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明細書 :アレルギー疾患の判定方法及びアレルギー疾患の判定キット

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4568841号 (P4568841)
公開番号 特開2006-267063 (P2006-267063A)
登録日 平成22年8月20日(2010.8.20)
発行日 平成22年10月27日(2010.10.27)
公開日 平成18年10月5日(2006.10.5)
発明の名称または考案の名称 アレルギー疾患の判定方法及びアレルギー疾患の判定キット
国際特許分類 G01N  33/53        (2006.01)
G01N  33/531       (2006.01)
G01N  33/543       (2006.01)
G01N  33/547       (2006.01)
G01N  37/00        (2006.01)
C07K   7/06        (2006.01)
C07K   7/08        (2006.01)
FI G01N 33/53 ZNAQ
G01N 33/531 A
G01N 33/543 501D
G01N 33/547
G01N 37/00 102
C07K 7/06
C07K 7/08
請求項の数または発明の数 14
全頁数 20
出願番号 特願2005-089660 (P2005-089660)
出願日 平成17年3月25日(2005.3.25)
審査請求日 平成20年2月12日(2008.2.12)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】304020292
【氏名又は名称】国立大学法人徳島大学
発明者または考案者 【氏名】木戸 博
【氏名】多田 仁美
【氏名】澤淵 貴子
個別代理人の代理人 【識別番号】100107984、【弁理士】、【氏名又は名称】廣田 雅紀
【識別番号】100102255、【弁理士】、【氏名又は名称】小澤 誠次
【識別番号】100123168、【弁理士】、【氏名又は名称】大▲高▼ とし子
【識別番号】100120086、【弁理士】、【氏名又は名称】▲高▼津 一也
審査官 【審査官】三木 隆
参考文献・文献 国際公開第02/012891(WO,A1)
特表2004-533625(JP,A)
特開2001-281249(JP,A)
特開2005-052049(JP,A)
特開平03-284697(JP,A)
調査した分野 G01N 33/53
G01N 33/531
G01N 33/543
G01N 33/547
G01N 37/00
C07K 7/06
C07K 7/08
特許請求の範囲 【請求項1】
化学修飾したダイヤモンド/DLC(Diamond-like Carbon)チップを活性化試薬により活性化した後、25種類以上のアレルゲンのアレルゲンエピトープ又はアレルゲンエピトープを含むペプチドのカップリング反応を行い、次いで未反応活性基のブロッキング操作を行ったアレルゲンエピトープ判定チップに、検体を接触させ、アレルゲンエピトープ判定チップに捕捉された検体中のアレルゲン認識抗体をイムノアッセイにより検出し、同一条件下、25種類以上のアレルゲンを一度に定量的に測定し、アレルゲンの拡大/縮小パターン及び/又はアレルゲンエピトープの拡大/縮小パターンを判定することを特徴とするアレルギー疾患の判定方法。
【請求項2】
アレルゲンエピトープ又はアレルゲンエピトープを含むペプチドとして、化学修飾されたペプチドを用いることを特徴とする請求項1記載のアレルギー疾患の判定方法。
【請求項3】
アレルゲンエピトープを含むペプチドとして、MHCクラスII分子に結合するペプチド部分のN末端側及び/又はC末端側に少なくとも2個以上のアミノ酸が付加されたエピトープ含有ペプチドを用いることを特徴とする請求項1又は2記載のアレルギー疾患の判定方法。
【請求項4】
アレルゲンエピトープを含むペプチドとして、アレルゲンのエピトープを含むプロテアーゼ分解ペプチドを用いることを特徴とする請求項1~3のいずれか記載のアレルギー疾患の判定方法。
【請求項5】
プロテアーゼ分解ペプチドが、トリプシン分解ペプチドであることを特徴とする請求項4記載のアレルギー疾患の判定方法。
【請求項6】
アレルゲンとして、食物アレルゲンを用いることを特徴とする請求項1~5のいずれか記載のアレルギー疾患の判定方法。
【請求項7】
食物アレルゲンとして、カゼインナトリウム、α-カゼイン、β-カゼイン、κ-カゼイン、α-ラクトアルブミン、β-ラクトグロブリン、オボムコイド、オボアルブミン、コンアルブミンから選ばれる1種又は2種以上のアレルゲンを用いることを特徴とする請求項6記載のアレルギー疾患の判定方法。
【請求項8】
イムノアッセイが、蛍光標識した2次抗体を用いるELISAであることを特徴とする請求項1~7のいずれか記載のアレルギー疾患の判定方法。
【請求項9】
蛍光標識した2次抗体が、Cy3標識2次抗体であることを特徴とする請求項8記載のアレルギー疾患の判定方法。
【請求項10】
2次抗体が、抗IgG抗体又は抗IgE抗体であることを特徴とする請求8又は9記載のアレルギー疾患の判定方法。
【請求項11】
ダイヤモンド/DLC(Diamond-like Carbon)チップの活性化試薬が、WSCD・HCl及びNHSを含有する溶液であることを特徴とする請求項1~10のいずれか記載のアレルギー疾患の判定方法。
【請求項12】
ジメチルスルホキシド(DMSO)又はポリエチレングリコール(PEG)にアレルゲンのアレルゲンエピトープ又はアレルゲンエピトープを含むペプチドを溶解した溶液をスポッティングして、アレルゲンのカップリング反応を行うことを特徴とする請求項1~11のいずれか記載のアレルギー疾患の判定方法。
【請求項13】
検体として、ヒト血清又は血液を用いることを特徴とする請求項1~12のいずれか記載のアレルギー疾患の判定方法。
【請求項14】
