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明細書 :導電性高分子の処理方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5256454号 (P5256454)
登録日 平成25年5月2日(2013.5.2)
発行日 平成25年8月7日(2013.8.7)
発明の名称または考案の名称 導電性高分子の処理方法
国際特許分類 D06M  23/00        (2006.01)
D06M  11/00        (2006.01)
D06M  13/148       (2006.01)
D06M  13/248       (2006.01)
D06M  13/402       (2006.01)
D06M  13/535       (2006.01)
D01F   1/09        (2006.01)
D01F   6/96        (2006.01)
C08L 101/12        (2006.01)
C08L  25/18        (2006.01)
C08L  67/00        (2006.01)
FI D06M 23/00 A
D06M 11/00 140
D06M 13/148
D06M 13/248
D06M 13/402
D06M 13/535
D01F 1/09
D01F 6/96
C08L 101/12
C08L 25/18
C08L 67/00
請求項の数または発明の数 7
全頁数 11
出願番号 特願2008-502756 (P2008-502756)
出願日 平成19年2月26日(2007.2.26)
国際出願番号 PCT/JP2007/053467
国際公開番号 WO2007/099889
国際公開日 平成19年9月7日(2007.9.7)
優先権出願番号 2006054131
優先日 平成18年2月28日(2006.2.28)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成21年11月27日(2009.11.27)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】304023994
【氏名又は名称】国立大学法人山梨大学
発明者または考案者 【氏名】奥崎 秀典
審査官 【審査官】相田 元
参考文献・文献 国際公開第2004/042743(WO,A1)
特開平01-033140(JP,A)
特開平03-163709(JP,A)
国際公開第94/010371(WO,A1)
特開2005-330624(JP,A)
特開平01-306608(JP,A)
S.Ashizawa, R.Horikawa and H.Okuzaki,Effects of solvent on carrier transport in poly83,4-ethylenedioxythiophene)/poly(4-styrenesulphonate),Sthynthetic Metals,NL,Elsevier,2005年 9月21日,Volume 513, Issues 1-3,Pages 5-8
調査した分野 D06M 19/00-23/18
D06M 10/00-11/84
D06M 13/00-15/715
D01F 6/00- 6/96
C08L 25/18
C08L 67/00
C08L 101/12
特許請求の範囲 【請求項1】
ドーパントが添加された共役系導電性高分子材料ポリ3,4エチレンジオキシチオフェン(PEDOT)の繊維を、エチレングリコール及び/又は非プロトン性溶媒を含む処理液中に所定時間浸漬して、PEDOTの三次元ネットワークを形成させ、該繊維の導電特性並びに機械的特性を改善することを特徴とする導電性高分子の処理方法。
【請求項2】
ドーパントが添加された共役系導電性高分子材料ポリ3,4エチレンジオキシチオフェン(PEDOT)の繊維を、エチレングリコール及び/又は非プロトン性溶媒を含む処理液中に所定時間浸漬して、前記繊維を形成する分子鎖を再配列し構造欠陥減少させ、該繊維の導電特性並びに機械的特性を改善することを特徴とする導電性高分子の処理方法。
【請求項3】
