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明細書 :テラヘルツ電磁波放射素子及びその製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4423429号 (P4423429)
登録日 平成21年12月18日(2009.12.18)
発行日 平成22年3月3日(2010.3.3)
発明の名称または考案の名称 テラヘルツ電磁波放射素子及びその製造方法
国際特許分類 H01S   1/02        (2006.01)
FI H01S 1/02
請求項の数または発明の数 11
全頁数 14
出願番号 特願2006-535106 (P2006-535106)
出願日 平成17年8月23日(2005.8.23)
国際出願番号 PCT/JP2005/015277
国際公開番号 WO2006/030608
国際公開日 平成18年3月23日(2006.3.23)
優先権出願番号 2004265011
優先日 平成16年9月13日(2004.9.13)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成19年2月9日(2007.2.9)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504174135
【氏名又は名称】国立大学法人九州工業大学
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
発明者または考案者 【氏名】尾辻 泰一
【氏名】佐野 栄一
個別代理人の代理人 【識別番号】100108660、【弁理士】、【氏名又は名称】大川 譲
審査官 【審査官】傍島 正朗
参考文献・文献 特開平06-110095(JP,A)
Mitsuhiro Hanabe, et al,Effect of photogenerated electrons on the terahertz plasma-wave resonance in HEMT's under interband photoexcitation,Proc. SPIE,2004年 9月 3日,Vol. 5466,pp.218-225
Tamotsu Hashizume, et al,Al2O3 Insulated-Gate Structure for AlGaN/GaN Heterostructure Field Effect Transistors Having Thin AlGaN Barrier Layers,Japanese Journal of Applied Physics, Part 2: Letters,2004年 6月15日,Volume 43, Issue 6B,pp. L777-L779
R. J. Wilkinson, et al,Plasmon excitation and self-coupling in a bi-periodically modulated two-dimensional electron gas,Journal of Applied Physics,1992年 6月15日,Volume 71, Issue 12,pp.6049-6061
Shin'ichi Katayama and Takuma Tsuchiya,Far-infrared emission spectra from hot two-dimensional plasma in heterojunctions,Solid-State Electronics,1998年 7月 8日,Volume 42,pp.1561-1564
V. Ryzhii, et al,Terahertz photomixing in quantum well structures using resonant excitation of plasma oscillations,Journal of Applied Physics,2002年 2月15日,Volume 91, Issue 4,pp.1875-1881
S. A. Mikhailov,Plasma instability and amplification of electromagnetic waves in low-dimensional electron systems,Phys. Rev. B,1998年,Volume 58, Number 3,pp.1517 - 1532
Otsuji, T., et al,A novel terahertz plasma-wave photomixer with resonant-cavity enhanced structure,Conference Digest of the 2004 Joint 29th International Conference on Infrared and Millimeter Waves, 2004 and 12th International Conference on Terahertz Electronics, 2004.,2004年 9月27日,pp.331-332
調査した分野 H01S 1/00 - 3/30
Science Direct
IEEE Xplore
CiNii
JSTPlus(JDreamII)
