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明細書 :穿刺プランニング支援装置及びそのプログラム、並びに刺入条件判定方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5105330号 (P5105330)
公開番号 特開2009-226087 (P2009-226087A)
登録日 平成24年10月12日(2012.10.12)
発行日 平成24年12月26日(2012.12.26)
公開日 平成21年10月8日(2009.10.8)
発明の名称または考案の名称 穿刺プランニング支援装置及びそのプログラム、並びに刺入条件判定方法
国際特許分類 A61B  19/00        (2006.01)
A61B  17/34        (2006.01)
FI A61B 19/00 502
A61B 17/34
請求項の数または発明の数 8
全頁数 12
出願番号 特願2008-076876 (P2008-076876)
出願日 平成20年3月24日(2008.3.24)
審査請求日 平成23年1月27日(2011.1.27)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】899000068
【氏名又は名称】学校法人早稲田大学
発明者または考案者 【氏名】藤江 正克
【氏名】小林 洋
【氏名】星 雄陽
【氏名】尾西 晃典
個別代理人の代理人 【識別番号】100114524、【弁理士】、【氏名又は名称】榎本 英俊
審査官 【審査官】井上 哲男
参考文献・文献 特開2006-271546(JP,A)
特開2004-081852(JP,A)
特開2002-085419(JP,A)
特開2001-061860(JP,A)
国際公開第2007/141784(WO,A2)
調査した分野 A61B 19/00
A61B 17/34
特許請求の範囲 【請求項1】
生体組織の外側から内部のターゲットに向かって穿刺する際の針の刺入条件を入力すると、モデルを使った演算により前記刺入条件の判定をする穿刺プランニング支援装置であって、
前記生体組織表面が切断される直前における前記針の先端位置を複数仮定したときに、当該先端位置それぞれの場合について、前記先端位置の近傍における前記生体組織の応力を前記刺入条件から求める応力算出手段と、前記各先端位置のときの前記ターゲットの位置をそれぞれ求め、前記生体組織の外側から前記ターゲットに延びる針の移動線と前記ターゲットとの離間距離となる位置誤差を前記各先端位置それぞれの場合について求める誤差算出手段と、前記生体組織が切断するときの前記生体組織の応力のばらつきを表す確率密度関数を使い、前記各先端位置それぞれの場合について前記応力算出手段で求めた応力による切断確率を求め、当該切断確率から前記位置誤差の期待値を求める期待値算出手段と、前記期待値に基づいて前記刺入条件の判定をする判定手段とを備えたことを特徴とする穿刺プランニング支援装置。
【請求項2】
予め取得した前記生体組織の画像データから前記生体組織のモデルを作成するモデル作成手段を更に備え、当該モデルを使って前記応力及び位置誤差を算出することを特徴とする請求項1記載の穿刺プランニング支援装置。
【請求項3】
前記刺入条件は、針の刺入位置及び刺入角度であることを特徴とする請求項1又は2記載の穿刺プランニング支援装置。
【請求項4】
前記刺入条件は、針の刺入位置、刺入角度及び刺入速度であることを特徴とする請求項1又は2記載の穿刺プランニング支援装置。
【請求項5】
前記判定手段では、前記期待値が所定の閾値以下となる場合に、前記刺入条件が適切であると判定することを特徴とする請求項1~4の何れかに記載の穿刺プランニング支援装置。
【請求項6】
前記判定手段では、複数入力された前記刺入条件の前記各期待値の中で最小となる期待値が得られた刺入条件が最適であると判定することを特徴とする請求項1~4の何れかに記載の穿刺プランニング支援装置。
