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明細書 :電力系統の系統安定度制御方法及びシステム

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4069209号 (P4069209)
登録日 平成20年1月25日(2008.1.25)
発行日 平成20年4月2日(2008.4.2)
発明の名称または考案の名称 電力系統の系統安定度制御方法及びシステム
国際特許分類 H02J   3/24        (2006.01)
H02J   3/00        (2006.01)
G05F   1/66        (2006.01)
FI H02J 3/24 C
H02J 3/00 G
G05F 1/66 Z
請求項の数または発明の数 6
全頁数 23
出願番号 特願2007-504638 (P2007-504638)
出願日 平成18年1月20日(2006.1.20)
国際出願番号 PCT/JP2006/300806
国際公開番号 WO2006/090538
国際公開日 平成18年8月31日(2006.8.31)
優先権出願番号 2005045176
優先日 平成17年2月22日(2005.2.22)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成19年8月24日(2007.8.24)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504174135
【氏名又は名称】国立大学法人九州工業大学
発明者または考案者 【氏名】三谷 康範
【氏名】渡邊 政幸
早期審査対象出願または早期審理対象出願 早期審査対象出願
個別代理人の代理人 【識別番号】100108660、【弁理士】、【氏名又は名称】大川 譲
審査官 【審査官】高野 誠治
参考文献・文献 特開2004-282882(JP,A)
特開昭64-081688(JP,A)
特開昭63-181619(JP,A)
調査した分野 H02J 3/00 - 5/00
H02P 9/14
G05F 1/66
特許請求の範囲 【請求項1】
広域的な複数地点におけるデータ収集に基づきリアルタイムに電力系統の系統安定度を制御する方法において、
前記広域的な複数地点のそれぞれにおいて、一般需要家が用いる商用電源コンセントの電圧からその位相を検出し、
この位相情報に時刻情報を付加したデータを、ネットワークを介して、データサーバに送出し、
データサーバは、系統の一端を位相角基準とし、他端と中央を対象として位相差情報を観測し、
得られた動揺から系統間動揺成分を抽出し、さらにその1 階および2 階微分して得られたデータ列に対して、拡張連成振動モデルを構成し、
該拡張連成振動モデルは、取得した前記位相差情報を用いて電力系統両端で逆位相に動揺する第1モードと系統の中央と両端が互いに逆位相に動揺する第2モードの特性を表現する部分と、取得した前記位相差情報を用いて電力系統安定化装置PSSから動揺モードへの影響の大きさを表す部分と、着目する発電機に設置された電力系統安定化装置PSSの動特性を表す部分とからなり、
前記位相差情報及びその微分値に関する時系列データを求め、これより、前記拡張連成振動モデルを用いて電力系統を安定化するためのパラメータを整定して、前記電力系統安定化装置PSSに入力することにより動揺モードの安定化を達成する電力系統の系統安定度制御方法。
【請求項2】
前記系統間動揺成分は、前記得られた動揺からウェーブレット変換により抽出する請求項1に記載の電力系統の系統安定度制御方法。
【請求項3】
添字1, 2の付いたδは対象地点の位相、添字s の付いたδは基準地点の位相、添字e の付いたδは位相の初期値として、x1~x4を以下のように定義して、
【数1】
JP0004069209B1_000011t.gif
さらに、xpss1、xpss2は各々の電力系統安定化装置PSS の状態変数からなるベクトル、c1, c2 はa'i, b'i とともに最小二乗法によって決定される係数ベクトル、行列D1,D2電力系統安定化装置PSSの構造によって決まり、電力系統安定化装置PSS のゲインおよび時定数といったパラメータを含んでいると定義して、
【数2】
JP0004069209B1_000012t.gif
前記拡張連成振動モデルが、上式で表される請求項1に記載の電力系統の系統安定度制御方法。
【請求項4】
広域的な複数地点におけるデータ収集に基づきリアルタイムに電力系統の系統安定度を制御するシステムにおいて、
前記広域的な複数地点のそれぞれにおいて、一般需要家が用いる商用電源コンセントの電圧からその位相を検出し、この位相情報に時刻情報を付加したデータを送出する位相計測装置と、
前記複数地点からのデータを、ネットワークを介して、継続的に取得して、収集するデータサーバと、
データサーバは、系統の一端を位相角基準とし、他端と中央を対象として位相差情報を観測し、得られた動揺から系統間動揺成分を抽出し、さらにその1 階および2 階微分して得られたデータ列に対して、拡張連成振動モデルを構成する手段と、から成り、
該拡張連成振動モデルは、取得した前記位相差情報を用いて電力系統両端で逆位相に動揺する第1モードと系統の中央と両端が互いに逆位相に動揺する第2モードの特性を表現する部分と、取得した前記位相差情報を用いて電力系統安定化装置PSSから動揺モードへの影響の大きさを表す部分と、着目する発電機に設置された電力系統安定化装置PSSの動特性を表す部分とからなり、
前記位相差情報及びその微分値に関する時系列データを求め、これより、前記拡張連成振動モデルを用いて電力系統を安定化するためのパラメータを整定して、前記電力系統安定化装置PSSに入力することにより動揺モードの安定化を達成する電力系統の系統安定度制御システム。
【請求項5】
前記系統間動揺成分は、前記得られた動揺からウェーブレット変換により抽出する請求項4に記載の電力系統の系統安定度制御システム。
【請求項6】
添字1, 2の付いたδは対象地点の位相、添字s の付いたδは基準地点の位相、添字e の付いたδは位相の初期値として、x1~x4を以下のように定義して、
【数3】
JP0004069209B1_000013t.gif