特許請求の範囲 【請求項1】
2つのコヒーレントな光波を入力し、混合してその差周波数に対応したテラヘルツ電磁波を放射出力するテラヘルツ電磁波放射素子において、
半絶縁性の半導体バルク層と、
該半導体バルク層の直上に半導体ヘテロ接合構造によって形成される2次元電子層と、
該2次元電子層の側面の一部に電気的に接続されたソース電極と、
該ソース電極に対向する該2次元電子層の側面の他の一部に接続されたドレイン電極と、
該2次元電子層の上面近傍に該2次元電子層と平行に、2つの異なる直流バイアス電位を交互に設定できる2重ゲート電極格子と、
該半導体バルク層の下面に接して膜状に形成されたテラヘルツ帯では反射鏡として機能し、かつ光波帯では透明な、透明金属ミラーと、
によって構成され、
2つの光波を該透明金属ミラーの下面より入射させ、かつ、2重ゲート電極格子に2つの異なる直流バイアス電位を交互に与え、該2重ゲート電極格子の配位に対応して2次元電子層の電子濃度を周期的に変調せしめたこと、
を特徴とするテラヘルツ電磁波放射素子。
【請求項2】
前記2重ゲート電極格子は、ゲート電極を櫛状にエッチングし、奇数番の櫛同士をチャネルの外側で接続し、偶数番の櫛同士をチャネルの外側で接続して形成された請求項1に記載のテラヘルツ電磁波放射素子。
【請求項3】
前記半導体バルク層の側面が該半導体バルク層よりは低い比誘電率を有する低誘電材料で被覆されたことを特徴とする請求項1又は2に記載のテラヘルツ電磁波放射素子。
【請求項4】
前記ソース電極と前記ドレイン電極の間に一定の直流バイアス電位を与え、該2次元電子層内の2次元電子を一様に直流ドリフト走行せしめたことを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載のテラヘルツ電磁波放射素子。
【請求項5】
前記2重ゲート電極格子の第1の回折格子ゲート電極の格子幅がサブミクロンオーダに設定され、かつ、該第1の回折格子ゲート電極と近隣の第2の回折格子ゲート電極との間隔がサブミクロン以下に設定され、かつ、該第2の回折格子ゲート電極の格子幅がミクロンないしサブミクロンオーダに設定され、
前記2重ゲート電極格子の第1の回折格子ゲート電極のバイアス電位を制御することによって、該第1の回折格子ゲート電極直下の2次元電子層の電子濃度を10の11乗毎平方センチメートル乃至10の13乗毎平方センチメートルに設定し、2重ゲート電極格子の第2の回折格子ゲート電極のバイアス電位を制御することによって、該第2の回折格子ゲート電極直下の2次元電子層の電子濃度を準金属的に極めて高く設定するか、或いは半絶縁的に極めて低く設定したこと、
を特徴とする請求項1~4のいずれかに記載のテラヘルツ電磁波放射素子。
【請求項6】
前記2重ゲート電極格子が、該第1の回折格子ゲート電極直下の2次元電子層内と同程度の導電率を有する材料によって形成されたことを特徴とする請求項5に記載のテラヘルツ電磁波放射素子。
【請求項7】
前記2重ゲート電極格子の厚みが、該2重ゲート電極格子と該2次元電子層との間隔よりも薄いことを特徴とする請求項6に記載のテラヘルツ電磁波放射素子。
【請求項8】
前記2重ゲート電極格子が、半導体ヘテロ接合構造内に該2次元電子層の上部に積層してなる第2の2次元電子層をエッチング加工することによって形成され、かつ該第2の2次元電子層の導電率がゲートバイアス電位によって制御できることを特徴とする請求項7に記載のテラヘルツ電磁波放射素子。
【請求項9】
2次元電子層と透明金属ミラーの距離を、放射させる(テラヘルツ帯)電磁波の波長の(2n+1)/4倍(但しnは整数)に設定したことを特徴とする請求項6~8のいずれかに記載のテラヘルツ電磁波放射素子。
【請求項10】
2つのコヒーレントな光波を入力し、混合してその差周波数に対応したテラヘルツ電磁波を放射出力するテラヘルツ電磁波放射素子の製造方法において、
半導体バルク層となる基板の直上に半導体ヘテロ接合構造によって形成される2次元電子層と、該2次元電子層の側面の一部に電気的に接続されたソース電極と、該ソース電極に対向する該2次元電子層の側面の他の一部に接続されたドレイン電極と、を形成し、
該2次元電子層の上面近傍に該2次元電子層と平行に、2つの異なる直流バイアス電位を交互に設定できる2重ゲート電極格子を形成し、
該半導体バルク層の下面に接して膜状に形成されたテラヘルツ帯では反射鏡として機能し、かつ光波帯では透明な、透明金属ミラーを形成すること、
を特徴とするテラヘルツ電磁波放射素子の製造方法。
【請求項11】
前記半導体バルク層の側面を、該半導体バルク層よりは低い比誘電率を有する低誘電材料で被覆したことを特徴とする請求項10に記載のテラヘルツ電磁波放射素子の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、2つのコヒーレントな光波を入力し、混合してその差周波数に対応したテラヘルツ電磁波を放射出力するテラヘルツ電磁波放射素子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2次元電子システムは、サブバンド間エネルギーに相当する光学フォノンやフォトンによって、コヒーレントに分極振動励起される。この振動量子を2次元電子プラズモンと称する。一般的な2次元電子濃度(1011~1012cm-2)において、2次元電子プラズモンはミクロン乃至サブミクロンの波長領域で基本モード周波数がテラヘルツ帯に到達する。そのため2次元電子プラズモンは、テラヘルツ帯での電磁波発振・検出、周波数混合・逓倍等の機能を実現する機構としての可能性を秘めている。2次元電子プラズモンの物性研究は1970年代初頭に開始された。テラヘルツデバイスへの応用研究は1990年代に始まり、歴史はまだ浅く、実用的な素子開発には至っていない。