前記非プロトン性溶媒が、ジメチルスルホキシド(DMSO)又はジメチルホルムアミド(DMF)である請求項1又は2に記載の導電性高分子の処理方法。
【請求項4】
前記繊維が、ノズルから流出した前記導電性高分子材料のエマルジョン分散液又はその前駆体溶液であって、前記処理液を凝固浴として用い、湿式紡糸法による繊維の形成と前記特性の改善処理を同時に行うことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の導電性高分子の処理方法。
【請求項5】
前記処理液として室温のものを用い、前記繊維の該処理液への浸漬時間を30秒以上とすることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の導電性高分子の処理方法。
【請求項6】
前記浸漬時間を3分以上とすることを特徴とする請求項5に記載の導電性高分子の処理方法。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の方法により処理された前記繊維を、絶対圧1Torr以下の減圧下で、0~50℃の温度に1分以上保持する熱処理を行うことを特徴とする導電性高分子の処理方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維状の導電性高分子を処理液中に浸漬することにより、簡便にその導電特性並びに機械的特性を改善することのできる導電性高分子の浸漬処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高分子の直鎖に共役二重結合を有し、π結合に関わる電子の動き易さから導電性を示す共役系導電性高分子が注目されている。かかる共役系導電性高分子は、キャリア移動度を高めるためにドーピングでキャリアを注入して使用されるのが一般的である。導電性高分子繊維の製造方法については下記特許文献1がある。
【0003】
かかる共役系導電性高分子の中でも、ポリ3,4エチレンジオキシチオフェン(PEDOT)は、ドープされた状態で、1.5~1.6eVと比較的低いバンドギャップを有する導電性高分子であり、導電性や透明性、安定性に優れ、帯電防止剤、エレクトロクロミックウィンドウ、有機エレクトロルミネッセンス(EL)素子の正孔注入材料として注目されている。
【0004】
ポリ4-スチレンスルホン酸(PSS)をドープしたPEDOTに関する従来の研究の多くは、キャスティングや電気化学的手法により作られた薄いコーティング膜あるいは厚めのフィルムを用いて行われており、ファイバーの作製に関する研究は比較的少ない。
【0005】
しかし、導電性ファイバーの作製は、材料のバルクにおける電気的、機械的特性を理解するための基礎的な観点からだけでなく、ファイバーという形状による電磁気シールド材、導電性織物、人工筋肉繊維、高感度センサーなどの応用面においても重要である。

【特許文献1】特開2005-330624号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のような背景から、本発明者らは湿式紡糸法による導電性高分子のファイバーの作製に関する研究を行っており、PSSをドープしたPEDOTに湿式紡糸法を適用することで、直径がミクロンオーダーのPEDOT/PSSマイクロファイバーの作製に成功している。
【0007】
かかる研究の過程において、本発明者らは、導電性高分子繊維をある種の処理液中に浸漬するだけで、その導電特性や機械的特性を改善できることを知見し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち本発明の課題は、繊維状の導電性高分子の導電特性並びに機械的特性を、簡便に改善することのできる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための本発明は、ドーパントが添加された共役系導電性高分子材料の繊維を、エチレングリコール及び/又は非プロトン性溶媒を含む処理液中に所定時間浸漬して、該繊維の導電特性並びに機械的特性を改善することを特徴とする導電性高分子の処理方法である。
【0010】
