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明細書 :ラクチドの回収方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5136880号 (P5136880)
公開番号 特開2008-231048 (P2008-231048A)
登録日 平成24年11月22日(2012.11.22)
発行日 平成25年2月6日(2013.2.6)
公開日 平成20年10月2日(2008.10.2)
発明の名称または考案の名称 ラクチドの回収方法
国際特許分類 C07D 319/12        (2006.01)
B01J  21/10        (2006.01)
C07B  61/00        (2006.01)
FI C07D 319/12 ZAB
B01J 21/10 Z
C07B 61/00 300
請求項の数または発明の数 2
全頁数 12
出願番号 特願2007-074639 (P2007-074639)
出願日 平成19年3月22日(2007.3.22)
審査請求日 平成22年1月15日(2010.1.15)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504174135
【氏名又は名称】国立大学法人九州工業大学
【識別番号】802000031
【氏名又は名称】公益財団法人北九州産業学術推進機構
発明者または考案者 【氏名】西田 治男
【氏名】本山 徹
【氏名】白井 義人
個別代理人の代理人 【識別番号】100077263、【弁理士】、【氏名又は名称】前田 純博
審査官 【審査官】深谷 良範
参考文献・文献 国際公開第2003/091238(WO,A1)
調査した分野 C07D 319/
REGISTRY/CAPLUS(STN)
J Dream II
特許請求の範囲 【請求項1】
ポリ乳酸成分を含有するポリマーからラクチドを回収するに際し、該ポリマーに、300~600℃の温度範囲で加熱処理された、5m/g以上の表面積を有する酸化マグネシウムを、ポリマー中のポリ乳酸成分100重量部当たり0.1~10重量部加え、200~300℃の温度に加熱することを特徴とするラクチドの回収方法。
【請求項2】
酸化マグネシウムが、その表面水酸基が炭酸根で置換されたものであることを特徴とする請求項1記載のラクチドの回収方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ乳酸成分を含有するポリマー、即ち、ポリ乳酸又はその誘導体、あるいはそれらを含む樹脂組成物から、ポリ乳酸又はその誘導体を解重合して、乳酸の環状二量体であるラクチドを回収・製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の環境間題に対する意識の高まりから、バイオリサイクル及びケミカルリサイクル可能なポリ乳酸の開発が活発に展開されている。ポリ乳酸の製造方法として、乳酸オリゴマーから熱分解によってラクチドを合成し、更にそのラクチドを重合することによってポリ乳酸を製造する技術が、従来から良く知られている。この製造過程において、光学純度の保持は重要である。何故なら、実用的なポリ乳酸は、光学活性なL-ラクチドの開環重合によって製造される、融点約175℃の透明で高強度のポリマーであり、わずかの光学活性の低下によって融点の著しい低下を招き、その実用性を失ってしまうからである。
【0003】
ラクチドの光学純度は、原料となる乳酸の光学純度のみならず、乳酸オリゴマーの解重合時のラセミ化によっても著しい影響を受ける。野田と奥山は、乳酸オリゴマーの熱分解触媒の検討を、温度190~230℃、圧カ4~5mmHgの減圧下で行った。その結果、触媒活性の順序は、Sn>Zn>Ti>Alであり、光学純度の保持についても、ほぼ同じ傾向を報告した(非特許文献1)。特許文献1には、高分子量ポリ乳酸(重量平均分子量5000~30万)を、スズまたはスズ化合物からなる触媒の存在下にラクチドに変換し、回収する技術が開示されている。特許文献2は、モノブチル錫の存在下で、120~230℃に加熱することによって、高純度のラクチドを得る技術を開示している。また、特許文献3は、分子量400~3000の乳酸オリゴマーに塩化銅を添加して、130~260℃に加熱することによって、生成するラクチドのラセミ化が抑制されることを開示している。また、特許文献4は、周期律表IA、IIIA、IVA、IIB、およびVA族の触媒を用いた乳酸オリゴマーの解重合反応系内に、水蒸気を吹き込みながら130~260℃に加熟することによって、ラセミ化が抑制されることを開示している。