【0003】
高電子移動度トランジスタ(HEMT)構造における2次元電子プラズモンのテラヘルツ帯応用はM.DyakonovとM.Shurによって提案された(非特許文献1参照)。プラズモン共鳴周波数を決定する電子濃度は、ゲートバイアスで制御できるため、実用上重要な周波数可変特性を実現できる。ゲート・ソース間容量とゲート・ドレイン間容量のバイアス依存性の別により、ソース、ドレインの境界条件を非対称化することができる。ドレイン開放端において、放射モード電磁波の取り出しが可能である。ドレイン端からは奇数次高調波成分が、チャネル中央付近からは偶数次高調波成分が取り出せる。そこで、フォトン2光波でバンド間励起された光伝導電子の持つ差周波テラヘルツ成分によって2次元電子の濃度を変調すれば、テラヘルツ帯のプラズモン共鳴を誘起できる(非特許文献2,非特許文献3参照)。この2次元電子プラズモン共鳴波は、非放射モードであって外部放射は果たせないが、2次元プラズモンの近傍に金属回折格子(グレーティング)を配したり、アンテナ構造を配することにより、非放射モードのテラヘルツ帯2次元電子プラズモン振動を放射モード電磁波へ変換することが可能である(非特許文献3,4参照)。かくして、2次元電子プラズモンを利用したテラヘルツ帯フォトミキサーが実現できるわけである。
【0004】
フォトミキサーを構成する場合に重要なのは以下の2点である。
(1)光波から2次元電子プラズモン共鳴への変換効率
(2)2次元電子プラズモン共鳴から放射電磁波への変換効率
このうち本発明が対象とする(2)2次元電子プラズモン共鳴から放射電磁波への変換効率について従来技術の推移を述べる。
【0005】
非放射モードの2次元電子プラズモン共鳴波から放射モード電磁波へのモード変換機構としてグレーティングカップラが導入されている。いわゆるSmith-Purcel効果としてよく知られている。
【0006】
R.J.Wilkinsonらは非特許文献5において、ゲート電極を入れ子状に2重回折格子型に形成して2次元電子濃度を周期的に変調し、その場合の遠赤外光の透過・反射特性を観測した。2次元電子濃度変調による回折格子構造が遠赤外光を効率よく吸収する光カップラとして機能することと、2次元電子濃度の変調によりプラズマ共鳴周波数が制御可能であることを主張した。
【0007】
S.A.Mikhailovは非特許文献4においてこのグレーティング構造が持つ構造パラメータと、2次元電子濃度、グレーティング部位の電子濃度、電子のドリフト速度、散乱緩和時間からなる材料物性パラメータを用いて電磁波伝搬特性を明らかにした。2次元電子がグレーティングによって周期的濃度変調を受けることによって定まるプラズマ周波数と、グレーティング自身のプラズマ周波数が等しくなると、電子の散乱が小さければプラズマ周波数の低域近傍で電磁波の透過係数が1を越えて増幅利得が得られることを示した。この具体策として金属グレーティングの代わりに導電率が2次元電子プラズモンと同程度に低い量子細線を導入する構造が提案された。
【0008】
X.G.Peraltaらは、非特許文献6において、2次元電子層を2層形成し、1重回折格子型ゲートで上層の2次元電子濃度を周期変調し、テラヘルツ電磁波照射による2次元電子層の光応答特性を観測した。周期的濃度変調を受けることによって定まるプラズマ周波数が光応答特性に与える共鳴特性が2次元電子層の2層化によって増強されることを示した。
【0009】
モード変換のためのグレーティング構造の導入はこのほか、V.Ryzhiiらが非特許文献3において、スパイラルアンテナ構造の導入を提案した例がある。

【非特許文献1】M.Dyakonov and M.Shur,Phys.Rev.Lett.,71(15),2465(1993)
【非特許文献2】T.Otsuji,Y.Kanamaru,et.al.,Dig.the 59th Annual Dev.Res.Conf.,Notre Dame,IN,97(2001)
【非特許文献3】V.Ryzhii,I.Khmyrova,and M.Shur,J.Appl.Phys.,Vol.91,No.4,1875(2002)
【非特許文献4】S.A.Mikhailov,Phys.Rev.B,Vol.58,pp.1517-1532,1998
【非特許文献5】R.J.Wilkinson,et.Al.,Journal of Applied Physics,Vol.71,No.12,pp.6049-6061,1992.
【非特許文献6】X.G.Peralta,et.Al.,Applied Physics Letters,Vol.81,No.9,pp.1627-1629,2002.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
