TOP > 国内特許検索 > IgA抗体の選択的産生からIgA及びIgG両抗体産生への切換えを可能にする抗原薬物ビークルとこれを用いる経鼻・粘膜ワクチン > 明細書

明細書 :IgA抗体の選択的産生からIgA及びIgG両抗体産生への切換えを可能にする抗原薬物ビークルとこれを用いる経鼻・粘膜ワクチン

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 再公表特許(A1)
発行日 平成21年2月19日(2009.2.19)
発明の名称または考案の名称 IgA抗体の選択的産生からIgA及びIgG両抗体産生への切換えを可能にする抗原薬物ビークルとこれを用いる経鼻・粘膜ワクチン
国際特許分類 A61K  39/39        (2006.01)
C07K  14/47        (2006.01)
FI A61K 39/39
C07K 14/47 ZNA
国際予備審査の請求
全頁数 34
出願番号 特願2007-529555 (P2007-529555)
国際出願番号 PCT/JP2006/315515
国際公開番号 WO2007/018152
国際出願日 平成18年8月4日(2006.8.4)
国際公開日 平成19年2月15日(2007.2.15)
優先権出願番号 2005227504
優先日 平成17年8月5日(2005.8.5)
優先権主張国 日本国(JP)
指定国 AP(BW , GH , GM , KE , LS , MW , MZ , NA , SD , SL , SZ , TZ , UG , ZM , ZW) , EA(AM , AZ , BY , KG , KZ , MD , RU , TJ , TM) , EP(AT , BE , BG , CH , CY , CZ , DE , DK , EE , ES , FI , FR , GB , GR , HU , IE , IS , IT , LT , LU , LV , MC , NL , PL , PT , RO , SE , SI , SK , TR) , OA(BF , BJ , CF , CG , CI , CM , GA , GN , GQ , GW , ML , MR , NE , SN , TD , TG) , AE , AG , AL , AM , AT , AU , AZ , BA , BB , BG , BR , BW , BY , BZ , CA , CH , CN , CO , CR , CU , CZ , DE , DK , DM , DZ , EC , EE , EG , ES , FI , GB , GD , GE , GH , GM , HN , HR , HU , ID , IL , IN , IS , JP , KE , KG , KM , KN , KP , KR , KZ , LA , LC , LK , LR , LS , LT , LU , LV , LY , MA , MD , MG , MK , MN , MW , MX , MZ , NA , NG , NI , NO , NZ , OM , PG , PH , PL , PT , RO , RS , RU , SC , SD , SE , SG , SK , SL , SM , SY , TJ , TM , TN , TR , TT , TZ , UA , UG , US , UZ , VC , VN , ZA , ZM , ZW
発明者または考案者 【氏名】木戸 博
【氏名】水野 大
出願人 【識別番号】304020292
【氏名又は名称】国立大学法人徳島大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100093230、【弁理士】、【氏名又は名称】西澤 利夫
審査請求 未請求
テーマコード 4C085
4H045
Fターム 4C085AA03
4C085AA38
4C085BA01
4C085BB03
4C085EE06
4C085FF13
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045CA40
4H045DA75
4H045DA86
4H045EA31
4H045FA16
4H045FA20
4H045FA74
要約
安全かつ有効な経鼻・不活化・粘膜ワクチンの実用化、従来の不活化ワクチン・トキソイド・アレルゲン等にIgAとIgG両抗体の産生能を付与する技術、アレルギーの予防と治療手段等の確立を課題として、経鼻、経粘膜及び経皮投与を可能にする抗原薬物ビークル(ADビークル)、これを用いる粘膜免疫と体液性免疫とを同時に誘導する不活化ワクチンおよびその製造技術、IgA抗体の選択的産生の誘導からIgA及びIgG両抗体産生の誘導への切換えを可能にするADビークル、これを用いる経鼻ワクチン、粘膜ワクチン、アレルギーの治療剤・予防剤等を提供する。
特許請求の範囲 【請求項1】
肺サーファクタントプロテインB、その断片及びこれ等の機能構造に模倣の合成ペプチド(A群)から選ばれる少なくとも1種のタンパク質、及び/又は肺サーファクタントプロテインC、その断片及びこれ等の機能構造に模倣の合成ペプチド(B群)から選ばれる少なくとも1種のタンパク質、並びに脂質類(C群)から選ばれる少なくとも1種の脂質からなる複合体である抗原薬物(AD)ビークルに、粘膜免疫IgAを誘導する量の抗原を共存、接触、捕捉又は吸着させることにより得られる粘膜ワクチンにおいて、上記ビークルの乾燥質量(V)と上記抗原の乾燥質量(A)との重量比V/Aが約1を超えるよう調整されていることを特徴とする、IgAとIgGの両抗体の産生を誘導する粘膜ワクチン。

【請求項2】
請求項1に記載のビークル量(V)と抗原量(A)との重量比V/Aが約1以下になるよう調整されていることを特徴とする、IgA抗体産生を選択的に誘導する粘膜ワクチン。

【請求項3】
請求項1に記載のA群が、配列番号2、7、8、10~19、21~24、26、及び30に記載の各アミノ酸配列のタンパク質からなる請求項1又は2に記載の粘膜ワクチン。

【請求項4】
請求項1に記載のB群が、配列番号4、6、9、20、25、及び27~30に記載の各アミノ酸配列のタンパク質からなる請求項1、2又は3に記載の粘膜ワクチン。

【請求項5】
請求項1に記載のC群が、ホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジン酸、ラウリル酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、及びオレイン酸の各脂質からなる請求項1~4のいずれかに記載の粘膜ワクチン。

【請求項6】
前記の抗原(A)が伝染病病原体に由来の不活化抗原又は無毒化毒素である請求項1又は2に記載の粘膜ワクチン。

【請求項7】
前記の抗原(A)がアレルゲン、アレルゲンエピトープ、又はアレルゲン由来抗原であるアレルギーの予防剤又は治療剤。

【請求項8】
請求項1に記載のビークル量(V)と抗原量(A)との重量比V/Aが約1であることを、IgA抗体の選択的産生とIgAとIgG両抗体産生との間の変換スイッチとして用いることを特徴とする粘膜免疫誘導方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
この発明は、経鼻、経粘膜及び経皮投与を可能にする抗原薬物(AD)ビークル、これを用いる粘膜免疫及び体液性免疫の誘導方法、更に詳しくは、IgA抗体の選択的産生の誘導からIgA及びIgG両抗体産生の誘導への切換えを可能にするADビークル、これを用いる経鼻ワクチン、粘膜ワクチン、アレルギーの治療と予防剤等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の不活化ワクチンやトキソイド等には次の欠点が知られている:
(1)自然感染ルートでの乏しい感染防御:ワクチン接種ルートが皮下、筋肉内等であるのに対し、細菌やウイルス等の自然感染ルートは、例えば鼻腔、気管、腸管等の粘膜であり、上記接種ルートとは異なる。自然感染の実態に即した接種ルートによる感染防御、特に粘膜経由のワクチン投与よる粘膜での感染防御の実現が望まれる。
(2)低い粘膜免疫性:ワクチン被接種者においては、主に免疫グロブリンG(以下「IgG」又は「IgG抗体」と略記する)が血中に産生され、体液性免疫が誘導される。しかし、粘膜免疫を担う分泌型免疫グロブリンA(以下「IgA」又は「IgA抗体」と略記する)は、ほとんど産生されず、粘膜免疫の成立は期待できない。尚、IgA抗体の必要性と有効性は次の通りである:IgA抗体は、飛沫や空気による鼻腔、気管等の呼吸器への感染、また、経口による腸管への感染の門戸である粘膜での感染防御、即ち、粘膜免疫を担っており、臨床免疫上、極めて重要な役割を演じている。更に、IgG抗体が、抗原に対する特異性が高く、感染防御スペクトルが狭隘で、抗原変異した病原体の感染防御にはほとんど無効であるのに対し、分泌型IgA抗体は、交差免疫性、即ち、交差中和活性があるので、それだけ感染防御スペクトルの幅が広く、変異抗原に対する感染をも防御する。
(3)追加接種の必要性と重なる費用:初回免疫の1回接種だけでは産生されるIgG抗体が低く、確実な効果が期待できないため、その後のIgG抗体保有状況に基づき、更に1回以上の追加接種、いわゆるブースター接種により血中IgG抗体価を高める必要がある。そのため、経費や労力を繰り返し要する上に、ブースター接種の機会に恵まれた高齢者、成人及び学童では効果が認められるが、その機会を逸し易い低年齢、特に2歳以下の乳幼児では効果なしのケースが散見される。
【0003】
以上につき換言すれば、従来の不活化ワクチンやトキソイド等は、被接種者において主に血中IgG抗体の産生を誘導し、体液性免疫を高める作用効果をもたらし、その有効性は確認されている。しかし、IgA抗体産生ないしは粘膜免疫の誘導能が低いため、自然感染を防御するに十分な機能と効果には限界がある。かかる現状から、従来ワクチンの欠点を解消するため、現在までに多種多様な側面から多くの試みがなされている。例えば、ワクチン抗原の質的又は量的改良、不活化ワクチンに代わる生ワクチンの試作、新しい接種ルートや粘膜ワクチン等の開発、体液性免疫の高進とその持続をもたらすアジュバントのスクリーニング、粘膜免疫アジュバントの開発に特定した試行等々。しかし、未だ安全かつ有効な粘膜ワクチンの開発は達成されていない。
【0004】
以下、粘膜ワクチンの開発につき、説明する:
(1)ワクチン抗原の増量:皮下又は筋肉内接種するワクチン抗原を増量し、粘膜に分泌されるIgG及びIgA抗体量を増加させる試みがされている。例えば、従来の不活化インフルエンザワクチンに該ウイルス膜蛋白のノイラミニダーゼを添加混合して抗体産生量を増加させたり、アジュバントとしてMF59を添加混合する方法等が試みられている。しかし、これには痛みを生じ、副反応が強くなる等の不都合が見られる。
(2)経鼻投与型の不活化ワクチン:最も有効と考えられる分泌型IgA抗体による感染防御のため、液状のスプリット抗原を経鼻に直接接種する方法が試みられたが、IgA産生量の低いことが指摘されている。そこでIgA抗体産生能を上げるため、スプリット抗原にアジュバントとしてコレラ毒素を添加混合し、粘膜免疫応答、即ち、IgA抗体産生能を上げる試みがなされているが、アジュバントとしての毒素の安全性が保証されていない現状から、実用化には至っていない。また、大腸菌易熱性毒素をアジュバントに用いたスプリット型の経鼻・不活化インフルエンザワクチン[Berna Biotech社(スイス)製・商品名Nasalflu]が、世界初の経鼻インフルエンザワクチンとしてスイスで認可され2000年10月から販売されていた。しかし、該ワクチン被接種群において、ベル麻痺が25.2%の被接種者で検出されたため、2004年2月に臨床使用が中止された(非特許文献1及び2)。
(3)鼻腔内接種が可能な低温馴化株を用いる生ワクチン:低温馴化インフルエンザウイルス(2つのA型株と1つのB型株の合計3株の混合、いずれの株もリアソータント)を鼻腔内に接種する生ワクチン[MedImmune V/Accines社(米国)製・商品名FluMist]が米国で2003年6月に認可・販売されてはいる(非特許文献3)。尚、これ等の低温馴化株ウイルスの増殖の最適温度は25℃であり、37℃(B型株)又は39℃(A型株)ではほとんど増殖しない。しかし、低温馴化親株の弱毒のメカニズムが明らかでなく毒性復帰の危険性は否定できない。更に、ワクチンの有効成分が生きたウイルスのため、細胞内への侵入力が高く免疫の初期化には優れているが、軽度のインフルエンザ症状が散発するので、インフルエンザに感染すると重症化しやすいハイリスクのヒトや高齢者等には使えない;インフルエンザウイルス抗原の頻繁な連続変異(drift)や不連続変異(shift)に対する有効性は不明等の欠点が見られる。
(4) その他のワクチン:ワクチニアウイルスをウイルスベクターとしたベクターワクチンや、リバースジェネティクスによる弱毒生ワクチン、DNAやcDNAそのものを有効成分として用いるDNAワクチン等の開発が実験的に進められてはいるが実用化には至っていない。
【0005】
更に、以下、免疫アジュバントの開発につき、説明する:
(1)免疫アジュバント:免疫アジュバントは、免疫応答の強化や抑制等の調節活性を有する物質の総称であり、被接種体内での抗原の徐放や貯留等を目的とした投与形態に係る物質と、免疫応答の高進や抑制等を図るための物質に2大別される。これ等のうち、前者、投与形態のためのアジュバントとしては、例えばリン酸アルミニウム、ミョウバン等を用いるワクチンやトキソイドが既に実用化されている。しかし、後者、免疫応答の強化・高進を図るためのアジュバントの実用化は、未だ知られていない。例えば、細菌由来のBCG生菌、BCG-CWS、エンドトキシン、グルカン等、合成されたムラミルジペプチド、レバミソール、ポリI-ポリC、ベスタチン等、また、サイトカイン類のインターフェロン、TNF、CSF等が公知であるが、関節炎、慢性関節リウマチ、高γグロブリン血症、貧血等のアジュバント病、効果が不十分等々の理由により、これ等の実用化には安全性と有効性の保証が必要だと思量される。また、広く体液性免疫の誘導強化を図るため、高等動物由来の肺サーファクタント・プロテインBをアジュバントとして用いる技術(特許文献1及び非特許文献4)が公知であるが、その実用化は未だ知られていない。
(2)粘膜免疫用アジュバントの開発:例えば、百日咳毒素Bオリゴマー(特許文献2)、コレラ毒素(特許文献3)、大腸菌の易熱性エンテロトキシンBサブユニットLTB(特許文献4)、デンプン粒子(特許文献5)、コレラトキシンB鎖タンパク質CTB(特許文献6)、ベロ毒素1のBサブユニツト(特許文献7)、オリゴヌクレオチド(特許文献8)、インターロイキン12(非特許文献7)、キトサン(非特許文献5)、ナイセリア属菌の可溶化・外皮膜タンパク質(非特許文献6)等々、多種多様に開発されてはいるが、未だ実用化には至っていない。
【0006】
以上の通り、皮下や筋肉内等へ接種する従来ワクチンから、ウイルスの自然感染ルートである粘膜においてIgA抗体の産生を誘導する粘膜ワクチンへの切り替えの必要性は、広くかつ深く認識されている。特に、21世紀における次世代ワクチンとしては、IgA抗体の産生、局所免疫あるいは粘膜免疫を誘導する、いわゆる粘膜ワクチンの開発と実用化が全世界で待望されてはいるが、未だ達成されていない。その理由は、IgA抗体産生、局所免疫ないしは粘膜免疫を誘導する機能をワクチンに付与するための安全かつ有効なアジュバントが特定・確立されていないことにあると思量される。