【0004】
以上のように、特にスズ化合物は、熱分解触媒活性及び光学純度保持能に関して、いずれも良好な触媒であることが知られている。ここでケミカルリサイクルを考えた場合、一般的に、より高分子量のポリ乳酸に適用されなければならず、高温かつ長時間での熱分解においても同様の特性が望まれる。しかしながら、スズ触媒であっても、高温かつ長時間の条件下では、ラセミ化が進行し、生成するラクチドの光学純度は低下する(例えば、非特許文献2と3)。高分子量のポリ乳酸の解重合時にラセミ化を抑制する方法として、従来、幾つかの技術が開示されてきた。例えば、特許文献5は、熱分解触媒としてのスズの他に高沸点のアルコール類を添加して、加アルコール分解の後に解重合させる方法を開示している。
【0005】
更に、ポリマーのケミカルリサイクルプロセス考えた場合、高分子量のポリ乳酸をより低温でかつ短時間で解重合反応を行うためには、解重合のための触媒を新たに添加する必要がある。従って、クローズシステムとしての工場内でのラクチド合成プロセスとは異なり、オープンシステムとしてのリサイクルプロセスでは、スズやその他エステル交換金属触媒の環境への悪影響が危惧され、より安全な触媒の開発が望まれている。
【0006】
このような要求を受けて、例えば、特許文献6は、酸化第一鉄を触媒とする乳酸オリゴマーからのラクチドの合成法を開示している。更に、アルカリ金属の水酸化物やアルコキシド、及びカルボン酸との塩などを触媒とする乳酸オリゴマーの熱分解方法が開示されている(特許文献7)。しかしながら、これらの方法は、いずれも乳酸オリゴマーからのラクチド合成の方法である。
【0007】
高分子量のポリ乳酸からのラクチド回収に関して、水酸化アルミニウムが難燃化剤としてばかりでなく、ケミカルリサイクル触媒として効果的に機能することが開示されている(非特許文献4)。但し、水酸化アルミニウムは難燃化剤としての機能を発現するために、30wt%以上という大量の添加を必要とする。また、特許文献8は、アルカリ土類金属がある特定の温度範囲で、高い光学純度のラクチドを与える触媒として機能することを開示し、とりわけ、酸化マグネシウムは、低温領域でのラセミ化が少ないため効果的であることを開示している。酸化マグネシウムの触媒作用については、マグネシウムイオンのポリ乳酸分子末端への配置の後、分子末端からのアンジッピング解重合反応で進行することが報告されている(非特許文献5と6)。この分子末端からのアンジッピング解重合反応は、300℃以下の温度域で進行する。そのため、300℃を超える温度で起こりやすい、ランダム分解によるオリゴマーの生成や、ラセミ化反応による光学異性体の生成を回避することができる(非特許文献7)。
【0008】
ここで解重合反応の触媒となる酸化マグネシウムは、その製造条件に応じて多くの種類が存在することが一般に知られている。水酸化マグネシウムのカ焼による酸化マグネシウムの合成は、そのカ焼温度の違いによって、比重や表面特性の異なる種類が得られる。これらの表面特性の違いは、ポリ乳酸の解重合特性にも影響を及ぼすことが懸念されている。一方で、この表面特性の制御によって、より高活性及び高光学選択的触媒機能の発現が期待される。
【0009】

【非特許文献1】Chemical Pharmaceutical. Bu11etin, 47, 467(1999)
【特許文献1】特開平9-77904号公報
【特許文献2】特開平11-209370号公報
【特許文献3】特開平11-292871号公報
【特許文献4】特開平10-306091号公報
【非特許文献2】Po1ymer Degradation and Stability, Vol.53, 329-342(1996)
【非特許文献3】Journal of Applied Po1ymer Science, Vol.78, 2369-2378(2000)
【特許文献5】特開平9-241417号公報
【特許文献6】特開平8-119961号公報
【特許文献7】特開平6-65230号公報
【非特許文献4】Industrial & Engineering Chemistry Research, Vol. 44, 1433-1437(2005)
【特許文献8】国際公開第03/91238号パンフレット
