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明細書 :細胞培養用多孔性シート状物とそれを用いたバイオリアクター及び培養方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4555967号 (P4555967)
登録日 平成22年7月30日(2010.7.30)
発行日 平成22年10月6日(2010.10.6)
発明の名称または考案の名称 細胞培養用多孔性シート状物とそれを用いたバイオリアクター及び培養方法
国際特許分類 C12M   3/00        (2006.01)
C12N   5/00        (2006.01)
FI C12M 3/00 A
C12N 5/00 201
請求項の数または発明の数 7
全頁数 9
出願番号 特願2006-531753 (P2006-531753)
出願日 平成17年8月12日(2005.8.12)
国際出願番号 PCT/JP2005/014811
国際公開番号 WO2006/019043
国際公開日 平成18年2月23日(2006.2.23)
優先権出願番号 2004237002
優先日 平成16年8月17日(2004.8.17)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成19年2月8日(2007.2.8)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504174135
【氏名又は名称】国立大学法人九州工業大学
発明者または考案者 【氏名】児玉 亮
個別代理人の代理人 【識別番号】100077263、【弁理士】、【氏名又は名称】前田 純博
審査官 【審査官】田中 晴絵
参考文献・文献 特開昭62-171672(JP,A)
実開平06-057189(JP,U)
国際公開第01/014517(WO,A1)
調査した分野 C12M 3/00-3/10
BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN)
JSTPlus(JDreamII)
特許請求の範囲 【請求項1】
筒状のリアクター本体(6)内に、培地回収用多孔質チューブ(5)と、スペーサー(4)
と、該スペーサー間に設けられた細胞の接着及び細胞の通過を許容する多孔性シート状物
(3)とを収容した培養空間を備えたバイオリアクターであって、該リアクターは、リアクター本体(6)に形成された少なくとも1つの培地入口ポート(1)から供給された培地が、培養空間を通過し培地回収用多孔質チューブ(5)を経て、該多孔質チューブ(5)の一端と連通した培地出口ポート(2)から流出するように形成されており、該多孔質チューブ(5)とスペーサー(4)は細胞が通過できる様になっており、且つ、該多孔性シート状物(3)は、親水化された表面が熱感受性ポリマー層で被覆されていることを特徴とするラジアルフロータイプのバイオリアクター。
【請求項2】
熱感受性ポリマー層が、熱感受性ポリマーと細胞接着性物質の混合物又は化学的反応物からなる請求項1項記載のバイオリアクター。
【請求項3】
熱感受性ポリマーが、多孔性シート状物の親水化された表面に化学的に結合している請求項1又は2記載のバイオリアクター。
【請求項4】
細胞接着性物質が、多孔性シート状物の親水化された表面に化学的に結合している請求項1又は2記載のバイオリアクター。
【請求項5】
スペーサーが、複数のプラスチック製のロッドである請求項1~4のいずれか1項記載のバイオリアクター。
【請求項6】
スペーサーが、繊維不織布である請求項1~4のいずれか1項記載のバイオリアクター。
【請求項7】
請求項1のバイオリアクターにおいて、細胞を多孔性シート状物に接着又は付着させ、リアクター本体に形成された少なくとも1つの培地入口ポートから培地を供給し、培養空間を通過させた後、培地回収用多孔質チューブを経て、該多孔質チューブの一端と連通した地出口ポートから培地を流出させつつ、細胞を培養し、次いで培養温度より高い又は低い条件下で多孔性シート状物の熱感受性ポリマー層を破壊し、細胞及び/又は細胞の分泌物を回収することを特徴とする細胞の培養方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、有用細胞などの微細生命体または生命体の一部を、バイオリアクターで、機能を保ったままあるいは向上させて培養し、その後そのままの状態で細胞及び/又は細胞の分泌物を回収するシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、細胞を増殖させ回収する方法は数多く、提案されている。しかし、殆ど全てが、デイッシュ(培養皿)を用いる方法であり、培養できる細胞数が限定されていた。また、培養基材として熱感受性ポリマーを用いている場合は、ポリマーのゲル内あるいはゲル上に、シート状あるいはスフェロイド状に細胞を増殖させ回収するので、実際の細胞の存在状態とは異っている。熱感受性ポリマーを用い、環境の温度変化によって培養細胞を回収する方法については、例えば、以下の特許文献1~3に詳しく述べられている。