とくに、導電性高分子材料がポリ3,4エチレンジオキシチオフェン(PEDOT)であり、そのドーパントがポリ4-スチレンスルホン酸(PSS)である場合に、上記処理により、電気電導度が数十倍になることが知見されており、本発明の処理方法は、極めて簡便かつ安価に導電性高分子繊維の特性を改善できる画期的な方法である。
【0011】
なお、上記の処理液は、エチレングリコール及び/又は非プロトン性溶媒の1種又は2種以上を作用物質として含有するものであればよく、この作用物質の純溶液であっても、作用物質を水、アルコール等の溶媒で希釈した溶液であってもよい。また、本発明で改善される機械的特性としては、繊維のヤング率、引張切断強度、切断伸度等が挙げられる。このような改善効果が得られる理由については、後に詳述する。
【0012】
上記の処理方法において、前記非プロトン性溶媒としては、ジメチルスルホキシド(DMSO)又はジメチルホルムアミド(DMF)が好適である。
【0013】
また、本発明の方法は、湿式紡糸プロセスにおいて、繊維の形状形成と同時に繊維特性の改善を行い得ることが特徴である。すなわち、処理対象の繊維が、ノズルから流出した高分子材料のエマルジョン分散液又はその前駆体溶液であって、前記処理液を凝固浴として用いることにより、湿式紡糸法による繊維の形状形成と前記の特性改善処理を同時に行うことができる。これにより、湿式紡糸プロセスの中で、ファイバーの特性改善の処理を行うことができ、簡略化を図ることができる。
【0014】
本発明における浸漬処理の処理条件としては、処理液として室温のものを用いた場合に、前記繊維の該処理液への浸漬時間を30秒以上とすればよい。より好ましくは、この浸漬時間を3分以上とする。
【0015】
なお、本発明の処理方法は、高分子を溶解する能力を有する溶媒中に、高分子繊維を浸漬するものであるから、浸漬後の繊維に残存した溶媒(処理液成分)が、繊維を劣化させるおそれがある。これを防止するため、本発明においては、上記の方法により処理された前記繊維を、絶対圧1Torr以下の減圧下で、0~50℃の温度に1分以上保持する熱処理を行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、ドーパントが添加された共役系導電性高分子繊維の導電特性並びに機械的特性を簡便かつ安価な手段で改善することが可能になった。とくに、PSSをドープしたPEDOT繊維の電導度の向上効果が顕著である。
【0017】
また、湿式紡糸プロセスにおける凝固浴に前記の処理液を用いることにより、繊維の形状形成とその特性改善処理を同時に行うことができ、簡単な方法で特性の優れた導電性高分子のマイクロファイバーを作製することが可能になった。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】PEDOT/PSSの化学構造を示す図である。
【図2】本実施例で用いた湿式紡糸装置の構成を示す概念図である。
【図3】4端子法による電導度測定の説明図である。
【図4】応力-歪曲線の説明図である。
【図5】本実施例におけるファイバー電導度の変化に及ぼす処理液種類の影響を示す図である。
【図6】本実施例におけるファイバー電導度の変化に及ぼす浸漬時間の影響を示す図である。
【図7】本実施例におけるファイバー直径の測定結果の例を示す図である。
【図8】本実施例におけるファイバー電導度の温度依存性の測定結果の例を示す図である。
【図9】図8のデータをlnσとT-1/2を縦横軸にとって表示した図である.
【図10】本実施例における浸漬処理前後のファイバーの応力-歪曲線の比較を示す図である。
【符号の説明】
【0019】
1:PEDOT/PSS溶液
2:シリンダー
3:注射針
4:凝固槽(凝集槽)
5:シリンジポンプ
6:マグネット
7:ピストン
8:コントローラー
9:マイクロファイバー
10:ピン
11:ケルビンクリップ
12:デジタルマルチメータ
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、実施例に基づいて本発明の好ましい実施形態について説明するが、本発明の実施形態は、この実施例に限られるものではない。