ヒト血液として、1~5μLのヒト血清を用いることを特徴とする請求項1~13のいずれか記載のアレルギー疾患の判定方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、アレルギー疾患の判定方法及びアレルギー疾患の判定キット、より詳しくは、基板上にダイヤモンドやダイヤモンドライクカーボン(DLC)をコーティングしたチップに食物アレルゲン等やアレルゲンエピトープが結合したアレルゲンエピトープ判定チップを用いたアレルギー疾患の判定方法やアレルギー疾患の判定キットに関する。
【背景技術】
【0002】
アレルギーの原因には、食物を原因とする食物アレルギー、ごみ・埃を原因とする塵アレルギー、家ダニを原因とするアレルギー、花粉症、接触性皮膚炎、金属アレルギー、薬物アレルギー、アトピーなど様々なアレルギーが知られている。これらの中でも、特に食物アレルギーは、食品中に含まれるアレルギー誘発物質(以下、食物アレルゲンという)の摂取が引き起こす有害な免疫反応であり、皮膚炎、喘息、消化管障害、アナフィラキシーショック等を引き起こし、このような食物アレルギーの患者が増加していることから、医学上及び食品産業上、深刻な問題が生じている。これらの危害は死に至らせることがあり、未然に処置を施す必要がある。アレルギーを引き起こす食品としては、卵類、牛乳類、肉類、魚類、甲殻類及び軟体動物類、穀類、豆類及びナッツ類、果実類、野菜類、ビール酵母若しくはゼラチンなどが知られており、特に乳アレルゲンの主要成分としてのαs1-カゼイン、αs2-カゼイン、β-カゼイン、κ-カゼイン、α-ラクトアルブミンや、ホエーアレルゲンの主要成分であるβ-ラクトグロブリンや、卵白アレルゲン成分としてはオボアルブミンとオボムコイドや、小麦アレルゲンの主要成分としてグリアジンや、そばの主要タンパク質である分子量24kDaと76kDaのタンパク質や、落花生の主要タンパク質であるAra h1が知られている。
【0003】
現行の食物アレルギーに関する検査法は2種類に大別することができる。一つは、「アレルギー物質を含む食品に関する表示」(食品衛生法、厚生省令第23号、2002年4月)に基づく、アレルギーの原因となる食品素材を原料として使用していることの表示が義務づけられたため、食品成分を検出する方法であり、例えば、食品成分として卵や牛乳を使用しているかどうかを検出する目的のため、食物アレルギーの原因物質を検出する方法ではない。このような食品成分を検出する方法には、主としてイムノクロマト法が用いられている。もう一つの検査法としては、医師と患者から強い要望がある食物アレルギーの原因物質と原因部位を診断・判定する検査法であるが、現在最も汎用されている評価の高い検査法であるCAP RAST(スエーデン ダイアグノスティクス)では、1度に同じ条件で抗原を検出するには6項目が限度で、しかも1項目の検査には50μLの血液を必要とする。しかも、検定可能なアレルゲンは限定されている。臨床の現場では、CAP RASTの検査結果では治療効果の判定に十分満足しうるものではないといわれている。
【0004】
他方、シリコン等の基板上にダイヤモンドをコーティングしたり、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)をコーティングする技術は一般に広く利用されている。例えば、これらを利用したDNA固定化チップ(例えば、特許文献1~4参照)、本発明者らによるダイヤモンドコーティング高密度集積タンパクチップ(例えば、非特許文献1参照)、ダイヤモンド基板上に有機単分子膜を直接的な検出部として形成してなる有機単分子膜/半導体構造を有する半導体センシングデバイス(例えば、特許文献5参照)が提案されている。その他、様々な種類のアレルゲンから抽出した、各スポットに付着させた一つの粗蛋白を有する固体の基板をアレルギー疾患患者から得た検体と反応させることによって、様々な種類のアレルゲンを同時に検出することができ、特定アレルゲンにより起こされるアレルギー反応に関連する抗体の種類を検出することができるアレルギー診断用蛋白質チップとアレルゲンの検出方法及びアレルギー誘発抗体の検出方法(例えば、特許文献6参照)が知られている。
【0005】

【特許文献1】WO99/40173号公報
【特許文献2】WO99/41362号公報
【特許文献3】WO99/63072号公報
【特許文献4】特開2005-55365号公報
【特許文献5】特開2004-4007号公報
【特許文献6】特表2004-533625号公報
【非特許文献1】NEW DIAMOND, Vol.20, No.3(2004), 30-31
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
現行のアレルゲン診断方法では、ごく限られた抗原(アレルゲン)について個々の条件で反応を測定しているため、食物アレルギーとしての抗原の拡大を同一条件において網羅的に測定し、診断する方法は知られていない。しかし、通常の食物アレルギーでは抗原が拡大することが多く、抗原となるエピトープの拡大を正確に把握し、アレルギー状態を診断することが必要であるといわれている。本発明の課題は、アレルゲンの拡大/縮小パターン及び/又はアレルゲンエピトープの拡大/縮小パターンを判定することができるアレルギー疾患の判定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究し、ダイヤモンド/DLC(Diamond-like Carbon)チップを活性化試薬により活性化した後、25種類以上のアレルゲン蛋白のアレルゲンエピトープ又はアレルゲンエピトープを含むペプチドのカップリング反応を行い、次いで未反応活性基のブロッキング操作を行ったアレルゲンエピトープ判定チップに、検体を接触させ、アレルゲンエピトープ判定チップに捕捉された検体中のアレルゲン認識抗体をイムノアッセイにより検出することにより、アレルゲンの拡大/縮小パターン及び/又はアレルゲンエピトープの拡大/縮小パターンを判定することにより、アレルギー疾患の予后の予測が可能となることを見い出した。また、アレルゲンエピトープ判定チップに捕捉された検体中のアレルゲン認識抗体を、Cy3標識2次抗体を用いるイムノアッセイにより検出すると検出感度が顕著に向上することを見い出した。本発明は、これらの知見に基づいて完成するに至ったものである。
【0008】