以上のようにグレーティング結合した2次元電子プラズモンのプラズモン共鳴の研究例はあるが、プラズモン共鳴からテラヘルツ電磁波放射への変換効率は乏しく、フォトミキサーとしての実用化には障壁が高い。また、回折格子の周期性は周波数選択性を必然的に生じさせ、広帯域なモード変換を果たすことには本質的な無理がある。
【0011】
本発明は、以上の従来技術が抱える問題点を克服し、非放射2次元電子プラズモン波から放射電磁波への変換効率を向上させ、かつ広帯域な特性を実現することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のテラヘルツ電磁波放射素子は、2つのコヒーレントな光波を入力し、混合してその差周波数に対応したテラヘルツ電磁波を放射出力する。このテラヘルツ電磁波放射素子は、半絶縁性の半導体バルク層と、該半導体バルク層の直上に半導体ヘテロ接合構造によって形成される2次元電子層と、該2次元電子層の1辺に電気的に接続されたソース電極と、該ソース電極に対向する該2次元電子層の他の1辺に接続されたドレイン電極と、該2次元電子層の上面近傍に該2次元電子層と平行に、2つの異なる直流バイアス電位を交互に設定できる2重ゲート電極格子と、該半導体バルク層の下面に接して膜状に形成されたテラヘルツ帯では反射鏡として機能し、かつ光波帯では透明な、透明金属ミラーと、によって構成される。2つの光波を該透明金属ミラーの下面より入射させ、かつ、2重ゲート電極格子に2つの異なる直流バイアス電位を交互に与え、該2重ゲート電極格子の配位に対応して2次元電子層の電子濃度を周期的に変調せしめる。
【0013】
また、本発明のテラヘルツ電磁波放射素子の製造方法は、半導体バルク層となる基板の直上に半導体ヘテロ接合構造によって形成される2次元電子層と、該2次元電子層の1辺に電気的に接続されたソース電極と、該ソース電極に対向する該2次元電子層の他の1辺に接続されたドレイン電極と、を形成し、該2次元電子層の上面近傍に該2次元電子層と平行に、2つの異なる直流バイアス電位を交互に設定できる2重ゲート電極格子を形成し、該半導体バルク層の下面に接して膜状に形成されたテラヘルツ帯では反射鏡として機能し、かつ光波帯では透明な、透明金属ミラーを形成することを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、非放射2次元電子プラズモン波から放射電磁波への変換効率を向上させ、かつ、より広帯域性を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は本発明を具体化するテラヘルツ電磁波放射素子の第一の例を示す構造断面図である。
【図2】図2は本発明を具体化するテラヘルツ電磁波放射素子の第二の例を示す構造断面図であり、ゲート電極を量子細線で形成した例を示している。
【図3】図3は数値解析するために、図1に対応して単純化した構造を示す鳥瞰図である。
【図4】図4は図3に示す構造の断面図である。
【図5】図5は第一の例のテラヘルツ電磁波放射素子について、半絶縁性GaAsバルク層内のx軸中央で2次元電子層から0.4ミクロン下方の点の電界x軸成分のスペクトル強度分布を示す図である。
【図6】図6は第一の例のテラヘルツ電磁波放射素子について、空気層内のx軸中央で2次元電子層から0.4ミクロン上方の点の電界x軸成分のスペクトル強度分布を示す図である。
【図7】図7は第二の例のテラヘルツ電磁波放射素子について、半絶縁性GaAsバルク層内のx軸中央で2次元電子層から0.4ミクロン下方の点の電界x軸成分のスペクトル強度分布を示す図である。
【図8】図8は第二の例のテラヘルツ電磁波放射素子について、空気層内のx軸中央で2次元電子層から0.4ミクロン上方の点の電界x軸成分のスペクトル強度分布を示す図である。

【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、例示に基づき本発明を説明する。図1は、本発明を具体化するテラヘルツ電磁波放射素子の第一の例を示す構造断面図である。図中の半絶縁性バルク層を構成する基板の上に、半導体ヘテロ接合構造を形成する。半導体ヘテロ接合構造は、ワイドバンドギャップのバッファ層、ナローバンドギャップの真性半導体によるチャネル層、ドナーを2次元的にドープしたワイドバンドギャップの電子供給層(キャリア供給層)から構成され、その形成は、化合物トランジスタで量産・実用化されている、分子線エピタキシー(MBE)や金属有機気相エピタキシー(MOVPE)の技術によって、半絶縁性バルク層に半導体ヘテロ接合構造をナノメータ精度でエピタキシャル成長させることができる。
【0017】
バッファ層、チャネル層、電子供給層が1組となって、チャネル層と電子供給層とのチャネル側界面に2次元的に電子が閉じ込められて2次元電子層が形成される。電子供給層の上部に更に強くn型にドープした半導体エピタキシャル層をオーミック層として堆積して、チャネルの両端部分には、更に金属電極を成膜することで、金属電極とチャネル層がオーミック接続され、それぞれソース電極、ドレイン電極が形成される。一方チャネル上部の該オーミック層はリセスエッチングによって除去した後に、ゲート電極を形成する。ここまではHEMT素子の製造に用いられている標準的なプロセスそのものである。
【0018】