本実施例においては、PSSをドープしたPEDOT(以下、PEDOT/PSSと略記する)のマイクロファイバーを湿式紡糸法により作製し、固化したファイバーを処理液に所定時間浸漬した後、熱処理により繊維に付着した溶媒を完全に揮散・除去して供試サンプルを作製し、浸漬処理前後における繊維径、導電特性、機械的特性の変化等を調査した。以下、供試材の作製方法、試験方法や測定方法についてやや詳しく説明する。
【0021】
<マイクロファイバーの作製>
図1は、本実施例で用いたPEDOT/PSSの化学構造を示す図である。このPEDOT/PSSは、水溶液の状態でBaytron P,Bayer Co.Ltdから市販されているモノマーである3,4エチレンジオキシチオフェンを、ドーパントであるPSSの存在下で重合することにより作製した。PEDOTからPSSの繰り返し単位の比率は約0.8であり、ドープ比は0.33であった。
【0022】
図2は、本実施例で用いた湿式紡糸装置の構成を示す概念図である。約1mlのPEDOT/PSS水溶液(エマルジョン分散液)1を、ガラスシリンダー2(直径12mm)内に充填し、注射針3(内径180~410μm)から、室温のアセトンを充填した凝集槽4内に流出させる。その際、スタンドを用いて地面に直立させたシリンジポンプ5に、マグネット6を介してピストン7を取付け、コントローラー8によりシリンジポンプ5のストロークを制御し、注射針3からの液の流速を調節した。注射針3から流出したPEDOT/PSSのファイバーは、約20秒間アセトン中で固化させた後、凝集槽4から引き上げ、予めアセトンで濡らしておいたワイヤラップタイプICソケットにかけて、乾燥させた。
【0023】
<浸漬処理>
上記の方法で作製したマイクロファイバーを適当な長さに切り、処理液を満たしたガラスバット(大きさ145×80×10mm)に所定時間浸漬した後、ファイバーを注意深く引き上げ、上記と同様に予めアセトンで濡らしておいたワイヤラップタイプICソケットに掛けた。処理液としては、エチレングリコール(EG)、ジメチルスルホキシド(DMSO)又はジメチルホルムアミド(DMF)の3種を用い、いずれも純溶液に浸漬して供試サンプルを作製した。浸漬時間は、30秒、3分、10分、20分、30分の5段階に変えた。
【0024】
<熱処理>
マイクロファイバーを掛けたICソケットをセラミック板の上にのせ、風除けのシャーレをかぶせ、真空オーブンに入れ、所定時間加熱する熱処理を行った。熱処理条件は、PEDOT/PSS水溶液から作製したファイバーでは、160℃で1時間保持した。
【0025】
<直径の測定>
上記の方法で作製したマイクロファイバーの直径dは、CCDカラーカメラと対物レンズを搭載したマイクロスコープ(54590-F,Infinity Photo-Optical Company)の画像をデジタルビデオカメラ(Sony製,HANDYCAM DCR-PC1000)で撮影し、コンピューター上で画像計測ソフト(Image SXM,175-2C)を用いて測定した。
【0026】
<電導度測定>
マイクロファイバーの電導度測定は、図3に示す4端子法を用いて行った。マイクロファイバー9をピン10上に架け渡し、テスターのプローブを隣り合う2本のピンに差し込んで接触の確認をする。そのうち隣り合う4本のピンにマイクロファイバーが掛かり、抵抗を示しているピンを確認する。確認した後、銅線をはんだ付けしたICソケットを、マイクロファイバーがしっかり付いているピンに差し込み、ケルビンクリップ11で銅線を挟む。このときケルビンクリップの間に絶縁体としてプラスチック片を挟んだ。この状態で、デジタルマルチメータ12(Model2000,Keithley)を用いて抵抗を測定した。また、読み取り顕微鏡(株式会社島津製作所製)を用いて、中央2本のピンの間隔を測定し、電極間距離l(cm)とした。前記の方法で測定したファイバー直径d(cm)と抵抗値R(Ω)を用い、下式から電導度σ(S/cm)を算出した。
σ=l/R×π(d/2)
【0027】
<電導度の温度依存性>
測定には、デジタルマルチメータ(Model2000,Keithley)、温度コントローラー(Model9700,Scientific Instruments社)水循環(EYELA CA-112)を取り付けたクライオスタット(ダイキン工業(株)製、クライオケルビン(PS22型))を使用した。温度コントローラーはコンピューターによって制御し、以下の条件で測定を行った。