【非特許文献5】Polymer,Vol.45, 1197-1205 (2004)
【非特許文献6】Industrial& Engineering Chemistry Research, Vol.45, 2949-2953 (2006))
【非特許文献7】Polymer Degradation andStability, Vol. 80, 503-511 (2003)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ポリ乳酸成分を含有するポリマーから高純度のラクチドを効率的に回収するため、解重合触媒としての酸化マグネシウムの触媒機能を、より高度に発現させる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の請求項1に記載された発明は、ポリ乳酸成分を含有するポリマーからラクチドを回収するに際し、該ポリマーに、300~600℃の温度範囲で加熱処理された、5m/g以上の表面積を有する酸化マグネシウムを、ポリマー中のポリ乳酸成分100重量部当たり0.1~10重量部加え、200~300℃の温度に加熱することを特徴とするラクチドの回収方法である。
【0012】
本発明は、酸化マグネシウムが、300~600℃の温度範囲で加熱処理されたものであることを特徴とする。
【0013】
そして、請求項2に記載された発明は、酸化マグネシウムが、その表面水酸基が炭酸根で置換されたものであることを特徴とする請求項1記載のラクチドの回収方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ケミカルリサイクルの対象であるポリ乳酸成分を含有するポリマーから、少ない触媒量で効率的に、且つ、定量的にラクチドを回収することができる。また、ポリ乳酸のモノマーユニットの光学純度に対して、90%以上の純度を保持して、ラクチドを回収することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明は、ポリ乳酸成分を含有するポリマーから乳酸の環状二量体であるラクチドを回収するに際し、5m/g以上の表面積を有する酸化マグネシウムを解重合触媒として用いるものであるが、ポリ乳酸成分を含有するポリマーとは、ポリ乳酸又はその誘導体、あるいはそれらを含む樹脂組成物を意味する。また、酸化マグネシウムとしては、通常、微粉末状態で、その表面積が5m/g以上、好ましくは6~50m/gのもが用いられる。
【0016】
本発明において用いられる酸化マグネシウムは、一般に海水から、あるいは鉱石から製造されている酸化マグネシウムであり、本発明の条件に適合するものであれば何ら制限なく利用できる。好適に用いられる酸化マグネシウムとしては、軽焼マグネシア、重焼マグネシア、電融マグネシアなどである。
【0017】
本発明において用いられる酸化マグネシウムの表面積の測定方法は、通常用いられる比表面積の測定方法が何ら制限無く用いられる。好適に用いられる方法としては、気体吸着法(BET法、Harkins-Juraの相対法)、液相吸着法、浸漬熱法、透過法がある。透過法から粉体の比表面積を求めるものでは、Blaine式装置、恒圧通気式比表面積測定装置、島津式比表面積測定装置SS-10、Lea-Nurse式装置、Sub
Sieve Sizer式装置などがある。透過法は、吸着法や浸漬熱法にくらべて理論的な信頼度は低いが、装置や使用法の簡便さ、再現性の良さからよく使われている。上記の各方法の中でも、酸化マグネシウムの表面積の測定に特に好適に用いられる方法はBET法である。
【0018】
酸化マグネシウムは、ポリマー中のポリ乳酸成分100重量部当たり0.1~10重量部、好ましくは0.2~5重量部加えられる。そして、得られた混合物は、解重合のために200~300℃、好ましくは250~300℃の温度に加熱される。
【0019】
本発明においては、酸化マグネシウムを、あらかじめ300~600℃の温度範囲で加熱処理しておくのも好ましい。この場合には、触媒表面に吸着した水分や水酸基を減少させることができ、高純度のラクチドを回収することができる。あるいはまた、酸化マグネシウムを炭酸ガスの存在下に加熱処理して、その表面水酸基を炭酸根で置換したものも好ましく、この場合には、特に効果的に高い光学純度のラクチドを回収することができる。
【0020】
