測定結果を得ることができる。
【0052】
本発明のさらなる他の目的、特徴、および優れた点は、以下に示す記載によって十分わかるであろう。また、本発明の利益は、添付図面を参照した次の説明で明白になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の一実施形態を示すものであり、試料台および傾斜半透鏡により試料を挟持して干渉縞の変化を測定する要部の構成を示す模式図である。
【図2】本発明にかかる熱膨張・収縮量計測システムの一例を示す模式図であり、図1に示す要部を有する構成を示す。
【図3(a)】本発明にかかる試料ホルダーの構成例を示す模式図である。
【図3(b)】本発明にかかる試料ホルダーの構成例を示す模式図である。
【図4】本発明における試料の高さと干渉縞との関係の導出方法を説明するために、試料台および傾斜半透鏡にレーザー光等の光が入射して反射された状態を示す模式図である。
【図5】本発明において、干渉縞の解析手順の好ましい一例を示す工程図である。
【図6】本発明において、昇温時および降温時での純銅の熱膨張量をアナログ手法により計測した結果を示すグラフである。
【図7】本発明において、昇温時および降温時での純銅の熱膨張量をデジタル手法により計測した結果を示すグラフである。
【図8】本発明において、昇温時および降温時での純銅の熱膨張量を計測した実施例において、各温度における干渉縞の間隔を示すグラフである。
【図9】本発明において、昇温時および降温時での純金の熱膨張量を計測した実施例において、各温度における干渉縞位相の傾きを示すグラフである。
【図10】本発明において、昇温時および降温時での純金の熱膨張量を計測した結果を示すグラフである。
【図11】本発明において、昇温時および降温時での純銅の熱膨張量を計測した実施例において、各温度における干渉縞位相の傾きを示すグラフである。
【図12】本発明において、昇温時および降温時での純銅の熱膨張量を計測した結果を示すグラフである。
【図13】本発明の第2の実施形態に係るジグの構造を示す平面図である。
【図14】本発明の第3の実施形態に係るジグの構造を示す平面図である。
【図15】本発明の第4の実施形態に係るジグの構造を示す断面図である。
【符号の説明】
【0054】
10 試料
11 試料台
12 傾斜半透鏡(透光板部材)
13 加熱炉(試料温度変化手段、試料収容手段)
20 共焦点レーザー顕微鏡(顕微鏡手段)
14 防振・除振機構(防振・除振手段)
31 画像記録部(画像記録手段)
32 パーソナルコンピュータ(制御手段、画像解析手段)
33 標準物質
34 観測範囲
【発明を実施するための最良の形態】
【0055】
〔第1の実施形態〕
本発明の一実施形態について図1ないし図12に基づいて説明すると以下の通りであるが、本発明はこれに限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更や組合せにより得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0056】
(I)本発明にかかる熱膨張・収縮量計測システム
本発明にかかる熱膨張・収縮量計測システムの具体的な一例を図2に示す。同図に示すように、本発明にかかる熱膨張・収縮量計測システムは、試料台11、傾斜半透鏡(透光板部材)12、加熱炉(試料温度変化手段)13、防振・除振機構(防振・除振手段)14、配管15およびバルブ16、共焦点レーザー顕微鏡(顕微鏡手段)20、画像記録部(画像記録手段)31、パーソナルコンピュータ(画像解析手段および/または制御手段)32とに分けることができる。
【0057】
〔試料台および傾斜半透鏡〕
試料台11は、平滑な表面を有しており、当該表面の一方の端部側に試料10を載置するものであれば特に限定されるものではない。本実施の形態では、例えば、透明アルミナ(Al)板を用いている。また、試料台11は、図2に示すように水平に配置されていてもよいが、その配置の向きはこれに限定されるものではなく、適宜選択すればよい。
【0058】
傾斜半透鏡12は、平板状であり、一方の端部の下面に上記試料台11上の試料10が接するとともに、他方の端部が上記試料台11の表面における他方の端部側に接した状態で、上記表面に対して傾斜して設けることが可能なものであれば特に限定されるものではない。本実施の形態では、上記試料台11と同様に、透明アルミナ板を用いている。つまり、本実施の形態では、本発明の好ましい一例として試料台11および傾斜半透鏡12として同一の部材を用いているが、もちろん本発明はこれに限定されるものではない。
【0059】
上記試料台11および傾斜半透鏡12は、試料台11の表面と透光板部材の下面との間で試料10を挟持することになる。したがって、これらをまとめて試料ホルダーと称してもよい。図3(a)は、上記試料ホルダーの一構成例を示す模式図である。同図に示すように、傾斜半透鏡12の下面が、試料台11のエッジに接している構成でも良い。また、図3(b)は、上記試料ホルダーの他の構成例を示す模式図である。同図に示すように傾斜半透鏡12のエッジが、試料台11の表面に接している状態でも良い。なお、上記のそれぞれのエッジは、直線状であることが好ましい。
【0060】
上記試料台11および傾斜半透鏡12(試料ホルダー)は、図2に示すように、加熱炉13中に設置されることが好ましいため、加熱炉13による加熱に耐久できる耐熱性を有していることが好ましい。また、本発明では、後述するように、加熱炉13によって試料10や試料台11、傾斜半透鏡12を加熱するだけでなく冷却可能としてもよいため、冷却のプロセスにも耐久できるものであれば好ましい。言い換えれば、本発明で用いられる試料台11および傾斜半透鏡12は、熱膨張量(または熱収縮量)を計測するために加熱および冷却される温度範囲内(計測温度範囲内)で十分な耐久性を有するものであればよい。
【0061】
具体的には、例えば、常温すなわち15℃±5℃程度の温度範囲から1400℃程度の高温域までの加熱に耐久性(耐熱性)を有しており、かつ、常温から-150℃程度の低温域まで冷却にも耐久性(耐冷却性)を有していれば好ましい。もちろん、本発明にかかる熱膨張・収縮量計測システムの用途によっては、耐熱性のみ有していてもよいし、耐冷却性のみを有していてもよいし、耐久温度の範囲も異なっていてもよい。
【0062】
ここで、試料台11および傾斜半透鏡12の耐久性とは、温度変化によって破壊や変形、屈折率の大きな変化、相変態等を起こさないことを指すものとする。本実施の形態では、試料台11および傾斜半透鏡12として上記透明アルミナ板を用いているが、この透明アルミナ板であれば、上記計測温度範囲内で十分な耐久性を示すことができる。
【0063】
〔傾斜半透鏡(透光板部材)のより具体的な構成〕
上記傾斜半透鏡12のより具体的な構造は特に限定されるものではなく、その厚みや大きさについては、計測対象となる試料10の種類や熱膨張(または熱収縮)の条件(入射するレーザー光の波長、加熱や冷却、計測雰囲気の種類、温度変化の速度等)によって適宜設定すればよい。言い換えれば、試料10の種類や熱膨張(または熱収縮)の条件に応じて適切な厚みや大きさを設定すればよい。なお、後述するが、レーザー光顕微鏡部で観測される画像には、少なくとも50~300本の干渉縞が現れることが好ましいため、傾斜半透鏡12の長さの設定には、この点を十分に考慮する。
【0064】
例えば、傾斜半透鏡12の強度や剛性の点から見ると、材質にもよるが、傾斜半透鏡12の厚みが大きい方が強度も剛性も高くなるため、その厚みは傾斜状態で強度や剛性を十分に保持できる程度であればよい。しかしながら、傾斜半透鏡12の厚みが大きすぎると、試料10に加わる応力が高くなって塑性変形を引き起こす可能性がある。それゆえ、試料10の種類に応じて傾斜半透鏡12の厚みは適宜好ましい値を設定すればよい。