昇温速度:1K/min
測定温度:8K~300K
サンプリング:6sec
【0028】
測定の手順は以下のとおりである。
まず、サンプルホルダーにマイクロファイバーを固定したワイヤラップタイプソケットを取り付ける。この時、デジタルマルチメータの抵抗が示されていることを確認する。1回の測定で2個のサンプルを取り付ける。次にサンプルホルダー部をクローズし、真空吸引するとともに、圧縮機用の冷却水を流して、測定を開始する。
【0029】
圧縮機の電源を入れると同時に、コンピューター上の温度コントロールプログラムを走らせる。8Kまで温度を低下させた後、300Kまで上昇させた。温度制御と同時に、4端子法で抵抗値を測定した。
【0030】
測定後、ホルダー内のサンプルを取り出し、直径と電極間距離を測定し、電導度を算出した。求めた電導度σと温度Tを用い、次式から活性化エネルギーT、プレエキスポーネンシャルファクターσを算出した。
σ=σ・exp{-(T/T)1/2
σは温度を無限大に外挿した電導度、Tは、次式で示されるように、局在間の電荷担体のホッピングの実際のエネルギー障壁を意味している。
=16/k・N(E)・L//・L
ここで、N(E)はフェルミレベルにおける状態密度、kはボルツマン定数、L//は高分子鎖に対して平行方向における局在長、Lは高分子鎖に対して垂直方向における局在長を意味している。
【0031】
<引張試験>
測定には、(株)オリエンテック製の引張試験機(TENSILON UTM-2型)を使用した。この装置の試料取り付け上部にはロードセルが取り付けられており、これがコンピューターに接続されている。これにより、図4に示すような応力(STRESS)-歪(STRAIN)曲線が得られ、ヤング率、切断強度、切断伸度を求めることができる。測定条件は下記のとおりである。
チャック間隔:2cm
フルスケール:50g
サンプリング時間:0.1s
ヘッドスピード:2mm/min
歪速度:10%/min
測定温度:25℃
【0032】
試料は、サンプルホルダーとして作った厚紙に、両面テープとメンディングテープによって固定した。試料の直径は前述と同様に、顕微鏡とパソコンのソフトにより、予め計測した。
【0033】
測定により得られた応力-歪曲線よりヤング率、切断強度、切断伸度を下式により算出した。
=a+15(mm)
E={(F×L)/(b×S)}×9.807×10-5(GPa)
St=(F/S)×(1+EL/100)×9.807×10-5(GPa)
EL=ΔL/L×100(%)
ここで、L:試料の初長(mm)
ΔL:試料の伸び(mm)
a,b:図4中に示した数値
F:切断時の荷重(kg)
S:試料の断面積(cm
E:ヤング率(GPa)
St:切断強度(GPa)
EL:切断伸度(%)
である。
【0034】
次に、本発明の処理方法による導電特性及び機械的特性の改善効果について説明する。
<電導度の改善>
図5に、処理液の種類を変え、処理前のファイバー(Prestine)とこれを室温の下記処理液で3分間浸漬処理をし、さらに前記条件で熱処理をしたファイバーの電導度の比較を示す。使用した処理液は、EG,DMSO,DMF(いずれも本発明例)とエタノール(EtOH,比較例)の純溶液である。図に見られるように、処理前の電導度が1~30(平均で約10)S/cmであるのに対し、EGで処理した場合は、160~230(平均で約200)S/cm、DMSO,DMFでは、それぞれ160~230,120~170S/cmとなり、いずれも電導度が処理前の20倍近くまで増大していることが知れる。これに対してEtOHに浸漬した場合は、20~50S/cmで、改善効果が小さかった。
【0035】
処理液がEGの場合について、処理液中への浸漬時間の電導度に対する影響を調べた結果を図6に示す。図に見られるように、浸漬時間30秒で電導度は110~210,浸漬時間3分で160~230S/cmまで増大し、それ以降30分まであまり大きな電導度の変化はない。すなわち、浸漬した直後の0.5~1分間で、電導度は急増し、3分程度で飽和することが知れた。したがって、本発明においては、ファイバーの処理液への浸漬時間は、30秒以上とすることが好ましく、より好ましくは3分以上とする。