さらに、xpss1、xpss2は各々の電力系統安定化装置PSS の状態変数からなるベクトル、c1, c2 はa'i, b'i とともに最小二乗法によって決定される係数ベクトル、行列D1,D2電力系統安定化装置PSSの構造によって決まり、電力系統安定化装置PSS のゲインおよび時定数といったパラメータを含んでいると定義して、
【数4】
JP0004069209B1_000014t.gif
前記拡張連成振動モデルが、上式で表される請求項4に記載の電力系統の系統安定度制御システム。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、広域的な複数地点におけるデータ収集に基づきリアルタイムに電力系統の系統安定度を制御する方法及びシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
日本の電力産業は2005年4月からは50kWの大口需要家まで自由化対象が拡大され、また、複数の電力会社をまたがった電力融通における託送料金が統一化されるため、遠隔地から都市や工場に向けた小売託送が活発化されることが予想されている。こうした中で、電力を送るための余裕量を的確に把握し、問題が有る場合は安定化制御装置の再設定を行って迅速に対応することが重要である。
【0003】
電力系統の動揺安定化は主として励磁系の補助信号の設計によって行われる。電力系統から取得した発電機角速度偏差Δωおよび発電機出力偏差ΔPを用いて、位相進み遅れ補償による信号処理により局所的な動揺および広域的な動揺の安定化をはかる方法が一般的に用いられている(特許文献1参照)。
【0004】
図25は、系統安定度制御を行うときに用いる励磁装置とPSSの役割を説明する図であり、(A)は電力系統に接続される1つの発電機の概略構成を示し、(B)は(A)に示す励磁装置とPSSの詳細を示すブロック図である。電力系統には多数の発電機が接続されており、PSS (Power System Stabilizer「電力系統安定化装置」)は、個々の発電機の安定化を目的として、発電機の回転角速度偏差Δωなどをフィードバックして界磁巻線電圧を制御する励磁装置の補助信号として用いるために備えられている。
【0005】
図25(B)に示すように、励磁装置(AVR)は、発電機端電圧Vtの値を規定の値Vrefに制御するためのもので、そのずれ(Vref-Vt)を入力として、励磁電圧Efdを上げ下げするものである。この励磁電圧を作り出す励磁機を動作させるのに必要な電圧を作り出す励磁電圧発生器と励磁機の動特性を図中のブロック内に示している。“s”はラプラス演算子である。乱調防止部は信号が急激に変化することを防止するために設けられている。
【0006】
発電機端電圧Vtは、発電機の出力端から計器用変成器を介して入力され、規定の値Vrefは発電機出力端電圧の規定値に相当する電圧を発生し入力する。また、励磁電圧の規定値に相当する電圧Efdo/100を発生して、励磁電圧発生器の発生電圧に加えて励磁機に入力する。100で割っているのは、その入力直後にある励磁機の増幅度がこの例の場合100であるとして、励磁電圧Efdと信号レベルを合わせるために予め調整するためのものである。
【0007】
励磁装置の増幅部の1.0は、信号の増幅度を表すもので、ここでは、1.0という数値が与えられている。1.0であれば、増幅部は不要であるが、変える必要が生じる場合を想定して設置されているものである。
【0008】
励磁電圧発生器の[1.0/(1+0.2s)]は、励磁機を動作させる電圧を発生するための動作特性を表し、ここでは、増幅度1.0、時定数0.2秒という数値が与えられている。
【0009】
励磁機の[100.0/(1+2.0s)]は、励磁機が励磁電圧Efdを出力する動作を表すもので、動作時定数2.0秒と増幅度100.0という数値が与えられている。
【0010】
乱調防止部の[0.1s/(1+0.5s)]は、励磁機の出力Efdの応答が速すぎて乱調現象を起こすことを防止するためのフィードバックの特性を意味する。それぞれ示される値が与えられている。
【0011】
一方、PSS(電力系統安定化装置)は励磁装置のための補助信号を発生して、発電機回転の動揺を安定化するために設けられる。図示したように、PSSは、発電機の回転速度の変化分Δωを入力として用いており、その出力信号は、補助信号(Vpss)として励磁装置に加えられる。PSSは、入力Δω信号を励磁装置の動作信号のレベルまで電圧を高める信号増幅器と、信号に含まれる直流偏差分を取り除く信号リセット部と、信号の位相を進ませたり遅らせたりして、動揺を安定化できるように調整するための信号位相補償器(ここでは、信号位相調整1と2の2つ用いている)から構成されている。
【0012】
PSS(電力系統安定化装置)は、Δωの入力によって動揺を安定化させるための補助信号を、電圧の規定値からのずれに相当する信号1.0×(Vref-Vt)と同じところに足し合わせて、励磁電圧発生器に入力する。図示している式は、その働きを式で当てはめて表現しているもので、実際には、半導体等で構成する基盤等のハードで構成される。また、励磁装置についても、図中に示した式は同様に、その働きを式で当てはめて表現しているもので、半導体等で構成する基盤や電磁機器等のハードで構成される。
【0013】
PSSの信号増幅器の動作を表す[K/(1+T0s)]は、発電機の回転角速度変化分Δωを検出するための検出器の応答(応答時定数T0)と信号増幅(増幅度K)を意味している。信号リセット部[Tws/(1+Tws)]は、信号に含まれるオフセット分をキャンセルするためのフィルタを意味している。信号位相調整1[(1+T1s)/(1+T2s)]は信号の位相を進ませるあるいは遅らせることにより、動揺を安定化できるように信号を調整するための信号位相補償器を意味している。信号位相調整2[(1+T3s)/(1+T4s)]は、上記と同じ役割で、位相進みあるいは遅れの量を増やす目的で2段直列に接続されている信号位相補償器を意味している。
【0014】
また、現在運転中の多くの発電機に採用されているΔP型PSSは、ローカル動揺の抑制に効果を上げている。さらに、長周期電力動揺抑制対応として(ΔP+Δω)型PSSも多くの発電機に採用され、安定送電電力を増加させる効果が報告されている(非特許文献1参照)。フィードバックする信号を追加し、長周期動揺モードを含む複数のモードを安定化するためのPSS補償器を構成した例もある(特許文献2参照)。