すなわち本発明は、(1)化学修飾したダイヤモンド/DLC(Diamond-like Carbon)チップを活性化試薬により活性化した後、25種類以上のアレルゲンのアレルゲンエピトープ又はアレルゲンエピトープを含むペプチドのカップリング反応を行い、次いで未反応活性基のブロッキング操作を行ったアレルゲンエピトープ判定チップに、検体を接触させ、アレルゲンエピトープ判定チップに捕捉された検体中のアレルゲン認識抗体をイムノアッセイにより検出し、同一条件下、25種類以上のアレルゲンを一度に定量的に測定し、アレルゲンの拡大/縮小パターン及び/又はアレルゲンエピトープの拡大/縮小パターンを判定することを特徴とするアレルギー疾患の判定方法や、(2)アレルゲンエピトープ又はアレルゲンエピトープを含むペプチドとして、化学修飾されたペプチドを用いることを特徴とする上記(1)記載のアレルギー疾患の判定方法や、(3)アレルゲンエピトープを含むペプチドとして、MHCクラスII分子に結合するペプチド部分のN末端側及び/又はC末端側に少なくとも2個以上のアミノ酸が付加されたエピトープ含有ペプチドを用いることを特徴とする上記(1)又は(2)記載のアレルギー疾患の判定方法や、(4)アレルゲンエピトープを含むペプチドとして、アレルゲンのエピトープを含むプロテアーゼ分解ペプチドを用いることを特徴とする上記(1)~(3)のいずれか記載のアレルギー疾患の判定方法や、(5)プロテアーゼ分解ペプチドが、トリプシン分解ペプチドであることを特徴とする上記(4)記載のアレルギー疾患の判定方法や、(6)アレルゲンとして、食物アレルゲンを用いることを特徴とする上記(1)~(5)のいずれか記載のアレルギー疾患の判定方法や、(7)食物アレルゲンとして、カゼインナトリウム、α-カゼイン、β-カゼイン、κ-カゼイン、α-ラクトアルブミン、β-ラクトグロブリン、オボムコイド、オボアルブミン、コンアルブミンから選ばれる1種又は2種以上のアレルゲンを用いることを特徴とする上記(6)記載のアレルギー疾患の判定方法や、(8)イムノアッセイが、蛍光標識した2次抗体を用いるELISAであることを特徴とする上記(1)~(7)のいずれか記載のアレルギー疾患の判定方法や、(9)蛍光標識した2次抗体が、Cy3標識2次抗体であることを特徴とする上記(8)記載のアレルギー疾患の判定方法や、(10)2次抗体が、抗IgG抗体又は抗IgE抗体であることを特徴とする上記(8)又は(9)記載のアレルギー疾患の判定方法に関する。
【0009】
また本発明は、(11)ダイヤモンド/DLC(Diamond-like Carbon)チップの活性化試薬が、WSCD・HCl及びNHSを含有する溶液であることを特徴とする上記(1)~(10)のいずれか記載のアレルギー疾患の判定方法や、(12)ジメチルスルホキシド(DMSO)又はポリエチレングリコール(PEG)にアレルゲンのアレルゲンエピトープ又はアレルゲンエピトープを含むペプチドを溶解した溶液をスポッティングして、アレルゲンのカップリング反応を行うことを特徴とする上記(1)~(11)のいずれか記載のアレルギー疾患の判定方法や、(13)検体として、ヒト血清又は血液を用いることを特徴とする上記(1)~(12)のいずれか記載のアレルギー疾患の判定方法や、(14)ヒト血液として、1~5μLのヒト血清を用いることを特徴とする上記(1)~(13)のいずれか記載のアレルギー疾患の判定方法に関する。
【発明の効果】
【0013】
食物アレルギーの中で最も高頻度に起きるアレルギーが、牛乳アレルギーと卵アレルギーである。現行のアレルゲンの測定では、牛乳や卵の成分一つずつについて、限られたアレルゲンの中から、医師が適当にアレルゲンを選んで反応させる方法が採用されており、患者のアレルゲンを検出するためには、従来の報告から確立的に高いアレルゲンを予測して選択するしか無く、アレルゲンを検出できるか否かはある意味では“運”に頼っていると言っても過言では無い。本発明によると、牛乳と卵を構成する成分の約80%以上を占める成分を搭載したアレルゲンチップとそのエピトープ診断チップを実現したもので、アレルゲンを科学的に診断できるチップを用いて、食物アレルゲンの拡大/縮小を診断することが可能となる。患者によっては、牛乳と卵の成分それぞれについて、単独、あるいは複数の反応を示している場合もあるが、患者によっては卵アレルギーから牛乳アレルギーにアレルゲンが拡大したり、逆に牛乳アレルギーから卵アレルギーにアレルゲンが拡大した結果を的確に診断できる。さらに、アレルゲンエピトープの拡大/縮小もアレルゲンの拡大/縮小と同様に検出可能である。
【0014】
このように、本発明によると、アレルゲンとアレルゲンエピトープの拡大/縮小パターン解析が可能となり、パターン解析の結果から病気の進展と予后を予測できる。さらに詳しくは、パターンによっては食物アレルギーから喘息、食物アレルギーからアトピーや花粉症などと言った病気の進展予測と、病気の進展の予防的処置の推測が可能となる。また同一人でもIgEとIgGの反応性に異なる例が出現しており、体内のアレルギー状態を的確に測定することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明のアレルギー疾患の判定方法としては、化学修飾したダイヤモンド/DLCチップを活性化試薬により活性化した後、25種類以上のアレルゲンのアレルゲンエピトープ又はアレルゲンエピトープを含むペプチドのカップリング反応を行い、次いで未反応活性基のブロッキング操作を行ったアレルゲンエピトープ判定チップに、検体を接触させ、アレルゲンエピトープ判定チップに捕捉された検体中のアレルゲン認識抗体をイムノアッセイにより検出し、同一条件下、25種類以上のアレルゲンを一度に定量的に測定し、アレルゲンの拡大/縮小パターン及び/又はアレルゲンエピトープの拡大/縮小パターンを判定する方法であれば特に制限されず、また、本発明のアレルギー疾患の判定キットとしては、化学修飾したダイヤモンド/DLCチップを活性化試薬により活性化した後、25種類以上のアレルゲンのアレルゲンエピトープ又はアレルゲンエピトープを含むペプチドのカップリング反応を行い、次いで未反応活性基のブロッキング操作を行ったアレルゲンエピトープ判定チップと、アレルゲンエピトープ判定チップに捕捉された検体中のアレルゲン認識抗体をイムノアッセイにより検出する試薬とを含み、同一条件下、25種類以上のアレルゲンを一度に定量的に測定する、アレルゲンの拡大/縮小パターン及び/又はアレルゲンエピトープの拡大/縮小パターン判定キットであれば特に制限されず、上記判定用キットには、アレルゲンの拡大/縮小パターン及び/又はアレルゲンエピトープの拡大/縮小パターンを判定するために用いることが表示されている。この判定キットにおける「表示」とは、判定キットにおいて、その本体、包装、説明書、宣伝物のいずれかに「アレルゲンの拡大/縮小パターン及び/又はアレルゲンエピトープの拡大/縮小パターンを判定する」旨の表示を意味する。