【0003】

【特許文献1】特開平2-211865号公報
【特許文献2】特開平5-38278号公報
【特許文献3】特開平5-244938号公報
【0004】
また、バイオリアクターを用いて細胞培養を行う方法では、従来法の多くは、供給される培地の流れがラジアルフロータイプでないために、バクテリアや細胞等の組織を多量に固定すると栄養分や酸素の十分な供給が難しい上に、その濃度のコントロールも難しく、そのためバクテリアや細胞等の組織の壊死を回避することが困難であった。なお、ラジアルフロータイプのバイオリアクターについては、例えば、下記の非特許文献1に紹介されている。
【0005】

【非特許文献1】水谷悟「バイオサイエンスとインダストリー」Vol.48No.4 p337-342(1990)
【0006】
また、例えば、ポリアミノ酸ウレタン共重合体を用いて多孔性シート状物の表面を親水化すれば、細胞培養膜の細胞接着性と生体適合性が改善できることも、本発明者によって提案されている(特許文献4)。しかしながら、これらの従来技術を如何に組合わせれば、従来技術の種々の問題点がトータル的に改良できるかどうかについて、これまで検討・提案されたことはなかった。
【0007】

【特許文献4】特開2001-136960号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、従来技術の上記の問題点を解決することを目的とするものであり、そのために、細胞(組織や微生物を含む)等を、細胞接着可能な熱感受性ポリマーを組み込んだ多孔性シート状物に固定する手段と、その細胞の生物活性を維持するために効率のよい培地の供給手段を備え、そして、細胞を活性化又は増殖させた後、培地温度を変化させ熱感受性ポリマーの形態変化により、細胞をそのままの状態で分離し・回収するための手段、及び/又は、細胞の分泌物を分離・回収するための手段を備えたバイオリアクターと、それを用いた細胞の培養方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第一の態様は、以下の様なラジアルフロータイプのバイオリアクターである。即ち、図1に示した様に、筒状のリアクター本体6内に、培地回収用多孔質チューブ5と、スペーサー4と、このスペーサー間に設けられた細胞の接着及び細胞の通過を許容する多孔性シート状物3とを収容した培養空間を備えたバイオリアクターであって、このリアクターは、リアクター本体6に形成された少なくとも1つの培地入口ポート1から供給された培地が、培養空間を通過し培地回収用多孔質チューブ5を経て、この多孔質チューブ5の一端と連通した培地出口ポート2から流出するように形成されており、この多孔質チューブ5とスペーサー4は細胞が通過できる様になっており、且つ、この多孔性シート状物3は、親水化された表面が熱感受性ポリマー層で被覆されていることを特徴とするラジアルフロータイプのバイオリアクターである。
【0010】
本発明のバイオリアクターは、以下の様な方法で操作され、細胞が培養又は増殖される。
前記バイオリアクターにおいて、細胞を多孔性シート状物に接着又は付着させ、リアクター本体に形成された少なくとも1つの培地入口ポートから培地を供給し、培養空間を通過させた後、培地回収用多孔質チューブを経て、この多孔質チューブの一端と連通した培地出口ポートから培地を流出させつつ、細胞を増殖又は培養し、次いで培養温度より高い又は低い条件下で多孔性シート状物の熱感受性ポリマー層を破壊し、細胞及び/又は細胞の分泌物を回収する。
【0011】