【0065】
また、傾斜半透鏡12における干渉光の点から見ると、傾斜半透鏡12にレーザー光を入射させた場合、傾斜半透鏡12の上下からの反射光が干渉することによって、実際に計測する対象である干渉縞を形成する反射光の一方が減殺される可能性がある。傾斜半透鏡12の厚みが大きすぎると、わずかな温度変化で当該傾斜半透鏡12の熱膨張量が波長の1/2となって、上記の減殺が昇温中に頻繁に起きることになる。例えば、傾斜半透鏡12の厚みが0.5mm程度であると、熱膨張係数が10-5程度の場合、100℃ごとに減殺が発生し、前後10℃程度で測定が困難になると予想される。一方、傾斜半透鏡12の厚みが薄すぎると、減殺が頻繁に起きない代わりに、広い温度範囲で干渉縞の濃淡差が小さくなっていき、測定困難な温度範囲が現れる可能性がある。例えば、傾斜半透鏡12の厚みが0.1mm程度であると、減殺の発生間隔が500℃程度となるが、前後50℃くらいの範囲で測定が困難になると思われる。
【0066】
上記の点から、傾斜半透鏡12の相対的な厚みについては、ごく狭い温度範囲の熱膨張データ(または熱収縮データ)が必要な場合は、比較的薄い傾斜半透膜を用いれば、欠落の無い計測結果を得ることができる(ただし、上記温度範囲内で計測に困難が生じないことが必要)。一方、広い温度範囲の熱膨張データ(または熱収縮データ)を必要とする場合は、比較的厚い傾斜半透鏡12を用い、かつ、計測により得られた熱膨張データ(または熱収縮データ)を内挿・補完することが好ましい。汎用的な傾斜半透鏡12の厚みとしては、例えば、0.1mm以上0.5mm以下を挙げることができる。
【0067】
上記傾斜半透鏡12の長さは、後述する加熱炉13による加熱(または冷却)温度が均一となる領域に合わせて上限を設定すればよい。また、後述するように、傾斜半透鏡12と試料台11とで好ましい条件での干渉縞を形成することができるような長さであればよい。それゆえ、傾斜半透鏡12の具体的な長さは特に限定されるものではないが、例えば、本実施の形態では、長さ1mm程度のものを好適に用いることができる。
【0068】
試料台11上に配置される傾斜半透鏡12の傾斜角度は、入射したレーザー光により干渉縞を十分生じさせることができる角度であればよく、特に限定されるものではないが、傾斜半透鏡12の加熱中に試料台11との間で傾斜の位置関係にずれが生じるような事態を回避するためにも傾斜角度はできるだけ小さいことが好ましい。後述するように、本実施の形態では、例えば、波長632.8nmのレーザー光を用いているが、この場合、生じる干渉縞の間隔を5μmとすれば、傾斜角度は0.5°~15°であることが好ましく、1.5°~5°であることがより好ましく、3°程度であることがさらに好ましい。
【0069】
なお、傾斜角度についても、レーザー光顕微鏡部で観測される画像には、少なくとも50~300本の干渉縞が現れるような角度に設定することが好ましいため、必ずしも上記具体的な数値に特定されるものではない。
【0070】
〔加熱炉〕
上記加熱炉は、熱膨張量(または熱収縮量)の計測対象となる温度範囲内で、少なくとも試料10を、好ましくは試料台11および傾斜半透鏡12を加熱できるものであればよいが、試料10等を加熱しながら干渉縞を観察できるような構成となっている必要がある。
【0071】
具体的な加熱用の装置構成としては、試料10の種類や加熱温度範囲等の諸条件に応じて公知の好ましいものを選択すればよい。例えば、本実施の形態では、赤外線イメージ炉を用いている。赤外線による加熱であれば、試料10や試料10を挟持する試料台11および透光板部材をより均等に加熱することができるとともに、試料10等の表面酸化も有効に抑制することができる。また、加熱の均等性を高くできるとともに、試料10の表面酸化等の変質を抑制できるのであれば、抵抗加熱炉、高周波炉、通電加熱等といった公知の他の加熱装置を用いることもできる。
【0072】
また、上記加熱炉13においては、より正確な熱膨張量(または熱収縮量)を計測する観点から、(1)試料温度を高精度で測定または校正曲線から推定できること、(2)加熱中の試料表面の酸化や窒化などの変化を避けることができること、(3)温度コントロールが高い精度で可能であること、等の性能を有していることが特に好ましい。このような性能は、加熱炉13そのものが有していてもよいし、後述する制御部による制御で実現してもよい。
【0073】
なお、上記のように本発明では、計測温度範囲としては、例えば、-150~1400℃の温度範囲を挙げることができるので、実質的に加熱処理だけでなく、冷却処理を施してもよい。そこで、本実施の形態における加熱炉13は、試料10を加熱または冷却可能とする構成(試料温度変化手段)ということができる。したがって、加熱炉13には加熱用の装置構成だけでなく冷却用の装置構成を有してもよい。
【0074】
上記冷却用の装置構成としても特に限定されるものではなく、公知の種々の冷却装置を利用すればよい。具体的な冷却装置としては、例えば、ペルチエ素子、冷却窒素ガス循環冷却器等を好適に用いることができる。
【0075】
さらに、本発明においては、試料温度を変化させる目的で設けられる冷却装置以外に、加熱炉13による加熱が、試料10やこれを挟持する試料台11および傾斜半透鏡12以外に影響を及ぼさないようにするための冷却装置を備えていてもよい。便宜上、このような装置を加熱影響回避用の冷却装置と称する。このような冷却装置の具体例も特に限定されるものではなく、上記と同様、公知の種々の冷却装置を利用することができる。
【0076】
なお、本実施の形態では、図2に示すように、加熱炉13内に試料10および試料ホルダー(試料台11および傾斜半透鏡12)を設置するようになっている。ここで、試料10等の表面酸化をより一層抑制または回避するために、これら試料ホルダーおよび試料10を外部と隔離された密閉状態とすることがより好ましい。したがって、上記加熱炉13は、単に加熱のためだけでなく、試料10を密閉して収容する構成(試料収容手段)となっていることが好ましい。
【0077】
この場合、後述するように、収容空間内をガスまたは液体で置換したり真空状態としたりすることで、試料10の表面酸化等の変化を有効に回避し、より一層正確な熱膨張量(または熱収縮量)を計測することが可能となる。加熱炉13における試料収容のための構成は特に限定されるものではなく、計測のための光の導入が可能かつ密閉可能なケーシングとして広く知られている公知の構成を用いればよい。
【0078】
〔防振・除振機構〕
上記防振・除振機構14は、本発明にかかる熱膨張・収縮量計測システムの稼動に伴って、試料台11および透光板部材、並びにこれらに挟持される試料10に生ずる振動を防止または除去するための構成であればよい。
【0079】
上記防振・除振機構14において要求される性能としては、システムの振動による干渉縞の揺れが干渉縞間隔より十分小さくできるような防振/除振制御が可能であればよい。具体的には、システムの振動による干渉縞の揺れは、干渉縞間隔の10分の1以下、より好ましくは100分の1以下、さらに好ましくは1000分の1以下、特に好ましくは10000分の1以下である。これにより、細かい精度で位相を算出することが可能となる。例えば、システムの振動による干渉縞の揺れを、干渉縞間隔の1000分の1以下とすることにより後述するサブフリンジ干渉を利用した場合には、干渉縞間隔の1/1000の細かい精度で位相を算出することが可能となる。
【0080】
上記防振・除振性能を得るためには、例えば、STM(走査形トンネル顕微鏡)やAFM(原子間力顕微鏡)などに用いられている除震機構等を好適に用いることができる。
【0081】
また、熱膨張量(または熱収縮量)の計測の条件や目的、並びに、防振・除振機構14の種類等によっては、干渉縞の間隔を広げてもよい。すなわち、干渉縞の間隔よりも振動の間隔が大きければ、干渉縞の位置の変動を測定したときに誤差が生じやすくなるため、計測値への影響が無いかほとんど無視できるのであれば、干渉縞の間隔を広げることが好ましい。