【0036】
参考までに、本実施例におけるファイバー直径の測定結果の例を図7に示す。ファイバー直径が5μm程度であることが知れる。また、この図の横軸は浸漬時間であり、測定値のバラツキはあるが、浸漬処理によってファイバー直径に有意な変化が生じたとは言えない。
【0037】
<電導度の温度依存性>
図8に、浸漬処理前のファイバー(図ではPEDOT/PSSと表示)及びエチレングリコールに3分間浸漬後熱処理したファイバー(PEDOT/PSS/EGと表示)の8~300Kの間の電気電導度σの温度変化の測定結果を示す。また、図9はこのデータをlnσとT-1/2を縦横軸にとって表示したものである。一般に、PEDOT/PSSの温度依存性は擬一次元のホッピングモデルに従うことが報告されており、PEDOT/PSSマイクロファイバーにおいても、図9から、100K以上で特性が擬一次元のホッピングモデルで表わされることが知れ、直線部分を外挿することでTを求めることができる。このようにして求めた、σ300,σ,Tの値の比較を表1に示す。
【0038】
【表1】
JP0005256454B2_000002t.gif

【0039】
浸漬処理によって活性化エネルギーTが、85Kから4.3Kと1/20に低下した。一方、電導度の値は5.3S/cmから205S/cmへと大きく上昇している。この理由は、EGがマイクロファイバーの内部に入り込み、PEDOT/PSSと反応することで、キャリアのホッピングにおける活性化エネルギーを低下させたためでないかと考えられる。すなわち、フェルミレベル準位における状態密度や局在長の増加が考えられる。
【0040】
さらに、電導度増加の理由として、EGによりPEDOT/PSS粒子を取り囲む過剰な絶縁層(PSS)を洗い流すことで、粒子間のキャリアの移動がスムーズになっていることが考えられる。同時にEGはPEDOT/PSSの良溶媒であるため、PSS鎖が伸び3次元ネットワークを形成することで、PEDOTがより均一に分布したためでないか
と考えられる。
【0041】
処理液としてDMSOやDMFを用いた場合にも、これと同様な効果により、電導度が増大したものと考えられる。また、その他の非プロトン性溶媒、例えば、アセトニトリル、ジメトキシエタン、ヘキサメチルリン酸トリアミド、グリセリン等を用いた場合、ポリエチレングリコール、ソルビトール等を溶媒に溶かして用いた場合にも同様の効果が得られると期待される。
【0042】
<機械的特性の改善>
浸漬処理前のファイバー(PEDOT/PSS)及びエチレングリコールに3分間浸漬後熱処理したファイバー(PEDOT/PSS/EG)の応力-歪曲線の比較を図10に示す。また、このデータから前述の方法で求めた、ヤング率、切断強度、切断伸度の値を表2に示す。
【0043】
【表2】
JP0005256454B2_000003t.gif

【0044】
ヤング率については、処理前2.47±0.73GPaから処理後3.66±0.64GPaに、切断強度については、処理前98.53±34.42MPaから処理後125.07±26.69MPaに、それぞれ高くなっている。この理由は、処理前のファイバーでは、アセトン中に紡糸した際に、急激な脱水により生じた構造欠陥に応力集中が起り、破断しやすくなるため、同じ材料のキャストフィルムに比べ、ヤング率、切断強度ともに低い。これに対して、EGに浸漬することで分子鎖の再配列が起り、構造欠陥が減少するため、引張特性が改善されるものと考えられる。
【0045】
上記の実施例で用いたファイバーは、アセトン凝固浴の湿式紡糸法で製造されたものであるが、本発明の処理対象物となるファイバーをこれに限る必要はなく、本発明は如何なる方法で製造されたファイバーにも適用することができる。また、前記の処理液を凝固浴として用いることにより、共役径導電性高分子材料のエマルジョン分散液又はその前駆体溶液をノズルから凝固浴中に注入して、湿式紡糸法による繊維の形成と上記のような特性改善処理を同時に行い得ることも確かめられている。
【0046】
本明細書は、2006年2月28日出願の特願2006-054131に基づく。この内容はすべてここに含めておく。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9