【0015】
電力系統の数箇所から電力系統の情報を取り込み、プローニー解析法を用いて、波形から動揺の周波数、減衰率、振幅を算定し、観測によって系統の安定度を監視しようとする技術が知られている(特許文献3参照)。しかしながら、この方法では、何らかの明らかな擾乱後の波形解析を行う必要があると考えられるが、電力系統の常時の揺らぎから電力系統動揺モデルを構成できることが望まれる。また、この方法では、系統安定化の手法として電源制限による方法を示しているが、励磁制御系の設計指針が求められる。
【0016】
本発明者らは、時刻同期機能を備えた位相計測装置を日本全国の大学に設置し、電力システム全体の動特性を観測するシステムを構築してきた。観測によって得られた位相情報をもとに、とくに系統全体で揺れる長周期動揺モードが定常時の微小な動揺から抽出できるようになってきている(非特許文献2参照)。そこで、抽出した動揺成分に対してPSSの調整を行うことで系統間の長周期動揺が効果的に抑制できることが期待される。これまで、動揺観測からモード間の相互作用を考慮して構成した連成振動モデルに基づき、PSSの調整を行う方法について検討してきた(非特許文献3参照)。この方法では、PSSパラメータを微少量変化させてモードの変化方向を調べることによりPSSの調整を試みており、調整毎にモデルを再構成して試行錯誤によりパラメータを決定する必要があった。

【特許文献1】特開平10-52096号公報
【特許文献2】特開平11-206195号公報
【特許文献3】特開2001-352679号公報
【非特許文献1】「連系系統の長周期動揺を抑制する複数PSSの開発と動揺モデルに関する研究」電学論B、Vol.115-B, No.1, 1995
【非特許文献2】橋口,他:「多地点同期フェーザ量計測に基づく電力動揺の特性係数の同定」電気学会電力・エネルギー部門大会, No.204 (2004)
【非特許文献3】渡邊,他:「動揺観測に基づく電力系統安定化制御」電気学会研究会資料,PE-04-45, PSE-04-45 (2004)
【非特許文献4】電力系統モデル標準化調査専門委員会編:「電力系統の標準モデル」電気学会技術報告第754 号(1999)
【非特許文献5】水町守志:「ミニ特集GPS(衛星測位システム)技術と今後の展開」, 計測と制御,36, 8, pp.533-562(1997-8)
【非特許文献6】今江理人:「全世界測位システム(GPS) とその応用」, 電学論B, 118, 3, pp.227-230(1998-3)
【非特許文献7】R. Tsukui, P. Beaumont, T. Tanaka and K. Sekiguchi: ”Intranet-Based Protection and Control”, IEEE Computer Applications in Power, pp.14-17(2001-4)
【非特許文献8】The MathWorks: MATLAB Wavelet Toolbox, Wavelet Toolbox User's guide
【非特許文献9】小林一行: MATLAB ハンドブック, 秀和システム(1998)
【非特許文献10】大澤靖冶・杉原弘章:「多数の分散電源からなる電力系統の安定化制御に関する考察」, 電気学会電力技術電力系統技術研究会資料,PE-98-116,PSE-98-106(1998)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
そこで、本発明は、遠隔・多地点の情報量を同時刻で計測して、広域的なデータ収集に基づくリアルタイムの系統安定度の制御を実現することを目的としている。そのため、従来の連成振動モデルを拡張し、PSSの効果を含んだモデルを構成することにより、パラメータ調整をより容易に行う。
【0018】
日本では、2005年4月の電力自由化範囲の大幅な拡大とともに複数の電力会社を経由した電力取引が活発化することが予想され、電力系統の状態はこれまでとは大幅に異なることも考えられる。こうした中、系統安定度を把握し、適切な制御を施す手段が求められる。本発明は、電力系統の常時の揺らぎから電力系統動揺モデルを構成する。
【0019】
また、本発明は、観測手法としては、GPSで時刻同期を取った多地点の需要家電圧の取得によって可能にして、システム構成を非常に簡単なものとすることを目的としている。GPSで時刻同期を行い、多地点の電圧位相計測を行うことにより、電力系統動特性を同定することができる。
【0020】
また、本発明は、位相計測の地点を小地域内に設定することにより、局所的な系統安定度の監視と、そこでの動揺安定化制御の設計を可能にして、自家発電電力ネットワークを持つ事業者が安価な系統監視及び安定化制御システムの構築を可能にすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明では、広域に配置したGPS時刻同期機能を持った電圧位相計測装置の計測データを用いて、発電機励磁系のPSS(電力系統安定化装置)が発生する補助信号のモデルを含んだ電力系統動揺モデルを構成することにより、電力系統の中で支配的な電力動揺の安定度余裕を把握するとともにその安定化を行う。
【0022】
本発明の系統安定度制御方法は、広域的な複数地点におけるデータ収集に基づきリアルタイムに電力系統の系統安定度を制御する。広域的な複数地点のそれぞれにおいて、一般需要家が用いる商用電源コンセントの電圧からその位相を検出し、この位相情報に時刻情報を付加したデータを、ネットワークを介して、データサーバに送出する。データサーバは、系統の一端を位相角基準とし、他端と中央を対象として位相差情報を観測し、得られた動揺から系統間動揺成分を抽出し、さらにその1 階および2 階微分して得られたデータ列に対して、拡張連成振動モデルを構成する。該拡張連成振動モデルは、取得した位相差情報を用いて電力系統両端で逆位相に動揺する第1モードと系統の中央と両端が互いに逆位相に動揺する第2モードの特性を表現する連成振動モデルに対して、着目する発電機に設置されたPSSのモデルが既知であるとして、それを含むように拡張したものである。この拡張連成振動モデル構成時におけるPSSの状態変数に関する時系列データを求め、これより、拡張連成振動モデルを用いてPSSパラメータを直接整定することにより支配モードの安定化を達成する。