【請求項7】
生体組織の外側から内部のターゲットに向かって穿刺する際の針の刺入条件を入力すると、モデルを使った演算により前記刺入条件の判定をするように穿刺プランニング支援装置のコンピュータを機能させるプログラムであって、
前記生体組織表面が切断される直前における前記針の先端位置を複数仮定したときに、当該先端位置それぞれの場合について、前記先端位置の近傍における前記生体組織の応力を前記刺入条件から求める応力算出手段と、前記各先端位置のときの前記ターゲットの位置をそれぞれ求め、前記生体組織の外側から前記ターゲットに延びる針の移動線と前記ターゲットとの離間距離となる位置誤差を前記各先端位置それぞれの場合について求める誤差算出手段と、前記生体組織が切断するときの前記生体組織の応力のばらつきを表す確率密度関数を使い、前記各先端位置それぞれの場合について前記応力算出手段で求めた応力による切断確率を求め、当該切断確率から前記位置誤差の期待値を求める期待値算出手段と、前記期待値に基づいて前記刺入条件の判定をする判定手段として、前記コンピュータを機能させることを特徴とする穿刺プランニング支援装置用プログラム。
【請求項8】
生体組織の外側から内部のターゲットに向かって穿刺する際の針の刺入条件を入力すると、モデルを使った演算により前記刺入条件の判定をする刺入条件判定方法であって、
前記生体組織表面が切断される直前における前記針の先端位置を複数仮定したときに、当該先端位置それぞれの場合について、前記先端位置の近傍における前記生体組織の応力を前記刺入条件から求める応力算出ステップと、前記各先端位置のときの前記ターゲットの位置をそれぞれ求め、前記生体組織の外側から前記ターゲットに延びる針の移動線と前記ターゲットとの離間距離となる位置誤差を前記各先端位置それぞれの場合について求める誤差算出ステップと、前記生体組織が切断するときの前記生体組織の応力のばらつきを表す確率密度関数を使い、前記各先端位置それぞれの場合について前記応力算出ステップで求めた応力による切断確率を求め、当該切断確率から前記位置誤差の期待値を求める期待値算出ステップと、前記期待値に基づいて前記刺入条件の判定をする判定ステップとを順に行うことを特徴とする刺入条件判定方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、穿刺プランニング支援装置及びそのプログラム、並びに刺入条件判定方法に係り、更に詳しくは、臓器等の生体組織に穿刺治療を行う前に、生体組織表面に対する針の刺入位置や刺入角度等の刺入条件の良否をシミュレーションにより判断することのできる穿刺プランニング支援装置及びそのプログラム、並びに刺入条件判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近時の医療において、患者への負担の少ない低侵襲治療が求められているが、その中でも、臓器等の患部に針を刺して治療する穿刺治療法が注目を集めている。この穿刺治療法としては、例えば、肝臓がん等の治療等に用いられるPEIT(経皮的エタノール注入法)やRFA(ラジオ波焼灼療法)がある。PEITは、がん細胞に針を刺し、当該針先からエタノールをがん細胞に注入することで、がん細胞を壊死させる療法であり、RFAは、がん細胞に針を刺し、当該針先からラジオ波による高熱をがん細胞に与えることで、がん細胞を壊死させる療法である。ここで、穿刺の対象となるがん細胞等のターゲットが生体組織の内部に存在する場合、生体組織の表面から針を刺して生体組織内部のターゲットに到達させなければならない。ところが、穿刺の対象となる肝臓等の臓器は軟組織により構成されるため、穿刺時における臓器への押圧力によって当該臓器が変形し、当該変形に伴ってターゲットの位置が移動してしまう。従って、針の先端をターゲットに正確に到達させるには、穿刺時の生体組織の変形を考慮した穿刺経路のプランニングをしなければならず、このプランニングは、相当の熟練度を要し、医師の経験と勘に頼るところが大きい。特に、最も柔らかい臓器の一つである肝臓は、熟練した医師であっても、穿刺経路のプランニングが難しいと言われている。