【0016】
上記アレルゲンとしては、免疫原性を有するものであれば特に制限されず、ハプテンであってもペプチドと結合させることにより免疫原性を生じるものであれば本発明におけるアレルゲンペプチドとして用いることができるが、卵類、牛乳類、肉類、魚類、甲殻類及び軟体動物類、穀類、豆類及びナッツ類、果実類、野菜類、ビール酵母、ゼラチンなどの食物アレルゲンを好適に例示することができ、中でも乳アレルゲンの主要成分としてのαs1-カゼイン、αs2-カゼイン、β-カゼイン、κ-カゼイン、α-ラクトアルブミンや、ホエーアレルゲンの主要成分であるβ-ラクトグロブリンや、卵白アレルゲンの主要成分としてのオボムコイド、オボアルブミン、コンアルブミンや、小麦アレルゲンの主要成分としてのグリアジンや、そばの主要タンパク質である分子量24kDaと76kDaのタンパク質や、落花生の主要タンパク質であるAra h1を具体的に例示することができ、とりわけ、カゼインナトリウム、α-カゼイン、β-カゼイン、κ-カゼイン、α-ラクトアルブミン、β-ラクトグロブリン、オボムコイド、オボアルブミン、コンアルブミンから選ばれる1種又は2種以上、好ましくは8種のアレルゲンを用いることが望ましい。
【0017】
また、本発明におけるアレルゲンペプチドとして、糖鎖修飾ペプチド、リン酸化ペプチド、アシール化ペプチド、アセチル化ペプチド、メチル化ペプチド、ユビキチン化ペプチド等の化学修飾ペプチドを用いることもでき、かかる化学修飾ペプチドは、天然の化学修飾ペプチドであっても、人為的な化学修飾ペプチドであってもよい。前記アレルゲンエピトープを含むペプチドとして、MHCクラスII分子に結合する7~15アミノ酸サイズ等のペプチド部分のN末端側及び/又はC末端側に少なくとも2個以上のアミノ酸が付加されたエピトープ含有ペプチドを用いると、患者抗体と数倍から数十倍高感度に反応する点で好ましい。かかるMHCクラスII分子に結合するペプチド部分のN末端側及び/又はC末端側に少なくとも2個以上のアミノ酸が付加されたエピトープ含有ペプチド等のアレルゲンエピトープを含むペプチドは、ペプチド合成により作製することもできるが、アレルゲンのエピトープを含むプロテアーゼ分解ペプチドとして作製することもできる。かかるプロテアーゼとしては、トリプシン、キモトリプシン、カテプシン、リジルエンドペプチダーゼを挙げることができる。特に、アレルゲンが食物アレルゲンのとき、トリプシン分解ペプチドをプロテアーゼ分解ペプチドとして好適に例示することができる。
【0018】
上記化学修飾したダイヤモンド/DLCチップとしては、シリコン、ガラス、ステンレス、プラスチック等の基板上にダイヤモンド又はダイヤモンドライクカーボン(DLC)をコーティングしたダイヤモンド/DLCチップに、アレルゲンのアレルゲンエピトープ又はアレルゲンエピトープを含むペプチド(以下、「アレルゲンペプチド」ということがある)をカップリング反応等により結合させることができるような化学修飾がなされたダイヤモンド/DLCチップであれば特に制限されず、例えば、かかる化学修飾としては、ダイヤモンド/DLCチップ表面を塩素処理、アンモニア処理、ジカルボン酸処理等による塩素化、アミノ化、カルボキシル化等がなされたダイヤモンド/DLCチップを例示することができるが、中でも、カルボキシル化ダイヤモンド/DLCチップを好適に例示することができる。
【0019】
上記化学修飾したダイヤモンド/DLCチップは、活性化試薬により活性化処理に付される。例えば、カルボキシル化ダイヤモンド/DLCチップにアレルゲンのアレルゲンペプチドを固定化させる方法として、基盤表面に導入されたカルボキシル基(-COOH基)を利用し、アミノ基(-NH基)を持つアレルゲンペプチドを1-Etyl-3-(3-dimethylamino Propyl)-carbodiimide, hydrochloride(WSCD・HCl)やN-Hydroxy- succinimide(NHS)やその他の化学架橋剤を用いて共有結合により固定化させることが好ましい。チップの活性化とカップリング反応の概略を図13に示す。
【0020】
上記活性化処理後のチップはMilliQ水(超純水)で洗浄され、ペプチドのカップリング反応(固定化操作)が行われるが、このペプチドの固定化操作の前処理として、十分な除湿、乾燥がペプチドの固定化量と固定化量の均一性に重要な因子であり、そのため真空デシケーターで1時間減圧乾燥処理することが好ましい。また、ペプチドのカップリング反応は、活性化処理後のチップ、好ましくは乾燥処理が施されたチップにアレルゲンペプチド溶液をスポッティングして、例えば37℃で3時間インキュベーションすることにより行うことができるが、かかるアレルゲンペプチド溶液として、ジメチルスルホキシド(DMSO)又はポリエチレングリコール(PEG)を含む溶液にアレルゲンペプチドを溶解した溶液を用いると、抗体の結合量が増加する点で好ましい。アレルゲンペプチドのカップリング反応後に、BSA等を用いた未反応活性基のブロッキング操作を行うことにより、アレルゲンエピトープ判定チップを作製することができる。
【0021】