【0023】
また、本発明の系統安定度制御システムは、広域的な複数地点のそれぞれにおいて、一般需要家が用いる商用電源コンセントの電圧からその位相を検出し、この位相情報に時刻情報を付加したデータを送出する位相計測装置と、複数地点からのデータを、ネットワークを介して、継続的に取得して、収集するデータサーバと、データサーバは、系統の一端を位相角基準とし、他端と中央を対象として位相差情報を観測し、得られた動揺から系統間動揺成分を抽出し、さらにその1 階および2 階微分して得られたデータ列に対して、拡張連成振動モデルを構成する手段と、を備える。該拡張連成振動モデルは、取得した位相差情報を用いて電力系統両端で逆位相に動揺する第1モードと系統の中央と両端が互いに逆位相に動揺する第2モードの特性を表現する連成振動モデルに対して、着目する発電機に設置されたPSSのモデルが既知であるとして、それを含むように拡張したものである。この拡張連成振動モデル構成時におけるPSSの状態変数に関する時系列データを求め、これより、拡張連成振動モデルを用いてPSSパラメータを直接整定することにより支配モードの安定化を達成する。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、電力系統の常時の揺らぎから電力系統動揺モデルを構成することが可能となる。また、励磁系への補助信号のブロックをこの電力系統動揺モデルに組み込むことにより、励磁系を用いた電力系統安定化信号の設計に用いることができる。観測手法としては、GPSで時刻同期を取った多地点の需要家電圧の取得によって可能となるために、システム構成が非常に簡単なものとなることが期待される。
【0025】
本発明は、GPSで時刻同期を行い、多地点の電圧位相計測を行うことにより、電力系統動特性を同定することができる。この同定に用いた連成振動モデルを拡張し、設計を行いたいPSSのモデルを組み込むことにより、PSSの動特性を含む系統動揺モデルを構成し、多地点位相計測によりそのモデルの係数を同定することができる。これにより、問題となる動揺モードの安定度を評価できるようになるとともに、連成振動モデルを用いたPSSの設計により、動揺の安定度が悪い場合は、そのモードを直接的に安定化する制御系を設計することができる。多地点位相計測による系統動揺モデルの構築とPSSモデルの組み込みを行い、このモデルを用いた系統安定化の設計を行うことが可能となる。また、PSSを再設計した効果も動揺特性の同定により検証することができる。
【0026】
位相計測の地点を小地域内に設定することにより、局所的な系統安定度の監視と、そこでの動揺安定化制御の設計も可能となるため、自家発電電力ネットワークを持つ事業者が安価な系統監視・安定化システムを構築することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明を具体化する概略システム構成を例示する図である。
【図2】500機の発電機が接続された電力系統を例として電力系統全体の安定化について説明する図である。
【図3】連成振動モデルと拡張連成振動モデルの違いを概念的に示した図である。
【図4】拡張連成振動モデルを表現する状態変数および状態方程式を示す図である。
【図5】PSSを例示するブロック図である。
【図6】PSSの動特性を示す図である。
【図7】状態方程式の数値例を示す図である。
【図8】安定化前のPSSのパラメータを示す図である。
【図9】PSS1の設計後のパラメータを示す図である。
【図10】PSS250の設計後のパラメータを示す図である。
【図11】シミュレーションにより検証を行った結果である。
【図12】PMU の配置を示す図である。
【図13】九州工業大学の周波数変動を示す図である。
【図14】各地の周波数変動を示す図である。
【図15】各地の電力動揺を示す図である。
【図16】電力動揺波形に対するFFT 解析を示す図である。
【図17】第1モードの動揺波形を示す図である。
【図18】第2モードの動揺波形を示す図である。
【図19】第1モードの動揺波形を示す図である。
【図20】第2モードの動揺波形を示す図である。
【図21】電気学会標準モデルWEST10機系統を示す図である。
【図22】発電機制御器を例示する図である。
【図23】発電機1 に設置されたPSS のパラメータを変化させたときの固有値の変化を示す表である。
【図24】モデルに基づいてPSS の調整を行った結果である。
【図25】系統安定度制御を行うときに用いる励磁装置とPSSの役割を説明する図である。

【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、例示に基づき、本発明を説明する。図1は、本発明を具体化する概略システム構成を例示する図である。位相計測装置は、広域的な複数地点で、同時刻に、位相(及び周波数)を検出する。広域的なデータ収集に基づくリアルタイムの監視・制御を実現するために、遠隔・多地点の位相及び周波数情報を同時刻で計測する必要がある。このために、例えば、GPS(Global Positioning System) (非特許文献5) (非特許文献6)を用いた時刻同期機能を持つ位相計測装置(例えば、(株) 東芝製のNCT2000 Type-A:非特許文献7)のような装置を、各地点に設置する。計測されるべき電圧としては、一般需要家が用いる商用電源(100V)コンセントの電圧を用いる。これによって、特殊で大がかりな工事を伴うことなく系統状態の計測が可能となる。
【0029】
電圧フェーザ演算は電圧正弦波1 周期当たり96 サンプルのデータVk、k = 1、2、・・・、96 を用い、
【0030】
【数1】
JP0004069209B1_000002t.gif

【0031】
を計算し、 (1)式 の結果を用いて、
【0032】
【数2】
JP0004069209B1_000003t.gif

【0033】
を計算することによって位相を求めることができる。また位相を微分することで周波数データに変換することができる。
【0034】