【0082】
なお、干渉縞のゆらぎは、試料台11と傾斜半透鏡12の間の距離が変わる振動成分のみから起こるが、本発明にかかる熱膨張・収縮量計測システムにおいては、干渉する2光波が反射する、試料台11と傾斜半透鏡12は隣接しているため、ほぼ同じ振動をすると考えられる。それゆえ、本発明にかかる熱膨張・収縮計測システム試料は振動に対して比較的強いと考えられる。
【0083】
〔配管・バルブ他〕
本実施の形態では、上記のように、加熱炉13が試料10を密閉した状態で収容できるため、この加熱炉13内の雰囲気の種類を変えたり、圧力を変化させたりする構成を備えていることがより好ましい。例えば、図2に示す配管15およびバルブ16は、図示しないガス供給部、液体供給部および/または真空ポンプに接続されている構成を挙げることができる。
【0084】
ガス供給部(雰囲気導入手段)に接続されている場合には、加熱炉(試料収容手段)13の内部に各種ガスを導入することができる。このとき用いられるガスとしては、試料変化を惹起しないものであれば特に限定されるものではなく、試料の種類に応じて適宜選択することができる。したがって、上記ガスは、試料によっては、アルゴンガス、ヘリウムガス、窒素ガス等の不活性ガスであってもよいし、還元性ガスであってもよいし、酸化性ガスであってもよい。また、これらガスは、酸素や水分を除去したものであってもよい。これにより、雰囲気が試料10へ与える影響をより一層低減することができる場合がある。ここで、酸素除去や除湿のための構成は特に限定されるものではなく、公知のフィルター等を用いればよい。
【0085】
液体供給部(雰囲気導入手段)に接続されている場合には、加熱炉(試料収容手段)13の内部に各種液体を導入することができる。このとき用いられる液体としては、光が遮られない液体であって、試料変化を惹起しないものであればよく、例えば、水、水溶液、溶融塩、油等を挙げることができるが特に限定されるものではない。なお、液体雰囲気中で熱膨張量(または熱収縮量)の測定を行う場合の温度も、ガス中や真空中で測定する場合と同様である。
【0086】
上記ガス供給部および液体供給部の具体的な構成は特に限定されるものではなく、各種ガスを閉鎖空間内に供給および排出する公知の構成を好適に用いることができる。
【0087】
上記真空ポンプ(真空手段)に接続されている場合には、加熱炉(試料収容手段)13の内部を減圧または真空状態とすることができる。また、ガス供給部と併設して用いられる場合には、ガスによる加熱炉13の内圧を変化させることができる。この真空ポンプの具体的な構成は特に限定されるものではなく、公知の構成を好適に用いることができる。
【0088】
上記配管15およびバルブ16の具体的な構成も特に限定されるものではなく、ガス供給・排出、液体供給・排出等の分野で用いられている一般的な配管やバルブを用いればよい。
【0089】
〔レーザー顕微鏡部〕
上記共焦点レーザー顕微鏡20は、試料ホルダーに対してレーザー光を入射させ、試料ホルダー(すなわち試料台11および傾斜半透鏡12)により形成される干渉縞を観測する。共焦点レーザー顕微鏡20の具体的な構成は特に限定されるものではなく、図2に示すように、レーザー光源21、レーザー光走査部22、ハーフミラー23、レンズ24、レーザー光受光部25等を備えている一般的な構成を挙げることができる。
【0090】
上記レーザー光源21においては、出射するレーザー光が単色光である必要があり、位相がそろっていることが好ましい。なお、用いられる傾斜半透鏡12の透光性が十分であり、レンズ24やレーザー受光部で十分に対応できる波長であれば、可視光領域の波長である必要はない。具体的なレーザー光源21としては、例えば、He-Neレーザー発振器等を用いることができるが、特に限定されるものではない。
【0091】
上記レーザー光走査部22としては、試料10に対して照射するレーザー光を走査できる構成であればよく特に限定されるものではない。例えば、ガルバノメーターミラー(ガルバノミラー)を好ましく用いることができるが、もちろん公知の他の構成であってもよい。
【0092】
上記ハーフミラー23は、レーザー光源21から出射されたレーザー光を上記レーザー光走査部22(およびレンズ24)に向けて照射するとともに、試料ホルダーから反射されたレーザー光をレーザー光受光部25に向けて照射する構成を有していればよい。ハーフミラーに変えて、偏光ビームスプリッタ(PBS)と1/4波長板(QWP)を組み合わせたものを用いることもできる。
【0093】
上記レンズ24は、開口数等については特に限定されるものではなく、観察対象に合わせて適切なものを用いればよいが、図2にも示すように、加熱炉13内で加熱(または冷却)される試料ホルダーを十分に観察できるものである必要がある。言い換えれば、加熱炉13内での広範な温度範囲でも試料ホルダーから干渉縞を観察できるレンズ系であれば、公知のどのようなものでも好適に用いることができる。
【0094】
上記レーザー光受光部25は、試料10(試料ホルダー)から反射されるレーザー光を受光して観察画像として生成することができるものであればよい。図2に示す構成では、反射されたレーザー光は、共焦点位置のピンホールを通過して光電子増倍管(PM)に入り、画像データ変換部により画像データとして変換される。共焦点レーザー顕微鏡20では、レーザー光走査部22によってx-y軸に入射するレーザー光のスポットが走査されるので、画像データ変換部において、PMにより得られるレーザー光の強度を個々の座標に応じてフレームメモリ上の位置に入力することで画像データを得ることができる。
【0095】
上記共焦点レーザー顕微鏡20による試料ホルダーの観察の条件は特に限定されるものではないが、画像記録部31に記録される観察画像において、少なくとも50~300本の範囲内となるような範囲で、当該干渉縞の変化を観察することが好ましい。これによってより正確な熱膨張量(または熱収縮量)を計測することができる。
【0096】
本実施の形態では、顕微鏡手段として、共焦点レーザー顕微鏡20を用いているが、本発明はこれに限定されるものではなく、共焦点レーザー顕微鏡に代えて、通常の光学顕微鏡をはじめとする様々なタイプの顕微鏡を用いることができる。
【0097】
本発明の熱膨張・収縮量計測システムにおいて用いることができる顕微鏡はとくに限定されるものではないが、光源を単色光または準単色光にする必要がある。ここで準単色光とは、非単色ではあるが、波長帯域が干渉に差し支えないほど十分に狭い光をいう。かかる光源としては、特に限定されるものではないが、輻射光に対して相対的に十分なパワーの光源であることが好ましい。これにより、数百℃以上の高温での測定が可能となる。かかる光源としては、具体的には、例えば、水銀ランプ、ナトリウムランプ等を好適に用いることができる。かかる、輝線を発する熱光源を用いることにより、特定の輝線を、例えば色フィルタ等で選択し、選択した輝線を干渉光源として用いることができる。
【0098】
また、上記光源として、一般の白色光源を用い、この白色光源から干渉フィルタで特定の波長を切り出し、干渉光源として用いてもよい。
【0099】
本発明で用いることができる種々の顕微鏡の構成も、特に限定されるものではなく、市販の各種顕微鏡を好適に利用することができる。
【0100】
なお、顕微鏡手段として、レーザー顕微鏡以外の顕微鏡を用いる場合には、本実施の形態中、「レーザー光」は、該顕微鏡において用いられる「光」に、「共焦点レーザー顕微鏡」は「顕微鏡」に置き換えて理解される。
【0101】