上記本発明の判定方法におけるイムノアッセイとしては、アレルゲンエピトープ判定チップに捕捉された検体中のアレルゲン認識抗体を検出することができる公知のイムノアッセイであれば特に制限されないが、標識2次抗体を用いるELISAが好ましく、標識2次抗体としては、Cy3,Cy5,FITC,ローダミン等の蛍光標識2次抗体、ペルオキシダーゼ,アルカリフォスファターゼ等の酵素標識2次抗体、磁気ビーズ標識2次抗体、赤外標識2次抗体を例示することができ、2次抗体としては抗IgG抗体又は抗IgE抗体を例示することができるが、Cy3標識抗IgG抗体やCy3標識抗IgE抗体を好適に挙げることができる。また、判定キットにおけるイムノアッセイにより検出する試薬としては、アレルゲンエピトープ判定チップに捕捉された検体中のアレルゲン認識抗体をイムノアッセイにより検出することができる公知の試薬であれば特に制限されないが、ELISAに用いられる標識2次抗体を挙げることができ、標識2次抗体としては、Cy3,Cy5,FITC,ローダミン等の蛍光標識2次抗体、ペルオキシダーゼ,アルカリフォスファターゼ等の酵素標識2次抗体、磁気ビーズ標識2次抗体、赤外標識2次抗体を例示することができ、2次抗体としては抗IgG抗体又は抗IgE抗体を例示することができるが、Cy3標識抗IgG抗体やCy3標識抗IgE抗体を好適に挙げることができる。そして、本発明の判定方法や、判定キットにおける2次抗体としては、抗体のFab断片やF(ab’)断片等も使用することができ、例えば、Fab断片は抗体をパパイン等で処理することにより、またF(ab’)断片はペプシン等で処理することにより調製することができる。
【0022】
上記検体としては、アレルゲンに対する抗体を含む可能性があるものであれば特に制限されないが、血清又は血漿、好ましくはヒト血清又は血漿を具体的に例示することができる。本発明の判定方法においては、1~5μLの血清又は血漿、好ましくはヒト血清又は血漿を用い、検体中の抗体を定量的に測定することができる上に、同一条件下、25種類以上、例えば25~30種類のアレルゲンを一度に定量的に測定することができ、これにより、同一患者におけるIgEとIgGの反応性の異同や、アレルゲンの拡大/縮小パターン及び/又はアレルゲンエピトープの拡大/縮小パターンを判定することが可能となる。
【0023】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例】
【0024】
[実験材料]
ジーンシリコンC4(3mm×3mm)、ジーンスライドDLC(東洋鋼鈑)、96穴マイクロプレートU底 (Greiner)、384穴マイクロプレート平底 (NUNC)を購入して用いた。オボムコイド (OVM) (SIGMA)、フロイントの完全アジュバント (DIFCO)、ネンブタール(大日本製薬), Hybond-C Gridded membranes (Amersham)、スキムミルク、Peroxidase-F(ab’)2 goat anti rabbit IgG (H+L) (ZYMED)、ECL (Amersham)、CNBr-cativated Sepharose 4B (Pharmacia)、ImmunoPure IgG Purification Kit (PIERCE)、7M Guanigine-HCl (pH8.6)、Dithiothreitol (DTT)、トリプシン (SigmaまたはPromega)、α-Cyano-4-hydroxycinnamic acid(Sigma)、Non-immunized rabbit IgG、Goat anti- rabbit IgG (H+L) Cy3, Cy5 conjugate (ZYMED)、抗ヒトIgG抗体(Fc specific) Cy3,Cy5conjugate (ZYMED)、抗ヒトIgE抗体(Fc specific) Cy3,Cy5conjugate (ZYMED)、1-Etyl-3-(3-dimethylamino Propyl) -carbodiimide, hydrochloride (WSCD・HCl) (ペプチド研究所)、N-Hydroxy- succinimide (NHS) (ペプチド研究所)、DMSO(和光純薬)、防腐剤(0.5% チメロサール)、抗原エピトープ合成ペプチド (Thermo) : OVM-1(NH-SRFPNATDKE-COOH),OVM-2(NH-GTDGVTYTN-COOH),OVM-3(NH-DCLLCAYSIEF-COOH),OVM-4(NH-KEHDGECKETV-COOH),OVM-5(NH-SSYAN-COOH),OVM-6(NH-DGKVMVLCNRA-COOH),OVM-7(NH-TYDNE-COOH),OVM-8(NH-KRHDGGCRKE-COOH),OVM-9(NH-KTYGNKCNFCAN-VVES-COOH),OVM-10(NH-TLTLSHFGKC-COOH),OVM-11(NH-GFLP-DAAFG-COOH),OVM-12(NH-DVLVC-COOH),OVM-13(NH-VSVDCS-COOH)を購入して用いた。
[実験方法]
1.ウサギの免疫と抗体価の確認
日本白色種のウサギ三羽(11週齢,2Kg,SLCより購入)を約一週間飼育環境に慣らした。抗原タンパク(OVM等)1mgを生理食塩水(1mL)に溶解しフロイントの完全アジュバントを等量 (1mL) 加え、超音波処理により均一な乳濁液にした。ウサギの背部と頚部の毛をバリカンで刈った後、抗原を注射する前にNon-immunized serumを採取した。次に、2mlの抗原乳濁液を少量ずつ約30~50ヵ所に分けて皮内に注射する(1次免疫)。1次免疫から3週間後に2次免疫として、同様に調整した2mLの抗原乳濁液を、頚部リンパ組織周辺の皮下組織と、臀部筋肉内に注射を行った。2次免疫後、1週間隔に採血を数回行った。抗体価の確認は、ドットブロッティングにより測定した。Hybond-C Gridded membranesに 抗原として用いたOVM を4μL(10ng)スポッティングし自然乾燥させた後、TTBS (0.05%Tween20、20mM Tris-HCl(pH7.5)、150mM NaCl) に溶解したスキムミルク(3.5%)で1時間ブロッキングする。洗浄液TTBSで4回洗浄後、採取したウサギ血清を室温で3時間反応させる。反応後メンブレンを4回洗浄液で洗浄し、ブロッキング液に2次抗体(4000倍希釈)を加え室温で30分間反応後、洗浄する。最後にAmersham のマニュアルに準じてECLと反応させ、増感板を用いてフィルムに露光し、現像した。
2.IgG分画 と抗原特異的IgG の精製