各地点で同時刻に計測された位相及び周波数データは、インターネットのようなネットワークを介してデータサーバで、継続的に取得される。計測のサンプリング点数としては、系統内に見られる1~2Hz 程度の電力の動揺を観測でき、かつ“分”のオーダーの周波数変動も観測できる、できるだけ連続したデータを獲得する、といった条件を満たす必要がある。例えば、2/60 秒の周期でデータをサンプリングし、各地の位相データを継続的に取得する。
【0035】
次に、取得したデータに基づき、系統の動揺成分を検出する。これは、揺らぎデータにウェーブレット変換を施すことにより系統の動揺成分を抽出する。例えば、60Hz 系統(西日本)での系統擾乱発生時の動揺波形において、くし形系統で発生する最も周期が長い第1モード(長周期動揺)と次に周期が長い第2モードを検出する。
【0036】
このことより0.5~0.8Hz に存在する動揺は、くし形系統で最も周波数の低い長周期動揺よりも周波数が高く、系統の両端が中央に対して同方向に動揺していることから、系統の中央と両端が互いに逆位相に動揺する第2モード(非特許文献10)であると考えられる。
【0037】
このように、くし形の構造を持つ電力システムでは、系統の両端の発電機が関連するモード、および系統の両端と中央の発電機が関連するモードの2つが支配的となる。そこで、系統の一端を位相角基準とし、他端と中央を対象として位相差情報を観測する。得られた動揺から離散ウェーブレット(Wavelet)変換により系統間動揺成分を抽出し、さらにその1 階および2 階微分して得られたデータ列に対して、詳細は後述する拡張連成振動モデルを構成する。拡張連成振動モデルは、着目する発電機に設置されたPSSのモデルが既知であるとし、その効果を含むように、従来の連成振動モデルを拡張したものである。拡張連成振動モデル構成時におけるPSSの状態変数に関する時系列データを求め、これより、拡張連成振動モデルを用いてPSSパラメータを直接整定することにより、支配モードの安定化を達成する。これによって、電力系統全体の安定化を図ることが可能になる。
【0038】
以上に説明した電力系統全体の安定化について、さらに、図2に示すように500機の発電機が接続された電力系統を例として説明する。図において左側に示す発電機1から右側に示す発電機500までの500機の発電機のそれぞれに設けられている励磁装置とPSSを用いて、図25を参照して説明したように、発電機の回転角速度偏差Δωなどをフィードバックして界磁巻線電圧を制御する励磁装置の補助信号を発生させることにより、個々の発電機の安定化が図られている。そして、さらに、図中の状態推定部では、系統の一端(発電機500)を位相角基準とし、他端(発電機1)と中央(発電機250)を対象として位相差情報を取得する。この位相差情報に基づき、制御系パラメータ計算部では、他端(発電機1)と中央(発電機250)のPSSの各パラメータ(パラメータ1,2)を調整することにより、所望の動揺モードの安定化を図るものである。
【0039】
これらのパラメータ設計には後述する拡張連成振動モデルを構成して、系統から観測される同期位相信号を用いて、モデルの係数を決定する。なお、PSSにはその発電機の角速度Δωをフィードバック信号として用いる場合を例に示すが、発電機出力電力の動揺成分ΔPを用いた場合もΔPとΔωの関係式を用いることにより、容易に実施できる。
【0040】
図2に示すように、系統全体の3箇所(例えば系統の両端と中央)からGPSを用いて正確に時刻同期して計測した電圧位相信号(δ)をインターネットなどの情報通信手段により一箇所に送信して集める。この例は500機の発電機が有った場合の系統としているので、図の一番左の電圧位相1は(δ1)、中央の電圧位相250は(δ250)、一番右の電圧位相500は(δ500)と表示している。
【0041】
(δ1)、(δ250)、(δ500)を状態推定部に取り込んでから後は、コンピュータ(図示の制御系パラメータ計算部)の中で演算させることにより電力系統を安定化させるためのパラメータ1とパラメータ2をリアルタイムに算出して出力する。このパラメータ信号をインターネットなどの情報通信手段により送信して、電力系統の2箇所(例えば系統の片方と中央)の発電機のPSSに入力することにより、このPSSのパラメータを調整して、動揺成分を安定化することにより、電力系統全体の安定化を図る。
【0042】
情報ネットワークを通じてデータを送信する間に時間遅れが生じ、そのままでは3箇所の電圧位相角の差を求める演算において問題を生じるが、取得したデータの時刻を合わせるために、電圧位相(δ)の計測を行う場所にGPS(Global Positioning System)衛星からの正確な時刻信号を受信して時刻を同期させている。μ秒オーダの正確さを持つ。
【0043】
電圧位相信号を一箇所に集め(状態推定部)、かつ演算させる部分(制御系パラメータ計算部)は、ハードとしてはコンピュータのみである。このコンピュータへの入力は、3箇所からの電圧位相(δ)信号のみであり、出力は2種類のパラメータのみである。出力されたパラメータ2種類はそれぞれ、発電機1と発電機250のPSS1とPSS250にリアルタイムに入力され、図25を参照して説明したPSSのパラメータに相当するPSS1とPSS250それぞれのK,T1,T2,T3,T4をリアルタイムに変更する。ここで、Kは信号増幅度で、T1からT4は位相補償器の時定数を意味する。
【0044】
次に、連成振動モデルと本発明で構成した拡張連成振動モデルについて説明する。図3は、連成振動モデルと拡張連成振動モデルの違いを概念的に示した図である。従来公知の連成振動モデルとは、電力系統から取得した電圧位相の信号を用いて、電力系統内の第1モード(系統両端で逆位相に動揺するモード)と第2モード(系統の中央と両端が互いに逆位相に動揺するモード)の特性を表現できるモデルである。このような公知の連成振動モデルは、以下の式によって表される。ここで、ドットの付いたx1~x4は、それぞれx1~x4の微分を示している。
【0045】
【数3】
JP0004069209B1_000004t.gif

【0046】
但し、
【0047】
【数4】
JP0004069209B1_000005t.gif

【0048】