本発明において、ポリ乳酸成分を含有するポリマーと酸化マグネシウムとの混合物は、200~300℃において熱分解され、高い光学純度のラクチドが選択的に回収される。200℃未満では、ポリ乳酸成分の熱分解が殆ど進行せず、また300℃を超える温度では、乳酸エステル構造ユニットのラセミ化が起こり易くなり、結果としてメソ-ラクチドの生成が増大し、得られるラクチドの光学純度が低下する。適当な温度範囲は200~300℃であり、より好適には250~300℃の温度範囲である。
【0021】
本発明において、ポリ乳酸又はその誘導体とは、乳酸エステル構造を基本ユニットとするポリマーであり、特にL-又はD-乳酸エステル構造ユニットが全ユニットの90%以上、好ましくは95%以上、更に好ましくは98%以上のポリマーである。L-またはD-乳酸エステル構造ユニット以外の成分としては、ラクチドと共重合可能なラクトン類、環状エーテル類、環状アミド類、環状酸無水物類などに由来する共重合成分ユニットが存在することが可能である。好適に用いられる共重合成分としては、カプロラクトン、バレロラクトン、β-ブチロラクトン、バラジオキサノンなどのラクトン類;エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド、スチレンオキサイド、フェニルグリシジルエーテル、オキセタン、テトラヒドロフランなどの環状エーテル類;ε-カプロラクタムなどの環状アミド類;琥珀酸無水物、アジピン酸無水物などの環状酸無水物類などである。
【0022】
更に、開始剤成分として、ポリ乳酸又はその誘導体中に共存しうるユニットとして、アルコール類、グリコール類、グリセロール類、その他の多価アルコール類、カルボン酸類、および多価カルボン酸類、フェノール類などが用いられる。好適に用いられる開始剤成分を具体的に例示すれば、エチルヘキシルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリビニルアルコール、グリセリン、オクチル酸、乳酸、グリコール酸などである。
【0023】
本発明の方法において、ケミカルリサイクルの対象となるポリ乳酸成分を含有するポリマーは、ポリ乳酸又はその誘導体、あるいはそれらを含む樹脂組成物であるが、樹脂組成物としては、ポリ乳酸又はその誘導体以外の樹脂や強化用繊維類やフィラー類や添加剤等が共存した組成物であっても良い。
【0024】
本発明において、ポリ乳酸成分を含有するポリマーに酸化マグネシウム加える方法、即ち、混合する方法としては、公知の混合の手段が特に限定されず利用可能である。ポリ乳酸成分を含有するポリマー中に、酸化マグネシウムが、均一に分散して存在すること重要である。従って、酸化マグネシウムとしては微粉末のものが好ましい。好適に用いられる添加混合方法としては、溶融混合法、溶液混合法、粉体混合後溶融分散法、マスターバッチ法などである。ポリ乳酸成分含有ポリマーが、ポリ乳酸成分又はその誘導体が単独で、あるいは樹脂組成物として成形品となっている場合には、あらかじめこれを粉砕した後、酸化マグネシウムと混合するのが良い。
【0025】
本発明において、光学純度の高いラクチドを回収する方法として、ポリ乳酸成分を含有するポリマーと酸化マグネシウムとの混合物を、例えば、200~300℃の温度範囲に設定された熱分解反応器中に投入することが望ましいが、より低温から高速で昇温する方法も選択可能である。好適に利用される熱分解反応器としては、バッチ式、連続式のいずれも実施可能である。好適に用いられる反応器としては、エクストルーダー、オートクレーブ、流動床式反応器などである。エクストルーダーを用いる場合、シリンダーの各ブロックの温度設定とスクリューの回転数、スクリューの形状、一軸/二軸スクリューなどの形式によって、熱分解温度や熱分解速度の制御および昇温速度を、本発明における温度範囲に設定することが可能である。
【0026】
これらの熱分解反応器を用いて、ポリ乳酸含有ポリマーの熱分解を実施する場合、生成したラクチドは気相中に揮発してくるため、気相成分を取り出すプロセスが不可欠である。上記した各反応器は、気相成分を取り出すための排出口、及び/又は、気相成分を押出し置換するための窒素ガスなどの不活性ガスの注入口を有する。例えば、エクストルーダー反応器の場合、ベント口が排出口として好適に用いられる。ベント口より気相成分を取り出す際に、一般的には、減圧下に取り出す方法が好適に実施される。減圧度および/又は排気速度は、気化成分の量や温度に応じて設定することができるが、通常、500mmHg以下、好ましくは200mmHg以下の減圧度で好適に実施される。