【0003】
ところで、本出願人は、マスター・スレーブ方式等を採用する手術支援ロボットに適用される穿刺制御装置を既に提案している(特許文献1参照)。この穿刺制御装置は、穿刺される生体組織のターゲットに針が正確に到達するように、当該針を保持するマニピュレータの動作制御を行う装置である。具体的には、生体組織に針を刺した後で、当該生体組織内を移動する針の先端部分の状況を画像データにより判断し、生体組織内で針の先端に撓み等が発生した場合に、当該撓みを考慮して穿刺経路を補正するようにスレーブ側のマニピュレータの動作を制御する。

【特許文献1】特開2006-271546号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記特許文献1の装置は、生体組織に針を刺した後に針の経路を補正するものであって、生体組織に針を刺す前に、生体組織に対する針の刺入位置や刺入角度等の刺入条件が適正か否かを判断するものではない。従って、前記特許文献1の制御装置が適用された手術支援ロボットを使用する場合であっても、医師の手で生体組織に直接穿刺する場合と同様に、最適な刺入条件を決めて穿刺経路をプランニングしなければならない。このプランニングは、生体組織に針を刺した後、当該針がターゲットに向かって直線的に移動することを前提に行われる。ここで、針が生体組織の表面に当てられてから生体組織が切断されるまでの間は、当該生体組織が押圧されることになり、生体組織が軟組織であると、前述したように生体組織の変形に伴ってターゲットの位置が大きく移動する。そして、生体組織が針で切断された後は、生体組織の変形状態の変化が少なく、針が生体組織内を移動する過程では、ターゲットの位置変化は小さい。
【0005】
以上により、穿刺経路のプランニングを行う際には、針によって生体組織の表面が切断されるまでの当該生体組織の変形状態を考慮し、当該変形に伴うターゲット位置の変位状況を把握しなければならない。しかしながら、本発明者らの実験によれば、同一個体、同一条件で生体組織に対する穿刺を複数回実施した場合、切断時の針の先端位置が必ずしも同一でなく、常に同一の押圧力で生体組織が切断されないことが実証されており、このような状況は、組織のミクロな状態に起因するものと考えられる。つまり、同一個体に対して同一の穿刺条件で穿刺を行ったとしても、生体組織を切断するのに必要な押圧力が場合によって異なることから、針が生体組織内に進入する直前の生体組織の変形状態が常時一定にならず、この時のターゲットの位置は、必ずしも一定にならない。従って、針の刺入位置、刺入角度、刺入速度等の刺入条件の良否を正確に決定するには、生体組織が切断する直前の針の先端位置を想定される範囲内で変化させながら、それそれの先端位置についてターゲットへの穿刺が行えるか否かを判断し、それらを総合的に評価する必要がある。
【0006】
本発明は、以上のような課題に鑑みてして案出されたものであり、その目的は、生体組織の切断時において想定される穿刺状況を総合的に考慮して、予め指定した刺入条件の判定ができる穿刺プランニング支援装置及びそのプログラム、並びに刺入条件判定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するため、本発明は、生体組織の外側から内部のターゲットに向かって穿刺する際の針の刺入条件を入力すると、モデルを使った演算により前記刺入条件の判定をする穿刺プランニング支援装置であって、
前記生体組織表面が切断される直前における前記針の先端位置を複数仮定したときに、当該先端位置それぞれの場合について、前記先端位置の近傍における前記生体組織の応力を前記刺入条件から求める応力算出手段と、前記各先端位置のときの前記ターゲットの位置をそれぞれ求め、前記生体組織の外側から前記ターゲットに延びる針の移動線と前記ターゲットとの離間距離となる位置誤差を前記各先端位置それぞれの場合について求める誤差算出手段と、前記生体組織が切断するときの前記生体組織の応力のばらつきを表す確率密度関数を使い、前記各先端位置それぞれの場合について前記応力算出手段で求めた応力による切断確率を求め、当該切断確率から前記位置誤差の期待値を求める期待値算出手段と、前記期待値に基づいて前記刺入条件の判定をする判定手段とを備える、という構成を採っている。