本発明の他の態様は、上記バイオリアクターと培養方法に好適に用いられるモジュールを構成する細胞培養用多孔性シート状物に関するものであり、多孔性シート状物の親水化された表面が、熱感受性ポリマー層で被覆されていることを特徴とする細胞培養用多孔性シート状物である。この細胞培養用多孔性シート状物は、それ自体が本発明の態様の一つであり、本発明のラジアルフロータイプのバイオリアクター以外のバイオリアクターに用いても、好ましい結果を与える。なお、本発明において細胞というときは、複数の細胞から形成された組織、微生物等の生体も含むものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、多量の細胞を培養又は増殖させ、しかも安定に、培養又は増殖した細胞を回収することができる。従って、本発明を利用して、今まで増殖が困難で支障をきたしていた幹細胞も増殖することができ、再生医療や組織工学、あるいは細胞利用のバイオ産業に貢献できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明のバイオリアクターの一例の内部構造を示す図である。
【図2】本発明のバイオリアクター本体内における、多孔性シート状物とスペーサーの収納状態を説明するための概略図である。
【図3】酸素消費速度の測定結果を示す図である。
【図4】アルブミン分泌速度の測定結果を示す図である。
【図5】グルコース消費速度の測定結果を示す図である。
【符号の説明】
【0014】
1 培地入口ポート
2 培地出口ポート
3 多孔性シート状物
4 スペーサー
5 培地回収用多孔質チューブ
6 リアクター本体
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の多孔性シート状物は、細胞の接着及び細胞の通過を許容し、しかも親水化されたその表面が熱感受性ポリマー層で被覆されているものである。多孔性シート状物とは、細胞の接着及び細胞の通過を許容するものであれば、その材質や形態に特に制限はないが、好ましいのは、公知の有機ポリマー、例えば、PTFEなどの含フッ素ポリマー、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリウレタン、セルロース繊維、再生セルロース繊維、ポリアミド、ポリイミドから形成された多孔性不織布である。
【0016】
本発明の多孔性シート状物は、細胞の通過を可能にするのに十分な孔径を有しているため、細胞の移動が可能であり、多量に細胞、微生物、組織を保持しても目詰まりが起こり難い。孔径としては200μm以上、好ましくは200~500μm程度である。
【0017】
本発明の多孔性シート状物は、その表面が親水化され熱感受性ポリマー層で被覆されているものであるが、親水化の方法・手段は特に制限されない。多孔性シート状物が、本来親水性のポリマーから形成されている場合には、特に改めて親水化処理を施さなくても良い。好ましくは、多孔性シート状物は、親水化し細胞の接着を促進するために、ポリアミノ酸・ウレタン共重合体(特許文献4参照)、コラーゲン、ゼラチン、アルブミン、フィブロネクチンなどの蛋白質、ハイドロゲル等で表面処理される。
【0018】
表面が親水化された多孔性シート状物は、更に、熱感受性ポリマー層でその上を被覆・処理される。熱感受性ポリマー層は、熱感受性ポリマー単独であっても、熱感受性ポリマーと細胞接着性物質の混合物又は化学的に反応したものからなるものでも良い。被覆の状態は、熱感受性ポリマーでコーティングしたもの、細胞接着性物質と熱感受性ポリマーの混合物又は化学的反応物でコーテイングしたもの、あるいは熱感受性ポリマーが親水化された表面に化学的に結合していても良く、また、細胞接着性物質が、親水化された表面に化学的に結合していても良い。被覆は部分的であってもかまわない。
【0019】
本発明の熱感受性ポリマーとは、加温または降温によりゾルからゲルへ、あるいはゲルからゾルに相転移するポリマーのことを意味する。細胞培養終了後、温度を、例えば、37℃から25℃以下に変化させるだけで、ゲル状の熱感受性ポリマー層がゾル状になり、増殖した細胞の剥離、回収を行うことが可能となる。
【0020】
本発明において用いられる熱感受性ポリマーとしては、相転移の温度が0~80℃、好ましくは0~50℃を有するものが適当である。80℃を越えると細胞が死滅する可能性があるので好ましくなく、0℃より低いと一般に細胞増殖速度が極度に低下するか、又は細胞が死滅してしまうため好ましくない。
【0021】
熱感受性ポリマーは、特許文献2等で公知であるが、例えば、以下のモノマーの重合または共重合により製造することができる。即ち、アクリルアミド、メタクリルアミドなどの(メタ)アクリルアミド化合物、N-エチルアクリルアミド、N-n-プロピルアクリルアミド、N-n-プロピルメタクリルアミド、N-イソプロピルアクリルアミド、N-イソプロピルメタクリルアミド、N-シクロプロピルアクリルアミド、N-シクロプロピルメタクリルアミド、N-エトキシエチルアクリルアミド、N-エトキシエチルメタクリルアミド、N-テトラヒドロフルフリルアクリルアミド、N-テトラヒドロフルフリルメタクリルアミド等のN-アルキル置換(メタ)アクリルアミド誘導体、N-エチル-N-メチルアクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミド等のN,N-ジアルキル置換(メタ)アクリルアミド誘導体等の重合体又共重合体である。特に好ましいのは、N-イソプロピルアクリルアミドの重合体である。