ゲート電極を櫛状にエッチングし、奇数番の櫛同士をチャネルの外側で接続し、偶数番の櫛同士をチャネルの外側で接続して、入れ子型2重回折格子状の複ゲート電極格子(便宜上、ゲート格子A,Bと称する)を形成する。ゲート格子AとBのバイアス電位を別にすることにより、ゲート格子直下の2次元電子層の電子濃度をゲート格子の周期で変調することができる。

【0019】
2重回折格子ゲートは、モリブデン等の導電率の低い準金属材料で形成するのがよい。2重回折格子ゲートのプラズマ周波数を2次元電子層のそれに接近できるからであり、これにより、テラヘルツ電磁波放射効率の増大が可能となる。また、ゲート電極の厚みはできる限り薄く(ゲート電極と2次元電子層との間隔以下に)形成することが放射率の向上には重要である。
【0020】
2重回折格子型ゲート電極を、例えば、半導体ヘテロ接合構造内に該2次元電子層の上部に積層してなる第2の2次元電子層をエッチング加工することによって形成すれば、電極の厚みは極限的に薄くでき、かつ、電極の導電率も2次元電子層のそれと同程度に低減できるので、2重回折格子型ゲートのプラズマ周波数を2次元電子層のプラズマ周波数に接近でき、放射効率の向上が果たせる。更には、該第2の2次元電子層の導電率がゲートバイアス電位によって制御できることから、2重回折格子型ゲートのプラズマ周波数を可変制御することも可能である。従って、放射したい電磁波周波数に応じて放射効率をより向上させることが可能である。
【0021】
このようにして、素子本体が作成された後に、半絶縁性バルク層(基板)を裏面から選択的にエッチングもしくは研磨し、低誘電材料のクラッド材を充填(埋める)する。このクラッド材は、半絶縁性バルク層の周囲を被覆するように、図1に図示した左右両側だけでなく、図中の手前側と奥側も被覆する。このように、半絶縁性バルク層の側面をそれよりも誘電率の低いクラッド層で覆うと、縦型共振器内への電磁波の閉じ込めが強まり、放射損を低減でき、より変換効率の向上が図れる。
【0022】
最後の工程として、半絶縁性バルク層の下面に、ITO(酸化インジウム・スズ)などの可視から近赤外光に対しては透明で金属並みの導電率を有する、従ってテラヘルツ電磁波には反射特性を示す透明金属を成膜する。これによって、光波入力は透過し、テラヘルツ電磁波にはミラーとして機能する透明金属ミラーを形成できる。
【0023】
次に、このようにして完成したテラヘルツ電磁波放射素子の動作を説明する。周波数がテラヘルツ程度に接近した2つのコヒーレントな直線偏光(電界ベクトルの向きを図1ではEで表示)の光波を、透明金属ミラーの下面より種光として入射させる。図1では2つの光波の波数ベクトルをk1,k2で、周波数をf0,f0+Δfで示している。例えば、該2光波のフォトンエネルギーが2次元プラズモンを構成する電子走行層のバンドギャップエネルギーよりも大きく、かつ他の半導体エピタキシャル層および半導体基板のバンドギャップエネルギーよりも小さい光波を用いることにより、光励起電子を生成することができる。当該光励起電子は、伝導帯ポテンシャルの自己傾斜によって加速され、差周波成分Δf成分を伴って2次元プラズモン領域に注入される。この光励起電子の差周波数成分Δf成分によって2次元プラズモンが励起される。かくして、2重ゲート格子に対応して離散化された2次元電子領域内ではプラズモン共鳴がこの差周波数成分Δfで励起される。単一2次元電子領域におけるプラズモン共鳴が励振源となり、これが2次元平面内に離散周期的にコヒーレントに励振される。この周期構造自体が放射電磁波モードへの変換を果たすことになるが、この周期的2次元電子層の周期性と電子濃度できまるプラズマ周波数近傍では、この2次元電子層の透過・反射特性が極を持ち、多くは透過率の低下をもたらすことが知られている。
【0024】
一方、この2次元電子層が反射特性を有することから、放射電磁波にとっては、2次元電子層と新たに設置する透明金属ミラーの間で縦方向に共振器が形成される。この共振器の定在波条件に放射電磁波周波数が合致する、すなわち、共振器長が放射させる(テラヘルツ帯)電磁波の波長の(2n+1)/4倍(但しnは整数)に一致すると、放射電磁波の反射成分によって共振器内の電磁波成分が重畳される。ところで、2次元プラズモンの伝導帯はサブバンドに分裂しているから、プラズモン領域に到達した当該反射テラヘルツ電磁波は、サブバンド間吸収によって2次元プラズモンを直接的に励起することができる。これが更なるプラズマ共鳴の励起につながり、プラズマ共鳴→電磁波放射の正帰還に至る。
【0025】
2次元電子層と透明金属ミラーの間で構成される縦型共振器の共振器長は半絶縁性バルク層の厚みによって固定化されるため、誘電率が一定値の周波数領域では共振周波数は固定化される。しかし、2次元電子層の反射率が十分に高くはないために、共振器のQ値(透明電極ミラーの反射率と2次元電子層の反射率によって定まる)は高くないことから、プラズマ周波数の近傍の比較的広い範囲で放射電磁波の増強効果が得られる。
【0026】
そこへ、2重回折格子型ゲート電極の存在により、2重回折格子型ゲート電極自身も導電率の高い電極領域が周期的に存在することからプラズマ周波数が特定され、このプラズマ周波数が2次元電子層のプラズマ周波数と同程度になれば、プラズマ周波数の低域近傍において、この領域を通過する電磁波のエネルギーは2次元電子プラズモンからのエネルギー供給を受けて増幅されることになる(S.A.Mikhailovの理論)。
【0027】