【0008】
また、予め取得した前記生体組織の画像データから前記生体組織のモデルを作成するモデル作成手段を更に備え、当該モデルを使って前記応力及び位置誤差を算出する、という構成を採ることが好ましい。
【0009】
更に、前記刺入条件を針の刺入位置及び刺入角度とすることができる。
【0010】
また、前記刺入条件を針の刺入位置、刺入角度及び刺入速度とすることもできる。
【0011】
更に、前記判定手段では、前記期待値が所定の閾値以下となる場合に、前記刺入条件が適切であると判定することができる。
【0012】
また、前記判定手段では、複数入力された前記刺入条件の前記各期待値の中で最小となる期待値が得られた刺入条件が最適であると判定することもできる。
【0013】
更に、本発明は、生体組織の外側から内部のターゲットに向かって穿刺する際の針の刺入条件を入力すると、モデルを使った演算により前記刺入条件の判定をするように穿刺プランニング支援装置のコンピュータを機能させるプログラムであって、
前記生体組織表面が切断される直前における前記針の先端位置を複数仮定したときに、当該先端位置それぞれの場合について、前記先端位置の近傍における前記生体組織の応力を前記刺入条件から求める応力算出手段と、前記各先端位置のときの前記ターゲットの位置をそれぞれ求め、前記生体組織の外側から前記ターゲットに延びる針の移動線と前記ターゲットとの離間距離となる位置誤差を前記各先端位置それぞれの場合について求める誤差算出手段と、前記生体組織が切断するときの前記生体組織の応力のばらつきを表す確率密度関数を使い、前記各先端位置それぞれの場合について前記応力算出手段で求めた応力による切断確率を求め、当該切断確率から前記位置誤差の期待値を求める期待値算出手段と、前記期待値に基づいて前記刺入条件の判定をする判定手段として、前記コンピュータを機能させる、という構成を採っている。
【0014】
また、本発明は、生体組織の外側から内部のターゲットに向かって穿刺する際の針の刺入条件を入力すると、モデルを使った演算により前記刺入条件の判定をする刺入条件判定方法であって、
前記生体組織表面が切断される直前における前記針の先端位置を複数仮定したときに、当該先端位置それぞれの場合について、前記先端位置の近傍における前記生体組織の応力を前記刺入条件から求める応力算出ステップと、前記各先端位置のときの前記ターゲットの位置をそれぞれ求め、前記生体組織の外側から前記ターゲットに延びる針の移動線と前記ターゲットとの離間距離となる位置誤差を前記各先端位置それぞれの場合について求める誤差算出ステップと、前記生体組織が切断するときの前記生体組織の応力のばらつきを表す確率密度関数を使い、前記各先端位置それぞれの場合について前記応力算出ステップで求めた応力による切断確率を求め、当該切断確率から前記位置誤差の期待値を求める期待値算出ステップと、前記期待値に基づいて前記刺入条件の判定をする判定ステップとを順に行う、という手法を採っている。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、生体組織表面が切断時する可能性のある針の先端位置それぞれに対する切断確率と、各先端位置におけるターゲットとの位置誤差とにより、予め入力された刺入条件について前記位置誤差の期待値が求められ、当該期待値により前記刺入条件の判定が確率論的になされることになる。従って、生体組織の切断時に想定されるターゲットの位置それぞれの場合での発生確率を考慮した刺入条件の総合判定ができ、当該刺入条件の正確な判定が可能になる。
【0016】