添字1, 2の付いたδは対象地点の位相、添字s の付いたδは基準地点の位相、添字e の付いたδは位相の初期値である。係数行列の固有値を求めることにより、2つの支配モードの減衰および周波数を求めることができる。
【0049】
このような連成振動モデルを用いることによって、PSSで安定化された効果はこのモデルの係数の値の変化として表れるが、PSSをどのように調整すれば安定化できるかはわからない。
【0050】
これに対して、拡張連成振動モデルは、連成振動モデルに、既設のPSSの動特性を表現するモデルと両者の結合を表すモデルを加えて構成される。安定化対象の第1モード、第2モードとPSSの関係を最小単位のモデルで表現できているために、それらを安定化するためのPSSのパラメータをこの拡張連成振動モデルで設計できる。また、決定したパラメータ値を実系統のPSSにおいて設定することにより安定化が実現される。
【0051】
次に、本発明の特徴とする拡張連成振動モデルについて説明する。添字1, 2の付いたδは対象地点の位相、添字s の付いたδは基準地点の位相、添字e の付いたδは位相の初期値として、x1~x4を以下のように定義する。
【0052】
【数5】
JP0004069209B1_000006t.gif

【0053】
このとき、拡張連成振動モデルは、以下の式で表すことができる。
【0054】
【数6】
JP0004069209B1_000007t.gif

【0055】
ただし、xpss1、xpss2は各々のPSS の状態変数からなるベクトルである。c1, c2 はa'i, b'iとともに最小二乗法によって決定される係数ベクトルであるが、PSS の出力に関する1 つの成分のみが値を持ち、他の成分はすべて0となる。また、行列D1, D2 はPSS の構造によって決まり、PSS のゲインおよび時定数といったパラメータを含んでいる。なお、ここでは系統間動揺の抑制のためΔω形PSS を想定しており、モデルにおけるPSS の入力としてはx1, x3 とする。
【0056】
モデル構成時におけるPSS の状態変数に関する時系列データはこれらを入力として求めることができ、これより、上式の行列が決定される。以上により、連成拡張モデルの数値がすべて計算されるので、PSSのパラメータを含むD1,D2の部分を設計する。すなわち、この行列の固有値の中でモード1、モード2に対応する2組の複素固有値が、十分安定になる(複素平面上で左半面上の虚軸から十分離れた場所にある)ように、D1, D2に含まれるPSSのパラメータを計算により調整する。次に、調整されたPSSのパラメータ値を各発電機に送り、PSSのパラメータ値をそれらの値に設定し、安定化は完了する。
【0057】
このように、拡張連成振動モデルを用いてPSS パラメータを直接整定することにより支配モードの安定化が可能となる。
【実施例1】
【0058】
拡張連成振動モデルは、具体的には、図4に示すような形の状態変数および状態方程式で表現される。なお、状態変数とは「位置」や「速度」のように物体の運動状態を決める量のことであり、状態変数の関係を表す状態方程式によってその物体がどのような運動をするかを表現することができる。本発明では、電力系統の広域安定度を左右する動揺成分の状態をこの状態方程式で表現している。このときの状態変数としては、上記の「位置」に相当するものが系統両端と基準の発電機近くから計測してきた位相角(位置情報に相当する)であり、上記の「速度」に相当するものが、その微分値(速度情報に相当する)であるとして適用して成り立たせている。これによりおもりのついたバネの振動とよく似た形の振動系の運動として電力系統の動揺成分を表現できる。
【0059】
図4に示した拡張連成振動モデルは、電圧位相を用いた状態推定によって数値が計算される「第1及び第2モードを表す部分」と、電圧位相を用いた状態推定によって数値が計算される「PSSから動揺モードへの影響の大きさを表す部分」と、対象のPSSの動特性がわかれば数値が決まる「PSSの動特性を表す部分」とからなっている。
【0060】
各状態変数の詳細は以下に示すとおりで、それぞれ物理的な意味を有する。電圧位相の観測から得られる位相差および位相角周波数(x1~x4)は、
x2=δ1-δ500 - (δ1e-δ500e)
x4=δ250-δ500 - (δ250e-δ500e)
x1=(x2の微分)
x3=(x4の微分)
で表される状態変数である。添え字eはその変数の初期値を表しており、初期値を減ずることにより、直流偏差分を取り除いている。xpss1, xpss250は、PSSの動特性が図5で表された場合の各ブロックから出る信号を状態変数とするベクトル(4×1)である。すなわち、Ki/(1+Tos) に通した後の信号がxci で、Ki/(1+Tos) は信号の高周波分をカットするフィルタであるので、xci はΔωiの高周波分をカットした信号である。
【0061】
次に、xbi はxciをTw s/(1+Tw s)に通した後の信号で、Tw s/(1+Tw s)は直流分をカットするフィルタであるので、xbi はxciの直流偏差分をカットした信号である。
【0062】
次に、xaiはxbiを(1+T1is)/(1+T2is)に通した後の信号で、(1+T1is)/(1+T2is)は信号の位相を進めるあるいは遅らせるフィルタであり、(進むか遅れるかはT1i, T2iの値による)、xaiはxbiの位相を変化させた信号となる。
【0063】
最後にVpssiは、これがPSS信号として、発電機励磁系に補助信号として加えられる信号であり、このVpssiも、上記と同様にxaiに(1+T3is)/(1+T4is)の位相進み(あるいは遅れ)のフィルタを通して信号を得るものである。
【0064】
図5に示すPSSの動特性の一例が、例えば、図6に示すような数値で表されたとする。このときの状態方程式の数値例は、図7に示すように表現される。系統内の3箇所の電圧位相の時系列データを用いて、この状態方程式から最小二乗法を用いた状態推定を適用することにより、拡張連成振動モデルの係数行列の値(a1’, ・・・ a4’, b1’, ・・・ b4’, c1, c2)を全て計算できる。
【0065】