縦型共振器の共振周波数と2次元電子層ならびに2重回折格子型ゲートのプラズマ周波数をおおよそ一致もしくは接近させることによって、プラズマ周波数を挟む比較的広い周波数領域に渡り、高い電磁波放射効率を実現することができる。放射電磁波の波数ベクトルは図1ではΔkで示している。
【0028】
また、ソース電極とドレイン電極の間に一定の直流バイアス電位を与えることにより、該2次元電子層内の2次元電子を一様に直流ドリフト走行せしめることができる。
【0029】
図2は、本発明を具体化するテラヘルツ電磁波放射素子の第二の例を示す構造断面図であり、ゲート電極を量子細線で形成した例を示している。図示の構造は、先の第一の例とはゲート電極の構成においてのみ相違する。G1或いはG2と表示した量子細線にバイアスを印加することによって、その上部に形成した電子供給層からの電子供給量を調整できるため、量子細線中の電子濃度を制御でき、よって導電率(電子濃度に比例する)を制御できる。2重回折格子型ゲート電極のプラズマ周波数に応じて、電磁波放射効率が最大となる周波数は変移するため、当該ゲート電極を量子細線で形成するなどして電極の導電率を制御できるようにすることで、更なる広帯域化を果たすことができる。
【実施例1】
【0030】
図1に示したテラヘルツ電磁波放射素子のさらに具体的な構成例を例示する。半導体バルク層としては、半絶縁性GaAs(ガリウム砒素)を、そして、クラッド層としては、GaAsよりも誘電率の低いSi(窒化シリコン)、BCB(ベンゾシクロブテン)、ポリイミドなどの誘電体を用いることができる。半導体ヘテロ接合構造は、半導体バルク層上にワイドバンドギャップの真性GaAsなどでバッファ層を形成し、その上にナローバンドギャップの真性InGaAsで電子走行層(チャネル)を形成し、その上にワイドバンドギャップのn型InGaP層を形成する。このn型InGaP層は過剰な電子を有するn型半導体であり、電子走行層に電子を供給する役割を果たす。これは通常のHEMT(高電子移動度トランジスタ)と同じ機構である。この電子供給層の上部には、ソース電極(金属)、ドレイン電極(金属)を形成するために金属・半導体接合でオーミック接合(非ダイオード接合)を作る必要から、強いn型のn+GaAs層などを堆積し、更に金属(例えばAuやPt)電極を堆積してオーミック接合を作る。チャネル上部のゲート電極部は絶縁化が必要なので、このn+GaAs層はリセスエッチングし、Ti-Pt-Au或いはモリブデンなどによるゲート電極を堆積する。
【0031】
2重回折格子型ゲート電極の第1の回折格子ゲート電極の格子幅がサブミクロンオーダに設定され、かつ、該第1の回折格子ゲート電極と近隣の第2の回折格子ゲート電極との間隔がサブミクロン以下に設定され、かつ、該第2の回折格子ゲート電極の格子幅がミクロンないしサブミクロンオーダに設定される。また、2重回折格子型ゲート電極の第1の回折格子ゲート電極のバイアス電位を制御することによって、該第1の回折格子ゲート電極直下の2次元電子層の電子濃度を10の11乗毎平方センチメートル乃至10の13乗毎平方センチメートルに設定し、2重回折格子型ゲート電極の第2の回折格子ゲート電極のバイアス電位を制御することによって、該第2の回折格子ゲート電極直下の2次元電子層の電子濃度を準金属的に極めて高く設定するか、或いは半絶縁的に極めて低く設定することができる。
【実施例2】
【0032】
図1に示したテラヘルツ電磁波放射素子の実施例1とは別の構成例を例示する。半導体ヘテロ接合構造を、InP系ヘテロ接合構造にして、半導体バルク層を、半絶縁性InP(インジウム燐)によって、また、クラッド層を、InPよりも誘電率の低いSi(窒化シリコン)、BCB(ベンゾシクロブテン)、ポリイミドなどの誘電体によって形成することができる。半導体ヘテロ接合構造は、半導体バルク層上にワイドバンドギャップの真性InAlAsなどでバッファ層を形成し、その上にナローバンドギャップの真性InGaAsで電子走行層(チャネル)を形成し、その上にSiをドナーとしてδドープ(厚み方向にごく限られた領域のみにドープする意)したワイドバンドギャップのInAlAs層を形成する。このSi-δドープInAlAs層は過剰な電子を有するn型半導体であり、電子走行層に電子を供給する役割を果たす。これは通常のHEMT(高電子移動度トランジスタ)と同じ機構である。この電子供給層の上部には、ソース電極(金属)、ドレイン電極(金属)を形成するために金属・半導体接合でオーミック接合(非ダイオード接合)を作る必要から、強いn型のn+InGaAs層などを堆積し、更に金属(例えばAuやPt)電極を堆積してオーミック接合を作る。チャネル上部のゲート電極部は絶縁化が必要なので、このn+GaAs層はリセスエッチングし、Ti-Pt-Au或いはモリブデンなどによるゲート電極を堆積する。
【実施例3】
【0033】
ゲート格子直下の2次元電子層の電子濃度をゲート格子の周期で変調した結果について、説明する。
【0034】
電子走行層のチャネルに電子が誘起される閾値ゲートバイアスをVthとする。例えばInP系デバイス(実施例2参照)の場合、ゲート格子Aには例えばVth+0.3V、ゲート格子Bはそれより高く例えばVth+1.0Vに設定すると、ゲート格子Aの直下のチャネルには1011ないし1012cm-2の2次元電子濃度に、ゲート格子Bの直下のチャネルには1014cm-2以上の準金属的高電子濃度に設定できる。一方、ゲート格子Bのバイアスを格子Aのそれより低く例えばVth-0.2Vに設定すると、ゲート格子Bの直下のチャネルには10cm-2以下の半絶縁的低電子濃度に設定できる。