特に、モデル作成手段を備えることで、穿刺治療の対象となる患者のモデルに基づいて刺入条件を判定することができ、当該判定の精度を一層向上させることができる。
【0017】
また、刺入条件に刺入速度を加えることで、生体組織の粘弾性特性をも考慮することができ、刺入条件に対する一層正確な判定が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0019】
図1には、本発明の実施形態に係る穿刺プランニング支援装置の機能ブロック図が示されている。この図において、前記穿刺プランニング支援装置10は、生体組織としての臓器に針を刺入する穿刺治療前に予め設定した刺入条件について、モデルを使って刺入状態をシミュレーションしながら、刺入条件の良否を判定する装置である。この穿刺プランニング支援装置10は、所定のコンピュータからなり、当該コンピュータを以下の手段として機能させるプログラムがインストールされている。なお、本実施形態では、刺入条件として、針を刺す臓器表面の位置である刺入位置と、針を臓器表面に当てるときにおける当該臓器表面に対する針の角度となる刺入角度が用いられる。
【0020】
前記穿刺プランニング支援装置10は、予め取得した臓器の画像データから当該臓器のモデルを作成するモデル作成手段11と、臓器表面が切断する直前の針の先端位置(以下、単に、「切断位置」と称する。)を複数仮定したときに、当該切断位置それぞれの場合について、そのときの針の刺入位置の近傍における臓器の応力を予め入力した刺入条件から求める応力算出手段12と、モデル上で予め設定された穿刺のターゲットの位置を各切断位置それぞれの場合について求め、臓器の外側からターゲット方向に延びる針の移動線と当該ターゲットとの離間距離である位置誤差を各切断位置それぞれの場合について求める誤差算出手段13と、応力算出手段12と誤差算出手段13で求めた値により、所定の確率密度関数を使って位置誤差の期待値を求める期待値算出手段14と、期待値に基づいて刺入条件の判定をする判定手段15とを備えている。
【0021】
前記モデル作成手段11は、臓器の弾性率やポアソン比等の基礎データが臓器の構成組織(実質細胞、血管、神経等)毎に記憶された記憶部18と、磁気画像共鳴診断装置(MRI)、コンピュータ断層撮影装置(CTスキャン)、超音波画像診断装置等の撮像装置Cで撮像した画像データに基づき、臓器の全体形状及び各構成組織の位置を求める形状位置特定部19と、形状位置特定部19で求められた臓器の形状に基づいて臓器を複数の要素に分割する要素分割部20と、記憶部18で記憶された前記基礎データに基づいて外力と変位の関係を要素毎に求め、臓器に作用する外力ベクトルと当該臓器の変位ベクトルとの関係を表す剛体方程式を有限要素法で求める剛体方程式決定部21とを備えている。
【0022】
前記応力算出手段12では、図2(A)に示されるように、針25の刺入条件すなわち予め入力された刺入位置P及び刺入角度θのときに、モデル作成手段11で作成された臓器のモデル26を使って、臓器の押圧部分Pとなる針25の刺入位置Pの近傍の応力が求められるようになっている。つまり、臓器が切断する直前の針の先端位置がケースによって変化することを前提とし、そのときの針の先端位置である前記切断位置を所定範囲で連続的に変化させ、各切断位置それぞれの場合について、モデル作成手段11の剛体方程式決定部21で求められた剛体方程式を使って、押圧部分Pでの針の押圧力及びその近傍の臓器の応力が算出される。詳細については後述する。
【0023】
前記誤差算出手段13では、針が直線的に移動すると仮定し、応力算出手段12で変化させた切断位置それぞれの場合について、針の刺入方向に直線状に延びる針の移動線Kに対するターゲットTの基準点の最短距離となる位置誤差Lが算出される。つまり、位置誤差Lは、ターゲットTの基準点から移動線Kに直交する直線の長さとなる。ここで、ターゲットTががん細胞等のような領域で構成されている場合に、ターゲットTの基準点は、領域内の任意の点、例えば、重心や中心等に設定される。この位置誤差Lは、図2(A)、(B)に例示されるように、臓器が切断する直前の針の先端位置(切断位置)が異なると、ターゲットTの位置や形状も異なることになる。