IgG purification Kit(PIERCE)を使用して得られた抗体からマニュアルに準じて全IgGを精製した。 Protein A カラムにBinding Buffer を加えてカラムを平衡化する。Binding Bufferで3倍に希釈したウサギ血清をカラムに加え、A280の吸収が0.005以下になるまでBinding Bufferで洗浄する。その後、酸性のElution Buffer を加えてIgGをゆっくり溶出し、溶出液はpHをチェックしながら速やかにアルカリ溶液を加えて中和しIgGの失活を防いだ。回収したIgG分画の純度をSDS-PAGEで検定した後、吸光度を測定して抗体濃度を確認した。抗原特異的IgGの精製は、抗原を固定化したCNBr-ativated Sepharose 4Bカラム(Pharmacia) を用いて精製した。 Binding bufferで3倍に希釈した抗血清をカラムに添加した後、A280の吸収が0.005以下になるまでBinding bufferで洗浄した。その後pH2.8の0.1Mグリシン塩酸バッファーによって抗原カラムに結合した抗体を溶出し、速やかに中和した後PBSで一晩透析してバッファー交換を行った。続いてAmicon社のUltrafiltration YM-30限外濾過膜を使用して濃縮し、吸光度を測定した。
3.タンパク質の断片化と断片化ペプチドの分離精製
抗原タンパク質をこれまでに報告した方法に準じてカルボキシメチル化した後、
トリプシンを加え断片化した(Meiko Murakami et al. Eur. J. Biochem 268 : 2847 - 2855 , 2001)。抗原タンパク質2mgを7Mグアニジン塩酸塩液0.5mLで溶解し2mgのDithyothreitol(DTT)を加えて混合し、室温で2時間還元した。5mgヨード酢酸アミドを反応液に加えてよく混合し、遮光して30分間反応させた後、100mM Tris-HCl(pH8.5)で一晩透析を行った。還元カルボキシメチル化した蛋白質に20μgのトリプシンを加え37℃, 24時間反応させて、抗原蛋白質を断片化した。断片化ペプチドの分離精製は、C18逆相カラム(Tsk-gel ODS 80TM, 4.6×250mm, TOSOH)を使用し高速液体クロマトグラフィー装置(Parmaciaと日立)(溶媒:0.1%トリフルオロ酢酸‐アセトニトリル)にておこなった。酵素消化ペプチドは、アセトニトリルの0-50%グラジエント系で溶出した。溶出したペプチド溶液はTHERMO BIO ANALYSIS社の減圧濃縮遠心機AES1010を用いて濃縮し、質量分析計とプロテインシクエンサーにてアミノ酸配列を確認した後、ASAHI LIFE SCIENCE社の真空凍結乾燥機LABCONCO FREEZONE 4.5を使用して凍結乾燥した。
4.精製ペプチドの質量分析とアミノ酸配列の解析
高速液体クロマトグラフィー装置で精製したペプチドのアミノ酸配列を、質量分析計4700 Proteomics Analyzer (ABI) でMS及びMS/MS解析を(丹波利充 最新のマススペクトロメトリー 1995,丹波利充 ポストゲノム マススペクトロメトリー 2003,谷口寿章 プロテオミクス実験プロトコール 2003)、N末端アミノ酸シークエンサー(Procise 492, ABI)でN末端アミノ酸配列を測定し同定した。質量分析計ではMatrix[2.5mg α-Cyano-4-hydroxycinnamic acid(Sigma)/ml 0.1%TFA, 50%アセトニトリル]と酵素消化ペプチドを等量混合後、MALDI Plateに1μLアプライして測定した。ペプチドシークエンスタグ法により、トリプシン消化断片の質量数、及びそのMS/MS(TOF/TOF)スペクトルで観察されたフラグメントイオンの質量数をもとにしてMascot (matrix science) によりデータベースを検索し、アミノ酸配列を同定した。アミノ酸シークエンサーでの分析は、Procise 492(Applied Biosystems)の使用方法に従って実施した。
5.ダイヤモンド/DLC(Diamond-like Carbon)チップによるアレルゲンの検出と特異抗体の定量
ダイヤモンド/DLC(Diamond-like Carbon)チップによるアレルゲンの検出と定量は以下に示す(1)~(8)の一連の操作で行った。
(1)チップの活性化
チップを96穴マイクロプレートに入れ、MilliQ水で1回洗浄後、50μLの活性化試薬(100mM WSCD・HCl,20mM NHS,0.1M リン酸カリウム緩衝液;pH6.0)をプレートに分注し、室温で30分間遮光した状態で振とうしながら反応させた。反応液を吸引除去後、MilliQ水でチップを十分に洗浄し、8連チューブにチップを移し卓上遠心機を用いチップの水分を直ちに完全に除去した。
(2)アレルゲンのカップリング反応
0.1Mリン酸カリウム緩衝液(pH6.0)にDMSOを30%の濃度で添加し、この溶液にスポッティングを行うアレルゲンを溶解した。アレルゲンはSTAMPU MANマイクロアレイヤー (日本レーザー電子(株))を用いてスポッティングした。チップをマイクロアレイヤーのサンプリング用ホルダーにセットしてスポット操作を行った。スポット後、チップを37℃ の条件下にクールインキュベーター:CN-25A (三菱電機エンジニアリング(株))でインキュベートした。
(3)未反応活性基のブロッキング操作
チップを96穴マイクロプレートに移し、洗浄バッファー(50mM Tris-HCl(pH7.5),150mM NaCl,0.05%Tween20)を加え、プレートシェーカーを用いて洗浄作業を行った。固定化反応後に残存する活性基を処理するため、150mM NaCl含有1M Tris-HCl(pH8.0)を加え、遮光した状態下に1時間室温で反応させ未反応基を完全に不活性化した。さらに、チップへの抗体の非特異的反応をブロックするため、遮光条件下に0.1%BSAを含むPBS溶液と4℃で一晩反応させた。
(4)アレルゲン認識抗体の捕捉反応
ブロッキングバッファーを吸引除去し、抗体希釈バッファー 〔60mg BSA,PBS(pH7.4) 〕で種々の濃度に1次抗体を希釈した後、チップの入ったプレートに分注し遮光条件下に室温で5時間振とうしながら反応させた。
(5)2次抗体の反応