【0027】
このようにして、本発明の方法を実施し、ケミカルリサイクルによって、高光学純度のラクチドを得ることができる。得られたラクチドの光学純度の評価は、従来公知の方法を用いることができる。例えば、一つの乳酸エステル構造ユニットでラセミ化が生じ、続いてラクチド単位での脱離が生じた場合、メソ-ラクチドが生成する。連続する二つの乳酸エステル構造ユニットでラセミ化が生じ、その二つの乳酸エステル構造ユニットがラクチドとして脱離した場合、元のポリ乳酸とは逆の光学異性ラクチドが生成する。一般的に、ラセミ化反応がランダムに進行した場合、メソ-ラクチドが主な分解産物として生成する。これらのメソ-ラクチドおよびL,L-ラクチド、D,D-ラクチドの割合は、ガスクロマトグラフ分析によって確認することができる。ただし、光学分割が不可能なカラムを利用した場合、D,D-ラクチドとL,L-ラクチドとは、同一フラクションとして検知されるため、ラセミ化の評価は、メソ-ラクチドの生成割合を指標として利用することができる。従って、メソ-ラクチドの生成割合が、得られたラクチド中の10モル%以下、好ましくは5モル%以下、より好ましくは2モル%以下であるのが良い。
【0028】
本発明により、ラセミ化が抑制されたラクチドを回収することができるが、得られるラクチドの光学純度は、用いるポリ乳酸又はその誘導体の光学純度に依存する。即ち、用いるポリ乳酸又はその誘導体の光学純度が高ければ高いほど、得られるラクチドの光学純度も高くなる。従って、ポリ乳酸又はその誘導体の光学純度が、80%e.e.以上、好ましくは90%e.e.以上、より好ましくは95%e.e.以上であれば、ケミカルリサイクルによって得られるラクチドの光学純度も、比例して高くなる。なお、ここで、%e.e.とは、enantiometric excessという一対の鏡像異性体だけからなる混合物中に存在する、一方の鏡像異性体の過剰量を百分率で表したものである。
【実施例】
【0029】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、表面積はBET法による値である。
【0030】
[実施例1~3]及び[比較例1]
異なる表面積および熱重量減少率を示す酸化マグネシウムによるポリ乳酸の熱分解(TG分析)
【0031】
表1に示した表面積の異なる4種類の酸化マグネシウム(MgO-0.01μm, 0.05μm, 0.2μm, heavy;和光純薬製)を、熱天秤(TG)を用いて、窒素気流(100mL/min)中、室温から600℃まで昇温速度9℃/minで昇温加熱した。その結果、図1に示したように、各サンプルとも温度の上昇とともに重量が減少し、固有の加熱減量値を示した。表1に120℃、350℃、および600℃での重量減少値を示した。
【0032】
【表1】
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【0033】
ポリ-L-乳酸(PLLA)(三井化学製、商品名:LACEA H-100J, Sn含量 40 ppm, Mn 98,000, Mw
170,000)400mgと、表1に示した各種MgO20mgをサンプル管にとり、これにクロロホルム10mLを加えて、室温下1時間、激しく磁気攪拌を行うことによってMgOが均一分散したPLLA溶液を調製した。次に、この溶液からフラットシャーレ中でキャストフィルムを作成した。得られたキャストフィルムは、室温で1日真空乾燥を行った。得られたフィルムから、一回につき約5mgのサンプルを切り出し、SEIKO製TG/DTA6200を用いて、窒素雰囲気下、室温~400℃までの温度範囲で、9℃/minの昇温速度で加熱した。その結果、PLLAが熱分解し、それぞれ異なる重量減少挙動が示された。図2および表2にTG結果を示す。
【0034】
【表2】
JP0005136880B2_000003t.gif

【0035】
図2および表2の結果より、表面積5m2/g以上である酸化マグネシウムは、PLLAの熱分解温度を300℃以下に制御し、かつほぼ定量的に分解気化させることが明らかである。この際、明らかに表面積によってPLLAの分解温度域が制御され、広い表面積を有するMgOが、より低い温度(300℃以下)で、即ち、より温和な条件で効率的にPLLAを熱分解することが可能であることを示している。比較例1で示したMgO-heavyを用いた場合、その分解温度は300℃以上に及んでいる。分解温度が300℃以上に及んだ場合、多大な熱エネルギーを必要とするだけでなく、ランダム分解やラセミ化反応が頻繁に起こり、生成したラクチド中にオリゴマーや光学異性体(メソラクチドなど)の混入を引き起こす。