また、本実施の形態では、レーザー顕微鏡20として共焦点型のものを用いているが、本発明はこれに限定されるものではなく、試料10の種類や観察の条件等に応じて、他のレーザー顕微鏡を用いてもよい。もちろん単色性の高いレーザーを光源に用いれば、より明るく、かつ、コントラストの高い干渉光測定が可能となる。ただし、レーザーを光源に用いる場合には、空間的な干渉性が高いことにより、スペックル雑音が生じる。共焦点レーザー顕微鏡を用いることにより、かかるスペックル雑音を取り除くことが可能となる。また、共焦点型ではないレーザー顕微鏡であっても、レーザーの空間コヒーレンスを低減するフィルタ、回転散乱板等を用いることによりスペックル雑音を取り除くことが可能となる。
【0102】
本実施の形態では、上記試料ホルダーにおいて、傾斜半透鏡12の下面と試料台11との間隔ができるだけ少ない位置で、傾斜半透鏡12の下面に焦点が合うように調整して観察を行ったところ、傾斜半透鏡12の項で説明した干渉の減殺はほとんど認められなかった。これは、用いたレーザー顕微鏡が共焦点型であることから、距離が近い二つの反射光の干渉のみが観察されたためと解釈される。したがって、この点からも、本発明で用いるレーザー顕微鏡は、共焦点走査型レーザー顕微鏡であることが好ましい。
【0103】
〔画像記録部・画像解析部〕
上記画像記録部31は、上記共焦点レーザー顕微鏡20により観察される画像を記録するものであれば特に限定されるものではない。当該画像記録部31に要求される性能としては、可能な限り高い分解能を有する少なくとも50~300本であって、可能な限り多くの干渉縞の間隔を高い精度で録画できること、試料10(および試料ホルダー)に対して付与される長時間の温度変化(加熱および冷却)に対して十分な録画時間が確保されるものであればよい。
【0104】
具体的な画像記録部31としては、公知のアナログ方式の画像記録装置(一般のビデオ装置等)であってもよいし、デジタル方式の画像記録装置(デジタル方式のビデオ装置やパーソナルコンピュータ32への画像データの直接取り込み等)であってもよい。ハードディスク等を用いたデジタル方式であれば長時間の画像記録が可能であるとともに、画像情報を解析しやすくなるため、好ましい。
【0105】
上記画像解析部は、上記画像記録部31により記録された画像情報を解析するものであればよいが、特に本発明では、記録された観察画像から、干渉縞の経時的な変化を解析することで、試料10の熱膨張量(または熱収縮量)を数値化している。すなわち、試料10および試料ホルダーを加熱したり冷却したりすることで生じた試料10の膨張や収縮は、試料ホルダーによって(II)の項でより具体的に説明するように、干渉縞の移動や干渉縞の間隔変化等として現れる。そこで、これらのパラメーターの少なくとも何れかに基づいて、試料10の熱膨張量(または熱収縮量)を数値化すればよい。
【0106】
上記画像解析部のより具体的な構成は特に限定されるものではなく、例えば、適切な画像解析用のソフトウエアをインストールしたパーソナルコンピュータ32およびその周辺機器一式を用いることができる。また、ハードディスク等を用いてデジタル方式で画像を録画する場合には、画像解析部と画像記録部31とを一つのパーソナルコンピュータ32で兼用することもできる。
【0107】
〔制御部〕
本発明においては、さらに、上述した構成を有する熱膨張・収縮量計測システムの動作を制御する制御部(制御手段)を備えていることが好ましい。具体的な制御としては、熱膨張量(または熱収縮量)の計測を確実、円滑に行うことができる制御であれば特に限定されるものではないが、例えば、(1)加熱炉13による試料10および試料ホルダーの経時的な加熱(または冷却)を制御する、(2)加熱炉13による試料10および試料ホルダーの経時的な加熱(または冷却)に対応させて、共焦点レーザー顕微鏡20による観察動作を制御する、(3)加熱炉13による試料10および試料ホルダーの経時的な加熱(または冷却)に対応させて、画像記録部31によるレーザー顕微鏡手段の観察画像の記録を制御する、等を挙げることができる。さらには、上記ガス供給部、真空ポンプ、およびバルブ16等の動作も制御部により動作制御されていてもよい。
【0108】
上記制御部の具体的な構成は特に限定されるものではなく、例えば、加熱炉13、共焦点レーザー顕微鏡20、画像記録部31等に設けられている制御用のマイクロプロセッサであってもよいし、これら構成に接続されるパーソナルコンピュータ32に必要なソフトウエアをインストールして制御部として用いてもよい。
【0109】
(II)熱膨張量(または熱収縮量)の計測対象となる試料および計測の具体的動作
〔試料〕
本発明では、熱膨張量(または熱収縮量)を計測する試料10であればどのようなものでもよいが、特に、微小なサイズの試料10の熱膨張量(または熱収縮量)を計測することができる。
【0110】
すなわち、図1に示すように、試料10は、試料台11の表面と傾斜半透鏡12の下面との間に挟持された状態にあるため、加熱により試料10が膨張すると、試料台11および傾斜半透鏡12の間が拡大することになる。ここで、試料10の位置から試料台11および傾斜半透鏡12の接する位置までの距離をWとし、傾斜角度をθとし、試料10の高さをhとすると、次の関係式(i)が成立し、試料10の熱膨張(hの変化)は、距離Wと傾斜角度θの積として換算されることになる。
【0111】
h=Wtanθ ・・・(i)
ここで、入射したレーザー光は、試料台11の表面とその上方に位置する傾斜半透鏡12の表面とによって反射されて干渉するため、干渉縞が生じる。そのため、上記傾斜角度θの変化は干渉縞の移動や干渉縞の間隔の変化を発生させることになる。そこで、この干渉縞の変化を観測することによって傾斜角度θの変化として間接的に観察することが可能になる。この傾斜角度θの変化は上記式(i)から、試料10の高さhの変化、すなわち熱膨張量に変換することができる。
【0112】
このように、本発明では、試料10の温度変化に伴う膨張または収縮によって傾斜半透鏡12の傾斜角度が変化することにより生ずる、上記試料台11および傾斜半透鏡12の間におけるレーザー光の干渉縞の変化を観察し、この干渉縞の変化を基準として試料10の熱膨張量を計測するようになっている。
【0113】
上記試料10の形状やサイズは特に限定されるものではなく、試料ホルダーによって好ましい条件の干渉縞が形成されるようなサイズであればよい。試料10のサイズについては、本発明では微小な試料10の熱膨張量を測定することができ、かかる微小な試料10としては、高さhが、例えば10μm以上、1000μm以下程度のサイズを挙げることができる。なお、かかる場合に、測定される高さhの変位としては、例えば、10nm以上、1μm以下の変位を挙げることができる。また、前述したように傾斜半透鏡12の長さとしては1mm程度が好ましいため、図1におけるWとしてはほぼ1mmが好ましい一例であり、かつ、傾斜角度として3°程度が好ましい一例であることを考慮すれば、上記式(i)より、試料10の高さhは約30~80μm程度を好ましい一例として挙げることができる。
【0114】
また、試料10の形状としては、試料台11および傾斜半透鏡12の間に挟持される試料10が安定した状態となるように、上面および下面は平坦となっていることが好ましい。あるいは、傾斜角度を考慮して上面は傾斜してもよいが、試料10のサイズがマイクロメートルオーダーであり、傾斜角度も小さいことを考えると試料10の上面の傾斜については無視できる。上面および下面以外の状態は特に限定されるものではないので、試料10の好ましい形状としては、円柱や角柱等の柱状を挙げることができる。
【0115】
〔計測動作の一例〕
次に、本発明にかかる熱膨張・収縮量計測システムの動作の具体的な一例について説明する。まず、上記のように、試料台11および傾斜半透鏡12の一方の端部に試料10を挟持するとともに、他方の端部を接触させ、傾斜半透鏡12が試料台11の上面で傾斜するように試料ホルダーを構成する(図1参照)。次に、試料ホルダーを加熱炉13内に設置する。このとき、加熱炉13が密閉可能となっておれば、例えば、雰囲気としてガスを導入すればよい。