1次抗体反応液を吸引除去し、洗浄バッファーを加え、プレートシェーカーを用いて洗浄作業を行った。次に蛍光標識した2次抗体を0.1%BSAを含むPBS溶液で1.5μg/mLに希釈し、チップの入ったプレートに分注して遮光条件下に室温で1時間振とうして反応させた。
(6)抗原チップに捕捉された抗体の検出
2次抗体との反応後、反応液を吸引除去し、洗浄バッファーとMilliQ水でチップを洗浄し、水分を除去するためにスピンダウンを行った。次にFLA-8000蛍光スキャナー:FLA-8000 (FUJIFILM)を用いて蛍光強度を測定し、各チップから得られたスポットの蛍光強度の数値化を行った。
[結果]
1.抗OVM抗体の作製とOVMに対する抗原特異的IgG の精製
ダイヤモンド/Diamond-like Carbon (DLC) チップによるアレルゲンの検出と特異抗体の定量法に対する基礎検討をするため、実験的アレルギー状態にある動物の血清を用いて予備実験を行った。免疫は[実験材料及び方法]の項に示す方法に従ってウサギを用いて行った。食物アレルギーのなかでは、鶏卵アレルギーがもっとも高い頻度で発症しており、卵アレルギーの中でも最もアレルゲン性の高い成分はOVMである(Motohiro Ebisawa, Kaori Ikematsu, Takanori Imai & Hiroshi Tachimoto, Allergy and Clinical Immunology International. 15(5) : 214 - 217 , 2003)。そこでOVMをアレルゲンとして抗体を作製した。
【0025】
全IgG および抗OVM IgG抗体のOVM抗体価は、OVMによって免疫されたウサギ血清から精製された各々の検体を、1~10ngの抗原の反応が十分な感度をもって検出することができるか、ドットブロットによって確認した。Total IgG の場合、用いた血清のVolumeに換算して1,000倍以上の希釈でも抗体を検出できる検体を以後の実験に用いた。抗原特異的IgGの場合、100ng/mL以下まで希釈しても反応する抗体をもって、以後の実験に用いた。なおOVMの免疫によって得られる抗体価には動物による個体差が大きく認められることから、1抗原に対して3個体以上を用いて免疫を行い、少なくとも2個体以上から検体を採取して実験に供した。
2.OVMとαS1-, αS2-, β-, κ-カゼインのアレルゲンペプチドライブラリーの作製
食物アレルギーの原因物質としてのアレルゲンの解析は一部を除いていまだ十分に解析されていない現状にあり、抗原エピトープに至っては極めて不十分な情報しか知られていない。一方アレルギーを起こす個体側では、アレルゲンとして認識するエピトープに対する感受性に個体差があるだけでなく、同じ個体でも年齢とともに認識するエピトープが変化したり、エピトープに対する認識の感受性が変化する事から、詳細なアレルゲンエピトープの解析法と個々のアレルゲンエピトープに対するIgE,IgG抗体価の定量が、診断と治療に必須である。食物アレルゲンエピトープの網羅的解析を行うことを目的とし、アレルゲンエピトープライブラリーの作成を試みた。本研究では、卵の中で最も抗原性の高いOVMと、牛乳の中で抗原性の高い3種のカゼインを選び、これらの抗原蛋白質をカルボキシメチレーションした後、トリプシンによる切断アレルゲンエピトープライブラリーを[実験材料及び方法]の項に示す方法に従って作成した。今回の実験では示していないが、ヒトの樹上細胞内で抗原提示に係わるプロテアソーム、カテプシンE,B,Lによるアレルゲンエピトープライブラリーも計画している。トリプシンによる限定分解の結果生成したペプチドをHPLCで分離精製し、精製した蛋白質のアミノ酸配列を、4700 Proteomics Analyzer およびN末端アミノ酸シークエンサーを用いて同定した。OVM,αS1-カゼイン,αS2-カゼイン,β-カゼイン,κ-カゼインのトリプシンによるフラグメントペプチドのアルゲンエピトープライブラリーを図1~5示した。
3.アレルゲンエピトープ解析チップの開発
(1)DLCチップ上で抗原と抗体は定量性を持って反応した。
【0026】
本実験ではシリコン基板のDLCチップまたはダイヤモンドチップを用い、抗原分子の濃度に依存した抗体の捕捉が可能か否かを検討した。DLCチップに抗原としてOVMを1スポット当たり6.3-50.7fmol濃度をスポッティングし、1次抗体として1.5μg/mLに希釈したRabbit-IgG分画を[実験材料及び方法]の項に示す方法に従って反応させ、FITC標識した2次抗体(Anti-Rabbit IgG)で検出した(図6参照)。測定はバッファーのみをスポッティングしたスポットの蛍光強度を各々のスポットの蛍光強度から差し引いて測定値とした。チップ間で反応強度に多少の差を認めるが、図に示すようにこの条件下において得られた蛍光強度は、抗原濃度に依存して直線的に上昇した。データーには示していないが、同様の結果がシリコン基板のダイヤモンドチップでも得られた。以上のことは、DLCチップまたはダイヤモンドチップに共有結合された抗原ペプチドは、抗体との反応性を保持したまま固定化されている事を示している。
(2)2次抗体標識蛍光色素の感度の比較検討
検出システムの高感度化をめざすため、2次抗体をラベルする蛍光色素をFITCからCy5およびCy3標識に変化して、検出感度の差を比較検定した。なおこの実験では、シリコン基板以外にシリコン基板と同様の反応性の確かめられているDLC化ステンレス基板を用いて検討した。比較的低濃度のOVM抗原を12.7fmol/スポット(50μg/mL原液)した抗原から得られる反応蛍光強度は、FITC標識した2次抗体の強度(23932±3129)に比べてCy5標識で約41倍の値(978565±126397)を、Cy3標識で約181倍の反応蛍光強度の値(4329457±527839)が得られた。このことから高感度化条件では2次抗体をCy3でラベルすることとした。
(3)チップに載せるアレルゲンエピトープのペプチドサイズの検討:MHCクラスII抗原ペプチドライブラリーとトリプシン切断ライブラリーの比較検討