【0024】
前記期待値算出手段14には、実験等によって定められた確率密度関数が予め記憶されている。この確率密度関数は、臓器が切断する際の応力のばらつき、すなわち、押圧部分Pの近傍における臓器の応力に対する押圧部分Pの切断確率分布を表している。この期待値算出手段14では、後述するように、確率密度関数による確率分布によって位置誤差Lの期待値が算出される。
【0025】
前記判定手段15では、期待値算出手段14で算出した位置誤差Lの期待値が所定の閾値以下である場合に、針が臓器に進入する直前の針先端の変位量が状況によって変わることを考慮しても、ターゲットTに正確に穿刺できる確率が高いとして、入力した刺入条件が適切であると判定される。一方、位置誤差Lの期待値が前記閾値を超える場合は、ターゲットTに正確に穿刺できる確率が低いとして、入力した刺入条件が不適切であると判定される。
【0026】
次に、本実施形態の穿刺プランニング支援装置で行われる処理について、図3のフローチャートを用いながら以下に説明する。なお、以下においては、処理対象となる臓器を例示的に肝臓として説明するが、これに限定されるものではない。
【0027】
先ず、モデル作成手段11において、前記撮像装置Cで撮像した画像データに基づき、穿刺治療の対象となる患者の肝臓が以下の手順でモデル化される(モデル作成ステップ:S101)。
【0028】
ここで、学術的に解明されている一般的なヒトの肝臓の弾性率及びポアソン比の基礎データが、肝細胞(肝実質細胞)、血管、神経等の肝臓の構成組織毎に記憶部18に記憶されている。
【0029】
そして、患者の肝臓が撮像装置Cで撮像された後、形状位置特定部19において、撮像装置Cの画像データから肝臓の形状と当該肝臓の各構成組織の位置が次のように設定される。すなわち、前記画像データに基づいて、コンピュータを使った公知の画像処理により、肝臓の三次元形状若しくは所定断面の二次元形状が導出され、且つ、その中の構成組織(肝実質細胞、血管、神経等)の位置が特定される。なお、肝臓の形状及び/又は各構成組織の位置は、前述の自動処理でなく、前記画像データを視認した医師等による手入力で設定してもよい。また、がん細胞等のターゲットTの特定も同様に行われる。
【0030】
次に、要素分割部20において、有限要素法における要素Mの形状と当該各要素Mの節点(ノードN)の数とを指定し、デラウニー法等の公知の手法を使い、形状位置特定部19で求めた肝臓の形状から肝臓全体を複数領域に分割し、メッシュ(図2(A)参照)が生成される。なお、図2(A)においては、図面の錯綜を回避するため、肝臓モデル26の一部領域のみ要素Mを記載し、残りの領域における要素Mの記載は省略している。
【0031】
その後、剛体方程式決定部21では、以下のように有限要素法を使って剛体方程式が決定される。すなわち、先ず、形状位置特定部19で求められた肝臓の各構成組織の位置と、要素分割部20で決定された各要素Mとを対比することにより、各要素Mが肝臓のどの構成組織に該当するのかが特定される。そして、各要素Mそれぞれについて、記憶部18で構成組織毎に記憶された肝臓の弾性率及びポアソン比のうち該当する組織のものが選択され、公知の構造計算によって、各要素Mの周囲のノードNにかかる荷重と当該要素Mの変形情報との関係式が求められる。ここでの変形情報は、要素Mを構成するノードNの変位と、当該要素M内に作用する応力及びひずみを指す。そして、前記関係式から肝臓モデル全体の剛性方程式が求められる。ここで、剛性方程式は、各ノードNに作用する外力ベクトルF、全体の剛性マトリックスK、ノードNの変位ベクトルUとすると、次式(1)の関係で表せる。
【数1】
JP0005105330B2_000002t.gif
以上の剛性方程式により、各ノードNに作用する強制変位が特定できれば、そのノードNに作用する外力ベクトルFと、各ノードNの変位や各要素Mの応力が算出可能となる。