【0022】
細胞接着性物質とは、細胞接着性のある天然又は合成物質である。天然物質の例としては、オリゴ糖、ゼラチン、コラーゲン、フィブロネクチン、ラミニン、フィブリン、さらにそれらの成分である細胞接着ペプチド等が挙げられる。また合成物質としては、細胞接着性基を含有したモノマーを単独重合又は共重合したもの、あるいは、細胞接着性基を含有したモノマーと含有しないモノマーとを共重合することで得られる。その細胞付着性基としては、例えば、カルボン酸基及びその塩、無水物、スルホン酸基及びその塩、スルホン酸エステル、スルホン酸アミド、リン酸基及びその塩、アミノ基、水酸基、長鎖アルキル基、メルカプト基、エーテル基、チオエーテル基、ポリエーテル基、ケトン基、アルデヒド基、アシル基、シアノ基、ニトロ基、アシルアミノ基、ハロゲン基、グリシジル基、アリル基が挙げられる。
【0023】
本発明の培地回収用多孔質チューブは、培地と細胞が十分通過できる孔を持っており、培地入口ポートから供給された培地は、培養空間を通過し培地回収用多孔質チューブを経て、これの一端と連通した培地出口ポートから流出される。培地回収用多孔質チューブの材質、形状は特に限定されるものではないが、例えば、ポリエチレン又はポリ4-フッ化エチレン樹脂製で、筒状でリアクター本体内の中心軸に沿って形成されたものが好ましい。
【0024】
本発明の多孔性シート状物は、バイオリアクターの培養空間において、例えば、培地回収用多孔質チューブにらせん状に巻いて、バイオリアクターのモジュールに組み込まれる。この際、本発明においては、細胞が接着あるいは付着した多孔性シート状物の保護のために、あるいは多孔性シート状物同士が密着するのを防ぐために、スペーサーが用いられる。
【0025】
スペーサーとしては、前記目的を達し、且つ、細胞や培地の通過を妨げないものであれば、その材質、形状に特に制限はない。例えば、公知の有機ポリマーの多孔性フィルム、繊維の多孔性織編物や不織布、プラスチック製のネット、ロッド、あるいはワイヤーを単独であるいは組合わせて用いることができる。ロッドの場合には、10~300本程度使用すれば良い。多孔性フィルムや多孔性織編物や不織布は、細胞の通過を許容するものである必要があり、その孔径は通常200~1,000μm程度が適当である。本発明において、繊維の織編物や不織布等の多孔性のスペーサーを、多孔性シート状物と重ね合わせて用いると、取り扱いの点で特に便利である。また、本発明においてスペーサーは、バイオリアクターの培養空間において、多孔性シート状物の固定のための充填物としての役割も有する。
【0026】
以下、図を用いて本発明のバイオリアクターについて説明する。図1に示した様に、バイオリアクター本体6には、培地の流出のための培地回収用多孔質チューブ5、培地および細胞の通過が可能であり、その表面で細胞が単独で或いは集団で接着および生育可能な多孔性シート状物3、及びスペーサーとなるチューブあるいは不織布等4が収納されている。なお、バイオリアクター本体は、材質、形状等特に制限はないが、円筒状、角筒状などの筒状の形状のものが望ましい。培地回収用多孔質チューブ5は、培地等の液体と細胞が自由に通過できる孔径、通常200~2,000μmの孔径を有する。スペーサーは、リアクター本体の中心軸に平行に固定されるのが好ましい。リアクター本体に形成される培地入口ポート1は、1個でも2個以上であってもよいが、通常1~6個、好ましくは2~4個、特に好ましくは2個形成される。培地入口ポートを複数個形成する場合、その位置は、リアクター本体の軸方向の中心に対し対称の位置に形成するのが好ましい。また、図には示さなかったが、バイオリアクターにおいて、培地入口ポート1はポンプを介して培地調整槽あるいは培地タンクに接続されており、培地出口ポート2は酸素付加膜を経て同じ培地調整槽あるいは培地タンクに接続している。培地調整槽においては、培地のpH,溶存酸素濃度等が調節される。
【0027】