アレルゲンエピトープとして報告のある部位の合成ペプチド(合成ペプチドNo.1-13)と、この領域を含む同じモル濃度(50fmol/スポット) のトリプシンフラグメントペプチドを抗原とした時の、抗体との反応性を比較検討した。抗体としてはOVMで免疫されたウサギ血清を抗体として用いた。MHCクラスIIに結合するエピトープとして判明している合成ペプチドは、 抗体と反応する最小サイズではあるがいずれのペプチドも反応蛍光強度は低く、同じモル濃度の長いサイズのトリプシンフラグメントペプチドに比較して、大きな差のある事が判明した(図7参照)。例えばMHCクラスIIエピトープペプチドの中で、最も強く反応した9残基のOVM, No2合成ペプチド(NH2-GTDGVTYTN-COOH)でも、その両端(場合によっては片側)にペプチド鎖が伸びた31残基のフラグメントペプチド (Fraction No. 97) と比較すると、約1/10倍の反応蛍光強度を示した。このことは、患者からのアレルゲンエピトープを高感度で効果的に最初にスクリーニングするためには、ペプチド鎖が比較的長く部分的な立体構造を持つと推定されるプロテアーゼのフラグメントペプチドが1次スクリーニングに適していると推定された。今後の研究において行われる抗原提示に係わる数種のプロテアーゼのフラグメントペプチドのアレルゲンエピトープライブラリーの結果と合わせて評価することで、診断と治療に有益な食物アレルゲンエピトープ情報を得る事ができると推定された。
(4)抗体濃度と抗原濃度の最適化条件の検定
チップにスポッティングする最適な抗原濃度を求める為、OVMを0.63-101.4fmol/スポットの濃度範囲でスポッティングし、臨床検体を想定して血清を1,000倍-20,000倍の希釈倍率下に反応を行った。血清を1,000倍-20,000倍に希釈した条件では、抗原量が約2.5fmol~25fmolの濃度で高い定量性を得られた(図8参照)。この条件下では、血清を2,500倍-20,000倍希釈した条件下で高い定量性を得られた。そこで抗原の濃度を2.5fmol~25fmolに固定して、血清を10,000-20,000倍希釈した場合の、抗原濃度依存的な蛍光強度を検討した。抗原濃度に依存して、蛍光強度は直線的に増加した(図9参照)。
(5)小児の食物アレルギー検体の解析
以上のウサギ血清を抗体とした基礎検討を基盤に、小児を対象とした食物アレルギーの検体の解析を行った。徳島大学の倫理委員会の承認と香川国立小児病院の倫理委員会の承認の上で、十分なインフォームドコンセントのもとに承諾の得られた臨床検体を香川小児病院(伊藤 道徳先生)から供与いただき、食物アレルギーの無い健常人コントロールとの比較を行った。最初に卵と牛乳のアレルゲン成分を検定する目的で、シリコンを基板としたDLCチップに、アレルゲンのタンパク質をそれぞれ1スポット当たり10fmolをスポッティングし、血清を100倍に希釈し反応を行い、2次抗体にCy3標識した抗ヒトIgG抗体を用い検出した。可能な限り強く免疫したウサギ血清の希釈率は、ヒト血清では参考にならない為、図には示していないが患者と健常人からそれぞれ1検体を選択して50、100、200、400、800、1600倍に希釈してチップとの反応性を検定した。その結果、チップとの反応性において非特異的反応が少なく測定可能な希釈は400-1600倍希釈の範囲と判断された。
【0027】
患者血清を1000倍に希釈した測定結果を図10に示した。患者のほとんどはミルクアレルギーで、α-, β-, κ-カゼインとそれぞれの反応強度をもって反応を示した。中にはα-ラクトアルブミン(lactoalbumin)とも反応している患者も認められたが、その比率はカゼインに比較して少数であった。しかしミルクアレルギーを主訴とするアレルギー患者であっても、卵の成分であるOVM, オボアルブミン(Ovalubumin),コンアルブミン(Conalubumin)に対しても反応性を示す患者が見いだされた(図11参照)。ダイヤモンド/DLCチップを用いた上記の測定系では、1マイクロリッターの血清で少なくとも25項目が定性、定量測定可能であり、従来の検査法が定性的検査のみで1検体当たり250~500マイクロリッターを必要としていた検査法と比較すると、患者負担と利便性の点で優れていると推定された。
【0028】
上記IgGの場合と同様に、卵と牛乳のアレルゲン成分を検定する目的で、シリコンを基板としたDLCチップに、アレルゲンのタンパク質をそれぞれ1スポット当たり10fmolをスポッティングし、血清を10倍に希釈し反応を行い、2次抗体にCy3標識した抗ヒトIgE抗体を用い検出した。測定結果を図12に示した。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】オボムコイドのトリプシンによるフラグメントペプチドのアルゲンエピトープライブラリーを示す図である。
【図2】αS1-カゼインのトリプシンによるフラグメントペプチドのアルゲンエピトープライブラリーを示す図である。
【図3】αS2-カゼインのトリプシンによるフラグメントペプチドのアルゲンエピトープライブラリーを示す図である。
【図4】β-カゼインのトリプシンによるフラグメントペプチドのアルゲンエピトープライブラリーを示す図である。
【図5】κ-カゼインのトリプシンによるフラグメントペプチドのアルゲンエピトープライブラリーを示す図である。
【図6】ダイヤモンド/DLCチップに結合した抗原の濃度変化による抗体の結合量の測定結果を示す図である。
【図7】チップに載せるアレルゲンエピトープのペプチドサイズの検討結果を示す図である。
【図8】抗体濃度と抗原濃度の最適化条件の検討結果を示す図である。
【図9】抗体濃度と抗原濃度の最適化条件の検討結果を示す図である。
【図10】小児及び健常人の食物(牛乳・卵)アレルギー検査(IgG)の結果を示す図である。
【図11】小児及び健常人の食物(牛乳・卵)アレルギー検査(IgG)の結果を示す図である。
【図12】小児及び健常人の食物(牛乳・卵)アレルギー検査(IgE)の結果を示す図である。
【図13】化学修飾したダイヤモンド/DLCチップの活性化とカップリング反応の概略を示す図である。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
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【図13】
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