【0032】
また、作成された肝臓モデル26について、肝臓表面における針の刺入位置P(押圧部分P)に該当するノードN(以下、「刺入ノードN」と称する。)が特定され、肝臓内部に存在するがん細胞等のターゲットTの基準点に該当するノードN(以下、「ターゲットノードN」と称する。)が特定される。
【0033】
その後、刺入条件として、任意に設定した刺入位置P及び刺入角度θが装置内に入力される。
【0034】
次に、応力算出手段12により、モデル作成手段11で作成された肝臓モデル26を使って以下のシミュレーションを行うことにより、予め入力した刺入条件による押圧部分Pの近傍の応力が、以下のように求められる(応力算出ステップ:S102)。
【0035】
ここでは、予め設定した刺入角度θで針が一定方向に一定速度で刺入ノードN(押圧部分P)を押圧し、当該刺入ノードNが強制変位すると仮定して演算が行われる。つまり、肝臓モデル26内に作用する外力は、刺入ノードNのみに一定方向しか作用しないと仮定される。そして、前記切断位置となる刺入ノードNの位置(変位量)を連続的に変化させ、各切断位置それぞれについて、刺入ノードNを含む一つの要素M(以下、「刺入要素M」と称する。)のスカラー応力である針近傍の応力σが求められる。なお、図2(A)においては、説明の便宜上、刺入要素Mの領域を網掛け表示している。
【0036】
具体的に、刺入ノードNの位置が既知で、未知の外力ベクトルF(押圧力)が刺入ノードNのみに作用するという条件から、上式(1)により、ターゲットノードNを含む肝臓モデル26内の各ノードNの変位ベクトルUと外力ベクトルFが求められる。そして、このように各ノードNの位置が求まると、記憶部18で記憶された該当する構成組織の弾性率及びポアソン比を使った構造計算によって、刺入要素Mにおける応力のスカラー値となるミーゼス応力σが求められる。なお、ここで求める応力σとしては、スカラー値として求めることができる限り、他の手法で求めてもよい。そして、刺入ノードNの変位量を変えながら、各切断位置それぞれについて、刺入要素Mの応力σが求められる。また、ここでの針近傍の応力σとしては、刺入ノードNの周囲の複数の要素Mを対象とし、これら各要素Mで求められたスカラー応力σを1つの要素M単位に平均化したものでもよい。
【0037】
次に、誤差算出手段13により、応力算出手段12で変化させた各外力ベクトルFそれぞれの場合について、ターゲットTに対する針の先端位置の位置誤差Lが演算される(誤差算出ステップ:S103)。つまり、先ず、前記切断位置をある値としたときに、上式(1)の剛体方程式を解くことで、ターゲットノードNの位置が演算される。そして、このときのターゲットノードNの位置と、予め設定した刺入方向に沿って針の先端が直線的に移動するとして設定された移動線Kとの最短距離が演算される。当該最短距離は、このときの刺入ノードNの変位量d(図2(B)参照)に対応して定まる位置誤差L(d)となる。そして、この位置誤差Lが、応力算出手段12で想定した各切断位置それぞれの場合について求められる。
【0038】
その後、期待値算出手段14により、次式(2)及び(3)を使って位置誤差Lの期待値IPが求められる(期待値算出ステップ:S104)。
【0039】
先ず、ガンマ分布を用いた次式(2)の確率密度関数に、応力算出手段12で各切断位置それぞれについて求めた刺入要素Mのスカラー応力σを代入し、各切断位置それぞれの場合について肝臓表面の切断確率f(σ)が求められる。
【数2】
JP0005105330B2_000003t.gif
ここにおいて、α、βは、ガンマ分布のパラメータ(定数)である。
【0040】
なお、本実施形態では、確率密度関数としてガンマ分布を用いているが、正規分布等他の分布関数を用いることもできる。
【0041】