【0035】
まず、単独の格子A直下の2次元電子領域では、その領域の電子濃度と寸法:ゲート長(両側の異なる電子濃度領域までの間隔)に固有の周波数で電子プラズマが共鳴励振する。半導体ヘテロ接合材料系でゲート長をサブミクロン、電子濃度を1012cm-2程度の場合、プラズマ共鳴周波数はテラヘルツ帯に達する。フォトミキサーの場合は光波2波を照射し、この2波の周波数差をプラズマ共鳴周波数に設定しておくと、差周波テラヘルツ帯でプラズマ共鳴を励起できる。これが振動の源となる。この状態は、飛び飛びの格子A直下の領域で個々にプラズマ共鳴が励起されている。ちなみに単一の領域だけでは、このプラズマ共鳴は電磁波放射には至らない。なぜならプラズマ共鳴波の波長はゲート長オーダ(サブミクロン)であり、空間伝播するテラヘルツ電磁波の波長(数10ミクロン)とは桁違いであるからである。
【0036】
格子AとBが交互に繰り返し存在することから、プラズマ共鳴が飛び飛びの領域で励起される。この周期構造、言い換えれば、電子濃度がゲート格子の周期で変調された回折格子のような構造によって、この周期に対応した波長でも電子プラズマが共鳴することとなる。ここに至っては、飛び飛びの領域のプラズマ共鳴波が互いに結合しあい、全体として同期した大きな振動となる。この領域が空間伝播する電磁波の波長と同程度まで広いと、このプラズマ振動と垂直方向に電磁波放射が生じる。つまり非放射モードのプラズマ振動が放射モード電磁波へと変換が果たされることになる。この周期構造によって決まるプラズマ周波数fpは、この周期(格子AとBの1組の距離)を波長λの整数倍とし、電子濃度に依存した位相速度vpによってfp=vp/λで決定される。格子A直下の電子濃度領域のプラズマ周波数と格子B直下の電子濃度領域のプラズマ周波数は当然ながら異なり、格子A直下のプラズマ周波数をテラヘルツ領域に、格子B直下のプラズマ周波数をテラヘルツから大きく外すように設定することによって、格子A直下のプラズマ共鳴が種となってその周波数の電磁波放射が得られることになる。格子A、Bの周期はプラズマ周波数を所望の範囲に設定できるように決定される。ちなみにプラズマ周波数と周期性、電子濃度との関係は、非特許文献4に記されている。
【実施例4】
【0037】
以下、具体的な構造・材料を仮定して、図1に例示のテラヘルツ電磁波放射素子のテラヘルツ帯電磁波変換効率・放射効率の改善効果を示す。図3は、数値解析するために、図1に対応して単純化した構造を示す鳥瞰図であり、図4は、その断面図である。ここで、バッファ層や電子供給層は、半絶縁性バルク層と同一の性質(誘電率と導電率)として近似しており、また、図中の下部に示した数値目盛は、数値解析する領域をメッシュ状に分割したメッシュ数を単位とする座標値である。
【0038】
図示したような2次元電子層の電子濃度を1012cm-2とする幅0.1ミクロンの中濃度領域と電子濃度が1018cm-2と金属並みに高い幅1.9ミクロンの高濃度領域を交互に9周期分構成し、その上部に導電率が中濃度2次元電子層と同等のゲート電極を厚さ0.1ミクロンで周期的に形成し、その上部は空気層、2次元電子層の下部は半絶縁性GaAsバルク層とし、その下面には金属ミラーとして電気的完全反射条件を仮定する。この周期数は実施例3で示したような条件を満たすように選ぶ必要があり、本来は数10~数100周期とするべきであるが、例示のように、格子Aが9領域、格子Bが10領域で構成しても、電磁波放射特性の解析結果は構造依存性を示すため十分有効である。
【0039】
中濃度2次元電子領域のプラズマ周波数は、S.A.Mikhailovの理論(非特許文献4参照)により、ほぼ3.4THzとなる。GaAsの比誘電率を13.1として、2次元電子層と金属ミラーとの間隙に形成される縦型共振器の共振器長がこのプラズマ周波数3.4THzの1/4波長となるように設定する。また、2重回折格子型ゲート電極のプラズマ周波数も3.4THzに一致するように、S.A.Mikhailovの理論(非特許文献4参照)によって電極導電率を設定する。
【0040】
この周期的中濃度2次元電子領域にプラズマ共鳴が励起された場合の、プラズマ共鳴波から放射モード電磁波への変換、さらには素子上面の空気領域への電磁波放射電力を数値解析する。解析は、この周期的中濃度2次元電子領域をインパルス電流源で励振し、それによって生じた半絶縁性バルク層内、及び空気領域の特定の座標点における電界成分の周波数スペクトル強度分布を求める。ソースからドレイン電極方向をx軸に、金属ミラー面から上面への縦方向をz軸にとる。プラズマ共鳴波は、x軸方向の縦波振動波であり、放射電磁波は、電界がx軸成分で進行方向がz軸の平面波となるので、電界のx成分を求める。
【0041】
この構造の外周はすべて電磁波吸収境界条件を設定して時間領域有限差分法を用いて電磁波の伝播姿態の時間発展を数値解析し、その時間応答波形をフーリエ変換することによって周波数スペクトルを算出した結果を図5、図6に示す。なお、図中10THz以上の高周波域でのブロードで大きい電界成分のピークは数値解析上の誤差(振動的な解の収束誤差)であるので、無視することにする。