【特許文献1】特表2002-521460号公報
【特許文献2】特開平3-135923号公報
【特許文献3】特表平10-500102号公報
【特許文献4】特表2001-523729号公報
【特許文献5】特表2002-50452号公報
【特許文献6】特開2003-116385号公報
【特許文献7】特開2003-50452号公報
【特許文献8】PCT公表WO00/20039号パンフレット
【非特許文献1】New Engl.J.Med.、第350巻、896-903頁、2004年
【非特許文献2】New Engl.J.Med.、第350巻、860-861頁、2004年
【非特許文献3】Cleve.Clin.J.Med.、第70巻、801-806頁、2003年
【非特許文献4】Am.J.Respir.Cell Mol.Biol.、第24巻、452-458、2001年
【非特許文献5】AdV/Ances Drug Delivery Rev.、第51巻、81-96頁、2001年
【非特許文献6】V/Accine、第21巻、3706-3712、2003年
【非特許文献7】Infection and Immunity、第71巻、4780-4788頁、2003年
【非特許文献8】J.neonatal Nursing、第10巻、2-11頁、2004年
【非特許文献9】Biology of the Neonate、第74巻(suppl1)、9-14頁、1998年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の不活化ワクチン、トキソイド、アレルゲン等に、IgA抗体の産生、局所免疫あるいは粘膜免疫を誘導する機能のみならず、IgG抗体の産生あるいは体液性免疫を誘導する機能をも併せて付与する。そのための安全かつ有効な技術、従来の体液性免疫誘導ワクチンから、安全かつ有効な粘膜免疫及び体液性免疫の両者誘導ワクチンへの変換技術、アレルギーの予防と治療手段等の確立。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明は、上記課題を解決するための手段として、経鼻、経粘膜及び経皮投与を可能にするADビークル、これを用いる粘膜免疫及び体液性免疫の誘導方法、更に詳しくは、IgA抗体の選択的産生の誘導からIgA及びIgG両抗体産生の誘導への切換えを可能にするADビークル、これを用いる経鼻ワクチン、粘膜ワクチン、アレルギーの治療と予防剤等を提供する。
【発明の効果】
【0009】
この発明が提供するADビークルの適用・汎用により、多種多様な感染症に対する粘膜ワクチン、アレルギーの予防と治療剤、及び薬剤の経粘膜・経皮投与の実現と普及をもたらす。経鼻あるいは粘膜ワクチンは、自然感染の実態に即した免疫手段であるので、従来ワクチンに比し、著しく優れた感染防御効果を発揮する。また、ADビークルが誘導する鼻腔粘膜IgA及びIgGは、そこでのアレルゲンの失活をもたらし、減感作を可能にする。更に、多種多様な薬剤へのADビークルの適用は、薬物の経粘膜投与及び経皮投与による予防・治療効果を強化かつ促進させる。
【0010】
その結果、この発明は、人類全体の医療・保健・衛生を多大に向上させると共に、世界の医療・保健・衛生分野の従事者には待望の福音になる。併せて、従来及び未来のワクチンやトキソイド等を含む生物学的製剤、更に多種多様な薬物に広く、注射に比べ簡便な経粘膜投与及び経皮投与が可能な機能と性能を付加する手段を与える。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】一定量のワクチン(乾燥重量)0.2μgに添加するサーファクテン(ADビークルの一種)の変量が、鼻腔粘膜での抗インフルエンザIgA及びIgG両抗体の産生量に及ぼす影響を示す図である。尚、以下の図1~3において、抗体量はELISAによる定量値、n = 8~12、平均値±SD、t検定によるサーファクテン無添加ワクチン(0μg)投与群に対する有意水準、+はp<0.08、++はp<0.05、+++はp<0.01、また、*はサーファクテン0.1μg添加ワクチン投与群に対する有意水準、p<0.01をそれぞれ示す。【図3】一定量のワクチン(乾燥重量)0.2μgに添加するサーファクテンの変量が、血中での抗インフルエンザIgA及びIgG両抗体の産生量に及ぼす影響を示す図である。
【図4】対照群(ワクチン投与なし)、ワクチン投与群(ADビークル無添加ワクチン)、人工合成サーファクタント(合成ADビークルの一種)添加ワクチン投与群、及びサーファクテン添加ワクチン投与群の各群マウスの鼻腔洗浄液中の抗インフルエンザIgA及びIgG各抗体の産生量を示す図である。 尚、以下の図4~6において、□はIgA産生量、■はIgG産生量、抗体量はELISAによる定量値、ワクチン投与群のマウス数n = 4、平均値±SD(標準偏差)、t検定によるADビークル無添加ワクチン投与群に対する有意水準、+はp<0.01、また、++はp<0.05をそれぞれ示す。【図6】対照群(ワクチン投与なし)、ワクチン投与群(ADビークル無添加ワクチン)、人工合成サーファクタント(合成ADビークルの一種)添加ワクチン投与群、及びサーファクテン添加ワクチン投与群の各群マウスの血中(血清中)の抗インフルエンザIgA及びIgG各抗体の産生量を示す図である。

【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、この発明及び本願明細書で用いる用語を説明し定義づける。
(用語及び抗原薬物(AD)ビークル構成成分の説明)
(1)ADビークル:該ビークル(Antigen and Drug Vehicle、以下、「ADビークル」は、抗原や薬物等の経粘膜投与及び経皮投与が可能になるよう設計(デザイン)された、脂質とタンパク質との複合体(コンプレックス)である。ADビークルは、次の(a)及び/又は(b)及び(c)からなる:
(a)肺サーファクタントプロテインB又はその断片(タンパク質分解酵素により得られる天然断片だけではなく、遺伝工学やペプチド合成により得られる人工断片、かかる断片を構成するアミノ酸の1個以上が置換及び/又は欠失した変異断片等々をも含む);
(b)肺サーファクタントプロテインC又はその断片(タンパク質分解酵素により得られる天然断片だけではなく、遺伝工学やペプチド合成により得られる人工断片、かかる断片を構成するアミノ酸の1個以上が置換及び/又は欠失した変異断片等々をも含む);及び
(c)リン脂質や脂肪酸等の脂質。
【0013】
ADビークルの形状構造は、表面に棘状あるいはスパイク状のポリペプチド鎖を保有の膜状(シート状又はローリング状の脂質膜)であり、複数のポリペプチド鎖の疎水領域末端を、脂質膜に嵌入させスパイク状に植鎖したかたちになっており、従来の脂質小胞(リポソーム)とは異なる。この発明に係るADビークルに所望の抗原や薬物等を共存、接触、捕捉、吸着又は結合させれば(乗せれば)、かかる抗原や薬物等の経粘膜投与及び経皮投与が可能になる。換言すれば、該ビークルは、抗原や薬物等の経粘膜投与及び経皮投与を可能にする、これ等の乗り物である。
【0014】
尚、ADビークルの構成成分、該ビークルの調製・製造に用いるタンパク質、ポリペプチドあるいはペプチドと脂質、即ち、肺サーファクタント由来のSP-B、SP-C、これ等の断片、かかる断片ペプチドの少なくとも1個のアミノ酸が置換及び/又は欠失した変異断片等々、及びリン脂質、脂肪酸等の脂質の詳細については、後述される。