図1において、多孔性シート状物は、図2に示した様にらせん状に巻いて、スペーサーを挟み込みながら、リアクターの中心軸に対して巻回して配置されている。多孔性シート状物は、この様にバイオリアクターのモジュールに組み込まれており、そして培養空間内の多孔性シート状物上で、細胞が培養される。筒状のリアクター本体6内に培地回収用多孔質チューブ5、スペーサー4、細胞の通過を許容する多孔性シート状物3を収容した培養空間があり、リアクター本体6に形成された少なくとも1つの培地入口ポート1から供給された培地は、培地空間で、図2に示した様に、両側に分かれて円周方向に沿う流れと、中心の培地回収用多孔質チューブ5に向けての流れ(ラジアルフロー)を形成し、その後、培地は中心の培地回収用多孔質チューブ5に集まり、この一端と連通した培地出口ポート2から流出される。なお、培地回収用多孔質チューブ5の他端はシールされ、培地回収用多孔質チューブ5に流れ込んだ培地は、培地出口ポート2へ向かうようになっている。培地は、培地調整槽(図示せず)からポンプ(図示せず)等を通過して後、培地入口ポート1から培養空間に入り込み、中心の培地回収用多孔質チューブ5を通り、培地入口ポート2を経て、酸素付加膜(図示せず)等を通過して、再び培地調整槽に戻る。
【0028】
本発明の多孔性シート状物は、親水化されたその表面が熱感受性ポリマー層で被覆されているので、例えば、37℃で細胞を増殖固定した後、培地の温度を25℃近傍まで下げて、熱感受性ポリマー層と細胞を、多孔性シート状物の基体シートから剥離することができる。かかる操作により、細胞は何ら損傷を受けることなく、そのままの状態で剥離される。そして、例えば、剥離した細胞は培地や細胞分泌物等と共に取り出した後、それぞれ公知の適当な方法で分離・精製される。あるいは、培養・増殖した細胞が付着した状態で多孔性シート状物を取り出し、例えば、外で降温させて、熱感受性ポリマーの特性により細胞を分離し、メンブレンを用いて細胞の回収と多孔性シート状物の洗浄を行うこともできる。
【0029】
本発明において、用いられる細胞については何らの制限もなく、また、培地としても、公知の細胞の増殖又は培養細胞などが生育可能な液を広く使用できる。また、酸素濃度、グルコース等の栄養濃度のコントロールも自由に行うことができる。
【0030】
本発明のバイオリアクターは、図1、図2で示されるように、細胞を高効率で充填することができ、しかも、その活性維持ができるシステムになっている。そしてまた容易に、増殖した細胞及び/又は細胞の分泌物を回収できるシステムとなっている。以下、本発明を実施例に従い、より詳細に説明する。
【実施例1】
【0031】
図1に示されるバイオリアクターにおいて、肝細胞を多孔性シート状物3に付着させ、培地入口ポート1から、肝細胞が生育可能なアルブミンを含まない培地を供給しながら、培養空間内で37℃で肝細胞を培養した。そして、酸素消費速度とアルブミンの培地中への分泌速度を測定した。結果は図3に示したように、播種してから8日間安定した酸素消費を示した。また、図4に示したように、7日間アルブミンの分泌が認められた。8日後に、37℃から25℃に降温して細胞を回収したところ、1×109個播種して、2×108個回収できた。また、細胞の形態は正常であった。
【0032】
なお、多孔性シート状物3としては、ポリアミノ酸・ウレタン共重合体で処理されたPTFEからなる多孔性シート状物を、また、熱感受性ポリマー層としては、NIPAM(ポリ-N-イソプロピルアクリルアミド)を用いた。スペーサー4としては、レーヨンファブリックを用いた。
【実施例2】
【0033】
図1に示されるバイオリアクターにおいて、L929細胞を多孔性シート状物3に付着させ、培地としてL929細胞が生育可能な培地を供給しながら、培養空間内で37℃でL929細胞を培養した。そして、グルコース消費速度を測定し、結果を図5に示した。グルコース消費速度は、3日目まで上昇し、このリアクター内で細胞が活性を保ちつつ増殖していることがわかる。
【実施例3】
【0034】
図1に示されるバイオリアクターにおいて、CHO-K1細胞を多孔性シート状物3に1×108個播種して、CHO-K1細胞が生育可能な培地を供給しながら、培養空間内で37℃で1週間培養後、25℃に降温すると、細胞が脱離するのが認められた。細胞の回収率は40%であった。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明のバイオリアクターを用いると、多量の細胞を培養又は増殖させ、しかも安定に、細胞や細胞の分泌物を回収することができる。従って、例えば、今まで増殖が困難で支障をきたしていた幹細胞も増殖することができ、再生医療や組織工学、あるいは細胞利用のバイオ産業に貢献できると考えられる。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4