【0036】
[実施例4~12]さまざまの温度で加熱処理した酸化マグネシウムによる、ポリ乳酸の熱分解:熱分解-ガスクロマトグラフ/マススペクトロメーター(Py-GC/MS)分析
【0037】
表1に示した3種類のMgO-0.2μm、MgO-0.05μm、MgO-0.01μmをアズワン製プログラム電気炉 MMF-1中で、空気雰囲気下、120℃、350℃、および600℃で2時間熱処理を行なった。熱処理後、ゆっくりとそのまま冷却した。これらの熱処理したMgOを用いて、実施例1~3と同様にしてPLLAキャストフィルムを作成し、フロンティアラボ社製PY-2020D ダブルショットパイロライザーを備えた、島津製作所製ガスクロマトグラフ/マススペクトロメーターGC/MS-QP5050を用いて熱分解実験を行なった。
【0038】
得られたフィルムから、一回につき約0.5mgのサンプルを切り出し、パイロライザー中で、ヘリウム気流(100ml/min)下、60℃~所定温度まで、9℃/minの昇温速度で加熱した。分解生成物は、ガスクロマトグラフ中のUltra Alloy+-5 キャピラリーカラム(長さ30 m × 内径0.25 mm、フィルム厚さ 0.25 μm)を経てマススペクトロメーターに送られ分析された。カラムは次のプログラムに従って加熱した:40 ℃で1分保持、40-120℃まで昇温速度5℃/minで加熱昇温、120-320 ℃まで昇温速度20℃/minで加熱昇温、320℃で13分保持。また、マススペクトロメーターは、2回/秒で分析記録した。
【0039】
得られた分析結果を表3に示した。表3の結果より、いずれのMgO触媒を用いても、ポリ乳酸の原料モノマーであるラクチドがほぼ優先的に回収された。但し、120℃熱処理MgOに比べて、350℃および600℃で熱処理したMgOを触媒として用いた場合、PLLAの熱分解生成物として、オリゴマーの生成を顕著に抑制していることが明らかである。その結果、生成物は殆ど再重合しポリ乳酸に変換可能なラクチドとなった。
【0040】
【表3】
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【0041】
[実施例13~17]炭酸ガスの存在下に加熱処理した酸化マグネシウムによる、ポリ乳酸の熱分解:熱分解-ガスクロマトグラフ/マススペクトロメーター(Py-GC/MS)分析
【0042】
MgO-0.05μmをアズワン製プログラム電気炉 MMF-1中で、空気雰囲気下、120℃と350℃、また、炭酸ガス雰囲気下に120℃、300℃、および450℃で2時間熱処理を行なった。熱処理後、ゆっくりとそのまま冷却した。これら炭酸ガス雰囲気下で熱処理したMgOの表面化学種の変化は、赤外吸収スペクトルを測定することによって確認された。図3に、空気雰囲気下と炭酸ガス雰囲気下で熱処理したMgOの赤外吸収スペクトルを示した。ここで、赤外吸収スペクトルは、Nicolet Avatar 360 FT-IR スペクトロメーターを用いて、KBrディスクを用いて透過法で測定した。その結果、炭酸ガス雰囲気下で熱処理したMgOは、空気雰囲気下で熱処理したMgOに比べて、2800~3700cm-1の領域の水酸基の伸縮振動に基づく吸収が減少し、一方で、1400cm-1付近の炭酸マグネシウム構造に吸収は、高い値を保持していた。これは、酸化マグネシウム表面の反応活性な構造部位(Mg-OHおよび/または歪のあるMg-O-Mg結合部位)が炭酸ガスと反応して、安定な炭酸マグネシウム構造を表面に形成したためと考えられる。
【0043】
これら炭酸ガス雰囲気下で熱処理したMgOを用いて、実施例1~3と同様にしてPLLAキャストフィルムを作成し、フロンティアラボ社製PY-2020D ダブルショットパイロライザーを備えた、島津製作所製ガスクロマトグラフ/マススペクトロメーターGC/MS-QP5050を用いて熱分解実験を行なった。得られたフィルムから、一回につき約0.5mgのサンプルを切り出し、パイロライザー中で、ヘリウム気流(100ml/min)下、60℃~所定温度まで、9℃/minの昇温速度で加熱した。分解生成物は、ガスクロマトグラフ中のUltra Alloy+-5 キャピラリーカラム(長さ30 m × 内径0.25 mm、フィルム厚さ 0.25 μm)を経てマススペクトロメーターに送られ分析された。カラムは次のプログラムに従って加熱した:40 ℃で1分保持、40-120℃まで昇温速度5℃/minで加熱昇温、120-320 ℃まで昇温速度20℃/minで加熱昇温、320℃で13分保持。また、マススペクトロメーターは、2回/秒で分析記録した。