(2)肺サーファクタント:肺サーファクタントは、呼吸窮迫症候群(RDS:Respiratory Distress Syndrome)の治療に1987年から実用化され、現在、ヒト、ウシ、ブタ等に由来する肺サーファクタントについての報告や、中でもウシ、ブタ由来肺サーファクタントについては製剤が市販、常用化されている(非特許文献8)。また、RDS治療に係る活性ドメインを含む合成ペプチド製剤も市販され、更に、SP-BやSP-Cアナログのデザイン開発や合成も進められている(非特許文献9)。
【0015】
肺サーファクタントの組成と構成は通りである:約90重量%の脂質(ホスファチジルコリン67.3%、ホスファチジルグリセロール19.3%、ホスファチジルセリン3.2%、その他の遊離脂肪酸等)と、約10重量%のタンパク質(サーファクタントプロテインA、B、C及びD;以下「SP-A」、「SP-B」、「SP-C」及び「SP-D」とそれぞれ略記する)からなる複合体である。分子量はSP-Aが26-38kDa、Bが5-8kDa、Cが4-5kDa、及びDが43kDaである。SP-AとDは親水性(水溶性)かつレクチン様(膜アソシエィテッド)。SP-BとCは、疎水性(脂溶性)かつ脂質結合性で、リン脂質膜への嵌入能及び界面活性作用を有する。ヒト、ウシ、ブタ等に由来の肺サーファクタントプロテイン遺伝子は公知であり、例えば、GenBank/NCBI(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)におけるヒトSP-B遺伝子DNAの完全長塩基配列のアクセッション番号はJ02761、ヒトSP-C(及びSP-C1)のそれは、J03890である。以下、このNCBIより得たヒトSP-B及びCのコーディング領域(CDR)とそれがコードするアミノ酸配列を記載する。
配列番号1:ヒトSP-B遺伝子DNAのCDR塩基配列;
配列番号2:配列番号1から解読されたヒトSP-B完全長アミノ酸配列;
配列番号3:ヒトSP-C遺伝子DNAのCDR塩基配列;
配列番号4:配列番号3から解読されたヒトSP-C完全長アミノ酸配列;
配列番号5:ヒトSP-C遺伝子DNA上に占めるSP-C1のCDR塩基配列;及び
配列番号6:配列番号5から解読されたヒトSP-C1完全長アミノ酸配列。
【0016】
尚、生体内では、SP-Bは配列番号2のアミノ酸配列における第201番~第280番(第279番または第281番との報告もある)までの80(または79もしくは81)アミノ酸残基からなる分子として存在する。またSP-Cは配列番号4または6における第24番~第58番までの35アミノ酸残基からなる分子として存在する。

(3)この発明で用いるタンパク質あるいはペプチド:この発明に係るADビークルの調製・製造には、ヒト、ウシ、ウマ、ヒツジ、ブタ、クジラ、イルカ等の哺乳類由来のSP-BとSP-Cとの組合せ、及びSP-BとSP-C1との組合せをそれぞれ用いることができる。例えば、上記の配列番号2、4及び6にそれぞれ記載の完全長アミノ酸配列からなるヒト由来タンパク質、SP-BとSP-Cとの組合せ、及びSP-BとSP-C1との組合せを、それぞれ用いることができる。更に、例えばKyte-Doolittleの疎水性値に基づくSP-B及びSP-Cの疎水性(脂溶性)領域及び該領域を含む断片、かかる断片ペプチドの少なくとも1個のアミノ酸が置換及び/又は欠失した変異断片等々をも用いることができる。例えば、以下に示す配列番号7~20に記載のアミノ酸配列からなる天然ペプチドあるいは遺伝子工学や化学合成により得られるペプチド、これ等のペプチドを含むこれより長鎖のペプチド、及びかかるペプチドの少なくとも1個のアミノ酸が置換及び/又は欠失した変異体や合成アナログ等々を使用できる。尚、アミノ酸番号は、各配列のN末端を占めるMetを第1番アミノ酸とし、これよりC末端方向(記載配列の左から右方向)に順に付された序数で表示されている。また、SP-B断片については、配列番号2の第201番~280番のアミノ酸配列に含まれるポリペプチドは、第201番目Pheを第1番として、例えば「SP-B(1-80)断片」と記載する。同じく、SP-C断片については、配列番号4の第24番目Pheを第1番として例えば「SP-C(1-35)断片」と記載する。
配列番号7:配列番号2の第214番~第225番のアミノ酸配列(SP-B断片);
配列番号8:配列番号2の第226番~第275番のアミノ酸配列(SP-B断片);
配列番号9:配列番号4及び6の第29番~第58番のアミノ酸配列(SP-C断片);
配列番号10:配列番号2の第1番~第20番のアミノ酸配列(SP-B断片);
配列番号11:配列番号2の第102番~第110番のアミノ酸配列(SP-B断片);
配列番号12:配列番号2の第119番~第127番のアミノ酸配列(SP-B断片);
配列番号13:配列番号2の第136番~第142番のアミノ酸配列(SP-B断片);
配列番号14:配列番号2の第171番~第186番のアミノ酸配列(SP-B断片);
配列番号15:配列番号2の第201番~第280番のアミノ酸配列(SP-B(1-80)断片);
配列番号16:配列番号2の第300番~第307番のアミノ酸配列(SP-B断片);
配列番号17:配列番号2の第317番~第330番のアミノ酸配列(SP-B断片);
配列番号18:配列番号2の第344番~第351番のアミノ酸配列(SP-B断片);
配列番号19:配列番号2の第358番~第381番のアミノ酸配列(SP-B断片);
配列番号20:配列番号4及び6の第24番~第58番のアミノ酸配列(SP-C(1-35)断片);
配列番号21:配列番号2の第201番~第225番のアミノ酸配列(SP-B(1-25)断片);
配列番号22:配列番号2の第220番~第260番のアミノ酸配列(SP-B(20-60)断片);
配列番号23:配列番号2の第264番~第280番のアミノ酸配列(SP-B(64-80)断片);
配列番号24:配列番号2の第201番~第260番のアミノ酸配列(SP-B(1-60)断片);
配列番号25:配列番号4及び6の第24番~第42番のアミノ酸配列(SP-C(1-19)断片)
配列番号26:KL-4(SP-Bに模倣の合成ペプチド):
配列番号27:SP-CL[合成SP-C(7-28)断片]:
配列番号28:SP-C33(SP-C型の合成ペプチド);
配列番号29:SP-C(FFI)[SP-C(25-58)断片の第28~29番アミノ酸残基CCをFFに、56番アミノ酸残基MをIにそれぞれ置換した合成ペプチド];及び
配列番号30:SP-C(KLS)(SP-BとSP-Cに模倣のハイブリッド(融合)型合成ペプチド)。

尚、この発明によれば、(a)配列番号2、7、8、10~24に記載のアミノ酸配列からなるSP-Bとその断片群から選ばれる少なくとも1種、及び/又は(b)配列番号4、6、9、20、25及び26に記載のアミノ酸配列からなるとSP-C(及びSP-C1)とその断片群から選ばれる少なくとも1種との組合せ、即ち、上記(a)群単独、(b)群単独、及び(a)と(b)両群の組合せを用いることができる。また、上記のSP-B、SP-C、またはそれらの断片の2以上の組合せを選択する場合には、それぞれを混合してもよく、あるいはそれぞれを融合タンパク質(融合ペプチド)としてもよい。

(4)本発明で用いる脂質:リン脂質としては、肺サーファクタントが含有するリン脂質、例えばホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン等の使用が望ましい。その他、ジアシルグリセロホスホグリセロール、ホスファチジルグリセロール、ジラウロイルホスファチジルグリセロール、ジミリストイルホスファチジルグリセロール、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール、ジステアロイルホスファチジルグリセロール、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジン酸、スフィンゴミエリン等を用いることができる。また、脂肪酸としては、ラウリル酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、パルミトオレイン酸、オレイン酸等を用いることができる。更に、肺の膨張が活発なクジラ、マグロ、イルカ等の水棲動物に由来の脂質を用いることができる。

(5)RDS治療用として報告された肺サーファクタント製剤:この発明によれば、RDS治療剤としての安全性と有効性が関係当局により認可され、かつ、疎水性あるいは脂溶性のSP-B及びSP-C並びにリン脂質を含有する既報の肺サーファクタント、例えば、商品名サーファクテン(Surfacten)、Infasurf、Curosurf、Humansurf、Exosurf、Alveofact、Surfacxin等をADビークルとして用いることができる。尚、SP-BとSP-C以外に、親水性あるいは水溶性のSP-A及びSP-Dを含有する市販製剤では、例えば1-ブタノールでこれ等の水溶性タンパク質SP-AとSP-Dとを抽出し、これ等を検出限界以下にまで除去した後、使用に供する。また、ADビークルの調製における使用濃度の調整を考慮すると、液状製剤に比べ、乾燥製剤の使用が望ましい。