以上により、連成拡張モデルの数値がすべて計算されるので、PSSのパラメータを含む行列D1,D2(数6参照)の部分を設計する。すなわち、この行列の固有値の中でモード1、モード2に対応する2組の複素固有値が、十分安定になる(複素平面上で左半面上の虚軸から十分離れた場所にある)ように、D1, D2に含まれるPSSのパラメータを計算により調整する。次に、調整されたPSSのパラメータ値を用い、系統全体の動特性を考慮して構成した数値計算モデルを用いて固有値計算を行い、問題がないか検証する。問題が無ければ、調整されたPSSのパラメータ値を各発電機に送り、PSSのパラメータ値をそれらの値に設定し、安定化は完了する。
【実施例2】
【0066】
数値計算によるPSSパラメータ調整の一例について説明する。調整前のPSSブロック図がPSS1, PSS250とも図8で表されている場合を考える。本発明によるパラメータ調整を行った結果、PSS1, PSS250のパラメータは、それぞれ図9,図10に示すように設計される。
【0067】
系統故障発生時の応答波形(発電機の回転角速度偏差)を比較すると図11に示すようになる。拡張連成振動モデルに基づいたPSSパラメータ調整の計算を行い、その値に実機のPSSパラメータを設定することで、図11の波形に示されるように、動揺を素早く抑制し、不安定モードを効果的に安定化することが可能となっている。
【0068】
このように、本発明によれば、試行錯誤に頼らず、拡張連成振動モデルにより理論的に制御パラメータを短時間で計算可能になったのでリアルタイムに制御することが可能になった。また、実測に基づくパラメータ調整が行われるため正確な状態把握と高い制御効果が期待でき、かつ、求めたPSSパラメータを実装する前に、数値モデルベースの固有値計算を行うことにより、安定化の効果を短時間で検証できる。
【実施例3】
【0069】
上述のGPS(Global Positioning System)を用いた時刻同期機能を持つ位相計測装置((株) 東芝製のNCT2000 Type-A)を日本の各地の大学に設置した。設置した位相計測装置(Phasor Measurement Unit、 PMU )の設置箇所を図12に示す。西日本60Hz 系統に8 箇所、東日本50Hz 系統に2 箇所、PMU を設置している。計測のサンプリング点数としては、毎時50 分から10 分ならびに20 分から40 分に2/60 秒の周期でデータをサンプリングし、各地の位相データを継続的に取得している。毎時10 分から20分ならびに40 分から50 分は各計測器に蓄積されたデータをサーバに収集するための時間として設けており、各地のデータはインターネットを経由して九州工業大学、名古屋工業大学のデータサーバに継続的に取得されている。
【0070】
(西日本60Hz 系統における系統擾乱発生時の電力動揺特性)
図13 に2003 年8 月24 日18 時50 分から19 時10 分の九州工業大学の周波数変動を示す。この日の19 時2 分頃、福岡県北九州市近郊の苅田にある火力発電所の発電機(34.7万kW で運転中)が、機器の異常発生のために緊急停止した(九州電力ホームページプレスリリースより)。この停止は発電機の定期検査などのあらかじめ予期されていた停止と異なり不測の事態であったため、時刻約758 秒において系統周波数が急激に低下していることが確認できる。
【0071】
まず大局的な周波数変動を調べるため、各地域の周波数変動データに対してSymlet 型マザーWavelet 関数を用いた離散ウェーブレット変換による周波数分解を行った。ウェーブレット変換は1つの信号にオリジナル(マザー)ウェーブレットのシフト及びスケーリングすることで、任意の波形の局所的な特性に分解して表現することが可能である(非特許文献8)。
【0072】
図14 に0.8Hz 以下の周波数成分を抽出し、比較したものを示す。この図より時刻約758 秒を経過した時点で、発電機停止による周波数低下の影響が最初に九州工業大学に現れており、その後各地の周波数が大きく変動し電力動揺が発生していることが確認できる。そこでこの電力動揺を抽出するため、徳島大学を基準とした場合の各大学の位相差情報から離散ウェーブレット変換により0.2~0.8(Hz) の動揺成分を抽出し、比較したものを図15 に示す。この図より系統擾乱発生後、電力動揺モードが顕著に現れていることが確認できる。
【0073】
この動揺成分の特徴を調べるために、事故直後である時刻758 秒から150 秒間の宮崎大学-名古屋工業大学、宮崎大学-徳島大学の位相差情報(0.2~0.8Hz)に対してFFT 解析を行い、その周波数成分を調べた結果を図16に示す。図16(A) より、系統の両端付近に位置する2 大学の位相差情報には約0.4Hz の動揺成分が顕著に現れている。また図16(B) より、系統の両端と中央付近に位置する2 大学の位相差情報には、約0.4Hz の他に0.5Hz 以上の周波数領域に動揺成分が確認できる。
【0074】
そこで宮崎大学-徳島大学、名古屋工業大学-徳島大学間の0.2~0.8Hz の位相差情報を0.5Hz を境界とする成分に分離するため、20 分間の位相差データを小区間(200 秒間隔)に分割し、各小区間は定常であると仮定することでFFT によるフィルタリング処理を試みた。FFT によるフィルタは、FFT 処理をした後その周波数に対応した箇所のみを取り出し、不必要な周波数領域に0 のデータを入れてもう一度逆FFT 処理を施し、実数部のみを取り出す方法で、不必要な周波数成分を完全にカットした時間応答波形が得られる。
【0075】
またこの方法での周波数カットでは、除去しない周波数帯域の位相情報もそのまま保存される(非特許文献9)。この方法を用いて名古屋工業大学-徳島大学、宮崎大学-徳島大学間の位相差情報から0.2~0.5Hz の動揺成分を抽出し、比較したものを図17 に、0.5~0.8Hz の動揺成分を図18 に示す。図17 の動揺成分の特徴としては、系統の両端が互いに逆位相に動揺していることが分かる。くし形系統のモード解析においては、各モードにおける固有ベクトルの要素のうち、発電機の角速度偏差または位相角に対応する要素はそれぞれ位相が0°か180 °であるので、両端が自由な弦振動になる。特に最も周期の長い動揺モードは系統両端で逆位相に動揺するモードである(非特許文献10)。以上のことより、図17の動揺成分は系統全体で現れる第1モード(長周期動揺)であることが分かる。また図18より、0.5~0.8Hz に含まれる動揺波形は系統の両端が互いに同位相に動揺する傾向があることが分かる。