そして、次式(3)により、位置誤差Lの期待値IPが求められる。つまり、ここでは、針先端の変位量dがある値のときの刺入要素Mの応力値σに対する切断確率f(σ)に、誤差算出手段13で求めたそのときの位置誤差L(d)を乗じ、この値を各変位量dそれぞれについて求め、総合計することで期待値IPが求められる。
【数3】
JP0005105330B2_000004t.gif

【0042】
最後に、判定手段15により、上式(3)で算出した位置誤差Lの期待値IPが予め設定した閾値以下か否かによって、予め入力した穿刺条件の良否が判定される(判定ステップ:S105)。つまり、ここでは、位置誤差Lが、前記閾値以下であれば、肝臓に進入する直前の針の先端位置が変わっても、ある領域を持ったターゲットTのどこかに穿刺できる可能性が高いとして、入力した穿刺位置P及び穿刺角度θが適切であると判定される。一方、期待値IPが閾値を超える場合は、入力した穿刺位置P及び穿刺角度θが不適切であると判定され、適切な刺入条件が見つかるまで、他の刺入条件について前述と同様の演算が行われる。なお、ここでの閾値は、ターゲットTの大きさを考慮して設定するとよい。
【0043】
従って、このような実施形態によれば、臓器表面を切断する直前の針の先端位置が状況によって変わっても、ターゲットTに穿刺できる確率が高いか否かの観点により、穿刺治療前に設定した穿刺位置P及び穿刺角度θの良否を判定することができる。その結果、医師の手で直接穿刺治療を行う場合や、マスタースレーブ式の手術ロボットを使って穿刺治療を行う場合に、針が臓器内に進入する際の臓器の変形状況が変わってターゲットTの位置が多少ずれても、当該ターゲットTに針を刺せる可能性が高くなる穿刺経路を事前にシミュレーションできるという効果を得る。
【0044】
なお、前記実施形態の変形例として、刺入位置P及び刺入角度θの他に刺入速度を刺入条件として予め入力し、当該刺入条件の良否を判定可能とする構成を採用することもできる。この場合は、モデル作成手段11で、臓器の弾性率やポアソン比の他に粘弾性係数が基礎データとして臓器の構成組織毎に記憶され、刺入速度も考慮したモデル26が作成される。このときの方程式は、粘弾性モデルを使った次式となる。
【数4】
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ここで、Cは、粘性マトリックスである。
そして、この変形例においては、上式(1)に代えて上式(4)を使うことにより、前述したように応力σと位置誤差Lが求められ、前述と同様に期待値IPが求められて、予め入力した刺入位置P、刺入角度θ及び刺入速度の良否が判定される。
【0045】
また、前記実施形態及び変形例について、相互に相違する複数の刺入条件を一度に入力し、若しくは、複数の刺入条件を装置内で自動的に生成し、前記判定手段15で、最小の期待値IPが得られた刺入条件を最適条件として呈示するようにしてもよい。
【0046】
更に、撮像装置Cによる撮像データを使って臓器モデル26を作成せずに、所定の臓器モデル26を予め装置内に記憶させることで、前記モデル作成手段11の省略も可能である。
【0047】
その他、本発明における装置各部の構成は図示構成例に限定されるものではなく、実質的に同様の作用を奏する限りにおいて、種々の変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本実施形態に係る穿刺プランニング支援装置の機能ブロック図。
【図2】(A)は、有限要素法上の要素とノードを説明するための臓器(肝臓)の概念図であり、(B)は、(A)に対して臓器の切断条件が異なる場合の状態を概念的に示した図である。
【図3】前記穿刺プランニング装置での処理手順を示すフローチャート。
【符号の説明】
【0049】
10 穿刺プランニング支援装置
11 モデル作成手段
12 応力算出手段
13 誤差算出手段
14 期待値算出手段
15 判定手段
26 モデル
K 移動線
L 位置誤差
P 刺入位置(押圧部分)
T ターゲット
θ 刺入角度
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2