この発明は、前述した背景技術の激しく厳しい渦中にあって、10余年にも及ぶ試行錯誤を重ねた筆頭発明者の卓抜した観察力と解析力、そして深い学識経験と斬新な着想によるものであり、次の驚くべき発見に基づく:
(1)従来のアジュバントが炎症を惹起して抗原提示能を増強するのに対し、本来、肺や消化管粘膜が分泌の界面活性物質である肺サーファクタントの4種のタンパク質有効成分、SP-A、B、C及びDから、AとDとを除去したSP-B及びSP-Cの組合せとリン脂質との複合体、あるいはこれ等の脂溶性領域(有効領域)を含むSP-BとSP-C両断片の合成ペプチドの組合せと脂質膜との複合体(前述したADビークル)に、ウイルス抗原を共存又は接触又は捕捉又は吸着させると、炎症を惹起することなく鼻腔粘膜の抗原提示細胞が活性化され、ウイルス抗原が該細胞内に効率よく取り込まれると共に、粘膜や血液中でのIgG産生の誘導を起こすことなく、粘膜の抗ウイルスIgA産生が効果的かつ優先的に誘導されることを発見した。
(2)また、従来から安全な不活化ワクチン抗原として使用されているインフルエンザウイルス・スプリット抗原に、SP-BとSP-Cの組合せとリン脂質との複合体、あるいはこれ等の脂溶性領域(有効領域)を含むSP-BとSP-C両断片の合成ペプチドの組合せと脂質膜との複合体(ADビークル)を添加混合することにより、スプリット抗原の高い安全性を保持しながら、しかもスプリット抗原単独では生ワクチンに比べて劣る抗原提示細胞の活性化が十分に増強され補われた状態で、IgA産生の選択的誘導が実現されることを発見した。
(3)更に、スプリット型インフルエンザウイルスワクチン抗原をADビークルに乗せることにより調製した経鼻・粘膜ワクチンの免疫誘導能に係る解析の結果、IgA産生の選択的誘導は、ADビークル乾燥質量(V;尚、脂質又はリン脂質が通常ADビークル乾燥質量の約90重量%以上を占めるので、V値には脂質重量又はリン脂質重量を当てることができる)とワクチン抗原乾燥重量(A)との重量比V/Aに依存し、V/Aが1以下のとき、IgA産生が選択的に誘導され、他方、V/Aが1を超えるとIgAとIgG両産生が誘導されるという実に驚くべき発見をした。

尚、上記の発見に至る経緯は、次の通りである:
(1)筆頭発明者は、インフルエンザ発症機序と治療、予防法を解明するべく鋭意研究を重ねてきた。その過程で、インフルエンザウイルス膜蛋白質のヘマグルチニン(HA)を限定分解してウイルスの膜融合活性と感染能を発現させる気道のHAプロセシングプロテアーゼのトリプターゼクララを肺サーファクタントが吸着して不活性化し、結果としてウイルスの増殖サイクルを阻止することを解明した。
(2)引き続く研究の結果、肺サーファクタントには上記の作用以外に、選択的に粘膜の抗原提示細胞を活性化してウイルス抗原に対する免疫能を活性化して、分泌型IgAの誘導を引き起こすがIgGの誘導は起こさないことを見いだした。さらに肺サーファクタント中の粘膜免疫増強有効成分として、SP-B、SP-Cが脂質成分と共に重要であることを明らかにし、これら蛋白成分の有効領域の特定と、粘膜免疫増強の有効性を検証した。
(3)更に、上述したように気道粘膜の生体防御物質とウイルス感染防御の観点から研究を進め、体内に分泌されている肺サーファクタントが生体内由来の粘膜免疫アジュバントとして選択的IgA産生の誘導に関与していることを証明した。
(4)上記の肺サーファクタントが本来生体内の生理的作用物質で、(a)特定の生体物質を吸着する性質のあること[Kidoら、FEBS Lett., 322(29), 115-119, 1992]、(b)肺胞II型細胞やクララ細胞から分泌された後、選択的にマクロファージーに取り込まれて代謝されること(諏訪部彰、J.Jpn.Med.Soc.Biol.Interface, 33, 10-13, 2002)、更に(c)その類縁細胞、例えば抗原提示細胞(樹状細胞)に取り込まれて代謝されることに注目し研究を重ねた。
【0017】
その結果、肺サーファクタントの蛋白成分の中で、SP-B、SP-C及び脂質成分だけで、選択的にIgA産生を誘導する粘膜ワクチンの「ADビークル」として機能すること、更に、SP-Bの有効成分領域あるいは粘膜免疫誘導活性ドメインが次のアミノ酸配列からなるペプチドであることを明らかにした:
SP-B 214-225:Leu Ile Lys Arg Ile Gln Ala Met Ile Pro Lys Gly(配列番号7);及び
SP-B 257-266:Leu Leu Asp Thr Leu Leu Gly Arg Met Leu(配列番号8)。
【0018】
併せて、SP-Cの有効成分領域あるいは粘膜免疫誘導活性ドメインが次のアミノ酸配列からなるペプチドであることを明らかにした:
SP-C 29-58:Cys Pro Val His Leu Lys Arg Leu Leu Ile Val Val Val Val Val Val Leu Ile Val Val Val Ile Val Gly Ala Leu Leu Met Gly Leu(配列番号9)。
(5)選択的IgA誘導の機序として、肺サーファクタントの有効成分は、抗原提示樹状細胞のMHC ClassII、CD40、及びB7-2の発現増加を誘導してT-リンパ球への抗原提示を効果的に実行する以外に、粘膜局所のサイトカインTGF-β1を誘導してIgA産生B-リンパ球ヘのクラススイッチを促進していることを明らかにした。
(6)スプリット型インフルエンザウイルスワクチン抗原とADビークルとの混合により調製した経鼻・粘膜ワクチンによる免疫機能には、IgA産生の選択的誘導から、IgA及びIgG両産生の誘導へ変換するスイッチが存在し、これがADビークル量(V)とワクチン抗原量(A)の重量比V/Aに依存するという知見を得た。但し、比較的多量のワクチン抗原(15 mg/Kg 以上)を経鼻接種する場合は、V/A量比にかかわらず粘膜免疫のIgAと全身免疫のIgGは共に誘導される。

以上の発見とその経緯に基づき完成された本発明の目的は次の通りである:
(1)第一の目的は、粘膜免疫方法の確立である。「ADビークル」の提供とその活用により、粘膜免疫の有効物質である抗原特異的IgA産生の選択的誘導、及びIgAとIgG両産生を誘導する経鼻・粘膜ワクチンを実現すると共に、安全かつ有効な(副作用のない)粘膜免疫の誘導とその方法を確立する。
(2)第二の目的は、合成ペプチドの使用による、ADビークルの安全性・有効性・均質性に係る品質の向上にある。SP-Bの粘膜免疫誘導活性ドメイン(前述SP-B 214-225及びSP-B 257-266の各アミノ酸配列からなる)の合成ペプチド、及びSP-Cの粘膜免疫活性導活性ドメイン(前記SP-C 29-58のアミノ酸配列からなる)の合成ペプチド、これ等の合成アナログ、更に、これ等のアミノ酸配列を部分として含む長鎖の合成ペプチド等々と、肺サーファクタント脂質成分との間で調製される複合体(ADビークル)を提供し、ADビークルの品質を向上させる。
(3)第三の目的は、従来ワクチンの皮下接種から経粘膜投与への転換にある。ADビークルを、気道感染ウイルスの不活化ワクチン、例えばインフルエンザ、SARS、麻疹、風疹、ムンプス等の不活化ワクチン、更に、腸管感染ウイルスの不活化ワクチン、例えばロタ、ポリオ等の不活化ワクチンに利用し、これ等の皮下接種ワクチンを粘膜ワクチンに変換する。
(4)第四の目的は、気道、腸管以外の粘膜経由ウイルス感染に対する不活化ワクチン、例えばエイズ、B型肝炎、C型肝炎等の不活化ワクチンにおいて、ADビークルの利用可能な方法を提供することである。
(5)第五の目的は、DNAワクチン、生ワクチン、アレルギ-の予防や治療等についても、ADビークルの利用可能な方法を提供することである。
(6)第六の目的は、粘膜以外のIgAを誘導可能な免疫ルートとして、経皮接種(塗布や貼付等)において、ADビークルの利用可能な方法を提供することにある。
(7)第七の目的は、ドラッグデリバリーシステムや製薬のみならず、農業、漁業等々へのADビークルの用途と応用の道を開くことにある。
【0019】
尚、本発明が提案するADビークルは、従来免疫学で使用されているアジュバントとは、次の通り性能と作用を異にする:
従来アジュバントは、通常、皮下あるいは筋肉内接種され、局所の炎症反応を引き起こし、抗原提示細胞やB-やT-リンパ球を引き寄せ、その能力を発揮する異物を有効成分としている。更に、長時間にわたる炎症反応を維持するため、抗原の徐放や貯留を惹起する鉱油や金属塩が併用されている。また、従来の粘膜ワクチン・アジュバントとして知られているものは、前述した通り、大腸菌易熱生毒素やコレラ毒素等の異物であり、為害作用や副作用の生じる危険性がある。
【0020】
これに対し、本発明に係るADビークルは、局所の炎症反応を引き起こさない。更に、生体成分由来である上に、肺サーファクタントの中の活性成分あるいはその活性ドメインが限定されていると共に、かかるドメインや該ドメイン領域を含む低分子ペプチドを使い、効果的な粘膜ワクチンを実現している。従って、極めて安全であり、かつ非侵襲的である。