【0076】
このことより0.5~0.8Hz に存在する動揺は、くし形系統で最も周波数の低い長周期動揺よりも周波数が高く、系統の両端が中央に対して同方向に動揺していることから、系統の中央と両端が互いに逆位相に動揺する第2モード(非特許文献10) であると考えられる。
【0077】
発電機停止約1 時間後の2003 年8 月24 日19 時50 分~20 時10 分における名古屋工業大学-徳島大学、宮崎大学-徳島大学間の位相差情報から0.2~0.5Hz の動揺成分を抽出し、比較したものを図19 に、0.5~0.8Hz の動揺成分を図20に示す。これらの図より、定常状態のような負荷の微小変動時においても、0.2~0.8Hz の周波数領域においては2つの動揺モードが支配的であることが分かる。
【0078】
(広域位相計測に基づく連成振動モデルの構成)
上述したように、西日本60 Hz 系統に代表されるくし形の構造を持つ電力システムでは、系統の両端の発電機が関連するモード、および系統の両端と中央の発電機が関連するモードの2つが支配的となり、これらのモード間に相互作用を生じやすいことが知られている。そこで、系統の一端を位相角基準とし、他端と中央を対象として位相差情報を観測する。得られた動揺から離散ウェーブレット(Wavelet)変換により系統間動揺成分を抽出し、さらにその1 階および2 階微分して得られたデータ列に対して、最小二乗法により以下の連成振動モデルを構成する。ドットの付いたx1~x4は、それぞれx1~x4の微分を示している。
【0079】
【数7】
JP0004069209B1_000008t.gif

【0080】
但し、
【0081】
【数8】
JP0004069209B1_000009t.gif

【0082】
添字1, 2の付いたδは対象地点の位相、添字s の付いたδは基準地点の位相、添字e の付いたδは位相の初期値である。係数行列の固有値を求めることにより、2つの支配モードの減衰および周波数を求めることができる。
【0083】
ここで、(3) 式のモデルの拡張を考える。着目する2機の発電機に設置されたPSS のモデルが既知であるとし、その効果を含むように以下の構成を考える。
【0084】
【数9】
JP0004069209B1_000010t.gif

【0085】
ただし、xpss1、xpss2は各々のPSS の状態変数からなるベクトルである。c1, c2 はa'i, b'iとともに最小二乗法によって決定される係数ベクトルであるが、PSS の出力に関する1 つの成分のみが値を持ち、他の成分はすべて0となる。また、行列D1, D2 はPSS の構造によって決まり、PSS のゲインおよび時定数といったパラメータを含んでいる。なお、ここでは系統間動揺の抑制のためΔω形PSS を想定しており、モデルにおけるPSS の入力としてはx1, x3 とする。例えば、名古屋工業大学-宮崎大学間の位相差情報から、離散ウェーブレット変換により抽出された0.2~0.8Hz の動揺成分をx1、徳島大学-宮崎大学間の位相差(0.2~0.8Hz)をx3とすることができる。モデル構成時におけるPSS の状態変数に関する時系列データはこれらを入力として求めることができ、これより、(4) 式の行列が決定される。この拡張連成振動モデルを用いてPSS パラメータを直接整定することにより支配モードの安定化が可能となる。
【0086】
なお、不安定モードとして第1モードと第2モードを有する場合を例として説明したが、不安定モードの数が2よりも多い場合にはモデルを拡張して同じ形の多次数のモデルを用いれば、(3)式,(4)式を拡張しただけで同じ理論展開が可能となる。
【0087】
(WEST10 機系統を対象とした解析例)
ここでは、図21に示す電気学会標準モデルWEST10機系統(非特許文献4) を対象として手法の適用を試みる。系統定数は非特許文献4に示されている定数を用いた。また、発電機制御器として図22に示す励磁装置(AVR)を考慮しており、発電機1 および5 にはΔω形PSS を設置する。ただし、K はゲイン、T1 ~ T4 は位相補償器の時定数であり、これらの定数が調整対象となる。なお、AVR、 PSS のリミタおよびガバナは考慮していない。系統の負荷特性は定電流特性とし、中間断面において発電機1 の出力および母線2 の負荷がそれぞれ1600(MW)増加し、母線1-2 間が重潮流になった状態を想定する。なお、ここでは、汎用の電力系統シミュレーションソフトウェアEUROSTAGを用いて解析を行った。
【0088】
図23は、発電機1 に設置されたPSS のパラメータを変化させたときの固有値の変化を示しており、全システムを線形化して求めた支配モードの固有値および(4) 式のモデルを構成して求めた固有値を比較している。なお、PSS の初期設定値は図24に示される値を用いた。両者の固有値の違いは小さく、精度良く求められていることが分かる。また、パラメータ変化に伴う固有値変化の傾向も良く一致しており、モデル構成による固有値推定が高い精度で行えることが分かる。なお、モデルの構成には、シミュレーションにおいて負荷を僅かに変化させることによって発生する微小動揺を用いており、これは定常時の系統において観測される動揺を模擬している。
【0089】
図24は、(4) 式のモデルに基づいてPSS の調整を行った結果である。ここでは、図21のA点において三相地絡故障が発生し、0.01 sec 後に元の系統状態に戻る場合を想定している。このときの発電機1 の回転角速度偏差は、前述した図11に示すとおりであり、PSS の調整により動揺が抑制されていることが確認できる。
【0090】
以上のように、広域位相計測に基づく動揺安定化制御手法として、観測動揺からPSS の効果を含んだ連成振動モデルを構成した。このモデル構成による固有値推定の精度ならびにPSS パラメータ整定による長周期動揺抑制効果が確認された。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11
【図13】
12
【図14】
13
【図15】
14
【図16】
15
【図17】
16
【図18】
17
【図19】
18
【図20】
19
【図21】
20
【図22】
21
【図23】
22
【図24】
23
【図25】
24