【0116】
次に、共焦点レーザー顕微鏡20による観測位置を決定する。ここで、本実施の形態では、用いる共焦点レーザー顕微鏡20に一般の光学顕微鏡機能が付属してもよい。このような光学顕微鏡機能があれば、肉眼で試料ホルダーを観察しながら、レーザー光による観察位置(すなわち干渉縞の測定位置)を決定することができる。もちろん、レーザー顕微鏡の機能で位置決定を行っても構わない。
【0117】
上記位置決定においては、まず、試料台11の表面に焦点を合わせ、当該表面と傾斜半透鏡12の接点とを探すと、容易に傾斜半透鏡12の下面に焦点を合わせることができる。そこから、あらかじめ探しておいた、傾斜半透鏡12と試料台11との接点近傍まで、傾斜半透鏡12の下面に焦点が合うようにレンズ24の位置を調節しながら水平移動すると、容易に干渉縞を得ることができる。
【0118】
共焦点レーザー顕微鏡20では、録画される画像中の干渉縞の本数が50~300本程度になるように倍率を調節し、観察画像を録画しながら試料10を加熱する。このとき、加熱に伴って連続的に画像を記録してもよいし、不連続的に画像を記録してもよい。例えば、一定時間を基準として画像を記録してもよいし、一定の温度で昇温するごとに画像を記録してもよい。要するに温度変化に伴う干渉縞の変動が記録できれば画像の記録手法は特に限定されるものではない。
【0119】
上記の観察動作、加熱動作、および画像記録動作は前述したように制御部の制御で行うことが好ましい。これによって、効率的かつ昇温に伴う正確な観察および画像記録を行うことができる。ここで、昇温速度は、加熱炉13の性能や、試料表面の酸化といった表面変化の最小化等の諸条件から適切な速度を決定すればよく、特に限定されるものではない。
【0120】
画像記録部31に記録された画像データから干渉縞の間隔の変化や移動の程度を算出し、これを加熱条件(昇温速度や加熱の上限値等)と照らし合わせて、干渉縞の変化の温度依存性を算出し、これにより試料10の熱膨張率を算出する。この過程では、単に加熱を行ったときの画像データだけでなく、試料10を冷却したときの画像データを用いることが好ましい。加熱および冷却時の両方の画像データを用いれば、干渉縞の変化の温度依存性をより正確に算出することができる。
【0121】
〔干渉縞からの試料の熱膨張率の算出〕
ここで、干渉縞からの試料の熱膨張率の算出は、次に示すように、試料10の高さhと干渉縞との関係に基づいて、(A)干渉縞の本数を直接数える方法、(B)サブフリンジ干渉法を利用する方法等を用いて行う。
【0122】
まず試料10の高さhと干渉縞との関係について図4に基づいて説明する。試料10の高さhと干渉縞の位相や縞数との関係は以下のように導出される。xを、試料台11と傾斜半透鏡12の交点からの座標、y座標をそれに直交する方向に取ると、共焦点レーザー顕微鏡20、その他の顕微鏡等の顕微鏡手段で得られる光強度I(x,y)は、次の式(ii)で表される。
【0123】
【数1】
JP0004759748B2_000002t.gif
ここでa(x,y)は非干渉項、b(x,y)は干渉項の振幅であり、各々は照明むらなどにより緩やかに変化する関数となっている。
【0124】
一方干渉項の位相φ(x)は、試料台11と傾斜半透鏡12それぞれによって反射された光の間の光路の差L(x)と、次の式(iii)に示す関係にある。なお、ここでλは光源の光波長である。
【0125】
【数2】
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今、試料台11と傾斜半透鏡12の間のなす角θが1rad(=57.3°)より十分小さい場合(この条件は、この発明ではほぼ常時満たされる。)には、光路の差L(x)は以下の式(iv)で表される。
【0126】
【数3】
JP0004759748B2_000004t.gif
したがって、干渉項の位相φ(x)とxとの関係は、以下の式(v)に示す関係となる。
【0127】
【数4】
JP0004759748B2_000005t.gif
上式からわかるように、この干渉項の位相は、顕微鏡で観測される画像の座標xに比例し、その比例定数kには試料10の高さhの情報が含まれている。従って、何らかの方法で干渉縞の位相(あるいは等価な情報)を復調し、比例係数kを求めれば、試料の高さhが求められることとなる。熱膨張率αは、この比例定数kの温度Tによる変化から、たとえば、次の式(vi)として決定できることとなる。
【0128】
【数5】
JP0004759748B2_000006t.gif
また、式(vi)は、例えば、温度TとT+ΔTにおけるkを測定できれば、次の式(vii)として計算できることを意味している。
【0129】
【数6】
JP0004759748B2_000007t.gif
次に、上述した試料10の高さhと干渉縞との関係に基づいて、(A)干渉縞の本数を直接数える方法、(B)サブフリンジ干渉法を利用して、干渉縞から試料の熱膨張率を算出する手順について説明する。
【0130】
(A)干渉縞の本数を直接数える方法
この系において、干渉縞の位相を最も簡単に求める方法として、観測領域内の干渉縞の本数を数える方法を用いることができる。いま、観測領域の両端のxがxとxであるとすると、干渉縞の本数は、以下の式(viii)で与えられる。
【0131】
【数7】
JP0004759748B2_000008t.gif
従って、干渉縞の本数を数えれば、比例係数kを求めることができる。これを使うと、熱膨張率αは、以下の式(viiii)として計算できる。
【0132】
【数8】
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干渉縞の本数を数える具体的な方法の一つとしては、当該画像を高精度で用紙上に印刷(画像形成)する事ができれば、用紙上の画像において印刷されている干渉縞の本数や間隔を、物差しなどを用いてアナログな手法で測定し、干渉縞の変化の温度依存性を導き出すことができる。このとき用いられる印刷装置(画像形成装置)の具体的な構成は特に限定されるものではなく、公知の高精細な画像を形成できる印刷装置(インクジェットプリンタなど)を挙げることができる。また、他にも、当該画像を印刷せずに、画像ソフトを用いてピクセル単位の長さを求めることによっても、上記干渉縞の本数や間隔を測定し、干渉縞の変化の温度依存性を導き出すことができる。
【0133】
この方法では、干渉縞の本数は多い方が、温度変化による試料高さの微小な変化を捕らえるに都合がよい。なぜなら、比例定数k、ひいては試料の高さhの感度が縞本数に比例するからである。例えば、縞の本数が100本の場合、試料の伸び歪Δh/hに対する感度は(縞間隔1/10まで読んだとして)10-3となる。この値は、試料の高さhが10μmに対して、10nmの観測感度となる。この場合、100℃の温度変化があれば、αに対して10-5の感度を有することになる。この値は、用途によっては十分な値となる。ただし、もっと高い感度が必要な場合には、後述のサブフリンジ干渉法を利用するのが望ましい。
【0134】
干渉縞の本数の上限は、顕微鏡手段と画像記録装置31の分解能によって制限される。分解能の数値例として、通常のビデオ規格の画像記録装置31の分解能は200ないし300本程度である。ただし、細かい縞に対しては画像感度が落ちている場合があるので、干渉縞の本数としては余裕を見て100本程度に選ぶのが妥当な選び方といえる。なお、顕微鏡手段の分解能は、単純に画像記憶装置31(あるいは画像撮像装置)のみで決まるものではない。顕微鏡手段の対物レンズの分解能や、共焦点レーザー顕微鏡においては鏡の走査精度など、様々な要因に依存する。これらを総合的に見て可能な縞本数の最大値を選ぶのが望ましい。逆に言うと、高分解能の顕微鏡を利用すれば、より多い本数の干渉縞が使え、ひいては熱膨張率測定の感度を上げることができる。また、上記300本というのは、現在の汎用の画像システムを用いた場合の上限であり、画像技術の今後の技術的進歩により、300本以上取り込みできる装置もありえる。