この発明によれば、次(1)~(8)が、それぞれ提供される:
(1)肺サーファクタントプロテインB、その断片及びこれ等の機能構造に模倣の合成ペプチド(A群)から選ばれる少なくとも1種のタンパク質、及び/又は肺サーファクタントプロテインC、その断片及びこれ等の機能構造に模倣の合成ペプチド(B群)から選ばれる少なくとも1種のタンパク質、並びに脂質類(C群)から選ばれる少なくとも1種の脂質からなる複合体である抗原薬物(AD)ビークルに、粘膜免疫IgAを誘導する量の抗原を共存、接触、捕捉又は吸着させることにより得られる粘膜ワクチンにおいて、上記ビークルの乾燥質量(V)と上記抗原の乾燥質量(A)との重量比V/Aが約1を超えるよう調整されていることを特徴とする、IgAとIgGの両抗体の産生を誘導する粘膜ワクチン。
【0021】
尚、「抗原」とは、ワクチン用に高度精製された純度が約90%以上のウイルス、細菌、カビ等の病原体に由来の抗原、毒素、不活化抗原、トキソイド、これ等の合成エピトープ領域等、更に、純度が約90%以上のアレルゲン、アレルゲンエピトープ、タンパク質、糖タンパク質、高分子の糖質や核酸等を意味する。
【0022】
また、「ADビークル」は、次のA群(肺サーファクタントプロテインB、該プロテインBに由来あるいは起因する天然断片及び合成ペプチド群)、及び/又はB群(肺サーファクタントプロテインC、該プロテインCに由来あるいは起因する天然断片及び合成ペプチド群)、及びC群(リン脂質、脂肪酸等の脂質群)の各群から少なくとも1種ずつ選ばれる、即ち、A群とC群の各群から少なくとも1種ずつ選ばれる合計少なくとも2種、又はB群とC群の各群から少なくとも1種ずつ選ばれる合計少なくとも2種、又はA群及びB群並びにC群の各群から少なくとも1種ずつ選ばれる合計少なくとも3種の物質からなる複合体である:
<A群>肺サーファクタントプロテインB、及び配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド(アミノ酸番号は、N末端のMetを第1番アミノ酸とし、これよりC末端方向に順次付されている)第1番から第381番(配列番号2)とその断片:第214番から第225番(配列番号7)、第257番から第266番(配列番号8)、第1番から第20番(配列番号10)、第102番から第110番(配列番号11)、第119番から第127番(配列番号12)、第136番から第142番(配列番号13)、第171番から第185番(配列番号14)、第201番から第280番(配列番号15)、第300番から第307番(配列番号16)、第317番から第330番(配列番号17)、第344番から第351番(配列番号18)、第358番から第381番(配列番号19)、第201番から第225番(配列番号21)、第220番から第260番(配列番号22)、第264番から第280番(配列番号23)、第201番から第260番(配列番号24)、上記のアミノ酸配列の少なくとも1つの配列を活性ドメインとして保有するポリペプチド、上記の各アミノ酸配列の少なくとも1個のアミノ酸が置換及び/又は欠失したポリペプチド、これ等の機能構造に模倣の合成ペプチドあるいは合成アナログ、これ等の糖又は糖鎖による修飾体等、例えば、SP-Bに模倣の合成ペプチドKL-4(配列番号26)、SP-BとSP-Cとのハイブリッド(融合)型合成ペプチド(配列番号30)等。
<B群>肺サーファクタントプロテインC、及び配列番号4に記載の次のアミノ酸配列からなるポリペプチド(アミノ酸番号は、N末端のMetを第1番アミノ酸とし、これよりC末端方向に順次付されている):第1番から第197番(配列番号4)、第1番から第191番(配列番号6)、第29番から第58番(配列番号9)、第24番から第58番(配列番号20)、第24番から第42番(配列番号25)、配列番号6に記載の第1番から第191番のアミノ酸配列からなるポリペプチド(アミノ酸番号は、N末端のMetを第1番アミノ酸とし、これよりC末端方向に順次付されている)、上記のアミノ酸配列の少なくとも1つの配列を活性ドメインとして保有するポリペプチド、上記の各アミノ酸配列の少なくとも1個のアミノ酸が置換及び/又は欠失したポリペプチド、これ等の機能構造に模倣の合成ペプチドあるいは合成アナログ、これ等の糖又は糖鎖による修飾体等、例えば、合成SP-C(7-28)断片SP-CL(配列番号27)、SP-C型合成ペプチドSP-C33、SP-C(25-58)断片の第28~29番アミノ酸残基CysCysをPhePheに、56番アミノ酸残基MetをIleにそれぞれ置換した合成ペプチドSP-C(FFI)(配列番号29)、上述A群と重複のSP-BとSP-Cとのハイブリッド(融合)型合成ペプチド(配列番号30)等。
<C群>ホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジン酸等のリン脂質、ラウリル酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸等の脂肪酸等々の脂質。

(2)上記(1)に記載のビークル量(V)と抗原量(A)との重量比V/Aが約1以下になるよう調整されていることを特徴とする、IgA抗体産生を選択的に誘導する粘膜ワクチン。

(3)上記(1)に記載のA群が、配列番号2、7、8、10~19、21~24、26、及び30に記載の各アミノ酸配列のタンパク質からなる前記(1)又は(2)に記載の粘膜ワクチン。

(4)上記(1)に記載のB群が、配列番号4、6、9、20、25、及び27~30に記載の各アミノ酸配列のタンパク質からなる前記(1)、(2)又は(3)に記載の粘膜ワクチン。

(5)上記(1)に記載のC群が、ホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジン酸、ラウリル酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、及びオレイン酸の各脂質からなる前記(1)~(4)のいずれかに記載の粘膜ワクチン。

(6)前記の抗原(A)が伝染病病原体に由来の不活化抗原又は無毒化毒素である前記(1)又は(2)に記載の粘膜ワクチン。

(7)前記(1)及び(2)の抗原(A)がアレルゲン、アレルゲンエピトープ、又はアレルゲン由来抗原であるアレルギーの予防剤又は治療剤。

(8)前記(1)及び(2)のビークル量(V)と抗原量(A)との重量比V/Aが約1であることを、IgA抗体の選択的産生とIgAとIgG両抗体産生との間の変換スイッチとして用いることを特徴とする粘膜免疫誘導方法。

以下、この発明の実施態様につき説明する。
(1)ADビークルの組成:
前述したA群(肺サーファクタントプロテインB及び該プロテインBに由来あるいは起因する天然及び合成ポリペプチド群)、及び/又はB群(肺サーファクタントプロテインC及び該プロテインCに由来あるいは起因する天然及び合成ポリペプチド群)及びC群(リン脂質、脂肪酸等の脂質群)の3群の乾燥重量%は、次の通りである:A群は約0.1~約6.0重量%、B群は約0.1~約6.0重量%、及びC群は約88~約99.8重量%である。抗原薬物ビークルの調製では、重量%において、A群%+B群+C群%=100%、又はA群%+C群%=100%、又はB群+C群%=100%になるよう調整する。

(2)ADビークルの調製例(A、B及びCの3群の使用例):
以下に調製手順を例示する。例えば、A群を2 mg、B群を2 mg、及びC群を96 mgそれぞれ秤取し(重量%にてA群%+B群+C群%=100%)、これ等を5 mlの等張液、例えば生理的食塩水やリン酸緩衝液(PBS)中に均一に懸濁させる。得られた懸濁液は、抗原薬物ビークル(100 mg/5 ml)液として使用に供する。該ビークルは、使用時にその都度、調製する。尚、懸濁には、超音波、ホモジナイザー、ミキサー、振盪器等を用いることができる。
【0023】
超音波は過剰処理による液の変性(粘性の増加)をもたらし易いので、ミキサー、例えばボックスミキサー(例えば商品名Vortex Mixer)の使用が望ましい。
【0024】
尚、C群の脂質96 mgの内訳については、例えば、ホスファチジルコリン71 mg、ホスファチジルグリセロール21 mg、及びホスファチジルセリン4 mgの混合等を採用することができる(脂質量の合計は96 mg)。また、SP-AとSP-Dが除去され、SP-BとSP-Cの含有が報告されているRDS治療用の肺サーファクタント製剤、例えば、サーファクテン(Surfacten)、人工合成製剤サーファクシン(Surfacxin)等を用いる場合には、その使用書に従って調製した懸濁液をそのまま、ADビークル液として使用に供することができる。

(3)粘膜ワクチンの調製:ワクチン中の抗原量(A)に対するADビークル量(V)の乾燥重量比V/Aが所望の値になるよう、ワクチン原液にADビークル液を添加混合し調製する。例えば、抗原含有量が50 mg/mlのワクチン原液50 μlに対し、重量比V/A=1を採用すると、上記(2)で調製したADビークル(50 mg/ml)液の添加混合量は50 μlである。尚、均一に混合するには、ホモジナイザー、ミキサー、振盪器、攪拌器等を用いることができる。
【0025】
抗原とは、ワクチン用に高度精製された純度が約90%以上の細菌由来抗原、ウイルス抗原、トキソイド等、更に、スギ花粉やダニ等に由来の純度が約90%以上のアレルゲン、タンパク質、糖タンパク質、高分子の糖質や核酸等を意味する。抗原質量のA値には、実測値を用いるか、あるいは抗原の純度、比活性、分子量、抗原抗体反応等からの計算値を用いることができる。
【0026】
重量比V/Aの算出におけるV値には、通常の調製ではADビークルの約90重量%以上を脂質又はリン脂質が占めるので、ADビークル量の代わりに、脂質量又はリン脂質量を用いることができる。
【0027】
本発明の粘膜ワクチンにおける抗原の乾燥重量(A)は約0.1~約50 μg/kg、好ましくは約0.3~約30 μg/Kgである。このような抗原量において、IgA抗体産生を優先的かつ選択的に誘導するためのV/Aは、約0.1~約1.0が望ましい。また、IgA及びIgG両抗体産生を誘導するためのV/Aは、約1.0~約100、好ましくは約20~約50の範囲を採用できる。
【0028】
また、以上のとおりのV/Aにおいて、抗原の約60%以上がADビークルに結合し、それによって得られた粘膜免疫ワクチンはIgA抗体産生及び/またはIgG抗体産生を効率的に誘導することができる。

以下、参考例、実験例及び実施例を上げ、この発明の構成と効果につき、具体的に説明する。但し、この発明は、これ等の具体例、説明及び記載にのみ限定されるわけではない。

参考例1
ADビークルの調製と標品:
本発明においてADビークルとして用いる肺サーファクタントの調製と標品につき以下、例示する:牛の肺よりHowoodらの方法(Biochemistry、24、184-190、1985)により調製された標品;該標品を1-ブタノールで抽出して水溶性蛋白成分SP-A及びSD-Dを除去するか、あるいは検出限界以下にまで減じた標品(Haasman H.P.ら、J.Biol.Chem., 262, 13977-13880, 1987);ホスファチジルコリンやジパルミトイルホスファチジルコリン等のリン脂質を全体として40重量%以上、ホスファチジルグリセロールを約10-約30重量%、ホスファチジルセリンを約2-約5重量%、パルミチン酸を約1.0-約20重量%等から選ばれる2種以上の脂質、及び肺サーファクタント由来の脂溶性(疎水性)タンパク質、SP-B及び/又はSP-Cの有効領域又は該有効領域を含む合成ペプチド、例えば、ヒトSP-Cの有効領域(配列番号20に記載の第24-58番アミノ酸配列)FGIPCCPVHLKRLLIVVVVVVLIVVVIVGALLMGLからなる合成ペプチドを約0.1-約12重量%、それぞれ含有し、上記組成の合計が100重量%になるよう調整した標品;市販あるいは公知の肺サーファクタント、例えば、商品名サーファクテン(Surfacten)、インファサーフ(Infasurf)、
キューロサーフ(Curosurf)、ヒューマンサーフ(Humansurf)、エキソサーフ(Exosurf)、アルビオファクト(Alveofact)、サーファキシン(Surfaxin)等である。