【0042】
図5は、半絶縁性GaAsバルク層内のx軸中央で2次元電子層から0.4ミクロン下方の点の電界x軸成分のスペクトル強度分布を示す。解析結果aは、裏面の金属ミラーと2重回折格子型ゲート電極を除去した構造、解析結果bは、裏面の金属ミラーは設置し、2重回折格子型ゲート電極を除去した構造、解析結果cは、裏面の金属ミラーと2重回折格子型ゲート電極を設置した本発明による構造である。金属ミラーの設置により、3.4THzを基本波とする共振効果が生じていることがわかる。更に、2重回折格子型ゲート電極の設置により、プラズマ周波数の3.4THz近辺にて電界成分の増大効果が見て取れる。
【0043】
図6は、空気層内のx軸中央で2次元電子層から0.4ミクロン上方の点の電界x軸成分のスペクトル強度分布を示す。図5の傾向と同様であるが、特に、2重回折格子型ゲート電極の設置により、プラズマ周波数の3.4THzの低域側の広い周波数範囲において電界成分の増大効果が見て取れる。
【0044】
周波数5THz付近より低い周波数領域では半絶縁性GaAsバルク層内も空気層内も電界成分の増大が得られており、電磁波放射利得が得られていることがわかる。利得が得られること自体は、S.A.Mikhailovの理論(非特許文献4参照)によって明らかであるが、本発明は、縦型共振器構造を導入することによって、従前にない高い利得と、より広い周波数特性を得ることができるのである。
【実施例5】
【0045】
次に、図2に例示の第二の例のテラヘルツ電磁波放射素子について、テラヘルツ帯電磁波変換効率・放射効率の改善効果を示す。第二の例によれば、図3,図4に示すような2次元電子層の電子濃度を1012cm-2とする幅0.1ミクロンの中濃度領域と電子濃度が10cm-2と半絶縁性GaAsバルク層並みに低い幅1.9ミクロンの低濃度領域を交互に9周期分構成し、その上部に導電率が中濃度2次元電子層と同等のゲート電極を厚さ0.1ミクロンで周期的に形成し、その上部は空気層、2次元電子層の下部は半絶縁性GaAsバルク層とし、その下面には金属ミラーとして電気的完全反射条件を仮定する。中濃度2次元電子領域のプラズマ周波数は、S.A.Mikhailovの理論により、ほぼ3.4THzとなる。GaAsの比誘電率を13.1として、2次元電子層と金属ミラーとの間隙に形成される縦型共振器の共振器長がこのプラズマ周波数3.4THzの1/4波長となるように設定する。また、2重回折格子型ゲート電極のプラズマ周波数も3.4THzに一致するように、S.A.Mikhailovの理論によって電極導電率を設定する。
【0046】
この周期的中濃度2次元電子領域にプラズマ共鳴が励起された場合の、プラズマ共鳴波から放射モード電磁波への変換、さらには素子上面の空気領域への電磁波放射電力を数値解析する。解析は、この周期的中濃度2次元電子領域をインパルス電流源で励振し、それによって生じた半絶縁性バルク層内、及び空気領域の特定の座標点における電界成分の周波数スペクトル強度分布を求める。ソースからドレイン電極方向をx軸に、金属ミラー面から上面への縦方向をz軸にとる。プラズマ共鳴波は、x軸方向の縦波振動波であり、放射電磁波は、電界がx軸成分で進行方向がz軸の平面波となるので、電界のx成分を求める。
【0047】
この構造の外周はすべて電磁波吸収境界条件を設定して時間領域有限差分法を用いて電磁波の伝播姿態の時間発展を数値解析し、その時間応答波形をフーリエ変換することによって周波数スペクトルを算出した結果を図7,図8に示す。なお、図5、図6と同様、図中10THz以上の高周波域でのブロードで大きい電界成分のピークは数値解析上の誤差(振動的な解の収束誤差)であるので、無視することにする。
【0048】
図7は、半絶縁性GaAsバルク層内のx軸中央で2次元電子層から0.4ミクロン下方の点の電界x軸成分のスペクトル強度分布を示す。図中の凡例に示す記号cは図5の解析結果cに対応しており、裏面の金属ミラーと2重回折格子型ゲート電極を設置した本発明による構造である。金属ミラーの設置により、3.4THzを基本波とする共振効果が生じていることがわかる。更に、2重回折格子型ゲート電極の設置により、プラズマ周波数の3.4THz近辺から低域の広い周波数領域において電界成分の増大効果が見て取れる。
【0049】
図8は、空気層内のx軸中央で2次元電子層から0.4ミクロン上方の点の電界x軸成分のスペクトル強度分布を示す。図6の傾向と同様であるが、特に、2重回折格子型ゲート電極の設置により、プラズマ周波数3.4THzの低域側の広い周波数範囲において電界成分の増大効果が見て取れる。特に、図6の例と比較すると、周期的2次元電子層の幅1.9ミクロンの周期的領域の電子濃度を10cm-2と半絶縁性GaAsバルク層並みに低く設定したことにより、この領域のプラズマ周波数が0.01THz以下の低周波域に存在することになり、準金属的な高電子濃度に設定した(従ってこの領域のプラズマ周波数が10THz以上の高周波域に存在する)図6の例よりも、より低い周波領域にまで電界成分の増大効果が得られる。
【0050】
本発明によれば、縦型共振器構造を導入することによって、従前にない高い利得と、より広い周波数特性を得ることができるのである。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7