【0135】
一方、干渉縞本数の下限は、照明むらなどによる画像の濃淡の空間周波数幅によって決まる。干渉縞の間隔が、(i)式の干渉項に含まれる非干渉項a(x,y)や干渉成分の振幅b(x,y)のむらと同一となると、位相φ(x)の変化と区別が付かなくなってしまうからである。従って、干渉縞は少なくともa(x,y)やb(x,y)の空間的な揺らぎに対して十分細かい必要がある。もちろん、上述のように、干渉縞の本数は多い方が感度が高いのであるが、少なくともこの下限の条件を満たす様にしなければ、測定ができない。
【0136】
(B)サブフリンジ干渉法を利用する方法
上述の干渉縞本数を直接数える方法では、高さの変化に対する感度が縞の本数で制約される。この問題を解決しより高い感度を得るには、縞本数の代わりに画像中の各点の位相φ(x)の分布を直接求め、それから熱膨張率を計算することが望ましい。この目的にサブフリンジ干渉法、例えば図5に示す解析手法(フーリエ変換法)が利用できる。以下、その手順を説明する。なお、図5ではステップをSと略す。
【0137】
まず、干渉縞は観測されて画像データとして取り込まれる(S1)ので、この画像データを2次元フーリエ変換する(S2)。次に、2次元フーリエ変換により得られたスペクトルデータのうち、空間周波数(k,0)を中心とする成分のみを切り出す(S3)。次に、切り出した成分をフーリエ逆変換し、その偏角(実部と虚部の比の逆正接)を取得し、2πで折り畳まれた位相分布φ’(x,y)を得る(S4)。さらに、φ’(x,y)に、アンラッピング処理を施し、不連続点をつなぐ。これで、画像上の全ての点において、干渉縞の位相φ(x,y)が得られる(S5)。なお、1次元フーリエ変換でも同様の処理を行うこともできることを補足しておく。ただし、2次元フーリエ変換の方が雑音に比較的強い。
【0138】
求まった位相φから、位相の座標xに対する比例係数kを計算するには、色々な方法がある。一つは縞本数を数える場合と同様、観測領域の両端の間の位相の差δφを取る方法である。この場合には、観測領域の両端の間の位相の差δφは以下の式(x)で表される。
【0139】
【数9】
JP0004759748B2_000010t.gif
これから、熱膨張率αは、以下の式(xi)として計算できる。
【0140】
他の方法としては、位相の空間分布φ(x)のx座標に対する傾きを最小自乗法などを使って求めてもよい。すなわち、位相の分布に、一次関数をフィッティングして、位置に対する平均の傾きを求める。この場合は、求まる傾きが比例定数kそのものとなり、熱膨張率は上記式(vii)で決定できることとなる。
【0141】
【数10】
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上述の算出方法によれば、画像上の各点において、干渉縞の位相を2πの10-3以下の感度で測定できる。これは、干渉縞本数に換算しておおよそ1/1000本分もの極めて細かい幅を弁別した場合と等価な位相感度が得られることを意味している。例えば、縞の本数が100本の場合、試料の伸び歪Δh/hに対する感度は10-5となる。この値は、試料の高さhが10μmに対して、0.1nmの観測感度となる。さらには、100℃の温度変化があれば、熱膨張率αに対しては10-7もの感度を有することになる。
【0142】
なお、試料台11および傾斜半透鏡12の熱膨張を考慮すると、試料の熱膨張率を求める式は以下の式(xii)となる。
【0143】
【数11】
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ここで、αは試料10の熱膨張係数、αは試料台11および傾斜半透鏡12の熱膨張係数である。上記式(xii)に示されるように、αが大きくなると、測定結果への影響が大きくなる。また、試料台11および傾斜半透鏡12が、その結晶学的な方位によって熱膨張率が異なる場合、上記式を用いて試料10の熱膨張・収縮率の算定するためには、試料台11および傾斜半透鏡12の設置方向を厳密に定めなくてはならない。これを避けるため、試料台11および傾斜半透鏡12としてサファイア板を用いる場合、c軸方位が共焦点レーザー顕微鏡20の光軸方位と一致するようにカットされたサファイア板を用いることが好ましい。
【0144】
〔実施例1〕
本発明にかかる熱膨張・収縮量計測システムにより、厚さ50μmの純銅箔を用いて純銅(Cu)の熱膨張を高純度アルゴン中で計測した。試料台11、および傾斜半透鏡12として、耐熱性のある透明板である、c面を平面としたサファイア板を用いた。なお上記サファイア板は、詳しくは、厚さ0.5mm、一辺約1.5mmの正方形の単結晶アルミナである。以上により構成したジグを、アルミナるつぼに入れ、当該アルミナるつぼを加熱炉13中に設置した。加熱炉13としては赤外線イメージ炉を用いた。なお、上記赤外線イメージ炉(レーザーテック社 高温観察装置SVF-SP)は、共焦点レーザー顕微鏡20(レーザーテック社 1LM21H高温共焦点レーザー顕微鏡)に付属させた状態で使用した。そして、6Nのアルゴンガスフロー(毎分150cc)中において、上記ジグを昇降温させた。このときの条件としては、温度範囲を25~800℃とし、約50K/分程度で昇温および降温し、干渉縞の画像を撮影した上で、50℃ごとの画像を抽出した。なお、顕微鏡手段としては共焦点走査型レーザー顕微鏡を用いた。また、本実施例における、レーザー光の波長は632.8nm、干渉縞の間隔は5.1~5.3μm、傾斜半透鏡12の傾斜角度は約3.5°であった。抽出した画像から干渉縞50本分の長さを、物差しによるアナログ手法(上記(A)干渉縞の本数を直接数える方法)と、図5に示すデジタル手法(上記(B)サブフリンジ干渉法を利用する方法)により解析し、温度依存性を算出した。そのうちアナログ手法による結果を図6に、デジタル手法による結果を図7に示す。アナログによる結果(図6)とデジタルによる結果(図7)とは両者よい一致を示しており、特に、降温時の測定値は純銅の熱膨張係数(1.6~2.0×10-5-1)ともよく一致していることが分かった。また、アナログによる結果(図6)について詳しく述べると、図8は、アナログ手法により求めた各温度における単位長さ当たりの干渉縞の本数を示すグラフである。同図を用いて熱膨張を算定した結果が図6に示したグラフである。図6に示すように、特に高温側において、純銅箔の熱膨張率は文献値とよく一致している。
【0145】
〔実施例2〕
試料10として厚さ100μmの純金薄片を用いた。また、試料台11、および傾斜半透鏡12として、耐熱性のある透明板である、c面を平面としたサファイア板を用いた。なお上記サファイア板は、詳しくは、厚さ0.5mm、一辺約1.5mmの正方形の単結晶アルミナである。
【0146】
以上により構成したジグを、アルミナるつぼに入れ、当該アルミナるつぼを加熱炉13中に設置した。加熱炉13としては赤外線イメージ炉を用いた。なお、上記赤外線イメージ炉(レーザーテック社 高温観察装置SVF-SP)は、共焦点レーザー顕微鏡20(レーザーテック社 1LM21H高温共焦点レーザー顕微鏡)に付属させた状態で使用した。そして、6Nのアルゴンガスフロー(毎分150cc)中において、上記ジグを昇降温させた。昇降温の速度は、毎分50℃とした。
【0147】
上記昇降温中に、干渉縞をビデオにより録画した。なお、本実施例における、レーザー光の波長は632.8nm、干渉縞の間隔は約20μm、傾斜半透鏡12の傾斜角度は約14°であった。そして、上記ビデオより静止画像を抽出し、各温度における干渉縞位相の傾き、すなわち前述の位相の空間分布φ(x)のx座標に対する傾きを計測した。なお、上記干渉縞位相の傾きは、単位長さ当たりの干渉縞本数に比例する。その結果に基づき、サブフリンジ法を用いて、熱膨張率を算出した。