実験例1
スプリット型インフルエンザワクチンの作成:
A型インフルエンザウイルスAichi/68/2/H3N2株を接種した発育鶏卵由来浮遊液[1x108 PFU(Plaque Forming Unit)](川崎医科大学・微生物学教室 大内正信教授から供与)を用い、以下の操作でスプリット型インフルエンザワクチンを作成した。0.004 M PBS[タカラバイオ株式会社(日本)製])で一晩透析したウイルス浮遊液にβ-プロピオラクトン[和光純薬株式会社(日本)製]を0.05容量%、最終濃度が8 nMになるように添加混合し、氷浴中で18時間インキュベートし、ウイルスを不活化した。次いで、37℃で1.5時間インキュベートすることにより、β-プロピオラクトンを加水分解させた。加水分解が終了の後、これに最終濃度が0.1重量%になるようTween80[和光純薬株式会社(日本)製]を添加混合し、更に、該Tween80と等量のジエチルエーテル[和光純薬株式会社(日本)製]を添加混合の後、4℃で2時間、転倒混和した。この液を2,000rpm、5分間、遠心分離し、その上澄を採取・回収した。次いで、Automatic Environmental Seed V/Ac System[SaV/Ant Instrument,INC(米国)製]を用い、上澄からジエチルエーテルを除去した後、これをMillex 0.45μmフィルター[Millipore(米国)製]で除菌濾過し、不活化スプリット型インフルエンザワクチン原液として用いた。

実験例2
経鼻・粘膜ワクチンの調製:
実験例1で得たスプリット型インフルエンザワクチン原液と参考例1に記載のADビークル標品とを混合して用いた。先ず、ADビークルをワクチン投与に必要な濃度になるようPBS(phosphate buffer saline)で懸濁の後、室温、5分間の超音波処理により均一な懸濁液とした。この懸濁液にADビークル(乾燥重量)0.1μgに対し上記ワクチン原液(乾燥重量)0.1μgを添加し、ボルテックスミキサーで混合の後、室温で1時間、静置することによりIgA誘導用の経鼻・粘膜ワクチンを調製した。また、ADビークル(乾燥重量)1.0μgに対し前記ワクチン原液(乾燥重量)0.1μgを添加の後、上記と同様にしてIgA及びIgG両誘導用の経鼻・粘膜ワクチンを調製した。

実験例3
動物実験:
6週齢、メスBALB/cマウス[日本エスエルシー株式会社(日本)から購入]を用いた。全ての動物実験は、徳島大学医学部実験動物センターの感染動物舎(P2レベル)内で、徳島大学医学部動物実験委員会のガイドラインに従って行われた。

実験例4
経鼻投与:
ワククチンの経鼻投与においては, 実験例2で得たワクチン(乾燥重量)濃度が0.1 μg/μlになるようPBSで希釈の後、これをエーテル麻酔したマウスの両鼻腔に各々1 μlづつ、合計2 μl/マウス、点鼻することにより投与した。対照群には同量(2 μl)のPBSを点鼻投与した。初回免疫から4週後に同様の点鼻により2次免疫を行い、該2次免疫から2週間目の各マウスにつき、鼻腔洗浄液、肺胞洗浄液及び血清をそれぞれ調製し、これ等を検体として前記ワクチン株ウイルスに特異的なIgA及びIgG両抗体の測定に供した。

実験例5
マウス鼻腔洗浄液・肺胞洗浄液・血清の調製:
ワクチン投与マウスをペントバルビタール麻酔下で開腹開胸の後、気管を切開しアトム静脈カテーテル節付3Fr[アトムメディカル株式会社(日本)製]を肺へ挿入して生理食塩水1 mlを注入し、その液を回収した。これを3回繰り返すことにより採取した液、合計3 mlを肺胞洗浄液として用いた。肺洗浄液を採取の後、切開した気管から鼻腔方向へアトム静脈カテーテルを挿入して1mlの生理食塩水を注入し、鼻からの流出液を採取した。この液を鼻腔洗浄液として用いた。更に、心臓から採血の後、これを5,000rpm、10分間、遠心分離し、その上澄を採取し、血清とした。

実験例6
タンパク質の定量:
鼻腔洗浄液、肺洗浄液及び血清のタンパク質含有量をBCA Protein Assay Reagent Kit[Peirce社(米国)製]を用いて測定した(Anal.Biochem., 150, 76-85, 1985)。波長562 nmの吸光度はSPECTRA Max PLUS 384(Molecular Devices Corporation(米国)製)を用いて測定した。

実験例7
インフルエンザウイルスに対する特異的なIgA及びIgG両抗体の精製:
ELISAにおける定量の標準あるいは基準として用いるために、上記IgA及びIgG両抗体を次の通り精製・調製した。組換え大腸菌発現Protein Gセファロース4Bカラム[Zymed Laboratories Inc.(米国)製]を用いるアフィニティークロマトグラフィーにより、インフルエンザワクチン投与およびインフルエンザウイルス感染マウスの肺胞洗浄液からIgG画分を精製した。また、抗マウスIgAヤギIgG抗体[Sigma社(米国)製]をBrCN活性化セファロース4Bカラム[Amersham Bioscience社(米国)製]に結合させ、Protein Gの素通り画分から、これを用いたアフィニティークロマトグラフィーによりIgA画分を精製した。これ等のIgA及びIgG画分からウイルス特異抗体を精製するため、免疫に用いた不活化スプリット型インフルエンザワクチン抗原をBrCN活性化セファロースカラムに結合させた抗原アフィニティークロマトグラフィーにより、インフルエンザウイルスに特異的なIgA及びIgG抗体をそれぞれ精製・調製した。尚、リガンドとしてのスプリット型インフルエンザウイルス抗原タンパク質のカラムへのカップリングには、0.1 M NaHCO3/0.5 M NaCl緩衝液(pH 8.5)を用いて結合反応を行い、フリーのリガンドは0.1 M酢酸/0.5 M NaCl(pH 8.5)を用いて除去した後、PBS(pH 7.5)にて中和した。各アフィニティクロマトグラフィーはPBS(pH 7.5)によりアフィニティ結合反応およびフリーの抗体の除去を行った後、glycine-HCl緩衝液(pH 2.8)により特異抗体を溶出させた。溶出された画分は直ちに0.5 M Tris-HCl緩衝液(pH 9.0)により中和の後、MilliQ水にて透析の後、凍結乾燥した。これ等のIgA及びIgGは、使用時にPBSで溶解し、ELISAの標準試薬(抗体)として用いた。

実験例8
抗インフルエンザウイルスIgA及びIgG抗体の定量:
鼻腔洗浄液、肺胞洗浄液及び血清中の抗インフルエンザウイルスIgA及びIgG抗体の含有量は、ELISAにより定量した。ELISAは、Mouse ELISA quantitatin kit[Bethyl Laboratories社(米国)製]を用いて行った。96ウェルNuncイムノプレート[Nalgen NuncInternational社(米国)製]の各ウェルにワクチン1 μg、及びウシ血清アルブミン[BSA;Sigma社(米国)製]1 μg/mlのPBS溶液を100 μl添加の後、4℃で一晩、固層化反応を行った。その後、洗浄液(50 mM Tris、0.14 M NaCl、0.05重量% Tween 20、pH 8.0)で3回すすぎ、ワクチン液を除去した。各ウェルに0.15 M NaCl及び1重量% BSAを含む50 mM Tris-HCL緩衝液(pH 8.0)を200μl添加し、室温で1時間ブロッキング反応を行った。各ウェルを上記洗浄液で3回すすいだ後、サンプル結合緩衝液(50 mM Tris、0.15 M NaCl、0.05重量% Tween 20、1重量% BSA、pH 8.0)にて適量に希釈した鼻腔洗浄液、肺洗浄液、又は血清を100 μl、添加混合の後、室温で2時間反応させた。抗体マウスIgAヤギIgG抗体又はIgG-西洋ワサビペルオキシダーゼ(Bethyl Laboratories Inc.(米国)製)を二次抗体として用い、TMB Micowell Peroxidase Subsatrate System[Kirkegaard & Perry Laboratoties、Inc.(米国)製]を用いて発色反応を行った。次いで、各ウェルに100 μlの2 M H2SO4[和光純薬株式会社(日本)製]を添加することにより反応を停止させた後、450 nmの吸光度をSPECTRA MAX PLUS 384で測定した。定量のための標準試薬(抗体)として、実験例7で得た肺洗浄液からの精製・抗インフルエンザウイルスIgA及びIgGを用い、上記と同様にして吸光度を測定し、これ等の測定値を標準に用いた。

実施例1
(1)経鼻・粘膜ワクチンの調製:
「ADビークル」としてサーファクテン[三菱ウェルファーマ社(日本)製]を用い、これと実験例1で得たインフルエンザ不活化ワクチンとの混合物を超音波処理することにより粘膜ワクチンを調製した。サーファクテンは使用時に各ワクチン投与に必要な濃度になるようPBSに懸濁し、室温、1分間の超音波処理により均一な懸濁液とした。次いで、ワクチン(乾燥ワクチン量)0.2 μgに対し、上記サーファクテン懸濁液をそのリン脂質量で0(無添加)、0.02、0.1、0.2、1.0及び2.0 μgの各濃度になるよう添加し、ボルテックスミキサーで混合の後、室温で3分間、超音波処理した。各ワクチン液とも投与前に室温で1時間インキュベートした。

(2)マウス免疫:
ワクチンの経鼻投与においては各ワクチン液を乾燥ワクチン相当重量0.1 μg/μl溶液になるようにPBSで希釈の後、これ等をBALB/cマウスの両鼻腔に投与することにより初回免疫した。その4週間後に初回免疫と同様の方法にて2次免疫を行い、2次免疫2週間後の各マウスから鼻腔洗浄液、肺胞洗浄液及び血清をそれぞれ採取・調製し、抗インフルエンザIgA及びIgGの定量に用いた。

(3)免疫効果の判定:
上記の鼻腔洗浄液、肺胞洗浄液及び血清中(各調製は実験例5に記載)の抗インフルエンザIgA及びIgG両レベルをELISAで定量する(その要領は実験例8に記載)と共に、その有意差検定(t検定)の結果に基づき、「ADビークル」としてのサーファクテンが経鼻ワクチンによる粘膜免疫及び/又は体液性免疫の誘導に及ぼす影響と効果を評価した。
【0029】
ワクチンに添加混合するサーファクテンの量が0.2 μg以下(以下「低ドーズ」群と表記する)では、鼻腔及び肺胞粘膜の抗インフルエンザIgA産生量はサーファクテン量に依存して増加した(図1及び図2)。しかし、この低ドーズ群のIgG産生量にはサーファクテンの増量に伴う増強は見られず、また、血中抗体、IgA及びIgGの産生は共に誘導されなかった(図3)。
【0030】
尚、図1~3において、各ワクチン投与群のマウス数n=8~12、平均値±SD(標準偏差)、有意水準は、サーファクテン無添加ワクチン(0 μg)投与群に対する有意水準、+はp<0.08、++はp<0.05、+++はp<0.01、また、*はサーファクテン0.1 μg添加ワクチン投与群に対する有意水準、p<0.01をそれぞれ示す。これに対し、サーファクテンの量が1.0から2.0 μg(以下「高ドーズ」群と表記する)では、鼻腔及び肺胞粘膜の抗インフルエンザIgG産生量がサーファクテン量に依存し増加した(図1及び図2)。また、血中のIgG産生量も2.0 μgのサーファクテンを用いた群では有意に増強された(図3)。尚、この高ドーズ群のIgA産生量には、上記の低ドーズ群のそれに比べ有意な増強は検出されず、低ドーズ群の粘膜免疫効果の高進は見られなかった(図1及び図2)。