【0044】
得られた分析結果を表4に示した。表4の結果より、いずれのMgO触媒を用いても、ポリ乳酸の原料モノマーであるラクチドがほぼ優先的に回収された。但し、炭酸ガス雰囲気下に、熱処理したMgOに比べて、炭酸ガス雰囲気下に120℃、300℃および450℃で熱処理したMgOを触媒として用いた場合、PLLAの熱分解生成物として、オリゴマーの生成を抑制するのみならず、光学異性体であるメソ-ラクチドの生成をも顕著に抑制していることが明らかである。その結果、生成物は殆ど再重合しポリ-L-乳酸に変換可能なL,L-ラクチドとなった。
【0045】
【表4】
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【0046】
[実施例18]異なる表面積を有するMgOを用いての、PLLA/ポリエチレン混合物からのL,L-ラクチドの選択的回収
【0047】
異なる表面積を有する2種類のMgO:MgO-0.2μm(表面積7.27 m2/g)、MgO#1000(タテホ化学製)(表面積6.00m2/g)を用いて、ポリ-L- 乳酸(PLLA)と直鎖状ポリエチレン(LLDPE)との20/80(wt/wt)ブレンドからの、熱分解によるラクチドの選択的回収を行なった。ここで用いたMgOは、それぞれ窒素雰囲気下、350℃で2時間、熱処理を行なったものを使用した。試験管にキシレン5mLを取り、この中にLLDPE/PLLAを8:2(wt/wt)の割合で加えた。これを130℃のオイルバスで加熱してLLDPEとPLLAが溶解したところで、MgO触媒(MgO-0.2μmは樹脂100重量部に対して1重量部、MgO-#1000は、1、3、および5重量部)を添加し、これをフラットシャーレに移して、キャスト法によって合計4枚のフィルムを作製した。
【0048】
得られたフィルムから、一回につき約5mgのサンプルを切り出し、SEIKO製TG/DTA6200を用いて、窒素雰囲気下、室温~600℃までの温度範囲で、9℃/minの昇温速度で加熱した。その結果、PLLAが熱分解し、それぞれ異なる重量減少挙動が示された。図4と図5(PLLA成分部分の拡大図)にTG結果を示した。この結果から、ポリ乳酸とLLDPEとの熱分解温度域は明確に異なり、PLLA成分の選択的分解が十分可能であることを示している。
【0049】
PLLA成分の分解は、いずれのサンプルでもほぼ定量的に進行し、環状モノマーのラクチドを生成した。異なる表面積のMgOを比較した場合、表面積の小さいMgO-#1000の添加量を増やしていくと、TG曲線は低温側にシフトし分解反応が促進された。結果として、MgO-0.2μm(1wt%)と同等の触媒活性は、MgO-#1000が5wt%必要であった。即ち、触媒活性を高める上で、MgOの表面積を高めることが効果的である。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】表面積の異なる酸化マグネシウムの熱重量減少率を示す図である。
【図2】ポリ-L-乳酸(PLLA)を各種の酸化マグネシウムで熱分解した場合の、 重量減少の様子を示す図である。
【図3】空気雰囲気下と炭酸ガス雰囲気下で熱処理した、MgOの赤外吸収スペクトルを示す図である。
【図4】PLLA/ポリエチレン混合物からの、L,L-ラクチドの選択的回収を示す図である。
【図5】図4のPLLA成分部分の拡大図である。

【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明によって、高分子量のポリ乳酸又はその誘導体を、高い光学純度のラクチドに効率的、且つ、容易に変換することができる。従って、例えば、使用済みの高分子量のポリ乳酸又はその誘導体あるいはこれらを含む樹脂組成物を、ケミカルリサイクルする上で本発明を利用することができる。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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