【0148】
図9は、各温度における干渉縞位相の傾きを示すグラフである。同図に示すように、温度に依存して、干渉縞位相の傾きが変化した。図10は、図9に示す結果からサブフリンジ法を用いて算出した熱膨張率を示すグラフである。ここで、純金の熱膨張率の文献値は、293Kにおいて、1.42×10-5-1であり、800Kにおいて、1.67×10-5-1である。ここで、同図に示すように、本実施例における測定結果は、試料として純金を用いた場合、降温時においては、特に高温側において、文献値とほぼ一致した。
【0149】
〔実施例3〕
次に、試料および、計測の際の試料等の昇降温の速度を変化させて計測を行った。次に、上記昇降温の速度を、毎分300℃にしたほかは、実施例2と同様の手順および条件により、測定を行った。なお、本実施例における、レーザー光の波長は632.8nm、干渉縞の間隔は5.1~5.3μm、傾斜半透鏡12の傾斜角度は約3.5°であった。
【0150】
図11は、各温度における干渉縞位相の傾きを示すグラフである。同図に示すように、温度に依存して、干渉縞位相の傾きが変化した。図12は、図11に示す結果から算出した熱膨張率を示すグラフである。ここで、純銅の熱膨張率の文献値は、前述したように、293Kにおいて、1.65×10-5-1であり、800Kにおいて、2.03×10-5-1である。ここで、同図に示すように、本実施例における測定結果は、文献値とほぼ一致した。
【0151】
以上のように、試料を変化させた条件、および計測の際の試料等の昇降温の速度を変化させた条件においても、文献値とほぼ一致する結果を得ることができた。
【0152】
〔第2の実施形態〕
図13は、本発明の第2の実施形態に係るジグの構造を示す平面図である。以下、同図を用いて本発明の第2の実施形態について説明する。なお、本明細書において、上記ジグとは、試料10と、標準物質33と、試料台11と、傾斜半透鏡12とからなる部分をいう。
【0153】
図13に示すように、本実施形態と、第1の実施形態とでは、ジグの構造が異なる。また、これに従い、干渉縞からの試料の熱膨張率の算出方法も異なっている。ジグを構成する各部材、その他の本発明に係る試料膨張率・収縮率計測システムの構造については、第1の実施形態の説明に従う。
【0154】
図13に示すように、本実施形態においては、傾斜半透鏡12は、直角三角形状をしている。そして、直角を挟む二辺がそれぞれ試料10と、標準物質33とに接している。ここで、標準物質33は、熱膨張率が既知であればどのような素材でもよいが、酸化等の影響を受けないものが好ましい。具体的には、これに限定されるものではないが、純金、純銅、サファイア、低熱膨張ガラスなどの薄片を用いることができる。また、傾斜半透鏡12は、直角となる頂点において、試料台11と接している。なお、傾斜半透鏡12の形状は、直角三角形状に限るものではない。試料10と標準物質33と試料台11とに安定して支持される形状であれば、様々な形状の三角形を用いることができる。
【0155】
以上のようにジグを構成することにより、当該ジグを加熱、あるいは冷却したときに、傾斜半透鏡12は、試料10および標準物質33のそれぞれの熱膨張あるいは収縮に伴い傾斜角度が変化する。特に、上記試料10と接する辺における傾斜角度の変化は、試料10の膨張あるいは収縮に起因する。一方、上記標準物質33と接する辺における傾斜角度の変化は、標準物質33の膨張あるいは収縮に起因する。ここで、共焦点レーザー顕微鏡20による観測位置を、図13における観測範囲34の範囲とする。図13に示すように、観測範囲34は、上記両辺を含む。これにより、試料10および標準物質33のそれぞれの膨張あるいは収縮に依存する干渉縞の変動を共焦点レーザー顕微鏡20により同時に観測することができる。なお、観測範囲34は同図に示される範囲に限定されるものではなく、上記両辺を含んでいればどのような形状でも良いが、共焦点レーザー顕微鏡の特性を生かすために、試料台11および傾斜半透鏡12の接触部近傍を測定領域とすることが好ましい。
【0156】
そして、上記干渉縞の変動の観測結果に基づき、第1の実施形態に記載の方法を用いて、試料10および標準物質33の熱膨張率をそれぞれ算定する。ここで、標準物質33の算定結果を用いて、試料10の算定結果を補正する。
【0157】
以上のように、試料10と、標準物質33とを同時に計測することにより、両者の間において、比較、校正を行うことができる。これにより、観測装置系における不具合、例えば、共焦点レーザー顕微鏡20の観測時に起きるピントのずれなどに起因するデータの誤差を補正し、より精度の高い測定結果を得ることができる。すなわち、標準物質33に係る干渉縞の変動は、標準物質33の膨張あるいは収縮による変動と、誤差要因による変動とが重畳したものであることから、標準物質33の既知の熱膨張率と測定結果の差から、誤差要因による変動を抽出し、これによって試料10の熱膨張率の算定結果を補正することができる。なお、本実施形態においては、標準物質33と、試料10とを同時に測定しているが、これに限るものではない。標準物質33と、試料10とを交互に測定することも可能である。この場合、温度などの変化により副次的にもたらされる誤差、例えば、屈折率の変化や試料台11の熱膨張などによる誤差については補正が可能である。しかしながら、本実施形態のように同時に標準物質33と、試料10とを測定する場合は、同じ光軸上の空気の揺らぎや、装置の振動の影響による誤差についても補正を行うことができるので、より好ましい。
【0158】
〔第3の実施形態〕
図14は、本発明の第3の実施形態に係るジグの構造を示す平面図である。以下、同図を用いて本発明の第3の実施形態について説明する。
【0159】
図14に示すように、本実施形態と、第1の実施形態とでは、ジグの構造が異なる。また、これに従い、干渉縞からの試料の熱膨張率の算出方法も異なっている。ジグを構成する各部材、その他の本発明に係る試料膨張率・収縮率計測システムの構造については、第1の実施形態の説明に従う。また、標準物質33および干渉縞からの試料の熱膨張率の算出方法については、第2の実施形態の説明に従う。
【0160】
図14に示すように、本実施形態においては、ジグは、試料台11と、試料10と、標準物質33と、2枚の傾斜半透鏡12とによって形成されている。第1の傾斜半透鏡12は、一方の端部の下面において試料台11と接しており、もう一方の端部の下面において試料10と接している。第2の傾斜半透鏡12は、一方の端部の下面において試料台11と接しており、もう一方の端部の下面において標準物質33と接している。
【0161】
以上のようにジグを構成することにより、当該ジグを加熱、あるいは冷却したときに、それぞれの傾斜半透鏡12は、試料10および標準物質33のそれぞれの熱膨張あるいは収縮に伴い傾斜角度が変化する。第1の傾斜半透鏡12の傾斜の変化は、試料10の膨張あるいは収縮に起因する。一方、第2の傾斜半透鏡12の傾斜の変化は、標準物質33の膨張あるいは収縮に起因する。ここで、共焦点レーザー顕微鏡20による観測位置を、図14における観測範囲34の範囲とする。図14に示すように、観測範囲34は、上記両傾斜半透鏡12上の領域を含む。これにより、試料10および標準物質33のそれぞれの膨張あるいは収縮に依存する干渉縞の変動を共焦点レーザー顕微鏡20により観測することができる。なお、観測範囲34は、図14に示す領域に限定されるものではなく、上記両傾斜半透鏡12上の領域を含んでいれば、使用する装置に応じて様々な形状を取らせることができるが、共焦点レーザー顕微鏡の特性を生かすために、試料台11および傾斜半透鏡12の接触部近傍を測定領域とすることが好ましい。