(4)「IgA産生」から「IgA及びIgG両産生」への切換えスイッチの特定:
上述した結果は、乾燥ワクチン重量(0.2 μg)と、サーファクテン(ADビークル)中のリン脂質の変量(0~2.0 μg)との相関であるので、上記の切換えスイッチは、ADビークル中のリン脂質量/乾燥ワクチン量の重量比(以下「V/A」と表記する)として、次の通り算出かつ特定された:
(a)V/Aが約1.0以下のとき、IgAが産生された;
(b)V/Aが約1.0を超えるとき、IgA及びIgGの両者が産生された;及び
(c)「IgA産生」から「IgA及びIgG両産生」への切換えスイッチは、V/Aが約1付近にあると特定された。
【0032】
尚、上記V/A算出でのV値には、ADビークル中のリン脂質量(重量)が用いられた。しかし、本発明に係るADビークルの構成成分のうち、通常、90重量%以上がリン脂質であるので、本発明を実施する上での重量比V/Aの調節には、V値としてリン脂質量だけではなく、脂質量(リン脂質を含む)、又はADビークル量(乾燥重量)をも採用できると判断された。

実施例2
(1)ヒト型肺サーファクタントタンパク質の合成:
純度95%以上のヒト型SP-Cの有効領域(配列番号20)の合成ペプチド、FGIPCCPVHLKRLLIVVVVVVLIVVVIVGALLMGL[Greiner Bio-One社(ドイツ)が合成]を注文・購入した。これをタンパク量として10 mg/mlになるようCM緩衝液(クロロホルム/エタノールを容量比2:1にて混合の緩衝液)に懸濁し、合成SP-C懸濁液として、後述される人工ADビークル(人工ヒト型肺サーファクタント)の調製に供した。

(2)合成ADビークルの調製:
肺サーファクタントとしての構造および機能を有する人工サーファクタントの調製は、Takeiらの方法(Biol.Pharm.Bull., 1996, 19, 1247-1253)により行った。即ち、dipalmitoylphosphatidylcholine[和光純薬(日本)製]、phosphatidylglycerol及びパルミチン酸を75:25:10(重量比)にて混合して、リン脂質量として10 mg/mlの濃度になるようにCM混合液(クロロホルム/メタノールの容量比が2:1の混合液)に懸濁し、脂質成分懸濁液とした。
【0033】
前述のSP-C懸濁液に、同容量のトリフルオロ酢酸(TFA)を添加混合し完全に溶解した。次いで、SP-C量が脂質成分中のリン脂質重量で2 %(w/w)となるようSP-C溶解液に上記の脂質成分懸濁液を添加混合の後、ロータリーエバボレ一夕ーを用いて40℃で乾固した。これをリン脂質10 mg/mlとなるように、10%エタノール液に再懸濁し、45℃の水浴中で15分間、振とう混和した。これを凍結乾燥の後、人工の乾燥ヒト型肺サーファクタント(合成ADビークル)として-30-4℃で保存した。

(3)経鼻・粘膜ワクチンの調製:
上述の人工の乾燥ADビークルは、リン脂質30 mg/mlとなるようにPBSに懸濁し、室温、1分間の超音波処理により均一な懸濁液とした。これに実験例1で得たワクチン(乾燥重量で)0.2 μgに対し、上記の人工サーファクタント、又は免疫誘導効果の陽性コントロールとしてサーファクテン(実施例1に記載)を、リン脂質量に換算して2.0 μgになるように添加し、ボルテックスミキサーで混合の後、室温にて3分間、超音波処理した。得られた経鼻・粘膜ワクチンは投与前に1時間、インキュベートした。ワクチンの経鼻投与においては、ワクチン液をワクチン0.1 μg/μl溶液になるようにPBSで希釈して用いた。

(4)マウス免疫:
実施例1の記載と同様にして各BALB/cマウスを免疫し、2次免疫2週間後の各マウスから鼻腔洗浄液、肺胞洗浄液及び血清をそれぞれ採取・調製し、抗インフルエンザIgA及びIgGの定量に用いた。

(5)免疫効果の判定:
実施例1の記載と同様して抗インフルエンザIgA及びIgG両レベルをELISAで定量すると共に、その有意差検定の結果に基づき、経鼻・粘膜ワクチンにおける「ADビークル」として、合成PS-Cを含有の人工ヒト肺サーファクタント(合成ADビークル)が粘膜免疫及び/又は体液性免疫の誘導に及ぼす影響と効果を評価した。
【0034】
鼻洗浄液では、人工サーファクタント混合ワクチン投与群のIgA産生量は、陽性コントロールのサーファクテン混合ワクチン投与群のそれとほぼ同一レベルにまで有意に増強された。併せて、ADビークル無添加ワクチンの群では検出されなかったIgG産生も検出された(図4)。
【0035】
尚、図4~6において、□はIgA産生量、■はIgG産生量、ワクチン投与群のマウス数n=4、平均値±SD(標準偏差)、有意水準は、ADビークル無添加ワクチン投与群に対する有意水準、+はp<0.01、また、++はp<0.05をそれぞれ示す。肺洗浄液では、人工サーファクタント混合ワクチン投与群のIgG産生量は、陽性コントロールのサーファクテン混合ワクチン投与群のそれと同様に有意に増強された。また、IgA産生は検出されたが、その産生量にはADビークル無添加ワクチン投与群のそれとの間で有意差は見られなかった。しかし、このIgA産生量には、サーファクテン混合ワクチン投与群のそれとの間においても有意差は見られなかったので、人工サーファクタント混合ワクチンのIgA産生誘導能は、陽性コントロールのサーファクテン混合ワクチンのそれに近似していると評価された(図5)。
【0037】
血中では、人工サーファクタント混合ワクチン投与群のIgG産生量は、陽性コントロールのサーファクテン混合ワクチン投与群のそれとほぼ同一レベルにまで有意に増強された(図6)。
【0038】
以上の結果に基づき、人工合成サーファクタントは、ウシ由来のサーファクテンと同様に、粘膜及び体液性の両免疫の誘導能を有すると判定された。

実施例3
1.試料
人工肺サーファクタント製剤:Surfacten(ST)は三菱ウェルファーマ社より購入した。
【0039】
インフルエンザスプリットワクチン:A/ニューヨーク/55/2004(H3N2)、A/ニューカレドニア/20/99(H1N1)、B/上海/361/2002はそれぞれ財団法人大阪大学微生物病研究会より入手した。
【0040】
合成サーファクタント調製基材:DPPC(dipalmitoylphosphatidylcholine)は和光純薬株式会社ないしSigma社から、E-PG(egg-phosphatidylglycerol)はAvanti社ないしSigma社から、PA(palmitic acid)は和光純薬株式会社から入手した。
【0041】
合成ペプチドはグライナー社および林化成などから入手した。なお、合成ペプチドは、SP-B(1-25)(配列番号21)、SP-B(20-60)(配列番号22)、SP-B(64-80)(配列番号23)、SP-B(1-60)(配列番号24)、SP-C(1-19)(配列番号25)、呼吸障害治療薬として開発ないし研究中の合成ペプチドKL-4(配列番号26)、SP-CL(7-28)(配列番号27)、SP-C33(配列番号28)、SP-C(FFI)(配列番号29)、SP-C(KLS)(配列番号30)である。
【0042】
タンパク質およびリン脂質測定キット:BCATM Protein Assay KitはPIERCE社から、リン脂質Cテストワコーは和光純薬株式会社から購入した。

2.方法
1)合成ADビークルの調製
合成ペプチドは適当な溶媒で溶解した。ただし、難溶性合成ペプチドはTFAに5-20 mg/ml の濃度に溶解した。クロロホルム:メタノール(2:1、v/v)(CM)混液に溶解したDPPC、e-PGおよびPA脂質混合物(75:25:10;w/w/w)(以下3種脂質混合液という)をTFAで溶解した合成ペプチド(リン脂質(PL)に対して0.6-2.0%(モル))に添加混合した。その混合液を減圧濃縮機で減圧乾固した。その乾固物に10%エタノール水溶液を加え、N-NaOH水溶液でpHを6-7に調整した後、42-45℃、3-10分間の加温処理した。冷却後、1-10 mg PL/mlの濃度にし、1-5 mg PL相当量をそれぞれ分注し、凍結乾燥した。得られた凍結乾燥物すなわち合成ADビークルを生理食塩液に懸濁して、ワクチンとの結合試験に使用した。
【0043】
具体的には、以下のADビークル(合成サーファクタント: 合成ADビークルST)を作成した。
(1)合成ADビークルSSF-14の調製
合成ペプチドSP-B(1-25)を0.27 mg分取し、TFAに5 mg/mlの濃度に溶解した。CM混液に溶解した3種脂質混合物をTFAで溶解した合成ペプチドに脂質混合物のリン脂質に対して0.6%(モル)のなるように添加し、その混合液を減圧濃縮機で減圧乾固した。その乾固物に10%エタノール水溶液を加え、N-NaOH水溶液でpHを6-7に調整した後、42-45℃で3分間の加温処理した。放冷後、リン脂質濃度として2 mg /mLにし、1-5 mgPL相当量づつ、1.5 mL容マイクロチューブに分注し、凍結乾燥して、SSF-14を調製した。
(2) 合成ADビークルSSF-28、SSF-30、SSF-24、SSF-43の調製
前記と同様に、合成ペプチドSP-B(1-60)を用いてSSF-28を、SP-B(20-60)を用いてSSF-30を、SP-B(64-80)を用いてSSF-24を、SP-C(1-19)を用いてSSF-43をそれぞれ調製した。
(3) 合成ADビークルSSF-44からSSF-48の調製
前記と同様に、KL-4を用いてSSF-45、SP-CL(7-27)を用いてSSF-44、SP-C33を用いてSSF-46、SP-C(FFI)を用いてSSF-47、SP-C(KLS)を用いてSSF-48をそれぞれ調製した。
(4)SP-BとSP-Cを含有する合成ADビークルSSF-41の調製
合成ペプチドSP-B(64-80)およびSP-C(1-35)を分取し、TFAに5 mg/mLの濃度に溶解した。3種脂質混合物をTFAで溶解した合成ペプチドに3種脂質混合物のリン脂質に対して0.6%モルになるように添加した。その後、前記と同様の操作を行い、SSF-41を調製した。
2) ADビークル並びに合成ADビークルとワクチンとの結合試験
(1)ADビークルサーファクタント(ADビークルST)とワクチンの結合試験
ADビークル濃度0.5 mg/mLおよびVac濃度0.05 mg/mL、それらの比は10:1、液量0.4 mLスケールで懸濁試験を行った。
【0044】
STに30 mg/mL濃度になるように生理食塩液を加えピペティングし、懸濁液を得た。次いで、その懸濁液7μLをエッペンドルフチューブに取り、さらに生理食塩液を、382 μLを加え、Digital SONIFIER 250D(Branson)を用いて、氷冷下1分間、超音波処理した。次いで、ワクチン溶液(A/ニューカレドニア/20/99(H1N1)、1.78mgProt/mL)を11 μL加え、氷冷下3分間超音波処理した。その後、室温に2時間放置し、その間30分間ごとに、緩やかに3-5回の転倒混和した。
【0045】
そのADビークルST-ワクチン混合液をHigh Speed Refrigated micro centrifuge (Tomy MX-301)を使用して、4-5℃、20,000×g、15分間遠心した。得られた上清から25μL分取し、ワクチン量をタンパク質量としてBCATM Protein Assay Kitで測定した。
【0046】
この時のADビークルSTへの3種のワクチン(A/ニューヨーク、A/ニューカレドニアおよびB/上海)の結合率は60-70%であった。
(2)SP-B断片を含有する合成ADビークルとワクチンの結合試験
前記(1)のADビークルSTの代わりに、合成ADビークルSSF-14、SSF-30、SSF-24を用いた。また、ワクチンはA/ニューカレドニアを用いた。
【0047】
合成ADビークル濃度(リン脂質Cテストワコー(和光純薬、433-36201)を用いて測定したリン脂質換算)2.5 mg/mLおよびワクチン濃度0.05 mg/mL、それらの比は50:1、液量0.4 mLスケールで、前記(1)に準じて結合試験を行った。
【0048】
結果を表1に示した。SSF-14へのワクチンの結合率は60%弱であったが、SSF-24およびSSF-30の結合率は、90%以上であった。
(3)SP-C断片を含有する合成ADビークルとワクチンの結合試験
SSF-43とワクチン(A/ニューカレドニア)の結合率を測定した。
【0049】
合成ADビークル濃度(リン脂質換算)0.5 mg/mLおよびワクチン濃度0.05 mg/mL、それらの比は10:1、液量0.4 mLスケールで、前記(1)に準じて結合試験を行った。
【0050】
結果を表2に示した。ワクチンのSSF-43への結合率は約80%であった。
(4)合成ADビークルSSF-28と各種ワクチンの結合試験
合成サADビークルとしてSSF-28を、ワクチンとしてA/ニューカレドニア/20/99(H1N1)、A/ニューヨーク/55/2004(H3N2)およびB/上海/361/2002を使用し、両者の結合試験も行った。
【0051】
その結果、表3で示すように、SSF-28への各ワクチンの結合率は60%以上であった。
(4)合成ADビークルSSF-44からSSF-48とワクチンの結合試験
合成ADビークルとして、SSF-45、SSF-44、SSF-46、SSF-47およびSSF-48を使用し、前記と同様に結合試験を行った。
【0052】
表2に示すように、それぞれ合成サーファクタントへのワクチンの結合率は60%以上であった。
【0053】
【表1】
JP2007018152A1_000002t.gif

【0054】
【表2】
JP2007018152A1_000003t.gif

【0055】
【表3】
JP2007018152A1_000004t.gif

【0056】
実施例4
鼻粘膜リンパ組織は動物種によって大きな差があり、マウスやラットの鼻腔粘膜には腸のPeyer's patchesに相当するリンパ組織が多数存在しているが、ヒトの鼻腔粘膜にこれに相当するリンパ組織は見られず、従ってマウスやラットの経鼻粘膜ワクチンの実験結果がヒトに直接そのままあてはまるとは言えない。ヒトの鼻腔、喉頭部のリンパ組織は、扁桃腺、アデノイドのリンパ組織から成るWaldeyer's ringが中心的なリンパ組織で、この組織に比較的類似したリンパ組織を持つ動物はブタである。そこでマウスで得られたADビークルの結果を基に、ヒトでの治験を想定した前臨床実験としてミニブタを用いてADビークル効果を検証して、治験でのADビークルの投与量、投与方法、副作用の検討を行った。
1)試料および方法
(1)ミニブタ
離乳期後のミニブタ:1-2カ月齢(体重:2.2-6.6 Kg)を用いた。ブタが通常感染する各種ウイルス、細菌、寄生虫等、22種の検定で異常の無い事の確かめられた個体を1群3匹使用した。
(2)ウイルス抗原
A/ニューカレドニア/20/99(H1N1)のスプリット抗原を使用した。
(3)サーファクタント調製
三菱ウエルファーマから購入したサーファクテンTM(ADビークルST)を用いた。
(4)タンパク質およびリン脂質測定キット
BCATM Protein Assay KitはPIERCE社から、リン脂質Cテストワコーは和光純薬から購入した。
2)方法
(1)接種方法、検体採取方法
ワクチンの接種、採血、鼻腔粘液は麻酔下で行った。麻酔量を算定するために、前もってミニブタの体重を測定し、ドミトール(明治製菓(株))とドルカム注(アステラス製薬(株))の混合麻酔にて行った。採血は全静脈洞より行った。鼻腔粘液の採取は、左右の鼻腔内部を滅菌綿棒で2回ずつぬぐい取った後、2 mlの生理食塩水に浸して絞り取った。鼻腔粘液の一部は速やかに細胞病理診断を行い、鼻腔内の炎症反応の有無を検討した。
【0057】
体重、体温、は毎週1回測定し、健康状況は1日2回巡視して記録した。
(2)抗原特異的抗体価の測定
マウスにおける抗原特異的抗体価の測定に準じて行われ、抗ブタIgA、IgG2次抗体を用いた酵素抗体法(ELISA)で行った。
3)結果
インフルエンザA/ニューカレドニア/20/99(H1N1)のスプリット抗原を、ADビークルSTに結合させ、これを100 μlの生理食塩水に懸濁し、通常の病原体検査で異常の無いミニブタ(NIBS系)に点鼻投与して、ワクチンに対する特異抗体(IgA、IgG)の産生量を測定した。
【0058】
投与は初回投与の4週後に初回と同様の方法でブースター投与を行い、その後2週間後に測定を終了した。抗原量は、0.3 μg/Kg、1.5μg/Kg、4.5μg/Kg、15μg/Kg、30μg/Kgの5群について行った。抗体価の測定は、局所の粘膜免疫系を評価するために鼻腔粘液と、全身免疫系を評価するために血液中の抗体産生量を測定した。
【0059】
その結果、スプリットインフルエンザ抗原単独を0.3-30μg/Kg体重経鼻投与してもワクチン投与前の鼻腔粘液と血液中のIgA、IgG値をほとんど変えないか、僅かに増加させても有効な感染防御抗体濃度(抗原特異的IgG、IgAで40抗体価以上)にまで増加することは無かった。このスプリットインフルエンザ抗原に、アジュバントとしてその重量比の10倍量のADビークルSTを加え、両者を結合させた懸濁液を経鼻投与すると、鼻腔粘液では特にIgA特異抗体が、血液中では特にIgG特異抗体が、投与した抗原量(0.3-30 mg/Kg)に依存して著明に誘導された。特に抗原量4.5μg~30μg/Kg体重では投与した抗原量に依存して200~800抗体価にまで抗原特異抗体は誘導され、ADビークルSTの極めて効果的なアジュバント効果が証明された。なお、ここで規定するワクチン特異抗体のIgA抗体価、IgG抗体価とは、ワクチン投与前の鼻腔粘液や血液がワクチン抗原と反応して示す測定値の平均を基準として、検体を何倍希釈したらワクチン投与前の値になるかを測定し、その希釈値を持って抗原特異的IgA、IgG抗体価とした。
【0060】
鼻腔粘液中の抗体産生においては、IgA抗体価がIgG抗体価の5-8倍高くIgAが優位に産生されていた。なお抗原量に依存したIgA抗体価、IgG抗体価の増加傾向には大きな差は見られなかった。鼻腔粘液中の両抗体の産生は、初回投与では軽度で、ブースター投与で著明な増加を示した。但し、鼻腔粘液中のIgGにおいては、スプリットインフルエンザ抗原単独でもブースター投与後に低いながらも約10倍の増加を見た。
【0061】
一方、血液中の抗体産生においては、IgG抗体価がIgA抗体価の1-1.6倍高く、血液においては、IgGが優位に誘導されていた。しかも初回免疫でいずれの抗体も100-200抗体価にまで増加を示し、ブースター投与でその抗体価はIgG、IgAで共にさらに4倍に増加した。スプリットインフルエンザ抗原単独では、血液中のIgGにおいても、ブースター投与後に低いながらも約10倍の増加を見た。
【0062】
なお、いずれの検体においても、鼻腔の炎症反応として炎症性細胞の浸潤は観察されなかった。
【産業上の利用可能性】
【0063】
この発明に係る「ADビークル」は、任意のワクチン用抗原、トキソイド、アレルゲン、薬剤等の経粘膜、経皮等による安全な投与あるいは接種を可能にする。そして、ADビークル量(V)とそれに乗せる物質、例えば、抗原量(A)との間の重量比V/Aを調整することにより、「ADビークル」の抗体産生誘導機能を調節できる。即ち、「ADビークル」は、V/Aが約1以下ではIgA産生を優先的かつ選択的に誘導し、V/Aが1を超えるよう調整するとIgA及びIgG両産生を誘導する。但し、比較的多量のワクチン抗原(15 mg/Kg 以上)を経鼻接種する場合は、V/A量比にかかわらず粘膜免疫のIgAと全身免疫のIgGは共に誘導される。従って、ADビークルは、経鼻・粘膜ワクチン、アレルギーの治療剤・予防剤等の有効成分の乗り物あるいはデリバリーや輸送の手段として広く有用であり、ワクチンやアレルギー治療等に係る医薬品・獣医薬・水産薬等の産業分野で活用・利用できる。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5