【0162】
そして、上記干渉縞の変動の観測結果に基づき、第1の実施形態に記載の方法を用いて、試料10および標準物質33の熱膨張率をそれぞれ算定する。ここで、標準物質33の算定結果を用いて、試料10の算定結果を補正する。具体的には、第2の実施形態の説明にしたがって行う。
【0163】
以上のように、試料10と、標準物質33とを同時に計測することにより、第2の実施形態と同様の効果を得ることができる。また、試料10と、標準物質33とを交互に測定することもできるが、前述したように、同時に測定した方が好ましい。
【0164】
また、第2の実施形態に係る傾斜半透鏡12は、直角三角形状をしており、作成が困難であるが、本実施形態に係る傾斜半透鏡12は、図14に示すように直方形とすることができるので、作成が容易である。
【0165】
ただし、本実施形態においては、2枚の傾斜半透鏡12を設置するので、設置作業がやや困難である。この点において、第2の実施形態に係るジグは、1枚の傾斜半透鏡12により構成されるので、設置が容易である。
〔第4の実施形態〕
図15は、本発明の第4の実施形態に係るジグの構造を示す断面図である。以下、同図を用いて本発明の第4の実施形態について説明する。
【0166】
図15に示すように、本実施形態と、第1の実施形態とでは、ジグの構造が異なる。また、これに従い、干渉縞からの試料の熱膨張率の算出方法も異なっている。ジグを構成する各部材、その他の本発明に係る試料膨張率・収縮率計測システムの構造については、第1の実施形態の説明に従う。また、標準物質33については、第2の実施形態の説明に従う。
【0167】
図15に示すように、本実施形態においては、試料台11の上に、試料10と、標準物質33とが載置されている。また、傾斜半透鏡12が、一方の端部の下面において上記試料10と接し、他方の端部の下面において上記標準物質33と接するように配置されている。以上のように構成されたジグを第1の実施形態に係る熱膨張・収縮率計測システムに組み込むことにより、前述のように、傾斜角度を測定することができる。ここで、標準物質33の熱膨張率は前述したように既知であるので、試料10の高さ、標準物質33の高さ、および試料10と標準物質との距離を計測することにより、上記傾斜角度の変化から、試料10の膨張・収縮率を算定することができる。
【0168】
以上のように、標準物質33の既知の熱膨張率を使用して、試料10の熱膨張率を算定することにより、装置系に起因する誤差を避けることができる。
【0169】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0170】
(III)本発明の利用
本発明にかかる熱膨張・収縮量計測システムは、上記のように、干渉縞を高精度に測定することによって試料10の熱膨張量(または熱収縮量)を計測するシステムである。そのため、より正確な熱膨張量(または熱収縮量)の計測が可能になり、微小サイズの試料10への応用が可能となる。
【0171】
本発明の利用分野は、上記の例に限定されるものではなく、温度変化以外の試料10の環境変化に伴う膨張や収縮を測定する用途も挙げられる。具体的には、例えば、(1)水素吸蔵合金粉末の水素吸放出に伴う膨張・収縮の測定、(2)プラスチック等の湿潤環境下における膨潤、(3)酸化環境下での酸化による体積膨張、(4)磁場中の物質の変形等を挙げることができる。さらには、外的要因の周期変化に対する追従性検知による現象の反応速度論的な解析に用いることもできる。
【0172】
したがって、本発明は、上記試料台11、傾斜半透鏡12、顕微鏡手段とを備えているとともに、試料10(および試料ホルダー)に対して、温度、湿度、圧力および雰囲気の少なくとも何れか一つの条件を変化させ、他の条件を一定に維持することを可能とする試料条件変化部を備えている構成を挙げることができる。図2に示す構成を例に挙げれば、加熱炉13が単に温度変化できるだけでなく、湿度を変化させたり内部の圧力を変化させたり反応性のガス(酸素等)を雰囲気として用いたりできるようになっていればよい。試料10に対する上記条件の変化に伴う膨張または収縮によって傾斜半透鏡12の傾斜角度が変化し、これにより光の干渉縞に変化が生ずるので、上述したように干渉縞の変化を観察し、これを基準として試料10の膨張・収縮量を計測することができる。この場合、次のような物質を標準物質33として用いることができる。まず、湿度を変化させる場合、ほとんどの金属・セラミクスは、湿度による体積変化を生じないので、湿度による変化がゼロの標準物質33として用いることができる。また、圧力を変化させる場合、弾性率もしくは体積弾性率が既知の物質を、標準物質33として用いることができる。また、ガス雰囲気を吸蔵させる場合は、吸蔵量が非常に小さいことが既に判っており、体積変化のない物質を標準物質33として用いることができる。以上のように、条件変化に対する体積(長さ)変化がほとんど無い、もしくは既知である物質を標準物質33として用いることができる。また、本発明は、上記試料条件変化手段に代えて、少なくとも試料台の表面と透光板部材の下面との間に挟持された状態にある試料に対して、温度、湿度、圧力および雰囲気を一定に維持することを可能とする試料条件維持手段を備えている構成を有するものであってもよい。かかる構成においても、図2に示す構成を例に挙げれば、加熱炉13が単に温度変化できるだけでなく、湿度を変化させたり内部の圧力を変化させたり反応性のガス(酸素等)を雰囲気として用いたりできるようになっていればよい。これにより、条件変化を与えなくても、時間の経過によって変化が起こる試料10の膨張または収縮によって傾斜半透鏡12の傾斜角度が変化し、これにより光の干渉縞に変化が生ずるので、上述したように干渉縞の変化を観察し、これを基準として試料10の膨張・収縮量を計測することができる。かかる条件変化を与えなくても、時間の経過によって変化が起こる現象としては、例えば、乾燥、蒸発、結晶化等を挙げることができる。さらには、試料に対して、上記条件については維持しつつ、公知の手段によって、電流、および磁場などの外場の印加、粒子線、電子線、X線、および紫外線などの照射、あるいは、イオン注入などの物質注入・放出操作、を行うことにより、それぞれの条件変化による試料10の膨張・収縮量を計測することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0173】
以上のように、本発明では、試料の膨張量(または収縮量)を、この試料を挟持する部材の角度関係の変化として計測するときに、光の干渉縞の変化を利用する。そのため、従来技術と比べてより正確で実用性の高い熱膨張量(または熱収縮量)の計測を行うことが可能となる。そのため、本発明は、各種微小サイズの試料の熱膨張量や熱膨張係数を測定する装置やその部品を製造する分野に利用することができるだけでなく、さらには、熱膨張以外の微量な体積膨張や収縮を測定する分野にも広くするにも応用することが可能である。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3(a)】
2
【図3(b)】
3
【図4】
4
【図5】
5
【図6】
6
【図7】
7
【図8】
8
【図9】
9
【図10】
10
【図11】
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【図12】
12
【図13】
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【図14】
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【図15】
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